シリーズ 〈日語探
究法〉小池清治=編集
語彙探究法
小池清治 河原修一 [著]
朝倉書店
4
一 編 集 の こ とば 一 本 書 の 眼 目は,語
彙 につ い ての言 語事 実 の記 述 にあ るので は あ...
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シリーズ 〈日語探
究法〉小池清治=編集
語彙探究法
小池清治 河原修一 [著]
朝倉書店
4
一 編 集 の こ とば 一 本 書 の 眼 目は,語
彙 につ い ての言 語事 実 の記 述 にあ るので は あ
り ませ ん 。15の 事 例 研 究 を 通 し て,語
彙 探 究 の 方法 を体 得 して
も ら う こ と に 眼 目 が あ りま す 。 そ の た め に,次
の よ う な構 成 を と
って い ます。
1. タ イ トル : 日常 の 言 語 生 活 に お い て 疑 問 に 感 じ る 言 語 事 象 を,平 2. 【
】
易 な 疑 問 文 の 形 で 提 示 し ま した 。
:卒 業 論 文 作 成 の 参 考 と な る よ う,共 通 点 ・標 識 等 を提 示 し ま し た。
3. キーワー ド :事 例 研 究 を す る 上 に お い て,重
要 な用 語 を キー
ワ ー ドと して 提 示 し ま した 。 4. 本
文 : レポ ー ト,論 文 の 書 き方 の 一 例 と して,事
例研
究 を提 示 し ま した 。 5. 発 展 問 題 :演 習 や レポ ー トの 課 題 と し て 利 用 さ れ る こ と を 想 定 し て,ヒ
ン ト と な る類 似 の 事 例 を い くつ か
例 示 し ま した 。 6. 参 考 文 献 :課 題 を こ な す 上 で 基 本 と な る 文 献 を 列 挙 し ま し た 。 こ れ ら の 文 献 を 参 照 し,こ て さ ら に 拡 大 し,掘
れ ら を端 緒 と し
り下 げ る こ と を 期 待 し ま
す。
小 池 清治
は じ め に ―語彙の定義など―
語 彙 とは,あ
る共 通 点 を標 識 と して取 り出 さ れ た 単 語 の 集合 の こ と で す 。
「標 識 」 と して は,国 家 ・時 代 ・地 域 ・作 品 ・性 別 ・個 人 ・文 体 ・運 用 能 力 ・ 意 味 特 性 ・意 味 属 性 な どが 挙 げ られ ます 。 語 彙 の 具 体 例 を示 し ます と,日 本語 の 語 彙(国 方 言 の 語 彙(地 彙(個
域)・ 源 氏 物 語 の 語 彙(作
家)・ 上 代 の 語 彙(時 代)・ 沖 縄
品)・ 女 性 言 葉 の 語 彙(性
人)・ 書 き言 葉 の語 彙(文 体)・ 使 用 語 彙(運
性)・ 親属 語 彙(意
味 属 性)な
別)・ 近 松 語
用 能 力)・ 固 有 名 彙(意
味特
ど とな ります 。
「私 は,ボ キ ャ 貧(語 彙 の 点 で 貧 しい 人 間)で
す 。 これ か ら は語 彙 を豊 か に し
た い と思 っ て い ます 。」 とい う 表現 の 「語 彙 」 は,上 記 の 「使 用 語 彙 」 の こ とで す。 語 彙 の 基 礎 単位 は単 語 で す 。単 語 は言 語 形 式(音 声 ・文 字)と 言語 内 容(意 味) と の 結 合 体 で す 。 一 音 節 語 彙 ・カ タ カ ナ語(彙)な
どは 言 語 形 式 を標 識 と した も
の で,身 体 部 位 語 彙 ・色 彩 語 彙 な ど は言 語 内容 を標 識 と し た もの で す 。 とこ ろで,名
詞 と い う用 語 は,本 来 あ る特 定 の 文 法 的振 る舞 い をす る単 語 の 集
合 を 意 味 します が,「動 キ ガ ア ル の動 キ は 名 詞 で,動 ク とは 文 法 的 に 異 な りま す 。」 の例 の よ う に,個
々の 単 語 を 意 味 す る場 合 が あ ります 。 語 彙 に つ い て も 同様 の こ
とが 言 え ます 。 基 本 的 に は単 語 の 集 合 を意 味す る の で す が,場 合 に よ り個 々 の 単 語 を 意 味 す る こ と もあ ります 。 「兵 隊 」 は 本 来 「兵(士)」
の 集 合 体 な の で す が,個
々 の 「兵(士)」
を意 味 す
る こ とが あ りま す 。 英 語 で は集 合 の 場 合 は 「soldiers」と い う複 数 形 で,個 「兵(士)」
々の
の場 合 は 「asoldier」 の よ うに 単 数 形 で 表 し,そ れ ぞ れ 固有 の 文 法 的
振 る舞 い を し,画 然 と区 別 され ます が,日 本 語 に は この よ う な 区 別 が あ り ませ ん 。 単語 の 集 合 を意 味 す る場 合 と個 々 の 単 語 を意 味 す る場 合 とが あ る の は,日 本 語 の この よ うな 性 質 に 由 来 し ます 。 さ て,音 韻 や 文 法 は言 語 内部 に 存 在 す る体 系 的 言 語 事 実 で,個
々の人 間によっ
て 左 右 され る こ とが あ りま せ ん 。 し た が っ て,日 本 語 の 音 韻 や 文 法 を記 述 す る, 音 韻 論 や 文 法 論 は体 系 的 に記 述 す る こ とが 可 能 で す 。 これ に対 して,語 彙 は 個 々 の研 究 者 の,そ の 場 そ の 時 の 関心 や 必 要 に 基 づ き,共 通 点 ・標 識 が 恣 意 的 に 設 定 され ます か ら,語 彙 論 に は 体 系 が 存 在 し ませ ん 。 この よ う なわ け で,語 彙 論 を体 系 的 に 展 開 す る こ とは 至 難 の 業 と い う こ と に な り ます が,本 書 で は 総 論(1∼3 章),体
の 語 彙(4∼7章),用
章),総
合 語 彙(11章),そ
の 語 彙(8 章),相 の他(12∼15章)と
の 語 彙(9 章),感
性 語 彙(10
い う構 成 を と っ て い ます 。
誤 解 さ れ が ち なの で注 意 し て ほ しい こ とが あ ります 。 前 の段 落 で い って い る こ と は,語 彙 に体 系 性 が な い とい っ て い る こ と で は な い とい う こ とで す 。 例 え ば, 親 族 語 彙 や 色 彩 語 彙 な ど,個 々 の 語 彙 に は 固 有 の体 系 が あ ります 。 した が っ て, 語 彙 そ の もの に は体 系 が あ ります 。 これ らの 語 彙 につ い て,語 彙 論 と して 総 体 的 に 述 べ よ う とす る と体 系 が 見 出 せ な い とい う こ と を指 摘 して い る の で す 。 なお,第
7,10,11の
3章 は 河 原 修 一 が 担 当 し,そ の他 の 章 は小 池 が 担 当 し ま
した 。 2005年
2月
小 池 清 治 河 原 修 一
目
第 1章
次
「綺 麗 」 と 「美 しい」 は ど う違 う か?
1
[単 語 論]
第 2章 「男 」 の 否 定 形 は 「女 」 か?
8
[意 味 と語 構 造]
第 3章 「副 食 物 」 は フ ク シ ョ ク ブ ツ か , フ ク シ ョ ク モ ツ か?
17
[語 構 成 ・語 構 造 ・語 分 節]
第 4章 『吾 輩 は猫 で あ る 』 の 猫 は なぜ 名 無 しの 猫 な の か?
27
[意 味 特 性 ・固 有 名 彙]
第 5章
「薫 」 は男 か? 女 か?
41
[意 味 属 性 ・人称 代 名 彙]
第 6章 「こ な た・ そ な た ・あ なた 」 は な ぜ 同 じ,対 称 な の か?
55
[意 味 属 性 ・指 示 彙]
第 7章 な ぜ 笹 の雪 が燃 え落 ち る の か?
68
[体 の 語 彙 ・自然 語 彙]
第 8章 「連 れ て 出 る」 は複 合 語 か? [用 の 語 彙 ・複 合 動 詞]
80
第 9章 「憂 し」 とい う形 容 詞 は なぜ 消 滅 した の か?
87
[相 の 語 彙 ・語 彙 史]
第10章 なぜ 雲 が ぎ らぎ ら光 るの か?
98
[感 性 語 彙 ・オ ノ マ トペ]
第11章 「も し も し」 の 由 来 は 「申 す 」 か?
114
[総合 語 彙 ・呼 び掛 け 語 彙]
第12章 清 少 納 言 の物 言 い は幼 い か?
128
[数量 語 彙 ・語 彙 史]
第13章 村 上 春樹 の 語 彙 は貧 しい か?
146
[相 の 語 彙 ・比 喩 表 現 ・予 告 副 詞]
第14章 「夜 の 九時 を過 ぎ た ら足 が な くな る 」?
156
[慣 用 表 現 ・慣 用 句]
第15章 「手 タ レ」 「脚 タ レ」 と は何 の こ と か?
166
[省 略 語 ・短 縮 語]
索
引
174
←→ ←→
第 1章
「綺 麗」 と 「 美 しい」 は ど う違 うのか? 【 単語 論 】
キ ー ワ ー ド :語,単
語,音
節,ア
ク セ ン ト,言 語 形 式,言
能,leXicon-item,指 体 の 語 彙,用
示 的 意 味,文
の 語 彙,相
の 語 彙,総
語 内 容,指
体 的 意 味,感 合 語 彙,関
示 機 能,標
情 的 意 味,文 係 語 彙,感
識機
法 的 意 味,
性 語彙
1.「語 」 と 「単 語 」 の定 義 英 語 の 「word」 は 「語 」 と も 「単 語 」 と も訳 さ れ る。 日常 言 語 と して は, 「語 」 と 「単 語 」 は 同 義 語 と い っ て よい 。 しか し,筆 者 は 「語 形 が 異 な れ ば 必 ず 語 義 も異 な る」 とい う立 場 を と っ て い る の で,「 語 」 と 「単 語 」 に は 相 違 が あ る は ず だ と考 え る 。 本 書 で は 「語 」 は 文 法 論 の単 位,「 単 語 」 は語 彙 論 の 単 位 と規 定 す る。 まず,「 語 」 に つ い て 述 べ る 。 I 語 は 「音 節+ア
クセ ン ト」 に よ っ て構 成 さ れ る言 語 形 式 とそ れ に よ っ て
指 示 ま た は標 識 され る言 語 内 容 とが 結 合 した もの で あ る。 言語形 式 音 節 + ハ
ア クセ ン ト
指 示機 能
=語
言語 内容
+低
(平板 式)=
葉
「 葉 」 の類概 念
+高
(頭 高 式)=
歯 ←→
「歯」 の類概 念
ハ
ア メ +低
高
(平板 式)=
飴
「飴」 の類概 念
ア メ
+高
低
(頭 高 式)=
雨
「雨」 の類概 念
ハ シ
+低
高
(平板 式)=
端
「 端 」 の類概 念
ハ シ
+低
高
(尾 高 式)=
橋
「 橋 」 の類概 念
ハ シ
+高
低
(頭 高 式)=
箸
*い わ ゆ る 「固 有 名 詞 」 の 場 合 は,指 な る。
「箸」 の類概 念 示 機 能 で は な く,標 識 機 能 と
Ⅱ 語 は
「語 + イ ン トネ ー シ ョ ン 」 で 文 を 構 成 す る
「詞 」 と,原
イ ン トネー シ ョ ン を付 加 して も文 を構 成 す る こ とが で き な い
則 と し て, 「辞 」 と に
二分 される。 語 / 辞 + イ ン トネ ー シ ョ ン =
文
葉
+
?
(上 昇)
= 「葉 で す か?」
と 問 うて い る 意 を 表 す 文
歯
+
!
(下 降)
= 「歯 で す よ!」
と断 言 して い る 意 を 表 す 文
雨
+ 。
(下 降)
= 「雨 が 降 っ て い る 。」 と い う認 識 を 表 す 文
飴
+
?
(上 昇) =
「飴 な の か 。」 と確 認 して い る 意 を 表 す 文
雨
+
!
(下 降) =
「雨 な の だ 。」 と 断 言 して い る 意 を 表 す 文
雨
+
ね
+
… … (下 降) ?
(上昇)
= 「雨 な の か 。」 と 困 惑 して い る 意 を 表 す 文 = 「わ か っ た ね 。」 と確 認 して い る 意 を 表 す 文
*「ね」 など,い わ ゆ る 「終助 詞」 はイ ン トネー シ ョンが付 加 され る と,単 独 で 文 を構 成す る こ とが で きる。格 助 詞 ・係助詞 ・副 助詞 ・接続 助詞 等 は で きない。
Ⅲ 詞 は単 独 ま た は,辞
を と もな っ て,文 節 や 文 の 成 分 と な り,文 の 構 成 要
素 を構 成 す る 。 以 上 のⅠ,Ⅱ,Ⅲ
が 「語 」 の 定 義 に 関 す る 3か 条 で あ る が,「 単 語 」 の 定 義
につ い て はⅠ だ け で 十 分 で あ る。 「単 語 」 は 文 法 論 の 単 位 で は な い の で,Ⅱ, Ⅲは直 接 的 に は 関 係 な い か らで あ る 。 先 に,「 単 語 」 は英 語 の 「word」 の 訳 語 と述 べ た が,語
彙論 の基礎 単位 と し
て の 「単 語 」 を 意 味 す る専 門用 語 と して は,「lexicon‐item」
と い う用 語 が あ
る。 以 下,本 書 で用 い る 「単 語 」 は 「lexicon‐item」の 意 で あ る。
2.「単 語 」 が 有 す る三 つ の 言 語 内 容(意 味) 一 つ の 単 語 に は 3種 類 の 言 語 内 容(意 第 一 の 言 語 内容(意
味)が
必 ず 具 備 され て い る。
味)は 指 示 的 意 味 と称 さ れ る もの で あ る。
a 皿 の 中 に林 檎 が あ る 。 b 皿 の 中 に蜜 柑 が あ る。 c 皿 の 中 に葡 萄 が あ る。 a,b,c の 三 つ の 文 の 意 味 の 相 違 は,「 林 檎,蜜 相違 が 生 み 出 した もの で あ る。
柑,葡
萄 」 の指示 的 意味 の
i 火輪 j
指示 的意 味 は言語 の外 部 に存在 す る事物 や 抽象概 念等 の類概 念 の こ とであ る。 第 二 の 言 語 内 容(意 味)は
文 体 的 意 味 と称 されるも の で あ る 。
文体的特徴
例文
文体的意味
d 日
が 出た 和語に よる表現
書記 言 語 ・口頭 言 語,易
e 太陽
が出た 漢語に よる表現
書 記言 語 ・口頭 言 語,中 立
f お 日様
が 出た 幼児語による表現
口頭 言 語,幼さ,幼
しさ
児語
g お天道 さん が出た 古い幼 児語 による表現 口頭言語,幼さ,老 人語 h 日輪
が出た 雅語に よる表現
書記 言 語,文 学 ら し さ,気 取 り
が 出た 古い雅語による表現
書記 言 語,古 めか し さ,気 取 り
オヒサーガア
d∼jの
ガ イヤ 鹿 児 島 万言 に よる 表現
口頭 言 語,親
文 が 表 す 指 示 的 意 味 は 同 じで あ る が,文
意 味 とは,い
わ ゆ る 表 現 の 綾,レ
しさ,素 朴 さ
体的意 味が異 なる。文 体的
トリ ッ ク に 関す る もの で,話
し手 や 書 き手 の
自意 識 や 聞 き手,場 面,事 物 等 に つ い て の 認 識 の 在 り方 な ど を表 す もの で あ る 。 指 示 的 意 味 が 中 身 で あ る とす れ ば,文 体 的 意 味 は装 い で あ る。 な お,感 情 的 意 味,心 理 的 意 味 とい う場 合 もあ る。 第 三 の 意 味 は 文 法 的意 味 で あ る 。 k ハ ン ドル に は遊 びが 必 要 で す 。 1 よ く遊 び,よ
く学 べ 。
kの 「遊 び 」 は格 助 詞 「が 」 の 上 に あ る の で,名
詞 で あ る。 一 方,1 の 「遊
び 」 は 動 詞 「遊 ぶ 」 の連 用 形 で 中 止 法 の 働 き を して い る の で 動 詞 で あ る。 二 つ の 「遊 ぶ 」 は 言 語 形 式 は 同 じな の だ が,文
法 的 意 味 が 異 な る 。 ま た,kの
「遊
び 」 の 指 示 的 意 味 は 「ゆ と り」 の 意 で,1 の 「遊 び 」 の指 示 的 意 味 は 「楽 しい こ とを して 心 を 慰 め る」 の 意 で あ る。 よ っ て,指 示 的 意 味 も異 な る 。
3.類 義 語 の 識 別― 「綺麗 」 と 「美 しい」 は ど う違 う の か?― 一 つ の 単 語 に は,指 示 的 意 味 ・文 体 的 意 味 ・文 法 的 意 味 の3種 類 の 意 味 が 必 ず 具 備 さ れ て い る。 した が っ て,類
義 語 の 相 違 に つ い て 述 べ る場 合,3 種 類 の
そ れ ぞ れ に お い て,ど の よ う に異 な る か を 記 述 す る必 要 が あ る。
?
? ?
m 美 しい 人
n 綺麗 な 人
声
友 情 ?
声
水 道 水 空気 シ ー ツ
快 快 感心 純粋 清 浄 清潔 まず,指
示 的 意 味 に お い て は,次 の よ う な相 違 が あ る。
美 しい =形 ・色 ・声 ・言 葉 な どが 快 感 を 与 え好 ま しい の 意 を 表 す 。 外 面 的 印 象 だ け で な く,人 柄 な ど 内面 的 印 象 につ い て もい う。 ま た,行 動 や 心 掛 け が 立 派 で,快 感 と と もに 感 動 を与 え 好 ま しい の意 を 表 す。 綺 麗 =形 ・色 ・声 ・言 葉 な どが 整 って い て 好 ま しい。 外 面 的 印 象 につ い て い う こ とが 多 い 。 ま た,清 潔 ・爽 快 ・整 然 ・純 粋 等 の 好 印 象 に つ い て も い う。 「綺 麗 事 」 とい う熟 語 が あ る。 内 実 は と もあ れ,表 面 だ け は 取 り繕 っ て あ る こ と の 意 で あ る。 「綺 麗」 に は外 見 の 美 と い う 要素 が 強 い。 「綺 麗 な人 」 は 内 面 は と もか く外 見 は 美 人 だ の 意 とな り,「 美 しい 人 」 は 外 見 の み な らず,内
面も
素 晴 ら しい 美 人 と い う こ と を含 意 す る 。 「綺 麗 好 き」 は,少
しの 汚 れ や 乱 れ を嫌 う 人 を意 味 す る 熟 語 で あ る。 綺 麗 は
清 潔 や 整 理 整 頓 につ い て の 美 意 識 も表す 。 また,「 綺 麗 さ っ ぱ り(忘 れ た)」 と い う連 語 もあ る。 「綺 麗 」 に は 爽 快 感 を表 す 要 素 もあ る。 「金 に 綺 麗 な 人 」 と い う慣 用 表 現 の 「綺 麗 」 は,倫 理 的 に 汚 れ て い な い の 意 で あ る。 次 に 文法 的 意 味 の 相 違 につ い て 述 べ る。 「美 しい 」 は 「美 しか ろ (う)/ 美 しか っ (た)・美 し く(咲 く)/ 美 しい / 美 し い(花)/
美 し け れ(ば)」
と 活 用 す る 形 容 詞 で あ り,「 綺 麗 」 は 「綺 麗 だ ろ
(う)/ 綺 麗 だ っ(た)・ 綺 麗 に(咲 く)/ 綺 麗 だ / 綺 麗 な(花)/ 綺 麗 な ら(ば)」 と 活 用 す る形 容 動 詞 で あ る 。 「美 しい」 は 和 語,「 綺 麗」 は漢 語 で あ り,文 体 的 意 味 が 異 な る 。 和 語 と漢 語 が 対 立 す る 場 合,和 語 が 話 し言 葉,漢 語 が 書 き言 葉 とい う棲 み 分 け を 行 う の が 普 通 な の で あ る が,こ
の 場 合 は 逆 に な っ て お り,「 綺 麗 」 が 話 し
言 葉 で,「 美 しい 」 が 書 き言 葉 とい う 関係 に な っ て い る 。 日本 語 に は,指
示的
g
意 味 が ほ と ん ど変 わ ら な い場 合,語 形 の 短 い もの が 多 用 さ れ る と い う傾 向 が あ る。 こ の 2語 の 関 係 は,こ
う い う傾 向 が 現 れ た もの と判 断 され る。
4.語 彙 論 の 対 象 と な る 単 語 の グ ル ー プ 語 彙 論 の 対 象 と な る 単 語 は 「詞 」(い わ ゆ る 名 詞 ・動 詞 ・形 容 詞 ・形 容 動 詞 ・副 詞 ・連 体 詞 ・接 続 詞 ・感 動 詞)で は 文 法 的 意 味 を専 門 機 能 とす る の で,中
あ る。 「辞 」(い わ ゆ る 助 詞 ・助 動 詞) 心 的 対 象 とは な ら な い 。
「詞 」 の 単 語 を語 彙 論 的 観 点 よ り分 類 す る と,次 の 6種 類 とな る。
体 の 語 彙 =事 態 に お け る客 体 的 な もの を命 名 ・指 定す る 機 能 を有 す る 語 彙 (名詞) 用 の 語 彙 =事 態 を叙 述 す る機 能 を有 す る語 彙(動
詞 ・形 容 詞 ・形 容 動 詞)
相 の 語 彙 =体 ・用 の 語 彙 に つ い て 限 定 修 飾 す る機 能 を有 す る 語 彙(副
詞 ・
連 体 詞) 総 合 語 彙 =喜 怒 哀 楽 の 感 情 な ど を文 相 当 で 総 合 的 に 表 す 機 能 を有 す る語 彙 (感 動 詞) 関係 語 彙 =文 ・文 章 を構 成 す る際 に,節 や 文 の 関 係 を表 す 機 能 を 有 す る語 彙(接
続 詞)
感 性 語 彙 =主客 が 合 一 した 形 で 表 現 され る擬 音 語 ・擬 声 語 ・擬 態 語 ・擬 情 語 な ど と称 さ れ る語 彙 グ ル ー プ 。 指 示 的 意 味 が 抽 出 し に く く, 感 性 に 支 え られ た 語彙 。 文 法 的 に は副 詞 と して 機 能 す る。
■ 発展 問題 (1) 次 の表現 は単語 か単 語 以外 の ものか? a 檜
f
茸
b 榎
筍
c 楠
h 数 の子
k み っ と も な い 1 きた な い m
金 が な い 。
d 杉 の 木
i 女 の子
n 気 が 利 か な い 。
e 桜 の 木
j 鍵 っ子
o や るせ な い
(2) 次 の 単 語 の 意 味 の 相 違 は ど の よ うな 意 味 の 相 違 に よ る か?
a 紙/髪/神
g ジャガ イモ/馬 鈴 薯
b 上 が る/揚 が る/挙 が る
h シ ク ラ メ ン/ 豚 の 饅 頭
c 買 う/ 飼 う
i ア イ ロ ン / ア イ ア ン
d 玉 が る/登 る
j 水漏 れ /漏水
e あ た ま / か し ら/ こ うべ
k 温 か い/ 温か な
f か か と/ きびす
1 温 か い/ 温 か い
(3) 次 の 組 を な す 語 彙 に つ い て,指
示 的 意 味 ・文 体 的 意 味 ・文 法 的 意 味 の 相 違 に
つ いて述 べ な さい。
a 暖 かい /暖 か な b 大 きい / 大 き な c 小 さい / 小 さ な d 四 角 い / 四 角 な
(4) 「単 語 」 の 定 義 に 関 す る 諸 説 を 調 べ,あ
な た の 考 え を述 べ な さ い 。
■ 参考文献 1) 亀井
孝 ・河 野 六 郎 ・千 野栄 一 編著 『言 語学 大 辞典 6』(三 省 堂,1996)
2) 宮 島達 夫 「 語 」(国 語 学 会編 『 国 語学 大 辞典 』 東 京 堂出 版,1980) 3) 樺 島忠 夫 「 語 彙 」(同 上) 4) 高橋 太 郎 「 単 語 」(同 上) 5) 林
巨樹 「 語 」(佐 藤 喜代 治 編 『国語 学研 究 事典 』 明 治 書 院,1977)
6) 前 田富祺 「 語 彙 」(同 上) 7) 赤羽根義章 「 語 彙 」(小 池清 治 ・小林 賢 次 ・細 川 英 雄 ・犬 飼 隆 編 『日本 語 学 キ ー ワー ド
事 典 』朝 倉 書 店,1997)
8) 柴 田 武 「 語 の 意 味 と概 念 と外 界」(金 田 一春 彦 ・林 大 ・柴 田 武編 『日本 語 百科 大 事
典 』 大修 館 書 店,1988)
9) 森 田良 行 『 基 礎 日本語 辞 典 』(角 川 書 店,1989) 10) 宮 島達 夫 「語 彙 の体 系 」(『岩波 講 座 日本 語 9 語 彙 と意 味』 岩 波 書 店,1977) 11) 前 田富祺 「語 彙」(佐 藤 喜 代 治編 『講 座 日本 語の 語 彙 1 語 彙原 論 』 明 治書 院,1982) 12) 前 田富祺 「語 彙 総 論 」(玉 村 文 郎 編 『講 座 日本 語 と 日本 語 教 育 6 日本 語 の 語 彙 ・意 味』 明 治書 院,1989) 13) 池 上嘉 彦 『意 味 論』(大 修 館書 店,1975) 14) 阪 倉 篤 義 ・林 大 ・國 廣 哲 彌 ・鈴 木 孝 夫 『シ ンポ ジ ウム 日本語 3 日本語 の意 味 ・語 彙』
(学 生 社,1975) 15) 北 原 保 雄 ・徳 川 宗 賢 ・野 村 雅 昭 ・前 田 富祺
・山 口 佳 紀
『国 語 学 研 究 法 』(武
蔵 野 書 院,
1978) 16) 村 木 新 次 郎 17) 田 島毓 堂
「単 語 の 性 質Ⅰ,Ⅱ
」(『 ケ ー ス ス タ デ ィ 日本 語 の 語 彙 』 お う ふ う,1989)
「比 較 語 彙 論 」(『 語 彙 研 究 の 課 題 』 和 泉 書 院,2004)
第 2章 「男 」 の否 定形 は 「女」 か? 【 意 味 と語 構 造 】
キ ー ワ ー ド.ア ン トニ ム,シ 語,両
極 語,対
義 結 合,オ
ノ ニ ム,対 比 語,類
義 語,対 似 語(類
語,曖
昧 性,反
義 語),近
意 性,反
接 語,対
句,撞
対 語,対
極
着 語 法(対
ク シモ ロ ン)
1.「罪 」 の ア ン トニ ム(対 義 語)は 何 か? 太 宰 治 は 『人 間 失 格 』 に お い て,主
人 公 「葉 蔵 」 に 「対 義 語 の 当 て つ こ 」
とい う 「遊 戯 」 を や らせ て い る 。 そ の 一 節 を 次 に 引 用 す る。 し か し,牢 れ ば,罪 … …愛
屋 に い れ ら れ る 事 だ け が 罪 ぢ や な い ん だ 。 罪 の ア ン トが わ か
の 実 体 も つ か め る や う な 気 が す る ん だ け ど,… ,…
… 光,…
… し か し,神
の ア ン トは 苦 悩 だ ら う し,愛 善 に は 悪,罪 ニ ム だ,罪
と 祈 り,罪
… 救 ひ,
に は サ タ ン と い ふ ア ン トが あ る し,救
に は 憎 し み,光
と悔 い,罪
… 神,…
ひ
に は 闇 と い ふ ア ン トが あ り,
と告 白,罪
と,…
… 鳴 呼,み
んな シノ
の 対 語 は 何 だ 。(第 三 の 手 記 ・二)
対 義 語 と は,一 般 に,対 を概 念 的 対 立,い
立 す る 関 係 に あ る語 の こ と を い うが,こ
わ ゆ る意 味(指
示 的 意 味)の
た よ う な迷 宮 に迷 い 込 む こ と に な り,果 て は,ア て し ま う と い う,矛 盾 に 満 ちた,堂
の 「対 立 」
対 立 とす る と,「 葉 蔵 」 が 陥 っ ン トニ ム と シ ノニ ムが 一 致 し
々 巡 りの 苦 悩 を味 わ うこ と に な る。
本 来,自 然 科 学 系 の専 門 術 語 を 除 い て,人
間が使用 する言語 には曖味性 がつ
き もの なの で あ り,ア ン トニ ム(対 義 語 〉の 意 味 す る反 意 性,対 義 性 も曖 昧 で, 時 に 矛 盾 す る。 こ の 矛 盾 は,実
は 文学 の 世 界 に の み と ど ま る もの で は な い 。 意 味 とい う や っ
か い な もの を扱 う と言 語 学 者,国
語 学 者 も理 性 の 目が 曇 りが ち に な る よ うだ 。
2.「男 」 の 否 定 の 形 は 「女 」 か?−
「男 女」 「女 男 」 「ふ た な り」 「半 陰 陽 」
の存在− た と え ば,英 語 学 者 池 上 嘉 彦 氏 は 主 著 『意 味 論 』 に お い て,次 の よ う に述 べ て い る。
25.3 反 意 性(Antonymy)
ふ つ う 反 意 性 と 呼 ば れ て い る も の は,実
は か な り雑 多 な 種 類 の も の が 一 つ
に ま と め られ て 成 り立 っ て い る。 同 じ よ う に あ る と い う 時,少
「意 味 が 反 対(opposite)」
な く と も 次 の 三 つ の 場 合 を 区 別 す る こ と が で き る:
(1)〈 男 〉 − 〈 女 〉,〈
親 〉 − 〈 子 〉,〈
表 〉 −〈 裏 〉
(2)〈 大 〉 − 〈 小 〉,〈
高 〉 − 〈 低 〉,〈
善 〉 −〈 悪 〉
(3)a)〈
行 く 〉− 〈 来 る 〉,〈
う 〉,な
売 る 〉 − 〈 買 う 〉,〈
教 え る 〉−〈習
ど。
b)〈 着 る 〉 − 〈 脱 ぐ 〉,〈
結 ぶ 〉 − 〈 ほ ど く 〉,な
(1) で 問 題 に な っ て い る の は 二 つ の 項 か ら成 る 次 元 で,そ れ ば,他
で
ど。
こでは一方 でな け
方 で あ る こ とが 自動 的 に 決 ま る と い う形 で 二 つ の 項 の 間 に 相 補 的 な
関 係 が 成 り立 っ て い る 場 合 で あ る 。 た と え ば,人 で な け れ ば 〈 女 〉 で あ る し,ま
間 の性 別 に 関 して は 〈 男 〉
た そ の 逆 も 成 り立 つ 。
(『意 味 論 』 「第 6章 語 彙 に お け る 意 味 構 造 」 大 修 館,1975)
ま た,国
語 学 者 田 中 章 夫 氏 も 「対 義 語 の 性 格 」 と い う論 文 で 次 の よ う に 述 べ
てい る。
と こ ろ で,反
対 語 の 中 に は,「 オ トコ/ オ ンナ 」 「オ モ テ / ウ ラ」 「シ ヌ /
イキ ル 「ウ ク/ シ ズ ム 」 の よ う に,一 方 を 否 定 す る と,す
ぐ他 方 の 意 味 に な
って し ま う もの が あ る。 「生 」 の 否 定 は 「死 」,「死 」 の 否 定 は 「生 」 とい っ た 関 係 で あ る 。 「や や 遠 い 」 「か な り近 い」 とか,「 す こ し前 」 「ず っ と後 」 と い っ た段 階 的 な過 程 が な く,マ イ ナ ス無 限 大 か ら,一 挙 に プ ラ ス 無 限 大 に飛 び移 っ て し ま う よ うな 対 立 で あ る。 こ の よ うに,意
味 ベ ク トル の 両 端 に 相 対
立 して い る 反 対 語 を,特 に,対 極 語(両 極 語)と 呼 ぶ こ とが あ る。 い う な れ ば,も
っ と も反 対 語 ら しい 反対 語 で あ る。
対 極 語 で は,ま
た,一
方 の 語 の 意 味 は,必
ず,他
方 の語の否定 の形で説明
し う る 。 「オ トコ = 女 で な い 人 」 「オ ン ナ = 男 で な い 人 」 と い う 関 係 で あ り, こ れ は,ま
さ に,人
を,全
体 集 合 と し た 場 合,部
分 集 合 と,そ
の 補 集 合 とい
う こ と に な る。 (「日 本 語 学 」Vol.6, No.6,1987)
両 氏 と も,「 男 」 で な け れ ば 「女 」 で あ る と述 べ て い る の で あ るが,こ
れ は,
極 め て 初 歩 的 事 実 誤 認 で あ る 。 人 間 に は,「 性 ホ ル モ ン の 不 足 な どで 男 性 ま た は女 性 の 特 徴 が 顕 著 で な い 状 態 」(『広 辞 苑 』 〈 中性 〉 の 項 目)の 人 達 が い る。 これ らの 人達 を表 す 単 語 と して は,和 なり ( 二 形,双
語 に 「男 女 」 とか,「 女 男 」 とか,「 ふ た
成,二 成 )」 とか,「 は に わ り」 と か の 単 語 が あ り,漢 語 に は,
「半 陰 陽 」 とい う単 語 が あ る 。 「男 」 の 否 定 形 が 「女 」 で な い こ とは 明 白 な の で あ る。 現 在 定 説 と して 通 っ て い る上 記 の 説 は,や や もす れ ば,人 権 無 視,人 権 侵 害 の 説 と し て,訴
え られ か ね な い 危 険 な 説 とい うこ と に な る。 この 危 険 な説 は,
実 は,池 上,田
中 の両 氏 に 限 っ た こ とで は な い。 対 義 語 の構 造 と い う もの に 言
及 して い る多 くの 研 究 者 に 通 じる もの な の で あ る 。 なぜ,こ
の よ う な こ とが 生
じて し ま う の だ ろ うか 。 ア ン トニ ム,対 義 語 を意 味(指 示 的 意 味)の 観 点,言
い換 え る と,言 語 が あ
ら わ す 概 念 の 側 か らの み解 き 明 か す と す れ ば,重 大 な 事 実 誤 認 は あ る もの の, 概 ね そ の所 説 は 認 め られ る の で あ る が,そ
れ だ けで は,思
わ ぬ 落 と し穴 に 陥 る
ことになる。 対 義 語 へ の 正 しい迫 り方 は,言 語 の 側 か ら言 語 の 振 る 舞 い の 側 か ら迫 る こ と なのであ る。 因 み に,池 上 氏 が 相 補 的 関 係 と して例 示 した 〈 親 〉― 〈子 〉 につ い て も,一 言 言 及 して お く。 「親 で もな け れ ば,子 で もな い 」 とい う慣 用 的 表現 が あ る。 「親 で もな けれ ば」 は,ま
ぎれ も な く 「親 」 を否 定 した もの な の で あ る。 とす る と,池 上 説 に よれ
ば,「 自動 的 に」 「子 」 と な る はず で あ る。 しか る に,実
際 の慣用 的表現 で は
「子 で も な い」 と続 い て い る。 この こ とを 池 上 氏 は ど う説 明 す る の で あ ろ うか 。
お そ ら く説 明 は不 可 能 で あ ろ う。 「親 で もな け れ ば,子 で もな い 」の 意 味 は,「 か く言 う私 は お 前 の 親 で は な い。 聞 い て い るお 前 も私 の 子 で は な い の だ 。 す な わ ち,私 る 。」 とい う 意 味 で あ る 。 簡 単 に 要 約 す れ ば,〈
たちは赤 の他人 なのであ
親 〉 を 否 定 し た もの は 〈 他
人 〉 で あ り,〈 子 〉 を 否 定 した もの も〈 他 人 〉 な の で あ る。 池 上 説 の よ うに は な らな い 。 池 上 氏,田
中 氏 が 例 示 した もの は他 に もあ る が,す べ て 概 念,意
味(指
示的
意 味)の 観 点 か ら の み 把 握 し よ う とす る と,言 語 の 実 体 を説 明 で き な い こ と に な る 。 い ち い ち 証 明す べ き な の で あ る が,紙 幅 の 関 係 で 他 は 省 略 す る 。
3.対 義 語 か ら対 比 語,対
語 ヘ― 「男 」 「女 」 の 単 語 ・形 態 素 と して の 振 る舞
い― 「男 」 と 「女 」 を 例 に して,こ
れ らの 言 語 的 振 る舞 い を観 察 して み よ う。
(1) 熟語 男 主 男帯 男親 男君 男 心 男坂 男衆 男 所帯 男 っ気 男手 男腹 女 主 女帯 女親 女君 女 心 女坂 女衆 女 所帯 女 っ気 女手 女腹 男 遊び
男 嫌 い 男 く さい 男 狂 い 男 っ ぷ り 男 っ ぽ い 男 ら しい
女 遊 び 女 嫌 い 女 く さい 女 狂 い 女 っぷ り 女 っ ぽ い 女 ら しい あ だ し男 雨 男 色 男 大 男 小 男 年 男 醜 男 痩 せ 男 雪 男 あ だ し女 雨 女 色 女 大 女 小 女 年 女 醜 女 痩 せ 女 雪 女 (2) 慣 用句 男 に な る 男 を あ げ る 男 を こ し らえ る 男 を知 る 男 を 作 る 女 に な る 女 を あ げ る 女 を こ し らえ る.女
を知 る 女 を作 る
(3) 諺 男 は度 胸,
女 は愛 嬌 。
男 の 目 に は 糸 を 引 け,
女 の 目に は 鈴 を張 れ 。
男 は内 を 言 わ ず,
女 は外 を言 わず 。
男 は礼 に 余 れ , 熟 語,慣
用 句,諺
女 は華 飾 に 余 れ 。
に お い て,「 男 」 と 「女 」 は 対 を な す もの と し て使 用 さ れ
て い る 。 こ こ に は,「 男 女 / 女 男 / ふ た な り/ は に わ り」 な どが 入 り込 む余 地 が な い。 「男 」 と 「女 」 は 日本 語 の 語 彙 体 系 の 中 で,基 本 的 に セ ッ ト,対 と して 振 る 舞 っ て い る の で あ る。 こ の よ う な 観 察,す
な わ ち 言 語 的 振 る 舞 い の 観 察 に基 づ い て い え ば,「 男 」
と 「女 」 の 関係 は対 義 関 係 と い う よ り,対 比 関 係 と呼 ぶ 方 が よ り適 切 とな る。
4.対 語 の 下位 分 類 前 章 で 言 及 した 「語 構 造 」に 関す る 分 析 は 文 法 的 観 点 よ りの 分 析 で あ っ た が, そ の う ち,並 立 関係 に あ る も の を,意 味 的観 点 よ り と らえ 直 した もの を対 語 と い う。 対 語 を分 類 す る と,次 の よ う に な る。
対 比 語 a) 愛 憎 / 陰 陽 / 男 女 / 天 地 / 表 裏 / 親 子 / 白黒 / 生 き死 に / 浮 き 沈 み / 売 り買 い / 勝 ち負 け / や り取 り/ 行 き来 b) 遠 近/ 寒 暖 / 軽 重 / 広 狭 / 高低 / 深 浅 / 大 小 / 多 寡 / 多 少 / 長 短/明暗 c) 好 悪 / 合 否 / 是 非 / 善 悪 / 諾 否 / よ しあ し/ よ しわ る し 類 似語 温 暖 / 寒 冷 / 形 態 / 虎 狼 / 日月 / 状 態 / 邸 宅 /皮 膚 / 舞 踊 / 携 帯(す
る)/ 洗 濯(す
る)/ 旅 行(す
る)
近接 語 飲食 /花 鳥/歌舞/書 画/洗濯 /草木/筆 墨/矛盾/読み書 き
対 比 語 a)は,い
わ ゆ る 対 義 語 ・反 意 語 ・反 対 語 と され る形 態 素 で構 成 さ れ
た も の。 原 則 と して,形 態 素 の表 す 意 味 は 相 補 関 係 に あ る もの で,対 立 性 を 有 す る点 に 特 徴 が あ る。 対 比 語 b)は,な
ん らか の 単 位 が あ り,単 位 の 多 寡 に よ り語 義 が 決 定 され る
形 態 素 で構 成 され た もの で,程 度 性 を 有 す る点 に特 徴 が あ る。 対 比 語 c)は,中
間 形 が 想 定 され る と い う点 で 対 比 語 a)と 異 な り,質 が 異
な る とい う点 で 対 比 語 b)と も異 な る 。 評 価 を 表 す 形 態 素 で 構 成 され た も の 。 評価 性 を有 す る 点 に 特 徴 が あ る。 類 似 語 は,い わ ゆ る類 義 語 。性 質 や 形 態 な どに 類 似 性 が あ る とい うこ と を意 味す る形 態 素 で構 成 され た も の。
g 言語 s 衰弱
近 接 語 は,場 面 や 時 間,目
的 な どの 点 で近 接 関 係 に あ る こ と を意 味 す る 形 態
素 で構 成 さ れ た もの 。 場 面 的 共 通 性 を 有 す る点 に特 徴 が あ る。
■ 発展 問題 (1) 次 の 各 対 語 は,対
比 語 a),対 比 語 b),対 比 語 c),類 似 語,近
接語 の どれ
か? a 哀 楽
e 怨恨
b 分 別
f 夫婦
i 陰 影
c 重 複 d 断絶
h 悲 哀
m 文句
q 久遠 r 老 若
j迅速
n 燃焼
k 緩急
o 恩 讐
l 恋愛
p 貧窮
t 探求
(2) 文 豪 夏 目 漱 石 の 遺 作 と な っ て し ま っ た作 品 の タ イ トル は 『明 暗 』 で あ る 。 こ の 作 品 は 作 者 の 死 に よ っ て 中 断 し て し ま っ た もの で は あ る が,11,760文
のセ ン
テ ンス で 構 成 さ れ て い る。 彼 の 処 女 作
のセ ン
『吾 輩 は 猫 で あ る』 は,11,146文
テ ンス で 構 成 さ れ た もの で あ っ た か ら,中 断 し た と は 言 え,『 明 暗 』 は 立 派 な 一 作 品 に 匹 敵 す る 言 語 量 を 有 す る も の と考 え て よ い に,「 明 暗 」 とい う単 語 は,タ
。 と こ ろ が,驚
イ トル と して の み 使 用 さ れ,本
くべ き こ と
文 での使 用 例 は
一 例 も な い 。 こ れ は 普 通 で は な い 。 彼 は タ イ トル 『明 暗 』 に よ っ て 何 を表 現 し よ う と して い た の で あ ろ う か?
次 の 対 句 的 表 現,撞
シモ ロ ン)の
え て み よ う。
実 例 を 観 察 して,考
● さ う し て 其鋭利な点 へ て い ふ と,彼 ● 一種の勉強家
着 語 法(対
義 結 合,オ
は悉 く彼 の 迂闊な所 か ら生 み 出 され て ゐ た 。 言 葉 を 換
の 迂 闊 の 御 蔭 で 奇 警 な 事 を 云 つ た り為 た り した 。 で あ る と共 に一 種の不精 者 に生 れ 付 い た 彼 は,遂
を食 は なけれ ば な らない運命 の所 有者 に過 ぎなかつ た。 ● 好 ん で 斯 うい ふ 場 所 へ 出 入 した が る 彼 女 に取 つ て,別 感じは,彼
ク
女 に 取 つ て,永
(二十) に珍 ら し く も な い 此
久 に 新 ら しい 感 じで あ つ た 。 だ か ら又 永 久に珍.
ら しい 感 じで あ る と も云 へ た 。 ● 彼 女 は たゞ不明瞭な材料
(二 十)
に活字 で飯
(四 十 五)
を もつ て ゐ た 。 さ う し て 比 較 的 明瞭 な 断 案 に到 着
して ゐ た 。 ● 今 朝 見 た と 何 の 変 り も な い 室 の 中 を,彼
(五 十 六) 女 は 今 朝 と違 つ た 眼 で 見 回 し た 。 (五十 七)
● 又尊 敬 と軽 侮 と を搗 き 交 ぜ た 其 人 に 対 す る 何 時 も の 感 じが 起 つ た 。 (五 十 九) ● 粗放 の や うで 一 面 に緻 密 な,無頓着
の や うで 同 時 に鋭 敏 な ,口先
も腹 の 中 に は 親 切 気 の あ る此 叔 父 は,… ● 叔 母 の 態 度 は,お
…
は冷 淡 で
(六 十 二)
延 に 取 つ て 羨 ま しい も の で あ つ た 。 又 忌 は しい もの で あ
つ た 。 女 ら し くな い厭 な も の で あ る と 同 時 に,男 あゝ 出 来 た ら嘸 好 か ら う と い ふ 感 じ と,い くな い と い ふ 感 じが,彼
ら しい 好 い もの で あ つ た 。
く ら 年 を 取 つ て も あゝ は 遣 りた
女 の 心 に何 時 もの 通 り交 錯 した 。
● つ ま り人 間 が 陰陽和合の実
(六十 九)
を挙 げ る の は ,や が て 来 るべ き陰 陽 不 和 の 理 を
悟 る た め に過 ぎ な い 。
● 「其 人 は 眼 の 明 い た 盲 人 で す 。」
(七 十 六)
(七 十 八)
● 其 時 の 彼 は今 の 彼 と別 人 で は な か つ た 。 とい つ て ,今 の 彼 と 同 人 で も な か つ た 。 平 た く云 へ ば,同
じ人 が 変 つ た の で あ つ た 。
七 十 九)
● 際 立 つ て明瞭 に聞 こ え た 此 一句 ほ ど お 延 に 取 つ て 大 切 な もの は な か つ た 。 同時 に此一 句程 彼女 に とつ て不明 瞭 な もの もなかつ た。
(百 三)
● 困 つ た とい ふ 心 持 と,助 か つ た と い ふ 心 持 が,包 み 蔵 す 余 裕 の な い う ち に , 一 度 に彼 の 顔 に 出 た
。
(百 四)
● 彼 は 金 を 欲 しが る男 で あ つ た 。 然 し金 を 珍 重 す る男 で は な か つ た。
● 彼 に は 其 後 を聴く ま い とする努力 た。
(百八) が あ つ た 。 又聴 か う とす る 意 志 も動 い
(百
十 四)
● 「愛 と虚 偽 」
● お 延 か ら見 た 此 主 人 は,此
家 に釣り合ふやう
で もあ り,又 釣 り合 は な い や
うで もあ つ た 。
● 事 実 を い ふ と ,彼 女 は堀 を 好 い て ゐ るや う で も あ り,又好
(百 二 十 三)
い て ゐ な い や う.
で もあ つ た 。 ● 見 方 に よ つ て,好
(百 十 五)
(百二 十 三) い 都 合 に も な り,又 悪 い跋 に も な る 此 機 会 は ,… …
● 所 が お 秀 を 怒 らせ る とい ふ 事 は ,お 延 の目的であつて,さ かつ た。
(百 二 十 四) う して目的で な
(百 二 十 六)
● お 秀 が 実 際 家 に な つ た 通 り,お 延 も何 時 の 間 に か 理 論 家 に 変 化 し た 。 ● 夫 人 は 責 任 を 感 じた 。 然 し津 田 は 感 じな か つ た 。 ● 彼 に 取 つ て最も都合の好い事
(百三 十)
(百 三 十 四)
で ,又 最 も都 合 の 悪 い 事 は,何
方 にで も自由
に 答 へ ら れ る 彼 の 心 の 状 態 で あ つ た 。 と い ふ の は,事
実 彼 は お延を愛
もゐ た し,又 そ ん な に愛 し て も ゐ な か つ た か らで あ る 。
(百三 十 五)
● 「貴 方 は表向 延 子 さ ん を 大 事 に す る 様 な 風 を な さ る の ね,内 くつ て も。 左 右 でせ う」
して
側 は其 程で な
(百三 十 六)
● 極 め て平和 な暗 闘が 度 胸比べ
と技巧比べ
で 演 出 され なけ れ ば な らなか つ
た
(百 四 十 七)
● 彼 女 の 云 ひ 草 は 殆 ど出 鱈 目 に 近 か つ た。 け れ ど もそ れ を 口 に す る気 持 か ら い ふ と,全
くの 真 剣 沙 汰 と何 の 異 な る 所 は な か つ た 。
● け れ ど も事 前 の 夫 婦 は,も
(百 四 十 八)
う事後 の夫婦 で は なかつ た。
(百 五 十)
● 彼 は 漸 く彼 女 を軽 蔑 す る事 が 出 来 た 。 同 時 に 以 前 よ り は 余 計 に,彼 女 に 回 情 を 寄 せ る事 が 出 来 た。
● 津 田 は畧 小 林 の 言 葉 を,意 解 す る 事 が 出 来 た,然
(百 五 十)
し,事解する事はできな
か つ た 。 従 つ て 半 醒 半 酔 の や う な 落 ち 付 きの な い状 態 に 陥 つ た 。
(百 六 十 一)
● 或 は そ うか も知 れ な い 。 或 は さ うで な い か も知 れ な い。 ● 山 と谷 が そ れ 程 広 い と い ふ 意 味 で,町
(百七 十 二)
は それ程 狭 かつ たの であ る。
(百七 十 二)
● 彼 は 自 分 を さ う思 ひ た く も あ り,又 さ う思 ひ た く も な か つ た 。 ● 思 ひ の 外 に 浪 漫 的 で あ つ た津 田 は,ま て彼は其両面
の 対 照 に気が付
(百 七 十 三)
た 思 ひ の 夕 に 着 実 であ つ た 。さうし
い て ゐ な か つ た 。 だ か ら 自 己 の矛盾 を 苦 に す
る必要 は なかつ た。
(百 七 十 三)
● 甲 が 事 実 で あ つ た 如 く,乙
も矢 ッ張 り本 当 で な け れ ば な らな か つ た 。 (百 八 十 三)
● 反 逆 者 の 清 子 は,忠 実 な お 延 よ り此 点 に 於 て 仕 合 せ で あ つ た 。
(百 八 十 三)
● 表 で 認 め て裏 で 首 肯 は な か つ た津 田 の 清 子 に 対 す る 心 持 は,何 外 部へ 発 現す るのが 当然 であつ た。 ● 「たゞ 昨 夕 は あゝ で,今
朝 は 斯 う な の 。 そ れ 丈 よ」
● 眼 で 逃 げ られ た 津 田 は,口
よ う。
(百 八 十 五)
(百 八 十 七)
で 追 掛 け な け れ ば な ら な か つ た 。 (百八 十 八)
(3)『般 若 心 経 』 に あ る 次 の 表 現 に つ い て 調 べ て,そ
色 即是 空
かの 形式 て
の 共通 点 につ い て考 えて み
空 即是 色 不 生不 滅 不 垢不 浄 不 増不 減
■ 参考 文献 1) 池上嘉彦 『 意 味 論』(大 修 館 書店,1975) 2) 田中 章 夫 「 対 義 語 の性 格 」(「日本 語 学 」Vol.6,No.6,明
治書 院,1987)
3) 田中 章 夫 『 国 語 語彙 論 』(明 治書 院,1978) 4) 國 廣哲 彌 『 意 味 論の 方 法 』(大 修 館 書 店,1982) 5) 國 廣哲 彌 「日英温 度 形 容 詞 の意 義 素 と構 造 」(『構造 的 意味 論 』 大修 館 書 店,1965) 6) 宮 地敦 子 『 身心 語彙 の 史 的研 究 』(明 治書 院,1979) 7) 村 木新 次 郎 「対義 語 の 輪 郭 と条 件 」(「日本 語 学 」Vo1.6, No.6,明 治 書 院,1987) 8) 村 木新 次 郎 「意味 の 体 系 」(北 原 保 雄監 修 ・斎 藤倫 明編 『 朝 倉 日本 語 講座 4 語 彙 ・意味 』 朝 倉書 店,2002) 9) 森 岡健 二 「対義 語 とそ の ゆれ 」(「日本語 学 」Vol.1,No.1,明
治書 院,1982)
10) 山口 翼 編 『 類 語 検 索 大 辞典 日本語 シ ソー ラス』(大 修 館 書 店,2003) 11) 柄 谷行 人 ・小 森 陽一 ・芳 賀 徹 ・亀 井 俊 介 ・小 池清 治著 『漱石 を よむ 』(岩 波 セ ミナ ー ブ ッ クス48,岩
波 書店,1994)
第 3章 「副 食 物 」はフク シ ョクブ ツか, フクシ ョクモ ツか? 【語 構 成 ・語 構 造 ・語 分 節 】
キ ー ワ ー ド:文 字 読 み,言 態 素,接 化,半
葉 読 み,不
頭 辞,接
読 文 字,語
尾 辞,単
濁 音 化,連
声,母
純 語,合 音 変 化,ア
足 ・修 飾 ・並 立 ・補 助),語
構 成,形
態 素,自
立 形 態 素,付
成 語,複
合 語,派
生 語,畳
ク セ ン ト変 化,語
属形
語,濁
構 造(主
音
述 ・補
分節
1.日 本 語 は 読 め る の か? 不 思 議 な こ と な の で あ る が,日
本 語 に い く ら 熟 達 し て い て も,漢
字書 きされ
た 日本 語 の す べ て を正 確 に 読 み 解 く とい う こ とは 不 可 能 に 近 い 。 「呷る ・論 う ・殺 め る ・疼 く ・携 え る 」 な ど を
「ア オ る ・ア ゲ ツ ラ う ・ア ヤ
め る ・ウ ズ く ・ タ ズ サ え る 」 と 読 ん だ り,「 胡 散 く さ い ・壊 死 す る ・矍鑠 と し た ・脆 弱 な ・〓勅 と し た 」 な ど を
「ウ サ ン く さ い ・エ シ す る ・カ ク シ ャ ク と し
た ・ゼ イ ジ ャ ク な ・ハ ツ ラ ッ と し た 」 と 読 ん だ り,「 通 草 ・虎 杖 ・杜 若 ・木 耳 ・木 賊 」 な ど を
「ア ケ ビ ・イ タ ド リ ・カ キ ツ バ タ ・キ ク ラ ゲ ・ ト ク サ 」 と 読
ん だ り す る こ と は,確
か に 難 し い こ と で は あ る が,こ
度 知 識 が 与 え ら れ れ ば,難
れ ら は 知 識 の 問 題 で,一
読 と い う こ と に は な ら な い 。 ま た,こ
記 は 真 っ 直 ぐ に 一 つ の 語 形 を 指 し 示 し て い る か ら,む
れ らの 漢 字 表
し ろ易 しい と言 っ て も よ
い く らい の もの な の で あ る。 日 本 語 表 記 の 本 質 的 問 題 は,日
常 目 にす る平 易 な 漢 字 で 書 か れ た 表 記 が 読 み
難 い とい う と こ ろ に あ る 。 1) 小 山 幸 子 aお や ま さ ち こ bお や ま ゆ きこ cこ や ま さち こ dこ や まゆ き こ 2) 頭
3) 上
a う え b う わ cか み d あ eの ぼ fジ ョ ウ gシ
4) 生
aい bう cき dな ま eは fふ gセ イ h シ ョ ウ iジ ョ ウ
5) 何 人
aあ た ま bか し ら cこ うべ dつ む り e トウ fズ gチ ュ ウ ョウ
aな んニ ン b な に ジ ン cな ん ぴ と
1) は い わ ゆ る 固 有 名 詞(人
名)で
あ る 。 人 名 は 造 語 とい う要 素 が 強 い 。 造
うえ う
語 の 読 み 方 は 造 語 者 の 恣 意 に 委 ね られ る 。 した が っ て,正 確 に 読 み 解 くに は 造 語 者 に尋 ね る ほ か は な い 。 と くに,日 (漢 字)の 種 類 につ い て は,人
本 で は,命 名 に さい して,使 用 す る文 字
名 漢 字 な どの 法 的規 制 が あ る が,読
で あ る 。 「有 子 」 「孝 子 」 「嘉 子 」 な ど の 例 に接 す る と,初
み方 は 自由
め か ら兜 を脱 い で,
ど う読 む の か と教 え を乞 うた ほ う が 早 道 で あ る。 和 泉 国 ・紀 伊 国 ・摂 津 国 ・英 彦 山 な どの 「和 ・伊 ・摂 ・英 」 な ど は不 読 文 字 で あ る。 固 有 名 詞 の 読 み は 個 別 に覚 え る ほ か な い 。 これ ら に お い て も,文 字 を 読 ん で い るの で は な く,言 葉 を読 ん で い る と考 え るべ きで あ る。 い わ ゆ る 固 有 名 詞 は 種 々 の 面 にお い て,他 の 品詞 とは 異 な る 振 る 舞 い をす る の で 例 外 的 に 難 しい の だ と い う こ と もで きそ うで あ る が,2)以
下 を見れ ば,
読 み の 困 難 さは 固 有 名 詞 に 限定 され る もの で は な い こ とが 歴 然 とす る だ ろ う。 文
字
列
言語形 式
2)a 頭 が いい 頭 を悩 ます 頭 を振 る 頭 を刈 って もらう あた ま b 文楽 人形 の頭 七つ の子 を頭 に三人の 子 ど も 大 工の 頭 か し ら c 頭 を垂 れ る 頭 を巡 らす 正 直 の頭 に神宿 る こ うべ d 頭 の物 つむ り e 頭 髪 頭 部 出頭 低頭 数頭 トウ f 頭 が高 い 頭 痛 頭 巾 頭 蓋 ズ
g 塔頭
チュウ
3)a 空の上 机 の上 父 上 上 様 b 上の 空 上書 き 上顎 上 着 上背 上擦 る 上 回る うわ c 川上 上座 上の 句 上御 一 人 お上 さん 上 を学 ぶ下 かみ d 上が る 上 げる あ e 上 る のぼ f 上 位 上下 上 州 上 達 上品 ジ ョウ g 上 人 上卿 堂 上 シ ョウ 4)a 生 き る
b 生 む 蓬生 c 生糸 生薬 生 蕎麦 生娘 ウ イスキ ーを生 で飲 む d 生菓 子 生 首 生 肉 生 の声 肉 を生 で食 うな e 生 える f 芝生 g 生命 人 生 生死 h 一生 生 涯 死 生 観
i 誕生 往生 衆生
い き なま は ふ セイ シ ョウ ジ ョウ
5)a 音楽 会へ 何 人来 たので すか? b 私 が何 人か 当て てみ て くだ さい
なん ニ ン
c 何 人 とい え ども入 室 を禁ず
なん ぴ と
なにジ ン
現 代 日本 語 の 漢 字 仮 名 交 り とい う表 記 方 法 に お い て は,文 字 読 み は 不 可 能 と い っ て よい 。 漢 字 は 一 つ の 言 語 形 式 を単 純 に指 し示 す こ と はせ ず,常
に複数の
言 語 形 式 を提 示 し,的 確 な選 択 を要 求 す るの で あ る 。 そ こで 読 み 手 は 文 字 列 な ど の コ ンテ キ ス トを頼 りに して,書
き手 が 意 図 した 言 語 形 式 を推 定 し,一 つ の
言 語 形 式 を選 択 しな が ら読 み 進 め る とい う,言 葉 読 み をせ ざ る を え な い とい う こ とに な る。 す な わ ち,漢 字 仮 名 交 り文 を読 む作 業 は 単 独 の 文 字 に関 す る 知 識 の 引 き出 し作 業 で は 済 まず,文
字 列 か らの 情 報 と突 き合 わせ,不
断の推 理作業
を必 然 とす るの で あ る 。 言 い 換 え る と,文 字 に 関す る 知 識 だ け で は 読 め ず,単 語 に 関 す る知 識 を も必 要 とす る と い うの が 日本 語 読 解 の 実 際 な の で あ る。 「空 の 上」 の 「上 」 が 「う え」 で あ り,「 上 の 空 」 の 「上 」 が 「う わ」 で あ る こ と は,「 上 」 と い う単 独 の 漢 字 か らだ け の 情 報 で は 説 明 が つ か な い 。 文 字 列 か らの 情 報 を必 須 の もの と し、 単 語 に 関 す る 知 識 を必 要 とす る こ と は,こ
の一
例 か ら も断 定 で き る こ と な の で あ る。
2.語 構 成 ・単 語 の 分 類― 単 純 語 ・合 成 語 ・複 合 語 ・派 生 語 ・畳 語― 意 味(指 示 的 意 味)を 表 す 最 小 の 単 位 を形 態 素 とい う。 「あ た ま,か
し ら,こ
うべ,つ
む り」 の よ う な形 態 素 は 単 独 で 使 用 され る 。
こ の よ う な 形 態 素 を 自立 形 態 素 とい い,自 立 形 態 素 一 個 で構 成 さ れ る 単 語 を単 純 語 と い う。 「頭(ト
ウ)」 「頭(チ
ュ ウ)」 は単 独 で は使 用 され な い。 この よ うな 形 態 素 を
付 属 形 態 素 とい う。 「頭 髪,頭
部,低 頭,数
頭 」 「塔 頭 」 な どは 付 属 形 態 素 同士
が 結 合 して 一 単 語 と な っ た もの で あ る。 この よ うな 単 語 を合 成 語 とい う。 「頭(ズ)」
は,「 頭 が 高 い 。」 と い う慣 用 的表 現 にお い て は単 純 語 で あ る が,
現 代 日本 語 で は 基 本 的 に付 属 形 態 素 で,「 頭 痛,頭
巾,頭
素 同 士 の結 合体 で あ る の で合 成 語 と い う こ と に な る 。
蓋 」 な どは 付 属 形 態
「父 上(ち
ち うえ)」 は 「父(ち
ち)」 も 「上(う
え)」 も 自立 形 態 素 で あ る。
自立 形 態 素 同士 が 結 合 した もの を複 合 語 とい う。 注 意 す べ き こ と は,二 つ の 自 立 形 態 素 が 単 純 に 加 算 さ れ て 複 合 語 に な っ た と い うこ とで は な い こ とで あ る 。 自立 形 態 素 と して の 「父 」 と 「上 」 の ア クセ ン トは と も に 高 低 型 で あ る。 単 純 に 加 算 す る と,「 父 上 」 は 高 低 高 低 と な る 。 一 方,複
合 語 と し て の 「父 上 」
の ア ク セ ン トは 低 高 高 低 と な る 。 複 合 語 化 に は ア ク セ ン ト変 化 とい う音 声 現 象 が付 随 して い る の で あ る 。 「上 様(う
え さ ま)」 の 場 合 は,自 立 形 態 素 と付 属 形 態 素 と の 結 合 体 で あ る。
こ の よ う な もの を 派 生 語 とい う。 な お,「(皆)様,(皆)さ
ん,(山
田)君,(面
白)さ,(深)み,(自
な ど常 に他 の 形 態 素 に下 接 す る もの を接 尾 辞 とい い,「 お (祭 り),さ ま(水),ま
っ (白),ま ん(中),ご
( 丁 寧 ),不
主)的
(親切 )」 な ど の よ う に 常 に
他 の 形 態 素 に 上 接 す る もの を接 頭 辞 とい う。 念 の 為 に述 べ て お くが,構 と して 接 尾 辞,接 「上(う
成要素
頭 辞 を 有 す る単 語 は 派 生 語 で あ る。
わ)」 は 「上 の 空 」 と い う表 現 にお い て助 詞 「の」 が 接 続 して い る の
で,自 立 形 態 素 の よ う に 見 え るが,実
は 「上 の空 だ」 とい う形 容 動 詞 の 語 幹 で
あ る。 したが っ て,こ の 場 合 の 「上(う わ)」 も,「 上 書 き,上 顎,上 着,上 上擦 る,上 回 る 」 な どの 「上(う 「空,書
」
( 迷 う),
き,顎,回
背,
わ)」 と同 様 付 属 形 態 素 で あ る 。
る」 な ど は 自立 形 態 素 で あ る の で,「 上 の 空,上 書 き,上
顎,上 回 る」 な ど は派 生 語 と な り,「着(ぎ)」
「背(ぜ
い)」 「擦 る(ズ ル)」 な
どは 付 属 形 態 素 で あ る の で 合 成 語 とい う こ と に な る 。 そ れ ぞ れ 濁 音 は 合 成 語 化 した こ との マ ー ク で あ る。 濁 音 化 とい う音 声 現 象 を 単 語 の 語 構 成 とい う観 点 か ら と らえ 直 せ ば,そ
れは
合成 語 化 ・複 合 語 化 ・派 生 語 化 した こ とを 明 示 的 に示 す た め の マ ー ク で あ る と いう こ とに な る 。 因 み に 合 成 語 化 の マ ー ク と して 機 能 す る 音 声 現 象 と して は 濁 音 化 の ほ か に, 半濁 音 化 や 連 声 とい わ れ る もの と母 音 変 化 と称 され る もの とが あ る 。 半 濁 音 化 と は,「 こ っ恥 ず か しい,こ 化に と もな い,「 恥 ず か しい,ひ
っ ぴ どい , ひ っ ペ が す 」 な ど,合 成 語
ど い,へ が す 」 な ど の 後 部 要 素 の 第 一 音 節 の
ハ 行 音 が 半 濁 音 化 す る現 象 を い う。 連 声 と は,派 生 語 化 す る 際 の 次 の よ う な音 融 合 の 現 象 を い う。 因(in)
+ 縁(en)
= 因 縁(innen)
観(kan)+
音(on)
= 観 音(kannon)
雪(set)+
隠(in) = 雪 隠(settin)
な お,連 声 は 中 世 日本 語 で は 活 発 で あ っ たが,現
代 日本 語 で は 化 石 的 存 在 と
な っ て い る。 最 後 に,母
音 変 化 とは 合 成 語 化 す る 際 の,次
の よ う な 音 声 変 化 の こ とで あ
る。 金(kane)
+ 釘 (kugi)
= 金 釘(kanakugi)
酒 (sake) + 樽 (taru)
= 酒 樽(sakadaru)
手(te)
+ 綱 (tsuna) = 手 綱(tadzuna)
木(ki)
+ 立 ち (tachi) = 木 立 ち(kodachi)
語 構 成 の観 点 か ら単 語 を分 類 す る と,こ れ まで に述 べ た 単 純 語,合 合 語,派
生 語 とい う こ と に な るが,「 赤 赤,青
青,山
成 語,複
山」 な ど の よ う に 分 節 音
レベ ルで 見 れ ば 同 一 の 形 態 素 の 反 復 に よ っ て構 成 さ れ た 単 語 が あ る 。 こ の よ う な 単 語 を特 に畳 語 とい う。 複 合 語 化 に は ア クセ ン ト変 化 が 付 随 す る とい う こ と は畳 語 の 場 合 も当 然 適 用 され る。 赤 ア カ 高 低
赤 赤 ア カ ア カ 低 高 高低
青 ア オ 高低
青 青 ア オ ア オ 低 高 高低
山 ヤマ 低 高
山 山 ヤ マ ヤ マ 低 高 高低
畳 語 に は 「人 々,日
々、 黒 々 」 の よ う に後 続 す る 形 態 素 の 第 一 音 節 が 濁 音 化
す る もの もあ る。 「人(び
と),日(び),黒(ぐ
ろ)」 な ど は,単 独 で は 使 用 さ
れ な い か ら付 属 形 態 素 とい う こ と に な る 。 した が っ て,こ れ らは 派 生 語 と い う こ と に な る 。 詳 述 は避 け るが,派
生 語 化 に お い て も,ア クセ ン ト変 化 が付 随 す
る の で,こ れ らの 畳 語 に お い て は,濁 音 化 と ア ク セ ン ト変 化 と い う二 重 の 音 声 変 化 が 派 生 語 化 の マ ー ク と して 機 能 して い る とい う こ と に な る 。 畳 語 は厳 密 に 言 え ば,複 合 語 ま た は 派 生 語 で あ るか ら,単 語 の 分 類 と して は, わ ざ わ ざ一 群 の も の と して 項 目立 て を す る必 要 は な い の で あ る が,「 ニ ャ ン ニ
ャ ン,ワ
ンワ ン,は
らは ら,ば
らば ら」 な ど擬 声 語 擬 態 語 と称 され る もの も含
め る と この タイ プ の単 語 は膨 大 な もの に な り,日 本 語 の 語 彙 の 一 特 徴 とな る た め,あ
え て 分 類 項 目の 一 つ と して立 て る の で あ る。
3.語 構 造 合 成 語 ・複 合 語 ・派 生 語 ・畳 語 な ど,二 つ 以 上 の 形 態 素 で 構 成 さ れ た 単 語 に お け る,形 態 素 相 亙 の 意 味(文
法 的 意味)的
関 係 を語 構 造 と い う。
語 構 造 に は,主 述 構 造 ・補 足 構 造 ・修 飾 構 造 ・並 立 構 造 ・補 助 構 造 の五 種 が あ る。
主 述 構 造 頭 痛(頭
が 痛 む こ と),足 早(足
が 早 い こ と),夜
明 け(夜 が 明
け る こ と)
補 足 構 造 上 書 き (上 に 書 くこ と),上 着(上 読 む こ と),出
読 書(書
頭(頭
に着 る もの),本
を 出 す こ と),上
達(上
読 み(本
を
に 達 す る こ と),
を読 む こ と)
修 飾 構 造 連 体 修 飾 頭 髪(頭 衆 生(衆
の髪),頭
部(頭 の 部 分),上
の 位),
の 生 物)
お 祭 り,真
っ 白,真
連 用 修 飾 先 走 る,差
ん 中,不
し障 る,差
う ち 切 る,さ 迷 う,た
並 立 構 造 対 比 関 係 上 下(上
位(上
愉 快,絶
好調
し支 え る ば か る,ぶ
と下 〉,大 小(大
っ 魂 消 る,ほ
と小)明
暗(明
の白い
るい こ と
と暗 い こ と)
類 似 関 係 携 帯(身
に 携 え帯 び る こ と),舞 踏(舞
近 接 関係 飲 食(飲
み 食 い す る こ と),書 画(書
同 義 関係 山 々(山
と山),人
補 助 構 造 数 頭,上
様,民
々(人
い踊 る こ と) と絵 画)
と人)
主 的,自 主 性
4.「何 人 」 は ど う読 め ば よ い の か? 「 何 人 」の 読 み を 問 わ れ た 場 合,す げ な く答 え れ ば,「 これ だ け で は読 め な い 。」 と な り,丁 寧 に 答 え れ ば,「 可 能 性 と して は,『 な ん ニ ン,な に ジ ン,な ん ぴ と』
の 三 種 類 の 読 み が 考 え られ るが,文
字 列 が 与 え られ な い と,こ れ らの うち の ど
れ と指 し示 す こ とは で き な い 。」 とい う こ とに な る。 これ らの 単 語 を語 構 成 ・語 構 造 の 観 点 か ら分 析 す れ ば 次 の よ う に な る 。 単
語
前 部要 素
後 部要 素
語構 成 語構造
な ん ニ ン な ん(和 語,付 属 形 態 素) ニ ン(漢 語 ・呉 音,付 属 形 態 素) 合 成語 補助 な に ジ ン な に(和 語,自 立 形 態 素) ジ ン(漢 語 ・漢 音,付 属 形 態 素) 派生 語 修飾 な ん ぴ と な ん(和 語,付 属 形 態 素) ぴと(和 語,付
属 形 態 素)
合成 語 修 飾
「な ん ニ ン」 と 「な に ジ ン」 は 和 語 と漢 語 とが 融 合 した 混 種 語 で,い
かにも
継 ぎ接 ぎ した 単 語 とい う 印 象 を免 れ な い 。 「な ん ニ ン」 の 「ニ ン」 は 人 数 を表 す 語 の 下 に 付 け る接 尾 辞(付
属 形 態 素)
で,い わ ゆ る助 数 詞 で あ る。 「な に ジ ン」 の 「ジ ン」 は,人 用 い る接 尾 辞(付 属 形 態 素)で
を人 種,国
籍,職
業な どで分類 して呼ぶ 際に
あ る。
こ れ らに 対 して,「 な ん ぴ と」 は 和 語 同士 の 融 合 で あ り,「 ぴ と」 とい う 半 濁 音 化 が 融 合 度 を 高 め て い る。 「誰 」 と い う,い わ ゆ る 不 定 人称 代 名 詞 の 古 風 な 言 い 方 とい う意 味(指
示 的 意 味 と文 体 的 意 味)を 有 して い る。
「ニ ン/ ジ ン/ ひ と ・ぴ と ・び と」 とい う対 立 は,意 味(指
示 的 意 味)の 対
立 を 示 す もの と して 機 能 す る こ と も あ る 。 い ち ニ ン(一 人)
=右 大 臣 の異 称 。
い ち ジ ン(一 人)
=天 子 の 尊称 また は謙 辞 。
い ち の ひ と(一 の 人)= 摂 政 ・関 白,ま た は太 政 大 臣 の 異 称 。 待 遇 度(文
体 的 意 味)の
観 点 か ら言 え ば,「 ジ ン」 とい う漢 音 に 由 来 す る も
のが 最 も高 く,「 ニ ン」 とい う呉 音 に 由 来す る もの が 最 も低 い 。 「ひ と ・ぴ と ・ び と」 とい う和 語 系 の も の は そ れ らの 中 間 とい う こ と に な る 。
5.語 分 節― 「副 食 物 」 は 「フ ク シ ョ ク ブ ツ」 か , 「フ ク シ ョ ク モ ツ 」 か?― 三 つ 以 上 の 形 態 素 か ら な る 単 語 を,幾 つ か の 部 分 に 分 け る こ と を語 分 節 とい う。 「副 食 物 」 と い う単 語 を 語 分 節 す る と,a 「副 食 +物 」 と b 「副 +食 物 」 の二
種 に な る。 a 「副 食 +物 」 と語 分 節 す れ ば,そ の 読 み 方 は 「フ ク シ ョク ブ ツ」 とな り,b 「副 + 食物 」 と語 分 節 す れ ば,そ の 読 み 方 は 「フ ク シ ョ クモ ツ」 とな る。 現 代 日本 語 に は,「 主 食 ・副 食」 とい う言 葉 は あ るが,「 主 食 物 ・副 食物 」 と い う言 葉 は な い 。 こ の こ と か ら考 え れ ば,「 副 食 物 」 の 読 み 方 は 「フ ク シ ョク ブ ツ」 が 正 し い とい う こ と に な る。 「フ ク シ ョク モ ツ 」 は語 分 節 を 間 違 え た た め に生 じた 誤 読 で あ る。 誤用 す る者 が 増 加 す る と や が て 「フ ク シ ョク モ ツ」 と い う語 が 認 知 さ れ る よ う に な る 可 能 性 が あ る 。 講 義 に お い て,こ の 問 題 を 学 生 に 課 す と,誤 読 す る者 が 半 数 以 上 に上 る こ とが 多 い の で,将
来 は,「 フ ク シ ョ
クモ ツ」 も慣 用 と して 認 め られ る よ うに な る か も しれ な い 。 日本 語 の 表 記 方法 に は,語 分 節 を明 示 す る た め に 「・」 な どの 符 号 を用 い て 「副 食 ・物 」 とか 「副 ・食 物 」 と表 記 す る とい う規 則 が な い 。 そ こ で,語 分 節 の 間 違 え を 防 ぐ こ と は 不 可 能 とい う こ と に な る の で あ る。 「フ ク シ ョ クモ ツ 」 とい う言 語 形 式 は漢 字 表 記 が 生 み 出 した新 語 で あ る。 日本 語 に お い て は,文 字 は 音 声 言 語 を た だ 写 す だ け の 存 在 で は な い 。 逆 に, 文 字 が 音 声 言 語 を生 み 出 す とい う こ と が あ る の で あ る 。
■ 発展 問題 (1) 次 の 単語 の読 み方 を平仮 名で 書 きな さい。 a 歯 舞
b 色丹 c 国 後
d 択捉 e 西 表 島
(2) 次 の 下 線 部 の 読 み 方 を平 仮 名 で 書 き な さ い 。 a よ そ に の み 恋 ひ や わ た ら ん 白 山 の ゆ き見 る べ く も あ ら ぬ わ が 身 は(古 離 別) b 白 山 国 立 公 園 c 東 京 都 文 京 区 白 山 d 青 山墓 地
今 ・
e 人 間 致 る所 青 山 あ り。 * 「白 山 ・白 山 」 は,と
も に石 川 ・岐 阜 両 県 に ま た が る 成 層 火 山 を 意 味 す る 。
古 くは 「し ら や ま」 と い い,後
に 「ハ ク サ ン」 とな る 。
(3) 次 の 各 単 語 の 語 構 造 を述 べ な さ い 。 a 有 望 f 公 害
b 会 合
c 登 山
d 競 争
e 日没
g 入学
h 人工
i 重傷
j 高低
(4) 次 の 各 組 の 単 語 の 語 構 成 ・語 構 造 ・意 味 につ い て 分 析 して み よ う。
①a ぐい飲 み
② a 首狩 り
③ a 青焼 き
b 吸 い飲 み
b 熊狩 り
b 有 田焼 き b 夕焼 け
b 大当た り
c 一 気飲 み
c 山狩 り
c 貝焼 き
c 潮焼 け
c 風 当た り
d 酒飲 み
d 魔 女 狩 り d 炭 火焼 き d 酒焼 け
d 口当 た り
e やけ飲 み
e 桜狩 り
雪焼 け e 世話焼 き e
e ま ぐれ 当 た り
f 回 し飲 み
f 蛍狩 り
f 手焼 き
f 胸焼 け
f 心 当た り
g 水飲 み
g 紅 葉狩 り g 鍋焼 き
g 日焼 け
j 八つ当たり
h ひと飲み
h 潮干 狩 り h 目玉焼 き h 生焼け
h 総当た り
i が ぶ飲 み
i 山焼 き
i 丸焼 け
i 体 当た り
j 色焼け
j 突 き当 た り
j 茶飲 み
④ a 白粉 焼 け
k 湯飲 み
⑤ a 人 当た り
k 罰当た り
l 丸 飲み
■ 参考文献 1) 阪 倉篤 義 『 語 構 成 の研 究 』(角 川書 店,1966) 2) 斎 賀秀 夫 「 語 構 成 の特 質 」(『講座 現 代 国語 学Ⅱ こ とば の体 系 』 筑摩 書 房,1958) 3) 宮 地 裕 「 語 構 成 」(『日本 語 と 日本 語 教 育』 文 化庁,1973) 4) 宮 島達 夫 「 語 構 成 」(国 語 学 会 編 『 国 語 学大 辞 典』 東 京 堂 出版,1980) 5) 川 本栄 一 「 語 構 成 」(佐 藤 喜代 治編 『国 語学 研 究事 典 」 明治 書 院,1977) 6) 野村 雅 昭 「 造 語 法 」(『岩 波 講座 日本 語 9 語彙 と意味 』 岩 波書 店,1977) 7) 山 口佳 紀 「 語 形 ・語構 成 」(『講座 日本 語 の語 彙 1』 明治書 院,1982) 8) 斉藤 倫 明 「 語 構 成Ⅰ,Ⅱ 」(森 田 良行 ・村 木新 次 郎 ・相 澤 正 夫編 『ケー ス ス タデ ィ 日本 語 の語 彙』 お うふ う,1989) 9) 斎 藤 倫 明 「語 構 成 原 論 」(北 原 保 雄 監 修 ・斉藤 倫 明編 『朝 倉 日本 語 講 座 4 語 彙 ・意 味 』 朝 倉 書 店,2002)
10) 田 中章 夫 『 国 語語 彙 論 』(明 治 書 院,1978) 11) 石井 正 彦 「語 構成 」(『講座 日本 語 と 日本 語教 育 6 日本 語 の語 彙 ・意 味(上)』 1989) 12) 影 山 太郎 『 文 法 と語 形 成』(ひ つ じ書 房,1993)
明治 書 院,
第 4章 『 吾輩 は猫 である』の猫 はなぜ名無 しの猫 なのか? 【意 味 特 性 ・固 有 名 彙 】
キ ー ワ ー ド :固 有 名 詞,固 能,命
名,所
有 名 彙,橋
本 文 法, 意 味 特 性,恣
属 関 係.意
味 属 性,固
意 性, 指 示機 能,標 識 機
有 名 詞 の 体 系,人
名 表 記,固
有名 彙
変 転 の レ トリ ッ ク
1.固 有 名 彙 と は何 か?― 固 有 名 詞 と固 有 名 彙― 「固有 名 詞 」 とい う用 語 は,一 般 的 に は 文 法 用 語 と意 識 さ れ て い る。 しか し, 英 語 に お い て は 確 か に 文 法 用 語 な の で あ るが,日
本語 におい ては文法用 語では
な い 。 語 彙 論 の用 語 な の で あ る。 本 書 で は,文 法 論 に 関 す る用 語 は 従 来 の 用 語 を使 用 して 「… … 詞 」 と表 現 す る が,語 彙 論 に 関 す る用 語 は,そ の こ と を明 示 的 に 示 す た め 「… … 彙 」 と表 現 す る こ と にす る。 した が っ て,い
わ ゆ る 固 有 名 詞 は 「固 有 名 彙 」 と な る。
英 語 の 固 有 名 詞 に つ い て い え ば,語 頭 は 大 文 字 で書 か れ,冠
詞 は付 け られ な
い。 また,複 数 形 を欠 く とい う文 法 的特 徴 を有 し,文 法 的 に 普 通 名 詞 と は区 別 され る。 一 方,日
本 語 の 固 有 名 彙 は こ の よ う な 意 味 で の 文 法 的 特 性 を 有 して は い な
い 。
普通 名詞
固有名彙
馬 が 来 た 。
山 田 太 郎 が 来 た。
馬 は家 畜 だ 。
山 田 太 郎 は 親 友 だ。 [題 目成 分 の一 部]
あ れ は馬 だ 。
あ れ は 山 田 太 郎 だ。 [解説 成 分 の 一 部]
馬 に 乗 る 。
山 田太 郎 に 頼 む 。
[依拠 格 補 足 成 分 の 一 部]
馬 の 脚
山田太郎 の足
[連体 成 分 素 の 一 部]
形 式 を重 視 す る 橋 本(進
[主格 補 足 成 分 の 一 部]
吉)文 法 で は,「 固 有 名 詞 」 を名 詞 の 下 位 区 分 と し,
次 章 で 言 及 す る 「代 名 詞 」 と 同様 に,独 立 した 品 詞 の 一 つ と して は 数 え て い な
犬
い 。 こ れ は,上
記 の よ う な言 語 事 実 に基 づ い た 処 置 な の で あ る。
固有 名彙 に属 す る単 語 の特 徴 は,言
語 形 式 と言 語 内 容 との 関 係 の 特 殊 性 にあ
る。 言語 形式
[指 示] 言 語 内容
言語形式
[標 識] 言 語 内 容
「馬 」 「猿 」 な どの 普 通 名 詞 で は,言 語 形 式 が 社 会 的 に一 定 の 言 語 内容(聴
覚
イ メ ー ジ ・類 概 念)を 呼 び起 こす 。 こ の よ う に あ る 言 語 形 式 が 社 会 的 に 一 定 の 言 語 内 容 を呼 び起 こす 作 用 を 本書 で は,言 語 の 指 示 機 能 と い う こ と にす る。 ま た,あ
る 言 語 内容 は 社 会 的 に 一 定 の 言 語 形 式 を要 求 す る。 こ の よ う に して,普
通 名 詞 に お い て は,言 語 形 式 と言 語 内 容 が 密 接 に結 び 付 い て い る 。 日本 語 を 習 得 す る とい うこ と は,こ の よ うな社 会 的 一 定 の 関係 を習 得 す る とい うこ とで あ る 。 一 方,「 山 田 太 郎 」 とい う 固 有 名彙 は社 会 的 に は 一 定 の 言 語 内 容(聴 覚 イ メ ー ジ ・類 概 念)と は 結 び つ い て い ない 。 固 有 名彙 は指 示 機 能 を 具備 して い な い の で あ る 。 あ る 固 有 名彙 が 社 会 的 に言 語 と して 認 め られ る ため に は,言 語 形 式 と言 語 内 容 と を私 的 に 臨 時 的 に結 び 付 け る 必 要 が あ る 。 あ る人 間 に どの よ うな 固 有 名彙 を与 え る か は 個 人 の 恣 意 に ゆ だ ね られ て い る 。 固 有 名彙 は あ る 人 間 が 他 の 人 間 と は別 の もの で あ る こ と を示 す 標 識 と して,ま ず 使 用 され,新 規 に社 会 的 に 認 知 され る こ とに よ り,言 語 と して 機 能 す る よ う に な る。 この よ う な 固 有 名彙 の 機 能 を本 書 で は標 識 機 能 とい う こ と に す る。 と こ ろ で,日 本 語 や 英 語,中 して,言
国語 と い う個 別 言 語 の枠 を超 え て,言 語 一 般 と
語 形 式 と言 語 内 容 と の 関係 をみ た場 合,こ
れ らの 関 係 は恣 意 的 関係 と
い う こ とに な る。日本語
日本語
小百合
英語
dog
日本 語
百恵
中国語
狗子
日本語
瑠璃 子
そ う して,日 本 語 や英 語 ・中 国語 とい う個 別 言 語 の 枠 内 に お い て は,言 語 形
式 と言 語 内 容 との 関係 は 固 定 的 に な り,恣 意 性 を 失 う。 固 有 名 彙 の 面 白 さの 一 つ は,言 語 の 恣 意 性 が 個 別 言 語 に お い て も貫 か れ て い る とい う とこ ろ に あ る だ ろ う。 生 まれ た ば か りの 女 の 子 に 「小 百 合 」 と名付 け て も,「 百 恵 」 と名 付 けて も, 「瑠 璃 子 」 と名 付 け て もか まわ な い 。 ま た,こ れ らの 女 の 子 が ど の よ う な顔 形 を して い る か につ い て は 固 有 名 彙 は何 らの保 証 も与 え な い の で あ る。 恣 意性 と は,言
い換 え る と言 語 と して の 自由 さ で あ る 。 固 有 名 彙 は言 語 の 自 由 さが気 が
ね な しに思 い 切 り楽 しめ る語 彙 な の で あ る。
2.名 付 け と所 属 関係― 『吾 輩 は 猫 で あ る』の 猫 は なぜ 名 無 しの 猫 な のか?― (1) 名 無 しの 猫 とい う設 定 の特 殊 性 日本 近 代 文 学 の 傑 作 の 一 つ,夏 年 1月 ∼ 明 治39年
目漱 石 の 処 女 作 『吾 輩 は 猫 で あ る 』(明 治38
8月,1905∼1906)の
冒頭 は次 の よ う に 始 め られ て い る 。
吾 輩 は 猫 で あ る。 名前 は まだ 無 い 。(一) 「ま だ 無 い 。」 と述 べ て い る の で,「 吾 輩 」 は,い ず れ 名 前 が 付 け られ る だ ろ う と思 っ て い る こ と が わ か る 。 す べ て の 飼 い 猫 に は,「 タマ 」 とか 「ミー 」 と か 「ミケ 」 とか と い う猫 ら しい 名 前 が つ け られ る の が 普 通 で あ るか ら,「 吾 輩 」 が 上 記 の よ うに 思 考 す る の は 極 め て 当 然 と い う こ と に な る。 事 実,こ
の小説 に
登 場 す る 猫 は み な名 前 を持 っ て い る 。 筋 向 こ う の 雌 猫 は 「白」,車 屋 に 買 わ れ て い る 乱 暴 猫 は 「黒 」,二 絃 琴 の 師 匠 の とこ ろ の 美 猫 は 「三 毛(子)]と
い う具
合 で あ る 。 しか る に,「 吾 輩 」 は こ の作 品 の 最 後 に至 っ て も名 無 し の猫 の ま ま で あ る。 「吾 輩 」 の 期 待 は 裏 切 られ た こ と に な る。 漱 石 は な ぜ,こ
の よ う な裏
切 り行 為 を して,「 吾 輩 」 を 名無 しの 猫 に と どめ て ま っ た の で あ ろ うか? 漱 石 は企 み 多 き作 家 で あ る か ら,極 め て 不 自然 な 名 無 しの 猫 とい う設 定 に は この 作 品 を読 み 解 くた め の 鍵 の一 つ が 潜 ませ られ て い る の で は な い か と思 っ て よい だ ろ う。 「吾 輩 」 の 飼 い 主 は 「珍 野 苦 沙 弥 」 先 生 で あ る 。 彼 は す こ ぶ る 無 精 で あ る 。 そ の こ と は 十 章 の 冒頭 部 を読 め ば わ か る。
「あ な た 」,も う七 時 で す よ」 と襖 越 しに 細 君 が 声 を掛 け た。 主 人 は 眼 が さめ て居 る の だ か ,寝 て居 るの だ か ,向 ふ む き に なつ た ぎ り返 事 も しな い 。 返 事 を しな い の は此 男 の 癖 で あ る 。 是 非何 とか 口 を切 ら な けれ ば な ら な い 時 は う ん と云 ふ 。 此 うん も容 易 な 事 で は 出 て こ な い。 人 間 も返 事 が う る さ くな る位 無 精 に な る と,ど こ とな く趣 が あ る。(十) 猫 が 名 無 しの ま ま放 っ て置 か れ た の は,こ 結 果 と 一 応 は 考 え ら れ る。 だ が,そ
うい う飼 い主 の極 端 な 「無 精 」 の
れ だ け だ ろ うか?
この程 度の こ とな ら
「読 解 の 鍵 」 な ど と大 袈 裟 に 考 え る必 要 は な い 。
(2)「吾 輩 」 に は 名 前 が あ った !― 「野 良 」 とい う呼 び名― 「吾 輩 」 の ガ ー ル フ レ ン ドに 「二 絃 琴 の 御 師 匠 さ ん 」 の 主 人 を持 つ 「三 毛 (子)」 と い う美 猫 が い る 。 こ の 美 猫 は 「三 毛(子)」
と い う 名 を有 す る ば か り
か , 死 ん で 「猫 誉 信 女 」 とい う 戒 名 ま で 授 け ら れ て い る。 「吾 輩 」 とは 格 段 の 相 違 で,贅 沢 な猫 な の で あ るが,登
場 して ま もな く風 邪 を引 き,こ の 小 説 が 始
め ら れ て す ぐの二 章 で あ っけ な く死 ん で し ま う。 この 二 章 の 末 尾 に お い て,私 た ち は 「吾 輩 」 の 名 前 の 一 つ に接 す る こ とに な る。 「然 し猫 で も坊 さ ん の 御 経 を読 ん で も らつ た り,戒 名 こ し らへ て も らつ た の だ か ら心 残 り は あ る ま い 」 「さ う で 御 座 い ます と も,全
く果 報 者 で
御 座 い ます よ。 た だ慾 を云 ふ とあ の坊 さん の御 経 が あ ま り軽 少 だ つ た様 で 御 座 い ま す ね 」 「少 し短 か 過 ぎ た様 だつ た か ら,大 変御 早 う御 座 い ます ね と御 尋 ね を した ら,月 桂 寺 さ ん は,え き ま した,な
え 利 目 の あ る 所 を ち よ い とや つ て 置
に 猫 だ か らあ の 位 で 充 分 浄 土 へ 行 か れ ます と御 仰 あ つ た よ」
「あ ら まあ … … 然 しあ の 野 良 な ん か は … … 」 吾 輩 は 名 前 は な い と屡 ば 断 つ て 置 くの に,此 下 女 は 野 良 野 良 と吾 輩 を 呼 ぶ 。 失 敬 な 奴 だ 。(二) 「下 女 」 の 「御 三 」 は 「吾 輩 」 を 「野 良 」 と呼 ん で い る 。 だ か ら,「 吾 輩 」 に は 呼 び 名 が あ っ た こ と に な る 。 しか し,「 吾 輩 」 は 自分 の 名 前 と して 「野 良 」 を認 め る こ と をせ ず,作
品 の 最 後 ま で,名 無 しの 猫 で 通 して い る。 なぜ なの だ
ろ う か?
(3)独 立 した 猫 ・文 明 批 評 家 漱 石 の カ リ カチ ュ ア― 固 有 名 詞 に は所 属 関 係 を 明 示 す る機 能 が 内 含 さ れ て い る 。― 夏 目漱 石 の 弟 子 内 田 百 間 は 『贋 作 吾 輩 は 猫 で あ る 』(昭 和24年,1949)を 著 し,作 品 に お い て も漱 石 の 弟 子 で あ る こ と を 鮮 明 に して い る が,こ の 作 品 の 「吾 輩 」 に は 名 前 が あ る。 内 田 は 怪 力 と い うべ か 妖 力 と い うべ きか 作 者 の 特 権 に よ り,40年
ほ ど も前
に水 瓶 で 水 死 した 漱 石 の猫 「吾 輩 」 を蘇 生 させ て し ま う。 飼 い 主 「大 入 道 」 こ と 「五 沙 弥 」 は,友
人 「風 船 画 伯 」 の 「時 に 先 生 さん,
この 猫 は 何 と云 う名 前 で す か 」 と い う率 直 な 質 問 に,妻 で あ る 「お 神 さ ん」 を も前 に して 次 の よ う に答 え る 。 「名 前 は ま だ無 い 」 「そ り ゃ不 便 で す ね 」 「そ う だ わ,名
前 をつ け て や ら な くち ゃ。 今 ま で だ っ て 有 っ た ん で し ょ う
け れ ど,猫 に 聞 い て もわ か ら ない か ら,う ち で つ け る ん だ わ ね 」 「命 名 式 を致 し ま し ょ う」 「じゃ あ,つ
け て や ろ うか 。 ア ビ シニ ヤ 」
「変 な 名 前 だ わ 」 「何 だ か 聞 い た 様 な 名 前 で す ね」 名 前 な ん か ど うで もい い 。あ ん ま りい つ 迄 も下 ら な い事 ば か り云 うの で, つ くづ く退屈 したか ら,脊 伸 び を した ら大 き な 欠伸 が 出 た 。 「や,猫
が 欠 伸 を した ぜ 」 と大 入 道 が 云 っ た。(第 一)
内 田 の 『贋 作 … … 』 は か な りよ くで きた 贋 作 な の で あ る が,第 一 章 の 末 尾 に お い て,す
で に 贋 作 の 尻 尾 を 出 して し ま っ て い る 。 漱 石 の 猫,「 吾 輩 」 の 特 色
の 第 一 は 名 無 しで あ る こ と な の で あ る が,『 贋 作 … … 』 で は こ の肝 要 な特 色 を 簡 単 に放擲 して し ま って,命 名 して い る か らで あ る。あ え て勘 ぐ りを入 れ れ ば, 内 田 百聞 は,猫 が 名 無 しで あ る と い う小 説 の 仕 掛 け を仕 掛 け と して 認 識 して い な か っ た の で は な い か と思 わ れ る 。 彼 は 名 前 の 有 無 を便 利,不
便 とい う 日常 的
次 元 で しか 考 え て い な か っ た よ う だ 。 と こ ろ で,「 吾 輩 」 は 「御 三 」 が 使 用 す る 「野 良 」 と い う呼 び 名 を な ぜ 拒 否 した の で あ ろ うか 。 「野 良 」 は 「野 良 猫 」 か ら作 られ た略 称 で あ る 。 「野 良 猫 」 と は,「 飼 い 主 の な い 猫 。 野 原 な どに 捨 て られ た 猫 。 ど ら ね こ。」(広 辞 苑)の 輩 」 が 野 原 の 藪 に捨 て られ た こ と は 間 違 い な い が,捨 現 在 で は,立 派 に 中学 校 教 師,珍
こ とで あ る 。 「吾
て られ た ま まで は な い 。
野 苦 沙 弥 先 生 に飼 わ れ た,家
の あ る猫 な の で
あ る。 出 自 をや や 恥 じる 傾 向 の あ る 「吾 輩 」 は 断 じて 「野 良 猫 」 で は な い と主 張 した か っ た の で あ ろ う。 だ か ら 「野 良 猫 」 に 由 来 す る 「野 良 」 と い う呼 び 名 を許 す わ け に は い か な か っ た も の と推 測 さ れ る。 こ れ が 拒 否 の 理 由 の 一 つ で る。 そ れ に して も,名 付 け られ る 側 が 名 前 に異 議 を 申 し立 て,こ
れ を拒 否 す る こ
とは あ り うる こ とで は な い 。 こ の 点 に お い て も,『 吾 輩 は 猫 で あ る』 に お け る 名 無 しの 猫 とい う設 定 が特 殊 で あ る こ と は歴 然 と して い る。 漱 石 の孫 娘 の 婿,半
藤 一 利 著 『漱 石 先 生 が や って 来 た 』 に よれ ば,夏
目家 で
は 「吾 輩 」 を 「半 兵 衛 」 と呼 ん で い た と い う こ との よ う で あ る。 事 実 に 反 して まで,『 吾 輩 は 猫 で あ る』 に お い て,漱
石 が 「吾 輩 」 を 名 無 しの 猫 の ま ま に打
ち 置 い た 処 置 に は 深 い 理 由 が あ った と考 え るほ か な い。 漱 石 が 「吾 輩 」 を名 無 しの 猫 の ま ま に 放 置 した理 由 は さ ら に深 い と こ ろ に あ っ た。 下女 「御 三 」 は 「吾 輩 」 の真 の 飼 い主 で は な い。 そ うい う人 間 に は 名 付 け の 権 利 は な い。 「野 良 」 とい う 呼 び 名 を 内 田 の 猫 と 同 様 に 「下 ら な い 事 」 と して 受 け入 れ て し ま う と,「 吾 輩 」 は 「御 三 」 の もの とな りか ね な い 。 所 属 関 係 を 明 らか に す る点 に お い て も,「 吾 輩 」 は 「野 良 」 とい う呼 称 を 拒 否 す る ほ か な か っ た の で あ る。 これ が,「 吾 輩 」 が 「野 良 」 と い う呼 び名 を 拒 ん だ 真 の 理 由 な の で あ ろ う。 「吾 輩 」 が 認 め る で あ ろ う名 前 は 飼 い 主,苦
しい 境 涯 か らの 救
い 主,珍 野 苦 沙 弥 先 生 か らの もの 以 外 に は あ りえ ない の で あ る 。 名 付 け ・命 名 と い う行 為 は,単 に 名 を与 え る と い うこ とだ け を 意 味 す る の で は な い。 名 を授 け る とい う こ と は,食
を保 証 し,寝 場 所 を 保 証 し,行 動 圏 を保
証 す る こ と,一 言 で い え ば,生 存 権 を保 証 す る と い う こ と を意 味 す る 。
五 沙 弥 先 生 が そ の 妻 と友 人風 船 画 伯 との 前 で 行 っ た 命 名 式 は,野 良 猫 に 「ア ビ シ ニ ア」 と い う名 前 の 標 識 を付 け,「 ア ビ シ ニ ア」 とい う言 語 形 式 と迷 い 込 ん だ猫 とい う言 語 内 容 と を私 的 に 結 合 さ せ,新
しい 固 有 名 彙 を 生 成 す る と同 時
に,野 良 猫 を家 猫 ・飼 い 猫 に昇 格 させ る 行 為 で もあ っ た 。 こ の 命 名 式 に よ り, この 猫 は 生 存 権 が保 証 され,五
沙 弥 家 に所 属 す る こ とに な った の で あ る 。
こ の よ う な わ け で,固 有 名 彙 に は所 属 関 係 を 明 示 す る とい う機 能 が 内 含 され て い る 。 と こ ろ が,珍 野 苦 沙 弥 先 生 は,こ の 命 名 とい う行 為 を 最 後 ま で して い な い 。 い や,作
者 夏 目漱 石 が そ う い う 設 定 を選 び取 っ て い る。 これ は,「 吾 輩 」
で あ る 猫 を珍 野 苦 沙 弥 に所 属 しな い,自 由 の 独 立 体 と して,漱 石 が ふ る まわ せ た か か っ た らで は な い だ ろ うか?
自 由 の 独 立 体 で な け れ ば,「 太 平 の 逸 民 」
た ち の 呑 気 さ と哀 しさ と を 突 き放 して描 破 す る傑 作 は 成 立 しな か っ た。 名 無 し と い う こ と は何 者 に も所 属 しな い と い う独 立 体 を 象 徴 し,一 個 の 文 明 批 評 家 と して の 自負 を 表 す と 同時 に,哀
しさ と 寂 し さ との 表 明 で あ っ た こ と に な る 。 名
無 しの 猫 「吾 輩 」 は 文 明 批 評 家 漱 石 の カ リカ チ ュ ア で もあ った の だ 。 夏 目漱 石 は 生 まれ て 間 もな く里 子 に 出 され て い る。 一 種 の捨 て 子 の 身 とな っ た とい って よい 。 夜 店 の 一 隅 に 置 か れ た 籠 の 中 で 寝 て い た赤 子 を見 て,哀 れ を 感 じた 兄 弟 の 願 い に よ り,幼 い 漱 石 は 親 元 に引 き取 ら れ て い る 。 と こ ろ が,兄 弟 が 多 か っ た 夏 目家 で は,父 親 母 親 晩 年 の 子,い
わ ゆ る 「恥 か き っ子 」 の 漱 石
を もて あ ま し,今 度 は本 格 的 に 養 子 と して 他 家 に 入 籍 させ て し ま う。 生 存 権 の 不 安,所
属 関係 の 流 動 性 を 漱 石 は 幼 児 に 体 験 して い る。 こ の体 験 が 潜 在 し 『吾
輩 は 猫 で あ る 』 の 猫 と して発 現 した と い うの は 読 み 過 ぎで あ ろ うか。
3.固 有 名 彙 の 意 味 属 性 に よ る体 系 こ れ まで 述 べ て 来 た よ うに,固 有 名 彙 とそ れ が 表 す 事 物 との 関 係 は恣 意 的 な もの で,体 系 的 な も の で は な い が,事 物 の 側 を基 準 にす れ ば,体 系 的 な もの と して 把 握 す る こ とは 可 能 で あ る 。 次 に 「NTTコ
ミュ ニ ケ ー シ ョ ン科 学 研 究 所 」
が監 修 した 『日本 語 語 彙 大系 1 意 味 体 系 』 所 収 の,ペ
ッ ト名 に 関 係 す る 部 分
を参 考 と して 示 して お く。 所 収 の,ペ
ッ ト名 に 関係 す る 部 分 を参 考 に 示 して お く。
繰 り返 す こ とに な るが,こ
こ に 示 され た体 系 は 「固 有 名 詞」 と い う言 語 の 側
か ら見 た 体 系 で は な い 。 そ れ らが 表 す 事 物 の側 に 認 め られ る体 系 で あ る。 した が っ て,こ の 体 系 に は 作 る側 の 恣 意 が 働 くの で 絶 対 的 な体 系 で は な い 。
4.人 名 表 記 の 多 様 性 第 一 節 の 末 尾 に お い て,「 固 有 名 彙 は 言 語 の 自由 さが 気 が ね な しに 思 い 切 り 楽 しめ る 語 彙 」 と述 べ た が,こ
の 自 由 さ を思 い 切 り楽 しん で い る 言 語 の 第 一 は
日本 語 で あ る と思 わ れ る 。 恣 意性 は 表 記 の 多様 性 とい う形 を と っ て現 れ る。 ま ず,「 姓 」 の 表 記 の 多 様 性 を例 示 す る。
アイ カワ 鮎河 鮎 川 会 川 合川 四十川 相川 藍 川 アイザ ワ 鮎沢 会 澤 合澤 四十沢 相 沢 相澤 藍沢 藍澤 會澤 アイバ 愛場 饗 場 饗庭 合場 合葉 餐場 相 羽 相場 相庭 相 馬 相葉 藍葉 カ トウ 加 登 加 東 加藤 加 頭 嘉藤 河 東 香東 サ イ トウ 妻 藤 斎藤 西塔 西 東 西藤 西 頭 斉藤 齋 藤 齊 藤 ヨシカワ 義 川 吉 河 吉川 好川 斉 川 芳川 由川 良河 良川 葭川
「四 十 川 」 「四 十 沢 」 に 至 っ て は,「 四 十 」 で なぜ 「ア イ」 と読 む の か さ え わ
か ら な い 。 次 に,「 名 」 の 表 言己の 多 様 性 を 示 す 。
アキオ
アキ オ 堯 夫 暁 生 暁男 暁 夫 暁 雄 暁郎 啓 夫 顕 生 顕男 顕夫 顕雄 晃 夫 晃生 晃夫 晃雄 秋男 秋 夫 秋 雄 秋郎 彰生 彰男 彰夫 彰 雄 彰朗 彰 郎 昭生 昭男 昭夫 昭勇 昭雄 昭郎 晶夫 晶雄 祥生 章生 章 男 章 夫 章勇 章雄 章郎 詔雄 聡 雄 彬夫 明央 明生 明男 明夫 明雄 明郎 陽 夫 亮夫 廉 夫 朗生 朗 男 朗 雄 晧 夫 曉夫 璋夫 韶 夫
ヨ シ オ
よしお ヨシオ ヨシヲ 愛雄 佳男 佳夫 佳雄 嘉 生 嘉 男 嘉夫 嘉甫 嘉勇 嘉雄 賀 生 賀男 賀 夫 賀雄 快 男 凱男 凱夫 凱雄 完夫 喜生 喜男 喜夫 喜雄 儀 夫 儀 雄 義翁 義生 義男 義尾 義 夫 義雄 吉 男 吉夫 吉勇 吉雄 欣男 欽男 圭男 圭郎 慶男 慶夫 慶雄 慶朗 元 雄 侯雄 好男 好夫 好雄 孔 男 四男 至 男 至雄 叔男 淑 男 祥 夫 世 志 男 精 男 宣 生 詮 雄 善男 善夫 善 雄 善朗 善郎 能男 能夫 美夫 美雄 美郎 彬 男 斌 男 福 郎 芳生 芳男 芳尾 芳夫 芳 雄 芳朗 由男 由尾 由夫 由雄 由朗 由郎 与 四男 与 四雄 与士夫 与志 男 与志 夫 与志 雄 誉志夫 誉夫 良生 良男 良夫 良穂 良雄 良郎 倍男 禧夫 譽志 雄
ノ リコ
の りこ の り子 ノ リ コ ノ リ子 紀 子 規 子 記 子 儀 子
矩子 憲子 師子 至子 詞子 祝 子 詔子 乗子 詮 子 則 子 程子 典子 徳子 弐子 乃 り子 乃梨子 乃 理子 乃里 子 納里子 能利 子 能理 子 能里子 伯 子 範子 法子 ミチ コ
み ち こ み ち子 ミ チ コ ミチ 子 見 知 子 己 知 子 己 智 子
庚子 三千子 三知子 三智子 視 千子 実千 子 実知子 実 智子 身知子 通 子 途子 導子 道子 美治子 美千子 美 地子 美智子 美稚 子 末知子 未知子 巳知子 猷子 融子 倫子 路 子 廸子 彭 子 迪 子 逵子 満 子
こ れ ら を観 察 す る と姓 名 を表 す 表 記 に は な ん で もあ り と い う 感 を 禁 じ得 な い 。 こ と ほ ど さ よ うに 日本 人 の 姓 名 の 表 記 は 多 様 で あ る 。 こ の 多 様 さ を生 み 出 す もの は,固 有 名 彙 の 恣 意 性 に あ るだ ろ う。 姓 で い え ば,「 鴨 脚 」 で 「い ち ょ う」(銀 杏 ・公 孫 樹),「 一 口」 で 「い もあ ら い 」 な どの 難 訓 姓,名
で い え ば,「 羽 一 音 」 で 「ハ イ ネ」,「六 月 介 」 で 「ジ ュ
ンす け 」 な ど親 や 本 人 以 外 に は 読 め そ う に な い 表 記 は珍 しい こ とで は な い 。 こ れ らは 恣 意 性 の極 と い っ て よ い だ ろ う。 日本 の 戸 籍 法 で は,人 名 漢 字 な ど,姓 名 に 使 用 す る文 字 に 関 して は規 定 が あ り,規 制 され るが,許
さ れ た 文 字 を使 用
して い れ ば,そ れ ら を ど う読 む か は 自由 なの で あ る 。 法 的 に も,自 由 さ は保 証 さ れ て い るの で あ る 。
■ 発展 問題 (1) 太 陽や 月 は固体 と して唯 一 の もの であ るに も関 わ らず 普通 名詞 と され,鈴 木 道子 や中 野良 夫は 同姓 同 名の 人を考 え る と固体 と しては 複数 あ るに もか か わ ら ず 「固有 名詞」 と され る のは なぜ か? (2) 夏 目漱石 の 『吾輩 は猫 で あ る』 に登場 す る猫 の名 及び登 場 人物 名 と内 田百 間 の 『 贋作 吾 輩 は猫 であ る』 に登場 す る猫 ・犬の 名及 び登場 人物 名 を比 較 しなさ い。 『 吾 輩 は猫 であ る』
『贋作 吾 輩 は猫 であ る』
語 り手 の猫 名 無 し(一)
ア ビシニ ア(第 一)
登場 猫①
三 毛(子)(一)
鍋 島老(第 六)
登場 猫②
白(一)
黒(第 六)
登場 猫③
黒(一)
副総 裁(第 六)
登場 猫④
長唄 師匠(の 銀猫)(第 六)
登場 猫⑤
宮 様 の分 家(の 花魁 猫)(第 六)
登場 猫⑥
校 長(の 波斯猫)(第 六)
登場 猫⑦
小 判 堂(の 若猫)(第 六)
登場 犬①
出臼(第 六)
登場 犬②
柄楠(第 六)
登場犬③
魔 雛(第 六)
主人
珍 野苦 沙弥
大 入道 こ と五 沙 弥(第 一)
友 人①
美学 者迷亭(一)
風船 画伯(第 一)
友 人②
理 学士 水 島寒 月(二)
疎影 堂 (第三)
友 人③
越 智東 風(二)
友人④
天然居 士曾 呂崎 (三)
友人⑤
八 木独 仙(九)
蒙西(第 三) 出 田羅 迷(第 三) 佐 原 満 照(第 三)
友人⑥
鰐 果 蘭哉(第 四)
友 人⑦
狗 爵舎 (第七 )
友 人⑧
行 兵衛(第 七)
友 人⑨
飛騨 里風 呂(第 七)
友 人⑩
馬溲 検 校(第 七)
友 人⑪
曇 風居 士(第 十)
そ の他
会社 員鈴 木 藤 十郎(四)
鰐 果蘭哉 の母(第 一)
六井 物 産役員 多 々良 三平(五)
岡山の知 人の作 久(第 二)
天道 公平 こ と立町 老梅(九)
蛆 田 百 減(第 四)
姪 の雪江(十)
兼子 金 十郎(第 五)
中学二年生の古井武右衛 門(十)
先輩 の句 寒(第 七) 未然 和 尚(第 九)
妻 の細 君(一)
妻 のお神 さん(第 一)
娘(長 女)の とん子(五)
娘(次 女)の すん子(五) 娘(三 女〉 の坊 ば(十) 下 女 の御三(一) *( ) は 章 を 表 す 。
(3)次 の 三 つ の 国 際 問 題 か ら,固 有 名 彙 と所 属 関 係 につ い て 論 じな さ い 。
A 「魚 釣 島 」(日 本 名)と
平 成16(2004)年
「釣 魚 島 」 問 題(中
3月24日,中
魚 釣 島 に上 陸 し た 。 日 本 側 は,沖 違 反(不
法 入 国)の
尖 閣 諸 島 は,八
華 人 民 共 和 国 名)
国 人 の 活 動 家 7人 が 尖 閣 諸 島 最 大 の 島, 縄 県 警 察 を 派 遣 し,7 人 を 出 入 国 管 理 法
疑 い で 現 行 犯 逮 捕 し,中 国 側 は こ れ に 抗 議 して い る 。 重 山 群 島 の 北 北 西 約150キ
190キ ロ メ ー トル,中
国 本 土 の 東 約350キ
治29(1896)年
3月 の 勅 令 第13号
で あ っ た が,太
平 洋 戦 争 後,昭
っ た 。 昭 和47(1972)年,沖
ロ メ ー トル,台
湾の北東約
ロ メ ー トル の と こ ろ に あ る 。 明
に よ っ て,日
和20(1945)年
本 領土 に編 入 され た もの ア メ リカの 占領 下 には い
縄 が 本 土 復 帰 す る と 同 時 に,魚
釣 島 も返 還
され た 。 一 方,昭
和43(1968)年
以 後,ECAFEな
ど各 種 調 査 団 の 資 源 調
査 に よ り,こ の 付 近 の 海 底 に 豊 富 な 石 油 資 源 や 天 然 ガス が 埋 蔵 さ れ て い る と 推 定 さ れ,昭
和45(1970)年
以 後,台
湾 政 府,中
華 人 民 共和 国 が領 有
権 を 主 張 して い る 。 B 「 竹 島」(日 本 名)と 隠 岐 島 の 北 西 約86カ
「 独 島 」(韓 国 名)問
題
イ リ に あ る 日本 海 の 小 島 で,韓
近 い 。 明 治38(1905)年
2月22日
入 さ れ た 。 昭 和27(1952)年
国 の鬱 陵 島 か ら も
の 島 根 県 告 示 に よ り,日 本 の 領 土 に編
1月,韓
国 は いわ ゆ る李 承 晩 ライ ンを宣 言
し独 島 の 領 有 権 を 主 張 して い る。 C 「日 本 海 」(日 本)と
「東 海 」(韓 国)問
国 際 水 路 機 関(IHO)が
題
平 成15(2003)年
改 定 予 定 の 海 図 「大 洋 と 海
の 境 界 」 の 最 終 稿 か ら 「日 本 海 」 を 載 せ た ペ ー ジ を 削 除 し,平 (2002)年
8月,加
盟72力
「東 海(East Sea)」
国 に,「 日 本 海(Sea of Japan)」
と す べ き か,
とす べ きか を問 う書 簡 を 配 布 し た 。 韓 国 側 は,歴
に は 「東 海 」 「東 洋 海 」 「朝 鮮 海 」 の 呼 称 が 古 く,昭 和 4(1929)年 の 会 合 当 時 は,日
成14
本 の植 民 地 で あ っ た た め,異
史的
のIHO
議 を唱 える こ とがで きなか
った と主 張 し,日 本 側 は,「 日本 海 」 の 名 称 は 鎖 国 時 代 の18世
紀 か ら国 際
的 に 定 着 して い る と主 張 して い る。
(4)難 訓 姓 難 訓 名 と考 え られ る もの を 探 して み よ う。
(5) 「 孝 子(た
か し)」 「嘉 子(よ
した ね)」 「 慶 美(よ
しみ)」 な ど,漢
字表 記 だけ
で は 女 性 と思 わ れ が ち な 名 前 が あ る。 こ れ は な に を 意 味 す る と 考 え られ る か?
(6)次 の 人 物 が 生 涯 に 用 い た 名 の 一 覧 表 を 観 察 し,名 前 に つ い て の 意 識 や 名 付 け 方,名
乗 り方 が ど の よ う に 変 化 した に つ い て 考 え て み よ う。
a 天 智 天 皇(626∼671)
葛 城 皇 子 ・中 大 兄 皇 子 ・天 智 天 皇 ・
天命 開別尊 b 空 海(774∼835
幼 名 真 魚 ・空 海 ・弘 注 大 師
c 藤 原 定 家(1162∼1241)
光 季 ・季 光 ・定 家 ・法 名 明 静
d 豊 臣 秀 吉(1537∼1598)
幼 名 猿 ・ 日 吉 丸,名
乗 木 下 藤 吉 郎 秀 吉,羽
秀 吉,藤 原秀 吉,豊 臣秀吉
柴
う。
e 本 居 宣 長(1730∼1801)
幼 名 小 津 富 之 助 ・通 称 弥 四 郎 ・名 栄 貞 ・名
栄 貞 ・通称 本居健 蔵 ・名宣 長 ・号 春 庵(蕣 f 正 岡 子 規(1867∼1902)
幼名 升
g 樋 ロ ー 葉(1872∼1896)
本 名 樋 口 奈 津,号
h 川 端 康 成(1899∼1972)
本 名川 端康 成
一葉
(7) 出 生 時 に付 け ら れ た 名 で 一 生 通 す こ とが 原 則 で あ る と 明 治 4(1871)年 告 され た 戸 籍 法 で 定 め ら れ て 以 来,今
庵)
・本 名 常 規 ・号 子 規
に布
日 ま で 日本 で は こ の 原 則 が 生 き続 け て い
る 。 文 学 作 品 の 世 界 で も こ の 原 則 が 適 用 さ れ る の が 常 な の で あ る が,同 人 物 の 名 を次 々 と 変 転 させ て し ま う と い う規 則 破 りの 趣 向(固
一登場
有 名 彙変 転 の レ
ト リ ッ ク)を 持 ち 込 み,読 者 を 混 乱 させ る 作 品 が 筒 井 康 隆 の 『夢 の 木 坂 分 岐 点 』 で あ る。 変 転 の 様 子 を 観 察 し,人 物 名 変 転 の レ トリ ッ クが 作 品 の 主 題 と ど の よ う に 関 係 す るか に つ い て 考 え て み よ う。
主 人公 小畑 重則 → 大畑 重則 →大畑 重 昭→大 村常 昭→大 村重 昭 →松 村常 賢 妻
加津 子→ 志津 子 →奈 津江 →加 津江
長女
真 由美→ 真佐 美 →真 佐子→ 芙佐 子→ 芙 由子→真 由子
(8) 子 ど もへ の 名 付 け 方 に つ い て,日
本 と外 国 と を 比 較 し異 同 を ま と め て み よ
■ 参考文献 1) 亀井
孝 ・河 野 六 郎 ・千 野 栄 一編 『 言 語 学大 辞 典 6 術 語 編 』(三 省 堂,1996)
2) 小 池 清 治 ・小 林 賢次 ・細 川 英 雄 ・犬 飼 隆 編 『日本 語 学 キー ワー ド事 典 』(朝 倉 書 店, 1997) 3) NTTコ
ミュ ニ ケ ー シ ョ ン科 学研 究 所 監 修 池 原悟 他 編 集 『日本 語語 彙 大 系 1 意味体系』
(岩波 書 店,1997) 4) 池上 嘉 彦 『 意 味 論 』(大 修 館 書 店,1975) 5) 鏡 見 明 克 「固有 名 詞」(『講 座 日本語 1』 明 治 書院,1982) 6) 鏡見明克 「 名 称学 と命 名 論 」(「日本 語 学」10巻 1号,1991) 7) 木下 守 「 持 続 と邂逅― 森〓 外 と史伝 形 式」(「国語 と国文 学」181 巻 2号,東 京 大 学 国 語 国 文学 会,2004) 8) 寿 岳 章 子 『日本 人 の名 前 』(大 修 館 書 店,1979)
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11) 夏 目 漱 石
『吾 輩 は 猫 で あ る 』(漱 石 全 集 1,岩 波 書 店,1993)
12) 内 田 百〓
『贋 作 吾 輩 は 猫 で あ る 』(内 田 百〓 集 成 8,ち
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『漱 石 先 生 が や っ て 来 た 』(人 物 文 庫,学
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,講
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摩 書 房 ,2003)
陽 書 房,2000)
業 之 日 本 社,2004)
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潮 社,1987)
『人 名 の 世 界 地 図 』(文 春 文 庫154,文
20) 松 本 脩 作 ・大 岩 川嫩 編
藝 春 秋,2001)
『第 三 世 界 の 姓 名 』(明 石 書 店,1944)
1
第 5章 「薫 」は男 か? 女か? 【意 味 属 性 ・人称 代 名 彙 】
キ ー ワ ー ド :人 称 代 名 詞,人 リ ッ ク,人
称 代 名 彙,時
枝 文 法,意
称 代 名 彙 の 匿 名 性,三
味 属 性,人
物 呼 称不 転換 の レ ト
人 称 人 称 代 名 彙 の 誕 生,人
称代 名彙 の
体 系 性 と文 法 性
1.人 称代 名 彙 とは な に か?― 川 端 康 成作 『伊 豆 の踊 子 』 等 を 例 と して― 日本 語 で は,「 カ オ ル,カ
ズ ミ,ヒ フ ミ,ヒ ロ ミ」 な ど男 女 共 用 の 名 前 が 数
多 くあ り,名 前 だ け で は性 別 が わか らな い こ とが あ る。 た と え ば,川 端 康 成 作 『伊 豆 の 踊 子 』 の ヒ ロ イ ンの 「踊 子 」 「薫 」 は 女 で あ り,『 源 氏 物 語 』 「宇 治 十 帖 」 の 主 人 公 「 薫 大 将 」 は男 とい っ た 具 合 で あ る。 筆 者 は,学 年 始 め に 源 氏 物 語 の 概 説 を行 うの を恒 例 と して い る が,近 の あ と,学 生 か ら 「先 生,薫
年講義
とい うの は男 で す か? そ れ と も女 で す か?」
と
い う質 問 を受 け る よ う に な っ た 。最 初 の 内 は,呆 れ て 答 え る 気 に もな れ な か っ た の だ が,学 力 低 下 が 叫 ば れ て 久 し くな った 昨 今 で は 諦 め て,「 男 です よ。」 と 丁 寧 に 教 え る こ とに して い る。 と こ ろ で,日 本 語 で は,「 薫 」 が 男 で あ る の か , 女 で あ る の か は 知 識 の 問 題 で 終 わ る の だ が,英
語 で は そ れ で は 済 ま な い 。 男 か 女 か が は っ き り し な い と,
言 語 と して 表 現 す る こ とが で きな くな る か ら で あ る 。 なぜ な ら ば,人 物 を 登 場 させ る 場 合,固
有 名 詞 で 紹 介 した後,次
は代 名 詞 で そ れ を表 現 す る の が 英 語 の
文 章 表 現 の 規 則 だ か らで あ る 。ま た,英 語 の 人 称 代 名 詞 に は 男 女 の 区 別 が あ る。 したが って,男
か 女 か が は っ き り して い ない と,代 名 詞 が 使 用 で きな い 。 使 用
す べ き代 名 詞 が わ か ら な くて は,セ
ンテ ンス を生 成 す る こ と は 不 可 能 とい う こ
と に な る。 こ の こ と を川 端 康 成 作 Seidensticker)に
『伊 豆 の 踊 子 』 と サ イ デ ン ス テ ィ ッ カ ー(E.
よ る英 訳 『The Izu Dancer』(「Atlantic Monthly」No.1,1955)
と を比 較 す る こ と に よ り,確
認 してみ よ う。
川 端 『伊 豆 の 踊 子 』 そ れ か ら,自 分 が 栄 吉,女
房 が 千 代 子,妹
が 薫 とい ふ こ とな ぞ を 教 へ
て くれ た 。 も う一 人 の 百 合 子 と い ふ 娘 だ けが 大 島 生 れ で 雇 ひだ との こ とだ つ た 。 栄 吉 は ひ ど く感 傷 的 に なつ て泣 き出 し さ う な顔 を し なが ら河 瀬 を見 つ め て ゐ た。 4
引 き返 して 来 る と,白 粉 を 洗 ひ落 と した 踊 子 が路 ば た に うづ くまつ て 犬 の頭 を撫で てゐた。 サ イデ ンス テ ィ ッカ ー
He
said
sister,
was
sixteen,
own
name
Kaoru.
The
and
became he
his
very
was
『The
about
the
only
Izu
was
Dancer』
Eikichi,
other one
sentimeta1.
girl,
among
He
his
Yuriko, them
gazed
wife
down
was was
Chiyok0, a
who
really
at the
river,
sort
the of maid.
from and
dancer, She
Oshima. for a time
his was
Eikichi I thought
to weep. 4
On She
the had
way washed
back, away
just her
off the
road
we
saw
the
little dancer
petting
a dog.
make-up.
川 端 は 踊 子 の 本 名 が わ か っ た 後 に も,彼 女 を 「踊 子 」 と呼 称 し続 け て い る。 こ れ は不 思 議 な こ とで,日 本 語 の 表 現 作 法 に 反 した 行 為 で あ る 。 日本 語 で は, 普 通,本 名 が わ か った 後 は,本 名 また は代 名 詞 で 表 現 す るの が 普 通 な の で あ る。 実 際,「 千 代 子 」 「百 合 子 」 につ い て は,そ の よ う に扱 っ て い る。 と こ ろが,川 端 は 「薫 」 に か ぎ って この 扱 い をせ ず,作
品 の 最 後 に 至 る ま で 「踊 子 」 とい う
普 通 名 詞 に よ る呼 称 で 通 して い る 。 ま た,「 彼 女 」 と い う極 め て 小 説 的 な 呼 称 も採 用 して い な い。 こ こに は,作 者 の 強 い 意 思 が 感 じら れ る。 川 端 は,「 踊 子 」 と呼 称 し続 け る こ とに よ り,学 生 で あ る 「私 」 の 内 な る幻 影 と し て の,乙 女 と して の 「踊 子 」 を存 在 させ 続 け た か っ た の だ。 彼 女 を 「薫 」
と して しま う と,彼 女 は 栄 吉 一 家 の 中 に呼 び戻 され,平
凡 な 日常 の 中 に位 置 付
け られ て し ま い,「 私 」 と 「踊 子 」 との 甘 美 な 私 的 関 係 が 破 壊 され て し ま う と 川 端 は 危 惧 した の で は な か ろ う か。 川 端 は,こ
の 作 品 に 『伊 豆 の踊 子 』 とい う タイ トル を 冠 し た時 か ら,「 踊 子 」
で 通 す と覚 悟 して い た もの と推 測 され る。 途 中 か ら,「 薫 」 と して しま って は, 作 品 の 主 題 が 貫 徹 で き な い と考 え た か らで あ ろ う。 川 端 が 『伊 豆 の 踊 子 』 で 「踊 子 」 「薫 」 に対 して 採 用 した 方 法 を 人 物 呼 称 不 転 換 の レ トリ ッ ク と称 す る こ と にす る。 一 方,サ
イ デ ンス テ ィ ッ カ ー は 「妹 」 と紹 介 され て,女
で あ る こ とが 明 白 な
「薫 」 に 対 して,た め ら う こ とな く,「She, her」 とい う女 性 用 人 称 代 名 詞 を使 用 して い る。 サ イ デ ンズ デ ィ ッカ ー が 「踊 子 」 と使 用 し続 け て い る この 作 品 の 異 常 さに 気 付 い て い た い な か っ た に 関 わ らず,英 語 に お け る 表 現 作 法 は 人 称 代 名 詞 の 使 用 を 強 制 す る。 訳 者 の 恣 意 は 許 さ れ な い の で あ る 。 そ う し て 「She, her」 の 使 用 は 定 動 詞 な ど他 の 文 法 要 素 の あ りよ う を規 制 す る こ と に な る。 英 語 に お い て は,人 称 代 名 詞 は文 法 的 用 語 な の で あ る が,日
本語 における人
称 代 名 詞 の 文 法 的 ふ る ま い は普 通 名 詞 と変 わ りが な い 。 こ の 点 で,前 た 「固 有 名 詞 」 と同 じ で あ る。 し た が っ て,本
節で述べ
書 の 扱 い に した が い,以
後,
「人 称 代 名 彙 」 とい う用 語 を用 い る こ と に す る。 た だ し,文 末 表 現 と呼 応 す る な ど の 文 法 的 側 面 が あ る こ と を断 って お く。 「人 称 代 名 彙 」 と は,い
わ ゆ る 「人 称 代 名 詞 」 が 日本 語 で は 基 本 的 に は 文 法
的 用 語 で は な く,語 彙 論 の 用 語 で あ る とい うこ と を 明示 的 に示 す た め に採 用 す る用 語 で あ る 。
2.人 称 代 名 彙 の 意 味 属 性 前 章 で 紹 介 した橋 本(進 吉)文 法 で は形 式 を重 視 す る の で,「 固 有 名 詞 」 を 一 品詞 と して独 立 させ な か っ た の と 同様 に ,「 人 称 代 名 詞 」 も一 品 詞 と して独 立 させ ず,名 る 時 枝(誠
詞 の 下位 区 分 と して い る。 これ に対 して,言
語 の 表 現 性 を重 視 す
記)文 法 で は,一 品 詞 と して独 立 させ て い る 。
時 枝 は,「 人 称 代 名 詞 」 の特 徴 を次 の よ うな もの と述 べ て い る。
・人 称 代 名 詞 は ,常 に言 語 主 体 即 ち 話 手 と事 物 との 関係 を表 現 す る場 合 に の み 用 ゐ られ る 語 で あ る とい ふ こ とで あ る 。(『日本 文 法 口 語 篇 』 第 二 章 語 論 三 詞 ハ 代 名 詞(一)) 時 枝 が 指 摘 して い る こ と を 明 らか にす る た め,前
節 に 習 っ て 言 語 形 式 と言 語
内 容 と の 関 係 を図 式 化 して み る。 人称代 名彙 言語 形 式[指 示]言
普通 名詞 言 語 形 式[指
示]言
語内 容
語内 容
商 人←→
商 業 を営 む 人 。
私←→
関 係の 認識(話 し手本 人)
人←→
人 類。 また,そ の
僕←→
同上
一 員 と しての 個 人
俺←→
同上
父 母の汎 称。
あな た←→
関係 の認 識(聞 き手)
子 を持つ 者。
君←→
同上
同 じ親 か ら生 ま
お まえ←→
同上
れ た年上 の男 。
彼←→
関係 の認 識(話 し手
。
親←→
兄←→
先 生←→
聞 き手 以外 の 第三者)
学校 の教 師。
彼女←→
同上
固 有 名 彙 の 場 合 と異 な り,人 称 代 名 彙 の 場 合 は,言 語 内 容 が 普 通 名 詞 と相 違 す る。普 通 名 詞 の 言 語 内 容 は,社 会 的 永 続 的 一 定 の概 念 を表 す 。 こ れ に 対 し て, 人 称 代 名 彙 の 言 語 内容 は,あ
る 言 語 場 に お け る話 し手 ・書 き手 の 私 的 臨 時 的 人
間 関 係 につ い て の 認 識 を 表 す 。 言 語 内容 が,話
し手 ・書 き手 の 個 人 の 私 的 臨 時 的 認 識 ・言 語 活 動 とい う点 で
固 有 名 彙 に似 て い るが,固
有 名 彙 の場 合 は,標 識 機 能 とい う と こ ろ に特 徴 が あ
り,意 味 特 性 の 点 で 普 通 名 詞 と異 な っ た の で あ る が,人 称 代 名 彙 の場 合 は,指 示 機 能 の 点 で は 普 通 名 詞 と等 しい 。 相 違 は言 語 内 容 に あ る の で,意
味属 性 の 点
で異 な って い る とい う こ とベ きで あ ろ う。
3.人 称 代 名 彙 の 匿 名 性(1)―
筒 井 康 隆 作 『ロ ー トレ ッ ク荘 事 件 』 の 場 合―
夏 目漱 石 作 『坊 っ ち ゃん 』 の 主 人 公 兼 語 り手 「坊 っ ち ゃ ん」 の 本 名 が どの よ う な もの で あ っ たか,読
者 は 永 遠 に 知 る こ とが で き な い。
彼 を親 愛 す る 「清 とい ふ 下 女 」 か らは 「坊 っ ち ゃん 」 とい う愛 称 や 「あ な た 」
とい う人 称 代 名 彙 で 呼 ばれ,同
僚 の 「山 嵐 」 た ち か らは 「君 」,校 長 の 「狸 」
や 教 頭 の 「赤 シ ャ ツ」 な どか らは 「あ な た 」 ま た は 「君 」 と呼 ば れ る 。 自 らは 「是 で も元 は旗 本 だ 。旗 本 の 元 は清 和 源 氏 で,多 田の 満 仲 の後裔 だ 。」 (四)と 素 性 は 名 乗 る の だが,だ
か ら と い っ て,「 坊 っ ち ゃん 」 の 姓 が 「多 田」
で あ る とす る こ とは で きな い 。 あ と は 自称 詞 の 「お れ 」 を 多 用 す る ば か りで, 一 向 に本 名 が わ か らな い の で あ る。 人 称 代 名 彙 が 有 す る指 示 機 能 の 特 殊 性 は,あ
る言 語 場 にお け る人 間 関係 つ い
て の 話 し手 ・書 き手 の 認 識 しか 表 さ な い とい う と こ ろ に あ る 。 固 有 名 彙 の場 合 は,私 的 臨 時 的 な 関 係 にせ よ,一 端 言 語 形 式 と言 語 内 容 と の 結 び 付 きが な され 標 識 機 能 が付 与 さ れ ば,後
は 言 語 形 式 は一 定 の 個 人 を指 示 す る よ う に な る の だ
が,人 称 代 名 彙 の 場 合,言 語 場 を 離 れ て社 会 的 永 続 的 に 一 定 の 個 人 を指 示 す る とい う機 能 は 決 して付 与 さ れ な い の で あ る。 こ う い う人 称 代 名 彙 の 特 殊 性 を 推 理 小 説 の ト リ ッ クに 用 い た の が 筒 井 康 隆 で あ っ た。 『ロ ー ト レ ッ ク荘 事 件 』 の 連 続 殺 人 犯 は 「浜 口 重 樹 」 なの で あ る が,彼
は八
歳 の 時 の 事 故 で下 半 身 の 成 長 が 止 ま る とい う悲 劇 の 主 人 公 で もあ っ た。 事 故 を 起 こ した の は 同年 齢 の従 兄 弟 の 「浜 口 修 」 で あ っ た 。 彼 らは 語 り手 と して 登 場 す る場 合,と
もに 自称 詞 「お れ 」 を使 用 す る。 ま た,友
人 「工 藤 忠 明」 も語
り手 と して登 場 す る 場 合 は 「お れ 」 を 使 用 す る 。 そ の た め,「 お れ 」 が 誰 を 指 示 す る の か 読 者 は 神 経 をす り減 らす こ とに な る。 作 者 は巧 み で あ り,第 十 六 章 「錯 」 の 末 尾 の 次 の 記 述 に 至 る ま で,「 浜 口 修 」 の 存 在 に気 付 か れ な い よ うに 叙 述 して い る。 ・お れ を見 つ め て い た全 員 が 声 に な らな い 息 を,あ 様 に,今
っ,と 呑 ん だ 。 彼 らは 一
ま で 何 か に覆 わ れ て い た 眼 が 本 来 の 視 力 を と り戻 した か の よ う な
表 情 を し た。 「嘘 だ 。 重 樹 が や っ た ん じ ゃ な い 」 浜 口 修 が 悲 痛 に そ う 叫 び,お れ を皆 か ら護 ろ う と す る か の よ う に 抱 き上 げ て,渡
辺 警 部 に な か ば背 を 向 け た 。
「た と え,重 樹 が や っ た ん だ と して も,そ れ は 重 樹 が や っ た ん じ ゃ な い 。 ぼ くが や っ た ん だ 」 (第
十 六 章 錯)
「全 員 」 ば か りか 読 者 の 「眼 」 を も 「覆 」 っ て い た の は,「 お れ 」 とい う 人 称 代 名 彙 で あ った 。 「浜 口 修 」 と い う 固 有 名 彙 は こ こ が 初 出 で あ る。 登 場 人 物 た ち に は 当 然 見 え て い た 人 物 な の で あ るが,「 お れ 」 の 影 に 隠 され て 読 者 の 目 に は全 く見 え なか っ た 人物 で あ る 。 筒 井 は 人 称 代 名 彙 の 匿 名 性 を推 理 小 説 の トリ ッ ク に使 用 した 最 初 の,そ
して
恐 ら く最 後 の 作 家 で あ ろ う。
4.人 称 代 名 彙 の 匿 名 性(2)―
夏 目漱 石 作 『明 暗』 な どの 場 合―
夏 目漱 石 が 職 業 作 家 と な っ て か らの 作 品 は全 て 新 聞 連 載 の 形 で 発 表 され て い る。 新 聞 連 載 の 小 説 の 場 合,雑
誌 発 表 の 作 品 や 単 行 本 書 き下 ろ しの 作 品 と は 異
な る 表現 技 術 を必 要 とす る。 一 回一 回 の 分 量 が 少 ない ため,読
者 の 興 味 を繋 ぎ
止 め る技 を特 に必 要 とす る の で あ る。 この た め,彼 は 種 々 の技 法 を 開 発 して い るが,人
称 代 名 彙 の 匿 名 性 を利 用 す る こ と もそ の 一 つ とな って い る 。
漱 石 最 後 の 作 品 『明 暗 』 が 開 始 さ れ て 間 もな くの 第 二 回 で,次 の よ う な主 人 公 津 田 の 自問 自答 が 読 者 に提 供 され る。 ・「何 う して彼の女
は 彼 所 へ 嫁 に行 つ たの だ ら う。 そ れ は 自分 で 行 か う と思
つ た か ら行 つ た の に 違 い な い 。 然 し何 う して も彼 所 へ 嫁 に 行 く筈 で は な か つ た の に 。 さ う して 此 己 は 又 何 う して彼の 女 と結 婚 した の だ ら う。 そ れ も己 が 貰 は う と思 つ た か ら こ そ結 婚 が 成 立 した に 違 い な い 。 然 し己 は 未 だ 嘗 て彼 の女
を 貰 は う と は 思 つ て ゐ な か つ た の に。 偶 然?
の所 謂 複 雑 の 極 致?
ポ ア ンカ レー
何 だ か 解 らな い 」(二 回)
読 者 は 上 の 内 言 に よ り,主 人 公 津 田 に は結 婚 して彼 の 妻 とな っ た 「彼 の 女 」 と 「彼 所 」 へ 嫁 に行 って し ま っ て 別 の 男 の 妻 と な っ て し まっ た 「彼 の 女 」 の 二 人 の女 が い る こ とが わ か る。 そ う して,こ
の二 人 の 女 につ い て の 津 田 の 疑 問
を共 有 す る こ と に な る。 こ の 小 説 の 主 題 は,最 初 の 「彼 の 女 」 に 関 す る 謎 に 深 く関 与 す る の だ が,読 者 は と に か く二 人 の 「彼 の 女 」 と は 誰 の こ とか と い う こ とが 気 に な り,先 を 読 み た い とい う 意 欲 が 刺 激 さ れ る こ と に な る 。 最 初 に 正 体 が 明 らか に な る の は,二
番 目の 「彼 の 女 」 の 方 で あ る 。 二 番 目
の 「彼 の 女 」,津 田 と結 婚 し,彼 の 妻 と な っ た 「彼 の 女 」 の 名 前 が 読 者 に知
らさ れ る の は 「六 回」 目で あ る。 した が っ て,連 載 が 始 ま っ て 一 週 間 以 内 とい う こ と に な る 。 作 家 は一 週 間 ほ ど読 者 の 気 を引 い た と い う こ と に な る。 ・「お い お 延 」 彼 はふ す ま ご襖 越 しに 細 君 の 名 を 呼 び な が ら、 す ぐ唐 紙 を 開 け て 茶 の 間 の 入 口 に 立 つ た 。(六 回) 「細 君 の 名 」 と親 切 に 述 べ て い るの で,読 と こ ろで,一
者 の 気 掛 か りの一 つ が 解 消 さ れ る 。
番 目の 「彼 の 女 」 の 本 名 が 紹 介 され る の は,「 百 三 十 七 回」 目 な
の で あ る。 一 週 7回,一
ヶ 月30回 で 計 算 して み る と,約 五 か 月 後 とい う こ と
に な る。 随 分 気 を もた せ た もの だ と感 心 す る ほ か な い。 ・「貴 方 は 其 後 清 子 さ ん に お 會 ひ に なつ て 」 「いゝ え 」 津 田 の 少 し吃 驚 した の は 、 たゞ 問 題 の 唐 突 な 許 で は な か つ た 。 不 意 に 自 分 を 振 り棄 て た 女 の 名 が 、 逃 が した 責 任 を半 分 脊 負 つ て ゐ る夫 人 の 口 か ら 急 に 洩 れ た か らで あ る。(百 三 十 七 回) 「清 子 」 が 一 番 目の 「彼 の 女 」 で あ る こ とは,「 自分 を振 り棄 て た 女 の 名 」 とい う表 現 に よ り保 証 され て い る 。 津 田 も び っ く りして い る が,読 者 もび っ く りす る。 五 か 月 も前 に 「彼 の 女 」 と紹 介 され た ま ま,う ち置 か れ た 女 の 名 前 が 唐 突 に 飛 び 出 した の で あ る。 『明 暗 』 は漱 石23作
目の作 品 で,最 後 の作 品 とな っ た もの で あ る。 職 業 作 家
と して の 経 験 を重 ね た 漱 石 は新 聞 連 載 小 説 の コ ツ を こ う い う形 で 示 して い る 。 「彼 女 」 は 人 称 代 名 彙 で あ るが,「 彼 の 女 」 は 「彼 の 」 と い う,い わ ゆ る指 示 詞 と 「女 」 とい う普 通 名 詞 とが 組 み 合 わ れ た もの な の で あ る が,全 体 と して は,「 彼 女 」 と 同 様 の 意 味 機 能 を 有 して い る と判 断 して よか ろ う。 な お,こ
こ
で な ぜ 漱 石 が 「彼 女 」 とい う人 称 代 名 彙 を使 用 し な か っ た の か とい う こ とに つ い て は後 述 す る。
5.レ ト リ ック と して の 人 物 呼 称 職 業 作 家 と して の処 女 作 『虞 美 人 草 』 に お い て も,固 有 名 彙 をサ ス ペ ンス を
生 み 出す もの の 一 つ と して活 用 して い る が,こ
れ ほ どの 引 き延 ば しは して い な
い。 『虞 美 人 草 』 は 二 人 の 男 た ち が 比 叡 山 に 登 る 場 面 か ら始 め ら れ る 。 一 人 は 「顔 も体 躯 も四 角 に 出 来 上 が つ た 男 」 「四 角 な男 」 と して 登 場 し,他
の一 人 は
「細 長 い 男 」 「痩 せ た男 」 と して紹 介 さ れ る 。 そ う して,二 人 の 名 前 は,そ
の回
の う ちに あ っ さ りと読 者 に 告 げ られ て い る。 ・「お い 、 君 、 甲野 さ ん」 と振 り返 る 。 甲野 さん は細 い 山 道 に 適 当 した 細 い 体 躯 を真 直 ぐに 立 て た儘 、 下 を 向 い て … … ( 一) ・「い つ の 間 に、 こん な に 高 く登 つ た ん だ ら う。 早 い もの だ な」 と宗 近 君 が 云 ふ 。 宗 近 君 は 四 角 な男 の 名 で あ る。(一) こ の程 度 の 引 き延 ば しで は,サ スペ ンス とい うの が 恥 ず か しい ほ どで あ る が, 「四 角 な 男 」 と は ?
「細 長 い 男 」 と は ? と い う謎 が 読 者 の 頭 に 浮 か ぶ こ と
は 確 か で あ ろ う。 経 験 を積 ん だ 漱 石 は 『三 四郎 』 にお い て,固 有 名 彙 を 出 し惜 しみ す る よ う に なってい る ・只 筋 向ふ に 坐 つ た 男 が 、 自分 の 席 に帰 る三 四郎 を一 寸 見 た 。(一) ・髭 を濃 く生 して ゐ る。面 長 の瘠 ぎす の 、 どこ とな く神 主 じみ た 男 で あ つ た 。 (一) ・三 四 郎 は様 子 を見 て ゐ る う ち に慥 か に 水 蜜 桃 だ と物 色 した 。(三) (三)の
「水 密 桃 」 は 「筋 向 ふ に 坐 つ た 男 」 「神 主 じみ た 男 」 と 同 一 人 物 で,
汽 車 の 中 で 「水 密 桃 」 を食 し た た め,こ 「あ だ名 」 と な っ て い る 。 さて,こ
う呼 称 され る 。 近 接 法 に よ る 一 種 の
の 人 物 の 固有 名 彙 は,次 の よ う に 明 らか に
され る。 ・青 木 堂 で 茶 を飲 ん で ゐ た 人 が 、 広 田 さ ん で あ る と云 ふ 事 を悟 つ た 。(四) ・話 題 は端 な く広 田先 生 の 上 に落 ち た 。 「君 の所 の 先 生 の 名 は 何 と 云 ふ の か 」 「名 は萇 」 と指 で 書 い て 見 せ て 、 「草 冠 が 余 計 だ 。 字 引 に あ る か し らん 。
妙 な 名 を 付 け た もの だ ね 」 と云 ふ 。(四) 「広 田 さん 」 こ と 「広 田萇 」 とい う固 有 名 彙 は 「四」 とい う,こ の 小 説 の 半 ば に 至 っ て,「 三 四 郎 」 に 認 知 さ れ,そ
れ と同 時 に 読 者 の 前 に提 供 さ れ る こ と
になる。 考 え て み る と,私 た ちが 人 を 知 る場 合,最
初 は,男
・女,学
生,出
席 者 の一
人 な ど,普 通 名 詞 の 形 で 出 会 い,関 係 が 深 ま っ て 固 有 名 彙 に 至 る。 漱 石 の 技 法 と い う よ り,こ の 人 間 関係 認 知 の ルー トを 彼 は な ぞ った だ け な の か も知 れ な い 。 し か し,小 説 世 界 は 日常 世 界 とは こ と な り,小 説 言 語 は 日常 言 語 と も 異 な る 。 実 際,固
有 名 彙 か ら小 説 が 始 ま る こ と も少 な くな い 。
・金 井 湛 君 は 哲 学 が 職 業 で あ る。(森 鴎外 『ヰ タ ・セ クス ア リス』) ・信 子 は 女 子 大 学 に ゐ た 時 か ら,才 媛 の 名 声 を担 つ て ゐ た 。(芥 川 龍 之 介 『秋 』) ・仙 吉 は 神 田 の或 秤 屋 の 店 に 奉 公 して 居 る 。(志 賀 直 哉 『小 僧 の 神 様 』) 当 の 漱 石 も 『門』 に お い て は,次 の よ うに 固 有 名彙 か らい きな り書 き始 め る こ と を して い る の で あ る。 ・宗 助 は 先 刻 か ら縁 側 へ 坐 蒲 団 を 持 ち 出 して ,日 当 りの 好 さ さ うな 所 へ 気 軽 に 胡 座 をか い て 見 た が,や が て 手 に 持 つ て ゐ る雑 誌 を 放 り出す と共 に,ご ろ りと横 に な つ た 。 小 説 言 語 は 自由 奔 放 で あ る か ら,日 常 生 活 の あ りよ うを忠 実 に な ぞ る 必 要 は な い。 そ れ に もか か わ らず,人
物 の 立 ち 現 れ 方 を 日常 生 活 で の そ れ に 従 う と い
う表 現 方 法 は選 び取 られ た 叙 述 法 とい う こ と に な る。 漱 石 は読 者 の 興 味 を引 くた め に,固 有 名 彙 の 出 し惜 しみ を 意 識 的 に使 用 して い た と判 断 さ れ る 。 次 の 『道 草 』 の 例 を 見 れ ば,こ の こ と は 一 層 確 か な もの と 思 わ れ る で あ ろ う。 ・す る と車 屋 の少 し さ きで 思 ひ 懸 け な い 人 に は た り と出 會 つ た。(一) ・け れ ど も彼 に は も う一 遍 此 男 の 眼 鼻 立 を確 め る必 要 が あ つ た。(一) ・彼 は此 長 い手紙 を書 い た女 と、 此帽子を被らをい男とを
一 所 に 並 べ て 考へ
る の が 大 嫌 ひ だ つ た。(二) 「思 ひ 懸 け な い 人 」 「此 男 」 「此 帽 子 を被 らな い 男 」 の 固有 名 彙 が 明 らか に な る の は,「 七 」 に な っ て か らで あ る 。 ・「此 間 島 田 に 會 つ た ん で す が ね 」(七) 「島 田」 と は 主 人 公 健 三 の か つ て の養 父 で あ る 。 養 父 と の 愉 快 と は 言 えぬ 関 係 を思 い 起 こ した くな い とい う健 三 の 心 理 が,固
有 名 彙 の 出 し渋 りに よ り表 さ
れ て い る の だ と読 み解 くこ と も可 能 で あ る。 ま た,「 此 長 い 手 紙 を書 い た 女 」 は養 母 な の で あ るが,そ
の 固有名彙 の登場
は さ らに 遅 れ る。 ・健 三 も細 君 も お常 の 書 い た 手 紙 の 傾 向 を よ く覚 えて ゐ た 。(四 十 五) 漱 石 は,人 物 呼 称 を方 法 化 し,一 種 の サ ス ペ ン ス を生 み 出 す もの と して 活 用 して い た と考 えて よ か ろ う。
6.三 人 称 人 称 代 名 彙 の 誕 生 4節 冒 頭 部 で 紹 介 した 主 人 公 津 田 の 内 言 で は 「彼 の 女 」 とい う表 現 が 使 用 され,「 彼 女 」 と い う 人 称 代 名 彙 は使 用 され て い な い 。 こ れ に は わ け が あ る。 「彼 女 」 と い う言 葉 は小 説 言 語 と して 誕 生 した ば か りで,小 用可 能 だ が,内
説 の地 の文で は使
言 に用 い る と不 自然 さ を伴 って しま うか らで あ る 。
こ の 辺 の 事 情 を 漱 石 の 作 品 群 に お け る 「彼 女 」 「彼 」 な どの 用 例 数 を 観 察 す る こ とに よ り明 らか にす る 。 「He」 の 訳 語 と して 誕 生 した 「彼 」 は 初 期 の段 階 か ら使 用 さ れ,漱
石がサ イ
コ セ ラ フ ィー と して 小 説 を書 き始 め た 段 階 か ら活 発 に 使 用 さ れ て い る 。 一 方, 「She」の 訳 語 「彼 女 」 の 定 着 はか な り遅 れ る。 『彼 岸 過 迄 』 の 「彼 女 」 は 「彼 」 の三 分 の 一 程 度 の使 用 率 で あ るが,用 例 数 か ら判 断 す れ ば,こ
の段 階でや っ と
定 着 した と考 え て よ か ろ う。 小 説 言 語 と し て不 可 欠 な 「彼 」 と 「彼 女 」 は20 世 紀 に な っ て 誕 生 した 若 い 言 葉 な の で あ っ た。
漱 石 作 品 の 「女 」 「彼 女 」 「彼 女 」 「彼 の 女 」 と 「彼 」 「男 」 女 倫 敦 塔(M38)
彼 女
彼 女 彼 の 女
彼
32
吾 輩 は 猫 で あ る(M38∼9)
106
薤露 行(M38)
10 1
142
虞 美 人 草(M40)
250
三 四 郎(M41)
366
そ れ か ら(M42)
56
門(M43)
24
71
2
304
266
6
3 896
8
309
7
行 人(T1∼2)
160
53
8 129
163
明 暗(T5)
1
1
236
73
14
15
1
彼 岸 過 迄(M45)
心(T3)
1
3
25
草 枕(M39)
8
1125
66
坊 つ ち ゃ ん(M39)
男
6
168 70
240
70
608
207
455
109
275
65
1341
133
なお,「 彼 」 「彼 女 」 は 今 日 に至 って も 十 分 日本 語 化 した とは 言 え ず,日 常 生 活 や 子 ど もの 言 葉 で は め っ た に お 目 に か か ら ない 。 「彼 」 「 彼 女 」 は教 養 語 で あ り,書 き言 葉 的 性 質 を帯 び て い る の で あ る。
■ 発展問題 時代 別 の人称 代名 彙 の体 系 を示 す下 表 を観察 し,後 の設 問 に答 えな さい。 一人称(自 称) 上代
あ /あ れ わ/ われ
二 人称(対 称) な/ なれ
三 人称(他 称)
不定 た / たれ
いまし み まし まし なむ ぢ
中古
わ/ われ/ われ ら な/ なれ あ /あ れ
まろ/ まう ら
なむ ぢ(汝) なん だ ち(汝 等)
た/ たれ
一 人 称(自
称)
二 人 称(対
やつ か れ
き む ぢ
*なに が し
ま し
* *み づ か ら
お 前,お
称) 三 人 称(他
称) 不 定 称
事
まう と
中世前期 わ/ われ / われ ら なん ぢ まろ
お 前
おれ
お事
*それ が し
貴殿
* *わ らは
和殿 /和殿 原,わ ぬ し
た/ たれ
御辺,御 坊 御身 中世後期 わ た く し 身 身ども おれ
御身
た/ たれ
おぬ し お のれ われ こなた そ なた そち 貴所 貴辺
近世前期 わ た く し わた し
おぬ し
だ/ だれ
おの れ/お のれ ら
どなた
わ し/わ し ら われ/ われ ら お れ,こ なた われ /わ れ ら *拙 者 *身 ど も *手 前 ども * *わ ち き * *あ ち き 近世後期 わた く し わた し
こなた / こなたが た そち そ なた/ そ なた衆 お前 /お 前方 * *こ なさ ま(ん) うぬ / うぬ ら その ほ う方 お前/ お前 さん こなた
だ/ だれ どな た
一 人称(自 称)
近代
二 人称(対 称)
三 人称(他 称)
不 定称
お れ
あ な た
お い ら
お ぬ し
*僕
貴 様 ・貴 殿
わ た く し
あな た/あ んた ら/ あ 彼 / 彼 等
だ/だれ /
あ た く し
んたが た
だ れ た ち
わ た し,あ た し
きみ/ きみ た ち(ら) あ い つ / あ い つ ら ど な た
*お れ,お
お前/ お前 さん /お前 そ い つ / そ い つ ら どなた さま
ら, お
彼 女 / 彼 女 た ち
い ら
さんた ち
き ゃ つ / き ゃ つ ら どなた さん
あ た い
てめ え/て めえ ら
や つ/ やつ ら
あ っ し/ あ っ し ら
おめえ/ お めえ ら
わ し,わ
貴様 /貴 様 ら
っ ち
わ て / わ て ら
貴殿 /貴殿 たち(方)
う ち / う ち ら
こなた
吾 輩,余
そなた
小生
わご り ょ
・自 分
わ れ わ れ,我
どち らさま どち らさん
ら
私 たち *は 男 性 専 用 語 。**は
問 1 英 語 の 一 人 称 は 「I 」,二 人 称 は 「You」 で そ れ ぞ れ 一 つ,中
女 性専 用語 。
国 語 も一 人 称
「我 」,二 人 称 「〓」 で そ れ ぞ れ 一 つ で あ る 。 こ れ ら に 対 して 日 本 語 で は 複 数 の 人 称 代 名 彙 が あ る 。 こ れ は ど の よ う な こ と を 意 味 す る の か? 「あ / あ れ 」 「わ / わ れ 」 の 相 違,「 わ れ 」 と 「ま ろ 」 の 相 違 な ど を 調 べ る こ と に よ り考 え て み よ う 。 問 2 男 性 専 用 語 や 女 性 専 用 語 が あ る 理 由 に つ い て 考 え て み よ う。 問 3 三 人 称(他
称)代
名 彙 の 発 達 が 遅 れ た 理 由 につ い て 考 え て み よ う。
問 4 一 人 称,二
人 称 の 人 称 代 名 彙 が 豊 富 に あ る の に対 して,不
定 称 の 人称 代 名
彙 が 貧 弱 で あ る 理 由 に つ い て 考 え て み よ う。 問 5 人 称 代 名 彙 は 語 彙 論 の 用 語 で あ る が,a∼fに と呼 応 す る と い う 点 で 文 法 的 側 面 も 有 す る 。 a 吾 輩 は b 私 は
猫 であ る。 猫 で ご ざ い ま す 。
観 察 さ れ る よ う に,文
末 表現
c わ た し は 猫 で す 。 d お れ は e わ し は f 自 分 は
猫 だ 。 猫 じゃ 。 猫 で あ ります。
(ア) 他 の 一 人 称 代 名 彙 に つ い て の 呼 応 関 係 は ど う な っ て い る か,例
示 してみ よ
う。 (イ) 呼 応 関 係 を な す の は,文
末 表 現 だ け で は な い 。 他 に,ど
の よ うな要 素が 呼
応 関 係 を な す か , 調 査 して み よ う。
■参 考 文 献 1) 佐 藤 喜 代 治編 『国語 学研 究事 典 』(明 治 書 院,1977) 2) 小 池 清 治 ・小 林 賢 次 ・細 川 英 雄 ・山 口 佳 也 編 『日本 語 表 現 ・文 型 事 典 』(朝 倉 書 店 , 2002) 3) 山 田孝 雄 『 奈 良 朝 文法 史』(宝 文 館,1954) 4) 山田 孝雄 『 平 安 朝 文法 史」(宝 文 館,1952) 5) 築 島 裕 『平 安 時代 語 新 論』(東 京 大学 出 版 会,1969) 6) 山 田孝 雄 『平 家物 語 の 語 法』(宝 文館,1954) 7) 湯 沢幸 吉 郎 『室 町時 代 言 語の 研 究(風 間 書房,1958) 8) 湯沢幸吉郎 『 徳 川 時 代 言語 の研 究』(刀 江 書 院,1936,風
間 書 房,1962復
刊)
9) 湯 沢 幸 吉郎 『 江 戸 言 葉 の研 究 』(明 治 書 院,1964) 10) 小 島 俊 夫 『後期 江 戸 こ とばの敬 語 の 体系 』(笠 間書 院,1974) 11) 田中 章 夫 『 東 京 語― そ の成 立 と展 開― 』(明 治 書院,1983) 12) 鈴 木 英夫 「『当世 書 生 気 質』 に見 られ る人 の呼 び方 」(『共 立 女子 短 期 大 学 部文 科紀 要 』18 , 1974) 13) 橋 本 進吉 「国語 法 要 説 」(『国語 科 学講 座Ⅳ 国 語 学』 明治 書 院 ,1934) 14) 時枝 誠 記 『日本 文 法 口語 篇 』(岩 波 書 店,1950) 15) 鈴 木 孝 夫 『こ と ば と文 化 私 の 言語 学 』(『鈴 木 孝 夫著 作 集 1』,岩 波書 店,1999) 16) 野 口武彦 『三人 称 の 発 見 まで 』(筑 摩 書 房,1994) 17) 小 池 清 治 ・赤 羽根 義 章共 著 『文法 探 究法 』(朝 倉 書 店,2002) 18) 『川 端康 成 集 』(筑 摩 書 房,1968) 19) 『漱石 全 集 四 虞 美 人草 』(岩 波 書 店,1994) 20) 『漱石 全 集 五 三 四郎 』(岩 波 書 店,1994) 21) 『漱石 全 集 十 一 明暗 』(岩 波 書 店,1994) 22) 筒 井 康 隆 『ロ ー トレ ック荘 事 件 』(新 潮社,1990)
第 6章 「こなた ・そなた ・あなた」 はなぜ 同 じ,対 称 なのか?
キ ー ワ ー ド:コ ソ ア ド語,指 定 称,現
示 詞,指
場 指 示,文
示 彙,指
脈 指 示,人
【意 味 属 性 ・指 示 彙 】
示 彙 の 体 系,見
掛 け の 不 定 称,真
称 代 名 彙 用 法,コ
ナ タ系,ソ
の不
ナ タ系,ア
ナ タ系
1.指 示 彙 と は ? 「コ ソ ア ド語 」 と も,「 指 示 詞 」 と も 称 さ れ る 単 語 の 集 合 が あ る 。 こ れ ら は 文 法 的 単 位 で は な い 。 そ の こ と は,下
に 示 した 指 示 彙 の 体 系 を 見 れ ば 明 ら か で あ
る。
指示 彙 の体 系
近称 代 名詞 もの コ レ
ひ と コ イ ツ
方 向 コ ッ チ
連 体詞 副詞
中称
ソ レ ソ イツ
ソ ッ チ
遠称 見掛けの不定称 ア レ ア イ ツ
ア ッチ
真 の不定称
ドレ
ド レ デ モ,ド
レカ
ドイ ツ
ダ レ ソ レ,ダ ナニガシ
レ カ レ,
ドッチ,ド
チ ラ ドッ チ モ,ド
ッチ カ
チ ラ ドッチ デモ,ド ッチ カ
選 択 コ ッ チ
ソ ッ チ
ア ッチ
ドッチ,ド
場 所 コ コ
ソ コ
ア ソ コ
ドコ
ドコデモ /カ,ド コソコ
指 示 コ ノ
ソ ノ
アノ
ドノ
ドノ… デモ,ア ル,サ ル
様 体 コ ン ナ
ソ ン ナ
ア ンナ
ドン ナ
様 態 コ ウ
ソ ウ
ア ア
ドウ
ドンナ …デモ,ド ンナカ ドウ … テ モ / デ モ
分 量 コ ン ナ ニ ソ ン ナ ニ ア ンナ ニ ドン ナ ニナンボ
ドン ナ ニ … テ モ,ナンボデモ,ドンナ
「代 名 詞 」 「連 体 詞 」 「副 詞 」 と い う文 法 的働 き を異 に す る も の を一 つ の 文 法 的 カ テ ゴ リー と し て ま とめ る こ と は不 可 能 で あ る 。 こ れ らの 語 群 の 共 通 点 は 「指 示 」 とい う意 味 属 性 に あ る 。 したが っ て,い と して 語 彙 論 の用 語 と認 定 し た方 が よい 。
わ ゆ る 「指 示 詞 」 は 「指 示 彙 」
普 通,「 ド レ,ド が,こ
ッチ,ド
コ,ド
ノ,ド
ンナ,ド
ウ」 は 「不 定 称 」 と さ れ る
の 扱 い は 正 確 で は な い 。 「見 掛 け の 不 定 称 」 に 属 す る 語 は,「 ドレが い
い?」 の よ うに 疑 問表 現 の 中 で用 い られ る の が 普 通 で あ る。 そ う して,こ
うい
う場 合 の 「ドレ」 は な に もの を も 「指 示 」 して い な い。 この 語 の言 語 内 容,す な わ ち 意 味 属 性 は,「 指 示 要 求 」 な の で あ る 。 しか し,言 語 形 式 の 在 り方 は 「コ ソ ア」 に属 す る 語 群 の そ れ に全 く等 しい 。 そ う い う わ け で,本 れ ら を 「見 掛 け の 不 定 称 」 と し,「 ナ ニ ナ ニ,ド
書 で は,こ
コ ソ コ」 の よ う に 言 語 内容 が
指 示 と い う点 で 真 に 不 定 で あ る語 群 を 「真 の 不 定 称 」 と称 す る こ と にす る。 基 本 的 に は疑 問 表 現 以外 で 用 い られ た 不 定 称 が 「真 の 不 定 称 」 に な る とい う こ と もで き る。 な お,漢
語 系 の 表 現 と して は 「某 」 が,「 某 所,某
年,某
月,某
日」 な ど の
よ う に,「 真 の 不 定 称 」 と して用 い られ る。 また,「 某 」 に対 応 す る和 語 は 「あ る」 で あ り,「 あ る 所,あ
る年,あ
る 月,あ
る 日」 な どの 形 で用 い られ る。
2.指 示 彙 か ら人 称 代 名 彙 へ の 転 成― 人 称 代 名 彙 用 法 の 特 殊 性― 指 示 彙 の用 法 は現 場 指 示 の 用 法 と文 脈 指 示 の 用 法 とに 二 分 す る の が 普 通 で あ る。 現 場 指 示 の用 法 と は,眼 前 にあ る事 物 な ど を指 示 す る用 法 の こ と で あ る 。 一 方,文 脈 指 示 の用 法 と は,過 去 の 体 験 な ど眼 前 に な い 対 象 を 指 示 す る用 法 の こ とで あ る 。 本 章 で 考 察 の 対 象 とす るの は,主
と して,現 場 指 示 の 用 法 につ い て
で あ る。 日本 語 の 際 だ っ た特 徴 の 一 つ に 「指 示 詞 」 を 数 え,「 人 称 代 名 詞 」 と関 連 さ せ て科 学 的 分 析 を加 え た の は佐 久 間 鼎 で あ っ た 。 佐 久 間 は 「コ ソ ア」 の 関係 に つ い て次 の よ う に述 べ る 。 コ系 の 「指 示 詞 」 は話 し手 の勢 力 範 囲 に あ る も の を 指 示 す る。 ソ系 の 「指 示 詞 」 は 聞 き手 の勢 力 範 囲 に あ る もの を 指 示 す る。 ア系 の 「指 示 詞 」 は ど ち ら の勢 力 範 囲 に も属 さ な い もの を指 示 す る。 この こ と を話 し手 か らの 相 対 的 距 離 の 観 点 で捉 え直 して み る と,コ 系 は話 し 手 に最 も近 く位 置 し,ア 系 は 最 も遠 く,ソ 系 は そ の 中 間 とい う こ とに な る 。 そ
れ で,コ 系 を近 称,ソ 系 を 中 称,ア 系 を 遠称 と名 付 け られ て い る 。 佐 久 間 は さ らに,「 人 称 代 名 詞 」 と関 連 させ て,次 の よ う な 表 を示 して い る。 指示 され る もの 対話者 の層 話 し手
所 属事 物 の層
(話 し手 自身) ワ タ ク シ (話 し手 所 ワ タ シ
手
アナタ オマ エ
はた の人
(話 しか け の 目標) (第 三 者)(ア
コ系
属 の も の) (相手 所 属
ソ系
の もの)
ノ ヒ ト)
(は た の も の) ア 系
も の
不
ドナ タ
定
ダ
さて,こ
ド系
レ
こ で 人 称 代 名 彙 と対 応 させ て み る。 指 示彙 人称 代名 彙 コナ タ 近称
対称
ソ ナ タ 中称
対称
ア ナ タ 遠称
対称
人称 代 名 彙 は 指 示 彙 か ら転 成 した もの で あ るが,人
称 代 名彙 に転 成 す る と同
時 に,指 示 彙 で 区 別 の あ っ た 「近 称 」 「中称 」 「遠 称 」 の 相 対 的 距 離 の 区 別 を消 失 させ て し ま う。 そ う して,基
本 的 に は,聞
き手,す
な わ ち,「 対 称 」 に な っ
て しま うの で あ る。 これ は一 体 ど うい う こ と を 意 味 す る の で あ ろ うか? あ え て,繰
り返 す こ とに す る。 指 示 彙 の在 り方 か らす れ ば,話
す る 「コナ タ」 は 自称,聞
し手 側 を意 味
き手 側 を意 味 す る対 称 は 「ソ ナ タ」,話 し手 聞 き手
の ど ち らの 勢 力 範 囲 に な い対 象 を指 示 す る言 葉 「ア ナ タ」 は他 称 と な るべ き と こ ろで あ る。 しか る に 事 実 は そ うな って い な い 。 実 際 は 三 語 と も対 称 を 表 す 言 葉 と な っ て い る。 不 思 議 と言 わ ざる を え な い。 転 成 の 際 に,一 体,ど
の よ うな
こ とが あ っ た の だ ろ うか 。 そ の 間 の機 微 につ い て,次 節 以 下 で 考 察 す る 。
3.転 成 の 様 相― 定 説 を疑 う― 指 示 彙 にお い て は,前 述 し た よ うに,コ 系 , ソ系 ,ア 系 は言 語 内 容 が 異 な る。
相
現 場 指 示 の 場 合 を図 示 して み る と次 の よ う に な る 。
S=話
し手
H=聞
き手
話 し手 ・聞 き手 を核 と して,コ 系 は 近 称,ソ 系 は 中 称,ア 系 は遠 称 の よ う に, 言 語 内容 が 画 然 と区 別 され て い る 。 一 方,人
称 代 名 彙 の 場 合 は コ系 ・ソ系 ・ア
系 の いず れ も対 称 な の で あ る。 こ の よ うに 不 整 合 な 関 係 は どの よ うに して生 じ た の で あ ろ うか? ま ず,今 コ系 の
日 行 わ れ て い る 定 説 を 示 し,こ
れ を疑 う こ と にす る 。
「人 称 代 名 詞 」 と さ れ る も の は,「 コ コ ・ コ チ ・コ ナ タ ・コ ナ タ さ
ま ・コ ナ さ ま ・コ ナ さ ん,コ な ど あ る が,紙
幅の関係 で
ナ っ さ ん ・コ ナ さ あ,コ
ナ さ , コ ナ ん,コ
ナはん」
「コ コ 」 に 関 す る 今 日 の 定 説 だ け を ま と め る こ と に
す る。
自称 1)た け と り心 惑 ひ て 泣 き伏 せ る所 に寄 りて,か に も心 に もあ らで か く罷 る に,昇 いへ ど も… …
ぐや 姫 い ふ,「 こ こ
ら ん を だ に 見 送 りた まへ 」 と (竹取 ・か ぐや 姫 の 昇 天)
2)い とつ れ な くて,「 あ は れ な る 御 譲 りに こそ はあ なれ 。 こ こに は, い か な る 心 を お き た て まつ るべ き に か 。 め ざ ま し く,か
くて は
な ど答 め らる ま じ くは,心 や す くそ も はべ な む を … 」 (源氏 ・若 菜 上) 3)御 使,そ
の ま た の 日,ま だ つ とめ て 参 りた り。 「… … 山 が つ の譏
り を さへ 負 ふ な む,こ
こ の た め もか ら き」 な ど,か の 睦 ま し き
大 蔵 大 輔 して の た まへ り。
(源氏 ・蜻 蛉)
こ れ らの コ コ は,自 称 の 人 称 代 名 彙 「わ れ 」 を 用 い て よ い と こ ろ で あ る が, 指 示 彙 の コ コ を用 い て い る。 1)は,か
ぐや 姫 が 養 父 の 「竹 取 りの 翁 」 に対 して 述 べ た もの 。 こ こ で,人
称 代 名 彙 の 「わ れ」 を使 用 す る と,翁 と対 等 とい う ニ ュ ア ンスが 生 じて しま う。 こ れ避 け,卑
下 して コ コ と称 した もの と考 え られ る 。 この 例 に 限 らず,人
を指
す の に 指 示 彙 を用 い る の は,人 を人 扱 い して い な い こ と を含 意 し,卑 下,嫌 み, 尊大 な どの 心 情 を付 帯 させ る もの とな る。 2) は,老
齢 期 に は い っ た夫 光 源 氏 よ り,内 親 王 「女 三 の 宮 」 と の結 婚 話 を
聞 か され た 紫 の 上 の 質 問 で あ る。 彼 女 は,平 気 を 装 い,「 こ こ に は 」 と 自 らを 表 現 す る 。 謙 遜 の 意 を 込 め た 表 現 で は あ る が,皮
肉 が 込 め られ て い る と も読 め
る。 こ こ を 「わ れ は」 と表 現 して し ま う と,光 源 氏 と同 等 とい う意 味 が 内 包 さ れ て し まい,紫
の 上 の 弱 くは か な い 立 場 が 表 現 され な い 。
・「な ほ童 心 の 失 せ ぬ に や あ らむ,我
も睦 び き こ え て あ ら まほ し きを … … 」 (源氏 ・若 菜 上)
紫 の 上 は,目 下 の 女 房 た ち に 向 か っ て は,自 称 の 「我 」 を使 用 して い る 。 3) は,葬 儀 の段 取 りに つ い て,な ん らの 相 談 も受 け な か っ た こ とへ の薫 の 憤 りが,敢
え て へ り くだ る 「こ こ」 と い う指 示 彙 を使 用 す る こ とに よ り表 わ さ
れ て い る。 対称
1)「 こ こ に も,も
し知 う しめ す こ と や は べ り ら ん と て な む 。 い と憚
り多 く は べ れ ど,こ
の よ し 申 し た まへ 」 と 言 ふ 。 (源 氏 ・明 石)
2)「 さ は あ り と も,か
の 君 と,前
の 斎 院 と,こ
た ま は め 」 と ゆ る し き こ え た ま え ば,「
こ に と こ そ は,書
こ の 数 に は まば ゆ くや 」
と 聞 こ え た ま へ ば … …
き
(源 氏 ・梅 枝 )
3)「 こ こ に 御 消 息 や あ り し。 さ も 見 え ざ り し を 」 (源 氏 ・紅 梅)
1) の 「こ こ」 は,明 石 の 入 道 の 光 源 氏 に 向 か っ て の 発 言 中 の もの 。 「こち ら 様 」 の 意 。 「知 う しめ す 」 と共 起 して い る の で,敬 2) は,光
意は高い。
源 氏 が 女性 た ち の 筆 跡 に つ い て 評 論 した 際 の 発 話 で,紫
月 夜 の 尚 侍 や 朝 顔 の 斎 院 と同 列 に 扱 っ た もの 。 「こ こ」 に は,親
の上 を朧
愛 の情が 込め
られ て い る 。 3) は,真 木 柱 が 夫 紅 梅 の 大 納 言 へ 尋 ね た 表 現 。 夫 婦 関 係 の睦 ま し さが 込 め られ て い る。
他 称 1) こ こ もか し こ も け し きば み う ち と け ぬ 限 りの,気 方 の 御 い ど ま し さ に,け
近 く う ち とけ た り し,あ は れ に 似 る も
の な う恋 し く思ほ え た まふ。 2) 「先 刻,一
(源氏 ・末 摘 花)
人 で は じめ よ う と思 っ て た と こ ろへ 思 ひが け な く こ こ
が 来 て くれ ま して ね 」 1) は,光
色 ばみ心 深 き
(久保 田万 太 郎 ・末 枯)
源 氏 の心 中思 惟 の 中 の 表 現 。 「こ こ」 は 正 妻 葵 の 上 を,「かしこ」
は愛 人 「六 条 の 御 息 所 」 を意 味 す る婉 曲表 現 。 ・こ の 娘 の あ り さ ま ら ば,何
,問
は ず 語 りに 聞 こゆ 。 … …
「… … 次 々 さ の み 劣 り ま か
の 身 に か な り は べ ら ん と悲 し く思 ひ は べ る を,こ
れ は 生 ま れ し時
よ り頼 む と こ ろ な ん は べ る 。 … … 」 … … う ち 無 き う ち 無 き 聞 こ ゆ 。 (源 氏 ・明 石)
明 石 の 入 道 の 問 わ ず 語 りに現 れ る 「こ れ 」 は 「明石 の 君 」 を指 し,「 こ の 娘 」 の 意 で あ り,目 に入 れ て も痛 くな い 程 の 鐘 愛 ぶ り を表 わ して い る 。 2) は近 代 の 例 で あ り,今 日の 日本 語 に も存 在 す る 用 法 。 「こ いつ 」 よ り も丁 寧 な表 現 で あ る。 と こ ろ で,以 上 の 記 述 は,日 本 最 大 の 国 語 辞 書 や 大 型 古 語 辞 典 及 び 定 評 の あ る古 典 文 学 全 集 な ど に 記 載 され て い る と こ ろ を 参 考 に して 行 っ た も の で あ り, 今 日の 一 般 的 考 え,す
な わ ち 定 説 を 示 す も の な の で あ る が,「 コ コ」 が 自称,
対 称,他 称 を表 す とす る この 考 え を信 じて よ い もの な の で あ ろ うか 。 筆 者 は疑 わ しい と 考 え る 。 以 下,そ
の 理 由 を述 べ る 。
a コ レ は ニ ャ ア ニ ァ ア と な く動 物 で す 。
コ レ =猫
b コ レは ワ ン ワ ン と吠 え る 動 物 で す 。
コ レ =犬
c コ レ は ミ ン ミ ン と な く動 物 で す 。
コ レ =蝉
d コ レ は 赤 い チ ュ ー リ ッ プ で す 。
コ レ =チ ュ ー リ ップ
a∼dの
例 に よ り,コ
レ の 言 語 内 容(意
味)は,猫,犬,蝉,チ
ュー リップ
で あ る と 記 述 す る こ と は 正 し く な い 。 も し,こ の よ う な 記 述 が 正 し い と す れ ば, コ レ の 意 味 は 無 数 に あ る こ と に な り,言
語 内 容 と して ま とめ る こ とが 不 可 能 と
な っ て し ま うか らで あ る 。 コ レの言 語 内 容(意
味)は 近 称 の 指 示 彙 とい う記 述
が 正 しい と い う こ と は 明 らか で あ る。 同 一 共 時 態(11世
紀 初 頭 の 京 都 貴 族 社 会 の 言 語,『 源 氏 物 語 』 の 語 彙)に お
い て,一 つ の 単 語(「 こ こ」)が 同 一 意 味 領 域(人 自称,対
称,他
と は,a∼dの
間 を 指 し示 す 表 現)に お い て,
称 な ど三 つ の 対 立 す る 言 語 内 容(意 コ レ の言 語 内 容 を猫,犬,蝉,チ
味)を
有 す る と記 述 す る こ
ュ ー リ ップ とす る よ うな もの
な の で あ る。 残 念 な が ら今 日の 定 説 は 間 違 っ て い る と す る ほ か な い 。 『源 氏 物 語 』 語 彙 と して の コ コ は近 称 の 指 示 彙 な の で あ る。 決 して,人 称 代 名 彙 で は な い 。 コ系 の 指 示 彙 が 人 称 代 名 彙 に転 成 す る の は 中世 末 期 の コナ タ系 の語 彙 の 出 現 ま で待 つ 必 要 が あ る。 コナ タ系 の 語 彙 と は,「 コナ タ ・コ ナ タ さ ま ・コ ナ さ ま ・コ ナ さん ・コナ っ さ ん ・コナ さ あ ・コナ さ ・コナ ん」 な ど をい う。 こ れ らは,す べ て対 称 の 人 称 代 名 彙 と して機 能 す る 。 コ ナ タ = 中世 末 期 に発 生 した 語 。 対 等 ・対 等 に 近 い 目上 を 丁 寧 に呼 ぶ 語 。 男 女 共 用 。 ソ ナ タ よ り敬 意 が 高 い 。 近 世 初 期 「コ ナ タ さ ま」 が 出 現 す る と敬 意 が 下 が る。 複 数 形 と して は 「コ ナ タ 衆 」 が あ る。 コ ナ タ さ ま =相 手 を敬 っ て 呼 ぶ 語 。 男 女 共 用 。 女性,特
に 遊 女 が 高 い敬 意 を
もっ て 相 手 を呼 ぶ 時 に用 い る。 コ ナ さ ま =主 と して 女性 が 敬 意 を もっ て 目上 を呼 ぶ 語 。 初 期 上 方 の遊 女 語 。 元 禄 期 に は 上 方 の 女性 語 と な る。 一 部 の 男性 も用 い た。 コ ナ さん =近 世 初 期 の 上 方 の 遊 女 語 。 元 禄 期 に は 上 方 の 女 性 語 と な る。 専 ら 女 性 が 使 用 し,近 世 前 期 末 に は 床 屋 ・侠 客 ・関取 な ど一 部 の 男性 も用 い た 。 近 世 後 期 に は上 方 で 男 性 も用 い る よ うに な る。 待 遇価 値 は 下 落 す る。 文 化 ・文 政 期 に は 下 層 階 級 が 対 等 関 係 で 用 い る よ う に な り, 近 世 後 期 の 江 戸 語 で は侠 客 が 使 用 す る。 「コ ナ さ あ ・ コ ン さ ・コナ ん」 な ど と簡 略 化 す る。 簡 略 化 の 度合 い が 進 む に し た が い 敬 意 が 下 が り,親 愛 度 が 増 す 。 中 世 末 期 に,「 汝 」 な ど代 名 彙 が 内 包 す る対 等 性 ・直 接 性 を避 け る た め に, 婉曲 表 現 の 一 種 と して 発 生 し,遊 里 の 遊 女 語 とい う 人 工 語 的 要 素 が 強 く,女 性
語 と して発 達 した 。 ソ ナ タ系 の 語 彙 の発 生,発
達 も コ ナ タ系 と並 行 す る 。 ソ ナ タ系 の 語 彙 と は,
「ソ ナ タ ・ソ ナ タ さ ま ・ソ ナ タが た ・ソ ナ タ し ゅ う ・ソ ナ っ ち ょ う ・ソ ナ さ ま ・ソ ナ さん ・ソナ も の 」 な どを い う。 ソナ タ =中 世 末 期 に発 生 した 語 。 下 位 の 相 手,も
し くは 対 等 ・あ る い は 目下
を丁 寧 に呼 ぶ 語 。 「コ ナ タ」 よ り相 手 を 低 く待 遇 し,「 ソチ 」 よ りは 待 遇 価 値 が 高 い 。 近 世 に な る と敬 意 を失 い,対 等 も し くは 目下 に対 して 用 い られ た 。 複 数 形 と して は 「ソ ナ タが た 方 ・ソ ナ タ し ゅ う 衆 ・ソナ タ た ち 」 な どが あ る。 ソナ タ さ ま =尊 敬 の気 持 ちで 相 手 を呼 ぶ 語 。多 く女 性 が 男 性 に対 して 用 い た 。 「ソ ン タ さ ん ・ソ ノサ マ ・ソ ナ さ ま ・ソナ さん 」 は 「ソ ナ タ さ ま」 の変 化 形 。 い ず れ も親愛 の 気 持 ち を もっ て 相 手 を呼 ぶ 時 用 い る 語 。 簡 略 化 が 進 む に した が い,程
度 が 下 が り親 愛 度 が 増
す。 ソナ タが た =対 称 。 対 等 も し くは 下 位 の複 数 の 相 手 に対 して 用 い る 語 。 *「が た 」 は 「衆 」 「た ち 」 よ りも敬 意 が 高 く,「 コ ナ タ 」 に は よ く付 くが,「 ソナ タ」 に は あ ま り付 か な い 。 敬 意 の 段 階 は 「コ ナ タ」 と 「ソナ タ」 の 中 間 に あ る。 ソナ タ し ゅ う =「ソ ナ タ し ゅ」 と も。 対 称 。 対 等 も し くは 目 下 の 複 数 の 相 手 に 対 して 用 い る語 。 「ソナ タ方 」 よ り待 遇 度 は 低 い 。 「ソ ナ っ ち ょ う」 は 「ソ ナ タ し ゅ う」 の 変 化 した 語 。 ソナ もの =下 位 の 者 に 向 か っ て 横 柄 に 呼 び掛 け る語 。 ア ナ タ系 の語 彙 の 発 生,発
達 は コナ タ系 ・ソナ タ系 に比 較 し遅 く,近 世 に 入
っ て か らで あ る。 ア ナ タ系 の 語 彙 と は,「 ア ナ タ ・ア ナ タが た,ア ア ナ タ さん,ア
ナ タ さ ま,
ン さん ・ア ン タ ・ア ン タ はん 」 な どで あ る 。
ア ナ タ =近 世 中 期 に 発 生 した 語 。 対 等 ま た は上 位 者 を 丁 寧 に 呼 ぶ 語 。 宝 暦 (1751∼64)頃
か ら使 用 され る。 貴 男,貴 女 な ど と も書 く。 現 在 で
は,対 等 あ る い は 下 位 の 者 に 用 い,ま た,妻 が 夫 に 対 して 用 い る こ と も あ る。 「お ま え」 に替 わ っ て 最 高 段 階 の 敬 意 を 表 わす 対 称 代 名 詞 と し て,
上 方 で は 宝 暦 こ ろ か ら,江 戸 で は 明 和(1764∼72)こ れ る。 文 化(1804∼18)こ
ろ か ら見 ら
ろ か らは 敬 意 の 下 限 が さが り,近 世 末
期 に は対 等 に使 わ れ る例 も あ る が,大 正 ・昭 和 の 初期 まで は比 較 的 高 い 敬 意 を保 っ た 。 しか し,今 して は 使 わ れ な い 。 そ の た め,今
日で は敬 意 が 低 下 し,目 上 の 者 に 対 日で は,上 位 者 に対 して は 「… さ
ん 」 の よ う に名 前 を用 い た り,「 … 先 生 」 「… 部 長 」 の よ う に役 職 名 を 用 い た りす る こ とが 多 い 。 複 数 形 は 「ア ナ タ方 ・ア ナ タた ち 」。 ア ン タ =近 世 後 期 に発 生 し た語 。 上 位 者 を敬 っ て 呼 ぶ 語 。 最 初 は 上 方 の遊 里 で 遊 女 が 敬 意 を 持 ち なが ら親 愛 の情 も示 す もの と して 用 い,後 方 で は 一 般 で も使 用 す る よ う に な る が,江
に上
戸 で は主 と して 花 街 で 用
い られ た。 明 治 以 降,関 西 で は対 等 以 上 の 親 愛 な 関 係 で使 用 さ れ, 「ア ン タ は ん ・ア ン さ ん」 な どの 形 も発 生 した。 関 東 で は使 用 度 が 低 く,敬 意 も低 下 して,く
だ け た言 い 方 と して 目下 に 用 い る 。 複 数
形 は 「ア ン タ方 ・ア ン タ た ち ・ア ン タ ら」 な ど。 人称 代 名 彙 と して の コ ナ タ系 ・ソ ナ タ系 ・ア ナ タ系 の 語 彙 は 中世 末 期 か ら近 世 中期 に か け て発 生 し,特 に遊 里 の 遊 女 の 使 用 す る語 と して 発 達 して い る。遊 里 語 は 共 通 語 の 一種 で あ る か ら,中 世 末 期 か ら活 発 化 した 人 口の 流 動 に 対 応 す る も の と して 発 生 し,発 達 した もの と推 測 され る。 日 本 語 の 敬 語 の特 徴 を表 す もの に 「敬 意 逓 減 の 法 則 」 とい う も のが あ る。 敬 語 に 関 す る語 は時 代 の 経 過 に伴 い,敬
意 が 下 が る傾 向 が あ る とい う こ と を指 摘
し た も の で あ る。 人 称 代 名 彙 は敬 意 と密 接 に 関 係 す る 。 先 に 発 生 した コ ナ タ 系 ・ソナ タ系 の 敬 意 が 時 代 の 経 過 に伴 って,敬
意 が 下 が り,「 … … さ ま/ … …
さん 」 な どの 接 尾 語 の付 加 で は 補 い き れ な くな っ た段 階 で ア ン タ系 が 発 生 し た の で あ ろ う。 したが っ て,当 初 は ア ナ タ系 は 最 高 の 敬 意 を表 した も の と 考 え て よい 。
4.人 称 代 名 彙 と して の 他 称 の 発 達 が 遅 れ た 理 由 こ こ で,敬 意 を含 め,話 示 す る。
し手 と指 示 彙 か ら転 成 した 人 称 代 名彙 との 関係 を 図
話 し手
聞 き手 対 称 コ ナ タ系
中間
ソ ナ タ系 ア ナ タ系
低い
指 示 彙 の 現 場 指 示 の 用 法 に存 在 した,物 中 称,遠
敬意
高い
理 的 距 離 の 相 違,す
称 の 相 違 が 人 称 代 名 彙 で は心 理 的 距 離 に変 換 され,敬
な わ ち,近 称, 意 の 差 と して 顕
現 す る とい う こ と に な っ て い る 。 ア ナ タ系 の 敬 意 が 最 も高 い の は,敬
して 遠 ざ け る とい う敬 意 が婉 曲 表 現 に よ
りさ ら に 高 め られ た とい う結 果 で あ ろ う。 ソ ナ タ系 の 敬 意 が 最 も低 い の は,ソ 系 が 本 来 聞 き手 に属 す る もの を表 す た め, 婉曲 表 現 の働 きが 機 能 し に くか っ た た め で あ ろ う。 コ ナ タ系 が 中 間 の敬 意 を表 す の は,近 付 け て親 愛 感 を表 す こ とが 本 来 高 い敬 意 を表 す こ とに は な りえ な い とい う事 情 に よる もの で あ ろ う。 さ て,指 示 彙 が 可 能性 と して 有 す る,自 称,他 称 の 用 法 を振 り捨 て,対 称 に の み 限定 され た 時 に 始 め て,人
称代 名彙への道が 開かれ るのであ った。前章 で
述 べ た 「彼 」 「彼 女 」 の 発 生 が20世 紀 にず れ 込 ん だ の は,こ の よ う な 背 景 が あ っ た か らで あ る 。 「He」 「She」 の 訳 語 と して,「 ア レ ・ア ナ タ」 「ア ノ オ ンナ 」 「ア ノ ジ ョ」 と い う言 語 形 式 も可 能 性 と して は あ っ た の で あ るが,ア
ナ タ系 の 指 示 彙 は 人 称 代
名 彙 と して は 対 称 に 固 定 して し ま っ て い た 。 そ う い うわ け で,古 死 語 化 して い た 「カ レ」 が 倉 か ら ひ っ ぱ り出 され,ま
た,そ
語 でほ とん ど
の 相 手 と して 「カ
ノ ジ ョ」 とい う和 語 +漢 語 とい う奇 形 的 な 言 語 形 式 が 作 り出 され た と い う次 第 な の で あ る。 「He」 「She」 を 翻 訳 す る と い う必 要 性 が 生 ず る 以 前 の 日本 語 に は,指
示彙 を
他 称(三 人 称)の 人称 代 名 彙 に 転 用 す る 必 要 性 が なか っ た の で あ る。 こ れ らは, 今 日の 話 し言 葉 と同 様 に,指 示 彙 また は普 通 名 詞(役 職 名 ・官 職 名 ・親 族 名 等) 及 び 固 有 名 彙 で 表 さ れ れ ば 十 分 で あ っ たか らな の で あ る。
■ 発展 問題 (1) 例 文a∼gの
指 示 彙 の 用 法 を説 明 しな さい 。
a 年 を と る と,よ
く コ ウ い う こ とが あ り ま す 。 急 に 物 忘 れ が 激 し く な り,人
の 名 を 忘 れ て,失
礼 を し て し ま う な ど とい う こ とで す 。
b し っ か り メ モ し た ん だ け ど,ソ
レ を 持 っ て くる の,忘
れ ち ゃ っ た 。 ご めん
ね。 c ア ア い え ば コ ウ い う な ど,口 わ れ,信
の 上 手 な 人 が い ます が,言
い 訳 の 多 い 人 と思
用 され な く な り ま す 。
d ソ ウ コ ウ して い る う ち に,夏
休 み も終 わ っ て し ま っ た 。
e ア ノ高 名 な 先 生 を 君 が 知 らな い と は ! f ソ コの 本 屋 で 買 っ て き た 週 刊 誌 に コ ン ナ こ と が 書 い て あ っ た よ。 g 『出 家 と そ の 弟 子 』 の 「ソ ノ 」 は ど うい う意 味?
(2) 森〓 外 ・夏 目漱 石 の 作 品 中 で 使 用 され て い る 「彼 」 「彼 女 」 等 を調 べ,指
示
彙 か 人 称 代 名 彙 か の 判 定 を しな さ い 。 森〓 外
1舞 姫(M23,1890年) ① そ が 傍 に 少 女 は羞 を 帯 び て 立 て り。 彼(少
女 =エ リス)は
優
れ て 美 な り。 ② 鳴 呼,相
沢 謙 吉 が 如 き 良 友 は 世 に ま た 得 が た か る べ し。 され ど
我 脳 裡 に一 点 の 彼(相
沢 謙 吉)を
憎 む こころ今 日まで も残れ り
け り。 2雁(M44,1911∼T2,1913) ③ あ き らめ は 此 女 の 最 も 多 く経 験 し て ゐ る 心 的 作 用 で,か (此 女 =お 玉)の に,滑
精 神 は 此 方 角 へ な ら,油 を さ した 機 関 の や う
か に 働 く習 慣 に な つ て ゐ る 。
④ 若 し非 常 に 感 覚 の 鋭 敏 な 人 が ゐ て,細 彼(末
れ
造)が
か に 末 造 を観 察 し た ら,
常 よ り稍 能 弁 に なつ て ゐ る の に 気 が 付 くだ ら う。
3青 年(M43,1910∼M44,1911) ⑤ 先 頃 大 石 に 逢 つ た 時 を顧 み れ ば,彼(大 つ て,自
石狷 太 郎)を
大 き く思
分 を小 さ く思 つ た に 違 い な い 。
⑥ 兎 に角 彼(お
雪 さ ん)に
は 強 い 智 識 欲 が あ る 。 そ れ が 彼(お
雪
さ ん)を し て 待 つ や う な促 す や う な 態 度 に 出 で しむ る の で あ る 。 純 一 は こ う思 ふ と 同 時 に,此 娘 を 或 る 破 砕 し易 い 物,壊
れ 物,
危 殆 な る 物 と して,こ
れ に保 護 を加 え な くて は な ら な い や う に
感 じた 。 夏 目漱 石 1倫 敦 塔(M38,1905) ⑦ 八 人 の 刺 客 が リチ ヤ ー ドを 取 り巻 い た 時 彼(リ
チ ャ ー ド二 世)
は 一 人 の 手 よ り斧 を 奪 い て 独 り を斬 り二 人 を 倒 した 。 ⑧ 彼(あ
や し き女)は
鴉 の 気 分 を わ が 事 の 如 く に 云 ひ,三
羽 し
か 見 え ぬ 鴉 を 五 羽 居 る と 断 言 す る 。 あ や し き女 を 見 捨 て て 余 は 独 りポ ー シヤ ン塔 に 入 る 。 2彼 岸 過 迄(M45T1,1912) ⑨ だ か ら敬 太 郎 の 森 本 に対 す る 好 奇 心 と い ふ の は,現 本)に
あ る と 云 ふ よ り も,寧 ろ 過 去 の 彼(森
在 の 彼(森
本)に
あ る と云つ
た 方 が 適 当 か も知 れ な い 。 ⑩ 宵 子 の 頭 は 御 供 の 様 に平 ら に 丸 く開 い て ゐ た 。 彼 女(幼 子)は
短 い 手 を や つ とそ の 御 供 の 片 隅 へ 乗 せ て,リ
女 =宵
ボ ン を抑 え
なが ら… 3明 暗(T5,1916) ⑪ 医 者 は 活 発 に また 無 造作 に津 田 の言 葉 を 否 定 した。 併 せ て彼 (主 人 公= 津 田)の
気 分 を も否 定 す る 如 くに 。
⑫ 細 君 は 色 の 白 い 女 で あつ た 。 そ の 所 為 で 形 の 好 い彼 女(津 妻 =延 子)の
田の
眉が 一際 ひ き立つ て見 えた。
■ 参考文 献 1) 佐久間鼎 『 現 代 日本 語 の 表 現 と語 法 』(厚 生 閣1936,改
訂 版1951,補
正 版 くろ しお 出
版,1983) 2) 三 上 章 『現代 語 法新 説』(刀 江 書 院,1955,復
刊,く ろ しお 出版,1972)
3) 三 上 章 『三上 章 小 論 集』 (くろ しお 出版,1970) 4) 阪倉 篤 義 『日本 文 法 の 話』(創 元社1962,『 改稿日 本 文法 の 話 』 教育 出版1974) 5) 久野 暲
『日本 文 法研 究 』(大 修館 書 店,1973)
6) 堀 口和 吉 「 指 示 語 『コ ・ソ ・ア 』考 」(『論集 日本 文学 日本語 』 5,角 川書 店,1978) 7) 堀 口和吉 「 指 示 語 の表 現 性 」(「日本 語 ・日本 文 化」,大 阪外 国 語 大 学,1978) 8) 大 野 晋 『日本 語 の文 法 を考 え る』(岩 波 新 書,1978) 9) 正 保 勇 「『コ ソ ア 」 の 体 系 」(日 本 語 教 育 指 導 参 考 書 8 『日本 語 の 指 示 詞 』 国 立 国 語 研 究所,1981) 10) 金水 敏 「代名 詞 と人 称」(『講 座 日本 語 と 日本 語 教育 4巻 日本語 の文 法 ・文 体(上)』
明 治 書 院,1989) 11) 金 水 敏 ・他
『日本 語 文 法 セ ル フ マ ス タ ー シ リ ー ズ 4 指 示 詞 』(く ろ し お 出 版,1989)
12) 金 水 敏
「方 向 と 選 択 − コ チ ラ 類 の 指 示詞− 」(「 日本 語 学 」9-3,明
13) 堀 口 和 吉
「指 示 詞 コ ・ソ ・ア の 表 現 」(「 日本 語 学 」9‐3,明
14) 春 木 仁 孝
治 書 院,1990))
治 書 院,1990)
研 究 」17,大
「指 示 対 象 の 性 格 か ら み た 日 本 語 の 指 示 詞− ア ノ を 中 心 に − 」(「 言 語 文 化 阪 大 学 言 語 文 化 部,1991)
15) 金 水 敏 ・田 窪 行 則 編 16) 迫 田 久 美 子
『指 示 詞 』(ひ つ じ書 房,1992)
『中 間 言 語 研 究 − 日 本 語 学 習 者 に よ る 指 示 詞 コ ・ソ ・ア の 習 得 』(渓
水 社,
1998) 17) 小 池 清 治 ・小 林 賢 次 ・細 川 英 雄 ・山 口 佳 也 編 『日 本 語 表 現 ・文 型 事 典 』(朝 倉 書 店,2002)
第 7章 なぜ 笹 の雪 が燃 え落 ち るの か? 【体 の 語 彙 ・自然 語 彙 】
キ ー ワ ー ド :語 彙 的 意 味 体 系,語
彙 的 意 味 区 分,語
彙 表,連
語 的観 点
1.自 然 とは 何 か 「自 然 」 は 漢 語 で あ り,和 語 で 訓 じれ ば 「お の づ か ら しか る」 と な る 。 広 義 の 自然 は,森 羅 万 象(宇 英 語"nature"の
宙)を
指 す か ら,人 間 も 自然 に 含 ま れ る こ と に な る 。
原 義 も,同 様 で あ る 。 しか し,今
日で は,慣 用 的 に,む
しろ
人 間 の営 み と対 立 す る もの,人 間 や 動 植 物 と対 立 す る もの を指 す こ とが 多 い 。
2.宮 沢 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ に み る 自然 語 彙 言 語 資 料 と して,宮 沢 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ を取 り上 げ,そ
の語彙的特 質を探
る。 人 間 の 様 々 な お も い が もの ご と に託 さ れ て どの よ う に表 現 され るか とい う プ ロ セ ス を た ど りた い 。 語 彙 に つ い て,量 (連語 的 観 点 な ど)か まず,心
的 観 点 か ら だ け で な く,質 的 観 点
ら も取 り上 げ て み る。
象 ス ケ ッチ 『春 と修 羅 』 第 一 集 の な か の 《春 と修 羅 》 とい う見 出 し
表 題 の あ る心 象 ス ケ ッチ19編(1922.1.6∼1922.5.17の
日付 の もの)に
つ い て,
心 象 ス ケ ッチ の 表 題 も含 め て,自 然 語 彙 に 属 す る と思 わ れ る語 を 抜 き 出す 。 自然 の 定 義 に も様 々 あ るが,こ
こ で は,日 常 生 活 の な か で 人 間 か らみ た 日 月
や風 雨,山 川 な ど を指 し,人 間 や 動 物,植 物,鉱
物,人
工 物 な どは 含 め な い。
また,自 然 現 象 の う ご きや さ ま を表 す 語 も含 め な い(名 詞 に 限 定 す る)。 連語 の なか で 単 語 を捉 え て み る。 単 語 を 構 成 す る 形 態 素 に も着 目す る 。 た と え ば,「 天 山」 の 意 味 に は,心 象 と して 《天 》 と 《山》 が 生 起 し て い る か ら, 《天》 に 関 わ る語 彙 と して も,《 山 》 に 関 わ る語 彙 と して も,カ ウ ン トされ る。
二 度 目の 抜 き出 しで は,☆ 印 を つ け る。 固 有 名 につ い て は,*印
をつ け る 。 レ
トリ ッ ク ・象 徴 な ど の可 能性 につ い て も,視 野 に 入 れ る。 単 語 群 の ま と ま りの そ れ ぞ れ に 見 出 し語(小
語 彙 名)を
(上 位 概 念 ・下 位 概 念)が
示 される ことになる。
『宮 沢 賢 治 全 集I』(ち
つ け る 。 見 出 し語 に は,い
く ま文 庫)を
基 礎 資 料 と して 用 い る こ と と し,抜
した 語 の あ と に括 弧 書 きで 表 題 の 頭 文 字(1∼3字)お が 異 な る と きは,異
くつ か の 段 階
き出
よ び 頁 数 を示 す 。 表 記
な る語 と して扱 って お く。 延 べ 語 数 を 数 字 で,異
な り語 数
を 〔 〕 内 数 字 で示 す 。
天体
17〔10〕
日は ∼ 小 さ な天 の 銀 盤 で ∼ か け て ゐ る(日 輪22) 日に ひ か り(風 景39)日
日3
に 光 る の は(風 景39)
お 日 さ まは そ らの 遠 くで 白 い 火 を(丘 の23)
お 日 さ ま1
日輪 と太市(日 輪22)日 輪青 くかげ ろへ ば(春 と30) 青 そ らに と け の こる 月 は(有 明34)
日輪2《
日》 6
月1
有 明(有 明34)
有 明1
青 じろ い 骸 骨 星 座 の(ぬ す27)
星 座1
〔3 〕
《月》 2 〔2 〕
《星 》 1
小 さ な 天 の 銀 盤 で(日 輪22) 天5
〔1 〕
れ い ろ うの 天 の 海 に は(春 と29) 陥 り く らむ 天 の 椀 か ら(春 と30) ひの き も しん と天 に 立 つ こ ろ(春 と31)
《天 》 7
や さ し く天 に咽 喉 を 鳴 ら し(有 明34)
〔3〕
シベ リ ヤ の 天 末(丘 の23)
天 末1
天 山 の雪 の 稜 さへ ひ か る の に(春 と30)
天 山1
松 と くる み は 宙 に立 ち(お き44)
宙1
《宙 》 1 〔1〕
気象
58〔18〕
そ らか ら雪 は しづ ん で く る(丘 の23) そ ら の遠 くで 白 い 火 を(丘 の23) 雲 は ち ぎれ て そ ら を とぶ(春 と30)
そ ら9
そ らに息つ けば(春 と31)そ らの みぢん にち らば れ(春 と32) 春 の禁 慾 の そ ら高 く( 雲 の38) そ らに飛 び だせ ば(風 景39) そ ら に も悪 魔 が で て 来 て ひ か る(休 息43)
〔2 〕
風 は そ ら を吹 きそ の な ご りは草 を ふ く(お き44) 鳥 は ま た 青 ぞ らを截 る(春 と31) 青 ぞ ら に とけ の こ る 月 は(有 明34) 青 ぞ ら は 巨 き な網 の 目に な つ た(休 息43)
青 ぞ ら3
四 月 の 気 層 の ひか りの 底 を(春 と29)
《空 》
12
《気 》
3
気層 2
気 層 い よい よ す み わ た り(春 と31) ま ば ゆ い 気 圏 の 海 の そ こ に(春 と31)
気圏 1
ど こか の 風 に(丘 の23)
〔2〕
風7
聖玻 璃 の風 が 行 き交 ひ(春 と30) 風 が 吹 くし(雲 の38)ま
た風 が来 て くさ を吹 け ば(風 景39)
風 は 青 い喪 神 をふ き(風 景39)風
《風 》
は そ ら を吹 き(お き44)
7 〔1〕
風 の 中 か らせ き ば らひ(か は45) か げ ろ ふ の 波 と(春 と30)
か げ ろふ 1
陽 ざ し とか れ くさ(陽 ざ36)
ひ で りは パ チパ チ 降 つ て くる(休 息43) ぎ ら ぎ らの 丘 の 照 りか へ し(丘 の23)
陽 ざ し1
《陽》
ひで り1
4 〔4〕
照 りか へ し 1
向 ふ の縮 れ た亜 鉛 の 雲 へ(屈 折20)
雲14
雲 が そ の 面 を どん どん 侵 して(日 輪22) 砕 け る雲 の(春 と29)雲
は ち ぎれ て そ ら を とぶ(春
と30)
玉 髄 の 雲 が な が れ て(春 と30) 雲 の 火 ば な は 降 りそ そ ぐ(春 と32) 雲 の棘 を もつ て 来 い(陽 ざ36)雲
の 信 号(雲 の38)
そ の と き雲 の信 号 は∼ そ ら高 く掲 げ られ て ゐ た(雲 の38) 雲 は た よ りな い カル ボ ン酸(風 景39) 雲 は た よ りな い カル ボ ン酸(風 景39) 雲 に は 白 い と こ も黒 い と こ も あつ て(休 息42) 雲 は み ん な む し られ て(休 息43)う
か ぶ 光 酸 の雲(お き44)
《雲 》
15 〔2〕
〔3〕 〔1〕 〔
く も に か ら ま り(春 と29)
くも 1
雨 は ぱ ち ぱ ち鳴 つ て ゐ る(休 息42) で こぼ この雪 をふ み(屈 折20)く
雨 1
《雨 》
1 〔1〕
らか けの雪(く ら21) 雪 9
く らか けつ づ き の雪 ば か り(く ら21) く らか け 山 の 雪 ば か り(く ら21) そ らか ら雪 は しづ ん で くる(丘 の23) 《雪 》 11
笹 の 雪 が 燃 え落 ち る(丘 の24) 雪 と 蛇 紋 岩 との 山峡 を で て き ま した の に(カ ー25) 天 山の 雪 の 稜 さへ ひ か る の に(春 と30) 起 伏 の 雪 は あ か る い 桃 の 漿 を そ そ が れ(有 明34) 朧 う な ふ ぶ きで す け れ ど も(く ら21)
ふぶ き 1
吹 雪 も 光 りだ した の で(日 輪22)
吹雪 1
薄 明 ど きの み ぞ れ に ぬ れ た の だ か ら(カ ー25)
み ぞ れ 1
《霙》1 〔1〕
氷 霧 の な か で(コ バ26)
氷 霧 1
《霧 》1 〔1〕
光 パ ラ フ ヰ ンの 蒼 い もや(陽 ざ36)
もや 3
光 パ ラ フ ヰ ンの 蒼 い もや(陽 ざ36)
《靄 》
3
《山》
8
あ た ま の 奥 の キ ンキ ン光 つ て 痛 い もや(習 作40)
地形
22〔17〕
山 は ぼ ん や り(雲 の38)山
は ぼ ん や り(雲 の38)
く らか け 山 の 雪 ば か り(く ら21) コ バ ル ト山 地(コ バ26)コ
山峡 を で て き ま した の に(カ ー25)
丘 の眩 惑(丘
と30)
の23)
喪 神 の 森 の(春 と31)
くらか け 山 1
バ ル ト 山 地 の(コ バ26)
天 山 の(春 と30)☆
雪 の稜 さへ(春
山 2
山地 2
〔 6〕
天山 1
山峡 1 稜1 丘 1 《丘 》 1 1〕
森1 《森 》
3
七 つ 森 の(屈 折20)
七つ 森 1
毛 無 森 の(コ バ26)
毛無 森 1
〔 3〕
は や し も(く ら21)
はや し 1
《林 》 1 〔1〕
〔
野 の 緑 青 の縞 の な か で(真 空49) 野
1
野 は ら も(く ら21)
《野 》
野 は らの は て は(丘 の23)
野 は ら2
草 地 の 黄 金 を(春 と31)
草地 1
植 の湿 地(春 と29)
湿地 1
れ い ろ うの 天 の 海 に は(春 と29)
海2
〔 2〕
《地 》
2 〔 2〕
《海 》
まば ゆ い気 圏 の 海 の そ こ に(春 と31)
2 1〕
か は ば た(か は45)
か はばた 2
《川 》
か は ば た で鳥 もゐ ない し(か は45)
要素 な ど
3
2 〔 1〕
27〔20〕
か げ ろ ふ の波 と 白 い偏 光(春 と30)
波 1
岩 頸 だつ て(雲 の38)
岩頸 1
岩 鐘 だ つ て(雲 の38)
岩鐘 1
す な つ ち に廐 肥 を まぶ し(風 景39) す な つ ち に廐 肥 を まぶ し(風 景39)☆
す なつ ち 1 す なつ ち 1
修 羅 の なみ だ は つ ち にふ る(春 と31)
《波 》 1 〔1〕 《岩 》
2 〔 2〕
《砂 》 1 〔1〕 《土 》
つち1
2 〔 2〕
凍 え た泥 の 乱 反 射 をわ た り(ぬ す27)
泥 1
《泥 》 1 〔1〕
水 の 中 よ りもつ と明 る く ( 屈 折20)
水2
《水 》
せ い しん て きの 白 い 火 が 水 よ り強 く (コバ26) 氷 霧 の な か で(コ バ26)☆ 白 い 火 を ど し ど しお 焚 きな さい ます(丘 の23)
2 1〕
氷 霧 1 《氷 》 1 火4
あ や しい朝 の 火 が 燃 え て ゐ ます(コ バ26) せ い しん て きの 白 い 火 が ∼ 燃 え て ゐ ます(コ バ26)
《火 》
透 明 薔 薇 の 火 に燃 され る(恋 と28) 雲 の 火 ば な は 降 りそ そ ぐ(春 と32) くろ ぐう と光素 を吸 ひ(春 と30) 四 月 の気 層 の ひか りの底 を(春 と29)
5 〔2〕
火ばな 1 光 素 1 《光 素 》 1 ひか り2
散 乱 の ひ か りを呑 む(有 明34) 光 の なか の 二 人 の 子(か は45)
光 1〔
1〕
か げ ろふ の 波 と 白 い偏 光(春 と30)
偏 光1
春 光 呪 咀(春 光33)
春 光1
幾 きれ う か ぶ 光 酸 の 雲(お
き44)
〔6 〕
光 酸1
光 パ ラ フヰ ンの 蒼 い もや(陽 ざ36) 光 パ ラ フヰ ンの 蒼 い もや(陽
《光 》 8
光 パ ラ フヰ ン 2
ざ36)
電 しん ば し らの 影 の(丘 の23)
影1
風 景 は な み だ にゆ す れ(春 と29)
風 景2
《影 》1 〔1〕 《風景》2
二 重 の風 景 を(春 と31)
〔1 〕
3.自 然 語 彙 の 意 味 体 系 見 出 し語 を構 成 す れ ば,こ
の 心 象 ス ケ ッチ 《春 と修 羅 》19編
に お け る語 彙
的 意 味 体 系 の 一 部 が 視 えて くる。 こ こで は,古 辞 書 に お け る 意 味 分 類 「天 地 」(「天 象 」 「地 儀 」)を 参 考 に,自 然(生 物 とそ の 活 動 を除 く)を 天 体 と大 地(地
形)に
区 分 し,そ の 中 間 に位 置
す る 気 象 を加 えて,三
層 構 造 で捉 え た 。 ま た,語 数 が 少 な く,い ず れ に も分 類
しが た い 自然 要 素,自
然 エ ネ ル ギ ー,抽 象 的 自然 な どを 《要 素 な ど》 と して お
く。
天 体
日 … 日,お
日 さ ま,日
月 … 月,有
明
輪
星 … 星 座 天 … 天,天 宙
末,天
山
…宙
空 … そ ら,青 ぞ ら 気 … 気 層,気
圏
風 … 風 陽 … か げ ろ ふ,陽
気象
ざ し,ひ で り,照
雲 … く も,雲 雨 … 雨 雪 …雪,ふ
ぶ き,吹 雪
霙 … み ぞ れ
自然
霧 … 氷 霧
りか へ し
靄 … も や 山 … 山,く
らか け 山*,山
地,天
山 ☆,山
峡,稜
丘 …丘 森 … 森,七
地 形
つ 森*,毛
無 森*
林 … は や し 野 … 野 は ら 地 … 草 地,湿
地
海 … 海 川 … かは ばた 波 … 波 岩 … 岩 頸,岩
鐘
砂 … す な つ ち 土 …す なつ ち☆ ,つ ち 泥 …泥
要素
水 … 水
な ど
氷 … 氷霧 ☆ 火 … 火,火
ばな
光 素 … 光素 光 … ひ か り,光,偏
光,春
光,光
酸,光
パ ラフヰ ン
影 … 影 風 景 …風 景
あ る地 形 を示 す 固 有 名 「く らか け 山 」 「七 つ 森 」 「毛 無 森 」 につ い て は,単 な る標 示 で は な く,自 然 の概 念 も示 され る。 賢 治 の 意 識 の な か で は,例
え ば 「く
らか け 山」 は 「鞍 を掛 け た よ う な 山」 と い う東 北 の 地 に お け る集 合 的 無 意 識 と 響 き合 う意 味 が息 づ い て い る。 自然 語 彙 に 含 め て お く。 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ 群 は詩 の ス タイ ル を取 っ て い て,い ず れ の 語 も レ ト リカ ル で あ り象 徴 的 で あ る 。 喩 え る(象
徴 す る)語
そ の もの の 意 味 と喩 え られ る
(象 徴 され る)意 味 と を二 重 に 響 か せ て い る。 光 パ ラ フヰ ンの 蒼 い もや(陽
ざ36)
あ た まの 奥 の キ ンキ ン光 つ て 痛 い もや(習 れ い ろ うの 天 の海 に は(春
と29)
《靄》
作40) 《海 》
まば ゆ い 気 圏 の 海 の そ こ に(春 と31) 笹 の雪 が 燃 え 落 ち る(丘 の24)
《雪 》 あ
や しい 朝 の 火 が 燃 え て ゐ ます(コ バ26)
《火 》
せ い しん て きの 白 い火 が ∼ 燃 えて ゐ ま す(コ バ26) 「も や 」 「海 」 で 喩 え られ る意 味 は,そ 「火 」 で は,そ
れ ぞ れ 気 象 で も地 形 で も な い 。 「雪 」
の 語 の意 味 と象 徴 され る意 味 とが 二 重 に響 い て い る。
宮 沢 賢 治 の 心 象 に は 〈靄〉 〈海 〉 〈雪 〉 〈火 〉 が 映 じて い て,外 界 に 「靄」 「海」 「雪 」 「火 」 が あ る か な い か に拘 らず,心 象 と し て は 実 在 して い る 。 実 在 す る 心 象 を そ の ま まス ケ ッチ す る。 知 覚 され た 心 象 も想 像 され た 心 象 も,心 象 的実 在 と い う点 で は 区 別 さ れ な い 。 こ こ で は,レ
トリ ッ ク ・象 徴 と い う次 元 を越 え て,す
べて心象 的に実在す る
意 味 と して 捉 え る 。 同 様 に,「 天 山」 に は 〈天〉 と 〈山〉 と い う心 象 が,「 氷 霧 」 に は 〈氷 〉 と 〈 霧 〉 と い う心 象 が 現 れ る か ら,重 複 して 抜 き 出 さ れ る。 意 味 区 分 に 際 し て, 形 態 素 に も着 目す る こ と に な る。 語 彙 量 の 扱 い に 際 して,注 意 を要 す る。
4.語 彙 表 お よ び使 用 比 率 こ こで,延
べ 語 数 と異 な り語 数 を 含 む 語 彙 表 をつ くっ て み よ う。 そ れ ぞ れ の
自然 語 彙 の な か で の 使 用 比 率 も併 せ て示 す 。
まず,目
を惹 くの は,気 象 語 彙 の 延 べ 語 数 の 多 さで あ り,自 然 語 彙 の延 べ 語
数 の 5割 弱 を 占 め る 。 天 体 語 彙 と気 象 語 彙 の 延 べ 語 数 を合 わせ る と(古 人 の い う 「天 象 」 に相 当 す る),自 彙,地
然 語 彙 の 延 べ 語 数 の 6割 を 占 め る 。 要 素 な ど の 語
形 語 彙 の 延べ 語 数 が そ れ ぞ れ 自然 語 彙 の延 べ 語 数 の 2割 程 度 を 占 め る 。
語 彙 量(異
な り語 数)に
素 な ど の語 彙,気
つ い て い えば,自
然 語 彙 の 異 な り語 数 に対 して,要
象 語 彙 が そ れ ぞ れ 3割 程 度,地
形 語 彙 が 2割 5分 程 度,天
体
語 彙 が 1割 5分 を 占め る。 延べ 語 数 を異 な り語 数 で割 る と,一 語 あ た りの 平 均 使 用 度 数 が 得 ら れ る 。 気 象 語 彙 で は,一 語 あ た りの 平 均 使 用 度 数 は3.2回 で,同 られ て い る こ とが わ か る 。 天 体 語 彙 で は1.7回,要
じ語 が 頻 繁 に用 い
素 な ど の 語 彙 で は1.4回,
地 形 語 彙 で は1.3回 で あ るか ら,一 つ の語 が 一 回 しか 用 い られ な い こ と も多 い こ とが わ か る。 語 彙 的 意 味 区 分 に よ る延 べ 語 数 で は,「 天 象 」 語 彙 に 属 す る 《雲,空,雪, 天,風,日
》 の 使 用 度 数 が 多 く,地 形 語 彙 で は 《山 》 とい う地 形 の な か で は 天
や 空 に 近 い 上 方 に あ る も の,要 素 な どの 語 彙 で は 《光,火 》 とい う 自 然 エ ネ ル ギ ー を 表 す もの の使 用 度 数 が 多 い 。 《光 》 は 《日》 《月》 と関 わ りが 深 い。 以 上 の こ とか ら,宮 沢 賢 治 の 心 象 と して 現 れ る 自然 は,視 線 が 地 上 の 人 間 の 視 点 よ り上 方 に 向 か う もの が 多 い こ とが わ か る 。 《雲,空,雪,山,天,風, 光,日 》 と使 用 度 数順 に並 べ て み る と,土 着 の 住 人 の 視 点 か ら東 北 の 自然 を色 濃 く投 影 して い る とい え る 。 また,《
雲,風,
光,日,火
》 と並 べ て み る と,
そ の 自然 を 現 象 させ る エ ネ ル ギ ー も心 象 と して 映 じて い る とい え る。
5.連 語 的 観 点 か らみ た語 彙 の 特 徴 語 の呼 応 も含 め た 連 語 的 観 点 か ら語 彙 の特 徴 を探 る方 法 もあ る。 《日》 の 語 彙 は,「 日」 「お 日 さ ま」 「日輪 」 の 3語 か ら成 る。 「日」 は和 語 の 常 語,「 お 日 さ ま」 は 和 語 の 敬 語 で 幼 児 語,「 日輪 」 は 漢語 の 常 語 で あ る。 動 詞 との 連 関 を み る と,「 日」 は 「日に 光 る 」 「日 は∼ か け て ゐ る」,「日輪 」 は 「日 輪 ∼ か げ ろ ふ 」 とい う形 で 用 い られ る。 〈日− 光 る 〉 〈日輪 − か げ る 〉 とい う対 応 が 認 め ら れ る 。 「お 日 さ ま」 は 「お 日さ まは ∼ お 焚 き な さい ます 」 と い う形 で 用 い られ る 。 童 話 ふ うの 語 り口 で 擬 人 化 し,敬 語 に よっ て 呼 応 して,待
遇表
現 の 一 致 が み られ る 。 形 容 詞 との 連 関 を み る と,「 日輪 」 は 「「日輪 青 くか げ ろ へ ば」 とい う脈 絡 で 用 い られ る。 〈日輪 − 青 い 〉 と い う対 応 は ,非 新 で あ り,〈 日輪 − か げ る 〉 と い う対 応 と相俟 っ て,不
日常 的 で 斬
吉 な 心 象 を もた らす 。
名 詞 と の 連 関 をみ る と,「 日」 は 「日は ∼ 小 さ な 天 の 銀 盤 で 」 とい う形 で 用 い られ,間
接 的 に 〈日− 天 〉 と い う 〈対 象 − 場 所 〉 の 対 応 が 認 め られ る ほ か,
〈日− 小 さ な天 の銀 盤 〉 と い う比 喩 関 係 に よ って,〈 日− 銀 盤〉 と い う対 応 が 類 似 関 係 と して 認 め ら れ る 。 「日」 は 「日は ∼ 雲 が そ の 面 を どん どん 侵 して か け て ゐ る 」 と い う脈 絡 で 用 い られ,〈 雲− 侵 す 〉 〈日− か け る〉 とい う 因果 関係 に よ っ て,〈 日− 雲 〉 と い う対 応 が 敵 対 関 係 と して 認 め ら れ る 。 「お 日 さ ま」 は 「お 日 さ ま は そ らの 遠 くで 白 い 火 を ど し ど しお 焚 き な さ い ま す 」 と い う脈 絡 で 用 い られ,〈 日− 空 〉 とい う 〈対 象− 場 所 〉 の 対 応 が 認 め られ る ほ か,〈 日− 火 〉 とい う対 応 が 「日が 火 を焚 く」 とい う新 しい 童 話 的 ・神 話 的 ・科 学 的 な発 想 に 基 づ い て 生 み 出 さ れ る。 「日輪 」 は 「日輪 と太 市 」(題 名)と い う形 で用 い られ, 自然 と個 人 が 同 じ資 格 で対 峙 す る よ う に 対 応 して い る。 《雲 》 の 語 彙 は,「 雲 」 「く も」 の 2語 か ら成 る 。 同 じ和 語 で あ る が,漢
字と
ひ らが な とい う文 字 表 記 の 違 い が あ る 。 動 詞 との 連 関 を み る と,「 縮 れ る」 「侵 す 」 「砕 け る」 「ち ぎ れ る 」 「とぶ 」 「な が れ る 」 「む し ら れ る」 「うか ぶ 」 「か ら ま る 」 と 対 応 し,「 雲 」 に対 す る宮 沢 賢 治 の 独 特 の 激 し い イ メー ジ が付 与 され る。 す な わ ち,心 象 と して の雲 は,よ
じれ 縮 れ ち ぎれ 砕 け む し られ,う
かびな
が れ,と び 侵 す もの で,宮 沢 賢治 自身 の 精 神 的 エ ネ ル ギ ー と重 ね 合 わせ られ る。 運 命 に よ って 迫 害 され る苦 悩 か ら 自虐 的 な 虚 無 を経 て,反 転 して 自暴 自棄 的 に 何 もの か に 向 か っ て行 く。 名 詞 と の 連 関 を み る と,「 雲 の火 ば な 」 「雲 の 棘 」 と い う表 現 に,「 雲」 す な わ ち宮 沢 賢 治 自身 の 精 神 的 エ ネ ル ギ ー の 激 しい 攻 撃 的 な 属 性 と して 「火 ば な」 「棘 」 が示 され,そ れ ぞ れ 「降 りそ そ ぐ」 「もつ て 来 る」 (「もつ て 来 い 」 と い う命 令 形 で)と
い う動 詞 と対 応 す る。 「雲 の 信 号 」 とい う
表 現 に,精 神 的 エ ネ ル ギ ー の 通信 能 力 あ る い は交 感 能 力 が 示 さ れ,「 も う青 白 い春 の 禁 欲 の そ ら高 く掲 げ られ て ゐ た」 とい う述 部 に後 続 して,宮 沢 賢 治 の 性 的 懊 悩 と宗 教 的希 求 との 葛 藤 が 示 され る 。 「亜 鉛 の 雲 」 「玉 髄 の 雲 」 「光 酸 の 雲 」 「雲 は た よ りな い カ ル ボ ン酸 」 な ど の 表現 で は,〈 鉱 物 − 雲 〉 は 〈喩 え る もの− 喩 え られ る も の〉 とい う関 係 に な っ て い る が,む
しろ 心 象 と して 鉱 物 語 彙 と重
ね合 わ さ れ て い る と捉 え た 方 が よ いか も しれ な い 。 「雲 は ち ぎれ て そ ら を とぶ 」 「雲 は み ん なむ し られ て 青 ぞ ら は 巨 きな 網 の 目に な つ た 」 な どの 表 現 で は,〈 雲 − 空 〉 とい う 〈 現 象− 場〉 〈 対 象 − 場 所 〉 〈図 − 地 〉 の 対 応 が 認 め ら れ る 。 「あ け び の つ る は く も に か ら ま り」 とい う表 現 で は,〈 あ け び の つ る− 雲 〉 とい う 異 質 の もの の斬 新 な 取 り合 せ に よ っ て,視 点 の転 換 が 示 さ れ て い る。 《雪 》 の 語 彙 は,「 雪 」 「ふ ぶ き」 「吹 雪 」 の 3語 か ら成 る 。 「雪 」 は 和 語 で 漢 字 表 記,「 ふ ぶ き」 は和 語 の 複 合 語 で ひ らが な表 記,「 吹 雪 」 は和 語 の 方 言 で カ タカ ナ の ル ビ付 きの 漢 字 表 記 で あ る 。 延 べ 語 数 は11例 で 《雨 》 に 比 べ て 多 く, 東 北 の 風 土 を想 わ せ る。 動 詞 との 連 関 をみ る と,「 雪 」 は 「ふ む 」 「ひか る 」(2 例)「 しづ ん で くる」 「燃 え 落 ち る 」 「そ そ が れ る」 と対 応 す る 。 〈 雪− ふ む〉 と い う対 応 は,雪
国 の 自然 の な か で 暮 す 人 間 の 営 み の 基 本 で あ る 。 〈雪 − 降 る 〉
とい う一 般 的 な対 応 は み ら れ な い 。 〈雪− 光 る 〉 と い う対 象 と 明 暗 の 対 応 で 用 い られ る 。 「ひ と か け づ つ きれ い に ひ か りな が らそ らか ら雪 は しづ ん で く る 」 とい う表 現 に は,東 北 の風 土 か ら く る沈鬱 さが 示 され る だ け で な く,聖 な る 天 と俗 な る 地 とい う対 照 も示 され る。 「笹 の 雪 が 燃 え 落 ち る」 と い う表 現 は,矛 盾 した 内 容 の 衝 突 に よ る 逆 説 的 な (マ ニ エ リ ス ム ふ うの ) 斬 新 な 表現 で あ る。 「(お日 さ まは そ らの 遠 くで 白 い 火 を ど し ど しお 焚 き な さ い ます)」 か ら続 くの で,日
が 昇 る につ れ,雪
が どん どん 溶 け て い くこ との 比 喩 で あ る(「 燃 え 落 ち
る」 は 「火」 の 縁 語 に な っ て い る)。 そ の ま ま宮 沢 賢 治 の 激 しい 眩 惑 的 な心 象 で もあ る。 「起 伏 の 雪 は あ か る い 桃 の漿 を そ そ が れ 」 とい う 表 現 は,明
け方 に
陽 の 光 が 雪 山 に 射 す 情 景 の 比 喩 で あ る 。 「吹 雪 」 は 「光 りだ す 」 と対 応 す る 。 〈雪− 光 る 〉 と い う対 応 の 延 長 線 上 に あ る。 名 詞 との 連 関 を み る と,「 雪 」 は 「く らか け 」 「く らか け つ づ き」 「く らか け 山」 「の ぞ み 」 「そ ら」 「笹 」 「蛇 紋 岩 」 「山 峡 」 「天 山 」 「稜 」 「起 伏 」 と対 応 す る 。 雪 を被 る 山(の 形 状)と
い う結 び つ
きが 強 い 。 〈雪 − の ぞ み 〉 とい う対 応 に は,東 北 の 自然 を生 き る宮 沢 賢 治 自 身 の 個 人 的 な思 い 入 れ が こ め られ て い る 。 「ふ ぶ き」 は 「酵 母 」 と レ ト リ ッ ク 関 係(比 喩)に
よ っ て対 応 す る 。 「吹 雪 」 は 「太 市 」 「毛布 」 「ズ ボ ン」 と対 応 し,
東 北 の 自 然 を 生 き る具 体 的 な 人 間 の 生 活 の 営 み を感 じ させ る 。
6.想 像 力 の 素 材 と して の 自然 語 彙 宮 沢 賢 治 の 精 神 的 な 眼 あ る い は想 像 力 の 手 は,大 地 に根 ざ し なが ら,聖 な る 天 に 向 か っ て,上 昇 す る。 天 地 の 間 の 気 象 に,賢 治 の激 しい 生 々 しい 想 いが 託 され る。 天 か らの 信 号 に よ っ て,日 常 的 な風 景 と精 神 的 な心 象 風 景 とは 二 重 映 しに 一 体 化 す る 。 心 象 を生 み 出 す 精 神 は,宇 宙 精 神(普 遍 精 神)と
して 感 得 さ
れ る 。 宮 沢 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ にみ る 自然 語 彙 は,精 神 的 階梯 を もつ 体 系 と し て,自 由 な想 像 力 の 素 材 と な る 。
■ 発展 問題 (1) 連 語 的 観 点 か ら, 《天 》 と 《空 》 の 語 彙 の 特 徴 を 比 較 して,賢
治 の 自然 観 に
つ い て 考 察 して み よ う。
(2) 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ を 言 語 資 料 と して,動 べ,自
然 語 彙 との 関 連 に つ い て,考
物 語 彙,植
物 語 彙,鉱
物 語彙 を 調
察 し て み よ う。
(3) 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ と童 話 を比 較 して,語
彙 の分 布の傾 向 の違 いにつ い て調
べ て み よ う。
■ 参考文献 1) 前 田富祺 ほ か 『 語 彙原 論 』 講座 日本 語 の語 彙 1(明 治 書 院,1982) 2) 宮 島達 夫 『 語 彙 論研 究 』(む ぎ書 房,1994) 3) NTTコ
ミュニ ケ ー シ ョン科 学 研 究所 『日本 語 語彙 大 系 』(岩 波 書 店,1997)
4) 川瀬 一 馬 『 増 訂 古辞 書 の研 究 』(雄 松 堂 出版,1955) 5) 原 子 朗 『 新 宮 澤 賢治 語 彙辞 典 』(東 京書 籍,1999) 6) 小林 俊 子 『 宮 沢 賢 治− 風 を織 る言 葉− 』(勉 誠 出 版,2003) 7) 河原 修 一 「 宮 沢 賢 治 の心 象 ス ケ ッチ に み る 自然 語彙 」(金 沢大 学 国 語 国文28,2003)
第 8章 「 連 れ て 出 る」 は複合 語 か? 【用 の 語 彙 ・複 合 動 詞 】
キ ー ワ ー ド :複 合 動 詞,補 Ⅱ
足 型 複 合,修
飾 型 複 合,接
続 型 複 合,派
生 I型 複 合,派
生
型 複合
1.問 題 の所 在 − 三 島 由紀 夫 作 『豊 饒 の海 』 第一 部 『春 の 雪 』 冒頭 部 の 表現− 三 島 由 紀 夫 の最 後 の 作 品 と な っ た 『豊 饒 の 海 』 の 第 一 部 『春 の 海 』 は次 の よ う に書 き起 こ さ れ て い る。 学 校 で 日露 戦 役 の話 が 出 た と き,松 枝 清 顕 は,も つ と も親 しい 友 だ ち の 本 多 繁邦 に,そ の と きの こ と を よ くお ぼ え て ゐ る か と きい て み た が,繁 邦 の 記 憶 もあ い まい で,提
灯 行 列 を見 に 門 まで 連 れ て 出 られ た こ とを,か す
か にお ぼ えて ゐ る だ け で あ つ た 。 下 線 を施 した 「連 れ て 出 られ た 」 と い う表現 に 違 和 感 を覚 え る 。 違 和 感 を 分 析 して み る と 次 の よ う に な る。 ① 「連 れ て 出 る」 は 形 式 の 上 で は 2文 節 な の で あ る が,受
身の助動 詞の接続
の 仕 方 か ら判 断 す る と,1 語 と判 断 され る。 は た して,ど べ き なの か ?
の よ うに 考 え る
言 い換 え る と,複 合 動 詞 化 す る と は ど う い う こ と な の か ?
② 意 味 的 に は,「 出 られ た」 の で は な く 「連 れ られ て」 「出 た 」 の で あ る。 受 身 が 成 立 す る の は 「連 れ る」 とい う前 項 動 詞 と の 間 で あ る の に,形 式 の 上 で は 「出 られ た 」 で 後 項 動 詞 と の 間 とな って い る。 意 味 と文 法 形 式 との ズ レを どの よ う に 考 え るべ きな の か ? 以 下,日
本 語 の 複 合 動 詞 の 問 題 を考 察 す る 中 にお い て,こ
て 考 え る こ とに す る。
れ らの 問 題 に つ い
2.複 合 動 詞 の 五 分 類 日本 語 は英 語 や 中 国 語 な ど,他 の 言 語 と比 較 す る と動 詞 の種 類 が 少 な い と さ れ る 。 この 少 な さ を補 う も の の 一 つ と して,複 合 動 詞 が 発 達 して い る 。 まず,前 項 と後 項 の 構 文 的 関 係 及 び 品 詞 的 観 点 よ り分 類 す る と次 の 五 種 類 に なる。 構
文
品
詞
語
例
補足 型 名詞+動
口ず さむ 心 掛 け る 巣立 つ 腹 立つ 目覚 め る 詞 夢見る
修飾型
歩 き回る 祈 り殺 す 切 り上 げる 走 り込 む 詞 降 り始 め る
動詞連 用形+動
受 け て 立 つ う っ て 変 わ る 買 っ て 出 る
接続 型 動詞連 用形 +て +動 詞
食 って かか る
派生Ⅰ 型 形容詞 語幹+動詞 派生Ⅱ 型 副詞 の一部+動
高 す ぎる 安す ぎる 近寄 る 遠 ざか る 若 返 る 詞 ぶ ら下 が る ぶ ら下 げる
名 詞 と動 詞 で構 成 さ れ る もの は,次 の よ うに,補 足 関係 に あ り,動 詞 節 が 一 語 化 した もの と考 え る こ とが で き る。 口 ヂ
す さ む
→
口ず さむ (道 具 格 補 足)
心 ニ
掛ける
→
心 掛 け る (依 拠格 補 足)
巣 カ ラ 立 つ
→
巣立 つ
腹 ガ 立
→腹
つ
立つ
(起 点 格 補 足) (主 格 補 足)
目 ガ
覚 める
→
目覚 め る (主 格 補 足)
夢 ヲ
見る
→
夢 見る
(対 格 補 足)
動 詞 連 用 形 と動 詞 で構 成 され る もの は,意 祈 り殺 す),補
助 関 係(考
え 込 む,切
味 的 に は,接 続 関 係(歩
り上 げ る,降
り始 め る)な
き回 る,
どあ る が,形
式 的 に は 修 飾 関 係 で あ り,す べ て 動 詞 句 が 一 語 化 した もの とみ なす こ とが で き るものである。 動 詞 連 用 形 と接 続 助 詞 「て」 と動 詞 に よ り構 成 さ れ る もの は,基 本 的 に接 続 関 係 に あ る 。 詳 述 は次 節 に お い て お こ な う。 形 容 詞 語 幹 と動 詞 で 構 成 され る もの は,動 詞 が接 尾 辞 化 した もの(高 す ぎる, 安 す ぎる)と,形
容 詞 語 幹 が 接 頭 辞 化 した もの(近 寄 る,遠
ざか る)と,両
者
が独 立 性 を 失 い 融 合 した もの(若
返 る)と に な る が,大
き く と らえ れ ば,派 生
語 化 に よ り複 合 した もの と考 え る こ とが で き る。 ま た,副 詞(擬
態 語)の
一 部 と動 詞 で 構 成 さ れ た も の は,副 詞 が 独 立 性 を 失
い,接 頭 辞 化 して い る の で,こ れ も派 生 語 化 して 複 合 した もの と考 え る こ とが で き る。 複 合 動 詞 で 最 も多 い の は修 飾 型,次
い で 補 足 型,接
続 型 と続 き,派 生 型 は 少
ない 。 特 に 派 生Ⅱ 型 は例 示 した もの 以 外 に は 存 在 せ ず,本 動 詞 の 少 な さ を補 う もの と して は,ほ
とん ど機 能 して い な い 。
と こ ろ で,問 題 と した 「連 れ て 出 る」 は接 続 型 の 複 合 動 詞 で あ る の で,次 節 で は この 型 の 複 合 動 詞 に つ い て,よ
り詳 し く検 討 す る こ と に す る。
3.修 飾 型 及 び 接 続型 の 複 合 動 詞 の 下 位 分 類 修 飾 型 及 び接 続 型 の 複 合 動 詞,言
い 換 え る と動 詞 同 士 が 複 合 化 した も の を,
前 項 動 詞 と後 項 動 詞 の 品 詞 的 関 係,構
文 的 関 係 よ り分 類 す る と次 の 四 分 類 に な
る。
Ⅰ類 V1+V2
(歩 き回 る,祈
前 項 動 詞,後
り殺 す,泣
項 動 詞 と もに 自立 語 で,文
き叫 ぶ) 中 の 名 詞 句 と そ れ ぞ れ格 関係 を
構 成 す る。 太 郎 が 町 中 を歩 き回 る。 太 郎 が 歩 く/ 太 郎 が 回 る 街 中 を歩 く/ 街 中 を 回 る 見 掛 け は複 合 化 して い る が,実
質 は単 に 並 立 接 続 し て い る に す ぎ な い 。
そ の こ とは, 歩 き回 る
→
歩 いて回 る
祈 り殺 す
→
祈 って殺す
泣 き叫 ぶ
→
泣 いて叫ぶ
な ど と,接 続 型 に変 換 可 能 で あ る こ とか ら も わ か る 。 因 み に,Ⅱ,Ⅲ, Ⅳ類 の 複 合 動 詞 は接 続 型 に変 換 で き な い。
前 項 動 詞 が 後 項 動 詞 を限 定 修 飾 す る。 「歩 き回 る 」 は 「駆 け 回 る」 「飛 び 回 る」 「走 り回 る 」 な ど と は 異 な り,
「歩 く」 状 態 で 「回 る 」 とい う具 合 に,前 項 動 詞 が 後 項 動 詞 を 限 定 修 飾 す る。 こ の 意 味 で,文 Ⅱ類V1+v2
字 通 りの 修 飾 型 の 複 合 動 詞 とい う こ とが で き る。
(走 り込 む,静
ま り返 る,降
り始 め る)
前 項 動 詞 が 自立 語 で,後 項 動 詞 が 補 助 動 詞,文 中 の 名 詞 句 と は 前 項 動 詞 の み が 格 関係 を構 成 す る 。 太 郎 が 電 車 に走 り込 ん だ。 太 郎 が 走 る /*太
郎 が 込 ん だ 電 車 に走 る/ *電 車 に 込 ん だ
前 項 動 詞 を 後 項 動 詞 が 補 助 し限 定 す る。 逆 修 飾 型 の 複 合 動 詞 とい う こ と が で き る。 Ⅲ類 v1+V2
(う ち 眺 め る,差
し迫 る)
前 項 動 詞 は接 頭 辞 化 し後 項 動 詞 の 意 味 に な ん らか 意 味 を 付 与 す る。 派 生 複 合 動 詞 と本 質 的 に は 変 わ らな い もの 。 後項 目動 詞 のみ が 文 中 の 名 詞 句 と格 関 係 を構 成 す る。 景 色 を うち 眺 め る 。
期 限 が 差 し迫 る
*景 色 を うつ / 景 色 を眺 め る
*期 限が 差 す / 期 限 が 迫 る
「う ち 眺 め る 」 は 「遠 く眺 め る 」 の よ うな 意 味 で あ り,修 飾 型 に 属 す る。 Ⅳ類 v1+v2
(取 り持 つ,ひ
前 項 動 詞,後
き立 つ)
項 動 詞 と も に補 助 動 詞 化 して 一 語 と して 完 全 に融 合 し て い
る もの 。 文 中 の 名 詞 句 との 格 関係 を 個 別 に構 成 す る こ とが な い 。 二 人 の仲 を取 り持 っ た 。 *仲 を取 る / *仲 を持 つ
味 が ひ き立 つ *味 が ひ く/ *味 が 立 つ
4.「連 れ て 出 ら れ た 」 は 日本 語 と して 自然 か? 前 節 で 述 べ た通 り,I 類 に 属 す る修 飾 型 複 合 動 詞 は,原 則 と して 接 続 型 に 変 換 す る こ とが で き る。 歩 き回 る
→
歩 いて 回る
祈 り殺 す
→
祈 って殺 す
泣 き叫 ぶ
→
泣 いて叫 ぶ
こ れ に 対 して,Ⅱ, Ⅲ , Ⅳ類 の 複 合 動 詞 は 接 続 型 に変 換 す る こ とが で きな い 。 接 続 型 との 併 存 現 象 は I類 の 複 合 動 詞 にの み 観 察 され る 際 立 っ た 特 徴 とす る こ
とが で き る 。 一 方,「 受 け て た つ,う わ る,と
っ て 返 す,見
っ て 変 わ る,買
っ て で る,食
って か か る,と
っ て代
て と る,持 っ て ま わ る」 な ど の接 続 型 複 合 動 詞 は修 飾 型
を もた な い。 さ て,こ
れ まで の 考 察 を参 考 に して,問 題 とな る 「連 れ て 出 る」 に つ い て 考
察 す る こ と に す る。 連 れ て 出 る → *連 れ 出 る 修 飾 型 に 変 換 す る こ とが で き な い の で,複 合 動 詞 で あ る とす る な ら,接 続 型 とい う こ と に な る 。 接 続 型 複 合 動 詞 を受 身化 して み る と次 の よ うに な る。 青 年 が 堂 々 と受 け て 立 つ → 青 年 に堂 々 と受 け て 立 た れ て み る と… … *青 年 に堂 々 と受 け られ て み る と… … *青 年 に堂 々 と立 た れ て み る と … … 青 年 が 堂 々 と 買 っ て 出 る → 青 年 に 堂 々 と買 っ て 出 られ て み る と… … *青 年 に 買 われ て み る と … … *青 年 に 出 られ て み る と… … こ れ らの 操 作 に よ り,「 受 け て 立 つ 」 「買 っ て で る 」 が 完 全 に一 語 化 して い る こ とが 判 別 さ れ る 。 親 が子 供 を 連 れ て 出 る
→ ?親 に子 供 が 連 れ て 出 られ た。 親 に 子 供 が 連 れ られ た 。 *親 に 子 供 が 出 られ た。
「連 れ て 出 る」 は 一 語 化 して い る とは 考 え憎 い とい う こ とが わ か る 。 三 島 の 表 現 は 自然 な 日本 語 とは み な さ れ な い の で あ る 。 彼 は,つ
ぎ の よ うに 表 現 す べ
きで あ った 。 提 灯 行 列 を見 に 門 まで 連 れ て 出 られ た こ と →
連 れ られ て 行 っ た こ と
→
連 れ て行 か れ た こ と
文 豪 三 島 由紀 夫 が 代 表 作 『豊 饒 の 海 』 第 一 部 『春 の 海 』 の フ ァ ー ス トセ ンテ ンス と い う もっ と も注 目さ れ る と こ ろで,な 使 用 した の か 理 解 しか ね て い る。
ぜ,こ
の よ う な不 自然 な 日本 語 を
■ 発展問題 (1)次 の複 合動 詞の 型及 び類 を判 定 しな さい。 や って 来 る 買 い集 め る 訪 ねて み る 気付 く 差 し出す 生 か して お く 息 詰 まる 背負 う 老 いか が まる 出て くる 引 き出す 問 い詰 め る 刻 み 込 む 高鳴 る
(2)「… は じる 」 と 「… だ す 」,「… い く」 と 「… くる 」,「… お わ る 」 と 「… お え る 」 の 意 味 ・用 法 の 相 違 に つ い て 述 べ な さい 。 A 考 えは じめ る 食 べ は じめ る 走 りは じめ る 降 りは じめ る 笑 いは じめ る a 考 えだ す
食 べ だす
走 りだす
降 りだ す
笑 いだ す
B 歩 いて くる
進 ん で くる
上 って くる
増 えて くる
わか って くる
b 歩 いて い く 進 ん でい く
上 って い く 増 えて い く わか って い く
C 書 きお わ る
食 べ おわ る
飲み お わ る
払 いお わ る
読みおわる
c 書 きお え る
食 べ お える
飲み お え る
払 いお え る
読みおえる
(3)次 の 「… … か か る / … … が か る 」 を 幾 つ か に 分 類 し,そ れ ら の 意 味 を記 述 し な さい。 行 きか かる 襲いか かる 躍 りか かる
神がかる
来か かる
食ってか かる
暮 れか かる 差 しか かる しかか る
時代 がかる
しなだれかか る 死 にかか る
芝居が かる 下がか る
掴 み掛かる
突 っかかる
攻めか かる
通 りが かる 飛 びか かる 取 りか かる
伸ば しかかる 乗 りかかる
不 良が かる 降 りか かる もたれ かかる 行 きかかる
出かか る 引っかか る
寄 っかかる
(4)次 の 「…… 込 む」 を幾 つ か に分類 し,そ れ らの意 味 を記述 しな さい。 また, 単独 の 「込 む」の場 合 と比 較 して,異 同につ いて述べ な さい 。 当て込 む 勢い込む 意気込 む 鋳込 む
入 り込 む 入れ込む
植 え込 む
打 ち込 む 売 り込む 老い込 む 追い込 む 送 り込 む 押 さえ込 む 教 え込 む 押 し込 む 落ち込む 踊 り込 む 覚 え込 む 思 い込 む 折 り込む
買 い込 む
抱 え込 む 書 き込む 駆 け込 む 担 ぎ込 む 刈 り込 む 考 え込む
聞 き込 む
着込 む
忍 び込 む
決め込む 組み込 む 繰 り込 む 誘 い込 む 沈 み込む
絞 り込 む 吸い込む 滑 り込 む 刷 り込 む ず れ込 む 座 り込む 炊 き込 む 突っ込 む 溶け込む 飛 び込 む 取 り込 む 投 げ込 む 逃 げ込む
煮込 む
使 い込む 注 ぎ込む 付 け込 む 寝込 む
話 し込 む
眠 り込 む 飲 み込む
冷 え込 む 封 じ込む 踏み込む 振 り込 む 降 り込む 巻 き込 む 丸め込 む 舞い込 む 申 し込む 潜 り込む 持 ち込む 盛 り込む 呼び込む
読み込 む
割 り込 む 覗 き込 む 叩 き込 む 垂 れ込む せ き込 む 住み込む
■ 参考文献 1) 武 部 良 明 「複 合動 詞 にお け る補 助 動 詞 的 要 素 に つ い て 」(「金 田 一博 士 古 希 記 念 言 語 ・民 族論 叢 』 三 省 堂,1953) 2) 見坊 豪 紀 「複合 語 」(『現 代 雑 誌 九十 種 の用 語 用 字 第 3分 冊 』秀 英 出 版 ,1962) 3) 長 嶋 善 郎 「複合 動 詞 の構 造 」(『日本 語 講座 4 日本 語 の 語彙 と表現 』 大 修 館 書店,1976) 4) 関 一 雄 『国語 複 合動 詞 』(笠 間書 院,1977) 5) 森 田 良 行 「日本語 複 合 動詞 につ い て」(『講 座 日本 語 教 育,第14分
冊 』 早稲 田 大学 語 学 教
育研 究所,1978) 6) 石井 正 彦 「現 代 複合 動 詞 の語 構 成 の分 析 に お け る一 観 点 」(「日本 語 学」vol .2, no.8,明 治書 院,1983) 7) 山本 清 隆 『複 合語 の構 造 と シ ン タク ス』(情 報 処 理 振 興事 業 協 会 ,1983) 8) 寺 村 秀 夫 『日本語 の シ ンタ クス と意 味Ⅱ 』(く ろ しお 出版,1984) 9) 山本 清 隆 「 複 合 動 詞 の格 支 配」(「都 大 論究 」21号,1984) 10) 斎 藤 倫 明 「複 合 動 詞構 成要 素 の 意 味− 単 独 用 法 と の比 較 を通 して− 」(『国語 語 彙 史 の 研 究 』5,和 泉 書 院,1984) 11) 須 賀 一 好 「 現 代 語 に お ける 複合 動 詞 の 自 ・他 の 形 式 に つ いて 」(「静 岡女 子 大学 研 究 紀 要 」 17, 1984) 12) 玉村 文 郎 「 語 の 構 造 と造語 法 」(国 立 国語 研 究 所 日本 語 教 育 指 導参 考13,『 語 彙 の研 究 と 教 育(下),大
蔵 省,1985)
13) 森 山卓 郎 「形態 論 」(『日本 語動 詞述 語 文 の研 究 』 第Ⅱ 部,明 治 書院 ,1988) 14) 石 井 正 彦 「 辞 書 に載 る複 合 動 詞 ・載 らな い複 合 動 詞」(「日本 語 学」vol.8, no .5,明 治 書 院, 1988) 15) 姫 野 昌 子 「 動 詞 の 連用 形 に付 く補 助 動 詞 及 び複 合 動 詞 後項 」(『日本語 教 育 事 典』,大 修 館 書 店,1988) 16) 南場 尚子 「複 合動 詞 後 項 の位 置付 け」(「同志 社 国 文 学 」34,1991) 17) 林 翆 芳 「日本語 複 合動 詞 研 究 の現 在 」(「同志 社 国 文学 」36,1993) 18) 影 山太 郎 『文 法 と語構 成 』(ひ つ じ書 房,1993) 19) 姫 野 昌 子 『複合 動 詞 の構 造 と意 味 用 法』(ひ つ じ書房,1999) 20) チ ャ ン ・テ ィ ・チ ュ ン ・トア ン 『日本 語 の複 合 動 詞 ハ ン ドブ ック』(ハ ノ イ国 家 大学 出 版 社,2002)
第 9章 「憂 し」 とい う形容 詞 はなぜ消 滅 した のか ? 【相 の語 彙 ・語 彙 史 】
キ ー ワ ー ド :名 詞 語 彙,動
詞 語 彙,形
容 詞 語 彙,感
古 代 語 形,近 代 語 形,近
情 形 容 詞,形
世 語 形,同 音 衝 突,-ei型
状 形 容 詞,ク
形 容 詞,-ai型
活 率,
形 容 詞,
-oi型 形 容 詞
1.変 化 しや す い 語 彙 とは どの よ う な語 彙 か ? 『万 葉 集 』 や 『源 氏 物 語 』 は優 れ た 古 典 文 学 で あ る が,21世 ち が,こ
紀 に 生 きる 私 た
れ ら を享 受 しよ う とす る と言 語 の壁 に 阻 ま れ て 読 み 解 くこ とが で き な
い とい う情 け な い こ と に な る 。 言 語 と い う もの は時 が 流 れ 行 くに つ れ て 変 化 す る もの な の で あ る。 言 葉 は 変化 す る とい っ て も,一 様 一 律 に 変 化 す る わ け で は な い 。 言 葉 に は 変 化 しや す い 部 分 と変 化 しに くい 部 分 とが あ る 。 どの 言 語 にお い て も,音 韻 は も っ と も変 化 し に く く,次 い で 文 法 が 変 化 しに くい 。 もっ と も変 化 しや す い の は 語 彙 なの で あ る。 大 野 晋 は 「日本 語 の 古 さ」 とい う論 文 で,日
本 語 の 語 彙 の 変 化 に 関 し て,
次 の よ う な調 査 報 告 を行 っ て い る 。 『万 葉 集 』(759年 頃 成 立),『 枕 草 子 』(1000年 頃 成 立),『 源 氏 物 語 』(1020年 頃 成 立),『 徒 然 草 』(1330年
頃 成 立)の
漢 和 辞 書 『類 聚 名 義 抄 』(1100年 調 査 し,現 代 東 京 語 で,大
4作 品 及 び 平 安 時 代 末 期 に 作 成 され た
頃成 立)に 共 通 して 用 い られ て い る706語
を
体 そ の ま ま の意 味 で 日常 語 と し て使 用 さ れ て い る か
ど うか を検 討 し,残 存 率 を割 り出 して い る。 名詞
残 存 語 彙 数 237語 残 存 率 79.9%
あ き(秋),あ
さ が ほ(朝 顔),あ
あ と(跡),あ
ひ だ(間),あ
あ め(雨),あ
ら し(嵐)…
し(足),あ
ふ ぎ(扇),あ … よ る(夜),わ
せ(汗),あ ま(尼),あ
た り(辺 り) ま(海 女),
(輪 ),わ ざ(業)等
動詞
残 存 語 彙 数 223語
あ か す(明
か す),あ
あ く(明 く),あ あ ふ ぐ(仰
残 存 率 79.3%
が る(上
ぐ(上 ぐ),あ
あ さ し(浅
そ ぶ(遊
ぐ)… … わ た る(渡
形 容 詞 残 存 語 彙 数 50語 し),あ
が る),あ
る),わ
く(飽 ぶ),あ
く),あ
く(開
は す(合
す),あ
づ ら ふ(患
残 存 率 69.4%
や し(奇
し),あ
を し(青
い や し (賤し ),う す し(薄
し)… … お ほ か た(大
た し か(確
(華 や か ),ほ の か
か),は
なや か
ふ),わ
く ・下 二), ふ(逢
る(割
ふ)
る)等
*形 容 動 詞 を 含 む 。 し),い
た し(痛
方),こ
し),
と さ ら(殊
更),
(仄か ) 等
前 述 の と お り語 彙 は変 化 しや す い部 類 に入 る の で あ るが,な
か で も形 容 詞 語
彙 は 名 詞 語 彙 や 動 詞 語 彙 に比 較 し,一 層 変 化 しや す い 語 彙 とい うこ とに な る。 体 の 語彙 であ る名詞 語彙 や用 の語 彙 であ る動詞 語彙 は指 示物 や具体 的 な行 動 ・状 態 な ど に 支 え られ て,指 示 的 意 味 が 比 較 的 に 視 覚 化 さ れ や す い の に 対 し て,相
の 語 彙 で あ る 形 容 詞 語 彙 の 指 示 的 意 味 は概 して 観 念 的,感
覚的で あるた
め 視 覚 化 さ れ に く く,や や もす る と使 用 者 の 恣 意 に 委 ね られ が ち に な る た め, 変 化 が 生 じや す くな る の で あ ろ う。
2.『万 葉 集 』 と 『古 今 和 歌 集 』 以 下 八 代 集 の 形 容 詞 語 彙 下 の 表 は,宮
島達 雄 編 『古 典 対 照 語 い 表 』 等 を 参 考 資 料 と して,『 万 葉 集 』
と 『古 今 和 歌 集 』以 下 の 八 代 集 にお け る 形 容 詞 語 彙 を使 用 率 の 高 い 順 に配 列 し, そ れ ぞ れ の延 べ 語 数,使 用 率 を示 した もの で あ る 。
* #は ク活用 の 形 容詞 * * ク活 率 は ク活 用 の形 容 詞 の異 な り語 数 を例 示 形 容 詞総 数 で割 り,百 を乗 じた もの 。
こ の 表 を観 察 す る と,次 の よ う な こ とに 気 付 く。 ① 各歌 集 と も 「無 し」 の 使 用 率 が 最 も高 い 。 ② ク活 率 は 万 葉 集 が75%の
高 率 を示 し,古 今 和 歌 集 以 下 とは 画 然 と して い
る。 ③ 古 今 和 歌 集 以 下 の 各 歌 集 に お け る使 用 率 上 位 の もの は,「 憂 し」 「恋 し」 悲 し」 「辛 し」 等,感
情 形 容 詞 が 多 く,特 に,「 憂 し」 は こ れ ら全 て の 歌 集 に
お い て,2 位 ま た は 3位 で あ り,使 用 率 の 高 さが 際 立 っ て い る 。 * 「憂 し」 「辛 し」 は ク活 用 の 語 で は あ るが,意
味 は感情形 容詞 そ の もの
で あ る の で 例 外 的 な もの と考 え る 。 ① につ い て 「無 し」 と い う形 容 詞 は,対 義 語 が 「あ り」 とい う存 在 詞 で あ る とい う点 で 特 殊 で あ る 。 使 用 率 も 「あ り(あ る)」 と同 様 に,奈 良 ・平 安 時 代 に 限 らず,今
日に い た る まで 高 率 を示 して い る 。 各 歌 集 で 最 高 の 使 用 率 で あ る
の は そ の 一 つ の 現 れ で あ る。 ② に つ い て 「高 し」 「低 し」 「長 し」 「短 し」 等,ク
活 用 を す る 形 容 詞 は 概 して 客 観 的
な 形 状 を 表 す もの が 多 く,形 状 形 容 詞 と さ れ る 。 一 方,「 嬉 し」 「悲 し」 「楽 し」 「寂 し」 等 , シ ク活 用 をす る形 容 詞 は概 ね 主 観 的 な 感 情 を表 す もの が 多 く,感 情 形 容 詞 と さ れ る 。 万 葉 集 に は 自然 を叙 した叙 事 歌 が 多 く,古 今 和 歌 集 以 下 に は 叙 情 歌 が 多 い とい う傾 向 が ク活 率 の 多 寡 に 反 映 され て い る の で あ ろ う。 ③ に つ い て 樺 島 忠 夫 は 『日本 語 探 検 』 にお い て 昭 和 か ら平 成 に い た る ま で の 歌 謡 曲 に 使 用 され て い る 語 彙 を調 べ た 結 果 を 報 告 し,次 の よ うな 結 論 を くだ して い る。 こ の 悲 しい 気 持 ち は 現 代 の歌 謡 曲 に まで 受 け継 が れ て い る よ うで す 。 昭 和 を通 じて,「 泣 く,恋,夢,涙
」 が,歌
謡 曲 で よ く使 われ る語 の 中 に含
ま れ て い て,日 本 語 の 歌 謡 曲 は,し め っ ぽ い 恋 の 歌 で あ った こ とが うか が わ れ ます 。 この 樺 島 の 結 論 は そ っ く り,古 今 和 歌 集 以 下 の 歌 集 につ い て もい え る 。 「憂 し」 の 高 使 用 率 は そ うい う 「しめ っ ぽ い 」 感 情 を象 徴 す る も の と考 え られ ,こ の 意 味 で は,日
本 人の心 情 は平安 時代 以来 変 わっ てい ない と もいえ るので あ
る。
3. 消 え た 形 容 詞 1− 「憂 し」 は な ぜ 消 滅 した の か ?− と こ ろ で,日
本 人 の 心 情 の在 り方 を象 徴 し,平 安 時 代 に は 高 使 用 率 を 誇 っ た
「憂 し」 とい う形 容 詞 は 現 在 使 用 さ れ て お らず 消 え た 形 容 詞 に な っ て い る。 こ れ は なぜ な の だ ろ うか ?
「憂 さ晴 ら し」 「憂 き 目」 「も の憂 い 気 分 」 「もの う
げ に 」 な ど,名 詞 や 複 合 形 容 詞 ・形 容 動 詞 の 一 部 に化 石 的 に 残 存 して い る が, 形 容 詞 「憂 し」(古 代 語 形)の 後裔
「憂 い」(近 代 語 形)と
い う形 容 詞 は 方 言 に
は残 存 す る も の の 共 通 語 と して は 使 用 され な い 。 そ う い う中 で,文
学 作 品 の 中 で は細 々 と命 脈 を保 っ て い る。
● 憂 い の 愁 ら い の 数 も 知 ら ね ば,
(一 葉 ・た け く らべ ・八)
● 憂 き事 さ ま ざ ま に何 う も堪 へ られ ぬ 思 ひの あ り しに, (一 葉 ・た け く ら べ ・十 三)
● 「う れ し き もの に 罪 を思 へ ば,罪 長 か れ と祈 る 憂 き 身 ぞ 。 君 一 人 館 に 残 る今 日を 忍 び て,今
日の み の縁 と な ら ば う か ら ま し」 (漱 石 ・薤 露 行 ・一)
● 「憂 き事 の 降 りか か る 十 字 の 街 に 立 ちて … …」 (漱 石 ・薤露 行 ・二) ● 「芥 子 散 る を憂 し との み 眺 むべ か らず,… ● 「わ が 思 ふ ほ ど の恩 を,憂
…」 (漱 石 ・薤露 行 ・五)
きわ れ に 拒 め る … … 」 (漱 石 ・虞 美 人 草 ・二)
● 「憂 き わ れ を,ひ た ぶ る に嘆 きた る 女 王 は … … 」 (漱 石 ・虞 美 人 草 ・二) ● 憂 き昼 を,苦 茶 苦 茶 に 揉 み こ な した と思 ふ 頃 … … (漱 石 ・虞 美 人 草 ・九) ● 憂 きが なか に も楽 し き月 日 を送 りぬ 。 ● 番 傘 の 黄 い ろ い 光 に 染 め ら れ た憂 い 顔 … …
(〓 外 ・舞 姫) (丸 谷 ・笹 ま くら)
● 通 夜 の 席 に こそ ふ さわ しい よ うな,か げ翳 の あ る 憂 い 顔 だ っ た。 (福 永 ・廃 市) 樋 口 一 葉 の 『た け く らべ 』 は 会 話 文 が 口語 体,地
の 文 が 文 語 体 の 雅 俗 折 衷体
で あ り,用 例 は と も に地 の 文 で あ る か ら,「 憂 い 」 「 憂 し」 が 用 い られ て 当然 で あ る。 夏 目漱 石 の 『薤露 行 』 『虞 美 人 草 』 は,森〓 作 品 で あ る の で,や
外 の 『舞 姫 』 と と もに 文 語 体 の
は り 「憂 し」 が 使 用 され て な んの 不 思 議 も な い 。
一 方,漱 石 は 『三 四 郎 』 や 『そ れ か ら』 『門 』 『行 人 』 な ど の 口 語 体 の 作 品 で は,次 の よ う に 「もの う い」 を 採 用 して い る 。 ● 三 四 郎 は こ の 表 情 の う ち に もの うい 憂鬱 と,隠 さ ざ る 快 活 との 統 一 を 見 出 だ した。
(漱 石 ・三 四 郎 ・三)
● 何 処 で 地 が 尽 き て,何 処 で 雲 が 始 ま るか 分 か ら な い ほ ど に もの う い 上 を,心 持 ち 黄 な 色 が ふ うつ と一 面 に か か つ て ゐ る。 (漱 石 ・三 四 郎 ・五)
● 何 も為 る のが慵 い と云 ふ の と は違 つ て … … (漱石 ・そ れ か ら ・十 三 ) ● そ う して そ の倦 怠 の慵 い 気 分 に 支 配 され なが ら… … (漱 石 ・門 ・十 四) ● そ れ に 抵 抗 す る の が 如 何 に も慵 い と云 つ た や うな 一 種 の 倦 怠 る さが 見 え た。
(漱石 ・行 人 ・三 十 九)
夏 目漱 石 の 言 葉 にお い て は,「 憂 し」 は 文 語,こ
れ に 対 応 す る 口 語 は 「も の
う い」 に な っ て い た と考 え ら れ る 。 丸 谷 才 一 の 『笹 ま く ら』 福 永 武 彦 の 『廃 市 』 の 2例 は,中 村 明編 『感 情 表 現 辞 典 』 に よ る が,2 例 と も 「顔 」 を修 飾 して い て,内 面 的心 情 だ け を 表 現 す る 働 き をす る もの で は な い 。 これ らは 内 面 と同 時 に心 情 が 外 面 化 した 様 子 を描 写 す る もの とな って い る の で,あ
る い は 「う れ憂 い顔 」 と読 む べ き もの か も しれ
な い。
とに か く,現 代 共 通 語 で は 「憂 い」 は 死 語 化 して い る と考 えて 間違 い な い だ ろ う。 と こ ろ で,「 憂 し」 に 取 っ て 代 っ た 「もの うい 」 は 「もの 憂 し」 の 形 で 古 代 か ら存 在 して い た 。 言 い換 え る と,「 心 憂 し」 な ど と と も に類 義 語 と して 共 存 して きた 。 そ の 共 存 の様 態 を観 察 す る と次 頁 の 表 の よ う に な る 。 古 代 語 形 「憂 し」 の最 後 を飾 る 『閑 吟 集 』 の例 は 次 の よ うな もの で あ る 。 ● ふ た り寝 る と も憂 か る べ し,月 斜 窓 に入 る 暁寺 の鐘
(101番)
● 憂 き も一 時,嬉
(193番)
し き も,思 ひ醒 ませ ば夢 候 よ。
これ らの 「憂 し」 の 意 味 用 法 は,『 万 葉 集 』 山 上 憶 良 の歌, ● 世 の 中 を憂 し とや さ し と思 へ ど も飛 び立 ち か ね つ 鳥 に しあ らね ば (万葉 ・五 ・八 九 三) と 同種 の もの で あ る 。 した が っ て,意
味 用 法 の 変 化 に よ っ て,「 憂 し」 が 消 滅
し た ろ う とい う仮 説 は 成 立 し な い 。 「憂 し」 が 消 滅 す る の は,形 容 詞 終 止 形 語 尾 が 一 斉 に 「-い 」 と な る 近 代 語 形 に な って か ら と考 え られ る 。 「憂 し」 は 室 町 末 期,江 で あ るが,こ
戸 初 期 に 「ウ シ」 か ら 「ウ イ」 へ と語 形 を変 え る の
の 変 化 に よ り,江 戸 期 に な って 使 用 され 始 め た と推 定 さ れ る 「愛
い」 と同 音 衝 突 を起 こす こ とに な る 。 ● 一 段 う い や つ ぢ や 。
(狂 言 記 ・鳥 帽 子 折 り ・一)
* ( )内
は近代 語形
● う い 若 い 者,で
「 憂 い 」 の 語 数 。 他 は古 代 語 形 「憂 し」 の 語 数 。
か した,で か した 。
(浄瑠 璃 ・本 朝 三 国志)
● 今 の 難 儀 を救 うた る は業 に 似 ぬ う い働 き。 ● ホ ホ で か した,う い 奴 。
(浄瑠 璃 ・義 経 千 本 桜)
(浄瑠 璃 ・本 朝 二 十 四 孝)
「愛 い 」 の 意 味 は,「 好 ま しい 。 愛 す べ きだ 。 殊 勝 だ。 ほ め る に 値 す る さ ま。」 等 の 意 味 で あ る か ら,「 憂 い 」 と は 対 義 的 で あ る。 意 味 的 に 相 反 す る もの が, 同 一 の 語 形 を 有 して い て は,コ し ば ら くの 間 は,古
ミ ュニ ケー シ ョ ンが 成 立 しな い 。
くか ら の 「憂 い 」 と新 参 の 「愛 い 」 とが 覇 権 を 争 う こ と
に な っ た が,や が て 「憂 い 」 の使 用 域 は類 義 語 「もの 憂 い 」 や 「心 憂 い 」 に 任 せ,「 憂 い 」 が 消 滅 す る こ とに よ り,同 音 衝 突 の 弊 害 を 回 避 す る こ と に した の で あ ろ う。 結 局,「 憂 し」 の 消 滅 は,語 形 を近 代 語 形 の 「憂 い」 に 変 化 さ せ た こ とに 起 因 し,そ の結 果 生 じた 近 世 語 「愛 い 」 との 同音 衝 突 を回 避 す る ため の 現 象 で あ っ た と考 え られ る。
4.消 え た形 容 詞 2−-ei型
形容詞の消滅−
吉 見 孝 夫 は 「消 え た 形 容 詞 ・生 まれ た 形 容 詞 」 に お い て,次
の45語
の形容
詞 を 「消 え た 形 容 詞 」 と し,消 滅 の 理 由,消 滅 を ゆ る した 事 情 等 につ い て 考 察 して い る。
ア カ ラ ケ シ ・ア キ ラ ケ シ ・アザ ラ ケ シ ・ア タ タ ケ シ ・アハ ツケ シ ・ア マ ネ
シ
・イ サ サ ケ シ
ソ ケ シ
・ イ ブ セ シ ・ ウ タ テ シ ・ ウ ル セ シ ・エ シ
・ケ ヤ ケ シ ・ コ マ ケ シ
・サ ダ ケ シ
・サ マ ネ シ
シ ・ シ ゲ シ ・シ コ メ シ ・シ ズ ケ シ ・ シ フ ネ シ ヤ ケ シ ・セ シ ・ ソ ソ ロ ケ シ
・タ ケ シ
・オ ト ト ケ シ ・ カ
・サ ム ケ シ
・サ ヤ ケ
・シ ホ ド ケ シ ・ス ネ シ
・タ シ ケ シ
・タ ヒ ラ ケ シ
・ス ム
・ツ バ ヒ ラ ケ
シ ・ ツ ユ ケ シ ・ ナ ガ ケ シ ・ ナ メ シ ・ ネ ジ ケ シ ・ ノ ド ケ シ ・ハ ル ケ シ ・ フ ク ツ ケ シ ・ マ ネ シ ・ ム ク ツ ケ シ ・ ミ ジ ケ シ ・ヤ ス ラ ケ シ
・ユ タ ケ シ ・ ヲ シ ケ
シ
吉 見 は 消 滅 の理 由 を近 世 初 頭 に生 じた,二 重 母 音 の 長 音 化 とい う音 韻 変 化 に 求 め る。 「ア マ ネ シ」 を例 に す る と次 の よ う に な る 。 アマ ネ シ
→
(古 代 語 形 )
アマネ イ
→
(近代 語 形)
アマ ネー (近 世 語 形)
「アマ ネ ー 」 とい う形 に な る と,近 代 語 の 形 容 詞 終 止 形 は 「 イ」 の 形 を と る とい う一 般 則 に 反 す る こ とに な っ て し ま う。 吉 見 は,一 般 則 に反 した 結 果,存
在 基 盤 を失 い,-ei型
形 容 詞 は消 滅 して し
まっ た と結 論 す る 。 説 得 的 な論 理 の展 開 の よ うに 思 わ れ る が,は 江 戸 語 ・東 京 方 言 に 限 っ て い え ば,形
た して そ うだ ろ う か。
容 詞 終 止 形 語 尾 が 「エ ー 」 と な る の
は-ei型 形 容 詞 に限 らな い 。 -ai型 形 容 詞
早い
ハヤ シ
-oi型 形 容 詞
面 白 い オ モ シ ロ シ
→
ハヤ イ
→
ハエー
→
オモシロイ
→
オ モ シ レー
そ して,-ai型
形 容 詞 は 「赤 い,暗
い,高
い,で か い」 等 数 多 く現 代 語 と し
て存 在 し,-oi型
形 容 詞 も 「青 い,黒
い,広
い,脆 い 」 等 数 多 く存 在 す る 。
した が っ て,二 重 母 音 の 長 音 化 が 形 容 詞 の 消 滅 を促 した とす る吉 見 説 は 成 立 しな い 。 次 に,吉 見 は-ei型 形 容 詞 が 消 滅 して も差 支 え な か っ た 事 情 を 説 明 して,お お む ね 次 の よ う に述 べ て い る。 a ア カ ラ ケ シ ・ム ク ツ ケ シ な ど は,ア 容 動 詞 を 有 シ,形 b 日 葡 辞書 に は
カ ラ カ ナ リ ・ム ク ツ ケ ナ リ な ど 形
容 動 詞 の ほ う が 好 まれ る傾 向 にあ っ た。
「ア キ ラ カ ナ ・ア タ タ カ ナ ・シ ズ カ ナ 」 な ど,形
容動 詞
に 由 来 す る語 形 を掲 載 して い る。 c 日 葡 辞 書 の 「 拾 遺 」 の 部 分 に 「サ ヤ ケ イ」 が あ る が,「 詩 歌 語 」 と注 さ れ,使
用 域 が 狭 く限 定 さ れ て い る。
要 す る に,-ei型
形 容 詞 は も と も と,量 的 に 少 な く,対 応 す る形 容 動 詞 を 有
し,こ れ ら と比 較 し て劣 勢 で あ っ た。 した が っ て,消 滅 して も コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの上 で は差 支 え が 生 じな か っ た の で あ る とい う の が 吉 見 説 で あ る。 こ れ は 説 得 的 で 納 得 で き る。 た だ し,-ei型
形 容 詞 が な ぜ 量 的 に 少 ない の
か , また,対 応 す る形 容 動 詞 を有 す る の か , さ らに,形 容 動 詞 の ほ うが 好 ま れ た の か に つ い て は 説 明 して い な い 。 した が っ て,吉 滅 の 理 由 を述 べ た と い う よ り,-ei型
見 説 は-ei型
形容 詞の 消
の表 現 を 日本 語 は 好 ま な か っ た と い う事
実 を述 べ た に過 ぎな い もの に な っ て い る と判 断 され る。 -ei型
形 容 詞 の う ち,「 ア マ ネ シ」 は そ の 連 用 形 「アマ ネ ク」 が 副 詞 化 して,
現 代 語 に 存 在 す る こ とを 考 え る と,音 韻 変 化 の み に 消 滅 の理 由 を求 め る こ とに は無 理 が あ る だ ろ う。
■ 発展 問題 (1) 「愛 い 」 は 現 代 語 に は な い 。 理 由 を 考 え て み よ う 。
(2) 古 代 語 形 「恋 し」 「か な し ( 愛 し ・悲 し ・哀 し)」 「辛 し」 の 意 味 用 法 を 調 べ, 近代 語形
「恋 し い 」 「悲 しい 」 「辛 い 」 の 意 味 用 法 との 相 違 を ま と め て み よ う 。
(3) 「な ま め か し」 と 「な ま め か しい 」,「悩 ま し」 と 「悩 ま し い 」,「疚 し」 と 「疚しい 」 の 意 味 用 法 の 相 違 に つ い て 考 え て み よ う。
(4) 『源 氏 物 語 』 を 調 べ,「 憂 し」 「心 憂 し」 「物 憂 し」 の 間 に,ど
の よ うな意味 用
法 の 相 違 が あ る か ま とめ て み よ う。
(5) 「暖 か な / 暖 か い 」 「小 さ な / 小 さい 」 な ど,語 幹 を等 し くす る 形 容 動 詞 と 形 容 詞 の 組 み を い くつ か 列 挙 し,形 容 動 詞 と形 容 詞 の 間 で は どの よ う な 意 味 用 法 の 相 違 が あ る か 調 べ て み よ う 。
(6) 話 し言 葉 で は 「イ テ ー , オ ッ カ ネ ー,ツ
メ テ ー , ハ エ ー 」 な ど 「∼e-」
な る こ と が あ る の に,こ れ ら の 形 容 詞 の 辞 書 形 は 「 痛 い,お 早 い」 な ど と な っ て い る の は な ぜ な の だ ろ うか,将
っ か な い,冷
来 は 「∼e-」
に た い,
型 に なる だ
ろ う か な どに つ い て 考 え て み よ う。
■ 参考文献 1) 大 野 晋 「日本語 の 古 さ」(『講 座 現 代 国語 学 」こ とば の 変 化 』筑 摩 書 房,1958) 2) 宮 島達 雄 編 『 古 典 対 照語 い表 』(笠 間書 院,1971) 3) 樺 島忠 夫 『日本語 探 検 』(角 川 選 書361,角
川 書 店,2004)
4) 靏 岡 昭 夫編 『た け くらべ 総 索 引 』(笠 間書 院,1992) 5) 近 代作 家 用 語研 究 会 編 『 夏 目漱 石 一』(教 育社,1984) 6) 近 代作 家 用 語研 究 会 編 『 森〓 外 一 』(教 育 社,1985) 7) 中村 明編 『感情 表 現 辞典 』(六 興出 版,1979,東
京 堂 出版,1995)
8) 進藤義治 『 源氏 物 語 形 容詞 類 語 彙 の研 究 』(笠 間書 院,1978) 9) 高 梨 敏子 ・津 藤千 鶴 子 ・耳 野 紀 久 代編 『 閑 吟 集総 索 引 』(武 蔵 野書 院,1969) 10) 志 田 延義 校 注 「閑吟 集 」(『日本 古 典 文学 大 系 中世 近 世歌 謡 集』 岩 波 書 店,1959) 11) 小 島 憲 之 ・木 下 正 俊 ・東 野 治 之 校 注 ・訳 『日本 古 典 文 学 全 集 万 葉 集 2』(小 学 館, 1995) 12) 金 田一 春彦 他 編 「 平 家 物語 総 索 引 』(学習 研 究社,1973) 13) 近藤 政 美 ・伊 藤 一重 ・池村 奈代 美 編 『天草 版 平家 物 語 総索 引 』(勉 誠 社,1982) 14) 大 塚 光 信 『キ リシ タ ン版 エ ソ ポの ハ ブ ラ ス私 注』(臨 川 書 店,1983) 15) 岩淵 匡 ・桑 山俊 彦 ・細 川英 雄 共 編 『醒睡 笑 静嘉 堂 文 庫蔵 索 引編 』(笠 間書 院,1998) 16) 北 原 保 雄 ・大 倉 浩 『狂 言記 の研 究 下 翻 字 篇索 引 篇 』(勉 誠 社,1983) 17) 近世 文 学総 索 引 編纂 委 員 会編 『 近 松 門左 衛 門』(教 育 社,1986) 18) 北原 保 雄他 編 『日本 国 語 大 辞典 2』(小 学 館,2001) 19) 吉見 孝 夫 「 消 えた形 容 詞 ・生 まれ た 形 容詞 」(「言語 」22-2,大
修館 書 店,1993)
第10章 なぜ 雲 が ぎ らぎ ら光 るの か? 【感 性 語 彙 ・オ ノ マ トペ 】
キ ー ワ ー ド :音 感,身
体 感 覚 性,現
場 喚 起 性,ア
ス ペ ク ト,ム ー ド
1. オ ノ マ トぺ の も つ 感 覚 性 オ ノ マ トペ は,「 名 前 を創 る」 と い う意 味 の ギ リ シア 語"oνoμ ατo-πoιε ω" を語 源 とす る 。 プ ラ トン 『ク ラ テ ュ ロ ス』 で は,本 性 に か な っ た 方 法 に よる 命 名 に 言 及 し,こ
と ば は事 物 の あ り方 や 本 質 を 含 ん で い る とす る。 ソ シ ュ ー ル
『一 般 言 語 学 講 義 』 で は,命 名 に お け る 記 号 の 恣 意 性 の 例 外 と して,感
動詞 と
擬 音 語 に 言 乃 す る. こ こで は,擬 音 語 と擬 態 語 を併 せ て,オ 擬 音 語 は,音(人
の 声,動
擬 態 語 は,状 態(物
の 状 態,出
ノマ トペ と総 称 す る 。
物 の 鳴 き声,物 来 事 の状 態,人
音 な ど)を
うつ す こ とば で あ る 。
の心 の 状 態)を
音 に な ぞ らえ る
こ と ば で あ る。 擬 音 語 は,聴 覚 心 象 を類 似 した 音 韻 の構 成 で 表 す 。 擬 態 語 は,諸
感覚心象 を
共 感 覚 的 比 喩(「 き ら き ら」 聴 覚 →視 覚,「 ぷ ん ぷ ん」 聴 覚 → 嗅 覚,「 べ とべ と」 聴 覚 → 触 覚 な ど)で 表 す が,む
し ろ,こ
とば そ の もの の もつ 聴 覚 性(音
感)を
用 い て い る。 同 様 に,感 情 心 象 を 表 した り(「 ど き ど き 」 「む か む か 」 「く よ く よ」 「そ わ そ わ」 な ど),外 界 の 事 物 の 心 象 を表 した りす る。 つ ま り,オ ノマ トペ は感 覚 的(聴 覚 的)表 現(言 生 か した 表 現)に
よる 象 徴(次
語 記 号 の 素材 の もつ 音 感 を
元 の 異 な る ものへ の 転 換)で
ある。感覚 的だか
ら,身 体 的 あ るい は 直 感 的 な現 場 喚 起 性 を もつ 表現 と な る 。 聴 覚 的 だか ら,時 間性 を 含 み,感 情 の 動 きや 出 来 事 の 推 移 を 表 す こ と が 多 い。
2.オ ノ マ トぺ の 形 式 オ ノマ トペ の 形 式 は,語 根 へ の 接 辞(促 な ど)の 添 加,語
音,撥 音,長 音 化,流
音 プラス母音
根 あ る い は語 根 プ ラ ス接 辞 の 反 復(変 形 反 復 を 含 む)な
あ り,そ れ ぞ れ ア ス ペ ク ト(動 きの 段 階),ム
ー ド(話 し手 の 態 度)な
どが
どの 文
法 的 機 能 を示 しな が ら,も の ご とや お もい を 表 す 。 通 時 的 に は,派 生 や 転 成 が あ り,意 味 の 転 化 が 生 じる 。 慣 用 化 に よ っ て,オ 性 や 現 場 喚 起 性(臨
場 感)が
ノマ トペ の 本 来 的 な 身体 感 覚
失 わ れ る こ と もあ る。
オ ノ マ トペ の 語 根 は,1 拍 あ る い は 2拍 か ら 成 る(2 拍 が 多 い)。
オ ノマ トペ の 形 式(拍
に よ る構 成)を
記 号(語 根 は A ま た はAB,
撥音 は N,長 音 化 は :,流 音 プ ラ ス 母 音 は R な ど)で 示 し,例
促 音 は T,
を挙 げ て み る 。
併 せ て,ア ス ペ ク トや 造 語 形 を示 す 。
接 尾 辞 は,ア ス ペ ク トだ け で な く,ム ー ドも示 す 。 促 音 T は時 間 的 な 短 さ ・速 さ だ け で な く,緊 張 感 も示 す 。撥 音 N は 瞬 間 ・ 余 韻 だ け で な く,共 鳴 ・共 感 な ど も示 す 。 長 音 化 :は,時 慣 性 的続 行 だ け で な く,注 意 深 さ,思 い 入 れ,強
間 的 な長 さ ・遅 さや
調 な ど も示 す 。 流 音 プ ラ ス 母
音
「り 」(古
尾辞
くは
「ら 」 も)R
「こ 」 K は,オ
は,主
体 を め ぐ る 環 境 ・状 況 も 示 す 。 愛 称 の 接
ノ マ トペ に も 用 い ら れ,親
近 感 も示 す 。
接 中 辞(「 ばっ た り」 「じん わ り」 「と ろー り」 の 下 線 部 な ど)は,ア ト よ り も,む る 場(脈
し ろ ム ー ド(話
絡,状
況)に
語 根 A また はABの
し 手 の 判 断 ・評 価 ・態 度 な ど)を
応 じて,様
々 な ム ー ドを 表 す 。
Aの 清 濁 は,軽 重,美
語 根 を構 成 す る 子 音 ・母 音 の音 感 は,オ い は語 感(ニ
スペ ク
示 す 。 表 現 され
醜,聖 俗 な どの ム ー ドを示 す 。 ノマ トペ に よ っ て示 され る意 味 あ る
ュ ア ンス)と 関 わ る。
た と え ば,「 か ら か ら 」 「こ ろ こ ろ 」 「く る く る 」 「き ら き ら 」 「き り き り」 と 並 べ て 比 較 す れ ば,〔 k〕 音 が 乾 い て 硬 質 な イ メ ー ジ,〔 r〕 音 が 滑 ら か に 回 転 す る イ メ ー ジ を 表 し,〔 a〕 音 が 開 放 的 で 全 体 に わ た る の に 対 し,〔o〕
〔u〕 〔i〕音
は順 に よ り閉鎖 的 で 部 分 に 限 定 され る のが わ か る。
オ ノ マ トペ の 形 式 と して は,同 語 反 復 が 最 も よ く用 い られ る。 オ ノ マ トペ が 時 間 性 を含 み,ア
ス ペ ク トと して 継 続 が 一 般 的 で あ る こ と に よる と思 わ れ る 。
変 形 反 復(「 どた ば た 」 「どた ん ば た ん 」 「か ら こ ろ 」 「か らー ん こ ろ ー ん 」 「て ん つ くて ん て ん」 な ど)は,類
似 す るが 少 し質 の 違 う もの が 並 行 す る継 続 を示
す。 以 下 の 分 析 で は,派
生(「
こ ろ ぶ 」 「き ら め く 」 「ぎ ら つ く 」 な ど)や
(「こ ろ 」 「き ら 星 」 「き ら ら 」 な ど),意 は,オ
ノ マ トペ に 含 め な い 。 慣 用 化 が 進 ん で,オ
て も,形
式 と 意 味(本
義)が
述 副 詞
「き っ と 」 な ど)
ノ マ トぺ の 特 質 が 薄 ら い で い
保 た れ て い れ ば(「 ゆ っ く り」 「す っ か り」 な ど),
オ ノ マ トペ に 含 め る 。 表 情 音(反 は,オ
味 の 転 化(陳
転 成
射 音)の
言 語 化(「
う う」 「ふ ん ふ ん 」 な ど)
ノ マ トペ に 含 め る 。 漢 語 ・外 来 語 起 源 の オ ノ マ トペ(「 燦 々 」 「ヂ グ ザ グ 」
な ど)は
除 く。
3.宮 沢 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ に み る オ ノ マ トぺ こ こ で は,言 語 資 料 と して,宮 沢 賢 治 の心 象 ス ケ ッチ を取 り上 げ,オ
ノマ ト
ペ に よ る表 現 の 特 質 を探 る 。 ま ず,心
象 ス ケ ッ チ『 春 と 修 羅 』 第 一 集 に 収 め ら れ た 心 象 ス ケ ッ チ69編
(序 を 除 く)(1922.1.6∼1923.12.10の
日付 の も の)に
つ い て,オ
ノ マ トペ と 思
わ れ る語 を抜 き 出す 。 必 要 に応 じて,前 後 の語 も抜 き 出 す 。 『宮 沢 賢 治 全 集 I』(ち く ま文 庫)を
基礎 資 料 と して 用 い る こ と と し,抜
き出
した 語 の あ と に,擬 音 語 ・擬 態 語 の 別 を記 し,括 弧 書 きで 表 題 の 頭 文 字(1∼ 3字)お
よび 頁 数 を 示 す 。 表 記 が 異 な る と き は,異
延べ 語 数 を 数 字 で,異
な り語 数 を 〔 〕 内 数字 で 示 す 。
な お,独 創 的 な もの に◎,文
脈 上 独 創 的 な も の に☆,慣
ペ 的 で は な い もの に △,表 情 音 の 言 語 化 に*,承 AT
な る 語 と し て 扱 っ て お く。
用 に よ っ て オ ノマ ト
け る こ とば に 下線 を付 け た 。
9 〔8〕
☆ きつ
態 と口 を まげ て わ らつ て ゐ る (風 林166)
しゆ つ 音 と擦 られ た マ ツチ だ け れ ども (霧 と105) すつ
態 と と られ て 消 え て し まふ
(真 空59)
△ずつ
態 と遠 くで は
(小 岩75)
△そつ
態 と見 て ご らん な さ い
(樺 太197)
態 とた つ雪 と
(小 岩83)
音 と鼻 を鳴 らせ
(小 岩80)
と き ど き ぱつ 威 勢 よ く∼ ☆ ふ つ
あ た た か い 空気 は ☆ ふ つ 態 と撚 に なつ て飛 ば され て 来 る (東 岩145) 鳥 の声 そ の音 が ◎ ぼつ AN
態 とひ く くな る
(小 岩78)
17〔5〕
ひ の き も☆ しん
態 と天 に 立 つ こ ろ
(春 と31)
髪 が くろ くて な が く☆ しん
態 と くち をつ ぐむ
(春 光33)
せ な か が ∼ 屈 ん で ☆ しん
態 と して ゐ る
(小 岩69)
そ ん な 口 調 が △ ち や ん 態 とひ と り 私 の 中に棲 ん で ゐ る(習 作41) 二 つ は △ ちや ん 態 と肩 に 着 て ゐ る
(小 岩95)
△ ちや ん 態 と顔 を見 せ て や れ
(犬148)
△ ち や ん 態 と顔 を見 せ て や れ と
(犬148)
△ ち や ん 態 と今 朝 ∼ わ た く しは 見 た
(白 い170)
そ の 蜂 は△ ちや ん 態 と抛物 線 の 図 式 に した が ひ (鈴谷202) 馬 は ピ ン *ふ ん
態 と耳 を立 て 音
いつ もの とほ りだ
(小 岩71) (小 岩77)
A
*ふ ん
音 ち や う ど 四十 雀 の や う に
大 きな 紺 い ろ の 瞳 を☆ りん
(火 薬234)
態 と張 つ て
(小岩97)
泥 の コ ロ イ ドそ の底 に ∼ ☆ りん 態 と立 て 立 て 青 い槍 の 葉 そ の や な ぎ∼ ☆ りん も う一 時 間 もつ づ い て☆ りん 茶 い ろの 瞳 を☆ りん :
熊 と立 て 立 て 青 い槍 の 葉
(青 い109)
態 と張 つ て 居 ります
(報告110)
態 と張 り
(冬 と245)
3〔3〕
*う う
音 ひ どい 風 だ
(真 空55)
耳☆ ごう
音 ど鳴 つて
(青 森178)
*ふ う A :T
(青 い108)
音
(小 岩92)
2〔2〕
△ ず うつ 態 と遠 くの く らい と ころ で は 鳥 が ね ∼☆ ば あ つ ANAN
態 と空 を通 つ た の
(小岩72) (青森178)
14〔5〕
◎ キ ンキ ン 態 光 る
(習 作40)
あ た まの 奥 の ◎ キ ンキ ン 態 光 つ て 痛 い もや 牧 師 の意 識 か ら☆ ぐん ぐん
(習 作40)
態 もの が 消 え て い く とは情 な い(真
み ち が ☆ ぐん ぐん 態 う しろ か ら湧 き
空59)
(小 岩88)
馬 車 は ☆ ず んず ん 態 遠 くな る
(小岩72)
そ して ☆ ず ん ず ん 態 遠 くな る
(小岩73)
雲 が そ の面 を △ どん ど ん 態 侵 して
(日輪22)
水 は 濁 つ て △ どん どん 態 なが れ た
(小岩86)
こ ま か な 砂 が ∼△ どん どん 態 流 れ て ゐ る
(オ ホ194)
雲 が △ どん どん 態 か けて ゐ る
(風 景 と217)
△ どん どん 態 雲 は月 の お もて を研 い で 川 は△ どん どん 態 氷 を流 して ゐ る の に
A:A:
な る ほ ど*ふ んふ ん
音
*ふ ん ふ ん
音
(風 の222) (冬 と244) (真 空50)
な る ほ ど
(真空51)
下 で は水 が ご う ご う 音 流 れ て 行 き
(風景 と218)
5〔4〕
あ か る い 雨 の 中 で ☆ す うす う 音 ね む る 風 は☆ ど う ど う 音 空 で 鳴 つ て る し
(小岩95)
ほ ん た う の鷹 が ☆ ぶ うぶ う 音 風 を截 る
ぼ と し ぎ は☆ ぶ うぶ う 音 鳴 り AAA
(宗教215) (小 岩91)
(小岩94)
1〔1〕 *Ho!
AAA:
Ho!
Ho!
(原 体121)
1〔1〕
◎dah-dah-dah-dahh
AAZAA
音
音
(原 体122)
1〔1〕 ◎dah-dah-sko-dah-dah
音
(原 体121)
◎dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
音(原
体121)
◎dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
音
(原 体122)
◎dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
音 (原 体122)
◎dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
音
AAAAAZAA
4〔1〕
ABT
(原 体123)
7 〔7〕
す す き は 雲が あ た らし く
き らつ 態 と光 つ て 過 ぎ る
(雲 と212)
☆ ぎ らつ 態 とひ か つ た く らゐ だ
(小 岩68)
ぎ くつ 態 としな けれ ばな らないほ どの
(オ ホ185)
向 ふ の 並 樹 を ◎ く らつ 態 と青 く走つて行つたのは∼徽章だ (小 岩81) か らだ の 丈 夫 な ひ と は☆ ご ろ つ 態 とや られ る
(昴226)
馬 車 が ∼ ◎ ひ らつ 態 とわ た く しを通 り越 す 受 け か ね て ぽ ろ つ 態 とお とす ABN
(芝 生106)
4〔2〕
こ こ は蒼 ぐろ くて ☆ が らん 態 と した もん だ あ の ☆ が らん 態 と した 町 か ど で 空 が ∼ ☆ が らん 態 と暗 くみ え な み だ を ふ い て △ きち ん 態 とた て ATB
(小 岩70)
(春 光33) (オ ホ189) (オ ホ194) (宗 教216)
2〔1〕
弧 をつ く る◎ ぎ ゆ つ く
音
(小 岩78)
◎ ぎゆ つ く A:B
音
(小 岩78)
(真 空57)
2〔1〕
*ウ ー イ
音
神 は ほ め られ よ
*ウ ー イ 音 いゝ 空 気 だ ABAB
(真 空58)
63 〔43〕
☆ う ら う ら 態 湧 きあ が る 昧 爽 の よ ろ こ び (真 空49) 赤 い苹 果 を たべ る う る うる 態 しな が ら苹 果 に 噛 み つ け ば (鎔 岩242) す ぎ ごけ の 表 面 が か さか さ 態 に乾 い て ゐ る の で あん ま り
が さが さ 音 鳴 る た め だ
(鎔 岩241) (風林165)
が さが さ 態 した稲 もや さ しい油緑 に熟 し (宗教215) お と な し く☆ が さが さ 態 した 南 部 馬 蘆の あ ひ だ を
(風景 と217)
が さが さ 音 行 け ば
さ む い が た が た 態 す る 風 が み ん な の が や が や 音 した は な し声 に き こ え
(一本238) (小 岩96) (鈴 谷204)
背 中☆ き ら き ら 態 燦 い て
(蠕 虫64)
あ の と き は き ら き ら 態 す る雪 の 移 動 の なか を 波 が き ら き ら 態 光 る な ら ぎ ら ぎ ら 態 の 丘 の 照 りか へ し
(小 岩83) (青 森185)
雲 に は ∼ み ん な☆ ぎ ら ぎ ら 態 湧 い て ゐ る
(丘 の23)
(休息42)
縮 れ て ☆ ぎ ら ぎ ら 態 の雲
(小 岩90)
縮 れ て 雲 は ☆ ぎ らぎ ら 態 光 り
(第 四229)
雲 が 縮 れ て ☆ ぎ ら ぎ ら 態 光 る と き
(火薬234)
こゝ は ぐち や ぐちや 態 した 青 い 湿 地 で 眼 の ふ ち も☆ ぐち や ぐちや
態 に なつ て しまふ
(小 岩89) (宗教215)
太 陽 が ☆ く ら く ら 態 ま はつ て ゐ る に もかゝ は らず (真 空58) あ た ま は く ら くら 態 す る ま で 青 く乱 れ ぐ ら ぐ ら 態 ゆ れ る風 信 器 を 耕 地 の 線 が ☆ ぐ ら ぐ ら 態 の 雲 に うか ぶ こ ち ら 農 夫 は∼ あ ん な に☆ ぐ ら ぐ ら 態 ゆ れ るの だ あ ん な に☆ ぐ ら ぐ ら 態 ゆ れ るの だ
(宗教215)
(小 岩81)
(小 岩82) (小 岩90) (小岩90)
☆ ぐ ら ぐ ら 態
の 空 の こ つ ち側 を
(小岩92)
雲 は☆ ぐ ら ぐ ら 態 ゆ れ て馳 け る し
(過 去235)
雲 は くる くる 態 日は 銀 の 盤
(青 い107)
雲 は 来 る くる 態 南 の 地 平
(青 い107)
み ん な ぐ る ぐる 態 す る
(青森178)
幹 や 枝 が ☆ ご ち や ご ちや 態 漂 ひ 置 か れ た
(オ ホ193)
☆ こ と こ と 音 と寂 しさ を 噴 く暗 い山に
(不貪211)
松 倉 山 の 木 は ∼ あ の☆ ご と ご と 音 い ふ の が み ん なそ れ だ
(風 の223)
雲 が ∼ ☆ こ ろ ころ 態 まる め ら れ た パ ラ フ ヰ ンの 団 子 に な つ て (真 空50) 鴬 も☆ ご ろ ごろ 音 啼 い て ゐ る
(小 岩72)
か しは は い ち め ん さ ら さ ら 音 と鳴 る
(風 林168)
沼 地 を∼ 馬 が ∼ ☆ す ぱ す ぱ 態 渉 つ て 進 軍 も した
(小 岩90)
雉子 は☆ す る す る 態 なが れ て ゐ る
(小 岩84)
赤 い〓 も ち らち ら 態 み え る
(小 岩95)
お 日さ ま は ∼ 火 を ど し ど し 態 お 焚 きな さ い ます
(丘 の24)
沼 は ∼ つ め た く ぬ る ぬ る 態 した〓 菜 とか ら組 成 され
(雲 と212)
洋 傘 は ∼ しば ら く☆ ぱ た ぱ た 音 言 つ て か ら∼ 倒 れ た の だ (風 景 と219) 雨 は ☆ ぱ ち ぱ ち 音 鳴 つ て ゐ る ひ で りは ☆ パ チ パ チ 態 降 つ て くる
(休息42)
(休息43)
曠原 風 の 情 調 を ば ら ば ら 態 に す るや うな ひ どい け しきが (鎔 岩240) 新 ら し くて☆ パ リパ リ 態 の 銀 杏 な み き を 農 具 は ぴ か ぴか 態 光 つ て ゐ る し
(真空48)
(雲 の38)
わ た く しは な に を び くび く 態 して ゐ る の だ
(小岩98)
しぶ きや 雨 に び しや び しや 音 洗 は れ て ゐ る
(山巡125)
み ぞ れ は び ち よ び ち よ音 ふ つ て くる
(永訣156)
み ぞ れ は び ち よ び ち よ音 沈 ん で くる
(永訣157)
笛 ∼ は き ま ぐれ な☆ ひ よう ひ よ う 態 の酋長だ つ め くさ∼ 草 地 ∼ ☆ ふ くふ く 態 して あ た た か だ 泥 炭 が な に か ☆ ぶつ ぶ つ 音 言 つ て ゐ る
(小 岩88) (習 作40) (真 空58)
わ た く し は∼ 雑 嚢 を ぶ らぶ ら 態 さげ て
(小 岩87)
瘠せ た肩 を ◎ ぷ るぷ る 態 して る に ちが ひ な い
(真 空53)
野 は ら も はや し も◎ ぽ しや ぽ しや 態 した り黝 ん だ り して
(く ら21)
た とへ ∼ 羊羹 い ろ で ぼ ろ ぼ ろ 態 で
(風 景 観112)
そ の 下 で は☆ ぼ ろ ぼ ろ 態 の 火 雲 が 燃 え て
(樺 太200)
え り を りの シ ヤ ツ や ぼ ろ ぼ ろ 態 の 上 着 を き て
(過 去235)
助 手 は ∼ 赤 髪 を も じや も じや 態 して ∼ 睡 つ て ゐ る
ABA'B
(青 森175)
い そ し ぎが☆ よ ち よ ち 態 とは せ て 遁 げ
(オ ホ195)
☆ よ ち よ ち 態 とは せ て で る
(オ ホ196)
6〔3〕
☆ さめ ざ め 態 とひ か りゆす れ る樹 の 列 を (青森183) 黄 金 の ゴ ー ル が☆ さめ ざ め 態 と して ひか つ て もい い
(冬 と245)
農 夫 が 立 ち △ つ くづ く 態 とそ らの く もを見 あ げ
(小岩89)
わ た く しが ∼ さ らに △ つ くづ く 態 とこ の焼 石 ∼ をみ わ た せ ば (鎔 岩240) す き とほ る もの が ∼☆ ほ の ぼ の 態 とかゞ や い て わ らふ
(小岩86)
小 さ な蚊 が ∼☆ ほ の ぼ の 態 と吹 き と ば さ れ ABCB
(オ ホ191)
6〔6〕
わ た く しは☆ で こぼ こ 態 凍 つ た み ち をふ み
(屈折20)
こ の で こぼ こ 態 の 雪 をふ み
(屈折20)
ガ ラス 障 子 は ∼ で こぼ こ 態
(小岩71)
浮 標 を な げ つ け た で こぼ こ 態 の ゆ きみ ち を
(小 岩76)
そ の☆ で こぼ こ 態 の ま つ 黒 の 線
(東岩142)
月 は水 銀 を塗 られ た で こぼ こ 態 の 噴 火 口 か らで き て ゐ る ABABT
1〔1〕
柏 木 立 の ∼ 闇 が ☆ き ら き らつ 態 と い ま顫 へ た の は ATBAB
(風 の222)
(風林166)
2 〔2〕
太 刀 を 浴 び て は☆ い つ ぷ か ぷ 態 胃 袋 は い て ☆ ぎつ た ぎ た 態 ATBR
(原 体122)
( 原 体122)
27〔9〕
わ た く しは か つ き り 態 み ち を まが る
(小 岩101)
か らだ を ∼ 黒 く かつ き り 態 鍵 に ま げ
(電 線126)
陽 が い つ か こ つ そ り 態 お りて きて
(小 岩79)
お まへ も△ さつぱ り 態 ら くぢや な い こん な さつぱ り 態 した 雪 の ひ とわ ん を あ あ い い さつぱ り 態 した 口 をすゝ い で さつぱ り 態 して 往 か う 耳ご う ど鳴 つ て △ さつぱ り 態 聞 け な ぐなつ た ん ち や い △ しつ か り 態 な さい △ しつ か り 態
(蠕 虫65) (永 訣157) (松 の160)
(白 い172) (青 森178) (真 空55) (真 空55)
も し も し△ しつ か り 態 な さい
(真 空55)
鳥 は い よ い よ △ しつ か り 態 とな き
(東岩144)
高 等 遊 民 は∼ △ しつ か り 態 した 執 政 官 だ
(不貪 211)
苦 扁 桃 の 匂 が くる△ す つ か り 態 荒 さん だ ひ る ま に なつ た み ん な△ す つ か り 態 変 つ て ゐ る 海 面 は∼ △ す つ か り 態 銹 び た
(真 空52) (小 岩73) (オ ホ189)
雨 が ∼ △ す つ か り 態 とつ て しまつ た の だ
(風 の222)
せ び う な ど は☆ そ つ く り 態 お とな しい 農学 士 だ
(小 岩68)
眼 に は△ はつ き り 態 み え て ゐ る
(青 森179)
こん な に ぱ つ ち り 態 眼 を あ くの は
(青 森177)
そ こで △ ゆつ く り 態 と ど ま るた め に 私 は△ ゆ つ く り 態 と踏 み 雲 は さつ きか ら△ ゆつ く り 態 流 れ て ゐ る
(小岩70) (東 岩144) (樺 太199)
萱 の 穂 の あ ひ だ を△ ゆ つ く り 態 あ る く とい ふ こ と も いヽ し (不貪210) 一 疋 の 馬 が △ ゆ つ くり 態 や つ て くる 農 夫 は ∼ △ ゆつ く り 態 くる 穹窿と草 をは ん に ち △ ゆ つ く り 態 あ る く こ と は
(風 景 と217) (風景 と217) (一 本238)
ANBR 1〔2〕 そ れ は しよ ん ぼ り 態 た つ て ゐ る宮 沢 か
(風 林166)
山 は ☆ ぼ ん や り 態
(雲 の38)
山 は☆ ぼ ん や り 態
(雲 の38)
外 套 の 袖 に ぼ ん や り 態 手 を 引 つ 込 め て ゐ る
(東岩141)
あ け が た の な か に☆ ぼ ん や り 態 と して は ひ つ て き た
(青 森181)
ABRABR 2〔2〕 赤い 蠕虫舞手
は∼ くる りくる り 態 と廻 つ て ゐ ます
(蠕 虫64)
金いろの苹 果の樹が◎ も くりも くり 態 と延 び だ して ゐ る
(真 空51)
ABRAB"R 1〔1〕 ◎ ナ チ ラ ナ トラ 態 の ひい さ まは
(蠕虫63)
ATBATB 1〔1〕 禁猟 区 の ため で な い ◎ ぎゆ つ く ぎゆ つ く
音
(小 岩78)
ATBRATBR 1〔1〕 ぽ つ か りぽ つ か り
態 しづ か に うか ぶ (真 空50)
ABABABAB 2〔2〕 雀 ∼ 田 に は ひ り◎ うる う る うる うる 態 と飛 び(グ
ラ124)
せ い しん て きの ∼ 火 が ∼ ☆ ど し ど し ど し ど し 態 燃 え て ゐ ます (コ バ26) ABCB"ABCB" 2 〔1〕
◎ ち らけろ ち らけ ろ 音
四十雀
(不貪210)
◎ ち らけ う ち ら け ろ 音
四十雀
(不貪210)
ATBATBATBATB 1 〔1〕 Rondo Capriccioso◎
ぎ ゆつ くぎ ゆつ く ぎゆ つ くぎ ゆつ く
音
(小 岩78)
4.オ ノ マ トぺ の 分 布 の 特 色 オ ノマ トペ の 分 布 を語 彙 表 に ま とめ て み る 。 延 べ 語 数 を 数 字 で,異
な り語 数
を 〔 〕 内 数 字 で示 す 。 宮 沢 賢 治 の オ ノマ トぺ は,語
根2 拍 型 が 7割,語
根1 拍 型 が3 割 を 占 め,と
りわ け 語 根2 拍 反 復 型 が3 分 の1(語 彙 量 で 4割 弱)を 賢 治 の オ ノマ トペ は,擬
態 語 が8割 弱,擬 音 語 が2 割 強 を 占 め る。 特 に,語
根2 拍 型 で は 擬 態 語 が8 割 を 越 え,圧 割 弱(語 彙 量 で5 割 弱)を 形 式(型)と
倒 的 に 多 い。 語 根1 拍 型 で は擬 音 語 が 4
占 め,比 較 的 多 い。
擬 態 語 ・擬 音 語 の別 と の対 応 は,語
形 式 で は,AT, A:T,
占めて多 い。
AN, ANANの
各 形 式(音
彙 表 か ら明 らか で あ る。A 便 添 加 型)は
擬 態語 の専用
形
式 延べ 異なり 擬音 語 擬態 語 清 音 半 濁音 濁 音 接
AT
9
AN
17
A:
3
〔3〕 3 〔3〕
2
〔2〕
A:T
〔8〕 2〔2〕 〔5〕 2〔1〕
1〔1〕 2〔2〕
1〔1〕
1 〔1〕 ど1〔1〕
2〔2〕
A:A:
5
〔4〕 5〔4〕
AAA
1
〔1〕 1 〔1〕
AAAA: AAZAA
1 〔1〕 1 〔1〕 1 〔1〕 1 〔1〕
2〔2〕
〔5〕 2 〔1〕 12 〔4〕 4 〔2〕
4〔1〕
続
と9〔8〕 と15〔4〕
2 〔2〕
14
AAAAZAA
6〔5〕
15〔4〕16〔4〕
ANAN
A形式 小 計157
7〔7〕
と2〔2〕
10 〔3〕
1〔1〕
4〔3〕
1 〔1〕 1 〔1〕 1 〔1〕
4〔1〕
4〔1〕
〔31〕 21〔15〕
36〔17〕130〔15〕
2〔2〕 25〔14〕 と27〔15〕
ABT
7
〔7〕
7〔7〕 3〔3〕
4〔4〕 と7〔7〕
ABN
4
〔2〕
4〔2〕 1〔1〕
3〔1〕 と4〔2〕
ATB
2
〔1〕 2 〔1〕
A:B
2
〔1〕2〔1〕
〔43〕13〔11〕
50〔33〕22〔18〕
ABAB
63
2 〔1〕 2〔1〕
7〔7〕 34〔18〕 と4〔3〕 に3〔3〕 で1〔1〕 の8〔5〕
ABA'B
6
〔3〕
6〔3〕 6〔3〕
ABCB ABABT ATBAB
6
〔1〕
1
〔1〕
1〔1〕 1〔1〕
2
〔2〕
2 〔2〕 1 〔1〕1
ATBR
27
〔9〕
ANBR
5
〔2〕
ABRABR
2
〔2〕
2 〔2〕 2〔2〕
ABRAB"R
1
〔1〕
1〔1〕 1〔1〕
ATBATB
1
〔1〕 1 〔1〕
ATBRATBR
1
〔1〕 l
1 〔1〕
ABABABAB
2
〔2〕
2〔2〕
ABCB"ABCB"
2
〔1〕 2 〔1〕
ATBATBATBATB
1
AB形 式 小 計 135
と6〔3〕
6〔1〕
6〔1〕 の4〔1〕 と1〔1〕
27〔9〕 26〔8〕
〔1〕
1〔1〕
5 〔2〕 1 〔1〕
と2〔2〕 4〔1〕 と1 〔1〕 と2〔2〕
の1〔1〕
1 〔1〕 1〔1〕
1 〔1〕 1〔1〕
と1〔1〕
2 〔1〕
〔1〕. 1 〔1〕 〔81〕21〔16〕 114〔66〕 69〔42〕
1 〔1〕 9〔9〕 57〔30〕 と28〔22〕 に3〔3〕 で1〔1〕
合
計
192〔112〕
42〔31〕 150〔83〕 99〔57〕
11〔11〕 82〔44〕
の13〔7〕 と55〔37〕 に3〔3〕 で1〔1〕 の13〔7〕
に 近 く,A:,A:A:,AAA…
の 各 形 式(長
音 型,拍
用 で あ る 。AB形
式 で は,ABT,ABN,ABA'B,ABCB,ABABT,ATBAB,
ATBR,
ABRABR,
ANBR,
(音 便 添 加 型,「 B,
ATBATB,
ABRAB"R,
り」 添 加 型,変
形 反 復 型,4
ATBATBATBATBの
ABABABABの
各 形式
回 反 復 型)は
各 形 式(促
で あ る 。 変 形 反 復 型 のABCB"ABCB"形
擬 態 語,ATB,
音 長 音 挿 入 型)は
式 は,賢
に 擬 音 語 で あ る 。 反 復 型 のABAB形
擬 音 語 の専
ATBRATBR,
反 復 型)は
A:
擬 音 語の専用
治 の 造 語 で あ る が,例
式 は,8 割 が 擬態 語,2
外 的
割 が 擬 音 語 と して
用 い られ て い る 。
延 べ 語 数 と異 な り語 数 の 差 の 少 な いAT,A:, ABAB,
ATBAB,
復 型)は,オ
ABRABR,
ABABABABの
A:T,
各 形 式(促
A:A:,
ABT,
音 添 加 型,長
音 型,反
ノ マ トペ の 種 類 が 多 く,バ ラエ テ ィ に富 ん で い て,独 創 的 な もの
も多 い 。 延 べ 語 数 と 異 な り語 数 の 差 の 大 きいAN, 形 式(撥 音 添 加 型,「 り」 添 加 型)は,オ
ANAN,
ATBR,
ANBRの
各
ノマ トペ の 種 類 が 少 な く,慣 用 的 な
もの が 多 い 。 濁 音 始 ま りの 多 いA:T,ANAN,
A:A:,ABN,
ATB,
ABCB,
ANBR
の 各 形 式 は,そ の 形 式 的 特 徴 に 関 わ りな く,東 北 の 風 土 に 根 ざ した 沈鬱 な心 象 風 景 を 表 す の に 用 い ら れ,独 創 的 な もの も 多 い 。 清 音 始 ま りの 多 いAT, ATBR,
ABRABRの
各 形 式 は,そ
の 形 式 的 特 徴 に 関 わ りな く,清冽
す の に 用 い られ る。 反 復 型 のABAB形
AN,
な心 象 を表
式 は,5 割 強 が 濁 音 始 ま り,3∼4割
が
清 音 始 ま り,1 割 が 半 濁 音 始 ま りで,語 彙 量 で は 濁 音 始 ま り と清 音 始 ま りは 4 割 強 で 同 じで あ る。 濁 音 始 ま りの オ ノマ トペ に,賢 治 の思 い 入 れ の 強 い こ とが 知 られ る。 接 続 で は,AT,A:T, ABA'B,
ABRABRの
ABT, 各 形 式(音
す べ て が 「と」 に 接 続 して,副 ABABABABの
各 形 式(長
ABABT,(表
情 音 言 語 化 を 除 く)AN,
便 添 加 型,清 濁 反 復 型,「 り」 添 加 反 復 型)の 詞 と な る 。A:,ATBR,
音 型,「 り」 添 加 型,反
ANBR,
で な く,「 に 」 「で 」 に 接 続 して,副
「と」
式 は,「 と」 だ け
詞 あ る い は形 容 動 詞 連 用 形 と な り,「 の 」
体 修 飾 成 分 と な る(い
た だ し,ANAN,A:A:の
ABAB,
復 型,4 回 反 復 型)も
(濁 音 化 を 含 む)に 接 続 して,副 詞 とな る。 反 復 型 のABAB形
に接 続 して,連
ABN,
各 形 式(撥
わ ば オ ノマ トペ の 名 詞 的 用 法 で あ る)。 音 添 加 反 復 型,長
音 反 復 型 〉 は後 置 詞
に 接 続 し な い で,そ 代動詞
の ま ま で 副 詞 と な る 。 な お,ABAB,ATBRの
各 形 式 は,
「す る 」 に も接 続 す る 。
5.独 創 的 な オ ノ マ トぺ 表 現 的 あ る い は 文 脈 的 に 独 創 的 な オ ノマ トペ をい くつ か 取 り上 げ て み る 。 「しん 」 は,状 態 の 共 起 や 状 況 の 連 動 を 示 す 「と」 で 受 け る。 〔∫〕 音 は,摩 擦(抵
抗 感)を 受 け な が ら も通 り抜 け る さ ま を示 す 。 〔 i 〕 音 は,限 定 され た 領
域 を示 す 。AN形
式 「しん」 は,静 寂 の 余 韻 を示 し,余 情 を湛 え る 。
「ひ の き も しん と天 に 立 つ こ ろ 」(春 と31)で
は,大 地 の 自然 が そ の ま ま宇
宙 につ な が る清冽 で 聖 な る心 象 が 表 さ れ る 。 賢 治 の 自然 即 宇 宙 とい う普 遍 宇 宙 (生 命 宇 宙)観
が 示 さ れ る。 賢 治 の 心 象 の な か で,東 北 の 大 地 に 生 え る ひ の き
は 天 に 向 か っ て 伸 び て 宇 宙 を貫 き,無 音 の な か に精 神 的 な 宇 宙 の 声 の 響 きを 聴 く。 ひの き とい う限 定 さ れ た 垂 直 的 な い の ち の動 きが,宇 宙 全 体 に 交 響 す る 。 「き らっ」 は,「 と」 で受 け る。 前 述 した よ うに,〔 k〕 音 は 乾 い て硬 質 な イ メ ー ジ,〔 r〕 音 は 滑 らか に 回転 す る イ メ ー ジ,各 母 音 は 広 が り方 を 示 す 。ABT形 式 「き ら っ」 は,輝
きが 開 始 して 瞬 時 に 終 る,時 間 的 な短 さ ・速 さ,緊 張 感 を
示 す 。 限 定 さ れ た輝 きが 回 転 しな が ら,瞬 時 に 全 体 に わ た る 。
「す す き は き らつ と光 つ て 過 ぎ る 」(雲 と212)で
は,す
す きが風 になび い
て 陽 の 光 を受 け る さ ま,一 瞬 す す きが 反 転 して そ れ に伴 って 輝 き も反 転 して ま た 消 え る さ まが,視 点 の転 換 に よる 心 象 と して 表 さ れ る 。 い の ち の煌 め きが 示 され る。 「き ら き ら」 は,「 と」 で 受 け る と は 限 らな い。ABAB形
式 「き ら き ら」 は,
限 定 され た輝 きが 回 転 しなが ら全 体 に わ た る一 般 的継 続 を示 す 。 「背 中 き ら き ら燦 い て 」(蠕 虫64)で
は,明
る い 陽 の 光 を浴 び て,水
の なか
の 蠕 虫 の 背 中が 輝 き を放 ち,そ の 輝 きが 回 転 しな が ら周 囲 に広 が り続 け る 心 象 が 表 され る 。 太 陽 と蠕 虫 が 呼 応 した い の ち の煌 め きの 継 続 が示 され る 。 「ぎ ら っ」 は,「 と」 で 受 け る。 〔g 〕 音 は,重 苦 し く濁 った 鈍 い(醜 い)イ ー ジ ,抵 抗 を受 け な が ら進 む イ メ ー ジ を示 す 。ABT形 式 「ぎ ら っ 」 は,鈍
メ く
重 苦 しい輝 きが 開 始 して 瞬 時 に 終 る,時 間 的 な短 さ ・速 さ,緊 張 感 を示 す 。 「わ た く しは ず ゐ ぶ ん す ば や く汽 車 か らお りた / そ の た め に 雲 が ぎ らつ と ひ
か つ た く ら ゐ だ 」(小 岩68)で
は,停
車 場 で す ば や く汽 車 か ら降 りた た め に,
頭 上 の雲 が 一 瞬 反 転 して,薄 暗 い どん よ りと した東 北 の 空 の な か で 鈍 く重 い 光 を放 っ て ま た 視 野 か ら消 え る さ まが,視
点 の 転 換 に よ る 心 象 と して 表 さ れ る 。
自然(宇
治 自身 の深 層 心 理 に 潜 む暗欝 な心 情 と
宙,生 命)の
と も に,示
暗鬱 な 側 面 が,賢
され る 。
「ぎ ら ぎ ら」 は,「 と」 で 受 け る と は 限 ら な い 。ABAB形
式 「ぎ ら ぎ ら」 は,
鈍 く重 苦 しい イ メ ー ジが 閉鎖 的 に部 分 に 限 定 さ れ な が ら,抵 抗 を受 け なが ら回 転 す る イ メー ジ とな って,全 体 に 及 ぶ 一 般 的継 続 を示 す 。 「縮 れ て 雲 は ぎ ら ぎ ら光 り」(第 四229)で 悩 の蠢 き, 修 羅 の 争 闘 す る 自尊 心 が,嫉
は,賢
治 自 身 の 深 層 心 理 に 潜 む煩
妬 や 憎 しみ の 光 とな っ て,暗欝
な空 の
な か の醜 く縮 れ た 雲 の 放 つ 鈍 く重 苦 しい輝 きの 継 続 す る 心 象 と して,表 され る。 雲 は,天
と地 と の 間 に あ っ て,清冽
い は 闘争 心(修
で 聖 な る天(精
神 の 高 み)を 覆 う煩 悩 あ る
羅 の 心)を 象 徴 す る。
■ 発展問題 (1) 宮 沢 賢 治 の 童 話 の な か の オ ノ マ トペ と 比 較 し て み よ う。 た と え ば,「 風 は ど うどう 空 で 鳴 つ て る し」(宗 教 風 の 恋)と
童話
『 風 の 又 三 郎 』 の な か の 「ど つ
ど ど ど ど う ど ど ど う ど ど ど う」 と を 比 較 し て み る 。
(2) 中 原 中 也 の 詩 の な か の 独 創 的 な オ ノマ トペ と比 較 し て,そ
の 身体 感覚性 や思
想 性 の 違 い を 考 察 し て み よ う。
(3) 幸 田 文 の 散 文 の な か の オ ノ マ トペ と比 較 し て,そ
の 身体感 覚性 や 思想性 の違
い を 考 察 し て み よ う。
■ 参考文献 1) プ ラ トン 『ク ラテ ュ ロス テ ア イテ トス 』 プ ラ トン全集(岩 波書 店,1974) 2) ソシ ュ ール 『一般 言 語 学 講義 』 小林 英 夫 訳(岩 波 書 店,1940) 3) 國廣 哲 彌 「五 感 を あ らわ す 語彙 − 共 感覚 比 喩 的体 系 」(『言語 』1989年11月 店,1989) 4) 田守 育 啓 『オ ノマ トペ 擬 音 ・擬 態 語 をた の しむ 』(岩 波 書 店,2002)
号,大 修 館書
5) 浅 野 鶴 子 ・金 田 一 春 彦 6) 天 沼 寧
『擬 音 語 ・擬 態 語 辞 典 』(角 川 書 店,1978)
『擬 音 語 ・擬 態 語 辞 典 』(東 京 堂 出 版,1974)
7) 桑 原 幹 夫 「賢 治 の オ ノ マ トペ 」(『 作 家 の 詩 神 』 桜 楓 社,1976) 8) 苧 阪 直行
『感 性 の こ と ば を 研 究 す る 』(新 曜 社,1999)
9) 河 原 修 一 「擬 音 語 ・擬 態 語 に つ い て の 文 法 的 考 察 」(島 根 国 語 国 文 6,1995) 10) 河 原 修 一 「宮 沢 賢 治 の 心 象 ス ケ ッチ に み る オ ノ マ トペ 」(金 沢 大 学 国 語 国 文29-30,2004 -2005)
第11章
「も し も し」 の 由 来 は 「申す 」 か? 【総 合 語 彙 ・呼 び か け語 彙 】
キ ー ワ ー ド :挨 拶,呼
びか け の 場 面,待
遇,表
現 形 式,転
成
1.対 話 の 始 ま り は呼 び か け か ら 様 々 な生 活 の 場 面 に お け る 人 と人 との 出 会 い は,言 語 表 現 の う え で は,ま ず 呼 び か け か ら始 ま る。 呼 び か け に は,A . 自分 へ の 注 意 を 惹 くこ と ば(「 あ の う」 「も し も し」 「こ らっ 」 な ど),B . 相 手 へ の呼 名 ・呼 称(「 鈴 木 君 」 「お ば さん 」 「そ この 赤 い 服 を着 た 人 」 な ど),C.定
型 化 し た挨 拶 こ と ば に よ る 代 用(「 こ ん に ち は」 「す
み ませ ん 」 「た だ い ま」 な ど),D.挨
拶 と して の 話 題 の 切 り出 しに よ る 代 用
(「い い 天 気 に な りま した ね え 」 「お 元 気 で す か 」 「この 間 は ど う もお 世 話 に な り ま し た」 な ど)な
どが あ る。
呼 びか け も,広 義 に は挨 拶 に 含 まれ る。 挨 拶 と は,あ る 集 団 の 文 化 的 行動 パ タ ー ン と して,人 と人 との 出 会 い や別 れ, 約 束 事 な どに 際 して 取 り交 わ され る,親
しみ や 敬 意 を 表 す 言 語 的 ・身体 的 な 表
現 で あ る。 こ こで は,呼
び か け の 表 現 と して A を 中心 に 取 り上 げ る。C・Dは,呼
け 以外 に も用 い ら れ る 。 以 後,特
びか
に 断 ら な い 限 り,単 に 「呼 び か け の 表 現 」 と
い う と き は,A に よる 表 現 を指 す こ と にす る。 呼 び か け の 表 現 は,聞
き手 と の 関 係 を含 む具 体 的 な場(脈
絡,状
況)の
うえ
に成 り立 つ 。表 現 以 前 に,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンへ の 欲 求 と い う動 機 に基 づ い て, 話 し手 と な るべ き決 意 が あ る 。 表 現 に 際 して,聞 の 判 断 あ る い は 配慮 が 働 く。
き手 と の 関 係 を 踏 ま え た場 へ
と ころ で,呼
び か け の 表 現 は,時 代 につ れ て,そ の 言 語 形 態 も意 味 も使 用 さ
れ る場 も変 化 して きた 。 た と え ば,現 代 で は,電 話 に お け る 呼 び か け と して 形 式 化 した 「も し も し」 も,少 し時 代 を遡 れ ば,異 な る場 面 で 用 い られ て い た し, そ の 淵 源 をた ど れ ば 「申す 」 との 関 連 が あ りそ う で あ る。 そ こで,古
代語 か ら
現 代 語 へ の 過 渡 期 とい わ れ る 室 町 時 代 末 期 あ る い は 江 戸 時 代 初 期 に お け る呼 び か け の 表 現 に つ い て,調 べ て み よ う。
2.室 町 時 代 末 期 あ るい は 江 戸 時 代 初 期 に お け る呼 び か け こ こで は,室 町 時 代 末 期 あ る い は江 戸 時 代 初 期 に お け る 当 時 の 談 話 語 を比 較 的反 映 し てい る と思 わ れ る 大 蔵 虎 明 『狂 言 之 本 』 を資 料 とす る 。 書 写 は江 戸 時 代 初 期(1642年)で
あ る が,大
蔵 流 で は 代 々 口 伝 を 重 ん じ て い た か ら,む
ろ虎 明 が 師 と した 祖 父 虎 政(1598年
没)の
し
活躍 した室町時 代 末期 の談 話語 を
反 映 して い る と思 わ れ る。 とい う の も,狂 言 は 当時 の庶 民 の 日常 談 話 語 を台 詞 と して 用 い て い た か らで あ る。 翻 刻 さ れ た刊 本 に よ っ て,呼
び か け の 場 面 を抜 き出 す 。
呼 び か け の 表現 が 用 い られ る場 面 と して,六 つ の場 合 が 考 え られ る 。 (1) 他 家 を訪 問 して,玄
関 先 で案 内(取 次 ぎ)を 請 う場 合
(2) 知 人 ・縁 者 の 家 を訪 問 して,直 接 本 人 に 呼び か け る場 合 (3) 道 中 で 見 知 らぬ 人 に 呼 び か け る場 合 (4) 顔 見 知 りの 人 に 呼 び か け る場 合 (5) 話 して い る と きに,あ
る 事 柄 につ い て 注 意 を喚 起 す る 場 合
(6) 他 所 か ら帰 参 して,玄
関 先 で 呼 び か け る場 合
人 間 関係 の あ り方 に よ っ て,呼
び か け に お け る待 遇 表 現 は 異 な る。 呼 び か け
の場 面 にお け る 表 現 形 式 を 抜 き 出 し,待 遇 の 違 い に よっ て 分 類 して み る 。 呼 び か け の 表 現 に は,相 の 言 い 方(c)ぞ
手 との 関 係 に応 じて,(a)丁
ん ざ い な 言 い 方(d)古
総 索 引 を 用 い て,そ
寧 な 言 い 方(b)普
通
め か しい 言 い 方 が あ る。
れ ぞ れ 分 類 され た表 現 形 式 の 延 べ 語 数 を カ ウ ン トして,
どの よ うな 表 現 形 式 の 使 用 が 優 勢 で あ る か を 調べ る。 表 に して み る 。
※()内
の 数字 はパ ー セ ン ト,以 下同 じ
丁 寧 な 言 い 方 で は,「 物 申」 「申 々 」 「申 」 「案 内 申」 の 順 に,普 通 の 言 い 方 で は,「 な う な う」 「な う」 「あ の 」 「や あ 」 の 順 に,ぞ
ん ざい な 言 い 方 で は,「 や
い 」 「や い や い」 「ゑ い 」 の 順 に,古 め か しい言 い 方 で は,「 い か に 」 「い か に や い か に 」 の順 に,優 勢 に用 い られ て い る 。 語 形 か ら,表 現 形 式 は 「物 申」 「案 内 申 」 系,「 申」 系,「 あ の 」 系,「 な う」 系,「 や あ 」 系,「 や い」 系,「 ゑ い」 系,「 い か に」 系 に 大 別 され る 。 次 に,そ
れ ぞ れ の表 現 形 式 が ど うい う場 面 で,ど
う い う意 味 で 用 い られ て い
る か に つ い て,個 別 に検 討 す る 。
3.丁 寧 な 呼 び か け 「物 申 」 「案 内 申」 系 の 表 現 形 式 は,(1)の 身分 の 上 下 に拘 らず,世
場 面 で,初 対 面 で も顔 見 知 りで も,
間 的 な 常 識 あ る い は 作 法 と して,用
い られ る。 文 化 的
行 動 と して の 挨 拶 とい う意 味 が あ る 。 ① もの もふ(餅
酒 / 加 賀 の 百 姓 → 奏 者)た
そ(奏 者 → 加 賀 の 百 姓)
②爰 に いつ も同 道 仕 る お か た が 御 ざ る ほ ど に,さ そ ふ て 参 らふ,物申(連
歌 毘 沙 門/ 男 一 → 男 二)た そ ( 男二 →男一) ③ 物 申(二 人 袴 / 親 → 太 郎 冠 者)案 ④ 参 る程 に こ れ じや,も もの まふ と有 は,い ⑤ もの 申,あ
内 まふ と は た そ ( 太郎 冠者→親 )
の 申,あ ん な ひ 申(夷 毘 沙 門 / 毘 沙 門 → 舅)
か や う な る御 が た ぞ(舅 → 毘 沙 門)
ん な い 申(鶏 猫 / 藤 三 郎 の子 → 太 郎 冠 者)
案 内 と は誰 に て 渡 り候 ぞ ( 太郎冠者 →藤三郎の子 ) ① は初 対 面 で 身 分 の 高 い 人 に,②
は顔 見 知 りで 身 分 の 同 等 の 者 に,③
は親 族
で 目下 の 者 に 用 い られ て い る。応 答 は 「た そ 」 とい う 問 い か け が 一 般 的 で あ る 。 ③ ∼ ⑤ か ら,「 物 申 」 と 「案 内 申」 が ほ ぼ 同 じ意 味 で 用 い ら れ て い る こ とが わ か る 。 ま た,④ ⑤ の よ う に 「物 申,案 内 申」 と連 続 して 用 い る 方 が,応 寧 さか らみ て,よ ⑥ もの 申す(伯
答の丁
り儀 礼 的 で あ る と考 え られ る。 母 が 酒 / 鬼(甥)→
⑦ まい る程 に 是 じや,物
伯 母)た
そ ( 伯 母 → 鬼(甥))
申 ぞ (伯 母 が 酒 / 甥 → 伯 母)た
そ ( 伯母 →甥)
⑥ は 鬼 に扮 装 し た甥 が荘 重 に や や 古 め か し く,⑦ は甥 が 頼 み ご とが あ っ て 勢 い こ ん で 言 っ た と思 わ れ る 。 「物 申す 」 か ら 「物 申 」 に変 化 し た と考 え られ る 。 ⑧ 物 まふ 案 内 申 さ う(二 千 石 / 大 名 → 太 郎 冠 者) …もの まふ とは どれ か らぞ(太 郎 冠 者 → 大 名)(… ⑨ あ ん な ひ 申候(布
は 略,以
下 同 じ)
施 無 経 / 檀 家→ 住 持)
案 内 と は誰 に て 渡 り候 ぞ ( 住持→檀 家) ⑩ … い か に案 内 申候(梟
/ 兄 → 山伏)…
案 内 と云 は,た
「案 内 申」 よ りも⑧ ⑨ ⑩ の 方 が 順 に さ らに 古 い 語 形 で,応 て(山
伏 は尊 大 と され て い て 例 外),よ
そ (山 伏 → 兄) 答 の 丁 寧 さか らみ
り儀 礼 的 で あ る 。 ま た,応
答 を比較 し
て み て,「 物 申」 よ り 「案 内 申」 の 方 が や や 古 い形 式 で,儀 礼 的 と考 え られ る。 「申」 系 の 表 現 形 式 は,(2)(3)(5)(6)の 場 面 で,初 身 分 の 上 下 に拘 らず,相
対 面 で も顔 見 知 りで も,
手 の 行 動 を 中 断 す る非 を詫 び る か た ち で,用
い られ
る。 「しい しい 申」 「し し 申」 は,(3)の ⑪是へ わ つ は と申 て 参 る 程 に,つ
場 面 で 用 い られ る。 れ が あ る か とぞ ん じた れ は 只 一 人 じや,
…是 に 言 葉 をか け て 見 う,しい \/申(鼻 取 相 撲 / 太 郎 冠 者 → 新 座 の 者) こ な た の 事 て ご ざる か ( 新座 の者→太郎冠者)
⑫ 是 へ わ つ は と 申 て参 程 に,つ れ が あ ま た あ るか とぞ ん ず れ ば,只 一 人 じ や,是
に 言 葉 をか け う,しゝ
申(餅 酒 / 加 賀 の 百 姓 → 越 前 の 百 姓 )
こ な た の事 で 御 ざ るか ( 越 前の百姓 →加賀 の百姓) ⑪ の 頭 注 に 「叱 々 」 と あ り,「 申」 に 先 行 す る部 分 は擬 声 語 で,演
じる た び
に 長 音 化 した り短 音 化 した り した と 考 え られ る。 「しい しい 」 は単 独 で は,騒 ぎや 発 言 を制 止 す る と き に用 い られ る 。
⑬((し
⑪ ⑫ で,前
い \ / と云 て又 云 て きか す る))(八 に 「是へ わ つ は と申 て 参(る)程
幡 の 前 / 教 え 手→聟) に」 とあ る よ うに,相 手 が 声 を
上 げ て 何 か に 夢 中 に な っ て い る と き に,「 中 断 して 申 し訳 な い が 」 とい う気 持 ち で 添 え る と考 え られ る 。 初 対 面 の 人 に対 す る 丁 寧 な遠 慮 深 い 最 初 の 呼 びか け で,応 答 も 「こ な た の事 で ご ざ る か 」 とい う丁 寧 な 問 い 返 しが 一 般 的 で あ る 。 「申 」 も同様 に(3)の
場 面 で 用 い られ る。
⑭申 あ れ に たゝ れ た る は,某 が た の ふ だ 人 で 御 ざ る が,清 水 へ 妻 の 事 を き せ い い た さ れ て御 ざれ ば … も し さや うの 御 か た に て は ご ざ らぬ か(伊 字 / 太 郎 冠 者 → 女)((ウ
文
ナ ヅ ク))
応 答 を比 較 して み て,「 しい しい 申」 「し し申 」 よ り も 「申 」 の 方 が や や 気 楽 な呼 び か け で あ る と考 え られ る 。 「申 」 は,(5)の
場 面 で も用 い られ る 。 初 対 面 で も顔 見 知 りで も,身 分 の 高
い 人 に 対 して,前
に言 葉 の や りと りが あ っ て,や
や 心 安 い気 持 ちで,何
か新 た
に気 づ い た り思 い つ い た りす る と きに 用 い られ る。 ⑮ 一 だ ん お も しろ ひ,そ な た は たゞ 人 にで は お り な ひぞ(禁 領 の 者)申
野 / 大 名→雉
あ れ に き ぢが い ま らす る(雉 領 の 者 → 大 名)
⑯ つ ら う よ \ / , お か み さ ま をつ らふ よ((一 へ ん い ひ て))申
こ な たへ 申
た ひ 事 が 御 ざる,… そ れ を私 に くだ さ れ ひ(釣 針 / 太 郎 冠 者 → 主) ⑮ は初 対 面 で は あ る が す で に 言葉 を交 わ して い て,気 は 主 従 の 関 係 で,日
持 ちが 通 じて い る。 ⑯
頃 か ら互 い に気 心 が 知 れ て い る 。
「い や 申 」 「い か に 申 」 も,同 様 に(5)の
場 面 で 用 い られ る。 「い や 」 「い か
に 」 とい う感 動 詞 を添 え る こ と に よ り,自 分 の 意 思 を明 確 に伝 え よ う とす る。
⑰ ま か ぶ らの な り も,口 わ きの くわ つ と耳 まで き れ た も,そ の まゝ よ う に
た((と
云 て な く))(鬼 瓦 / 大 名→ 太 郎 冠 者)
い や 申,い
まい ま しひ 事 仰 らるゝ,も
はや や が て お くだ りな され て あ わ
せ られ う もの を,む さ と した 事 仰 らるゝ(太 ⑱ い か に 申,む
郎 冠 者→ 大 名)
こ殿 の お 出 で ご ざ る(岡 太 夫 / 太郎 冠 者→ 舅)
こ な た へ と を らせ られ ひ とい へ(舅→ ⑰ で は,「 い や 」 は 「や 」 の 強 め で,驚
太 郎 冠 者)
き な どの 感 情 を 表 出 して,相
め る 。 ⑱ で は,「 い か に 」 は様 態 を尋 ね る古 語 で,改
ま っ た 形 で,相
手 を諌
手 を促 す 。
「申 」 は,尊 敬 語 の疑 問 を伴 っ て,(2)(6)の 場 面 で 用 い られ る。 ⑲ い そ ひで い はふ,申
ご ざ るか ( 髭 櫓 / 告 げ 手→ 夫 )
何 事 で お じや る,よ
うお じや つ た(夫→
告 げ 手)
⑳ 申 しき かせ ら るゝ か(塗 師 / 妻→ 師 匠)何 事 で 御 ざ る ぞ ( 師 匠→ 妻 ) (21)いや も ど り付 た , 申 ご ざ る か 両 人 なが ら も どつ て ご ざ る(目 近 籠 骨 / 太 郎 冠 者 ・次 郎 冠 者→ 果 報 者) 両 人 なが ら も とつ た か ( 果 報 者→ 太 郎 冠 者 ・次 郎 冠 者) (22)申御 ざ る か \ / (末 広 が り/ 太 郎 冠 者→ 果 報 者 ) 太 郎 冠 者 も どつ た か ( 果 報 者→ 太郎 冠 者 ) ⑲ ⑳ は,丁 寧 な礼 儀 に 適 っ た 呼 び か けで あ る が,日
頃 親 しい 間柄 で の 直接 の
や り と りで あ る 。 応 答 も,尊 敬 語 の疑 問 で 問 い 返 した り,歓 迎 の 言 葉 を添 え た り して い る。 (21)(22) は,主 人 の 言 い付 け で 他 所 に 赴 い て い た従 者 の 帰 参 と報 告 とい う場 面 で, 主 従 関係 に あ る が,日
頃 親 しい 間柄 で の 直 接 の や り と りで あ る 。
「申 々」 は 「申」 を 重 ね て 用 い た形 で,「 申」 よ り も念 を押 した 言 い 方 と な る。 (23)是 へ 一段 の つ れ が ま い る,言 葉 をか け う,申々(か →播 磨 の 百 姓)こ
くす い / 摂 津 の 百 姓
なた の 事 で御 ざ るか ( 播 磨 の 百 姓→ 摂 津 の 百 姓 )
(24)今 一 度 か へ つ て,お 奏 者 に もわ らは し ま らせ うず と存 る(筑 紫 の 奥 / 丹 波 の 百 姓→ 奥 筑 紫 の 百 姓)そ 百 姓)い
れ は一 段 よか らう (奥筑 紫 の 百 姓→ 丹 波 の
ざ さ らは も ど ら う (丹波 の 百姓→ 奥 筑 紫 の 百 姓)申々(奥
の 百姓→ 奏 者)汝
らは まだ くた らぬ か(奏 者→ 奥 筑 紫 の 百 姓)た
筑紫 んばの
者 が 申 は,… お そ う しや もわ ら は し られ い(奥 筑 紫 の 百 姓→ 奏 者)
(25)申 々お や どに ご ざ るか , 太 郎 冠 者 が 参 つ た(墨 塗 / 太 郎 冠 者 → 女) や れ さ て 太郎 くわ じや め づ ら しや(女 → 太 郎 冠 者) (26) ((…申々 太 郎 くわ じや が も どつ て 御 ざ る))(張 ((も どつ た か))は
蛸 / 太 郎 冠 者 → 果 報 者)
りだ こ を も とめ て きた か(果 報 者 → 太 郎 冠 者)
(23)は,(3)の 場 面 で 「しい しい 申」 と ほ とん ど 同 じ意 味 で(少
々心 安 く)用
い られ,「 申」 よ り も改 ま っ た 言 い 方 と な っ て い る 。 そ れ に 対 す る 応 答 も 同 様 で あ る 。(24)は,(5)の 場 面 で 「申」 よ り も丁 寧 に 恐 縮 しな が ら も,身 分 の 高 い 相 手 に 自分 の 意 思 を伝 え よ う と して切 り出 して い る。(25)は(2)の 場 面 で,(26) は(6)の 場 面 で, 「申」 よ りも独 立的 に 用 い られ て い る。 「申 々 々 」 は 「申 」 を さ ら に 重 ね て 用 い た 形 で,「 申 々」 よ り も感 情 表 出 の 甚 だ しい 言 い 方 で あ る。 (27)に く さ も に く し,ま 一 どお こ さ う,申 ((き もつ ぶ す))な
々 々(鞍 馬 参 / 太 郎 冠 者 → 主)
ん ぞ(主 → 太 郎 冠 者)
(27)は,(5)の 場 面 で,ほ
と ん ど怒 鳴 りた て る言 い方 で あ る 。
丁 寧 な 呼 び か け の 表現 形 式 は,文 法 的 に は も と も とは 謙 譲 動 詞 だ っ た 「申 す 」 を含 ん だ 形 と な っ て い る 。 「申 」 系 の 表 現 形 式 は,「 申す 」 の連 用 形 の 転 成 を 中 心 と し,恐 縮 しな が ら も話 し手 の 存 在 に つ い て の注 意 を喚 起 す る 。 現 代 で は, 「申 々」 の 縮 約 形 「も し も し」 と い う言 い 方 で 残 っ て い て,見
知 らぬ 人 へ の 呼
び か けや 電 話 で の 応 対 に 用 い られ る。
4.普 通 の 呼 び か け 「あ の 」 系 の 表 現 形 式 は,(5)の
場 面 で,驚
きや 詠 嘆 を含 ん で 訊 き返 す 場 合
に 用 い られ る 。 (28)最 前 は 申 お と ひ て ご ざ る,中 に も え て す まふ を取 ます る と仰 られ ひ(鼻 取 相 撲 / 新 座 の 者 → 太 郎 冠 者)あ
の か た \ / の や(太
郎 冠者 → 新座 の
者) 「あ の 」 系 の 表 現 形 式 は,指 示 語 の転 成 に よ る 。 現 代 で は,「 あ の う」 と い う 言 い 方 で 残 っ て い て,た
め らい を含 ん だ呼 び か け や,話
の つ な ぎ と して 用 い ら
れる。 (29)なふ きや う こつ や,あ
の お しん ぼ ち さ ま は,何
しに ご ざ つ た(御
茶ノ
水 / 女 → 新 発 意) (29)では,た
め らい を含 ん だ 話 の つ な ぎ と して用 い られ て い る。
「な う」 系 の 表 現 形 式 は,(3)(4)(5)の
場 面 で,身
分 の上 下 に拘 らず,親
密 感 を前 提 と した 気 楽 な 呼 び か け と して用 い られ る 。 (30)なみ よ,さ
う もお りや る ま ひ(岡 太 夫 /聟 → 妻)
あ ま りの た へ が た さに,…
な ん とい た さ う そ(妻 →聟)
(31)⑳ な ふ お う ぢ こ ,此 国 に や う ら うの 滝 と い ふ て,… 水 / 孫 一 → 祖 父 ) 何 とい ふ ぞ(祖
まい つ て ご ざ るぞ ( 薬
父→ 孫 一)
(32)なふ き か し ます か ( 朝 比 奈/閻 魔 王 → 朝 比 奈 ) な に 事 ぞ(朝 比 奈 → 閻 魔 王) (33)なふ さ て只 今 は な に とお ほ しめ して 御 ざあ つ た ぞ ,… (墨 塗 / 女 → 大 名 ) 其 事,…
こゝ う な らず 無 沙 汰 を 致 た(大
名 → 女)
(30)は,(5)の 場 面 で,親 密 な相 手 に 共 感 ・同 意 を 求 め なが ら,話
しか け て い
る。 (31)(32)は,(5)の場 面 で,気 楽 な 言 い 方 なが ら,懇 願 ・依 頼 の 気持 ち を こ め て 問 い か け て い る。 (33)は,(4)の 場 面 で,親 密 な 相 手 に 自分 の 意 思 を伝 え よ う と して い る。 「な うな う」 は 「な う」 を重 ね た 言 い 方 で,相
手 に 対 す る 働 きか け の 意 識 が
強い。 (34)いな か 者 とみ え て,わ
つ は と 申,是
に あ たつ て み う と存 る,な ふ \ /
(末広 が り/ 売 手 (す っ ぱ) → 太郎 冠 者) こ な た の事 で ご ざ る か (太郎 冠 者 → 売 手 ) (35)なふ \ /(鶏聟
/ 教 え手 →聟)是
に い ます る(聟 → 教 え手)
(36)なふ \ / 只 今 は 何 事 を仰 られ た ぞ ( 連 歌 毘 沙 門/ 男 二 → 男 一) い や \ / 何 事 で もお りな い(男 一 → 男 二) (34) は,(3)の
場 面 で 用 い られ る が,「 申」 系 よ り も余 裕 の あ る気 楽 な 呼 び か
け で あ る。 初 対 面 なが ら,疎 遠 さ を 感 じ させ な い言 い 方 で あ る。 (35)は,(4)の 場 面 で,親 密 感 を伴 う呼 び か け と して 用 い られ て い る。 (36)は,(5)の 場 面 で 用 い られ る が,「 な う」 よ り も相 手 に 対 す る働 きか け が 強 く,懇 請 ・説得 な どを示 して い る。
「な う」 系 の 表 現 形 式 は,も 念,呼
と も と間 投 助 詞 の 「な 」 に 由 来 す る 。 詠 嘆,押
び か け とい う発 達 過 程 を踏 ん で い る と され る。 感 情 表 出 だ け で な く,相
手 へ の 共 感 の 求 め と い う機 能 もあ る 。 「申」 系 が 遠 慮 が ち な 呼 び か け で あ る の に対 し,「 な う」 系 は 感 情 を こめ た 気 兼 ね の な い 呼 び か け で あ る。 現 代 で は, 「な あ 」 「ね え」 「ね えね え」 と い う言 い 方 で 残 っ て い る。 「や あ」 系 の 表 現 形 式 は,(4)(5)の
場 面 で,身
分 に 関 係 な く,顔 見 知 りの
相 手 に対 す る感 情 を こ め た 呼 び か け と して 用 い ら れ る。 (37)いや た れ で お じや る(乞聟
/ 舅 →聟)わ
た く しで ご ざる(聟 → 舅)
や あ そ な た は な に し にお じや つ た(舅 →聟) そ の事 で ご ざ る,…
も どれ とい ふ て くだ され ひ(聟 → 舅)
(38)おの れ は い せ の ね ぎ と 見 え た,… (禰 宜 山伏 / 山伏 → 禰 宜)や,是
お り お れ((と
云 て 引 立 る))
は何 とめ さ るゝ ぞ(禰 宜 → 山 伏)
や あ \ / そ な た は ら うぜ きな 事 を め さ るゝ,何 事 を あ そ ばす(茶 伏)お
の れ は ゑ しる ま ひ,ひ つ こめ(山 伏 → 茶 屋)
(37) は,(4)ま は,(5)ま
屋→山
た は(5)の
た は(4)の
場 面 で 用 い られ るが,驚
場 面 で 用 い られ る が,驚
き な どの 感 情 を 含 む。(38)
き ・呆 れ な ど の 感 情 を含 み な
が ら,抗 議 ・非 難 ・制 止 な どの 相 手 へ の 働 きか け が 強 い 。 「や あ 」 系 の 表 現 形 式 は,も
と も と 間 投 助 詞 の 「や 」 に 由 来 す る 。 驚 嘆 か ら
呼 び か け へ の 発 達 過 程 を踏 ん で い る と され る。 思 い が け な い 出 来 事 へ の 感 情 表 出 とい う機 能 が あ る 。 「な う」 系 が 共 感 を 求 め る呼 び か け で あ る の に 対 し,「 や あ」 系 は 意 外 性 を 含 む 呼 び か け で,や
や ぞ ん ざ い な 語 感 を伴 う。 現 代 で は,久
し振 りの 再 会 の 場 面 で の 使 用 か ら懐 か し さが 取 り出 され て,仲
間内で の挨拶 と
して 用 い られ て い る。
5.ぞ ん ざい な呼 び か け 「や い 」 系 の 表 現 形 式 は,(3)(4)(5)の
場 面 で,身 分 的 に同 等 また は 目下 の
者 に 対 して,ぞ ん ざい に,尊 大 ま た は 軽 卑 的 に,時
に は喧 嘩 腰 で 用 い られ る。
(39) や い下 六 め す はや い(麻 生 / 藤 六 → 下 六) 何 と めす とい ふ か(下 (40)やい こ ひ,水
六 → 藤 六)
な り との ませ た ら は と りか へ せ(今
参 / 大 名 → 太 郎 冠 者)
か し こ まつ た(太 郎 冠 者 → 大 名) (41)言語 道 断 の や つ じや,や とぬ か す,あ
い よ う き け , は りだ こ と いふ は,…
なんのかの
ちへ うせ お れ(張 蛸 / 果 報 者 → 太 郎 冠 者)
して も京 の 者 が さや う に 申 た(太 郎 冠 者 → 果 報 者) (39)は,(4)の 場 面 で,同 僚 とい う仲 間 内 の 気 楽 な 呼 びか け で あ る。(40)は,(5) の 場 面 で,目
下 の 者 に 対 す る命 令 調 の 言 い方 で あ る。(41)は,(5)の 場 面 で,苛
立 ち を こめ て 説 明 した り叱 りつ け た りす る場 合 で,目
下 の 者 に対 す る怒 気 を 含
ん だ 言 い 方 で あ る。 (42)やい \ / , そ れ はが ん か((な
まつ て い ふ))(雁
盗 人 / 大 名→ 売 手)
中 々雁 で 御 ざ る(売 手→ 大 名) (43)やい \ / 両 国 の 百 性 これ へ 参 れ(餅
酒 / 奏 者 → 加 賀 ・越 前 の 百 姓)
((二 人 い づ る)) (44) や い \ / や る ま ひ ぞ,た 人)((と
ら しめやい \/(二
人 大 名 / 大 名 一 ・二 → 通 行
い ひて お い い り))
(45)やい \ / \ / ( 鍋 八撥 /羯 鼓 売 → 浅 鍋 売 ) 是 は い か や うな るお か た で御 ざ るぞ (浅 鍋 売 →羯 鼓 売 ) (42)は,(3)の 場 面 で,無 知 で 尊 大 な 田 舎 大 名 が,目
下 の者 と見做 して横 柄 な
態 度 で 呼 び か け る 。 通 常 は,初 対 面 の 相 手 に はぞ ん ざい な言 い 方 で 呼 び か け な い 。(43)は,(4)の 場 面 で,身 分 の 低 い 者 に 対 す る 命 令 調 の 言 い 方 で あ る 。(44)は, (5)の 場 面 で,怒
りの 感 情 を表 出 す る。(45)も,(5)の 場 面 で,喧
嘩 腰 で呼 び か
ける。 「や い 」 を重 ね る ほ ど,直 接 的 な感 情 表 出 を伴 い や す く,人 間 関 係 の 決 裂 に 至 る こ とが 多 い 。 「や い」 系 の表 現 形 式 も,も
と も と 間投 助 詞 の 「や 」 に 由 来 す るが,「 い 」 と
い う掛 け声 に 近 い 接 尾 辞 が 付 加 して,ぞ
ん ざ い な 語 感 を伴 う。 「や あ 」 系 は親
愛 感 を伴 う こ と も あ る が,「 や い」 系 は疎 外 感 を伴 っ て 対 立 的 に な る こ と も多 い。 現 代 で も,人 間 関係 の 決 裂 を覚 悟 した 言 い 方 と して 用 い られ て い る。 「ゑ い 」 系 の 表 現 形 式 は,(5)の
場 面 で,目
下 の者 に対 して,念
を押 して 促
す よ う に 用 い られ る。 (46)やひ しび り よ,… ゑ ひ,し
び り,ゑ
ひ.,あ ふ,今
の を きか せ られ た か
(痺 / 太 郎 冠 者 → 主)今 (47)や が て こ い,ゑ
の が しび りが 返 事 か (主 → 太 郎 冠 者 )
い(末 広 が り/ 果 報 者 → 太 郎 冠 者)
(48) ゑ ひ(鼻 取 相 撲/ 大 名 → 太 郎 冠 者)あ つ (太郎 冠 者 → 大 名 ) (49) しう の こ ゑ を きゝ わ す るゝ ほ どぶ ほ う こ う して,此
間 は ど ちへ お りや つ
た そ , ゑ い(二 千 石/ 大 名 → 太 郎 冠 者) (46)は,親 愛 感 を も っ て懇 願 しな が ら念 を押 す 言 い 方 で あ る。(47)(48)は,念を押 して実 行 を促 す 命 令 的 な 言 い 方 で あ る 。(49)は,怒 気 を含 ん で理 由 を示 しな が ら 叱 りつ け る 言 い 方 で あ る。 (50)やい \ / な ん ぢが つ まが ほ し くは,西 い\/ ( 因 幡 堂/女(薬
門 に た ち た をつ ま と さ だ め ひ,ゑ
師 如 来)→ 男 ) … あ つ \/ (男 → 女 )
(51)あれ ほ どの … の み ふ せ る よ ひの ま ぎれ に(餅 酒/ 越 前 の 百 姓 → 奏 者) ゑ い \ / , め ん \ / の み ね ん ぐに付 て よめ(奏 者 → 越 前 の 百 姓) そ れ に と う ど つ まつ た(越 前 の 百 姓 → 奏 者) (50)は,薬 師 如 来 に扮 装 した 女 が,男
に 向 か って,念
を押 して 実 行 を促 す 命 令
的 な言 い 方 で あ る。(51)は,途 中 で さ え ぎっ て,怒 気 を 含 ん で 叱 りつ け る 言 い方 で あ る。 「ゑ い ゑ い 」 は 「ゑ い 」 に 比 べ て,さ
らに 命 令 的 な 言 い 方 で,応
答 も承 諾 を
中 心 と し,反 抗 の 余 地 は な い 。 「ゑ い」 系 の 表現 形 式 も,も
と も と間 投 助 詞 の 「ゑ 」 に由 来 す るが,「 い 」 と
い う掛 け 声 に近 い 接 尾 辞 が 付 加 して,命
令 的 な 語 感 を伴 う。 「や い 」 系 は あ る
話 の き っ か け を な す 言 い 出 しの 言 葉 で あ る が,「 ゑ い 」 系 は あ る 話 の しめ く く り をな す 念 押 しの 言 葉 で あ る こ とが 多 い 。 現 代 で は,「 お い 」 「お い お い 」 とい う言 い 方 で 残 っ て い る。
6.古 め か しい 呼 び か け 「い か に」 系 の 表 現 形 式 は,前 代 か ら引 き続 い て 用 い られ,古 を伴 うか ら,一 般 に 改 ま っ た 丁 寧 な 言 い 方 で あ る が,と
きには尊大 な勿体 ぶっ
た言 い 方 に も な る。(1)∼ (5)の場 面 で,親 疎 ・身 分 に拘 らず,用 (52)… い か に 案 内 申 候(梟
め か しい 語 感
い られ る。
/ 兄 → 山伏)… 案 内 と云 は,た そ (山 伏 → 兄 )
(53)い か に お う ぢ ご , 孫 共 が お もて へ ま い つ た,で → 祖 父)何
させ ら れ い(薬 水 / 孫 一
と いふ ぞ ,ま ご共 が 見 ま い に きた とい ふ か(祖
(54)い か に そ う もん 申候(唐
父 → 孫 一)
相 撲 / 日本 人 → 通 辞)
そ う も ん 申 さん と は い か や う な る 者 ぞ(通 辞 → 日本 人) (55)い か に ざ い 人,い そ げ とこ そ(朝 比 奈 / 閻 魔 王→ 罪 人) (56)い か に 二 郎 くわ じや(鶏 猫 / 太 郎 冠 者 → 二 郎 冠 者) 何 事 ぞ(二 郎 冠 者 → 太 郎 冠 者) (57)い か に む こ殿 へ 申,こ 目/ 舅 →聟)近 (52)は,(1)の
れ が わ れ らの ひ さ う の む す め に て 有,…
比 か た じけ な ひ,…
(聟→ 舅 )
場 面 で,「 案 内 申 候 」 を 伴 っ て 用 い ら れ,単
い 。(53)は,(2)の
場 面 で,呼
「奏 聞 申 候 」 を 伴 っ た 丁 重 な 呼 び か け で あ る 。(55)は,(3)の
け で あ る 。(57)は,(5)の
独 で は 用 い られ な
称 を 伴 っ て 用 い ら れ る 。(54)は,(3)の
っ た 尊 大 な 呼 び か け で あ る 。(56)は,(4)の 場 面 で,呼
(賽の
場 面 で,呼
称 お よび
場 面 で,
場 面 で,呼
称 を伴
称 を伴 っ た 普 通 の 呼 び か
「申 す 」 を 伴 っ た 丁 寧 な 呼 び か け
で あ る。
(58)い か に や か た\ / きゝ た まへ,誠 た び給 へ(夷
の聟 に,な
りた くは た か らを わ れ に ,
毘 沙 門 / 舅 → 夷 ・毘 沙 門)
い で \/ た か ら を あ た ゑ ん と て,\ /(毘 (59)い か に や い か に 今 ま い り,参 (今 参 / 大 名 → 今 参)そ
沙 門 → 舅)((舞
りが きた る 烏 帽 子 は ,ほ
りや さ も候,中
か け りあ り))
こ ら にぞ に た る
に か み が 候 へ は(今 参 → 大 名)
(58)(59)は,(5)の場 面 で,呼 称 を 伴 っ た 丁 寧 な呼 び か け で あ る。 拍 子 にか か っ た 語 り とい う古 語 の 脈 絡 の な か で,用
い られ て い る。
「い か に 」 系 の 表 現 形 式 は,様 態 を 尋 ね る 疑 問 の 副 詞 の 転 成 に よ る。 す で に 古 語 と な っ て い て,そ
の 古 め か しさ に よ っ て,様
々 な待 遇 を 表 す 。 現 代 で は,
用 い られ て い な い 。
7.現 代 語 に お け る呼 び か け との 比 較 こ こ で,前 掲 した 表 を,表 現 形 式 の 語 形 に 基 づ く系 統 に よ っ て,カ
ウ ン トし
て ま と め て み る 。 現 代 語 に お け る表 現 形 式 を想 起 して,比 較 して み よ う。 「や い」 系 が 多 い の は,狂 言 の 内 容 の 特 質 と 関 わ るか も しれ な い 。 現 代 語 で
は,負
の 面 が 大 き く,一 般 的 で は な い。
「物 申」 「案 内 申」 系 は,現 代 語 で は残 存 せ ず,「 ごめ ん くだ さ い」 とい う言 い 方 が 用 い られ て い る。 謝 罪 の 表 現 か ら呼 びか け の 表 現 へ の 転 用 で,漢 「申 」 系 は,現
語 に 由 来 す る。
代 語 で は 「も し も し」 と
い う丁 寧 な 呼 び か け の 表 現 形 式 と して 用 い られ て い る 。 「な う」 系 は,現 代 語 で は 「ね え」 「ね えね え」 とい う普 通 の 呼 び か け の 表 現 形 式 と して,主
に 女 性 の 間 で 用 い られ て い る 。 「ゑ い」 系 は,現 代 語 で は 「お
い 」 とい うぞ ん ざ い な呼 び か け の表 現 形 式 と して,主 が,一
に男 性 の 間 で用 い られ る
般 的 で は な い 。 「や あ 」 系 は,現 代 語 で は 普 通 の 呼 び か け の 表 現 形 式 と
して,主
に 男 性 の 間 で 仲 間 内 で 用 い られ て い る 。 「あ の 」 系 は,現
「あ の う」 と い う た め ら い を 含 ん だ 普 通 の 呼 び か け と して,ま 言 い よ どん だ と きの つ な ぎ と して,用
た,話
代語では の途 中で
い られ て い る。
■ 発展問題 (1)「え い え い お う」 と い う掛 け 声 の 由 来 に つ い て,考
(2)江 戸 時 代 に は,他
家 を訪 問 して,玄
関先 で 案 内(取
察 して み よ う。
次 ぎ)を
請 う場 面 で,ど
の よ う な 表 現 形 式 を 用 い て い た か , 調 べ て み よ う。 特 に,「 頼 む 」 と い う動 詞 に 由 来 す る 表 現 に 注 意 し て み る 。 近 松 門左 衛 門 の 浄 瑠 璃 台 本 な ど を 資 料 に す る とよい。
(3)現 代 語 の 談 話 資 料 で,呼
びかけの 表現 を調べ てみ よう。
■ 参考文献 1)『言 語』1981年 4月号 特 集 「あ い さつの 言 語学 」(大 修 館 書 店) 2)『國 文學― 解 釈 と教 材 の 研 究― 』1999年 5月号 「あ い さつ こ とば と コ ミュニ ケ ー シ ョン」 (學燈 社)
3)池 田廣 司 ・北 原 保 雄 『 大 蔵 虎 明 本狂 言 集 の研 究 ・本 文 篇』(表 現社,1972) 4)北原 保 雄 ・村 上 昭 子 『 大 蔵 虎 明 本狂 言 集 ・総 索 引 』(武 蔵 野 書 院,1984) 5)森 田良 行 「 感 動 詞 の変 遷 」(品 詞 別 日本 文 法講 座 6 『 接 続詞 ・感 動詞 』 明 治書 院,1973) 6)照 井 寛 子 「も し も し― もの も うす(物
申 す)も
う し(申
し)」(講 座 日本 語 の 語 彙11
『 語 誌Ⅲ 』 明治 書 院,1983) 7)河原 修 一 「室 町 時代 談話 語 の 研 究(そ の 二)― 呼 びか けの 表 現― 」(『島根 女 子 短期 大 学 紀 要 』34,1996)
第12章 清 少納 言 の物 言 い は幼 いか ? 【数 量 語 彙 ・語 彙 史 】
キ ー ワ ー ド:和
語 系 数 量 表 現,漢 (classifier)助 量 名 詞,可 型,「―
1.蛍,烏
語 系 数 量 表 現,付
数 詞(auxiliary
numeral),数
数 名 詞(countable‐noun),「―
属 形 態 素,合
成 語,類
量 接 尾 辞,数 つ 」 型,「―
標 識
量 接 頭 辞,数
り 」 型,「―
た り」
か」 型
な どの 数 え方― 和 文 に お け る世 界 の切 り取 り方―
清 少 納 言 の 『枕 草 子 』 第 一段
「春 は 曙 」 を 読 む と違 和 感 を 覚 え る 部 分 が あ
る。 夏 は 夜 。 月 の こ ろ は さ ら な り 。 闇 も な ほ,蛍 ま た,た
だ 一 つ 二 つ な ど,ほ
の お ほ く飛 び ち が ひ た る。
の か に うち 光 りて行 くも を か し。 … …
秋 は 夕 暮 。 夕 日 の さ し て 山 の 端 い と 近 う な りた る に,烏 く と て,三
つ 四 つ,二
の ね ど こ ろへ 行
つ 三 つ な ど 飛 び い そ ぐ さ へ あ は れ な り。
彼 女 は,蛍 も烏 も 「一 つ,二 つ 」 とい う言 い 方 で 表 現 して い る 。今 日な ら ば, 蛍 は 「一 匹 二 匹 」,烏 は 「一 羽,二 羽 」 とい う言 い方 を す る。 な ん で も 「一 つ, 二 つ 」 の 言 い 方 で 間 に 合 わ せ て し ま うの は幼 い物 言 い で あ るの だ が,清 少 納 言 は な ぜ この よ うな 表 現 を して い る の で あ ろ うか 。 『枕 草 子 』 を 調 べ る と,「 一 つ,二
つ 」 の 方 式 で 数 え て い る の は 「蛍 」 「烏 」
に 限 ら ない 。 次 の よ うな もの も こ の方 式 で 数 えて い る 。 歌
草 子 に 歌 一 つ 書 け(二 一 ・清 涼殿 の 丑 寅 の 隅 の)
*一 首
御 衣 紅 の 御 衣三 つ ば か りを(二 六 ○ ・関 白殿,二 月 二十 一 日に)*三 指
た だ 指 一 つ して た た くが(七 三 ・う ち の 局)
衣 蛇
*一 本
その 衣 一つ 取 らせ て(八 三 ・職 の御 曹 司 にお は し ます ころ)*一 二 尺 ば か りな る 蛇 の … … 一 つ は 動 か ず,一
つ は動 か しけ れ ば …
着
着
(二 二 七 ・社 は)* 車
昨 日 は 車 一 つ に あ ま た 乗 りて(二
直 衣 た だ 直 衣 一 つ 着 た る や う に て(三 文 字 人 の 返 事 も,書 き て や りつ る後,文
〇 六 ・見 物)
*一 台
三 ・小 白 川 と い ふ 所 は)*
一枚
字 一 つ 二 つ 思 ひ な ほ した る 。 (九 一 ・ね た き も の)*
実 は,こ の よ う な一 見幼 い 物 言 い は,清
一匹
一字
少納 言 だ け で は な く,平 安 時 代 の 女
房 階 級 一 般 に 及 ぶ 。 た と え ば,紫 式 部 も同 様 な の で あ る。 御 座(敷 物)塗
籠 に御 座 一 つ,敷
か せ た ま ひ て(夕 霧)
指
指 一 つ を引 き寄せ て,食
女車
女 車 の こ と ご と し き さ ま に は あ らぬ 一 つ(宿
琴
さて は琴 一 つ ぞ 持 た せ た まふ 。(須 磨)
腰(飾 紐) 腰 の 一 つ あ りけ る を,引
*一枚
ひ て侍 り しを(帚 木) 木)
*一 本 *一 台 *一 面
き結 び加 へ て(宿 木)
*一 本
木実
赤 き木 実 一 つ を顔 に 放 た ぬ と見 え た まふ(蓬 生)
*一 個
台
篝火 の台 一 つ,こ
*一 個
な た に(常 夏)
調 べ(曲)
調 べ 一 つ に 手 を弾 きつ くさ む事(若
菜 下)
手(曲)
をか し き手 一 つ な ど,す こ し弾 きた ま ひて(横
*一 曲 笛) *一 曲
厘
香 壺 の匣 を 一 つ さ し入 れ た り。(葵)
*一 個
単衣
生 絹 な る 単 衣 一 つ を 着 て(空 蝉)
*一 枚
物怪
例 の 執 念 き御 物 怪 一 つ さ ら に動 か ず。(葵)
*一 体
禄
禄 の 唐 櫃 に 寄 りて,一
つ づ つ 取 りて(若 菜 上)*
和琴
す ぐれ た る和 琴 一 つ(若
菜 上)
一個 *一 面
私 た ち は,そ れ ぞ れ の用 例 の 右 端 に 例 示 した よ う な種 々の 表 現 に慣 れ て い る の で,こ れ らを 区 別 せ ず に,一 様 に 「一 つ 」 と して し ま っ て い る 『枕 草 子 』 や 『源 氏 物 語 』 の 表 現 に 幼 さ を 感 じて し ま う 。 しか し,こ れ らの 作 品 が 「和 文 」 とい う文 体 で 書 か れ て い る こ と を思 え ば,こ の 印象 批 評 は訂 正 し な け れ ば な ら ない。 和 文 に お い て は,和 文 な りの 世 界 の 切 り取 り方 が あ る。 「一 つ,二
つ 」の物
言 い は,古 代 の人 々 の,現 代 人 と は異 な る世 界 の切 り取 り方 を示 した もの な の
で あ る。 そ の こ と を次 節 以 下 で 述 べ る こ とに し よ う。
2.和 語 系 数 量 表 現 と漢 語 系 数 量 表 現 和 語 に お け る 数 の 数 え方 は,普 通 「ひ ・ふ ・み ・よ ・いつ ・む ・な な ・や ・ こ この ・とお 」 で あ る と考 え られ て い る。 た とえ ば,平 田 篤 胤 が 『神 字 日文 伝 』 (文政 二,1819)で
神 代 文 字 と して示 した 「日文 」 は,「 ひ ・ふ ・み ・よ ・い ・
む ・な ・や ・こ ・と ・も・ ち … … 」 と な っ て い る。 ま た,人 名 の 「一 二 三」 と い う表 記 は 「ひふ み」 と読 む の が 普通 で あ る。 と こ ろ が,「 ひ 」 ま た は 「ひ い」 とい う音 節 で 「一 」 を意 味 す る の は,数
を
唱 え る 時 だ け で あ り,数 量 語 彙 と して は 「ひ と」 で あ る 。 「二 」 を 意 味 す る 「ふ 」 あ る い は 「ふ う」 も同様 で 数 量 語 彙 と して は 「ふ た 」 で あ る 。 また,「 ひ と」 「ふ た 」 な ど の和 語 系 数 量 語 彙 は,単 独 で は使 用 され な い付 属 形 態 素 で あ り,類 標 識 とな る 「つ 」 や 「り」 「た り」 「か 」 の 付 属 形 態 素(助 詞 ま た は 数 量 接 尾 辞)や
数
「日」 「月 」 「年 」 な ど の 名 詞 と結 合 し て合 成 語 と な
る。 こ の よ う に 「ひ と ・ふ た ・み ・よ ・い つ ・む ・な な ・や ・こ こ の」 に は独 立 性 が な い の で,文
法 的 に は 数 量接 頭 辞 と して よい 。
しか し,「 とお 」 だ け は例 外 で,「 十 の 戒 め 」(十 戒),「 今 年 で 十(十 な り ます 」 の よ う に 単 独 で 使 用 され る の で,文
歳)に
法 的 に は 数 量 名 詞 と 判 定 され
る。 一 方,漢 語 系 数 量 語 彙 は 「一 を 聞 い て 十 を知 る 」や 「一 を も っ 以 て 万 を知 る」 の よ う に,単 独 で も用 い られ る独 立 形 態 素 で あ り,文 法 的 に は 名 詞 に属 し,数 量 名 詞 と判 定 され る。 次 頁 の 表 は,古 代 語 にお け る 数 量 表 現 を和 語 系 と漢 語 系 に わ け て 示 した もの である。 和 語 系 の う ち,接 頭 辞接 尾 辞 の結 合 に よ る も の は 慣 用 的 結 語 で あ り,自 由性 が な い が,類 標 識 が 名 詞 の もの は 自由性 が あ り,い
く らで も新 しい 表 現 が 可 能
と な る 。 漢 語 系 の もの は 名 詞 と名 詞 の結 合 で あ る か ら,い
く らで も新 しい 表 現
が 可 能 と な る。 す な わ ち,計 量 の 対 象 とな る 名 詞 の 数 だ け 数 量 表 現 が で きる と い う こ とで あ る。
*「 と を 」 に は,接 頭 辞(「 と を か 」)と 名 詞 の 二 用 法 が あ る 。 **#を 付 し た も の は,付 属 形 態 素 で,数 量 接 頭 辞 。
3.類 標 識,可
数 名 詞 に つ い て―
類 標 識 の う ち,「 明 白 で あ り,問
「―つ 」 型 で 表 現 で き る 名 詞―
日 ・月 ・年 ・所 ・島 」 な ど 名 詞 で あ る も の は 指 示 的 意 味 が
題 とす る と こ ろ は な い 。 こ の 種 の も の は,臨
時 的 に い く らで も
数 量 表 現 を生 成 で き る の で あ る。 問 題 と な る の は,「 つ ・ り ・た り ・か 」 な ど,数 さ れ る も の で あ る 。 そ の う ち,「
り」 「た り 」 は 人 の 数,「 か 」 は 日 日 の 数 と は
っ き り して い るの で 問 題 が な い 。 考 え るべ き もの は 第 1節 で 例 示 し た よ う に,「― あ え て 共 通 点 を 求 め る と,輪
識 と し て 機 能 し て い る の で,日
noun)と
「つ 」 と い う こ と に な る 。
つ 」 で 数 え ら れ る 対 象 は か な り雑 多 で あ る が,
郭 が は っ き り と し て い て,単
有 す る も の と い う こ と に な る 。 言 い 換 え る と,「―
と い う こ と に な り,「―
助 詞あ るい は数量接 尾辞 と
体 と して ま と ま りを
つ 」 は 数 え られ る も の の 標
本 語 の 可 数 名 詞(countable‐noun)の
マ ー ク
つ 」 で 数 え ら れ て い る も の は 可 数 名 詞(countable‐
い う こ と に な る。
漢語 系で
「つ 」 に 相 当 す る も の は
「個 ・箇 」 で あ る が,こ
れ ら は,物
体 とい
う 概 念 と 強 く結 び 付 い て い る た め,「 歌 ・調 べ ・物 怪 」 な ど に は 使 用 で き な い 。
「つ 」 の 使 用 域 は か な り広 い。 接 尾 辞 「ど も」 は 複 数 を表 す の で,「 ど も」 が 下 接 す る もの は 可 数 名 詞 とい う こ と に な る。 『源 氏 物 語 』 の 接 尾 辞 「ど も」 が 下 接 す る 名 詞 を列 記 す る と 下 の 表 の よ う に な る。 『 源 氏物 語』 の可 数 名詞 一覧
Ⅰ は 「モ ノ」 に 属 す る もの で あ る。 現 代 語 の 物 は物 体 で あ る こ と を基 本 とす るが,古
代 語 の 「モ ノ 」 は 物 体 で あ る と は 限 らな い 。I‐14の
「文 字 」,―16
の 「処 分 」 な ど まで 「モ ノ」 とみ な し,可 数 名 詞 と して い る。 古 代 語 は 現 代 語 と比 較 し,可 数 名 詞 の 幅 が 広 い 。 「モ ノ」 に属 す る もの は,「― つ 」 の型 で 表 現 され る。
Ⅱ は 同一種 や 類 似 物 の 集 合 体 を意 味 す る もの で あ る。 現 代 語 で は 「類 概 念 」 な ど の よ う に抽 象 的 で あ るが,古 の 結 果,可
代 語 で は 「仲 間 」 と 同義 で 具 体 性 が 強 く,そ
数 名 詞 とな る の で あ ろ う。
Ⅲ は建 物 や そ の 集 合 体 で あ る 町 な ど を 表 す も の,表 裏,隙 る も の で,本
間 な ど空 間 に 関 す
章 で は 「トコ ロ 」 と名 付 け て お く。Ⅲ‐3な ど は可 数 名 詞 とす る
に は 抵 抗 が あ るが,こ
れ ら も 「―つ 」 の 型 で 表 現 され る 。
Ⅳ は 霊 的存 在 で,現 代 人 の 感 覚 で は と て も 「一 つ,二
つ 」 と は 数 え られ な い
もの で あ るが,「 例 の 執 念 き御 物 怪 一 つ さ らに 動 か ず … …」(葵)と つ 」 型 で 数 え られ て い る の で,や
あ り,「―
は り可 数 名 詞 で あ る こ と は 間 違 い な い だ ろ
う。 V は 「ヒ ト」 と分 類 して お く。V‐1は,「―
り」 「―た り」 の 型 で 表 現 さ れ
る可 数 名 詞 で あ り,問 題 な い。 V‐2の
「癖 」 は 今 日 も 「無 くて七 癖 」 の 諺 が 生 きて お り,可 数 名 詞 で あ る
こ と に違 和 感 が な い 。 強 く違 和 感 を 感 ず る の は,V‐3の V‐5の
「心,心
「仲,よ
す が 」 及 び,
ばへ 」 な ど で あ る。 これ らは い ず れ も人 に属 す る もの で あ り,
人 が 可 数 名 詞 で あ る の で,こ れ ら も可 数 名 詞 に な る の で あ ろ う とで も考 え る ほ か な い 。 古 代 語 の 可 数 名 詞 の 幅 広 さ を特 に 感 じ させ られ る グ ル ー プで あ る 。 Ⅵ は 「サ マ」 と分 類 した もの で あ る。視 覚 的,聴 覚 的 様 態 を 表 す もの で あ る。 こ れ ら も 「ひ と ま と ま りの も の 」,単 体 と意 識 し,可 数 名 詞 と した も の で あ ろ う。 Ⅶ は 「コ ト」 と分 類 した もの で あ る。 これ らは 「モ ノ」 の よ う な可 視 性 に 乏 し く,抽 象 的 です らあ る。 これ ら も可 数 名 詞 とす る こ とに は 抵 抗 を 感 じる。 Ⅷ はⅦ と同 様 に 「コ ト」 なの で あ る が,こ
ち らの 「コ ト」 は 「言 」 の 「コ ト」
で あ る 。 聴 覚 的 存 在 で 可 数 名 詞 とす る に は 抵 抗 が あ る 。Ⅸ やⅩ と 一 緒 に して, 「ひ と ま と ま り」 感 が 可 数 名 詞 とす る の で あ ろ う。 以 上,か
な りの 数 の 可 数 名 詞 を一 覧 す る と,古 代 語 に お け る 「―つ 」 型 表 現
の 広 が りを 実 感 せ ざ る を え な い 。 清 少 納 言 や 紫 式 部 の物 言 い は こ の よ う な古 代 語 の可 数 名 詞 意 識 に支 え られ た もの で,決 こ とに な る。
して,個 人 的物 言 い で は な い と い う
4.類 標 識 の 種 類― 和 語 的 世 界,可
数 名 詞 世 界 の 分 節―
和 語 的 数 量 表 現 に お い て は,類 標 識 が 重 要 な働 きを し,和 語 的 世 界,特 数 名 詞 世 界 を 分 節 す る。 本 節 で は,「― つ,―
に可
り,― た り,― か」 以 外 に ど の
よ う な もの が あ っ た か 表 に して 示 す 。 古 代語 の助 数詞
助数詞 1 ―え だ(一
枝) 雉
2 ―か さ ね(一 3 ―か た(一
例
一 枝 参 らせ た ま ふ 。
重,一
襲)青
方)
(行幸)
き色 紙 か さね に … …
(常夏)
い ま一 方 の 御 気 色 も … …
(少 女)
4 ―か へ り(一 辺)
い ま一 か へ り折 り返 し謡 ふ を … …
(竹 河)
5 ―ぐ(一 具)
御 料 と て 人 の 奉 れ る御 衣 一 具 … …
(末摘 花)
6 ―く さ(一 種)
か の わが御 二種 のは ……
( 梅 枝)
7 ―くだ り(一 領)
御 装束 一領 ……
(桐 壺)
8 ―くだ り(一 行)
心 に 入 れ ず 走 り書 い た まへ り し一 行 ば か り… …
9 ―こ と(一 事)
一 事 と し て お ろ そ か に か ろ め 申 し た まふ べ き に は 侍 らねば ……
(若菜 上)
10 ― こ と(一 言)
そ の さ き に,物
11 ― こ と ば(一
か ら か り し折 の 一 言 葉 こ そ 忘 られ ね … …
言 葉)
( 梅 枝)
一 こ と聞 こ え さ せ お か む … …
(若 紫)
(藤裏 葉)
12 ― こ ゑ(一
声,二
声)
い ま一 声 … …
13 ― す ぢ(一
筋,二
筋)
下紐 をた だ一筋 に恨み や はす る
14 ― た び(一
度,再
び)
い ま一 度 取 り並 べ て み れ ば … …
(帚 木)
15 ― つ き(一
月,三
月)
三 月 に な りた まへ ば い と著 き ほ ど に て … …
16 ― つ ぼ(一
壺)
17 ― て(一
(帚 木) (宿 木)
(若 紫)
昔 の薫 衣 香 の い とか うば し き,一 壺 具 し て賜 ふ。 (蓬 生)
手)
例 へ ば 碁 を うつ 人,一
手 もい た づ ら にせ ず (徒 然 ・一 八 八)
18 ― と こ ろ(一 19 ― と せ(一
所,二
年,二
20 − ば(二
葉,三
21 ― ひ(一
日)
所)一
年)
葉)
所 の 御 光 に は押 し消 た れ た め り。
(葵)
二 葉 よ り名 だ た る 園 の 菊 な れ ば … …
(藤裏 葉)
の どや か に 一 日 二 日 う ち 休 み た まへ 。
22 ― ひ ら ( 一枚 )
こ の 二 年 こ も り侍 る 坊 に 侍 る な る。
屏 風 の一枚 たた まれ たる よ り……
(若 紫)
(若 紫)
(東屋)
23 ― ふ し(一 節)
竹 河 の は し う ち 出 で しひ と ふ し に … …
24 ― へ(一
重)
帳 の 帷 子 を 一 重 う ち掛 け た まふ に あ は せ て … …
25 − ま(一
間,二
間)
御 格 子 一 間 あ げ て … …
(竹 河) (螢)
(夕 顔)
26 ― ま き(一 巻)
紙 一 巻,御
27 ― め(一
た だ 一 目 見 た ま ひ し宿 り な り… …
目)
28 ― も と(一 本,二
本)
硯 の 蓋 に 取 りお と して 奉 れ ば … …
紫 の ひ と もとゆゑ に武蔵 野 の花 はみ なが ら あ は れ とぞ見 る
29 ― よ(一 夜,二 30 ― よ う ひ(一
夜)
具)
( 古 今 ・雑 上 ・読 人 し らず )
今 は 一 夜 も隔 て む 事 の … …
(葵)
三 尺 の御厨 子 一具 に… …
31 ― わ た り (一 渡)
(野 分)
(花 散 里)
(紅葉 賀)
難 き調 子 ど もを,た だ 一わ た りに習 ひ取 りた まふ (紅葉 賀)
以 上 が 『源 氏 物 語 』 を 中 心 と した 古 代 語 に お け る類 標 識 とな る助 数 詞 で あ る 。 事 物 ・事 柄 に よ り各種 の 表 現 を採 用 す る こ と は 日本 語 の 特 徴 の 一 つ で あ り,煩 わ しい こ とで あ る。 そ の た め,外
国 人 が 日本 語 を学 習 す る際,ひ
とつ の 障 害 と
な る。
5. ロ ドリゲ ス 『日本 大 文 典 』(1604∼1608)記
載 の 和 語 系助 数 詞
日本 語 は規 則 性 の 点 に お い て 弱 く,慣 用 に た よ る度 合 い の 強 い 言 語 で あ る 。 助 数 詞 は そ の 典 型 的 例 の 一 つ で あ る。 天 正 五(1577)年
に 来 日 した,ポ
ル トガ ル 人 宣 教 師 ジ ョア ン = ロ ドリゲ ス は
日本 語 に 熟 達 し,日 本 語 に 関す る 初 め て の 「文 典 」 を 著 述 して い る 。そ の 中 で, 彼 は 次 の よ う に24語 に 及 ぶ 和 語 系 助 数 詞 を 紹 介 して い る 。 以 下,こ
れ ら を簡
略 化 し下 の 表 に示 す。 ロ ドリゲス 『日本 大文 典』 記載 の和語 系助 数詞 類
助 数 詞(類
1 歩 数 2 鐙
足(Axi)
・魚(鯛)
3 小 袖(対)・
紙(束)
4 十 個 の 瓜
重(Casane)
Fitocasane, Fitocaxira,
荘(Caxari) 腰(Coxi
7 鞍
・釜
Fitocazari,
口(Cuchi) ・蓑
Futaaxi,
頭(Caxira)
・脇 差
9 唐 傘
Fitoaxi,
Fitocaque,
6 刀
8 雨 合 羽 ・藁 ・茣蓙
例
懸(Caque)
5 装 飾
10 油 単 雨 皮
標 識)
首(Cubi) 本(Hon, 枚(Mai)
Fiticoxi, Fitocuchi,
Fitocubi,
Bon)sambon gomai
Miaxi
Futacaque Futacasane, Futacaxira, Futacazari,
Micasane Micasira Micazari
Futacoxi Futacuchi Futacubi,
Micubi
11 袴
・肩 衣
下(Cudari)
12 行
行(Cudari)
13 冑 14 太 刀
Futafne,
Mifane
Fitofuri,
Futafuri,
Mifuri
職(Moto)
Fitomoto,
羽 (Fane)
・帯 ・糸 ・絃
・縞
・矢
毛
・羊
・鹿(集
団)
Fitomoto,
群(Mure)
Fitomure,
・腹 帯 筋(Sugi)
Fitosugi,
19 香 〓(Taqui) 20 鳩
・鴨
21 対 を な す 矢
番(Tcugai)
Mimoto
Futate,
Fitori,
*こ
Mitaqui
Futatcugai
Fitoyeda,
Mimure
Futataqui,
Fitote,
柄(Yeda)
23 人
Futamoto, Futamure,
Fitotcugai,
手(Te)
22 薙 刀
Mimoto
Futasugi
Fitotaqui,
・鳥 類 の 番
Futamoto,
Fitofane
本(Moto)
・縄
Micudari
Fitofane,
16 草 ・牛 馬
Micudari
Futacudari,
刎(Fane)
18 紐
Futacudari,
Fitocudari,
振(Furi)
15 鷹
17 雲
Fitocudari,
Mite
Futayeda,
Futari,
Miyeda
Yottari
れ ら 三 語 に 限 定 さ れ,他
Sannin,
goninの
ように
は,
「―nin」
の 形で 言 う。 24日
日(Ca)
Fitofi,
fifitofi
Futcuca,
Micca,
Muica, Toca,
Nanuca,
Yocca, Yoca,
Itcuca, Coconoca
Fatcuca
この 複 雑 さ は語 学 の 天 才 ロ ドリゲ ス を驚 嘆 させ,平
凡 な 日本 語 学 習 者 を慨 嘆
させ た こ とで あ ろ う。
6.漢 語 系 数 量 表 現 の 発 達― 和 語 系 数量 表 現 の 限界― 上 述 した よ うに 和 文 世 界 に お い て,活 発 に使 用 さ れ て い た和 語 系 数 量 表 現 で あ るが,こ
れ に は 重 大 な欠 陥 が あ っ た 。
「―つ 」 型 の 表 現 は,「 九 つ 」 が 限 界 で 十 に つ い て は 使 用 で き な い 。 以 下, 「二 十,三
十,四
十 」 な ど 十 の 倍 数 に つ い て は表 現 で き ない とい う根 本 的 不 備
を有 す る 。 「―り」 「―た り」 型 の 表 現 は 「八 人 」 が 限 界 で 「九 人 」 以 上 は 使 用 で き な い 。
「―か 」 型 の 表 現 域 も 狭 い 。 ま ず,「 一 日 」 が 使 用 で き ず,「 一 日 二 日 」 と い
う ア ン バ ラ ン ス な 表 現 を す る ほ か な い 。 さ ら に,「 十 日 」 以 上 に お い て は, 「二 十 日」「三 十 日」 「五 十 日」 「百 日」 を 除 く と 「―か 」 型 の 表 現 が で きな い 。 和 語系 数 量 表 現 の 欠 陥 を補 う もの と して,漢 語 系 数 量 表 現 が 発 達 した 。 前 節 で紹 介 した ロ ドリゲ ス の 『日本 大 文 典 』 に記 載 され た 漢 語 系 助 数 詞 を 紹 介 す る と下 の 表 と な る。 ロ ドリゲス『 日本大 文典 』記載 の漢 語系助 数詞 類
助数詞(類標識)
1 人 数
人(nin)
2 荷 の 量
樽
・薪
荷(ca) ・水
Taru
3 国 ・ 日 ・年
・所
4 禁 戒 の 単 位
・寺
6 釣 竿
8 鮭 ・鱈 9 樽
曲,舞
14 文 章 の 単 位
nicai
喉(con)
箇(co)
16 墨
gofiaccai
*Fitotcurizauo(一
Iccon
*Fitonodo(一
釣 竿) 喉)
ixxacu Taru
icco
Iccouo
some
soro.(一
行 を 染 め 候)
Iccocu Iccon,
Sangon,
句(cu)
Cotoba
iccu. Iccu mancu(一
句(cu)
Jiuo casanete
張(cho)
・蝋 燭
Quizuiccaxo
Jiccai,
Iccan
xo 15 弓 ・琴
lccanichi,
Iccai,
献(con)
13 連 歌,平
Iccacocu,
階 (cai)
刻(cocu)
12 酒
Sanga
Gocai,
行(co)
11 時 間
Nica,
Iccai,
尺(xacu)
10 文 章 の 一 行
Icca,
戒(cai)
竿(can)
7 大 き な 魚
Ichinin
icca
・傷 ケ(ca)
5 位
例
Gocon,
Cu,
uo casanete
Yumi
iccho,
Cuuo
Fen, Coto
Xichicon,
句 万 句) casanete
Fenuo nicho.(琴
挺(cho)
17 鉄 砲 ・石 火 矢 ・鑓 ・鋤 ・鍬 挺(cho) 18 距 離 ・面 積
町(cho)
19 音 楽 の 調 子
20 同 数 を 加 え る こ と の 単 位 21 順 番
・順 序
・狂 言
Ichiban,
番 目(banme) Ichibanme
・双 六 ・能 ・鼓 番(ban)
謡 ・舞 ・太 鼓
Ichibai,
相 倍(zobai)Ichizobai, 番(ban)
22 碁 ・将 棋
jiccho
調 子(choxi) Junichoxi 倍(bai)
Nibai Nizobai, Niban,
Sanzobai Samban
Cucon
Xo,
casanete Bu 二 張)
23 銅 貨 千 枚 の 括 り 24 作 品
緡(bin)
・著 作
部(bu)
25 最 小 の 単 位
分(bu)
Ichibin Xomot
ichibu
Ichibu
*bun(分),
Xacu(尺), Ri(里),
Gio(丈),
Issun 26 畠,土
地 の単 位
27 米 の 単
歩(bu)
石(cocu)
Ichibu
*Fitoxe(一
Iccho(一
町)
Ichicocu,
駄(da)
29 梯 子 ・階 段 の 単 位 30 時 代
Ichidan
代(dai)
Ichidai
31 回 数 ・度 数 を 数 え る 単 位
度(do)
Ichido
32 畳 を 数 え る 単 位
畳(gio)
Tatami
33 紙 を 数 え る 単 位 34 隊 列 の 単 位
畝),
*Ichicocu 升),
Ittan(一
itto(一
Ichigo(一
agaru.(一
合),
反),
石 一 斗)
issat(一
撮)
段 上 が る)
ichigio(畳,一
帖(gio)
Cami ichigio(紙,一
陣(gin)
Ichigin
重(giu)
Giubaco
36 米 を 量 る 単 位
合(go)
Ichigo
37 揃 い 物 の 単 位
具(gu)
Fune,
35 重 な る 物 の 単 位
寸 一 二 分)
Ichida
段(dan)
・世 代
Cho(町), Firo(尋),
ichinibu(一
Ixxo(一 28 馬 の 積 荷 の 単 位
Sun(寸),
Quen(間),
畳) 帖)
sangiu aru(重 *Ixxo(一 Vmano
箱 三 重 あ る)
升)の
doguuo
十分 の一。
ichiguto
yu.(舟,
馬 の 道 具 を 一 具 と い う) 38 月 を 数 え る 単 位
月(guet)
39 軍 隊 の 単 位
軍:(gun)
Ichiguet,
40 文 字 を 数 え る 単 位
字(gi)
Ichigi
41 折 敷 や 椀 を 数 え る 単 位
膳(jen)
Voxiqui,
42 巡 回 を 数 え る 単 位
巡jun)
Niguet
Ichigun Ichigi itten(一
Ichijun
Van Ippen
字 一 点)
ichijen(折 mauasu
敷,椀
coto(一
一 膳) 遍,回
こ と)。 連 歌 な ど 。 43 紙
・板
・金 ・銀 を 数 え る 単 位
金
・筵 ・毛氈
・板 金
44 能 面 な ど を 数 え る 単 位
枚(mai)
Ichimai
面(men)
Jono
vomote
45 碁 ・将 棋 ・双 六 の 盤 の 単 位 面(men)
ichimen
46 硯
ichimen
・琵 琶 を 数 え る 単 位
面(men)
47 銅 貨 の 単 位 48 問 い の 単 位 49 年 を 数 え る 単 位
文(mon)
Jeni ichimon
問(mon)
Ichimon
年(nen)
Ichinen
ichimen(尉
の 面 一 面)
す
簣(qui) Icqui
50 経 巻 を 数 え る 単 位
巻(quan)
Qui0
ichiquan(経
一 巻)
51 筆 ・笛 ・昆 布 を 数 え る 単 位 管(quan)Ichiquan 52 車 を 数 え る 単 位 53 金
輌(rio)
Ichirio
両(rio)
Ichirio
・薬 を 数 え る 単 位
54 具 足 を 数 え る 単 位
領(rio)
Ichirio
55 簾 を 数 え る 単 位
簾(ren)
Ichiren
56 数 珠 ・柿
連(ren)
Ichiren
・串鮑 の 単 位
57 里 程 の 単 位
里(ri)
58 粒 状 の 物 を 数 え る 単 位 59 家
・堂 を 数 え る 単 位
・草
Ichiv
羽(ua)
・藁 の 一 束
62 説 法 ・談 義
Ichiriu
宇(v)
60 鳥 を 数 え る 単 位 61 綿
Ichiri
粒(riu)
Facucho,
把(ua)
・ ミ サ な ど の 座
Tcuru ichiua(白
鳥,鶴
一 羽)
Ichiua
(za)
Ichiza
一 回分 の こ と
63 薬 の 調 合 の 単 位
剤(zai)
Cusuri
64 夜 の 数 を 数 え る 単 位
夜
(ya)
ichizaiuo auasuru(薬
Ichiya
65 太 刀 の 数 を 数 え る 単 位
腰(yo)
Tachi
ichiyo(太
66 木 の 葉 を 数 え る 単 位
葉(yo)
Icque
ichiyono
67 銭 を 数 え る 単 位
貫(quan)
68 家 の 数 を 数 え る 単 位
軒(quen)
69 騎 馬 の 数 を 数 え る 単 位
騎(qui)
70 死 者の ため にあ る儀式
刀 一 腰) vochi
mademo
銭 千 文 の こ と。
Iye xenguen(家
千 軒)
Ichimangui(一
紀(qui)
chiru
(一 華 一 葉 の 落 ち 散 る ま で も) Icquan
一剤 を合 は
す る)
万 騎), Icqui
tojen(一
当 千) Icqui
を行 うため の十二 年 間 71 土 を 運 ぶ 道 具,畚
(も
っ こ ) を 数 え る単 位
72
几 帳 ・塔 ・な ど据 え て
置 く も の を数 え る 単 位
基(qui) Icqui
73 菓子 の台 な ど を数 える 単位
客 (quiacu)
74 重両 の 単 位 の 一 つ。
斤(quin) Icquin
75 杯 な ど器 物 に満 た した 量 を数 える単 位。
杯(fai)
Icquiacu
Ippai Ippainomu(一 sambai(飯
三 杯)
杯 飲 む),Mexi
騎
76 瓶 を 数 え る 単 位
瓶(fei)
Ippei
77 作 品 の 部 分 の 単 位
編(fen)
Ippen
78 回 数 を 数 え る 単 位
返(fen)
Ippen.
Oracio,
Nembut
ippen
fiappen&C.mosu(オ 十 辺,百 79 馬
・獣 な ど を 数 え る 単 位 匹(fiqui)
lppiqui
80 銭
・絹 ・布 を 数 え る 単 位 疋(fiqui)
Jeni
ippiqui(銭
疋)は
81 米 ・塩 を 入 れ る 俵 ・袋 ・ 俵 梱(こ
辺,な
仏 一 辺,
ど 申 す)
一 疋)百
文 。Jippiqui(
千 文。Fiappiqui(百
疋)は
十
一万 文。
(fio) Ippio
り)を 数 え る 単 位
82 畑 の 広 さ の 単 位 。 十 畝 。 歩(fo)
Ippo
83 舟 を 数 え る 単 位
Ippon
帆(fo)
84 位 階 を 数 え る 単 位
品(fon)
Ippon,
Nifon,
Focquequio 85 竹
jippen
ラ シ ョ,念
・木
・鑓
・扇
・針 を 数
Sambon
ま た 仏 典 の 章 ・編
niju fappon(法
本 (fon)
Ippon
86 書 画 な どの掛 物 を数 え る 単位
幅(fucu)
Ye ippucu(絵
87 茶 ・薬 の 一 度 分 。
服(fucu)
Cha
華 経 二 十 八 品)
える単 位
ippucu
ri ippucu 88 銀 貨 の 単 位
分(fun)
89 年 齢 を 数 え る 単 位 90 書 簡
・書 物 を 数 え る 単 位
nomu(茶
Issai,
冊(sat)
Issat
Nisai,
91 米 の あ る 量 。 容 積 の 単 位 撮(sat)
come Issat(米
92 一 対 の 屏 風 ・瓶 ・鈴 ・
Isso
(so)
一 服 飲 む),
mochiyu(薬
cusu
一 服 用 ゆ)
Ippun
歳(sai)
双
一 幅)
Sansai
一 撮)
*勺 の 百 分 の 一
土 瓶 な ど を 数 え る 単 位 93 舟 を 数 え る 単 位
艘(so)
94 樽 を 数 え る 単 位 95 折 敷 茶碗
・椀
・菓 子 盆
・皿
・
fune
isso(舟
樽(son)
Taru
isson
束: (socu)
Issocu
一 艘) xinji soro(樽一
樽 進 じ候)
・紙 な ど の 一 束
96 靴 ・履 物
・鞠
・短 靴 な ど
足
(socu) Issocu
の 一 対 。 97 長 さ の 単 位 98 袋 を 数 え る 単 位 99 霊 的 散 在 を 数 え る 単 位
寸(sun)
Issun
袋(tai)
Cha
体(tai)
fantai(茶
Anjo, no
Ichibu,
Anima,
DEUS(ア
ichibunよ
り長 い 。
半 袋) Tengu.De'goittai, ン ジ ョ,ア
ニ マ,天
gottai 狗。 デ
ウ ス 御 一 体,御
100
回数 を数 え る単位
旦(tan)
Ittanua
101
田 畠 の 広 さの 単 位
反(tan)
Ta
102 木 綿 ・布 ・絹 ・緞子 の
端
(tan)
一 体 の デ ウ ス)
mosozu(一
fataque
旦 は 申 さ う ず)
ittan(田
畠 一 反)
Ittan
大 きさの 単位 103 雨 滴 ・水 滴 を 数 え る 単 位 滴(tequi)
Ittequi
104 米 を 量 る 単 位
Itto, Nito,
105
斗(to)
手 紙 ・書 簡 を 数 え る 単 位 通(tcu)
106 対 に な る絵 ・筆 ・瓶 ・鈴
Ittcu,
対(tcui)
Sando,
Goto,
Rocuto.十
升。
Nitcu
Ittui
な どを数 え る単位 107 長 さ の 単 位
尺(xacu)
Sun
xacu(寸
尺)
fitotcuuo ixxacuto
Saque yu(鮭
tarano
vuo
鱈 の魚 一 つ を一
尺 と い う) 108 貨 幣 の 単 位
銭(xen)
109 特 定 の 土 地 ・所 ・部 分 を
Jeni ichimon(銭
箇 所(caxo)Iccaxo,
一 文)
Nicaxo
数 え る 単 位 110 米 を 量 る 単 位
升(xo) IXXO合
111 死 後 満 一 年 ご との 儀 式 112 香 の 一 回 分 の 量
の十 倍。 升 の十倍 は斗 。
周 忌(xuqui) Ixxuqui 〓(xu) Ixxu
113 重 両 の 単 位
銖(xu)
114 和 歌 な ど を 数 え る 単 位
Ixxu 黍 百 粒 の 重 さ 。
首(xu)
Ixxuno utauozo nocosarequeru
(一 首 の
歌 を ぞ 残 され け る) 115 宿 泊 数 を 数 え る 単 位 116 武 具 を 数 え る 単 位
宿(xucu) 縮(xucu)
Ixxucu Yoroi ixxucu(鎧
一 縮)
お そ ら く,実 際 使 用 さ れ た 助 数 詞 は こ れ だ けで は な か っ た に 違 い な い 。 そ れ に して も,驚 嘆 す る ほ どの 繁 雑 さ で あ る 。 ほ と ん どマ ニ ア ッ ク と言 っ て も よ い だ ろ う。 日本 語 は 可 数 名 詞 の 世 界 を 百 を越 え る助 数 詞(類 標 識)で 切 り刻 ん で いたのだ。 現 代 語 を 考 え る と上 記 の 他 に,飛 単 位(―
球)羊羮
行 機 を数 え る単 位(―
や 箪 笥 を 数 え る単 位(―棹),鱈
機),投
球 数 を数 え
子 な ど魚 の 魚 而(は
ら ら ご)
を数 え る 単 位(― 腹)な
ど,漢 語 系,和
げ て 日本 語 の 複 雑 化,繁
雑 化 に励 ん で い る と しか 考 え られ な い 。 ま さ に,マ
ア ック な の で あ る。
語 系 と も に 数 を増 や して い る 。 民 族 あ ニ
とこ ろ で,漢 語 系 数 量 表 現 は全 て の 数 値 に つ い て 採 用 で き る と い う点 で,和 語 系 数量 表 現 よ り優 れ て い る が,助
数 詞 の 余 りの 多 様 さに よ り,運 用 上 の 不 具
合 を生 じ させ た と い う点 で 劣 っ て い る。 これ は こ れ で 困 った こ とで は あ る。 日本 語 は 規 則 的 言語 で は な く,慣 用 性 の 強 い 言 語 で あ る こ と を最 も よ く示 す もの の 一 つ が 助 数 詞 の 在 り方 で あ る。 この こ とは 日本 語 を学 習 す る外 国 人学 習 者 ば か りで な く,日 本 人 自身 を も悩 ま して い る と い うの が 実 情 で あ ろ う。 しか し,一 方,こ
の 繁 雑 さ に マ ゾ ヒ ス テ ィ ク な喜 び を感 じた ら 日本 語 に は ま
っ て しま うこ とに な る。 日本 語 に は ま っ て しま っ て い た か も知 れ な い,ジ
ョア
ン = ロ ド リゲ ス の 驚 異 的 収 集 力 に感 謝 し,敬 意 を表 して 本章 を閉 じる 。
■ 発展 問題 (1) 次 の 文 章 は,内
田 百〓 著
『 百 鬼 園 先 生 言 行 録 』 所 収 の 随 筆 風 の 小 説 「百 鬼 園
先 生 言 行 録 拾 遺 」 の 冒頭 部 で あ る 。 こ れ を読 ん で,後 百 鬼 園 氏 は,胡
座 をか い た 儘,押
の 問 い に 答 え て み よ う。
入 れ の 脇 の 柱 に凭 れ て,時
こ つ こ つ と ぶ つ け な が ら,川
の 数 の 数 え 方 に 苦 心 して い る 。
何 本 と云 うの は 変 だ し,こ
の 国 に 川 が 幾 流,流
々 頭 の う しろ を,
れ て い る か,そ
んな事 も云 わな
十 五 の 大 河 と云 う場 合 は よ ろ し い 。 しか し,東 洋 に 大 河 が,幾
つ あ る か と云 う
い だ ろ う。 ― 中 略―
時 は 物 足 り な い 。幾 つ で は 丸 で 川 の 感 じが な い 。川 は 長 い もの で あ る 。矢 っ張 り, 幾本,十
五 本,東
洋 に は 大 河 が 十 五 本 あ る 。 何 だ か,ぶ
ら下が って い るよ う様 で
おか し い。 ―下 略― 問 1 こ の 随 筆 は 昭 和 九(1934)年 十 二(1889)年
の 七 月,八
月 に書 かれ てい る。 内 田 は明 治二
に 生 まれ て い る か ら,執 筆 時 は 四 十 五 歳 で あ っ た 。 日 本 語 歴
四 十 年 を超 え,か
つ,文
筆で もって生 活 をす る人 間であ った彼 に擬 され る人
物 が,「 川 の 数 の 数 え 方 に 苦 心 し て い る 」 こ と は,ど
の よ うな こ とを意 味 し
てい るのだ ろ うか ? 問 2 「幾 流 」(正 確 に は 「幾旒 」)は,「
旗 」 の 数 を 数 え る 際 に 使 用 す る 。 「川 」
に つ い て は 言 わ な い 。 「百 鬼 園 氏 」 の推 測 の 通 りで あ る 。 で は,「 川 」 を 数 え る 際 に は,ど
の よ う に 表 現 す れ ば よ い か,調
べ てみ よう。
* 「二 河 白 道 」 と い う言 葉 を 辞 書 で 調 べ る 。 問 3 大 河 の 数 が 九 以 下 で あ れ ば,「− つ 」 型 で 表 現 す る こ と も可 能 で あ る が, 十 五 で は,「− つ 」 型 の 数 量 表 現 は 採 用 で きな い 。 仮 に 九 つ の 大 河 で あ り,「 大 河 の 数 は 九 つ で す 。」 と発 言 した ら,ど の よ う な 感 じが す る だ ろ うか , 話 し合 っ て み よ う 。 問 4 日本 語 は 単 数,複
数 を文 法 上 区 別 しな い とい う言 語 事 実 と助 数 詞 が 多 数 存
在 す る と い う 言 語 事 実 の 間 に は,ど の よ う な 関 係 が あ る の か ,考 え て み よ う。
(2) 2004年,ア
テ ネ オ リ ン ピ ッ ク の 年 に は 台 風 が 多 数 日本 列 島 に 上 陸 し た 。 大
き な 被 害 を与 え た 台 風 の 数 に つ い て,NHKの
テ レ ビの ア ナ ウ ンサ ー は,「 七 個
の 台 風 」 と表 現 して い る。 台 風 の 数 を 「−個 」 型 の 数 量 表 現 で 言 い 表 す こ と は 適 当 か 否 か , 理 由 ・根 拠 を 示 して,話
し合 っ て み よ う 。
(3) 各 セ ッ トを 観 察 し,そ れ ぞ れ ど の よ う な こ とが 言 え る か , 考 え て み よ う。 ① a 魚,一
匹
b 魚,一
尾
c 塩 鮭,一
② a 一 人 の 男 の 子 b 一 個 の 男 子
c 一子 相伝 の奥 義
切 れ
d 鰻,一
本
d 一 介 の 市 民
e 鯨,一
頭
e 一 人 = 天 子 の 尊 称 。 ま た は,謙
f 刺 身,一
f 一 人 =右 大 臣 の 異 称 。
舟
③ a 煙 草,一
株
b 煙 草,一
束
④ a 飛 行 機,一機 b ロ ケ ッ ト,一
c 煙 草,20匁
c 砲 弾,一
d 煙 草,100グラ
ム
台
発
d ミ サ イ ル,一
e 煙 草,一
箱
e UFO(未
f 煙 草,一
本
f 人 工 衛 星,一
基
確 認 飛 行 物 体),一
A a綱
の 差 は 何 に 由 来 す る か , 考 え て み よ う。 B
a映
C
画
a木
D aホ
個
個
(4) 「本 」 と い う助 数 詞 を 用 い て 数 量 表 現 が で き る も の に は ○,で に ×を 付 け,そ
称 。
E
ー ム ラ ン a小
説
きな い もの
b ヒ ッ ト
b 論 文
c 歌 舞 伎 c 花
c ゴ ロ
c 作 文
d 能
d 葉
d 三 振
d 手 紙
e 毛 糸
e 狂 言
e 枝
e ス ト ラ イ ク e ハ ガ キ
f 帯
f 舞
f 幹
f 投 球
f メー ル
g 梢
g ゲ ー ム
g 電 話
h 根
h マ ラ ソ ン
h 新 聞記 事
b 縄
b 演 劇
c 紐 d 糸
g ホ ー ス g 落 語 h 輪 ゴ ム
h 漫 才
b 草
■ 参考文献 1)山田孝 雄 『日本 文 法 論 』(宝 文 館 出 版,1908) 2)宮 地敦 子 「数詞 の 諸 問 題」(『品 詞 別 日本 文 法講 座 2 名詞 ・代名 詞 』 明 治 書 院,1972) 3)田 中重 太 郎編 著 『校 本枕 草 子 』(上 巻 ・下 巻 ・総 索 引Ⅰ,Ⅱ,古
典 文庫,1969∼1974)
4)松 尾 聡 ・永井 和 子 校 注 ・訳 『枕 草子 』(『新編 日本 古 典文 学 全集18』 小 学 館,1997) 5)吉澤義 則 『対校 源 氏 物 語新 釈 』(平 凡社,1952∼1962) 6)西 下経 一 ・滝沢 貞夫 編 『 古 今 集 総索 引』(明 治書 院,1958) 7)佐伯 梅 友 校 注 『 古 今 和 歌集 』(『日本古 典 文 学 大系 8』岩 波書 店,1958) 8)時枝 誠 記 編 『 徒 然 草 総 索引 』(至 文 堂,1955) 9)土 井忠 生 訳 『ロ ドリゲ ス日 本 大 文 典 』(三 省 堂 出版,1955) 10)奥 津敬 一 郎 「数詞 」(国 語学 会 編 『国語 学 大 辞典 』 東 京堂 出版,1980) 11)西 尾寅 弥 「数詞 」(佐 藤 喜代 治 編 『国語 学 研 究事 典 』 明治 書 院,1977) 12)橋 本 萬 太郎 「数詞 」(『日本大 百 科全 書12』,小 学館,1986) 13)酒 井 恵 美 子 「数 詞 ・助数詞 」(小 池 清 治 他 編 『日本 語 学 キ ー ワー ド事 典 』 朝 倉 書 店, 1997) 14)小 松 睦子,こ
とば探 偵 団 『 知 って る ようで 知 らない もの の 数 え方 』(幻 冬社,2004)
15)飯 田 朝子 著 ・町 田 健 監修 『 数 え方 の事 典 』(小 学 館,2004) 16)内 田 百〓 『 百 鬼 園先 生 言 行録 』(『内 田 百〓 集 成 7』,ち くま文庫,2003)
第13章 村 上 春樹 の語 彙 は まず しい か ? 【相 の語 彙 ・比 喩 表 現 ・予 告 副 詞 】
キ ー ワ ー ド:直
喩
・明 喩(simile),隠
喩
提 喩(synecdoche),擬 の,喩
え る も の,前
・暗 喩(metaphor),喚
喩(metonymy),
人 法(personification),擬 置 比 喩 指 標,後
物 法,喩
置 比 喩 指 標,類
似 点,直
え られ る も 喩予 告副 詞
1.村 上 春 樹 『ノ ル ウ ェ イの 森 』 の 直喩 表 現― 驚 くべ き貧 弱 さ加 減― 1986年12月21日 荘)で
に,村 上 は こ の 小 説 を ギ リ シ ャ,ミ ノ コス 島 の ヴ ィ ラ(別
書 き始 め,1987年
3月27日
に,ロ
ー マ 郊 外 の ア パ ー トメ ン ト ・ホ テ ル
で 完 成 さ せ て い る 。 国 外 に構 え た ヴ ィラ や 外 国 で 賃 借 した ア パ ー トメ ン ト ・ホ テ ル の 机 の 上 に は 辞 書 や 草 稿 メ モ な ど は あ っ た ろ うが,表 現 に 資 す る 豊 富 な文 献 は お そ ら く用 意 され て い な か っ た と思 わ れ る 。 い わ ば,こ
の 小 説 は,村 上 の
自前 の 語 彙 だ け に よっ て 紡 が れ た と考 えて よ い だ ろ う。 この作 品には直喩表現 が多い。 ・ま る で 別 の 世 界 の入 口 か ら 聞 こ え て くる よ う な小 さ くか す
(第 一 章)
ん だ鳴 き声 だ っ た。 ・(まる で 強 風 の 吹 く丘 の 上 で し ゃべ っ て い る み た い だ っ た) ・ま るで 澄 ん だ 泉 の底 を ち ら りと よ ぎる 小 さ な魚 の 影 を探 し
(第一 章) (第 一 章)
求 め るみ た い に。 ・ま る で 映 画 の 中 の 象 徴 的 な シー ンみ た い に く りか え し く り
(第 一 章)
か え し僕 の頭 の 中 に浮 か ん で くる。 ・僕 と直 子 は まる で探 し もの で も して い る み た い に
,地 面 を
(第 一 章)
見 な が ら ゆ っ く りとそ の 松 林 の 中 の 道 を歩 い た 。 ・ま る で ど こ か狭 くて 細 長 い場 所 に そ っ と 身 を 隠 して い る う ち に体 が 勝 手 に細 くな っ て し ま った ん だ とい う風 だ った 。
(第 二 章)
・ま るで 細 密 画 み た い に 克 明 だ っ た 。
(第 三 章)
・彼 女 の 目は ま る で不 透 明 な 薄膜 をか ぶ せ られ て い る よ うに
(第 三 章)
か す ん で い た 。 ・ま るで 吐 く よ う な格 好 で 泣 い た。
・ま る で そ こ で 突 然 時 間 が 止 ま っ て動 か な くな っ て し ま っ た
(第 三 章) (第 三 章)
よ うに 見 え た。 ・日が暮 れ る と寮 は しん と して
,ま
(第三 章)
る で 廃墟 み た い な か ん じ
に な っ た 。
・そ の光 は ま る で燃 え さ か る 火 の 粉 の よ うに水 面 に照 り映 え
(第 三 章)
て い た。 ・螢 は ま る で 息 絶 え て し ま っ た み た い に
,そ
(第 三 章)
の ままぴ くりと
も 動 か な か っ た 。
・そ れ は ま る で 失 わ れ た 時 間 を と り戻 そ う とす る か の よ う
(第 三 章)
に … … ・そ の さ さ や か な 淡 い 光 は に,い
,ま
(第 三 章)
る で 行 き場 を失 っ た 魂 の よ う
つ ま で も い つ ま で も さ ま よ い つ づ け て い た 。
冒頭 の 三 章,約80頁
程 に で て くる 直 喩 表 現 で あ る 。 す べ て,「 ま る で … …」
で あ り,単 調 な こ と夥 しい 。 も っ と も一 例 だ け 「ちょうど 僕 が か つ て の 僕 自身 が 立 っ て い た 場 所 か ら確 実 に 遠 ざか りつ つ あ る よ う に 。」(第 二 章)の 「ち ょ う ど」 が 使 用 さ れ て い るが,そ
れ は こ こ だ け で,あ
ように
とは 最 終 章 ま で,「 ま
る で … …」 で あ る 。 ・ま る で世 界 中 の細 か い 雨 が 世 界 中 の 芝 生 に 降 って い る
(第 十 一 章)
よ う な そ ん な沈 黙 が つ づ い た 。 上 下 二 巻,525頁
に 及 ぶ 大 作 の 直 喩 表 現 を村 上 は 一 本 調 子 に 「ま る で … …」
で 押 し通 して い る 。 旅 先 ゆ えの 簡 略 化 な ので あ ろ うか ? そ れ に して も,こ の 語 彙 の 貧 弱 さ加 減 に は 驚 か され る ば か りで あ る。
2. 「ま るで 」 の 広 が り 村 上 は 「ま る で 」 を直 喩 を予 告 す る予 告 副 詞 と して の み 使 用 し て い る が,
「ま る で 」 の用 法 に は も う少 し幅 広 い用 法 が あ る。 A 情 態 副 詞(動
詞 ・名 詞 の 様 態 を 表 す 。 完 全 に。 ま っ た く)
・そ の 晴 れが ま し さの 性 質 が 丸 で 変 っ て 来 る。
〓 外 ・雁 ・陸
・第 一 毛 を 以 て 装 飾 さ れ べ き は ず の 顔 が つ る つ る し て ま る で 薬 缶 だ 。 漱 石 ・猫 ・一 ・御 め え の う ち の 主 人 を 見 ね え ・友 人 の 迷 惑 は ま る で 忘 れ て,一
,ま
る で 骨 と 皮 ば か りだ ぜ 。 漱 石 ・猫 ・一
人 嬉 しが っ た と い う が … …
・ま る で 人 間 の 取 扱 を 受 け て 居 る 。
漱 石 ・猫 ・二
漱 石 ・猫 ・二
・ま る で 犬 に芸 を 仕 込 む 気 で 居 る か ら残 酷 だ 。
漱 石 ・猫 ・三
・妻 が何 か 聞 く と まる で 剣 も ほ ろ ろ の 挨 拶 だ そ う で … …
漱石 ・猫 ・四
・ま る で 書 体 を換 え て と注 文 され る よ り も苦 し い か も分 らん 漱石 ・猫 ・五 ・ま る で ハ ー キ ュ リ ー の 牛 で す よ 。
漱 石 ・猫 ・六
・ま る で 一 人 天 下 で す か ら 。
漱 石 ・猫 ・八
・あ す に なれ ば何 を ど こ まで 考 え た か ま る で 忘 れ て し ま う に違 い な い。 漱石 ・猫 ・九 ・ま る で蒟蒻
閻魔 ね。
漱 石 ・猫 ・十
・ま る で 叔 父 さ ん よ 。
漱 石 ・猫 ・十
・主 人 を 困 ら した り した 事 は ま る で 忘 れ て居 る 。
漱石 ・猫 ・十
・ま る で 常 識 を か い て い る じ ゃ な い か 。
漱 石 ・猫 ・十
・ま る で 矛 盾 の 変 怪 だ が … …
B 程 度 副 詞(「 違 う ・異 な る」 の 動 詞,形
漱 石 ・猫 ・十 一
容 詞 ・形 容 動 詞 の 程 度 を表 す 。
ま る っ き り) ・兎 に 角 い つ も と丸 で 違 っ た 美 し さ で あ っ た 。
〓
・こ の式 を略 して し ま う と折 角 の力 学 的 研 究 が ま る で
外 ・雁 ・弍 拾 弍 漱 石 ・猫 ・三
駄 目に な る ので す が … … ・無 理 が な い ど こ ろ か 君 の 何 と か 峠 と ま る で 同 じ じ ゃ な い か 。 漱 石 ・猫 ・六
・ど う も昔 の 夫 婦 な ん て もの は ま る で 無 意 味 な もの
漱 石 ・猫 ・六
だ っ た に違 い な い。 ・こ れ は 甲 割 と 称 え て 鉄 扇 と は ま る で 別 物 で … …
・まる で 叔 母 さん と択 ぶ 所 な しだ。
漱 石 ・猫 ・十
・今 の 人 は 己 れ を 忘 れ る な と 教 え る か ら ま る で 違 う 。
・代 表 者 以 外 の 人 間 に は 人 格 は ま る で な か っ た 。
漱 石 ・猫 ・九
漱 石 ・猫 ・十 一
漱 石 ・猫 ・十 一
・迷 亭 先 生 今 度 は ま る で 関 係 の な い方 面 へ ぴ し ゃ り と一 石 を 下 した 。 漱 石 ・猫 ・十 一 ・超 人 的 な性 格 を写 して も感 じが ま る で違 うか らね 。 漱 石 ・猫 ・十 一 C 打 消 し予 告 副 詞(打
消 しの助 動 詞 「な い ・ず ・ぬ 」 を 予 告 す る 。)
・末 造 も 丸 で 知 ら ぬ 顔 を し て い る こ と は 出 来 な い 。
〓
外 ・雁 ・捌
・こ の何 物 か を 丸 で 見 遁 して は お か ぬ の で あ る 。
〓
外 ・雁 ・拾
・ま る で 反 抗 せ ず に は い ら れ そ う に な く な っ た 。
〓 外 ・雁 ・拾 参
・ま る で い く地 の な い 方 ね 。
〓
外 ・雁 ・拾肆
・ま る で 手 を 触 れ ぬ 事 さ え あ る 。
漱 石 ・猫 ・五
・ま る で 論 理 に 合 わ ん 。
漱 石 ・猫 ・五
・彼 等 が 生 い 重 な る と枝 が まる で 見 え な い位 茂 って 居 る 。 漱 石 ・猫 ・七 ・今 来 て 見 る と ま る で 方 角 も 分 ら ん 位 で … … ・こ れ も ま る で 益 に 立 た な い ん で す っ て 。
漱 石 ・猫 ・九
・寒 月 さ ん は ま る で 御 存 じ な い ん で し ょ う 。
漱 石 ・猫 ・十 漱 石 ・猫 ・十
D 直 喩 予 告 副 詞(比 況 の 助 動 詞 「よ うだ 」 を予 告 す る。) ・十 日 ば か り見 ず に い る う ち に
,丸
で 生 れ 替 っ て 来 た よ うで あ る 。 〓 外 ・雁 ・拾 壱
・あ の 方 は わ た く し を 丸 で 赤 ん 坊 の よ う に 思 っ て い ま す の 。 〓 外 ・雁 ・拾 壱 ・な に 丸 で 狸 が 物 を 言 う よ う で ・ほ ん と よ ,ま
,分
か りあ しな い 。
る で 自分 の小 供 の 様 よ。
〓
外 ・雁 ・拾 弍
漱 石 ・猫 ・二
・そ ん な に ジ ャ ム を嘗 め る ん で す か ま るで 小 供 の 様 です ね 。 漱 石 ・猫 ・三
・こ れ で は ま る で 喧 嘩 を し に 来 た 様 な も の で あ る が … …
漱 石 ・猫 ・三
・ま る で 彼 等 の 財 産 で も捲 き上 げ る た 様 な気 分 で す か ら… … 漱 石 ・猫 ・四 ・ま る で 試験 を受 け に 来 た 様 な もの だ 。
漱 石 ・猫 ・四
・ま る で 贋 造 の 芭 蕉 の 様 だ 。
漱 石 ・猫 ・六
・ま るで 噺 し家 の 話 を 聞 く様 で 御 座 ん す ね 。
漱 石 ・猫 ・六
・ま るで 講釈 見 た 様 で す 事 。 ・ ま る で 化 物 に邂逅
漱 石 ・猫 ・六
した様 だ 。
漱 石 ・猫 ・七
・交 際 の 少 な い 主 人 の 家 に して は まる で 嘘 の 様 で あ る。 漱 石 ・猫 ・八 ・ま るで 水 気 に な や ん で居 る 六 角 時 計 の 様 な もの だ 。
漱 石 ・猫 ・九
・ま るで は な す 噺 し家 の洒 落 の 様 ね。
漱 石 ・猫 ・十
・ま るで 従 卒 の 様 だ ね 。
漱 石 ・猫 ・十 一
村 上 は 四 種 類 の 「ま る で」 の う ち,D の 直 喩 予 告 副 詞 の用 法 だ け を使 用 して い る。 単 調 に な る とい う欠 陥 を 承 知 の 上,わ
か りや す さ を優 先 した の で あ ろ う
か。
3. 直喩の型 喩 え られ る もの を喩 え る も の に 見 立 て て,あ
る種 の 効 果 を 期待 す る表 現,こ
れ が 比 喩 表 現 で あ る。 直喩 は比 喩 表 現 の 一 種 で,次 直 喩 ・明喩(simile):類
の よ うに 分 類 さ れ る 。
似 性 に よ る 見 立 て の 表 現 。 喩 え る も の と喩 え られ る も の と の 関 係 が 直 接 的 で あ る た め に 直 喩,明
確で
あ る た め に 明 喩 と い う。 直 喩 表 現 を構 成 す る 要 素 は 喩 え ら れ る も の ・喩 え る も の
・比喩指標
及 び,類 似 息 で あ る 。 比 喩 表 現 の 文 型 を 示 す と次 の よ う に な る。 喩えられるもの 前置比喩指標 喩 え る もの 後置比喩指標 類 似 点
a 君は
ま る で
薔 薇 の
b 君は
ま るで
薔 薇 の
よ う に 美 しい (棘 が あ る)。 = 直 喩 よう
だ。 = 直 喩
c君 は
ま る で
薔 薇
d君 は
薔薇 の
e君 は
薔薇
だ 。 = 直 喩 よ う
だ 。 = 直 喩 だ 。 = 隠 喩
aは 典 型 的 な 直 喩 表 現 で あ る 。 比 喩 表 現 の す べ て の構 成 要 素 が 明 示 さ れ た も の で 極 め て 明 晰 な 文 で あ り,誤 解 の余 地 が ない 。 村 上 の 直 喩 表 現 は基 本 的 に こ の 型 に 属 す る。 彼 の 表 現 が 明 快 で あ る所 以 で あ ろ う。 bは比 喩 表 現 で あ る こ と は 明 示 さ れ て い るが,類
似 点 に 関 す る情 報 が 欠 如 し
てい る。 類 似 点 は 受 容 者 の 判 断 に 委 ね らる。 類 似 点 が 「棘 が あ る」 とい う こ と で あ る か も知 れ な い とい う曖 昧 性 が 生 ず るが,明
示 して い な い 以 上,こ
の曖昧
性 を排 除 す る こ とは で きな い 。 bの 表 現 者 は表 情 や 行 為 等 に よ り,こ の曖 昧 性 を補 足 す る必 要 が あ り,受 容 者 に は 曖 昧 性 を払 い の け る 喜 び を,時
に は 怒 りを
感 じ取 る 自 由 を 与 え る。比 喩 表 現 に お い て,表 現 者 が も っ と も伝 え た い こ と は, 類 似 点 な の で あ るが,こ
れ を わ ざ わ ざ欠 落 させ る こ とに 表 現 者 の 遠 慮 が あ り,
そ の 遠 慮 を感 じ させ る こ とが,b の 表 現 の真 の ね らい で あ る。 c,d は 類 似 点 の ほ か に,比 喩 指 標 の 一 部 を 欠 落 させ た もの で あ る が,直 で あ る こ とは 明 瞭 で あ る 。 不 思 議 な こ とに,c の 表 現 で は,類
喩
似 点 が 「棘 が あ
る」 とな り,d で は 「美 しい」 に な る とい う傾 向 が あ る 。 た だ し,こ れ は,傾 向 で あ り,常 に そ の よ うな 意 味 を含 意 す る とい う こ と に は な らな い 。 類 似 点 に 関 す る情 報 は伏 せ られ て い る の で,あ
く まで も曖 昧 で あ り,表 現 価 は b と等 し
い 。
eは,類 似 点 と比 喩 指 標 を欠 くの で,比
喩 表 現 で あ る か 否 か そ の もの が 曖 昧
に な る。 比 喩 表 現 で あ る こ とが 隠 され て い る の で,次
に述 べ る 隠喩 の 表 現 と な
る。 た だ し,「 君 」 と 人 称 代 名 詞 で 呼 称 さ れ て い る 以 上,対
象 は 人 間 で あ り,
薔 薇 とい う植 物 で は あ りえ な い。 この よ うな 共 存 制 限 破 りの 表 現 に よ り,e が 比 喩 表 現 で あ る こ と は 明 らか とな る。 こ れ らの 表 現 に お い て,「 あ た か も ・さな が ら ・ま る で 」 は 前 置 比 喩 指 標 で, 直 喩 表 現 を予 告 す る 副 詞,「 よ う ・み た い 」 は 「見 立 て」 で あ る こ と を表 す, 後 置 比 喩 指 標 と な る 助 動 詞 で あ る。 直 喩 予 告 副 詞 に は,「 あ た か も ・さ な が
ら ・ ま る で 」 以 外 に,「 ま る っ き り ・ち ょ う ど 」 「宛 と し て ・宛 然 と し て 」 な ど が あ る 。 後 置 比 喩 指 標 に は,前
述 の も の 以 外 に,「
る ・同 然 ・程 ・ く ら い 」 な ど が あ る 。 な お,「
ご と し ・ご と く ・似 て い
を 思 わ せ る ・ と み ま ご う ・ゆ ず
りの ・顔 負 け の ・に 負 け な い ・風 の ・ 状 の ・も ど き の ・的 な ・ く さ い ・め く 」 な ど も比 喩 指 標 と な る 。 直 喩 表 現 は,表 現 の 本 筋 と な る 喩 え ら れ る も の と 脇 筋 と な る 喩 え る も の と の, 二 つ の 世 界 が 共 存 す る 表 現 で あ る 。 優 れ た 作 品 に お い て は,両
者 が 関 係 しあ っ
て 効 果 を発 揮 す る よ うに 工 夫 さ れ て い る。 そ の こ と を芥 川 龍 之 介
『羅 生 門 』 に
おいて検証す る。 ・檜 皮 色 の 着 物 を 着 た
,背
の 低 い,や
せ た,白
髪 頭 の,猿
の よ う な老 婆 で
あ る。 ・す る と
,老
婆 は,松
の 木 切 れ を,床
板 の 間 に 挿 して,そ
眺 め て い た 死 骸 の 首 に 両 手 を か け る と,ち ら み を 取 る よ う に,そ ・老 婆 は
,一
ょ う ど,猿
れ か ら,今
まで
の親が猿 の子の し
の長 い 髪 の毛 を 一 本 ず つ 抜 き始 め た 。
目 下 人 を 見 る と,ま
る で,弩
に で も は じ か れ た よう に,飛
び 上 が っ た。 ・ち ょ う ど
,鶏
の 脚 の よ う な,骨
と 皮 ば か りの 腕 で あ る 。
・( 老 婆 は ) まぶ た の 赤 くな っ た
,肉
食鳥 の よう な,鋭い目
で見 たので あ
る。
喩 え られ る もの は,老
婆 の 姿 態,動
鶏 ・肉 食 鳥 」 な どの 小 動 物,他
作 な どで あ り,喩
え る も の は,「 猿 ・
に 「鴉 ・蟇」 な どが あ り,気 味 の 悪 い イ メー ジ
が 連 続 して い る。 喩 え る もの は,『 羅 生 門 』 の 世 界 の禍 々 し さ を強 調 す る 効 果 を発 揮 して い る。 中村 明 は 『比 喩 表現 の 理 論 と分 類 』 で,川 端 康 成 の作 品 群 に使 用 され て い る 比 喩 イ メ ー ジ の 一 群 に,「 ガ マ ・カ タ ツ ム リ ・カ イ コ ・ヒ ル ・ナ メ ク ジ ・ウ ジ ・チ ョ ウ ・ガ ・ア ブ ・クモ 」 な どの 「小 動 物 の イ メ ー ジ」 が あ る こ と を指 摘 し,川 端 康 成 の 現 実 認 識 の特 徴 や 美 意 識 を析 出 して い る。 直 喩 表 現 を単 独 で鑑 賞 す る こ と も可 能 で あ る が,よ
り効 果 的 な鑑 賞 は,群
れ
と して 鑑 賞 す る こ とで あ る 。 しか し,村 上 の 『ノ ル ウ ェ イ の 森 』 にお け る直 喩
に は,比
喩 イ メー ジの 点 で 一 貫 す る と こ ろ は な い。
「ま る で」 の 広 が りを 直 喩 予 告 副 詞 に 限 定 し,直 喩 表 現 の 広 が りを 完 全 型 a に限 定 す る村 上 の 表 現 法 は 禁 欲 的 と も評 す る こ とが で き る 。 曖 昧 さ を 避 け,な に よ り も明快 さ を 求 め た結 果 と考 え る べ き もの な の で あ ろ う。
■ 発展問題 (1) 次 のA∼Dの
各 グルー プ は比 喩表 現 の 一種 で あ る。 そ れぞ れ どの よ うな比
喩 表現 か ? A ① 私 は む し ろ 私 の 経 験 を 私 の 命 と と も に 葬 っ た ほ う が い い と 思 い ます 。 ② あ な た が 無 遠 慮 に 私 の 腹 の 中 か ら,あ
る生 き た も の を つ ら ま え よ う と い う 決
心 を 見 せ た か ら で す 。 私 の 心 臓 を 断 ち 割 っ て,温
か く流 れ る 血 潮 をす す ろ う
と した か ら で す 。 … 私 は 今 自分 で 自分 の 心 臓 を破 っ て,ま
の血 をあ なたの顔
に 浴 び せ 掛 け よ う と して い る の で す 。 私 の 鼓 動 が 止 ま っ た 時,あ
なた の胸 に
新 しい 命 が 宿 る こ とが で き る の な ら満 足 で す 。 ③ も う取 り返 しが つ か な い と い う黒 い 光 が,私
の 未 来 を 貫 い て,一
瞬間 に私 の
前 に 横 た わ る全 生 涯 を もの す ご く照 ら し ま した 。 そ う して 私 は が た が た 震 え だ し た の で す 。 B① 羅 生 門 が,朱
(以 上,漱
雀 大 路 に あ る 以 上 は,こ
や 揉 烏 帽 子 が,も
う 二,三
の 男 の ほ か に も,雨
石 ・心)
や み をす る 市 女 笠
人 は あ りそ う な も の で あ る 。 (芥 川 龍 之 介 『羅 生 門 』)
② 春 雨 や 物 語 り行 く簑 と笠
(芭 蕉)
③ 「漱 石 を 読 む 」 ④ 「モ ー ツ ア ル トを 楽 しむ 」 ⑤ 「白 バ イ に つ か まっ た 。」 C ① 「花 見 」 の 「 花」 ② 「人 は パ ンの み で 生 き る もの に あ らず 」 の 「パ ン」 ③ 「お 茶 に し ませ ん か ?」 の 「お 茶 」 ④ は し け は ひ ど く揺 れ た 。 踊 子 は や は り唇 を きつ と閉 ぢ た ま ま 一 方 を 見 つ め て ゐ た 。 私 が 縄 梯 子 に 捉 ま ら う と して 振 り返 つ た 時,さ が , そ れ も止 して,も
よ な ら を 言 は う と した
う一ぺ んた だ うなづ いて見 せ た。 は しけが帰 つ て行つ
た 。 栄 吉 は さ つ き 私 が や つ た ば か りの 鳥 打 帽 を し き りに 振 つ て ゐ た 。 ず つ と 遠 ざ か つ て か ら踊 子 が 白 い も の を振 り始 め た 。 (川端 康 成 『伊 豆 の 踊 子 』) D ① 道 が つ づ ら降 りに な つ て,い 密 林 を 白 く染 め な が ら,す
よ い よ 天 城 峠 に 近 づ い た と 思 ふ 頃,雨
脚 が 杉の
さ ま じ い 早 さ で 麓 か ら 私 を追 つ て 来 た 。
② と と ん と ん と ん , 激 しい 雨 の 音 の 遠 く に 太 鼓 の 響 きが 微 か に 生 れ た 。 ③ 私 は 眼 を 閉 ぢ て 耳 を 澄 ま し乍 ら, 太 鼓 が ど こ を ど う歩 い て こ こ へ 来 る か を知 ら う と した 。
(以 上,川
端康 成 『 伊 豆 の 踊 子 』)
(2) 宮 澤 賢 治 の 童 話 の 中 の 次 の 「ま る で 」 を 分 析 して み よ う 。 ① ま る で す ば や く,よ う ひ や か ぶ と を 脱 ぎ … … ( 三 人 兄 弟 の 医 者 と北 守 将 軍) ② ま る で せ か せ か と の ぼ り ま した 。
③ ま る で び っ く り し て 棒 立 ち に な り… …
(ひ か りの 素 足) (風 の 又 三 郎)
(3) 現 代 語 と して の 「ま る で 」 の 用 法 と〓 外 ・漱 石 の 用 法 と を 比 較 して み よ う。
(4)好 き な 小 説 を 一 つ 選 び,そ
の 比 喩 表 現 を分 析 し,主 題 と の 関 連 を考 え て み よ
う。
■
参 考 文 献
1)村 上 春 樹
『ノ ル ウ ェ イ の 森 上 ・下 』(講 談 社,1987)
2)近 代 作 家 用 語 研 究 会 編
『森〓 外 三 』(教 育 社,1985)
3)近 代 作 家 用 語 研 究 会 編
『夏 目 漱 石 10・11』(教
4)中 村 明
5)中 村 明 編 6)中 村 明
育 社,1986)
『比 喩 表 現 の 理 論 と 分 類 』(国 立 国 語 研 究 所 報 告57,秀
『講 座 日 本 語 の 表 現 8 日 本 語 の レ ト リ ッ ク 』(筑 摩 書 房,1983)
『日本 語 レ ト リ ッ ク の 体 系 」(岩 波 書 店,1991)
7)中 村 明 編
『比 喩 表 現 辞 典 』(角 川 書 店,1995)
8)丸 谷 才 一
『文 章 読 本 』(中 央 公 論 社,1977)
9)佐 藤 信 夫
『レ ト リ ッ ク 感 覚 』(講 談 社,1978)
10)佐
藤信夫
11)井
上 ひ さ し 『自 家 製 文 章 読 本』(新
12)利
沢行夫
『レ ト リ ッ ク 認 識 』(講 談 社,1981) 潮 社,1984)
『戦 略 と し て の 隠 喩 』(中 教 出 版,1985)
13)『 國 文 學 特 集 日 本 語 の レ ト リ ッ ク 』(学 燈 社,1986) 14)尼
ケ崎彬
英 出 版,1977)
『日本 の レ ト リ ッ ク』(筑 摩 書 房,1988)
15)尼 ケ崎 彬 『こ とば と身体 』(勁 草 書房,1990) 16)森 田 良行 「比 喩」(森 田 良行 他 編 『ケー スス タデ ィ 日本 語 の語 彙 』桜 楓 社 ,1988) 17)山 梨正 明 『 比 喩 と理 解 』(認 知 科学 選 書17,東
大 出版 会,1988)
18)半 澤 幹 一 「比 喩 表 現 」(寺 村 秀 夫 他 編『 ケ ー ス ス タデ ィ
日本 語 の 文 章 ・談 話』 お うふ
う,1990) 19)香 西 秀 信 「日本語 の修 辞 法― レ トリ ック― 」(『こ とば の知 識 百科 』 三 省 堂 ,1995) 20)渡 辺 直 己 『本気 で 作 家 にな りたけ れ ば 漱石 に学 べ !』(太 田 出 版,1996) 21)小 池 清 治 「 比 喩 表 現」(小 池 清 治 ・小 林 賢 次 ・細 川 英 雄 ・山 口佳 也編 『日本 語 表現 ・文 型 事 典 』 朝倉 書 店,2002)
第14章 「 夜 の 九時 過 ぎに は足 が な くなる」 ? 【慣 用 表 現 ・慣 用 句 】
キ ー ワ ー ド:連 語 ・連 語 名 詞 ・連 語 動 詞 ・連 語 形 容 詞 ・連 語 形 容 動 詞 ・連 語 副 詞 ・連 語 連 体 詞 ・連 語 助 動 詞 ・連 語 助 詞,複 詞 ・複 合 助 動 詞 ・複 合 助 詞,慣
合 語 ・派 生 語,被
的 慣 用 句 ・隠 喩 的 慣 用 句 ・反 復 慣 用 句,同 事 成 句 ・格 言(金
覆 形 ・複 合 動
用 句 ・動 詞 慣 用 句 ・形 容 詞 慣 用 句,直
言 ・箴 言 ・処 世 訓)・
語 反 復 型 慣 用 表 現,成
喩
句 ・故
こ とわ ざ
1.留 学 生 は 幽 霊 を見 た ! 10年 ほ ど前 に は,私
が 勤 め る大 学 に は 国 際 交 流 会 館 と い う便 利 な 施 設 は 存
在 しな か っ た。 そ こで,留
学 生 た ち は,大 学 近 辺 の ア パ ー トを 借 りる か,下 宿
す る か して い た。 台 湾 か ら来 た 女 子 の 留 学 生 が 私 に尋 ね た 。 「先 生,夜
の 九 時 過 ぎ に は,宇 都 宮 で は,足 が な くな る っ て,ほ
ん と うで
す か ? 下 宿 の お ば さん が 言 っ て い ま した 。」 「う ん,ほ ん と う だ よ。 県 都 とい っ て も,地 方都 市 だか らね 。」 「え っ ? や っ ぱ りほ ん と です か ? 信 じ られ な い 。 怖 い で す ね 。」 「え っ ? なに 言 っ て るの ?」 ど うや ら彼 女 の頭 の 中 に は,「 足 の な い 」 幽 霊 の よ うな 存 在 が ふ わ ふ わ 動 き ま わ る,不 気 味 な シー ンが 思 い 浮 かべ られ て い た よ うで あ る。 彼 女 は 「足 が な くな る 」 と い う 表 現 が 慣 用 句 で あ る こ と を,ま
だ,学
習 して い な か っ た よ う
だ。 「車 を拾 っ て 来 て 。」 と言 わ れ た 中 国 か らの 男 子 留 学 生 は,「 先 生,落
ちてい
ませ ん で した。 日本 は不 景気 だ と 聞 い て 来 た ん で す が,車 が び ゅ ん び ゅ ん走 っ て ます ね 。」 と報 告 して,私 留 学 生 との 日常 は,ほ る。
を驚 か せ て くれ た。
とん ど発 見 の 連 続 で,言
葉屋 の 私 に は 有 益 な 日 々 で あ
2.慣 用 表 現 及 び その 種 類 慣 用 表 現 を定 義 す る と次 の よ う に な る。 広 義 に は,固 定 的 に よ く用 い られ る語 連 続 の 表 現 をい い,連 語 ・慣 用 句 ・成 句 な ど に 分類 され る。 狭 義 に は,よ
く用 い られ るが,正
規 の 文 法 や語 彙 規 則 等
で は 説 明 しに くい 表 現 を い う。 語 順 が 固 定 的 で,ひ
とつ の 結 合 体 ま た は 結 合 関 係 を構 成 す る 表 現 に つ い て,
意 味 が 各 語 の 総 和 と等 しい か 否 か , 結 合 体 の 大 小,結 連 語,慣
合 度 の 強 弱 の 三 点 か ら,
用 句,成 句 と分 類 さ れ る。
a 連 語 = 二 つ 以 上 の 語 や 辞 か らな る 固 定 的 ま と ま りで,語
相 当の働 きを
す る 単 位 。 結 合 度 が 強 く,接 合 部 に 他 の 要 素 を挿 入 す る こ と が で きな い 。 意 味 =各 語 の 意 味 の総 和 と等 しい 。 結 合 体 =語 と して 機 能 す る。 結 合 度 =強 い 。 b 慣 用 句 =二 つ 以 上 の 語 や 辞 か ら な る ま と ま りで,述
部 要 素 が あ り,句 や
節 ・文 の 働 き を す る単 位 。 結 合 度 が 弱 く,接 合 部 に 他 の 要 素 を 挿 入 す る こ とが で きる 。 意 味 =各 語 の 意 味 の 総和 と は異 な る。 結 合 体 =語 と して機 能 しな い。 句 ・節 ・文 と して 機 能 す る 。 結 合 度 =弱 い 。 c 成 句 = 二 つ 以 上 の 語 や 辞 か ら な る 固 定 的 ま と ま りで,文
の働 きをす る
単 位 。 完 成 度 が 高 く,接 合 部 に 他 の 要 素 を介 入 させ る と,パ
ロ
デ ィー と な る。 意 味 =各 語 の意 味 の 総 和 と等 しい 。 結 合体 =句(運 用 の 素 材 と して の 文)と
して 機 能 す る。
結 合 度 =強 い 。
3.連 語 の定 義 と その 種 類 連 語 と は,品 詞 を 異 に し,単 独 で も使 用 さ れ る二 つ 以 上 の 語 や 辞 が 結 合 し,
各 語 の 意 味 の 総 和 が 連 語 の 意 味 とな り,語 や 辞 と して 機 能 す る も の 。 連 語 と し て の 品 詞 は,各 語 の 品 詞 か ら は独 立 して い て,固
有 の もの に な る が,多
くは 後
置 さ れ る 語 の 品 詞 と な る。 連 語 名 詞 :若 い 衆 ・若 い 燕
・若 い 者 ・我 が 家
連 語 動 詞 :気 が 付 く ・気 に 入 る ・気 に す る ・気 に な る 連 語 形 容 詞 :味 け な い ・息 苦 し い ・仕 方 な い ・途 方 も な い ・見 苦 し い ・見 易 い ・見 好 い 連 語 形 容 動 詞 :頭 打 ち ・頭 ご な し ・気 の 毒 ・目 の 毒 ・わ が ま ま ・わ が も の 顔 連 語 副 詞 :頭 か ら ・口 が 裂 け て も ・雲 を 霞 と ・ ど れ か ・根 掘 り葉 掘 り 連 語 連 体 詞 :雲 衝 く ば か りの ・手 に 余 る ・天 を 摩 す る ・耳 よ りの ・ 目 に 余 る 連 語 接 続 詞 :し か し な が ら ・だ か ら ・だ か ら と い っ て ・ し か の み な ら ず 連 語 助 動 詞 :で あ る ・で な い 連 語 助 詞 :な い で ・を 措 い て ・を し て ・を も ち て ・も っ て
因 み に,連 語 感 動 詞 は な い 。 感 動 詞 は,総 合 語 彙 に属 し,各 語 の 独 立 性 が 強 く,ま た,よ
り複 雑 な 感 動 表 現 は 感 動 詞 を重 複 させ れ ば よ く,連 語 感 動 詞 を作
る 必 要 性 が な い か ら で あ る。
4.連 語 と慣 用 句 動 詞 の 場 合,多
くは 動 詞 同 士 の 複 合 に よ る 複 合 動 詞 や慣 用 句 と な り,連 語 動
詞 と認 定 さ れ る もの は め っ た に ない 。 例 示 した 「気 が 付 く ・気 に 入 る ・気 にす る ・気 に な る 」 な ど も,一 般 に は慣 用 句 と され る。 本 書 が,こ
れ らを連語動詞
と した の は,次 の 理 由 に よ る。 「気 が付 く」 を 例 に す る と,「 気 が 付 く」 は 常 に ま と まっ て 機 能 し,接 合 部 で あ る 「気 が 」 と 「付 く」 の 間 に,他 の 要 素 を挿 入 す る こ と が で き な い 。 彼 は細 か な こ と に よ く気 が付 く。 →
*彼 は細 か な こ と に気 が よ く付 く。
そ れ は ち ょ っ と気 が 付 か な い こ とだ 。 →
*そ れ は気 が ち ょっ と付 か な い こ とだ 。
一 方,相 似 た 表 現 で あ るが,「 気 がす る 」 は慣 用 句 で あ る。
彼 に は ち ょっ と気 の 毒 な こ と を した よ うな 気 が す る。 → 彼 に は気 の 毒 な こ と を した よ うな気 が ち ょっ とす る 。 「気 が 」 と 「す る」 との 間 に,「 ち ょっ と」 な どの 程 度 副 詞 を挿 入 す る こ とが 可 能 で あ り,「 気 が す る 」 は一 語 と して 機 能 して い な い こ とが 明 白 で あ る か らで あ る。
5.連 語 と複 合 語 ・派 生 語 二 つ 以 上 の 形 態 素 が 結 合 して 語 を形 成 す る も の に,連 語 の ほ か,複 合 語 や 派 生 語 が あ る。 連 語 の 場 合 は,構 成 す る 語 が 単 独 で も使 用 さ れ る 語 で あ る の に 対 して,複 合 語 の場 合 は,単 独 で は 使 用 され な い形 態 素(被
覆 形)を 構 成 要 素 とす る 。
複 合 名 詞 は次 の 5種 類 に 分 類 され る。 ① 語 幹 とい う被 覆形 を含 む もの:う
れ し泣 き ・高跳 び ・短 夜 ・若 衆
② 連 濁 に よ る被 覆 形 を含 む もの:鉄 砲 玉 ・本 箱 ・水 瓶 ・ 山桜 ③ 母 音 交 替 に よ る被 覆 形 を含 む もの:風
車 ・酒 屋 ・手 綱 ・爪 先
④ 連 声 に よる 被 覆 形 を含 む もの:因 縁 ・観 音 ・天 皇 ・反応 ⑤ ア ク セ ン ト変 化 に よる 被 覆 形 を 含 む もの:朝 風 ・赤 とん ぼ ・黒 猫 ・鯉 幟 「若 い 衆 」 の 場 合,「 若 い 」 「衆 」 は と もに,単 独 で 使 用 さ れ る 語 で あ り,前 者 は 形 容 詞,後 者 は 名 詞 と して 機 能 して い るの で,連 語 で あ る。 こ れ に 対 して, 「若 衆 」 の 場 合,「 若 」 は 語 幹 で 被 覆 形,「 衆 」 短 縮 形 で複 合 語 固 有 の 形,と
も
に単 独 で は使 用 さ れ な い の で,複 合 語 とな る。 派 生 語 の 場 合 は,単 独 で は使 用 さ れ な い接 頭 辞 や 接 尾 辞 とい う被 覆 形 を構 成 要 素 とす る の で,こ
れ も連 語 で は な い 。
複 合 動 詞 は,動 詞 同 士 の 結 合 で,同
一 品 詞 の結 合 体 で あ る 点 で,連
語 と異 な
る 。 な お,「 べ きだ 」 「 べ か らず 」 な ど の助 動 詞 も,助 動 詞 同士 の 結 合 体 で あ る の で,連
語 で は な く,複 合 助 動 詞 と な る 。 ま た,「 か も ・て も ・を も」 な ど,
助 詞 同 士 が 結 合 して 一 語 と して 用 い られ る もの も多 い が,こ な く,複 合 助 詞 と呼 称 す べ き もの で あ る 。
れ ら も,連 語 で は
6.慣 用 句 の 下 位 分 類I― 品 詞 的 観 点― 各 語 の 総 和 で は説 明 し に くい 固 有 の 意 味 を構 成 す る とい う点 で,意 一語 的 で あ り,か つ,接
味的 には
合 部 に 他 の 要 素 を挿 入 す る こ と を許 す とい う 点 で,文
法 的 に は 一 語 的 で な い,文 節 以 上 文 以 下 の ま と ま り を慣 用 句 と い う。 慣 用 句 は,中 心 と な る 語 の 品詞 に よ り次 の よ う に 分 類 さ れ る。 動 詞慣 用 句:頭
が 切 れ る・ 頭 に 来 る ・頭 を痛 め る ・目が 合 う ・目が 利 く ・目
が 届 く ・幅 を利 か す ・鼻 にか け る ・骨 を 折 る ・骨 を惜 しむ ・割 りを食 う 形 容 詞 慣 用 句:頭
が痛 い ・頭 が 重 い ・頭 が 固 い ・頭 が 高 い ・影 も形 もな い ・
敷 居 が 高 い ・手 が 早 い ・耳 が 早 い *他 の 品 詞 は,連 語 ま た は複 合 語 に な り,慣 用 句 に な る もの はない。 動 詞慣 用 句 は常 に動 詞 と して用 い られ るわ けで は な い 。 彼 は 頭 が 切 れ る(賢 い ・利 口 だ)。 =形 容 詞,形 容 動 詞 相 当 の 働 きを す る 。 頭 に 来 て,怒 鳴 っ て し ま っ た。
=動 詞 の働 き をす る 。
た だ し,一 語 と して 機 能 して い る わ け で は な い 。 次 の よ う に,接 合 部 に 他 の 要 素 を 挿 入 す る こ とが 可 能 だ か らで あ る 。 彼 は す ご く頭 が 切 れ る 。 →
彼 は 頭 が す ご く切 れ る 。
か あ っ と頭 に 来 て,怒 鳴 っ て し まっ た 。 →
頭 に か あ っ と来 て,怒
鳴 っ て し ま った 。
形 容 詞 慣 用 句 は 状 態 性 動 詞 や形 容 詞 と して 機 能 す る。 た だ し,こ の 場 合 も一 語 化 して い る わ け で は な い 。 子 供 の 件 で 頭 が 痛 い(悩
んで い る)よ 。 →
先 生 の 所 は敷 居 が 高 い(行
子供 の 件 で 頭 が か な り痛 い よ。
き に くい)。 →
先 生 の 所 は 敷 居 が ち ょっ と高 くな っ た 。
な お,「 頭 が 切 れ る 」 「頭 が 痛 い 」 な ど は,形 態 と して は 文 に な りう る形 態 で あ る が,こ れ ら をそ の ま ま,こ れ らだ け で 文 と して 表 現 す る と 文 字 通 りの 意 味
で あ る の か , 慣 用 句 の 意 で あ る の か 曖 昧 に な っ て し ま う。 慣 用 句 が 誤 解 さ れ る こ と な く慣 用 句 と して 機 能 す る の は,文 の 部 分 的 素材 と して使 用 さ れ る場 合 に お いてである。
7.慣 用 句 の 分 類Ⅱ― レ トリ ック 的 観 点― 慣 用 句 を レ トリ ッ クの 観 点 か ら分 類 す る と,直 喩 的 慣 用 句 と隠 喩 的慣 用 句 ・ 反復慣用 句に分類 される。 直 喩 的慣 用 句:比 喩 指 標 が 明 示 さ れ る慣 用 句 。 比 喩 指 標 で 下 位 分 類 す る と次 の よ うに な る。 a 比 喩 指 標 が 「よ う」 で あ る もの:赤 子 の 手 を ひ ね る よ う(に 容 易 だ)・ 蚊 の 鳴 くよ う(な 小 さい 声)・ 雲 をつ か む よ う(に
と らえ どころ
が な い)・ 蜘 蛛 の 子 を散 らす よ う(に 四 方 八 方 に 逃 げ 散 る)・ 氷 の よ う(に 冷 た い 手)・ 砂 を 噛む よ う(に 無 味 乾 燥 だ)・ 竹 を割 っ た よ う(に 真 っ 直 ぐな気 性 だ)・ 抜 け る よ う(に 青 い 空)・ 蜂 の 巣 をつ つ い た よ う (に 大 騒 ぎだ)・ 火 の つ い た よ う(に 激 し く泣 き 叫 ぶ)・ 蛇 の よ う(に 執 念 深 い)・ 水 を打 っ た よ う(に
静 ま り返
る)・ もみ じの よ う(な 可 愛 い 手)・ 夢 の よ う(に は か な い)・ リ ン ゴの よ う(に 赤 い 頬) b 比 喩 指 標 が 「ご と し」 で あ る もの:雲 霞 の ご と き(大 軍)・ 赤 貧 洗 うが ご と し(大 変 な 貧 し さ)・ 蛇蝎 の ご と く(嫌 う) c 比 喩 指 標 が 「ば か り ・ほ ど」 で あ る もの:雲 衝 くば か り(の 大 男)・ 雀 の 涙 ほ どの(の
ボ ー ナ ス)・ 泣 か ん ばか り(に 頼 み 込 む)・ 猫 の 手
も借 りた い ほ ど(の 忙 さ)・ 猫 の額 ほ どの(小
さな 庭)
隠喩 的慣 用 句:比 喩 で はあ る が,比 喩 指 標 が 明 示 さ れ な い 慣 用 句 。 a 「思 い 」 を修 飾 す る もの:一
日千 秋 の 思 い ・血 を吐 く思 い ・藁 に もす が
る思 い b そ の 他:鬼
気 迫 る(雰
囲 気)・ 手 を 焼 く(問 題)・ 骨 身 に し み る(経
験)・ 水 も した た る(好 殺 さぬ(顔)
男 子)・ 水 も も ら さぬ(警
備 態 勢)・ 虫 も
反 復 慣 用 句:味
も そ っ け も な い ・あ れ も こ れ も ・恨 み つ ら み を 並 べ る ・う ん と も す ん と も 言 わ な い・ な り ふ り構 わ ず ・な ん で も か ん で も ・ に っ ち も さ っ ち も 行 か な い ・煮 て も 焼 い て も 食 え な い ・猫 も
杓 子 も ・寝 て も 覚 め て も ・の べ つ 幕 無 し に ・踏 ん だ り蹴 っ た り ・欲 も得 も な い
同 語 反 復 型 慣 用 表 現 :同 一 語 を反 復 して 用 い,一
定 の 意 味 を 加 え る表 現 。
① 「 A は A」 の型 。A は 名 詞 。 いず れ に せ よ,や
は りA で あ る こ とは 動 か せ
ないの意。 な ん で 勝 っ て も,勝 ち は勝 ち。 / 負 け は 負 け だ 。 潔 く認 め よ う。 東 は 東,西
は 西 。 / 君 は 君,僕
は僕,さ
れ ど仲 良 き。
② 「A こ と は A」 の型 。A が 名 詞 の 場 合 =最 も知 っ て い る の 意 。 形 容 詞 の 場 合 =結 果 は ど うあ れ,一 応 A で あ る こ と を認 め る の 意 。 動 詞 の場 合 =結 果 は ど うあ れ,一 応 Aす る の 意 。 竹 の こ と は竹 に 聞 け , 松 の こ とは松 に問 え。 あ の 映 画,面
白 い こ と は面 白 い 。
大 学 へ は,行
くこ とは 行 くけ れ ど,ど ん な学 問 をや る か 未 定 です 。
③ 「A に は A を,B に は B を 」 の 型 。ABと
もに 名 詞 。 最 も ふ さ わ しい の
意。
目に は 目を,歯
に は歯 を。
④ 「 A の な か の A」 の型 。A は 名 詞 。 賞 賛 の意 を 込 め て典 型 と 認 め るの 意 。 男 の なか の男 /猛 獣 の な か の 猛 獣 / 花 の な か の 花 ⑤ 「 A は A で」 の 型 。A は人 名 詞 。A は A の 能 力 範 囲 で の 意。 夫 は 夫 で,打
開 策 を考 えて い る ら しい 。
⑥ 「 A は A な りに」 の型 。 cに同 じ。 妻 は妻 な りに,打 開 策 を考 え て い る ら しい。 ⑦ 「A も A な ら,B も B だ 」 の 型 。A, B と もに ひ と人 名 詞 。 A,B と も に 軽 蔑 や 非 難 に 値 す る の意 。 夫 も夫 な ら,妻 も妻 だ。 ⑧ 「 A とい う A」 の 型 。 A は名 詞 。 あ らゆ る A の 意 。 漬 物 とい う漬 物 は,ま
っ た く食 べ な い。
⑨ 「A ま た A」 の 型 。A が 連 続 的 に多 数 存 在 す る の 意 。 涙 ま た涙 / 人 ま た 人 / 山 ま た 山 ⑩ 「A1にA2」
の型。 A1は 動 詞 の 連 用 形, A2は 同 一 動 詞 の他 の 活 用 形 。 徹
底 的 に Aす る の 意 。 悩 み に悩 ん だ 末,結
局,断 念 した。
⑪ 「A て も A て も」 の 型 。 A は 動 詞 の 促 音 連 用 形 。 い く ら A し て も効 果 が ないの意。 追 っ て も追 っ て も,着 い て くる ポ チ は ほ ん と に可 愛 い な。
8.成 句 の 下 位 分 類 常 に 固 定 した 文 の 形 で 用 い られ る 成 句 は,典 拠 の 有 無 な ど に よ り,故 事 成 句 ・格 言(金
言 ・箴 言)・ こ とわ ざ な どに お お まか に下 位 分 類 さ れ る 。
故 事 成 句 :典 拠 の わ か る,有 名 な 漢 詩 や 漢 文 の句 に 由 来 す る もの 。 1)人 間万 事 塞 翁 が 馬 = 『淮南 子 』 「人 間 訓 」 の 句 。 人 間 の 禍福 は変 転 し て ど ち らか に 固定 した もの で は ない 。 有 頂 天 に な っ て もい け な い し, 絶 望 して もい け な い 。 格
言 :深 い 人 間 観 察 や経 験 か ら得 た 結 果 を,処 世 へ の 戒 め や 教 え と して, 簡 潔 に 表 現 した もの 。典 拠 の 明 らか な もの と不 明 な もの と が あ る。 金 言 ・箴 言 ・処 世 訓 と も。
2)金 言 耳 に逆 ら う =教 訓 や よ い言 葉 は,と か く人 の 感 情 を そ こ な っ て, 聞 き入 れ られ な い こ とが 多 い。
こ と わ ざ :典 拠 が は っ き りせ ず,古
くか ら言 い 習 わ され た,真
訓 な どを 言 い 表 した 気 の 利 い た 言葉 。 3)急 が ば 回れ 。
4)火 の な い 所 に煙 は立 た ぬ 。
5)蒔 か ぬ種 は生 え ぬ 。
6)葦 の 髄 か ら 天井 の ぞ く。
理 や 道 理,教
9.慣 用 的 言 語,日 本 語 「第12章 清 少 納 言 の 物 言 い は幼 い か ?」 に お い て,日 本 語 の 数 量 語 彙,助 数 詞 につ い て述 べ た 際 に,日 本 語 は規 則 的 言 語 と い う よ り,慣 用 性 の 強 い 言 語 で あ る とい う こ と を述 べ てお い た 。 こ の こ と は,本 章 にお い て は,ま
さにズバ
リそ の こ と を証 明 す る こ とに な っ て しま っ た 。 日本 語 を学 習 す るた め に は,記 憶 容 量 を 最 大 に しな け れ ば な らな い 。
■ 発展問題 (1)平 成12年
度 前 期 芥 川 章 受 賞 作,町
田 康 『き れ ぎれ 』(文 藝 春 秋 社,2002)の
冒 頭 の に あ る 表 現 で あ る 。 こ れ を 読 み,後
① 俺 は ま っ た く腹 が 立 っ た 。
② そ の 都 度,俺
③ 俺 の腹は も う どん どん立っ て い て,そ
の問 い に答 えてみ よう。
は アベ に 腹 が 立 つ 。
限 ま で 腹が立った
れ か ら空 車 は 全 然 来 ず,と
うとう極
の と な ん だ か タ ク シ ー に馬 鹿 に さ れ て い る よ う な 屈 辱 的
な気持 ちに なった ので …… 問 1 「腹 が 立 つ 」 は 連 語 が 慣用 句 か ? 問 2 「俺 の 腹 は も う ど ん ど ん 立 っ て い て 」 の 表 現 を連 語 の 観 点 か ら分 析 し て み よ う。.
(2)① 「 腹 」 を 要 素 と した 慣 用 句 で あ る 。 慣 用 句 と して の 意 味 と 普 通 表 現 と し て の 意味 の違 い につ いて考 えてみ よう。 a 腹 が癒 える e 腹 が 違 う i 腹 にいれ る
b 腹が痛い
c 腹 が 大 きい
d 腹が黒い
f 腹 が ない
g 腹 が 膨 れ る
h 腹が悪い
k腹 に持つ
l 腹の うち
j 腹 に据 え兼 ね る
m 腹 の 皮 が 痛 い n 腹 の 底 o q 腹 を 痛 め る
r 腹 を抱 え る
u 腹 を 切 る
v 腹 を下 す
y 腹 を こ わ す
腹 の足 し
p 腹の虫
s 腹 を 貸す
t 腹を決める
w 腹 を拵 え る
x 腹 を肥 や す
z 腹 を探 る
② 「腹 」 の 類 義 語 「お な か 」 を 要 素 と した 慣 用 句 を 集 め て み よ う。 ③ 「腹 / お な か 」 「額 / お で こ」 「目/ め ん た ま」 等 の類 義 語 に お い て,後 を 要 素 とす る 慣 用 句 が 少 な い こ と につ い て,考
え て み よ う。
者
(3)① 「 頭 」 「額 」 「耳 」 「目」 「鼻 」 「口」 を要 素 と した 慣 用 句 を 集 め て み よ う 。 ② 身 体 部 位 語 彙 を 要 素 と した 慣 用 句 が なぜ 多 い の か , 考 え て み よ う 。
(4)英 語,中
国 語,朝
鮮 語 な どの 慣 用 句 と 日 本 語 の慣 用 句 と を比 較 して み よ う。
■ 参考文献 1)白石 大 二 『日本 語 の イデ ィオム 』(三 省 堂,1950) 2)白 石 大 二 『日本 語 の発 想― 語 源 ・イ デ ィオ ム』(東 京 堂 出版,1961) 3)白 石 大 二 『国語慣 用 旬大 辞 典 』(東 京 堂 出版,1977) 4)文 化 庁 編 『 語 源 ・慣 用語 』(教 育 出版,1975) 5)宮地 裕 『 慣 用 句 の 意味 と用 法 』(明 治 書院,1982) 6)宮 地 裕 「慣 用 句 の 周辺― 連 語 ・こ とわ ざ ・複 合 語」(『日本 語 学 』 4巻 1号,明 治 書 院, 1985) 7)飛 鳥 博 臣 「日本 語 動 詞慣 用 句 の 階層 性」(『月刊言 語 』11巻13号,大
修館 書 店,1982)
8)大 坪 喜 子 「名 詞慣 用 句― 特 に 隠語 的慣 用 句 につ い て― 」(『日本語 学 』4巻 1号,明 治 書 院, 1985) 9)國 廣 哲 彌 「 慣 用 句 論」(『日本 語学 』 4巻 1号,明 治書 院,1985) 10)中 村 明 「 慣 用 句 と比 喩 表 現 」(『日本語 学 』 4巻 1号,明 治 書 院,1985) 11)西 尾 寅 弥 「 形 容 詞慣 用 句 」(『日本語 学』 4巻 1号,明 治 書 院,1985) 12)村 木 新 次郎 「 慣 用 句 ・機能 動 詞 結合 ・自由 な語結 合 」(『日本語 学 』4巻 1号,明 治 書 院, 1985) 13)森 田良 行 「 動 詞慣 用 句 」(『日本語 学 』4巻 1号,明 治 書 院,1985) 14)キ ロ ワ ・スベ トラ 『日本 語 ブ ル ガ リ ア語 の 慣 用句 こ とわ ざ辞 典 』(シ リウス 4,2002) 15)小 池 清 治 ・小 林 賢 次 ・細 川 英 雄 ・山 口 佳 也編 『日本 語 表 現 ・文 型 事 典 』 付 録 1 「身 体 部 位 和 語 名詞 を中心 と した慣 用句 一 覧 」(朝 倉 書 店,2002) 16)東 郷 吉 男編 『か らだ こ とば 辞 典』(東 京 堂出 版,2003)
第15章
「手 タ レ」 「脚 タ レ」 と は何 の こ とか? 【省 略 語 ・短 縮 語 】
キ ー ワ ー ド :省 略 語,略
語,完
全 語 形,復
元 可 能,略
称,隠
語,短
縮 語,同
音衝 突
1.「手 タ レ」 「脚 タ レ」 に は驚 い た !―留 学 生 を 困 らせ る省 略 語― ネ イ ル―エ ナ メ ル(nail
ename1)で
爪 に 光 沢 や 色 を つ け美 しい 指 先 にす る こ
とを ネ イ ル―ペ イ ン テ ィ グ(nail painting)と
い う。 そ の 効 果 を歌 うた め の ポ ス
ター や パ ン フ レ ッ ト作 成 に活 躍 す る タ レ ン ト(talent)を い,略
「手 タ レ ン ト」 とい
して 「手 タ レ」 とい う。 「手 タ レ」 は 指 輪 や 腕 時 計 の 宣 伝 等 で も,な
く
て は な ら な い 存 在 の よ うで あ る 。 「彼 女 は 手 タ レで す 。」 とい う発 話 を 聞 い て理 解 で きる 日本 人 は 一 体 何 人 い る の だ ろ うか ? 心 密 か に 「手 練 の 間違 い で は ?」 と疑 っ て い た筆 者 が 正 解 に い た る に は 娘 た ち の 解 説 が 必 要 で あ っ た。 驚 い た こ とに,「 脚 タ レ」(「脚 タ レ ン ト」)と い う職 業 もあ る ら しい 。 ス カ ー トの 宣 伝,ス
トッキ ン グの 宣 伝,靴
の 宣 伝 で 活 躍 す る と い う こ とで あ る。
子 供 の タ レ ン トの こ とを 「じ ゃ りタ レ」 と い う業 界 用 語 もあ る ら しい 。 昭 和 の 歌 姫,大
ス ター 「美 空 ひ ば り」 は子 供 の 頃 か ら歌 に映 画 に と活 躍 して い た か
ら,初 代 「じゃ り タ レ」 で あ っ た とい う こ とに な る。 語 彙 は,世
の 中 の 動 きを 鋭 敏 に 反 映 す る。 「手 タ レ ン ト」 「脚 タ レ ン ト」 「じ
ゃ り タ レ ン ト」 な どは 一 時 代 前 に は 存 在 しな か っ た 。 筆 者 の よ う に,世 の 中 の 動 き に遅 れ が ち な 人 間 に は,完 全 語 形 で 表 現 さ れ て も理 解 しに くい 言 葉 で あ る が,こ
れ らが 省 略 され,「 手 タ レ」 「脚 タ レ」 「じ ゃ り タ レ」 とな る と 「一 体,
な ん の こ と ?」 と い う こ と に な る。 日本 語 で は,一 般 に 4音 節 を 超 え,5 音 節 以 上 に な る と短 縮 化 さ れ る 。特 に,
そ の 語 を 多 用 す る世 界 で は 4音 節 以 上 は不 便 とい うこ とで 短 縮 形,省
略語が使
用 され る 。 日本 語 を学 ぶ 留 学 生 た ち を 困 らせ る の は,カ
タカナ語 とこの省略語 である。
2.国 際 語 に な っ た省 略 語― 「Zengakuren」― 本 来 あ る は ず の 表 現 を,短 縮 して,表 現 し な い 語 を省 略 語(略
語),ま
たは
短 縮 語 と い う。 厳 密 に は 「本 来 あ る はず の 表 現 」 に復 元 可 能(recoverable)で あ る 場 合 に 限 っ て 省 略 語 とい い,本
来 の 語 形 と は違 っ た語 形 で 短 縮 され た もの
を短 縮 語 とい う。 本 来 の 語 形 に復 元 可 能 で あ る場 合 に は 省 略 語 と して 機 能 す るが,言
語知識 の
不 十 分 さ な ど か ら,省 略 語 と認 識 しな い で 使 用 して い る話 者 も少 な く な い。 そ の場 合 は,そ
の使 用 者 に とっ て は 省 略 語 で は な い 。
「お は よ う (ご ざ い ます 。)」
「こん に ち は(ご 機 嫌 い か が で ご ざい ます か ?)」 「さ よ う な ら(ば,別
れ よ う。)」
な どの 挨 拶 語 な どは,文 る が,多
の 一 部(後 部 省 略)に
よ り,一 語 と な っ た 省 略 語 で あ
くの 日本 人 は 省 略 語 とは 認 識 して い な い で 使 用 して い る 。
「警(察)官 「刑 事(警
」 察 任 務 警 察 官)」
「ま じ(め)」 「農(業)協(同 「全(日
本)学
組 合)」 ( 生 自治 会 総 ) 連(合)」
これ ら も,多 分,省
略 語 と理 解 して使 用 して い る 日本 人 は 少 数 派 で あ ろ う。
「全 学 連 」 に い た っ て は,組 織 内部 の 人 間 す ら完 全 語 形 に復 元 す る こ とが で き る か ど う か疑 問 と な る ほ どで あ る 。 「全 学 連 」 は 「Zengakuren」 の 語 形 で 国 際 的 に通 用 して い る。 外 国 人 に は 復 元 可 能 性 は ゼ ロ で あ る か ら,国 際 語 と して の 「Zengakuren」
は省 略語 では な
い 。
因 み に,「 農 協 」 も 「Nokyo」 いる。
の 形 で 国 際 語 に な り,海
外 ツ ア ー を楽 しん で
この よ う に,日 本 語 に は 省 略 語,省
略 表 現 が 多 過 ぎる く らい に あ り,そ の た
め 日本 人 自 身,省 略 語,省 略 表 現 と意 識 して い な い 場 合 が 多 い。
3.省 略 語 は 類 義 語 省 略 語 は本 来 の 語 形 の 類 義 語 と い う こ と に な る 。 語 形 が 異 な れ ば 必 ず 意 味 用 法 の 違 い が 存 在 す る 。 前 節 で 例 示 した もの につ い て 言 え ば,次 の よ うに な る。 警 察 官 =1954年
に 定 め られ た 警 察 法 の 規 定 に よ り警 察 庁 及 び 都 道 府 県 警 察
に 置 か れ,警
察 の 事 務 を 執 行 す る こ と を そ の 職 務 とす る 職 員 。 巡
査 ・巡 査 部 長 ・警 部 補 ・警 部 ・警 視 ・警 視 正 ・警 視 長 ・警 視 監 ・警 視 総 監 の 九 階 級 に 分 れ る。 こ れ らの 上 に 警 視 庁 長 官 が い るが 階級 名 で は な い。 ま た,巡 査 長 も階 級 名 で は な く,職 名 で あ る 。 「警 官 」 の 正 式 名 称 。 職 業 欄 に 記 入 す る場 合,「 警 官 」 「お 巡 り(さ ん)」 とは 書 か な い。 警 官 =「警 察 官 」 の 通 称 。 「巡 査 」 の 「巡 」 に 由 来 す る 「お 巡 り(さ ん)」 よ り も,厳 め しい が,「 警 察 官 」 よ り砕 け て い る 。 一 般 人,い
わゆ
る素 人 が 使 用 す る。 刑 事 警 察 任 務 警 察 官 =犯 罪 と刑 罰 に 関 す る事 件 を担 当す る 警 察 官 。 民 事 警 察 任務警 察官の対語。 刑 事 =刑 事 警 察 任 務 警 察 官 の 略 称 。 そ の う ち,特
に私服の捜 査員 の通称 。
巡 査 を 「デ カ」,巡 査 部 長 を 「部 長 刑 事 」 「デ カ長 」 な ど とい う。 ま じめ =真 剣 な 態 度 ・顔 つ き。 本 気 。 ま た,ま
ご こ ろが こ も っ て い る こ と 。
誠 実 な こ と。 ま じ =「ま じめ 」 の 略 。 「ま じ っす か ?」 な どの 形 で 若 者 が 多 用 す る。 相 槌 の 一 種 に 「ホ ン ト ?」 「ウ ソ !」 「ウ ッソ ー!」 な どが あ っ た が,こ れ ら に 代 わ っ て 使 用 され る 。 「ま じ ?」 の 疑 問形 と 「ま じ! 」 の 感 動 形 とが あ る。 省 略 語 は普 通 4音 節 以 上 の 語 に 由 来 す る が 「ま じ」 は 3音 節 の 「ま じめ」 に由 来 す る 点 で 特 殊 で あ る。 芸 能 界 の 隠語 と して 発 生 した た め で あ ろ う。 農 業 協 同 組 合 =1947年
に定 め られ た 農 業 協 同 組 合 法 に 基 づ き,農 民 を正
組 合 員 と し,組 合 員 の 事 業 また は生 活 に 必 要 な 信 用 ・販 売 ・購 買 ・ 共 同利 用 ・共 済 ・技 術 指 導 の 諸 事 業 を行 う協 同組 合 の 正 式 名 称 。 農 協 =「農 業 協 同組 合 」 の 略 称 。 「皆 の 農 協 」 の よ う に,日 常 語 と して 使 用 さ れ る 。 な お,ジ
エ ー ・エ ー 「JA」 は
「Japan Agriculture
cooperatives」 の 略 に よ り作 成 さ れ た もの で あ る が,1991年
の全 国
農 協 大 会 で 決 め られ た正 式 呼 称 で あ り,略 称 で は な い。 全 日本 学 生 自 治 会 総 連 合 =1948年,全
国145大
学 の 自治会 に よって結成 さ
れ,翌 年,プ
ラハ に本 部 を 置 く国 際 学 生 連 盟 に加 盟 した 。 朝 鮮 戦 争
反 対 運 動,学
園 民 主 化 運 動,日 米 安 全 保 障 条 約 改 定 反 対 闘 争(安 保
闘 争)等
の 中心 的 組 織 とな った 。 安 保 闘 争 敗 北 後 は,分 裂 状 態 で あ
っ た が,1968年
以 後 の 全 国 の 大 学 の 学 園 紛 争 に は,全
学共 闘会議
(全 共 闘)と い う形 態 の 闘 争組 織 を 生 み 出 した 。 全 学 連 =全 日本 学 生 自治 会 総 連 合 の略 称 。 渦 巻 きデ モ や ゲ バ 棒 で 有 名 。 正 式 名 称 が 全 日本 学 生 自治 会 総 連 合 で あ る こ と を知 らず に,一 般 人 が 使 用す る。
4.略 称 の 型 の はや り す た り 固 有 名 詞 の 場 合 は 省 略 語 とは 言 わ ず,特
に 略 称 と い うが,こ
の 場 合 に も本 来
の語 形 と略 称 との 間 に は 運 用 的 意 味 の 相 違 が 存 在 す る。 阪 東 妻 三 郎 =映 画 俳 優 。 本 名,田
村 伝 吉 。 東 京 生 れ 。11代 片 岡 仁 左 衛 門
に 師 事 。 剣 劇 俳 優 と して 成 功,自
ら阪 妻 プ ロ を創 立 。 「雄 呂
血 」 「無 法 松 の 一 生 」 「王 将 」 「破 れ 太 鼓 」 な ど で 主 演 。1901 ∼1953 。 阪
妻=「
あ の , 阪 東 妻 三 郎 」 「有 名 な 阪 東 妻 三 郎 」
古 くは 「阪 妻 」 の ほ か,「 嵐 寛 十 郎 」 の 「ア ラ カ ン」,「榎 本 健 一 」 の 「エ ノ ケ ン」 な ど,中 抜 き後 略 型 の略 称 を有 す る俳 優 が い た が,今
日で は そ うい う存
在 は少 な くな っ て い る。 「キ ム タ ク(木 村 拓 哉)」 く らい で あ ろ うか 。 「マ ツ ケ ン(松 平 健)」 も あ る が,こ
の 場 合,「 ケ ン」 が 完 全 語 形 と 同 一 で あ る の で,
中抜 き型 で 別 型 と な る。 ジ ャ ズ マ ンの サ キ ソ フ ォ ン奏 者 「ナ ベ サ ダ(渡 辺 貞 夫)」 は 前 後 省 略 型 で 隠
語 的 で あ る。 「明 石 家 さ ん ま」 は 「サ ン マ 」,「北 野 武 」 は 「タケ シ」,「北 島 三 郎 」 は 「サ ブ ヤ ン」,「萩 本 欣 一 」 は 「キ ンチ ャ ン」 な ど と愛 称 で 呼 称 され,中
抜 き後 略 型
の略 称 で は な い。 江 戸 時 代 「紀 文 」 と い う大 尽 が い た。 「紀 文 」 とは 「紀 伊 国 屋 文 左 衛 門」 の こ とで あ る。 有 名 な 料 亭 「八 百 善 」 は亭 主 「八 百 屋 善 四 郎 」 の略 称 に 由 来 す る 。 中抜 き後 略 型 の 略 称 は江 戸 時 代 に 多 用 さ れ た 型 で,「 バ ンツ マ ・ア ラ カ ン ・エ ノ ケ ン」 な ど は,そ の 流 れ を 汲 ん だ もの で あ ろ う。
5. 省略語 の型 省 略 語 に は次 の五 つ の 型 が あ る。 a 前 部 省 略:(ア
ル)バ
イ ト (プ ラ ッ ト)ホ ー ム (メ ルセ デ ス)ベ
(友)達
(い
な)か
っ ぺ (横)浜
ンツ っ 子
(麻)薬 (警)察 ( 被 ) 害者 (千秋)楽 b 中 部 省 略 : 警(察)官 c 後 部 省 略:テ
高(等 学)校
レ ビ(ジ
ボ ケ(ッ
ョ ン) コ ン ピュ ー タ(ー)
ン フ レ(ー
シ ョ ン) 首 都 高(速
シ ョン)
母(艦)
e 中 後 省 略:原(子)爆(弾) 宇(都
ス ト(ラ イ キ) イ
道 路) 省 エ ネ (ル ギ ー )
脱 サ ラ(リ ー マ ン) リス トラ(ク d 前 後 省 略:(航)空
ト)ベ ル
入
(学 ) 試(験)
家(庭)教(師)
宮)大(学)
う な (ぎ) どん(ぶ オ(ー)ケ(ス
り) もろ(み)き
トラ) リモ(ー
ゅ う (り)
ト)コ ン(ト
ロー ル)
aは,前 半 の音 節 が 省 略 さ れ て い て,完 全 語 形 が 隠 され や す く,隠 語 的 要 素 が 強 い。 b,c は,省 略 語 と して 意 識 しに く く,一 般 語 彙 化 しや す い 。 子 供 に と っ て 「テ レ ビ」 は 「ラ ジ オ 」 と 同様 に 完 全 語 形 で あ る。 dは,戦 略 上 意 図 的 に使 用 され た もの で,最 初 か ら隠 語 で あ る。 戦 車 が,気 体 ・液 体 を収 容 す る 密 閉 容 器 を 意 味 す る 「タ ン ク (tank) 」 と呼 称 され た の と
同 一の心理 である。使用者 には仲間 意識が生 まれる。 eは 前 節 で 述 べ た 「中抜 き後 略 」 型 で あ る。 一 般 語 彙 で は 活 発 に使 用 され て い る。
6 .短 縮 語 に つ い て― 同 音 衝 突 の弊 害,ア
メ リ カ も朝 日 もA―
語 形 は 省 略 手 法 に よ り短 縮 され 省 略 語 的 で あ る が,音 る もの と し て造 語 され るの で,略
形 は 本 来 の語 とは 異 な
語で はない。
中 後 省 略 :名 古 屋 大 学 → 名大(関
東 で は,明 治 大 学 の略 称 明 大 が あ り,同 音
衝 突 とな る。) 金 沢 大 学 → 金 大(関
西 で は,近 畿 大 学 の 略 称 近 大 が あ り,同 音衝
突 とな る 。) 宇 都 宮 高 等 学 校 → 宇 高(宇 都 宮 工 業 高 等 学 校 の 略 称宇 工 と区 別す る た め 。) フ ァー レ ンハ イ ト(人 名)→ 字 音)温
華 倫 海(中
国 語 音 訳)→
華 氏(日
本
度
セ ル シウ ス(人 名)→ 摂 爾 修 斯(中 国 語 音 訳)→ 摂 氏(日 本 字 音) 温度 華氏 摂 氏 とあ るが,華
・摂 は 姓 で は な い。 これ らは 漢 字 を媒 介 と した短 縮 語
の典型で ある。 また,頭
文 字 を連 続 させ て 一 語 と した もの も,短 縮 語 に 属 す る 。
ペ ッ ト ・ボ
ト ル の ペ ッ ト PET=polyethylene
エ イ ズ ユ ー
・エ ス
・エ ー
terephthalate
AIDS=acquired
immuno
U.S.A.=United
States
deficiency
syndorome
of America
頭 文 字 を 連 続 さ せ て 一 語 と な る 短 縮 語 は,基
準 と な る 完 全 語 形 を一義 的 に 特
定 し な い の で,同
達 に 支 障 を 来す 場 合 が あ る。
エ イ ズ
音 異 義 語 を 多 数 生 み 出 し,伝 AIDS=①Acquired
immunodeficiency
②airtcraft integrated
syndorome 免疫不全症候 群
data system
飛 行 記 録 集 積 装 置 ビー
・エ ー
BA=①British
Airways
②banker's シー
・ア イ
・イ ー
CIE=①Civil
英 国 航 空
acceptance Information
and
銀 行 引 受 手形 Education
民 間 情 報 教 育 局
②Commission
Internationale
de
エー
・ビ ー
・シ ー
ABC=①American
Broadcasting
②Asahi エ ム
・イ ー
ME=①micro ②medical
国際 照 明 委 員 会
Co.
ア メ リ カ放 送 会社
Co.
朝 日放 送
electronics
これ らは,普 通,国
Broadcasting
I'Eclairage
極 微 細 電 子 回 路
engineering
医 用 工 学
語 辞 書 に は記 載 され て い な い とい う こ と もあ り,留 学 生
に と っ て は 難 問 中 の 難 問 と な っ て い る。
■ 発展問題 (1)次 の 省 略 語 の 完 全 語 形 を 調 べ て み よ う。
A 「コ ン」 合 コ ン シ ネ コ ン ゼ ネ コ ン パ ソ コ ン バ リ コ ン フ ァ ミ コ ン ボ デ ィ コ ン マ イ コ ン ラ ジ コ ン リモ コ ン ロ リ コ ン B 「プ ロ 」 ゲ ネ プ ロ サ ス プ ロ セ ミ プ ロ ノ ン プ ロ プ ロ レ ス プ ロ 野 球 堀 プ ロ ワ ー プ ロ C 「ス ト」 エ ンス ト ゼ ネ ス ト ハ ンス ト パ ンス ト 山 猫 ス ト
(2)次 の 省 略 語 の 完 全 語 形 を 調 べ て み よ う 。 ①a.m.∼p.m.
②AM
③CM
④DM
⑤FM
⑤GM
⑥ICBM
⑦ppm
(3)次 の大 学 の略 称 を調べ,そ れ らが どの型 の省略語,短 縮語 か 考 えて み よ う。 ① 北 海道大 学
② 東 京大学
③ 東 北大学
④ 山形大学
⑤ 山梨大 学
⑥ 山口大学
⑦ 福 島大学
⑧ 福 井大 学
⑨ 福 岡大学
⑩ 大 阪大学
⑪ 大 阪府 立大学
⑫ 大 分大学
⑬明 治大 学
⑭ 明 治学 院大学
⑮ 明星 大学
(4)次 のそれ ぞ れの語 は省略 語 か,短 縮語 が判 定 しなさい。 ① 外 為 ② 外車 ③ マス コ ミ
④NHK
⑤JR
⑥ 特 急 ⑦ 国体
■ 参考 文献 1)林 大 「 語 彙 」(『講 座 現 代 国 語学 「こ とば の 体 系 』(筑 摩 書房,1957) 2)奥 津 敬 一郎 「省 略」(国 語学 会 編 『国語 学 大 辞典 』 東 京 堂 出版,1980) 3)川 本 栄 一郎 「略 語」(佐 藤喜 代 治編 『 国 語 学研 究 事 典 』 明 治書 院,1977) 4)西 尾寅 弥 「 略 語 の構 造 」(『現 代 語彙 の研 究 』 明治 書 院,1988) 5)石 野博 史 「 略 語 ・略 記 法 」(金 田一 春 彦 ・林 大 ・柴 田 武編 集 責任 『日本 語 百科 大事 典 』 大 修館 書 店,1988) 6)亀 井 孝 ・河 野六 郎 ・千野 栄 一編 『 言 語 学 大辞 典 6 術 語編 』(三 省 堂,1996) 7)小 池清 治 「 省 略 表現 」(小 池 清 治 ・小林 賢次 ・細 川英 雄 ・山 口佳 也編 『日本 語 表 現 ・文 型 事典 』 朝 倉 書 店,2002)
索
引
か 行 【事
項 】
あ 行
語 1 語彙 5
「‐か 」 型 128
相 の―
格 言 156,163
体 の―
1,5,68
1,5,87,146
1,5,80
可 数 名 詞 128,131
用 の―
-ai型 形 容 詞 87,94
関係 語 彙 1,5
語 彙 史 87,128
挨 拶 114
漢 語 系 数 量 語 彙 130
語 彙 的 意 味 区 分 68
曖 昧 性 8
漢 語 系 数 量 表 現 128,130
語 彙 的 意 味 体 系 68
ア ク セ ン ト 1
感 情 形 容 詞 87,90
語 彙 表 68,75
ア ク セ ン ト変化 17,20,21
感 情 的 意 味 1
合 成 語 17,19,128,130
ア系 58
感性 語 彙 1,5,98
後 置 比 喩 指 標 146,150
ア スペ ク ト 98,99
完 全 語 形 166,167
後 部 省 略 170
ア ナ タ系 55,64
喚 喩 146
鉱 物 語 彙 79
「あ の 」 系 の 表 現 形 式 120
慣 用 句 156,157
コ系 58
ア ン トニ ム 8
慣 用 表 現 156
語 構 成 17,19
暗 喩 146
語 構 造 8,17,22 擬 音 語 98
故 事 成 句 156,163
「い か に 」 系 の 表 現 形 式 124
擬 人 法 146
コ ソ ア ド語 55
依 拠 格 補 足 81
起 点 格 補足 81
古 代 語 形 87,93
意 味 8
擬 物 法 146
言 葉 読 み 17
意 味 属 性 27,33,41,43,44,55
金 言 156,163
こ とわ ざ 156,163
意 味 特 性 27
近 称 58
コナ タ系 55,64
隠 語 166,170,146
近 世 語 形 87
語 分 節 17,23
隠 喩 的 慣 用 句 156,161
近 接 語 8,12
固 有 名 彙 27
近 代 語 形 87,94
固 有 名 彙 変 転 の レ トリ ッ ク
-ei型 形 容 詞 87,93
27,39
遠 称 58
ク活 率 87,88
-oi型 形 容 詞 7,95
形 状 形 容 詞 87,91
オ ク シモ ロ ン 8,13
形 態 素 17,19
男女 9
形 容 詞 慣 用 句 156,160
残 存 率 87
オ ノマ トペ 98
形 容 詞 語 彙 87,88
三 人 称 人 称 代 名 彙 50
音 感 98
言語形式 1
音節 1
言 語 内容 1
女男 9
現 場 喚 起 性 98
恣 意性 27,34
現 場 指 示 55,56,64
指 示 彙 55
固 有 名 詞 27 ―の 体 系 27 さ 行
―の 誕 生 41
―の体 系 55
総 合 語 彙 1,5,114
動 詞 慣 用 句 156,160
指 示 機 能 1,27,28
相 の 語 彙 1,5,87,146
動 詞 語 彙 87
指 示 詞 55
ソ系 58
撞 着 語 法 8,13
指 示 的 意 味 1,2
ソナ タ系 55,64
動 物 語 彙 79
自然 語 彙 68 た 行
シ ノニ ム 8
時 枝(誠
記)文
法 43
時 枝 文 法 41
修 飾 17
対 格 補 足 81
修飾 型 複 合 80
対 義 結 合 8,13
匿 名 性 46
修飾 構 造 22
対義 語 8
主格 補 足 81
対 極 語 8,9
主述 17
待 遇 114,115
名付 け 29
主述 構 造 22
体 の語 彙 1,5,68
難 訓姓
使 用 比 率 75
対比 語 8,11,12
難 訓 名 38
省 略 語 166
濁 音 化 17,20
植 物 語 彙 79
畳 語 17,19
助 数 詞 130
喩 え られ る も の 146,150
処 世 訓 156,163
喩 え る もの 146,150
所 属 関 係 27,29
多 様 性 34
人 称 代 名 彙 用 法 55 人 称 代 名 詞 41
な 行 「な う」 系 の表 現 形 式 121
38
人 称 代 名 彙 41,43,46 ―の 体 系 性 と文 法 性 41 ―の 匿 名 性 41,44
自立 形 態 素 17,19
「-た り」 型 128
箴 言 156,163
単 語 1,2
心 象 ス ケ ッチ 68,100
単 語論 1
身 体 感 覚 性 98
短 縮 語 166,171
橋 本(進
神代 文 字 130
単 純語
橋 本 文 法 27
17,19
真 の不 定 称 55,56
は 行 吉)文
法 27,43
派 生I 型複 合 80
人物 呼 称 47
中 後 省 略 170,171
派 生 語 17,19,156,159
人物 呼 称 不 転 換 の レ トリ ッ ク
中 称 58
派 生Ⅱ 型 複 合 80
中 部 省 略 170
反 意 性 8,9
聴 覚 イ メ ー ジ 28
半陰陽 9
直 喩 146,150
反 対 語 8,9
直 喩 的 慣 用 句 156,161
半 濁 音 化 17,20
41,43 人名 表 記 27,34
数 量 語 彙 128 数 量 接 頭 辞 128,130 数 量 接 尾 辞 128,130
―の 型 150
反 復 慣 用 句 156,162
直 喩 予 告 副 詞 146,149
数 量 名 詞 128,130
被 覆 形 156,159 「 -っ 」 型 128
比喩 指標
150
成 句 156,157
対句 8
比喩 表 現 146
精 神 的 階梯 79
対語 8,11
表現 形 式 114,116
接 続 型 複 合 80
標識 機 能 1,27,28
接 頭 辞 17,20
提喩 146
接 尾 辞 17,20
転成 114,120
前 後 省 略 170
復元 可 能 166,167 複合 語 17,19,156,159
前 置 比 喩 指 標 146,150
同音 衝 突 87,94,,166,171
複合 助 詞 156,159
前 部 省 略 170
道具 格 補 足 81
複合 助 動 詞 156,159
司語 反 復 型 慣 用 表 現 156,162
複合 動 詞 80,156,159
―の 五 分 類 81
ら 行
複 合 名 詞 159
personification
付 属 形 態 素 17,19,128,130
「-り 」 型
ふ た な り 9
略 語 166
synecdoche
不 読 文 字 17,18
略 称 166,168,169
word
文 化 的 行 動 パ ター ン 114
両 極 語 8,9
128
146
recoverable simile
167
146 146
1,2
【 人 名 】
文 体 的 意 味 1,3 文 法 的 意 味 1,3
類 概 念 28
文 法 的 カ テ ゴ リー 55
類 義 語 8
文 脈 指 示 55,56
類 似 語 8,12
あ 行
類 似 点 146,150
赤 羽 根 義 章 6,54
並 立 17
類 標 識 130
芥 川 龍 之 介 152
並 立 構 造 22
類 標 識助 数詞 128
浅 野 鶴 子 113 飛 鳥 博 臣 165
母 音 変 化 17,21
レ トリ ック 39
尼 ケ崎 彬 154,155 天 沼 寧 113
補 助 17
連 語 156,157
補 助 構 造 22
連 語 形 容 詞 156,158
補 足 17
連 語 形 容 動 詞 156,158
飯 田 朝 子 145
補 足 型 複 合 80
連 語 助 詞 156,158
池 上 嘉 彦 6,9,16,39
補 足 構 造 22
連 語 助 動 詞 156,158
池 田 廣 司 127
連 語 接 続 詞 158
池 原 悟 39
連 語 的 観 点 68,76
池 村 奈 代 美 97
連 語 動 詞 156,158
石 井 正 彦 26,86
連 語 副 詞 156,158
石 崎 等 40
連 語 名 詞 156,158
石 野 博 史 173
連 語 連 体 詞 156,158
石 原 千 秋 40
連 声 17,20
伊 藤 一 重 97
ま 行 見 掛 け の 不 定 称 55,56
ム ー ド 98,99
名 詞 語 彙 87 命 名 27,32
犬 飼 隆 39
わ 行
明 喩 146,150
井 上 ひ さ し 154
和 語 系 数 量 語 彙 130 「申」 系 の表 現 形 式 117
内 田 百〓 31,36,40,145
「物 申」 「案 内 申」 系 の 表 現 形 式 116
岩 淵 匡 97
和 語 系 数 量 表 現 128,130
「ゑ い」 系 の 表現 形式 123
文 字 読 み 17
欧 文
や 行 antonymy
NTTコ
ミュ ニ ケ ー シ ョ ン科 学 研 究 所 33,39,79
9
「や あ 」 系 の 表 現 形 式 122
auxiliary numeral
「や い 」 系 の 表 現 形 式 122
classifier
128
128
countable‐noun
用 の語 彙 1,5,80
1exicon‐item
予告 副 詞 146
metaphor
呼 びか け語 彙 114
metonymy
呼 びか け の場 面 114,115
opposite
146 9
大 蔵 虎 政 115 128,131 1,2
146
大 岩 川嫩 40
大 蔵 虎 明 115 大 倉 浩 97 大 塚 光 信 97 大 坪 喜 子 165 大 野 晋 66,87,97
奥 津敬 一郎 145,173
近 藤 政 美 97
苧 阪直 行 113
か 行
さ 行 斎 賀 秀 夫 25
築 島 裕 54 千 野 栄 一 6,39,173 チ ャ ン ・テ ィ ・チ ュ ン ・ ト ア ン
86
鏡 見明 克 39
サ イ デ ンス テ ィ ッ カー 41
影 山太 郎 26,86
斎 藤 倫 明 25,86
筒 井 康 隆 39,40,44,54
金水 敏 66,67
佐 伯 梅 友 145
津 藤 千 鶴 子 97
樺 島忠 夫 6,91,97
酒 井 恵 美子 145
亀 井俊 介 16
阪 倉 篤 義 6,25,66
亀 井 孝 6,39,173
佐 久 間 鼎 56,66
出 口 顕 40
柄 谷行 人 16,40
迫 田 久 美 子 67
寺 村 秀 夫 86
川 瀬一馬 79
佐 藤 喜 代 治 54
照 井 寛 子 127
川端 康 成 41,152
佐 藤 信 夫 154
河 原修 一 79,113,127
志 田 延 義 97
土 井 忠 生 145
川 本栄 一 25
柴 田 武 6
東 郷 吉 男 165
川 本栄 一 郎 173
寿 岳 章 子 39
東 野 治 之 97
ジ ョア ン =ロ ドリゲ ス 136
時 枝 誠 記 145
北 原保 雄 7,97,127
白 石 大 二 165
時 枝 誠 記 54
木 下正 俊 97
進 藤 義 治 97
徳川宗賢 7
木 下 守 39
靏岡 昭 夫 97
利 沢 行 夫 154
キ ロ ワ ・ス ベ トラ 165
須 賀 一 好 86
近世 文 学 総 索 引編 纂 委 員 会 97
鈴 木 孝 夫 6,54
近代 作 家 用 語 研 究 会 97,154
鈴 木 英 夫 54
な 行 永 井 和 子 145 長 嶋 善 郎 86
金 田一 春 彦 97,113 清 少 納 言 128
中 村 明 93,97,152,154,165
國廣 哲 彌 6,16,112,165
正 保 勇 66
夏 目 漱 石 13,29,36,40,44,46,
久野 暲 66
関 一 雄 86
桑 原幹 夫 113 桑 山俊 彦 97
ソ シ ュ ー ル 98,112
た 行
見坊豪紀 86
高 梨 敏 子 97 小 池 清 治 16,39,54,67,155, 165,173
65,92 南 場 尚 子 86
西 尾寅 弥 145,165,173 西 下経 一 145 21世 紀 研 究 会 40
高橋太郎 6 滝 沢 貞 夫 145
野 口 武 彦 54
香 西 秀 信 155
田 窪 行 則 67
野村 雅 昭 7,25
河野 六 郎 6,39,173
武 部 良 明 86
小 島俊 夫 54
太宰治 8
小 島憲 之 97
田 島毓 堂 7
芳 賀 徹 16
こ とば 探 偵 団 145
田 中 章 夫 9,16,26,54
橋 本 進 吉 54
小 林 賢 次 39,54,67,165
田 中 克 彦 40
橋 本 萬 太 郎 145
小 林 俊 子 79
田 中 重 太 郎 145
林 巨樹 6
小 松 睦 子 145
玉 村 文 郎 86
林 翠 芳 86
小 森 陽 一 16
田 守 育 啓 112
林 大 6,173
は 行
原 子 朗 79
や 行
春 木 仁 孝 67
か 行
半 澤 幹 一 155
山 口 翼 16
薤露 行 92
半 藤 一 利 40
山 口佳 紀 7,25
数 え方 の事 典 145
山 口佳 也 54,67,165
か ら だ こ と ば 辞 典 165
樋 口 一 葉 92
山 田孝 雄 54,145
雁 65
姫 野 昌 子 86
山 梨 正 明 155
閑 吟 集 総 索 引 97
平 田 篤 胤 130
山 本 清 隆 86
贋 作 吾 輩 は猫 で あ る 31,36,40
福 永 武 彦 93
湯 沢 幸 吉 郎 54
感 性 の こ と ば を研 究 す る 113
吉 澤 義 則 145
慣 用 句 の 意 味 と用 法 165
感 情 表 現 辞 典 93,97 プ ラ トン 112 文化 庁 165
神 字 日文 伝 130
吉 見 孝 夫 97 細 川 英 雄 39,54,67,97,165
ま 行
基 礎 日本 語 辞 典 6
ロ ドリゲ ス 136
狂 言 記 の研 究 下 翻 字 篇 索 引 篇 97
わ 行
前 田 富祺 6,7,79 町 田 健 145
擬 音 語 ・擬 態 語 辞 典 113
ら 行
堀 口 和 吉 66,67
狂 言 之 本 115
渡 辺 直 己 155
キ リシタン版エソポのハブ ラス
町 田 康 164
私 注 97
【 書 名 】
松 尾 聡 145 松 本 脩 作 40
金 田 一 博 士 古 希 記 念言 語 ・民 族
あ 行
丸 谷 才 一 93,154
きれ ぎれ 164
論 叢 86 朝 倉 日本 語 講 座 4 語 彙 ・意 味
三 上 章 66 三 島 由 紀 夫 80
16,25
虞 美 人 草 47,92
天 草 版 平 家 物 語 総 索 引 97
耳 野紀 久 代 97 宮 沢 賢 治 68,100
112
宮 地敦 子 16,145
伊 豆 の 踊 子 41 一 般 言 語 学 講義 98
宮 島達 夫 6,25,79
意 味 論 6,9,16,39
宮 島達 雄 88,97
意 味 論 の 方 法 16
宮 地 裕 25,165
岩 波 講 座 日本 語 9 語 彙 と 意
,112
味 6,25 村 上 昭 子 127 村 上 春 樹 146,154
森 岡 健 二 16 森 田 良 行 6,86,127,155,165 森 山 卓郎 86
7,25,155 ケ ー ス ス タデ ィ 日本 語 の 文 章 ・ 談 話 155 言 語 学 大 辞 典6 6
173 源 氏 物 語 87
大蔵 虎 明 本 狂 言 集 ・総 索 引 127
森 〓 外 65,92
ケ ー ス ス タデ ィ 日本 語 の 語 彙
言 語 学 大 辞 典 6 術 語 編 39,
江戸言葉の研究 54
村 木 新 次 郎 7,16,165 紫 式 部 129
ク ラ テ ユ ロ ス テ ア イテ トス
大蔵 虎 明 本 狂 言 集 の 研 究 ・本 文 篇 127 オノ マ トペ 擬 音 ・擬 態 語 をた の しむ 112
源氏物語形容詞類語彙の研究 97 現 代 語 彙 の 研 究 173 現 代 語 法 新 説 66 現代雑 誌九十種の用語用字 第 3分 冊 86 現 代 日本 語 の 表 現 と語 法 66
語 彙 研 究 の課 題 7 語 彙 の 研 究 と教 育(下)
さ 行
86
徒然草総索 引 145
語 彙 論 研 究 79
笹 ま くら 93
東京語―その成立 と展開― 54
後 期 江 戸 こ と ばの 敬 語 の体 系
作 家 の詩 神 113
徳川時代言語の研 究 54
54
三 四 郎 48,92
講 座 現 代 国 語 学Ⅱ こ と ば の体 系 25,173
夏 目漱 石 10・11
講 座 現 代 国 語 学Ⅲ こ とば の 変 化 97 講座 日本 語 1 39 講座 日本 語 教 育,第14分
な 行
三 人 称 の 発 見 ま で 54
冊
86 講 座 日 本 語 と 日本 語 教 育 4巻 日 本語 の 文 法 ・文 体(上) 66 講 座 日本 語 と 日本 語 教 育 6 日
自家 製 文 章 読 本 154 指 示 詞 67
名 前 と 人 間 40
知 っ て る よ うで 知 らな い もの
名 前 の ア ル ケ オ ロ ジー 40
の 数 え 方 145
シ ンポ ジ ウ ム 日本 語 3 日本語 の 意 味 ・語 彙 6
26
講 座 日本 語 の 語 彙 1 語 彙 原 論 6 講座 日本 語 の 表 現 8 日本 語 の
日本 語 学 キ ー ワ ー ド事 典 6, 39,145
新 宮 澤 賢 治 語 彙 辞 典 79
日本 語 教 育 事 典 86
人 名 の世 界 地 図 40
日本 国 語 大 辞 典 2 97 日本 語 語 彙 大 系 1 意味 体 系
鈴木孝夫著作集 1 54
本 語 の 語 彙 ・意 味(上)
講 座 日本 語 の 語 彙 1 25,79
奈 良 朝 文 法 史 54
身心 語 彙 の 史 的研 究 16
本 語 の語 彙 ・意 味 6 講 座 日本 語 と 日本 語 教 育 6 日
154
夏 目漱 石 テ クス トの深 層 40
33,39,79 日 本語 講 座 4 日本 語 の 語 彙 と
醒睡笑静嘉堂文庫蔵 索引編 97
表現 86 日本 語 探 検 91,97
青 年 65
日本 古 典 文 学 大 系 中世 近 世 歌
接 続 詞 ・感 動 詞 127 戦 略 と して の 隠 喩 154
レ トリ ッ ク 154
謡 集 97 日本 語 動 詞 述 語 文 の 研 究 86 日本 語 と 日本 語 教 育 25
行 人 92
漱 石 先 生 が や っ て 来 た 40
日本 語 の イ デ ィオ ム 165
構 造 的 意 味 論 16
漱 石 を よむ 16
日本 語 の 指 示 詞 66
古今 集 総 索 引 145
増 訂 古 辞 書 の研 究 79
日本 語 の シ ン タ クス と意 味Ⅱ
古 今 和 歌 集 145
そ れ か ら 92
国語 科 学 講 座Ⅳ 国 語学 54
た 行
国語 学 研 究 事 典 6,25,54,145, 173
対 義 語 の 性 格 16
86 日本 語 の 発 想-語
源 ・イデ ィ オ
ム 165 日本 語 の 複 合 動 詞 ハ ン ドブ ッ ク
国語学研究法 7
第 三 世 界 の姓 名 40
国 語 学 大 辞 典 6,25,,145,173
た け くらべ 92
日本 語 の 文 法 を考 え る 66
国 語慣 用 句 大 辞 典 165
た け く らべ 総 索 引 97
日本 語 百科 大 事 典 6,173
国 語 語 彙 論 16,26
探 求Ⅱ 40
日本 語 表現 ・文 型 事 典 54,67,
語 源 ・慣 用 語 165
近 松 門左 衛 門 97
日本 語 ブ ル ガ リア 語 の 慣 用 句 こ
語構 成 の研 究 25
中 間 言 語研 究― 日本 語 学 習 者 に
国 語 複 合 動 詞 86
155,165,173
語 誌Ⅲ 127
よ る 指 示 詞 コ ・ソ ・ア の 習
古 典対 照 語 い 表 88,97
得 67
こ と ば と 身体 155 こ と ば の知 識 百 科 155
86
と わ ざ辞 典 165 日本 語 文 法 セ ル フマ ス ター シ リ ー ズ 4 指 示 詞 67 日本 語 レ ト リ ッ クの 体 系 154
徒然草 87
日本 人 の 名 前 39
日本 大 百 科 全 書 12 145
文 法 と語 形 成 26
日本 大 文 典 136
文 法 と語 構 成 86
日本 の レ トリ ック 154
夢 の 木 坂 分 岐 点 39,40
日本 文 法 口 語 篇 54
平 安 時 代 語 新 論 54
日本 文 法研 究 66
平安 朝 文 法 史 54
日本 文 法 の 話 66
平 家 物 語 総 索 引 97
日本 文 法 論 145
平 家物 語 の 語 法 54
人 間 失格 8
は 行
類 聚 名 義 抄 87
本 気 で 作 家 に な りた け れ ば漱 石 に 学 べ!
155
レ トリ ッ ク認 識 154
舞姫 65,92
ロ ドリゲ ス 日本 大 文 典 145
万葉 集 87
論 集 日本 文 学 日本 語 66
百 鬼 園先 生 言 行 録 143,145
倫 敦 塔 66 三上 章小 論 集 66
比 喩 表 現 辞 典 154
道草 49
比 喩 表現 の 理 論 と分 類 152,
宮 沢 賢 治― 風 を織 る 言 葉― 79
154 室 町 時 代 言 語 の研 究 54
詞 ・代 名 詞 145
わ 行 吾 輩 は 猫 で あ る 29,36,40 欧 文 The Izu Dancer 41 明暗 13,46,66 複 合 語 の 構 造 と シ ン タ ク ス 86 複 合 動 詞 の構 造 と意 味 用 法 86
森〓 外 三 154
文 章 読 本 154
門 49,92
文 法 探 究 法 54
ロ ー トレ ッ ク荘 事 件 44
枕 草 子 87,128
比 喩 と理 解 155
品 詞 別 日本 文 法 講 座 2 名
レ トリ ッ ク感 覚 154
ま 行 春 と 修羅 68,100
彼 岸 過 迄 50,66
羅 生 門 152
ラス 16
坊 っ ち ゃん 44
廃 市 93
般 若心 経 15
ら 行
類 語 検 索 大 辞 典 日本 語 シ ソ ー 豊饒 の 海 80
ノ ル ウ ェ イの 森 146,154
や 行
MEMO
著者略歴
小池清 治
河
1941年 東 京都 に生 まれ る 1971年 東京 教育 大学大学 院博士 課程 単位 習得 退学 1971年 フェ リス女学院大 学専任 講師 1976年 宇都 宮大学 教育学 部助教 授 1993年 宇都宮 大学 教育学 部教授 現 在 宇都 宮大学 国際学 部教授
1949年 1986年 1993年 現 在
原
修
一
広 島に生 まれ る 宇都 宮大学 大学 院修 士課 程修 了 島根 県立 島根女 子短 期大学 助教授 島根 県立 島根女 子短 期大学 教授
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉4
語彙 探 究法 2005年
3月25日
定価 は カバ ー に表示
初 版 第 1刷
著 者 小
池
清
治
河
原
修
一
発行者 朝
倉
邦
造
発行所
株式 会社
朝
倉
書
店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町6‐29 郵 便 電 FAX
〈検 印 省 略 〉
4‐254‐51504‐9
号
162‐8707
03(3260)0180
http://www.asakura.co.jp
〓2005〈 無断 複写 ・転載 を禁ず〉 ISBN
番
話 03(3260)0141
C3381
教文 堂・渡 辺製 本
Printed in Japan
宇都宮大 小 池清治著
基
礎
本 文 で 基 礎 的 文 法 知 識 を 説 明 し,「 演 習 」「発 展 」な どの 項 目で,文 学 読 解 に 役 立 て る た め の 知 識 と 方
古
典
51016-0 C3081
A5判
文
前筑波大 北 原保 雄監修
法
168頁 本 体2600円
東北大 斎藤倫明編
朝倉 日本語講座 4
語
彙・
意
51514-6 C3381
A5判
前筑波大 北原保雄 監修
味
304頁 本 体4400円
東大 上 野善道 編
朝倉 日本語講座 3
音
声
・
51513-8 C3381
音
A5判
韻
304頁 本 体4600円
前大阪教育大 中 西一 弘 ・信州大 堀 井 謙 一 編
A5判
184頁 本 体2700円
神戸女大 前 田富 棋 ・早大 野 村 雅 昭 編 朝倉漢字講座 1
漢
字
と
51531-6 C3381
日 A5判
本
語
280頁 本 体4800円
神戸女大 前 田 富 棋 ・早大 野 村 雅 昭 編 朝倉漢字講座 3
現
代
の
51533-2 C3381
漢
A5判
字
264頁 本 体4800円
神戸女大 前 田富祺 ・早大 野 村 雅 昭 編 朝倉 漢 字 講 座 5
漢
字
の
51535-9 C3381
未
A5判
来
264頁 本 体4800円
前東北大 佐藤 武義 編著
概説 日
本
語
51019-5 C3081
の
A5判
歴
史
264頁 本 体2900円
前筑波大 北原保雄 編著
概説 日
A5判
語 184頁 本 体2700円
佐 田 智 明 ・藤 井 茂 利 ・山 口康 子 ・福 田益 和 ・ 添 田 建 治 郎 ・田尻 英三 著
新
し
51013-6 C3081
い
語 彙 ・意味についての諸論 を展開 し最新 の研究成 果 を平易に論述。 〔 内容 〕 語彙研究 の展 開/語彙の 量的性 格/意味体系/語種/語構成/位 相 と位相 語/ 語義の構造/語彙 と文法/語彙 と文 章/対照 語 彙論 /語彙史/語彙研究史 〔 内容〕(現代 日本語の)音声/ ( 現 代 日本語の)音韻 とその機 能/音韻史/ア クセ ン トの体 系 と仕組み / ア クセン トの変遷/イ ン トネー シ ョン/ 音韻 を 計 る/ 音声現象の 多様性/音声の生理/音 声の物 理/海外 の音韻理論 /音韻研 究の動向 と展望 /他
説 。 〔内 容 〕気 楽 に ち ょ っ と/ 短 い 文 章(二 百 字 作 文)を 書 い て み よ う/ 書 く生 活 を 広 げ て / 小 論 文 の 練 習 / お話 を作 っ て/ 随 筆 の こ ころ み / 他
中国 で生 まれ た漢字 が 日本 で如何 に受容 され 日本 文化 を育 んできたか総合的 に解説 〔 内容 〕 漢字文 化 圏の成立/漢字の受容/漢字 か ら仮名へ/ あて字 /国字/漢字 と送 り仮名/ ふ り仮 名/漢字 と語 彙 /漢字 と文章/字書 と漢字/ 日本語 と漢字政策 漢字は長 い歴史 を経 て日本語 に定 着 してい る。 本 巻 では現代の諸分野 での漢字使用 の実態 を分析。 〔内容)文学 と漢字/マ ンガの漢字/ 広告の漢字/ 若者 と漢字/書道 と漢字/漢字 のデザイ ン/ ルビ と漢字/地名 と漢字/ 人名 と漢字/ 漢字の クイズ 情 報化社会の中で漢字文化圏 での漢字の役割 を解 説。 〔 内容〕情報化社会 と漢字/ インター ネ ッ トと 漢 字/ 多文字社会の可能性/現代 中国の漢字/韓 国の漢字/東南ア ジアの漢字/ 出版文化 と漢字/ こ とばの差別 と漢字/漢字に未来 はあるか 日本 語 の 歴 史 を学 ぶ 学 生 の た め の 教 科 書 で あ る と 共 に,日 本 語 の 歴 史 に 興 味 の あ る一 般 の 方 々 の 教 養 書 と して も最 適。 そ の 変 貌 の 諸 相 を ダ イ ナ ミッ ク に捉 え る。 〔内容 〕概 説 / 日本 語 史の 中 の 資 料 / 文 字 / 音 韻 /文 法 / 語 彙 / 文 体 ・文 章 / 方 言 史 美 し く豊 か な 日本 語 を今 一 度 見 つ め 直 し正 し く学 べ る よ う,著 者 らの 熱 意 あ ふ れ る筆 致 で わ か りや
本
51017-9 C3081
動 詞 / 助 詞 / 古 典 の 敬 語 / 文 章 ・文 章 論
文 章 を い か に適 切 に 表 現 で き るか は 日常 的 な 課 題 で あ る。 本書 で は 多 くの例 を掲 げ 文 章 表 現 法 を解
や さ し い 文 章 表 現 法 51018-7 C3081
法 を例 示 。 また 「学 説 」の コ ラ ム を 設 け 興 味 深 く学 べ る よ う ま とめ た。 〔内容 〕言語 の 単位 / 語 論 / 助
国 A5判
語
学
256頁 本 体3000円
す く解 説 した大 学,短 大 向 け 好 テ キ ス ト。 〔内 容 〕 総 論 / 音 声 ・音 韻 / 文 字 ・表 記 / 語 彙 / 文 法 / 敬 語 / 文 章 ・文 体 / 共 通 語 ・方 言 / 言 語 生 活
諸先学の業績 をふ まえなが らも,学 生の関心 を持 続 させ るよ う,随 所 に新知 見を取 り入れ た大学 ・ 短大教養課程向けの テキス ト。 〔内容〕は じめ に/ 音声 ・音韻/文字/語彙/文法/ 敬語/方言/ 言 語生活/付表:仮 名字体 表:上 代 仮名遣い表
朝 倉 国語教 育 講 座 〈 全 6巻〉 国 語教 育実践 ・研 究の ため の羅針 盤 国語教育学会 倉 澤 栄 吉 ・前広島大 野地潤家監修 朝倉国語教育講座 1
国
語
教
育
51541-3 C3381
A5判
入
門
232頁 本 体3500円
国語教育学会 倉 澤 栄 吉 ・前広島大 野 地 潤 家 監修 朝倉 国 語 教 育 講 座 3
話
し 言
51543-X
C3381
葉
の
教
A5 判212頁
育
本 体3200円
国語教育学会 倉 澤 栄 吉 ・前広島大 野地 潤 家 監修 朝 倉 国語 教 育 講 座 5
授
業
と
51545-6 C3381
学 A5判
力
評
価
228頁 本 体3200円
宇都宮大 小 池清 治 ・都立大 小 林 賢 次 ・早大 細川英雄 ・ 愛知県大 犬 飼 隆 編
日 本 語 学 キ ー ワ ー ド事 典 51022-5 C3581
A5判
544頁 本 体17000円
宇都宮大 小 池 清 治 ・都立大 小 林 賢 次 ・早大 細 川 英雄 ・ 十文字女短大 山 口佳 也 編
日 本 語 表 現 ・文 型 事 典 51024-1 C3581
A5判
520頁 本 体16000円
国語科 教育の基礎 基本 をQ&A形式 で国語教 師 の 自立に役立つ よ う実 践例 を解説。 〔 内容 〕 教室へ よ うこそ/話 した が りや,聞 きたが りやの国語教室 / 書 く喜 びを分か ち合 う国語教室/文学に遊ぶ 国 語教 室/説明 ・論 説に挑む国語教 室/他 相 手 との コ ミュ ニ ケー シ ョ ン を取 る上 で 必 須 の 話 し言 葉 の 学 習 を実 践 例 を示 し解 説。 〔内容 〕話 し言 葉 学 習 の 特 質 / 話 し 言葉 の 教 育 の 歴 史 的 展 望 / 話 し 言葉 学 習 の機 会 と場 / 話 し言 葉学 習 の 内容 ・方 法 ・評 価 / 話 し言 葉 教 育 を支 え る教 師 の 話 し言 葉
国語科教 育の進め方 と学力評価 の方法を実践例 を 通 じて具体 的に解説。 〔 内容 〕国語科授業構築 ・研 究の基本 課題/ 国語科授業の成果 と試行/ 原理 と 方法/構築 と展開/集積 と深化/評価研究 の意義 と方法/学 習者把握 をめ ざす評価の 開発/他 本 書 は 日本 語 学 の キ ー ワー ド400項 目 を精 選 し,こ れ らに 対 応 す る 英 語 を付 した 。 各 項 目に つ い て定 義 ・概 念,基 礎 的 知 識 の 提 示 ・解 説 を主 と して, 便 利 ・正 確 ・明 解 を モ ッ トー に ペ ー ジ単 位 で平 易 に ま とめ て,五 十 音 順 に 配 列 。内容 的 に は,総 記, 音 声 ・音 韻,文 字,語 彙,文 等 の従 来 の 観 点 に加 え て,新
法,文 体,言 語 生 活 し く表 現 ・日本 語 教
育 に つ い て もふ れ る よ うに した 。学 部 学 生(留 学 生 を 含 む),国 語 ・日本 語 教 育 に 携 わ る人 々,日 本 語 に 関心 の あ る人 々 の た め の 必 携 書 本事 典 は 日本 語 に おけ る 各種 表 現 を と りあ げ,そ れ ら の 表 現 に 多用 され る単 語 を キ ー ワ ー ドと して 提 示 し,か つ,そ れ ら の表 現 に つ い て 記 述 す る際 に必 要 な 術 語 を術 語 キー ワー ドと して 示 した 後, お もに そ の 表 現 を特 徴 づ け る文 型 を 中 心 に 解 説 。 日本 語 に は 文 生 成 に 役 立 つ 有 効 な文 法 が 存在 しな い と指 摘 さ れ て 久 し い。 本 書 は 日本 語 の文 法 の 枠 組 み,核 心 を提 示 し よ う とす る もの で あ る。 学 部 学 生(留 学 生 を含 む),院 生,国 語 ・日本 語 教 育 従 事 者 お よ び研 究 者 の た め の 必 携 書 国 語 教 育 に関 係 す る主 要 な約400語 を 選 択 し,各 項 目 をペ ー ジ単 位 で解 説 した 辞 典 。 教 育 課 程,話 す こ と ・聞 くこ と,書 くこ と,読 む こ と,言 語 事 項 ・
日本国語教 育学会編
国
語
51023-3 C3581
教育 A5判
辞
典
496頁 本 体16500円
書 写,学 力 ・指 導 と評 価 ・教 材,歴 史 ・思 潮,関 連 諸 科 学,諸 外 国 の 言 語 教 育 の9分 野 か ら項 目 を選 択 し,国 語 教 育 の 現 場 に 立 ち,学 生 に 日常 的 に 接 す る 立 場 の 小 中高 校 を 中 心 とす る国 語 教 師 が 実 践 的 に使 用 で き る よ うに解 説 を配 慮 。 各 項 目に は 参 考 文 献 を必 ず 載 せ る と と もに,付 録 と して 小 中 高 校 の学 習 指 導 要 領,国
語 教 育 略 年 表 を掲 載
シ リー ズ<日 本 語 探 究 法> 宇都宮大学 小 池 清 治 編集 A5 判 全10巻 基礎 か ら卒 業論 文作 成 まで をわか りや す く解 説 した国語 学 ・日本語 学 の 新 しい教科 書 シ リー ズ。 日本語 に関す る基礎 お よび最新 の知 識 を提 供 す る と ともに,そ の探 究 方法 につ いての 指針 を具 体的 事例 研 究 を通 して提 示 した。
第1巻 現
代
日
本
語
探
究
法
160頁 本体2800円
宇都宮大学 小 池 清 治 著
第 2巻 文
法
探
究
法
168頁 本体2800円
宇都宮大学 小 池 清 治 ・赤 羽 根 義 章 著
第 3巻 音
声
・ 音
韻
探
究
法
176頁 本体2800円
筑波大学 湯 沢 質幸 ・広島大学 松〓 寛 著
第 4巻 語
彙
探
究
法
192頁 本体2800円
宇都宮大学 小 池 清 治 ・島根 県立島根 女子短期大学 河 原 修 一 著
第 5巻 文
字
・
表
記
探
究
法
164頁 本体2800円
愛知 県立大学 犬 飼 隆 著
第6巻 文
体
探
究
法
宇都宮大学 小 池 清 治 ・鈴 木啓 子 ・松 井 貴子 著
第 7巻 レ
ト
リ
ッ
ク
探
究
法
168頁 本体2800円
広島大学 柳 澤 浩 哉 ・群馬大学 中 村 敦 雄 ・宇都宮大学 香 西 秀 信 著
第 8巻 日
本
語
史
探
究
法
162頁 本体2800円
東京都立大学 小林 賢 次 ・相模女子大学 梅 林 博 人 著
第 9巻 方
言
探
究
法
144頁 本体2800円
前鳥取大学 森 下 喜 一 ・岩手大学 大 野 眞 男 著
第10巻 日 本
語
教
育
探
究
法
山口大学 氏 家 洋 子 ・恵泉女子大学 秋 元 美 晴 著 上 記 価格(税 別)は2005年
3月現 在