運 動 と栄養と食品 伏 木 亨[編 集] 下 村 吉 治 林 達 也 豊 田 太 郎 井 上 和 生 松 村 成 暢 石 原 健 吾 吉 田 宗 弘 水野谷 航 柴 草 哲 朗 森 谷 敏 夫 永 井 成 美...
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運 動 と栄養と食品 伏 木 亨[編 集] 下 村 吉 治 林 達 也 豊 田 太 郎 井 上 和 生 松 村 成 暢 石 原 健 吾 吉 田 宗 弘 水野谷 航 柴 草 哲 朗 森 谷 敏 夫 永 井 成 美[著]
朝倉書店
執
下
村
林
筆
者(執 筆順)
吉
治 名古屋工業大学大学院工学研究科 物質工学専攻
達
也 京都大学大学院人間 ・環境学研究科 共生人間学専攻
豊
田
太
郎 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
井
上
和
生 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
松
村
成
暢 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
石
原
健
吾 椙山女学園大学生活科学部 食品栄養学科
吉
田
宗
弘 関西大学工学部生物工学科
水 野 谷
航 九州大学大学院農学研究院 生物機能科学部門
柴
草
哲
朗 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
森
谷
敏
夫 京都大学大学院人間 ・環境学研究科 共生人間学専攻
永
井
成
美 岡山県立大学保健福祉学部栄養学科
は じめ に
朝 倉 書 店 『ス ポ ー ツ と栄 養 と食 品 』 が 出 版 さ れ て10年
に な る.本 書 は そ の い
わ ば 姉 妹 編 で あ る.こ の 間,栄 養 学 や 食 品科 学 分 野 に お い て 運 動 ・ス ポ ー ツ に対 す る理 解 は 飛 躍 的 に 進 んだ.運 動 能 力 に影 響 を 与 え る 食 品 成 分 の 開 発 も しば し ば 関 連 学 会 の 話 題 に な っ て い る.ま た,運 動 ・食 品 と 自律 神 経,運 な どの 研 究 分 野 も登 場 した.食
動 ・食 品 と疲労
品 分 野 の 関係 者 の み な らず 一 般 人 まで が 食 品 と運
動 や ス ポ ー ツ の 科 学 の 関 わ り合 い に興 味 をい だ く よ う に な っ た の で あ る. 食 品 や 栄 養 の 分 野 にお い て 運 動 の科 学 に興 味 を もつ 研 究者 が ご く少 数 で あ った 時 代,栄
養 学 が 注 目 した の は運 動 に よ るエ ネ ル ギ ー 代 謝 の ダ イ ナ ミ ック な動 きで
あ っ た.食
品 成 分 を摂 取 して も,生 体 の 恒 常 性 維 持 の 厚 い壁 に は ば まれ,代
謝状
態 が 顕 著 に動 くこ とは ほ と ん ど な か っ た.栄 養 学 の 研 究 者 に とっ て,運 動 が い と も容 易 に生 態 の 恒 常 性 維 持 を突 き破 る こ と は驚 きで あ っ た.そ れ ほ ど,運 動 とい う の は 人 間 や 動 物 に とっ て切 迫 した 緊急 事 態 で あ る こ と を,栄 養 学 の 研 究 者 は は じめ て 知 っ た の で あ る. 運 動 の 本 質 が 敵 と戦 い 生 命 を維 持 す る 機 能 で あ る こ と を考 え る と,顕 著 な代 謝 変 化 を伴 う こ とは 至 極 当 然 で あ っ た.運 動 や ス ポ ー ツ は現 代 人 の 生 活 の 中 で,異 常 事 態 で は な く,当 た り前 の 行 動 と して 定 着 して い る.代 謝 の研 究 者 に と っ て非 常 に魅 力 的 な生 理 的 条 件 な の で あ る. しか も,運 動 に よ っ て エ ネ ル ギ ーが 消 費 され る こ と は,現 代 人 に とっ て 福 音 と も い うべ き こ とで あ る.生 活 習 慣 病 の増 加 が 懸 念 され る今 日,期 待 され る健 康 科 学 の 中 心 は食 と運 動 で あ る.食 事 はエ ネ ル ギ ー の 摂 取,運 動 や ス ポ ー ツ はエ ネ ル ギ ー の 消 費 の そ れ ぞ れ 代 表 的 な行 動 で あ る.生 活 習 慣 病 の リス ク を 高 め る肥 満 や 脂 肪 代 謝 の 齪 齬 は,エ
ネ ル ギ ー の 摂 取 と消 費 の 両 方 を捉 え る こ とに よっ て 正 しい
理 解 と対 策 が 可 能 に な る.新
しい 栄 養 科 学 や 健 康 科 学 は,食 事 と運 動 の 有 機 的 な
関 係 を包 含 す る もの で な くて は な ら ない. 現 代 栄 養 学 や食 品 科 学 と運 動 ・ス ポ ー ツ の 科 学 の 共 通 の課 題 の 一 つ が,本 書 の
取 り上 げ る 内 容 で あ る.さ
ら に運 動 や食 事 が 大 き な影 響 を 与 え る 自律 神 経 の 活 動
を も本 書 は カバ ー して い る.10年
の 歳 月 を 経 て,『 ス ポ ー ツ と栄 養 と食 品 』 は,
こ の 分 野 の 関 係 者 の 今 日的 な 要 望 に 的確 に応 え るた め に 内 容 を一 新 した.運 動 と 食 物 摂 取 が 同 じ次 元 で 取 り扱 わ れ る こ と を想 定 して い る.『 ス ポ ー ツ と 栄 養 と食 品』 が この 分 野 の 入 門 書 的性 格 を もつ と した ら,本 書 は そ の ア ドバ ンス 版 で あ る とい え るか も し れ な い. 本 書 の著 者 に は,若 い 研 究 者 を積 極 的 に リ クル ー トした.先 端 の現 場 の 科 学 を 少 しで も表 現 し た か っ た か らで あ る.元 気 の よい 研 究 者 らで あ る の で老 練 な文 章 表 現 とは い え な い が,そ の ダ イナ ミッ ク な 動 き を感 じ取 っ て い た だ け れ ば 幸 い で あ る.こ れ らの 内 容 は 遠 か らず 食 品 ・栄 養 分 野 の 重 要 な トピ ッ ク ス とな る も の で あ る と編 者 は 確 信 して い る. 本 書 の企 画 ・編 集 に 多 大 な尽 力 を い た だ い た 朝 倉 書 店 の方 が た に こ の 場 を借 り て 感 謝 した い.
2006年10月 編
者 伏 木
亨
目
1.運
次
動 とア ミ ノ酸 ・タ ンパ ク 質
〔 下 村 吉 治 〕 1
1.1 ア ミ ノ酸 代 謝 へ の 運 動 の影 響
2
1.2 分 岐鎖 ア ミノ 酸(BCAA)代
7
謝 と運 動
1.3 グ ル コー ス‐ア ラ ニ ン回 路
11
1.4 中枢 性 疲 労 と ア ミノ酸
11
1.5 筋 タ ンパ ク 質 合 成 とア ミ ノ酸
12
1.6 体 づ く りの た め の タ ンパ ク 質 ・ア ミノ酸 摂取
2.運
動 と筋 肉 へ の 糖 吸 収 機 構
15
〔林 達 也 ・豊 田太 郎 〕19
2.1 運 動 時 の骨 格 筋 エ ネ ル ギ ー 産 生 に お け る糖 代 謝 の役 割
19
2.2 GLUT4の
21
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョン と糖 輸 送 促 進
2.3 筋 収 縮 が 糖 輸 送 を促 進 す る メ カ ニ ズ ム 2.4 運 動 に よ る イ ンス リ ン感 受 性(イ
ンス リ ン依 存 性 糖 輸 送)の
2.5 イ ンス リ ン作 用 調 節 と食 品 成 分 2.6 糖 尿 病 の 運 動 療 法
3.運
23
動 における疲労感発 生の メカニズム
亢 進
30 33 37
〔井 上 和 生 ・松 村 成 暢 〕 43
3.1 現 代 社 会 と疲 労
43
3.2 運 動 と疲 労
44
3.3 脳 内 サ イ トカ イ ンの 役 割
46
3.4 疲 労 感 とエ ネ ル ギ ー 代 謝
48
3.5 発 熱 と疲 労
4.筋
肉増強 の メカニズム
4.1 筋 肉 の 遺 伝 子 発 現
50
〔井 上 和 生 〕 54 54
4.2 骨 格 筋 に対 す る トレー ニ ング の 影 響
58
4.3 食 品 成 分 と筋 肉増 強
5.エ
62
ネ ル ギ ー代 謝 と食 品
〔石 原 健 吾 〕65
5.1 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 に な る栄 養 素
65
5.2 栄 養 素 が 利 用 さ れ る 割 合 は運 動 中 に変 化 す る
66
5.3 運 動 能 力 を低 下 させ る 要 因
69
5.4 運 動 強 度 の 指 標
70
5.5 運 動 能 力 の 指 標
71
5.6 有 酸 素 運 動 能 力 を高 め る 栄 養 摂 取 の 方 法
73
5.7 運 動 前 の 食 事
73
5.8 運 動 中 の 栄 養 補 給
75
5.9 運 動 後 の 栄 養 補 給
77
5.10 ダ イエ ッ トと運 動
78
5.11 特 殊 な食 品成 分 と持 久 運 動 能 力
6.運
79
動 と ミネ ラ ル
〔吉 田宗 弘 〕81
6.1 筋 肉 と ミネ ラル
81
6.2 エ ネ ル ギ ー 産 生 と ミネ ラ ル
85
6.3 骨 代 謝 と ミネ ラル
88
6.4 発 汗 と ミネ ラル
91
6.5 運 動 性 貧 血
93
6.6 ミネ ラ ルサ プ リメ ン トの 意義
7.運
97
動 時 に お け る 各臓 器 の エ ネ ル ギ ー代 謝 へ の 寄 与
〔 水 野 谷 航 ・柴 草 哲 朗 〕 100
7.1 エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 機 構 につ い て の こ れ まで の 諸 説
100
7.2 運 動 時 にお け る各 臓 器 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 応 答
107
7.3 中枢 神 経 系 に よる エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 制 御 機 構
113
7.4 中枢 神 経 系 に よる運 動 時 のエ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 機 構
119
8.運
動
と 食 品
〔森 谷 敏 夫 ・永 井 成 美 〕 124
8.1 自律 神 経 とは
124
8.2 自律 神 経 活 動 測 定 法
126
8.3 肥 満 ・糖 尿 病 と 自律 神 経
135
8.4 運 動 と 自律 神 経 活 動
137
8.5 自律 神 経 に 及 ぼ す 運 動 の 効 果
140
8.6 食 品 成 分 と 自律 神 経
145
索
157
引
1.運
運 動 は,エ
動 とア ミノ酸 ・タ ンパ ク質
ネ ル ギ ー 代 謝 を著 し く亢 進 す る た め,主
る炭 水 化 物 と脂 肪 の 酸 化 分 解 が促 進 さ れ る.さ
な体 内 の エ ネル ギ ー源 で あ
らに,運 動 時 に は 身体 の 主 要 構 成
成 分 で あ る タ ンパ ク質 も分 解 され,生 成 され た ア ミ ノ酸 もあ る程 度 の エ ネ ル ギ ー 源 とな る.こ の よ う に運 動 は体 内 の 種 々 の 代 謝 を促 進 す るが,特 臓 器 で あ る骨 格 筋 で はそ の代 謝 変 動 が 大 きい.一
に運 動 の 中心 的
方,運 動 に よる刺 激 は,エ ネ ル
ギ ー基 質 の 分 解 ば か りで な く,運 動 後 に は タ ンパ ク質 合 成 を促 進 す る作 用 も もた らす.や
は り,こ の 運 動 の作 用 は 骨 格 筋 で 大 き く,運 動 に よる 筋 肉 づ く りの作 用
と して 知 られ て い る. 骨 格 筋 は,水 る.さ
分 が80%を
占 め,残
りは ほ とん ど タ ンパ ク 質 か ら成 り立 っ て い
らに,骨 格 筋 は体 重 の35∼40%を
の 貯 蔵 庫 で あ る と い え る.ウ り,筋 肉が 肥 大 し,筋
占 め る の で,全
身 に お け る タ ンパ ク 質
ェ イ ト トレー ニ ング の よ うな運 動 トレ ー ニ ング に よ
タ ンパ ク量 も増 え る こ とは 良 く知 られ た事 実 で あ り,こ の
現 象 は,運 動 に よ り筋 肉 の タ ンパ ク 質 と ア ミノ酸 代 謝 に大 き な影 響 が 及 ん だ 結 果 で あ る. ヒ トの タ ンパ ク質 を構 成 す る ア ミ ノ酸 は20種 の 必 須 ア ミノ酸(体
類 あ り,そ の う ち9種 類 が 成 人
内 で 合 成 で き な い ア ミノ 酸)で
あ る(表1.1).し
た が っ て,
運 動 に よ り筋 肉 づ く りを す る場 合 に は,十 分 な 必 須 ア ミノ酸 を摂 取 す る 必 要 が あ る.食
物 中 の タ ン パ ク 質 を構 成 す る 必 須 ア ミ ノ 酸 の 中 で,分
(branched-chain
amino
の 占 め る 割 合 は40∼50%と
acids,BCAA:バ
約35%と
高 い.し
リ ン,ロ イ シ ン,イ ソ ロ イ シ ンの 総 称)
きわ め て 高 く,ヒ
た が っ て,筋
岐鎖 ア ミノ 酸
トの筋 タ ンパ ク質 中 の そ の割 合 も
肉 づ く りに 果 た すBCAAの
役 割 は 大 き く,逆
に,運 動 中 に分 解 す る 量 もか な りあ る と考 え られ て い る. 本 章 で は,筋
肉 に お け る ア ミ ノ 酸 代 謝 に対 す る 運 動 の 影 響 をBCAAを
中心 に
表1.1
タ ンパ ク質 を構 成 す る主 要 な ア ミノ酸
*筋 肉 で 酸化 され る ア ミノ酸
述 べ,肝
臓 の そ の 代 謝 に対 す る影 響 に つ い て も言 及 す る.さ
らに,体 づ く りの た
め の タ ンパ ク質 ・ア ミノ酸 の 摂 取 法 を最 後 に考 察 す る.
1.1 ア ミ ノ 酸 代 謝 へ の 運 動 の 影 響 a. 運 動 に よ る ア ン モ ニ ア お よび 尿 素 生 成 の 促 進 生 体 内 の ア ミノ 酸 の 起 源 は,食 物 中 の タ ンパ ク質 と組 織 を形 成 す る 内 因性 の タ ンパ ク 質 で あ る.い ず れ の タ ンパ ク 質 もア ミ ノ酸 に ま で分 解 され た の ち,体 内 で タ ンパ ク質 合 成 に再 利 用 さ れ るか,も ウ糖)お
よ び脂 肪 に変 換 され る か,ま
し くは さ ら に分 解 され て グ ル コ ース(ブ
ド
た は 完 全 酸 化 さ れ て 炭 酸 ガス と水 に な る
(図1.1). ア ミノ酸 の 分 解 で は,そ の 炭 素 骨 格 とア ミ ノ基 は別 々 の 代 謝 経 路 に よ り処 理 さ れ る.す な わ ち,炭
素 骨 格 は他 の 物 質 に変 換 され た り完 全 酸 化 さ れ る が,ア
基 は転 移 反 応 を受 け た 後,最 終 的 に ア ンモ ニ ア を生 成 す る(図1.1).ア
ミノ
ンモ ニ ア
は 肝 臓 で さ ら に尿 素 に 変 換 さ れ,尿 中 へ 排 泄 され る. 1) ア ン モ ニ ア の 生 成 と その 作 用 ア 濃 度 は30∼40μmol/lで
ヒ トの安 静 な状 態 で は,血
中 の ア ンモ ニ
あ る が,運 動 を 持 続 す る と,筋 肉 に お い て ア ンモ ニ ア
生 成 が 高 ま り血 中 の ア ンモ ニ ア 濃 度 は上 昇 す る.そ の 上 昇 の 度 合 い は,ヒ 件(ト
レー ニ ン グ を どの 程 度 して い るか,運 動 前 の 筋 グ リコ ー ゲ ン量,運
トの 条 動の タ
図1.1 ア ミ ノ酸 ・タ ンパ ク 質代 謝 に お け る尿 素 生 成
イ プ な ど)に
よ り異 な るが,100μmol/l以
この ア ンモ ニ ア の 由 来 は,ア
ミノ酸 の 分 解 に よっ て も発 生 す る が,主
ヌ ク レオ チ ドサ イ ク ル(図1.2)に リ ン酸(AMP)か
上 に も達 す る こ とが 報 告 さ れ て い る.
お い てAMPデ
ア ミナ ー ゼ に よ りア デ ノ シ ン1‐
ら イ ノ シ ン1‐ リ ン酸(IMP)が
ア ンモ ニ ア で あ る と考 え られ て い る.プ る ア ミノ基 の 主 要 な 供 給 源 はBCAAで
生 成 され る と きに 遊 離 され る
リ ンヌ ク レ オチ ドサ イ ク ル に取 り込 まれ
あ る(図1.2).
ア ンモ ニ ア と疲 労 の 関係 は まだ 十 分 に わ か って い な い が,ア 次 の 理 由 に よ り疲 労 を促 進 す る と考 え られ る.一 つ は,ア に対 す る作 用 で,脳
ンモ ニ アの 蓄 積 は
ンモ ニ ア の 脳 ・神 経 系
内 に ア ンモ ニ アが 蓄 積 す る と,グ ル タ ミ ンを 生 成 し て グ ル タ
ミ ン酸 を 減 少 させ る.グ ミ ノ酪 酸(GABA)の
にはプ リン
ル タ ミ ン酸 は,神 経 細 胞 の 活 性 の 調 節 物 質 で あ る γ‐ア
生 成 に必 要 で あ る た め,そ の 減 少 はGABAの
減 少 を引 き起
こ し,神 経 系 の 機 能 低 下 を もた ら して 中 枢 性 疲 労 の 原 因 とな る と考 え られ る.他 の 一 つ は,筋 肉 に対 す る作 用 で,筋 肉 に ア ンモ ニ ア が 蓄 積 す る と,解 糖 系 の ホ ス ホ フ ル ク トキ ナ ー ゼ が 活 性 化 され 解 糖 が 進 み 乳 酸 の 生 成 が 促 進 され る(図1.2). さ ら に,ア
ンモ ニ ア は ク エ ン酸 回 路 の 成 分 で あ る α‐ケ トグ ル タ ル 酸 に結 合 し グ
ル タ ミ ン酸 に な る こ と に よ り,ク エ ン酸 回路 の 回 転 を 阻 害 す る.こ れ らの 理 由 に よ り,ア ンモ ニ ア は筋 肉 で の疲 労 も促 進 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る が,先 た よ う に,ア
ンモ ニ ア の影 響 に つ い て は不 明 な 部 分 が 多 い.
に も述 べ
図1.2 筋 肉 の プ リ ンヌ ク レ オチ ドサ イ ク ル に お け る ア ンモ ニ ア の 生 成 ATP:ア
デ ノ シ ン3− リ ン酸,ADP:ア
デ ノ シ ン2−リ ン酸,AMP:ア
デ ノ シ ン1− リ ン酸,IMP:
イ ノ シ ン1− リ ン酸 は 促 進 を意 味 す る.
2) 尿 素 の 生 成 80∼90%が
ヒ トは摂 取 した 窒 素 の95%を
尿 素 で あ る.尿
尿 中 に排 泄 し,尿 中窒 素 の
素 は肝 臓 に お い て 生 成 さ れ る が,グ
ル タ ミ ン酸 が 尿
素 生 成 の た め の 窒 素 供 給 に 中 心 的 な役 割 を果 た して い る(図1.1).肝
臓 で生 成 さ
れ た 尿 素 は血 液 を介 して腎 臓 に運 搬 され るの で,運 動 に よ り タ ンパ ク質 お よび ア ミノ 酸 の 分 解 が 進 む と血 中 の 尿 素 濃 度 が 高 くな る.図1 運 動 の 持 続 時 間 の 関 係 を示 した.こ
.31)に 血 中 の 尿 素 濃 度 と
の 図 か らす る と,運 動 時 間 が 長 くなれ ば な る
図1.3 ヒ トの 血 中尿 素 レベ ル と走 運動 時 間 の 関係1)
ほ ど血 中 の尿 素 濃 度 も上 昇 し,タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 の分 解 が 亢 進 す る こ とが わ か る.逆
に,1時
間 以 内 の 短 時 間 の 運 動 で は そ の 分 解 は き わ め て 少 な い とい え
る.し か し,運 動 中 の ロ イ シ ンの 分 解 を追 跡 した 研 究 に よれ ば,血
中 の 尿 素 レベ
ルが 上 昇 し な い う ち に も ロ イ シ ンの 分 解 は促 進 され る こ と が 明 らか に さ れ て お り,運 動 中 の ア ミノ酸 分 解 量 は 考 え られ て い る よ りも大 きい よ うで あ る. b. ア ミノ 酸 の 炭 素 骨 格 の 分 解 と運 動 タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 か らの エ ネ ル ギ ー 供 給 が,ヒ
トの 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 代
謝 の どれ ほ ど を 占 め るか は 報 告 に よ りか な り異 な る.血 中 の 尿 素 濃 度 お よ び 窒 素 の排 泄 か ら計 算 され た値 は,3%か
ら18%の
間 に あ る1).し か し,上 述 の よ う に
血 中 尿 素 レベ ル が 上 昇 しな い う ち に も ロ イ シ ンの 分 解 は促 進 さ れ る こ と よ り,タ ンパ ク質 が エ ネ ル ギ ー代 謝 に 貢 献 す る 割 合 は こ の値 よ り も高 い 可 能 性 は あ る が, お そ ら く10%前
後 の エ ネ ル ギ ー が タ ンパ ク 質 ・ア ミノ 酸 か ら供 給 さ れ る とい っ
て も よい で あ ろ う. ア ミ ノ酸 の 炭 素 骨 格 は 直 接 の エ ネ ル ギ ー 源 に な る が,す 1.4に 示 す よ う に ピル ビ ン酸,ア
セ チ ルCoAも
換 され 代 謝 され る.し た が っ て,多
べ て の ア ミ ノ酸 は 図
し くは クエ ン酸 回 路 の 中 間 体 に 変
くの ア ミ ノ酸 は最 終 的 に クエ ン酸 回 路 で分 解
図1.4 ア ミノ 酸 の 炭 素 骨 格 の代 謝 *必 須 ア ミノ酸
さ れ る と考 え られ る. ヒ トの 筋 肉 に お い て 酸 化 さ れ る ア ミノ 酸 は,ア ア ラ ニ ン と三 つ のBCAAの6種
ス パ ラ ギ ン酸,グ
ル タ ミ ン酸,
類 で あ り,こ れ らの 中 で も,BCAAが
ミ ノ酸 で あ る こ とが 報 告 され て い る(表1.1参
主 要 なア
照).
c. 血 中 ア ミノ酸 組 成 に対 す る 運 動 の 影 響 運 動 は ヒ トの 血 中 ア ミノ酸 組 成 に影 響 す る2).短 時 間 の 低 強 度 の 運 動 で は,ア ラ ニ ンや グ ル タ ミ ン濃 度 が 増 加 す る が,高 強 度 の 短 時 間運 動 で は そ れ らの ア ミノ 酸 濃 度 は さ ら に 上 昇 す る が,グ
ル タ ミ ン酸 濃 度 は減 少 傾 向 に あ る.1時
間以 上 の
持 久 的 運 動 で は ア ラ ニ ン は増 加 傾 向 に あ る が,グ
ル タ ミ ンやBCAAは
逆 に減少
す る こ とが 報 告 さ れ て い る. d. 炭 水 化 物 摂 取 とタ ンパ ク質 ・ア ミノ 酸 分 解 組 織 の 主 要 構 成 成 分 で あ る タ ンパ ク 質 が,運 割 合 を 占 め る と は考 え られ な い.あ
動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 と して多 くの
く まで も,主 要 なエ ネ ル ギ ー 源 は炭 水 化 物 と
脂 肪 で あ る.し か し,運 動 中 の タ ンパ ク質 の 分 解 が,炭 水 化 物 摂 取 に よ り影 響 さ れ る こ とが 明 らか に さ れ て い る.す な わ ち,十 分 な 炭 水 化 物 を摂 取 して 運 動 した 場 合 に は,摂 取 し な い で 運 動 した 場 合 よ りも,運 動 中 お よ び そ の 後 の 回復 期 の 血 中 尿 素 濃 度 が 高 くな り,尿 中 や 汗 中 に排 泄 さ れ る尿 素 量 もか な り多 くな る.し た が っ て,炭 水 化 物 の 摂 取 は,運 動 に よ る タ ンパ ク 質 ・ア ミノ酸 分 解 を左 右 す る 一 つ の 要 素 で あ る.こ
の こ とは,グ
リ コ ー ゲ ンの 蓄 積 が 不 十 分 な 状 態 で 運 動 す る
と,運 動 に よ る タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 分 解 が 増 大 す る こ と を意 味 して い る.
1.2 分 岐 鎖 ア ミ ノ 酸(BCAA)代 BCAAは,前
謝 と運 動
述 の よ う に食 物 タ ンパ ク質 お よび 筋 タ ンパ ク質 に多 く含 まれ る必
須 ア ミノ 酸 で あ る.運 動 とア ミノ 酸 の 関係 で は,ア
ミ ノ基 の 輸 送 の役 割 で グ ル タ
ミ ン酸 とア ラニ ンが 重 要 で あ る が,運 動 に よ る タ ンパ ク質 の 分 解 や合 成 に対 す る 作 用 に 関 して はBCAAが した が っ て,BCAAに
中 心 的 な ア ミ ノ酸 で あ り,そ れ に 対 す る 関 心 が 高 い. 関 す る研 究 は多 く行 わ れ て い る が,他 の ア ミノ酸 に関 して
は あ ま り情 報 が な い の が 現 状 で あ る. a. BCAAの BCAAの
代 謝系 とその調節
代 謝 は,す べ て ミ トコ ン ドリ ア 内 で行 わ れ,最
応 まで は 三 つ のBCAA(バ 触 媒 さ れ,そ (図1.5).第1ス
リ ン,ロ イ シ ン,イ
初 と第2ス
テ ッ プの 反
ソ ロ イ シ ン)に 共 通 の酵 素 に よ り
れ 以 降 の 分 解 は そ れ ぞ れ の ア ミ ノ酸 の 独 自 の 経 路 に よ り行 わ れ る テ ッ プ は可 逆 的 な ア ミノ基 の 転 移 反 応 で あ り,BCAAア
転 移 酵 素 に よ り触 媒 さ れ る.第2ス
テ ッ プ は 不 可 逆 的 な酸 化 的 脱 炭 酸 反 応 で あ
り,分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 に よ り触 媒 され る.こ の 第2ス 反 応 がBCAAの
ミ ノ基
分 解 を律 速 して お り,三 つ のBCAAの
分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 は,酵 リ ン酸 化 に よ り調 節 さ れ て い る.す な わ ち,そ
テ ッ プの
分 解 を調 節 す る. 素 タ ンパ ク質 の リ ン酸 化 ・脱
の 酵 素 は特 異 的 なキ ナ ー ゼ(分 岐
図1.5 KIC:α
‐ケ ト イ ソ カ プ ロ ン 酸,KMV:α
分 岐 鎖 ア ミ ノ酸 の 代 謝 系 ‐ケ ト‐β‐メ チ ル バ レ リ ン 酸,KIV:α
鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 キ ナ ー ゼ)に ホ ス フ ァ タ ー ゼ(分
‐ケ ト イ ソ バ レ リ ン 酸
よ る リ ン酸 化 に よ り活 性 を失 い,特 異 的 な
岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 ホ ス フ ァ ター ゼ)に
化 に よ り活 性 化 さ れ る.し
よ る 脱 リ ン酸
た が って,生 理 的 条 件 の 変 化 に対 応 して,酵 素 活 性 を
速 や か に 調 節 す る こ とが で き る.分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 は,そ
の構
造 と活 性 調 節 機 構 に お い て グ ル コー ス 代 謝 の 調 節 酵 素 で あ る ピ ル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 に きわ め て よ く類 似 して い る. b. 運 動 に よ る 筋 肉 中 のBCAA代
謝 の促 進
ラ ッ トに お け る 研 究 に お い て,運
動 に よ り筋 肉 で の タ ンパ ク 質 分 解 が 促 進 さ
れ,筋
肉 中 のBCAA濃
度 は 高 ま る こ とが 認 め られ た(図1.6)3).安
静 の状 態で
は,筋 肉 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 は ほ と ん どが リ ン酸 化 さ れ た 不 活 性 型 で 存 在 す るが,運
動 に よ り筋 肉 中 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の 活
性 は か な り上 昇 す る(図1.7).し
た が っ て,筋
肉 で のBCAAの
分 解 は 亢 進 し,
図1.6 運動 に よ る 筋 肉 の 分 岐 鎖 ア ミ ノ酸 濃 度 の上 昇3) ラ ッ トの 安 静 時 も し く は2時 間 走 行 運 動(速 度:30 m/min)を 値 は7匹
負荷 した後 の骨 格 筋 中 の分 岐 鎖 ア ミノ酸 濃 度. の ラ ッ トの平 均 値 ±SE.
図1.7 運 動 に よ る ラ ッ ト骨 格 筋 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の 活性 化3) ラ ッ トの安 静 時 も し くは2時 間 走行 運 動(速
度:30m/min)
を負 荷 した後 の骨 格 筋 中 の酵 素 の 活性 型 の 割 合.値 の ラ ッ トの 平 均 値 ±SE. ・総 酵 素 量 は運 動 に よ り影 響 さ れ な い .
は7匹
・本 デ ー タ に お け る安 静 時 の 酵 素 複 合 体 活 性 は約15%で あ る が,こ
こで 使 用 さ れ た ラ ッ トは あ る 程 度 の 食 事 制
限 を さ れ て お り,食 事 制 限 を し な い 安 静 ラ ッ トで は, 約5%と
きわ め て 低 い こ とが 明 らか に さ れ て い る.
そ れ は筋 肉 で直 接 エ ネ ル ギ ー 源 と して利 用 され る と考 え られ る.全 身 に お け る筋 肉量 を 考 慮 す る と,そ のBCAAの
分 解 量 は有 意 な も の で あ ろ う.
運 動 に よ る筋 肉 で の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 化 の メ カ ニ ズ ム は次 の よ う に考 え られ る:(1)運
動 に よ る タ ンパ ク 質 分 解 の促 進 に よ り,筋 肉 中
のBCAA濃
度 が 上 昇 す る,(2)筋
肉 で は,BCAAア
い た め分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 濃 度 も上 昇 す る,(3)分
岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 中 で ロ イ シ ンか
ら生 成 さ れ る ケ ト酸(α ‐ケ トイ ソ カ プ ロ ン酸)は 剤 で あ る の で,キ
特異 的 キナーゼ の強力 な阻害
ナ ー ゼ 活 性 が 阻 害 され て 活 性 型 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素
複 合 体 が 増 加 す る,(4)蓄 参 照).最
ミノ 基 転 移 酵 素 の 活 性 が 高
積 した 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 分 解 が 促 進 さ れ る(図1.5
近 の研 究 に お い て,実
際 に運 動 に よ りキ ナ ー ゼ 活 性 が 低 下 し,分 岐 鎖
α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 が 活 性 化 さ れ る こ とが 確 認 さ れ た4). c. 運 動 に よ る肝 臓 中 のBCAA代
謝 の促進
運 動 に よ り,肝 臓 や 腸 な どの 内 臓 の タ ンパ ク 質分 解 も亢 進 す る こ とが わ か っ て い る.事
実,運
動 に よ り肝 臓 中 のBCAA濃
研 究 に お い て観 察 され た(図1.8).ラ
度 は 上 昇 す る こ とが ラ ッ トに お け る
ッ ト肝 臓 で は,BCAAア
ほ と ん ど発 現 して い な い た め そ の 活 性 は きわ め て 低 い.し BCAAを
直 接 分 解 で き な い と考 え ら れ て い る.逆
複 合 体 の 活 性 は き わ め て 高 い の で,肝
ミノ 基 転 移 酵 素 は た が っ て,肝
臓 では
に分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素
臓 で はBCAAか
ら ア ミノ基 転 移 に よ り生
成 され た 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 は た だ ち に分 解 され る.ま
た,血 液 を 介 して 肝 臓 に 輸
送 され た α‐ケ ト酸 も速 や か に分 解 され る.そ の 反 映 と して,肝 臓 中 の 分 岐 鎖 α‐ ケ ト酸 濃 度 は,血 μmol/g組 織;血
液 中 や 筋 肉 中 の 濃 度 と比 べ て か な り低 い(肝
液,0.033μmol/ml;筋
肉,0.025μmol/g組
図1.8 運 動 に よる 肝 臓 の 分 岐 鎖 ア ミノ酸 濃 度 の 上 昇3) ラ ッ トの 安 静 時 も し くは2時 度:30m/min)を
岐 鎖 ア ミノ 酸 濃 度.値 均 値 ±SE.
間走 行 運 動(速
負 荷 し た 後 の 肝 臓 中 の分 は7匹
の ラ ッ トの 平
織).肝
臓,<0.002 臓 は糖 新 生
を活 発 に行 う臓 器 で あ るの で,お そ ら くイ ソ ロイ シ ンや バ リ ンの 糖 原 性 ア ミ ノ酸 は,グ ル コー ス を生 成 す るの に利 用 され る と考 え られ る. た だ し,ヒ
トの 肝 臓 で は,分
肝 臓 の1%以
下 とか な り低 い の で,BCAAと
発 で は な い よ うで あ る.ヒ
岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 は ラ ッ ト
トで は,筋
分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 代 謝 は あ ま り活
肉 がBCAA代
謝の 中心的臓 器 であ る よう
で あ る が,ま だ 不 明 な 点 が 多 い.
1.3 グ ル コ ー ス ‐ア ラ ニ ン 回 路 運 動 中 も し くは絶 食 中 で は肝 臓 の グ リ コー ゲ ンが 著 し く減 少 す る.こ の 場 合, 血 糖 維 持 の た め に肝 臓 で 活 発 に糖 新 生 が 行 わ れ る.も
し糖 新 生 を抑 制 す る と,運
動 の持 続 能 力 が 低 下 す る こ とが 明 らか に さ れ て い る. 糖 新 生 の 基 質 と し て は 先 に 述 べ た よ う に イ ソ ロ イ シ ンや バ リ ン も考 え られ る が,ア
ラニ ンが 重 要 な 基 質 で あ る こ とが 明 らか に さ れ て い る.筋 肉 で ピル ビ ン酸
に ア ミ ノ基 が 転 移 され て 生 成 され た ア ラ ニ ンが 肝 臓 で グ ル コー ス に変 換 され,そ の グ ル コ ー ス は筋 肉 で 再 び 利 用 され る グ ル コ ー ス‐ア ラニ ン回 路 が 成 り立 っ て い る(図1.9).こ
の 回 路 の 中 で,BCAAは
ピ ル ビ ン酸 へ の ア ミノ基 の 主 要 な 供 給 源
で あ る. 実 際 に,ヒ
トに お い て運 動 中 の 各 臓 器 へ の 血 中 の ア ミノ酸 の 取 り込 み と放 出 を
み た 研 究 が あ る5).こ れ に よ る と,内 臓 で は ア ラニ ンを よ く取 り込 み,BCAAを 放 出 し,筋 肉 で は そ の 逆 の 関係 に あ る こ とが 明 らか に され て い る.
1.4 中 枢 性 疲 労 と ア ミ ノ 酸 中枢 性 疲 労 の 一 つ の メ カ ニ ズ ム と して,脳 内 にお け る トリプ トフ ァ ンか らの セ ロ トニ ン合 成 の 増 加 が 考 え られ て い る.し た が っ て,血 中 か ら脳 内 に トリ プ トフ ァ ンの 輸 送 が 促 進 され る と,中 枢 性 疲 労 が 高 ま る と考 え られ る. 脳 内 に トリ プ トフ ァ ンが 輸 送 さ れ る 場 合 に は,血 rier)を 通 過 しな け れ ば な ら な い.血 性 ア ミノ 酸 輸 送 体)はBCAAの
度 が 低 下 す る と,脳
bar
液 ‐脳 関 門 の トリ プ トフ ァ ン の 輸 送 体(中
そ れ と共 通 で あ る た め,そ
通 過 す る 際 に競 合 す る(図1.10).し す るBCAA濃
液 脳 関 門(blood-brain
れ ら は そ の ゲ ー トを
た が っ て,血 中 の トリ プ トフ ァ ン濃 度 に対 内 に トリ プ トフ ァ ンの 取 り込 み が 増 加 して,
図1.9 肝 臓 と骨 格 筋 の 間 の グ ル コー ス‐ア ラ ニ ン回 路: 分 岐 鎖 ア ミノ酸 との 関 係
中枢 性 疲 労 が 促 進 され る と考 え られ る.し た が っ て,BCAA摂 軽 減 す る 可 能 性 が 考 え られ る.実 際 に,BCAAを
取 は 中枢 性 疲 労 を
運 動 前 に摂 取 す る こ とに よ り,
運 動 中 の 主 観 的 運 動 強 度 を低 下 す る こ とが 報 告 され て い る6). 1日 の タ ンパ ク質 の 摂 取 量 を,Og,75g,150gの3段 トリ プ トフ ァ ン とBCAA濃
階 に調 節 して,血
度 の 比 率 を測 定 した 結 果 で は,タ
ンパ ク 質 の 摂 取 量
に応 じて そ の 比 率 が 低 下 す る こ と が 報 告 さ れ て い る(図1.11)7).こ 中枢 性 疲 労 の 予 防 ・回復 に タ ンパ ク 質(BCAA)の して い る.運
動 に よ りBCAAの
中の
の 所 見 は,
摂 取 が 有 効 で あ る こ とを示 唆
分 解 が 高 ま る の で,十
分 な タ ンパ ク 質(BCAA)
の 摂 取 は,中 枢 性 疲 労 の予 防 も し くは 回 復 に効 果 的 で あ る可 能 性 が 高 い.
1.5 筋 タ ン パ ク 質 合 成 と ア ミ ノ 酸 a. BCAAと
筋 タ ンパ ク質 合 成
必 須 ア ミノ 酸 で あ る こ と と タ ンパ ク 質 中 の 含 量 が 高 い こ と よ り,タ ンパ ク 質 合
図1.10 脳 内へ の トリ プ トフ ァ ン と分 岐鎖 ア ミノ酸 輸 送 の 競 合
図1.11
タ ンパ ク質 を0g,75g,も
し く は150g含
む食 餌 を5日
間摂
取 した ヒ トの 血 清 ト リプ トフ ァ ン濃 度(A),お よ び トリプ ト フ ァ ン濃 度 と主 な 中 性 ア ミ ノ酸 濃 度 の 比 率(B)の 日内 変 動7) T+P+L+I+V:ト
リ プ トフ ァ ン+フ
ソ ロ イ シ ン+バ
成 に は 十 分 なBCAAの ば か りで は な く,BCAAの
ェ ニ ル ア ラ ニ ン+ロ
確 保 が 重 要 で あ る こ とが わ か る で あ ろ う.し か し,そ れ 生理 作 用 と して 次 の こ とが 証 明 され て い る.(1)ロ
シ ンは 筋 タ ンパ ク質 の 分 解 を抑 制 す る.(2)ロ 進 す る.(3)〓
イ シ ン+イ
リ ン.
イ シ ンは筋 タ ンパ ク 質 の 合 成 を促
臓 か らの イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.(4)イ
ン パ ク 質 合 成 作 用 を増 大 す る.こ
れ らのBCAAの
イ
ンス リ ンに よ る筋 タ
作 用 の 中 で も,ロ イ シ ン に よ
る タ ンパ ク質 合 成 促 進 作 用 は特 に注 目 され て お り,そ の 作 用 は タ ンパ ク 質合 成 の 過 程 に お け る メ ッセ ン ジ ャ ーRNA(mRNA)か る こ とが 明 らか に さ れ た.し
ら の タ ンパ ク質 の 翻 訳 を促 進 す
たが っ て,ロ
イ シ ンは タ ンパ ク質 合 成 の た め の 成 分
と して ばか りで な く,タ ンパ ク質 代 謝 を調 節 す る 因子 と して も重 要 な役 割 を果 た して い る とい え る. b. 運 動 に よ る 筋 タ ン パ ク 質 分 解 お よび 筋 損傷 に対 す るBCAAの 運 動 中 に は 筋 タ ンパ ク の 分 解 が 亢 進 し,筋 肉 で のBCAAの
効果
分解 が促進 す るこ
とは これ ま で に述 べ て きた 通 りで あ る.で は,運 動 直 前 にBCAAを
投 与 す る と,
筋 肉 で の タ ンパ ク質 代 謝 は どの よ う に影 響 され るか は興 味 あ る と こ ろ で あ る. こ の研 究 を ヒ トに お い て 行 っ た報 告8)が あ る.実 験 で は,健 康 な 成 人 男性(年 齢18∼30歳)に,運 (合 計77mg/kg体
動 の45分 重)経
と20分 前 にBCAAを38.5mg/kg体
口 投 与 す る か,も
重 ず つ2回
し くは コ ン トロ ー ル と して プ ラセ ボ
を 同様 に投 与 した の ち,片 足 で エ ル ゴ メ ー ター を1時 間 こ ぐ運 動 を負 荷 した.投 与 したBCAAは500mg入 mg,イ
りの カ プ セ ル で,ロ
ソ ロ イ シ ン を130mg含
70∼75%で
あ っ た.こ
の 実 験 の 結 果(表1.2)8)に
か し,BCAA投
ア ミノ 酸 量 は減 少 し た.特 BCAAが
リ ン を150
む もの で あ っ た.運 動 の 強 度 は,最 大 強 度 の 約
と に よ り,動 脈 血 中 と筋 中 のBCAA濃 生 成 が 増 加 した.し
イ シ ン を220mg,バ
よ る と,BCAAを
投 与す る こ
度 が 上 昇 し,筋 肉 に お け る ア ンモ ニ ア の 与 に よ り,筋 肉 か ら遊 離(放
に,BCAAの
放 出 は 減 少 した.す
出)さ
な わ ち,投
れる必須 与 した
筋 肉 中 で 分 解 され る こ と に よ り,筋 タ ンパ ク 質 の 分 解 が 抑 制 され た と考
え られ る.し
た が っ て,こ
の 結 果 は,投
与 し たBCAAに
表1.2 運 動 前 の分 岐鎖 ア ミノ 酸(BCAA)投
5人 の 平 均 値 ±SE.
よ る 運 動 中 の筋 タ ンパ
与 の 影響8)
ク質 分 解 の 抑 制 効 果 を示 す もの で あ る. 強 い負 荷 の 運 動(特 ら れ て お り,そ (CK)を
に エ キ セ ン トリ ッ ク運 動)は,筋
の 結 果,筋
細 胞 中 に 豊 富 に 存 在 す る酵 素 ク レ ア チ ンキ ナ ー ゼ
血 中 に放 出 す る た め,血
運 動 前 にBCAAも
肉 を損 傷 す る こ とが 認 め
中 のCK活
性 が 上 昇 す る こ とが 知 られ て い る.
し く は そ れ を主 成 分 とす る ア ミノ 酸 サ プ リメ ン トを投 与 す る
と,運 動 後 に 起 こ る 血 中CK活
性 の 上 昇 を抑 制 で きる こ と が 報 告 され て い る.ま
た,運 動 前 の4∼5gのBCAA摂
取 は 運 動 の 翌 日以 降 に発 生 す る筋 肉 痛 を軽 減 す
る こ と も認 め られ た9).こ れ らの所 見 よ り,運 動 前 のBCAA摂
取 は運 動 に よ る筋
肉損 傷 を軽 減 し,さ ら に筋 損 傷 の 回 復 を促 進 す る可 能 性 が 考 え られ る.
1.6 体 づ く り の た め の タ ン パ ク 質 ・ア ミ ノ 酸 摂 取 a. タ ンパ ク 質 摂 取 量 一 般 成 人 の タ ンパ ク質 所 要 量 は,1.08g/kg体 あ れ ば,1日
約65gの
重 で あ る.体 重60kgの
ヒ トで
タ ンパ ク 質 が 必 要 で あ る.
激 し く運 動 す る ア ス リー トの 場 合 で は,ど れ ほ どの タ ンパ ク質 を1日 に摂 取 す れ ば よい の か.こ の 問 に対 して,ア ス リー トの タ ンパ ク質 所 要 量 を増 加 す る こ と は慎 重 にす べ きで あ る とす る意 見 もあ るが,こ
れ まで に述 べ て き た通 り,運 動 に
よ りア ミ ノ酸 の 分 解 は 亢 進 しエ ネ ル ギ ー 源 と して利 用 され,運 動 後 に は タ ンパ ク 質 の 合 成 が 増 大 す る.さ
ら に,多
くの 研 究 に お い て,運 動 に よ り タ ンパ ク質 の 必
要 量 が 増 大 す る結 果 が 出 て い る.し た が っ て,ア ス リー トは 一 般 の ヒ トよ り も タ ンパ ク質 を多 く摂 取 す べ きで あ る.一 般 的 に摂 取 さ れ る食 物 中 タ ンパ ク質 の 利 用 効 率(生 g/kg体
物 価)な
どを 考 慮 す る と,ア
ス リ ー トの タ ンパ ク 質 所 要 量 は1.8∼2.O
重 で あ る とす る 報 告 もあ る.一 般 的 な 言 い 方 をす れ ば,ア
ス リー トは一
般 の ヒ トよ り も1.5∼2倍 の タ ンパ ク質 を摂 取 す る こ とが 勧 め られ よ う. b. ア ミノ 酸 ・タ ンパ ク質 の 摂 取 タ イ ミン グ 運 動 との 関 係 で ど の 時 点 で 筋 タ ンパ ク 質 が 合 成 され るか に 関 して は,ラ
ッ トお
よ び ヒ トにお い て 多 くの研 究 が 行 わ れ た が,そ の 結 果 は いず れ もだ い た い 同 様 で あ る.す
な わ ち,運 動 中 は タ ンパ ク 質 の 分 解 が 亢 進 し,合 成 は低 下 す る.一 方,
運 動 後 で は 逆 に タ ン パ ク質 の合 成 が 亢 進 し,少 な く と も24時 が 保 た れ る こ とが 確 認 され て い る.ヒ
間ほ どはその状態
トにお け る タ ンパ ク 質 合 成 に対 す る運 動 の
表1.3 運 動 中 と運 動 後 の 人筋 肉 に お け る タ ンパ ク質合 成
効 果 の 報 告 を 表1.3に ま と め た. 運 動 に よ り タ ンパ ク質 合 成 が 増 大 す る 時 点 で タ ンパ ク質 ・ア ミノ 酸 を摂 取 す る 必 要 性 が 高 い こ とが 推 察 さ れ る.運 動 後 の タ ンパ ク 質 摂 取 の タ イ ミ ン グ の 重 要 性 を検 討 す る 目的 で,イ
ヌ を用 い て,運 動 直 後 も し く は運 動 終 了2時 間 後 に ア ミ ノ
酸 と グル コ ー ス の 混 合 液 を投 与 して,筋 検 討 され た10).そ の 結 果,ど
タ ンパ ク 質合 成 に効 果 的 な タ イ ミ ン グが
ち らの タ イ ミ ング で 混 合 液 を投 与 して も タ ンパ ク 質
合 成 は増 大 す る が,運 動 直 後 に投 与 した 方 が そ の上 昇 す る レベ ル は 高 か っ た. こ の イ ヌ に お け る所 見 は,そ の 後 に 行 わ れ た ヒ トに お け る い くつ か の研 究 にお い て確 認 さ れ た.す
な わ ち,被 験 者(30∼33歳)に60分
間 の 自転 車 エ ル ゴ メー
タ に よ る 運 動 を負 荷 した 直 後 に タ ンパ ク 質 サ プ リ メ ン ト(組 成:タ g,糖
質8g,脂
肪3g)を
摂 取 させ た 場 合 と,3時
肉 の タ ンパ ク 質 合 成 率 を比 較 した とこ ろ,タ
ンパ ク 質10
間後 に 摂 取 させ た場 合 で,筋
ンパ ク質 合 成 率 は運 動 直 後 摂 取 の 方
が 有 意 に 高 か っ た11).さ ら に,高 齢 被 験 者(約74歳)に,週3回
の レ ジス タ ン
ス トレー ニ ン グ を負 荷 し,そ の トレ ー ニ ン グの 直 後 も し くは2時 間 後 に タ ンパ ク 質 サ プ リ メ ン ト(組 成:タ ンパ ク質10g,糖 プ ロ グ ラ ム を12週
間継 続 した と こ ろ,ト
質7g,脂
肪3g)を
摂 取 させ,こ
の
レ ー ニ ン グ直 後 の サ プ リ メ ン ト摂 取 の
方 が 筋 力 と筋 肉量 の両 者 と も に よ り増 大 して い た12). 一 方,被 験 者 に45∼50分
の レジ ス タ ンス 運 動 を負 荷 し,そ の 直 前 も し くは 直
後 に ア ミノ 酸 サ プ リ メ ン ト(組 成:必 須 ア ミ ノ酸 混 合6g,シ
ョ糖35g)を
摂取
させ る方 法 で,運 動 後 の 筋 タ ンパ ク質 合 成 率 を検 討 した と こ ろ,運 動 直 後 よ りも 運 動 直 前 の 摂 取 に お い て タ ンパ ク 質 合 成 率 が 高 か っ た こ とが 明 ら か に され た13).
図1.12 運 動 との 関 係 に お け る タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 サ プ リ メ ン トの摂 取 タ イ ミ ン グ ア ミ ノ酸 サ プ リメ ン トの 中 で も,特 にBCAAを 中心 と し た サ プ リ メ ン トが 有 効 で あ る と考 え ら れ る.
こ れ ら の 所 見 を ま と め る と,運 も,運
動 後 時 間 を あ け て タ ンパ ク 質 を 摂 取 す る よ り
動 直 後 の 摂 取 の 方 が 筋 タ ン パ ク 質 合 成 率 が よ り 上 昇 し,筋
加 す る よ う で あ る.一
方,レ
ジ ス タ ン ス 運 動 直 前 の ア ミ ノ 酸 摂 取 で は,運
の 摂 取 よ り も 筋 タ ン パ ク 質 合 成 率 が 高 か っ た の で,レ 運 動 直 前 の 摂 取 は 効 果 的 で あ る 可 能 性 が 高 い.結 質
・ ア ミ ノ 酸 の 摂 取 は 効 果 的 で あ り,レ
ア ミ ノ 酸(特
にBCAA)を
ジス タ ンス
た は 食 事)を
ジス タ ンス 運 動 の 場 合 に は
論 と し て,運
動 直 後 の タ ンパ ク の 直 前 に
摂 取 す る と そ れ 以 上 の 効 果 が 得 ら れ る 可 能 性 が あ る. 後 に 技 術 練 習 を 行 い,そ
ト レ ー ニ ン グ を 行 う こ と が 多 い.レ
グ 直 前 に は ア ミ ノ 酸(BCAA)食 品(ま
動 直 後
ジ ス タ ン ス 運 動 の 場 合 に は,そ
実 際 の ス ポ ー ツ ト レ ー ニ ン グ で は,午 (夕 方)レ
力 と筋 肉 量 も 増
品 を 摂 取 し,ト
れ に 引 き続 き
ジ ス タ ン ス トレ ー ニ ン
レー ニ ング 直 後 に タ ンパ ク質 食
摂 取 す る こ とが 筋 肉づ く りに 最 も効 果 的 な処 方 で あ る と考 え
ら れ る(図1.12). 引 用 文 1) Poortmans 2) Rennie
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alters anabolic
response
of
2.運
動 と筋 肉へ の糖吸収機 構
2.1 運 動 時 の 骨 格 筋 エ ネ ル ギ ー 産 生 に お け る糖 代 謝 の 役 割 運 動 す な わ ち 骨 格 筋 の 収 縮 ・弛 緩 の 繰 り返 し に は,ア (adenosine のATPを
5′-triphosphate,ATP)が 消 費 す る こ と に な る.筋
デ ノ シ ン 三 リ ン酸
必 要 で あ り,運 動 時 に は安 静 時 よ り も大 量 肉 の収 縮 ・弛 緩 とい っ た 機械 的 な動 きは,筋
細 胞 中 の ミ オ シ ンATPaseがATPをADPに
分解 す る こ とで 起 こ る.ま た,筋 収
縮 に先 立 っ て 筋 小 胞 体 に 蓄 え られ て い たCa2+は 細 胞 質 に 放 出 さ れ る.こ のCa2+ を,筋
小 胞 体 へ 再 吸 収 す る過 程 に もATPは
胞 で は,消 費 したATPを
利 用 さ れ る.運 動 中 や 運 動 後 の 筋 細
補 充 す る た め 糖(主
酸)・ ア ミノ 酸 を原 料 と してATPを
に グ ル コ ー ス)・ 脂 質(主
産 生 す る 機 構 が 活 性 化 す る.
グ ル コー ス ・脂 肪 酸 ・ア ミ ノ酸 か ら,ATPを よ うに な る.グ
に脂肪
産 生 す る 経 路 は お お よそ 図2.1の
ル コ ー ス は,細 胞 質 に あ る解 糖 系 を経 る こ とでATPやNADHを
産 生 す る.解 糖 系 の 代 謝 産 物 で あ る ピ ル ビ ン酸 は ミ トコ ン ドリ ア 内 に あ るTCA 回 路 に 入 っ て さ ら に代 謝 さ れ る.こ 肪 酸 や ア ミノ酸 の代 謝 産 物 もTCA回 成 す る.こ のNADH,FADH2の
の と きNADH,FADH2が
合 成 され る.こ
化 的 リン 酸 化(oxidative 代 謝 で は ス ク シ ニ ルCoAか を 介 す る こ とで もATPは
濃度勾
成 酵 素 を通 過 して 戻 る と き,
のNADH,FADH2か
phosphorylation)と
生
トコ ン ド リア 内 に あ る 電 子 伝 達
トコ ン ドリ ア の 内 膜 を は さん でH+の
配 が で き る.内 膜 の外 部 か ら内 部 へ とH+がATP合 こ れ と共 役 してATPが
た,脂
路 で さ ら に代 謝 され,NADH,FADH2を
もつ 電 子 が,ミ
系 を経 て 酸 素 に 渡 さ れ る 過 程 で,ミ
生 成 す る.ま
い う.さ
ら のATP合 ら に,TCA回
ら コハ ク酸 を生 成 す る過 程 でGTPが
成 を酸
路 にお ける
生 成 さ れ,こ
れ
生 成 す る.
通 常 の 運 動 で は 主 に糖 ・脂 質 がATP合
成 に用 い られ,ア
ミノ酸 の 占 め る割 合
は 少 な い と考 え られ て い る.安 静 時 や 低 強 度 の 運 動 で はATPの
産 生 に糖 ・脂 質
図2.1 ATPの
産生経路
が 利 用 され,運 動 強 度 の増 大 と と もに糖 の 占 め る割 合 が増 大 す る.運 動 開 始 か ら の 数 分 間 あ る い は 激 しい 運 動 で は,嫌 気 的代 謝 に よ るATP合
成 の 占め る 割 合 が
多 い.運 動 時 間 が 長 く な る に つ れ,好
成 の 割 合 が増 大 す
気 的代 謝 に よ るATP合
る. グ ル コ ー ス か ら も脂 肪 酸 か ら も酸 化 的 リ ン酸 化 を 介 してATPが グ ル コ ー ス か らは 解 糖 を 介 して もATPが
産 生 さ れ,こ
合 成 さ れ る た め 基 質準 位 の リ ン酸 化(substrate-level れ る.解 糖 に よるATP産 コ ー ス を基 質 と してATP産 と(2)酸
れ は 基 質 か ら直 接ATPが phosphorylation)と
生 は酸 化 的 リ ン酸 化 に よ るATP産 生 す る こ との 特 徴 は,解
産 生 され る.
も呼 ば
生 よ り も速 い.グ
糖 系 の(1)速
いATP産
ル 生
素 を 必 要 と しな い 点 に あ る.
収 縮 した骨 格 筋 で利 用 さ れ る グ ル コー ス の 由 来 は,肝 臓 か ら血 流 を介 して 骨 格 筋 へ と供 給 され た もの や,筋 細 胞 内 にあ る グ ル コー ス の貯 蔵 形 態 で あ る グ リ コ ー ゲ ンが 分 解 され た もの で あ る.運 動 後 数 時 間 は骨 格 筋 の糖 取 り込 み速 度 が 増 大 す る.運 動 に よっ て 減 少 した グ リ コー ゲ ン は こ の と き骨 格 筋 に再 蓄 積 さ れ る.
2.2 GLUT4の
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン と 糖 輸 送 促 進
a. 糖 輸 送 担 体 筋 細 胞 へ の グ ル コ ー ス の 供 給 に 関 して,糖 (glucose transport)と
が 細 胞 膜 を 通 過 す る過 程 を糖 輸 送
い う.グ ル コ ー ス は 低 分 子 で あ るが,親 水 性 で あ る た め疎
水 性 の細 胞 膜 を そ の ま まで は透 過 す る こ とが で きな い.グ る糖 輸 送 担 体(glucose
transporter)を
ル コー ス は細 胞 膜 に あ
介 して細 胞 内 に流 入 す る.筋 細 胞 に 限 ら
ず ほ とん どす べ て の 組 織 で糖 輸 送 担 体 は 発 現 し て お り,構 造 や機 能 か ら二つ の グ ル ー プ に大 別 され る1). 一 つ は,濃
度 勾 配 に 従 っ た糖 輸 送(促
進 拡 散)を
呼 ば れ る タ ンパ ク 質 で あ る.こ れ は 図2.2の にN末
端 やC末
端 が あ る構 造 を して い る.現
行 う糖 輸 送 担 体 でGLUTと
よ うな 細 胞 膜 を12回
貫 通 し細 胞 内
在 同 定 さ れ て い るGLUTを
に示 し た.哺 乳 類 の 骨 格 筋 に はGLUT1,3,4,5,8,10,11,12のmRNAあ
表2.1 るいは タ
ンパ ク質 の 存 在 が 報 告 され て い る.運 動 に よ っ て 骨 格 筋 の糖 輸 送 が 増 大 す る仕 組 み に はGLUT4が
関 与 す る.こ の仕 組 み につ い て は 後 で 詳 し く述 べ る.
も う一 つ の グ ル ー プ はATPaseを ば れ る.SGLTは
有 す るNa+依
存 性 の 糖 輸 送 担 体 でSGLTと
呼
濃 度勾 配 に逆 らっ た 糖 輸 送 を 行 う こ とが で き,小 腸 に お い て 消
化 し た食 物 由 来 の糖 が 吸 収 さ れ る と きや,腎 臓 に お い て 原 尿 中 に排 出 され た 糖 が 再 吸 収 さ れ る と き に関 与 す る. b. GLUT4の
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン
運 動 は,筋 細 胞 の糖 輸 送 速 度 を増 大 させ る.こ れ に はGLUT4が
関係 す る こ と
が わ か っ て い る.基 礎 状 態 に お い て 大 部 分 のGLUT4はGLUT4小
胞(GLUT4-
containing vesicle)と
して細 胞 内 部 に存 在 し糖 輸 送 に は 関 与 しな い.筋 肉 が 収 縮
図2.2 細 胞 膜 中のGLUTの
概観
表2.1
(引用 文献1よ
GLUTフ
ァ ミ リー の 特 徴
り改 変)
し た りイ ンス リ ンの 刺 激 を 受 け た りす る と,GLUT4は い はT管)へ tion)と
移 動 す る.こ のGLUT4の
い う.細 胞 表 面 上 のGLUT4が
細 胞 表 面(筋
細 胞膜 あ る
移 動 を トラ ン ス ロケ ー シ ョ ン(transloca増 加 す る こ とで,よ
り多 くの グ ル コ ー ス
が 間質 か ら細 胞 内 に流 入 す る(図2.3). 筋 収 縮 や イ ンス リ ンな どの 刺 激 を受 け た 骨 格 筋 で 糖 輸 送 速 度 が 増 大 す る主 な 理 由 は,細 胞 膜 上 のGLUT4分
子 数 が 増 加 して 最 大 輸 送 速 度(Vmax)が
とで あ る.糖 輸 送 速 度 の 増 大 に はGLUT4そ
増加 す る こ
の もの の 構 造 が 変 化 し て,GLUT4
1
分 子 当 た りの 輸 送 速 度 の亢 進(輸 送 比 活 性 の 亢 進)が 寄 与 す る可 能 性 も考 え られ る.し
か し,ラ
ッ ト骨 格 筋 を用 い た 研 究 か ら,細 胞 表 面 のGLUT4分
送 速 度 は 緊密 に 相 関 す る こ とや2),グ
子 数 と糖 輸
ル コ ー ス に対 す る基 質 親 和 性(Km)は
変化
しな い こ とか ら3,4),仮に輸 送 比 活 性 の 亢 進 が 生 じて い る と して もそ の役 割 は大 き くな い も の と考 え られ る. 活 動 筋 で は筋 血 流 が 増 加 して,筋 細 胞 へ の酸 素 や エ ネ ル ギ ー基 質 の 供 給 が 促 進 さ れ る.酸 素 に 関 して は,血 液 中 か ら筋 組 織 へ の 拡 散 に よ っ て酸 素 供 給 が 行 わ れ る た め,血 流 は きわ め て重 要 な 役 割 を 有 す る.一 方,骨 格 筋 が グ ル コ ー ス を 代 謝
図2.3 IRS:イ
骨 格 筋 のGLUT4ト
ン ス リ ン 受 容 体 基 質(insulin
protein
kinase,
kinase,
AMPKK:AMPK
Cr:ク
レ ア チ ン,
ラ ンス ロ ケ ー シ ョ ン機 構
receptor CrP:ク
substrate),CaMK:Ca2+/calmodulin-dependent
レ ア チ ン リ ン 酸,
AMPK:5′-AMP-activated
protein
kinase
し利 用 す る 場 合,虚
血 や 阻血 の な い 通 常 の状 況 で は血 流 が 制 限 因子 とは な らず,
グ ル コー ス が 細 胞 膜 を通 過 して 細 胞 内 に取 り込 まれ る 糖 輸 送 過 程 が 律 速 段 階 と な る と考 え られ て い る5,6). 筋 収 縮 に伴 う糖 輸 送 速 度 の 増 大 は 収 縮 終 了 後 も数 時 間 持 続 す る.こ れ まで に詳 細 な 検 討 は行 わ れ て い な い が,収 縮 の 強 度 や 時 間 に よ っ て,糖 輸 送 の持 続 時 間や 程 度 が 規 定 され る こ とが 予 想 さ れ る.筆 者 らが,単 離 した ラ ッ ト骨 格 筋 を用 い て 行 っ た 検 討 で は,緩 52%の
衝 液 中 で10分
間 の 電 気 刺 激 に よ る筋 収 縮 終 了60分
後 に,
糖 輸 送 活 性 の残 存 を認 め て い る7).
2.3 筋 収 縮 が 糖 輸 送 を 促 進 す る メ カ ニ ズ ム a. 筋 収 縮 は筋 細 胞 内 の代 謝 変 化 を感 知 して 糖 輸 送 を促 進 す る 運 動 を行 っ た と き,糖 輸 送 が促 進 す る の は実 際 に収 縮 を行 っ た筋 で あ る.収 縮 して い な い筋(非
活 動 筋)で
は糖 輸 送 速 度 を増 大 させ る こ と は不 要 で あ り,実 際
に糖 輸 送 は促 進 さ れ な い.し
た が っ て,活 動 筋 に の み惹 起 され て,非 活 動 筋 に は
惹 起 され な い 糖 取 り込 み 速 度 増 大 の メ カニ ズ ムが 存 在 す る こ と に な る.筋 の 収 縮
は イ ン ス リ ン な どの 液 性 因 子 や 神 経 性 調 節 を 介 す る こ とな しにGLUT4の
トラ ン
ス ロ ケ ー シ ョ ン を惹 起 す る こ とが で きる.こ れ は 骨 格 筋 を単 離 して 緩 衝 液 中 で 電 気 刺 激 に よ っ て 収 縮 させ る と,筋 が 緩 衝 液 中 の 糖 を 取 り込 む こ とで 確 認 さ れ て い る8).後 述 す る イ ン ス リン 依 存 的 糖 輸 送 促 進 と区 別 さ れ,筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 促 進 は イ ン ス リ ン非 依 存 的 糖 輸 送 促 進 と呼 ば れ る. 筋 収 縮 に と も な う筋 細 胞 の変 化 は 多 様 で あ り,収 縮 時 の筋 細 胞 は,細 胞 内 エ ネ ル ギ ー状 態 に 関 連 す る物 質(AMP,ATP,ク ど)やCa2+濃
度,pH,酸
レ ア チ ン リ ン酸 ,グ
化 還 元 状 態 の 変 化,細
リ コー ゲ ン な
胞 壁 や 細 胞 骨 格 の 収 縮 と伸 張 な
ど多 様 な代 謝 的,機 械 的刺 激 に さ ら され て い る.こ れ らの い ず れ もがGLUT4の トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンを 生 じ る細 胞 内 シグ ナ ル伝 達 カス ケ ー ドの 起 点 と な る 可 能 性 が あ り,こ れ ま で に 多 くの 仮 説 が 提 唱 され て き た.こ な,細
胞 内 の エ ネ ル ギ ー状 態 の 変 化 やCa2+濃
こ で は,現
時点 で有力
度 の 変 化 を起 点 とす る カ ス ケ ー ド
お よ び,最 近 報 告 され た酸 化 還 元 状 態 の 関与 につ い て紹 介 す る. b. エ ネ ル ギ ー状 態 の 変 化 と糖 輸 送 促 進 1) エ ネ ル ギ ー 状 態 の低 下 と5′-AMP-activated 動 に よ っ て 消 費 され たATPはADPと late kinase)に
よ っ てAMPへ
示 した.ATPや
運
な り,こ れ が ア デ ニル 酸 キ ナ ー ゼ(adeny
と変 え られ る.ま
生 に ク レ ア チ ン リ ン酸 が 使 用 され,ク
protein kinase活 性 化
た,運 動 初 期 に は迅 速 なATP再
レア チ ンが 生 成 す る.こ の 様 子 を 図2 .4に
ク レア チ ン リ ン酸 の 減 少,AMPや
ク レ ア チ ンの 増 大 は,エ
ギ ー 状 態 低 下 の指 標 と な る.
図2.4 筋 収 縮 は高 エ ネ ル ギ ー リ ン酸 化 合 物 を消 費す る
ネル
筋 収 縮 が 引 き 起 こ す 糖 輸 送 の 促 進 はATPや す る9)こ と か ら,筋
細胞 の
ク レ ア チ ン リ ン酸 の 減 少 量 と 相 関
「エ ネ ル ギ ー セ ン サ ー 」 と し て 働 く分 子 が 糖 輸 送 速 度
の 増 強 に 関 与 す る こ とが 想 定 さ れ て い た.こ を 備 え て い る 分 子 と し て5′-AMP-activated
の エ ネ ル ギ ー セ ンサ ー と して の性 質 protein kinase(AMPK)が
注 目 さ れ,
多 く の 研 究 者 に よ っ て 筋 収 縮 に よ る 糖 輸 送 促 進 と の 関 与 が 示 さ れ て き た. AMPKは
そ の 名 称 の 由 来 と な っ たAMPに
少 の 指 標 で あ るAMP:ATP比
の 上 昇,ク
と も な っ て 活 性 化 さ れ る10).AMPの 性 化 す る.さ
る 構 造 変 化 は 直 接AMPKを く し,脱
結 合 は ア ロ ス テ リ ッ ク な 作 用 でAMPKを kinase(AMPKK)に
リ ン 酸 化 に よ っ て もAMPKは
解 離 す る こ と でAMPK活
ネ ル ギ ー減
レ ア チ ン:ク レ ア チ ン リ ン酸 比 の 上 昇 に
ら に 上 流 分 子 で あ るAMPK
ッ ト(Thr172)の やAMPが
よ っ て だ け で は な く,エ
活
よる αサブユ ニ
活 性 化 す る11).逆
性 は 低 下 す る.AMPが
に,脱
リ ン酸 化
結 合 す る こ とで 生 じ
活 性 化 す る だ け で な く,AMPKを
リ ン酸 化 さ れ や す
リ ン 酸 化 さ れ に く くす る.
一 般 的 に,AMPKの
活 性 化 と 糖 輸 送 促 進 に は 強 い 関 連 が 認 め ら れ る.AMPK
活 性 化 剤 で あ る5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-β-D-ribonucleoside (AICAR)を GLUT4量
ラ ッ ト骨 格 筋 に 作 用 さ せ る とAMPK活 が 増 加 し,糖
い 強 度,長 し,こ
性 化 とと もに細 胞膜 上 の
輸 送 が 促 進 す る12,13).ま た,ラ
ッ ト骨 格 筋 の 検 討 で,高
時 間 の 運 動 や 高 い 張 力 を 発 揮 す る 運 動 ほ どAMPKが
の 活 性 化 と と も に 糖 輸 送 が 促 進 す る7,14).逆 に,ラ
十 分 な 食 事 を 与 え,グ supercompensated 制 さ れ る15).ま
ッ トを 運 動 させ た 後 に
リ コ ー ゲ ン を 前 値 以 上 に 蓄 積 さ せ た 骨 格 筋(glycogen-
muscle)で た,筋
は,筋
収 縮 に よ るAMPK活
収 縮 以 外 に も,低
酸 素,浸
性 化 と糖 輸 送 促 進 が 抑
透 圧,酸
化 的 リ ン酸化 阻害 剤 な
ど に よ っ て 筋 細 胞 の エ ネ ル ギ ー 状 態 を 低 下 さ せ て も,AMPK活 輸 送 促 進 が 観 察 さ れ る16).さ のAMPK活
ら に,kinase-dead
AMPKは
強 制 発 現 させ て 骨 格 筋
格 筋 に は α サ ブ ユ ニ ッ トが2種
久 運 動 レベ ル の 運 動(50∼70%Vo2max)を60分
むAMPK(AMPKα2)の
収 縮 に よ
抑 制 さ れ る17).
α ・β ・γ サ ブ ユ ニ ッ トか ら な る 三 量 体 で,そ
ニ ッ トに 存 在 す る.骨 る.持
AMPKを
性 化 と と も に糖
性 を 抑 制 し た ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス の 骨 格 筋 で は,筋
る 糖 輸 送 促 進 が 対 照 マ ウ ス の60∼70%に
よ り 強 く活 性 化
み が 活 性 化 さ れ る が18),自
の触 媒 部 位 は αサ ブユ
類(α1,α2)発
現 して い
間 行 っ た 場 合 で は α2を 含 転 車 運 動 を30秒
間全 力 で 行
っ た 場 合 α1を 含 むAMPK(AMPKα1)が と か ら,AMPKは
あ わ せ て 活 性 化 さ れ る19).こ
運 動 強 度 の 増 加 に 伴 っ て ま ずAMPKα2が
上 が る とAMPKα1も
く,AMP濃
活 性 化 さ れ,強
活 性 化 さ れ る と考 え ら れ て い る.AMPKα2を
化 さ せ る 機 序 の 一 つ と し て,AMPKα2はAMPKα1に
比 べ てAMP依
は 異 な る 性 質 が 観 察 さ れ て い る が,薬
度が
優 先 的 に活 性 存性 が大 き
度 の 上 昇 に 鋭 敏 に 応 答 す る こ と が 考 え ら れ て い る20).こ
AMPKα1とAMPKα2で
れ らの こ
の よ うに
理刺激 や遺伝子操
作 に よ っ て 片 方 の ア イ ソ フ ォ ー ム の み が 活 性 化 す る 条 件 を 用 い た 検 討 か ら7,21∼24), い ず れ の ア イ ソ フ ォ ー ム も 糖 輸 送 促 進 に 関 与 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る. 2) AMPKの
上流
が 示 唆 さ れ て い る.運 る.LKB1遺
AMPKの
上 流 で あ るAMPKKは
複数種 類存在 す るこ と
動 時 の 糖 輸 送 促 進 と 関 連 が 深 い も の にLKB1複
伝 子 はSTK11と
も い い,も
と も とPeutz-Jeghers症
合体 が あ
候群 におい てそ
の 変 異 が 発 見 さ れ て い た こ と か ら 癌 抑 制 遺 伝 子 と 考 え ら れ て い た.LKB1遺 の 変 異 を も つPeutz-Jeghers症 あ る.し
か し,ラ
候 群 の 症 状 はAMPKの
機 能 と無 関係 な表 現 型 で
ッ ト肝 臓 か ら 精 製 し たAMPKKの
解 析 か ら,LKB1がAMPKK
で あ る こ と が 明 ら か に な っ た25).LKB1もAMPKと ニ ン(Thr)キ
ナ ー ゼ で あ り,三
tor protein)とMO25(mouse せ26),LKB1を
伝子
同 様 に セ リ ン(Ser)・
ス レオ
量 体 を 形 成 す る.STRAD(Ste20-related
protein 25)と
の 複 合 体 形 成 はLKB1活
細 胞 質 内 へ 局 在 化 さ せ る27).LKB1複
adap 性 を増 大 さ
合 体 は 常 に 活 性 型 で あ り,
骨 格 筋 が 収 縮 し た と き に 活 性 が 増 加 す る わ け で は な い と 考 え ら れ て い る28).筋 収 縮 時 にLKB1の AMPK自
作 用 に よ っ て よ り多 く のAMPKが
身 の 構 造 変 化 に よ る もの と推 察 さ れ て い る28).筋
AMPがAMPKと
結 合 す る こ と で,AMPKが
は 細 胞 内 で リ ン 酸 化 さ れ てAMPの と 考 え ら れ て い る.LKB1を AICAR刺
リ ン 酸 化 さ れ 活 性 化 す る の は,
のLKB1を
リ ン 酸 化 さ れ や す く な る.AICAR
類 似 物 質 と な る こ と でAMPKを
有 し な い 細 胞 へLKB1を
激 に 応 答 し てAMPKが 欠 失 し た マ ウ ス で は,筋
収 縮 に よっ て 増 大 した
導 入 す る こ と に よ っ て,
リ ン 酸 化 さ れ る よ う に な る25).さ 収 縮 やAICARに
活性 化す る
よ るAMPKの
らに 骨 格 筋 中 活性化が抑 制
さ れ る29). 筋 収 縮 時 の 糖 輸 送 促 進 へ の 関 与 は 不 明 で あ る が,別 calmodulin-dependent AMPKの
protein
kinase
酵 母 に お け る ホ モ ロ グ で あ るSNF1を
のAMPKKと
kinase(CaMKK)が
し てCa2+/ あ る.ま
ず,
リ ン 酸 化 す る 酵 素 と し てPaklp,
Tos3pやElmlpが
同 定 さ れ た.こ
れ らの 哺 乳 類 に お け る ホ モ ロ グ の 中 で 最 も配
列 が 類 似 して い る キ ナ ーゼ がCaMKKで い てCaMKKが
精 製 したAMPKを
あ る.1995年
に は,in
し,肝 臓 か ら粗 精 製 され たAMPKK(後
にLKB1と
判 明)がCaM非
り,酵 素 の性 質 が 異 な る こ とか らin vivoのAMPKKで の 後,LKB1を LKB1以
欠 失 し た 細 胞 で もAMPKの
外 のAMPKKの
り,Ca2+やcalmodulin依
依 存的 であ
は な い とさ れ て い た.そ
リ ン酸 化 が 引 き起 こ され る こ と か ら
存 在 が 示 唆 さ れ,2005年
こ とが 示 さ れ た31).CaMKKに
vitroの 検 討 に お
リ ン酸 化 す る こ とが 確 認 さ れ て い た30).し か
よ るAMPKの
に な っ て 再 びAMPKKで
リ ン酸 化 はAMP非
ある
依 存 的に起 こ
存 的 で あ る こ とか ら32),次 に 紹 介 す る カ ル シ ウ ム シ グ
ナ ル との ク ロ ス リ ン クが 予 想 され る. c. カ ル シ ウ ム 濃 度 の 変 化 と糖 輸 送 促 進 1) 筋 収 縮 ‐弛 緩 サ イ ク ル と細 胞 内 の カル シ ウ ム 濃 度
筋 収 縮 は神 経 か らの
興 奮 が 筋 細 胞 膜 の脱 分 極 を 引 き起 こす こ とか ら始 ま る.細 胞 膜 の興 奮 は 横 行 小 管 (transverse tubule,T管)を
経 由 して 筋 細 胞 の 細 胞 質 に存 在 す る筋 小 胞 体(sar
coplasmic
伝 達 され る.SRに
reticulum,SR)に
はCa2+が
蓄 え られ てお り,興 奮
が 伝 わ る とCa2+を 細 胞 質 内 に放 出 す る.細 胞 質 内Ca2+濃
度 の 上 昇 は トロ ポ ミオ
シ ン上 に あ る トロ ポ ミ ンに 結 合 し,結 果 と して トロ ポ ミ ン の構 造 を変 化 させ る. も と も と トロ ポ ミ ン は ア クチ ン-ミ オ シ ンの 結 合 を抑 制 して い る が,ト の 構 造 が 変 化 す る こ とで 抑 制 が 解 除 され,ア
クチ ンーミ オ シ ン の 結 合 が 開 始,す
な わ ち筋 収 縮 が 開 始 す る.こ の よ う に,筋 収 縮 は筋 細 胞 内 のCa2+濃 よ っ て 起 こ る.SRに た め,細
あ るCa2+-ATPaseは
常 に,Ca2+をSRに
胞 内 に 広 が っ たCa2+は や が てSRに
ロポ ミン
度 の上 昇 に
能 動 輸 送 して い る
回収 さ れ る.
2) カ ル シ ウ ム 濃 度 の 変 化 に よ る糖 輸 送 促 進 の メ カ ニ ズ ム
前 述 した よ う に
筋 収 縮 ‐弛 緩 サ イ ク ル に お い て細 胞 内 カ ル シ ウ ム 濃 度 は ダ イ ナ ミ ッ ク に変 化 す る た め,こ
れ が 筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 促 進 の 起 点 で あ る 可 能 性 は 古 くか ら検 討 され て
きた.筋
小 胞 体 か らのCa2+の
を用 い て,ラ
放 出 を 誘 導 す る 薬 物W-7や
ッ ト骨 格 筋 の 細 胞 内Ca2+の
カ フ ェ イ ン(caffeine)
増 加 を生 じ させ る と,そ れ に 伴 っ て 糖
輸 送 速 度 が 増 大 す る33).さ ら に,W-7に
よ る糖 輸 送 促 進 は,筋
Ca2+放 出 を 阻 害 す る薬 剤 で あ るdantroleneや9-aminoacridineに る33).ま た,AMPK活
性 化 剤 で あ るAICARと
小 胞 体 か らの よ っ て抑 制 され
カ フ ェ イ ンで 同 時 に 筋 を刺 激 した
場 合,そ
れ ぞ れ の 単 独 刺 激 よ りも糖 輸 送 速 度 が 増 大 す る(加 算 効 果)34).こ れ ら
の こ と は糖 輸 送 促 進 に 関 与 す る 経 路 と して,AMPKを
介 す る経 路 以 外 にCa2+を
介 した経 路 が 存 在 す る こ と を示 唆 す る. Ca2+濃 度 変 化 を 感 知 し て 糖 輸 送 促 進 を 誘 導 す る 分 子 メ カ ニ ズ ム に 関 し て, Ca2+感 受 性protein し な が ら,PKC阻
kinase
C(PKC)の
関与 の 可 能 性 が 検 討 され て きた.し
害 剤 の 種 類 に よ っ て 得 られ る 結 果 が 異 な る な ど14)確立 し た 見
解 は得 られ て い な い.一 方,近 年,Ca2+/calmodulin-dependent Ⅱ(CaMK で,KN62が
か
Ⅱ)が 注 目 さ れ る よ う に な り,CaMK阻 イ ンス リ ンやAICARに
protein kinase
害 剤(KN62)を
用 いた検 討
よ る骨 格 筋 糖 輸 送 を阻 害 し な い 条 件 で,カ
フ ェ イ ン に よ る糖 輸 送 を完 全 に抑 制 す る こ とや 筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 も約50%抑 制 す る こ とが 報 告 さ れ て お り34),CaMKを
介 した 経 路 の 関 与 が 示 唆 され る.
d. 細胞 以 内 の 酸 化 還 元 状 態 の 変 化 と糖 輸 送促 進 1) 酸 化 ス トレス とは (活 性 酸 素 種,活
運 動 時 に 限 らず 安 静 時 に お い て も筋 細 胞 は 酸 化 物 質
性 窒 素 種)を
生 成 す る が(表2.2),安
静 時は 内因性の抗 酸化 物
質 に よっ て 酸 化 還 元 状 態 が 維 持 さ れ て い る.筋 収 縮 は酸 化 物 質 の 生 成 を促 進 し, 酸 化 反 応 を促 進 す る物 質(prooxidant)と
抗 酸 化 物 質 の バ ラ ンス を酸 化 側 へ と傾
け る.こ れ を酸 化 ス トレス と い う35). ミ トコ ン ド リア の電 子伝 達 系 は 酸 化 物 質 の 主 要 な発 生 源 で あ る と考 え ら れ て い る36).酸 素 が 使 わ れ る 際,一 部 の 酸 素 は 反 応 の 途 中 で 反 応 複 合 体 か ら放 出 さ れ る (図2.5).こ
の と き,酸 素 はス ー パ ー オ キ シ ドア ニ オ ン(O2・-)の
これ は 強 力 な酸 化 物 質 で あ る.前 述 の とお り筋 収 縮 は多 くのATPを 表2.2 活性酸素種と活性窒素種
形 を して お り, 消 費 しADP
図2.5 ミ トコ ン ドリ ア の 呼 吸鎖 に お け る 電 子伝 達 体 の 配 列 とス ー パ ー オ キ サ イ ドの 生 成
を 産 生 す る.酸 化 的 リ ン酸 化 に よ るATP産 る.こ
れ を呼 吸 調 節(respiratory
生 速 度 はADP濃
control)と
度 によって調節 され
い い,ADP濃
度 の増 大 は酸 化 的 リ
ン酸 化 を促 進 す る.こ の ため 筋 収 縮 は酸 化 的 リ ン酸 化 の速 度 を増 大,つ
ま り電 子
を供 与 さ れ る 酸 素 の 量 を増 大 さ せ,結 果 と してO2・-の 生 成 量 を増 大 させ る37).ま た,骨 格 筋 に は 他 の 活 性 酸 素 種 発 生 源 と して 細 胞 質 のNAD(P)H
oxidase38),細
胞 内 に浸 潤 して くる 食 細 胞 や39),キ サ ンチ ン オ キ シ ダー ゼ を有 す る上 皮 組 織 な ど が 考 え ら れ て い る40).骨 格 筋 に は2種 ronal NOS,endothelial る ため,こ
NOS)が
類 の 一 酸 化 窒 素(NO)合
成 酵 素(neu
発 現 して お り,運 動 時 に はNOの
産 生が増大す
れ も活 性 窒 素 種 と して 酸 化 ス トレス に関 与 す る とい え る41).
2) 酸 化 ス トレ ス に よ る骨 格 筋 糖 輸 送 促 進
骨 格 筋 は,収 縮 が起 こ る た び に
酸 化 物 質 の 生 成 を促 進 し て酸 化 還 元 状 態 のバ ラ ンス を変 化 させ る た め,こ の 変 化 を シ グ ナ ル と し て利 用 す る 組 織 と考 え られ る.ま
た,酸 化 物 質 はATPの
産生機
構 か ら発 生 す る た め,酸 化 ス トレス はエ ネ ル ギ ー 代 謝 を調 節 す る と考 え られ る. 1990年 に はH2O2を
含 む 緩 衝 液 中 で,ラ
ッ ト単 離 骨 格 筋 を処 理 す る と筋 の 糖 輸
送 速 度 が 増 大 す る こ とが 報 告 さ れ た42).こ の と きH2O2は
イ ンス リ ン様 の 作 用 を
もつ と だ け 考 え られ て お り,糖 輸 送 促 進 の 機 序 は 検 討 さ れ て い な か っ た.そ 後,活
性 窒 素 種 で あ るNOを
prusside(SNP)も H2O2に
供 給 す る 試 薬(NO
donor)で
あ るsodium
の
nitro
単 離 骨 格 筋 の糖 輸 送 を促 進 す る こ とが 報 告 さ れ た22).ま た,
よ る糖 輸 送 促 進 は抗 酸 化 剤 で あ るN-ア
セ チ ル シ ス テ イ ン に よ って 抑 制 さ
れ た23).こ れ ら の報 告 は酸 化 ス トレ ス が 骨 格 筋 に お い て 糖 輸 送 を促 進 す る こ と を
示 唆 す る. 酸 化 ス トレス に よ る糖 輸 送 促 進 に はAMPKが い る.SNPやH2O2はAMPKα1を
下 を伴 っ て い な い22,23).一方,AMPKα2は ス は 細 胞 内AMP量 AMPKを
関 与 して い る こ とが 示 唆 さ れ て
活 性 化 し,こ の 活 性 化 は エ ネ ル ギ ー状 態 の低
の 増 大,す
活 性 化 され ない こ とか ら,酸 化 ス トレ
な わ ち エ ネ ル ギ ー 状 態 の 低 下 とは 異 な る経 路 で
活 性 化 す る と考 え ら れ る.何
が 酸 化 ス トレ ス を感 知 し て い るか は 明 ら
か で は な い が,酸 化 ス トレス に よ るAMPKα1の 化 を 伴 う こ と か ら,AMPKα1の
活 性 化 はAMPKKに
よ る リ ン酸
上 流 に は 酸 化 ス トレス セ ンサ ー が 存 在 す る こ と
が 示 唆 され る.
2.4 運 動 に よ る イ ン ス リ ン 感 受 性(イ
ン ス リ ン 依 存 性 糖 輸 送)の
亢進
a. イ ン ス リン に よ る糖 輸 送 促 進 イ ン ス リ ン は〓 臓 のB細 チ ド(A鎖,B鎖)が ず,プ
胞 で 産 生 され るペ プ チ ドホ ル モ ンで あ る.2本
二 硫 化 結 合(S-S結
合)で
つ な が っ た構 造 を して い る.ま
レプ ロ イ ンス リ ンが つ く られ,小 胞 体 へ 移 動 す る と きに,ペ
が 切 り離 され て プ ロ イ ンス リ ンに な る.さ
めCペ
ンス リ ン とCペ
泌 顆 粒 中 に は イ ン ス リ ン とCペ
プ チ ドは 同 時 に 放 出 され る.こ
プ チ ドは 内 因 性 の イ ンス リ ン濃 度 の 指 標 と な る.血
ス リ ン は ヒ トで は約5分 (Tyr)キ
で 半 減 す る.イ
ナ ー ゼ で あ り,α
プ チ ドの 一 部
らに 分泌 顆 粒 に て プ ロ イ ンス リ ンか ら
Cペ プ チ ドが 切 り離 さ れ イ ンス リ ンに な る.分 プ チ ドが 等 し く存 在 し,イ
のペ プ
のた
中 に放 出 さ れ た イ ン
ン ス リ ン受 容 体 は 膜 貫 通 型 チ ロ シ ン
と β の サ ブ ユ ニ ッ トか らな る ヘ テ ロ 四 量 体 で あ る.
イ ンス リ ン受 容 体 に結 合 した イ ンス リ ンは 受 容 体 ご と細 胞 質 内 に 入 り込 み,イ
ン
ス リ ンプ ロ テ ア ー ゼ に よっ て分 解 され る.イ
ンス リ ン受 容 体 は 全 身 に普 遍 的 に存
在 す るが,分
肝 臓 や 腎 臓 で分 解 され る.
泌 され た イ ンス リ ンの 約80%は
イ ンス リ ン の生 理 作 用 は臓 器(脂 な るが,こ
れ を列 挙 す る と,糖
合 成 の 促 進,タ 化,グ
の他)に
よ って 異
・ア ミノ酸 ・K+の 取 り込 み の促 進,タ
肪 組 織,骨
格 筋,肝 臓,そ
ンパ ク 質
ンパ ク質 分 解 の抑 制,解 糖 系 酵 素 ・グ リ コ ー ゲ ン合 成酵 素 の 活 性
リ コ ー ゲ ン ホ ス ホ リ ラ ー ゼ や 糖 新 生 酵 素 の 抑 制,脂
合 成 の 促 進 な どが あ げ られ る.骨 格 筋 に お け る 作 用 は,糖
質 合 成 酵 素 のmRNA
K+・ ケ トン体 の 取 り込 み促 進,グ
輸 送 ・ア ミ ノ 酸 ・
リ コ ー ゲ ン合 成 ・タ ンパ ク 質 合 成 の 促 進,タ
ンパ ク質 分 解 の 抑 制 が あ げ られ る. イ ンス リ ン依 存 的糖 輸 送 促 進 の シ グ ナ ル は次 の よ うに伝 わ る(図2.3).イ リ ンが イ ンス リ ン受 容 体 の 細 胞 外 の 部 位 に結 合 す る と,イ 質 側 にあ るTyrキ
ンス
ンス リ ン受 容 体 の 細 胞
ナ ー ゼ が 活 性 化 す る.活 性 化 した 受 容 体 は 自身 のTyr残
基を
リ ン酸 化 し さ ら に活 性 化 す る.こ の よ う に して活 性 化 し た イ ンス リ ン受 容 体 は イ ン ス リン 受 容 体 基 質1(IRS-1)を
リ ン酸 化 す る.リ
ナ ー ゼ(phosphatidyl-inositol-3′-kinase)が る.PI3キ
ン酸 化 したIRS-1にPI3キ
結 合 して,PI3キ
ナーゼが活性 化す
ナ ー ゼ 以 後 の 経 路 は明 らか で は な い が,細 胞 膜 を構 成 す る リ ン脂 質 か
ら のphosphatidyl-inositol-3′,4′,5′-triphosphateの生 成,PDK(3′-phosphoinositide-dependent
kinase)の
活 性 化,Aktの
活 性 化 とい う経 路 が 考 え られ て い る.
イ ンス リ ン刺 激 は 最 終 的 に は細 胞 膜 上 のGLUT4量
を増 大 させ,糖
輸 送 を促 進 す
る. b. 運 動 と イ ン ス リ ン感 受 性 筋 収 縮 は イ ン ス リ ン非 依 存 的 に 糖 輸 送 を促 進 す る だ け で な く,さ ら に イ ン ス リ ン依 存 的 な糖 輸 送 促 進 を増 強 す る(イ ス リ ン感 受 性 と は,あ す43).ま た,イ う.ヒ
ン ス リ ン感 受 性 の 亢 進)作
用 が あ る.イ
ン
る濃 度 の イ ン ス リ ンが 引 き起 こ す 生 理 作 用 の 程 度 を 表
ンス リ ン に よ る 生 理 作 用 の 最 大 値 を特 に イ ンス リ ン 反 応 性 とい
トの イ ンス リ ン感 受 性 の 評 価 方 法 は 多種 多 様 で あ る.た
とえ ば,全
イ ンス リ ン状 態 に お い た と きの 糖 取 り込 み 速 度 を評 価 す る 方 法(高 常 血 糖 ク ラ ン プ法),グ ン濃 度 か らの 算 出(ミ
身を高
イ ン ス リ ン正
ル コー ス を静 注 した 際 の グ ル コ ー ス の 消 失 率 と イ ンス リ ニ マ ル モ デ ル法),空
腹 時 血 中 イ ンス リ ン濃 度,経
荷 試験 時 の 血 糖 値 と血 中 イ ンス リ ン値 か ら算 出 した値,イ
口糖 負
ンス リ ン を静 注 した 際
の血 糖 の 低 下 の 仕 方 な どが あ る.ヒ
トに お け る研 究 か ら運 動 に よ る全 身 の イ ンス
リ ン感 受 性 の亢 進 は64%Vo2max,60分
間 程 度 の 有 酸 素 運 動 を行 っ た 後 少 な くと
も2日 間 持 続 す る44). 単 離 骨 格 筋 の糖輸 送 に 関 し て,イ よる糖 輸 送 で評 価 さ れ る.ラ
ンス リ ン感 受 性 は 最 大 下 の イ ン ス リ ン刺 激 に
ッ トを用 い た 検 討 か ら,イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 は
運 動 終 了 後 数 時 間 を経 て か ら認 め られ る こ とか ら45),運 動 中 の 骨 格 筋 に お け る糖 輸 送 速 度 増 加 とは 区別 され る.こ の イ ンス リ ン感 受性 の 亢 進 も イ ンス リ ン非 依 存 的糖 輸 送 促 進 と同 様 に,運 動 を行 っ た 筋 に 限 られ る現 象 で あ り,そ の本 態 は イ ン
ス リ ン刺 激 に 対 して よ り多 くのGLUT4が のGLUT4が
トラ ン ス ロケ ー シ ョン して細 胞 表 面 上
増 加 す る こ とで あ る46).し か し な が ら,筋 収 縮 とい う刺 激 が イ ンス
リ ン シ グ ナ ル伝 達 経 路 の どの ポ イ ン トに作 用 して い る の か は明 らか で な い.運 動 後 数 時 間 を経 て イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 が 認 め られ る状 況 下 で 採 取 した 骨 格 筋 に お け る検 討 で,イ
ンス リ ン受 容 体 か らAktま
で の シ グ ナ ル が 増 大 され て い な い こ と
(ラ ッ ト46,47),ヒト48,49)),運動 が イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 させ る だ け で な く低 酸 素 やH2O2刺
激 に よ る糖 輸 送 も促 進 す る こ と(ラ ッ ト42))か ら,GLUT4ト
ランス
ロ ケ ー シ ョ ン機 構 そ の もの あ る い は そ の 近 傍 に作 用 す る可 能性 が 考 え られ る . 一 方,ラ
ッ トを実 際 に運 動 させ た場 合 や 麻 酔 下 の ラ ッ トを電 気 刺 激 す る こ とで
筋 収 縮 を起 こ した場 合 と異 な り,骨 格 筋 を単 離 して 電 解 質緩 衝 液 中 で 収 縮 させ る とイ ン ス リ ン感 受 性 の 亢 進 が 起 こ ら な い42).し か し,電 解 質 緩 衝 液 中 に血 清 を添 加 して お く と イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 が 認 め られ る50).こ の こ とは,筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 に,血 清 に含 まれ る何 らか の液 性 因 子 が 関 与 す る可 能性 を示 す.そ
の 因 子 は,ト
ら分 子 量1万
リプ シ ン処 理 に よ っ て失 活 す る こ とや,限 外 濾 過 実 験 か
以 上 の 分 子 が 示 唆 され る こ とか ら,何 らか の タ ンパ ク質 で あ る こ と
が 推 定 さ れ て い る50).ま た,タ
ンパ ク 質 合 成 阻 害 剤 で あ るcycloheximideを
作用
させ て も,筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 は 阻害 され な い こ とか ら,筋 細 胞 内 の タ ンパ ク質 の合 成 は 関 与 して い な い こ とが 示 唆 さ れ る. 運 動 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 は筋 グ リ コ ー ゲ ンが 多 く消 費 され る よ うな 運 動 ほ ど長 時 間持 続 し,運 動 後 の 炭 水 化 物 の 摂 取 に よ って 早 期 に低 下 す る.こ の こ と は グ リ コ ー ゲ ンが イ ンス リ ン感 受 性 の 制 御 に 直接 関 与 す る可 能 性 を示 す.し か し,両 者 は 必 ず し も相 関 せ ず47,51),グ リ コー ゲ ン 自体 が イ ンス リ ン感 受性 制 御 の 中 心 的 役 割 を担 う可 能 性 は否 定 的 で あ る.ま た,グ
リ コー ゲ ン量 と相 関 す る糖
代 謝 産 物 が イ ンス リ ン感 受 性 を規 定 す る 可 能 性 も考 え られ,そ の 観 点 か らUDPN-acetylhexosamineに
関 して の 検 討 が 行 わ れ た が,両
者 の 関 係 に は解 離 が 認 め
られ る52). Fisherら
は,ラ
ッ ト摘 出 筋 を血 清 の存 在 下 でAICARに
よ っ て刺 激 す る と,筋
収 縮 刺 激 と 同 様 に イ ンス リ ン感 受 性 が 亢 進 す る こ と を報 告 し,運 動 時 のAMPK 活 性 化 が 関与 す る可 能 性 を明 らか に した47).同 様 の処 置 を初 代 ヒ ト筋 細 胞 に 施 し て もイ ンス リ ン感 受 性 亢 進 が 惹 起 され な い こ とか ら53),幼 弱 筋 細 胞 と成 熟 筋 細 胞
に お け る何 らか の 差 異 が イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 の 有 無 を決 定 して い る こ と が示 唆 さ れ る. Kimら
は,ラ
ッ ト単 離 筋 を 用 い て,さ
受 性 の 関 係 を調 べ た検 討 か ら,グ
ま ざ ま な 条 件 の 筋 収 縮 とイ ン ス リ ン感
リ コ ー ゲ ン の 減 少 やAMPK活
性 化 を 惹 起 して
もイ ンス リ ン感 受 性 亢 進 を認 め な い 場 合 が あ る こ とを 報 告 し て い る54).さ らに 近 年,Geigerら はp38MAPKの 活 性 化 剤anisomycinが 血 清 の非 存 在 下 で,グ リ コ ー ゲ ンの 減 少 を 伴 わ ず に イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 す る こ と を報 告 した55).し か し,p38MAPKの
阻 害 剤 で あ るSB-202190は
を 阻 害 し な い こ とか ら,anisomycinに
筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 亢 進
よ るp38MAPK以
外 の 何 らか の シ グ ナ ル
が イ ンス リ ン感 受 性 に 関 与 す る こ と を示 唆 す る.筋 収 縮 に よる イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 に は そ の 制 御 に 関与 す る生 理 的 因 子 が 複 数 あ り,そ れ らの 因 子 の複 合 的 な 絡 み 合 い の 中 で 成 立 して い る可 能 性 が 高 い と考 え られ る.
2.5 イ ン ス リ ン 作 用 調 節 と 食 品 成 分 a. イ ン ス リ ン の分 泌 調 節 ヒ トに お い て 血 中 の グル コ ー ス 濃 度(血 糖)が のB細
胞 は イ ンス リ ン を分 泌 す る.ま
た イ ンス リ ンが 分 泌 され,続
約80mg/dlを
超 え る と,〓 臓
ず 急 峻 な応 答 と してB細
胞 中 に蓄 え ら れ
い て新 た に合 成 され た イ ンス リ ンが 分 泌 さ れ る.グ
ル コ ー ス に 応 答 した イ ン ス リ ン 分 泌 は 以 下 の よ う に し て 起 こ る(図2.6). GLUT2を
介 してB細
はATP感
受 性K+チ
胞 に 流 入 した グ ル コ ー ス がATP産 ャ ネ ル を 閉 じ る た め,細
る.脱 分 極 はCa2+を 細 胞 質 内へ 流 入 さ せ,こ
生 に使 用 さ れ る.ATP
胞 内 にK+が 蓄 積 し て 脱 分 極 が 起 こ の 細 胞 質 内Ca2+濃
度の増加 が イ ン
ス リ ン分 泌 を促 進 す る. グ ル コ ー ス に 限 らず,B細 分 泌 を促 進 す る.た な ど),β-ケ が,消
胞 で 代 謝 さ れ てATPを
と え ば,マ
ト酸 な どが あ る.つ
ンノ ー ス,フ
産 生 す る 基 質 は イ ンス リ ン
ル ク トー ス,ア
ミノ 酸(Leu,Arg
ま り,食 事 中 の 炭 水 化 物 ・脂 質 ・タ ンパ ク 質
化 ・吸 収 され る と,い ず れ もが イ ン ス リ ン の 分 泌 を促 進 す る こ と に な る.
実 際,炭
水 化 物 ・脂 質 ・タ ンパ ク質 いず れ を経 口 摂 取 し て も,イ
ンス リ ン の 分 泌
は促 進 す る. 上 述 した グ ル コー ス 濃 度 の 上 昇 か らイ ンス リ ン分 泌 ま で の経 路 の 途 中 を刺 激 す
図2.6 血 中 グ ル コ ー ス 濃 度 の増 加 に応 答 し て 〓 臓 のB細
胞が
イ ンス リ ンを分泌 す る経 路
る こ とで も,イ
ンス リ ンは分 泌 され る.経 口摂 取 で 血 糖 降 下 作 用 の あ る ス ルホ ニ
ル ウ レア剤 は,ATP感 促 進 す る.B細
受 性K+チ
胞 のcAMPを
ャ ネ ル を 閉 じ させ る こ とで,イ
増 大 させ る刺 激(β-ア
ゴ ン,ホ ス ホ ジエ ス テ ラ ー ゼ 阻 害剤)も 胞 質 内Ca2+濃
ンス リ ン分 泌 を
ド レナ リ ン作 用 薬,グ
ルカ
イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.こ れ は,細
度 の 増 加 を介 して い る と考 え られ て い る.カ テ コ ラ ミ ンは α2受 容
体 を介 して イ ンス リ ン分 泌 を阻 害 し,β 受 容 体 を 介 して イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.ま た,そ
の 他,交
感 神 経 系 や 消 化 管 ホ ル モ ンに よ っ て も イ ン ス リ ン分 泌 は 調
節 され て い る. b. グ ル コ ー ス ・ア ミノ 酸 ・脂 肪 酸 と骨格 筋 イ ン ス リ ン作 用 グル コー ス,ア
ミ ノ酸,脂 肪 酸 あ るい は トリグ リセ ロ ー ル の 血 中濃 度 は 運 動 や
食 事 に応 答 して 上 下 す る もの で あ る が,こ れ らの い ず れ か を 高 値 に維 持 し続 け た 場 合(1∼3時
間)に
は末 梢 組 織,特
が 示 さ れ て い る56∼58).一方,数
に骨 格 筋 で イ ンス リ ン作 用 が 減 弱 す る こ と
週 間 以 上 の食 事 成 分 に 関 して,こ
れ らの 割 合 を
推 奨 され る量 よ り高 値 に した もの を摂 取 し続 け た場 合 に,イ
ンス リ ン感 受 性 が 低
下 す る か は現 在 の と こ ろ知 見 が 不 足 して い る59).以 下 に,食
品の基本成分 である
グ ル コ ー ス,ア
中濃 度 上 昇 が,イ
ミ ノ酸,脂
肪 酸 の急 性 的 な(1∼3時
間)血
ン
ス リ ンの糖 代 謝 に 対 す る作 用 を 減 弱 させ る こ とを 紹 介 す る. 1) グ ル コ ー ス
高 グ ル コー ス に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の低 下 は糖 毒 性 と呼
ば れ る 高 血 糖 の 弊 害 の一 つ で あ る.単 離 筋 や 下 肢 筋 の還 流 系 な ど,多
くの 動 物 モ
デ ル の 検 討 か ら3時 間 以 上 の 高 血 糖 状 態60∼62)が,イ ンス リ ン に よる 全 身 の 糖 利 用 あ る い は骨 格 筋 の糖 輸 送 を 減 弱 させ る こ とが 示 さ れ て い る.ヒ り,た
とえ ば1型 糖 尿 病(〓B細
こ る糖 尿 病)の
トで も同 様 で あ
胞 の破 壊 に よ る イ ンス リ ンの 欠 乏 の た め に起
患 者 を 用 い た実 験 で は24時
間 の 高 血 糖 状 態 が,イ
ンス リンに よ
る 糖 利 用 を減 少 させ る こ とを 報 告 して い る63). 高 グ ル コ ー ス に よ る骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 の 低 下 は,筋 を正 常 グル コ ー ス 濃 度 下 に お くこ とで 回復 す る こ とが 示 唆 さ れ て い る56).2型 糖 尿 病(イ
ンス リ ン
の 作 用 不 足 に よ っ て起 こる糖 尿 病)患 者 の骨 格 筋 で は健 常 人 に比 べ て イ ンス リ ン 刺 激 に よ る糖 輸 送 は減 弱 して い る.こ
の 筋 肉 を4mMグ
ル コ ー ス 存 在 下 で2時
間 処 理 す る と,健 常 人 と同程 度 まで 糖 輸 送 活 性 が 回復 す る. 約3時
間 の 高 グ ル コ ー ス暴 露 だ けで は ラ ッ ト単 離 骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 低
下 が 起 こ らな い51).し か し,イ ン ス リ ン存 在 下 の 高 グ ル コー ス 下 で は イ ンス リ ン 感 受 性 低 下 が 起 こ る こ とか ら,細 胞 内 に過 剰 に流 入 した グ ル コ ー ス が 何 らか の作 用 を して い る こ とが 示 唆 され る.高 序 と して,グ と,ΡKCの
グ ル コ ー ス に よる イ ン ス リ ン感 受 性 低 下 の機
リ コ ー ゲ ンの 蓄 積 がGLUT4の
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンを 阻 害 す る こ
活 性 化 が イ ン ス リ ン シ グナ ル伝 達 を阻 害 す る こ と,取
り込 まれ た糖
の 代 謝 産 物 の 一 つ で あ る ヘ キ ソサ ミ ンの 蓄積 が 糖 輸 送 を 阻害 す る こ とな どが 想 定 さ れ て い るが,い
ず れ の経 路 も解 離 が 認 め られ て い る51).一 方,mRNA合
害 剤 で あ るactinomycin
Dや
成 の阻
タ ンパ ク 質 合 成 の 阻害 剤 で あ るcycloheximideが
高
グ ル コー ス に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の低 下 を 抑 制 す る こ とか ら,何 らか の タ ンパ ク質 の発 現 が 関 与 す る もの と考 え られ る. 2) ア ミノ 酸
ア ミノ酸 は〓 臓 のB細
胞 に作 用 して イ ン ス リ ン分 泌 を促 進
し,肝 臓 に お い て グ ル コー ス へ 新 生 さ れ る基 質 とな る.ま 検 討 か ら ア ミ ノ酸 は,イ
た,培 養 細 胞 を用 い た
ンス リ ンに よ る糖 輸 送 を 阻 害 し64),糖 輸 送 に関 わ る イ ン
ス リ ン シ グ ナ ル を減 弱 させ る65).こ の よ う に糖 代 謝 調 節 にお け る ア ミノ酸 の 関与 が 示 唆 され る こ と か ら,ア 検 討 さ れ た.2002年
ミノ酸 の血 中濃 度 増 加 が グ ル コ ー ス 代 謝 に影 響 す るか
にKrebsら
は,イ
ンス リ ン,グ ル カ ゴ ン,成 長 ホ ル モ ン,
コ ル チ ゾ ル を一 定 に保 っ た状 態 で,ヒ の2倍
濃 度 に維 持 した57).60分
糖 取 り込 み 率 が 約25%減 し た.細 胞 内 のG6P濃
トの 静 脈 に ア ミノ酸 を 直接 注 入 して 対 照 群
間 の ア ミノ 酸 投 与 で 高 イ ンス リ ン下 で の 全 身 の
少 し,骨 格 筋 内 のG6P(glucose-6-phosphate)も
減少
度 減 少 は 基 質 酸 化 の 競 合 が 起 こ る よ り先 に,糖 輸 送 過 程
が 阻 害 さ れ る こ と を示 唆 す る. ヒ トへ の ア ミノ 酸 の 静 脈 投 与 は,イ
ンス リ ン刺 激 に よ る骨 格 筋 のIRS-1
associ
ated PI3キ ナ ー ゼ の 活 性 を低 下 させ る こ とが 示 され て い る66).ア ミノ 酸 の投 与 に よっ てIRS-1のSer636/639の
リ ン酸 化 が 増 大 して い る こ とや,S6
kinase 1が 活
性 化 し て い る こ とか ら,こ れ らが イ ンス リ ン シ グ ナ ル の 阻 害 に 関与 す る こ とが示 唆 され る.し か し,こ の と きPI3キ
ナ ー ゼ の 下 流 で あ るAktは
イ ンス リ ンに対 し
て正 常 に応 答 して い る と い う矛 盾 が あ り,糖 輸 送 の 阻害 は まだ 明 らか に さ れ て い な い シ グナ ルが 原 因 で あ る と思 わ れ る. 3) 脂
質
イ ンス リ ン抵 抗 性 と肥 満 や 血 中脂 質 濃 度 に は しば しば 相 関が み
られ る67,68).この た め 脂 質 あ る い は脂 肪 酸 の 血 中濃 度 の上 昇 が 直 接 全 身 の 糖 質 利 用 や 骨 格 筋 の糖 輸 送 段 階 を抑 制 す る と考 え られ て い る.静 脈 に トリ グ リセ ロ ー ル とLPL(lipoprotein
lipase)活 性 化 作 用 を もつ ヘ パ リ ン を ヒ トに投 与 して,生 理
食 塩 水 を投 与 した 対 照 群 に比 べ 血 中 トリ グ リセ ロー ル濃 度 を8倍,血
中遊離脂肪
酸 濃 度 を10倍 に した 検 討 が あ る58).血 中 脂 質濃 度 の 上 昇 を保 ち 続 け る と,約1.5 時 間 で 筋G6P含 LPLは
量 が,約3時
間 以 上 で 全 身 の糖 質 利 用 が 低 下 し始 め る.な お,
トリグ リセ ロ ー ル を脂 肪 酸 と グ リ セ ロ ー ル に 加 水 分 解 す る 酵 素 で あ る.
脂 肪 酸 が イ ンス リ ン感 受 性 を 阻 害 す る メ カ ニ ズ ム の 解 明 は ア ミ ノ酸 の場 合 と ほ ぼ 同 様 の 状 況 で あ る.従 来 は 基 質 酸 化 の 競 合 が 考 え られ て い た が,G6Pの
減少
が示 唆 す る よ うに糖 輸 送 過 程 あ る い は 流 入 した グ ル コー ス の リ ン酸 化 過 程 が 原 因 の よ う で あ る.脂 質 の 注 入 は骨 格 筋 のIRS-1 させ るが,PI3キ
associated PI3キ ナ ー ゼ 活 性 を低 下
ナ ー ゼ の 下 流 で あ る は ず のAkt活
高 脂 肪 食 を 食 べ 続 け る と,イ
性 を変 化 させ な い69).
ン ス リ ン感 受 性 が 低 下 す る こ とが 想 定 され て い
る.し か し高 脂 肪 食 が 身 体 の 脂 肪 含 量 の 増 加 と独 立 して イ ンス リ ン感 受 性 を低 下 させ る か は,い
ま だ 十 分 な証 明 が な さ れ て い ない.た
だ し,高 脂 肪 食 の 摂 取 は カ
ロ リー摂 取 過 多 に 陥 りや く,肥 満 と並 行 して イ ンス リ ン感 受 性 を低 下 す る危 険性 が 高 い とい え る.
食 品 中 の 脂 肪 酸 は,飽 和 脂 肪 酸,一 ンス 脂 肪 酸,n-3脂
価 不 飽 和 脂 肪 酸,多 価 不 飽 和 脂 肪 酸,ト
ラ
肪 酸 に分 け られ る.食 事 由 来 の脂 肪 酸 が イ ンス リ ン感 受 性 を
低 下 させ る か は,単 純 に高 脂 肪 食 とい う だ け で な く,脂 肪 酸 の 種 類 を も区 別 した 検 討 が 必 要 で あ る.こ の 観 点 に お い て 高 飽 和 脂 肪 酸 食 と高 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 食 を 健 常 者 に3ヵ 月 間摂 取 させ た場 合 の イ ンス リ ン感 受 性 を比 較 した検 討 が あ る.高 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 食 は総 脂 肪 摂 取 量 が37%以 下 の 場 合 に 限 り,イ ン ス リ ン感 受 性 を改 善 した70).し か し一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 が 糖 尿 病 患 者 にお い て 絶 食 時 の 血 糖 値 や,長
期 的 な 血 糖 コ ン トロ ー ル の 指 標 で あ るHbA1cを
改 善 す る こ と は現 在 の と
こ ろ 示 され て い な い.
2.6 糖 尿 病 の 運 動 療 法 運 動 は糖 尿 病 治 療 の う えで も重 要 な位 置 を 占 め,食 事 療 法 ・薬 物 療 法 と並 ん で 糖 尿 病 治 療 の 三 本 柱 の 一 つ と され て い る.運 動 に よ る血 糖 降 下 作 用 は これ ま で に 紹 介 した,収
縮 した骨 格 筋 で 糖 取 り込 み が促 進 す る こ と を利 用 して い る.一 つ は
運 動 終 了 後 数 時 間 まで 続 く イ ンス リ ン非 依 存 的糖 輸 送 促 進 で あ る.も
う一 つ は,
運 動 後 数 時 間 を経 て 認 め られ る イ ンス リ ン感 受性 の 充 進 で あ る.こ れ らの 二 つ の メ カ ニ ズ ム は,糖 下)や
尿 病 患 者 に お け る イ ン ス リ ン抵 抗 性(イ
ン ス リ ン感 受 性 の低
イ ンス リ ン分泌 不 全 に拮 抗 す る作 用 を有 し,糖 代 謝 を数 時 間 か ら数 日間 に
わ た っ て活 性 化 す る.さ
らに,運 動 トレー ニ ング はGLUT4量,筋
肉 量 を増 加 さ
せ る こ とで も糖 取 り込 み 能 力 を 増 大 させ る.こ の よ う な 運動 刺 激 に 対 す る骨 格 筋 の 応 答 は,糖 尿 病 の予 防 お よ び 治 療 の た め に 有 効 な 手 段 で あ る と考 え られ る. 運 動 に よ る血 糖 降 下 作 用 は,イ る.肥
ン ス リ ン抵 抗 性 状 態 の 骨 格 筋 で も正 常 に起 こ
満 ・高 イ ン ス リ ン血 症 を特 徴 とす る イ ン ス リ ン抵 抗 性 モ デ ル 動 物 で あ る
Obese Zuckerラ るGLUT4の
ッ トは,骨 格 筋 のGLUT4総
量 に変 化 は な い が,イ
ンス リ ンに よ
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンが 顕 著 に低 下 し て い る.し か し,こ の 動 物 で
も筋 収 縮 に よ るGLUT4の る71).ま た,3週
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンや 糖 取 り込 み は正 常 に 惹 起 さ れ
間 の 高 脂 肪 食 負 荷 に よ っ て イ ンス リ ン抵 抗 性 を誘 導 した ラ ッ ト
に お い て も運 動 に よ る糖 輸 送 は正 常 に 促 進 し72),運 動 後 の イ ン ス リ ン感 受 性 も亢 進 す る73).こ れ らの知 見 と符 合 す る よ う に,イ 病 患 者 で も運 動 に よ っ てGLUT4は
ンス リ ン抵 抗 性 を呈 す る2型 糖 尿
トラ ンス ロケ ー シ ョ ンす る こ とが 示 唆 さ れ て
お り74),運 動 後 は全 身 の 糖 取 り込 み 速 度 が 増 大 す る75). 運 動 の 繰 り返 し(運 動 トレー ニ ン グ)はGLUT4の
総 量 を増 加 させ,こ
れ も運
動 の 急 性 効 果 と同 様 に イ ンス リ ン抵 抗 性 状 態 に あ る骨 格 筋 で も起 こ る76,77).骨格 筋 中 のGLUT4量
は 骨 格 筋 の糖 取 り込 み 能 力 と相 関 して い る こ とが 示 唆 され て い
る78,79).GLUT4はDNA上 (転 写),こ
の 遺 伝 子 を鋳 型 と し て,GLUT4mRNAが
れ を も と にGLUT4タ
運 動(約70%Vo2max,1時 GLUT4のmRNAの
合成 され
ンパ ク 質 が 合 成 さ れ る(翻 訳).単
間)を
回 の 自転 車
行 う と 運 動 直 後 や 運 動 終 了 か ら3時
増 大 が80),運 動 終 了 か ら8時 間 後 に はGLUT4の
間後 に
タ ンパ ク質
量 が 増 大 す る こ とが 報 告 され て い る81).ト レー ニ ン グす る こ とで,GLUT4量 増 加 が 蓄積 し て糖 輸 送 を増 大 させ る もの と思 わ れ る.一 方,運 休 止 す る とGLUT4量
動 ト レー ニ ン グ を
は6日 間 で 減 少 す る82).し た が っ てGLUT4量
に維 持 す る た め に は,1週
の
を 高 レベ ル
間 に2回 以 上 運 動 す る こ とが 望 ま しい と考 え られ る.
骨 格 筋 量 が低 下 して い る 高 齢 者 に お い て は,筋 肉 量 を増 加 す る よ う な運 動 トレ ー ニ ン グ も糖 代 謝 改 善 に 有 効 で あ る .高 齢 者 で は 安 静 時 の エ ネ ルギ ー 消 費量 が 減 少 して お り,こ れ に は 除 脂 肪 体 重 の 減 少 が 起 因 す る83).骨 格 筋 量 の 増 大 は安 静 時 や 運 動 時 の 消 費 エ ネ ル ギ ー 量 を増 大 させ る た め,全 身 の 糖 取 り込 み 量 が 増 大 す る も の と考 え られ る.実 際,高 齢 糖 尿 病 患 者 を対 象 と して 高 強 度 筋 力 トレ ー ニ ン グ を行 う と,除 脂 肪 体 重 が 増 大 し,HbA1cが
改 善 す る こ とが 報 告 さ れ て い る84,85).
運 動 に よ る 骨 格 筋 糖 輸 送 促 進 の メ カ ニ ズ ム 解 明 は,AMPKの て 大 き く前 進 した.し
関与 が 確 認 さ れ
か し な が ら,現 在 の と こ ろ 骨 格 筋AMPKの
て 明 らか な も の は 脂 肪 酸 酸 化 に 関 与 す る ア セ チ ルCoAカ
標的分 子 とし
ル ボ キ シ ラー ゼ の み で
あ り,糖
輸 送 促 進 に 関 わ る 標 的 分 子 は 同 定 さ れ て い な い.つ
GLUT4を
結 ぶ 分 子 機 構 は ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス とい っ て よい 状 況 で あ る.AMPKの
上 流 分 子 につ い て も,た AMPKの
ま り,AMPKと
と え ば 運 動 や 酸 化 ス トレス が どの よ うな 分 子 を解 し て
リ ン酸 化 を生 じ る の か,そ
の 経 路 は 依 然 不 明 で あ る.運 動 は 糖 輸 送 を
促 進 す る だ け で な く,骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 させ る.2型
糖尿病 患者
の 骨 格 筋 が イ ンス リ ン抵 抗 性 を示 す こ と も よ く知 られ た 事 実 で あ る.さ
ら に,イ
ン ス リ ン感 受性 は糖 ・脂 質 ・ア ミノ 酸 の 影 響 を受 け る.し か し なが ら,骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 が どの よ う な メ カ ニ ズ ム で調 節 さ れ る の か そ の 全 貌 の解 明 ま で
に は 多
糖
く の 研 究 が 必
の エ
ネ ル ギ ー 基
な い 機 能 で 代 病 」 明 す
る
て 有 用
要 で
あ る.
質
し て の 利
と
用
は ヒ
あ る.そ
の 調
節 異 常
は,2型
の 発 病 や 進
行 に 深
く 関 与
す
こ
と は,「
で あ
現 代 病
り,今
後
」
の 研
る 糖
IS,et al.(2003)Glucose
proteins.Br 2) Lund
代 謝
R,et
muscle.Am
P,et
JM,et
gen
Am
and
K,et
with
al.(1982)Glucose
during
exercise.Eur
DG,et
EJ,et
14)
T,et
15)
17)
18)
点 か
families
of glucose Natl
and
transporter
Acad
ら き わ め
of sugar
transport
GLUT4
in skeletal
Sci USA,92,5817-5821
contraction
in skeletal
that glucose
Biol
on
glucose
transport
in rat
muscle:effects
of insulin
and
transport
is rate-limiting
for glyco
Chem,268,16113-16115
for insulin-mediated
kinase
glucose
activity and
glucose
permeability.X.Changes frog
muscle.J
uptake
in relation Occup
uptake
into
perfused
rat
uptake
in rat skeletal
muscle.
kinase
Biol
in permeability
to 3-methylglu-
Chem,240,3493-3500
to metabolic
state in perfused
rat hind
limb
at
Physiol,48,163-176
of the AMP-activated
in skeletal
protein
muscle.Embo
AMP-activated/SNF1
kinase
provides
a novel
mech
J,17,1688-1699
protein
al.(1999)5′AMP-activated
al.(1998)Evidence
Ihlemann
al.(1999)Effect
J,et
kinase
subfamily:metabolic
sensors
of
protein
kinase
activation
causes
GLUT4
transloca
for 5′AMP-activated
protein
kinase
mediation
of the
effect of mus
transport.Diabetes,47,1369-1373 of tension
on
contraction-induced
glucose
transport
in rat skeletal
J Physiol,277,E208-214
Kawanaka
K,et
Hayashi
T,et
protein
kinase
cose
る 観
し 活 性 化 す
Rev Biochem,67,821-855
on glucose
Mu
を 解
muscle.Diabetes,48,1667-1671
al.(2000)Mechanisms
supercompensated 16)
mice
Physiol
regulation
cle contraction
muscle.Am
of isolated
J Appl
al.(1998)The
Kurth-Kraczek
Hayashi
ぐ 経 路
transport
muscle.J
of tissue
of creatine
cell?Annu
tion in skeletal 13)
な
SGLT):expanded
translocation
protein
al.(1998)Dual
the eukaryotic 12)
を つ
Metab,280,E677-684
contraction
for the control
Hardie
「現
that of insulin.Proc
steps
al.(1965)Studies
M,et
anism
う
献
and
transgenic
in skeletal
PM,et
10) Ponticos
11)
from
glycolysis
Endocrinol
JO,et
rest and
と い
J Physiol,250,E100-102
associated
9) Walker
文
of 2-deoxyglucose
N, et al.(2001)AMP-activated
cose
群
を 適 正 化
of effects of insulin
al.(1986)Rate-limiting
J Physiol
8) Holloszy
リ ッ ク 症 候 代 謝
き
J Physiol,249,C226-232
al.(1993)Evidence
hindlimb.Am 7) Musi
メ
タ ボ
と の で
J Physiol,268,C30-35
deposition
6) Kubo
distinct from
al.(1995)Kinetics
contractions.Am 5) Ren
用
stimulates
a mechanism
al.(1985)Dissociation
epitrochlearis 4) Hansen
こ
さ れ る.
transporters(GLUT
al.(1995)Contraction
through
3) Nesher
た め に 欠 か す
J Nutr,89,3-9
S,et
muscle
病 や
き る 」
品 ‐運 動 ‐骨 格 筋 糖
が 期 待
引
1) Wood
「生
糖 尿
る.食
に お け
究 成 果
ト が
muscles
al.(2000)Metabolic as a unifying
J,et al.(2001)A transport
Fujii N,et
rats.Am
stress
coupling
and
impaired
GLUT-4
J Physiol Endocrinol altered
glucose
translocation
in glycogen-
Metab,279,E1311-1318
transport:activation
of AMP-activated
mechanism.Diabetes,49,527-531
role for AMP-activated
in skeletal
al.(2000)Exercise
activity in human
underlying
of exercised
muscle.Mol induces
skeletal muscle.Biochem
protein
kinase
in contraction-and
hypoxia-regulated
glu
Cell,7,1085-1094 isoform-specific Biophys
Res
increase
in 5′AMP-activated
Commun,273,1150-1155
protein
kinase
19) Chen
ZP,
lase and 20)
et al.(2000)AMPK NO
synthase
Salt I, et al.(1998)AMP-activated localization,
21)
Vavvas
in contracting
of complexes
protein
containing
Higaki
in skeletal
muscle.J
the insulin and
23) Toyoda
kinase:greater
the alpha2
AMP
isoform.
muscle:acetyl-CoA
dependence
Biochem
changes
oxide
contraction
increases
pathways
T, et al.(2004)Possible
in oxidative
skeletal
carboxy
Metab,279,E1202-1206 , and preferential
J,334(Pt
in acetyl-CoA
nuclear
1),177-187
carboxylase
and
5′-AMP-activat
Biol Chem,272,13255-13261
Y, et al.(2001)Nitric
from
human
J Physiol Endocrinol
D, et al.(1997)Contraction-induced
ed kinase 22)
signaling
phosphorylation.Am
glucose
in rat skeletal
involvement
stress-stimulated
glucose
uptake
through
muscle.
Diabetes,50,241-247
of the alphal
transport
isoform
in skeletal
a mechanism
that
of 5′AMP-activated
muscle.
Am
J Physiol
is distinct
protein
Endocrinol
kinase
Metab,287,
E166-173 24) Jorgensen
25)
et al.(2004)Knockout
abolishes
induced
glucose
Hawley
SA,
MO25 26)
SB,
isoform
uptake
Baas
AF,
SFRAD.
are upstream
Embo
J, et activate
28) Sakamoto
cose 30)
Hawley
localize LKB1
during
SA,
anisms.J
32)
Am
activates
and
kinase
kinase
not contraction-
kinase
LKB1
STRAD
alpha/beta
cascade.J
Biol,2,28
by
the STE20-like
and
pseudoki-
STRADalpha/beta
enhancing
their ability to
J,22,5102-5114
AMPK-related
J Physiol
kinases
Endocrinol
in skeletal
in skeletal
Metab,287, muscle
muscle:effects
of
E310-317
prevents
AMPK
activation
and
glu
J,24,1810-1820 activates
the
the calmodulin-dependent
AMP-activated
protein
protein
kinase
I cascade,
kinase
cascade,
via three
and
independent
Ca2+ mech
Biol Chem,270,27186-27191
kinase
Hawley
kinases.
Ca2+/calmodulin-dependent
J Biol
protein
DC,
Am
protein
kinase.
JH, et al.(1991)Calcium of contraction.
kinase
kinases
are AMP-activated
kinase
kinase-beta
is an alternative
upstream
Cell Metab,2,9-19
stimulates
J Physiol,260,
et al.(2004)A
protein
Chem,280,29060-29066
SA, et al.(2005)Calmodulin-dependent for AMP-activated
34) Wright
suppressor,
protein
with
Embo
of LKB1 Embo
et a1.(1995)5'-AMP
protein
dent
interact
of LKB1
contraction.
RL, et al.(2005)The
kinase
protein
but
tumor
suppressor
in the cytoplasm.
and AICAR.
Hurley
33) Youn
of the tumour
K, et al.(2005)Deficiency
uptake
the LKB1
in the AMP-activated
al.(2003)MO25alpha/beta and
/calmodulin
31)
kinases
K, et al.(2004)Activity
Sakamoto
5′-AMP-activated
J,22,3062-3072
contraction,phenformin, 29)
but not alphal
Biol Chem,279,1070-1079
between
et al.(2003)Activation
27) Boudeau bind,
in skeletal muscle.J
et al.(2003)Complexes
alpha/beta
nase
of the alpha2
5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-beta-4-ribofuranoside
glucose
transport
in skeletal
muscle
by
a pathway
indepen
glucose
transport.
C555-561
role for calcium/calmodulin
kinase
in insulin
stimulated
Life Sci,74,815-825 35) Ji LL, et al.(1998)
36)
N
Oxidative
tems.
Ann
Y Acad
Nohl
H, et al.(1986)The
stress
and
aging.
Role
of exercise
and
its influences
on antioxidant
sys
Sci,854,102-117 mitochondrialsite
of superoxide
formation.
Biochem
nitrogen
species
Biophys
Res
Commun,
138,533-539 37)
Reid
MB,
et al.(2002)Generation
muscle:potential 38) Javesghani dase 39)
Lapointe
BM,
Linder
N,
41)
Kobzik
Ann
N
Y Acad
of neutrophil
et al.(1999)Cellular
oxygen
J Respir
and
Crit Care
expression
Appl
of a superoxide-generating
oxide
of xanthine
in skeletal
NAD(P)H
oxi
inflammation
is linked
to secondary
Physiol,92,1995-2004 oxidoreductase
Invest,79,967-974
L, et al.(1994)Nitric
skeletal
Med,165,412-418
contraction-induced
invasion.J
in contracting
Sci,959,108-116
characterization
muscles.Am
et al.(2002)Lengthening
but devoid
sues. Lab
of reactive
on aging.
et al.(2002)Molecular
in the ventilatory
damage 40)
D,
impact
muscle.
Nature,372,546-548
protein
in normal
human
tis
42)
Cartee
GD,
various 43)
et al.(1990)Exercise
stimuli. Am
Kahn
CR(1978)Insulin
distinction. 44)
45)
46)
KJ,
et al.(1988)Effect
Am
J Physiol,254,
Wallberg-Henriksson
muscle 47)
49)
et al.(1998)Increased
J Physiol
factor. Am
J Physiol,266,
Biol
57)
Al-Khalili
necessary
and
responsiveness
to insulin
in
muscle:interaction
between
mediates
enhanced
insulin
sensitivity
of
of AMP
kinase E18-23
enhances
glucose
transport
to
signaling
sensitivity of muscle
in human
skeletal
muscle:time
course
and
effect of
signaling
and
insulin
sensitivity
after exercise
in human
skeletal
increase
of glucose-induced
Metab,287,
rats.Am
PC,
in muscle
requires
pro
translocation
in glycogen-super-
E907-912
AICAR-induced
increase
and
insulin
5′AMP-activated
AMPK
activation
in insulin-stimulated
glucose
J Physiol
JR, et al.(1994)Effects with
NIDDM:in
of p38
Endocrinol
patients
sensitivity:relationship
protein
et al,(2005)Activation
M,
for a
in primary uptake.
human
Am
J Physiol
E553-557
Zierath
Krebs
sensitivity:requirement
resistance
GLUT-4
J Physiol,276,
serum-and
to subsequent
J, et al.(2004)Postcontraction
Geiger
insulin
insulin
insulin-stimulated
of exercised
not lead
concentration,
in muscle
E186-192
L, et al.(2004)Prior does
humans. 58)
unresponsiveness:a
Chem,276,20101-20107
muscles
port to insulin. Am 56)
by
Physiol,85,1218-1222
Metab,282,
K, et al.(1999)Decreased
Endocrinol
55)
insulin
into rat skeletal
translocation
Appl
K, et al.(2001)Development
Kawanaka
Kim
on
transport
J, et al.(1994)Contraction-induced
Kawanaka
gen
Endocrinol
JF, et al.(2000)Insulin
myocytes
54)
sensitivity
to activation
Diabetes,49,325-331
compensated 53)
exercise
GLUT-4
after exercise.J
JF, et al.(1997)Insulin
tein synthesis.J 52)
and
transport
Diabetes,46,1775-1781
Wojtaszewski
serum 51)
transport
Wojtaszewski
Gao
glucose
Physiol,65,909-913
JS, et al.(2002)Activation
muscle. 50)
insensitivity,
H, et al.(1988)Glucose
PA,
exercise.
insulin
of physical
insulin. J Appl
glucose
Fisher
of muscle
E248-259
and
insulin. Am 48)
resistance,
humans.
Hansen
susceptibility
E390-393
Metabolism,27,1893-1902
Mikines
exercise
increases
J Physiol,258,
kinase
MAP
kinase
Metab,288,
et al.(2002)Mechanism
enhances
contraction Appl
protocol,
glyco
sensitivity
Physiol,96,575-583 of muscle
glucose
trans-
E782-788
of glycaemia
vitro reversal
with
phosphorylation.J
on
glucose
of muscular
transport
in isolated
of amino
insulin resistance. acid-induced
skeletal
muscle
from
Diabetologia,37,270-277
skeletal
muscle
insulin
resistance
in
Diabetes,51,599-605
Roden
M,
et al.(1996)Mechanism
of free
fatty acid-induced
insulin
resistance
in humans.
J Clin
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Franz
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principles
and
recommendations
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Richter
EA,
uptake.
Biochem
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SR,
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resistance
of skeletal-muscle
glucose
transport
and
J,252,733-737
et al.(1991)Insulin
resistance
in normal
rats infused
with
glucose
for 72 h. Am
J Physiol,
260,E353-362 62)
Kurowski
TG,
et at.(1999)Hyperglycemia
phosphatidylinositol 63) Yki-Jarvinen
H,
3-kinase
inhibits
in rat skeletal
muscle.
et al.(1987)Hyperglycemia
insulin
activation
of Akt/protein
kinase
B but not
Diabetes,48,658-663
decreases
glucose
uptake
in type
I diabetes.
Diabetes,
36,892-896 64) Traxinger glucose 65) Patti ME,
RR,
et al.(1989)Role
transport
system.J
Biol
et al.(1998)Bidirectional
of amino
acids
in modulating
glucose-induced
desensitization
of the
Chem,264,20910-20916 modulation
of insulin
action
by
amino
acids. J Clin
Invest,101,
1519-1529 66)
67)
Tremblay
F, et al.(2005)Overactivation
increased
amino
Reaven
GM,
et al.(1988)Measurement
in patients 68)
with
McGarry
of S6 kinase
1 as a cause
of human
insulin resistance
during
acid availability. Diabetes,54,2674-2684
NIDDM.
of plasma
glucose,
free fatty acid, lactate, and
insulin
for 24 h
Diabetes,37,1020-1024
JD(1992)What
if Minkowski
had
been
ageusic?An
alternative
angle
on
diabetes.
Science,
258,766-770 69)
Kruszynska
YT,
et al.(2002)Fatty
but unchanged 70)
Vessby
Akt
King
PA,
Zucker 72)
men
M,
J Physiol,264,
ND,
or a single
cose
suppression
and
JW,
human 75) Martin
Etgen
78)
fat impairs
insulin
sensitiv
glucose
transporter
translocation
in obese
during
and
after exercise
is normal
in insulin-resis
of long-chain
with
type
induces
2 diabetes.
and muscle
in rats is ameliorated
relationship
fatty acyl-CoA.
exercise
subjects
insulin resistance
of exercise:parallel
between
by acute
insulin
dietary
stimulation
of glu
Diabetes,46,2022-2028
GLUT4
translocation
in skeletal
muscle
of normal
Diabetes,48,1192-1197 metabolism
during
exercise
in NIDDM
patients. Am
J
E583-590
GJ
Jr., et al.(1997)Exercise
recruitment
of GLUT-4
training
to the cell surface.
F, et al.(1994)Physical
NIDDM.
uptake
muscle
bout
IK, et al.(1995)Splanchnic
Physiol,269,
77) Dela
and
for monounsaturated
Diabetologia,44,312-319
insulin, promotes
glucose
et al.(1999)Acute
subjects
activation
R447-452
et al.(1997)Diet-induced
uptake
PI3K
E 167-172
lipid withdrawal
74) Kennedy
unlike
J Physiol,265,
et al.(1993)Muscle
tant rats. Am
76)
Am
Study.
muscle
Metab,87,226-234
saturated
KANWU
et al.(1993)Exercise,
Kusunoki
73) Oakes
dietary
and women:The
rat muscle.
insulin resistance:decreased
Clin Endocrinol
B, et a1.(2001)Substituting
ity in healthy 71)
acid-nduced
phosphorylation.J
training
Am
reverses
insulin
J Physiol,272,
increases
muscle
resistance
in muscle
by
enhanced
E864-869 GLUT4
protein
and
mRNA
in patients
with
Diabetes,43,862-865
Lund
S, et al.(1997)Effect
skeletal
muscle
as
of insulin
measured
by
the
on
GLUT4
exofacial
cell surface bis-mannose
content
and
turnover
photolabeling
rate in human
technique.
Diabetes,46,
1965-1969 79) Koranyi
LI, et al.(1991)Level
stimulated 80) Kraniou skeletal 81) Greiwe dent 82)
whole Y,
body
disposal
et al.(2000)Effects
muscle.
J Appl
of exercise
JS, et al.(2000)Exercise
Vukovich
MD,
runners.
induces signaling.
J Appl
transporter
protein
correlates
with
insulin-
on
GLUT-4
and
glycogenin
gene
expression
in human
of fat-free
lipase
and
GLUT-4
protein
in muscle
indepen
Physiol,89,176-181
in insulin
action
and
GLUT-4
with
6 days
of inactivity
in
in humans
is
Physiol,80,240-244
A, et al.(2003)The
to the loss
glucose
Diabetologia,34,763-765
lipoprotein
J Appl
et al.(1996)Changes
83) Bosy-Westphal
muscle
in man.
Physiol,88,794‐796
of adrenergic-receptor
endurance
due
of skeletal
glucose
mass
age-related and
decline
to alterations
in resting
energy
in its metabolically
active
expenditure components.
J Nutr,133,
2356-2362 84)
85)
Dunstan
DW,
patients
with
Castaneda glycemic
et al.(2002)High-intensity type 2 diabetes.
Diabetes
C, et al.(2002)A control
in older
resistance
randomized adults
with
training
improves
glycemic
control
in older
Care,25,1729-1736
type
controlled 2 diabetes.
trial of resistance Diabetes
exercise
Care,25,2335-2341
training
to improve
3.運
動 にお ける疲労感発生 の メカニズ ム
3.1 現 代 社 会 と疲 労 現 代 の 日本 で は長 期 に わ た っ て疲 労 を 感 じ て い る 人 が 非 常 に多 い(就 労 人 口 の 約6割)と
い う調 査 結 果 が 明 らか とな り,抗 疲 労 あ る い は 疲 労 か らの 早 期 回復 を
は か る処 方 の 開発 が 社 会 的 急 務 とな っ て い る.疲 労 か らの 回 復 を望 む 多 くの 人 の 要 求 に応 え て,さ
ま ざ まな 疲 労 回復 法 が 謳 われ 多 種 類 の 栄 養 ドリ ン ク な どが市 販
され て い るが,実
際 の効 果 につ い て は科 学 的 証 拠 が示 され て い な い もの が ほ とん
どで あ る.そ れ ゆ え疲 労 が 生 じる機 構 を 科 学 的 に解 明 し,実 際 に抗 疲 労 ・疲 労 回 復 機 能 を もっ た 食 品 な ど を開 発 す る基 礎 を 整 備 す る こ とが 必 要 で あ る. これ まで 肉体 的 な疲 労 の 生 成 す る機 構 に つ い て は骨 格 筋 の 疲 労 を中 心 に詳 し く 調 べ られ て きた.こ
れ に 対 し精 神 的 な疲 労 の 生 成,あ
る い は 疲 労 を感 じる機 構 の
解 明 は そ の 重 要 性 は認 識 され て い る もの の 実 際 の研 究 は まだ 少 な い.中 枢 に お い て どの よ う な機 構 で 疲 労 感 が 生 成 さ れ る の か 詳 し くは解 明 され て い な い.疲 労 は 疾 病 とは 異 な り休 息 を取 る こ と に よ り回復 で き る.こ の た め 他 の病 気 と比 べ て研 究 が お ろ そ か に され て きた 面 は否 め な い.ま た 疲 労 は さ ま ざ ま な様 相 を もつ た め に疲 労 度 を評 価 す る た め の コ ン セ ンサ ス の 得 られ た指 標 の 確 立 が 遅 れ て い る こ と も研 究 の 進 展 に影 響 して い る と考 え られ る. ヒ トは さ ま ざ ま な状 況 で 疲 労 を感 じる.運 動 は も ち ろ ん の こ と,た と え ば病 気 の と き に も著 しい 疲 労 に 見 舞 わ れ る.こ の ほか に も た とえ ば 引 っ越 し に よ り住 ん で い る と こ ろが 変 わ る とか 職 場 が 変 わ る,上 司 が 変 わ る な どと い っ た 環 境 ・社 会 的 な変 化 が あ っ た 場 合 に も疲 労 を感 じる こ とが あ る.ま た,そ
の と きの 精 神 状 態
に よっ て も疲 労 を感 じや す か っ た り感 じに くか っ た りす る こ とを経 験 す る.こ の よ うに 一 口 に疲 労 とい っ て も さ ま ざ まな状 況 で 惹 起 さ れ る た め,疲 労 の 指 標 とな る物 質 の 特 定 や 疲 労 の 評 価 方 法 の 確 立 の た め 体 系 的 な検 討 が 必 要 で あ ろ う.本 章
に お い て 疲 労 とは心 身 の 消 耗 に伴 う さ ま ざ まな 様 態 をす べ て含 め た生 理 的 な 状 態 を 指 し,疲 労 感 とは そ の う ち の 主観 的 に知 覚 され る部 分,疲
れ た と い う感 じ を表
す こ と とす る.疲 労 感 は 中 枢 性 疲 労 とほ ぼ 同 じ意 味 だ と考 え られ る.
3.2 運 動 と 疲 労 娯 楽,あ
る い は競 技 と して 運 動 を行 うの は ヒ トの み で あ る.霊 長 類,あ
るい は
動 物 の 子 ど も は遊 び と して 運 動 す る が,競 技 は行 わ な い.普 通 動 物 の 行 う運 動 は 捕 食,お
よび そ れ とは逆 に 敵 か らの逃 亡 の た め に 行 う もの,あ
る い は トリの 渡 り
に代 表 さ れ る よ う な移 動 で あ ろ う. 個 体 の運 動 能 力 を超 え た 負 荷 の運 動 を 行 っ て い れ ば,た っ て 運 動 を 続 行 す る こ と が で きな い.こ る.た
とえ ば す ぐに息 が あ が
れ は 一 種 の 肉 体 的 限界 に よ る疲 労 で あ
と え 低 強 度 の 運 動 で あ っ て も運 動 を 始 め て しば ら くす る と'疲 労'を
じ,そ し て,間
も な く運 動 をや め る,も
以 外 の 動 物 で も同 様 に反 応 す るが,こ
し くは運 動 強 度 を さ らに弱 くす る.ヒ
感 ト
れ は で き る だ け エ ネ ルギ ー の 消 費 や 肉体 の
消 耗 を抑 制 し,本 当 の 危 機 に対 して 体 力 を 温 存 す る 反応 とい え る.も
し,疲 労 を
感 じな けれ ば動 物 は 動 け な くな る ま で,す な わ ち 肉体 の 限 界 に至 る まで,極 端 な 場 合 に は死 ぬ まで 動 き続 け る か も しれ な い.疲 労 を 感 じる こ と とは 身 体 の 消 耗 を 検 知 し,そ れ以 上 の 身 体 の消 耗 を防 ぐた め の 防 御 反応 の 一 環 と して作 動 す る警 告 信 号 で は な いか と考 え られ る. こ の よ う な警 告 を 無 視 す る と大 き な痛 手 を負 う こ とに な るの は 当然 の 結 果 な の で あ る が,ヒ
トの場 合,た
とえ ば仕 事 に対 す る 責 任 感,あ
る い は充 実 感 ゆ え に疲
労 感 を無 視 して し ま う場 合 が 多 々 あ る.こ れ に よ り慢 性 疲 労 や,極 端 な場 合 過 労 死 を招 く こ と さ え あ り,い まや 社 会 問 題 に もな りつ つ あ る. 運 動 に よ る疲 労 感 の 原 因 物 質 と して い ま だ に 乳 酸 を あ げ て い る例 を み る.乳 酸 は あ る一 定 強 度 以 上 の 運 動 負 荷 を与 え た と きに,好 気 的 な エ ネ ルギ ー 産 生 が 間 に 合 わ な く な る こ とで 生 成 し,や が て 収 縮 を 行 っ て い る骨 格 筋 内 に 蓄 積 し始 め る. こ れ に よ り筋 肉 中 のpHが
低 下 し そ の パ フ ォー マ ンス が 低 下 す る とい う こ とか ら
乳 酸 と骨 格 筋 疲 労 が 関 連 づ け られ て い る.骨 格 筋 の 能 力 以 上 の 運 動 は血 液 中 の 乳 酸 の 上 昇 とい う形 で脳 に検 知 され,疲
労 感 を生 成 させ る と信 じ られ て きた.乳 酸
は確 か に筋 肉疲 労 の指 標 に な り うる が は た して 本 当 に乳 酸 が 疲 労 感 を引 き起 こす
の だ ろ うか.近 年,神 経 細 胞 に隣 接 す る グ リ ア細 胞 が 自身 の もつ グ リ コー ゲ ン を 分 解 して乳 酸 の 形 で 神 経 細 胞 に供 給 して い る こ とが 明 らか とな っ て きた.血
中の
グ ル コー ス の供 給 が 間 に 合 わ な い と き,神 経 細 胞 は乳 酸 を エ ネ ル ギ ー 源 と す る. ま た 乳 酸 は神 経細 胞 に とっ て グ ル コー ス よ りも利 用 しや す い エ ネ ル ギ ー 源 で あ る こ とが わ か っ て きて い る.こ の こ とか ら,乳 酸 は骨 格 筋(末 梢 組 織)で
の疲労 の
原 因 とす る こ と は正 しい が,こ れ が 疲 労 感 を引 き起 こす 物 質 で あ る とは 考 え に く い.
運 動 時 の 疲 労 感 生 成 機 構 と して よ く知 られ て い る 説 にNewsholmeら
のセ ロ ト
ニ ン仮 説 が あ る.長 時 間 の 持 久 的運 動 を行 う とエ ネ ル ギ ー 源 と して 遊 離 脂 肪 酸 が 動 員 され る.遊 離 脂 肪 酸 は血 中 で の輸 送 キ ャ リ ア と して 血 清 ア ル ブ ミ ン を使 う. 血 清 ア ル ブ ミ ン は ア ミ ノ酸 の 一 種 の ト リプ トフ ァ ンの キ ャ リ ア で もあ る.し
か
し,遊 離 脂 肪 酸 が 大 量 に動 員 さ れ る こ とで ア ル ブ ミ ン を 占有 し,ト リ プ トフ ァ ン が 追 い 出 され,結
果 と して 結 合 して い な い 遊 離 の トリ プ トフ ァ ン濃 度 が 増 大 す
る. ト リプ トフ ァ ン は神 経 伝 達 物 質 の一 種 で あ る セ ロ トニ ン前 駆 体 で もあ る.脳 内 で の セ ロ トニ ンの 合 成 は基 質 の 供 給 が律 速 段 階 に な っ て お り,遊 離 の トリ プ トフ ァ ンが 増 加 す る こ とで 脳 内 に流 入 す る量 が 増 え,セ る.こ
ロ トニ ン の 合 成 量 が 増 大 す
れ に よ りセ ロ トニ ン作 動 性 神 経 の 活 動 が 上 昇 し,疲 労 感 を生 成 す る,と い
うの が 彼 らの 説 で あ る. ま た 持 久 運 動 で は 骨 格 筋 で の エ ネ ル ギ ー 源 と して 分 枝 鎖 ア ミ ノ酸 も利 用 され る.分 枝 鎖 ア ミノ酸 は特 異 的 な輸 送 タ ンパ ク質 に よ って 脳 内 に 取 り込 ま れ るが, 同 じ輸 送 タ ンパ ク質 を トリ プ トフ ァ ン も利 用 して い る.運 動 に よっ て 分 枝 鎖 ア ミ ノ 酸 の血 中濃度 が 減 少 す る と脳 内 に流 入 す る トリプ トフ ァ ンの量 が 相 対 的 に増 大 す る こ と も上 で 述 べ た よ うな セ ロ トニ ン合 成 が 増 加 す る条 件 と一 致 す る. 脳 内 の トリ プ トフ ァ ン流 入 を抑 制 す る こ とで 疲 労 感 が 抑 制 され る こ とや,セ
ロ
トニ ン作 動 性 神 経 の活 動 を薬 物 で変 化 させ る こ とで 持 久 運 動 の成 績 が 変 わ る こ と な どか ら,こ の 仮 説 は妥 当 で あ る と考 え られ て きた. しか し、セ ロ トニ ン の合 成 が 増 大 す る よ うな 脂 肪 酸 濃 度 の増 大 や 分 枝 鎖 ア ミ ノ 酸 濃 度 の低 下 が み られ る よ う な状 況 はマ ラ ソ ンの よ う なか な り長 時 間 の 運 動 を要 す る もの で あ り,わ れ わ れ が 日常 的 に感 じて い る,肉 体 的 な消 耗 の あ ま りな い 疲
労 感 と は異 な る も の と考 え られ る.ま た,う
つ 病 患 者 や慢 性 疲 労 症 候 群 患 者 は意
欲 の 低 下 や 強 い 疲 労 感 を訴 え る が,こ れ ら疾 患 の 治 療 に脳 内 の セ ロ トニ ン濃 度 を 高 め るセ ロ トニ ン トラ ン ス ポ ー タ ーの 選 択 的 阻 害 剤(serotonin inhibitor, SSRI)が
よ く使 わ れ て い る こ とか ら,セ
を 引 き起 こ して い る と考 え られ る.セ
specific reuptake
ロ トニ ンの 低 下 が む しろ 疲 労
ロ トニ ンだ けで は少 な くと も疲 労 時 の 意 欲
の低 下 は説 明 で き な い 。 渡 辺 らは脳 血 流 量 の 変 化 を測 定 す る こ と で健 常 人 が 疲 労 を感 じて い る と き に活 動 が 亢 進 す る脳 部 位 を眼 窩 前 頭 や 下 前 頭 葉,前
帯 状 回 と報 告 して い る3).今 後 疲
労 感 の 発 生 に 関 与 す る分 子 的 背 景 と,脳 活 動 の 可 視 化 な ど を含 め た神 経 生 理 学 的 手 法 を統 合 し,疲 労 感 の 生 成 機 構 を解 明 し て い く必 要 が あ る と思 わ れ る.
3.3 脳 内 サ イ トカ イ ンの 役 割 脳 の(物
質 的)活
動 は,脳 が浸 っ て い る環 境 で あ る脳 脊 髄 液 に あ る程 度 反 映 さ
れ る.脳 脊 髄 液 と は頭 蓋 骨 と脊 椎 に よ っ て 保 護 され た 脳 と脊 髄 が 浸 っ て い る液 で,ク
ッ シ ョ ンの 役 割 をす る だ け で な く栄 養 素 な ど の 物 質 を運 ぶ 役 割 を して い
る.筆 者 らは 疲 労 感 を生 成 す る物 質 が 脳 で 産 生 され,疲
労 が 起 こ る 条件 で,そ
の
物 質 が 脳 に 対 し て作 用 す る と と も に 一部 が 脳 脊 髄 液 中 に漏 れ 出 て くる と仮 定 し た.そ れ ゆ え,想
定 した よ う な活 性 が 存 在 す る な ら ば,疲 労 した動 物 の脳 脊 髄 液
を疲 労 して い な い動 物 に投 与 す る と,そ の動 物 に 疲 労 感 が 生 じる は ず で あ る.そ こ で,強 制 遊 泳 運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 を 採 取 して これ を安 静 に 保 ち 肉体 的 な 疲 労 の ない マ ウ ス に投 与 し た と ころ,疲 労 した と きの よ う に動 か な くな り,オ ー プ ン フ ィー ル ドに お け る 自発 行 動 量 の 減 少 が み られ た(図3.1).こ の結 果 よ り,運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 中 に は 、自発 行 動 量 を減 少 させ る物 質 が 存 在 す る こ とが 明 らか とな っ た.さ
ら に淡 水 産 腔 腸 動 物 で あ る ヒ ド
ラ を 用 い たバ イ オ ア ッセ イ に よ り,疲 労 した ラ ッ トの脳 脊 髄 液 中 で増 加 して い る 物 質 はTGF-β(transforming
growth
した ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 か ら抗TGF-β 行 動 量 を低 下 させ る 活 性 が 失 わ れ,精
factor-β)で あ る こ とが 示 唆 さ れ た.疲 労 抗 体 を用 い てTGF-β 製 したTGF-β
存 的 に 自発 行 動 量 の低 下 が 見 られ た(図3.2).オ
を 除 去 す る と,自 発
を脳 内 に投 与 す る と用 量 依
ー プ ン フ ィー ル ドで の 自発 行 動
に は探 索 行 動 が 含 まれ るが,純 粋 に 自発 的 な 運 動 の み を 測 定 で きる,ホ ー ム ケ ー
図3.1 疲 労 ラ ッ ト脳 脊 髄 液 の脳 内投 与 が マ ウス 自発 行 動 量に及ぼす影響 遊 泳 運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの脳 脊 髄 液 を マ ウ ス に 脳 内投 与 し,そ の 自 発 行 動 量 を測 定 した.対 照 群 に は 運 動 して い ない安 静 ラ ッ ト脳 脊 髄 液 を投 与 した.*:p<0.05, **:p<0 .01 (引 用 文 献1よ
図3.2 TGF-β
脳 内投 与 が マ ウ ス 自 発 行
動 量 に 及 ぼす 影 響 を マ ウ ス に 脳 内投 与 し,そ
TGF-β
り改 変)
発 行 動 量 を測 定 し た.60分
(引用 文 献1よ
の自
間 の 自発 行
TGF-β
を マ ウ ス に 脳 内 投 与 し,そ の 自発
運 動 量 を測 定 し た.測 定 時 間3時 間 に お い て マ ウス が 走 行 した量 を 回 転 か ご の 回転 数 カ ウ ン トで 示 し た.対
照 群 に はTGF-β
を
溶解 す る の に用 い た溶 媒 の み を投 与 した. り改 変)
(引 用 文献1よ
ジ に 回転 カ ゴ を設 置 した 装 置 で 自発 運 動 量(回 TGF-β
脳 内 投 与 が 回転 か ご に お け
るマ ウス 自発 運 動 量 に及 ぼ す 影 響
動 量 の 積 算 値 を 示 し た.対 照群には TGF-β を溶 解 す る の に用 い た 溶 媒 の み を投 与 し た.
図3.3 TGF-β
り改 変)
転 か ご の 回 転 数)を
投 与 に よ りそ の 減 少 が み られ た(図3.3).こ
測 定 す る と,
れ らの結 果 よ りTGF-β
がお
そ ら く疲 労 感 を生 成 す る こ と に よ り,運 動 負 荷 に よ る 自発 行 動 量 の 減 少 に 関 与 す る こ とが 明 らか とな っ た.
TGF-β
は も と も と細 胞 の 表 現 型 を トラ ンス フ ォー ム し,増 殖 させ る 活 性 と し
て 発 見 され た.そ
の 後 の 研 究 の 進 展 に よ りTGF-β
は 非 常 に さ ま ざ ま な作 用 を も
つ サ イ トカ イ ンの 一 つ と して 認 識 さ れ て お り,細 胞 の 成 長 ,分 化,機
能 の亢進 ま
た は そ の 逆 の抑 制 に も働 く多 機 能 性 を 示 す こ とが 明 らか と な っ て い る.こ の よ う な機 能 の一 環 と してTGF-β て い る.TGF-β
は,傷 害 や 炎 症 に伴 う組 織 の 損 傷 の 修 復 に も 関与 し
は脳 内 で も広 く発 現 が み られ,ニ
マ イ ク ロ グ リ ア な どで 発 現 が み られ る.そ て い る と考 え ら れ て い るが,こ
ュ ー ロ ン や ア ス トロ サ イ ト,
して 脳 内 で も上 記 の よ うな 機 能 を も っ
れ に加 え て疲 労 感 を発 生 させ る役 割 を も っ て い る
こ とが 筆 者 らの研 究 に よ り示 さ れ た.な ぜTGF-β 響 を 与 え る 働 き を もつ よ う に な っ た の か,そ
が こ の よ う な動 物 の行 動 に影
の 進 化 的 要 因 は 不 明 で あ る.し
か
し,疲 労 感 の役 割 の 一 つ と して,進 行 中の 運 動 を 止 め,運 動 に よ り消 耗 した 組 織 の 修 復 に 適 した 環 境 を整 え る 目的 が あ る とす れ ば,TGF-β
が 疲 労 感 を発 生 させ
る機 能 を もっ て い る と い う こ とは あ る 意 味 当 然 な の か も しれ な い.
3.4 疲 労 感 と エ ネ ル ギ ー 代 謝 疲 れ た とい う感 覚 は,身 体 が エ ネ ル ギ ー を使 い果 た し動 け な くな って し ま うの を避 け る た め の 防 御 機 構 で あ る と考 え られ る.つ 生 させ,自
ま り脳 内TGF-β
は疲 労 感 を 発
発 行 動 を抑 制 す る こ と に よ り,そ れ 以 上 の末 梢 組 織 で の エ ネ ル ギ ー 消
費 を抑 え,回 復 を促 して い る の で あ ろ う.し か した と え疲 労 を感 じて も,運 動 を や め る こ とが 個 体 の 維 持 に直 接 危 機 を もた らす 場 合 が あ る.た
と え ば,わ れ わ れ
が 泳 い で い る と き,疲 れ た とい っ て 泳 ぐの を や め て しま え ば お ぼ れ 死 ぬ か も しれ な い.野 生 動 物 が 捕 食 者 か ら逃 亡 して い る と き も同 様 で あ る.こ の よ うな 状 況 で は,で
き る だ け 長 時 間運 動 を続 け て い られ る よ うに 身 体 の 代 謝 を変 動 させ る必 要
が あ る. 運 動 を始 め て初 期 の 段 階 は糖 質 が 主 に エ ネ ル ギ ー源 と し て使 用 され,徐
々 に脂
肪 酸 を用 い る割 合 が 高 くな っ て くる.糖 質 は 脂 肪 と比 較 して 貯 蔵 量 の 少 な い エ ネ ル ギ ー 源 で あ り,か つ,脳
の 主 要 なエ ネ ル ギ ー 源 で あ る.グ
リ コ ー ゲ ンは体 内 の
糖 質 の貯 蔵 形 態 で あ る が,筋
肉 に蓄 え られ て い る グ リ コー ゲ ンが 枯 渇 す る と円 滑
な筋 収 縮 に 支 障 を きた す.マ
ラ ソ ン に お い て 競 技 場 の最 後 の 直 線 ま で 勝 負 が もつ
れ た と き,爆 発 的 な ス プ リ ン トで 先 に ゴ ー ル す るた め に グ リ コ ー ゲ ンは 温 存 し な
くて は な らな い.野
生 動 物 で も最 後 の 瞬 間 に 敵 か ら逃 げ お お せ る た め に瞬 発 的運
動 の エ ネ ル ギ ー 源 で あ る グ リ コー ゲ ン を残 して お く必 要 が あ る.そ の た め 糖 質 主 体 か ら脂 肪 酸 主 体 へ とエ ネ ル ギ ー 基 質 の利 用 割合 を変 化 させ る こ と は長 時 間 運動 を行 わ ね ば な ら な い と き に は特 に重 要 に な っ て くる.運 動 に よ り疲 労 を感 じ始 め る 頃 に は体 内 の エ ネ ル ギ ー が あ る程 度 消 費 され てい るが,こ
の 時点で運動 をやめ
る こ とが で き な い の で あ れ ば,持 久 運 動 に備 え てエ ネ ル ギ ー 代 謝 を脂 肪 酸 代 謝優 位 に 変 化 させ る 方 が 合 理 的 で あ る.TGF-β な っ て い る が,単
は脳 内 で疲 労 感 を引 き起 こ す 一 因 と
に 疲 労 感 を 生 成 す る だ け で は な く代 謝 に も影 響 を与 え て い る か
ど うか 興 味 が も た れ た. TGF-β
を 脳 内 に投 与 す る と,体 内 で エ ネ ル ギ ー 基 質 と して 何 が 酸 化 さ れ て い
るか と い う代 謝 状 態 の 指 標 とな る呼 吸 交 換 比(呼 は低 下 す る 傾 向 が み られ た(図3.4).ま
た,こ
吸 商)の
値 が 少 な く と も1時 間
の と き糖 質 燃 焼 量 に変 化 は み られ
なか っ た が,脂 肪 酸 燃 焼 量 の 有 意 な増 加 が み られ た(図3.5).酸 は み られ な か っ た こ とか ら,TGF-β 変 化 せ ず,脂
の脳 内 投 与 に よ っ て,エ
素消費量 に変化 ネルギ ー消費量 は
肪 酸 の 燃 焼 す る割 合 が 高 くな る こ とが 明 らか と な っ た.TGF-β
図3.4 TGF-β 脳 内投 与 が ラ ッ ト呼 吸 商 に 及 ぼ す影響 TGF-β
を ラ ッ ト脳 内 に 投 与 した と き そ の 呼 吸
商 の 変 化 を を測 定 し た.対
照 群 に はTGF-β
溶 解 す る の に 用 い た 溶 媒 の み を投 与 した.**: p<0.01 (引用 文 献2よ
り改 変)
を
を
図3.5 TGF-β
脳 内 投 与 が ラ ッ ト脂 質 酸 化 に
及ぼす影響 図3.4と 同 様 の 条 件 で,ラ
ッ トが エ ネ ル ギ ー
基 質 と し て脂 質 を 用 い る 量 の 変 化 を示 し た. *:p<0 .05,**:p<0.01 (引 用 文 献2よ
り改 変)
投 与 した と き に み られ る これ らの 代 謝 変 化 は 持 久 運 動 を行 っ た と き,あ るい は そ の 後 の 代 謝 の 状 態 と 同 様 で あ り,TGF-β
の 運 動 時 の 代 謝 調 節 へ の 関 与 を 強 く示
唆 す る もの で あ る.脳 内TGF-β
に よ る脂 肪 酸 利 用 割 合 の 増 加 は持 久 運 動 に 適 し
た代 謝 状 態 にす る た め な の か,そ
れ と も運 動 終 了 後 の 身体 の 回 復 や 修 復 の た め な
の か は 不 明 で あ る が,TGF-β
は 疲 労 を引 き起 こ す よ うな 状 況 に 心 身 と も に 対 応
させ る 方 向 に はた らい て い る よ うで あ る.
3.5 発 熱 と疲 労 風 邪 を ひ く と疲 労 感 が 生 じる.こ の ほ か に も発 熱,寒
気,眠 気,食
欲 低 下,関
節 痛 な ど さ ま ざ まな 症 状 が 現 れ る.こ の よ う な症 状 は 誰 に と っ て もあ ま り好 ま し い も の で は な い.し か し,こ れ に よ り動 物 は 初 期 に は体 調 の 異 変 を認 識 し,完 全 に 感 染 が確 立 して し ま っ た と きに は 活 動 を休 止 し て 回復 を期 す こ とに な る.こ れ らの 症 状 は い ず れ も身体 に と っ て不 利 な反 応 と思 わ れ る が,必 ず し もそ う と は い え な い.た
と え ば感 染 時 の 食 欲 低 下 に つ い て す ら何 らか の 利 点 が あ る よ う に思 わ
れ る.実 験 的 に感 染 症 を引 き起 こ した マ ウス に 健 康 な マ ウ ス と同 カ ロ リー の 食 餌 を摂 取 させ る とそ の 死 亡 率 が 有 意 に増 加 して し ま う こ とか ら,食 欲 を低 下 させ 食 餌 摂 取 を抑 制 す る 反 応 に は 感染 症 に対 して 有 利 と な る何 らか の 機 能 が あ る こ と を
示 唆 し て い る.ま た 発 熱 に は ウ イ ル ス や バ ク テ リア の 増 殖 を抑 制 し,免 疫 細 胞 を 活 性 化,増
殖 さ せ る 目的 が あ る.寒
ぎ,(感 染 防 御 的)発
気 を 感 じる こ と に は 体 熱 の 余 計 な放 散 を 防
熱 状 態 を効 率 良 く維 持 す る た め の 行 動 を 引 き起 こす 意 味 が
あ るの か も しれ ない.感
染 時 の 疲 労 感 は運 動 時 の 疲 労 以 上 に動 く こ とが 不 利 に な
る とい う こ と を知 らせ る もの だ と考 え られ る.痛 み や 発 熱 は生 体 に何 らか の 不 具 合 が あ る こ と を知 らせ,そ
の 原 因 に 対 処 す る 反応 を引 き起 こす もの で あ り,そ の
よ う な意 味 で 疲 労 感 も同 様 の 警 告 信 号 で あ る と見 な され る.生 体 防 御 反 応 と し て の 発 熱 は 遮 断 す る方 が 感 染 の 除 去 を 遅 らせ て し ま う.し か し過 剰 な反 応 は 身 体 に と っ て大 き なス ト レス と な って しま うた め,痛 み,発 熱,疲 労 感 と も不 必 要 な部 分 に 関 して は コ ン トロ ー ル が 必 要 な こ と は い う まで も ない. 風 邪 の よ う な全 身 に お よぶ 感 染 症 で は,単 球 や マ ク ロ フ ァー ジが 活 性 化 され サ イ トカ イ ンが 分 泌 さ れ る.こ
の血 中 に放 出 され た サ イ トカ イ ンが 脳 に作 用 す る こ
と に よ り,動 物 の 行 動 量 や 摂 食 量,体 に な っ て い る.ヒ
温 な どに 大 きな影 響 を与 え る こ とが 明 らか
トに お い て も同 様 で 癌 な どの 治 療 目的 で サ イ トカ イ ン を投 与 す
る と副 作 用 と して発 熱,食
欲 低 下,頭
痛,疲
労 感 な どの症 状 が み られ る.つ
まり
感 染 症 に よ る疲 労 感 とサ イ トカ イ ン と の 関 連 が 強 く示 唆 さ れ て い る. 運 動 に よ る 疲 労 感 生 成 時 のTGF-β TGF-β
の働 き か ら,感 染 に よ る疲 労 感 に も同 様 に
が 関 与 して い る か も しれ な い と 考 え られ た.そ
して合 成 二 本 鎖RNAで
こ で疑 似 的 感 染 モ デ ル と
あ るpolyinosinic-polycytidylic acid(Poly-I:C)を
ラッ
トの腹 腔 内 に投 与 す る こ と で 感染 様 症 状 を 引 き起 こ し,感 染 に よ り引 き起 こ され る疲 労 感 とTGF-β 鎖RNAが
との 関 連 に つ い て 検 討 した.ウ
大 量 に合 成 され,こ
イ ル ス が 増 殖 す る際 に は二 本
れ に よ り体 内 の免 疫 系 が 活 性 化 さ れ,一
防 御 反 応 が 引 き起 こ され る.こ の た め,Poly-Ⅰ:Cを
連の感染
投 与す る とウイルス感染 と
同様 の 症 状 が 引 き起 こ さ れ る こ と を利 用 した 。 Poly-I:Cを (図3.6).ラ
腹 腔 内 に投 与 す る とラ ッ トの 行 動 量 は激 減 す る の が 観 察 さ れ る ッ トは うず く ま っ て動 か な くな り,餌 も ほ とん ど食 べ な い.こ
の症 状 に 対 応 す る よ う に脳 脊 髄 液 中 のTGF-β
れら
濃 度 の 増 加 が 見 ら れ た(図3.7).
ラ ッ トの 自発 行 動 減 少 に先 立 っ て脳 脊 髄 液 中 でTGF-β
濃 度 が 上 が る こ と は,こ
の サ イ トカ イ ンが 感 染 時 の疲 労 様 行 動 の 発 現 に も関 与 して い る こ と を示 唆 す るデ ー タ と考 え られ る .
図3.6 Poly I:C腹
腔 内 投 与 が ラ ッ ト自発 行 動 量 に 及 ぼ す 影 響
Poly Ⅰ:Cを 生 理 食 塩 水 に 溶 解 し ラ ッ ト腹 腔 内 に投 与 した と き の 自発 行 動 量 の 変 化 を示 した.対
照 群 に は生 理 食 塩 水 の み を
投 与 した.
図3.7
Poly I:C腹
腔 内投与 が 脳脊 髄 液 中
TGF-β 濃 度 に 及 ぼ す 影 響 ラ ッ ト腹 腔 内 にPoly I:Cを 投 与 し た と きの 脳 脊 髄 液 中TGF-β <0.05.
濃 度 の 変 化 を 示 した.*:p
免 疫 細 胞 に よ り分 泌 さ れ る サ イ トカ イ ン は 大 ま か に わ け る と 炎 症 性 と抗 炎 症 性 の も の に 分 類 さ れ る が,TGF-β C投
は 後 者 に 分 類 さ れ る.ウ
イ ル ス 感 染 時 やPoly-Ⅰ:
与 に よ り一 般 的 に は血 液 中 の 炎 症 性 サ イ トカ イ ンが 増 加 す る と さ れ て お り,
そ の 中 で もinterleukin-1β
やtumor
necrosis
factor-α,
interferon-α
な どが 感 染
時 の う つ 症 状 や 食 欲 の 低 下,行 と が 知 ら れ て い る.TGF-β
動 量 の 低 下 で 表 さ れ る 疲 労 感 の 生 成 に 関 与 す る こ は 末 梢 組 織 で は 抗 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン と し て 働 き,
炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の 産 生 や 活 性 を 減 弱 さ せ る.脳
内 で も お そ ら く抗 炎 症 性 サ イ
ト カ イ ン と し て 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の 過 剰 な 働 き を 抑 制 し て い る の だ ろ う.し し,TGF-β
か
を脳 内 に 投 与 す る と 自発 行 動 量 の低 下 が み られ る 現 象 は サ イ トカ イ
ン と し て の 働 き で は 説 明 で き ず,脳 考 え ら れ る.こ
内 で は この ほ か に も別 の 作 用 を もっ て い る と
の よ う な 働 き を 示 す 例 と し て,脳
内 にTGF-β
ト で は 脳 波 の う ち β 波 の 増 加 と α 波 の 減 少 が,ま
を投 与 す る と ラ ッ
た 細 胞 外 液 中 の 神 経 伝 達 物 質
濃 度 の 変 動 に 表 さ れ る 神 経 活 動 の 変 動 が い くつ か の 脳 部 位 で 明 ら か と な っ て い る.こ
れ ら はTGF-β
る の で は な く,神
が サ イ トカ イ ン と し て 別 の 免 疫 担 当 細 胞 に 対 し作 用 し て い 経 細 胞 に 作 用 し て 脳 の 活 動 を 変 調 し て い る こ と を 示 し て い る.
感 染 に よ る 疲 労 感 と運 動 に よ る 疲 労 感 で は そ の 原 因 は 明 らか に ま っ た く異 な る も の で あ る.こ か ら,両
れ に 対 しTGF-β
は 感 染 で も 運 動 で も脳 脊 髄 液 中 で 増 加 す る こ と
者 の 疲 労 感 生 成 機 構 の う ちTGF-β
路 が あ る の か も し れ な い.い
が 関 与 す る 部 分 な ど一 部 は共 通 の 経
ず れ の 場 合 に お い て も疲 労 感 は行 動 を抑 制 し 身体 を
回 復 さ せ る と い う 目 的 で は 共 通 で あ り,疲 消 耗 さ せ る 刺 激(ス る の が 脳 内TGF-β
ト レ ス)を
労 感 を 形 成 す る 機 構 に お い て,身
脳 内 に 伝 え,メ
体 を
デ ィ エ ー ター の 一 つ と して 機 能 す
だ と 考 え ら れ る. 引 用
1) Inoue K, Yamazaki
H, Manabe
文 献
Y, et al.(1999)Transforming
cise in brain depresses spontaneous
motor
growth factor beta activated during exer
activityof animals. Relevance
to central fatigue.Brain Res,
846,145-153 2) Yamazaki
H, Arai M, Matsumura
S, et al.(2002)Intracranial
factor-beta3 increases fat oxidation in rats.Am 3) 井 上 正 康,倉
恒 引 彦,渡
辺 恭 良(2001)疲
労 の 科 学,講 参 考
Inoue
K, Yamazaki
H, Manabe
administration of transforming
J Physiol Endocrinol Metab,283,
growth
E536-E544
談社
文 献
Y, et al.(1998)Release
of substance
that suppresses
spontaneous
activityin the brain by physical exercise. Physiol Behav, 64,185-190 Yamamoto T, Newsholme EA(2000)Diminished central fatigue by inhibition of the L-system for the uptake of tryptophan. Brain Res Bull,52(1),35-8
motor
transporter
4.筋
肉増強 の メカニズム
筋 肉 はエ ネ ル ギ ー源 産 生 に 関 して 他 の 組 織 に ほ とん ど寄 与 し な い,利 己 的 な組 織 で あ る(後 述 す る よ う に非 常 時 に は ア ミノ酸 の 形 で 糖 新 生 な ど の基 質 供 給 源 と して,大
き な プ ー ル で は あ る).さ
らに 静 止 時 に も組 織 維 持 に 多 くの エ ネ ル ギ ー
を 使 い 続 け る 浪 費 家 と もい え る.こ の た め 動 物 の 身 体 にお い て 骨 格 筋 の 量 は必 要 な 量 だ け が 維 持 され る よ う厳 密 な調 節 を受 け て い る. 筋 肉 の 増 強 とい っ た場 合,骨 格 筋 の 出 力 の増 大 や 持 久 的 な運 動 能 力 の 増 大 が 想 定 され る.骨 格 筋 出力 は 究 極 的 に は 筋 断 面 積,す
な わ ち骨 格 筋 の 太 さ ・量 に よ り
決 定 され る.瞬 発 力 を 高 め るた め に は速 い 筋 肉 の 収 縮 特 性 と大 き な筋 出 力 が 必 要 で,こ の よ う な 能 力 を増 大 させ る トレー ニ ング は ウ ェ イ ト トレー ニ ング な どに代 表 され る,高 い負 荷 を か け て 運 動 す る レ ジス タ ンス ト レー ニ ン グで あ る.骨 格 筋 量 の 増 大 に は 筋 線 維 数 が 増 大 す る場 合,そ
れ か ら筋 線 維 が 太 くな る 場 合 が あ る.
筋 線 維 の 数 が 増 大 す る場 合 はhyperplasia(過 本1本
が 太 くな る場 合 をhypertrophy(肥
大)と
形 成),筋
線 維 の 数 は 増 え ず に1
す る.
骨 格 筋 で の 持 久 運 動 能 力 を高 め る た め に は,有 酸 素 的 にエ ネ ル ギ ー を 産 生 す る 能 力 を 高 め る こ とが 必 要 で,そ の た め に は骨 格 筋 内 の ミ トコ ン ドリ ア量 を増 大 さ せ な け れ ば な らな い.そ
の と き,骨 格 筋 そ の もの も疲 労 しに くい タ イ プ に 変 換 さ
れ て い る 必 要 が あ る.ま た 当 然 の こ とな が らエ ネ ル ギ ー 源 や 酸 素 供 給 に 必 要 な血 管 系 の 発 達,細 胞 にエ ネ ル ギ ー 基 質 を取 り込 む た め の 各 種 担 体 の 増 大 も同 時 に起 こ る必 要 が あ る.
4.1 筋 肉 の 遺 伝 子 発 現 骨 格 筋 は 形 態 的 に 複 雑 な器 官 で あ り,さ ま ざ ま な細 胞 が 三 次 元 的 に組 織 され て 本 来 の機 能 を果 たす.そ
の た め に複 雑 な発 生 過 程 を経 る.通 常 筋 肉 の 元 に な る細
胞(筋
芽 細 胞)の
増 殖,分
化,細
熟 とい う経 過 を た ど るが,形
胞 融 合(多
核 の 筋 管 形 成,さ
態 的 に特 徴 の な い 線 維 芽 細 胞 様 の筋 芽 細 胞 が 骨 格 筋
に 変 化 して い く過 程 は視 覚 的 に も大 きな変 化 で あ り,多 興 味 を も っ て い た.今
ら に組 織 化),成
くの 研 究 者 が そ の過 程 に
日骨 格 筋 の 発 生 過 程 は か な り明 らか に な っ て きて い る.
a. 骨 格 筋 収 縮 タ ンパ ク質 の 種 類 と機 能,発 現 1) 骨 格 筋 形 成 の マ ス タ ー レギ ュ レ ー タ ー
骨 格 筋 形 成 に はMyodと
い うタ
ンパ ク質 が す べ て の ス イ ッチ をオ ン にす る働 き を もつ マ ス タ ー レギ ュ レ ー タ ー だ と考 え られ て い る1).さ ま ざ ま な異 な っ た系 譜 の 細 胞 にMyodを 骨 格 筋 細 胞 へ の 分 化 を誘 導 す る こ とが で きる.す こ と を決 定 づ け られ た 細 胞 で あ っ て もMyodの
導入 す るだけで
な わ ち,他 種 の細 胞 に分 化 す る
導 入 で骨 格 筋 へ と分化 す る こ とか
ら,こ の 遺 伝 子 が 骨 格 筋 形 成 に 関 して マ ス ター レギ ュ レ ー タ ー と 考 え られ て い る. 個 体 の 発 生 時 に はMyodに (Myog)とMrf4が
加 え て 構 造 の 非 常 に よ く似 たMyf5,myogenin
骨 格 筋 分 化 に重 要 で あ る こ とが わ か っ て い る.こ れ ら は い ず
れ も塩 基 性 ヘ リ ッ ク ス-ル ー プ-ヘ リ ッ ク ス タ ン パ ク質(basic proteins, bHLH)と
呼 ば れ る ク ラ ス に属 す る.Myod,
Myf5を
伝 子 破 壊 した マ ウ ス で は正 常 に 骨 格 筋 が 形 成 され るが,こ る と骨 格 筋 は 生 成 し ない.MyodとMyf5は
helix-loop-helix そ れ ぞ れ 単 独 に遺
の 両 者 を同 時 に破 壊 す
胚 の 中 で 発 現 す る 部 位 が違 うの だ が,
互 い に 機 能 を補 完 す る こ とが で き る.MyogとMrf4は
この両者 に よって誘導 さ
れ る. Myodに よ る 活 性 化 に 応 答 す る遺 伝 子 す べ て が 同 時 に 発 現 す る わ け で は な い. 一部 は た だ ち に 誘 導 され る が ,他 方 で 誘 導 に さ ら に2日 ほ ど必 要 な 遺 伝 子 もあ る.加
え て い くつ か の 遺 伝 子 発 現 は一 時 的 で あ り,い
現 が 減 少 す る もの もあ る.大 子,プ
くつ か の遺 伝 子 に は 直接 発
まか に は初 期 に誘 導 発 現 す る遺 伝 子 の 多 くは接 着 分
ロ テ ア ー ゼ も含 め た細 胞 外 マ トリ ッ クス 分 子,中
間 期 に発 現 す る遺 伝 子 群
は 大 部 分 が 遺 伝 子 転 写 調 節 因 子,最 後 に 発 現 す る遺 伝 子 群 は骨 格 筋 の収 縮 機 能 に 関 与 す る筋 線 維 と細 胞 骨 格 タ ンパ ク質 で あ る.す き,初 め に 細 胞 の遊 走 と位 置 決 定 が な され,次
な わ ち,Myodの
発 現 に 引 き続
に転 写 因 子 セ ッ トの 活 性 化 が 起 こ
り,分 化 の 最 終 段 階 に な っ て は じめ て骨 格 筋 収 縮 タ ンパ ク質 が 発 現 され る. 2) 横 紋 筋(心
筋 と骨 格 筋)に
発 現 す る ミ オ シ ン重 鎖 ア イ ソ フ ォ ー ム
本章
で は心 筋 と骨 格 筋 を対 象 とす る.両 者 はい ず れ も横 紋 筋 を もつ.こ れ ら筋 肉 の 収 縮 特 性 を 決 定 す る の は ミオ シ ン重 鎖(myosin
heavy chain, MHC)で
は 骨 格 筋 を 形 成 し,化 学 的 エ ネ ル ギ ー(ATP)を る.MHCは
あ る.MHC
運 動 に変 換 す る 活 性 の 本 体 で あ
個 体 の 発 生 か ら成 熟 に 至 る まで に 時 期,お
よび 体 内 の 部 位 に よ っ て
異 な る ア イ ソ フ ォー ム が 発 現 す る 調 節 を 受 け て い る.MHCア
イ ソフォーム ご と
に 収 縮 速 度 が 異 な る.哺 乳 動 物 の 横 紋 筋 で 発 現 して い るMHCは
下 記 の もの が 同
定 され て い る2). 胚 型(embryonic):新
生 仔 型 と と も に 発 生 時 の 筋 肉 で 主 要 な ア イ ソ フ ォー ム
で あ る.咬 筋,外 眼 筋 で もみ ら れ る.ま た 成 熟 動 物 の 筋 再 生 時 に もみ られ る. 新 生 仔 型(neonatal):新
生 仔 の 骨 格 筋 に発 現 して い る タ イ プ.株 化 さ れ た 筋
細 胞 や 骨 格 筋 の 初 代 培 養 で発 現 す るMHCは 心 筋 型 α(cardiac い る.α-MHCは
胚 型 と新 生 仔 型 で あ る.
alpha,α-MHC):α
と β-MHCは
主 と して 心 筋 で 発 現 して
咬 筋 に も発 現 して い る.
心 筋 型 β(cardiac beta,β-MHC/slow
type I):β-MHCは
心 筋,胚
の骨格 筋で
も見 ら れ る ほ か,成 熟 遅 筋 で 主 要 な ア イ ソ フ ォー ムで あ る. 遅 筋 型 タ イ プⅠ(slow
type Ⅰ):β-MHCと
同 じ.骨 格 筋 の 内 で も遅 筋 に多 く発
現 して い る.通 常 遅 筋 は 姿 勢 を保 つ 筋 肉 で,体 速 筋 型 タ イ プ Ⅱa(fast
深 部 に存 在 す る.
Ⅱa):速 筋 で 発 現 し て い る.速 筋 型 の 中 で 収 縮 速 度 が
最 も小 さ い.通 常 速 筋 は 大 き な 出力 を必 要 とす る 運 動 に用 い られ,体 表 面 に 近 い 部 分 に存 在 す る. 速 筋 型 タ イ プ Ⅱxま た は Ⅱd(fast
Ⅱx/Ⅱd):速 筋 で 発 現 して い る.中
間的な収
縮 速 度 を示 す. 速 筋 型 タ イ プ Ⅱb(fast
Ⅱb):速
筋 で 発 現 して い る.最
人 で は タ イ プ Ⅱbの 遺 伝 子 は存 在 す る が,Ⅱbタ
も収 縮 速 度 が 大 き い.
ンパ ク 質 の 発 現 は 確 認 で きな い
とす る報 告 が あ る. 外 眼 筋 型(extraocular
type):主
と して 外 眼 筋 と喉 頭 筋 に 発 現 が 限 局 さ れ た タ
イ プ. 下 顎/咀 嚼 筋 型(mandibular/masticatory
type, m-MHC):肉
食動物の下 顎筋 に
発 現 す る タ イ プ. 3) 心 臓 で のMHC発
現調 節
ヒ ト心 臓 で は 心 室 に β-MHC,心
房 に α-
MHCが
発 現 し て い る が,ラ
ッ トな ど齧 歯 類 で は α-MHCが
主要 なアイ ソフォー
ム で あ る. 心 臓 は全 身 に血 液 を供 給 す る た め,動 物 の運 動 の 状 態 に対 す る適 応 を示 す.ま た 末 梢 血 管 抵 抗 の 増 大,す る.他 のMHC同
な わ ち 高 血 圧 に よる 機 械 的 負 荷 の増 大 に も影 響 を受 け
様 甲状 腺 ホ ル モ ンの 調 節 を受 け る(後 述).
4) 骨 格 筋 で のMHC発 の タ イ プ(す
現調 節
な わ ち部 位 に よ るMHCア
新 生 児 期 の 骨 格 筋 は まだ 未 分 化 で,筋
イ ソ フ ォ ー ム発 現 パ タ ー ン)も ま だ 決 ま
っ て い ない.遅 筋 と速 筋 を 決 め る要 素 の 一 つ に神 経 支 配 が あ る.す 神 経 の 発 火 パ タ ー ンが 遅 筋 と 速 筋 を 決 め る.神 innervation)と
肉
な わ ち,運 動
経 支 配 を つ け 替 え る(cross
新 し く付 け られ た神 経 の 性 質 に応 じて骨 格 筋 の タ イ プ が 変 わ る と
い う古 典 的 デ ー タが あ る3). さ らに 遅 筋(抗 重 力 筋)の 発 達 に は体 重 が か か る刺 激(体
重 を支 え る動 作)が
必 要 で あ る.速 筋 の発 達 に は体 重 負 荷 は 必 要 な いが,甲 状 腺 ホ ル モ ン(後 述)が 作 用 しな い と未 分 化 の状 態 が 続 く. 骨 格 筋 で のMHC発 筋)で
現 は 可 塑 性 が あ る.普
は 遅 筋 型 と速 筋 型MHCが
通 の 人 の 速 筋(た
混 合 して発 現 され て い る が,同
と え ば 大 腿 四頭 じ筋 部 位 で あ っ
て も非 常 に良 く トレー ニ ング さ れ た マ ラ ソ ン ラ ンナ ー で は ほ と ん どが タ イ プIで あ り,短 距 離 選 手 や ウ ェ イ ト リ フ テ ィ ン グ選 手 で は タ イ プ Ⅱa/Ⅱxが 大 部 分 を 占 め る よ うに,ト 5)甲
レー ニ ン グ に よ っ て 骨 格 筋 ミオ シ ン発 現 パ ター ン は変 動 す る.
状 腺 ホ ル モ ンの 影 響
甲状 腺 ホ ル モ ンはMHC発
現 に 大 きな 影 響 を与
え る.新 生 時 に は 甲状 腺 ホ ル モ ン濃 度 は非 常 に低 いが,成
長 に 伴 い そ の 濃 度 は次
第 に 増 加 す る.発 達 期 の 甲 状 腺 ホ ル モ ンは骨 格 筋 の 成 熟 を促 す と と もに,成 長 し て か ら は基 礎 的 な代 謝 量 を規 定 す る 作 用 を もつ.基 本 的 に,甲 状 腺 ホ ル モ ン濃 度 減 少 は遅 筋 型 へ の 変 換 を促 し,遅 筋 で は タ イ プ Ⅰ発 現 割 合 の 増 大 が,速 筋 で は タ イ プ Ⅱa発 現 割 合 の 増 大 が 起 こ る(骨 格 筋 へ の 負 荷 増 大 と 同 じ方 向).逆
に 甲状
腺 ホ ル モ ン濃 度 の 増 大 は 速 筋 型 へ の 変 換 を誘 導 し,タ イ プIの 発 現 減 少,タ Ⅱx/Ⅱb発 現 増 大 を もた らす(骨
イプ
格 筋 へ の 負荷 減 少 と同 じ方 向).
心 臓 で は 甲状 腺 ホ ル モ ン濃 度 が 下 が る と β ア イ ソ フ ォー ム の発 現 が 増 大 す る. 長 期 的 な飢 餓 状 態 で も同 様 の変 化 が 起 き るが,こ
れ は低 栄 養 状 態 に 適 応 して 甲状
腺 ホ ル モ ン濃 度 が 減 少 す る こ と に よ る 影 響 と考 え られ る.
4.2 骨 格 筋 に 対 す る トレ ー ニ ン グ の 影 響 a. 運 動 に よ る遺 伝 子 発 現 調 節 単 回 の運 動 に よ り,代 謝 関 連 酵 素,転 写 因 子,免 疫 変 調 因子 な どの 遺 伝 子 発 現 が 有 意 に増 大 す る こ とを多 くの 報 告 が 示 して い る.た だ し運 動 して い る最 中 は遺 伝 子 発 現 の 多 くは 抑 制 され て お り,大 部 分 の 遺 伝 子 発 現 は運 動 終 了 後 の 回復 期 に 最 も促 進 され る と して い る. 1回 の 運 動 に よ る影 響 と,同 異 な るが,運
じ運 動 を反 復 す る トレー ニ ン グの 影 響 は 明 らか に
動 強 度 と期 間,頻 度 な ど考 慮 す べ き要 素 が 多 くあ り,体 系 的 な解 析
は あ ま り進 ん で い な い.ト
レー ニ ン グ を反 復 す る こ とで 適 応 が起 こ り,物 理 的 に
同 じ大 き さの 運 動 負 荷 で あ っ て も生 体 に対 す る 影 響 が 異 な っ て くる な ど,解 析 が 複 雑 に な る こ とが 実 際 に起 こる.こ れ に比 べ て 単 回 の 運 動 に よる影 響 は条 件 を整 理 しや す い が,長 で き ない.ト
期 的 な トレー ニ ン グ に よ っ て 初 め て 現 れ る効 果 に つ い て は検 討
レー ニ ン グ効 果 の 検 討 をす る実 験 を行 う と き は条 件 の 設 定 を慎 重 に
行 う必 要 が あ る.こ の よ うな実 験 条 件 の むず か し さ の た め に,運 動 に 適 応 して発 現 す る タ ンパ ク質 に つ い て,そ の 転 写 レベ ル と転 写 以 降,翻 訳 レベ ル で の 調 節 の 寄 与 に つ い て 詳 し くは わ か っ て い な い.mRNA量
と合 成 さ れ る タ ンパ ク 質 の 量
は 必 ず し も 相 関 し て い な い 場 合 も多 く,mRNA量
の 増 加 に先 立 ち,タ
ンパ ク合
成 速 度 の 上 昇 が 起 き る場 合 が あ り,こ の 場 合 は タ ンパ ク 質 合 成 効 率 の 上 昇 で 対 応 して い る こ と に な る. b. 運 動 に対 す る適 応 と これ に 関 与 す る調 節 因 子 1) レ ジ ス タ ン ス トレ ーニ ン グ の 場 合
レ ジス タ ンス ト レー ニ ン グ は た とえ
ば ウ ェ イ ト トレー ニ ン グの よ うに 高 い 負 荷 を か け て 運 動 す る こ とに よ り筋 出力 の 増 大(筋
肉増 大)を
目指 す もの で あ る.筋 肉 の 肥 大 が 起 き る よ うな 高 強 度 の 負 荷
に よ る ト レー ニ ン グ で,細 胞 の体 積 に対 す る細 胞 核 の割 合 が 一 定 だ とす る報 告 が あ る.こ の こ と は筋 細 胞 に な る こ とが 決 定 さ れ て い る が休 止 状 態 に あ る 衛 星 細 胞 が 筋 線 維 と して 分 化 し,既 存 の 筋 線 維 と融 合 して 筋 肥 大 が 起 きる こ と を示 して い る.こ れ は 冒 頭 で述 べ たhypertrophyで
あ る.衛 星 細 胞 の分 化 に際 して は発 生 段
階 で 骨 格 筋 が 形 成 さ れ る場 合 と同 様 の 過 程 を経 て い る と考 え られ て い る.ま た 協 調 筋 の腱 を切 除 す る こ と に よ り残 っ た 筋 肉 の肥 大 を促 す 実験 系 で は筋 線 維 数 の 増 大 が 観 察 さ れ る.筋 肥 大 と して は 非 生 理 的 な条 件 と考 え られ るが,こ
れ は代 償 的
肥 大 で あ り,hyperplasia(過 ⅰ) MHCパ
タ ー ン
形 成)で
あ る.
レ ジ ス タ ン ス トレ ー ニ ン グ に お い て,ラ
プ Ⅱb発 現 が 減 少 し タ イ プ Ⅱxの 発 現 が 増 大 す る.ヒ の 発 現 変 換 が 見 ら れ る.最
ッ トで は タ イ
トで は タ イ プ Ⅱxか ら Ⅱaへ
も大 きな 収 縮 速 度 を示 す タ イ プ Ⅱbは 必 ず し も トレー
ニ ン グ に よ っ て発 現 が 増 大 せ ず,や
や 収 縮 速 度 の 遅 い タイ プ の ア イ ソ フ ォー ム の
割 合 が 増 大 す る.瞬 発 能 力 増 大 を 指 向 した トレー ニ ング で あ っ て もま っ た く運 動 しな い状 態 に比 べ て 反 復 的 な運 動 を行 な わ ね ば な ら な い た め,相 対 的 に持 久 運 動 能 力 の 高 い Ⅱaや Ⅱxの 発 現 割 合 が 増 大 す る の か も しれ な い. ⅱ) 筋 肉 量 の 調 節 ①
タ ン パ ク 同化 作 用 を もつ ホ ル モ ン 全 身 の タ ンパ ク 質 合 成 を 高 め る作 用
を もつ ホ ル モ ンを ア ナ ボ リ ッ クホ ル モ ン と呼 ぶ.全
身 の タ ンパ ク質 が 増 え る こ と
に よ っ て骨 格 筋 タ ンパ ク質 量 も増 大 す る こ とに な る.こ の よ う な作 用 を もつ ホ ル モ ン と して,成 IGF),男
長 ホ ル モ ン,イ ン ス リン様 成 長 因 子(insulin-like
性 ホ ル モ ン(ア
ン ドロ ゲ ン)な
growth
factor,
どが あ る.い ず れ の ホ ル モ ン も標 的 と
な る 組 織 は 骨 格 筋 に 限 ら ない た め,単 に 投 与 した だ け で は他 の 組 織 へ の作 用 も現 れ る.た
だ しIGF-Iは
骨 格 筋 へ の 強 い 関 与 が 示 され て お り,成 長 ホ ルモ ンの骨 格
筋 に 対 す る作 用 はIGFを
介 す る もの で あ る と考 え られ て い る.
男 性 ホ ル モ ンの 一 種 テ ス トス テ ロ ンは 強 力 な タ ンパ ク 同化 作 用 を も ち,そ の 化 学 的類 縁 体 に は ア ナ ボ リ ッ クス テ ロ イ ドと称 され ドー ピ ング の 代 表 的 な薬 剤 と し て 知 られ て い る もの が 多 くあ る.通 常 の トレー ニ ン グ に よる 筋 肥 大 に も内 因性 男 性 ホ ル モ ンが 関 与 し て い る こ とが 示 さ れ て い るが4),ト の ホ ル モ ン濃 度 は変 動 し ない.こ
レー ニ ング に よ って 血 中
の と き ト レー ニ ン グ した骨 格 筋 で だ け男 性 ホ ル
モ ン に 対 す る受 容 体 数 が 増 大 し,そ の 感 受 性 が 高 ま っ て い る こ とが 示 され て い る5).こ れ は トレ ー ニ ン グ した骨 格 筋 だ け で肥 大 が 起 こ る こ と を説 明 し,も
し血
液 中 の ホ ル モ ン濃 度 増 加 で対 処 す る と必 要 の な い他 の 組 織 に まで 効 果 が 出 て し ま う の を回 避 す る 機 構 だ と考 え られ る. ②
ミオ ス タ チ ン
ミ オ ス タチ ン(myostatin),あ
ferentiation factor-8(GDF-8)はtransforming
growth
る い はgrowth
and dif
factor-beta(TGF-β)ス
ー パ ー フ ァ ミ リー に属 す る メ ンバ ー と して ク ロ ー ニ ン グ され た .こ の 遺 伝 子 を 欠 損 させ た マ ウ ス で は骨 格 筋 量 が 増 大 す る こ とか ら,正 常 な ミオ ス タチ ン は骨 格 筋
量 を 負 に 調 節 す る 因 子 で あ る と考 え られ た.ま ず,成
熟 した 動 物 で も機 能 す る.抗
た そ の作 用 は発 生 時 に と ど ま ら
ミオ ス タ チ ン中 和 抗 体 を成 熟 マ ウス に投 与,
あ る い は生 まれ て か ら ミオ ス タチ ン遺 伝 子 を 削 除 で きる よ う に した コ ン デ ィ シ ョ ナ ル ノ ック ア ウ トマ ウ スで そ の 作 用 を遮 断 す る と,成 熟 した マ ウ ス で 骨 格 筋 量 の さ らな る 増 大 が 確 か め られ て い る.さ muscled)ウ
シ で,そ
らに,遺 伝 的 に骨 格 筋 量 が 多 い(double-
の 原 因 と して ミオ ス タ チ ンの 変 異 が 確 認 され,畜
野 で も注 目 を集 め て きた.ミ
オ ス タチ ンの発 現 量 が 栄 養 条 件,あ
産 学 の分
る い は運 動 に よ
っ て 変 動 す る とい う報 告 もあ り,筋 肉量 の増 大 に関 しお お い に興 味 が も た れ る 因 子 で あ ろ う.そ の 作 用 機 構 に 関 して は ま だ詳 細 は明 らか で は な いが,筋
萎 縮 や病
的 な消 耗 な ど に対 す る治 療 の 一 環 と して 利 用 され る 可 能 性 が あ る. ⅲ) エ ネ ル ギ ー 代 謝 酸 素 状 態 で はhypoxia 酵 素,グ
短 時 間 の 瞬 発 的 な 筋 収 縮 は 無 酸 素 的 に 行 わ れ る.低
inducible factor-1alpha(HIF-1α)が
ル コー ス 輸 送担 体,酸
が 一 斉 に合 成 され る.レ 格 筋 で生 じて お り,HIFを
素 輸 送 に 関係 す る タ ンパ ク 群 を合 成 す る酵 素 な ど
ジ ス タ ンス ト レー ニ ン グ時 に は部 分 的 に低 酸 素 状 態 が 骨 介 し て適 応 が 起 こ っ て い る と考 え られ て い る
2) 持 久 トレー ニ ン グの 場 合 維 持 しつ つ,長
安 定 化 し,解 糖 系 の
持 久 トレー ニ ン グ で は で き る だ け 高 い速 度 を
時 間 の 運 動 を行 う能 力 の発 達 を 目指 す.レ
ジ ス タ ンス トレ ー ニ ン
グ と は異 な り,持 久 トレー ニ ング へ の 適 応 で は 筋 肥 大 の程 度 は低 く,む
しろ筋 細
胞 で 発 現 さ れ て い る タ ンパ ク質 の 種 類 や ア イ ソ フ ォー ム の持 久 運 動 に 適 した もの へ の 変 化 が 主 で あ る.持 久 トレー ニ ングの 強 度 と量 に よ り タ ンパ ク 質 の 発 現 パ タ ー ン は影 響 を 受 け ,適 応 の 程 度 は 異 な った もの に な る. ⅰ) MHCパ を示 す.遅
ター ン
MHC発
現 パ タ ー ンは 遅 筋 と速 筋 に よ っ て 異 な る 応 答
筋 で は発 現 す るMHCは
タ イ プIが メ イ ンの ま ま変 化 し な い.こ れ に
対 し速 筋 で は Ⅱa,Ⅱxの
発 現 が 増 大 し,Ⅱbの
発 現 は減 少 す る.さ
ら に,よ
り長
期 の トレー ニ ング で は タイ プIが 発 現 して く る可 能 性 が あ る. 心 臓 で は β ア イ ソ フ ォ ー ム の 発 現 が 増 大 す る.心 臓 に 対 す る 機 械 的 負担 増 (高血 圧)で
も 同様 の 現 象 が 起 き る こ とか ら共 通 の メ カニ ズ ム が 作 動 して い る と
考 え られ るが 詳 細 は ま だ不 明 で あ る. ⅱ) エ ネ ル ギ ー代 謝
持 久 運 動 能 力 を高 め る こ と はす な わ ち有 酸 素 的 に効
率 良 くエ ネ ル ギ ー を産 生 し,エ ネ ル ギ ー 源 と して 脂肪 を よ り効 率 良 く使 え る よ う
に す る こ とで あ る.貯 蔵 量 の 限 られ た糖 質 エ ネ ル ギ ー 源(グ
リ コー ゲ ン)に 比 べ
て脂 肪 の 量 は は るか に多 く,よ り長 い 運 動 に必 要 な エ ネ ル ギ ー を まか な う こ とが で きる.有 酸 素 的 な エ ネ ル ギ ー産 生 を担 う もの は細 胞 内小 器 官 の ミ トコ ン ドリ ア で あ る.持 久 運 動 能 力 の 高 い 遅 筋 は ミ トコ ン ド リア 量 が 多 い.ま た 酸 素 と結 合 す る タ ンパ ク質 で あ る ミオ グ ロ ビ ンの量 も多 い こ と もあ わせ て赤 っ ぽ く見 え,赤 筋 と呼 ば れ る こ と も あ る.一 流 の長 距 離 選 手 で は骨 格 筋 は赤 筋 が ほ と ん どで あ る こ と は前 述 した が,収 縮 速 度 は トレー ニ ン グ して い な い 人 に比 べ て ず っ と速 く,赤 筋 は 遅筋 で あ る とす る と誤 解 を招 くこ とが あ る.骨 格 筋 に お い て ミ トコ ン ドリア の 量 は 有 酸 素 的 な運 動 能 力 を決 定 す る 一 因 で あ る.こ れ 以 外 に も十 分 な酸 素 とエ ネ ル ギ ー 基 質 を供 給 す る た め に心 血 管 系 が,さ
らに骨 格 筋 細 胞 側 で 基 質 取 込 能力
の 発 達 が 必 要 で あ る こ とは い う まで もな い. ⅲ)
ミ トコ ン ド リ ア 数 の 調 節
chondria
biogenesis)の
peroxisomal
ミ トコ ン ド リア そ の も の の 生 合 成(mito
マ ス タ ー レギ ュ レー ター は 転 写 活 性 化 補 助 因 子 で あ る
proliferator-activated receptor gamma
で あ る と考 え られ て い る.PGC-1α 子 活 性 化 受 容 体(peroxisomal
coactivator-1alpha(PGC-1α)
は核 内 受 容 体 の 一種 ペ ル オ キ シ ソ ーム 増 殖 因
proliferator-activated receptor, PPAR)-γ
に会 合 し
て 転 写 の 活 性 化 を行 う因 子 の 一 つ で あ る.こ の ほ か に核 内 ホ ル モ ン受 容 体(レ ノ イ ン酸 受 容 体,甲 る.ミ
状 腺 ホ ル モ ン受 容 体 な ど)と
チ
も会 合 し て転 写 の 調 節 に 関与 す
トコ ン ドリ ア の酵 素 を コー ドして い る多 くの遺 伝 子(細 胞 核 に コ ー ドされ
て い る),あ
る い は ミ トコ ン ドリ アDNAに
コ ー ドさ れ て い る遺 伝 子 群 はPGC-
1α と これ に 相 互 作 用 す る転 写 因 子 に 直 接 転 写 制 御 され て い る(ミ は 自前 の 遺 伝 子 を もつ が す べ て で は な く,ミ の 多 くは 細 胞 核 で コ ー ドさ れ て い る).こ
トコ ン ド リア
トコ ン ドリ ア を構 成 す る タ ンパ ク質
の よ う にPGC-1α
は ミ トコ ン ド リア と
い う細 胞 内 小 器 官 の 形 成 に 関 係 す る多 種 の 遺伝 子 群 の発 現 の ス イ ッチ を オ ンに す る重 要 な働 き を もつ.さ
ら にPGC-1α
こ と が 明 らか に され て い る.PGC-1α
の発 現 は持 久 的 な運 動 に よ っ て 増 大 す る はmyocyte
enhancer
factor 2c(MEF2c)
と相 互 作 用 す る こ と も報 告 され て い る こ とか ら,持 久 的 な トレー ニ ン グ に お け る 骨 格 筋 の適 応 で 重 要 な役 割 を担 っ て い る と考 え られ る. 3) 脱 トレ ー ニ ン グ な ど の 影 響 や 宙 吊 り状 態 の 四 肢,ベ
重 力 に抗 す る必 要 が な い状 態(無 重 力 状 態
ッ ドで寝 た ま ま の状 態 な ど)で
は タ イ プIの 発 現 が 減 少
し,速 筋 タ イ プのMHC発 少 す る た め,筋
現 が 増 大 す る.た だ し筋 タ ンパ ク質 合 成 そ の もの が 減
重 量 は減 少 す る.こ
は ふ れ なか っ た がforkheadタ
の過 程 に前 述 した マ イオ ス タテ ィ ンや 本 項 で
イ プ の 転 写 因 子,FOXO1が
関 与 して い る と考 え ら
れ る6).実 験 的 に運 動 神 経 を切 除 し,骨 格 筋 収 縮 をで き な い よ う に した場 合 も基 本 的 に は 重 力 が な い状 態 と 同 じ変 化 が 起 きる. 4) 運 動 刺 激 の 変 換 機 構 で,運
動 の 刺 激(あ
運 動 状 態 に応 じて さ ま ざ ま な 適 応 が 起 き る う え
るい は重 力 に 抗 す る動 作)を
化 学 的 シグ ナ ル に変 換 す る メ カ
ニ ズ ム が 存 在 す る は ず で あ る.こ の よ うな機 構 の 一 部 と して,細 胞 に及 ぼ す 変 形 や ス トレス を化 学 的 シ グナ ル に 変換 す る機構 と して イ ンテ グ リ ン に リ ン ク し た キ ナ ー ゼ類,骨
格 筋 が 収 縮 す る 際 に 放 出 さ れ る カ ル シ ウ ム濃 度 の 変 動 に よ り活 性 化
され る カ ル シ ニ ュ ー リ ンの 作 用 が 注 目 さ れ て い る.骨 格 筋 肥 大 と持 久 運 動 へ の適 応 は異 な る 応 答 な の で 同 じカ ル シ ニ ュー リ ンが 関 係 す る た め に は これ に加 え て お の お の の 適 応 に特 異 的 な 別 の 因子 が 必 要 に な るだ ろ う.カ ル シ ウ ム は さ ま ざ ま な シ グ ナ ル伝 達 機 構 に お け る メ ッセ ン ジ ャ ー で あ る こ と に加 え て,骨 格 筋 で は そ の 収 縮 を 引 き起 こす 因子 で もあ る た め,骨 格 筋 で起 こ る さ ま ざ まな 適 応 に深 く関 与 して い る こ とが 予 測 され る.筋 収 縮 とい う共 通 の イベ ン トに対 して 適 応 の 方 向 を 分 け る 因子 を同 定 す る こ とは 非 常 に重 要 で あ ろ う.
4.3 食 品 成 分 と筋 肉 増 強 運 動 時 に は 多 くの エ ネ ル ギ ー を消 費 す る.こ の と き十 分 な貯 蔵 エ ネ ル ギ ー が 利 用 で き な け れ ば 糖 新 生 な どの 材 料 と して 体 タ ンパ クが 分 解 さ れ る.運 動 後 の消 耗 か らの 回復,あ
るい は骨 格 筋 の 増 大 時 に タ ンパ ク質 の 合 成 が 亢 進 す る が,そ
のと
きに は 基 質 と して 多 くの ア ミノ 酸 を必 要 とす る.こ の と き材 料 と して の タ ンパ ク 質,あ
る い は ア ミ ノ酸,エ
ネ ル ギ ー源 と して の糖 質 が 不 足 して い て は 十 分 な タ ン
パ ク 質合 成 が で き ない.運 動 に よ る骨 格 筋 増 大 は,そ の 筋 肉が 絶 対 必 要 だ と認 識 さ れ て初 め て 開 始 され る.そ い 別 の組 織(ト
こで こ れ を 達 成 す る た め に は あ ま り利 用 され て い
レー ニ ン グ に参 加 し て い な い 骨 格 筋 や 肝臓)を
分 解 して ま で も必
要 な ア ミ ノ酸 を確 保 す る よ うな 応 答 が 起 こ る.運 動 選 手 に と っ て骨 格 筋 はパ フ ォ ー マ ンス を決 定 す る 重 要 な組 織 で あ る が ,こ の よ うに い った ん つ く り上 げ た筋 肉 を分 解 ・再 構 成 す る の は 非 常 に 効 率 が 悪 く,ト レー ニ ン グ本 来 の 目的 が 達 成 で き
な い.こ の た め 十 分 な栄 養 を補 給 す る こ とが 非 常 に 重 要 と な る.ま た 筋 タ ンパ ク 質 の 分解 を抑 制 す る 働 きが 報 告 され て い る分 枝 鎖 ア ミノ 酸 を トレー ニ ン グ 前 に摂 取 し,強 い トレー ニ ン グ に よる 骨 格 筋 の 分 解 を 防 ぐな ど,栄 養 素 の摂 取 の タイ ミ ン グ も考 慮 しな け れ ば な らな い.こ
の と き摂 取 す る 栄養 素 につ い て も,糖 質 の み
な らず糖 質 とア ミノ 酸 の 組 合 せ,あ
る い は糖 質 と タ ンパ ク質(の 部 分 分 解 物)の
組 合 せ な ど,さ ま ざ ま な処 方 も開 発 され て い る.い ず れ に して も効 果 的 な 筋 肉 増 強 を 得 る た め に は,ト
レ ー ニ ン グ時 に 十 分 なエ ネ ル ギ ー と材 料 と して の タ ンパ ク
質 を 適切 な タ イ ミ ン グで 摂 取 す る こ とが 必 要 で あ る.イ
ンス リ ンや 成 長 因 子,栄
養 状 態 の 指 標 で あ る グ ル コ ー ス や ア ミノ 酸 濃 度 の情 報 を統 合 し,細 胞 内 に伝 え る 因子 と し てmammalian
Target of Rapamycin(mTOR)が
注 目 され て い る が,こ
の タ ンパ ク 質 の 活 性 と運 動 と の 関 連 に つ い て も さ ら に検 討 す る 必 要 が あ る だ ろ う. 脂 溶性 ビ タ ミ ンは核 内受 容 体 を介 して 直 接 遺 伝 子 発 現 に影 響 を与 え る.こ の よ う な ビ タ ミ ンは食 品 と して摂 取 さ れ,生 体 に直 接 影 響 を及 ぼ す 例 と して 非 常 に重 要 な もの で あ る.PGC-1α
は これ ら核 内 受 容 体 の 補 助 因 子 で あ る こ とか ら,脂 溶
性 ビ タ ミ ン な ど の レベ ル も ミ トコ ン ドリ ア遺 伝 子 発 現 に影 響 し う る.た
と え ば,
同 じ核 内 受 容 体 の 一種 で あ る ペ ル オ キ シ ソ ー ム 増 殖 因 子 活 性 化 受 容 体(peroxi some
proliferator-activated receptor, PPAR)-α
は 絶 食 時 に そ の発 現 が 増 大 す る.
ま た 同 様 に血 中 で は 脂 肪 酸 濃 度 が 増 大 す る.脂 肪 酸 は この 受 容 体 に対 す る 内 因 性 の リ ガ ン ド と考 え られ て お り,こ の シ グ ナ ル は ミ トコ ン ドリ ア で の β 酸 化 酵 素 の 増 加 を誘 導 す る.同
じメ カニ ズ ム は 高 脂 肪 食 摂 取 時 に も筋 ミ トコ ン ドリア の 増
大 を促 進 し うる.こ の ほ か,タ
ンパ ク 質 栄 養 状 態 でIGF-Ⅰ の 量 が 変 動 した り,エ
ネ ル ギ ー 充 足 状 態 に よ っ て 甲 状 腺 ホ ル モ ン レベ ル が 変 動 す る こ とな ど は骨 格 筋 の 状 態 に 影 響 を与 え る. 食 物 の 影 響 は あ ま り強 力 で は な く,ト レー ニ ング 時 に も即 時 の効 果 を 認 識 で き な い た め 軽 視 され が ちで あ る.し
か しな が ら非 常 に 多 くの タ ンパ ク質 の発 現 に影
響 を 与 え る核 内受 容 体 に対 して 直 接 影 響 す る例 や,そ の 他 の 内分 泌 因 子 に も影 響 を 与 え る こ とか ら,エ
ネ ル ギ ー 源 や 身 体 づ く りの 材 料 と して と らえ る の に加 え
て,一 種 の 信 号 と し て も働 き う る と認 識 し,ト レー ニ ン グ時 の処 方 を検 討 す る必 要 が あ る だ ろ う.
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for muscle
1
5.エ
ネル ギー代謝 と食品
5.1 運 動 中 の エ ネ ル ギー 源 に な る 栄 養 素 運 動 の エ ネ ル ギ ー 源 と な る栄 養 素 は,糖 度 の 運 動 の 場 合 は 主 に糖 質,長 え て 脂 質 と タ ンパ ク質(ア
質,脂 質,タ
ンパ ク質 で あ る.強 い 強
時 間 に わ た る 弱 い 強 度 の 運 動 の場 合 は,糖 質 に加
ミノ 酸)も 使 わ れ る.こ れ らの 栄 養 素 が 骨 格 筋 内 で代
謝 さ れ て ア デ ノ シ ン三 リン 酸(ATP)が
生 じ,筋 収 縮 の 直 接 的 な エ ネ ル ギ ー源 に
な る. a. 糖
質
糖 質 は 運 動 選 手 の エ ネ ル ギ ー 源 と して 最 も主 要 な も の で あ り,長 時 間 に わ た る 有 酸 素 運 動 で も,無 酸 素 運 動 で もエ ネ ル ギ ー源 に な る.生 体 内 で 糖 質 は骨 格 筋 と 肝 臓 で グ リ コ ー ゲ ン と して 蓄 え ら れ て お り,そ の 量 は 普 通 の 食 事 を して い る場 合,肝
臓 で250∼330kcal程
れ は 乳 酸 閾 値(後
述)の
度,全
身 の 骨 格 筋 で750∼1000kcal程
運 動 を90∼120分
度 で あ る.こ
間行 う程 度 の エ ネ ル ギ ー に相 当 す る.
高 炭 水 化 物 食 を摂 取 す る と グ リ コー ゲ ン の貯 蔵 量 は増 加 し,低 炭 水 化 物 食 を摂 取 す る と低 下 す る(5.7節
参 照).糖
質 の 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 と して の特 徴 は,解
糖 系 で 分 解 され て 無 酸 素 的 に もATPを
産 生 で き る こ と,中 枢 神 経 系 の エ ネ ル ギ
ー 源 で あ る こ と,脂 質 を エ ネ ル ギ ー 源 と して 酸 化 す る際 にTCA回
路 のオ キザロ
酢 酸 の供 給 源 と して 必 要 で あ る 三 点 で あ る.逆 に糖 質 の あ ま り好 ま し くな い特 徴 と して は,無 と,グ
酸 素 的 に 代 謝 され る と乳 酸 を 産 生 し て 骨 格 筋 の 収 縮 を 阻 害 す る こ
リ コ ー ゲ ン は す ぐれ た エ ネ ル ギ ー 源 で あ る が50kcalあ
(5.6g)に
た り15gと
脂質
比 べ て 重 い こ と,運 動 中 に摂 取 す る量 と タ イ ミ ン グ に よ っ て は イ ンス
リ ンを 分 泌 して 脂 質 の 酸 化 を阻 害 す る こ と な どが あ る. b. 脂
質
脂 質 は長 時 間 に わ た る 有酸 素 運 動 の 主 要 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ る.生 体 内 で 脂 質
は血 液 中,骨 格 筋,脂
肪 組 織 に 中性 脂 肪 と し て存 在 す る.脂
ギ ー 源 と して の 特 徴 は,β 酸 化,TCA回
質 の 運 動 中 の エ ネル
路 で 有 酸 素 的 に 代 謝 され て 多 量 のATP
を産 生 す る こ と,多 量 の エ ネ ル ギー を軽 量 に貯 蔵 で きる こ とで あ る.逆 に脂 質 の あ ま り好 ま し くな い 特 徴 と して は,酸 素 と糖 質 が 供 給 さ れ な い とATPを
産生 す
る こ とが で きな い こ と,中 枢 神 経 の エ ネ ル ギ ー 源 に は な ら ない こ と な ど,糖 質 と は 逆 の 特 徴 を有 す る. c. タ ンパ ク質 タ ンパ ク 質 は,生 体 を構 成 す る 主 要 な成 分 で あ り,運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 と し て の 関 与 につ い て は不 明 な点 が 多 い が,長 時 間 に わ た る有 酸 素 運 動 で は 分 解 が 高 ま る.タ
ンパ ク 質 が 分 解 され て生 じた ア ミノ酸 の う ち,糖 原 性 ア ミノ酸 は糖 新 生
に よっ て グ ル コ ー ス の 産生 基 質 とな り中枢 神 経 系 の エ ネ ル ギ ー 源 と して寄 与 す る こ とが で き る.ま た 分 岐 鎖 ア ミノ酸 は 骨 格 筋 で 分 解 され,か 産 生 す る(第1章
な りの エ ネ ル ギ ー を
参 照).
5.2 栄 養 素 が 利 用 さ れ る 割 合 は 運 動 中 に 変 化 す る 糖 質,タ
ンパ ク 質,脂 質 が 運 動 中 に使 わ れ る 割 合 は,運 動 の 強 度 と持 続 時 間 に
よっ て 定 ま る.安 静 時 で は,エ
ネ ル ギ ー消 費 量 の 大 部 分 は,脂 肪 酸 由 来 の 有 酸 素
的 な エ ネ ル ギ ー 代 謝 系 に 依 存 して い る.運 動 を 開 始 す る と活 動 筋 で の エ ネ ル ギ ー
図5.1 骨 格 筋 に お け るエ ネル ギー 産 生
産 生 量 の 増 加 に対 応 す る た め に酸 素 要 求 量 が増 加 す る.心 臓 で は,運 動 開始 時 は わ ず か に1回 拍 出 量 が,そ
の 後 は心 拍 数 が増 加 して,血 流 量 を増 加 させ て酸 素 要
求 量 の 増 加 に対 応 す る.す
な わ ち運 動 強 度 が 増 加 す る と,酸 素 摂 取 量(Vo2)と
心 拍 数(HR)は a. 糖
直 線 的 に増 加 す る. 質
糖 質 が 利 用 され る割 合 は,血 液 中 の ア ドレ ナ リ ン,ノ ル ア ドレ ナ リ ンな どの カ テ コ ー ル ア ミ ン濃 度 に 強 く支 配 され て い る.ア ア ド レナ リ ン は,筋,心
臓,肝
ドレナ リ ンは 副 腎 髄 質 か ら,ノ ル
臓 な どを 支 配 す る 交 感 神 経 の 終 末 か ら分 泌 され
る.血 中 ノ ル ア ドレナ リ ン濃 度 は,比 較 的低 い運 動 強 度 か ら強 度 の増 加 に 伴 い 増 加 す るが,ア
ド レナ リ ン は運 動 強 度 が 増 加 して 有 酸 素 運 動 か ら無 酸 素 運 動 に切 り
替 わ っ た あ た り(75%Vo2max)か
ら急 激 に上 昇 す る.カ テ コ ー ル ア ミ ン濃 度 の 上
昇 に 伴 っ て,骨 格 筋 の グ リ コー ゲ ンの 分 解 量 が増 加 す る.ま 動 筋 のATP濃
た最 近 に な って,活
度 が 運 動 に よ っ て 低 下 す る と骨 格 筋 へ の グ ル コ ー ス 取 り込 み 機 構
が 活 性 化 され る こ と も明 らか に な っ て きた(第2章 b. 脂
参 照).
質
運 動 中 に脂 質 が 利 用 され る割 合 に も,血 中 カ テ コー ル ア ミ ン濃 度 の上 昇 が 関 与 し て い る.中 性 脂 肪 を分 解 し て遊 離 脂 肪 酸 を動 員 す る段 階 は,脂 肪 組 織 に存 在 す る ホ ル モ ン感 受性 リパ ー ゼ に よ っ て 制 御 され てお り,ホ ル モ ン感 受 性 リパ ー ゼ の 活 性 は,カ
テ コー ル ア ミンや グ ル カ ゴ ン な どに よっ て 上 昇 し,イ
ンス リ ンに よっ
て 低 下 す る.一 定 強 度 で 運 動 を続 け て い る と時 間 の 経 過 に つ れ て脂 質 が 利 用 され る割 合 が 増 加 す る の は,運 動 中 に 次 第 に血 中 カ テ コ ー ル ア ミ ン濃 度 が 上 昇 す るた め と考 え られ る.ま た 運 動 中 に 大 量 の 糖 質 を摂 取 した 際 に,脂 質 の 酸 化 が 阻 害 さ れ る こ とが あ る の は,分 泌 さ れ た イ ンス リ ンが ホ ル モ ン感 受 性 リパ ー ゼ の 活 性 を 低 下 させ る た め と考 え られ る. c. ATP-ク
レア チ ン リ ン酸 系
非 常 に 強 い 運 動 で は,グ ATPと
リ コ ー ゲ ンや 中 性 脂 肪 よ り も 骨 格 筋 に 蓄 え られ た
ク レ ア チ ン リ ン酸 が 主 要 な エ ネ ル ギ ー 源 に な る.ATPは,骨
格 筋 を構 成
す る ミオ シ ン分 子 と ア クチ ン分 子 が 収 縮 す る 際 の 直 接 的 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ り, 筋 収 縮 に よ っ て 失 わ れ る 一 方,糖 質 や脂 質 の 代 謝 に よ っ て再 合 成 さ れ て,骨 格 筋 に供 給 さ れ て い る.非 常 に 強 い 運 動 の場 合 に は糖 質 や 脂 質 を代 謝 し てATPを
産
生 す る酵 素 反 応 よ り も,骨 格 筋 でATPが
消 費 さ れ る速 度 の 方 が 速 い.そ
骨 格 筋 に蓄 え られ て い る ご く微 量 のATPは,2∼3秒 起 こ る と,筋 肉 内 にATPの
約4倍
で 枯 渇 す る.ATPの
の 濃 度(30μmol/g)で
チ ン リ ン酸 か ら,速 や か にATPが
消 費が
蓄 え られ て い る ク レ ア
再 合 成 さ れ る.こ れ は非 常 に 速 い 反 応 で あ る
の で,十 数 秒 の 強 い 強 度 の 運 動 に 必 要 な エ ネ ル ギ ー は,ATP-ク 系 に よ っ て まか な うこ とが で きる.経 ク レ ア チ ン濃度 が 上 昇 す る が,こ
のため
レア チ ン リ ン酸
口 的 に ク レ ア チ ン を摂 取 す る と骨 格 筋 内 の
れ が 瞬 発 力 の増 強,骨 格 筋 量 の 増 大 に 有 効 で あ
る とす る報 告 が あ る.
(a) 食 後 のエ ネル ギ ー 基 質 の 流 れ
(b) 絶 食 時 の エ ネ ル ギ ー基 質 の 流 れ
(c) 運 動 時 のエ ネ ル ギ ー基 質 の 流 れ 図5.2 食 後,絶 T:中
食 時,運
性 脂 肪,G:グ
動 時 の エ ネ ルギ ー 基 質 の 流 れ
リ コー ゲ ン,FFA:遊
離脂肪酸
d. 呼 吸 交 換 比 運 動 中 に糖 質,脂
質 が 利 用 され る割 合 は,呼 気 ガ ス 中 の 酸 素,二 酸 化 炭 素 濃 度
を測 定 す る こ と に よ っ て経 時 的 に推 定 す る こ とが で きる.呼 吸 交 換 比(Rま RER)は,二
酸 化 炭 素 排 出量 と酸 素 摂 取 量 の体 積 比 で あ り,安 静 時 にお い て この
比 は 呼 吸 商(RQ)と
呼 ば れ る.呼 吸 商 は炭 水 化 物 が 酸 化 され た と きは1.0,脂
が 酸 化 さ れ た と きは0.7と は,あ
たは
質
され て い る が,運 動 強 度 が 徐 々 に増 加 して い く場 合 に
る 強 度 以 上 で 血 液 中 の乳 酸 濃 度 が 上 昇 を始 め る と血 液 が 酸 性 化 す る.こ れ
を緩 衝 す る た め に血 中 に も と も と存 在 して い た重 炭 酸 か ら呼 気 中 に二 酸 化 炭 素 が 排 出 され て血 液 の 酸 性 化 を緩 衝 す る作 用 が あ る.代 謝性 の 二 酸 化 炭 素 に加 えて 乳 酸 緩 衝 の 結 果 と して 二 酸 化 炭 素 排 泄 が 促 進 す る の で 呼 吸 交 換 比 は 上 昇 して1.0を 超 え る こ と もあ る.さ
らに 激 しい 呼 吸 を抑 制 す る よ う な 運 動 を行 っ た場 合 に は,
運 動 終 了 直 後 に過 剰 に溶 解 して い た 二 酸 化 炭 素 が排 出 さ れ る の で さ らに 呼 吸 交 換 比 が 高 くな り2.0に 達 す る こ と も あ る. HLa+NaHCO3→NaLa+H2CO3→H2O+CO2↑
5.3 運 動 能 力 を低 下 さ せ る 要 因 長 時 間 の 運 動 に お い て は,活 動 筋 へ の 適 切 な エ ネ ル ギ ー の 供 給 の 成 否 が パ フ ォ ー マ ン ス の発 揮 に大 き く関与 す る.以 下 に,エ ネ ル ギ ー の 供 給 に 関 連 して 運 動 能 力 を低 下 さ せ る要 因 につ い て述 べ る. a. 乳
酸
乳 酸 は,中 ∼ 高 強 度 の運 動 に お い て 運 動 能 力 を低 下 させ,運
動 の継 続 を 阻害 す
る 要 因 の 一 つ で あ る.運 動 強 度 が 上 昇 す る と血 中 カ テ コー ル ア ミ ン濃 度 が 上 昇 し て,グ
リ コー ゲ ンの 分 解 が促 進 され る.グ ル コー ス の解 糖 に よ っ て 生 成 した ピ ル
ビ ン酸 が ミ トコ ン ド リア 内 のTCA回
路 に入 っ て 酸 化 さ れ る量 に は 限 りが あ る の
で,過 剰 の ピ ル ビ ン酸 は細 胞 質 で 乳 酸 とな る.そ る.乳 酸 が0.3%蓄 は 約20mMで (糖新 生)や,心
の結 果,筋
肉内に乳酸が蓄積す
積 す る と骨 格 筋 は収 縮 が 困 難 に な り,そ の 際 の血 中 乳 酸 濃 度
あ る.蓄 積 した 乳 酸 は 運 動 終 了 後 に 肝 臓 で グ ル コー スへ の 再 合 成 筋 や 遅 筋 内で 酸 化 さ れ る な どの 処 理 を受 け る.
b. グ リ コ ーゲ ン 乳 酸 の 蓄 積 が そ れ ほ ど多 く ない 弱 ∼ 中程 度 の 運 動 に お い て は,生 体 内 に蓄 え ら
れ て い る糖 質(グ
リコ ー ゲ ン)の 枯 渇 や 運 動 中 の体 温 上 昇 が 運 動 の 継 続 を 阻害 す
る 要 因 とな る.糖 質 の貯 蔵 量 は脂 質 の 貯 蔵 量 と比べ て 圧 倒 的 に少 な い の で,多
く
の場 合 は糖 質 の 枯 渇 が 最 初 に起 こ る.糖 質 は 中枢 神 経 系 に とっ て 唯 一 の 主 要 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ るの で,糖 質 が 枯 渇 す る と意 識 が朦 朧 とす る,体 に 力 が 入 らな く な る な どの症 状 を起 こ し,持 久 系 の競 技 に 限 らず,球 技 や コ ン タク ト系 の ス ポ ー ツ に お い て も,運 動 能 力,判 c. 脱
断 力 の低 下 を招 く要 因 と な る.
水
運 動 に よ る発 汗,脱
水 に よ っ て,体
温 が 過 度 に上 昇 す る と運 動 能 力 が低 下 す
る.脱 水 に よ る循 環 血 液 量 の低 下 や,熱 放 散 の た め に 皮 膚 血 管 の拡 張 が お き,循 環 虚 脱 を きた す.発 汗 に伴 う電 解 質 の 損 失 に よ っ て 変 調 を きたす こ と もあ る.体 温 の 上 昇 に よ る脱 水 の 結 果,循 の2%の は30%低
環 血 液 量 が 減 少 す る と,心 拍 数 は 上 昇 す る.体 重
水 分 が 失 わ れ る と,パ
フ ォー マ ン スが10∼15%低
下 し,5%の
脱水 で
下 す る.運 動 中 に 減 少 し た体 重 は,ほ ぼ す べ て 血 液 中 の 水 分 が 失 わ れ
た と考 え て よい.
5.4 運 動 強 度 の 指 標 運 動 強 度 に応 じ て,利 用 さ れ る栄 養 素 の 割 合 や,ト
レー ニ ン グ の 効 果 が 異 な
る.選 手 と して ト レー ニ ング を行 な う も の は もち ろ ん,運 動 に 関 す る 研 究 を行 う もの は,運 動 強 度 につ い て 定 量 的 に理 解 す る必 要 が あ る.特 に動 物 実 験 で得 られ た 結 果 を ヒ トに外 挿 す る際 に は,運 動 強 度 を明 示 す る こ と を忘 れ て は な らな い. a. 機 械 的 強 度 運 動 強 度 を 表 す 際 に は,機 械 的 強 度,生 尺 度 が あ る.機 械 的 強 度 とは,ト
理 的 強 度,主 観 的 強 度 とい う3種 類 の
レ ッ ドミ ルや 自転 車 エ ル ゴ メ ー ター な どの運 動
負 荷 装 置 の設 定 の こ とで あ り,ベ ル トの 回転 数 や斜 度,ペ
ダ ル に か か る負 荷 や 回
転 数 な ど のパ ラ メー ター に よ って 決 定 され る. b. 生 理 的 強 度 生 理 的 強 度 と は,酸 素 摂 取 量 を用 い る 場 合 や 心 拍 数 を用 い る場 合 が あ る.酸 素 摂 取 量 を用 い る場 合 は,最 大 酸 素 摂 取 量 の何%に 用 い られ るが,臨 もあ る.%Vo2maxは
床 医学 分 野 で はMetsやRMRと 生 理 的 強 度 の指 標 と して,最
相 当 す るか(%Vo2max)が
よく
い っ た 指 標 が 用 い られ る こ と も有 効 な もの で あ る が,酸 素 摂
取 量 の 測 定 に は ガ ス 分 析 装 置 が 必 要 な の で,フ
ィー ル ドで の 測 定 や 一般 の ヒ トが
気 軽 に運 動 強 度 を測 定 す る 目的 に は適 して い な い.心 拍 数 を用 い る場 合 は,最 大 心 拍 数(HRmax)に
対 す る心 拍 数 の 割 合(%HRmax)や
以 下 のKarvonenの
式 が用
い られ る. 目標 心 拍数={(220−
年 齢)− 安 静 時心 拍 数}×%運
動 強 度+安
静時心拍 数
c. 主 観 的 強 度 主 観 的 な運 動 強 度 は,RPE(rate これ は安 静 時 を6,最
of perceived
大 疲 労 困憊 時 を20と
強 度 を表 し た も の で,定
exertion)が
した15点
よ く用 い られ る.
の ス ケ ー ル か ら な る 自覚 的
常 運 動 に お い て は%Vo2maxやKarvonenの
式 か ら算 出 し
た 運 動 強 度 と よ く対 応 す る.
5.5 運 動 能 力 の 指 標 運 動 能 力 を数値 化 し よ う と い う試 み は古 くか らな され て きた.筋 力 は比 較 的 簡 単 に数 値 化 で き るが,有
酸 素 運 動 能力 は筋 力 だ け で な く,呼 吸 循 環 機 能,内
分泌
能 な どの多 くの 要 素 を 反 映 す る の で,総 合 的 な 有 酸 素 運 動 能 力 を単 一 の 尺 度 で 数 値 化 す る こ とは 困 難 で あ る.こ れ らの う ち で,競 技 成 績 と高 い 相 関 性 を 示 す 指 標 をい くつ か紹 介 す る. a. 無 酸 素 性 作 業 閾値 有 酸 素 運 動 能 力 を測 定 す る際 に は,ト
レ ッ ド ミル や 自転 車 エ ル ゴ メ ー ター な ど
で 運 動 強 度 を段 階 的 に 増 加 させ な が ら呼 気 ガ ス また は血 中乳 酸 濃 度 を経 時 的 に測 定 す る 方 法 が よ く行 わ れ る.図5.3に
示 す よ う に,運 動 強 度 が 増 加 す る と酸 素 摂
取 量 と心 拍 数 は 直 線 的 に 上 昇 す る.一 は,弱
方,乳
酸 濃 度 や 換 気 量,呼
吸交 換比 な ど
い 強 度 の 範 囲 で は運 動 強 度 が 増 加 して も ほ ぼ一 定 の値 で 推 移 す る.さ
らに
強 度 を上 げ る と,あ る 強 度 以 上 で は乳 酸 濃 度 や 換 気 量,呼 吸 交換 比 が急 激 に上 昇 を始 め る.こ の 強 度 を 無 酸 素 性 作 業 閾 値(AT)と 大 の 運 動 強 度 で あ り,「65%Vo2maxがATで が 高 い ほ ど全 身 持 久 力 が 高 い.血 (LT),呼
気 ガス か ら得 ら れ たATは
い い,有 酸 素 運 動 が 行 え る最
あ っ た 」 な ど と表 現 す る.こ
中 乳 酸 濃 度 か ら求 め たATは 換 気 性 作 業 閾 値(VT)と
一 般 人 で40∼60%,ス
の強度
乳酸 性作 業 閾値 呼 ば れ る こ と もあ
る.ATに
お け る%Vo2maxは
ポ ー ツ選 手 で60∼75%で
る.ATが
活 動 筋 な ど末 梢 の 有 酸 素 的 代 謝 能 力 を反 映 す る と さ れ て お り,15分
あ 以
図5.3 運 動 中 の酸 素 摂 取 量(Vo2),心
拍 数(HR),乳
酸 濃 度,呼
吸商の変化
トレー ニ ン グに よる 変化 を 矢 印 で示 した.
上 持 続 す る 運 動 で は競 技 成 績 を よ く反 映 す る指 標 で あ る. b. OBLA 最 近 で は,血
中乳 酸 濃 度 が 上 昇 す る 点 を厳 密 に測 定 す るの は,現 実 に は 困 難 で
あ る た め に,LTの
代 わ りにOBLA(onset
指 標 が 用 い られ る こ と もあ る.OBLAは で あ り,LTよ
of blood lactate accumulation)と 血 中乳 酸 濃 度 が4mMを
り もや や 高 い 強 度 に 相 当 す る.OBLAも
いう
越 え る運 動 強 度
簡 便 か つ 現 実 に競 技 成 績
を よ く反 映 す る 方 法 で あ る. c. 最 大 酸 素 摂 取 量 ATを 気 量,呼
超 え て さ ら に運 動 強 度 を上 げ る と,心 拍 数 や 酸 素 摂 取 量,乳 吸 交 換 比 は上 昇 を続 け るが,最
大 強 度,も
酸濃度 や 換
し くは そ れ に近 い強 度 で 運 動
に 至 る と増 加 しな くな る.こ れ らの 項 目の う ち,酸 素 摂 取 量 の 最 大 値(最 大 酸 素
表5.1 運 動 の 強 度 と心 拍 数,酸
素 摂 取 量 の対 応 関 係1)
教 科 書 等 で は 運 動 強 度 が%Vo2maxで 示 さ れ る こ と が 多 い が,現 に とっ て は%HRmaxの 方 が現 実 的 な指 標 で あ る.
摂 取 量,Vo2max)は,有
場 のアス リー ト
酸 素 運 動 能 力 を よ く反 映 す る 指 標 で あ る.体 重1kg当
り に換 算 した値 が よ く用 い ら れ て お り,一 般 人 で は40∼50ml/kg/minの が よ く鍛 錬 した 一 流 選 手 で は70∼80ml/kg/minに ー ニ ン グ に よ って 向 上 す るが
た
ところ
及 ぶ.最 大 酸 素 摂 取 量 は ト レ
,あ る 程 度 ト レー ニ ン グ を積 む と ト レー ニ ン グ効 果
が 得 に くい.最 大 酸 素 摂 取 量 は,5∼15分
程 度 で 疲 労 困憊 に至 る よ う な運 動 の 指
標 とす る の が よい が,鍛 錬 され た比 較 的 均 一 な 集 団 の 中 で は,競 技 成 績 とは あ ま り相 関 性 を示 さ ない と もい わ れ て い る.
5.6 有 酸 素 運 動 能 力 を 高 め る 栄 養 摂 取 の 方 法 さ ま ざ ま な 栄 養 素 の うち,特
に糖 質 と水 分 の 摂 取 方 法 は有 酸 素 運 動 能 力 を発 揮
す る うえ で 重 要 で あ る.糖 質 の摂 取 方 法 は,運 動 前,運 て 異 な る.タ
ンパ ク 質 の 摂 取 も また,ト
て 重 要 で あ る.タ 運 動 前,中,後
動 中,運 動 終 了 後 に よっ
レー ニ ング や 試 合 か らの 回復 過 程 に お い
ンパ ク 質 の 摂 取 に つ い て は 第1章
を 参 照 さ れ た い.以
下 で は,
に分 け て,栄 養 摂 取 の 方 法 に つ い て述 べ る.こ れ らの 方 法 は,あ
く まで も原 則 で あ っ て 実 際 に は選 手 個 人 に よっ て 異 な る面 が あ る.こ 方 法 を も と に練 習 の と き にい ろ い ろ と試 して み て,自
こで 示 した
分 に合 っ たや り方 を見 つ け
て ほ しい.
5.7 運 動 前 の 食 事 競 技 数 日前 か ら は で きる だ け 多 くの糖 質 を とる こ とが望 ま しい.骨 格 筋 と肝 臓 の グ リ コ ー ゲ ン貯 蔵 量 を増 加 さ せ る た め で あ る(グ
リ コ ー ゲ ン ロ ー デ ィ ン グ).
運動 前 の グ リ コー ゲ ン貯 蔵 量 は,運 動 持 続 時 間 を決 定 す る要 因 の 一 つ で あ り,骨 格 筋 の グ リ コ ー ゲ ンが枯 渇 した状 態 で は 運 動 持 続 時 間 が 短 くな る.い リ コ ー ゲ ン ロ ー デ ィ ン グ の 方 法 が 研 究 さ れ て き たが,最 か ら,糖 質 の 摂取 量 を多 く して,ト
ろいろなグ
近 で は試 合 の2,3日
前
レー ニ ン グ量 を 少 な くす る方 法 が と られ る.
ご飯 や パ ン,麺 類 に加 え て,フ ル ー ツ類 な ど水 分 を多 く含 む もの を摂 取 す る と よ い.ト
レー ニ ン グ量 を少 な くす る 際 に は,強 度 は 落 と さず に 時 間 を短 くす る(テ
ー パ リ ング) .ま た 別 の方 法 と して,試 合 の 前 日 に2,3分
間 の 超 強 度 の運 動 を行
い,そ
重60kgの
膳!)を
の 後 安 静 に して 体 重 の1%に 摂 取 す れ ば,数
相 当 す る炭 水 化 物(体
人 で ご飯8
日か け て グ リ コー ゲ ン含 量 を増 や す の と同 じ効 果 が 得 ら
れ る. 試 合 当 日の 食 事 は,試
合 開始3時
間前 まで に十 分 な量 を と る こ とが 望 ま しい.
消 化 吸 収 中 に激 しい 運 動 を行 う と腹 痛 を起 こす 可 能 性 が あ るだ けで な く,食 後 の 血 糖 値 上 昇 に伴 っ て 分 泌 さ れ た イ ンス リ ンが,脂
質 の利 用 を阻 害 しグ リ コー ゲ ン
の 消 耗 を早 め る た め で あ る.ご 飯 や う ど ん の よ う に,デ
ン プ ン主 体 の 食 事 を と
り,消 化 が 早 く食 べ 慣 れ た もの を と る よ うにす る.若 干 の タ ンパ ク 質(カ 比 で10%程
度)が
含 ま れ て い て も よい.体
の で脂 質 を特 に摂 取 す る必 要 は な い.特
内 に は 脂 質 が 十 分 に貯 蔵 さ れ て い る
に,試 合 が 早 朝 に 行 わ れ る と きな ど,食
事 か ら運 動 開 始 まで に時 間 が な い と きは,タ る と胃 内 滞 留 時 間 が 長 くな る,す
ロ リー
ンパ ク 質 や脂 肪 を含 む 食 事 を摂 取 す
な わ ち消 化 吸 収 に 時 間 が か か る の で 糖 質 を主 体
にす るべ きで あ る.試 合 開 始 まで の 時 間 が3時
間 に満 た な い 場 合 は,食 事 は軽 め
に とっ た 方 が 良 い. 食 事 か ら試 合 開 始 直 前 まで の1時 い.ゼ
リー や バ ナ ナ,ス
間 は,水 分 を 十 分 に摂 取 して お い た 方 が 良
ポ ー ツ ド リ ンク な ど吸 収 の早 い もの に よ っ て,の
どの渇
き と空 腹 感 を とる の が 良 い.こ れ らの食 品 は糖 質 主 体 で あ るの で,速 や か に吸 収 さ れ て エ ネ ル ギ ー 源 とな る.ま た,早 朝 トレー ニ ン グ を行 って い る 人 の 場 合,起 床 か ら トレー ニ ン グ 開 始 ま で に15分 程 度 しか 時 間 を とれ な い こ とが 多 い.そ
の
場 合 で も,何 も食 べ ず に 運 動 す る の は避 け る べ き で あ る.起 床 後 は,肝 臓 グ リ コ ー ゲ ンが 枯 渇 して 血 糖 値 が 低 下 して い る.こ の 状 態 で 運 動 を行 う と,体 タ ンパ ク 質 が 分 解 さ れ て糖 新 生 の 材 料 とな る.十 分 な水 分 とゼ リー や ス ポ ー ツ ドリ ン ク な どか ら ア ミノ酸 や 糖 質 を摂 取 す るべ きで あ る.な お 人 に よ っ て は 直 前 に 固形 物 を
表5.2 運 動 前 の 炭 水 化 物 摂 取 量1)
食 べ て も平 気 な 人 もい る.試 合 開始 時 間 が 朝 早 い 場 合 は,直 前 に 食 事 を と らな け れ ば な ら な い と き もあ る.慣 れ れ ば軽 くもの を食 べ た 直 後 で も運 動 で き る よ うに な る の で,練
習 の 直 前 にい ろい ろ な食 品 を食 べ て み て,ど
れ く らい の 量 な ら食 べ
られ る の か 試 み て お くべ きで あ る(表5.2).
5.8 運 動 中 の 栄 養 補 給 試 合 中 の 栄 養 補 給 に求 め られ る要 素 は,糖 質 を補 給 し,か つ 血 糖 値 の 急 激 な上 昇 を 防 ぐこ と,水 分(2時 あ る.1時
間 以 上 の 運 動 の場 合 に は 電 解 質 も)を 補 給 す る こ とで
間 以 内 の 運 動 の 場 合 は,運
動 中 の 糖 質 の 補 給 は,あ
ま り重 要 で は な
く,運 動 前 に 摂 取 した食 事 か ら供 給 され る エ ネ ル ギ ー で 十 分 で あ る.そ れ 以 上 の 運 動 の 場 合 で も,糖 質 を主 体 に摂 取 し,高 タ ンパ ク や 高 脂 肪 で あ る 必 要 は な い. したが っ て 試 合 中 の 栄 養 補 給 は,多
くの場 合,お
に ぎ りや チ ョ コ レー ト,バ ナ ナ
な どの 炭 水 化 物 を主 体 とす る食 品,糖 質 を 含 む ス ポ ー ツ ドリ ン ク,水 を組 み 合 わ せ て 摂 取 す る こ と に な る. 最 も簡 単 な 方 法 は,糖 溶 液 を少 量 ず つ こ まめ に摂 取 す る こ とで あ る.天 候 や 運 動 強 度 に も よ る が15分
ご と に100mlず
摂 取 す べ き水 分 量 を知 りた けれ ば,ト よ い.次
つ 摂 取 す るの が 目安 で あ る.よ
レー ニ ン グ の前 後 に体 重 を 測 定 し てお け ば
回 よ く似 た ト レー ニ ン グ を す る 際 に は,体
(体 重 の80∼100%)水
重 が 減 少 し た量 に 匹 敵 す る
分 を 余 分 に 摂 取 した 方 が よい.ど
って も,体 重 の 減 少 率 は2%以
り正 確 に
れ だ け 長 い 間 運 動 を行
内 に収 まる よ う に水 分 を摂 取 す る べ きで あ る.水
分 摂 取 す る際 に,真 水 を飲 む の は あ ま り薦 め られ な い.水
に は,味 が 良 い とい う
長 所 が あ るが,ス
ポ ー ツ ドリ ン ク と比 べ て 胃 で の滞 留 時 間 が 長 い た め に,水 分 の
吸 収 速 度 が 遅 い,膨 満 感 を刺 激 す る とい う欠 点 が あ る.生 理 的 に水 分 が 必 要 な と きで も,飲 み た く な く な っ て し ま い,結 た,長 時 間 に わ た る運 動 の 結 果,汗
果 的 に 脱 水 を起 こす リス ク が あ る.ま
か ら多 量 の ミネ ラル が 失 わ れ た 際 に 真 水 を摂
取 す る と血 中 の浸 透 圧 が 低 下 して け い れ ん を起 こす 例 が 報 告 され て い る. 試 合 中 に糖 質 を摂 取 す る 際 に は,お に ぎ りや パ ンな どの 固 形 物 よ り も,グ ル コ ー ス や マ ル トー ス ,フ ル ク トー ス,デ キ ス トリ ンな どの 溶 液 を摂 取 した 方 が 内臓 に負 担 をか け な い 点,固 形 物 よ り も消 化 吸 収 が 早 い 点,糖 質 と同 時 に水 分 を摂 取 で きる とい う点 で す ぐれ て い る.特 に フ ル ク トー ス は血 糖 値 を上 昇 させ な いが 解 糖 系 で 代 謝 さ れ て エ ネ ル ギ ー を産 生 す る とい う点 です ぐれ た 糖 で あ り,多
くの ス
ポ ー ツ ド リ ンク に 含 まれ て い る.し か しフ ル ク トー ス の み を多 量 に摂 取 す る と下 痢 を 引 き起 こす 人 もい る こ とや,砂 糖 以 上 に甘 み が 強 い こ とは 欠 点 で あ る.市 販 さ れ て い るス ポ ー ツ ドリ ンク の糖 濃 度 は6%前 飲 む に は 甘 す ぎる.そ の た め2か
後 で あ り,水 分 を摂 取 す る た め に
ら3分 の1に 薄 め て飲 む 選 手 も多 い.
薄 め た ス ポ ー ツ ド リ ン ク(約8∼12kcal/100ml)は,水 適 当 で あ るが,糖
分 の 供 給 源 と して は
質 の 供 給 源 と して は カ ロ リー が 不 足 して い る.ト ラ イ ア ス ロ ン
や 登 山,自 転 車 ロ ー ドレー ス な ど長 時 間 に わ た る激 しい ス ポ ー ツで は糖 質 の 消 費 量 が 多 い た め にス ポ ー ツ ドリ ン ク だ け で糖 質 を補 給 す る と水 分 摂 取 過 剰 に な る. 運 動 中 に 必 要 な糖 質 の 目安 は,1時 が 高 い ほ ど,多 12kcalの
され て い る.運 動 強 度
くの糖 質 が 必 要 に な る.高 強 度 で の 有 酸 素 運 動 で は1分 間 当 た り
エ ネ ル ギ ー を消 費 す る(ツ
の 自転 車 選 手 で は20kcal/minを き る)の で,チ
間 につ き30∼60gと
ー ル ・ド ・フ ラ ンス に 出場 す る よ う な プ ロ
消 費 す る よ うな 激 しい 運 動 を持 続 す る こ とが で
ョコ レー ト菓 子 や パ ワー バ ー な どの糖 質 を多 量 に摂 取 す る.運 動
前 に一 度 に 多 量 の 糖 質 を摂 取 す る とイ ンス リ ンが 分 泌 さ れ て 脂 質 の 酸 化 が 阻 害 さ れ るが,運
動 を開 始 して か ら1時 間 ほ ど経 過 した後 で は,糖 質 を摂 取 して も急 激
に パ フ ォー マ ンス が 落 ち る こ と は な い.た
だ し固形 物 を摂 取 す る と咀 嚼 や 消 化 に
負 担 が か か る の で,試 合 の ハ ー フ タ イ ムや レー ス の ペ ー ス が 落 ち た と き な ど,運 動 強 度 が 高 くな い と きに摂 取 す る の が よい. 運 動 中 に 固 形 物 を摂 取 した くな い場 合 で も,高 濃 度(6%以
上)の
単糖類 溶液
を摂 取 す る の は 望 ま し くな い.高 濃 度 の 単 糖 溶 液 は 高 浸 透 圧 に な る た め に水 分 の
表5.3 運動 中の水分補給 の目安
吸 収 が 阻害 され 脱 水 症 状 を引 き起 こ しや す い 欠 点 が あ る.こ の よ うな 場 合 に は, CCD(Cyclic
Cluster Dextrin,グ
エ ネ ル ギ ー ジ ェ ル(カ
リ コ㈱)な
ー ボ シ ョ ッ ツ),ウ
ど の 高 分 子 デ キ ス トリ ンの 溶 液 や,
イ ダ ーinゼ リー(森
永 製 菓 ㈱)な
どの
製 品 が浸 透 圧 も低 く,手 軽 に摂 取 で きる とい う点 で有 用 で あ る.水 羊羹 や 餡 子 入 りの わ らび も ち な どの 和 風 菓 子 も カ ロ リー が 高 く,の ど ご し も良 い の で 摂 取 しや す い.
5.9 運 動 後 の 栄 養 補 給 運 動 後 は で き る だ け速 や か に骨 格 筋 と肝 臓 の グ リ コー ゲ ンを 回 復 す る こ とが, 引 き続 い て 試 合 が あ る場 合 や 翌 日 に疲 労 感 を残 さ な い た め に も重 要 で あ る.吸 収 性 の 高 い糖 質 を運 動 終 了 後 で きる だ けす ぐ(30分 時 間 ほ どの 間 は,2時
以 内)に 摂 取 し始 め,運
間 お き に高 炭 水 化 物 食 を摂 取 す る と よ い.ま
動 後6
た クエ ン酸 は
グ ル コー ス の 分 解 を阻 害 す る の で,糖 質 を摂 取 す る 際 に,ク エ ン酸 を含 む レモ ン や オ レ ン ジ な ど を 摂取 す る こ とに よ っ て グ リ コー ゲ ン の 回復 が 早 め られ る. タ ンパ ク質 を糖 質 と 同時 に 摂 取 す る こ と に よ っ て,運 動 後 の グ リ コー ゲ ン回 復 が 促 進 され る.多 量 の糖 質 を摂 取 し た場 合 と同 等 の効 果 が 得 られ る.た 動 後 の 炭水 化 物 の 摂 取 量 が 十 分 に 多 い 際 に は,タ 復 促 進 作 用 は認 め られ な い.多
だ し,運
ンパ ク 質 に よ る グ リ コ ー ゲ ン回
くの 選 手 は,運 動 後 に す ぐに食 事 を す る こ とが で
き な い こ と を考 え る と,運 動 後 で きる だ け す ぐに炭 水 化 物 と タ ンパ ク質 を含 む 溶 液 を摂 取 す る こ とが 現 実 的 な 方 法 とい え る.砂 糖 とス キ ム ミル ク を 携 帯 して,運 動 後 す ぐに水 に溶 か して 飲 む 方 法 が,携 帯 性,経
済 性 の面 か ら もす ぐれ て い る.
運 動 後 に は,骨 格 筋 内 に貯 蔵 され て い る 中 性 脂 肪(筋
肉 内 脂 肪)の
量 も減 少 す
る.筋 肉 内 脂 肪 の運 動 中 の エ ネ ル ギ ー源 と して の寄 与 の 割 合 につ い て は,ま だ ま
だ 不 明 な 点 が 多 い が,グ
リ コ ー ゲ ン と同 等 量 の エ ネ ル ギ ー を供 給 して い る 可 能 性
が あ り,運 動 中 の重 要 なエ ネ ル ギ ー 源 の ひ とつ で あ る.筋 肉 内 脂 肪 の量 は,長 時 間 の 運 動 の 後 に減 少 して い る こ とや,平 常 時 の 貯 蔵 量 が 日頃 運 動 して い る 人 の 方 が 高 い こ とな ど,グ
リ コー ゲ ン と よ く似 た 面 が あ る.グ
リ コー ゲ ン と逆 に,運 動
中 の 筋 肉 内脂 肪 の 利 用 率 は,日 頃運 動 して い る 人 の 方 が 高 くな る.最 近 の報 告 に よ る と,そ の 貯 蔵 量 は,極 端 な低 脂 肪 食(2%)を 脂 肪 食 を 摂 取 した 場 合 と,22%の
と る と減 少 す る が,32%の
高
通 常 食 を摂 取 した 場 合 で は変 化 が 見 られ な か
っ た と さ れ て い る.運 動 後 に高 脂 肪 食 を摂 取 す る こ と に よっ て,筋
肉内 脂 肪 組 織
の 回復 が 促 進 され るが,炭 水 化 物 の摂 取 量 が 減 少 す る こ とに な る の で グ リコ ー ゲ ン の 回復 か ら考 え る と望 ま し くな い.運 動 に よ る筋 肉 内 脂 肪 の 減 少 は 元 の 量 の 20%程
度 で あ る の で,特
運 動 終 了 後6∼8時
に 運 動 後 に 高 脂 肪 食 を 摂 取 す る 必 要 は な い で あ ろ う.
間 ほ どは 低 脂 肪 食 を摂 取 す るべ き で あ るが,そ
の後 はいつ も
の よ うに 脂 肪 を摂 取 す れ ば筋 肉 内 脂 肪 の貯 蔵 量 は 回復 す る と考 え られ る.
5.10 ダ イ エ ッ トと運 動 健 康 増 進 の 目的 で 運 動 す る 人 の 多 くは,体 重 や 体 型 を コ ン トロ ー ル す るの が 目 的 で あ ろ う.運 動 選 手 の 中 に も,余 分 な脂 肪 を落 と した い 人 も い る.体 重 を コ ン トロー ル す る際 に は,食 事 療 法,す
な わ ち摂 取 す る エ ネ ル ギ ー を減 らす だ けで は
多 くの 場 合 は失 敗 に 終 わ る.食 事 が 不 十 分 だ と血 糖 値 が低 下 した際 に,使 用 さ れ て い な い骨 格 筋 が 分解 され て ア ミ ノ酸 が 糖 新 生 の 材 料 と して 用 い られ る た め に骨 格 筋 量 が 減 少 す る.最 近,エ る 際 に は,FOXO1と FOXO1が
ネ ル ギ ー 欠 乏 や 運 動 不 足 に よ って 骨 格 筋 が 分 解 さ れ
い う遺 伝 子 の 発 現 増 加 が 関与 して い る こ とが わ か って きた.
増 加 す る と赤 筋 が 白 筋 化 す る.赤 筋 は 多 く のエ ネ ル ギ ー を 消 費 す る 器
官 で あ る の で,赤 筋 の 量 が 減 少 す る と体 重 が 減 り に くい体 質 に な る.こ
う した 最
新 の 分 子 生 物 学 的 知 見 か ら も,カ プ サ イ シ ンな どの 特 殊 な 食 品 や 摂 食 制 限 に よ っ て 血 液 中 の 遊 離 脂 肪 酸 を 分 解 す る だ け で は な く,脂 質 含 量 の 少 な い 食 事 を と っ て,運
動 を取 り入 れ る とい う昔 か らい わ れ て きた 方 法 が 体 脂 肪 を減 らす うえ で 理
にか な っ て い る こ とが わ か る. ダ イ エ ッ トに は 時 間 が か か る.体 も,シ
重 が70kg以
ー ズ ン に入 る と体 を しぼ るが,5kg落
上 あ る海外 の スポー ツ選手 で
とす の に2カ
月 か け る.低 炭 水 化
物 ダ イ エ ッ トや 低 イ ンス リ ン ダ イ エ ッ トな ど,炭 水 化 物 の 摂 取 を制 限 す る方 法 は,ダ
イエ ッ ト初 期 に体 重 の 減 少 が 見 られ る.全 身 の グ リ コ ー ゲ ン含 量 が 低 下 す
る と と も に グ リ コ ー ゲ ンに 結 合 して い た 水 が 排 出 され るた め で あ っ て,脂 肪 が 減 少 して い る の で は な い.
5.11 特 殊 な 食 品 成 分 と 持 久 運 動 能 力 特 殊 な 食 品 成 分 を摂 取 す る こ とに よ っ て,持 久 運 動 能 力 が 向 上 す る こ とを 期 待 して は い け な い.常
に重 要 な の は 基 本 的 な 栄養 素 を適 切 な タイ ミ ン グ で摂 取 す る
こ とで あ る.実 験 的 に特 殊 な食 品 成 分 が 持 久 運 動 能 力 を 向 上 す る例 は多 数 報 告 さ れ て い る が,動 物 実 験 の 報 告 だ け が 認 め られ る も の,ヒ
トで も効 果 は あ る が 現 実
に適 応 す る こ とが 困 難 な もの な どが多 い. 動 物 実 験 例 の 報 告 に と どま っ て い る食 品 成 分 につ い て は,実 験 を行 っ た 運 動 系 に お い て ポ ジ テ ィ ブ コ ン トロ ー ル す な わ ち トレー ニ ン グ効 果 が 認 め られ た こ と, 運 動 強 度 を 明 示 す る こ と が,実 験 デ ー タ を ヒ トに外 挿 す る際 の 最 低 条 件 で あ ろ う.た
と え ば,絶 食 させ た ラ ッ トは よ く走 る と い う古 典 的 な報 告 が あ る.こ の デ
ー タ を ヒ トに 当 て は め て解 釈 す る際 に は,食 事 の 直 後 で は運 動 能 力 が低 下 す る と 考 え るべ きで あ っ て絶 食 す れ ば 競 技 成 績 が 上 が る とい う わ け で は な い.ま
た成 長
期 の 実 験 動 物 で は,長 期 間 に わた り特 定 の 飼 料 を 摂 取 させ る と体 重 に対 して影 響 を 及 ぼす こ とが あ る.運 動系 に よ っ て は,動 物 の 体 重 に よ っ て 運 動 強 度 が 変 わ る の で デ ー タの 解 釈 に は注 意 が 必 要 で あ る. ヒ トに お い て 効 果 が 認 め られ る もの で も,食 品 成 分 の 場 合 は 薬 と異 な り,多 量 に 摂 取 しな け れ ば効 果 が 認 め られ な い こ とが 多 い.多 量 に摂 取 す る こ と の 問題 点 は,コ
ス ト面,安 全 面 だ け に と どま らな い.効
果 が 曖 昧 な成 分 を多 量 に摂 取 す る
こ と に よ って,炭 水 化 物 や タ ンパ ク 質,水 分 とい っ た重 要 な 栄 養 素 を適 切 な タ イ ミ ン グ で 摂 取 す る こ とが 妨 げ られ る お そ れ が あ る.新 (ブ ラ ン ク)と 比 較 して 有 効 で あ っ た と して も,ご
規 な 食 品 成 分 の投 与 が水
く普 通 の糖 質 や タ ンパ ク 質 の
摂 取 の 方 が は る か に有 効 で あ れ ば,現 場 の 選 手 に受 け入 れ られ る こ と は な い. 持 久 運 動 能 力 に 限 らず 体 力 を増 強 す る た め の 最 も効 果 的 か つ 確 実 な 方 法 は激 し い トレー ニ ング を積 む こ とで あ る.た
とえ ば,週
に 一 度 の トレ ー ニ ング で は最 大
酸 素 摂 取 量 は 向 上 し な い こ とが わ か っ て い る.週
に 数 度 の トレ ー ニ ング を行 う場
合 で も,最 い る.こ
大 酸 素 摂 取 量 の 伸 び は ト レ ー ニ ン グ の 量 で は な く運 動 強 度 に 依 存 し て れ ら の こ と か ら,激
が わ か る.ト
し い ト レ ー ニ ン グ を し な い と体 力 は 向 上 し な い こ と
レ ー ニ ン グ を 積 ん だ ト ッ プ ア ス リ ー ト で は,10000mを30分
で 走 る こ と が で き る が,普
段 運 動 を し な い 人 だ と1時
こ の 差 の 大 部 分 は 摂 取 し た 食 品 の 差 で は な く,過 差 で あ る.激
しい
揮 す る た め に,適
ト レ ー ニ ン グ を 支 え る た め に,ト
Giroの
Carmichael
C and Rutberg J (2004)Eat
レー ニ ン グの 成 果 を試 合 で 発
渡会 重彦 店 長 に大 変お 世話 になっ
亨 編 著(2004)基
征 矢 英 昭,本 山 Ivy J and Portman
礎 栄 養 学,光
文 献
right to train right,G.P. Putnam's 参
伏木
去 に行 な っ た ト レー ニ ン グ量 の
の 場 を 借 り て 厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す.) 引 用
1)
間 以 上 か か る こ と も あ る.
切 な 食 事 を 適 切 な タ イ ミ ン グ で 摂 取 す る こ と が 重 要 で あ る.
(最 後 に 本 稿 の 記 述 に 際 し て は,Cycleshop た.こ
ほ ど
考 文
Sons
献
生館
貢,石 井 好 二 郎(2002)こ れ で な っ と く使 え る ス ポ ー ツ サ イ エ ンス,講 R(2004)The performance zone, Basic Health Publications lnc.
Ryan M(2002)Sports
nutrition for endurance
Spriet LL and Gibala MJ(2004)Nutritional Science,22,127-141
談社
athletes,Velopress strategies to influence adaptations to training,Journal of Sports
6.運
動 と ミネ ラル
食 品 を通 して 種 々 の 栄 養 素 をバ ラ ンス よ く摂 取 す る こ と は,運 動 能力 の 維 持 と 発 現 に と っ て 必 須 で あ る.本
章 で は,ミ
ネ ラ ル と運 動 と の 関 わ りにつ い て 述 べ
る.
6.1 筋 肉 と ミ ネ ラ ル a. 筋 肉 活 動 と カ ル シ ウ ム 1) 筋 肉 の構 造
筋 肉(骨 格 筋)は
束 は,直 径20∼150μmの
筋 束 と い う束 に よ り構 成 さ れ て い る.筋
筋 繊 維(muscle
fiber)と 呼 ば れ る細 長 い 細 胞(筋 細 胞)
が 数 十 か ら数 百 本 集 合 した も の で あ る.筋 繊 維 内 部 に は,図6.1の 横 縞(横
紋)を
横 紋 は,筋
示 す 筋 原 繊 維(myofibril)と
原 繊 維 中 で,図6.2の
ような明暗の
い う細 胞 内 器 官 が 並 ん で い る.こ の
よ う に 太 い フ ィ ラ メ ン ト(ミ オ シ ン フ ィ ラ メ ン
ト)と 細 い フ ィ ラ メ ン ト(ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト)が 整 然 と並 ぶ た め に 生 ず る. ミオ シ ン フ ィ ラ メ ン トは,繊 維 状 タ ンパ ク質 の ミオ シ ン(myosin)が
重合 し
た もの で あ る.一 方,ア
クチ ン
(G-actin)が
ク チ ン フ ィ ラ メ ン トは,球 状 タ ンパ ク 質 のG-ア
重 合 し た 繊 維 状 タ ン パ ク 質 のF-ア
ク チ ン と,ト
図6.1 筋 原 繊 維 筋 原 繊 維 は筋 繊 維(筋
肉 細 胞)中
の 小 器 官 で あ る.筋
原 繊 維 の 間 を満 た して い る細 胞 質 部 分 は 筋形 質 (sarcoplasm)と
い う.
ロ ポ ニ ン(troponin)
図6.2 筋 原 繊 維 に お け る フ ィラ メ ン トの 配 置 Z線 か らZ線(ま た はM線 か らM線)ま で を筋 節 (サ ル コ メア;sarcomea)と
い う.筋 節 は 筋 肉 が 弛
緩 して い る と き長 く,収 縮 す る と短 くな る.
お よ び トロ ポ ミオ シ ン(tropomyosin)と て い る.ト
ロ ポ ニ ンは,C,I,Tと
い う タ ンパ ク 質 に よ り構 成 さ れ
名 付 け られ た3種 類 の 成 分 か らな り,Cに
は
カ ル シ ウ ム イ オ ンが 特 異 的 に結 合 す る 部 位 が 存 在 す る. 2) 筋 収 縮 の 機 構
ア クチ ンフ ィ ラ メ ン トが ス ラ イ ドして,ミ オ シ ン フ ィ ラ
メ ン トのす き ま に入 り込 む 一 連 の反 応 が 筋 収 縮 で あ る.こ の反 応 は カ ル シ ウム イ オ ン に よ っ て 制 御 され て い る.す
な わ ち,ト
ロ ポ ニ ンCに
カ ル シ ウ ム イ オ ンが
結 合 す る と,ア ク チ ンが 活 性 化 さ れ て ミオ シ ン に結 合 し,ア ク チ ン-ミ オ シ ン複 合 体(ク
ロ ス ブ リ ッ ジ)が 形 成 さ れ る.つ
が 分 解 され,生 後,ATPが
い で,ミ
オ シ ンに 結 合 し て い たATP
じた エ ネ ル ギ ー に よ っ て ク ロ ス ブ リ ッ ジ が ス ラ イ ドす る.そ
ミオ シ ン に結 合 す る と ア ク チ ン は ミオ シ ンか ら離 れ る.
この よ う な 筋 収 縮 反 応 は カ ル シ ウ ム イ オ ン とATPが ATPが
の
な け れ ば,ア
存 在 す る 限 り継 続 す る.
ク チ ン と ミ オ シ ン の ク ロ ス ブ リ ッ ジ は 離 れ ず,筋
肉は硬直
した ま まに な る.逆 に カル シ ウ ム イ オ ンが な け れ ば,ク ロ ス ブ リ ッジ は 形 成 さ れ ず,筋
肉 は 弛 緩 した ま まに な る.
3) 細 胞 内 カ ル シ ウ ム 濃 度 の 制 御
血 漿 な ど細 胞 外 液 中 の カル シ ウ ム イ オ ン
濃 度 は1∼2mMだ の0.1μM以
が,細
胞 内 部(細
下 で あ る.つ
胞 質)の
カ ル シ ウ ム 濃 度 は そ の1万
分 の1
ま り細 胞 内 カ ル シ ウ ム イ オ ン は極 端 に 低 濃 度 な の で,
微 量 の流 入 に よ っ て数 十 倍 の濃 度 変 化 が 容 易 に 生 じ,明 瞭 な 信 号 と して 機 能 で き る. こ の よ う に細 胞 内 カ ル シ ウ ム イ オ ン濃 度 が低 い の は,細 胞 膜 上 に カル シ ウ ム ポ ン プ(calcium
pump)と
い わ れ る タ ンパ ク 質 が 存 在 し,ATPの
エ ネ ル ギ ー を用
い て カ ル シ ウム イ オ ン を細 胞 外 に 放 出す る か らで あ る.細 胞 膜 に は カ ル シ ウ ム ポ ン プ以 外 に も,細 胞 外 ナ トリ ウム イ オ ン と細 胞 内 カ ル シ ウ ム イ オ ンを 交 換 す る タ ンパ ク 質 が 存 在 して い る. 筋 細 胞 内 に は小 胞 体 と い う袋 構 造 の小 器 官 が 存 在 す る.小 胞 体 膜 に は カル シ ウ ム ポ ン プ が 存 在 し,細 胞 質 中 カ ル シ ウ ム イ オ ンを 小 胞 体 内 に 取 り込 む.こ め,小
胞 体 内 カ ル シ ウ ム イ オ ン濃 度 は 数mMに
構 造 を 変 化 させ,カ
のた
も な る.小 胞 体 は筋 収 縮 時 に膜
ル シ ウ ム イ オ ンを放 出 して い る.
b. ミオ グ ロ ビ ン と微 量 ミネ ラ ル 1) 筋 繊 維 の 分 類
骨 格 筋 は外 観 上 の 色 合 い を も とに,赤 色 筋 と 白色 筋 に分
類 され る.前 者 は主 に 遅 筋 繊 維,後
者 は 速 筋 繊 維 に よ って 構 成 さ れ,表6.1の
う な 特 性 上 の 違 い が あ る.遅 筋 繊 維 は酸 化 能 力 が 高 い た め,こ
よ
れの割合が高 けれ
ば,持 久 力 の あ る筋 肉 と な る.長 距 離 の 渡 りを行 うカ モ,大 洋 を 回 遊 す るマ グ ロ 類 の 筋 肉 が 赤 色 筋 で 占 め られ て い る の は これ らの理 由 に よ る.赤 色 筋 の 色 合 い を 表6.1 赤 色 筋 と 自色 筋 の特 性
(引用文献1を 参考に作成)
決 定 し て い る 成 分 は,タ
ンパ ク 質 の 一 種 で あ る ミ オ グ ロ ビ ン(myoglobin)で
あ
る.
2) ミ オ グ ロ ビ ン の特 徴 し,ヘ ム(heme)を
ミオ グ ロ ビ ンは筋 細 胞(筋
含 む 分 子 量17000∼8000の
繊 維)の 細 胞 質 に存 在
赤 色 タ ンパ ク 質 で あ る.図6.3
に示 す ヘ ム は 酸 素 と強 く結 合 す る.ミ オ グ ロ ビ ンは筋 細 胞 内 で 酸 素 分 子 を運 搬 ・ 貯 蔵 して お り,遅 筋 繊 維 の 機 能 発 現 に役 立 っ て い る.ミ
オ グ ロ ビ ンの 酸 素 結 合 能
はヘ モ グ ロ ビ ン よ り も大 き く,ヘ モ グ ロ ビ ン に結 合 した 酸 素 を 受 け取 る こ とが で き る. 3) ヘ ム の 生 合 成 と微 量 ミネ ラ ル
ミオ グ ロ ビ ンの 機 能 を担 うヘ ム は 鉄 を含
ん で い る.し た が っ て 鉄 欠 乏 で は ヘ ム合 成 量 が低 下 し,ヘ モ グ ロ ビ ン(hemoglo bin),ミ
オ グ ロ ビ ン,チ
トク ロ ー ム(cytochrome)類
な どの ヘ ム タ ンパ ク 質 が 減
少 す る.鉄 欠 乏 の影 響 は,ま ず フ ェ リチ ン(ferritin)を パ ク 質 に現 れ,そ の 後,ヘ
は じめ とす る貯 蔵 鉄 タ ン
ム タ ンパ ク質 な ど の機 能 性 鉄 タ ンパ ク質 に及 ぶ .
貯 蔵 鉄 タ ンパ ク質 の フ ェ リチ ンに結 合 した 鉄 を ヘ ム 合 成 に利 用 す る に は,フ ェ リチ ンか ら鉄 を 遊 離 さ せ る 必 要 が あ る.フ
ェ リチ ンか らの 鉄 の遊 離 は,銅 含 有 タ
ンパ ク 質 で あ る セ ル ロ プ ラ ス ミ ン(ceruloplasmin)が
行 う.し た が っ て ,銅 欠
乏 で は鉄 摂 取 が 十 分 で あ っ て もヘ ム 合 成 が 低 下 す る. ヘ ム は グ リ シ ン を 出発 物 質 と して 体 内 で 合 成 され る.合 成 系 に 関 わ る 酵 素 中, δ-ア ミノ レ ブ リン 酸 デ ヒ ドラ タ ー ゼ(δ-aminolevulinic ロ キ ラ ター ゼ(ferrochelatase)の
acid dehydratase)と
フェ
活性 が鉛 に よって特 異 的 に阻害 され るた め,
図6.3 ヘ ム の 構 造
鉛 中 毒 で は ヘ ム合 成 が不 十 分 とな る. c. ミネ ラル の摂 取 と筋 肉 活 動 カ ル シ ウム,鉄,お る.で
よ び銅 は,正 常 な筋 肉 活 動 の 維 持 に 必 須 の ミネ ラ ル と い え
は これ らの ミネ ラル の 欠 乏 は 筋 肉活 動 の 異 常 を引 き起 こす だ ろ うか.
筋 肉活 動 維 持 に 必 要 な カ ル シ ウ ム イ オ ンは 血 漿 か ら供 給 され る.カ ル シ ウ ム摂 取 不 足 の場 合,後
述 の ご と く,骨 か ら カ ル シ ウム が 動 員 さ れ るた め,血 漿 カ ル シ
ウ ム イ オ ン濃 度 は 一 定 範 囲 に維 持 され る.ゆ え に,カ ル シ ウ ム摂 取 不 足 で あ っ て も,筋 肉活 動 が 損 な わ れ る こ とは な い. 鉄 の 摂 取 不 足 は ヘ ム 合 成 量 を低 下 させ る た め,ミ
オ グ ロ ビ ンを は じめ とす るヘ
ム タ ンパ ク質 の 組 織 中 濃 度 の 低 下 を招 く.特 に ヘ モ グ ロ ビ ン は組 織 に酸 素 を供 給 す る 役 割 が あ り,筋 肉 活 動 に大 きな 影 響 を与 え る.す な わ ち 遅 筋 繊 維 の よ う に酸 素 要 求 量 の 高 い 細 胞 で は,貧 血(ヘ
モ グ ロ ビ ン濃 度 低 下)が
生 じる ほ どの 鉄 欠 乏
下 に お い て は 酸 素 供 給 量 が 低 下 す る た め,活 動 は鈍 る で あ ろ う.同 様 に銅 欠 乏 も 貧 血 を生 ず る た め,筋
肉 活 動 を低 下 させ る可 能性 が あ る.し か し,銅 欠 乏 に よ っ
て運 動 能 力 が低 下 した とい う報 告 は,動 物 実 験 を含 め て も見 当 た らな い.
6.2 エ ネ ル ギ ー 産 生 と ミ ネ ラ ル a. エ ネ ル ギ ー代 謝 に お け る ミネ ラ ル の 役 割 1) グ リ コ ーゲ ンの 分 解
筋 肉 活 動 に必 要 なATPは,筋
リ コ ー ゲ ンの分 解 に よ り得 られ る.グ ーゲ ン ホ ス ホ リラ ー ゼ(glycogen る が,リ phorylase
肉 に貯 え られ た グ
リ コ ー ゲ ン分 解 の 初 期段 階 に関 わ る グ リ コ
phosphorylase)は
リ ン酸 化 に よ り活 性 化 され
ン酸 化 を 行 う グ リ コ ー ゲ ン ホ ス ホ リ ラ ー ゼ キ ナ ー ゼ(glycogen kinase)は
カ ル シ ウ ム イ オ ンに よ っ て 活 性 化 さ れ る.筋
胞 内 カル シ ウ ム イ オ ン濃 度 の 上 昇 に よ っ て 開始 され るが,こ はATPを
phos
肉収縮 は筋細
の カルシウム イオン
産 み 出す グ リ コー ゲ ン分 解 反 応 も活 性 化 す る の で あ る.
グ リ コ ー ゲ ンホ ス ホ リ ラー ゼ キ ナ ー ゼ は,α,β,γ,δ
の四つ のサブユ ニ ッ ト
に よ っ て構 成 さ れ て お り,こ の 中 の α-サ ブ ユ ニ ッ トが カ ル シ ウ ム イ オ ン結 合 部 位 を有 し,カ ル モ ジ ュ リン(calmodulin)と 2) ク エ ン酸 サ イ ク ル(TCA回 vate dehydrogenase)は,解
路)
呼 ば れ る. ピ ル ビ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ(pyru
糖 系 最 終 産 物 の ピル ビ ン酸 を ミ トコ ン ドリ ア 内 で ア
セ チ ルCoAに
変 換 し,ク
エ ン 酸 サ イ ク ル に 導 入 す る.こ
の 酵 素 タ ンパ ク 質 は 結
合 し て い る リ ン 酸 基 が 加 水 分 解 さ れ る と 活 性 化 さ れ る.こ
の 加 水 分 解 反 応 を触 媒
す る ピ ル ビ ン 酸 デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ ホ ス フ ァ タ ー ゼ(pyruvate phosphatase)は,カ
dehydrogenase
ル シ ウ ム イ オ ン に よ っ て 活 性 化 さ れ る.
ク エ ン 酸 回 路 中 で 作 用 す る イ ソ ク エ ン 酸 デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ(isocitrate drogenase)と2-オ genase)も
キ ソ グ ル タ ル 酸 デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ(2-oxoglutarate
カ ル シ ウ ム イ オ ン に よ っ て 活 性 化 さ れ る.こ
に 筋 細 胞 に 流 入 し た カ ル シ ウ ム イ オ ン は,ミ 入 し,ATP産
トコ ン ドリ アの マ トリ ッ クス に も流
糖 系,TCA回
路 とカルシウムイ
カ ル シ ウ ム イ オ ン は グ リ コ ー ゲ ン ホ ス ホ リ ラ ー ゼ キ ナ ー ゼ,ピ ル ビ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ ホ ス フ ァ タ ー ゼ,イ ドロ ゲ ナ ー ゼ,2-オ 必 要 で あ る.
dehydro
の よ うに 筋 肉 収 縮 の た め
生 を 促 進 す る の で あ る.
図6.4 グ リ コー ゲ ンの 分 解,解 オ ンの 関 連
dehy
ソ クエ ン酸 デ ヒ
キ ソ グ ル タ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ の 反 応 に
以 上 の グ リ コ ー ゲ ン分 解 お よ び ク エ ン酸 サ イ ク ル にお け る カ ル シ ウ ム イ オ ンの 作 用 を 図6.4に ま とめ た. 3) 電 子 伝 達 系
クエ ン酸 回路 で 生 じた 電 子 は,NADHな
達 系 に受 け 渡 さ れ,ATP産
ど の形 で 電 子 伝
生 に利 用 され る.電 子 伝 達 系 は 微 量 ミ ネ ラ ル が 関与
す る4種 類 の タ ンパ ク 質複 合 体 に よ り進 行 す る. 電 子 伝 達 系 の 第1段 coenzyme
階 で作 用 す るNADH-CoQレ
Q reductase complex)は,少
ダ ク タ ー ゼ 複 合 体(NADH-
な く と も25種 類 の タ ンパ ク質 で 構 成 さ
れ る.こ れ らの タ ンパ ク質 の い くつ か は 活 性 中 心 に 鉄 と イ オ ウ を含 む非 ヘ ム 鉄 タ ンパ ク質(鉄-イ
オ ウ タ ンパ ク 質)で
あ る.同 様 に,こ
レ ダ ク タ ー ゼ 複 合 体(succinate-coenzyme ンパ ク 質 を含 む.第3段
れ に 続 く コハ ク 酸-CoQ
Q reductase complex)も
階 で 電 子 の授 受 に 関 与 す るCoQ-チ
タ ー ゼ複 合 体(coenzyme
Q-cytochrome
鉄-イ オ ウ タ
トク ロ ームcレ
c reductase complex)は,ヘ
ダク
ム タ ンパ ク
質 で あ る複 数 の チ トク ロー ム と鉄-イ オ ウ タ ンパ ク質 に よ っ て構 成 され る.さ に最 終 段 階 で作 用 す る チ トク ロ ー ムcオ dase complex)は2分
キ シ ダ ー ゼ 複 合 体(cytochrome
子 の チ トク ロ ー ム に加 え,価 数 の 異 な る2個
ら
c oxi
の銅 イ オ ンを
含 む. b. 鉄 欠 乏 に よ る エ ネル ギ ー 産 生 の低 下 先 に も述 べ た よ う に,鉄 欠 乏 下 で は ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 が低 下 す る た め,筋 肉 へ の 酸 素 供 給 量 が 減 少 し,筋 細 胞 の エ ネ ル ギ ー 産 生 は 低 下 す る.血 液 ドー ピ ン グ と は,ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 を上 昇 させ る た め に,保 存 して い た 自 らの 血 液 を輸 血 す る も の で,筋 細 胞 へ の 酸 素 供 給 量 増 加 を 目的 と して い る. 一 方,動
物 に お け る研 究 は,鉄 欠 乏 に よ る運 動 能 力 低 下 が,貧 血 に よる 酸 素 供
給 量 低 下 と は 無 関 係 に起 こ る こ とを 示 して い る.す
な わ ち 鉄 欠 乏 時 に 生 ず る持 久
運 動 能力 の 低 下 は,貧 血 の 程 度 で は な く,乳 酸 蓄 積 量 で判 断 さ れ る筋 肉 の 酸 化 的 代 謝 の損 傷 の 大 き さ と比 例 す る と報 告 され て い る.こ
の報 告 が 正 しい な らば,鉄
欠 乏 に よ る 身 体 能 力 低 下 は酸 化 的代 謝 に関 わ る鉄 含 有 酵 素(電 鉄 含 有 タ ンパ ク 質)の
子伝達系 に関わ る
欠 乏 に よっ て 生 じる とい え よ う.
c. マ グ ネ シ ウ ム とATP ATPが
実 際 に エ ネ ル ギ ー と して利 用 され る と き,ATP分
リ ン酸 結 合 が 切 断 され る.す
な わ ちATPの
子 中 の高エ ネルギー
エ ネ ル ギ ー を利 用 す る 機 能 タ ンパ ク
質 は,ATP分
解 反 応 を触 媒 し て い る.こ
う視 点 に立 て ば"ATPア
ー ゼ"と
の よ う な タ ンパ ク 質 は,ATP分
総 称 で き る.た
とえ ば,ATPを
解 とい
エネ ルギー源
と し て カ ル シ ウ ム を細 胞 外 に排 出 す る タ ンパ ク質 は,カ ル シウ ム 輸 送 とい う点 で は"カ ル シ ウ ム ポ ン プ"で ATPア
あ る が,ATP分
ー ゼ(calcium-dependent
ATPがATPア
解 とい う点 で は"カ ル シ ウ ム 依 存 性
ATPase)"と
な る.
ー ゼ に よ っ て 分 解 され る と き,ATPは
間 で キ レー トを 形 成 して い る.つ
ま り,ATPア
マ グ ネ シ ウ ム イ オ ン との
ー ゼ の真 の 基 質 は マ グ ネ シ ウ ム-
.ATP複 合 体 で あ り,マ グ ネ シ ウ ム イ オ ンが 存 在 しな け れ ばATPの
エネル ギーは
利 用 で き な い こ と に な る. 筋 肉 中 マ グ ネ シ ウ ム イ オ ン濃 度 が 著 し く低 下 す れ ば,理 論 的 に はATP分
解に
よ るエ ネ ル ギ ー が 利 用 で きな い の で 運 動 能 力 は低 下 す る こ と に な る.し か し現 実 に は,マ
グ ネ シ ウ ム イ オ ンはATPよ
り も過 剰 に組 織 中 に存 在 して い る た め,マ
グ ネ シ ウ ム イ オ ン濃 度 が 律 速 と な っ て エ ネ ル ギ ー産 生 が 低 下 す る こ とは ない.
6.3 骨 代 謝 と ミネ ラ ル a. 骨 代 謝 の概 略 1) 骨 の 構 造 (骨 小 腔(bone
骨 は骨 膜,骨
よ び骨 髄 か ら な る.骨
質 に は 微 小 な腔
cavities))が 点 在 し,骨 小 腔 中 に骨 細 胞 が 存 在 す る.骨
占 め る 骨 質 は,コ 骨 塩(bone
質,お
ラー ゲ ン を主 成 分 とす る結 合 組 織(骨 基 質(bone
mineral)が
(hydroxyapatite)と な ど を含 む.ま
沈 着 し た も の で あ る.骨
呼 ば れ,リ
の大半 を
matrix))に
塩 は ヒ ドロキ シア パ タイ ト
ン酸 カ ル シ ウ ム,水,お
よび少 量 の マ グ ネ シ ウ ム
た骨 塩 に は,必 須 の構 成 成 分 で は ない が,亜
鉛 や ナ トリ ウム な ど
も含 ま れ て い る. 2) 骨 の リモ デ リ ン グ (bone absorption))と
骨 は 基 本 構 造 を維 持 し な が らた えず 分 解(骨
生 成(骨
形 成(bone
繰 り返 しは リモ デ リン グ(remodeling:再 っ て壊 され,そ
formation))を 造 形)と
吸収
繰 り返 し て い る.こ の
い い,古
い骨 が 破 骨 細 胞 に よ
こ に新 しい骨 が 骨 芽 細 胞 に よ っ て形 成 され る現 象 で あ る.
骨 の リモ デ リ ング に は,図6.5に
示 す 多 くの 要 因 が 関 わ っ て い る.副
ら分 泌 さ れ る パ ラ トル モ ン(parathormon)と
甲状 腺 か
カル シ トニ ン(calcitonin)は,そ
れ ぞ れ 破 骨 細 胞 と骨 芽 細 胞 に 直 接 作 用 す る ホ ル モ ンで あ り,血 漿 カル シ ウ ム 濃 度
図6.5 骨 の リ モ デ リ ング に 関 わ る 要 因
に 応 じて分 泌 され る.す ル モ ンが 分 泌 され,骨 後 の 女 性 で は,骨 る.こ
な わ ち 血漿 カ ル シ ウ ム 濃 度 が 減 少 した 場 合 に は,パ
ラト
吸 収 を高 め て 骨 か ら血 漿 ヘ カ ル シ ウ ム を移 行 させ る.閉 経
吸 収 抑 制 作 用 を もつ エ ス トロ ゲ ン(estrogen)の
分泌 が減少す
の た め骨 吸 収 側 に バ ラ ンス が傾 い て,骨 塩 量(骨 密 度)が
低 下 し,骨 粗 鬆
症(osteoporosis)が
多 発 す る.
3) 運 動 の 骨 形 成 促 進 効 果
運 動 に よ る 物 理 的 刺 激 は骨 芽 細 胞 を 活 性 化 す
る.こ の た め,運 動 は リモ デ リ ング の バ ラ ンス を 骨 形 成 側 に傾 か せ,骨
量 を増 大
さ せ る.運 動 に よ る骨 形 成 促 進 効 果 は 持 久 力 よ りも瞬 発 力 を 要 求 す る運 動 にお い て 大 きい.重 力 も骨 芽 細 胞 の 活 性 化 に 関 わ っ て お り,長 期 間無 重 力 の状 態 にあ っ た 宇 宙 飛 行 士 で は 骨 量 の低 下 が 観 察 され る. b. 疲 労 骨 折 1) 疲 労 骨 折 とは
通 常 で は骨 折 に至 らな い よ う な小 さ な外 力,た
種 の ス ポ ー ツ を行 う と きに 発 生 す る負 荷 が,骨
と え ば各
の 同 じ部 位 に繰 返 し加 わ る こ と に
よ っ て 骨 析 に至 っ た状 態 を 疲 労 骨 折(fatigue fracture)と い う. 疲 労 骨 折 は 思 春 期,特
に15∼17歳
に発 生 数 が 多 い.こ
の 時 期 に発 生 数 が 多 い
の は,中 学 生 が 高 校 生 に な る 年 代 で運 動 強 度 が急 に 大 き くな る の に対 して,骨
と
筋 肉 の発 達 が ア ンバ ラ ンス で あ る た め と考 え られ る.ス ポ ー ツ の種 類 別 に み た 場
合,陸 上 競 技 選 手 に多 く,脛 骨,腓 発 す る.し
骨,中
足 骨,大 腿 骨,甲 足 骨 な ど下 肢 骨 に多
か し,そ の他 の ス ポ ー ツで も発 生 は まれ で は な く,ゴ ル フ で は肋 骨,
野 球 で は 尺 骨 肘 頭 が 好 発 部 位 で あ る. 2) 骨 塩 量 との 関 わ り 疲 労 骨 折 の 直 接 原 因 は過 度 の 負 荷 で あ る が,骨 塩 量 減 少 も原 因 の 一 つ に加 え る こ とが で き る.運 動 は しば し ば大 量 発 汗 を伴 う た め, 血 漿 カ ル シ ウ ム損 失 が 生 ず る.ゆ え に食 事 か らの カ ル シ ウ ム補 給 が 不 十 分 だ と, 発 汗 損 失 分 を骨 吸 収 で補 うた め,リ モ デ リ ン グの バ ラ ンス が 骨 吸 収 側 に 傾 く.こ の よ う な 状 況 で は 骨 塩 量 は低 下 して お り,疲 労 骨 折 を起 こす 危 険 性 は高 い. 女 子 運 動 選 手 に は 体 脂 肪 率 が極 端 に低 い場 合 が あ る.体 脂 肪 量 の減 少 は 女 性 ホ ル モ ン(エ ス トロ ゲ ン)の 分 泌 低 下 を招 き,無 月 経 な どの 月経 異 常 に つ なが る. この よ う な ケ ー ス で は 閉経 後 と同 様 に骨 塩 量 も低 下 して お り,疲 労 骨 折 が 発 生 し や す い とい わ れ る. c. カ ル シ ウ ム 摂 取 と骨 塩 量 カ ル シ ウ ム摂 取 量 と骨 塩 量 との 関 連 を検 討 した 疫 学 的 な研 究 に よ れ ば,カ ル シ ウム 摂 取 量 と骨 塩 量 との 間 に は 有 意 な関 連 が 認 め られ て い る.こ の 関連 は,若 年 者 で 強 く,閉 経 後 女 性 で は弱 い.す
なわ ち若 年 者 で は,カ ル シ ウ ム を 食事 か ら適
切 に摂 取 す れ ば骨 塩 量 は増 加 す る.ゆ 動 選 手 は,カ
え に,疲 労 骨 折 の危 険 性 が 高 い思 春期 の 運
ル シ ウ ムの 摂 取 に特 に注 意 す べ きで あ る.な お,骨 塩 量 を最 大 にす
る の に 必 要 な カ ル シ ウム 摂 取 量 は,米 国 人 で は1000∼1500mg/dayと
い われて
お り,日 本 人 で も これ に近 い数 値 が 目標 と な る. d. カ ル シ ウ ム 以 外 の ミネ ラル と骨 1) 骨 を 貯 蔵 庫 とす る ミネ ラル とは よ く知 ら れ て い るが,他
骨 が カ ル シ ウ ム と リ ンの 貯 蔵 組 織 で あ る こ
の ミネ ラル も骨 を貯 蔵 庫 と して い る場 合 が あ る.
骨 塩 を構 成 す る ヒ ドロキ シ アパ タ イ トは,正 規 の 成 分 と して マ グ ネ シ ウ ム を含 有 す る.骨
マ グ ネ シ ウ ム は 生 体 中 マ グ ネ シ ウ ム の60%近
く を 占 め る.血 漿 マ グ
ネ シ ウ ム濃 度 が きわ め て 厳 密 に コ ン トロー ル され て い る こ とか ら,骨 マ グ ネ シ ウ ム が マ グ ネ シ ウ ム の 貯 蔵 庫 と して,血 漿 マ グ ネ シ ウ ム の恒 常 性 維 持 に重 要 な 役 割 を 担 う こ とは 容 易 に 理 解 で き る. 亜 鉛 は骨 の 必 須 成 分 で は な い.し か し,骨 亜 鉛 は体 内亜 鉛 の20∼30%を 亜 鉛 摂 取 量 の 変 動 を 鋭 敏 に反 映 す る.ゆ
占 め,
え に,生 体 に お け る亜 鉛 の恒 常 性 維 持 に
骨 は 一 定 の 役 割 を果 たす と考 え られ る. ナ トリ ウ ム も骨 の 必 須 成 分 で は な い が,骨 わ ち,ナ
を貯 蔵 庫 と し て利 用 して い る.す な
トリウ ム 摂 取 量 が 少 な い と,骨 か ら ナ トリウ ム を動 員 して血 漿 ナ トリ ウ
ム濃 度 を 維 持 す る た め,骨
吸 収 が 促 進 され る.日 常 的 に12g程
度 の 食 塩 を摂 取
して い た ヒ トが 食 塩 摂 取 量 を 半 減 させ る と,骨 吸 収 が 促 進 され て カ ル シ ウ ム 出納 が 負 に な る こ とが 観 察 され て い る. 2) 骨 形 成 に必 要 な ミ ネ ラ ル 銅 含 有 酵 素 の リ ジル オ キ シ ダ ー ゼ(lysyl dase)は,コ あ る.ゆ
oxi
ラ ー ゲ ン架橋 構 造 の 中 間 体 で あ る リ ジ ンア ル デ ヒ ドの 合 成 に 必 須 で
え に銅 欠 乏 は コ ラ ー ゲ ン合 成 低 下 を起 こ し,健 全 な 骨 形 成 を妨 げ る.
6.4 発 汗 と ミ ネ ラ ル a. 汗 に よ る水 分 と ミネ ラル の 損 失 1) 汗 の ミ ネ ラ ル 濃 度 た.汗
表6.2に
一 般 的 な 汗 の ミネ ラ ル 濃 度 の 範 囲 を 示 し
に 含 まれ る ミネ ラル の 濃 度 は,発 汗 条 件,お
ま ざ ま な値 を 示 す.ま
よ び個 人 差 の 影 響 を受 け て さ
た発 汗 量 の増 加 と と もに濃 度 も変 化 す る.こ の た め,特 殊
な 条 件 で採 取 した 汗 で は,表 の 範 囲 を大 幅 に逸 脱 す る数 値 を示 す こ と も あ る. 2) ス ポ ー ツ飲 料
い わ ゆ る ス ポ ー ツ飲 料(sport
る水 分 と ミネ ラ ル の補 給 を 目的 と して 開 発 され た.ス ラ ル は,ナ
トリウ ム,カ
リ ウム,カ
ル シ ウ ム,マ
drink)は,発
汗 で失われ
ポ ー ツ飲 料 に 含 ま れ る ミ ネ
グ ネ シ ウム で あ る.表6.2に
示
す よ う に,そ れ ら の濃 度 は 一 般 的 な 汗 の ミネ ラル 濃 度 を ほ ぼ 反 映 して い る.ま た 意 図 的 に特 定 の ミネ ラ ル の 濃 度 を 高 め,食 事 か らの 摂 取 不 足 を 補 う よ う設 計 した 飲 料 も販 売 さ れ て い る. 3) 発 汗 量
炎 天 下 の 運 動 で は,1時
間 に1l以
上 の 発 汗 も稀 で は な い.た
表6.2 一般 的 な 汗 と市 販 ス ポ ー ツ飲 料 の ミネ ラ ル濃 度
種 々の報告値 を参 考に作 成.
だ し,こ の よ う な激 し い 運 動 を継 続 す る こ とは不 可 能 で あ り,1日 と して は10lと
の最大発 汗量
い う数 値 が 目安 に され て い る.
b. 大 量 発 汗 の 影 響 1) 大 量 発 汗 と は る か に 関 して,日
大 量 発 汗 とい う表 現 が 具 体 的 に どの程 度 の 数 値 を意 味 す
本 人 の 食 事 摂 取 基 準 で は,3l以
が 必 要 と し て い る.ゆ 2) 水 分 損 失 の 影 響 で あ る.汗
え に本 項 に お い て も,3l以
上 の 発 汗 に お い て 食 塩 の補 給 上 の発 汗 を大 量 発 汗 と考 え る.
大 量 発 汗 とは 血 漿 か ら水 分 と ミネ ラル が 失 わ れ る現 象
と して 血 漿 か ら急 激 に大 量 の 水 分 が 失 わ れ れ ば,た
と え細 胞 間 液 や 細
胞 内 か ら水 分 が 補 わ れ た と して も,一 時 的 な血 漿 量 減 少 は避 け られ な い.ゆ
えに
大 量 発 汗 に見 合 う水 分 の 補 給 が な け れ ば,血 漿 量 減 少 に 伴 う 血 液 の 粘 稠 化 が 生 じ,循 環 障 害 が発 生 す る.循 環 障 害 は脳 へ の 酸 素 供 給 を低 下 させ,意 識 障 害 を引 き起 こす.こ
の よ う な大 量 発 汗 を 原 因 とす る 循 環 障 害 は熱 中 症(heat
の 一種 で あ り,熱 疲 憊(heat
exhaustion)と
3) ナ トリ ウ ム 損 失 の 影 響 ム,カ ル シ ウ ム,マ
apoplexy)
呼 ば れ る.
発 汗 に よ る 血 漿 電 解 質(ナ
グ ネ シ ウ ム イ オ ン)の 損 失 が,一
ト リ ウ ム,カ
リウ
時 的 に血 漿 電 解 質 濃 度 を変
動 させ,け
い れ ん を起 こす こ とが あ る.こ の 症 状 も熱 中 症 の一 種 で あ り,熱 けい
れ ん(heat
cramp)と
い う.特 に,発 汗 に よ る水 分 損 失 を意 識 す るあ ま り,運 動
中 に 水 分 の み を 補 給 す る と,血 漿 ナ ト リウ ム濃 度 が 低 下 し,低 ナ ト リウ ム 血 症 (hyponatremia)を
起 こ す 危 険 性 が あ る.
低 ナ トリ ウ ム 血 症 は痩 せ 型 の 女 性 や ス ポ ー ツ初 心 者 に 起 こ りや す い.2002年 ボ ス トンマ ラ ソ ン終 了 後 の 検 査 に よ る と,血 漿 ナ トリ ウ ム 濃 度 の 異 常 者 は男 性 (322例 中25例,8%)よ 多 数 は レー ス 中 に3l以
りも女 性(166例
中37例,22%)に
多 く,異 常 者 の 大
上 の 水 分 を 摂 取 して い た2).こ の レー ス で は,28歳
性 が ゴ ー ル 直 後 に 倒 れ,低
の女
ナ トリウ ム血 症 で 死 亡 して い る.痩 せ 形 の 女 性 が,男
性 選 手 と同 じペ ー ス で 大 量 に水 分 を補 給 す れ ば,血 漿 ナ トリウ ム 濃 度 が 低 下 す る 危 険性 は 高 い.運
動 中 の水 分 補 給 は必 要 で あ るが,電 解 質(特
に ナ トリ ウム)補
給 も同 時 に行 う こ とが 重 要 で あ る. 4) 発 汗 に よ る 亜 鉛 の 損 失 汗 は血 漿 電 解 質 以 外 の微 量 ミネ ラル も含 む.か つ て は,汗
に は相 当 量 の鉄 が 含 有 さ れ て お り,大 量 発 汗 に よ る鉄 損 失 が 運 動 性 貧 血
の原 因 と考 え られ た こ と もあ っ た.し か し,厳 密 な 条 件 で 採 取 され た汗 の 鉄 含 量
図6.6 大 学 ボ ー ト部 員 夏 合 宿 前 後 の 血 漿 中 ミネ ラ ル 濃 度 の 変 化3) 対 象 者 は 男 性11名,女 で あ る.
は わ ず か で あ る の で,鉄
性2名
で,合
宿 期 間 は7日
間
の 損 失 経 路 と して の 汗 は ほ とん ど無 視 で き る よ うで あ
る. 一 方,い
くつ か の 報 告 は,汗 中 の 亜 鉛 濃 度 が1mg/lに
亜 鉛 の1日
摂 取 量 と推 奨 摂 取 量 が い ず れ も8mg前
近 い こ と を示 して い る.
後 で あ り,吸 収 率 が 約30%
で あ る こ と を考 え る と,大 量 発 汗 に よ る 亜 鉛 損 失 は無 視 で きな い.図6.63)に, 大 学 ボ ー ト部 選 手 に お け る夏 期 合 宿 後 の 血 漿 亜 鉛 濃 度 の 低 下 を示 した.合 宿 中 の 亜 鉛 摂 取 量 が 合 宿 前 と変 化 な い こ と を確 認 して い る こ とか ら,合 宿 中 の 大 量 発 汗 が 亜 鉛 損 失 を起 こ した 可 能 性 は 高 い.亜 鉛 欠 乏 は,赤 血 球 膜 抵 抗 性 の 減 弱 に よ る 溶 血 と イ ンス リン 様 成 長 因子Ⅰ(insulin-like growth マ トメ ジ ンC(somatomedine
C))低
factor-I, IGF-I,別
名:ソ
下 に よ る赤 血 球 産 生 の 低 下 を起 こ し,貧 血
を起 こす 場 合 が あ る.亜 鉛 欠 乏 の症 状 と して有 名 な の は 味 覚 障 害 で あ る が,運 動 選 手 で は貧 血 の 方 が 影 響 は大 きい.い ず れ に して も運 動 選 手 は,大 量 発 汗 に よ る 亜 鉛 損 失 を考 慮 し て,食 事 か らの亜 鉛 摂 取 を心 が け る必 要 が あ る.
6.5 運 動 性 貧 血 a. 現
状
血 液 中 の ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 が低 下 した状 態(男 下)を
貧 血(anemia)と
性:14g/dl,女
い う.ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 が 女 性 で11,男
性:12g/dl以 性 で13g/dl以
下 に な る と倦 怠 感 や 運 動 能 力 の 低 下 が 出 現 す る.貧 血 の 原 因 と して は,鉄 赤 血 球 産 生 過 程(ヘ
モ グ ロ ビ ン合 成 と赤 血 球 の 生 成)の
失 血 な どが あ る.運 動 性 貧 血(sports 血 をい い,ほ 血(hymolytic
anemia)と
と ん ど は鉄 欠 乏 性 貧 血(iron anemia)と
異 常,溶
血,薬
欠 乏,
剤 投 与,
は ス ポ ー ツ活 動 が 原 因 と な る貧
deficiency anemia),ま
た は溶血性 貧
い わ れ て い る.
運 動 性 貧 血 は女 性 に頻 度 が 高 く,激 しい トレ ー ニ ング,ま た は急 に 運 動 量 が 増 した場 合 に起 こ る.一 流 運 動 選 手 にお い て,男 性 の6∼7%,女 貧 血 との 報 告 が あ る.種
性 の25∼30%が
目別 に 検 討 した報 告 で は,女 子 陸 上 選 手 の過 半 数 が 運 動
性 貧 血 の 状 態 にあ る とい う. b. メ カ ニ ズ ム 1) 溶
血
図6.73)は,大
学 ボ ー ト部 員 を 対 象 に し て,1週
後 の ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 を比 較 した もの で あ る.ほ 約10%の
と ん どの 選 手 にお い て 合 宿 後 に
ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 低 下 が 観 察 さ れ る.表6.33)に
図6.7 大 学 ボ ー ト部 員 夏 合 宿 前 後 の ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 の 変 化3) 対 象 者 は男 性11名,女 宿 期 間 は7日
間 で あ る.
性2名
間の夏 合宿前
で,合
示 す よ う に,こ
の とき
表6.3 夏 合 宿 前 後 の大 学 ボ ー ト部 員 の 血 中 成 分 濃 度3)
数値 はい ず れ も平 均値 ±標 準 偏 差(n=13).対 応 の あ るt検 定 にお いて, *:危 険 率5%ま た は**:1%で 有 意 差 が 認 め られ た .
網 状 赤 血 球(reticulocyte)は
合 宿 後 に増 加,血 漿 ハ プ トグ ロ ビ ン(haptoglobin)
濃 度 は 合 宿 後 に低 下 して い た.溶 ハ プ トグ ロ ビ ンが 結 合 す る.ゆ
血 に よ っ て血 漿 にヘ モ グ ロ ビ ン が 出 現 す る と,
え に血 漿 ハ プ トグ ロ ビ ンの 減 少 は,ボ ー ト部 員 に
溶 血 が 進 行 し て い る こ と を 意 味 す る.ま た 網 状 赤 血 球 の増 加 は,溶 血 の 進 行 に対 応 して赤 血 球 合 成 が 亢 進 して い る こ とを 意 味 す る.こ れ らの 観 察 結 果 は,運 動 性 貧 血 に溶 血 が 関 わ っ て い る こ と を端 的 に示 して い る. 2) 溶 血 の 原 因 電 解 質,特
大 量 発 汗 時 に は 血 漿 電 解 質 濃 度 が 一 時 的 に 変 化 す る.血 漿
に ナ トリ ウ ム 濃度 が 変 化 す る こ とは,血 漿 浸 透 圧 の 変 化 を意 味 す る.
この よ うな 血 漿 浸 透 圧 の 変 化 は 溶 血 を起 こす 原 因 の ひ とつ か も しれ な い. 運 動 に よ る 機 械 的 衝 撃 が 内 出 血 や 溶 血 を起 こ し,貧 血 につ な が る 場 合 が あ る. ヒ トの 身 体 動 作 は 非 常 に大 き な重 力 を足 底 部 にか け る.こ の た め 激 しい 運 動 で は 血 管 が 押 しつ ぶ さ れ 内 出 血 を 起 こ し,同 時 に,赤 血 球 も壊 さ れ る.長 時 間 走 り続 け る ロ ー ドラ ン ナ ー や ジ ャ ン プ に 伴 う着 地 を繰 り返 す バ レー ボ ー ル 選 手 な どで は,こ の よ う な機 械 的 衝 撃 の 影 響 は大 きい だ ろ う. 一 方,マ
ウ ス に遊 泳 運 動 を一 定 期 間 負 荷 す る と,や は りヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 の 低
下 を観 察 で き る.こ
の と きマ ウ ス の 血 液 に は 若 い 赤 血 球 の 割 合 が 増 加 して お り,
溶 血 に伴 う赤 血 球 合 成 の 亢 進 が 認 め られ る.マ ウ ス は汗 をか か な い し,遊 泳 運 動 は血 管 を壊 す ほ どの 機 械 的刺 激 で もな い.ゆ
え に こ の場 合 の 溶 血 に は別 の 要 因 が
関 わ る と考 え な け れ ば な らな い.運 動 時 に は酸 素 が 大 量 消 費 さ れ る た め,大 酸 化 ス トレス が 生 体 に生 じて い る可 能 性 が あ る.先
きな
に 紹 介 した ボ ー ト部 員 で は,
表6.3に
示 す よ う に,合 宿 後 に 血 漿 過 酸 化 脂 質 の増 加 と ビ タ ミ ンCお
度 の 低 下 が 認 め られ た.ゆ
よ びE濃
え に 運 動 に起 因 す る酸 化 ス トレ スが 赤 血 球 膜 の リ ン脂
質 に 損 傷 を 与 え て赤 血 球 膜 を脆 弱 化 させ,溶 血 を起 こ した 可 能 性 は高 い. 以 上 の よ う に,運 動 が 溶 血 を起 こす メ カ ニ ズ ム に は さ ま ざ ま な もの が提 示 さ れ て い る.お そ ら くは,こ れ らの メ カニ ズ ム が 重 な りあ っ て 溶 血 が 進 行 す る の で あ ろ う. 3) 出
血
運 動 選 手 で は,精 神 的 ス トレス に よっ て 消 化 管 か ら出 血 を起 こ
す 場 合 が あ る.出 血 は 血 液 成 分,特
に鉄 を損 失 す る現 象 で あ るか ら,出 血 量 が 多
け れ ば 鉄 栄 養 状 態 に与 え る 影 響 は大 きい. 4) ミ ネ ラ ル 欠 乏 と の 関 わ り 鉄,銅,亜
欠 乏 し た 場 合 に 貧 血 を生 ず る ミネ ラ ル は,
鉛 で あ る.日 本 人 女 性 の約10%に
鉄 欠 乏性 貧 血,約30%に
フ ェ リチ
ン濃 度 低 下 に よ っ て診 断 され る潜 在 性 鉄 欠 乏 が 認 め られ る とい う実 態 を背 景 に し て,運
動 性 貧 血 に も鉄 摂 取 不 足 が 関 わ る と い う指 摘 が これ まで 行 わ れ て きた.た
しか に,運 動 性 貧 血 の ヒ トの 中 に は,血 清 鉄 や フ ェ リ チ ンの 数 値 か ら鉄 欠 乏性 貧 血 と診 断 さ れ る 事 例 が 存 在 す る.し か し,食 事 管 理 が 行 わ れ,十 分 に鉄 を摂 取 し て い る 実 業 団 や 大 学 の運 動 選 手 に も運 動 性 貧 血 は 認 め られ る.ま た,鉄 運 動 性 貧 血 者 に鉄 剤 を投 与 し て も改 善 しな い事 例 が あ る.ゆ
欠乏性の
えに運動性 貧血 で
は,鉄 の 体 内 利 用 が 低 下 して い る可 能 性 も考 え られ る. c. 希 釈 性 貧 血 トレ ー ニ ン グ を積 ん だ 運 動 選 手 で は循 環 血 液 量 が 増 え る こ と が あ る.こ 合,赤
の場
血 球 や ヘ モ グ ロ ビ ンの 総 量 に は変 化 が な い の で,血 液 中 の水 分 量 が 増 え た
こ と に よ り,数 値 の う えで は 貧 血 と判 定 され る.こ (dilution anemia)と
の よ う な貧 血 は 希 釈 性 貧 血
い わ れ る.希 釈 性 貧 血 の 運 動 選 手 で は大 量 発 汗 に よ っ て 血
漿 水 分 量 が 減 少 して も,血 液 の粘 稠 化 は起 こ りに くい.ゆ
え に希 釈 性 貧 血 は大 量
発 汗 に対 す る 適応 と も解 釈 で き,運 動 選 手 に と っ て は 好 ま しい状 態 と い え る.事 実,希 釈 性 貧 血 の状 態 に あ る 運動 選 手 は好 成 績 を収 め る と い わ れ て い る. d. 対
策
1) 溶 血 の 予 防 合,食
運 動 性 貧 血 の 原 因 で あ る溶 血 が 機 械 的衝 撃 で 生 じて い る場
事 や ス ポ ー ツ飲 料 補 給 に よる 予 防 は 困 難 で あ る.し か し,血 漿 浸 透 圧 の変
化 や 酸 化 ス ト レス が 関 わ っ て い る場 合 に は,あ
る程 度 の 対 処 は可 能 で あ る.
大 量 発 汗 に よる 血 漿 浸 透 圧 の 変 化 は運 動 中 に水 分 とナ トリウ ム を適 切 に補 給 す れ ば予 防 可 能 で あ る.ス ポ ー ツ飲 料 や食 塩 を溶 か した 茶 系 飲 料 の 利 用 が 有 効 で あ ろ う. 一 方,酸 化 ス トレス に対 応 す る 栄 養 素 と して は,ビ
タ ミ ンC,ビ
よ び セ レ ンが あ げ られ る.先 に取 り上 げ た ボ ー ト部 員 に お い て,血 とEの
タ ミ ンE,お 中 ビ タ ミ ンC
濃 度 が 低 下 して い た こ とか ら,こ れ らの ビ タ ミ ンを サ プ リ メ ン ト と し て
推 奨 量 よ り もや や 多 く摂 取 す る こ とは 有 効 か も しれ な い.ま た セ レ ンは,グ ル タ チ オ ンペ ル オ キ シ ダ ー ゼ(glutathione に 関 わ っ て い る.動 物 実 験 で は,セ
peroxidase)と
して 生 体 内 過 酸 化 物 の 処 理
レ ン欠乏 状 態 に お い て 運 動 負 荷 を行 う と,過
酸 化 物 の 蓄 積 が 増 加 す る と報 告 さ れ て い る.し か し,必 要 量 を超 え た セ レ ンの投 与 が 有 効 で あ る とい う研 究 は見 当 た らな い.セ 限 摂 取 量 の 幅 が 狭 い こ と,お
レ ンに 関 して は,推 奨 摂 取 量 と上
よび 日本 人 は 日常 の 食 事 で 十 分 な摂 取 が 達 成 で きて
い る こ と を勘 案 す れ ば,サ プ リメ ン トな どか ら酸 化 ス ト レス予 防 を 目的 に大 量 摂 取 す る 意 義 は小 さい だ ろ う. 2) ミ ネ ラル 欠 乏 に よ る貧 血 へ の 対 処
運 動 性 貧 血 の ヒ トの 中 に は,鉄 欠 乏
性 貧 血 と診 断 され る事 例 が存 在 す る.こ の よ うな 場 合 は食 事 調 査 を行 い,鉄 の 摂 取 状 態 を把 握 す べ きで あ る.鉄 の 摂 取 不 足 が 明 らか で あ れ ば,食 事 内 容 の 改 善, さ ら に必 要 な ら鉄 剤 を投 与 して 鉄 栄 養 状 態 の改 善 を図 らね ば な ら ない. 一 方,鉄 投 与 で 改 善 しな い 鉄 欠 乏 性 の 運 動 性 貧 血 の事 例 が 存 在 す る.こ の よ う な場 合,亜
鉛投 与 が 有 効 な こ とが あ る.亜 鉛 は欠 乏 す る と,前 述 の ご と く赤 血 球
産 生 能 を低 下 させ る.し は,鉄
た が っ て,運 動 性 貧 血 予 防 の た め の 食 事 管 理 に お い て
と と も に亜 鉛 の 摂 取 に も注 意 を は ら うべ きで あ ろ う.
6.6 ミ ネ ラ ル サ プ リ メ ン トの 意 義 a. 摂 取 の 意 義 健 康 に 対 す る 関 心 の 高 ま り を背 景 に 多 種 類 の サ プ リ メ ン トが 開 発 さ れ,す べ て の 必 須 ミ ネ ラ ル につ い て サ プ リ メ ン トが 市 販 され て い る.し か し,現 在 の 日本 人 に お い て,サ
プ リ メ ン トと して 摂 取 す る 意 義 の あ る ミネ ラ ル は 限 られ て い る.
国民 栄 養 調 査 成 績 と食 事 摂 取 基 準 の 数 値 を比 較 した場 合,摂 定 数 以 上 存 在 す る と推 定 され る ミ ネ ラ ル は,カ
取 不 足 の ヒ トが 一
ル シ ウ ム,鉄,亜
鉛 の3種
であ
る.こ れ ら は疲 労 骨 折 や 貧 血 予 防 の観 点 か ら,運 動 選 手 にお い て も十 分 な摂 取 が 必 要 な ミネ ラ ル で あ る. 畜 産 物 に代 表 さ れ る動 物 性 食 品 は,カ る.ゆ
ル シ ウム,鉄,亜
鉛の有効 な供給源であ
え に これ らの ミネ ラ ル の摂 取 を増 や す に は,動 物 性 食 品 を現 状 よ りも多 く
摂 取 す る こ とが 必 要 と な る.つ ま り,カ ル シ ウ ム,鉄,亜
鉛 の 摂 取 不 足 は,穀 物
をエ ネ ル ギ ー 源 とす る 日本 型 食 生 活 の 宿 命 で あ り,こ れ を解 消 す る に は,畜 産 物 をエ ネ ル ギ ー 源 とす る 欧 米 型 食 生 活 を 現 状 以 上 に導 入 しな け れ ば な らな い.し か し,畜 産 物 の摂 取 を増 や す こ と は,動 物 性 脂 肪 の 摂 取 増 を意 味 し,世 界 で最 もバ ラ ンス が よい と され る糖 質,脂 質,タ が る.ゆ え に,カ ル シ ウ ム,鉄,亜
ンパ ク質 の 摂 取 バ ラ ンス を崩 す こ とにつ な
鉛 に 限 定 す れ ば,サ
プ リ メ ン トの 利 用 は三 大
栄 養 素 の 摂 取 バ ラ ンス を壊 す こ と な くこ れ らの ミネ ラ ル を補 給 す る こ と につ なが る.し た が っ て,サ
プ リメ ン ト利 用 の 意 義 は 十 分 に あ る とい え る.
b. 摂 取 に お け る注 意 点 1) 摂 取 量
サ プ リ メ ン トは誰 で も気 軽 に購 入 で き る.ま た,サ
プ リメ ン ト
の ミネ ラル 含 有 量 も 多 岐 に わ た っ て い る.ミ ネ ラ ル は 多 量 に摂 取 す れ ば過 剰 障 害 が 発 生 す る.ゆ
え に,信 用 で き るサ プ リメ ン トを選 択 し,か つ 過 剰 摂 取 に 十 分 注
意 しな け れ ば な らな い. 現 在,厚
生 労 働 省 は亜 鉛,カ
能 食 品(food とは,摂
ル シ ウ ム,鉄,銅,マ
with nutrient function claims)の
取 量 が 基 準 範 囲(亜 鉛3∼15mg/day,カ
鉄4∼10mg/day,銅0.5∼5mg/day,マ
グ ネ シ ウ ム に 対 し て栄 養 機
制 度 を設 け て い る.栄 養 機 能 食 品 ル シ ウ ム250∼600mg/day
グ ネ シ ウ ム80∼300mg/day)内
,
に なる
よ う に 設 計 さ れ た サ プ リメ ン トで あ る.し か し,栄 養 機 能 食 品 と い え ど も,亜 鉛,鉄,銅
に つ い て は,基 準 の 上 限 は 食 事 摂 取 基 準 の 推 奨 摂 取 量 を上 回 っ て お
り,無 秩 序 に利 用 す れ ば過 剰 摂 取 に至 る 可 能性 が あ る.ゆ
え に,こ れ らの サ プ リ
メ ン トを利 用 す る場 合 に は,医 師 や 栄 養 士 な どの 専 門家 の ア ドバ イス を受 け る こ とが 必 要 で あ る. 2) 吸 収 段 階 に お け る相 互 作 用
栄 養 機 能 食 品 の 対 象 と な っ て い る ミネ ラ ル
は,た が い に類 似 の 機構 に よ っ て 吸 収 され る.ゆ え に,消 化 管 内 に これ らの ミネ ラ ル が 共 存 す る と,相 互 作 用 を起 こ し,そ れ ぞ れ の 吸 収 率 が 低 下 す る 場 合 が あ る.特 に,カ
ル シ ウ ム は 摂 取 量 が 多 い た め,他
の微 量 ミネ ラル の 吸 収 に 与 え る影
響 は 大 き く,カ
ル シ ウ ム サ プ リ メ ン ト を 食 事 中 に 摂 取 す れ ば,食
の 吸 収 率 を 低 下 さ せ る 可 能 性 が あ る.し は,服
事 中 の鉄 や 亜 鉛
た が っ て ミ ネ ラ ル サ プ リ メ ン トに つ い て
用 す る タ イ ミ ン グ に も 注 意 が 必 要 で あ る.
引 用 文 1) 金 子 佳 代 子,万 2) Almond
木 良 平(2003)環
CS, Shin AY,
Salerno
AE,
Marathon.
Fortescue
Newburger
JW,
献
境 ・ス ポ ー ツ 栄養 学,建
帛社
EB,
D, Binstadt BA,
Mannix
Greenes
RC, Wypij
DS(2005)Hyponatremia
among
Duncan runners
CN,
Olson
DP,
in the Boston
N Engl J Med,352,1550-1556
3) 福 永 健 治,吉
田宗 弘,小
野 聡 子,中
園直 樹(1997)急
激 な運 動 に よる 血 液 成 分 の変 化.そ
のⅡ,微
量 栄 養 素 研 究,14,161-165 参 考 市川
厚 監 修,福
岡 伸 一 監 訳(2003)マ
厚 生 労 働 省 策 定(2005)日 田 宮 信 雄,村
松 正 実,八
倉書店 衛(1996)新
藤 斗志 也(2000)ヴ
伏木 亨,柴 田 克 己,吉 田 宗 弘,下 村 吉 治,中 (1996)ス ポ ー ツ と栄 養 と食 品,朝 倉 書 店 伏木
亨 編 著(2004)基
細 谷 憲 政 監 修(2004)ヒ 山 本 啓 一,丸
礎 栄 養学,光
学同人
生 理 学(第2版),文
民 栄 養 の現 状.平
本 人 の 食事 摂 取 基 準[2005年 木 達 彦,遠
献
ッキ ー 生 化 学(第3版),化
糸 川 嘉 則 編(2003)ミ ネ ラ ル の事 典,朝 小 幡 邦 彦,外 山敬 介,浜 田 明和,熊 田 健 康 ・栄 養 情 報研 究 会 編(2003)国
文
谷
成13年
光堂
厚 生労 働 省 国 民 栄 養 調 査 結 果,第
版],第
ォー ト基 礎 生 化 学,東 昭,河
田 照 雄,井
京化学同人
上 和 生,横
越 英 彦,中
生館
ュ ー マ ン ・ニ ュ ー トリ シ ョ ン.基 礎 ・食 事 ・臨 床,医
山工 作(1986)筋
肉,化 学 同 人
一 出版
一 出版
歯薬 出版
野長久
7.運
動時における各臓器のエネルギー代謝への寄与
7.1 エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 機 構 に つ い て の こ れ ま で の 諸 説 ATPは,細
胞 が 利 用 し他 の エ ネ ル ギ ー形 態 に変 換 で きる,唯
ギ ー の 形 態 で あ る.た
一の化 学エ ネ ル
と え ば 骨 格 筋 の 収 縮 は,ATP→ADP+Pi(無
機 リ ン酸)
の加 水 分 解 に よ る エ ネ ル ギ ー を ミ オ シ ンが ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン トを 引 く物 理 的 な 力 に 変換 す る こ とで 生 じる.骨 格 筋 の収 縮 に限 らず,す べ て の 生 命 活 動 に は エ ネ ル ギ ー が 必 要 で あ り,生 物 が 生 きる とい う こ と はATPを か な ら な い.わ る.ヒ
れ わ れ はATP産
トのATP産
を参 照 さ れ た い.ヒ
metabolism),好
と呼 ぶ こ と も多 い.こ 用 す る の か,す
生 維 持 の た め に,食 事 を摂 取 して い る と も い え
生 系 は 大 き く分 け て 嫌 気 的 代 謝 と好 気 的 代 謝 に 分 類 さ れ る.
これ らの 詳 細 につ い て は 第5章 代 謝(anaerobic
産生 し続 け る こ とに ほ
トで は嫌 気 的 代 謝 を無 酸 素 的
気 的 代 謝 を 有 酸 素 的 代 謝(aerobic
の 節 で はATPを
産 生 す る 際 に,ど
metabolism)
のエ ネ ル ギ ー 基 質 を利
な わ ち エ ネ ルギ ー基 質 の 選 択 性 に 関 し述 べ る.
運 動 中 の エ ネ ル ギ ー基 質 選 択 は さ ま ざ ま な 因 子 に よ り影 響 を 受 け る.た 運 動 の 強 度 と 時 間,食 事 の 種 類,運 薬 物,環
境,遺
伝 子 の 違 い(筋
動 中 の エ ネ ル ギ ー 補 給,運
とえば
動 トレ ー ニ ン グ,
線 維 型 な ど)が 代 表 的 な 例 で あ る.本 章 で は 特
に,運 動 の 強 度 と時 間 に 関 す るエ ネ ル ギ ー 基 質 選択 につ い て,骨 格 筋 内 で起 こ る 反 応 を 中 心 に述 べ る こ と に す る. a. 無 酸 素 的代 謝 と有 酸 素 的 代 謝 の 選 択 こ の 選 択 につ い て は 古 くか ら よ く研 究 が 進 ん でお り,運 動 強 度 お よび 時 間 に よ り決 定 され る とい う見 解 が 一 般 的 で あ る.有 酸 素 的 代 謝 とは,酸 素 を使 い 基 質 を 水 と二 酸 化 炭 素 に まで 分 解 し,そ の 過 程 でATPを
得 る 反 応 で あ り,細 胞 内 小 器
官 の 一 つ で あ る ミ トコ ン ド リ ア 内 で 行 わ れ る.し か し反 応 過 程 が 多 く複 雑 な た め,定
常 状 態 に達 す る ま で 時 間 が か か り,最 大 速 度 は2.5mmol/kg/sと
い われ
て い る.一 方,無
酸 素 的 代 謝 と は 酸 素 を 使 わ ず にATPを
合 成 す る 反 応 で あ り,
ク レア チ ン リ ン酸 系 と解 糖 系 と もに 細 胞 質 で行 わ れ る.最 大 で11mmol/kg/sを 超 え る 速 い 速 度 でATPを atine phosphate
system)と
供 給 で き る と い わ れ て い る.ク
レア チ ン リン 酸 系(cre
は ク レ ア チ ン リ ン酸 の 分 解 に よ りADPをATPに
合 成 す る反 応 で あ り,解 糖 系(glycolytic pathway)と
は グ ル コ ー ス を無 酸 素 的 に
ピル ビ ン酸 あ る い は 乳 酸 ま で 分 解 す る 反 応 経 路 の こ とで あ る.ATP合 解 糖 系 よ りク レア チ ン リ ン酸 系 の 方 が 速 い.こ 給 は 短 い時 間 しか 維 持 で きな い.し
再
成速度 は
れ ら無 酸 素 的代 謝 に よ るATP供
た が っ て,運 動 強 度 を基 準 に 考 え る と,数 秒
か ら数 十 秒 の よ う な短 時 間 に多 量 の エ ネル ギ ー を必 要 とす る激 しい 運 動 で は 無 酸 素 的 代 謝 が エ ネ ル ギ ー産 生 の 中心 とな り,そ れ 以 下 の 運 動 強 度 で は 徐 々 に 有 酸 素 的 代 謝 の割 合 が増 加 して くる と い え る.マ
ラ ソ ンの よ う な長 時 間 続 く運 動 で は ほ
とん どの エ ネ ル ギ ー を有 酸 素 的 代 謝 で 得 て い る(図7.1).時
間 を基 準 に考 え る
と,軽 い運 動 で も運 動 開 始 直 後 は 酸 素 の 供 給 量 が 十 分 で な く,こ の 期 間 は 無 酸 素 的 代 謝 で エ ネ ル ギ ー 供 給 が 補 わ れ る.な お,こ 終 了 後 の余 分 な 酸 素 取 込 で 補 償 され るが,こ
の 運 動 初 期 の酸 素 不 足 分 は,運 動
の 関係 を酸 素 負 債 とい う.い わ ゆ る
無 酸 素 運 動 と呼 ば れ る運 動 で も有 酸 素 的 代 謝 は完 全 にス トップ して い る わ け で は
図7.1 距 離 の 異 な る 陸 上 競 技 に お け る総 エ ネ ル ギ ー 産 生 量 の 中 で 無 酸 素 的 代 謝 と有 酸 素 的 代 謝 が 占 め る割 合 (引 用 文 献1,p.30よ
り改 変)
な く,寄 与 率 が低 い だ け で あ る 点 に注 意 す る 必 要 が あ る. b. 有 酸 素 的 代 謝 に お け るエ ネ ル ギー 基 質 の 選 択 有 酸 素 的 代 謝 に つ い て も う少 し詳 し く説 明 す る.こ の過 程 で 中心 とな る エ ネ ル ギ ー 基 質 は糖 質 と脂 肪 で あ る.タ と して あ ま り利 用 され ず,全
体 の10%に
が 有 酸 素 的 代 謝 を 経 る 場 合,す TCA回
路(TCA
ンパ ク 質 の 分 解 は一 般 に 運 動 中 のエ ネ ル ギ ー 源 満 た な い と い わ れ て い る.糖 質,脂
べ て ア セ チ ルCoAと
呼 ば れ る物 質 に 変 え られ,
cycle)と 呼 ば れ る循 環 した 反 応 経 路 で,水
全 に酸 化 さ れ る.TCA回 路 と も呼 ば れ る.そ
路 は クエ ン酸 回 路,ク
肪
と二 酸 化 炭 素 ま で 完
レブ ス 回 路,ト
リ カ ル ボ ン酸 回
して 酸 化 的 リ ン酸 化 と呼 ば れ る反 応 と同 時 進 行 し,生 体 内 に
貯 蔵 され た エ ネ ル ギ ー基 質 か ら効 率 よ くATPを 糖 質 は グ リ コ ーゲ ン(glycogen)と
合 成 す る.
呼 ば れ る グ ル コー ス が 多 数連 な っ た形 態 で
貯 蔵 され 主 に肝 臓 と筋 肉 に 蓄 え ら れ る.一 方 脂 肪 は 主 に 白色 脂 肪 組 織 に トリグ リ セ リ ド(triglyceride)の
形 態 で貯 蔵 さ れ,糖 質 に比 べ 単 位 重 量 あ た りの エ ネ ル ギ
ー が 大 き く,貯 蔵 量 の 限界 が糖 質 に比 べ 著 し く高 い とい う特 徴 が あ る.肥 満 は脂 肪 を 多 量 に貯 蔵 して い る状 態 で あ る.こ の 好 例 を あ げ る.体 重70kg体
こで 糖 質 と脂 肪 の 貯 蔵 量 を比 較 す る た め
脂 肪 率15%の
人 間 が,フ
ル マ ラ ソ ン を生 体 内 に
貯 蔵 され た糖 質 だ け で 行 う とす る と折 り返 し点 を少 し過 ぎた あ た りで力 つ き て し ま うが,体
脂 肪 だ け を燃 料 とす れ ば30回
以 上 繰 り返 し走 る こ とが で き る.脂 肪
は 糖 質 に比 べ い か に 多 量 に蓄 え られ て い る か(言 か)よ
い換 え れ ば 糖 質 が い か に 少 な い
くわ か る.一 般 に持 久 系 の競 技 で は,こ の 限 られ た 糖 質 をい か に温 存 で き
る か が 勝 負 の 分 か れ 目 と な る. 1) 運 動 強 度 に よ る エ ネ ル ギ ー基 質 利 用 の 違 い は糖 質,特
比 較的高強度の持久 運動で
に 筋 肉 中 グ リ コー ゲ ンの利 用 が 高 い こ とが わ か っ て い る.こ れ は 運 動
強 度 が 高 い ほ ど,筋 肉 か ら血 中 に放 出 さ れ る 乳 酸 量 が 多 い こ と か ら も示 され る. 筋 肉 グ リ コー ゲ ン分 解 に よ る無 酸 素 的,有 酸 素 的 代 謝 は,ど ち ら も脂 肪 を利 用 す る よ りは るか に速 い 速 度 でATPを 動 強 度 の増 加 に並 行 して,筋
供 給 す る こ とが で き るた め で あ る.ほ か に 運
肉 内 に ア セ チ ル カ ル ニ チ ン(acetyl
carnitne)が
蓄
積 す る こ とが 報 告 さ れ て い る.ア セ チ ル カル ニ チ ンは,遊 離 カ ル ニ チ ンか ら生 成 さ れ る の で,ア
セ チ ル カ ル ニ チ ンの 増 加 は 遊 離 カ ル ニ チ ンの減 少 を 招 く.カ ル ニ
チ ン は脂 肪 酸 酸 化 に必 要 な物 質 で あ る こ とか ら,高 強 度 運 動 時 の脂 肪 利 用 の 低 下
に 関 与 して い る 可 能 性 が 示 唆 され て い る. 2) 持 久 運 動 時 の 運 動 時 間 に 伴 う エ ネ ル ギ ー基 質 利 用 の 変 化
中 程 度 か ら低
強 度 の 持 久 運 動 中 にお い て は,脂 肪 酸 化 に よ るエ ネ ルギ ー供 給 の 寄 与 も増 加 して く る.こ
の と き,ATP供
給 速 度 が 脂 肪 酸 化 で も十 分 に 補 え る 場 合,生
体 は どち
らの エ ネ ル ギ ー 基 質 を利 用 す るの だ ろ う.実 際 に 呼 吸 商 や エ ネ ル ギ ー 基 質 濃 度 の 測 定 な どか ら,時 間経 過 に伴 い,エ
ネ ル ギ ー 源 とな る基 質 が糖 質 か ら脂 肪 へ 徐 々
に シ フ トす る こ とが 古 くか ら知 られ て い る(図7.2).こ
の糖 質 と脂 肪 の 利 用 の 調
節 は 複 雑 で あ り,現 在 まで 解 明 さ れ て い な い よ うで あ るが,ア 以 降 は糖 質 と脂 肪 は 共 通 の経 路(TCA回
路)を
セ チ ルCoA生
成
た どる こ とか ら,ア セ チ ルCoA
生 成 以 前 に そ の 調 節 段 階が な け れ ば な ら ない の は 明 らか で あ る.こ
こで は こ の 調
節 に 関 わ る諸 説 を紹 介 す る. ⅰ) ピル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 お よび 解 糖 系 酵 素 に よ る調 節(グ 脂 肪 酸 回 路) plex, PDH)は
ピル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体(pyruvate
ル コ ー ス-
dehydrogenase
com
ミ トコ ン ド リア 内 膜 に 局 在 す る 三 つ の 酵 素 の複 合 体 で あ る.そ の
活 性 は 数 種 の ア ロ ス テ リ ッ クエ フ ェ ク ター や ホ ル モ ンの 作 用 に よっ て 調 節 さ れ て い る.ATP/ADP比 PDHキ
や アセ チ ルCoA/CoA比,
ナ ーゼ が 活 性 化 され, PDHは
PDH量
ナ ー ゼ が不 活 性 化 され, PDHは
ま り脂 肪 の 酸 化 に よ る ア セ チ ルCoAとNADHの
を 減 少 させ,そ
比 が 増 加 す る と,
リ ン酸 化 され 不 活 性 化 す る.逆 に これ らの
比 が 減 少 した り,ピ ル ビ ン酸 存 在 下 で はPDHキ 活 性 化 す る.つ
NADH/NAD+の
蓄 積 は,活 性 型
の 結 果 糖 質 の酸 化 を 抑 制 す る とい う こ とが 広 く受 け入 れ
図7.2 持 久 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー源 の 推 移(引
用 文 献2よ
り改 変)
られ て い る.さ
ら に多 量 の ア セ チ ルCoAか
らク エ ン酸 が 過 剰 に 産 生 され 解 糖 系
の ホ ス ホ フ ル ク トキ ナ ー ゼ の 活 性 が 抑 制 され る.そ の 結 果,蓄 6-リ ン酸(G6P)の
上 昇 に よ っ て ヘ キ ソ キ ナ ー ゼ の 活 性 も抑 制 さ れ る こ とで グ ル
コ ー ス 酸 化 が 抑 制 さ れ る こ とが1964年Randleの 路(glucose-fatty
積 し た グ ル コー ス
acid cycle)で
提 唱 した グ ル コ ー ス-脂 肪 酸 回
あ る(図7.3).最
近 で は脂 肪 酸 に よ りイ ンス リ
ンの シ グナ ル経 路 が 阻 害 され る こ とが 報 告 され て お り,脂 肪 酸 は 糖 取 り込 み も阻 害 し糖 の利 用 を 抑 制 して い る と考 え られ る.し か しな が ら,こ の グ ル コ ー ス-脂 肪 酸 回 路 は ヒ トの 安 静 時 で は機 能 して い る が,最 大 下 運 動 時 でPDH活
性 に差 が
な い に もか か わ らず エ ネ ル ギ ー 基 質 利 用 の 変 化 が 観 察 され た こ とか ら,運 動 中 で は機 能 して い な い と い う意 見 もあ る.ま
た,そ
もそ も こ の 機 構 だ け で は,PDH
調 節 の 前 段 階 で あ る脂 肪 酸 酸 化 由 来 の ア セ チ ルCoA蓄
積 の 増 加 を説 明 す る こ と
が で きな い. ⅱ) マ ロ ニルCoAとAMPKに 細 胞 質 内 で ア セ チ ルCoAが ニ ルCoA(malonyl
CoA)に
よ る調 節 ア セ チ ルCoAカ
ル ボ キ シ ラ ー ゼ(ACC)に
合 成 され る.マ
トイ ル トラ ンス フ ェ ラ ー ゼ(CPT)1(脂
脂 肪 酸 生 合 成 で は,ま ず 最 初 に
ロ ニ ルCoAは,カ
ル ニ チ ンパ ル ミ
肪 酸 を ミ トコ ン ドリ ア に 取 り込 む 際 に
図7.3 グ ル コ ー ス-脂 肪 酸 回 路 の 模 式 図 脂 肪 酸 酸 化 の増 加 が糖 質 の 酸 化 を抑 制 す る. G-6-P:グ ル コー ス6-リ ン酸,F-6-P:フ ル ク トー ス6-リ フ ル ク トー ス1,6-二
リ ン酸,PDH:ピ
ン酸,FDP:
ル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体,CPT:
カ ル ニチ ンパ ル ミ トイル トラ ンス フ ェ ラー ゼ,HK:ヘ ホ ス ホ フ ル ク トキ ナ ー ゼ,PDHK:ピ
よ りマ ロ
キ ソ キナ ー ゼ,PFK:
ル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 キ ナ ー ゼ
必 要 な 脂 肪 酸 酸 化 の 律 速 酵 素)の
強 力 な 阻害 剤 で あ る こ とが 知 られ て い る.ラ
トで は肝 臓 中,骨 格 筋 中 の マ ロニ ルCoAは
ッ
最 大 下 運 動 に よ り経 時 的 に低 下 す る
こ とが 知 られ て お り,こ れ は脂 肪 酸 の 酸 化 増 加 と一 致 す る.マ
ロ ニ ルCoAの
運
動 に伴 う低 下 の 原 因 は未 解 明 の ま まで あ っ た が,近 年 運 動 に伴 い 活 性 が 上 昇 す る AMP-activated
protein
kinase(AMPK)と
活 性 化 す る こ とが わ か っ た.以 AMPKの
活 性 が 上 昇,ACCが
呼 ば れ る リン酸 化 酵 素 がACCを
上 の こ と か ら,運
動 に よ り骨 格 筋 ・肝 臓 の
不 活 性 化 しマ ロ ニ ルCoA量
が 低 下,骨
中 の 脂 肪 酸 酸 化 が増 加 す る とい う図 式 が 成 り立 つ(図7.4).し 格 筋 の マ ロ ニ ルCoA濃
格 筋 ・肝 臓
か し なが らヒ ト骨
度 は ラ ッ トに比 べ て 低 く運 動 中 の 変 化 が 少 な い こ と と,
ラ ッ トに お い て も本 来 脂 肪 利 用 が 少 な い 高 強 度 の 運 動 で もマ ロ ニ ルCoA量 少 す る こ と か ら,マ AMPKに
ロ ニ ルCoAの
作 用 に は い くつ か の 疑 問 点 が 残 る.一
は糖 取 込 み も 増 加 さ せ る 作 用 が 知 ら れ て い る.さ
AMP/ATP比
低 下)で
は ず で あ る.AMPKは
活 性 化 す る条
肪 利 用 共 に 活 性 化 す る 因 子 と考 え ら れ る.
よびAMPKが
糖 と脂 肪 利 用 バ ラ ン ス の 調 節 因子 か ど
うか は現 段 階 で は判 断 で きな い.
図7.4 マ ロニ ルCoAとAMPKに
よる エ ネ ルギ ー 代 謝調 節 の 模 式 図
AMPK:AMP-activated protein kinase,ACC:ア セ チ ルCoAカ ルボキ シラー ゼ,CPT:カ ル ニチ ンバ ル ミ トイ ル トラ ンス フ ェ ラー ゼ,GLUT4:グ ルコー ス 輸 送 担 体4型
方,
あ る こ とか ら,こ の と き糖 質 利 用 の 抑 制 は 起 こ らな い
糖 質 利 用,脂
した が っ て マ ロ ニ ルCoAお
が減
ら にAMPKは
の 上 昇 に よ り活 性 が 増 加 し,こ れ は お そ ら くPDHも
件(ATP/ADP比
不
ⅲ) 神 経 筋 接 合 部 位 に よ る調 節
近 年,骨
格 筋 を支 配 す る運 動 神 経 か ら神
経 の 興 奮 に 呼 応 して 放 出 さ れ る カ ル シ トニ ン 遺 伝 子 関 連 ペ プ チ ド(calcitonin gene-related
peptide, CGRP)が
グ リ コ ー ゲ ン合 成 を抑 制 し,グ
リ コー ゲ ン分 解
と乳 酸 の 生 成 を促 進 す る こ とがin vitroで 示 され た.最 大 下 運 動 時,神 経 か らの CGRP放
出 が 次 第 に 低 下 し,運 動 中 の糖 質 利 用 を抑 制 して い る機 構 が 考 え られ る
が,詳 細 は 今 後 の 研 究 を待 た ね ば な ら な い. c. 臓 器 間 相 互 作 用 こ こ ま で は 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 基 質 利 用 に 関 し,骨 格 筋 細 胞 内 の 変 化 と して 述 べ て き た.し か しエ ネ ル ギ ー 基 質 の 利 用 は生 体 全 体 の 反 応 の結 果 で あ る.そ れ に もか か わ らず,運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 基 質 利 用 に 関 して,臓 器 間 の 相 互 作 用 に 着 目 し て 論 じた 報 告 は 少 な い よ う で あ る.こ て,古
こでは運 動 中の臓器 間相 互作用 につい
くか ら知 られ て い る 機 構 に つ い て 簡 単 に述 べ る.
1) グ ル コー ス-脂 肪 酸 回 路
先 に述 べ た グ ル コ ー ス-脂 肪 酸 回 路 は,筋 肉 と
脂 肪 組 織 の相 互 作 用 と もい え る.こ の 機 構 は明 快 で あ り,脂 肪 組 織 か ら骨 格 筋 へ の 脂 肪 酸 流 入 の 増 加 が,骨
格 筋 の 糖 利 用 を抑 制 す る もの で あ る.
2) Cori回 路 と グ ル コ ー ス-ア ラ ニ ン 回路
運 動 時,骨 格 筋 で グ ル コ ー ス が
解 糖 経 路 を経 て 生 じる乳 酸 は,血 液 を介 し肝 臓 に運 ば れ,糖 新 生 経 路 に よ り グル コ ー ス に 変 え られ,再 cycle).運
動 時,ピ
び 血 中 に放 出 され 各 組 織 で 利 用 され る(Cori回
路, Cori
ル ビ ン酸 に ア ミノ基 が 転 移 され 生 成 した ア ラニ ンは 筋 肉細 胞
か ら放 出 さ れ,血 液 を介 し肝 臓 に移 行 す る.ア ラ ニ ンは 糖 新 生 に よ りグ ル コー ス に 変 換 され,再
び 血 中 に 放 出 され 各組 織 で 利 用 さ れ る(グ ル コー ス-ア ラ ニ ン回
路,glucose-alanine
cycle).こ
表 した も の で あ る.ち
の両 者 の 回 路 は いず れ も筋 肉 と肝 臓 の 相 互 作 用 を
な み に 骨 格 筋 か ら放 出 さ れ る乳 酸 も ア ラ ニ ン も運 動 強 度 が
高 い ほ ど多 く放 出 され る こ とが わか っ て い る. 3) ホ ル モ ン
運 動 時 に は,各
器 官 か ら さ ま ざ ま な ホ ル モ ンが 分 泌 さ れ る.
ホ ル モ ン は あ る臓 器 が 血 液 を 通 じて離 れ た 臓 器 に送 る信 号 と考 え られ るた め,臓 器 間相 互 作 用 の典 型 で あ ろ う.し か し,骨 格 筋 の糖 と脂 肪 利 用 に 関 し,明 確 な作 用 を もつ ホ ル モ ンは な い よ うで あ る.ほ
とん ど の ホ ル モ ン は,糖 質 と脂 質 代 謝 両
方 に影 響 す る こ とが 知 ら れ て い るが,糖
質 と脂 質 のバ ラ ンス を考 慮 し量 的 に解 析
した報 告 は な い よ うで あ る.も
ち ろ ん 最 初 に述 べ た よ う に運 動 は さ ま ざ ま な ホ ル
モ ン を 同 時 に 多 数 変 動 さ せ,血
流 も組 織 に よ っ て 変 化 す る の で,運
ン の 作 用 機 構 を 解 析 す る の は 容 易 な こ と で は な い.運 モ ン を 挙 げ る と,ア line),副
ド レ ナ リ ン(adrenaline),ノ
腎 皮 質 刺 激 ホ ル モ ン(ACTH),成
(cortisol),グ
ル カ ゴ ン(glucagon)な
モ ン は イ ン ス リ ン(insulin)以
動 中のホルモ
動 中 増 加 す る代 表 的 な ホ ル
ル ア ド レ ナ リ ン(noradrena 長 ホ ル モ ン(GH),コ
ど が 知 ら れ て い る.運
ル チ ゾール
動 中減少 す るホル
外 は あ ま り知 られ て い な い.
7.2 運 動 時 に お け る 各 臓 器 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 応 答 運 動 は そ の 動 力 源 で あ る 骨 格 筋 に 影 響 を 大 き く与 え る こ と は い う ま で も な い が,エ
ネ ル ギ ー 代 謝(energy
ど の 内 臓 器,脂 は,骨
metabolism)の
肪 組 織,脳,呼
観 点 か ら考 え る と,肝
臓 ・腎 臓 な
吸 循 環 器 系 な ど に も大 き な 影 響 を 与 え る.今
節で
格 筋 以 外 の各 部 位 が 運 動 に応 じて い か にエ ネ ル ギ ー 代 謝 に対 して貢 献 して
い る か 述 べ た い. a. 肝
臓
肝 臓(liver)は,臓
器 の 中 で 最 も 大 き い 臓 器 で あ る.体
で あ る に も か か わ ら ず,安 の こ と か ら,肝
静 時 で の 全 身 酸 素 消 費 量 の21%は
重 の2.6%前
後 の重量
肝 臓 が 占 め る.こ
臓 の 活 動 が 身 体 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 に お い て どれ だ け 重 要 か わ か る
で あ ろ う. 一 方,運
動 時,エ
ネ ル ギ ー 消 費 以 上 に,肝
役 割 を 担 っ て い る.た (gluconeogenesis)に
と え ば,グ
臓 はエ ネ ル ギ ー 産 生 に お い て重 要 な
リ コ ー ゲ ン 分 解(glycogenolysis),糖
よ る グ ル コ ー スの 供 給,脂
の β 酸 化(β-oxidation)に
よ る ケ トン 体(ketone
肪 酸(non-esterified body)放
新 生 free acid)
出 な どが 主 に あ げ ら
れ る(図7.5). 1) 肝 臓 に よ る グ ル コ ー ス 産 生
血 糖 調 節 に大 きな比 重 を 占 め る グ ル コー ス
産 生 は 短 期 的 に は 肝 グ リ コ ー ゲ ン 分 解 に よ り,長 ス 以 外 の 基 質(乳
酸,ア
リ ン酸(G6P)を
グ ル コ ー ス に 変 換 す る 酵 素(グ
肝 臓 に 多 く存 在 す る.つ と い え よ う.血 こ と か ら,一
ラ ニ ン)か
ま り,血
期 的 に は 肝 臓 に お け る グ ル コー
ら の 糖 新 生 に よ っ て 営 ま れ る.グ
ル コ ー ス ホ ス フ ァ タ ー ゼ)は,
糖 値 調 節 に 占め る肝 臓 の 貢 献 度 は き わ め て 高 い
糖 値 に 応 じ て 肝 臓 は グ ル コ ー ス を 放 出 し た り,取 種 の"恒
糖 器"と
ル コ ー ス6
い え る.こ
り 込 ん だ りす る
の 恒 糖 機 構 は 視 床 下 部(hypothalamus)
図7.5 肝 臓 に お け るエ ネ ルギ ー供 給 の模 式 図
-自 律 神 経 系(autonomic
nervous
system)を
介 し た 直接 的 な作 用 と
,副 腎
髄 質 か ら放 出 さ れ る ア ドレナ リ ンや 膵 臓 か ら放 出 さ れ る イ ンス リ ンや グ ル カ ゴ ン を 介 した 間 接 的 な作 用 の 両 者 に よっ て 調 節 され る. 運 動 時 に お い て は,血 糖 値 の低 下 を防 ぐた め,こ
う した 機 構 が 即 座 に 応 答 して
グ ル コ ー ス 産 生 系 へ と作 動 し,血 糖 値 を一 定 レベ ル に保 っ て い る. 2) 肝 臓 に よ る ケ トン体 産 生
肝 細 胞 は 脂 肪 酸 の β酸 化 活 性 が 最 も強 く,
血 中 の 遊 離 脂 肪 酸 は 肝 細 胞 に 取 り入 れ られ,そ ネ ル ギ ー と して も一 部 利 用 さ れ るが,大 さ れ る.血
中 の ケ トン体 は,他
こ で β酸 化 を 受 け,肝
自身のエ
部 分 は ケ トン体 とな って 再 度 血 中 へ 放 出
の どの エ ネ ル ギ ー 基 質 よ り優 先 して肝 外 組 織 へ 取
り入 れ られ,β 酸 化 さ れ た の ち ア セ チ ルCoA(acetyl-CoA)と トコ ン ドリ ア で 燃 焼 さ れ る最 もす ぐれ た 燃 料 基 質 で あ る.特
な り,た だ ち に ミ に脳(brain)で
は
グ ル コー ス に 変 わ る燃 料 と して そ の 役 割 は大 きい. 3) 運 動 と肝臓 に よ る燃 料 産 生
持 久 的運 動 にお い て,肝 臓 が 産 生 す る 燃 料
の 中心 と な る の は,運 動 初 期 で は グ ル コー ス で あ る.運 動 を継 続 す る と,時 間 経 過 と と も に ケ トン体 へ と移 行 す る と考 え られ る.
b. 脂 肪 組 織 平 均 的 な成 人 にお い て 体 重 の 約20%前 組 織(adipose
tissue)の
後 を 占 め て い る に もか か わ らず,脂
消 費 す る酸 素 量 は 総 酸 素 消 費 量 の わ ず か5%程
肪
度 にす
ぎ な い. エ ネ ル ギ ー貯 蔵 の 面 か らみ る と,ト リ グ リ セ リ ドは最 も効 率 の 良 い エ ネ ル ギ ー で あ り,実 際 に トリ グ リ セ リ ド1gの り,糖 質,タ
ンパ ク 質(各 約4kcal/g)よ
リ コー ゲ ン と違 っ て,貯 蔵 の 際,結 100%が
酸 化 に よ っ て 生 じ る 熱 量 は9.3kcalで り効 率 の よ い基 質 とい え る.ま
あ
た,グ
合 水 を必 要 と し な い の で,貯 蔵 脂 肪 の ほ ぼ
脂 肪 そ の も の で あ る.脂 肪 細 胞 で は トリ グ リ セ リ ドの 加 水 分 解 とエ ス テ
ル 化 に よ る再 合 成 が 常 に行 わ れ て お り,こ の 二 つ の 過 程 の進 行 具 合 に よ っ て,血 中 へ の脂 肪 酸 や グ リセ ロ ール(glycerol)の
供 給 が左 右 さ れ る.
運 動 時 にお け る脂 肪 組 織 は エ ネ ル ギ ー供 給 源 と して の 役 割 が 大 き く,特 に低 強 度 か ら中 強 度(65%Vo2max程
度)で
の 運 動 時 に は 重 要 で あ る.運 動 時,脂
肪組織
の トリグ リセ リ ド分 解 反 応 は,血 中 カ テ コ ラ ミ ン(特 に ア ド レナ リ ン)が そ の 中 心 的 役 割 を果 た し,グ ル カ ゴ ン,コ ルチ ゾ ル,ACTHな
ど は カ テ コ ラ ミ ン に許 容
的 に働 き脂 肪 分 解 を促 進 して い る の で は な い か と考 え られ て い る.ま た,交 感 神 経 系 に よ る 神 経 性 調 節 も存 在 す る.中 程 度 の 運 動 に よ り,血 中 ア ドレナ リ ン お よ び 交 感 神 経 終 末 か ら放 出 され る ノ ル ア ドレナ リ ンが β 受 容 体 を刺 激 し,ホ ル モ ン感 受 性 リパ ー ゼ(HSL)が 7.6).結
果,血
活性 化 され,ト
中 へ の 血 中 脂 肪 酸,グ
ギ ー 基 質 と して 肝 臓,骨
リグ リ セ リ ド分 解 が 促 進 され る(図
リ セ ロ ー ル の放 出 が 高 ま り,両 者 は エ ネ ル
格 筋 で 利 用 され る.
絶 食 な どで 血 糖 値 が 低 下 した 際 に は,グ
ル カ ゴ ンがHSLを
活 性 化 して,ト
リ
グ リセ リ ド分 解 を促 進 す る. c. 心
臓
心 臓(heart)は 身 の 約9%で
心 筋 か ら構 成 さ れ,安 静 状 態 で の 心 臓 エ ネ ル ギ ー消 費 量 は全
あ るが,組 織 重 量 当 た りの エ ネ ル ギ ー 消 費量 は 骨 格 筋 に比 べ て 著 し
く大 で あ る.運
動 に よ り心 拍 数,心
拍 出 量 の 増 加 と と も に,酸 素 消 費 も増 大 す
る.心 臓 の循 環 機 能 は 自律 神 経 系 に よっ て 巧 み に 調 節 さ れ,血 液 流 量,肺 密 接 に関 係 して お り運 動 能力 に寄 与 す る.
機能 と
図7.6 脂 肪 細 胞 にお け るエ ネ ル ギー 供 給 の 模 式 図
d. 副 腎 髄 質 副 腎 髄 質(adrenal
medulla)か
ら放 出 され る カ テ コ ラ ミ ン(catecholamine)
に は ア ドレナ リ ン,ノ ル ア ドレナ リ ンお よび ドー パ ミ ンが あ る.こ れ ら は副 腎 髄 質 か ら放 出 さ れ るが そ の 大 部 分 は ア ド レナ リ ン(80%以
上)で
あ り,運 動 中 に
放 出 され る ア ドレナ リ ンはす べ て 髄 質 由 来 に 限 定 され る.他 方,ノ ン の 大 部 分 は 交 感 神 経 終 末 か ら放 出 さ れ る.ノ
ル ア ドレナ リ
ル ア ドレナ リ ンの90%以
シ ナ プ ス 小 胞 内 に 貯 蔵 さ れ,神 経 終 末 の 脱 分 極 に よ る細 胞 内Ca2+濃 遊 離 す る.運 動 強 度,時
上 が,
度の増加 で
間 に よ り,両 者 の放 出量 が 変 化 す る.
カ テ コ ラ ミ ン は 肝臓,骨
格 筋,脂
肪 組 織 に お け る燃 料 代 謝 に 関 連 して お り,特
に 運 動 時 に 非 常 に重 要 な役 割 を果 た す. e. 膵
臓(膵
膵臓(pancreas)の
内 分 泌) ラ ン ゲ ルハ ンス 島 α細 胞 か ら グ ル カ ゴ ンが,β 細 胞 か ら イ
ンス リ ンが 分 泌 さ れ る.グ
ル カ ゴ ンは 肝 グ リ コ ー ゲ ン分 解,糖 新 生 促 進,ケ
トン
体 生 成,脂 肪 分 解 作 用 を もっ て お り,イ ン ス リ ンは 骨 格 筋 ・心 筋 ・脂 肪 へ の グ ル コ ー ス 取 込 促 進,糖 新 生 抑 制,脂 肪 酸 合 成 促 進 作 用 を有 して い る.運 動 に よっ て グ ル カ ゴ ンの 分 泌 は促 進 し,運 動 中 の 血糖 保 持 に 貢献 して い る.ま
た,運 動 に よ
り イ ンス リ ンの分 泌 は抑 制 され る. f. 腎
臓
エ ネ ル ギ ー 産 生 臓 器 と して の 腎 臓(kidney)を る臓 器 とい え る.G6Pを
と らえ る と,糖 新 生 機 能 を有 す
グ ル コ ー ス に変 換 す る 糖 新 生 最 終 酵 素 で あ る グ ル コ ー
ス ホ ス フ ァ ター ゼ は肝 臓 の み な らず 腎 臓 に も存 在 す る(肝 運 動 時,骨
に90%,腎
に10%).
格 筋 にお い て 生 じて 血 中へ 放 出 され た乳 酸 は肝 臓 の み な らず 腎 臓 へ も
運 ば れ糖 新 生 経 路 に入 り,血 糖 値 調 節 に貢 献 す る. g. 胃(stomach)(胃 膵 外 分 泌 同様,低
分 泌) 強 度 運 動 で は影 響 は 少 ない が,高 強 度 の 運 動 で は 胃酸 分 泌 が
抑 制 さ れ る. h. 消 化 管(gastrointestinal)(消
化 管 運 動)
食 道 の 蠕 動 運 動 は運 動 強 度 の 増 加 と と も に抑 制 され,胃 排 出 は,低 強 度 運 動 時 にお い て 促 進,高
強 度 運 動 時 に は遅 延 す る と い わ れ て い る.小 腸 にお い て は い ま
だ 不 明 で あ る.運 動 は大 腸 運 動 を促 進 す る と さ れ て お り,運 動 の 休 止 に よ り蠕 動 運 動 が 運 動 前 よ り強 くな る とい う.消 化 吸 収 に 関 して は,運 動 に よ り低 下 す るか 影 響 が な い か い ま だ よ くわ か って い な い. i. 脳 脳 の 重 量 は体 重 の約2%程 ギ ー消 費 量 の約20%を
度 で あ る が,脳
の エ ネ ル ギ ー 消 費 は全 身の 総 エ ネ ル
占 め て い る.こ れ は,体 重 の 約40∼50%を
占め て い る骨
格 筋 の エ ネ ル ギ ー 消 費量 と 同程 度 で あ る.脳 が よ り多 くの エ ネ ル ギ ー を要 求 す る 理 由 と して,脳
は睡 眠 時 で さ え も機 能 して い る 高 次 の 情 報 中 枢 機 構 で あ り,電 気
化 学 的 あ る い は 分 子 レベ ル で の 活 動,精
神 活 動 に お い て エ ネル ギ ーが 必 要 で あ る
こ とが 考 え られ る. 安 静 時,脳
は 燃 料 と して グ ル コ ー ス を利 用 す る.通 常,末
が ニ ュ ー ロ ン(神 経 細 胞)に 動 の エ ネ ル ギ ー 源 で あ るATPが
直 接 取 り込 まれ,解
糖 系,TCA回
梢 血 液 の グ ル コー ス 路 を経て神 経活
産 生 さ れ る(図7.7).
運 動 と脳 で の エ ネ ル ギ ー 代 謝 と の 関 係 につ い て こ れ ま で 不 明 な 点 が 多 か っ た が,最
近 数 多 くの研 究 報 告 が あ る.緩 や か な運 動 に よ っ て も,脳 全 体 で の エ ネ ル
ギ ー代 謝 変 化 は 見 られ な い.し
か し,運 動 強 度 が 上 昇 す る につ れ脳 が要 求 す る酸
素 量 は 増 大 す る.運 動 強 度 が 高 ま る と,末 梢 血 液 中 の グ ル コー ス は アス トロ サ イ
図7.7 脳 に お け る 安 静 時 の エ ネ ルギ ー 代 謝 の模 式 図
ト(ニ ュ ー ロ ンヘ エ ネ ル ギ ー を供 給 す る細 胞)へ へ と変 換 され 放 出 さ れ る(図7.8).さ
取 り込 まれ,解 糖 系 に よ り乳 酸
らに,近 年 の 研 究 に よ り脳 に も(主 に ア ス
トロ サ イ ト)グ リ コ ー ゲ ンが 存 在 し,脳 で の エ ネ ル ギ ー代 謝 に深 く関 与 して い る こ とが 示 され て い る.脳 が 活 性 化 され る と,脳 の グ リ コー ゲ ンか ら乳 酸 が 放 出 さ れ,ニ
ュ ー ロ ンで 速 や か に 利 用 され る.ニ ュ ー ロ ン に お い て 乳 酸 は グ ル コー ス よ
り効 率 良 く利 用 され,特
に,神 経 機 能 の 維 持 に重 要 で あ る こ と も わ か っ て い る.
実 際 に,高 強 度 運 動 時 に は 脳 にお け る グ ル コー ス 取 り込 み が低 下 し,乳 酸 が 積 極 的 に取 り込 ま れ エ ネ ル ギ ー 源 と して 利 用 さ れ て い る こ と がPETを
用 い た ヒ トに
お け る実 験 に お い て も示 され て い る.高 強 度 運 動 は 筋 肉か ら乳 酸 を放 出 させ,末 梢 血 液 中 の 乳 酸 濃 度 を上 昇 させ る こ と は よ く知 られ て い る こ とで あ ろ う.運 動 時 に,末 梢 血 液 中 で増 加 した 乳 酸 が 血 液脳 関 門 を通 過 し,ニ ュ ー ロ ンで 速 や か に取 り込 まれ て利 用 され て い る か も しれ な い.今 後 の研 究 に期 待 が か か る.こ れ らの 機 構 は 生 体 に とっ て 一 番 重 要 な 基 質 で あ る グ ル コ ー ス を節 約 す る 意 味 に お い て も 合 理 的 な 調 節 で あ る とい え る. ケ トン体 は,絶 食 時 に脳 で も燃 料 と し て利 用 さ れ る.長 時 間 運 動 時 に お い て, ケ トン体 の 利 用 割 合 が 増 加 す る こ と も報 告 さ れ て い るが,詳 細 は 明 らか に な っ て
図7.8 脳 における高 強度運動時のエネルギー代謝の模式 図
い な い. 脳 は 身体 全 体 を常 にモ ニ ター して い る 高 次 中枢 で あ る た め,燃
料の枯渇 が許 さ
れ な い組 織 で あ り,幾 重 も の機 構 に よ っ て巧 み な調 節 を 受 け て い る.
7.3 中 枢 神 経 系 に よ る エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 制 御 機 構 今 節 で は 末 梢 エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 に 中 枢 神 経 系(central CNS),特
に視 床 下 部 が 自律 神 経 系,内
分 泌 系(endocrine
nervous system)を
system, 介 して 深
く関与 して い る こ と を統 括 的 に 述 べ た い. a. 脳 の 中 の 視 床 下 部 動 物 の ホ メ オス タ シス は,内 的 お よび外 的 環 境 の 変化 に対 応 して 全 身 の 細 胞 ・ 臓 器 の機 能 を変 動 させ る こ とに よ っ て維 持 さ れ て い る.そ れ ら を全 体 と して モ ニ タ ー し,統 轄 して い るの が 脳 で あ る.全 身 エ ネ ル ギ ー代 謝 の ホ メ オ ス タ シス は臓 器 と脳,特
に視 床 下 部 と の 間 で 情 報 を交 換 す る こ とに よっ て 維 持 され て い る.
視 床 下 部 に は末 梢 か らの 信 号 を受 容 ・統 合 した後,適
切 に情 報 処 理 され た 新 た
な シ グ ナ ル を発 信 す る とい っ た 基 本 機 構 が 備 わ っ て い る.視 床 下 部 は脳 の 最 深 部 に位 置 し間 脳 の 腹 側 部 に存 在 し,そ こに はい くつ か の神 経 核 が あ り,位 置 な らび
図7.9 中 枢 神 経 と視 床 下 部 神 経 核 ・脳 下 垂 体 (引用 文 献3,p.3よ り引用)
に 機 能 の面 か ら 内側 と外 側 に大 別 す る こ とが で き る(図7.9).内
側 には後述す る
自律 神 経 機 能 や 内 分 泌 機 能 に 直接 関 わ る 諸 核 が 存 在 し,腹 内 側 核(VMH),室 核(PVH)な
どが エ ネ ル ギ ー消 費 に 関 与 す る.外
側(LH)に
す る 各 種 の 神 経 繊 維 と大 型 の 神 経 細 胞 か ら構 成 さ れ,エ
房
はこの部位 を通過
ネルギ ー貯蔵 に関与 す
る. b. 視 床 下 部 の 自律 神 経 機 能 と内 分 泌 機 能 1) 自律 神 経 機 能
自律 神 経 系 は交 感 神 経 系,副
交 感 神 経 系 か ら成 り立 っ て
お り,体 性 神 経 系 と並 ん で 末梢 と脳 をつ な ぐ神 経 情 報 経 路 と して 重 要 で あ り,そ の 上 位 中枢 は視 床 下 部 に あ る.VMHお
よ びPVHの
ニ ュ ー ロ ン か ら発 した 神 経
繊 維 は い くつ か の ニ ュー ロ ンを 介 し肝 臓 や 膵 臓,副
腎,脂 肪 組 織 な ど を交 感 神 経
性 に 支 配 す る(図7.10).一 系)を
方,LHの
ニ ュ ー ロ ン繊 維 は 迷 走 神 経(副
交感 神経
介 し内 臓 臓 器 に 分 布 す る.
2) 内 分 泌 機 能
視 床 下 部 は 直 下 の 脳 下 垂 体 と神 経 性 お よ び脈 管 性 に 繋 が っ
て お りそ の 内 分 泌 機 能 を 調 節 す る.そ の 全 容 を 図7.11に
示 す.さ
らに,視
床下
部 は,末 梢 血 中 ホ ル モ ンが 視 床 下 部 の 機 能 を抑 制 す る と い う フ ィ ー ドバ ッ ク制 御 の 中心 的 役 割 も担 う. こ の よ う に,視 床 下 部 は 自律 神 経 中枢,お
よ び 内 分 泌 中枢 と して 両 者 の機 能 を
巧 み に統 合 しな が ら全 身 エ ネ ル ギ ー 代 謝 の 調 節 に要 の 役 割 を演 じて い る.
図7.10 視 床 下 部 か ら 自律 神 経 系 へ の 経 路 VMH:腹
内 側 核,PVN:室
内 側 核,PAG:中
傍 核,LHA:外
脳 中 心 灰 白 質,RET:延
迷 走 神 経 背 側 核,IML:中 (引用 文献3,p.5よ
側 野,DMH:背 髄 網 様 体,DMV:
間質側核
り引 用)
c. 末 梢 エ ネ ル ギ ー代 謝 に お け る 直 接 的 な神 経 性 調 節 大 部 分 の臓 器 は交 感 神 経 と副 交 感 神 経 の 拮 抗 的 な二 重 支 配 を 受 け て い る が,そ の 比 率 は臓 器 に よ っ て異 な る.た
とえ ば,心 臓,胃
腸 に は両 神 経 が 豊 富 に分 布 す
る が,褐 色 脂 肪 組 織 や 脾 臓 な ど は交 感 神 経 が 主 に支 配 して い る.交 感 神 経 系 は主 に 緊 急 事 態 に 対 処 す る た め の 神 経 で あ り,ス
トレス,怒
りに応 じて 貯 蔵 エ ネ ル ギ
ー を動 員 して 闘 争 や 逃 亡 に 必 要 な運 動 器 官 に エ ネ ル ギ ー を供 給 す る.一 方,副
交
感 神 経 は 回復 過 程 あ る い は 休 息 時 に働 く神 経 で,胃 腸 機 能 の促 進,心 拍 減 少,血 圧 低 下 を伴 っ て エ ネ ル ギ ー の 節 約 と補 給 を助 け る.肝 臓,脂
肪 組 織,骨 格 筋 の 糖
図7.11 視 床 下 部 と下 垂体,全 身 内 分 泌 腺 との 関 係 ルチ コ ト ロ ピ ン放 出 ホ ル モ ン,TRH:チ ロ トロ ピ ン放 出 ホ ル モ ン,GRH:成
CRH:コ
出 ホ ル モ ン,GnRH:ゴ 刺 激 ホ ル モ ン,GH:成
ナ ド トロ ピ ン放 出 ホ ル モ ン,ACTH:副 長 ホ ル モ ン,FSH:卵
胞 刺 激 ホ ル モ ン,LH:黄
視 床 下 部 か ら下 垂 体 前 葉 に対 して は,図 示 した 以 外 に も,ソ
長 ホ ル モ ン放
腎 皮 質 刺 激 ホ ル モ ン,TSH:甲
状腺
体 化 ホ ルモ ン
マ トス タチ ン や ドー パ ミ ン,GnRH関
連 ペ プ チ ドが 作 用 して,各 種 ホ ル モ ン に対 して抑 制 的 に作 用 し た ソ プ ロ ラ クチ ン分 泌 を調 節 して い る.点 線 は神 経 経 路 を示 す. (引用 文 献2,p.7よ
り引 用)
な ら び に脂 肪 代 謝 に及 ぼ す 自律 神 経 の 直接 的 な 制 御 作 用 の 存 在 は 島 津 らの グ ル ー プ,坂
田 らの グ ル ー プ に よ っ て 証 明 さ れ て い る.こ れ らの研 究 の 一 部 を紹 介 した
い.
1) 肝 臓 に お け る神 経 性 調 節 VMH-交
嶋 津 らは 電 気 的 ・化 学 的 刺 激 実 験 に よ り,
感 神 経 系 が 興 奮 す る とホ ス ホ リラ ー ゼ が 活 性 化 され 肝 臓 の グ リ コー ゲ ン
分 解 が促 進 し,ま た グ ル コ ー ス ボ ス フ ァ タ ー ゼ を も活 性 化 させ て 糖 新 生 も促 進 さ せ た結 果,血
中 グル コ ー ス 濃 度 が 増 大 す る こ と,さ ら に は骨 格 筋 で の解 糖 が 亢 進
す る こ と を見 い だ した.一
方,LH-副
交 感 神 経 系 が 優 位 に な る と,上 述 した 機 構
が 抑 制 され る と同 時 に,グ
リ コ ー ゲ ン シ ン タ ーゼ が 活 性 化 さ れ グ リ コ ー ゲ ン蓄 積
が 進 む こ と も発 見 した.肝 臓 に お け る 神 経 性 グ ル コ ー ス 代 謝 調 節 を 図7.12に とめ た.こ
ま
う した 現 象 が 発 見 され る以 前 は,血 糖 値 の ホ メ オ ス タ シス は ホ ル モ ン
図7.12 肝 臓 にお け る エ ネ ル ギ ー 代 謝 の 神 経 性 調 節
作 用 に よる 調 節 が 主 流 で あ る と考 え られ て い た.そ
の た め,神
の 直 接 的 な 代 謝 調 節 作 用 の存 在 は見 過 ご され て い た.す
経系 に よ る臓 器へ
な わ ち,こ れ らの 研 究 結
果 は 画 期 的 な発 見 で あ っ た とい え よ う. 2) 肝 外 組 織 に お け る 神 経 性 調 節
嶋 津,斉
藤 ら は,脂 肪 代 謝,脂 肪 動 員,
つ ま り遊 離 脂 肪 酸 と グ リセ ロ ー ル の 血 中へ の放 出 に つ い て もVMH-交
感神 経系
の 直 接 的 作 用 が あ る こ とを発 見 した.交 感 神 経 が 豊 富 に分 布 す る 褐 色 脂 肪 に お い て も,脂 肪 分 解,熱
産 生 を直 接 活性 化 す る こ とが 見 い だ され た.さ
ら に,骨 格 筋
や心 筋,褐 色 脂 肪 にお け るグ ル コ ー ス の 取 込 み ・利 用 が 選 択 的 にVMHを
頂点 と
す る 交 感 神 経 を 直接 的 に介 して 著 し く促 進 す る と い う発 見 が な され た.グ
ルコー
ス取 込 み 上 昇 機 構 と して 細 胞 表 面 に存 在 す る β3受 容 体 を介 して い る と考 え られ て お り,ノ ル ア ドレ ナ リ ンの β3作 用 はGLUT4の な く,も
と も と細 胞 膜 上 に存 在 す るGLUT1の
細 胞 膜 へ の移 行 を促 す の で は グ ル コー ス 輸 送 活 性 を 高 め る こ と
に依 存 して い る こ とが 明 らか とな っ た. 脂 肪 細 胞 か ら分 泌 され 視 床 下 部 に 強 く作 用 し,生 体 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 に深 い 関 わ り を もつ レ プ チ ン(leptin)を
視 床 下 部 に投 与 して も 同様 に グ ル コー ス取
込 み が 上 昇 す る.こ の 結 果 か ら,レ プチ ンは 交 感 神 経 系 を活 性 化 して骨 格 筋,心
筋,褐 色 脂 肪 組 織 で の 糖 代 謝 を 亢進 させ て い る こ とが 明 らか と な っ た. 3) 交 感 神 経 系 を 介 した レプ チ ン に よ る 脂 肪 酸 酸 化 作 用
こ れ らの 知 見 に加
え て,最 近,箕 越 らは レ プ チ ンの 中枢 作 用 が 交 感 神 経 を 介 して 骨 格 筋(赤 筋)に お け る脂 肪 酸 の β酸 化 を 促 す こ と を明 らか に した.こ 達 に はAMPK(図7.4)が 筋 細 胞 内 のAMPKを 果,脂
関 与 して い る.レ プ チ ン は交 感 神 経 の α作 用 を介 して 活 性 化 し,リ
ン酸 化 に よ りACCを
肪 酸 酸 化 の 鍵 物 質 マ ロ ニ ルCoA含
起 こ され る.つ
の レ プ チ ンの シ グ ナ ル伝
不 活 性 化 さ せ る.そ の結
量 が 低 下 し,脂 肪 酸 酸 化 の 亢 進 が 引 き
ま り,レ プ チ ンの 中枢 作 用 は 交 感 神 経 系 を介 して骨 格 筋 に お け る
糖 代 謝 の み な らず,脂
肪 酸 の酸 化 も促 進 して 生 体 の エ ネ ル ギ ー 消 費 を活 発 に す る
働 き を営 む とい え る. 4) 交 感 神 経 系 を 介 し た脳 内 ヒ ス タ ミ ン ニ ュー ロ ン に よ る 脂 肪 代 謝 亢 進 作 用 坂 田,吉 松 ら は脳 内 ヒ ス タ ミ ン含 有 ニ ュ ー ロ ン に よ っ て エ ネル ギ ー 代 謝,特
に脂
質 代 謝 亢 進 作 用 を見 い だ して い る.後 部 視 床 下 部 の 結 節 乳 頭 核(TMN)に
局在
す る ヒ ス タ ミ ン神 経 系 は 脳 内 の ほ ぼ 全 域 に そ の 含 有 神 経 繊 維 を送 っ て お り,視 床 下 部 で はVMHやPVHに
密 な神 経 投 射 が 見 られ る.ヒ ス タ ミ ン ニ ュ ー ロ ン を 介
し た エ ネ ル ギ ー 代 謝 に は 二 つ の 作 用 が 見 られ る こ と が わ か っ て い る.一 VMH,
PVHへ
う一 つ は,PVH,
の 投 射 に よるH1受 DMHを
つ は,
容 体 を介 した 食 欲 抑 制 に 関 わ る 系 で あ る.も
介 し,交 感 神 経 賦 活 化 を 介 した 末 梢 で の エ ネ ル ギ ー消
費 を促 進 す る系 で あ り,内 臓 脂 肪 分 解 と褐 色 脂 肪 で の 脱 共 役 機 能 を 亢 進 させ る働 きが あ る.こ れ らの 結 果 は 視 床 下 部 内 へ の微 量 注 入 実 験,交 的 実 験,脂
感神経 の電気生理学
肪 組 織 か ら放 出 され る グ リ セ ロー ル を 測 定 す るin vivo microdialysis
法 を用 い た 実験 か ら明 らか に され て い る.さ
ら に,β 受 容 体 遮 断 薬 投 与 で こ れ ら
効 果 が 消 失 す る こ とが 示 され て お り,交 感神 経 系 の 関 与 を 強 く裏 付 け て い る.ヒ ス タ ミ ンニ ュ ー ロ ン の 賦 活 化 は脂 肪 分 解 作 用 の 亢 進 だ け で な く,脂 肪 合 成 の 抑 制 も引 き起 こ す こ と も見 い だ され て お り,こ れ らの 効 果 が 相 まっ て い る もの と考 え られ る. d. 末 梢 エ ネ ル ギ ー代 謝 にお け る 間 接 的 な 内分 泌 性 調 節 自律 神 経 とは 別 に,視 床 下 部 か らの 出力 は脳 下 垂 体 ホ ル モ ン に よ っ て,直 接 あ る い は下 位 の 内 分 泌 臓 器 を介 し て 間接 的 に 全 身 の臓 器 に伝 え られ る.け れ ど も, 視 床 下 部-下 垂 体-副 腎 皮 質 の よ う な 下 垂 体 ホ ル モ ンに よ る 系 とは 異 な り,副 腎
髄 質 や 膵臓 か らの ホ ル モ ン分 泌 は下 垂 体 ホ ル モ ンに よ る 支 配 は受 け な い.副 腎 髄 質 は 発 生 学 的 見 地 か らみ て も,進 化 過 程 上 で交 感 神 経 節 が 分 化 し た 組 織 で あ り, 自律 神経 機 能 の 一 部 で あ る.ま た 膵 臓 ラ 島細 胞 に は交 感 神 経,副 交 感 神 経 が 豊 富 に 支 配 して お りイ ンス リ ン,グ ル カ ゴ ンの ホ ル モ ン分 泌 調 節 に加 担 す る. 以 上 の よ う に視 床 下 部 か らの 自律 神 経 に よ る 出力 とホ ル モ ンに よ る 出力 は そ れ ぞ れ 個 別 に機 能 して い る の で は な く,互 い に ク ロ ス トー ク を行 い な が ら協 調 的 あ る い は拮 抗 的 に末 梢 の 標 的臓 器 を支 配 す る こ と に な る.
7.4 中 枢 神 経 系 に よ る 運 動 時 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 機 構 7.1節 で は,運 動 時 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 にお け る 末 梢 組 織 内 の 機 構 に つ い て 述 べ た が,決 定 的 な 調 節 機構 は現 在 ま で提 示 され て い な い.一 方7.3節 で は 中 枢 神 経 系 に よ る安 静 時 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 を中 心 に紹 介 した が,こ
れ らの 機 構 が
安 静 時 だ け で な く運 動 時 に も作 用 して い る こ と は十 分 に 想 定 で きる.し か しな が ら運 動 中 は 糖 質 と脂 肪 な どの 基 質 利 用 は ダ イナ ミ ック に 変 動 す る が,い ず れ の 機 構 も この エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 を満 足 に説 明 し え な い.中 枢 に は まだ ほか に も さ ま ざ まな エ ネル ギ ー 代 謝 調 節 機 構 を有 して い る可 能 性 が 高 い.そ
の一つの可能性 を
以 下 に示 す. a. 脳 内TGF-β Yamazakiら growth
に よ る 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節
は持 久 的 な 遊 泳 運 動 を課 した ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 でtransforming
factor(TGF)-β
と呼 ば れ る サ イ トカ イ ンの 活 性 が 上 昇 す る こ と,一 方,
安 静 状 態 の ラ ッ ト脳 内 にTGF-β
を投 与 す る と,運 動 時 と同 様 に 脂 肪 酸 酸 化 の 増
加 が 引 き起 こ さ れ(呼 気 ガ ス 分 析),肝
臓 の 脂 肪 分 解 の指 標 で あ る血 中 ケ トン体
が 上 昇 す る こ と を 見 い だ し た4).伏 木 らの グ ル ー プ は こ の研 究 を 発 展 させ,抗 に よ り脳 内TGF-β
の 作 用 を 阻 害 す る と トレ ッ ド ミル 運 動 中 の 脂 肪 燃 焼 が 抑 制 さ
れ る こ と を見 い だ した5).ま た,脳
内TGF-β
の 作 用 に 関 し,肝 臓 と骨 格 筋,脂
肪 組 織 の そ れ ぞ れ の 代 謝 を血 中 成 分 か ら解 析 した.ラ 腿 静 脈 合 流 位 の 下 大 静 脈 血(下 る)お
体
ッ トの 右 心 房 血,左 右 の 大
肢 筋 と脂 肪 組 織 の 静 脈 血 を反 映 す る と考 え られ
よび 肝 静 脈 血 か ら同 時 に採 血 し,右 心 房 血 と下 大 静 脈 血 との 差 は骨 格 筋 と
脂 肪 組織 を合 わせ た 基 質 の 動 態 を示 し,肝 静 脈 血 との 差 は肝 臓 で の 基 質 の動 態 を 示 して い る と考 えた.結
果,TGF-β
脳 内 投 与 群 に お い て,脂
肪組 織か らの遊離
脂 肪 酸 の 動 員 お よ び肝 臓 か らの ケ ト ン体 放 出 が 増 加 す る傾 向が 投 与 直 後 か らみ ら れ た.下
肢 筋 に電 気 刺 激 を加 え た 条 件(運 動 モ デ ル)と 比 較 す る と,刺 激 開 始 後
10分 以 降 に見 られ る 脂 肪 組 織 か ら の 脂 肪 酸 の 動 員 お よ び肝 臓 で の β酸 化 亢 進 に よ る ケ ト ン体 放 出 の 増 加 と類 似 した 変 化 で あ っ た.一 方 でTGF-β
投 与 に よ り血
糖 や 血 中乳 酸 と い っ た糖 質 パ ラ メ ー タ に 大 き な 変 化 は 見 られ な か っ た.さ TGF-β
投 与 に よ り,肝 臓,骨
格 筋 の マ ロニ ルCoAが
以 上 の 結 果 よ り,脳 内TGF-β
らに
低 下 す る こ と も わ か っ た.
は持 久 運 動 の 際 に脂 肪 組 織 の 脂 肪 酸 放 出 を亢 進 さ
せ る と と もに,肝 臓 に働 きか け ケ トン体 生 成 を促 進 し,骨 格 筋 をは じめ と した 肝 外 組 織 にエ ネ ル ギ ー 基 質 と して ケ トン体 を提 供 して い る と予 想 され た(図7.13). 肝 臓 にお け る ケ トン体 生 成 の 亢 進 が どの よ うな 意 味 を もつ か,も
う少 し詳 し く
述 べ る.肝 臓 は生 体 で 最 も強 い β 酸 化 活 性 を も っ て お り,大 量 の脂 肪 酸 が 取 り 込 ま れ て 酸 化 され る.し か し肝 細 胞 の ミ トコ ン ドリ アで は脂 肪 酸 は 完 全 分 解 され ず ア セ ト酢 酸 と して 血 中 に放 出 され る.ア れ β-ヒ ドロ キ シ酪 酸 に な り,と (図7.14).ア
セ ト酢 酸,β-ヒ
セ ト酢 酸 は 一 部NADH2に
よ り還 元 さ
もに 血 液 に溶 け て末 梢 に 運 搬 さ れ て 燃 料 と な る
ドロ キ シ 酪 酸,ア
セ ト ン(ア セ ト酢 酸 が 自 然 に脱
炭 酸 して 生 じる)の 三 つ の 化 合 物 が,生 化 学 で は ケ トン体 と呼 ば れ る が,ア セ ト ンは 尿 と呼 気 に排 出 され る.結 局 肝 臓 に お け るケ トン体 生 成 の 生 理 的 意 味 は脂 肪
図7.13 脳 内TGF-β
に よ る エ ネ ルギ ー代 謝 調 節 の 予 想 モ デ ル
図7.14 肝 臓 にお け る ケ ト ン体 の 生 成 HMG-CQA:3-ヒ
ドロキ シ-3-メ チ ル グル タ リ ルCoA
組 織 に燃 料 と して 蓄 え られ て い た脂 肪 を水 に溶 け や す く,非 常 に 燃 えや す い 形 に 転 化 して 末 梢 組 織 に 燃 料 と して 供 給 す る こ と で あ る と考 え られ る.運 動 中,生 体 の エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 の 中心 で あ る肝 臓 自身 は運 動 を直 接 認 識 す る こ とが で きな い.し
か し生 体 と して は肝 臓 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 を運 動 継 続 に 適 し た状 態 に 調
節 す る 必 要 が あ る は ず で あ る.こ の 作 用 は 既 知 の ホ ル モ ンで は該 当 し な い こ とか ら,骨 格 筋(運 ワ ー ク にTGF-β
動 の 開 始)→ 脳 → 肝 臓(肝
TGF-β
外 組 織 ヘ ケ トン体 提 供)を
結ぶネット
が介 在 して い る と考 え られ る.
は 脂 肪 代 謝 の み に作 用 を 与 え る こ とが 示 唆 され る が,現 在 ま で ホ ル モ
ンや 脳 内 の神 経 伝 達 物 質 の 中 で,脂
肪 代 謝 の み に影 響 を与 え る物 質 が ほ と ん ど報
告 さ れ て い な い 点 に は注 意 を 払 う必 要 が あ る.数 少 な い例 と してGunionら コ ル チ コ トロ ピ ン放 出 因 子(corticotropin-releasing
factor, CRF)を
は,
視 床下部腹
内側 核 に投 与 した 際,血 糖 に 影 響 を与 えず 血 中 遊 離 脂 肪 酸 濃 度 の み が 上 昇 す る こ と を報 告 した6).Bombesinと
呼 ば れ る ペ プ チ ドを 視 床 下 部 腹 内 側 核 に投 与 した
場 合 も 同様 の 変 化 を報 告 し て い る7).し か し どの よ う に脂 肪 代 謝 の み に作 用 を及 ぼ して い る の か は,既 知 の 生 理 機 構 か ら は推 定 しが た く,今 後 の 検 討 課題 で あ る. b. 運 動 と視 床 下部 機 能 視 床 下 部 は こ れ まで 述 べ て き た よ うな 自律 神 経,内
分 泌 の 高 次 中枢 で あ る だ け
で な く,摂 食,飲
眠 と覚 醒 の 高 次 中枢 で も あ
水,成 長,体
温 調 節,情
動 行 動,睡
り さ ま ざ ま な 機 能 を 有 し ホ メ オ ス タ シ ス を 維 持 し て い る.ま ど か ら も求 心 性 信 号 が 視 床 下 部 に送 られ て き てお る.生
た,活
動 筋 や臓 器 な
りホ メ オ ス タ シ ス に 貢 献 し て い
体 に と っ て 運 動 は ホ メ オ ス タ シ ス を 乱 す 外 的 因 子 で あ り,ス
惹 起 し て い る と 考 え ら れ る.運
動 時 に 増 大 す るエ ネ ル ギ ー代 謝 や 循 環 応 答 を促 進
す る ス ト レ ス 反 応 の 調 節 や 適 応 に,視 き る が,ま
床 下 部 は 重 要 な 役 割 を担 っ て い る と推 察 で
だ ま だ 不 明 な 点 が 多 く 残 さ れ て い る.運
研 究 は 少 な い が,い
動 と視 床 下 部 につ い て 調 べ た
く つ か の 報 告 を 紹 介 す る.Nishizawaら
壊 に よ り 運 動 時 の 血 中 遊 離 脂 肪 酸,グ し て い る8).ま
た,Scheurinkら
トレス 反 応 を
は 視 床 下 部VMH破
リセ ロー ル の 放 出 が 抑 制 され る こ と を報 告
は視 床 下 部 の
り 運 動 時 の 血 糖 上 昇 が 抑 制 さ れ る こ と,視
α-ア
ド レ ナ リ ン受 容 体 の 阻 害 に よ
床 下 部VMH,LHAの
β ア ドレナ リ ン
受 容 体 の 阻 害 に よ り運 動 時 の 血 糖 上 昇 お よ び 血 中 遊 離 脂 肪 酸 濃 度 上 昇 が 抑 制 さ れ る こ と を 見 い だ し て い る9).こ
れ ら の 知 見 は,視
床 下 部(特
に 交 感 神 経 系)が
運
動 時 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 へ 関 与 す る こ と を 示 し て い る. 引 用
文 献
1) 谷 口 正 子,大 野 秀 樹,谷 口 直 之 監 訳(1999)ス エ ン ス ・イ ン ター ナ シ ョナ ル 2) Felig P
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ポー ツ と トレー ニ ン グ の 生 化 学,メ
デ ィ カ ル ・サ イ
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参 考 勝田
茂 編 書(2000)運
動 生 理 学20講.第2版,朝
and peripheral adrenoceptors
J Physiol,255,R547-556.
文 献 倉書店
affect glu
島 津 孝(1999)脳 田 川 邦 夫(2003),か
の 中 の視 床 下 部,ブ レー ン出 版 らだ の生 化 学,タ カ ラ バ イ オ
田 川 邦 夫(2003),か
らだ の働 き か らみ る代 謝 の 栄養 学,タ
中 野 昭 一 編 集(1999)ス
ポ ー ツ医 科 学,杏
宮 村 実 晴 編 集(2001)新
運 動 生 理 学,真
林書院
興交易医書出版部
カ ラバ イ オ
8.運
動 と 食 品
8.1 自律 神 経 と は 生 体 の 基 本 的 な 機 能 で あ る,循 環,呼
吸,体 温 維 持,消
な ど を 自律 機 能 と呼 ぶ.自 律 神 経 は,平 滑 筋,心 筋,腺
化,代 謝,排
節 し,生 体 の恒 常 性(ホ
泄,生
殖
を支 配 して 自律 機 能 を調
メ オ ス タ シ ス)維 持 に重 要 な役 割 を果 た して い る.自 律
神 経 系 は交 感 神 経 系 お よ び副 交 感 神 経 系 か ら構 成 され て い る.交 感 神 経 は胸 腰 髄 の 側柱 よ り起 始 す る ネ ッ トワー ク を形 成 し,一 方,副
交 感 神 経 は脳 幹 お よ び 仙 髄
側 柱 か ら は じ まる ネ ッ トワー ク を形 づ くって い る.こ れ らの 自律 神 経 末 梢 路 に対 す る 上 位 中 枢 は延 髄 お よ び 視 床 下 部 で あ り,生 体 外 部 お よ び 内 部 環境 の情 報 は, 自律 神 経 の 中枢 レベ ル で統 合 され た の ち 自律 神 経 遠心 路 を介 して各 器 官 に伝 え ら れ る. 生 体 にお け る 自律 機能 は通 常,高 位 中 枢(視 床 下部,大 ど)の 統 合 的 な 制 御 下 で,自 律 神 経 系,内
脳 皮 質,大 脳 辺 縁 系 な
分 泌 系,体 性 神 経 系 の協 調 的 な作 用 に
よ っ て調 節 さ れ て い る.以 上 の 神 経-内 分 泌 系 は,免 疫 系 と も密 接 な 関 連 を 有 し て い る. 心 臓,胃
腸,肺
な ど多 くの 内 臓 器 官 は交 感 神 経 と副 交 感 神 経 の 二 重 支 配 を受 け
て い る.一 般 に 同 一 器 官 に対 す る 交 感 ・副 交 感 神 経 の 作 用 は相 反 的 で あ り,こ れ を拮 抗 支 配 と呼 ぶ.た
とえ ば 腸 管 の 運 動 や 消 化 液 の 分 泌 は,交 感神 経 に よ っ て抑
制 され,副 交 感 神 経 に よ っ て促 進 さ れ る.た だ し,器 官 に よ っ て は 必 ず し も拮 抗 的 で な い もの もあ る.た 泌 を促 進 す る.つ
とえ ば,唾
液 腺 に対 す る 交 感,副 交 感 系 は と もに 唾 液 分
ま り,両 神 経 系 は 必 ず し も拮 抗 的 で は ない こ と もあ るが,相
伴
っ て合 目的 活 動 を 遂 行 して い る と考 え られ る1). a. 自律 神 経 と循 環 調 節 自律 神 経 に よる 循 環 調 節 は 心 臓 と脈 官 系 調 節 に 分 け られ,心 臓 は 心 拍 出 量(毎
分 当 た りの 総 血 液 排 出量)を,脈
官系 は血 管 径 ま た は 抵 抗 を調 節 す る.心 臓 は 交
感,副 交 感 神 経 で 調 節 され るが,脈
官 系 調 節 は交 感 神 経 が 中心 で,ほ
とん どす べ
て の 血 管 径 の調 節 に携 わ っ て い る. 一 方,安 静 時 の 筋 支 配 交 感 神 経 活 動 の 最 も重 要 な働 き は血 圧 調 節 で あ る.筋 交 感 神 経 活 動 は動 脈 圧 受 容 器 か ら強 力 な 抑 制 入 力 を受 け,血 圧 が 低 下 す る と活 動 が 活 発 に な り,血 圧 が 上 昇 す る と抑 制 して 血 管 径 を調 節 して 安 静 時 の 血 圧 を一 定 に 保 つ よ う に働 く.こ の調 節 機 能 は運 動 時 で も効 果 的 に作 動 す る.心 臓 で は心 拍 数 が 約100拍/分
前 後 に な る ま で は 心 臓 副 交 感 神 経 活 動 の退 縮(減
衰)が,そ
の 後,
最 大 運 動 時 まで は 心 臓 交 感 神 経 活 動 の亢 進 に よ り心 拍 数 が 増 加 す る. 安 静 時 の 腎 臓 に は,腎 組 織 の 生 存 に 必 要 な血 流 量 以 上 に多 量 の 血 液 が 流 れ,心 拍 出量 の 約20%に
も及 ぶ2).
b. 心 臓 自律 神 経 心 臓 に 分 布 す る 自律 神 経 は,心 臓 交 感 神 経 と心 臓 副 交 感 神 経(迷
走神経の心臓
枝)と
臓 副交感神経
呼 ば れ る,相 反 した 影響 を与 え る神 経 か らな る(図8.1).心
を電 気 刺 激 す る と洞 房 結 節 に あ るペ ー ス メ ー カ ー細 胞 の興 奮 周 期 や 洞 室 伝 導 時 間 の 遅 延 を 引 き起 こ し心 拍 数 は 低 下 す る が,心
室 収 縮 力 に は あ ま り影 響 を 与 え な
図8.1 心臓 自律神経 の作用分布
い.一 方,心
臓 交 感 神 経 刺 激 は ペ ー ス メ ー カー 細 胞 の興 奮 周 期 の 短 縮,房
を介 す る房 室 伝 導 時 間 の 短 縮 従 来,ヒ
お よび 心 室 収 縮 力 を増 加 させ る.
トの 心 臓 交 感 神 経 活 動 は 心 電 図R-R間
ル ア ド レナ リ ンの ス ピル オ ー バ(spillover)や さ れ て きた.ま
室結節
隔 変 動 の0.1Hz成
分,心 臓 ノ
筋 交 感 神 経 活 動 か ら間 接 的 に推 測
た,心 臓 副 交 感 神 経 活 動 は 呼 吸 性 不 整 脈 の 大 き さ やR-R間
動 の 呼 吸 成 分 か ら推 測 され て き たが,い
隔変
ず れ の方 法 も適 応 限 界 や 問 題 点 を含 む.
8.2 自律 神 経 活 動 測 定 法 a. 心 拍 変 動 パ ワ ー ス ペ ク トル 解 析 1) 心 臓 は超 働 き者
人 の心 臓 は肺 か ら取 り入 れ た 酸 素 と血 液 にあ る栄 養 を
60兆 個 以 上 もあ る と い わ れ る体 の 細 胞 の 隅 々 に運 ん で い る.こ の た め に心 臓 は1 日 に約10万
回 近 く も収 縮 し,雨 の 日 も風 の 日 も,1日
き続 け て い る の で あ る.安 静 時 の心 拍 数 が70拍/分 10万 回 を超 え る.心 臓 が1回 脈 打 つ と約70ccの 出 さ れ る.つ l,24時
ま り,心 臓 は1分
間 で は7200l,実
に1ト
間 に約5lの
た り と も休 む こ とな く働
とす る と,1日
の総 心 拍 数 は
血 液 が心 臓 ポ ン プ か ら動 脈 に排
血 液 を排 出 して お り,1時
ン ト ラ ッ ク7台
間 で300
分 の 重 量 物 を 運 ぶ こ と に な る.
前 述 した よ う に,こ の 心臓 ポ ン プの リズ ム(心 拍 変 動)を 調 整 し て い る の が 自律 神 経 で あ る.心 臓 の 拍 動 の リズ ム,す
な わ ち心 臓 洞 房 結 節 の リ ズ ム の解 析 に よ る
神 経 性 循 環 調 節 機 能 の分 析 は,冠 動 脈 疾 患,心 不 全,不 整 脈,高
図8.2 自律 神 経 活 動 を心 電 図 で評 価 す る 健 康 な 人 の 心 拍 数 に は,"ゆ ら ぎ"が あ る.病 気 の 人 は"ゆ ら ぎ"が 少 な い.
血 圧 症 な どの 心
血 管 系 疾 患 の 病 態 に対 す る 新 しい ア プ ロー チ と して 現 在,注
目 を集 め て い る.特
に 心 臓 副 交 感 神 経 機 能 の 非 浸 襲 的 評 価 が 可 能 な 心 拍 変 動 スペ ク トル解 析 に よ り, 副 交 感 神 経 機 能 低 下 が 冠 動 脈 性 心 疾 患 や 突 然 死 の重 要 な 危 険 因子 で あ る こ とが 明 らか に な っ て い る3,4). 2) 脈 拍 リズ ム に よ る 自律 神 経 評 価 ⅰ) 心 拍 変 動 パ ワ ー スペ ク トル 解 析
心 拍 変 動 に よ る 自律 神 経 機 能 評 価 の原
理 は,交 感 神 経 お よ び副 交 感 神 経 機 能 が そ れ ぞ れ特 定 の 周 波 数 帯 域 の 心 拍 変 動 に 反 映 さ れ る こ と に基 づ い て い る.心 拍 変 動(心 ス ペ ク トル に は低 周 波 帯(0.03∼0.15Hz)と が 見 られ,そ HF成
れ ぞ れLF成
分,HF成
電 図R-R間
隔)の 周 波 数 パ ワ ー
高 周 波 帯(0.15∼0.4
分 と呼 ば れ て い る(図8.3参
Hz)に
ピーク
照).
分 は 呼 吸 に よ っ て 生 じ る心 拍 の ゆ ら ぎ で 心 臓 副 交 感 神 経 よ っ て 媒 介 さ
れ,そ の 振 幅 値 は 心 臓 副 交 感神 経 活 動 を 反 映 す る こ とが 動 物 実 験 で の 神 経 節 切 除 の 実 験 結 果 か ら明 らか に な っ て い る.一 方,LF成 動 の 両 者 が 反 映 され るが,Akselrod
et al.(1981)や
分 は交 感 神 経 と副 交 感 神 経 活 森 谷 ら(1997)は,血
圧調
節 が この ス ペ ク トル 帯 域 で 行 わ れ て い る可 能 性 を示 唆 して い る5,6). 筆 者 らは,交 (心拍 変 動)の
感 神 経 ・副 交 感 神 経 の 両 神 経 支 配 を 受 け て い る 洞 結 節 の リズ ム ス ペ ク トル解 析 に よ り,交 感 ・副 交 感 神 経 活 動 の 弁 別 定 量 化 が 可
能 で あ る か ど うか につ い て,健 常 者 に薬 理 ブ ロ ッ ク を用 い 検 証 した7).安 静 時 で
図8.3 心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル解 析
は 副 交 感 神 経 活 動 を 反 映 して い る 高 周 波 成 分(HF)が (0.25Hz,15回/分)ス
ペ ク トル に 現 れ る が,副
atropine静 注 後(0.04mg/kg)で
呼 吸 と ほ ぼ 同 期 して 交 感神 経 の 遮 断 剤 で あ る
は,心 拍 数 が 安 静 時 心 拍 数 よ り30∼40拍
近く
も上 昇 し,高 周 波 成 分 が ほ ぼ完 全 に 消 滅 した.交 感 ・副 交 感神 経 活 動 を反 映 す る 低 周 波 成 分(LF)も
か な り減 少 す る こ と が 明 らか に な っ た. Atropineと
経 遮 断 剤(propranolol
0.2mg/kg)の
交 感神
両 神 経 薬 理 ブ ロ ッ ク で は,心 拍 変 動 は ほ ぼ
完 全 に消 滅 し,安 静 横 臥 か ら直 立 姿 勢 に変 化 して も ほ とん どス ペ ク トル は変 化 を 示 さ な か っ た.こ
の 時 点 で は心 拍 変 動 係 数(CV)は
安 静 コ ン トロ ー ル 時 と比 較
して 劇 的 に低 下 して お り,糖 尿 病 性 自律 神 経 障害 の 顕 著 な 患 者 に酷 似 した ス ペ ク トル を呈 す る. 現 在,LFお るVLF成
よ びHF成
分 に 加 え,交 感 神 経 系 体 温 ・熱 産 生 調 節 機 構 に 関 与 す
分(0.007∼0.035Hz)を
特 定 す る こ とが 可 能 な,よ
り精 度 の 高 い 手 法
を 開 発 し,各 種 の 肥 満 関 連 遺 伝 子 多 型 と 自律 神 経 活 動 動 態 の 関 連 や,運
動の抗圧
効 果,肥 満 発 症 メ カ ニ ズ ム な どの解 明 に応 用 して い る7∼11). 図8.4は 安 静 時 心 電 図 を4分 間連 続 図 記 録 した ス ポ ー ツ選 手 と 自律 神 経 障 害 の
図8.4 心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル
あ る糖 尿 病 患 者 の 心 拍 変 動 ス ペ ク トル の 典 型 例 で あ る.図 の 上 段 は4分 間 の 心 拍 の 加 速,減
速 の 大 き さ(心 電 図R-R間
隔)を
表 す も の で あ る.こ
の患 者 は 特 に
心 臓 の 電 気 的 安 定 性 を 維 持 す る副 交 感 神 経 の 顕 著 な低 下 が 認 め られ,自 宅 で 心 臓 突 然 死 で 亡 くな られ て い る. 筆 者 らは心 拍 変 動 パ ワ ー スペ ク トル 解 析 の 臨 床 応 用 を 目指 す た め,同 年 齢 の健 常 者,3群 害,(3)起
の 糖 尿 病 患 者((1)神
経 障 害 の な い 初 期2型
糖 尿 病,(2)末
立 性 低 血 圧 を 訴 え る重 度 な 自律 神 経 障 害),虚
梢 神経 障
血 性 心 疾 患 患 者 を対 象
に 心 臓 自律 神 経 活 動 動 態 と心 筋 脱 分 極 ・再 分 極 時 間(recovery
time, RT),お
び 心 臓 突 然 死 の 致 死 性 不 整 脈 の 発 現 リス ク の 一 つ で あ る心 電 図Q-T間
よ
隔時 間の
詳 細 な検 討 を行 っ た6,12∼16). そ の 結 果,糖
尿 病 性 自律 神 経 障 害 の 重 症 度 に伴 い 総 自律 神 経 活 動 を 反 映 す る ト
ー タル パ ワ ー の 有 意 な減 衰 ,心 筋 脱 分 極 ・再 分 極 時 間 お よびQ-T間 延 が 認 め ら れ た.核
医 学 で用 い られ るMIBG心
隔時 間の遅
筋 シ ンチ グ ラ フ ィ ー で 冠 動 脈 狭
窄 や 血 液 拡 散 能 の 著 減 が 認 め られ る 虚 血 性 心 疾 患 患 者 で は,健 常 者 の 完 全 薬 理 ブ ロ ッ ク に酷 似 した心 拍 変 動 ス ペ ク トル を呈 す る こ と も 明 らか と な っ た16).最 近 で は女 性 の 更 年 期 障 害 や 月 経 前 症 候 群 の 発 現 に 関 す る 自律 神 経 活 動 動 態 と不 定 愁 訴 の解 明 に も この 心 拍 変 動 ス ペ ク トル 解 析 が 用 い られ て い る17∼19). ⅱ) トー ン ・エ ン トロ ピー 解 析
心 臓 自律 神 経 活 動 を 評 価 す る方 法 は前 述
した 心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル 解 析 が よ く用 い られ るが,よ 列 解 析 法 もあ る.こ
り簡便 な心 拍 の 時系
こ で は 最 近 特 に注 目 を浴 び て きた トー ン ・エ ン トロ ピ ー解 析
につ い て 述 べ る.筆 者 らが 開 発 した この 方 法 論 に 関 す る詳 細 は 既 報 に譲 り,こ こ で は概 略 を述 べ る20∼23). 筆 者 らが 着 目 した の は,心 拍 数 の 制 御 は加 速(acceleration),減 tion)の
速(decelera
二 つ の 基 本 的 な コ ン トロ ー ル に 依 っ て い る とい う絶 対 的 な 事 実 で あ る.
心 拍 数 を心 周 期 で 表 す と,心 拍 数 が増 加 す る と き心 周 期 は短 くな り,逆 に 心 拍 数 が 減 少 す る と き に心 周 期 は 遅 延 す る.そ
こで 連 続 す る 心 周 期 の 差 を計 算 す る と,
心 拍 数 増 加 時 に は差 は 正 の 値 とな り,心 拍 数 減 少 時 に は 差 は負 の 値 に な る.し か しな が ら,心 周 期 は 心 拍 数 に よ り大 き く影 響 を受 け る.た 分 で は,そ の 周 期 は1000ミ
リ秒,心 拍 数120拍/分
とえ ば心 拍 数 が60拍/
で は500ミ
り,連 続 す る2拍 の 心 周 期 の 差 を絶 対 値 で 用 い た場 合,異
リ秒 に な る.つ
ま
な る 心 拍 数 を有 す る対
象(鍛
錬 者 ・非 鍛 錬 者,健 常 者 ・患 者,ヒ
トと実 験 動 物 な ど)に 対 して,過 小 あ
る い は過 大 評 価 を強 い る こ とに な る.実 際,動
物 実 験 で は異 な る 心 拍 数 の 比 較 に
は 百 分 率 が使 用 さ れ て い る24).そ こで,筆 者 ら は こ の差 を 心 周 期 に 対 す る 百 分 率 (percentage index,PI)で
表 現 し,次 の通 り評 価 を行 っ た20).
一 定 の 時 間,心 電 図 を連 続 記 録 す る と心 周 期 デ ー タ は時 系 列,H(n)の られ る.百 分 率 指 数PI(n)は
次 式 で求 め られ る.
PI(n)=[H(n)−H(n+1)]・100/H(n) こ こでnは
心 拍 の シ リ ア ル 番 号,Nは
す れ ばPI>0,減
形 で得
速 す れ ばPI<0で
1〓n〓N−1
最 大 番 号 で あ る.こ の 式 か ら心 拍 が 加 速
表 現 さ れ る.卜 ー ン(tone)は
百分率 指数 時
系 列 の算 術 平 均 と して計 算 さ れ る.
つ ま り,ト
ー ン は 心 拍 の 加 速-減
次 に エ ン トロ ピ ー(entropy)で し た も の で あ る25).ま が 整 数 値iを
速 の 相 対 的 強 度 を示 す . あ る が,こ
ずPI(n)か
も つ{i〓PI(n)
れ は シ ャ ノ ンの 情 報 理 論 か ら導 入
ら確 率 分 布 を 計 算 す る.す 数 と し,確 た だ し
こ の 確 率 分 布 に 対 し,エ
単 位 は ビ ッ ト(bit)で
率p(i)を
な わ ち,fiをPI(n) 計算 する.
ン トロ ピ ー は 次 式 で 計 算 さ れ る .
あ り,心 臓 自 律 神 経 活 動 に よ りも た ら さ れ た 心 拍 加 速 ・
減 速 の 強 度(情 報 量)と
して 捉 え る こ とが で きる.こ
こで,も
しあ る一 定 期 間の
心 拍 加 速 ・減 速 が と も に 一 定 率 だ け で 制 御 さ れ た と した ら,そ の加 速 ・減 速 の 確 率 は50%,つ は この,エ
ま り0.5と な り,エ ン トロ ピ ー は1ビ ン トロ ピ ー は4ビ
ッ ト近 くに な り,24,つ
ッ トと な る.健 康 な大 学 生 で ま り16種 類 の 加 速 ・減 速
の 調 節 を行 な う情 報 量 を心 臓 は 受 け 取 っ て い る こ と に な る. 具 体 的 に トー ン ・エ ン ト ロ ピ ー 解 析 の 説 明 と妥 当 性 を検 討 して み る こ と に す る.図8.520)は,安
静 時 コ ン トロ ー ル お よ び 交 感 ・副 交感 神 経 の 薬 理 ブ ロ ッ ク に
お け る心 拍 変 動 を表 した もの で あ る.こ リ秒)時
系 列,下
の 図 で は 上 段 に は心 周 期(R-R間
段 に は 連 続 す る心 周 期 の差(心 拍 の 加 速 ・減 速 時 間(ミ
を 絶 対 値 で示 して あ る.仮
隔 ,ミ リ秒))
に毎 分 ご との 心 拍 数 が 一 定 であ れ ば,心 拍 加 速 ・減 速
の 総 和 は 当然 ゼ ロ に な る.し か し,百 分 率 指 数 で 表 す とゼ ロ に は な ら な い.具 体
図8.5 安 静 時,交 化(上
感 神 経 お よ び 交 感 ・副 交 感 神 経 薬 理 ブ ロ ッ ク時 のR-R間
段)と
毎 拍 ご とのR-R間
隔の時系列変
隔 の加 速 ・減 速 の 時 間差20)
的 に 示 して み よ う. 心 拍 数 が60,75,80拍/分 心 周 期(R-R間
隔)時
と加 速 し,そ
の 後 に75,60拍/分
系 列 は1000,800,750,800,1000ミ
に 減 速 し た 場 合, リ 秒 に な り,そ
対 的 差 の 総 和 は(1000−800)+(800−750)+(750−800)+(800−1000)は ロ に な る.こ
こ で 百 分 率 指 数(PI)を
の絶 当然 ゼ
計算す る と
(1000−800)/1000+(800−750)/800+(750−800)/750+(800−1000)/800
し た が っ てPIの
総 和 は.20+0.0625+(−0.0666)+(−0.25)と
が 負 の 値(−0.054)に の ほ う が,心
な る.つ
ま り,呼
な りわ ず か で あ る
吸 性 不 整 脈 に よ り心 拍 が 加 速 す る場 合
拍 が 減 速 し て い く 場 合 よ り も 分 母 が 大 き い.そ
れ ゆ え に,1分
間の
心 拍 数 が 一 定 で あ っ て も,瞬
時,瞬
ばPIは
総 和 を計 測 時 間 内 の 心 拍 変 動 回 数 で 除 して 求 め られ
変 化 す る.こ
のPIの
時 の 心 拍 加 速 ・減 速 の 相 対 的 占 有 率 が 異 な れ
る トー ン は 心 拍 加 速 ・減 速 の 平 均 的 バ ラ ン ス を 表 す 指 標 と し て 捉 え る こ と が で き る20,22). こ こ で 図8.5を
再 度 見 て み る と安 静 時 の 心 拍 の 揺 ら ぎ は 交 感 神 経 の 薬 理 ブ ロ ッ
ク で 大 き く な り,引
き続 く副 交 感 神 経 の 薬 理 ブ ロ ッ ク で は ほ ぼ 完 全 に 消 滅 し て い
図8.6 安 静 時 のR-R間
隔 と百 分 率 指 数(上
段)お
図8.7 交 感 神 経 の薬 理 ブ ロ ッ ク時 のR-R間 確 率度数分布
よ び そ の 確 率 度 数 分 布(下
隔 と百 分 率 指 数(上
段)と
段)
その
る.図8.6は
安 静 時 コ ン トロ ー ル,図8.7は
ク時 の心 拍 変 動(上
段:心
周 期R-R間
同一 被 験 者 の 交 感 神 経 の 薬 理 ブ ロ ッ
隔),百
分 率 指 数(中 段:PI)お
よ び百 分
率 指 数 の 時 系 列 デ ー タ か ら求 め た 心 拍 加 速 ・減 速 の 確 立 度 数 分 布(下
段)を
す.つ
に心 拍 が
2%加
ま り,心 拍 が1%加 速 した 確 率,ま
速 し た 確 率,ま
た は2%減
た は1%減
速 した 確 率,次
示
速 し た確 率 … とい う よ う に順 次 計 算 し,そ の確
率 分 布 か ら心 拍 加 速 ・減 速 の 心 臓 自律 神 経 調 節 の た め の情 報 量 と して の エ ン トロ ピ ー を 求 め る こ とが で き る.こ
こで 特 記 す べ き点 は,心 拍 変 動 は必 ず し も平 均 心
拍 数 を 中 心 に正 規 分 布 し な い こ とで あ る.糖 尿 病 な どの 臨 床 検 査 で 一 般 的 に用 い ら れ て い るCVrr(心
拍 変 動 係 数)は
心 拍 変 動(R-R間
隔)の
標 準 偏 差 を平 均 値
で 除 して 求 め る が,こ れ は あ く まで も心 拍 変 動 が ガ ウ ス 分 布 を示 す 条 件 下 の み で あ り,理 論 的 に は不 適切 で あ る か も しれ な い.そ
れ ゆ え に,心 拍 加 速 ・減 速 を独
立 した確 率 分 布 と して捉 え る トー ン ・エ ン トロ ピ ー は ガ ウス 分 布 を 必 要 と しな い の で,よ
り適 切 な解 析 法 と い え る か も しれ な い.
図8.822)は 健 常 者8名
の薬 理 ブ ロ ッ ク実 験 に よ り求 め られ た トー ン とエ ン トロ
ピ ー を 二 次 元 の座 標 空 間 で 示 した もの で あ る.図 中 の 長 方 形 は平 均 値 ±標 準 誤 差 を 表 す.安 (P)(図8.7参
静 時(C)で 照)に
は,ト よ り,さ
り,交 感 神 経 が 遮 断 され,副
ー ン は 負 の 値 で あ り,交 感 神 経 の 薬 理 ブ ロ ッ ク ら に大 き く負 側 に移 行 して い る の が わ か る.つ
交 感 神 経 活 動 が 相 対 的 に 亢 進 した状 態 で は,低
図8.8 安 静 時,交 感 神 経 ブ ロ ッ クお よび 交 感 ・副 交 感 両神 経 ブ ロ ック 時 に お け る トー ン ・エ ン トロ ピ ー の 変 化22) 長 方形 は標 準 誤 差 を示 す.
ま く安
定 し た心 拍 数 を維 持 し なが ら心 拍 減 速 が 優 勢 で あ る こ と を示 して い る.換 言 す れ ば,ト
ー ンは 交 感 ・副 交 感 神 経 活 動 の バ ラ ンス を反 映 して お り,相 対 的 に 副 交 感
神 経 活 動 が 亢 進 す れ ば,よ の 薬 理 ブ ロ ッ ク(P+A)で
り大 きな負 の 値 に な る.そ
の後 の 交 感 ・副 交 感 両 神 経
は,心 拍 加 速 ・減 速 は消 滅 して トー ン は ほ ぼ ゼ ロ に
な る. 一 方,エ
ン トロ ピ ー は 交 感 神 経 遮 断(P)に
よ り増 大 す る が,こ
経 の 顕 著 な 亢 進 に よ り惹 起 され る と考 え られ る.交 (P+A)で
は,エ
ン トロ ピー は 約4か
こ れ らの 結 果 か ら,ト
ー ン,す
感 ・副 交 感 の 両 神 経 遮 断
ら1.5ビ ッ ト近 くに まで 著 減 す る.
な わ ち心 拍 加 速 ・減 速 の 相 対 的 強 度 は心 臓 交
感 ・副 交 感 神 経 活 動 の バ ラ ンス を 表 し,エ 量,す
れは副交感神
ン トロ ピ ー は心 拍 加 速 ・減 速 の 情 報
な わ ち,総 心 臓 自律 神 経 活 動 の 活 動 量 を 反 映 す る こ とが 示 唆 され る.以 上
の 結 果 は,各 種 の生 理 学 的 条 件 下(薬 理 ブ ロ ッ ク,運 動 負 荷 試 験,姿 勢 制 御,糖 尿 病 性 自律 神 経 障害)で
の 実 験 で も支 持 さ れ て い る20∼23,26).
ち な み に心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル 解 析 は ヒ トの 心 拍 数 よ り も数 十 倍 も多 い ラ ッ トや モ ル モ ッ トで も可 能 で あ る が27),同 一 ス ケ ー ル で比 較 検 討 す る こ とは む ず か しい.ま
た,後 述 す る が,運 動 中 の 心拍 変 動 パ ワー スペ ク トル は副 交 感 神 経 の
減 衰 に よ り,心 拍 変 動 が 極 度 に 小 さ くな り,SN比(signal-to-noise
ratio)の 悪
化 に よ り正 確 な心 臓 自律 神 経 活 動 の 評 価 が き わ め て 困 難 に な る.ト ー ン ・エ ン ト ロ ピ ー解 析 で は心 拍 数 の 個 人 差,動 物 との 個 体 差 や刻 々 と変 わ る運 動 中 の変 化 で も,心 拍 変 動 を百 分 率 で正 規化 す るた め,問 題 な く解 析 が 可 能 で あ る(未 発 表 デ ー タ) .今 後,ヒ
ト自律 神 経 活 動 の絶 対 評 価 や 実 験 動 物 と の比 較 検 討 が で き るユ
ニバ ー サ ル な ス ケ ー ル に な り うる 可 能 性 が 示 唆 され る . 図8.922)は,ま さ に こ の 可 能 性 を 支 持 す るデ ー タ で,健 常 男 性(N=142,30 ∼69歳)に お け る加 齢 と 自律 神 経 活 動 の 関連 を 明 らか に す る た め に ,ト ー ン ・ エ ン トロ ピ ー値 を二 次 元 座 標 空 間 に プ ロ ッ トした も の で あ る.比 較 検 討 す るた め に,前 述 の 薬 理 ブ ロ ック の デ ー タ も同 一 座 標 空 間 に示 して い る.142名 デ ー タ は小 さ い黒 ド ッ トで,ま
た30,40,50,60歳
の個 人 の
台 の平 均 値 も標 準 誤 差 と と
も に長 方 形 で 表 して い る.興 味 深 い こ と に,す べ て の 被 験 者 の トー ン ・エ ン トロ ピー 値 は,健 常 者 の 薬 理 ブ ロ ック に お け る軌 跡 を た ど り,加 齢 と共 に交 感 ・副 交 感 両 神 経 の 薬 理 ブ ロ ック(P+A)に
近 づ くのが 確 認 で きる22).
図8.9 加 齢 に よ る 自律 神 経 活 動 の 低 下 は薬 理 ブ ロ ック の デ ー タ と同 じ軌 跡 を た ど る22)
8.3 肥 満 ・糖 尿 病 と 自律 神 経 脂 肪 に 対 す る イ メ ー ジ か らか 脂 肪 細 胞 は 不 活 発 な"末 梢 の奴 隷"と の 見 方 が 一 般 的 で あ っ た.し して,自
か し,"脂 肪 細 胞 は 生 体 全 体 の エ ネ ル ギ ー 備 蓄 バ ラ ンス の要 と
ら の 指 令 を 中 枢 に発 信 し,き わ め て 活 発 に 生 命 活 動 に 関 与 して い る こ
と"が わ か りは じめ て きた.人 間 の 脂 肪 細 胞 は,太 質 を 出 して,"太
って くる と レプ チ ン と い う物
りす ぎて い ます よ"と 肥 満 遺 伝 子 が 発 現 す る よ う に な っ て い る.
適 度 な体 脂 肪 量 を維 持 し,一 定 の 体 重 を保 つ 仕 組 み とそ の破 綻 と して の 肥 満 の遺 伝 的 要 因解 明 は,分 子 遺 伝 学 的 手 法 を駆 使 し た最 近 の研 究 に よ って 著 し く進 展 し た.図8.10は
そ の 大 筋 を ま とめ た もの で あ る.白 色 脂 肪 組 織 に脂 肪 が 蓄 積 す る
と脂 肪 細 胞 か ら レ プ チ ン(肥 満 遺 伝 子:OBタ :Leptos=痩 せ る が 語 源)が
内 分 泌 され,大
ンパ ク と も 呼 ば れ る.ラ
脳 の 視 床 下 部 の 交 感 中枢(満
テ ン語 腹 中 枢)
の神 経 細 胞 膜 に存 在 す る レプ チ ン受 容 体 に 結 合 して細 胞 を活 性 化 す る.交 感 神 経 活 性 の 上 昇 は 副 交 感 中枢(摂
食 中 枢)を
抑 制 して 摂 食 を抑 え る と と も に,β3-ア
ドレナ リ ン受 容 体 を 介 して 白色 脂 肪 組 織(特 肪 組 織 か らの 熱 放 散(脱
に 内臓 型)か
共 役 タ ンパ ク質(UCP1):ミ
ン酸 化 を脱 共 役 させ,ATPを
合 成 せ ず に,エ
らの脂 肪 動 員 と褐 色 脂
トコ ン ドリア で の 酸 化 的 リ
ネ ル ギ ー を熱 と して 放 散 す る タ ン
パ ク 質 フ ァ ミ リ ー の ひ とつ)を 促 進 し,こ れ らの 総 合 効 果 に よ っ て 脂 防 の過 剰 蓄
図8.10 体 重調 節 に お け る 自律 神 経 の 役 割
積 を 防 ぐ もの と考 え られ て い る.つ
ま り,自 律神 経 は,食 欲 や エ ネ ル ギ ー 代 謝 の
調 節 に 関 わ り,生 体 の 体 重 を一 定 範 囲 に保 つ う えで も重 要 な 役 割 を 果 た して い る の で あ る. Bray(1990)に sympathetic
よ り提 唱 され たMONA LISA(most
obesities known
are low in
activity)仮 説28),す な わ ち,交 感 神 経 活 動 の低 下 と肥 満 とが 密 接 に
関 連 して い る と い う考 え は動 物 実験 な どか ら支 持 され て きた.し 象 と した研 究 で は,い
か し,ヒ
トを対
ま だ統 一 し た見 解 が得 られ て い な い の が 現 状 で あ る.こ れ
は,被 験 者 の 選 択 基 準(年
齢,身
験 条 件 が異 な る だ け で な く,ヒ
体 組 成,肥
満歴,内
分 泌 代 謝 疾 患 の 有 無)や 実
トを対 象 と した 適 切 な 自律 神 経 機 能 評 価 法,特
に
エ ネ ル ギ ー 消 費 量 や 熱 産 生 能 力 を反 映 す る 交 感神 経 活 動 の測 定 法 が確 立 され て お らず,各 研 究者 が 従 来 の 指 標(血 回 転 率,筋
中 ま た は尿 中 カテ コ ラ ミ ン濃 度,カ
交感 神 経 活 動 な ど)を 用 い て 実 験 を行 い,得
テ コ ラ ミン
られ た 結 果 を解 釈 して い
る こ と に起 因 して い る と思 わ れ る.筆 者 らは肥 満 や 加 齢 に伴 う数 々 の 合 併 症 や 実 験 条 件 の差 異 を避 け る た め,小 児 や 若 年 男 女 学 生 を対 象 に交 感神 経 活 動 と肥 満 に つ い て の 詳 細 な検 討 を進 め て きた7,10,11,29∼35). そ の 結 果,安
静 時 の 自律 神 経 活 動 に は肥 満 群 ・非 肥 満 群 の 間 で 有 意 な 差 が 認 め
られ な か っ たが,食
事,寒
冷 暴 露 や カ レ ー な どの 辛 味 成 分 な ど に よ る 熱 産 生 刺 激
を 与 え た と き の 交 感 神 経 活 動,特
にVLF成
分 は肥 満 群 で は 増 加 せ ず,ま
反 応 性 は 非 肥 満 群 に 比 べ 有 意 に低 下 して い た7,29,30).した が っ て,安
たその
静 レベ ル の
図8.11 β3アド レナ リ ン受 容 体 の 遺伝 子 変 異 と 自律 神 経 活 動34)
交 感 神 経 活 動 の 低 下 とい う よ りは む し ろ,"交 感 神 経 反 応 性 の 低 下",特
に"交 感
神 経 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 調 節 に 関 す る 生 理 的 機 能 の低 下"が 肥 満 の 形 成 を促 す 一 要 因 に な り うる こ とが 示 唆 さ れ た.最 近 の筆 者 らの 研 究 か ら,β3ア ド レナ リ ン受 容 体(β3-AR)や
脱 共 役 タ ンパ ク(UCP1)な
ど に 遺 伝 子 変 異 を もつ 被 験 者 で,交
感 神 経 活 動 動 態 が 有 意 に低 下 す る こ とが 明 らか に な りつ つ あ る34∼36)(図8.11)34).
8.4 運 動 と 自 律 神 経 活 動 安 静 時 の 自律 神 経 活 動 を比 較 す る と加 齢 や 運 動 習 慣,疾
患 の 有 無,喫
煙 習 慣,
肥 満 度 な ど に よ り大 き く異 な る12,13,15,16,31∼33).中 高 齢 者 を対 象 に した 研 究 で も同 様 な結 果 が 報 告 され て お り,自 律 神 経 系 で も主 に副 交 感 神 経 で調 整 され る圧 受容 体 感 受 性 も運 動 習慣 の あ る 中 高 齢 者 が 有 意 に 高 い こ と も指 摘 され て い る37,38). 筆 者 らは,心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル解 析 を用 い,安
静 時 や 漸 増 運 動 中 の心 臓
交 感 ・副 交 感 神 経 活 動 を 連 続 的 に 捉 え る こ とや 嫌 気 性 代 謝 閾 値(anaerobic threshold, AT:血
中 乳 酸 の増 加 が 起 こ り始 め る 運 動 強 度)の
非 観 血 的 測 定 が健 常
者 や 糖 尿 病 患 者 にお い て も可 能 で あ る こ と を す で に報 告 して きた12,13).これ らの 先 行 研 究 結 果 を基 本 に して,よ
り簡 便 な心 臓 自律 神 経 活 動 動 態 の 定 量 化 を心 拍 変
動 の ゆ ら ぎの パ ワ ー(単 位 心 拍 当 た りの 毎 拍 心 拍 加 速 ・減 速 時 間(ミ 乗 値)を
用 い,心 臓 自律 神 経,特
リ秒)の
二
に副 交 感 神 経 活 動 を基 準 に した 安 全 作 業 閾 値 の
設 定 が 可 能 か ど う か の実 験 検 証 を行 っ た. 図8.12は
漸 増 運 動 負 荷 運 動 中 の 心 拍 ゆ ら ぎの パ ワー(単
加 速 ・減 速 時 間 の2乗 値)を
位 心 拍 あ た りの心 拍
用 い た心 拍 変 動 パ ワー 解 析 の結 果 で あ る.健 常 者 で
は 運 動 中 の 心 拍 変 動 パ ワ ー 曲 線 が 指 数 関 数 的 に減 衰 ・収 束 す る(図8.12参
照).
同 時 に 解 析 した 心 拍 変 動 パ ワー ス ペ ク トル に よ り,心 拍 変 動 パ ワー 曲線 の 減 衰 と 心 臓 副 交 感 神 経 活 動 の低 下 とが ほ ぼ 同時 に 起 こ る こ とが 明 らか に な っ た39).こ の 収 束 点 は,呼 気 ガ ス 分 析 に よ っ て 得 ら れ た 嫌 気 性 代 謝 閾 値 よ り も早 期 に 発 現 す る.つ
ま り,交 感 神 経 活 動 の 亢 進 が 顕 著 で 血 中 乳 酸 蓄 積,カ
テ コ ラ ミ ン分 泌 増
加,お
よ び血 圧 上 昇 を伴 う 以 前 に,心 臓 副 交 感神 経 活 動 が 退 縮 ・減 衰 す る こ とが
示 唆 され る40,41).筆者 ら は こ の 心 臓 副 交 感 神 経 の 減 衰 す る運 動 強 度 を安 全 作 業 閾 値(safety
exercise threshold, SET)と
命 名 した.
心 不 全 患 者 や 肥 満 者 で は心 臓 自律 神 経 活 動 の 異常 が 認 め られ,特 に 運 動 時 の 心 臓 自律 神 経 活 動 動 態 を評 価 す る こ とは致 死 性 不 整脈 や 突 然 死 を予 防 す る上 で重 要
図8.12 漸 増 運 動 負 荷 中 の心 拍 変 動 パ ワー の 変 化
図8.13 心 不 全 患 者 にお け る安 全 運 動 閾値(SET) と嫌 気 性 代 謝 閾 値(AT)と
の関係
図8.14 心 拍 変 動 パ ワ ー 曲線
で あ る.筆 者 ら は,慢 性 心 不 全 患 者13例(年 ∼Ⅲ 度 ,拡 張 型 心 筋 症4例,陳
齢64±2歳;NYHA心
旧 性 心 筋 梗 塞 症5例,弁
増 運 動 負 荷 中 の 心 拍 変 動 パ ワ ー解 析 を 行 っ た(図8.13).そ 閾 値(AT)と
安 全 運 動 閾 値(SET)に
め られ た が,AT出
機 能 分 類I
膜 症4例)を の結 果,嫌
は有 意 な 正 相 関(r=0.88,p<0.01)が
現 の 運 動 強 度 はSETよ
りも有 意 に 高値 を示 した.こ
対象 に漸 気性代 謝 認 の ことは
致 死 性 不 整 脈 を起 こ し や す い心 疾 患 患 者 や 自律 神 経 活 動 の弱 ま りが ち な糖 尿 病, 肥 満 症 の 患 者 で は,心 臓 副 交 感 神 経 活動 を基 準 に運 動 強 度 を決 定 す る 「安 全 作 業 閾 値 」 で の 運 動 処 方 が 望 ま れ る39∼41).
表8.1 収 束 例 と非 収 束 例 の プ ロ フ ィー ル
興 味 深 い点 は,健 常 者 で は例 外 な く,心 拍 変 動 パ ワ ー の減 衰 ・収 束 が認 め られ た が,若 年 肥 満 歴 の あ る長 期 肥 満 症 や 心 機 能 の よ り低 下 した 心 不 全 患 者 で は,図 8.14の よ うに 減 衰 ・収 束 しな い例 も認 め られ,心 臓 自律 神 経 が 運 動 負 荷 に 対 応 し て 調 節 ・反 応 し て い な い 可 能 性 が 示 唆 され る(表8.1参
照).
8.5 自律 神 経 に 及 ぼ す 運 動 の 効 果 a. 運 動 と 自律 神 経 活 動 の可 逆 性 運 動 中 の 脂 肪 の 利 用 率 は 運 動 強 度 に依 存 す る.最 大 酸 素 摂 取 量(Vo2max)の 50%の
運 動 強 度 で は,エ
れ る た め,高
ネ ル ギ ー 源 と して 糖 質 と脂 質 が ほ ぼ 同 じ割 合 で 利 用 さ
強 度 の 運 動 に比 べ て脂 肪 燃 焼 率 が 高 くな り,脂 質 代 謝 の活 性 化 に 適
して い る42).米 国 ス ポ ー ツ医 学 会(1990)で 処 方 と して,少 3回,数
約
な く と も50∼85%Vo2maxの
は,呼
吸 循 環 機 能 を向 上 させ る 運 動
強 度 で,20分
間の有酸素 運動 を週 に
カ 月 間継 続 す る こ と を推 奨 して い る43).し か し,内 臓 脂 肪 型 肥 満 者 に 発
生 して い る糖 ・脂 質 代 謝 異 常 の 改 善 に は 必 ず し も この 運 動 処 方 が 適 す る とは 限 ら な い.一 (AT)も
般 的 に 肥 満 者 や 糖 尿 病 患 者 の 場 合,運
動 不 足 を伴 っ て嫌 気 性 代 謝 閾 値
低 く,速 歩 程 度 で こ の 閾 値 に達 す る場 合 もあ る.特 に 高 齢 者 で はATレ
ベ ル の 運 動 が 単 純 な歩 行 に相 当 す る場 合 が 大 半 で あ る.ま た合 併 症 の 問題 か ら運 動 制 限 が 必 要 な 場 合 も多 い.こ の 意 味 か ら,歩 行 レベ ル の軽 度 の 運 動 が糖 ・脂 質 代 謝 を 有 意 に 改 善 させ る 運 動 刺 激 に な る か,あ
る い は糖 代 謝 改 善 に最 低 必 要 な 運
動 強 度 や 運 動 量 が 存 在 す る か は 臨床 上 重 要 な 課 題 で あ る. 肥 満 に対 す る運 動 の 効 果 は,(1)エ 減 量,(2)脂 上,(5)動 低 下,血
ネ ル ギ ー 消 費 の増 大 と脂 肪 組 織 消 費 に よ る
肪 合 成 の 抑 制,(3)基
礎 代 謝 の 増 加,(4)イ
脈 硬 化 性 血 管 障 害 の 改 善(HDLコ 圧 降 下 作 用 な ど),(6)呼
ンス リ ン感 受 性 の 向
レ ス テ ロ ー ル の 増 加,中
性脂 肪 の
吸循 環 機 能 の 増 強 と運 動 能 力 の 向 上,(7)ス
ト レス の 解 消 な ど が 挙 げ られ る44,45).合併 症 を発 症 しや す い 内 臓 脂 肪 型 肥 満 で は,内 臓 脂 肪 が 皮 下 脂 肪 よ り効 果 的 に運 動 で燃 焼 さ れ る利 点 も指 摘 さ れ て お り, 中 高 年 男 性 の 半 数 が メ タ ボ リ ッ ク シ ン ドロ ー ム と推 定 さ れ て い る 昨 今(2006厚 生 労 働 省 発 表),運
動 の 継 続 は 生 活 習 慣 病 の 予 防 上,そ
の 重 要 性 を 益 々増 し て い
る. 自律 神 経 活 動 が 低 下 して い る肥 満 者 を対 象 に した有 酸 素 運 動 の トレー ニ ン グ効 果 を扱 っ た 最 近 の研 究 に よ れ ば,低 強 度(約50%Vo2max)の
有 酸 素 運 動 で も,総
エ ネ ル ギ ー 消 費 量 を増 加 させ る こ と に よ り,呼 吸 循 環 機 能 の 有 意 な 向上 は 認 め ら れ な い が,糖
・脂 質 代 謝 の 改 善 に 十 分 効 果 を発 揮 す る こ とが 明 らか に さ れ て い
る6,15,44,45). 筆 者 らは 肥 満 者 や糖 尿 病 患 者 に対 して 安 全 で 有 効 な 運 動 処 方 の 開発 を行 っ て き た.特
に,血
中乳 酸 や 呼 気 ガ ス の変 化 で は な く,心 臓 副 交 感 神 経 活 動 を基 準 に し
た 「安 全 運 動 閾 値 」 で 運 動 処 方 箋 を作 成 し,生 活 習 慣 病 の リス クが 高 く,自 律 神 経 活 動 の 低 下 した 肥 満 者 を 対 象 に12週
間 の 運 動 ト レー ニ ン グ を実 施 し た(図
8.1546)).そ の 結 果,「 安 全 運 動 閾 値 」 で の 運 動 ト レー ニ ン グ12週 後 で は,血 圧, 血 中 コ レス テ ロー ル,中 性 脂 肪,HDLお
よ びLDL-コ
レス テ ロ ール,体 脂 肪 な ど
の 生 活 習 慣 病 リス ク フ ァ ク タ ー や 心 臓 自律 神 経 活 動 が 有 意 に 改 善 し た39,46).ま た,強
力 な 血 管 収 縮 物 質 で あ るエ ン ドセ リ ンや カ テ コ ラ ミ ンお よび心 負 担 度 の指
標 で あ る脳 性 ナ トリ ウ ム利 尿 ペ プチ ドの増 加 が 運 動 中 に 認 め られ な か っ た39).こ れ らの 自律 神 経 活 動 の 可 逆 的 効 果 か ら,「 安 全 運 動 閾 値 」 で の 運 動 は,心 臓 に負 担 が 少 な く,中 年 肥 満 者 にお け る エ ネ ル ギ ー代 謝 機 構 を改 善 し肥 満 を解 消 きせ る だ け で な く,虚 血 性 心 疾 患 や 突 然 死 を予 防 す る可 能 性 が あ る こ とが 示 唆 され て い る. ま た,Nagai
et al.(2003a,2004a)は1080人
の 児 童 を対 象 に 体 脂 肪,運 動 量,
食 事 な ど を 詳 細 に調 査 し,自 律 神 経 活 動 に対 す る肥 満 と運 動 習 慣 の 影響 につ い て
図8.15 運 動 トレー ニ ング に よる 自律 神 経 活 動 の 変 化46)
検 討 し て い る31,32).その 結 果,肥 満 児 で は非 肥 満 児 と比 較 して 交 感 ・副 交 感 神 経 活 動 を反 映 す るLF成
分 も副 交 感 神 経 活 動 を 反 映 す るHF成
い る こ と を 明 らか に した31).し か し,同
分 も有 意 に低 下 して
じ程 度 の 肥 満 で あ って も習慣 的 な運 動 習
慣 を有 す る児 童 で は,運 動 習 慣 を 有 さな い児 童 よ り もLF,HF成 に 高値 を示 した32).そ こ で,あ の 運 動 介 入(心
る小 学 校 の 全 児 童(305名)を
拍 数130∼140拍/分,20分/日,5回/週)を
分 ともに有意 対 象 と して1年
間
行 っ た 結 果,介
入
前 に 自律 神 経 活 動 が 低 下 して い た児 童 で は,す べ て の 自律 神 経 活 動 の 評 価 に お い て 有 意 な 改 善 が 認 め られ た33). こ れ らの 結 果 は,自 律 神 経 活 動 は可 逆 性 を も っ て お り,脂 質 代 謝 や 食 欲 調 節 機 能 の 中枢 で あ る 自律 神 経 活 動 の 低 下 に起 因 す る小 児 肥 満 や 中 年 肥 満 も習 慣 的 な 運 動 の励 行 に よ っ て 予 防 で き る こ と を強 く示 唆 す る もの で あ る.2005年 ッパ 肥 満 学 会 に 参 加 し た が 最 も衝 撃 的 な基 調 講 演 は"Rather Lean and Sedentary"で,肥
の ヨーロ
Fat and Fit than
満 して い て も運 動 習 慣 が あ る人 の 方 が ス リム で 身体
的 不 活 動 な 人 た ち よ り も圧 倒 的 に 病 気 の 罹 患 率 や 死 亡 率 が 低 い こ とが 報 告 さ れ た.軽 い 歩 行 程 度 の 運 動 で も,筋 肉 か ら免 疫 強 化 や 生 活 習 慣 病 の予 防 ・改 善 に つ な が る多 数 の 遺 伝 子 をONに
す るマ イ オ サ イ トカ イ ン(筋 由 来 生 理 活性 物 質)が
放 出 され る こ と も 明 らか に され た.肥 満 の小 児 や 中 年 太 りの 男 女 性 諸 君 に習 慣 的
な 運 動 を 励 行 して,こ
のす ば ら しい 遺 伝 子 を ス イ ッチONさ
れ る こ と をお お い に
期 待 した い も の で あ る. b. 運 動 と脳 由 来 神 経 栄 養 因 子 最 近 特 に 注 目 を浴 び て い る の は 運 動 トレー ニ ン グ が 大 脳 に 及 ぼ す 影 響 で あ り, 特 に学 習 ・記 憶 を司 る 海 馬 で の脳 由 来 神 経 栄 養 因 子(brain factors:BDNF)で BDNFの
あ る47,48).図8.1647)は,運
derived neurotrophic
動 ト レ ー ニ ン グ 中 に増 加 す る
主 な 機 能 を著 者 が 翻 訳 して リ ス トア ッ プ し た もの で あ る が,そ
は脳 神 経 可 塑 性,神
経 栄養 伝 達,学 習 能改 善,お
よ び脳 神 経 細 胞 保 護(虚 血 か ら
くる脳 損 傷 の抑 制 な ど)の 多 岐 に わ た る もの で あ る.特 BDNFの
シ ナ プ ス 伝 達 亢 進,長
期 記 憶(long
に注 目 した い の が,こ
間 自 由 に走 らせ た と きの 海 馬 に お け るBDNFのmRNAの
ラ ッ トを7日
発 現 を 記 録 した もの
ン トロ ー ル試 行 時 よ り も顕 著 に遺 伝 子 の発 現 が 認 め られ る.図8.17Bは
動 トレ ー ニ ン グ群 と コ ン トロ ー ル 群 の ラ ッ トのBDNFタ の で,運
動 群 で は 約2倍
の
term potentiation)の 増 強,学 習 能
改 善 お よ び シ ナ プ ス タ ンパ ク合 成 な どの 機 能 で あ る.図8.1747)は
で,コ
の働 き
運
ンパ ク量 を比 較 した も
に も増 加 して い る.興 味 深 い こ と にBDNFの
増加 は ト
レー ニ ング 時 の 走 行 距 離 に依 存 して お り,長 期 に わ た る運 動 トレー ニ ング に よ っ て は 著 しい増 加 が 起 こ る可 能 性 が 示 唆 され る. 一 方,ラ
ッ トの子 宮 を摘 出 して 閉 経 を迎 え た ホ ル モ ン環 境 下 で,女 性 ホ ル モ ン
(エ ス トロ ゲ ン)投 与 と運 動 の組 合 せ でBDNFが (図8.18)48).ヒ
増 加 す る こ とが 報 告 さ れ て い る
トへ の 実験 結 果 の 適 用 が どれ だ け 可 能 か は多 少 疑 問 が 残 る が,閉
図8.16 運動で脳由来神経栄養 因子 は増加 する47) 脳 由来神経栄養 因子 の主な働 き 神経可塑性:長 期記憶(LTP)増,シ ナプス伝 達亢進,学 習能改善,シ ナプスタ ンパク合 成促進 神経栄養伝達:神 経細 胞生存促 進,神 経細胞分化促進,神 経細胞分岐促進 神経保護作用:虚 血損傷抑 制,神 経 軸策損傷抑制
図8.18 運 動 で 脳 由 来神 経 栄 養 因 子 は 増 加 す る48)
経 後 の 女 性 で はBDNFが
減 少 して く る こ とか ら,女 性 ホ ル モ ン投 与 は 骨 粗 鬆 症
予 防 だ け で な く,運 動 療 法 と組 み 合 わ せ る こ とに よ り脳 機 能 の維 持 に も有 効 で あ る可 能性 も出 て く る.ま た,運 動 は うつ に対 して 有 効 で あ る と され るが,抗 剤 投 与 に よ り運 動 と同 様 にBDNFが は運 動 の 方 が 大 きい が,抗
うつ
増 加 す る こ と も明 らか に な っ て い る.効 果
うつ 剤 投 与 と運 動 の組 合 せ で は さ らに 大 きい 効 果 が 期
待 で き る47,48).脳機 能 維 持 を 目的 と した 運 動 と な れ ば 運 動 療 法 の 見 方 も変 わ る可
能 性 が あ り,今 後 の この 分 野 の 研 究 成 果 に お お い に期 待 した い と ころ で あ る.
8.6 食 品 成 分 と 自 律 神 経 a. セ サ ミン の 生 理 学 的 効 果 ゴ マ は 古 来 よ り健 康 を増 進 す る食 品 と して 広 く親 し まれ て きた が,近
年その さ
ま ざ ま な生 理 活 性 が 科 学 的 に解 明 さ れ つ つ あ る.な か で も ゴ マ に 特 徴 的 な 成 分 で あ る リ グナ ン類 の もつ 生 理 活 性 が 注 目 を集 め て い る.セ サ ミ ンは この リグ ナ ン化 合 物 の 一 種 で あ り,ゴ マ に0.5∼1%程
度 含 ま れ お り,肝 臓 で カ テ コ ー ル体 セ サ
ミ ン に変 換 され 強力 な抗 酸 化 活 性 を示 す こ と が報 告 され て い る49,50).セサ ミ ンの 生 理 活 性 と して は これ まで に,肝 に お け る過 酸 化 脂 質 生 成 抑 制 効 果,ア 分 解 促 進 作 用 に 基 づ く肝 機 能 増 強作 用,癌 細 胞 増 殖抑 制 効 果,コ 吸 収 抑 制 に よ る 血 清 コ レス テ ロ ー ル 低 下 作 用,な
ル コー ル
レス テ ロー ルの
ら び に免 疫 機 能 へ の影 響 な どが
報 告 され て い る. 近 年,高 血 圧 の 発 症 要 因の ひ とつ と して血 管 系 にお け る酸 化 ス トレス の 亢 進 と 血 管 内 皮 細 胞 障 害 と の 関 連 性 が 注 目 さ れ て い る.本 態 性 高 血 圧 モ デ ル で あ る高 血 圧 自然 発 症 ラ ッ ト(SHR)に と血 圧 が 低 下 す る こ と,ア て,SODの
ス ー パ ー オ キ シ ドジ ス ム ター ゼ(SOD)を
投与す る
ン ジオ テ ン シ ンⅡ 持 続 注 入 に よる 高 血 圧 モ デ ル に お い
慢 性 投 与 が 血 圧 の 上 昇 を抑 制 す る こ と も報告 され て い る51,52).高血 圧
を含 め た種 々 の 循 環 器 疾 患 の発 症 や 進 展 に活 性 酸 素 が 関係 す る こ とが 明 らか に な っ て きた が,セ
サ ミ ン は生 体 内 で 効 果 的 に 働 く強 力 な抗 酸 化 剤 で あ る こ とか ら,
ヒ トに お け る 有 効 性 も期 待 が もて る53). b. セ サ ミ ン と活 性 酸 素 ヒ トへ の セ サ ミ ン の 効 果 を直 接 検 証 す る た め に,ク 44∼59歳
の 更 年 期 障 害 の 症 状 を有 す る 女 性14名
を対 象 と し,セ サ ミ ンが 自律神
経 活 動 と血 管 弾 性 に及 ぼ す 影 響 につ い て 検 討 した.対 け,一 方 の群 に は セ サ ミ ン と ビ タ ミ ンEの ミ ン10mg,ビ 1日3粒,そ
タ ミ ンE60mg/3粒)を,も れ ぞ れ4週
出 して,血
象 者 を無 作 為 に2群
混 合 カプ セ ル(セ
サ ミ ン+VE;セ
に分 サ
う一方の群 にはプ ラセボ カプセ ルを
間 継 続 し て摂 取 させ た.サ
て 血 圧 と心 電 図 を 計 測 し,得
リ ニ ック に 受 診 に 訪 れ た
ン プ ル摂 取 前 後 に,仰 臥 位 に
られ た収 縮 期 血 圧 と平 均 血 圧 よ り血 圧 波 動 指 数 を算
管 弾 性 の 指 標 と した6).ま た,心
電 図 の心 拍 変 動 パ ワ ー ス ペ ク トル解
析 に よ り,心 臓 自律 神 経 活 動 動 態 を評 価 した.更 年 期 障 害 症 状 につ い て は 簡 易 更 年 期 指 数(SMI)を 間 摂 取 に よ り,総
指 標 に評 価 した(図8.19).そ 自律 神 経 活 動,交
の 結 果,セ
サ ミン+VEの4週
感 お よび 副 交 感 神 経 活 動 の 亢 進 が 認 め ら れ,
特 に副 交 感 神 経 活 動 の 亢 進 が 顕 著 で あ っ た.血 圧 も正 常 化 す る 傾 向 が 認 め られ, 血 管 弾 性 に お い て は セ サ ミ ン+VE摂
取 群 で 有 意 に改 善 す る こ とが 明 らか とな っ
た.更 年 期 障 害 症 状 に つ い て も,血 管 運 動 神 経 障 害 の 改 善 傾 向 が 認 め られ た. 運 動 は生 活 習 慣 病 予 防 に有 用 で あ る 一 方 で,運 動 中 に は,活 性 酸 素 の 発 生 亢 進 や,心 臓 副 交 感 神 経 活 動 の 減 衰 に よ る 突 然 死 な どの 危 険 を 有 す る.そ こで 筆 者 ら は,激 運 動 時 の 脂 質 過 酸化 に対 す る セ サ ミン の抑 制 効 果 に つ い て 男 子 大 学 生 を対 象 に検 討 した.そ 伴 い,プ
の 結 果,最
大 心 拍 数 の80∼90%相
当 の20分
間の高強度運動 に
ラ セ ボ 摂 取 時 に は血 漿 過 酸 化 脂 質 濃 度 の 有 意 な上 昇 が観 察 され たが,運
動 前 の セ サ ミ ンお よ び ビ タ ミ ンE経
口投 与 に よ りそ の 上 昇 が 抑 制 され た53).こ の
実 験 に よ り,セ サ ミ ンは ビ タ ミンEと
同 様 も し くは そ れ 以 上 に 激 運 動 に よ る活
性 酸 素 の 害 を抑 制 す る 強 力 な抗 酸 化 剤 と して 有 用 で あ る こ とが 示 唆 さ れ た. さ らに,喫 煙 も,交 感 神 経 活 動 の 亢 進 や 酸 化 ス トレス が 循 環 器 疾 患 の リス ク を 高 め る可 能性 が あ る た め,喫 煙 に伴 う心 臓 自律 神 経 活 動 動 態 の 変 化 とセ サ ミンの
図8.19 心電図,血 圧 の連続測定 と信号 加算平均法 による血圧波動指 数の評価
作 用 に つ い て も検 討 を加 え た.実 験 で は,健 常 な 男 子 大 学 生9名 タ ミ ンEの
混 合 カ プ セ ル(セ
mg/3粒)あ
サ ミ ン+VE;セ
にセ サ ミ ン と ビ
サ ミ ン10mg,ビ
る い は プ ラ セ ボ カ プ セ ル を摂 取 さ せ た 後,喫 煙(市
タ ミ ンE60 販 煙 草1本)を
負 荷 し,連 続 的 に心 電 図 を記 録 して心 臓 自律 神 経 活 動 の 変 化 を 調 べ た.ま 臓 脱 ・再 分 極 時 間 の 指 標 と してQ-T間
隔 を測 定 し た.そ
有 意 な心 拍 数 の 増 加 と心 臓 交 感 神 経 活 動 指 標 の 増 加,な 顕 著 な低 下 が 認 め られ た.セ
サ ミ ン+VE投
経 活 動 の 低 下 は 有 意 に 抑 制 さ れ た.ま T間 隔 の 延 長 が 認 め られ た が,セ
た,心
の結 果,喫 煙 直 後 で は らび に 副 交 感 神 経 活 動 の
与 時 で は喫 煙 に よ る顕 著 な副 交 感 神
た,プ
ラ セ ボ 試 行 で は喫 煙 後 に有 意 なQ-
サ ミ ン投 与 時 で は このQ-T間
隔 の遅延 は認 め
られ な か っ た.以 上 か ら,喫 煙 前 の セ サ ミ ンの 摂 取 に よ り,心 因 性 突 然死 の 危 険 因 子 で あ る心 電 図Q-T間
隔 の 遅 延 や 顕 著 な心 臓 自律 神 経 活 動 へ の 影 響 を 緩 和 さ
せ る可 能性 が 示 唆 され た54). c. カ フ ェ イ ン 1) 脳 波 お よび 自律 神 経 活 動 へ の 影 響
コー ヒー な ど に含 ま れ る カ フ ェ イ ン
が ヒ トの 自律 神 経 活 動 を亢 進 さ せ る こ とは 先 行 研 究 で 明 らか に され て き た55,56). そ こ で,カ
フ ェ イ ン独 自 の リ ラ クゼ ー シ ョン効 果 も含 め た神 経 生 理 学 的 作 用 を検
討 す る た め に3種 類 の 温 飲 料(コ を3日
ー ヒ ー,デ
カ フ ェ ネ イ テ ッ ドコ ー ヒー,さ
間 に 分 け て ラ ン ダ ム に摂 取 し,摂 取 前 後,お
神 経 活 動,エ
ネ ル ギ ー 代 謝,お
よび30,60,90分
よ び脳 波 を測 定 した.コ
湯)
後 に 自律
ー ヒー に は約100mgの
カ フ ェ イ ンが 含 まれ て い る. そ の 結 果,総 は,両
自律 神 経 活 動 を 反 映 す る 心 拍 変 動 パ ワ ー ス ペ ク トル の総 パ ワー
コ ー ヒー の 摂 取 後,顕
活 動 に つ い て は,コ
著 に そ の 時 間 効 果 が 認 め ら れ た.一 方,副 交 感 神 経
ー ヒ ー の 摂 取 後 の み に そ の 時 間 効 果 が 認 め られ た.脂 肪 代 謝
の 指 標 で あ る 呼 吸 商 につ い て も,コ ー ヒー の 摂 取 後 で は,さ
湯 の摂取 後 に比べ
て,顕 著 に低 下 した.こ の こ とか ら,コ ー ヒー の 顕 著 な脂 質 代 謝 の 亢 進 作 用 が 実 験 的 に 確 認 で きた57). 図8.20は
脳 波 の 解 析 に用 い た脳 波 デ ィ コ ン ポ ジ シ ョ ン解 析 結 果 の 例 で あ る.
この 図 は 高 速 フ ー リエ 変 換 に よ っ て 得 られ た 脳 波 周 波 数 パ ワー スペ ク トル を逆 フ ー リエ 変 換 に よ り,任 意 の 周 波 数 帯 域 の み を源 信 号 か ら抽 出 して プ ロ ッ トした も の で あ る.そ
の 結 果,リ
ラ ク ゼ ー シ ョ ン の 指 標 で あ る α 波 が 脳 波 に 占 め る割 合
図8.20 脳 波 デ ィコ ンポ ジ シ ョ ンの 解 析 結 果 の例
に 関 して は,さ
湯 の 摂 取 後,有
意 に そ の 減 衰 が 認 め られ た が,両
コー ヒ ー摂 取 後
に は,有 意 な低 下 は 見 られ な か っ た57). 以 上 の結 果 か ら,コ ー ヒー 中 の カ フ ェ イ ンが 交 感 神 経 活 動,副 交 感 神 経 活 動 の 両 方 を増 強 す る こ と,ま た,コ ー ヒー 特 有 の物 質(特 有 の香 り,苦 味 な ど)が 総 自律 神 経 活 動 を増 強 し,脂 質代 謝 を高 め る可 能 性 が 示 唆 さ れ た.ま で はあ るが,コ
ー ヒー 特 有 の物 質 が,リ
た,間 接 的 に
ラ ク ゼ ー シ ョ ン効 果 を もつ こ とが 示 さ れ
た. 一 方,カ
フ ェ イ ン摂 取 は 自律 神 経 を介 して脂 質 酸 化 とエ ネ ル ギ ー消 費 の 両 方 を
刺 激 し,安 静 時 エ ネ ル ギ ー 消 費 量 の 増 大 だ けで な く基 質 と して の 脂 質 の 動 員 とそ の酸 化 を刺 激 す る.カ
フ ェ イ ン経 口 投 与(300mg)が
運 動 中 の 自律 神 経 活 動 動
態 や エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 及 ぼ す 影 響 を ヒ トに お い て 検 討 した 報 告56)で は,30分 の40∼50%の
最 大 運 動 強 度 に相 当 す る持 久 的 運 動 に お い て,プ
間
ラセボ投与時 に
比 較 して 有 意 な 自律 神 経 活 動 亢 進 と脂 質 酸 化 を も た らす こ とが 明 らか に な っ て い る.こ の こ と か ら,カ フ ェ イ ン は運 動 中 の 脂 質 酸 化 の亢 進 を もた らす 有 用 な食 品 成 分 で あ る こ と が示 唆 さ れ た. d. 海 洋 深 層 水 生 体 の生 理 機 能 を維 持 して い く う えで 無 機 質(ミ せ な い.ま
ネ ラ ル)の 適 切 な 摂 取 は欠 か
た,生 活 習慣 病 との 関 連 が 注 目さ れ て い る ミネ ラル と して,マ
グネシ
ウ ム や カ リウ ム が あ り,マ グ ネ シ ウ ム不 足 は,脳
卒 中,冠 動 脈 疾 患 や 腎 不 全,血
栓 症 を惹 起 させ う る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る.ま た カ リ ウ ム や マ グ ネ シ ウ ム に は 降圧 効 果 が 認 め られ て お り,高 血 圧 患 者 の 利 尿 薬 に よ る低 カ リ ウ ム血 症 や低 マ グ ネ シ ウ ム血 症 は逆 に心 室 性 不 整 脈 の発 現 や 心 機 能 の 低 下 を もた ら し,心 因性 の 突 然 死 の 発 生 が 懸 念 され る58). 以 上 の ミネ ラ ル の補 給 源 と して,海 洋 深 層 水 は マ グ ネ シ ウム,カ
ルシウムな ど
の 主 要 ミネ ラ ル を は じ め85種 類 の 自然 の ミネ ラ ル を 体 組 成 に 近 いバ ラ ン ス で 含 ま れ て い る と さ れ,そ の 機 能 性 が注 目 され て い る.そ
こ で,筆 者 らは海 洋 深 層水
が 心 臓 血 管 系 に及 ぼ す 影 響 を検 討 す るた め に次 の 実 験 を 行 な っ た.被 験 者 は,平 均 年 齢42歳
の21名
の成 人 男 性 で,市
販 の 海 洋 深 層 水(S社)で
去 さ れ て い る もの を使 用 した.海 洋 深 層 水 を1日1.5l,5週
ナ トリウ ム が 除 間連 続 で 摂 取 し,摂
取 期 間 の 前 後 に,安 静 時 と運 動 負荷 時 の 心 電 図 測 定 な らび に運 動 負 荷 前 後 の 採 血 を 行 っ た.そ た.興
の 結 果,5週
味深 い の は,こ
間 の 摂 取 後 で は血 中 中 性 脂 肪 と血 糖 値 は有 意 に低 下 し
れ らの効 果 は,摂 取 前 の 中 性 脂 肪 や 血糖 値 が 高 い 人 ほ ど顕
著 に改 善効 果 が 認 め られ た点 で,こ れ らの 被 験 者 は リ ンパ 球 中 マ グ ネ シ ウム 濃 度 の 初 期 値 が 平 均 以 下 で あ っ た が,海 洋 深 層 水 の5週
間の摂取後 にはその濃度が大
幅 に改 善 して い た.中 性 脂 肪,血 糖 値 の 改 善 効 果 はマ グ ネ シ ウ ム が 脂 質 代 謝 や 糖 代 謝 関 連 の 酵 素 を 活 性 化 させ た 可 能 性 を示 唆 す る.ま た,同 時 に測 定 した 心 筋 脱 分 極 ・再 分 極 時 間 を反 映 す る心 電 図RT(recovery
time)やQ-T間
隔 も5週 間の
海 洋 深 層 水 摂 取 に よ り有 意 に 短 縮 し た こ とか ら,運 動 中 の 不 整 脈 や 突 然 死 の 予 防 に も有 効 で あ る と考 え られ る9). e. カ プ サ イ シ ン摂 取 とエ ネル ギ ー代 謝 トウ ガ ラ シ に含 ま れ る香 辛 料 辛 味 成 分 カ プ サ イ シ ンは,交 感 神 経 系 を介 した副 腎 の ア ドレナ リ ン分 泌 や 褐 色 脂 肪 組 織 中 のUCP1誘 作 用 を有 す る27,59,60)ま た,ヒ
導 によるエネルギー代謝亢進
トに お い て も比 較 的 多 量 の 香 辛 料 辛 味 成 分 を食 事 と
と もに 摂 取 す る と,食 事 誘 発 性 熱 産 生(DIT)の
増 大 が 認 め ら れ る こ とが 報 告 さ
れ て い る29).一 方,小 児 は 成 人 よ り も熱 産 生 に お け る褐 色 脂 肪 組 織 の 役 割 が 大 き く,香 辛 料 辛 味 成 分 の 影響 を成 人 よ り も大 き く受 け る と考 え られ るが,こ
の点に
関 す る研 究 は きわ め て 少 な い. 永 井 ら(2003)は
香 辛料 辛 味 成 分 が 小 児 のDITと
満 腹 感 に与 え る影 響 に つ い
て 交 感 神 経 活 動 動 態 と あ わ せ て 検 討 し て い る.8∼11歳 体 重1kg当
た り16kcal,糖
(HC+Spice食)お (HC食)を,そ 時)お
質 エ ネ ル ギ ー 比70%に
に,
調 整 した 辛 口 カ レー ラ イス
よ び カ レ ー よ り香 辛 料 を 除 去 し て作 成 した 擬 似 カ レー ラ イス れ ぞ れ 別 の 日の 午 前 中 に ラ ン ダ ム な 順 序 で 負 荷 し,食 前(安
よ び 食 後3時
間 ま で30分
Visual analog scales(VASs)に Spice食 はHC食
間 隔 で 心 電 図,呼
気 ガ ス を 測 定 し,加
静 えて
よ る 満 腹 感 ス コ ア を記 録 し た.そ の 結 果, HC+
よ りも,食 後 の エ ネ ル ギ ー 消 費 変 化 率,熱
神 経 成 分 と もに有 意 に 高 く,DITも 10.6kcal).満
の 健 康 な 男 児13名
産 生 に 関 与 す る交 感
有 意 に高 値 を示 した(42.9±11.4vs.30.7±
腹 感 ス コ ア はHC+Spice食
で 高値 を維 持 した.
以 上 の 結 果 よ り,日 常 的 に無 理 な く摂 取 で き る量 の 香 辛 料 辛 味 成 分 で あ っ て も 小 児 の熱 産 生 を増 加 させ 満 腹 感 を 維 持 す る作 用 を有 す る こ と,お よ び,こ れ らの 熱 産 生 や 満 腹 感 の 持 続 に は 交 感 神 経 活 動 の 亢 進 が 関 与 す る 可 能 性 が 示 唆 され た10,29). f. レモ ン,グ レ ー プ フルー ツ摂 取 と 自律 神 経 活 動 動 態 自律 神 経 系 は 交 感 ・副 交 感 神 経 活 動 の バ ラ ンス に よ り制 御 さ れ,生 体 の活 動 ・ 休 息 に伴 う概 日 リズ ム を有 す る が,都
市 化 な どの"環 境 の 突 然 の 変異"に
よる バ
ラ ン スの 崩 れ が エ ネ ル ギ ー代 謝 に影 響 し代 謝 性 疾 患 を惹起 す る と の仮 説 が 近 年提 唱 され て い る61).一 方,ラ
ッ トで は レモ ンや グ レー プ フ ル ー ツ の香 りが 交 感 神 経
を興 奮 させ る こ と が 報 告 さ れ て い る が,ヒ
トで の 作 用 は不 明 な点 が多 い.そ
こで
筆 者 らは レモ ン,グ レー プ フル ー ツ摂 取 が ヒ トの 交 感 神 経 活 動 に及 ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 した.実 験 で は,非 肥 満 ・非 喫 煙 の 若 年 女 性13名(21.2±0.4歳)に, 同 じエ ネ ルギ ー,容 量 に調 整 した,ブ ツ果 汁(GJ),グ
ドウ糖 溶 液(対 照:CT),グ
レー プ フ ル ー ツ 果 肉(GF),レ
9時 に ラ ン ダ ム な順 序 で 負 荷 した.安 し,心 拍 変 動 解 析 に よ り交 感(SNS
レー プ フ ル ー
モ ン果 肉(LE)を
静 時 お よ び 摂 取 後60分
別 々 の 日の 朝
まで心 電図 を記録
index)・ 副 交 感 神 経 活 動 指 標(PNS
index)
を求 め た(図8.21). そ の結 果,試 験 食 負 荷 後 のSNS
indexは,
CTで
プ フ ル ー ツ負 荷 後 に 有 意 な 上 昇 が 認 め られ,そ
は変 化 せ ず,レ
の 程 度 はLE,
GF,
モ ン,グ
レー
GJの 順 に 高
か っ た. 試 験 食 負 荷 後 の 交 感 神 経 活 動 の 上 昇 は,同
じグ レー プ フル ー ツ で も果 汁 よ り果
図8.21
レ モ ン,グ
レー プ フ ル ー ツ摂 取 後 の 自律 神 経 活 動
肉の 方 が 高 く,レ モ ンで 最 も高 か った こ とか ら,味,匂
い 両 方 の 刺 激 を介 して 交
感 神 経 活 動 が 亢 進 して い る もの と推 察 され た(Nagai,未
公 表 デ ー タ).以 上 の 結
果 は レモ ン,グ
レー プ フ ル ー ツ摂 取 が 朝 の 自律 神 経 バ ラ ンス を交 感 神 経優 位 に整
え る可 能性 を示 唆 す る も の で あ る. g. 高 脂肪 食 と 自律 神 経 活 動 動 態 近 年,高 や,心
脂 肪 食 が カ テ コ ラ ミ ン分 泌 を亢 進 させ 心 拍 数 を 上 昇 させ る こ と7,36,62)
臓 の α-ア ドレナ リ ン受 容 体 の 感 受 性 を亢 進 させ る こ と63),心 臓 の 再 分 極
時 間 を遅 らせ,い
わ ゆ る 突 然 死 の 原 因 と な るQ-T間
隔 遅 延 を も た らす こ と64)が
報 告 され て お り,肥 満 の み で な く心 臓 血 管 系 へ の影 響 も懸 念 さ れ て い る.筆 者 ら は これ まで に,UCP1遺
伝 子 変 異(-3826A/G)のGGア
レル 小 児 で は,高 炭 水
化 物 食 の 摂 取 後 の 自律 神 経 活 動 に は,有 意 な 差 が 認 め られ な いが,高 後 に は 熱 産 生 に 関 与 す る 交 感 神 経 活 動 成 分(VLF)は 事 誘 発 性 熱 産 生 は 正 常 型(AA)お
脂肪食摂取
有 意 に 増 加 す る もの の,食
よ び 片 方 の み の 変 異 で あ るAGと
比べ て低 い
こ と を見 い だ して い る36). 筆 者 ら(2005a)の 糖 値,満
腹 感,エ
最 近 の 研 究 で は,朝 食 欠 食 や 三 大 栄 養 素 の 比 率 が 食 後 の 血 ネ ル ギ ー 消 費 量(EE),自
律 神 経 活 動 に及 ぼ す 影 響 をUCP1遺
伝 子 多 型 と と も に検 討 して い る65).健 常 者8名 行 の 朝 食+昼
食(CC:高
に総 摂 取 エ ネ ル ギ ー が 等 しい4試
糖 質 食+高 糖 質 食, SC:欠
食+高
糖 質 食2食,
FF:高
脂 肪 食+高
脂 肪 食,SF:欠
FF試 行 よ り も朝 食 後3時
食+高
脂 肪 食2食)を
間 の 血 糖 値,満
生 も4試 行 中 最 も 高 値 で あ っ た.特
腹 感,EEが
負 荷 した 結 果,CC試
行では
有 意 に 高 く,6時
間の熱産
に,朝 食 欠 食(SC,SF)試
低 く,昼 食 後 に心 拍 数 の著 増 を認 め た.UCP1遺
伝 子 のGGア
行 では熱 産生が レル を有 す る 者 は
2名 と少 数 で あ っ た が 有 意 に 熱 産 生 が 低 く,高 脂 肪 食 摂 取 後 に よ り顕 著 に この 傾 向 が 認 め られ た.以 上 は,耐 糖 能 正 常 者 で は米 飯 を主 体 とす る朝 食 の摂 取 が 肥 満 予 防 に寄 与 す る 可 能 性 を示 唆 す る と と も に,遺 伝 的 背 景 へ の 配 慮 の 必 要 性 を示 す もの で あ る. h. ア ン ジ オ テ ン シ ン Ⅱ2型
受 容 体 遺 伝 子 多 型(3826C/A)と
自律 神 経 活 動,
食 塩摂取 ア ン ジ オ テ ンシ ン Ⅱ は1型 受 容 体(AT1)を 容 体(AT2)はAT1と
介 し血 圧 を上 昇 させ る が,2型
拮 抗 し て働 くた め,AT1とAT2の
に 重 要 で あ る と考 え られ て い る.AT2はX染
発 現 バ ラ ンス が 血 圧 調 節
色 体 上 に コー ドされ エ ク ソ ン3の3'
非 翻 訳 領 域 で シ トシ ンが ア デ ニ ン置 換 した 変 異(3123C/A)が
発 見 され て お り,
変 異 と高 血 圧 発 症 の 関連 は 興 味 深 い が 不 明 な 点 が 多 い.筆 者 らは,ヒ 変 異 と血 圧 調 節 を 司 る 自律 神 経 活 動,食 の 若 年 女 性(20∼23歳)53名 よ り0.1∼1.0%の10段 そ の 結 果,被 名,変
塩 味 覚 閾 値 ・摂 取 量 との 関 連性 を非 肥 満
を対 象 に して 検 討 した.食
塩 味 覚 閾 値 は滴 下 法 に
の う ち 正 常 型(CC)18名,片
方 の み の 変 異(AC)28
リル 頻 度0.40)で,AAに
着 目 した 検 討 を行 っ た.各
異 型(AA)7名(ア
群 間 の 血 圧 に 差 は な か っ た が,AA群
で は 自律 神 経 全 体 の活 動 度 を 表 すTP,レ
ニ ン-ア ンジ オ テ ン シ ン系 の 活 動 帯 域 を そ の 中 に 含 む と され るVLF,交
も か か わ らず,AA群
トで のAT2
階 で 評価 し た.
験 者53名
動 を 表 すLFがCC+AC群
受
感神 経活
よ り も有 意 に 高 か っ た.食 塩 味 覚 閾値 に は差 が な い に で は食 塩 摂 取 量 が 有 意 に多 か っ た(AA,5.5±0.8
CC,4.5±0.2g/1000kcal/日).こ
れ らの 結 果 を 考 察 す る と,AT2遺
枢 性 の 圧 受 容 体 反 射 調 節 機 能 を弱 め,過
vs. AC+
伝 子多型 は 中
敏 な圧 受 容 体 反 射 と交 感 神 経 亢 進 に よ り
血 圧 上 昇 に 働 くが66),若 年 健 常 者 で は 変 異(AA)を
有 し て い て も 自律 神 経 機 能
が 高 い た め 血 圧 を下 げ る方 向 に代 償 的 な 調 節 が 行 わ れ て い る 可 能 性 が 示 唆 され た.し
か し,食 塩 味 覚 閾値 が 同 程 度 で あ り なが ら食 塩 摂 取 量 が 多 い こ とや,加
齢
に伴 う 自律 神 経 機 能 低 下 に よ り将 来 高 血 圧 を発 症 す る 可 能 性 が 高 い と考 え られ る
(Nagai,未
最
公 表
近,筆
者
β3サ
デ ー
タ).
ら は 本 態 性
ン パ
ク
ブ ユ
ニ
ッ
る 可
能 性
を 示 唆
す
神 経 活 動
の 関 連
が 示
高
血 圧
に 関 与
る 結 果 唆
も 報 告
さ れ
理 学,文
律 神 経 と 心 腎 臓.宮
exercise:evidence
内
シ グ ナ ル 伝 達
り67),血
圧 調
自 律 神
に 関 与
経 活 動
節 関 連 遺 伝
す
るGタ
に 影 響
子 変 異
を 与
と 心 臓
え
自 律
る.
2) 松 川 寛 二(2001)自 Hoskins
胞
変 異 が 心 臓
し て お
1) 真 島 英 信(1973)生
GE,
る 細
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す
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文
献
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tone
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during
submaximal
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S, Gordon
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D, Ubel
rate fluctuation:a
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DC,
Shannon
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AC,
Cohen
of beat-to-beat
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222 6)
森 谷 敏 夫,林 経,血
7)
達 也,枡
Matsumoto acute
T, Miyawaki
cold
exposure
8) Matsumoto
T,
between
9) 森 谷 敏 夫,永
熱 産 生,満
Miyatsuji
Nagai
Kanda
T, Zenji C, Moritani
non-obese
Miyawaki and
尾 一 和(1997)運
腹 感,及
Moritani
young
women.
T, Yanagimoto
sympatho-vagal
下 沼 裕,森
T, Kimura and
T, Hayashi
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in young
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potential
obese
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women.
Am
J
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T, Moritani
辛 料 辛 味 成 分 が 小 児 の 食 事 誘 発 性
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effect of a high-carbohydrate
system
activity in boys
with
meal
a recent
onset
of
M,
patients,
Mimasa
normal
F, Shibata
controls
and
patients
Exercise
and
Moritani
T, Kimura
T, Shinohara during
Diabetes,
森 谷 敏 夫,林
M,
Mimasa
exercise
F, Masuda
as determined
Smith-Gordson
T, Hamada
Electromyogr
Ltd, London,
T, Nagai
達 也,篠
原
稔,見
尿 病 の 運 動 療 法,29-35
Ue
I, Yoshitake
activities by means
Iarization process.
Ann
山 尚 久,林
by
I, Nakao heart
by
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Masuda
M(1993)Comparison
endurance
Sci,7,31-39
T, Hayashi
H,
圧,11(12),1297-1302
谷 敏 夫(2003)香
sympathetic
T, Shinohara
diabetic
of NIDDM
disease.J
17)
T
Y, Moritani
び 交 感 神 経 活 動 へ 及 ぼ す 影 響.肥
N, Hamada
Moritani
vous
律 神
Int J Obesity,23,793-800
activities
動 効 果 を 生 か す 食 品.血
神 寿 彦,久
thermogenesis
among
sis.J Sports
16)
動 前 後 に お け る 脳 波,自
動 生 化 学,9,112-115
Metabolism,54,430-438
function
15)
A,
leptin
根 直 樹,鳴
N, Sakane
obesity.
14)
H,
and
井 成 美(2004)運
on postprandial
13)
正 冨 美 子,中
Biol,15,8-15
10) 永 井 成 美,坂
12)
出,見
T, Ue
in obese
endogenous
Human
11)
田
圧 ・循 環 調 節 ホ ル モ ン の 変 化.運
Y, Inazumi
of ECG
R-R
Noninvasive 達 也,森
T,
Moritani
interval
power
田 真 志,桝
田
出,中
尾 一 和(1994)安
静 時 及 び
拍 変 動 ス ペ ク トル 解 析 に よ る 比 較 検 討.別
T(2000)Assessment spectral
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冊 プ
autonomic
ner
depolarization-repo-
Electrocardiol,5,336-345 谷 敏 夫(2006)月
経 前 症 候 群 の発 現 に 関 与 す る神 経 生 理 学 的 要
因:黄
体 後 期 に お け る 自律 神 経 活 動 動 態 と 不 定 愁 訴 と の 関 連.心
18) Kimura
T,
blood
Physiol,
Matsumoto
T,
21)
23)
J Psychosomat T, Yamori
E, Moritani
T,
E,
ance
assessed
Kannagi
M,
with
T,
Oida
JFX,
Shannon
26)
Oida
27)
28)
T(2006)Body
nervous
T, Hayashi
T,
system
Suzuki
of eumenorrheic
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vagosympathetic
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Moritani
activity
T, Yamori
tone-entropy
T,
nerve
Moritani
Gynecol,
assessed
Wang
Kannagi
Ohnuki
Obst
E, Moritani
CE(1948)A
E,
療 内 科,9,359-366
Aso
to resting
Y(1997)Tone-entropy
the tone-entropy
fibers in anesthetized 25)
N,
Moritani
through
population
24) Jones
T, Morimura
Moritani
assessed
Oida
female
are related
N,
Physiol,82,1794-1801
E, Kannagi
Amano
Y, Miyasaka
activity in the late luteal phase
Oida
modulation 22)
system
symptomatology.
Oida
Owa
women
Ushiroyama
nervous
cise. J Appl
M,
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Autonomic
20)
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Matumoto
T, Miyawaki
taining
yellow
lean and 30)
obese
Matumoto genic
C, Ue
curry
sauce
young
Yuasa
Nutr
C, Ue
response
H,
T, Miyatsuji
sympathetic
women,J
T, Miyawaki
sympathetic
on
nervous
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of capsaicin-con
diet-induced
thermogenesis
in
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H, Kanda
to food
A, Moritani system
T, Yoshitake
intake
between
Y, Moritani
obese
and
T(2001)Comparison
non-obese
young
of thermo
women.
Obesity Res,9,
78-85 31)
Nagai
N,
System
Matsumoto
Activity
T,
and
Kita
H, Moritani
the State and
T(2003a)Interrelationship
Development
of Obesity
of the Autonomic
in Japanese
School
Children.
Nervous
Obesity Res,11,
25-32 32)
Nagai and
33)
N, Moritani obese
Nagai
T(2004a)Effect
children.
N,
Hamada
autonomic
of physical
activity on
autonomic
nervous
system
function
in lean
Int J Obesity,28,27-33 T, Kimura
T, Moritani
nervous
system
Yasuda
K, Moritani
T(2004b)Moderate
activity in children
with
low
physical heart
exercise
rate variability.
increases
cardiac
Child's Nervous
System,
20,209-214 34) Shihara
N,
tion between
Trp64Arg
J Clin Endocrinol 35)
Shihara
N,
Yasuda
genes
on
Nagai
N, Sakane
pling
K,
Clin. Endocrinol.
Moritani effect
autonomic
protein-1
H, Adachi
T, Tanaka
of the β3-adrenergic
H, Tsuda
receptor
and
K, Seino autonomic
Y(1999)The nervous
associa system
activity.
Metab,84,1623-1627
(2001)Cooperative
36)
T, Ue
mutation
nervous N,
gene
Ueno
T, Ue
H, Uno
of polymorphisms system
ML,
diminishes
Hamada
Adachi
of uncoupling
T, Nunoi protein
K,
Seino
Y, Yamada
Y, Tsuda
1 andβ3-adrenergic
K
receptor
activity. Int J Obesity,25,761-766 T, Moritani
postprandial
Metabolism,88,5661-5667
M,
T(2003b)The-3826
thermogenesis
A→G
after a high-fat
variant meal
of the uncou
in healthy
boys.
J.
37)
Ueno
LM,
Moritani
activities and 38)
Ueno
LM,
Effect
39)
Miyachi
of aging
Brazil J Med M,
T, Takahashi
artery
K, Yamazaki
stiffness and
T, Miyawaki
賀 利 一,森
宮 脇 尚 志,阿 志,森
T, Nakao
obese
谷 敏 夫,桝
部
cardiac
during
autonomic
nervous
S, Moritani
head-out
田
K(2002)Exercise
women.Int
T(2005)
water
immersion
出,林
幡 兼 成,梶
山
達 也,中
登,勝
prescription
based
upon
J Obesity,26,1356-1362 尾 一 和(2003)運
動 時 にお け る リ ア ル タ
力 科 学,52,295-304
間 寛 和,齋
藤 信 雄,大
島 秀 武,枡
拍 変 動 パ ワ ー 値 か ら み た 新 し い 持 久 性 体 力(THRV体
田
力)の
出,柴
田真
評 価 及 び肥 満 と
満 研 究,9,110-115
浅 野 勝 巳(訳)(1985)栄
43) American
College
ty of exercise Sci Sports 44)
恵,八
谷 敏 夫(2003)心
の 関 連.肥 42)
on
K, Onodera
sensitivity
イ ム で の 心 拍 変 動 解 析 に 基 づ く 至 適 運 動 強 度 の 決 定.体 41)
training
K, Hayashi
baroreflex
T, Hayashi
activity for middle-aged
大 島 秀 武,志
exercise
Physiol,89,109-114
Biol Res,38,629-637
Moritani
vagal
Matsui
carotid
Shibata
of long-term
sensitivity. Eur J Appl
M,
on
in man.
cardiac 40)
T(2003)Effects
baroreflex
養 と 身 体 作 業.運 of Sports
動 生 理 学,p.384,大
Medicine(1990)Position
for developing
and
maintaining
修 館 書 店
stand
on
the recommended
cardiorespiratory
muscular
quantity
and
fitness in healthy
qual-
adults. Med
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ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 医 学 別 冊,40,430-
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肥 満 症 ― 生 理 活 性 物 質 と肥 満 の 臨 床 」,61,
277-282 46) Amano
M,
Kanda
ty in obese 47)
Cotman
T, Ue
individuals.
CW,
Berchtold
plasticity. Trends 48)
Cotman
H, Moritani Med
CW,
T(2001)Exercise
Sci Sports
training
and
autonomic
nervous
system
activi
Exer,33,1287-1291
NC(2002)Exercise
a behavioral
intervention
to enhance
brain
health
and
Neurosci,25,295-301
Engesser-Cesar
C(2002)Exercise
enhances
and
protects
brain
function.
Exerc
Sport
Sci Rev,30,75-79 49)
Nakai
M,
Harada
Metabolites 50)
Ikeda
M,
T, Nishijima
sesamin
K, Akimoto Ingested
Y, Shibata
administration
51) Matsumura
on
H,
Protection
diovascular
hypertrophy.
Matsumura
Y, Kita
aortic
rings
K, Shibata Agric
Y, Ohnuki
K, Fushiki
Kiso
Food
W,
K, Furuya
M,
Kiso
Y(2003)Novel
Chem,51
T(2003)Protective
Int J Sports
Oka
deoxycorticosterone
Antioxidative
(6),1666-1670
T, Moritani
lipid peroxidation.
S, Akimoto against
Biol Pharm
H, Miki
Sesamin.J
exercise-induced
Y, Kita S, Morimoto
effect of sesamin:I.
52)
Nakahara
in Rat Liver with
N, Tanaka
effect of
Med,24,530-534 T(1995)Antihypertensive
acetate-salt-induced
hypertension
and
car
Bull,18,1016-1019
S, Ohgushi R,Okui
T(2000)Effects
of deoxycorticosterone
of sesamin
acetate-salt-induced
on
hypertensive
altered
vascular
reactivity
rat. Biol
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Bull,23(9),
in
1041-5 53)
Moritani
T(2004)The
Perspectives―Novel 54)
森 谷 敏 夫,林
antioxidant
and
Compounds 達 也,木
free
From
radical
Natural
村 哲 也(2003)喫
Hibino nerve
56)
G, Moritani
T, Fushiki
Y,Ikeda
ingestion
on
using
T, Takamatsu
M,
autonomic
nervous
New
Millennium,
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煙 科 学 財 団 報 告 書
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activity in humans:Quantification
Nishijima feine
T, Kawada
effect of sesamin.
in The
煙 に 伴 う 心 臓 自 律 神 経 活 動 動 態 の 変 化 と活 性 酸 素 の 生 成
に 対 す る 新 し い 抗 酸 化 物 質 セ サ ミ ン の 抑 制 効 果.喫 55)
scavenging
Products
Kiso
power
Y, Shibata activity
enhances
spectral
H, Fushiki
during
modulation
of parasympathetic
analysis. J Nutr,127,1422-1427 T, Moritani
endurance
T(2002)Influence
exercise
in humans.
of caf Eur
J Appl
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森 谷 敏 夫(2005)コ
ー ヒ ー の 抗 肥 満 効 果:自
律 神 経 活 動 と エ ネ ル ギ ー 代 謝 亢 進 の 作 用 機 序 の 解 明.
全 日本 コ ー ヒ ー 協 会 報 告 書 58)
石 光 俊 彦(2004)高
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本 臨 床,62,65-69
59) Kawada
T, Hagihara
diet.J Nutr, 60) Kawada on
T, Watanabe
energy
and 61)
K, Iwai
T, Takaishi
metabolism
substrate
Kreier
utilization. Proc
F, Yilmaz
bolic syndrome. Grekin
A,
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in rats fed a high
fat
K(1986b)Capsaicin-induced on
oxygen
β-adrenergic
consumption,
the respiratory
action quotient,
Biol Med,183,250-256
A,
Romijn from
JA,
Sauerwein
activity to food
HP, leads
Fliers
E,
to autonomic
Buijsreier unbalance
RM(2003) and
the meta
Diabetes,52,2652-2656 AP,
for obesity
Stepniakowski
T, Iwai of capsaicin
Soc Exp
Kalsbeek
the equilibrium
RJ, Vollmer
mechanism 63)
of capsaicin
T, Tanaka
in rats:Influence
Hypothesis:Shifting
62)
K(1986a)Effects
116,1272-1278
KT,
Sider
RS(1995)Pressor
hypertension.
Goodfriend
effect of portal
venous
lactate infusion.
A proposed
Hypertension,26,195-198
TL,
Egan
BM(1995)Fatty
acids enhance
vascular
α-adrenergic
sen
sitivity. Hypertension,25,774-778 64)
Marfella
R, DeAngelis
L, Nappo
fatty acid concentrations 65)
永 井 成 美,坂
根 直 樹,森
の 食 後 血 糖 値,満 66)
Gross
V, Plehm
baroreflex 67)
Matsunaga Yasuda vous
R, Tank
T,
in AT2
Nagasumi
in young
D,Siniscalchi
repolarization 食 欠 食,マ
ネ ル ギ ー 消 費 量,及 J, Jordan
J, Diedrich
receptor-disrupted K, Yamamura
K(2005)Association system
cardiac
谷 敏 夫(2005)朝
腹 感,エ
function
F, Manzella
prolong
healthy
of C825T Japanese
T,
Paolisso
G(2001)Elevated
subjects.
Am
A, Obst
ク ロ ニ ュ ー ト リ エ ン トバ ラ ン ス が 若 年 健 常 者
M,
Luftet
尿 病,48,761-770
FC(2002)Heart
rate variability and
Hypertension,40,207-213
N, Nishikino
polymorphism Individuals.
plasma
J Clin Nutr,73,27-30
び 自 律 神 経 活 動 へ 及 ぼ す 影 響.糖
mice. Gu
M,
in healthy
M,
Ueda
of G protein Amer
J Hyperten,
Y, Moritani β3 subunit 18,523-529
T, Aoki
with
N, Tsuda
the autonomic
K, ner
索
引
イ ンス リ ン依存 的糖 輸 送 促 進 あ
行
24
風 邪 50 活 性 酸 素 146
イ ンス リ ン感 受性 31
活 性 酸 素 種 28
亜 鉛 欠 乏 93
イ ンス リ ン受 容体 基 質1
ア ク チ ンフ ィラ メ ン ト 81
イ ンス リ ン抵 抗 性 36
カテ コ ラ ミン 110
ア ス トロ サ イ ト 111
イ ンス リ ン非 依存 的糖 輸 送 促 進
カ フ ェ イ ン 27,147
ア スパ ラ ギ ン酸 6 ア ス リー ト 15 ア セ チ ルCoA
31
カル シ ウ ム依 存 性ATPア
24 イ ンス リ ン様 成 長 因 子 59,93
ル ボ キ シ ラー
ゼ 104
ーゼ
88 カル シ ウ ム ポ ンプ 83
5,108
ア セチ ルCoAカ
活 性 窒 素 種 28
運 動 習慣 142
カル シ トニ ン 88
運 動性 貧 血 93,94
カル シ トニ ン 遺伝 子 関 連ペ プチ ド 106
ア セ チ ル カ ル ニ チ ン 102
運 動 直 後 摂 取 16
ア セ ト酢 酸 120
運 動 直 前 摂 取 16
カル シ ニ ュ ー リ ン 62 カル ニ チ ン パ ル ミ トイ ル トラ ン
ア セ トン 120
運 動 トレー ニ ング 38
圧 受容 体 反 射 152
運 動負 荷 試 験 134
ア デ ノ シ ン三 リ ン酸 19,65
運 動療 法 37
ス フ ェ ラ ー ゼ1 104 カル モ ジ ュ リ ン 85
ア ドレナ リ ン 67,108,149
感 染 50
ア ナ ポ リ ック ホ ル モ ン 59
栄 養 機 能 食 品 98
ア ミノ 酸 19
エ ス トロ ゲ ン 89
ア ミノ 酸 サ プ リ メ ン ト 16
エ ネル ギ ー 消 費 量 151
基 質 準 位 の リ ン酸 化 20
γ-ア ミノ 酪 酸 3
エ ネ ル ギ ー 代 謝 5,48,100,107
希 釈 性 貧 血 96
δ-ア ミノ レブ リ ン酸 デ ヒ ドラ
炎 症 性 サ イ トカ イ ン 53
喫 煙 146
ター ゼ 84
肝 臓 4,10,107
喫 煙 習 慣 137
ア ラ ニ ン 6
横 行 小 管 27
虚 血 性 心 疾 患 141
安全 運 動 閾 値 139
2-オ キ ソグ ル タル 酸 デ ヒ ドロゲ
筋 形 質 81
安全 作 業 閾 値 138
ナ ー ゼ 86
筋 原 繊 維 81
ア ン ドロゲ ン 59 ア ンモ ニ ア 2
筋 交 感 神 経 活 動 125 か
行
筋 収 縮 82 筋 小 胞 体 27
胃 111
解 糖 系 101
筋 繊 維 81
イ ソ ク エ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ
海 洋 深 層 水 148
筋 タ ンパ ク 質 合 成 12
ガ ウス 分 布 133
筋 タ ンパ ク 質 分 解 14
イ ソ ロ イ シ ン 1 一 酸イヒ窒 素 29
拡 張 型 心 筋 症 139
筋 肉痛 15
イ ンス リ ン 13,30,108
下 垂 体 118
86
過 酸 化 脂 質 96 クエ ン酸 回 路 5,85
グ リ コ ー ゲ ン 7,32,48,65,73,
抗 炎 症 性 サ イ トカ イ ン 53
視床 下 部 107,113,135
交 感 神 経 124
室 房 核 114
グ リ コ ーゲ ン分 解 107
交 感 神 経 系 114,116
脂 肪 細 胞 135
グ リ コー ゲ ン ホ ス ホ リ ラー ゼ
好 気 的 代 謝 100
脂 肪 酸 19,107
高 血 圧 自然 発 症 ラ ッ ト 145
脂 肪 組 織 109
抗 酸 化 剤 29
脂 肪 燃 焼 率 140
高 周 波 成 分 128
主 観 的運 動 強 度 12
グ リセ ロー ル 109
恒 常 性 124
循 環 調 節 124
グ ル カ ゴ ン 108
甲 状 腺 ホ ル モ ン 57,63
消化管
グ ル コー ス 19,107
香 辛 料 辛 味 成 分 149
情 報 理 論 130
グ ル コー ス-ア ラニ ン回 路 11,
高 速 フ ー リエ 変 換 147
食 塩 味 覚 閾値 152
更 年 期 障 害 146
食 事 誘 発 性 熱 産 生 151
グ ル コー ス-脂 肪 酸 回 路 104
呼 吸 交換 比 49,69
食 欲 調 節 機 能 142
グ ル コー ス ホ ス フ ァ ター ゼ
呼 吸 商 49,69
自律 神 経 124
85,102
85 グ リ コー ゲ ン ホ ス ホ リ ラー ゼ キ ナ ー ゼ 85
106
107 グ ル タチ オ ンペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 97
111
骨 亜 鉛 90
自律 神 経 系 108
骨 塩 88
心 筋 脱 分 極 ・再 分 極 時 間 129
骨 格 筋 1
神 経 栄 養 伝 達 143
グ ル タ ミ ン 3
骨 基 質 88
神 経 性 循 環 調 節 機 能 126
グ ル タ ミ ン酸 3,6
骨 吸収 88
心 周 期 130,131
ク レア チ ンキ ナ ー ゼ 15
骨 形 成 88
心 臓 109
ク レア チ ン リ ン酸 67
骨 小 腔 88
腎 臓 111
ク レア チ ン リ ン酸 系 101
骨 粗 鬆 症 89
心 電 図Q-T間
隔 129
ク ロ ス ブ リ ッ ジ 82
骨 マ グ ネ シウ ム 90
心 電 図R-R間
隔 126
コ ハ ク酸-CoQレ
心 拍 加 速 ・減 速 131
血 圧 降 下作 用 141 血 圧 調 節 125 血 圧 調 節 関 連 遺 伝 子 変 異 153 血 圧 波 動 指 数 145
ダ ク ター ゼ 複
合体 87
心 拍 加 速 ・減 速 時 間 130
コ ル チ コ トロ ピ ン放 出 因 子 121
心 拍 変 動 係 数 128,133
コ ルチ ゾ ー ル 107
血 液 ドー ピ ン グ 87 血 液 脳 関 門 11,112
心 拍 の ゆ ら ぎ 127
心 拍 変 動 ス ペ ク トル解 析 127 心 拍 ゆ ら ぎの パ ワ ー 138
さ
行
心 不 全 126
月 経 異 常 90 月 経 前 症 候 群 129
最 大 酸 素 摂 取 量 72,140
膵 臓 110
結 節 乳 頭 核 118
サ イ トカ イ ン 46
ス ー パ ー オ キ シ ドア ニ オ ン 28
血 中 ア ミノ酸 組 成 6
細 胞 内 シ グ ナ ル伝 達 153
ス ポ ー ツ飲 料(ド
血 中 乳 酸 137
サ プ リ メ ン ト 97,98
血 糖 値 149
サ ル コ メ ア 82
α-ケ トイ ソ カプ ロ ン酸 10
酸 化 ス トレ ス 28,95,145
成 長 ホ ル モ ン 59,107
α-ケ トグ ル タル 酸 3
酸 化 的 リ ン酸 化 19
赤 色 筋 83
ケ トン体 107,120
酸 化 物 質 28
セ サ ミ ン 145
嫌 気 性 代 謝 閾 値 137
酸 素 摂 取 量 67
摂 取 タ イ ミ ン グ 15
嫌 気 的 代 謝 100
酸 素 負 債 101
摂 食 中 枢 135
リ ン ク) 76,
91
セ ル ロプ ラス ミ ン 84
セ レ ン 97
トウ ガ ラ シ 149
脳 由 来 神 経 栄 養 因 子 143 ノル ア ドレ ナ リ ン 110
セ ロ トニ ン 11
銅 欠 乏 84,85
セ ロ トニ ン仮 説 45
糖 原性 ア ミノ 酸 11
セ ロ トニ ン トラ ンス ポ ー タ ー の
洞 室 伝 導 時 間 125
選 択 的 阻 害 剤 46 漸 増 運 動 負 荷 運 動 138
は
行
糖 新 生 107 白色 筋 83
糖 代 謝 改 善 140 糖 毒 性 35
白色 脂 肪 組 織 135
相 対 的 占 有 率 131
糖 尿 病性 自律 神 経 障 害 128
発 熱 50
速 筋 繊 維 83
糖 輸 送 21
ハ プ トグ ロ ビ ン 95
ソ マ トメ ジ ンC 93
糖 輸 送 担 体 21
パ ラ トル モ ン 88
特 有 の 香 り 148
バ リ ン 1
た
行
突 然 死 127 トラ ンス ロケ ー シ ョン 22
ヒ ス タ ミン 118
耐 糖 能 正 常 者 152
トリグ リセ リ ド 102,109
ビ タ ミ ンC 96,97
脱 共 役 タ ンパ ク質 135
トリプ トフ ァ ン 11,45
ビ タ ミ ンE 96,97
脱 水 70
トロ ポ ニ ン 81
必 須 ア ミノ酸 1
炭水化物 7
トロ ポ ミオ シ ン 82
ヒ ドロ キ シ ア パ タイ ト 88
男 性 ホ ルモ ン 59
β-ヒ ドロキ シ酪 酸 120
タ ンパ ク質 サ プ リメ ン ト 16
な
行
非 肥 満 児 142 肥 満 36
タ ンパ ク質 摂 取 量 15 内 臓 脂 肪 型 肥 満 者 140
肥 満 関連 遺 伝 子 多 型 128
遅 筋 繊 維 83
内 分 泌 系 113
肥 満 児 142
致 死 性 不 整 脈 129
内 分 泌 代 謝 疾 患 136
肥満 度 136
チ トク ロ ー ム 84
ナ トリ ウ ム 91
肥満 歴 136
チ トク ロ ー ムcオ キ シ ダ ー ゼ複
鉛 中 毒 85
百分 率 130 標 準 偏 差 133
合 体 87 中 高 年 男 性 141
二 次 元 座 標 空 間 134
ピ ル ビ ン酸 5,11
中 枢 神 経 系 113
乳 酸 44
ピ ル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体
中 枢 性 疲 労 11
ニ ュー ロ ン 111
中 性 ア ミノ酸 輸 送 体 11
尿 素 2,4
ピ ル ビ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ
熱 け いれ ん 92
ピル ビ ン酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ ボ
85
中 性 脂 肪 149 陳 旧 性 心 筋 梗 塞症 139
8,103
熱 産 生 136
ス フ ア ター ゼ 86
低 周 波 成 分 128
熱 中症 92
疲 労 43
低 ナ トリ ウ ム 血 症 92
熱 疲 憊 92
疲 労 感 44 疲 労 骨 折 89
デ キ ス ト リ ン 76 テス トス テ ロ ン 59
脳 108,111
疲 労 度 43
鉄-イ オ ウ タ ンパ ク質 87
脳 神 経 可 塑 性 143
貧 血 93
鉄 欠 乏 84∼87
脳 脊 髄 液 46
鉄 欠 乏性 貧 血 94
脳 卒 中 149
電 子 伝 達系 87
脳 波 デ イ コ ンポ ジ シ ョン解 析 147
フ ェ リチ ン 84 フ ェ ロ キ ラ タ ー ゼ 84 副 交 感 神 経 124
副 交 感 神 経 系 114,116
無 酸 素 性 作 業 閾 値 71
AMPデ
副 腎 髄 質 110
無 酸 素 的 代 謝 100
AT
副 腎 皮 質刺 激 ホ ルモ ン 107
ATP
腹 内側 核 114
迷 走 神 経 125
プ リ ンヌ ク レオ チ ドサ イ ク ル
メ タボ リ ック シ ン ドロ ー ム
3
141 メ ッセ ン ジ ャ ーRNA
分 岐 鎖 α-ケ ト酸 10
免 疫 強 化 142
14
ー ゼ 88
β3作
用 117
β3受
容 体 117
β 酸 化 107
分 岐 鎖 α-ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 キ
分 岐 鎖a-ケ
19,65,67,87,100
ATPア
分 岐 鎖 ア ミノ 酸 1,7,45
ナ ー ゼ 7
ア ミナ ー ゼ 3 71
BCAA
網 状 赤 血 球 95
1,6,7,14
BCAAア
ミ ノ 基 転 移 酵 素 7,10
ト酸 脱 水 素 酵 素 複
合 体 7,10
や
Cペ
行
分 岐 鎖 α-ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 ホ ス ファターゼ 8
プ チ ド 30
CaMKK
薬 理 ブ ロ ッ ク 127
106
CNS
閉 経 143
有 酸 素 的 代 謝 100
ヘ ム 84
遊 離 脂 肪 酸 67
化 受 容 体 61,63
113
CoQ-チ
ト ク ロ ー ムcレ
ー ゼ 複 合 体 87
ヘ モ グ ロ ビ ン 84 ペ ル オ キ シ ソー ム増 殖 因 子 活 性
Cori回
溶 血 94
CPT1
溶 血性 貧 血 94
CRF
房 室結 節 126
ら
26
CGRP
行
路 106 104 121
F-ア
ク チ ン 81
G-ア
ク チ ン 81
ホ ス ホ フ ル ク トキ ナ ー ゼ 3 ホ メ オ ス タ シス 124
ラ ッ ト 10
ホ ル モ ン感 受 性 リパ ー ゼ 67, 109
ま
行
マ グ ネ シ ウ ム 87 マ ロニ ルCoA
GABA GH
リ モ デ リ ング 88
GLUT
リ ラ ク ゼ ー シ ョ ン効 果 148
GLUT1
117
GLUT4
21,117
レ ジ ス タ ンス 運動(ト
104
慢 性 心 不 全 患 者 139
3
リ ジ ル オ キ シ ダ ー ゼ 91
グ) 17,58
107 21
レー ニ ン HIF-1α
レ プチ ン 117,135
満 腹 感 ス コ ア 150
HSL
60 109
hyperplasia
ロ イ シ ン 1,5,13
hypertrophy
ミオ グ ロ ビ ン 84 ミオ シ ン 81
欧
文
ミオ シ ン重 鎖 56
IGF
63
IRS-1
31
ミオ シ ン フ ィ ラ メ ン ト 81
α作 用 118
ミオ ス タチ ン 59
ACC
ミ トコ ン ドリア 7
ACTH
107
LH
AICAR
25
LKB1
AMPK
25,105,118
無 機 質 148
59
IGF-I
104 114,116 26
54,59 54,58
ダ ク タ
56
PDH
Mrf4 55
PDHキ
MHC
103
mRNA
14
PGC-1α
mTOR
63
PI3キ
Myf5 55 Myod
61,63 ナ ー ゼ 31
Poly-I:C
55
myogenin
55
PPAR-α
63
PPAR-γ
61
PVH
NADH-CoQレ 体 87 NO
29
SSRI
114
51
T管
72
22,27
TCA回
路 19,85,102
TGF-β
46,119
TMN
118
UCP1遺
伝 子 変 異 151
ダ ク ター ゼ 複 合 RPE
71
RQ
69
SR
27
VMH
W-7
OBLA
46
ナ ー ゼ 103
114,116
27
編 者 略 歴 伏
木
亨(ふ
しき ・とお る)
1953年 京都府 に生 まれ る 1980年 京都大 学大学院農学研究科博士 課程 修了 現 在 京都大 学大学院農学研究科教授 農学博 士
運動 と栄 養 と食品 2006年11月25日
初 版 第1刷
2007年7月30日
定価 は カバー に表示
第2刷
編 者 伏
木
発行者 朝
倉
会社 発行所 株式 朝
亨 邦
造
倉 書
店
東 京 都 新 宿 区新 小 川 町 6-29 郵
便
電
話 03(3260)0141
FAX
〈 検 印省 略〉 C2006〈 ISBN
号 162-8707
03(3260)0180
http://www.asakura.co.jp シナ ノ ・渡 辺 製 本
無 断 複 写 ・転 載 を 禁 ず 〉 978-4-254-69041-5
番
C3075
Printed
in Japan