最新健康科学概論 緒方正名 監修
前橋 明 大森豊緑 編著
朝倉書店
監 緒 方 正 名
者
岡山大学名誉教授
編 前 橋
修
著
者
明
早稲田大学人間科学学術院 ・教授
大 森 豊 緑
和歌 山...
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最新健康科学概論 緒方正名 監修
前橋 明 大森豊緑 編著
朝倉書店
監 緒 方 正 名
者
岡山大学名誉教授
編 前 橋
修
著
者
明
早稲田大学人間科学学術院 ・教授
大 森 豊 緑
和歌 山県福祉保健部 健康 局 ・局長
執 筆 者(五 十音順) 浅 川 和 美
茨城県立医療大学保健医療 学部 ・助教授
岩 城 淳 子
白鴎大学発達科学部 ・教授
岡本 美 紀
長崎国際大学健康管理学部 ・講師
奥 富 庸 一
筑波大学大学院体育研究科 ・準研究員
熊 谷 賢 哉
長崎国際大学健康管理学部 ・講師
黒 田 育 代
長崎国際大学健康管理学部 ・講師
小 山 洋 子
ノー トルダム清心女子大学人間生活学部 ・講師
佐 野 祥 平
鶴見大学歯学部 ・助手
高 橋 ひ とみ
桃山学院大学法学部 ・教授
田 中
光
洗足学園短期大学幼児教育保育科 ・講師
坪 内 伸 司
大阪府立大学総合教育研究機構 ・講師
中永 征 太 郎
ノー トルダム清心女子大学人間生活学部 ・教授
古 澤 潤 一
岡山医療技術専門学校作業療法学科 ・学科長
星
埼玉県立大学保健医療福祉学部 ・教授
永
水 江 文 香
長崎国際大学健康管理学部 ・講 師
三 宅 孝 昭
大阪府立大学総合教育研究機構 ・講師
本 保 恭 子
ノー トルダム清心女子大学人間生活学部 ・助教授
序 私 が 「健康 科 学 概 論」 を朝 倉 書 店 か ら発 刊 した の は,平 成3年 時 ま で 私 は ス ポ ー ツ疲 労,労 度,朝
の こ とで,当
働 疲 労 の 研 究 を40年 間 続 け て お り ま し た.こ
倉 書 店 の ご好 意 に よ って 志 を 同 じ くす る 同 門 の 前 橋 明先 生,大
の
森豊緑先
生 の編 著 に よ り内 容 を 一新 して 刊 行 さ れ る こ と に な り ま し た.20世 紀 に 進 歩 の 著 しい 自然 科 学 は,我 々 の 生 活 を豊 か に して くれ ま した.21世
紀 に は,科 学 が
人 の健 康 と生 活 を重 要 視 す る よ う に な り,そ れ に と もな っ て健 康 を扱 う各 部 門 の 専 門家 の 裾 野 が 著 し く広 が りま した.そ
して,健 康 科 学 は私 達 の生 活,そ
し
て 幸 福 を築 くた め の 大 切 な部 門 と な りつ つ あ り ます. 本 書 の 内 容:今
世紀 の 「 科 学 的 な健 康 づ く り」 の 時代 に応 え て,健 康 の 意
義 と健 康 づ く りの 方 法 を 中 心 に 記 述 して お りま す.内 生 活,②
身体 活 動 と運 動 ・体 育,③
容 と して,①
休 養 の 各 項 目 に つ い て,さ
栄 養 ・食
らに 健 康 管 理
シ ス テ ム を取 り上 げ,系 統 的 に記 述 して い ます. 本 書 の 特 長:①
長 寿 社 会 に お い て 高 齢 者 に 適 した 体 力 づ く り,成 人 期 か
らの 生 活 習 慣 病 対 策 を含 む 健 康 づ く り,さ ら に わ が 国 の 将 来 か らこれ を背 負 う 幼 児 期,学 た,②
童 期 の体 力 づ く り等,健 康 づ く りを年 齢 別 の 系 で述 べ た 点 で す.ま
レ ク リエ ー シ ョ ンや 歯 科 保 健 等,目
的 別 の 系 に つ い て も配 慮 が な さ れ
て い ます. 高 齢 者,障 害 者 の 健 康 と健 康 づ く り:若
年 者 の み な らず,高
齢 者 で も,多
少 の 機 能 障 害 を 伴 う人 で も,科 学 の 力 で 環 境 に 適 応 で き生 活 の 質(QOL)を 向 上 す る 努 力 が な さ れ て お ります.そ
して,形 態 ・機 能 障 害 を 中心 とす る疾 病
に対 す る健 康 の 概 念 に現 実 的 対 応 が必 要 とな り ま した.「 健 康 と は,肉 体 的, 精 神 的,社
会 的 に 良 好 な 状 態 」 と示 した 世 界 保 健 機 関(WHO憲
は,健 康 の あ り方 を理 念 と して 示 し て い ます.ま 社 会 的 な 存 在 で あ る こ と も示 峻 して い ます.狭 が 認 め られ ず,性,年
齢,社
門家 会 議)と
定義
た,人 は,肉 体 的,精 神 的,
義 の 健 康 と して 「明 らか な疾 病
会 ・自然 環 境 を考 慮 して 一 般 に認 め られ て い る健
康 の 基 準 に あ て は ま る状 態,身 状 態 」(WHO専
章)の
体 の 諸 臓 器 が 正 常 に動 き,互 い に均 衡 を保 っ た 定 義 さ れ て い る の は,生 体 の 内 環 境 が 正 常 に機
能 して い る こ とを示 す もの と思 わ れ ます.一 方,機
能 を 中 心 と し,健 康 な生 活
とい う概 念 で は,広 義 に よ る健 康 と して 「与 え られ た遺 伝 的 ・社 会 的 条 件 の 下 で,身
体 機 能 が 正 し く動 い て い る 状 況 」 と され て お りま す.そ れ は,家 庭 ・社
会 へ の 生 活 活 動 度 が 保 た れ,家
庭 ・社 会 へ の 参 加 が 可 能 な こ とが 主 体 で あ り,
生 活 を重 要 因子 と して い ます.近 を重 み 付 け した生 存 年 齢 で,身
年 の 健康 寿 命 と い う言 葉 も健 康 ・障 害 レベ ル
の 回 りの世 話 が で き る生 活 に 基 づ く もの で す.
外 環 境 に適 応 した 人 を 健 康 と す る 考 え(R.Dubos)は,こ と考 え ら れ ます.憲
の点 を含 ん だ もの
法 第25条 に 国 民 が 健康 で 文 化 的 な 最低 限 度 の 生 活 を 享 受 す
る権 利 を有 す る とあ るの は,健 康 と そ れ に基 づ く生 活 が 私 達 の 生 存 に と って 必 要 な 因 子 で あ る こ と を示 す もの と思 い ま す.私
は,健 康 とは 人 の 状 態 を 生 理 的
に 見 て 正 常 な範 囲 の 中 に保 つ もの で あ っ て,健 康 な生 活 とは,健 康 な 人 と 同 じ よ う な生 活 活 動 が で き る こ と を意 味 す る と考 え て お りま す.そ
して,現 在 は健
康 と共 に 人 の機 能 と し て の正 常 な生 活 が 重 視 され ます. 高 齢 者 が 年 々増 加 し て い る わ が 国 で は,高 齢 に な っ て も 日常 生 活 機 能 を保 つ こ とが 必 要 で す.そ
れ に は,「 使 い 不 足 ・使 い 過 ぎ ・間 違 い 」 を お こ さ な い
「廃 用 性 ・過 用 性 ・誤 用 性 症 候 群 」 をつ く ら な い とい う,生 活 手 段 を もた せ る た め の心 遣 い が 必 要 で す. 予 防 医 学 か らみ た 健 康:予 防 の段 階 別 に 以 下 に述 べ ま す.① 予 防 医 学 の 一 次 予 防 に あ た る健 康 増 進 が 本 書 の 中心 を な して お ります .② 二 次 予 防 に あ た る早 期 発 見,早
期 治 療 は,個 人 ・集 団 共 に そ の 行 動 を中 心 にす るべ き です.
③ 三 次 予 防 で は 治 療,リ
ハ ビ リ テ ー シ ョ ン が 必 要 に な り ます.本
書 で は,リ
ハ ビ リテ ー シ ョ ン部 門 を加 えて い ます.欧 米 の 三 次 予 防 で は,医 師 を 中心 に 患 者 の 症 状 悪 化,合 併 症,再 広 が りつ つ あ る現 在,健
発 の 予 防 が 含 ま れ ます.予 防 医 学 が 一 般 化 し裾 野 が
康 科 学 も対 応 して独 立 化 と統 合 化 の下 で 発 展 す る と思
わ れ ま す. 現 在 社 会 の な かで の私 達 の 健 康 へ の 関 心:1万
年 の 間,保 持 し て きた 身 体
を大 切 に 保 って い くこ とは,私 達 の 使 命 だ と思 い ます.自 然 か ら与 え られ た 人 間 と して の 積 極 的 な運 動 は,健 康 増 進 の重 要 な 要 素 で す.現 在 の,競 争 社 会 の 中 で,健 康 を考 え な が ら,仕 事 をす る こ と,そ
して 規 則 正 しい 毎 日 の生 活 を持
続 す る た め に は忍 耐 力 が 必 要 で す.実 行 を 中 心 とす る とい う観 点 か らい え ば, ① 一 次 予 防 の 健 康 教 育 で は こ れ らの 事 を教 え る こ とが 必 要 と考 え ます.② 次 予 防 で は健 康 を保 つ こ とは,勇 気 と持 続力 を必 要 と し ます.例
え ば,が
二 んの
検 診 を受 け る 意 志 を決 め るの に悩 まな い 人 は 少 な い と思 い ます.そ 自身 の こ とだ け で な く,自 分 の お か れ た 状 態,す
れ は,自 分
な わ ち 現 在 の仕 事 の こ と,そ
して 家 族 の こ と を心 配 す るか らで し ょ う.こ れ を乗 り切 るの は,医 療 技 術 を信 頼 し,健 康 診 断 を 受 け る こ と を決 断 す る 勇 気 が 要 り ます.③ 欧 米 の よ う な現 状 の 改 善,例
え ば,糖 尿 病 の 栄 養 ・臨床 に関 わ る 医 師 が,糖 尿
病 患 者 に対 し栄 養 改 善 の他,耐 含 まれ ます.ま せ,家
三 次 予 防 で は,
糖 性 の 改 善 を含 む運 動 療 法 の 指 導 をす る こ とが
た,身 体 の機 能,構
造 に 障 害 を もた れ た 方 の 活 動 制 限 を減 少 さ
庭 ・社 会 生 活 へ の参 加 制 約 を な くす る リハ ビ リテ ー シ ョ ンが 含 まれ,こ
の 分 野 は,今 後 の 発 展 が期 待 され ます. 公 衆 衛 生 行 政 の健 康 へ の貢 献:昭
和57年 に老 人 保 健 法 が 公 布 され,二 次 予
防 で あ る早 期 発 見,早 期 治療 が 行 わ れ る よ う に な り,成 果 を あ げ て き ま した. 一 方 ,生 活 習 慣 病 予 防 は,原 因 とな る 生 活 習 慣 を整 え る,す な わ ち,健 康 を保 つ こ と に努 力 す る こ とで は,一 次 予 防 に 属 す る も の で す.と
くに健 康 増 進 法 の
施 行 に よ る受 動 喫 煙 の 防止 は行 政 の個 々 の 自助 努 力 に対 す る援 助 で 成 功 しつ つ あ る 一 例 で す.以 上 を ま と め れ ば,予
防,医 療,リ ハ ビ リテ ー シ ョ ン,そ
社 会 の 関 与 と して の 公 衆 衛 生 活 動 も,目 的 は,健 康 です.そ く,意 志 決 定,そ
して
れ は知 識 の み で な
して 実 行 とい う一 連 の 鎖 の 中 に あ り ます.
本 書 の 目指 す も の:多
くの 人 は,健 康 とい う言 葉 は,自
関係 す る も の で あ る と知 っ て い ます.に
もか か わ らず,私
己そ の もの と直 接
た ち の 肉体 や 精 神 を
よい状 態 に保 つ 努 力 は,日 常 生 活 の 忙 し さの 内 に忘 れ が ち で あ り,病 気 を して そ の有 難 さ を知 ります.本 書 で は どの よ うな 方 法 を使 え ば 個 人 の年 齢 や 状 況 に 応 じて の 「健 康 」 を保 持 増 進 で き る か に つ い て,栄 養,運 動,休
養 を中心 と し
て科 学 的 に記 述 す る こ とに努 め ま した. 以 上 の よ う な趣 旨 の も とに,本 書 が わ が 国 の 将 来 の 健 康 科 学 を背 負 う,若 さ と学 識 に あ ふ れ た 諸 氏 に よっ て 執 筆 さ れ た こ と を素 晴 ら し く,心 か ら嬉 し く思 い ます.本
書 が,大
学,専
門 学 校 等 に お い て,健 康 科 学 を学 ぶ 方 々 の 教 科 書 と
して の み な らず,健 康 に 関心 を も た れ て い る 方 々の 参 考 書 と して ご使 用 頂 けれ ば,健 康 の 問 題 に半 世 紀 に わ た り携 わ っ て きた 私 の,心
か らの 喜 び とす る と こ
ろで あ り ます. 2005年10月 監修者 緒 方 正 名
目
1.健
康
と
次
は
(大 森 豊 緑)
1
1.1 健 康 の 定 義 1.2 健 康 と体 力,フ
1 ィ ッ トネス
1.3 生 活 の 質(QOL)と
2
健康
2
1.4 生 活 機 能 と 健 康
3
1.5 プ ラ イ マ リ ・ヘ ル ス ケ ア
4
1.6 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン の 概 念
4
1.7 健 康 の 指 標
5
1.7.1 個 人 の 指 標
5
1.7.2 集 団 の 指 標
5
1.8 わ が 国 の 健 康 の 現 状 と 課 題
2.健
康
の 概
6
念
8
2.1 健 康 の 意 識
(高 橋 ひ と み)
2.1.1 健 康 観 と そ の 変 遷
8
2.1.2 ラ イ フ サ イ ク ル と健 康
9
2.1.3 ラ イ フ ス タ イ ル と健 康
10
2.2 健 康 と運 動 ・体 力 2.2.1 健 康 と運 動
(前 橋
2.3.3 食 事 摂 取 基 準
(岡 本 美 紀)
18
(中 永 征 太 郎)
23
15
18
2.3.2 生 活 習 慣 病 と栄 養
2.4 健 康 と 休 養
13
16
2.3 健 康 と 栄 養 2.3.1 健 康 と栄 養
明)
13
2.2.2 健 康 と ラ イ フ ス テ ー ジ 2.2.3 健 康 と体 力
8
20
20
2.5 健 康 阻 害 要 因 2.5.1 飲 酒
動
と 健
バ コ の 煙 に 含 ま れ る 有 害 物 質 とそ の 作 用
34
3.1.1 実 施 状 況 3.1.2 施 設
(三 宅 孝 昭)
37
3.2 発 達 と運 動
37 (乳 幼 児 期 ∼ 高 齢 期)
3.2.1 運 動 の 発 現 メ カ ニ ズ ム
(田 中
3.2.2 乳 幼 児 期 の 運 動
(田 中
光) 41
3.2.3 幼 少 年 期 の 運 動
(田 中
光) 45
3.2.4 青 年 期 の 運 動
3.2.6 高 齢 期 の 運 動
(高橋 ひ とみ) 50
(高橋 ひ とみ) 52
ポ ー ツ,レ
3.3.1 体 育 と は
39 光) 39
(高橋 ひ とみ) 47
3.2.5 壮 年 期 ・熟 年 期 の 運 動
ク リエ ー シ ョ ン の意 義
明)
55
(田 中
光)
60
(前 橋
明)
64
57
3.3.3 レ ク リ エ ー シ ョ ン と は
59
トレー ニ ン グ理 論 と運 動 処 方 ト レー ニ ン グ の 五 大 原 則
3.4.2 運 動 処 方 3.4.3 超 回 復
(前 橋
56
3.3.2 ス ポ ー ツ と は
3.4.1
34
34
3.1.3 行 政 施 策
3.4
28
康
3.1 運 動 ・ス ポ ー ツ の 現 状
3.3 体 育,ス
26
26
2.5.2 喫 煙:タ
3.運
(浅 川 和 美)
60
61 62
3.4.4 シ ェ イ プ ア ップ
63
3.5 運 動 と 疲 労 3.5.1 疲 労 と は 3.5.2 疲 労 の 原 因
64 64
3.5.3 ス ポ ー ツ や 運 動 に 現 れ る疲 労 3.5.4 疲 労 の 検 査
68
3.5.5 運 動 と 過 労
73
3.5.6 疲 労 の 予 防 と回 復
73
65
3.5.7 疲 労 対 策
4.食
74
生 活 と 健 康
76
4.1 食 生 活 の 現 状
(黒 田 育 代)
76
4.2
(水 江 文 香)
79
日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準,食 生 活 指 針
4.2.1 生 活 の 質 の 向 上 と栄 養 4.2.2 食 生 活 指 針
79
79
4.2.3 食 生 活 の 未 来
81
4.3 身 体 活 動 と エ ネ ル ギ ー 代 謝 4.3.1 運 動 と栄 養
4.3.2 か ら だ づ く り と栄 養
(熊谷 賢 哉 ・黒 田 育 代) 85
4.3.3 栄 養 とエ ネ ル ギ ー 代 謝
(坪 内 伸 司) 92
4.4 ス ポ ー ツ 栄 養 と サ プ リ メ ン ト
(中 永 征 太 郎)
4.4.1 ス ポ ー ツ 用 サ プ リ メ ン トの 分 類
98
4.4.3 サ プ リ メ ン トの 過 剰 摂 取 に よ る 障 害 へ の 配 慮 4.4.4 サ プ リ メ ン トの 望 ま し い利 用 法
養
98
99
と 健 康
102
5.1 睡 眠 と 生 活 リ ズ ム 5.1.1 睡 眠 と 覚 醒 リ ズ ム
102
(奥 富 庸 一)
105
103
5.2 ス ト レ ス と 健 康 5.2.1 ス ト レス と は
(中 永 征 太 郎) 102
5.1.2 大 人 の 生 活 リズ ム の 乱 れ と睡 眠 障 害
105
5.2.2 ス ト レス に対 す る 反 応 と対 処 行 動 5.2.3 ス トレ ス を た め や す い 特 性 5.2.4 ス トレ ス マ ネ ジ メ ン ト
6.ラ
105
107
107
イ フ ス テ ー ジ と健 康 管 理
6.1 乳 幼 児 期 6.1.1 遅 い 就 寝
94
97
4.4.2 サ プ リメ ン トの ス ポ ー ツ に お け る効 能
5.休
82
(熊 谷 賢 哉) 82
(前 橋 110
6.1.2 生 活 リ ズ ム の 乱 れ
111
明)
110 110
6.1.3 体 温 異 常
112
6.1.4 生 活 リ ズ ム 改 善 へ の 提 案 6.1.5 生 命 力 の 低 下
113
116
6.2 児 童 期
(岩 城 淳 子)
6.2.1 統 計 か らみ る 社 会 と子 ど も
118
6.2.2 子 ど もの 健 康 課 題 と学 校 保 健 6.3 青 年 期(大
119
学 生 の 健 康)
(星
6.4 成 人 期 6.4.1 青 年 期(20∼29歳)
126
6.4.2 壮 年 期(30∼49歳)
127
6.4.3 熟 年 期(50∼64歳)
131
6.5 高 齢 期 6.5.1 生 体 の 加 齢 変 化 6.5.2 高 齢 期 の 疾 患
7.保
125
(小 山 洋 子)
132
137 (奥 富 庸 一)
137
(奥 富 庸 一)
141
(大 森 豊 緑)
146
138
7.2 健 康 支 援 施 策 7.2.1 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン
141
7.2.2 わ が 国 に お け る健 康 増 進 施 策 7.2.3 母 子 保 健 施 策
143
7.2.4 老 人 保 健 施 策
145
7.2.5 こ れ か ら の 健 康 支 援
142
145
7.3 健 康 管 理 シ ス テ ム 7.3.1 健 康 管 理 の た め の 諸 条 件 7.3.2 健 康 管 理 の 方 法
148
7.3.3 健 康 管 理 の 実 際
150
会 生 活 と健 康
(小 山 洋 子)
137
7.1.2 保 健 行 動 の モ デ ル
8.社
122
134
健 行 動 と健 康 管 理 シス テ ム
7.3.4 疾 病 管 理
永)
133
7.1 保 健 行 動 7.1.1 保 健 行 動 と は
117
146
155
162
8.1 職 業 ・作 業 活 動 と健 康 8.1.1 作 業 活 動 と健 康 8.1.2 生 活 環 境
162
(浅 川 和 美)
169
(佐 野 洋 平)
173
162
166
8.2 住 環 境 と 健 康 8.2.1 内 的 環 境 と外 的 環 境 8.2.2 環 境 の 分 類 と要 素 8.2.3 住 環 境
(古 澤 潤 一)
169 170
170
8.3 歯 と 口 の 健 康 8.3.1 歯 と口 の 発 育 成 長
173
8.3.2 歯 と口 の 主 な 機 能
175
8.3.3 ラ イ フ ス テー ジ別 に見 た 歯 と口 の 健 康
176
8.4 子 育 て 支 援 法
(前 橋
8.4.1 子 育 て 支 援 の 基 本
(本 保 恭 子)
188
182
8.4.3 疲 労 度 の 高 い 母 親 に 対 す る具 体 的 な 支 援
186
8.4.4 育 児 支 援 の 具 体 的 な 活 動 内 容 例 お よ び留 意 点 8.5 障 害 児 と 健 康
187
189
8.5.2 鍛 錬 と運 動 8.5.3 食 事
180
181
8.4.2 育 児 支 援 者 の 心 構 え
8.5.1 生 活 リ ズ ム
明)
190
190
8.5.4 健 康 に 配 慮 した 環 境 の 整 備
191
8.6 障 害 者 と健 康
192
8.6.1 健 康 の 視 点 か らみ た リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 8.6.2 障 害 者 ス ポ ー ツ
索
引
(古 澤 潤 一) 192
(本 保 恭 子) 196
201
1.
健康 とは
1.1 健 康 の 定 義
健 康 の 定 義 に つ い て 最 も広 く知 られ て い るの は,WHO(世
界 保 健 機 関)憲
章 の 前 文 に示 さ れ て い る もの で,「 健 康 と は,身 体 的,精 神 的 お よび 社 会 的 に 完 全 に良 好 な 状 態 で あ っ て,単 に 疾 病 が な い とか 虚 弱 で な い とい うだ け で は な い 」 と定 義 され て い る. こ のWHOの
定 義 は,健 康 を 単 に 病 気 で な い とい う だ け で な く,完 全 に 良
好 な状 態(well-being)と
した こ と,そ
して,社 会 的 な側 面 まで 含 め て い る こ
とか ら,理 想 的 な 健 康 像 を示 し た もの とい え よ う.ま た,同
前 文 に は,「 到 達
し う る最 高 水 準 の 健 康 を 享 受 す る こ と は,す べ て の 人 の 基 本 的権 利 の 一 つ で あ る」 と も述 べ られ て い る. 一 方,人 ら,R.デ
の 健 康 は,人 体-環 境 の恒 常 性 の 上 に 成 り立 っ て い る との 考 え方 か ュ ボ ス は,「 健 康 とは 環 境 へ 適 応 した 状 態 で あ り,そ れ を 得 る た め に
は変 化 し続 け る環 境 へ の た ゆ ま ざ る 適 応 努 力 が い る 」1)と述 べ て い る.こ 義 は,健 康 を環 境 へ の 適 応 関係 と して 相 対 的 に捉 え る と と もに,絶
の定
えず 変化 す
る もの とみ な して い る.高 齢 化 の 進 展 に伴 い,疾 病 や 障 害 を もつ 者 が 増 加 す る 中 で,よ また,自
り現 実 に即 した 考 え方 で あ る. らの 健 康 状 態 につ い て 尋 ね られ る と,多
を も っ て い て も,「 健 康 で あ る」 と答 え る.つ
くの 人 は た とえ病 気 や 障 害
ま り,理 想 的 な健 康 状 態 と は い
え な く と も,各 個 人 の 価 値 観 で 自 らの 健 康 状 態 を受 容 し,生
きが い を も っ て生
活 して い る わ け で あ る.小 泉 は,こ れ を 「主 観 的 健 康 」2)と呼 び,健
康 には客
観 的 な もの と主 観 的 な もの が あ る と して い る.
1.2 健 康 と体 力,フ
ィ ッ トネ ス
健 康 に 関連 す る概 念 と して,わ が 国 で は 「体 力 」 とい う語 が あ る.福
田に よ
る と,体 力 と は 「人 間 の 生 存 と活 動 の 基 礎 を なす 身 体 的 お よび 精 神 的 能 力 」4) と定 義 され て い る.体 力 に は,行 動 体 力 と防 衛 体 力 とが あ る.防 衛 体 力 と は, 環 境 の変 化 へ の適 応 能 力,疾 病 や 病 原 体 に対 す る身 体 的 お よび 精 神 的 な抵 抗 力 で あ り,健 康 の 基 礎 を な す もの で あ る.一
方,行
動 体 力 は,活 動 を行 う 能 力
(狭 義 の体 力)で
あ り,こ の 能 力 が 高 い 者 ほ ど,活 動 的 で,健 康 的 で あ る こ と
が 推 測 され る.ま
た,行 動 体 力 は,体 力 テ ス トや 運 動 能 力 テ ス ト等 に よ り,そ
の 一 部 は測 定 可 能 で あ る. 一 方,欧 米 で は,「 フ ィ ッ トネ ス(fitness)」
とい う語 が 広 く使 わ れ て い る.
フ ィ ッ トネス とは,一 般 に 「生 理 的 お よび 心 理 的 ・社 会 的 ス トレ ッサ ー を う ま く調 整 す る こ と に よ り,恒 常 性 を維 持 し,環 境 に適 応 す る 能 力 」 と され て い る.フ
ィ ッ トネ ス は,前 述 した体 力 に近 い概 念 で あ るが,最
応 能 力 とい うだ け で な く,健 康 的 な 生 活 習 慣,食
近 で は環 境 へ の 適
生 活 ・運 動 実践 な ど を含 む 健
康 ・体 力 づ く りを指 す 言 葉 と して用 い られ る よ う に な っ て きた4). ま た,フ
ィ ッ トネ ス を発 展 させ た 「ウ ェ ル ネ ス(wellness)」
あ る が,こ
の ウ ェ ル ネス は,よ
ス タ イ ル(生
活 習 慣)の
とい う概 念 が
り高 い健 康 を実 現 す る た め の,健 康 的 な ラ イ フ
実 践 活 動 を い う.ウ
ェル ネス運動 の創 始者 とされ る
H.ダ ン は,「 ウ ェ ル ネス と は,各 個 人 が お か れ て い る 状 況 の 中 で,個
人 の もつ
潜 在 的 な 能 力 を可 能 な か ぎ り,最 大 限 に 引 き出 す こ と を 目的 と した 総 合 的 な働 きか け」5)として い る.
1.3 生 活 の 質(QOL)と
健康
医 学 や 健 康 科 学 の 進 歩 な どに よ り,平 均 寿 命 が 長 くな っ た 今 日,健 康 を単 な る 人 生 の 長 さ(生 命 の 量)だ
け で な く,そ の 質(QOL:quality
of life)で 捉
え よ う とす る考 え方 に関 心 が 高 ま っ て い る. WHOは,「QOLと
は,個 人 が 生 活 す る 文 化 や 価 値 観 の 中 で,目 標 や 期 待,
基 準 お よ び 関 心 に か か わ る 自己 の 人 生 の状 況 に つ い て の 認 識 」6)と定 義 して い る. QOLは,わ
が 国 で は 生 命 の 質,あ
る い は生 活 の 質 と訳 さ れ て い る が,そ
意 味 す る と こ ろ は,健 康 を主 観 的 お よ び客 観 的 に,ま
た身 体 面,精
神 面,社
の 会
面 か ら トー タ ル(全 人 的)に 捉 え よ う と す る もの で あ る.
1.4 生 活 機 能 と 健 康
WHOは,2001年 ICFは,国
に
「国 際 生 活 機 能 分 類 」(ICF)7)を
際 障 害 分 類(1980)を
機 能(functioning)」
策 定 し た(図1.1).
改 定 し た も の で あ る が,人
と い う 観 点 か ら捉 え,そ
間の能力 を
「生 活
れ が 制 限 され た状 態 を 障 害 と位
置 づ け て い る 点 で 画 期 的 な も の で あ る. ICFで ture)」
は,人
が 生 き る こ と を,「 心 身 機 能 ・構 造(body
「活 動(activity)」
「参 加(participation)」
る 生 活 機 能 と し て 総 合 的 に 捉 え て い る.そ ベ ル 問 の 相 互 作 用,お
よ び,こ
値 観 な ど が 含 ま れ,環
function
こ で,個
活 機 能 は,こ
人 因 子 に は,性,年
境 因 子 に は 物 的 環 境 の ほ か,人
図1.1 ICFの
生 活 機 能 モ デ ル(WHO)
and
struc
の レベ ル で 構 成 さ れ
れ ら と 健 康 状 態 や 環 境 因 子,個
作 用 に よ っ て 規 定 さ れ て い る.こ イ ル,価
し て,生
の3つ
れ ら3つ
の レ
人 因 子 との 相 互 齢,ラ
イ フス タ
的 環 境,制
度的
環 境,社
会 的 意 識 な ど が 含 ま れ る.
一 方,生 れ,そ
活 機 能 の3つ
れ ぞ れ
の レ ベ ル が 低 下 し た 状 態 が 障 害(disability)と
「 機 能 障 害(impairment)」
「参 加 制 約(participation こ う し たICFの
limitation)」
概 念 に 基 づ く と,リ
訓 練 で は な く,潜
「活 動 制 限(activity と して い る
社 会 へ の 参 加 を 可 能 に し,そ
limitation)」
.
ハ ビ リ テ ー シ ョ ン は,単
在 能 力 を 最 大 限 に 発 揮 させ,日
さ
なる機能 回復
常 生 活 の 活 動 を 高 め,家
庭 や
の 自 立 を 促 す も の と し て 広 く捉 え ら れ る.
1.5 プ ラ イ マ リ ・ヘ ル ス ケ ア
WHOは,住
民 参 加 に よ る新 た な 保 健 医療 戦 略 と して,「 プ ラ イマ リ ・ヘ ル
スケ ア」 を提 唱 した.そ
して,1978年
の ア ル マ ・ア タ宣 言 の 中 で,「 プ ラ イ マ
リ ・ヘ ル ス ケ ア とは,自 助 と 自 己決 定 の精 神 に則 り,地 域 社 会 お よび 国 が 開発 水準 に 応 じて 負 担 可 能 な 費 用 を賄 え,地 域 社 会 の 個 人 ま た は家 族 の 十 分 な参 加 を通 じて,科
学 的 に適 正 か つ 社 会 的 に受 け 入 れ られ る 手 法 と技 術 に 基 づ い て 実
施さ れ る 必 須 の 保 健 医 療 で あ る」8)と定 義 した. こ の 考 え方 は,と
くに発 展 途上 国 にお け る 包 括 的 な保 健 医 療 の推 進 に あ た っ
ての 基 本 理 念 と な っ て お り,こ れ に 基 づ きWHOは (Health for All,HFA)」
「す べ て の 人 々 に 健 康 を
戦 略9)を 進 め て い る.
1.6 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン の 概 念
健 康 を 維 持 ・増 進 す る た め の 予 防 活 動 に つ い て,わ
が 国 で は 健 康 づ く り,あ
る い は 健 康 増 進 と い う 語 が 使 わ れ る が,欧
「ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン
(health
promotion)」
米 で は
と い う 考 え 方 が 取 り入 れ ら れ て い る.
ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン の 概 念 と し て 最 も 広 く知 ら れ て い る も の は,WHOが 1986年
の オ タ ワ 憲 章 で,「 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン と は,人
ン トロ ー ル し,改 る.ま
た,同
々 が 自 らの健 康 を コ
善 で き る よ う に す る プ ロ セ ス で あ る 」10)と 定 義 し た も の で あ
憲 章 で は,「 健 康 は 身 体 的 能 力 で あ る と 同 時 に,社
人 的 資 源 で あ る 」 こ と が 強 調 さ れ て い る.
会 的 並 び に個
L.W.グ
リ ー ンは,「 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン と は,健 康 教 育 に加 えて,健 康 を
促 す 個 人,グ
ル ー プ,地 域 の 行 動 を組 織 ・経 済 ・環境 面 か ら支 援 す る もの で あ
る 」 と定 義 し,こ れ を実 践 す る た め の 「プ リ シ ー ド ・プ ロ シー ドモ デ ル」 を提 唱 した11).つ ま り,ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン は,個 人 に よ る 生 活 習 慣 の 改 善 の み な らず,健 け,そ
康 政 策 を通 じて 個 人 を取 り巻 く環 境 に 対 して も積 極 的 に 働 きか
れ を 支 援 し よ う とす る も の と言 え よ う.
1.7 健 康 の 指 標
1.7.1 個 人 の指 標 個 人 の 健 康 の 指 標 と して,自 覚 症 状,疾 重),各
病 の 有 無,既 往 歴,体 格(身
長 ・体
種 検 査 デ ー タ等 が 挙 げ られ る.精 神 的 な 健 康 の 指 標 に つ い て は,ス
レス テ ス トの よ う な調 査 票 が,各
種 開 発 さ れ て い る.さ
ら に,QOLや
ト
生活機
能 な ど も指 標 と して 考 え られ る.
1.7.2 集 団 の 指 標 集 団 の 健 康 の 指 標 と して,WHOは,死 (50歳 以 上 の 死 亡 割 合)の4つ 療 率(医
亡 率,乳
児 死 亡 率,平
均 寿 命,PMI
を挙 げ て い る.こ
の ほ か,罹 患 率,有 病 率,受
療 機 関 で 治 療 を受 け て い る 患 者 数),有
訴 者 率 な どが 考 え られ る(表
1.1). ま た,近
年,平
均 寿 命 の 延 伸 に伴 い,生
命 ・生 活 の 質(QOL)が
問 われ る
よ う に な っ た こ とか ら,「 健 康 寿 命 」 と い う 概 念 が 新 た な指 標 と して 加 わ っ た.健
康 寿 命 とは,活 動 的 平 均 余 命 と もい わ れ,一 般 に寿 命 全 体 の う ち 自立 し
て 生 活 で き る期 間,つ
ま り 「寿 命 か らあ る レベ ル 以 上 の疾 病 や 障 害 の 期 間 を差
し引 い た 期 間」 の こ とで あ る.ま た 健 康 日本21(後
述)で
は,「 痴 呆 や 寝 た き
りに な ら ない 状 態 で の 生 存 期 間」 と定 義 さ れ て お り,こ の 健 康 寿 命 の 延 伸 が 目 標 の 一 つ と して掲 げ られ て い る.
表1.1 主 な 健康 指 標
*WHOの
総合健康指標
1.8 わが 国 の健 康 の 現 状 と課 題
わが 国 の 健 康 水 準 は,近 年,大 寿 命 で み る と,2004(平
き く向 上 して お り,総 合 的 指 標 と さ れ る 平均
成16)年
の 平 均 寿 命 は 男 性78.6年,女
と,男 女 と も世 界 有 数 の長 寿 国 と な っ て い る.ま た,WHOが2002年 した 健 康 寿 命 で み て も,男 性72.3年,女
性77.7年
性85.6年 に発 表
と,世 界 で最 も長 い.
一 方,生 活 様 式 の 変 化 や 高 齢 化 の進 展 に 伴 い,疾 病 構 造 が 変 化 して お り,死 亡 で み る と,か つ て の 結 核 の よ う な 感 染 症 に よ る もの は 激 減 し,が ん や 心 疾 患,糖
尿 病 な どの 生 活 習 慣 病 に よる も の が 増 加 して い る.2004(平
人 口動 態 統 計 で は,が
ん(31.1%),心
疾 患(15.5%),脳
の 順 に な って お り,こ れ ら三 大 死 因が 全体 の 約6割
成16)年
血 管 疾 患(12.5%)
を 占 め て い る.
患 者 調 査(2002)13)に
よ る 疾 病 別 の 受 療 率 を み る と,入
行 動 の 障 害 」 「循 環 器 系 の 疾 患 」 「悪 性 新 生 物(が
ん)」
院 で は が,外
「精 神 お よ び
来 で は
「消 化 器
系 の 疾 患 」 「循 環 器 系 の 疾 患 」 「筋 骨 格 系 の 疾 患 」 「呼 吸 系 の 疾 患 」 が 高 い. 以 上 の よ う に,わ の 主 体 と な っ て お
が 国 で は,生 り,健
活 習慣 病 を は じめ とす る慢 性 疾 患 が 健 康 問題
康 で 生 き が い の あ る 長 寿 社 会 の 実 現 に 向 け,こ
れ らの
克 服 が 課 題 と な っ て い る.
【文 1) Dubos,
R.:Mirage
2) 小 泉
明:健
of Health,
Harper
献】 &
Brothers
康 概 念 に 係 わ る 理 論 的 研 究(昭
Publishers,1959. 和60年
度 科 学 研 究 費 補 助 金 報 告 書),
1986. 3) 福 田 邦 三:体 4) 米 国:体 5) Dunn,
育 学 通 論,大
明 堂,1949.
力 と ス ポ ー ツ に 関 す る 大 統 領 委 員 会 報 告 書,1968. H.L.:High
6) WHO:Quality
level wellness,
Beatty
of Life Assesment
7) WHO:International 8) WHO:Declaration
Classification of Alma-Ata,
Press,1961.
Instrument(WHO of Functioning, International
QOL),1994. Disability Conferance
and on
Health,2001. Primary
Health
USSR,1978. 9) WHO:Health
for All in the 21st Century,2000.
10) WHO:Ottawa 11) Green,
L.W.
Charter and
Kreuter,
for Health
Promotion,1986.
M.W.:Health
12) 厚 生 労 働 省:人
口 動 態 統 計,2004.
13) 厚 生 労 働 省:患
者 調 査,2002.
Promotion
Planning,
McGraw-Hill,1991.
Care,
2.
健康の概念
2.1 健 康 の 意 識
2.1.1 健 康 観 と その 変 遷 健康 につ い て の 考 え方 は,時 代 や 民 族 に よ って 異 な り,ま た,文 化 的 ・社 会 的 変 化 や 科 学 的 進 歩 に伴 っ て変 遷 して きた. 健 康 の 語 源 を み る と,ま ず,日
本 語 で は 「健 や か」 が こ れ に あ た り,「 す く
す く と伸 び る 」,す な わ ち,生 成 発 展 を示 す もの で あ っ た.英 語 で は 「health」 で,疾 病 を治 した状 態 を示 して い る.さ
らに,中
国語 で は 「健 」=「 鍵 」 で,
堅 固 ・安 全 と い う意 味 を もっ て い る.こ の よ う に,健 康 が 意 味 す る も の は 国 に よ っ て 異 な り,統 一 的 な も の で は なか っ た. 1948年,WHOは,「
健 康 と は,身 体 的,精 神 的 お よび 社 会 的 に完 全 に 良 好
な状 態 で あ っ て,単 に 疾 病 が な い とか 虚 弱 で な い とい うだ け で は な い」 との 定 義 を 提 唱 して 以 来,世 界 共 通 の健 康 認 識 を もつ に至 っ た.こ
のWHOの
健康
定 義 が 提 唱 され る まで は,健 康 の 「肉体 的 」 「精 神 的 」 な面 に しか 言 及 して い なか っ た が,こ な っ た.す
れ以 降,健 康 は社 会 的 な 問題 で もあ る こ とが 認 識 され る よ う に
な わ ち,心 身 二 元 論 的健康 観 に社 会 的 要 因 を加 え た とい う点 に お い
て 理 想 的 な 健 康 像 を示 す に 到 り,画 期 的 な提 言 で あ っ た.ま =良 好 な 状 態 」 と記 す こ と で ,単
た,「well-being
な る 「病 気 にか か っ て い な い状 態 」 で は な
く,価 値 的 な 言 葉 に よ り積 極 的 概 念 を もた せ た.さ
らに,「 到 達 し う る最 高 度
の 健 康 」 状 態 を 目指 し,基 本 的 人権 の 一つ と して 健 康 を捉 え る とい っ た考 え 方
は,日 本 国 憲 法 に も影 響 を与 え,「 す べ て,国 生 活 を営 む権 利 を有 す る」(第25条)と
民 は健康で文 化的 な最低 限度の
謳 わ れ て い る.そ
の後,WHOの
健康
観 は,長 期 に わ た り人 々 に受 け 入 れ られ て きた. しか し,WHOの
健 康 観 で は,高 齢 者 や 障 害 を有 す る 人 は,最
の範 疇 に入 っ て し ま う.WHOの
初 か ら不 健 康
健 康 観 が 発 布 され て 約 半 世 紀 を経 た 今 日,長
寿 社 会 を迎 え る に至 り,人 口 の 多 くを 占 め る 高齢 者 や 障 害 を 有 す る 人 た ち の 健 康 の 意 義 を明 らか に す る こ とが 求 め られ る よ う に な った.高 齢 者 や 障 害 を有 す る人 も,個 別 の 状 態 に応 じた健 康 が あ る と考 え られ るか らで あ る.す な わ ち, 先 天 的 ・後 天 的 に与 え られ た 条 件 の 中 で可 能 な か ぎ り良 好 な状 態 と環 境 を作 る こ とを 目指 した 生 き方 をす る の が 健 康 の理 想 で あ る とい う考 え 方 で あ る.こ の 考 え 方 を さ ら に推 し進 め,健 康 を 統 合 さ れ た状 態 と して 捉 え た 「全 人 的(ホ
リ
ス テ ィ ッ ク)な 健 康 」 の概 念 も,近 年 み られ る よ う に な っ た.
2.1.2 ラ イ フ サ イ ク ル と健 康 日本 人 の 平 均 寿 命 は,明 治 期 ・大 正 期 は低 い水 準 にあ っ た が,昭 和 期 に 入 っ て 延 び は じめ た.第6回 性49.63年
で,男
(1947年)で
女 と も に50年
り,女 性 で は,1960年 命 は,男 性 が78.6年,女
くな る.就
後 初 調 査 の 第8回
生命表
遅 れ て1951年
に60.8年
とな
の 後 も,平 均 寿 命 は 上 昇 傾 向 を 示 して お
を,1984年
性 が85.6年
に は80年
を超 え.2004年
の平均寿
と な っ て い る.
とい わ れ る現 代 社 会 に お い て は,老 年 期 を迎 え て か らの 人 生 が 長 業 者 が 定 年 を迎 え る 年 代 に あ た る 「52∼56歳 」 で は,「 家 族 成 長
後 期 」 の 世 帯 が 男 性40.6%,女 2.1).以
性 は1年
を 超 え た.そ に70年
は,男 性46.92年,女
を越 え た.「 戦 後 の 平 均 寿 命 の 推 移 」1)をみ
に は 女 性 が61.5年,男
り,平 均 寿 命 は60年
人 生80年
・1936年)で
女 と も50年 以 下 で あ っ た が,戦
は,男
る と,1950年
生 命 表(1935年
後,仕
性81.3%と
高 い 割 合 を 占 め て い る2)(図
事 か ら も子 育 て か ら も解 放 さ れ た長 い 「第 二 の 人 生 」 を送 る こ
と に な る.こ の 期 を 「第 二 の 現 役 期 」 と位 置 づ け,漫 然 と 「生 きの び る」 の で は な く,健 康 で 生 きが い の あ る,い きい き とした もの に す る こ とが 望 まれ て い る. 寿 命 の延 び に よ る生 涯 自由 時 間 の 増 加 に加 え,1日
の 自 由時 間,1週
間単 位
で の 自 由時 間 も増 加 して い る.家 庭 婦 人 の 場 合,電 気 製 品 の 普 及 に よ る家 事 の
図2.1 ライ フ ス テ ー ジ(性 ・年代 別) (第一 生 命 経 済 研 究所:ラ イ フ デ ザ イ ン白 書2004-05,2003)
省 力 化,核
家 族 化 や 少 子 化 に よ る家 族 数 の 減 少 な どが そ の 背 景 に あ る.ま た,
就 業 者 に とっ て も,職 場 で の 機 械 化 ・自動 化,週 休 二 日制,年
間 労働 時 間 の 短
縮 な どに よ り,自 由 時 間 が増 加 して い る. そ こで,増 大 す る 自 由 時 間 を主 体 的 に有 効 活 用 し,生 きが い ・健 康 づ く りに 繋 げ る こ とが 望 まれ る.自
由 時 間 の 有 意 義 な 過 ご し方 は,「 第2の 現 役 期 」 を
決 定 す る と言 っ て も過 言 で は な い.「 高 齢 期 の 生 活 に 備 え て の 準 備 」2)をみ る と,「52歳
∼56歳
」 以 降 の 年 代 で は,男
女 と も 「体 力 の 増 進 や 健 康 の 維 持 」
が 他 の 項 目 に 比 し て 高 い 割 合 を 示 し て い る(表2.1).し
か し,「52歳
歳 」 未 満 の 年 代 で は,男 女 と も 「と くに準 備 を して い な い 」 が3分
の1を
∼56 占め
て お り,懸 念 さ れ る と こ ろ で あ る.壮 年 期 ま で は,「 健 康 や 体 力 」 を 自覚 す る こ と は あ ま りな く,そ の 価 値 に気 づ か な い の で あ ろ う が,50歳
代 を過 ぎる と
体 力 の 衰 え を 自覚 し,身 体 的 機 能 も低 下 して病 気 に も罹 りや す くな る.
2.1.3 ラ イ フ ス タ イ ル と健 康 日本 人 の 主 要 死 因 別 死 亡 率 の 年 次 推 移2)を み る と,1950年 脳 血 管 疾 患,悪
性 新 生 物 が 上 位3位
まで は,結 核,
を 占 め て い た(図2.2).1951年
以 降 は,
表2.1 高 齢 期 の 生 活 に 備 えて の 準 備(性
(第 一 生 命 経 済研 究 所:ラ
・年 齢 区分 別)
〈複 数 回答,%〉
イ フ デ ザ イ ン白書2004-05年,2003)
注:平 成6年 までの死亡率 は旧分類 によるものである. 図2.2 主 要 死 因 別 に み た 死 亡 率(人 口 別10万 対)の (統 計 厚 生 協 会:国 民衛 生 の動 向(9),2004)
推移
結 核 に よ る死 亡 が 減 少 し,代 わ っ て,脳 血 管 疾 患,悪 性 新 生 物(が 患 が 上 位3位 第1位
を 占 め る よ うに な っ た.さ
ら に,1981年
か ら は,が
ん),心 疾 んが死 因の
とな り,現 在 に至 る ま で 継 続 して 増 加 の 一 途 を た ど っ て い る.ま
た,
1985年 以 降,脳
血 管 疾 患 に 代 わ っ て心 疾 患 が 死 因 の 第2位
とな っ た.
主 要 死 因 別 死 亡 率 の年 次 推 移 は,日 本 人 の疾 病 構 造 が 感 染 症 か ら生 活 習 慣 病 に変 化 した こ とを示 す もの で あ る.医 学 ・医療 の 進 歩 や 生 活 水 準 の 向 上 な ど に 伴 っ て,感 染 症 は 減 少 し,代 わ っ て,生 活 習 慣 病 が 増 加 して きた. が ん,心 疾 患,脳 血 管 疾 患 な どは,加 齢 に起 因 す る疾 患 で あ る との 考 えか ら 「成 人 病 」 と呼 ば れ て い た が ,近 年,個 人 の 日常 生 活 行 動 や 健 康 習 慣 に起 因 す る こ とが 疫 学 的 な研 究 に よ っ て 立 証 さ れ,「 生 活 習 慣 病 」 と呼 ば れ る よ う に な っ た.生 活 習 慣 病 とい う概 念 は,早 期 発 見 ・早 期 治 療 とい っ た 疾 病 の二 次 予 防 対 策 に加 え て,生 活 習 慣 の改 善 に よ り健 康 の維 持 増 進 に努 め,発 病 を予 防 す る とい う一 次 予 防 対 策 に重 点 を お い た 考 え方 で あ る.2003年 よ る死 亡 率 は61.1%2)で
度 の生 活習慣病 に
あ り,さ ら に,生 活 習 慣 病 に伴 っ て 痴 呆 や 寝 た き り
に な っ た 人 も多 くい る.生 活 習 慣 病 は,命 活 の 質 の 低 下 を招 く要 因 で もあ る.そ
に 関 わ る の み で な く,身 体 機 能 や 生
こで,個
人 の ラ イ フ ス タ イ ル の変 容 ・改
善 に よ り,健 康 で 活 力 あ る社 会 を 目指 そ う と考 え る よ う に な っ た. 厚 生 省(現 て,1978年 策(ア
厚 生 労 働 省)は,生
活 習 慣 病 に対 す る 一 次 予 防 の 具 体 的施 策 と し
に 第 一 次 国 民 健 康 づ く り対 策,1988年
ク テ ィ ブ80ヘ
(健康 日本21)を
ル ス プ ラ ン),2000年
に 第 二 次 国 民 健 康 づ く り対
に は 第 三 次 国 民 健 康 づ く り対 策
推 進 して きた.健 康 日本213)は,第
一 次 ・第 二 次 国 民 健 康 づ
く り対 策 の 成 果 を踏 ま え,個 人 と社 会 が 力 を あ わせ,生
活 習 慣 の 変 容 ・改 善 に
よ り適 切 な ラ イ フ ス タ イ ル の定 着 を 図 る もの で あ る.す
な わ ち,食 生 活,身 体
活 動 ・運 動,睡
眠 と休 養,さ
らに,飲 酒 や 喫 煙 な ど,毎 日 の ラ イ フ ス タイ ル を
見 直 す こ と に よ り,生 活 習 慣 病 の予 防 や 改 善 に繋 げ,健 康 寿 命 の 延 伸 と生 活 の 質 の 向 上 な ど を 目指 して い る(図7.6参
照).
具 体 的 に は,「 栄 養 ・食 生 活 」 「身 体 活 動 ・運 動 」 「休 養 ・こ こ ろ の健 康 づ く り」 「た ば こ」 「ア ル コー ル 」 「歯 の 健康 」 「 糖 尿 病 」 「循 環 器 病 」 「が ん 」 の9領 域 に わ た っ て,2010年
の 具 体 的 達 成 目標 と,そ の 評 価 を設 定 して い る.例
ば,「 栄 養 ・食 生 活 」 で は,毎
え
日 のバ ラ ン ス の 良 い食 事 と適 正 体 重 維 持 の た め
に,食 塩 ・野 菜 ・カ ル シ ウ ム 含 有 食 品 な どの1日 の 平 均 摂 取 量 を 示 して い る. ま た,「 身 体 活 動 ・運 動 」 で は,運 動 習 慣 者 を成 人 男 性39%以 35%以
上 に,日
常 生 活 に お け る 歩 数 を成 人 男 性9200歩
以 上,成
上,成
人女性
人 女 性8300
歩 以 上 に,意 識 的 に 運 動 を心 が け て い る 人 を成 人 男 女63%以
上 に し よ う と,増
加 を 目指 した 数 値 目標 を提 示 して い る.「 休 養 ・こ こ ろ の 健 康 づ く り」 で は, 睡 眠 が 十 分 に とれ て い ない 人 を21%以
下 に,ス
に 減 少 させ よ う と 目標 値 を示 して い る.さ
トレス を感 じた人 を49%以
らに,た
下
ば こ や ア ル コー ル につ い て
も,喫 煙 や 多 量 飲 酒 に よ る健 康 影 響 の 知 識 の 普 及 や 分 煙 の徹 底,禁 援 プ ロ グ ラム の 提 供 な ど に加 え て,多 量 飲 酒 者 が 男 性3.2%以
煙 ・節 酒 支
下,女 性0.2%
以 下 に減 少 させ よ う と,数 値 目標 を 設 定 してい る.
2.2 健 康 と 運 動 ・体 力
2.2.1 健 康 と運 動 外 国 で 生 活 して み る と,資 源 の 乏 しい わ が 国 に とっ て,資 源 に代 わ る もの は,「 私 た ち 自身 」 で あ る こ と に気 づ く.私 た ち 日本 人 が 運 動 不 足 に よ っ て心 身 と もに 軟 弱 化 して い く と,こ れ か らの 日本 とい う 国 の 将 来 を土 台 か らゆ さぶ っ て い くこ とに な る. 今 日の わが 国 で は,戸 外 の 自然 の 中 を走 る よ り も,高 い お 金 を 支払 って,わ ざ わ ざル ー ム ラ ン ナ ー を 買 い 求 め る時 代 に入 っ た.確 か に,工 業 化 や 機械 化 は 生 活 を豊 か に し,仕 事 や 家 事(炊 化,電
化,省
状 態 は,マ
飯,洗
濯,掃
略 化 さ れ て便 利 と な っ て きた が,そ
除),ど
れ を と っ て も,簡 略
の 反 面,人
間 の 精神 と身 体 の
イ ナ ス の方 向 に 向 か って きた.
こ う し た現 代 社 会 の 中 で,心 身 と もに健 全 な生 活 を送 っ て い くた め に は,自 己 の 生 活 を見 直 して,適 度 な 身 体 活 動 を生 活 の 中 に 積 極 的 に取 り入 れ て い くこ とが 大 切 で あ る.中 で も,体 操 や ジ ョギ ン グ,ハ イ キ ン グ,ウ
ォー キ ン グ,散
歩 な ど,手 軽 にで きる 身 体 活 動 を積 極 的 に 日常 生 活 の 中 に取 り入 れ て ほ しい. ま た,エ
レベ ー タ や エ ス カ レー タ を使 わ ず,自 動 車 の 利 用 は 最小 限 に と どめ,
で き る だ け 歩 く機 会 を増 や し て も ら い た い もの で あ る.と の 方 に は,体 操 とウ ォー キ ング を勧 め る.も きに 取 り組 まれ る と よい.日
ち ろ ん,好
頃 か ら生 活 の 中 で,少
くに,50歳
代以 上
きな ス ポ ー ツ は,前 向
しず つ で も よ い か ら,健 康
を 維 持 ・増 進 させ て い くた め の前 向 き な取 り組 み が 必 要 で あ る.こ の健 康 に 対 す る積 極 的 な取 り組 み こそ が,現 代 社 会 の 中 で い き い き と生 き る私 た ち の 体 力
に 大 き く関連 して い くの で あ る. つ ま り,運 動 の 実 践 は,現 代 の 機 械 文 明 が も た らす 恩 恵 の 中 で,心
身 と もに
弱 くな りつ つ あ る 日本 人 の 身体 の 脆 弱 さ を是 正 ・改 善 し,健 康 を確 保 す る た め の積 極 的 な努 力 行 為 で あ る とい え る.そ の 前 向 き な努 力 の積 み 重 ね に よ って, トー タル な健 康 はつ くられ る.し か しなが ら,言 う は たや す い が,実 行,そ も定 期 的 か つ 継 続 的 な 実 行 とな る と,な か な か 難 しい のが,こ
れ
の運動 の実践で
あ る.日 頃 か ら病 気 に な ら な い た め の 生 活 習慣 を形 成 す る こ とに よ り心 身 の 健 康 を確 保 し,社 会 の 一 員 と して責 任 あ る行 動 が とれ る よ う,運 動 を積 極 的 に 行 う こ と は極 め て 大 切 で あ る.病 気 で あ れ ば,な お さ ら健 康 なか らだ を取 り戻 し た り,バ ラ ンス の とれ た 生 活 を営 む た め に,健 康 ・体 力 づ く り運 動 の 実 践 が 重 要 で あ る. また,合 理 的 ・積 極 的 に 身 体 を動 か す 労 働 は,人 体 の 正 常 な機 能 の 維 持 発 達 を促 す 上 で 重 要 な 条 件 と い え る.そ
うい う意 味 で は,労 働 は 運 動 と同 じで,長
い 間,身 体 を動 か さな い で い る と,筋 肉 の 組 織 だ け で な く,骨 組 織 ,そ の 他 の 組 織 も廃 用 性 萎 縮 が 進 行 し,最 後 に は,心 肺 機 能 の低 下 を招 くよ う に な る. 一 方,労
働 に は,そ の 対 価 と して,報 酬 を得,そ れ に よっ て 生 計 を維 持 す る
と い う経 済 的 な い し外 在 的 意 味 と,そ れ に よ って 内 的 な充 足 感 を得 る とい う, 非 経 済 的 で 内 在 的 意 味(自
己実 現,社
会 参 加,社 会 的 地 位 の獲 得,社 会 へ の 貢
献 な ど)を も って い る.労 働 の もつ 意 味 の うち,ど れ が 強 調 され る か は ラ イ フ ス テ ー ジ の どの段 階 に い るの か に よ り,あ る い は,ど の よ う な職 業 につ い て い る か に よ っ て も異 な るが,運
動 と同 様 に 意 欲 を もっ て 取 り組 み,労
働 を通 じて
エ ネ ル ギ ー の消 費 と補 充 合 成 を順 調 に 行 わせ ,身 体 全 体 の 機 能 を促 進 させ て も らい た い.運 動 不 足 や 運 動 の や りす ぎは,人 た ら し,活 力 不 足 に陥 らせ る 一 方,適
間 の健 康 にマ イ ナ ス面 の 影 響 を も
度 な運 動 な しに は,活 力 不 足 を解 消 す る
こ とは で き な い. した が っ て,1日
の 労 働 以 外 に,で
き れ ば30分 程 度 で も歩 い た り,体 操 や
ス ポ ー ツ を楽 しん だ りして 運 動 をす る こ と に よ って,身 体 の快 感 と 能 率 の 向 上 を も た らす こ とが で きる で あ ろ う.こ れ は,と に従 事 す る 人 に と っ て極 め て大 切 で あ る.
くに,事 務 的作 業 や 精 神 的 作 業
2.2.2 健 康 と ラ イ フ ス テ ー ジ 乳 児 期 に は,親 か らの 言 葉 か け や ス キ ン シ ップ を十 分 に与 え な が ら,身 体 運 動 を活 発 に行 わせ る こ とが 大 切 で あ る.ま た,自 分 で 移動 で き る よ う に,し っ か り這 う こ とや寝 返 り を うつ こ と を十 分 に楽 しませ て,全 身 の筋 力 の 発 達 を促 し て ほ しい. 幼 児 ・児 童 期 の 前 半 は,子
ど もの 興 味 をそ そ る よ うな 遊 戯 的 要 素 の あ る運 動
や 運 動 あ そ び を させ て ほ しい.し
か も,特 定 な動 きに 偏 る こ とな く,多 様 な運
動 体 験 を もた せ る こ とが 大 切 で あ る. 児 童 期 の 後 半 に な る と,身 体 は 質 的 に も量 的 に も発 達 す る の で,少
しず つ 鍛
錬 的意 味 の 運 動 や ス ポ ー ツ を導 入 す る とよ い.し か し,競 争 的価 値 ば か りを 強 調 し過 ぎ ない よ う に注 意 しな け れ ば な らな い. 青 年 期 は,身 体 の 成 長 が 極 め て 旺 盛 で,筋 容 量 は 著 し く増 大 す るが,初 期 に 持 続 的 な強 度 の運 動 を行 わせ る こ と は要 注 意 で あ り,極 端 な筋 肉 の 過 労 は避 け た い もの で あ る.中
で も,18歳
か ら20歳 前 後 で は,筋 肉 的 に も均 衡 状 態 が で
きて い くの で,運 動 強 度 の 高 い もの へ の挑 戦 も意 義 が あ り,効 果 もあ る が,自 己 の 実 態 と ニ ー ズ を考 慮 しな け れ ば な らな い. 成 人 期 にお い て は,運 動 力 の 強 大 な前 期 と,体 力 が 漸 次 衰 え つ つ あ る 後 期 と で は,実 践 す べ き運 動 内容 や 運 動 強 度 が 大 い に異 な る.し か し なが ら,運 動 力 強 大 な前 期 と い え ど も,就 職 して か ら運 動 す る機 会 が 少 な くな っ た者 に と っ て は,急
に激 しい 運 動 は禁 物 で あ る.し た が っ て,自
己 の生 活 環 境 や 体 力 の 現 状
と照 ら し あ わせ て 運 動 を 選択 ・実 践 して も らい た い. 後 期 に入 る と,体 力 や 心 肺 機 能 の衰 退 をみ るの で,ウ 軽 に で き る楽 しい ス ポ ー ツ等,適
ォー キ ング や体 操,手
度 な運 動 の 実 践 が 必 要 で あ る.50歳
を過 ぎ
て か ら,運 動 を 始 め る の に,不 安 の あ る場 合 に は,か か りつ け医 に相 談 して, 体 力 に応 じた 運 動 や 程 度 を指 導 して も ら う と よ い.ま た,腎 臓 病 や心 臓 病,高 血 圧 や 動 脈 硬 化 な ど で 自覚 の な い場 合 もあ るの で,要 注 意 で あ る. 老 年 期 に は,歩 う,少
くこ と を 中 心 に 無 理 を せ ず,運
動 後の爽 快感 が 味 わえ る よ
しず つ 体 を動 か す こ と に 努 め て も ら い た い.高 齢 で も,元 気 なお 年 寄 り
に共 通 す る こ と は,常 に よ く歩 い て い る こ とで あ る.つ
ま り,歩
くこ とを い と
わ な い こ とが 健 康 の維 持 につ な が るの で あ る.人 間 の 長 寿 ・健 康 の た め に は,
自動 車 に頼 らず,機 会 を見 つ け て は 歩 くこ とが 大 切 で あ る.し か も,平 地 ば か りで は な く,坂 道 や 変 化 に富 ん だ 道 を歩 く こ とで あ る.寿 命 を支 え る もの は, 基 本 的 に は各 人 の 生 き る意 欲 と姿 勢 で あ る こ と を しっ か り頭 に入 れ,毎
日 を大
切 に生 き て い くこ とが 重 要 で あ る. つ い で 大 切 な こ と は,積 極 的 な生 活 様 式 を 採 用 す る こ とで あ る.例 え ば,身 体 を あ ま り動 か さな い 生 活 を して い る と,や が て 身 体 が だ ん だ ん 動 か な くな っ て し まい,つ
い に は い ろ い ろ な病 気 を招 くよ うに な る.ま た,身 体 を活 発 に 動
か す こ と に並 行 して 大 切 な こ とは,合 理 的 で価 値 あ る食 事 と規 則 正 しい生 活 リ ズ ム に あ っ た十 分 な 睡 眠 と休 息 で あ る こ と を 忘 れ な い で ほ しい. と に か く,ど の 年 齢 層 で も,手 軽 に で き る 運 動 を,自 己 の体 力 や 労 働 の 実 態 に 応 じ て 行 い,意
欲 を も っ て 楽 し く継 続 し て い く こ とが 健 康 維 持 の 秘 訣 で あ
る. そ の た め に は,若 い 頃 か ら健 康 を脅 か す 外 界 の 刺 激 に打 ち勝 っ て 健 康 を保 持 して い く力 と,運 動 や ス ポ ー ツ に必 要 と され る 身 体 を積 極 的 に働 か せ る能 力 を 身 に つ け る 努 力 を して も らい た い.つ
ま り,い ろ い ろ なス トレス に対 す る抵 抗
力 と し て の 防 衛 体 力 と積 極 的 に活 動 す る た め の行 動 体 力 を養 っ て ほ しい の で あ る.
2.2.3 健 康 と体 力 で は,体 力 と は い っ た い何 な の で あ ろ うか,考
え て み た い.体 力 に は,人 間
の勢 い を決 め る 身 体 的 資源 とい う側 面 が あ り,人 間 が 活 動 して い く う えで の 原 動 力 の よ う な もの を い う.英 語 の フ ィ ジ カ ル ・フ ィ ッ トネ ス とい う こ と ば に相 当す る.こ
の よ う な意 味 で の 体 力 は,大
き く2つ の 側 面 に分 け られ る.一 つ
は,健 康 を脅 か す 外 界 の刺 激 に打 ち 勝 っ て健康 を保 持 して い くた め の 能 力 で, 病 気 に 対 す る抵 抗 力,暑
さ や寒 さに 対 す る 適 応 力,病
そ の 内 容 で,防 衛 体 力 と呼 ん で い る.も
原 菌 に対 す る免 疫 な どが
う 一 つ は,運 動 や ス ポ ー ツ をす る と き
に必 要 と され る 能 力 で,身 体 を積 極 的 に働 かせ る能 力 で 行 動 体 力 と呼 ば れ る. つ ま り,体 力 とは,い
ろ い ろ な ス トレス に対 す る抵 抗 力 と して の 防衛 体 力 と積
極 的 に活 動 す る た め の行 動 体 力 を 総 合 し た能 力 で あ る とい え る. ま た,行 動 体 力4)は,行
動 を 起 こす 力,持
続 す る 力,正 確 に 行 う力,円
滑に
行 う力 の4つ 1)行
に分 け られ る.
動 を起 こす 力
●筋 力(strength)
筋 が 収 縮 す る こ と に よ っ て 生 じる 力 を い う.つ
筋 力 と は,筋 が 最 大 努 力 に よ っ て,ど う こ とで,kgで
ま り,
れ く らい 大 きな力 を発 揮 し得 る か とい
表 す.
●瞬 発 力(power)
パ ワ ー と も呼 ば れ,瞬
間 的 に大 きな 力 を 出 して 運 動 を
起 こす 能 力 を い う. 2)行
動 を持 続 す る力
●筋 持 久 力(muscular
endurance)
用 い られ る 筋 群 に負 荷 の か か っ た状 態
で,い か に 長 時 間 作 業 を続 け る こ とが で き るか とい う能 力 をい う. ● 全 身 持 久 力(cardiovascular/respiratory
endurance)
全 身的 な運動 を長
時 間 持 続 す る 能 力 で,呼 吸 ・循 環 機能 の 持 久 力 で あ る. 3)正
確 に行 う力(調 整 力)
●敏 捷 性(agility)
身 体 をす ば や く動 か して 方 向 を 転 換 した り,刺 激 に 対
して す ば や く反 応 す る能 力 をい う. ●平 衡 性(balance)
通 常 バ ラ ン ス と呼 ば れ,身
体 の 姿 勢 を保 つ 能 力 を い
う.歩 い た り,跳 ん だ り,渡 っ た りす る運 動 の 中 で,姿 勢 の 安 定 性 を意 味 す る動 的平 衡性 と静 止 した状 態 で の安 定 性 を意 味 す る静 的 平 衡 性 とに 区 別 さ れ る. ●巧 緻 性(skillfulness)
身 体 を 目 的 に 合 わ せ て 正 確 に,す
ば や く,な め ら
か に動 か す 能 力 で あ り,い わ ゆ る器 用 さや 巧 み さの こ とを い う. ●協 応 性(coordination)
身 体 の2つ
以 上 の 部 位 の 動 き を,1つ
の ま とま
っ た運 動 に融 合 して,目 的 とす る動 き をつ くっ て い く能 力 を い い,複 雑 な運 動 を遂 行 す る際 に必 要 と され る重 要 な能 力 で あ る. 4)円
滑 に行 う力
●柔 軟 性(flexibility)
か らだ の 柔 らか さの こ とで,身 体 をい ろ い ろ な方 向
に 曲 げ た り,伸 ば した りす る能 力 で あ る.こ の 能 力 が す ぐれ て い る と,運 動 を ス ム ー ズ に大 き く美 し く行 う こ とが で きる.関 節 の可 動 性 の 大 き さ と関 係 が 深 い.
2.3 健 康
と 栄 養
2.3.1 健 康 と栄 養 健 康 の 三 本 柱 の 一 つ で あ る 栄 養 は,食 物 摂 取 を 手段 と した 生 命 維 持 を含 む 生 活 活 動 の 根 源 とな る も の で あ る.栄 養 と は,食 物 を摂 取 し,消 化 器 系 で 分 解 し,含 有 成 分 を吸 収,利
用 し,そ して 体 内 で 不 要 に な っ た 成 分 を体 外 に排 泄 す
る まで の 一 連 の 過 程 を い う.ま た,栄 養 素 とは,食 物 を構 成 す る 多 種 類 の成 分 の う ち,ヒ
トの か らだ を構 成 す る細 胞 を養 うた め に 必 要 な 成 分 を さす.
栄 養 素 摂 取 源 で あ る 食 品 は,そ め,私
れ ぞ れ 構 成 栄 養 素 お よび 含 有 量 が 異 な る た
た ち は,多 種 多 様 な食 品 を組 み合 わ せ た 食 事 を 摂 取 して,か
らだ に とっ
て 必 要 な栄 養 素 を獲 得 して い る. 栄 養 素 は,そ
れ ぞ れ体 内 で の 働 き を もっ て い る(表2.2).個
必 要 量 は,ほ ぼ 一 定 で あ るが,状 況 に よ り多 少 変 化 す る.ま
人 の栄養 素の た,個 人 間 で は,
大 き く異 な る.食 生 活 の 中 で 特 定 の栄 養 素 の 過 不 足 す る状 況 が 続 く と,特 有 の 過 剰 症 や 欠 乏 症 が 発 症 しや す くな る(表2.3). ま た,栄 養 状 態 に よ り感染 症 に対 す る免 疫 機 能 も影 響 を 受 け,低 栄 養 状 態 で は た ん ぱ く質 ・エ ネ ル ギ ー 失 調 症(PEM)に
よ り細 胞 性 免 疫 機 能 な どが 低 下
し,ま た ビ タ ミ ンや 無 機 質 の 欠 乏 に よ り,免 疫 細 胞 や そ の機 能 障 害 と して影 響 を及 ぼ す.逆
に 過 栄 養 状 態 で は 加 齢 を加 速 させ 免 疫 系 の 機 能 を低 下 させ る5).
この よ う に 低 栄 養,過
栄 養 と もに感 染 症 に 冒 さ れ や す くな る.日 本 で は感 染 症
表2.2 栄養 素 の体 内 の働 き
( 仲 野 昭 一 編:図
説 ・か らだ の仕 組 み と働 き,医
歯薬 出版,2001よ
り改 変)
表2.3 栄 養 素 の 欠 乏 に よる症 状 お よ び欠 乏 症,過
剰 に よ る症 状 お よび 過 剰 症
(第一 出版 編 集 部編:日 本 人 の食事 摂取 基 準,第 一 出版,2005,中 村丁 次 編著:栄 養 食事 療 法必 携, 医 歯薬 出 版株 式 会社,2005を 基 に作 成)
で あ る 結 核 が1950年
代 前 半 まで 死 亡 原 因 の 中 心 で あ っ た が,こ
れは 当時の 医
学 水 準 や 劣 悪 な 衛 生 状 態 に加 え て,食 糧 難 に よ る低 栄 養 状 態 の 影 響 も要 因 の 一 つ と い え よ う. こ の よ うに,栄 養 は欠 乏症,過 で あ り,各 人 の 性 別,体 位,年 を心 が け る こ とは,よ
剰 症 の 予 防,さ
らに免 疫 機 能 の 面 か ら も重 要
齢,身 体 活 動 に応 じた望 ま しい 栄 養 素 量 の 摂 取
り身体 的 な健 康 を保 つ た め に大 切 で あ る.
2.3.2 生 活 習 慣 病 と栄 養 生 活 習 慣 病 と は,「 食 習 慣,運 が,そ
動 習 慣,休
養,禁
煙,飲
酒 な どの生 活習 慣
の 発 症 ・進 行 に 関 与 す る 疾 患 群 」 と1996年 に厚 生 省 公 衆 衛 生 審 議 会 意
見 具 申 に よ り定 義 され て い る.栄 養 ・食 生 活 と関係 が 深 い 生 活 習 慣 病 に は,高 血 圧,高
脂 血 症,虚
血 性 心 疾 患,脳
卒 中,一 部 の が ん(大 腸,乳,胃),糖
病,骨 粗 鬆 症 が あ る6).わ が 国 の 死 因 別 死 亡 率 上 位3位 り,全 死 因 の 約6割
尿
まで が 生 活 習 慣 病 で あ
を 占 め て い る.
脳 血 管 疾 患 と心 疾 患 の 死 亡 率 の 年 次 推 移 を み る と,脳 内 出 血 の 死 亡 率 が 1960年 代 か ら急 激 に 減 少 す る,一 率 が1960年
方,脳 梗 塞 お よ び虚 血 性 心 疾 患 に よ る 死 亡
代 よ り増 加 して い る.こ
れ らの 原 因 は,食 生 活 の 洋 風 化 に と もな
う動 物 性 食 品 の 摂 取 量 の増 加 な ど,栄 養 素 摂 取 量 の変 化 に よ る と考 え られ て い る.そ
して,こ の よ うな 食 事 内容 の 変 化 が 粥 状 動 脈 硬 化 の リス ク を 高 め て い る
こ とが示 され て い る7). 生 活 習 慣 病 対 策 に は,従 来 の二 次 予 防(早 期 発 見,早 期 治 療)に
加 え,近 年
で は 一次 予 防(発 症 予 防)に 重 点 が 置 か れ る よ うに な り,生 活 習 慣 病 の リ ス ク を低 下 させ るた め に適 正 な栄 養 ・食 生 活 の重 要 性 が 高 ま って い る.
2.3.3 食 事 摂 取 基 準 健 康 な 個 人 ま た は 集 団 を 対 象 と し て,国
民 の 健 康 の 維 持・ 増 進,エ
ネル
ギ ー ・栄 養 素 欠 乏 症 の予 防,生 活 習 慣 病 の予 防,過 剰 摂 取 に よ る健 康 障 害 の予 防 を 目的 す る エ ネ ル ギ ー お よ び各 栄 養 素 の 摂 取 量 の 基 準 と し て,「 食 事 摂 取 基 準 」8)が定 め ら れ て い る.こ
れ は,従 来 の 「日本 人 の 栄 養 所 要 量 」 を 引 き継 い
だ もの で あ る.こ の 栄 養 所 要 量 の 策 定 当初 は 欠 乏症 を回 避 す る こ と を主 た る 目
的 とす る もの で あ っ た が,食
品 の加 工 や 流 通 の発 達 に と も な い,新
たに 「 過剰
摂 取 」 に よ る 健 康 障 害 な ら び に 生 活 習 慣 病 の増 加 が 深 刻 に な っ て き た こ とか ら,第 六 次 改 定 で は欠 乏 症 お よ び過 剰 症 の 回避,お
よび 生 活 習 慣 病 予 防 の考 え
方 が 取 り入 れ られ た.そ れ を改 定 し,名 称 を変 更 した 「日本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2005年 度 版)」 は,第
六 次 改 定 日本 人 の 栄 養 所 要 量 の 策 定 方 針 を踏 襲 し,さ
らに 徹 底 さ れ た もの で あ る. 「日本 人 の 食 事 摂 取 基 準(2005年
版)」 は,以 下 に 述 べ る2つ
の基 本 的 な 考
え 方 に基 づ い て い る. ●欠 乏 症 だ け で な く,生 活 習 慣 病 の予 防 な らび に過 剰 摂 取 に よ る健 康 障 害 に も 対 応 す る た め に は,最 低 摂 取 量 に 関 す る基 準 だ け を 与 え る従 来 の 考 え方 で は 不 十 分 で あ る.「 摂 取 量 の 範 囲」 を示 し,そ の範 囲 に摂 取 量 が あ る場 合 が 望 ま しい とす る 考 え方 を 導 入 しな け れ ば な ら な い.ま た,そ
れ以 上 の 摂 取 量 に
な る と,過 剰 摂 取 に よ る 健 康 障 害 の リス クが 高 くな っ て い る こ と を明 らか に しな け れ ば な ら な い. ●エ ネ ル ギ ー お よ び栄 養 素 の 「真 の」 望 ま しい摂 取 量 は 個 人 に よっ て 異 な り, また,個
人 内 に お い て も変 動 す る.そ
定 す る こ と も算 定 す る こ と も で きず,そ
の た め,「 真 の 」 望 ま しい 摂 取 量 は 測 の 算 定 に お い て も,そ の 活 用 に お い
て も確 率 論 的 な 考 え 方 が 必 要 とな る. エ ネ ル ギ ー の 指 標 は,推 定 エ ネ ル ギ ー 必 要 量(EER:estimated quirement)で,当
該 集 団 に 属 す る 人 の エ ネ ル ギ ー 出納 が0と
energy
re
な る確 率 が 最 も
高 くな る と推 定 され る1日 あ た りの エ ネ ル ギ ー摂 取 量 と定 義 さ れ,エ
ネルギー
の不 足 の リ ス ク お よ び過 剰 の リス ク の 両 者 が 最 も小 さ く な る摂 取 量 で あ る(図 2.3).推
定 エ ネ ル ギ ー の 必 要 量(kcal/日)=基
礎 代 謝 量 ×身 体 活 動 レベ ル で
求 め られ る.身 体 活 動 レベ ル は,活 動 の 強 さ に よ り,レ ベ ルⅠ(低 ルⅡ(中
等 度),レ
ベ ル Ⅲ(高 い)の3つ
栄 養 素 は 食 事 摂 取 基 準(DRIs:dietary
い),レ
ベ
に 区分 され て い る. reference intakes)と
して,以 下 の
5種 類 を設 定 して い る(図2.4). ●推 定 平 均 必 要 量(EAR:estimated
average
対 象 と して 測 定 され た 必 要 量 か ら,性
requirement)
特 定の集 団を
・年 齢 階級 別 に 日本 人 の 必 要 量 の平 均
値 を推 定 し た.当 該 性 ・年 齢 階 級 に 属 す る 人 々 の50%が
必 要 量 を満 た す と
推 定 さ れ る1日
の 摂 取 量 で あ る.
● 推 奨 量(RDA:recommended
dietary
allowance)
属 す る 人 々 の ほ と ん ど(97∼98%)が1日 1日 の 摂 取 量 で あ り,原 SD)」
則 と して
あ る 性 ・年 齢 階 級 に
の 必 要 量 を 満 た す と推 定 さ れ る 「 推 定 平 均 必 要 量+標
準 偏 差 の2倍(2
で あ る.
● 目安 量(AI:adequate
intake)
推 定 平 均 必 要 量 ・推 奨 量 を 算 定 す る の に
十 分 な 科 学 的 根 拠 が 得 ら れ な い 場 合 に,あ
る 性 ・年 齢 階 級 に 属 す る 人 々 が,
良 好 な 栄 養 状 態 を 維 持 す る の に 十 分 な 量 で あ る. ● 目 標 量(DG:tentative eases)
dietary
goal
for preventing
life-style related
dis
生 活 習 慣 病 の 一 次 予 防 の た め に 現 在 の 日本 人 が 当 面 の 目標 と す べ
図2.3 推 定 エ ネ ルギ ー 必 要 量 を理 解 す る ため の模 式 図 (第一 出 版 編 集 部 編:厚 生 労 働 省 策定 日本 人 の食 事 摂 取 基 準,第
一出版,2005)
注:目 標 量 に つい て は,推 奨 量,ま た は 目安 量 と,現 在 の 摂 取 量 中 央 値 か ら決 め られ る ため,こ こ に は図 示 で き な い. 図2.4
食事 摂 取 規 準 の 各 指標(推 定 平 均 値,推 奨 量,目 安 量,上 限量) を 理解 す る ため の 模 式 図 (第 一 出版 編 集 部 編:厚 生 労 働 省 策 定 日本 人 の 食 事 摂 取 基 準,第 一 出 版,2005)
き摂取 量(ま
た は,そ の 範 囲)で あ る.
● 上 限 量(UL:tolerable
upper
intake level)
あ る 性 ・年 齢 階 級 に 属 す る
ほ とん どす べ て の 人 々が,過 剰 摂 取 に よる健 康 障 害 を起 こす こ との な い 栄養 素 摂 取 量 の 最 大 限 の 量 で あ る. 年 齢 区分 は,各
ラ イ フ ス テ ー ジ 別 に15区 分 を使 用 した.ま
設 定 は 策 定 時 の得 て い る デ ー タ(1歳 0∼11ヵ
月乳 児 は2000年
以 上 は平 成13年
度 国民 栄 養 調 査 結 果,
乳 幼 児 身体 発 育 調 査 結 果)に 基 づ い て い る.
食 事 摂 取 基 準 に策 定 され て い る もの は,エ 水 化 物,食 物 繊 維,ビ
た,基 準 体 位 の
ネ ル ギ ー,た
タ ミ ン,無 機 質 の 計35項
食 事 摂 取 基 準 につ い て適 用 す る対 象 は,主 何 ら か の軽 度 な 疾 患(例:高
血 圧,高
目で設 定 され て い る.
に健 康 な個 人 ま た は集 団 で あ る.
脂 血 症,高 血 糖)を
活 を営 み,当 該 疾 患 に特 有 の 食 事 指 導,食
ん ぱ く質,脂 質,炭
事 療 法,食
有 して い て も 日常 生
事 制 限が 適 用 さ れ た り,
推 奨 さ れ た り して い な い もの を含 ん で い る.ま た,策 定 され た 量 は 「1日 当 た り」 で あ る が,こ れ は習 慣 的 な摂 取 量 を1日
当 た り に換 算 した もの で あ る.な
お,摂 取 源 は 食 事 と して経 口摂 取 さ れ る もの で あ り,健 康 増 進 の 目 的 で 摂 取 さ れ る食 品(サ
プ リ メ ン トな どの 健 康 食 品)も 含 ん で い る.
食事 摂 取 基 準 の 用 途 は,摂 取 量 を評 価(ア (プ ラ ンニ ング:栄
養 指 導 計 画,給
セ ス メ ン ト)の た め と,栄 養 計 画
食 計 画 等 を含 む)を 立 案 の た め の2つ
に大
別 され る.栄 養 計 画 は,栄 養 ア セ ス メ ン トに 基 づ い て対 象 に応 じた 計 画 を 立 案 し,実 施 す る こ とが 重 要 で あ る.な BMI(body
mass
index)を
に し,エ ネ ル ギ ー 消 費 量,す
お,エ
ネ ル ギ ー 摂 取 量 の 評 価 ・判 定 は,
指 標 と して い る.ま
た モ ニ タ リ ン グ は体 重 を指 標
な わ ち身 体 活 動 の 増 加 も併 せ て 計 画 す る こ とが 望
ま しい10).
2.4 健 康
と 休 養
一 般 的 に,休 養 とは,身 体 的 ・精 神 的 疲 労 や 過 労 を 回復 させ る た め の 安 静 な 時 間 と さ れ て い る.厚
生 労 働 省 の 「健 康 づ く りの た め の 休 養 指 針 」12)では,
「休 」 は 主 に 心 身 の 疲 労 を 回 復 す る こ と,こ れ に対 して 「養 」 は 健 康 の 潜 在 能 力 を高 め,健 康 増 進 を 図 る もの で,自
己 実 現 を め ざ した積 極 的,能 動 的 な行 動
を伴 う もの と さ れ て い る.つ ま り,休 養 は,心 生 活 の 質(QOL)を
身 の健 康 の た め だ け で は な く,
維 持 増 進 して い くた め に も重 要 な もの で あ る.
健 康 づ く りの た め の 休 養 指 針 に お い て は,効 果 的 な休 養 は,「 生 活 リズ ム」 「時 間 的 要 素 」 「空 間 的 要 素 」 「社 会 的 要 素 」 の4つ
の 要 素 か ら構 成 さ れ て い る
(表2.4). この よ うに,休 養 を,生 活 や 人 生 の 中 で積 極 的 に位 置 づ け る必 要性 が提 案 さ れ て い る.労 働 環 境 の機 械 化 や 効 率 化,地 域 社 会 の 変化 や 人 間 関 係 の 複 雑 化 と 多 様 化 な どに よ っ て,健 康 をお びや か す ス トレス は増 加 の 一 途 に あ る.作 業 中 断 に よ る一 時 的 な休 息 や 休 憩 だ けで な く,積 極 的 な休 養 を実 践 す る こ とが 重 要 と な っ て きて い る.積 極 的 な休 養 と は,週 休 や 休 暇 を趣 味 活 動,社 動 な ど に あ て て,生 活 を楽 しみ,人
会 活 動,運
間 ら し く生 き る こ とに よ り,明 日へ の エ ネ
ル ギ ー を補 充 す る た め の 行 動 を含 む もの で あ る. 疲 労 が 回復 せ ず 慢 性 疲 労 の 状 態 に陥 る と,心 身 の様 々 な 機 能 に な ん らか の 障 害 が 生 じて く る た め,休 養 の 状 況 を 自 ら把 握 す る方 法 を 心 得 て お くこ とが 必 要 で あ る.休 養 の 状 況 を把 握 す る方 法 と して は,厚 生 労 働 省 の 健 康 指標 策 定 検 討
表2.4 健 康 づ く りの た め の 休 養 指針
(厚生 統 計 協 会:国
民衛 生 の 動 向,2004)
会 が 提 唱 し た 「休 養 状 況 調 査 表(表2.5)」 労 感,生 活 の リ ズ ム,気 分 転 換 の5項
が あ る.こ
目に つ い て3段
れ は,睡 眠,休
暇,疲
階評 価 を し,そ の 総 得 点
で 休 養 状 況 を4区 分 す る方 法 で あ る. 休 養 に 関 す る 国民 の 意 識 は,か な り高 く,健 康 ・体 力 づ く り事 業 財 団 が 実 施 した 「健 康 行 動 に 関 す る意 識 調 査 」 の 結 果 で は,約7割 が け て い る.し か し,30代,40代
の者 が 睡 眠 ・休 養 に心
の 働 き盛 りで は,「 休 養 は 不足 しが ち」 ま た
は 「休 養 不 足 」 と回答 す る割 合 が 多 く,と
くに男 性 で は4割 を 超 えて お り,仕
事 や 家 事 の 負 担 が 多 い年 代 で の 自 由 時 間 の と り方 に つ い て の対 策 が 望 まれ る. 次 に,休 ば,休
日の 過 ご し方 に つ い て は,週 休2日
制,長
期 有給 休暇 が浸透 す れ
日の 内 容 もか な りの 変 化 す る もの と考 え られ る.事 実,「 余 暇 生 活 に 関
す る 意 識 調 査 」 で は,自 由 な 時 間 を過 ご した い とい う希 望 は あ っ て も,自 由時 間 が と りに くい こ とや,施 設 ・交 通 の混 雑,経
済 面 な どで,ま
だ まだ 十 分 満 足
の い くも の とは な っ て い な い. 健 康 づ く りの た め の休 養 は,積 極 的 な保 養 活 動 を行 う こ とが効 果 的 で あ る. 具 体 的 に は,① 会 食 な ど),② グ,サ
栄 養(栄 運 動(歩
養 指 導 教 室,自 行,ジ
イ ク リ ン グ,水 泳,サ
然 食 材 の 収 集,戸 外 を含 め た調 理 ・
ョギ ン グ,体 操,エ
ア ロ ビ クス 体 操,ハ
イキ ン
ッ カー や バ レー ボ ー ル 等 の 球 技 ス ポ ー ツ等),③
自然 との ふ れ あ い(森 林 浴,海
水 浴,日 光 浴,バ
な ど),④
る い はス ポ ー ツ指 導 な ど の ボ ラ ン テ ィア 活 動,
社 会 活 動(福 祉,あ
サ ー ク ル 活 動 な ど),⑤
趣 味 ・文 化 活 動(絵
ー ドウ ォ ッチ ング,天 体 観 測
画 ・音 楽 鑑 賞,読
書,釣
り,手
表2.5 休 養 状 況 調 査 表
(判 定 基準) A(休
養 十 分)
13∼15点
C(休
養 不 足 が ち)
7∼9点
B(普
通)
10∼12点
D(休
養不 足)
5∼6点
(厚 生 省健 康 指標 策 定 検 討 会:休
養状 況調 査 表,1981)
芸,工
芸,生 花,園
ウ ナ,ジ
芸,囲
碁 ・将 棋,カ
ャ グ ジー バ ス 等),な
ラ オ ケ等),⑥
康 教 育 や 健 康 指 導,マ
供,体 験 的 休 養 の 取 得),②
種 の温 泉,サ
どで あ る.
休 養 に よ る健 康 づ く り対 策 と して は,① 発 活 動(健
入 浴(各
休養 の意義や 重要性 につ いての啓
ス コ ミや パ ン フ レ ッ ト等 を利 用 した 情 報 提 働 時 間 の 短 縮,週
休
2日 制 や 長 期 休 暇 制 度 の 導 入,健
康 保 持 増 進 の た め の 休 暇 制 度 の 定 着),③
休
養 に 必 要 な 場 所,施
場 内 の休 憩 室 整 備,都 市 公 園 や 運 動 施 設 の 整
備,キ
休 養 に 必 要 な 時 間 の 確 保(労
設 の 確 保(職
ャ ン プ場 や 自然 公 園 ・遊 歩 道 な どの 自然 と親 し む施 設 の 整 備),④
手 段 の 整 備(公 共 交 通 手 段 の 充 実,道 路 の 整 備,ロ 段 の 整 備),⑤
コ ス トの 低 減(交
通 や 宿 泊,施
⑥ 効 果 的休 養 取 得 の た め の 情 報 提 供(保 ッ トを利 用 した 情 報 提 供),等
移動
ー プ ウエ ー 等 の ア クセ ス 手
設 利 用 な どの 料 金 の 適 正 化),
養 活 動 の 指 導,マ
ス コ ミや パ ン フ レ
が あ る.
2.5 健 康 阻 害 要 因
2.5.1 飲
酒
ア ル コ ー ル 飲 料 は,古
くか ら,そ の 土 地 の 食 文 化 の 象 徴 と して 様 々 な 形 で 発
生 し,世 界 の 各 地 域 の 人 々 に飲 まれ て きた.日 本 で は 日本 酒 や焼 酎,南 ッパ で は ワ イ ンや ブ ラ ンデ ー,メ
ヨー ロ
キ シ コの テ キ ー ラ,北 西 ヨー ロ ッパ の ビー ル
や ウ イ ス キ ー 等 が よ く知 られ て い る.疾 病 に効 く と され た時 代 もあ り,現 代 で も,百 薬 の 長,神 へ の捧 げ も の と して,日 常 生 活 の 中 に深 く浸 透 して い る 飲 み 物 で あ る. a.ア
ル コー ル の 吸 収
ア ル コー ル 飲 料 の 作 用 の 主 体 は,エ る.ア ル コ ー ル は,消 に い きわ た る.体
チ ル ア ル コ ー ル(CH3CH2OH)で
化 管 か ら吸収 され,そ
あ
の 後,血 液 を介 して 全 身 の 各 臓 器
内 に吸 収 され る ア ル コー ル の う ち,胃 か らは 約20%,小
(十二 指 腸 ・空 腸 上 部)か
らは80%が
腸
吸 収 さ れ る.胃 内 に食 物 が 存 在 して い る
場 合 は,ア ル コー ルが 胃 か ら小 腸 に 送 られ る 時 間 が 遅 くな る た め,ア
ル コー ル
の 吸 収 は遅 くな る. 消 化 管 壁 か ら吸 収 さ れ た ア ル コー ル は,血 液 中 に入 り,つ い で,血
中ア ル
コ ー ル濃 度 と,各 組 織 内 の ア ル コー ル濃 度 とが 一 定 に な る まで,各 組 織 に 移 行 し,蓄 積 され る.ア ル コ ー ル は低 分 子 で,水
溶性 お よ び脂 溶 性 が 高 い た め,単
純 拡 散 に よ り容 易 に細 胞 膜 を通 り,血 中 か ら組 織 へ 移 行 しや す い.脳 や 肝 臓, 腎 臓 な どは,血 液 循 環 量 が 多 い た め,ア
ル コー ル も早 く移 行 す る.ま た,飲 酒
中 に 動 き回 る と,血 液 循 環 が 良 くな り,酔 い が 早 く出 現 す る こ と に な る.ま た,ア ル コー ル濃 度 が 高 い ほ ど,体 内 へ の吸 収 は 早 くな る. b.ア
ル コ ール の 排 泄
生 体 内 に 吸 収 さ れ た ア ル コ ー ル の 一 部 は,代 謝 され ず に排 泄 さ れ る が,そ の 量 は,体 内 に 吸 収 さ れ た ア ル コー ル の10%以
下 で あ る.排 泄 経 路 は,腎 臓 か
ら尿 中 に排 泄 さ れ る 経 路 と,肺 か ら呼 気 中 に排 泄 され る経 路 とが あ る.血 中 ア ル コー ル 濃 度 と肺 胞 に お け る ア ル コ ー ル濃 度 の 比 は2000:1前 気 中へ の ア ル コ ー ル排 泄 量 は極 め て 少 な い.つ
後 で あ り,呼
ま り,呼 気 が 酒 臭 い と きは,相
当量 を飲 酒 し て い る こ とに な る. c.ア
ル コ ール の体 内 に お け る 代 謝
生 体 内 に吸 収 さ れ た ア ル コ ー ル の90%以 り代 謝 さ れ る.ア
上 は,肝 臓 にお け る酸 化 反 応 に よ
ル コー ル の代 謝 経 路 は,ア ル コー ル か らア セ トア ル デ ヒ ドに
至 る 第 一段 階 と,ア セ トア ル デ ヒ ドか ら酢 酸 に 至 る 第 二 段 階 が 主 で あ る.前 者 に お い て は,ア
ル コー ル 脱 水 素 酵 素(ADH:alcohol
dehidrogenase)が
して 関 与 し,後 者 に お い て は ア ル デ ヒ ド脱 水 素 酵 素(ALDH:aldehyde hidrogenase)が
主と de
主 に 関 与 す る.
ア ル コ ー ル の 代 謝 経 路 で 生 じる ア セ トア ル デ ヒ ドは,強 い 毒 性 を示 す.具 体 的 に は,顔 面 お よ び 全 身 の 紅 潮,呼
吸 数 ・心 拍 数 の 増 加,と
心,嘔
吐 な ど で あ る.ア
果,こ
う した 不 快 症 状 を示 す こ と に な る.
d.遺
き に は 頭 痛,悪
セ トア ル デ ヒ ドの代 謝 が 遅 延 し,体 内 に 蓄 積 した 結
伝 子 とア ル コー ル 分 解 酵 素
ア セ トア ル デ ヒ ドの 代 謝 は,ALDHの 強 いALDH2の
セ トア ル デ ヒ ドに 親 和 性 の
遺 伝 子 の 型 に よ り決 ま る.ア セ トア ル デ ヒ ドの 代 謝 機 能 が 正 常
な型,非 常 に弱 い型,ま サ ス(白 色 人 種)と に対 し,モ
う ち,ア
っ た く機 能 し な い型 の3つ の 型 に分 け られ る.コ ー カ
ネ グ ロ イ ド(黒 人 種)で
は,ほ ぼ100%が
ン ゴ ロ イ ドの う ち,日 本 人,韓 国 人,中
正 常 型 で あ るの
国 人 で は,正
常 型 は56∼
72%で
あ っ た.日
本 人 で は,ア セ トア ル デ ヒ ドの 代 謝 が 弱 い 型 が39.4%,ま
っ た く代 謝 で きな い 型 が4%10)で
あ る.
つ ま り,日 本 人 の43.8%は,ア
ル コー ル を代 謝 す るた め の 正 常 な 酵 素 が 欠
乏 して い る た め,ア ル コ ー ル摂 取 に よ る不 快 症 状 を 引 き起 こ しや す い.自 適 量 を知 っ て,不 快 症 状 が 出 な い よ う に飲 む こ とが,お
分の
酒 を楽 し く飲 む コ ツで
あ る(表2.6). e.ア
ル コ ー ル に よ る健 康 障 害
1)急
性 障 害:急 性 ア ル コ ー ル 中 毒
短 時 間 で大 量 の 飲 酒 を行 う と,肝 臓 にお け る ア ル コ ー ル 分 解 が 遅 れ,泥
酔や
昏 睡 な ど の生 命 の 危 険 に さ ら され る こ とに な る.重 篤 な ア ル コー ル中 毒 の場 合 に は,中 枢 性 の血 管 運 動 中枢 が抑 制 され,呼 2)ア
吸 抑 制 や血 圧 下 降 が 起 こ る.
ル コー ル の 催 奇 形 作 用
妊 娠 中 に多 量 の ア ル コ ー ル を飲 ん だ 母 親 か ら生 ま れ た 子 ど も に,小 脳 症 や 中 枢 神 経 障 害,発 3)ア
育 遅 延,顔 貌 異 常 な どの 奇 形 が 合 併 して い る こ とが 多 い.
ル コー ル性 肝 障 害
長 期 間 に わ た る 過 剰 の 飲 酒 が,肝 疾 患 の 主 要 な原 因 と考 え られ る.肝 硬 変, 脂 肪 肝,肝
炎,肝 繊 維 症 な どで あ る.統 計 的 に は,80g/日
4合 の 日本 酒,1/4lの
ウ イ ス キ ー,ま
た は1lの ワ イ ン)よ
の ア ル コー ル(約 り多 くな る と肝 硬
変 に な る リ ス クが 上 が る9)と い わ れ て い る.
2.5.2 喫 煙:タ a.発
バ コ の煙 に 含 ま れ る有 害 物 質 と そ の 作 用
がん 物 質
た ば こ の 煙 の 中 に は,4000種
類 の 化 学 物 質 が 含 ま れ,そ
表2.6 酒類 の ア ル コー ル 量 の換 算 の め や す
純 ア ル コ ー ル 量=容
量(ml)×
ア ル コ ー ル 濃 度(%)÷100×0.794(比
重)
の う ち,少
な くと
も200種 て,た
類 の 発 が ん 物 質 が 確 認 さ れ て い る.代 表 的 な発 が ん性 化 学 物 質 と し ば こ の 粒 子 成 分 中 の ニ トロ ソ ア ミ ン(nitrosamine)や
(benzpyrene)が
ベ ンズ ピ レ ン
あ る.
こ れ らの 発 が ん性 を もつ 化 学 物 質 は,呼 吸 器 や 消 化 器 で 吸 収 され,そ
の 後,
肝 臓 で代 謝 され る と き に活 性 化 され,細 胞 の 遺 伝 子 を傷 つ け,細 胞 に突 然 変 異 を起 こ す.細 胞 分 裂 は 発 が ん を促 進 す る こ とが 確 か め られ て い るの で,細 裂 の 旺盛 な幼 少 児 期 か ら青 年 期 に か け て は,と
胞分
くに発 が ん 物 質 を取 り込 ま ない
こ とが 大 切 に な る.喫 煙 開始 年 齢 が 早 け れ ば 早 い ほ ど,肺 が ん や 喉 頭 が ん な ど に罹 患 す る確 率 が 高 くな る10)こ とが 報 告 さ れ て い る. b.ニ
コチ ン
ニ コチ ン は無 色 の 揮 発 性 の 液 体 で,空 気 に触 れ る と褐 色 に な る.独 特 の 臭 気 と味 を も ち,水
に溶 け や す い 特 質 で あ る.致
以 下 で あ る.ニ
コチ ンに よ る 交 感 神 経 賦 活 作 用 に よ り,血 管 収 縮 を もた ら し,
血 圧 を上 昇 さ せ る.ま
た,一 酸 化 炭 素(CO)と
死 量 は,体
重1kgあ
た り1mg
共 存 す る こ とで,狭 心 症,心
筋 梗 塞,脳 梗 塞,女 性 の不 妊 や 早 産 の リス ク を増 大 させ る. ニ コチ ンは,麻 薬 や ア ル コー ル と同 様 に依 存 症 の あ る物 質 で あ り,禁 煙 に よ る不 安 や 集 中 困 難 な どの離 脱 症 状 を 引 き起 こ す.そ の た め,禁 煙 し よ う と して も,成 功 す るの は難 しい.ニ
コチ ンの 精 神 依 存 性 は,ヘ
ロ イ ンや コ カ イ ン,ア
ル コ ー ル に 匹 敵 す る ほ ど 強 力 で あ る11).禁 煙 治 療 の た め に,ニ
コチ ンガムや
ニ コチ ンパ ッチ(皮 膚 に貼 る シ ー ル)が 有 効 で あ る. c.一
酸化炭 素
タバ コの 煙 の 一 酸 化 炭 素(CO)は,酸 が250倍
も 強 い12)た め,喫
素 に比 べ て ヘ モ グ ロ ビ ン との 結 合 力
煙 に よ り全 身 の 組 織 が 酸 素 欠 乏 状 状 態 に 陥 りや す
くな る. d.喫
煙 に よ る健 康 障 害
1)タ
バ コ と 関連 性 の あ るが ん
肺 が ん,喉 頭 が ん,食 道 が ん,口 腔 が ん,咽 頭 が ん,膀 胱 が ん は,相 対 危 険 度(タ バ コ を吸 わ な い 人 に対 して,タ バ コ を吸 う人 の が ん の 発 生 す る比 率)が 2倍 以 上13)で あ り,喫 煙 の発 生 率 との 因 果 関係 が あ る と判 断 され る. 直 腸 が ん,胃
が ん,胆 の うが ん,肝
が ん,膀 胱 が ん,乳 が ん,子 宮 頸 部 が ん
は,相 対 危 険 度 が1.2以
上 で あ り,喫 煙 の発 生 率 と弱 い 関 連 が あ る と判 断 され
る. 2)脳
卒中
画 像 診 断 技 術 の 進 歩 に よ り,喫 煙 に よ る動 脈 硬 化 進 展 が 明 らか に な っ た.喫 煙 と脳 卒 中 と の 関 連 につ い て も,約2倍
の 相 対 危 険 度 が あ る こ とが 国 内外 の 調
査15)に よ っ て 明 ら か に な っ て い る. 3)呼
吸 器 系 の疾 病
肺 機 能 低 下,ガ 炎,肺
ス 交 換 機 能 の 低 下 に よ る 動 脈 酸 素 分 圧 の 低 下,慢
気 腫 な どの慢 性 閉塞 性 肺 疾 患(COPD)と
性 気管支
の 関 連 性 の 強 い こ とが 指 摘 さ
れ て い る. e.主
流 煙 と副 流 煙
主 流 煙 と は,タ バ コ を吸 う人 の肺 の 中 に 直 接 吸 い込 まれ る煙 で あ り,フ ィ ル タ ー に よ り濾 過 され,成
分 の 一 部 が 除去 さ れ る.ま
た副 流 煙 とは,タ バ コの 燃
焼 部 か ら空 気 中 に 立 ち上 が る 煙 で あ り主 流 煙 よ り有 害 成 分 が 多 く,ニ コチ ンや ベ ンズ ピ レ ンは3倍,一
酸 化 炭 素 は5倍 ,ニ
トロ ソ ア ミ ン は20∼130倍
であ
る. f.受
動 喫 煙 に よ る健 康 影 響
副 流 煙 を 吸 い 込 む 受 動 喫 煙 は,自 分 の 意 思 とは 無 関 係 に,あ
るいは意に反 し
て 吸 っ て し ま う煙 で あ り.喫 煙 者 以外 の 人 の 健 康 を も損 な っ て い る こ とが 明 ら か に され て い る. 1)乳
幼児 の突然 死
出 産 後,同
室 内 の 受 動 喫 煙 に よる乳 幼 児 の 突 然 死 は,喫 煙 しな い 乳 幼 児 と比
較 して2.3倍
も高 か っ た16).胎 児 や 乳 児 の 呼 吸 器 が,ニ
の 障 害 を 受 け,突 然 死 の 下 地 を作 る の で は な い か,と 2)虚
3)発
い わ れ て い る.
血性心疾 患
脂 質 代 謝 や 血 小 板 機 能,血 る.ま
コチ ンや 一酸 化 炭 素
管 内 皮 機 能 に 悪 影 響 を与 え,動 脈 硬 化 を促 進 す
た,狭 心 症 や 心 筋 梗 塞 の危 険 性 も高 ま る. がん性等
肺 が ん,副
鼻 腔 が ん,乳 幼 児 の気 管 支 炎,肺 炎,中
気 管 支 喘 息 の 発 病 と悪 化,子
耳 炎,慢
性 呼 吸 器 症 状,
宮頸 部 が ん の 危 険 性 を 高 め る こ とが 報 告 され て い
る. g.わ
が 国 の 喫 煙 防 止 対 策:防 煙 と分 煙
1)た
ば こ行 動 計 画 検 討 会 報 告 書
1995(平
成7)年
に,公 衆 衛 生 審 議 会 に よ り意 見 具 申 さ れ た 「た ば こ行 動 計
画 検 討 会 報 告 書 」 に 基 づ き,「 防 煙 対 策 」,「分 煙 対 策 」,「禁 煙 支 援 ・節 煙 対 策 」 を3つ の 柱 と して,各 実 施 主 体 の 自主 的 な た ば こ対 策 の取 り組 みが な さ れ て い る. 近 年,成
人 の 喫煙 率 は漸 減 して い る もの の,若
の 上 昇,た
ば こ消 費 の 拡 大,た
くに 女性)の
喫煙率
ば こ 関連 疾 患 に よる 死 亡 者 数 の 増 大,お
年 者(と
よびそ
れ に 伴 う 医療 費 な どが 問 題 とな っ て い る. 2)防
煙:未
成 年者の喫煙防止
わ が 国 で は,未
成 年 者 喫 煙 禁 止 法(明
治33年
制 定)に
よ り,未 成 年 に対 す
る た ば こ の 販 売 者 に罰 則 規 定 が 定 め ら れ て い る.具 体 的 な 防 煙 の 手 段 と して は,以 下 の こ とが 検 討 ・実 施 され て い る. a)た
ば こ の 広 告 ・販 売 促 進 活 動 の あ り方
(昭和59年 制 定)に
わ が 国 で は,た
基 づ く広 告 指 針(平 成 元 年 大 蔵 省 告 示)を
ば こ事 業 法
踏 ま え,た
ばこ
業 界 が 広 告 ・販 売 促 進 活 動 に関 す る 自主 規 準 を 定 め て お り,従 来 か ら未 成 年 者 や 女 性 を主 た る 読 者 とす る 雑 誌 で は広 告 を 行 っ て お らず,1998(平 4月 か らは,テ
レ ビ ・ラ ジ オ等 の 電 波 媒 体 で,た
成10)年
ば こ製 品 の 銘柄 名 の 広 告 を 自
粛 して い る. 一 方,印 刷 媒 体 や 電 車 の 中 吊 り,屋 外 看 板 な どに よ る広 告 が 最 近 増 加 して い る.テ
レ ビの ドラ マ や 新 聞,雑 誌 の広 告 な ど で,た ば こ に対 して 良 い イ メ ー ジ
が 未 成 年 者 に 植 え つ け られ た り,女 性 向 け 銘 柄 の広 告 が 大 々 的 に 行 わ れ て い る こ と,ま た,マ
ナ ー広 告 で た ば こ は大 人 の も の と強 調 す る こ とが,逆
に未 成 年
者 に 「大 人 に 対 す る憧 れ 」 と して の 喫 煙 を助 長 して い る. b)た
ば この 自動 販 売 機 の あ り方
置 台 数 が50万
わ が 国 で は,た
ば この 自動 販 売 機 は設
台 に 達 し,こ の こ とが 未 成 年 者 の た ば この 入 手 を容 易 に して い
る.た ば こ販 売 に お い て も,対 面 販 売 と年 齢 確 認 の 徹 底 に よる 未 成 年 者 喫 煙 禁 止 法34)を 遵 守 し,自 主 規 制 に と ど ま っ て い る 自 動 販 売 機 に よ る 販 売 の 禁 止 や,設
置 場 所 の 制 限 の 強 化,販 売 自粛 時 間 枠 の拡 大 な どの対 策 が 必 要 で あ る.
c)た
ば こ の小 売 価 格
わ が 国 の た ば こ の 価 格 は,国
際 的 に み て も 安 く,
未 成 年 者 の た ば こ の 購 入 を 容 易 に し て い る 要 因 の 一 つ で あ る こ と か ら,価 上 げ,税
収 を 確 保 し な が ら,未
d)社
会 全 体 の 取 り組 み
成 年 者 の 消 費 を 減 らす べ き で あ る.
防 煙 対 策 と し て は,家
喫 煙 防 止 対 策 が 必 要 で あ る.さ け さ せ る 教 育 を 重 視 し,周
格 を
ら に,自
庭,学
校 や 地 域 ぐるみ の
主 的 に 判 断 し行 動 で き る 能 力 を 身 に つ
囲 か ら 喫 煙 を 強 要 さ れ た 場 合 の 対 処 法 の 訓 練 や,広
告 の イ メー ジ とた ば こ とい う商 品 の 本 質 の 違 い を見 極 め る教 育 な ど も必 要 で あ る. 3)分
煙
分 煙 は,受
動 喫 煙 に よ り非 喫 煙 者 に 起 こ り う る 健 康 へ の 悪 影 響 を 排 除 す る た
め の 措 置 で あ る.2003(平
成15)年
に 施 行 さ れ た 健 康 増 進 法 第25条
煙 の 防 止 が 規 定 さ れ た こ と か ら,厚
生 労 働 省 や 人 事 院,東
京 都 な ど か ら,公
の 場 所 や 職 場 に お け る 喫 煙 の 制 限 に 関 す る 指 針 が 出 さ れ て い る,ま 場 所,と
に受 動 喫
た,公
共
共の
く に 鉄 道 ・飛 行 機 な ど の 輸 送 機 関 に お け る 禁 煙 ・分 煙 は か な り進 ん で
い る が,多
くの 職 場 や ホ テ ル,レ
が あ り,改
善 が 求 め ら れ る.
ス トラ ン等 で は 分 煙 ・禁 煙 が 十 分 で な い 現 状
【 文
献】
1)厚
生 統 計協 会:国 民衛 生 の 動 向2004年,2004.
2)第
一 生 命経 済 研 究所:ラ
3)健
康 ・体力 づ くり事 業 財 団:め ざせ 「健康 日本21」,2000.
イ フデザ イ ン白書2004-05,2003.
4)前
橋
5)奥
脇 義 行編:微 生物 と免 疫,建帛 社,2002.
明:健 康,明 研 図 書,1996.
6)日
本 栄 養士 会 編:健 康 日本21と 栄 養士 活 動,第 一出 版,2001.
7)八
倉 巻和 子 編:公 衆 栄 養 学,建 帛社,2005.
8)健
康 ・栄養 情 報研 究 会 編:日 本 人 の 食事 摂 取 基準(2005年
9)糸
川 義則 ・栗 山欣 弥 ・安 本教 傳:ア ル コ ー ル と栄養,光 生館,1992.
10)Doll,R.,Peto.R.:The
causes of cancer:Quantative
版),2005.
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cer in the United States today.J.C.I.66.1191-1308,1981. 11)Stolerman,L.P.,Jarvis.M..J.:The macology
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117,2-9,1995.
12)黒 瀬 美 枝,西 岡基 公 子,大 谷 佳 子 ほ か:動 脈 血 一 酸 化 炭 素ヘ モ グ ロ ビ ン(COHb)濃 と喫煙 の関 連性 につ い て.医 学 検査43,1879-1882,1994.
度
13)Hirayama,T.:Life-style
and
mortality,a
large-scale
census-based
cohort
study
in
Japan,Basel:Karger,1990. 14)Akiba,S.,et
al.:Cigarette
women-resuts Perspect 15)喫
煙
from
smoking
reanalysis
of
the
cancer
risk
cohort
study
in
Japanese
men
data.Environ
and Health
版 喫 煙 と 健 康 ― 喫 煙 と 健 康 問 題 に 関 す る 検 討 会 報
健 同 人 社,2002.
16)Klonoff-Cohen,H.S.,Edelstein.S.L.,Lfkowitz,E.S.,et and
mortality
87,19-26,1990.
と 健 康 問 題 に 関 す る 検 討 会 編:新
告 書,保
and
six-prefecture
tobacco
273,795-798,1995.
exposue
through
breast
al.:The milk
on
suddeninfant
effect deathe
of passive
smoking
syndrome.JAMA
3.
運動と健康
3.1 運 動 ・ス ポ ー ツ の 現 状
日本 は,他 の 先 進 国 に例 を み な い 速 さ で少 子 ・高 齢 社 会 に突 入 し,人 々の 価 値 観 も大 き く変 容 し て きた.「 豊 か さ」 に対 す る価 値 観 も,近 年 で は 約6割
の
人が 「 物 の 豊 か さ」 よ りも 「心 の 豊 か さ」 を 求 め る よ う に な り1),ス ピ ー ドや 効 率,成
果 で は な く,人 生 を豊 か に す る こ と を重 視 す る 「ス ロ ー ラ イ フ」 とい
う ラ イ フ ス タ イ ル も現 れ て き た.ま た,労 働 時 間 の減 少 や 平均 寿 命 の 延 び,週 休2日
制 の 実 施 な どか ら,余 暇 時 間 も増 加 し,余 暇 を い か に 有 意 義 に過 ご し,
どの よ う な 生 きが い を もつ か とい う こ とが,豊
か で 幸 せ な 人生 を送 る た め の 大
き な鍵 とな って い る.な か で も,運 動 ・ス ポ ー ツ は,健 康 に とっ て 重 要 な要 素 で あ る だ け で は な く,身 体 活 動 を伴 っ た コ ミュ ニ ケー シ ョ ン手 段 で もあ る こ と か ら,人
と人 との 交 流 を促 進 し,人 々 の 生 活 に 潤 い を与 え て くれ る 存 在 と な
る.
3.1.1 実 施 状 況 2004年 の 世 論 調 査2)に よ る と,こ の1年 割 合 は68.2%,行
わ な か った 人 の割 合 は31.4%と
ま っ た くス ポ ー ツ を しなか っ た 人 は,約3人 は,1965年 70%の
間 に運 動 や ス ポ ー ツ を行 っ た 人 の
以 降,高
実 施 率 で,大
な っ て お り,過 去1年
間に
に1人 で あ っ た.ス ポ ー ツ実 施 率
度 経 済 成 長 と と も に 上 昇 した が,こ
こ20数 年 は 約60∼
きな 変 化 は み られ な い(図3.1).ま
た,週1回
以上 の定
図3.1 運 動 ・ス ポ ー ツ 実施 率 の推 移(20歳 以 上 男 女,3000人 対 象) (内 閣府:体 力 ・ス ポ ー ツ に関 す る世 論 調 査,1965-2004よ り作 図)
期 的 な実 施 者 の 割 合 は,こ ほか,健
の10年
問 で 約10%増
加 して38.5%と
なって いる
康 ・体 力 の 維 持 に効 果 的 と さ れ る 週3日 以 上 の実 施 者 も近 年 増 加 して
お り,人 々 の健 康 意 識 の 高 ま り と と も に,運 動 ・ス ポ ー ツ習 慣 が 生 活 の 中 に根 付 きつ つ あ る.年 代 別 に実 施 頻 度 をみ る と,週3日 実 施 者 は,ほ
以 上 行 っ て い る 定 期 的運 動
ぼ加 齢 と と も に増 加 して い る(図3.2).60歳
上 の 運 動 実 施 者 は約3人
に1人(29.2%)で
あ り,週1回
代 で は,週3日
以
以上 の運動 実施 者
図3.2 年 代 別 に よる 運 動 ・ス ポ ー ツ 実 施 率(20歳 以 上 男 女,3000人 対 象) (内閣 府:体 力・ ス ポ ー ツ に 関 す る 世 論 調 査,2004よ り作 図)
を あ わ せ る と,約2人
に1人(47.4%)と
い な い 人 の 割 合 も,30歳 %,70歳
な る.一 方,ま
っ た く運 動 を して
代 以 降,加 齢 と と も に増 加 して お り,60歳
以 上 で は47.6%と
な っ て い る.す
代 で36.1
な わ ち,現 代 の 日本 人 の運 動 実 施
状 況 は,日 常 生 活 に運 動 が根 付 い て い る人 と運 動 を ま っ た く実 施 して い な い 人 と に両 極 化 し,加 齢 と と もに こ の 傾 向 が 顕 著 とな っ て い る. ま た,1年
間 で 行 っ た運 動 ・ス ポ ー ツ種 目 の 上 位5位
は ボ ウ リ ング や 球 技,ス
をみ る と,20歳
代で
キ ー ・ス ノ ー ボ ー ド,海 水 浴 な どの レ ク リエ ー シ ョン
志 向 的 な種 目が 多 い が,30歳
代 以 上 で は ウ ォー キ ン グ が 最 も多 く,加 齢 と と
もに ウ ォ ー キ ン グ,体 操 と い っ た健 康 志 向 的 な種 目の 実 施 率 が 増 加 す る傾 向 に あ っ た(表3.1). 運 動 実 施 者 の 運 動 ・ス ポ ー ツ を行 っ た 理 由(複 く り」(55.2%)と
「楽 しみ,気
数 回 答)は,「
晴 ら し」(54.5%)が
健 康 ・体 力 つ
多 く,健 康 志 向,楽
し
み 志 向 が 高 くな っ て い る.一 方,運 動 非 実 施 者 の 運 動 ・ス ポ ー ツ を行 わ なか っ た 理 由 と して は,「 仕 事(家 %)が
事 ・育 児)が
最 も多 い.現 在,週 休2日
忙 し く て 時 間 が な い か ら」(41.2
制 が 定 着 し,以 前 に比 べ 余 暇 時 間 が 増 加 して
い る に もか か わ らず,実 際 に は 時 間 が あ っ て も身 近 に運 動 ・ス ポ ー ツ を実 施 し や す い状 況 に は な い の で は な い か と考 え られ る.
表3.1 1年 間 に 行 っ た運 動 ・スポ ー ツの 種 目(上 位5種
(20歳 以 上 男 女,3000人
対 象,複
数 回答)
(内閣 府:体
目)
力 ・ス ポ ー ツに 関 す る 世 論調 査,2004)
3.1.2 施
設
2002年 度 の 文 部 科 学 省 社 会 教 育 調 査3)に よ る と,全 国 の 公 共 施 設 は44566 施 設,民
間 施 設 は16445施
設 増 加 して い るが,民 施 設 で は,多 育 館6391施
場2170施
設(施
設全 体 の10.1%)で
球 場 ・ソ フ トボ ー ル 場6180施
ル フ場 が2256施 設,水
設(施
施
の 総 人 口 は約1億2750万
間 施 設 併 せ て 約2000人
らに,公 共 施 設 で は 約3000人 れ ぞ れ 約2万
最 も多 く,ゴ ル フ練 習
設 の 順 とな っ て い る.2002年
人 な の で,公 共,民
多 目的 運 動 広 場,体 育 館,そ
最 も多 く,体
設 の 順 と な っ て い る.民 間 施
設 全 体 の3.7%)で
泳 プ ー ル(屋 内)1655施
とい う こ と に な る.さ
間 で 約1万
間 施 設 は 増 減 を繰 り返 して い る.種 類 別 に み る と,公 共
目的 運 動 広 場 が6700施 設,野
設 で は,ゴ
設 で あ っ た.公 共 施 設 は,過 去10年
に1施 設,種
の 日本 に1施 設
類 別 で は,
人 に1施 設 とい う状 況 で あ る.
3.1.3 行 政 施 策 文 部 科 学 省 は,「 ス ポ ー ツ 振 興 基 本 計 画 」4)を2000年9月
に 策 定 し,「 生 涯 ス
ポ ー ツ社 会 の 実 現 に 向 け た,地 域 に お け る ス ポ ー ツ 環 境 の整 備 充 実 」,「国 際 競 技 力 の 総 合 的 な 向上 」,「生 涯 ス ポ ー ツ及 び 競 技 ス ポ ー ツ と学 校 体 育 ・ス ポ ー ツ と の 連 携 の推 進 」 を主 要 課 題 と して掲 げ た.な か で も 「生 涯 ス ポ ー ツ社 会 の 実 現 に 向 け た,地 域 に お け る ス ポ ー ツ環 境 の 整 備 充 実 」 が 最 優 先 課 題 で,次 の よ う な 政 策 目標 が 掲 げ られ て い る. ・国 民 の 誰 もが,そ れ ぞ れ の体 力 や 年 齢,技 術,興
味 ・目的 に応 じて,い つ
で も,ど こ で も,い つ ま で もス ポ ー ツ に 親 しむ こ とが で き る生 涯 ス ポ ー ツ 社 会 を実 現 す る. ・そ の 目標 と して ,で 率 が2人 そ して,生
きる か ぎ り早 期 に,成 人 の 週1回
に1人(50%)と
以 上 の ス ポ ー ツ実 施
な る こ と を 目指 す.
涯 ス ポ ー ツ推 進 を妨 げ て い る 要 因 と して,日 本 の ス ポ ー ツの発 展
過 程 が 学 校 と企 業 に依 存 して きた こ と を指摘 し,ヨ ー ロ ッパ 型 の 総 合 型 地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ の 必 要 性 と,そ の 拠 点 と して 広 域 ス ポ ー ツ セ ン ター の 設 置 ・支 援 を挙 げ て い る. こ れ まで,生
涯 ス ポ ー ツ の 普 及 と推 進 に 取 り組 ん で き た結 果,ハ
ー ド面 で は
体 育 館,グ
ラ ウ ン ドと い っ た 運 動 ・ス ポ ー ツ施 設 が 設 置 され,ソ
フ ト面 で は多
様 な ニ ー ズ に応 え るべ く,様 々 な運 動 ・ス ポ ー ツ プ ロ グ ラム が 提 供 され,指 導 者 の 養 成 派 遣 ・地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ の育 成 ・支 援 な どが行 わ れ て きた.ま
た,
既 存 施 設 の利 用 とい う観 点 か ら,学 校 開 放 も推 進 さ れ て きた. 一 方,こ
れ ま で の 地 域 ス ポ ー ツ は,自 分 た ちの ス ポ ー ツ 欲 求 を満 足 す る だ け
に と ど ま り,ス ポ ー ツ を 行 い,楽
しけ れ ば よ い とい う レベ ル で 終 わ っ て い た.
「ス ポ ー ツ振 興 基 本 計 画 」 に も述 べ られ て い る と お り,週 休2日
制 の 定 着 に伴
い,社 会 人 も休 日は 地 域 で 生 活 す る こ とが 多 くな っ て きて お り,地 域 の ス ポ ー ツ ク ラ ブ に参 加 す る 可 能 性 も増 して きた.そ の た め の拠 点 と して,総 合 型 地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ や 広 域 ス ポ ー ツ セ ン タ ー に期 待 が 寄 せ られ て い る. 総 合 型 地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ とは,ヨ
ー ロ ッパ を中 心 に発 達 した ス ポ ー ツ ク ラ
ブ をモ デ ル と し,地 域 住 民 が 主 体 的 に運 営 す る もの で,複 数 の 種 目が 存 在 し, 地 域 の 誰 もが,年 齢,興
味,技 術 レベ ル に応 じて 参 加 で きる.ま た,活 動 の 拠
点 とな るス ポ ー ツ施 設 を有 し,定 期 的 ・継 続 的 な 活 動 を行 う こ とが で き,指 導 者 か ら個 々の ニ ー ズ に 応 じた指 導 が 展 開 さ れ る.広 域 ス ポ ー ツ セ ン タ ー とは, 地 域 の 総 合 型 地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ の 創 設,育 成 や 運 営,活 動 の 支 援 を行 う と と もに広 域 市 町 村 圏 の ス ポ ー ツ活 動 全 般 を支 援 す る もの で あ る.今 後,誰
で もが
よ り豊 か な 人 生 を 送 り,地 域 で の 豊 か な ス ポ ー ツ活 動 を 推 進 し て い くた め に は,よ
り多 くの 人 とス ポ ー ツ の楽 し さ を共 有 し,ス ポ ー ツ を通 じて 地 域 の 人 々
との 間 に,共 同 ・連 帯 を 築 こ う とす る 積 極 的 な態 度 が 大 切 で あ る. 加 齢 と と もに,ス
ポ ー ツ に対 す る接 し方 や 捉 え方 も変 わ っ て くる が,人 が ス
ポ ー ツ を楽 しむ と い う行 為 自体 に 変 わ りは な い.人 々 に と っ て ス ポ ー ツ は,健 康 に貢 献 し,社 会 参 加 の 手 段 で もあ り,人 生 を楽 しん だ り,生 活 に 潤 い を与 え る た め の大 きな 要 素 「生 きが い」 の 一 つ と な り得 る こ と に間 違 い は な い.す べ て の 人 が,い つ で も,ど
こで も,い つ まで も,ス ポ ー ツ を楽 しむ こ とが で きる
よ う な豊 か な社 会 を築 い て い か ね ば な らな い.
3.2 発 達 と運 動(乳 幼 児期 ∼ 高齢 期)
3.2.1 運 動 の 発 現 メ カ ニ ズ ム 人 は,生
ま れ た と き,す で に約140億
の 脳 細 胞 が 大 脳 皮 質 に あ る5)が,大
脳
の 脳 細 胞 同 志 の連 絡 回路 が で きて い ない た め,知 覚 ・判 断 ・思 考 ・運 動 な ど, 高 等 な動 きや 情 緒 を もつ こ とが で きず,い
わ ゆ る適 応 行 動 が で き な い状 態 に あ
る. 運 動 の最 高 中枢 で あ る大 脳 皮 質 に は,元 来,運 動 の 型 を つ くる能 力 が あ り, 一 定 の 運 動 を繰 り返 す こ とに よ っ て 神 経 繊 維 が 結 び つ き ,脳 細 胞 間 の連 絡 回路 が で き,こ の 回 路 が 運 動 の型 を命 令 す る 中 枢 とな る5).身 体 運 動 は,運 動 神 経 と筋 系 の 動 き に よ っ て,具 体 的 に 実 現 され て い くが,目
的 に合 う合 理 的 な 運動
を す るた め に は,感 覚系 の 動 き と,感 覚 系 か らの 情 報 を知 覚 し判 断 して,そ れ に対 応 した運 動 を命 令 す る 中枢 神 経 系 の 働 きが 重 要 で あ る(図3.3). 例 え ば,自 転 車 に乗 っ た こ と の な い 人 は,い
く ら手 足 の 神 経 や 筋 肉が 発 達 し
て い て も,自 転 車 に は じめ か ら上 手 に乗 る こ と は難 しい.と
こ ろ が,よ
うや く
ペ ダ ル を踏 む こ との で きる 程 度 の 発 達段 階 の 子 ど もで も,慣 れ た ら う ま く乗 り こ な す こ とが で き る の は,大 脳 皮 質 に 自転 車 乗 りに適 した 回路 が で き,そ の 命 令 で運 動 神 経 系 や 筋 系 が う ま く協 調 しな が ら働 くか らで あ る.運 動 経 験 を繰 り 返 す こ と に よ り,は
じめ は バ ラ バ ラ で あ る 運 動 感 覚 の 統 合 が な さ れ る の で あ
る.
(前 橋
明 ・田中
図3.3 身 体 運 動 の 発現 の過 程 光:乳 幼 児 期 の 健 康,西 日 本法 規 出版,2004)
こ れ 以 外 に,も
う一 つ 運 動 を 起 こす し くみ が あ る.す
なわ ち,感 覚 系 情 報 が
大 脳 皮 質 に達 す る 前 に,情 報 の 中 継 所 で あ る脊 髄 か ら,す りか え られ,運
ぐに運 動 神 経 系 に切
動 を起 こす し くみ で あ る.前 者 が 意 識 的 運 動(随 意 運 動)で
あ
る の に 対 し,後 者 は,意 識 とは 無 関 係 に 情 報 が 折 り返 され て 運 動 が現 れ る現 象 で,反
射 と呼 ん で い る.
こ れ らの 運 動 の 発 現 過 程 で は,外
か らの 刺 激 が,受
容 器(目 や 耳,手
な どの
感 覚 器 官)に
よ っ て感 じ られ,情 報 と して 知 覚 神 経 系 を通 り,大 脳 に達 す る.
大 脳 で は,そ
れ ら の情 報 を比 較 ・判 断 した 結 果,決
定 が な さ れ,そ の 決 定 が 命
令 とな っ て脊 髄 を通 り,運 動 神 経 系 を 通 って 実 行 器(筋
肉)に 達 し,筋 肉が 自
動 調 整 され な が ら収 縮 す る こ と に よ っ て 運 動 を起 こす こ とに な る.し か も,そ の結 果 は,視 覚 ・聴 覚 ・皮 膚 感 覚 な どの 外 的 な手 が か りや 筋 肉 に あ る内 部 受 容 器 の 内 的 な手 が か りを通 じて,た る.ま た,あ
えず 中 枢 に送 られ,フ
ィー ドバ ッ ク さ れ て い
る刺 激 は,反 射 の メ カ ニ ズ ム に よ っ て 大 脳 で 意 識 され る以 前 に,
あ る神 経 核 か ら脊 髄 を通 り,運 動 神 経 系 に伝 達 され,反
射 運 動 を起 こ し て い
る. した が っ て,身 体 運 動 の た め に は,受 容 器 ・知 覚 神 経 系 ・大 脳 皮 質 の 回路 ・ 運 動 神 経 系 ・実 行 器 ・そ れ ぞ れ フ ィー ドバ ック シ ス テ ム等 の調 和 の とれ た発 達 が 必 要 で あ る.そ ま た,は
して,こ れ らは,多 様 な運 動 の 繰 り返 しに よっ て 発 達 す る.
じめ て の 動 作 の よ う な ぎこ ち ない 意 識 的 動 作 も,繰
り返 す こ と に よっ
て な め らか に な り,特 別 の 意 識 を伴 わ な い で で き る よ う に な り,次 第 に 反射 的 な 要 素 が 多 くな っ て,機 械 的 で 効 率 的 な動 きに な って い くの で あ る.以 上 が 運 動 技 術 の 上 達 の プ ロ セ ス で あ る. この よ うに,身 体 運 動 は 筋 肉 の 運 動 で あ る た め,筋
肉や そ れ を動 か して い る
神 経 系 に支 え られ て お り,同 時 に呼 吸 ・循 環 器 系 を中 心 に,他 の 内 臓 器 官 に も 支 え られ て い る.し た が っ て,発 達 の 伴 っ た適 切 な運 動 に よ って,筋
肉や神経
系 だ け で な く,呼 吸 ・循 環 器 系 や そ の 他 の 内臓 諸 器 官 も発 達 させ,身 体 運 動 を ダ イ ナ ミ ッ ク に し,子 せ,そ
の こ とが,ま
ど も の 生 活 経 験 を拡 大 して,パ
た,よ
ー ソナ リテ ィを発展 さ
り高 度 な 運 動 を可 能 に して い く とい う こ と を繰 り返
しな が ら,運 動 機 能 は発 達 し,体 力 が つ い て い くの で あ る. 子 ど も の 成 長 発 達 は,ラ
イ フサ イ ク ル の 中 の 一 時 期 と位 置 づ け られ,し
か
も,形 態 的,機 能 的,精 神 的,運 動 機 能 的 な変 化 が,一
人の人間 の中で相互 に
密 接 な 関連 を もっ て お り,小 児 期 は最 も著 しい 発 達 が み られ る. 運 動 機 能 の 発 達 は,受 精 期 か ら始 ま る 連 続 的 過 程 の 中 に あ り,「 ひ と り歩 き」 が で きな い 子 ど もが 突 然 「走 る」 こ とが で き る と い っ た,順 序 を変 えて 進 む こ と は な い.ま た,子
ど もの 動 作 か ら,第 三 者 が,成 長 発 達 の段 階 を捉 えや
す い特 徴 を持 っ て い る.し
か し,そ の ス ピー ドや 評 価 は,子
ど も一 人 ひ と りの
成 長 発 達 に要 す る 時 間 が 違 う こ と を念 頭 に お い て,成 長 を見 守 る こ とが 大 切 で あ る.
3.2.2 乳 幼 児 期 の運 動 a.反
射
新 生 時 期 か ら乳 児 期 に か け て は,大 脳 の機 能 が 未発 達 で あ る た め,反 射 的 な 行 動 が ほ と ん どで あ る(図3.4).反
射5)は,神
経系 の発 達 に関連 してい る と
考 え られ る.新 生 時 期 に特 徴 的 に み られ,成 長 発 達 と と も に消 失 して しま う 反 射 を原 始 反 射 と い う. 原 始 反 射 の 代 表 的 な もの に は,吸 啜 反 射 ・検 索 反 射 が あ る.そ の他 に も,把 握 反 射 ・モ ロー 反 射 な どが あ り,原 始 反 射 は脳 の発 達 と と も に消 失 して い く も の が ほ とん どで あ る.一 般 の 乳 児 健 診 で は,反 射 の発 達 速 度 の チ ェ ッ クは 行 わ な い が,脳 性 麻 痺 や 精 神 遅 滞 な どの 症 状 と して,遅 れ を 生 じた 運 動 発 達 をチ ェ ッ クす る. b.全
身運動
人 間 の 成 長 は,個 人 に よ っ て 若 干 の差 が あ り,身 体 各 部 の 発 育 や 内臓 諸 器 官 に お け る 機 能 の 発 達6)は,一 3.5).し
定 の 速 度 で 進 行 ・増 大 す る も の で は な い(図
か し,そ の 過 程 に お い て は,一 定 の 順 序 性 が あ り,決 して 逆 行 した り
飛 躍 した りは しな い. 例 え ば,乳 児 が歩 行 機 能 を習 得 す る過 程 を考 え て み る と,生 後4ヵ
月 くらい
で,ま ず 首 が す わ り,お す わ りが で きる よ うに な っ て か ら,8∼10ヵ
月 くら
い で ハ イ ハ イ し,そ の 後,歩
く よ う に な る.
こ れ らの 順 序 に は,方 向 性 が あ り,「 頭 部 か ら身体 の 下 の 方 へ 」 「中 心 部 分 か ら末 梢 部 分 へ 」 「 粗 大 運 動 か ら微 細 運 動 へ 」 と進 行 す る.
足底反射 足 底 をかか とか ら外側 に そ って 強 くこす る と,足 の 親指 が背屈 す る.
把握反射 手 の ひ らに物 が触 れ ると 強 く握 り しめ る. それ を取 ろ う とす る と, ます ます 強 く握 る.
自動 歩 行 反射 脇 の下 を支 えて身体 を前傾 させ る と,足 を交 互 に発進 させ,歩 行す る よう な動 き をす る.
モ ロ ー反 射 仰 向 けに寝 か せて,後 頭 部 を手の ひ らで支 えて床 面か ら2∼3cm上 げて,そ の 手 を急 に はな す.上 肢 を伸展 させ 外転 し,身 体 の前 にあ る もの を抱 きしめ るよ うに内転 す る.
交差性伸展反射 片 方の 足 の裏 を指 で強 く圧迫 す る と, もう片 方 の足 を内転 屈 曲 し,そ の後, 圧 迫 した足 に そ って伸展 す る. パ ラ シ ュー ト反 射 乳 児の脇 を両手 で支 えて 中に立位 を とらせ ると, 両 足 をバ タバ タ動か す.
筋 緊張 性 頸 反 射 仰 向 けに寝 て いる とき, しば しば 顔を 向いて いる 方 の手 足 を伸 ば し,反 対 側 の手 足 を曲 げてい る.
ガ ラ ン ト反 射 乳 児 の胸 腹部 を手で 支 えて宙 で 腹 位 を と らせ ると,首 を もち上 げ,脊 柱 を背 屈 させ,下 肢 を伸 展 させ る.
(前橋
明:心
図3.4 原 始 反射 とか らだ の 健康 子 ども の健 康 科 学,明
研 図 書,2000)
1ヵ 月 顎 を もち 上 げる
0ヵ 月 胎児 姿勢
6ヵ 月 高 い椅 子 に坐 る ぶ らさが った物 をつか む
7ヵ 月 1人 で 座 る
11ヵ 月 手 を引 けば歩 く
12ヵ 月 家具 につ か ま り 立 ち上が る
(前橋
子 ど も は,こ
2ヵ 月 腕 を もち 上 げる
明:心
4ヵ 月 支 えれ ば 坐る
3ヵ 月 手 を伸 ばす が さわ れな い
8ヵ 月 助 けれ ば 立 ってい る
9ヵ 月 家 具 につか まって 立 って いる
13ヵ 月 階段 を上 が る
5ヵ 月 膝 の上 に坐 る 物 を握 る
10ヵ 月 四 つ這い をす る
14ヵ 月 1人 で立 つ
15ヵ 月 1人 で 歩 く
図3.5 乳 幼 児 の 移 動 運 動 の 発 達 とか らだ の 健 康 子 ど もの 健 康 科 学,明 研 図 書,2000)
う し た全 身 運 動 の 発 達 に よっ て,視
野 が 広 が り行 動 範 囲 を広 げ
て い く.身 体 を 動 か せ る機 会 が増 加 す る こ と に よ っ て,脳 神 経 系 ・筋 肉 ・骨 格 の 高 次 な発 達 に つ なが り,興 味 や 好 奇 心 が 生 まれ,知 c.微
的 面 が 向 上 す る.
細運動
生 後 す ぐに,把 握 反 射 に よる 手 に触 れ た物 をつ か む 動 作 を行 うが,2∼3ヵ 月 頃 に な る と,自 分 の 意 志 で 物 をつ か む よ う に な る.つ か み 方 の発 達6)は,5 ∼6ヵ
月 頃 に手 の ひ ら全 体 で 包 み 込 む よ うに つ か み ,近
だ り,取 っ た りす る動 作 が で きる よ う に な る.こ
くにあ る もの を つ か ん
の 時 期 は,全
身動 作 の状 況 と
も関 連 し,お す わ りが で き,上 半 身 が 安 定 す る こ とに よ っ て,手 が 自 由 に 使 え る よ う に な る. 7∼8ヵ
月 頃 に は,指 先 が 使 え る よ う に な り,さ らに9ヵ
さな も の を転 が せ る よ う に な り,10∼11ヵ こ とが で き る よ う に な る.11∼12ヵ て,つ
ま む動 作 が で きる.つ
月 頃 で は,指 で小
月 頃 に は 親 指 を使 っ て 物 をつ か む
月 頃 に は,親 指 と人 さ し指 の 指 先 を使 っ
ま り,手 指 の 発 達 は,全 身 運 動 の 発 達 と密 接 な 関
連 を もっ て い る の で あ る. 8ヵ 月 頃 か ら,意 味 は 理 解 で きな くて もバ イバ イ とい う言 葉 に 反 応 して 手 を 振 る こ とが で きる.こ 頃 か ら,子
れ も,目
と手,そ
して 言 葉 との 関 連 を表 して い る.こ の
ど もに は模 倣 とい う動 作 が 現 れ て くる.
この 時 期 に極 め て 多 い 事 故 が 「誤 飲 事 故」 で あ り,注 意 が 必 要 で あ る.指 先 を使 っ て 小 さ い物 をつ か め る よ う に な る と,手 で 握 っ て い た物 を 口 に も っ て い っ て 誤 っ て 飲 み 込 ん で し ま う こ とが あ る.こ れ は徐 々 に な くな り,手 あ そ び や 投 げ る こ と に変 わ っ て い く. 食 事 との 関 連 で は,6ヵ
月 頃 に は哺 乳 ビ ン を手 全 体 で 支 えて 飲 む こ とが で き
る よ うに な り,テ ー ブ ル付 きの 椅 子 に も安 定 して す わ り,手 の 使 え る範 囲 の物 は 自分 で 触 りた くな る.こ の 時 期 に は,ス プ ー ン を もつ こ とは で き るが,遊 だ り,な め た り して,食
物 を乗 せ て 口 に 運 ぶ こ と は 難 しい.1歳
ん
頃 に な る と,
自分 で 食 事 を した い 気 持 ち が 行 動 に表 れ,十 分 で はな い が,自 分 の 手 を使 っ て 食 事 を す る.1歳
半 頃 に は,ス
飲 め る よ う に もな る.2歳
プー ンを上 手 に使 っ て食 事 を し,コ ッ プ で水 が
頃 に は,片 手 で茶 碗 を も ち,他 の 手 で ス プ ー ン を も
っ て 食 べ ら れ る よ う に な る.3歳
頃 に は,箸
を使 い,食 べ こ ぼ し も少 な くな
る. 1歳 半 頃 に は,上 着 を 脱 ぐ動 作 を始 め,2歳 2歳 半 頃 に は,ボ
頃 に は,靴
を履 く動 作 をす る.
タ ン を か け,衣 服 を着 る こ とが で き る よ う に な る.乳 児 は,
手 を無 造 作 に動 か す段 階 か ら意 識 的 に使 う段 階 へ と発 達 して い く.大 人 の ま ね を して,何 度 も く り返 す うち に,自 分 自 身 で行 動 に移 せ る よ う に な っ て い く. ま た,積 木 を2つ 積 む こ とが で き る1歳 半 頃 か ら,3歳 木 が 積 め る よ う に な る.な 3歳 頃 に は,は
ぐ り描 き も,1歳
に な る と,8つ
の積
頃 よ り手 指 を使 っ て は じめ るが,
さ み を使 い始 め る こ とが で き,人 の 絵 は,頭 に 手 足 が つ く頭 足
人 を描 く よ う に な る.6歳 な る.5歳
頃 に は,頭 や 首,手,足,胴,顔
な ど を描 く よ う に
頃 に は,指 先 の 動 作 の基 礎 が で きあ が る.利
断 で きは じめ,5歳
き手 は,2歳
頃 か ら判
頃 に は決 定 され る.
こ れ らの 動 作 は,他 の 人 が 行 っ て い る動 作 を模 倣 しな が ら,頭 で考 え,手 使 っ て く り返 して い き,獲 得 して い くの で あ る.時 身 で や り遂 げ た こ とに 自信 を もち,次
を
間が か か っ て も,子 ど も 自
の チ ャ レ ン ジへ の 意 欲 に つ な が っ て い
く.
3.2.3 幼 少 年 期 の 運 動 幼 児 期 で は,神 経 系 の 発 達 が す で に成 人 の約90%に
達 して い る の に 対 し,一
般 型 の発 育 は極 め て 未 熟 で あ る.こ の よ う な状 態 な の で,幼 児 は あ そ び の 中 で 平 衡 性 や 敏 捷 性,巧 ぶ と よ い.人
緻 性 な どの 身 体 を コ ン トロ ー ル す る 調 整 力 を 中核 と して 学
間 は,調
く,物 をつ か む,投
整 力 に 関 して は 急 速 な 進 歩 を 示 し,生 後 か ら這 う,歩
げ る,走 る 等,様
々 な動 作 を習 得 す る過 程 で は,多
くの 失
敗 を く り返 し,修 正 し,少 しず つ 新 し い動 作 を 学 習 して い くの で あ る. な お,筋
肉 や 骨 格 は,幼 児 の段 階 で は,成 人 の 約30%の
発 育 量 を示 す に過
ぎ な い か ら とい っ て,筋 力 を使 う運 動 を して は い け な い と誤 解 して は い け な い.幼
児 の 日常 生 活 に必 要 と され る手 や足 腰 の 筋 力 を鍛 え る こ とは,姿 勢 維 持
や 健 康 な 身 体 を つ くる上 で も不 可 欠 な要 素 で あ る.そ れ ぞ れ の年 齢 に応 じた筋 力 を 身 につ け る こ とが 重 要 な の で あ る. 要 は,運 動 機 能 の 向上 を考 え る場 合,幼 児 期 で は,第 一 に器 用 な 身 の こ な し の で きる こ とを 主 眼 と し,筋 力 や 持 久 力 は,運 動 あ そ び の 中 で副 次 的 に伸 ば さ れ る と考 え る の が よ い.ま た,運 動 機 能 の 向 上 が 様 々 な諸 機 能 の 連 携 ・統 合 の 連 続 に よ っ て 高 ま っ て く る と,走 力 や跳 力,投 力 も備 わ っ て くる.は て,4∼5歳
じめ は,細
力,懸
垂 力 な どの 基 礎 的 運 動 能
か い 運 動 は で きず,全
身 運 動 が 多 く,そ し
く ら い に な る と,手 先 や 指 先 の 運 動 が 単 独 に行 わ れ る よ う に な
る. こ う し た幼 児 期 の発 達 段 階 をふ ま え て,運 動 能 力 を発 達 させ る に は,興 味 あ る あ そ び を 自発 的 に く り返 し経 験 さ せ て い くこ とが とて も大 切 で あ る.と い う の も,3∼4歳
頃 に な れ ば,運 動 能 力 は,あ そ び の 中 で 発 達 す るか らで あ る.
そ の後,5∼6歳 の で,あ
に な る と,独 創 的 発 達 が 進 み,さ
ら に情 緒 性 も発 達 して い く
そ び か ら一 歩 進 ん で 体 育 的 な運 動 を 加 味 す る こ とが 大 切 に な っ て く
る.競 争 や 遊 戯 な どを経 験 し,運 動 機 能 を発 達 させ る と と も に,幼 児 の 体 力 づ く りの た め の 具 体 的 な働 きか け や工 夫 が 必 要 とな っ て くる.こ こ で い う運 動 能 力 と は,全 身 の 機 能,と
くに神 経 ・感 覚 機 能 と筋 機 能 の 総 合 構 成 した 能 力 で あ
り,基 礎 的 運 動 能 力 と して は,走 力 や 跳 力,投 力,懸
垂 力,泳 力 な どが あ げ ら
れ る. なか で も,走 る運 動 は全 身 運 動 で あ るた め,筋 力 や 心 肺 機 能(循
環 機 能)の
発 達 と 関係 が 深 い.跳 躍 運 動 は,瞬 発 的 に大 きな脚 の 筋 力 に よ っ て 行 わ れ る 運 動 で あ る た め,そ の 跳 躍 距 離 の 長 短 は,腕 の 振 り と脚 の 伸 展 の協 応 力 と も関係 が 深 い.6歳 れ は,脚
児 に な る と,3歳
児 の2倍 近 くの距 離 を跳 べ る よ う に な るが,こ
の筋 力 の 発 達 と協 応 動 作 の発 達 に よ る もの で あ る.
投 げ る運 動 で は,大
きな腕 の 力 や 手 首 の 力 が あ っ て も,手 か らボ ー ル を離 す
タイ ミ ン グ を 誤 る と距 離 は伸 び な い.と の 場 合 は,脚 か ら手 首 ま で,力
くに,オ ーバ ー ス ロー に よ る 距 離 投 げ
を順 に伝 達 し,そ の力 をボ ー ル にか け る よ う に
す る 必 要 が あ る.オ ー バ ー ス ロー に よ る ボ ー ル投 げ は,4歳 児 の 発 達 が,女 児 に 比 べ 大 きい.懸 垂 運動 は,筋
半 以 後 か ら は,男
の持 久性 は も と よ り,運 動 を
続 け よ う と い う意 志 力 に も影 響 を受 け る. 4歳 頃 に な る と,運 動 能 力,と
くに大 脳 皮 質 の 運 動 領 域 の 発 達 に よる 調 整 力
の伸 び は早 く,性 別 を問 わず,急
に そ の 能 力 が 身 につ い て く る.こ れ は,脳
錘 体 細 胞 が4歳
の
頃 に な る と,急 に 回路 化 し,そ れ に筋 肉 や骨 格 も発 達 して い く
た め で あ ろ う. 発 育 ・発 達 は,そ れ ぞ れ の子 ど も に よ り速 度 が 異 な り,か な りの 個 人 差 の あ る こ と を よ く理 解 して お か ね ば な らな い.運
動 機 能 の 発 達 は,単
に 「で きる」
「で き な い 」 の み で 判 断 し て は な らず ,動 作 の 学 習 過 程 や 子 ど もが 積 み 重 ね て きた運 動 機 能 を発 揮 しや す い状 況 が 与 え られ て い るか に よっ て も違 っ て くる. 児 童 期 に な る と,か らだ を コ ン トロ ー ル す る力 で あ る調 整 力 が 飛 躍 的 に 向 上 す る.乳 幼 児 期 か らの 著 しい 神 経 系 の 発 達 に 筋 力 の 発 達 が 加 わ り,構 造 が 複 雑 な動 作 や 運 動 が 可 能 に な る.ス ポ ー ツ実 践 に お い て も,ル ー ル が 複 雑 な あ そ び や,よ
り組 織 的 な ゲ ー ム 性 の 高 い 運 動 や ス ポ ー ツ に変 化 して い く.
サ ッ カー で よ く用 い ら れ る 用 語 と して,ヨ ー ロ ッパ で は,5∼8歳 ゴ ー ル デ ンエ イ ジ」,9∼12歳
を 「ゴ ー ル デ ンエ イ ジ」 と呼 ぶ.ゴ
イ ジ と は,運 動 を頭 で 完 全 に は 理 解 して い な く と も,み 度,運
を 「プ レ ー ル デ ンエ
よ うみ まね で あ る 程
動 の 構 造 を把 握 し,上 手 にで き る とい う,ま さ に運 動 習 得 の 黄 金 時期 を
指 す.し
か し,誰 もが 同 じゴ ー ル デ ンエ イ ジ期 を 体 験 で きる の で は な く,生 ま
れ て か らの 運 動 経 験 の 積 み 重 ね が,か
な りの 影響 を 及 ぼ す.す べ て の 運 動 は,
経 験 に 依 存 す る とい っ て も過 言 で は な い.経 験 した こ とが な い 運 動 が,す
ぐに
で きる こ とは ない か らで あ る.だ が,そ れ に似 た 運 動 経 験 を もっ て い れ ば,同 じよ うな脳 の 神 経 回路 が 存 在 す るた め,比 較 的早 く動 作 を習 得 す る こ とが 可 能 で あ る.
3.2.4 青 年 期 の運 動 保 健 体 育 審 議 会 は1997年
「生 涯 に わ た る心 身 の 健 康 の 保 持 増 進 の た め の 今
後 の健 康 に 関 す る教 育 及 び ス ポ ー ツ の 振 興 の 在 り方 に つ い て 」7)の答 申 を行 っ た.こ
の答 申 で は,ス ポ ー ツ を労 働 以 外 の 身体 活 動 全 般 を含 ん だ もの と して捉
え,各
ラ イ フス テ ー ジ(表3.2)に
い る.答
お け る望 ま しい ス ポー ツ ラ イ フ が 示 さ れ て
申 に使 わ れ て い る ラ イ フス テ ー ジ は,E.H.エ
リク ソ ンの ラ イ フサ イ
ク ル論 や 一般 的 な発 育 発 達 を総 合 的 に考 慮 した もの で あ る. 青 年 期 は,子
ど もか ら大 人 へ の 過 渡 期 に あ た り,身 体 的 に も精 神 的 に も社 会
表3.2 ラ イ フ ス テ ー ジ の 区分
(文 部 省:保
健 体 育 審 議 会 答 申 「生 涯 に わ た る心 身の 健 康 の保 持 増 進 の た め の
今 後 の 健康 に 関 す る 教 育 及 び ス ポ ー ツ の振 興 の在 り方 につ い て,1997に
加 筆)
的 に も人 間 と して 完 成 す る時 期 で あ る. と くに,青 年 期 前 期 は身 体 的 な面 で の 発 達 が 顕 著 で あ り,骨 格 や 筋 肉 が著 し く充 実 す る.加
え て,性 的 分 化 が 確 立 され る時 期 に もあ た り,身 体 的 ・生 物 学
的 成 熟 過 程 は,こ
の期 の 行 動 を特 徴 づ け る も の で あ る.精 神 的 な 面 で は,「 心
理 的 離 乳 の 時 期 」 とい わ れ る よ う に家 族 の 監 督 か らは な れ,独 立 して 一 個 の 人 格 に な ろ う とす る.青 年期 前 期 の 思 考 は,抽 象 的 ・論 理 的 で あ り,そ の 論 理 性 は不 安 定 な情 緒 と 関 わ りあ っ て,感 情 的 ・自 己 中心 的 な もの とな りや す い.こ れ が う ま く調 整 され な い と,反 社 会 的 行 動 や 非 行 に 走 っ た りす る こ とが あ る. そ の意 味 で,体 力 や エ ネ ル ギ ー の 発 散 の 手 段 と して の 運 動 ・ス ポ ー ツ が 必 要 な 時 期 で あ る.思 い き り走 っ た り,跳 ん だ り,投 げ た り,打 っ た り,あ る い は 自 己 表 現 を す る こ と に よ り,爽 快 感 や 達 成 感,仲 を味 わ う こ とが で きる.こ
間 と の 連 帯 感,生 の 充 実 感 な ど
の 期 の 運 動 ・ス ポ ー ツ経 験 が,そ
の後 の ライ フス
テ ー ジ に お け る運 動 ・ス ポ ー ツ習 慣 の 形 成 に大 き く影 響 す る に もか か わ らず, ス ポ ー ツ を す る 生 徒 と しな い 生 徒 の 二 極 分 化 が 進 む 時 期 で も あ る .し た が っ て,興 味 や 関 心 を もっ た種 々の 運 動 ・ス ポ ー ツ を 体 験 し,楽 し さ を味 わ い な が らス ポ ー ツ 習 慣 を形 成 す る こ とが 期 待 され る. 青 年 期 前 期 の 発 育 ・発 達 課 題 を解 決 して い くた め に は,多 面 的 な 体 力 ・運 動 能 力 の 向 上 を 目指 し,持 久 力 や 筋 力 を 高 め る た め の 走 動 作 を 含 ん だ 運 動 ・ス ポ ー ツ や 筋 力 トレー ニ ン グ を行 う の が 望 ま しい.運
動 負 荷 は,「 や や きつ い 」
「か な り きつ い 」程 度 ,頻 度 は持 久 力 向 上 の た め に は1日10∼30分 3日 以 上,筋 力 向 上 の た め に は1日10∼30分
程 度 を週 に
程 度 を 週 に2日 程 度行 う こ とが
望 ま しい11). 青 年 期 前 期 に お い て は,生 涯 に わ た っ て の 望 ま しい ス ポ ー ツ ラ イ フ の 定 着 を 目指 し,で
き る だ け 社 会 体 育 に結 び つ く よ う な ス ポ ー ツ学 習 を させ る と と も
に,方 法 的 に ス ポ ー ツ嫌 い の 者 をつ く ら な い よ う に考 慮 しな け れ ば な らな い. 生 涯 ス ポ ー ツ にお け る 学 習 機 会 は多 い の で,ス
ポ ー ツ嫌 い に さ え な っ て い な け
れ ば,社 会 体 育 に お い て 学 習 は可 能 で あ る.生 涯 ス ポ ー ツ の 視 点 か ら,学 校 体 育 は,自 加 方 法,ス
らス ポ ー ツ を 実践 しよ う とす る 意 欲,ス
ポ ー ツ とい う学 習 機 会 へ の 参
ポ ー ツ を継 続 させ るの に必 要 な 能 力 を 身 につ け る場 と位 置 づ け る こ
とが 肝 要 で あ る.そ
れ に よ り,学 校 体 育 か ら社 会 体 育 へ の連 動 性 が 成 立 し,生
涯 ス ポ ー ツ を推 し進 め る こ と と な る8). 青 年 期 後 期 は,身 体 的 な面 で の 発 達 は歩 を緩 め て い くが,体
力 的 に は最 も充
実 し,技 能 の 進 歩 が 著 しい 時 期 で あ る.精 神 的 な面 で は,自 分 自身 の 適 応 手 段 を見 つ け,あ
る程 度 の 妥 協 が で きる よ う に な って い く.こ の 適 応 手段 の一 つ と
して,健 全 な趣 味 活 動 と して の運 動 ・ス ポ ー ツが あ る. 「学 校 基 本 調 査 」9)によ る と,2002年
の 大 学 ・短 期 大 学 進 学 率 は48.6%で
あ る.す な わ ち,青 年 期 後 期 の半 数 弱 が 高 等 教 育 機 関 に所 属 す る 学 生 で あ り, 半 数 強 が 社 会 人 で あ る.学 生 と社 会 人 と の生 活 環 境 は大 き く異 な るた め,青 年 期 後 期 の ス ポ ー ツ ライ フ を学 生 と社 会 人 に分 け て 示 す. 大 学 生 の 多 くは,発 育 発 達 上,最
も運 動 が必 要 な 時 期 に 受験 勉 強 の た め に 身
体 活 動 が 制 限 さ れ,体 力 低 下 を招 い て い る.低 下 した 体 力 を 向 上 させ る の に効 果 的 で あ っ た 体 育 実技 は 選 択 科 目に な っ て い る大 学 が 多 く,ま た 体 育 系 の部 や ク ラ ブ に 入 部 す る学 生 も減 少 して い る.元 来,人 は,幼 児 期 に は 活 動 欲 求 が 強 く,放 っ て お い て も運 動 しや す い が,青 年 期 に な る と運 動 ・ス ポ ー ツが 大 儀 に な り,き っ か けが な い と身 体 活 動 か ら遠 ざ か る.高 校 期 ま で に ス ポ ー ツ習 慣 を 身 に つ け て い る学 生 の場 合 は,選 択 性 に な っ て も体 育 実 技 の 授 業 を受 講 した り,さ ら に は,機 会 をみ つ け て 日常 生 活 に 運動 を取 り込 む こ とが 考 え られ る. 一 方 ,高 校 期 ま で にス ポ ー ツ習 慣 が 形 成 さ れ て い ない 者 に とっ て,正
しい知 識
に 基 づ い た ス ポ ー ツ習 慣 を身 につ け る最 後 の機 会 と な る の が 大 学 の 体 育 実 技 で あ る が,し
か し な が ら,体 育 実 技 の 授 業 を 受 講 し な い 可 能 性 が 高 い の で あ
る8). 社 会 人 で は,ど
うで あ ろ うか.や
は り,高 校 期 まで に ス ポ ー ツ習 慣 が 形 成 さ
れ て い る 者 は,仕 事 中 心 の 生 活 の 中 で も,職 場 や 地 域,あ ツ ク ラ ブ 等 で 機 会 をみ つ け て,運
る い は 民 間の ス ポ ー
動 ・ス ポ ー ツ に親 しむ こ とが 可 能 で あ ろ う.
しか しな が ら,そ の 習 慣 が 身 につ い て い な い 人 は,多 忙 な 仕 事 の 合 間 に時 間 を み つ け て 運 動 ・ス ポ ー ツ をす る こ と は難 しい. 青 年 期 後 期 の発 育 発 達 課 題 を解 決 して い くた め に は,種 々 の ス ポ ー ツ経 験 に 基 づ い て 自己 に適 した 運 動 ・ス ポ ー ツ を主 体 的 に実 践 で きる 能 力 を 身 につ け る こ と で あ る.健 康 づ く りや 体 力 増 進 を 目指 して の 運 動 ・ス ポ ー ツ の質 や量 は, 青 年 期 前 期 と 同程 度 が 望 ま しい7).
3.2.5 壮 年 期 ・熟 年 期 の 運 動 壮 年 期 は,社
会 人 と し て の 仕 事 を も ち,経 済 的 に も 自立 して い く時 期 で あ
る.身 体 的 に は,加 齢 に よ る体 力 ・運 動 能力 の低 下 が 始 ま るが,適 切 な 運 動 ・ ス ポ ー ツ を習 慣 的 に 実 施 す る こ と に よ り,体 力 の 低 下 曲線 を緩 や か に す る こ と が で きる.仕 事 が 中 心 の生 活 とな る た め,自 分 の た め の 時 間 を見 い だ す の が 難 し く,主 体 的 に運 動 ・ス ポ ー ツの 機 会 を求 め な い とス ポ ー ツ活 動 か ら遠 ざか っ て しま う こ と に な る.と
くに,女 性 の 場 合 は,妊 娠 ・出 産 ・育 児 と続 くた め,
長 期 間 に わ た っ て 運 動 ・ス ポ ー ツ の 空 白期 を もつ こ と に な る.し か し,妊 娠 ・ 出 産 ・育 児 期 に適 した 運 動 ・ス ポ ー ツが あ り,そ の 意 義 や 特 性 を正 し く理 解 し な が ら体 験 す る こ とに よ り,運 動 ・ス ポ ー ツ を楽 しむ こ と も可 能 で あ る. 図3.6は,年 そ して30代
代 別 運 動 習 慣 者 の 割 合 で あ るが,最 女 性,つ
い で30代 男 性,20代
も低 い の が20代
の 女 性,
男 性 と続 い て い く.生 涯 ス ポ ー ツ
の観 点 か ら,ス ポ ー ツ志 向 の低 い 人 を どの よ う に して ス ポ ー ツ活 動 に引 き込 む か が 大 き な課 題 で あ る.既 存 の ス ポ ー ツが ルー ル を 変 え た り,ニ ュー ス ポ ー ツ の 普 及 に よ り,こ れ らの 人 た ち を幅 広 く包 括 で きる 可 能 性 は 大 き い10).既 存 の ス ポ ー ツ の ルー ル を変 え る こ と に よ り,誰 もが 勝 者 と な る チ ャ ンス が 生 ま れ た り,弱 者 も十 分 楽 しむ こ とが 可 能 とな る.ニ
ュ ー ス ポ ー ツ は,新
し く登 場 し
た ス ポ ー ツ とい う だ け で は な く,ス ポ ー ツの 原 点 で あ る 楽 し さの 追 及,個 人 の
注:「 運 動 習慣 者」 とは,1回30分 以 上 の 運 動 を 週2回 実 施 し,1年 以 上持 続 して い る者 であ る. 図3.6 運 動 習 慣 者 の 割 合(2002年) (厚 生 統 計 協会 編:国 民 衛 生 の動 向,2004)
以上
体 力 や 能 力 に応 じて 行 え る,い つ で も誰 で も気 軽 に参 加 で き る と い う概 念 を も っ た ス ポ ー ツで あ る. この 時 期 は,ラ
イ フス タ イ ル の 変化 に伴 っ て の 職 場 や 家 庭 で の 生 活 に適 応 し
な が ら,運 動 ・ス ポ ー ツ を生 活 の 中 に 取 り入 れ る こ とが 大 切 で あ る.結 婚 や 出 産 に よ り,配 偶 者 や 子 ど も と新 しい形 で の 運 動 ・ス ポ ー ツ を 経 験 す る こ とは, 身体 的 効 果 を も た らす に と ど ま らず,家 族 の ふ れ あ い を高 め,連 帯 意 識 が 生 ま れ,さ
らに は,親
か ら子 へ の ス ポ ー ツ の伝 承 の 役 割 も担 う こ と に な る.ま た,
フ ァ ミ リー ス ポ ー ツ を家 族 で 楽 しむ こ とに よ り,子 ど もが ス ポ ー ツ習 慣 を 身 に つ け て い く.す
な わ ち,子
ど も に と っ て の 生 涯 ス ポ ー ツ の ス タ ー トは フ ァ ミ
リー ス ポ ー ツ で あ り,こ の 期 に正 しい 知 識 に 基 づ い た ス ポ ー ツ 習慣 を身 につ け る こ とが 大 切 で あ る.子
ど も の成 長 に合 わ せ,家 族 全 員 が 楽 しめ る フ ァ ミ リー
ス ポ ー ツ を継 続 して い くこ と は,健 康 な家 庭 生 活 を お くる礎 とな るで あ ろ う. 熟 年 期 は,発 育 発 達 曲 線 か らみ る と,徐 々 に下 降 曲 線 を た どる 時 期 で あ り, 疾 病 曲 線 か らみ る と,逆 に 上 昇 曲線 を た どる 時 期 で あ る.ま た,壮 年 期 に増 し て 体 力 低 下 が 著 し く,と
く に女 性 は 体 脂 肪 率 の 増 加 や 骨 量 の 減 少 が 顕 著 に な
る.身 体 的 な 面 の 不 安 に 加 え て,社
会 的 な 面 で も種 々 問 題 が 多 い 時 期 で も あ
る.家 庭 で は一 家 の 大 黒柱 と して,職 場 で も責 任 あ る 地位 につ き,社 会 的 責 任 が 内 外 と もに大 きい 時期 とい え よ う.さ
らに,就 業 者 は 定 年 を迎 え,女 性 は更
年 期 に よ る体 調 不 良 が み られ る時 期 で もあ る.そ れ ゆ え に,身 体 的 ス トレス ・ 精 神 的 ス トレス も大 き く,上 手 に解 消 しな け れ ば 精 神 障 害 に陥 る危 険性 をは ら ん で い る.し
た が っ て,熟 年期 に生 活 の 中 に 運 動 ・ス ポ ー ツ を取 り入 れ る 意 義
は 大 き く,心 身 の ス トレス発 散 に加 え て,健 康 ・体 力 づ く り,さ らに は,新
し
い 環 境 で の 仲 間づ く りに もつ な が る. 家 庭 婦 人 は,就
業 者 に比 べ る と,一 般 に 自 分 自身 で 自由 に操 作 で きる 自由 時
間 を多 く もっ て い る.こ の 自由 時 間 を ど の よ うに 使 う か は,個 や社 会 的 習 慣,ま
た,自
々人の生活習慣
己 の生 活 に対 す る心 構 え に よ っ て も違 っ て くる.そ の
結 果,教 育 マ マ や テ レ ビ マ マ,ス ポ ー ツマ マ等 と呼 ば れ る こ と に な る. 近 年,家
庭 婦 人 の ス ポ ー ツ 熱 が 高 ま り,「 マ マ さ ん バ レ ー」 「マ マ さ ん ソ フ
ト」 「マ マ さん サ ッ カ ー」 等 の言 葉 を よ く 目耳 にす る.そ
の 背 景 は,家 電 製 品
の普 及 に よ る 家 事 の 省 力 化,生 活 の 合 理 化 に よる1日 の 自由 時 間 の増 加,さ
ら
に,子
ど も数 の 減 少 に よる 一 生 涯 の 自 由時 間 の増 加 で あ る.2点
目 は,戦 前 の
家 長 制 度 の 崩 壊 に よ る母 親 と して の 意 識 の変 化 で あ る.「 良 妻 賢 母 」と して 暮 ら す よ り も,自 分 自 身 の趣 味 や 能 力 を発揮 した い と考 え,「 個 」と して の 生 き方 を 模 索 し始 め た.3点
目 は,家 庭 内 に お い て も徐 々 に 男 女 平 等 の 考 えが 行 き渡
り,母 親 の 地 位 が 向上 し,社 会 活 動 へ の 参 加 が理 解 され は じめ た こ と で あ る. 4点 目 と して,田 舎 で は 古 い 慣 習 や 嫁 姑 関係 に悩 み,都 会 で は核 家 族 化 や"働 き蜂"の 父 親 不 在 に よ る孤 独 感 に悩 み,人 人 の存 在 で あ ろ う.5点
間 的 な ふ れ あ い を求 め て い る 家庭 婦
目は,生 活 の 合 理 化 や家 電 製 品 の 普 及 に よ る 身体 活 動
量 の減 少 に起 因 す る運 動 不 足 病 の蔓 延 で あ る8). この よ うな社 会 的 背 景 の も と,家 庭 婦 人 は,自 由 時 間 を有 効 に使 っ て楽 しみ な が ら運 動 ・ス ポ ー ツ を 行 い,そ
こ に喜 び と生 きが い を見 つ け,自 己 の存 在 を
確 認 して い る.具 体 的 に は,運 動 ・ス ポ ー ツ の 目的 を,健 康 ・体 力 ・若 さ ・美 容 ・仲 間 ・余 暇 ・気 分 転 換 ・自 己へ の 兆 戦 ・技 術 の 追 求 な どに お き,ス ポ ー ツ は しっか りとそ れ に応 え て い る とい え よ う. 壮 年 期 ・中 年 期 の 発 達 課 題 に即 した 運 動 ・ス ポ ー ツは,体 力 維 持 や 肥 満 防 止 の ため に ウ ォー キ ング,ジ グ,ス
ョギ ング,水 泳 な どの 有 酸 素 運 動 や 筋 力 トレ ー ニ ン
ト レ ッチ ン グ等 で あ る.運 動 負 荷 は,「 普 通 」 ∼ 「や や きつ い 」 程 度,
頻 度 は持 久 力 保 持 の た め に は1日15分
以 上 を 週 に3日 以 上,筋
に は1日10∼30分
程 度 行 う7)の が 望 ま し い.
程 度 を 週 に1∼2日
力保持 の ため
3.2.6 高 齢 期 の 運 動 人 生80年
とい わ れ る 現 代 社 会 にお い て は,高 齢 者 と して の 人 生 が20年
あ る こ と に な る.子
以上
ど もが 独 立 し,社 会 的 役 割 か ら も 開 放 され た 「第 二 の 人
生 」 で あ る.「 第 二 の 人 生 」 を 「第 二 の現 役 期 」 と位 置 づ け,豊
かで活 力 ある
生 活 を送 る た め に は,「 健 康 」 や 「生 きが い 」 「経 済 的 余 裕 」 を欠 か す こ とは で き ない.し
か し,老 年 期 は,加 齢 に よ り体 力 ・運 動 能 力 が 低 下 す る.ま
体 機 能 も低 下 し,疾 病 に罹 りや す く,し か も 回復 しに くい.こ
た,身
の よ う な 身体 的
不 安 に 加 え て,精 神 的 ・社 会 的 な面 で も憂 慮 す べ き多 くの 問 題 が 出 て くる 時 期 で もあ る.子
ど もの独 立 や 知 人 の 死 別 な ど に よ る孤 独 感,第 一 線 か ら退 くこ と
に よる 生 きが い 感 の 喪 失,今
後 の 経 済 生 活 の 不 安 な どで あ り,不 適 応 の 症 状 を
現 す こ と もあ る. 日本 の 高 齢 社 会 へ の 突 入 は急 速 で あ り,社 会 的 対 応 は立 ち 遅 れ て い る の が 実 情 で あ る.総 人 口 に対 す る65歳 以 上 の 割 合 が7%を み な して い るが,わ 迎 え,1994年
が 国 は1970年
に は14%を
に 高 齢 化 率 が7.1%に
達 して 高 齢 化 社 会 を
超 え て 高 齢 社 会 とな っ た.そ
の 後 も,高 齢 化 率 は さ
ら に 上 昇 を 続 け,2003年
に は19.0%に
%,2050年
達 し,国 民 の 約3人
に は35.7%に
超 えた国 を高齢化社 会 と
達 し た.さ に1人
ら に,2015年
に は26.0
が 高 齢 者11)と い う 本 格
的 な 高齢 社 会 が 予 想 され て い る. こ の よ うな 高 齢 社 会 にお い て幸 せ に暮 らす た め に は,い わ ゆ る 「健 康 寿 命 」 の 延 伸 が 望 まれ,そ る.す
の た め に は,主 体 的 で 活 動 的 な ラ イ フ ス タイ ル が 求 め られ
で に示 し た 年 代 別 の 運 動 習 慣 者 の 割 合(図3.6)で
代 が 最 多 で あ り,つ い で70歳
は,男
女 と も60歳
以 上 と な っ て い る.増 大 す る 自 由 時 間 を使 っ
て,失 い つ つ あ る 健 康 や体 力 を少 しで も保 持 ・増 進 し よ う と,運 動 ・ス ポ ー ツ を行 う高 齢 者 が 多 い こ と を示 して い る. しか しなが ら,健 康 寿 命 の 延 伸 を 目指 して 行 う運 動 ・ス ポ ー ツ は,老 年 期 の 医 学 的 ・社 会 的 な 発 達 課 題 に合 致 した もの で な い と,逆 に 健 康 寿 命 を 短 縮 す る こ と に な りか ね な い.高 齢 者 の 体 力 ・運 動 能 力 は,各 人 の これ ま で の ラ イ フ ス タイ ル に関 係 し,個 人 差 が 大 きい の で,日 本 医 師 会 で は,危 険 因子 をチ ェ ッ ク し,各 人 に合 っ た 運 動 処 方 を行 う指 針 とす る た め に 『健 康 運 動 の ガ イ ドラ イ ン』12)を発 行 し,問 診 か ら運 動 負 荷 心 電 図 に 至 る メ デ ィ カ ル チ ェ ッ ク基 準(図 3.7)を 定 め て い る. 加 齢 に よ る体 力 の 低 下 に は,生 物 学 的老 化 に伴 う低 下 と身 体 活 動 量 の 減 少 に 伴 う低 下 が 考 え られ る.前 者 は 運 動 ・ス ポ ー ツで 改 善 す る こ と は で き な いが, 後 者 は,運 動 ・ス ポ ー ツや 活 発 な ラ イ フ ス タ イル に よ り,低 下 を 防 ぐ こ とが 可 能 で あ る.前 者 は,加 齢 に よ り低 下 す る筋 肉 ・筋 量 の影 響 が 大 き い ハ イパ ワ ー の 運 動 が,後
者 は身体活 動量 との関連 が強 い乳酸 性作 業閾値 の影響 が大 きい
ロー パ ワー の 運 動 が 関 係 す る.ハ り,ロ ーパ ワー の運 動 と は,3分
イパ ワー の 運 動 と は,30秒
以 内 の運動 で あ
以 上 の運 動 で あ る.し た が っ て,老
年 期 に適
し た 運 動 ・ス ポ ー ツ は,加 齢 の 影 響 が 大 きい ハ イ パ ワ ー の 運 動 よ り も ロー パ ワー の運 動 を 中 心 に行 う13)の が 望 ま しい.具
体 的 に は,持 久 力 の 改 善 の た め
に ウ ォー キ ング や水 泳,ダ 1日15分
以 上,週
チ ン グ や 体 操,ヨ
ンス,歩 行 動 作 を含 む ス ポ ー ツ 等 の 有 酸 素 的 運 動 を
に3日 以 上,ま ガ等 を1回10分
た,筋
力 や 柔 軟 性 を 高 め る た め に ス トレ ッ
以 上 を 週1∼2日7),疲
労が残 らない程 度
に実 践 す るの が 望 ま しい. ま た,運 動 ・ス ポ ー ツ は,加 齢 に 伴 う機 能 低 下 の 特 徴 を 踏 ま え て行 わ な け れ ば,心
身 へ の 効 果 よ りも重 篤 な事 故 や 障 害 を招 くこ とに な る.具 体 的 な機 能低
下 の 特 徴 と して は,骨 量 の減 少,筋 著 しい 血 圧 上 昇,疲
力 の 低 下,心
臓 血 管 機 能 の 低 下,運 動 時 の
労 の 回復 の遅 延,運 動 中 の 身 体 所 見 の 出 現 な どで あ る.し
た が っ て,老 年 期 にお い て は,無 理 を しな い,勝 負 を 意 識 し ない,ト
レー ニ ン
運 動 負 荷 心 電 図 の適 応 基 準 *40∼60%VO 2max程 度 の運 動 な ら必 ず しも行 わ な くて も よ い **運 動 負荷 心 電 図 に よ る事 故 を防 ぐた め ,医 療 機 関 に よ る実 施 が す す め られ る も の 図 3.7 問 診 か ら運 動 負 荷 心 電 図 まで の メデ ィ カ ルチ ェ ッ ク基 準 (日 本医 師 会 編:日 本 医 師 会 健 康 運 動 の ガ イ ドラ イ ン,1994)
グ 効 果 を体 感 し なが ら継 続 させ る,個 人差 に留 意 す る,目 標 に こ だ わ らな い, 主 体 的 に行 う11)等 の 注 意 が 必 要 で あ る. 以 上 の よ うな 条 件 を満 た して,高 齢 者 に 受 け入 れ られ た の が,ゲ ー トボ ー ル で あ っ た.運 動 ・ス ポ ー ツ に 無 縁 と思 わ れ て い た こ の世 代 の 人 の ゲ ー トボ ー ル に か け る熱 意 は,生 涯 ス ポ ー ツ を考 え て い く上 で 参 考 に す べ き もの が あ る.こ れ ほ ど ま で に ゲ ー トボー ル が 高 齢 者 に受 け入 れ られ た理 由 と して は,次 の よ う な 理 由14)が 考 え られ る.① が お も し ろ い,③5人 る,④
運 動 量 が 高 齢 者 に と っ て適 度 で あ っ た,②
対5人
ゲーム
と い う チ ー ム プ レー が 集 団 で の 競 争 心 を あ お
男 女 が 仲 良 く練 習 した り,試 合 に参 加 した り,男 女 の 交 流 が あ る,⑤
年 金 暮 ら し の 高 齢 者 に と っ て も,経 済 的 に あ ま り負 担 に な らな い,⑥
ゲー ト
ボ ー ル の練 習 に必 要 な 空 間 は狭 い 空 き地 で も用 が 足 り,設 備 も簡 単 な もの で よ い.以 上 の よ う な特 徴 が,高 齢 者 の ス ポ ー ツ に 適 合 した の で あ っ た. しか し,ゲ ー トボ ー ル も全 国 的 な組 織 が 整 備 され,各 種 大 会 が 開 催 され,国 体 種 目 に も な っ て くる と,楽
しみ 志 向 よ り勝 利 志 向 が 強 くな っ て き た.実 際
ゲ ー トボ ー ル 人 口 の伸 び は 頭 打 ち とな り,強 い チ ー ム ほ ど,メ 目立 っ て きて い る.そ
して,"ポ
ンバ ー の 減 少 が
ス ト ・ゲ ー トボ ー ル"に つ い て の 議 論 が 活 発
に 行 わ れ始 め た.高 齢 者 の ス ポ ー ツ と して,家 庭 婦 人 の ス ポー ツ 同様 に,既 存 の ス ポ ー ツ が ル ー ル を変 え て 実 施 す る場 合 や ニ ュ ー ス ポ ー ツが 出 て くる 場 合 が 考 え られ る.高 齢 者 に とっ て の ス ポ ー ツ は,ス
ポ ー ツ を核 と して生 活 全 体 の 活
性 化 を図 る もの で な くて は な ら ない の で あ る.す ポ ー ツ は,健 康 維 持,仲 れ ば な ら な い.あ 体 操 の 後,昼 が,1年
な わ ち,こ の 時 期 の運 動 ・ス
間づ く り,生 きが い と して の役 割 を果 た す も の で な け
る福 祉 団体 が 高 齢 者 を対 象 に,月1回
食 と風 呂 が つ く設 定 で あ っ た.月
の体 操 教 室 を行 っ た.
に1回 程 度 の 体 操 教 室 で あ る
後 の体 力 測 定 で は 有 意 に 体 力 が 向 上 して い た15)と い う.体 操 教 室 を
核 と して,生 活 全 体 が 活 性 化 され た こ とを 立 証 す る結 果 で あ っ た.
3.3 体 育,ス
ポ ー ツ,レ
ク リエ ー シ ョ ン の 意 義
都 市 化 や,自 然 環 境 の 喪 失 と公 害 の 増 加,余 現 代 社 会 の な か で,私
暇 時 間 の増 大,管 理 社 会 化 した
た ち が,「 よ り よい 社 会 」 と 「よ り人 間 的 で い きい き と
した 豊 か な生 活 」 を求 め る た め に は,人
間教 育 と し て の体 育 や 文 化 的 に 重 要 な
意 味 と機 能 を もつ ス ポ ー ツ,心 身 の リ フ レ ッシ ュ と活 力 の 再 新 の た め に展 開 さ れ る レ ク リエ ー シ ョ ンは必 須 で あ り,そ れ らの 正 しい 認 識 と理 解 が 求 め られ て い る. な か で も,体 育 は,教 育 の一 分 野 と して計 画 的 に行 わ れ る もの で,そ の 目的 を 達 成 す る 手段 と して,ス
ポ ー ツや体 操,ダ
ム や 運 動 あ そ び等 を利 用 す るが,そ
ンス,レ
ク リエ ー シ ョ ン的 な ゲ ー
の 目的 の一 つ に 運 動 欲 求 を充 足 させ た り,
運 動 へ の興 味 を増 した り,体 力 の 向 上 を図 っ た りす る こ とが あ り,こ うい う意 味 で,体 育 は,ス ポ ー ツや レク リエ ー シ ョ ン と同 じ 目的 を もっ て い る. これ に対 して,ス
ポ ー ツ は,こ
とば の 起 こ りか らい え ば,レ
ク リエ ー シ ョ ン
と同 義 語 で あ っ た が,近 年 のス ポ ー ツは レ ク リエ ー シ ョン の活 動 の 中 の運 動 競 技 的性 格 の 強 い もの を 指 し,レ ク リエ ー シ ョ ンは 活動 自体 を楽 しむ もの を指 す よ うに な っ て き た.そ
して,レ
ク リエ ー シ ョン の 活 動 内 容 に は,身 体 運 動 もあ
れ ば,文 化 文 芸 的 な 活 動 も含 まれ る の が特 徴 に もな っ た. した が っ て,体 育 と レ ク リエ ー シ ョ ン とで は,そ の 動 機 や 活 動 内 容 にお い て 異 な る が,レ
ク リエ ー シ ョン活 動 の うち ス ポ ー ツ や ダ ンス 等 の 身 体 運 動 に 関す
る もの は,体 育 の 目的 達 成 の 手 段 と して利 用 す る の で,そ の 点 で 両 者 は互 い に 密 接 な 関 係 を も って い る とい え よ う.
3.3.1 体 育 と は 体 育 は,身 体 運 動 を通 して,心 図 す る教 育 で あ る.す
とか らだ の健 全 な発 達 を図 り,人 間 形 成 を意
な わ ち,体 育 は,教 育 の 一 分 野 で,個 人 や 集 団 に 対 して
適 切 な運 動 を行 わ せ,健 康 を維 持 増 進 し,体 力 の 向上 を 図 って,運 動 技 術 や 身 体 機 能 を 高 め る も の で あ る.そ
して,運
動 欲 求 を 満 足 させ て 情 緒 の 安 定 を 図
り,そ こ に 関 わ る 相 手 や 仲 間 と と も に社 会 性 を養 い,良 した が っ て,体
育 と は,身 体 運 動(ス
ョ ン,運 動 あ そ び等)を
ポ ー ツ,ダ
い 人 格 を育 て る.
ン ス,体 操,レ
ク リエ ー シ
媒 介 と して,身 体 的,精 神 的,社 会 的,知
的,情 緒 的
に適 性 の あ る 人 間 の形 成 を 目指 して 努力 す る教 育 的 営 み で あ る と い え よ う.体 育 は,そ の 手 段 と して,運 動 競 技 や各 種 ス ポ ー ツ,ダ る が,そ
ンス,体 操 な ど を利 用 す
の 目的 は そ れ らの 技 術 に秀 で る こ とだ け で は な く,そ の 活 動 を通 し
て,心
身 の 健 全 な 育 成 を 図 る こ とで あ る.
3.3.2 ス ポ ー ツ と は a.ス
ポ ー ツの 意 義 と役 割
元 来,ス で,も
ポ ー ツ は ラ テ ン語 の デ ィ ス ポ ー ト(disport)か
ら変 化 し た も の
と も との 意 味 は,本 来 の仕 事 か らは な れ,気 分 転 換 の た め に何 か を す る
とい う こ とで あ っ た.そ
こへ,イ
ギ リス 人 が,主
と して 運動 競技 や 魚 釣 り,狩
猟 な ど に,こ の こ とば を使 っ た こ と よ り,主 に運 動 競 技 を指 す よ う に な っ て き た.つ
ま り,ス ポ ー ツは,も
と も と遊 戯 か ら発 生 した も の で あ った が,現 在 で
は競 争 的 要 素 が 強 くな り,競 技 化 さ れ る こ と に よっ て 単 な る あ そ び か ら区別 さ れ,楽
しみ や技 術 の 向上 を 目指 して行 わ れ る 身 体 運 動 を指 す よ う に な っ た.
ス ポ ー ツ で 身 体 を適 度 に 使 え ば,体 力 を 増 強 させ て 健 康 を維 持 し,元 気 に活 動 す る の に役 立 つ.ま
た,ス
ポ ー ツ ス キ ル を向 上 させ る こ とに よっ て,ス
ポー
ツ を 今 ま で 以 上 に よ り楽 し く行 う こ とが で き,自 己 実 現 の機 会 も増 え る.さ に,青 少 年 の健 全 な育 成 の た め,あ
ら
る い は 健 全 な グ ル ー プづ く りや 仲 間 づ く り
の 促 進 の た め に も,ス ポ ー ツ は役 立 っ て い る. 社 会 人 に な る と,仕 事 か ら は なれ て気 分 転 換 を 図 り,自 由 時 間 に,仕 事 とは 関 係 の な い 別 の 人 間 関 係 を求 め る傾 向 が 強 く な り,そ の 一 つ の 場 と して,ス ポ ー ツ 活 動 へ の 参 加 が あ る.実 際,と
くに仕 事 を した 後 に ス ポ ー ツ を す る こ と
は,仕 事 か らの 精 神 的 緊 張 を ほ ぐ して気 晴 ら しに な る だ け で な く,明 日へ の 活 力 を も生 み 出す. つ ま り,ス ポ ー ツ は,人 間 の 運 動 欲 求 か ら起 こ る遊 戯 を組 織 的 に 高 度 に構 成 して,社
会 的 に 一 定 の 型 と して 認 め られ た 運 動 で あ り,遊 戯 的 な 一 面 は も っ て
い る が,単
に走 っ た り,跳 ん だ り,投 げ た りす る だ け で な く,公 正 で 厳 粛 な規
定 の も と に競 争 す る もの を,総 称 して い る.と
くに競 技 ス ポ ー ツ で は,よ
しい 身体 活 動 と高 い レベ ル の技 術 が 要 求 さ れ て い る.ま た,ス
り厳
ポーツの社会で
は,規 則 を守 っ て 公 正 に競 い,相 手 を尊 重 して ベ ス トを尽 くす こ とが 繰 り返 さ れ る の で,体 育 で は,こ の ス ポ ー ツの もつ 価 値 観 や 闘 争,努 力 が 人 間 形 成 へ の 重 要 な要 素 と して 扱 わ れ て い る.
b.ス
ポ ーツの種類
ス ポ ー ツ が どの よ う に して 起 こ り,広 ま っ て き た の か とい う こ と か ら,ス ポ ー ツ を 分 類 し て み る と,① の よ う に,子
バ ドミ ン ト ンや ゴ ル フ,サ
ッ カ ー,ホ
ッケ ー 等
ど もや 大 人 の 間 で 行 わ れ て い た 素 朴 な あ そ び が 近 代 に な っ て組 織
的 に 行 え る よ う に な っ た も の,②
陸 上 競 技 や 水 泳,ボ
ー ト,ヨ
ッ ト,ス
キ ー,魚 釣 り等 の よ う に,人 間 の生 活 手段 や 生 産 手 段 と して 日常 に 行 わ れ て い た 運 動 や 技 術 が そ の 本 来 の 目的 か ら離 れ て ス ポ ー ツ化 した も の,そ 射 撃 や フ ェ ンシ ン グ,柔 道,剣 道,弓
道,馬 術,レ
して,③
ス リ ン グ,ボ ク シ ン グ,相
撲 な ど の よ うに,戦 闘 の 武技 や 格 闘術 で あ っ た もの が,ス ポ ー ツ と して 組 織 化 され た も の,④
野 球 や ソ フ トボ ー ル,バ
ス ケ ッ トボ ー ル,ハ
ン ドボ ー ル,ラ
グ ビ ー,ス ケ ー ト,テ ニ ス,卓 球,体 操 競 技 な どの よ う に,近 代 社 会 の 要 求 に こた え て新 た に ス ポ ー ツ と して 創 案 され,組 織 化 さ れ た もの,の4種
類 に大 き
く分 け ら れ る. c.ス
ポ ーツの効果
1)身
体 的効 果
ス ポ ー ツ は,大 筋 肉活 動 を通 して実 践 され る全 身 的 な 運 動 で あ る た め,適 に 行 わ れ る と,身 体 の 成 長 発 達 が 助 長 され,筋 力 や持 久 力,瞬 発 力,調 どが 発 達 す る と と も に,器 用 さや 機 敏 さ,正 確 さ,速
さ,美
しさ,バ
度
整 力な ラ ンス 能
力 な ど の獲 得 に 大 い に役 立 つ. 2)知
的効 果
そ の場 の状 況 を 観 察 ・分 析 し,次 の 動 き をす ば や く推 理 ・予 測 して,自
分自
身 の 動 き を決 め,し か も,そ の 動 きが 正 確 に速 くで きな け れ ば な らず,ス
ポー
ツの 内容 が 複 雑 に な れ ば な る ほ ど高 度 な知 的 作 用 が 必 要 と な る の で,ス
ポー ツ
の 実 践 は,知 的 面 の 育 成 に もつ なが る. 3)情
緒 的効 果
ス ポ ー ツ で は,活 動 の 喜 び や 活 動 を通 して の悲 しみ,向 上 の た め の 苦 しみ 等 の 感 情 や 情 動 が伴 う.こ れ らの 感 動 や情 緒 の 経 験 を 通 して,ス
ポー ツを実践す
る 者 の情 緒 の安 定 を 図 り,マ イ ナ ス に働 く激 情 に 支 配 され な い感 情 と,美 豊 か な 人格 の形 成 に役 立 つ.こ い く.
しく
れ が マ ナ ー と して,社 会 性 の 向上 に つ な が っ て
4)社
会的効果
スポ ー ツに は,対 人 関 係 の 相 手 が 必 要 な もの と,相 手 が い な くと も一 人 で 楽 しむ こ との で き る もの とが あ る が,対 人 的 か か わ りが あ り,人 との 関係 に よっ て 成 り立 っ て い る 中 で は,相 手 や仲 間 と技 を競 っ て 楽 しみ,喜 人 間性 を 高 め て い くの で,社 5)精
び,助 け合 い,
会 的性 格 の 形 成 に も役 立 っ て い る.
神 的効果
ス ポ ー ツ で は,よ
り高 い水 準 を 目指 して,自
す る と い う点 で は,楽
己 に 負 け な い よ う に鍛 錬 し行 動
しみ や ス リル が あ る.し たが って,ス
ポ ー ツ にお け る技
術 は,合 理 的 な研 究 や 精 神 的 な努 力 が あ って こ そ,上 達 す る もの で あ る. 広 く多 くの 人 々 に ス ポ ー ツ の 意義 や 役 割,そ め て い くこ とが,今
の効 果 につ い て 正 しい 理 解 を 求
まで 以 上 に大 切 に な るで あ ろ う.
3.3.3 レ ク リエ ー シ ョン とは レ ク リ エ ー シ ョ ン と は,回
復 と か,元
「recreatio」か ら きた こ と ば で あ るが ,今
気 再 新 とい う意 味 の ラ テ ン語
日で は,疲 労 して い る状 態 か ら良好
で 正 常 な コ ンデ ィ シ ョン を 回復 す る こ と,あ る い は,仕 事 の 後 で 力 や 気 持 ち を 刷 新 す る こ と と して,一 般 に使 用 され て い る. つ ま り,レ ク リエ ー シ ョ ン とは,仕 事 や 勉 学 な どの 勤 め に 必 要 な時 間以 外 の 余 暇 を使 い,そ の こ と 自体 を楽 しむ こ と に 目的 が あ っ て,自 発 的 な活 動 で あ る こ と,さ
らに,活 動 の 結 果 が 心 身 に 害 を与 えず,疲 労 回 復 や気 分 転 換 とな り,
健 康 に 役 立 つ もの で あ る こ と が レ ク リエ ー シ ョ ン とい え る.今 シ ョ ン に は,ゲ ー ム や ス ポ ー ツ,ダ 楽,工 作,旅
ンス,演
劇,読
書,鑑
日,レ ク リエ ー
賞,創
作 活 動,音
行 な ど多 くの 活 動 が含 まれ て い る.
レ ク リエ ー シ ョ ンの 効 果 を み る観 点 に は,疲 労 回復 だ け で な く,気 分 転 換 や 楽 し さの 確 保,体 験 の 結 果 生 じる 充 実 感 や 満 足 感,達 含 まれ る と考 え られ る.こ
成 感 な ど,情 緒 の改 善 も
れ らの 内 容 を,的 確 か つ 簡 潔 に把 握 す る調 査 票 と し
て 「レ ク リエ ー シ ョ ン効 果 チ ェ ッ ク リス ト(表3.3)」16)に 紹 介 してお く. この 調 査 票 は,活 動 の 結 果,ど
の程 度 の 疲 労 回復 効 果 が 得 られ た か,5段
階
で 評 定 す る もの で あ る.具 体 的 に は,活 動 前 の 状 態 と比 較 して,効 果 の な い場 合 を0点,少
し良 い を+1点,大
変 良 い を+2点,や
や 悪 い を −1点,大
変悪
表3.3
レク リエ ー シ ョン効 果 チ ェ ック リ ス ト
(前 橋 明 ・服 部 伸 一:レ (Ⅱ)―
状 調 査 との 関 連 ―,倉
い を −2点
ク リエ ー シ ョ ンの 効 果 に 関 す る 研 究
レ ク リエ ー シ ョ ン効 果 チ ェ ッ ク リ ス トの 試 案 と疲 労 自覚 症
と い う基 準 で,合
敷 市 立 短 期 大 学 研 究 紀 要28,1998)
計 得 点 を 算 出 し た も の を,「 レ ク ス コ ア 」 と し て
い る.
3.4 ト レ ー ニ ン グ理 論 と運 動 処 方
2.2.3項 で 述 べ た よ う に,体 力 は行 動 体 力 と 防 衛 体 力 に 分 け ら れ,そ ち,行 動 体 力 に は,① 調 整 す る能 力,な
行 動 を起 こ す 能 力,②
どが あ る.単
行 動 を持 続 す る 能 力,③
のう
行動 を
に体 力 を向 上 させ る とい っ て も,ど の 要 素 の体
力 を向 上 させ る の か に よ っ て,ト
レ ー ニ ン グ の行 い 方 は異 な る.
3.4.1 トレー ニ ン グ の 五 大 原 則 トレー ニ ング を行 う上 で,以 下 の5つ
の 原 則 を 考 慮 し,計 画 的 に トレー ニ ン
グ を 実 践 しな け れ ば 十 分 な効 果 が 期 待 で き な い. ●全 面 性 の 原 則
運 動 を遂 行 す る上 で,運 動 種 目が 偏 っ た り,単 発 的 な要 素
が 強 くな っ た り,部 分 的 な個 所 の み を トレー ニ ン グす る とい っ た 内 容 は避 け る こ とが 大 切 で あ る.
●意 識 性 の原 則 っ た方 が,よ
どの 部 分 を トレー ニ ン グ し,鍛 え て い るの か を 意 識 して行
り効 果 が 期 待 で き る.目 的 が 達 成 され て い るか を 明確 に確 認 す
る こ と. ●反 復 性 の 原 則
何 度 も く り返 し実 行 す る こ とが 必 要 で あ る.反 復 練 習 に よ
り,技 術 の 習 得 が 可 能 と な る.ト き な い.運
レー ニ ング効 果 は,1日
や2日 で は期 待 で
動 の 実 行 ‐運 動 の 修 正 ‐実 行 ‐修 正 を く り返 す う ち に,自
分が イ
メ ー ジ した 運 動 が 少 しず つ 可 能 と な る. ●個 別 性 の 原 則
個 人 の 特 徴 や 個 々 の能 力,個
ロ グ ラム を実 行 す る こ とが 大 切 で,そ
の 際,個
人 差 を十 分 に 考 慮 して 運 動 プ 々 に合 っ た 運 動 の 量 や 質 で あ
る 内 容 と種 類 を選 定 す る こ とで あ る. ●漸 進 性 の 原 則 量,レ
体 力 や テ ク ニ ッ ク の 向 上 と と も に,少
ベ ル等 を漸 進 的 に高 め る こ とが 大 切 で あ る.同
しず つ 運 動 の 強 度 や
じ こ との 連 続 で は,飽
きて し ま い,効 果 が 期 待 で きな い 場 合 が あ る.プ ロ グ ラム の 内 容 を段 階 的 に 計 画 し,内 容 を 変化 させ る等,さ
ま ざ ま な創 意 工 夫 が 必 要 で あ る.
3.4.2 運 動 処 方 トレー ニ ング を実 行 す る 際,た
だ 回 数 を多 く実 践 す れ ば結 果 が 期 待 で きる と
い う もの で は な い.間 違 っ た 内 容 や トレー ニ ング が 過 度 に な りす ぎれ ば,効 果 は期 待 で きる ど こ ろか,ケ
ガ をす る とい っ た逆 効 果 に な っ て しま うた め,十
分
な 注 意 が 必 要 で あ る.ど の よ う な運 動 を ど う選 択 し,ど れ く らい の 頻 度 で実 施 す れ ば,安 全 で 効 果 が 期 待 で き る の か を理 解 して 行 う必 要 が あ る.運 動 処 方 と は,そ の た め の 運 動 プ ロ グ ラム を作 成 す る こ とで あ る. まず,メ
デ ィ カ ル チ ェ ッ ク と体 力 テ ス トを行 い,自 分 の能 力 が どの 程 度 なの
か を把 握 す る と と もに,個 人 の 身体 的 な特 徴 や 健 康 状 態 を加 味 した,運 に 基 づ い た 運 動 プ ロ グ ラ ム を実 施 す る必 要 が あ る.そ
して,ト
動処方
レー ニ ング を実
施 す る際 は,準 備 運 動 と整 理 運 動 を必 ず 行 い,体 調 のチ ェ ック も入 念 に 行 う こ と.ま た,季 節 に よ っ て服 装 や シ ュー ズ に も注 意 を払 い,十 分 な 水 分 補 給 を心 が け る こ と.水 分 補 給 は,一 度 に た くさ ん の 量 を摂 取 す る の で は な く,幾 度 に も分 け,こ
まめ に 取 る こ と.運 動 前 に200∼300mlを
に あ わ せ て200ml程
度 ず つ 摂 取 す る こ と.の
目安 に 摂 取 し,汗 の 量
ど が 渇 い た な と感 じ た と き に
は,す
で に脱 水 症 状 の 初 期 状 態 で あ るた め,良
とす る な ら ば,早 め,早
3.4.3 超
回
い コ ンデ ィ シ ョン を維 持 しよ う
め対 応 が重 要 で あ る.
復
トレー ニ ン グ を行 っ て 効 率 よ く体 力 を向 上 させ る た め に は,休 養 を十 分 に考 慮 す る必 要 が あ る.筋 力 ア ップ を 目的 とす る トレー ニ ング は,毎 な く,週3日 しい.た
を 目安 に,1日
日行 うの で は
トレー ニ ン グ した ら翌 日は 休 み を とる こ とが 望 ま
だ し,日 に よっ て 部 位 を分 け て行 う場 合 は,別 で あ る.
で は,な ぜ 休 養 が 必 要 なの か.一 般 的 に トレー ニ ン グ を行 う と,エ ネ ル ギ ー が 消 耗 し,一 時 的 な体 力 が 低 下 す る.筋 力 も同 様 で,筋 肉 が 疲 労 し能 力 は低 下 す る.一 方,体 力 が 元 の 状 態 に戻 ろ う とす る こ と を 回復 と呼 ぶ.体 力 の低 下 が 一 定 水 準 以 上 で あ る場 合 ,十 分 な休 息 を取 れ ば,回 復 後 に体 力 は も との レベ ル 以 上 に 向 上 す る.こ
の 現 象 を 「超 回 復 」(図3.8)と
を肥 大 させ る た め に は,ト
レー ニ ン グ後,24∼48時
い い,最
も効 果 的 に筋 力
間 ほ どの 休 養 を と る こ と
が 望 ま しい. 筋 肉 は,筋 繊 維 と呼 ば れ る 糸 の よ う な束 で構 成 さ れ て い る.こ の 筋 繊 維 は, 大 き く分 け る と,赤 筋 と白筋 とい う2種 類 か らな り,そ れ ぞ れ 役 割 が 異 な る. 赤 筋 は,「 遅 筋 」 と呼 ば れ 筋 肉 が 収 縮 す る ス ピー ドは 遅 い が,ス 持 久 性 に優 れ て い る.白
筋 は,「 速 筋 」 と 呼 ば れ,素
る.こ の 赤 筋 ・白 筋 の 筋 繊 維 の構 成 割 合 は,人 っ て も異 な る.例 た め,比
タ ミナ で あ る
早 く動 き,パ
に よ って も違 い,ま
ワーが あ た部 位 に よ
え ば,腹 筋 や ふ く らは ぎの 筋 肉 は,赤 筋 の 占 め る割 合 が 多 い
較 的 回復 が 早 い.
図3.8 超 回復 を 利用 し た場 合 の 筋 量 変 化 (メデ ィ カ ル ・フ ィ ッ トネス 協 会 監修:ス
ポ ー ツ指 導 論,嵯
峨 野 書 院,2002)
筋 力 トレー ニ ング を行 う と,筋 繊 維 は破 壊 さ れ,回 復 期 を経 て,破 壊 され る 前 よ り少 し太 い 筋 繊 維 へ と修 復 さ れ る.つ 繊 維 の 破 壊 が 生 じる た め,ト 養 に よ っ て 修 復 さ れ,さ
ま り,ト レー ニ ング 実行 直 後 は,筋
レー ニ ング 前 よ り筋 肉量 は減 少 す る が,適 度 な休
ら に超 回復 が 起 き,修 復 を重 ね,ト
レー ニ ン グ前 よ り
も大 き な 筋 肉 が つ くの で あ る. したが っ て,筋 力 を増 強 させ る た め に は,超 回復 を有 効 に利 用 す る こ とが 極 め て 重 要 と な る.一 定 の 休 養 を取 らず に 毎 日筋 力 トレー ニ ング を 実 施 す れ ば, 筋 繊 維 の破 壊 を く り返 し,筋 量 は減 少 して い く.逆 に,休 息 時 間 を取 り過 ぎて し ま っ た場 合 も,筋 量 は減 少 して い く.
3.4.4 シ ェ イ プ ア ッ プ 一 般 的 に ダ イ エ ッ トと は,健 康 増 進 や 体 重 調 節 の た め に低 カ ロ リー ・低 塩 分 な どの 制 限 を加 え た食 事 法 の こ と で あ る が,こ
こで は,筋 肉 を 引 き締 め て 理 想
的 な状 態 に 近 づ け る シ ェ イ プ ア ップ に つ い て述 べ る.シ ェ イ プ ア ップ の た め の トレ ー ニ ン グ は,「 低 負 荷 高 回 数 」 が 基 本 で あ る. で は,な ぜ 低 負 荷 高 回 数 が 基 本 な の か.私 ル ギ ー を,基 礎 代 謝量 とい い,筋
た ち が 安 静 時 に,消 費 され るエ ネ
肉 や 内 臓 の機 能 を維 持 す る の に 消 費 され る カ
ロ リ ー で あ る.こ の基 礎 代 謝 量 を上 げ れ ば,消 費 カ ロ リー が増 加 す るの た め, 太 りに くい 体 質 に な る.身 体 の 組 織 の 中 で,最 な の で,筋
も消 費 カ ロ リー が 高 い の は筋 肉
肉 を鍛 え て 筋 量 を増 加 させ れ ば,安 静 時 に カ ロ リー を た くさ ん消 費
す る.ま た,そ
の筋 肉 を使 う場 合 は,少
を 動 か せ る 方 が,よ
な い筋 肉 を動 か せ る よ り,大 き な筋 肉
りエ ネ ルギ ー が 必 要 と な る.
しか し,シ ェ イ プ ア ッ プ を考 え る と き,た だ 単 に,筋 量 を増 や せ ば い い か と い う と そ うで は な い.筋 肥 大 を望 ま な い 筋 力 トレー ニ ング は,主
に赤 筋 を 中心
に 鍛 え る.赤 筋 は,持 久 性 に優 れ た 筋 肉 で あ る た め,低 負 荷 で 多 い 回 数 を設 定 し,ゆ
っ く り持 久 的 な筋 肉 を中 心 に刺 激 す れ ば よ い.赤 筋 は,鍛
(膨 張)し
に くい た め,と
くに女 性 が 筋 力 トレー ニ ン グ をす る 場 合 は,低 負 荷
で 高 回 数 の シ ェ イ プ ア ッ プ トレー ニ ン グ を勧 め る.一 方,筋 場 合 は,高
え て も筋 肥
肥 大 を 目的 とす る
負 荷 低 回 数 で10回 程 度 行 うの が 限 界 で あ る強 度 の メ ニ ュー を,1
度 の トレー ニ ング で 各 部 位,3∼5セ
ッ トを 目安 に行 う と よい.
3.5 運 動
と 疲 労
3.5.1 疲 労 と は 運 動 を 長 い 間続 け て い る と,だ る さや 脱 力 感 が現 れ,気 力 の 減 退 や 作 業 能 率 の低 下 が 起 こ る.そ
し て,次 第 に 力 が 発 揮 で きな くな っ て い く.こ の 現 象 を,
「疲 労 」 と呼 ん で い る.一 般 に疲 労 とは,「 運 動 や作 業,心 労 な ど に よ っ て,客 観 的 に は 生 理 機 能 が低 下 し,結 果 と して,作 業 能率 の 低 下 が み られ,自
覚的お
よ び他 覚 的 に多 くの症 状 が 出 る こ と,ま た主 観 的 に は,疲 労 感 と して 自 覚 され る状 態 」 を指 し て お り,一 定 の 休 養 後 に軽 減,ま
た は 消 失 す る こ と を い う.
疲 労 を 分 類 す る と,身 体 疲 労 と精 神 疲 労,急 性 疲 労 と慢 性 疲 労,局 所 疲 労 と 全 身疲 労,生
理 的疲 労 と病 的 疲 労 な ど に分 け られ る.身 体 疲 労 は,心
を 過 度 に 行 っ た 結 果,身
身の活動
体 諸 器 官 の 活 動 性 が 低 下 し た状 態 を い い,精
神疲 労
は,精 神 の 興 奮 性 が 弱 ま っ た状 態 をい う.ど ち ら も,疲 労 を 生 じ る と,ま ず 運 動 の 質 が低 下 し,続 い て 運 動 の 量 が低 下 して い く.ま た,急 性 疲 労 は,主 て 筋 疲 労 で,一 夜 の 睡 眠,多 慢 性 疲 労 は,原
とし
く と も数 日の 休 養 で完 全 に回 復 す る も の を 指 し,
因が 肉体 疲 労 で あ っ て も症 状 と して は 精 神 的 因 子 の 強 い もの が
多 く,時 に は,各 組 織 に 種 々の 病 的 変 化 を伴 う.し た が っ て,機 能 的 に も障 害 が 慢 性 化 して 現 れ る.局 所 疲 労 は,特 定 の筋 や 関節 を主 に使 うた め,そ だ けが 疲 れ る こ と を い うが,全
の部分
身疲 労 で は,全 身 的 な 作 業 に よっ て,身 体 全 体
に及 ぶ 疲 労 を指 す.
3.5.2 疲 労 の 原 因 a.必
須物 質の消耗
長 時 間 に わ た っ て筋 肉 活 動 が 行 わ れ る と,エ ネ ル ギ ー 源 の 供 給 の た め に,糖 類,つ
い で脂 肪 が 燃 焼 され て い く.燃 焼 に あ た っ て は,と
い.運 動 に 際 して,こ くな る.そ
こ で,エ
くに,糖
の動 員 が 早
の エ ネル ギ ー 源 で あ る糖 が 消 耗 され る と,運 動 が で きな ネ ル ギ ー 源 で あ る 糖 質 が 不 足 して 血 糖 値 が 下 が っ た と き
に,糖 の 補 給 をす る と,元 気 が 回復 す る.し たが っ て,疲 労 は エ ネ ル ギ ー の消 耗 に よ っ て起 こ る.こ れ を消 耗 説 とい う.
b.疲
労物質 の蓄積
運 動 や 作 業 に よ っ て,筋 肉 や 血 液 中 に 乳 酸 や 焦 性 ブ ドウ酸 が 生 成 され,蓄 積 して疲 労 が 起 こ る.肉 体 作 業 に よ り,筋 肉 中 に乳 酸 が 多 くな る と,組 織 が 酸 性 に な り,筋 肉 が 硬 化 す る.こ れ を蓄 積 説 とい う. c.物
理 ・化 学 的 変 調
体 内 の 酸 素 が 欠 乏 した り,水 素 イ オ ン濃 度 に変 調 が 起 こ っ た り,あ るい は, カ ル シ ウ ム イ オ ンや カ リ ウム イ オ ンが 不 足 す る と,疲 れ る.こ
の よ う に,体 液
の性 状 が 変 化 して 恒 常 性 が乱 れ る た め に 疲 労 が 起 こ る とい う説 を 内 部 環 境 変 化 説 とい う. d.調
節機能 の失調
体 内 の恒 常 性 を 維 持 す る働 き は,自 律 神 経系 や 化 学 物 質 に よ っ て 自動 的 に調 節 さ れ て い る.し か し,精 神 的 ま た は 身体 的 な 負 荷 が 大 きい 場 合 に は,生 体 の 内 部 環 境 の 変 化 が 著 し く,自 動 調 節 機 構 が崩 れ て 疲 労 が 起 こ る とい う,調 節 機 能 失 調 説 が あ る.
3.5.3 ス ポ ー ツ や 運 動 に 現 れ る疲 労 a.運
動 と症 状
ス ポ ー ツや 身体 運 動 後 に は,局 部 的 な 筋 肉 の 疲 労 だ け で な く,全 身 に も疲 労 が 現 わ れ る.そ
の 主 な症 状 例 を,以 下 に 列挙 す る.
・顔 色が 悪 くなる
・動作 が乱 れて,か らだが 思 うよう に動 か ない
・元気が な くなる
・平衡性 が悪 くな る
・頭 痛や 腰 痛 を訴 え る
・気分 がい らい らして,腹 立 ちやす い
・息 切 れや 動悸 がす る
・注意力 が散 漫 にな る
・脱 力感 が 強 くな る
・不眠 を訴 え る
・筋 力が 低 下す る
・食欲 が減 少す る
・肩 こ りや 筋 肉痛 を訴 え る ・体重 が減 る ・筋 肉が けい れん を起 こ しやす くな る 人 間 は,休 息 に よ っ て 回復 す る よ うな軽 い 疲 労 で も,以 上 の 疲 労 感 を敏 感 に 自覚 す る こ と が で き る.そ
して,疲 労 が 蓄 積 され る と,運 動 意 欲 や 作 業 意 欲 も
減 少 し,休 息 を 求 め る よ う に な るが,こ
れ は,疲 労 か ら病 的状 態 へ の移 行 を 防
ぐ警 報 で もあ る.一 方,疲 労 は 自覚 す る こ とが で き て も,作 業 能 率 や 生 理 機 能 の低 下 が み られ る とは 限 ら な い.し た が っ て,運 動 選 手 は,と
くに一 般 の 疲 労
症 状 や 自覚 症 状 を 知 り,疲 労 判 定 法 や 疲 労 の 回復 法 につ い て,十 分 な知 識 を も ち,日 常 の 練 習 に活 用 し な け れ ば な ら な い. b.運
動 と尿
現 在,泌
尿 系 に 関 した 疲 労 を み る 場 合 や 一 過性 運 動 に よ る急 性 疲 労 を み る 場
合 に,運 動 前 後 に採 尿 して,そ
の 量 的 変 化 と質 的 消 長 を確 認 し,疲 労 度 判 定 に
利 用 して い る. 1)尿
量
尿 量 は,1日
男 子1500∼2000ml,女
子1000∼1500mlで,1日500ml
以 下,3000ml以
上 の 尿 量 は,一 般 に病 的 と み な され て い る.も
ち ろ ん,尿
量
は,季 節 や 飲 水 量,発 汗 に よ っ て異 な るが,多 飲 多 食 に よ っ て増 え,発 汗 や 運 動 に よ っ て 減 少 す る のが 普 通 で あ る. ま た,昼
間 の 尿 量 は,夜
か つ,比 重 が1.018よ の 尿 量 が400ml以
間 の 尿 量 の2倍
以 上 で,夜
間 の 尿 量 が500ml以
上
り低 い もの を夜 間 多 尿 とい い,腎 疾 患 が 疑 わ れ る.1日
下 に な る こ と を 乏 尿 とい い,逆
に,尿 量 が 増 す こ と を多 尿
とい う.多 尿 は,水 分 の摂 取 過 剰 の ほ か,糖 尿 病 や慢 性 腎 炎 な どで み られ る. 寒 い と きに 尿 量 が 増 す の は,皮 膚 の 毛 細 血 管 が 収 縮 し,腎 臓 の血 流 量 が 増 加 す る た め で あ る. 2)運
動 と尿 量
長 時 間 の 運 動 で は,発 汗 に よ り水 や 電 解 質 の喪 失 が 起 こ り,交 感 神 経 の 緊 張 に よ り腎 血 流 量 が 減 少 す る た め,尿 量 が 減 少 す る.つ 発 汗 時 に は,血 逆 に,水
中 に 抗 利 尿 ホ ル モ ン(ADH)が
を飲 ん だ と き や,と
ま り,運 動 時 や 暑 熱 と か
多 く分 泌 され,尿
量 が 減 る.
くに ア ル コー ル を飲 ん だ と き に は,ADHの
分泌
が 抑 制 さ れ る た め,多 尿 が 起 こる. 一 方,乳 幼 児 の水 泳 教 室 開始 前 や 学 生 の 受 験 前 な どに,少 を催 す こ とが よ く見 か け られ る が,こ
ない 尿 量 で も尿 意
れ は,精 神 的興 奮 に よ り膀 胱 壁 が 過 敏 に
な っ て い る か らで あ る. した が っ て,尿 量 は,激
しい 運 動 時 に は 減 少 し,休 息 に 入 る と増 し,そ の
後,回 復 す る.ま た,蓄 積 疲 労 に よ り,減 少 傾 向 を示 し,回 復 と と もに 増 大 に
向 か う. 3)運
動 と口渇
運 動 を行 う と,口 の 渇 きを 訴 え る.水 分 摂 取 の 調 節 は,口 渇 と飲 水 に よ っ て 営 まれ,口 渇 の お こ りは,視 床 下 部 の 口渇 中枢 に お け る細 胞 の 脱 水 に よ っ て 発 現 す る.口 渇 は,水 分 欠 乏 に 応 じて 強 ま り,強 い 衝 動 と して 飲 水 行 為 を起 こ す.平 均 体 重 の2%程
度 の 水 が 失 わ れ る と,口 渇 が 現 れ,6%以
上の脱水 を起
こす と耐 え られ な くな り,探 し求 め て飲 水 を起 こす よ う に な る. 4)尿
成分
尿 の 成 分 は,水 が95%で,残 の 尿 の 中 で 固形 成 分 は50gで と して,タ
ンパ ク 質,糖,胆
りの5%が
固 形 物 で あ る.す
な わ ち,1000ml
あ り,そ の 中 の 半 分 は尿 素 で あ る.異 常 の 成 分 汁 色 素,ア
セ トン体,赤 血 球,白 血 球 円柱 な ど を
尿 中 に み る こ とが あ る. な か で も,タ
ンパ ク 質 は,通 常,健
常 人 の尿 に は含 まれ て お らず,出 現 す れ
ば,「 タ ンパ ク尿 」 と い う.こ の タ ンパ ク尿 は,腎 臓,膀 胱 疾 患 の と き に現 れ るが,健 康 者 で も過 激 な 運 動 や精 神 感 動,熱
い 湯 の 入 浴,月 経 前 な ど に少 量 で
は あ る が 一 過 性 の タ ンパ ク尿 を み る こ とが あ る.こ れ は,病 的 な もの で は な い の で,生 理 的 タ ンパ ク 尿 と い う.な お,幼 少 年 者 が 長 時 間 立 位 姿 勢 を と っ て い て タ ンパ ク尿 の 出現 を み る こ とが あ る.こ れ を,起 立 性 タ ンパ ク 尿 と い う. 急 性 疲 労 の 場 合,尿
タ ンパ ク は 運 動 中 ほ とん ど発 現 しな いか,極
あ る.運 動 後10∼20分 す る.し た が って,発
め て軽 度 で
尿 で タ ンパ ク発 現 は著 し くな り,比 較 的 短 時 間 で消 滅 現 時 間 の 長 い 程,運 動 の 強 度 が 大 き い とい え る.一 方,
慢 性 疲 労 の 場 合,安 静 時 尿 で も,タ ンパ ク 質 は 認 め られ る.こ れ は,疲 労 の 回 復 と と も に消 滅 す る. 5)尿
の性 状
正 常 な尿 の 色 は,淡 黄 な い し黄 褐 色 で,尿 量 が 減 少 す れ ば濃 くな り,増 加 す れ ば 薄 くな る.こ (pH)は,通
の 色 は,ウ
常5.1∼7.4の
ロ ク ロ ー ム に 基 因 す る.尿
の水 素 イ オ ン濃 度
間 を 動 揺 し,正 常 尿 は,通 常 弱 酸 性 で あ るが,高
度 な疲 労 に よ っ て は酸 性 に傾 く.一 般 に多 量 の 肉 食 後 は酸 性 に傾 き,植 物 性 食 餌 の み を とる と,ア ル カ リ性 に 傾 く.ち な み に,pH<7の 7を 中性,pH>7の
場 合 を ア ル カ リ性 と して い る.
場 合 を酸 性,pH=
3.5.4 疲 労 の 検 査 疲 労 は,測 定 す る こ とが難 しい の で,自 覚 症 状 調 査 や作 業 能 率 検 査,生 理 神 経 検 査 な どを多 面 的 に行 い,総 合 的 に判 定 す る こ とが 大 切 で あ る.疲 労 の程 度 を判 定 す る こ とが で きれ ば,そ の 回 復 を は か る の に都 合 が よい. a.自
覚症状調 査
運 動 負 担 の 問 題 点 を取 り出 そ う とす る と き,疲 労 感 が重 視 され る.し か し, 疲 労 感 は あ く まで も主 観 的 で個 人 差 が あ る.し た が っ て,疲 労 感 を ど う計 量 す る か とい う こ とが,疲 労 研 究 に とっ て の 課 題 で あ ろ う. 疲 労 感 の 構 造 をみ て い こ う とす る 流 れ の 中 で,従 来 か ら疲 労 自覚 症 状 し らべ が 使 わ れ て い る.つ
ま り,疲 労 感 は,足 が だ る い とか,頭
が 重 い とか,い
らい
らす る とい っ た個 別 の 自覚 感 を 総合 して 感 じる もの で あ る か ら,調 査 にあ た っ て も,個 々 の 自覚 内 容 に分 解 して調 べ,そ
れ を ま とめ た形 で 疲 労 感 の 計 量 に お
きか え よ う とす る もの が あ る.こ の 方 法 の 良 い 点 は,よ
り確 か な 答 えが 聞 きだ
しや す い こ と と,そ の 回答 を手 が か りに して疲 労 感 の 構 造 を 分析 して い け る と い う2点
にあ る.
そ こ で,こ れ まで の 長 い 間,産 業 衛 生 ・医 学 ・心 理 ・教 育 の 領域 にお い て 使 用 さ れ て き た 「産 業 疲 労 研 究 会 に よ る疲 労 自覚 症 状 調 査 」(表3.4)な 「児 童 版 疲 労 調 査 」(表3 .5),「 幼 児 版 疲 労 調 査 」(表3.6)を
らび に
紹 介 す る.ま ず,
産 業 疲 労 研 究 会 の 疲 労 自覚 症 状 調 査 は,Ⅰ 群 「ね む け とだ る さ」,Ⅱ 群 「注 意 表3.4 疲 労 自覚 症 状 し らべ の 調 査 項 目
(産業疲労研究会)
表3.5 児 童用 疲 労 自覚 症 状 し らべ(21項
(前橋 明 ・緒 方 正 名:児
童 用 疲 労 自覚 症 状 し らべ の作 成,川 崎 医 療 福 祉 学 会 誌3,1993)
集 中 の 困 難 さ」,Ⅲ 群 「局在 した 身 体 違 和 感 」 の3群 も10項
目用)
に 分 か れ て お り,各 群 と
目ず つ か ら成 る.各 項 目で 該 当 す る 自 覚 症 状 が あ れ ば,チ
ェ ック し て
作 業 前 後 の 訴 え を比 較 し,判 定 す る もの で あ る. 次 に,前 橋 ・緒 方 が 作 成 した,21項
目 か ら な る 「児 童 用 の 疲 労 自覚 症 状 し
らべ 」 を紹 介 す る.先 に紹 介 した 自覚 症 状 し らべ は 成 人 用 で あ る た め,そ れ ら の 調 査 項 目 をそ の ま ま 児童 の 疲 労 調 査 に 使 う こ とは で き な い.そ こ で児 童 に と っ て 意 味 の わ か りに くい項 目や 児 童 が 大 人 と違 い 普段 訴 え な い よ うな症 状,実 際 に 聞 い て も仕 方 の な い項 目,他 の 良 い 聞 き方 な ど を 中 心 に 検 討 を 加 え,21 項 目 を精 選 した も の で あ る. こ の 調 査 票 を 実 際 に使 用 し,合 計 得 点 を 疲 労 ス コ ア と して,月 曜 日か ら土 曜 日 ま で の 学 校 生 活 時 間 内 の疲 労 の 変 化 を 図 示 し た の が 図3.9で
あ る.近 年,夜
図3.9 学 校 生 活 時 にお け る 小 学6年 生 の疲 労 ス コ ア の変 動
図3.10
健 康 し らべ
型 の 子 ど もが 多 く,午 前 の 授 業 中 は 眠 くて だ る く,多 る.疲 労 の訴 え が 最 も多 い の が,登 校 時(始 業 前)で が,1日
くが 疲 労 感 を訴 え て い あ る.そ ん な子 ども た ち
の 中 で 活 動 しや す い の は,疲 労 感 の 訴 えが 最 も少 な くな っ た 放 課 後 で
あ る.こ れ で は,子
ど もた ち が 学 校 の生 活 時 間 内 で 学 習 効 果 を上 げ よ う と して
も,本 当 に難 しい.保 護 者 の 責 任 にお い て,子 校 に送 り出 した い もの で あ る.ま た,1週 多 い の が 特 徴 で あ る.参 考 ま で に,項 労 調 査 票 を,図3.10で
ど も の 生 活 リズ ム を 整 えて,学
間 の う ち で は 月 曜 日に疲 労 の 訴 えの
目数 を よ り精 選 し て15項
目 に絞 っ た 疲
示 した.
ま た,幼 児 の 疲 労 に つ い て も,幼 児 に と っ て 質 問 が 理 解 しや す く,ま た,幼 児 の 様 子 を観 察 して 疲 れ の 様 子 が 的確 に把 握 しや す い 調 査 票 作 成 の 必 要 性 を痛 感 し,「 幼 児 版 疲 労 症 状 チ ェ ッ ク リス ト」(表3.6)を 項 目 は10項
目 で,こ
作 成 した.幼 児 用 の調 査
の う ち,観 察 に よ りチ ェ ッ クす る 項 目は4項
ら聞 い て チ ェ ッ クす る 項 目 は6項 子 ど も は,大 人 に比 べ,未
目,幼 児 か
目で あ る.
だ 身体 の組 織 が 未 熟 で,た
くさ ん の エ ネ ル ギ ー を
成 長 の た め に使 う た め,運 動 す る と,早 く疲 労 す る傾 向 が あ る が,子 れ の 実 感 は大 人 に は な か な か 理 解 さ れ な い. 表3.6 幼 児 の疲 労 し らべ
ど もの 疲
ま た,近 年,社 会 体 育 や ス ポ ー ツ少 年 団 が 普 及 し,運 動 す る機 会 が 増 え た の は よ い が,勝 利 志 向 や 過 密 化 され た ス ケ ジ ュ ー ル の 中 で の過 度 な運 動 負 担 が, 現 実,子
ど もた ち の 心 身 に マ イ ナ ス の 影 響 を 与 えて い る場 合 が で て きた の で,
子 ど も に 適 し た運 動 条 件 の 設 定 や 改 善 の た め に,子
ど も た ち の疲 労 感 を 見 直
し,重 視 して い くこ と は不 可 欠 とい え る. b.作
業能率検 査
作 業 能 率 検 査 は,練 習 効 果 が あ り,被 検 者 の 意 思 が影 響 しや す い もの の,特 別 な 機 器 が 不 要 で 手 軽 に で き る.1位
の 数 字 を2個 ず つ加 え,1桁
入 して い く ク レペ リ ン検 査 や,色 名 を 呼 称 し,100個
の 数 字 を記
を読 み 終 わ る ま で の 時 間
を測 定 す る連 続 色 名 呼 称 検 査 が あ る. c.生
理機能検 査
生 理 機 能 検 査 は,生 理 諸 機 能 の 変 化 に よ っ て 疲 労 を 判 定 し よ う とす る もの で,唾 液 検 査 や尿 蛋 白検 査 な どの 生 化 学 的 検 査,2点 検 査 の よ う な 感 覚 機 能 検 査,筋
弁 別 閾 検査 や フ リ ッカ ー
力 や 腱 反 射 の よ うな 筋系 機 能 検 査 が あ る.
フ リ ッカ ー検 査 は,点 滅 す る光 と連 続 光 に見 え る境 界 を調 べ,ち 数(c/s)が
作 業 前 に比 し て どれ だ け低 下 した か を み て,疲 労 の有 無 や 程 度 を
判 定 し よ う とす る もの で,教 育 ・医学 分 野 で の 利 用 が 多 い.フ は,低 下 率 が5%よ
り大 きい 場 合 を疲 労 と して い る.ま
リ ッ カー 検 査 で
た,測 定 は,発 光 ダ イ
オ ー ドで矩 形 波 の 間 隔 が漸 次 大 に な る と きの 臨 界 融 合 点 をみ る.フ は,大
らつ きの 回
脳 の 活 動 レベ ル を示 す も の で,主
リッカー値
と して 精 神 疲 労 の 検 査 に 適 して い る
が,身 体 疲 労 の 検 査 の 場 合 で も中枢 神 経 の 疲 労 を伴 うの で応 用 され て い る.な お,現 在,幼 開 発)が
少 児 用 の フ リ ッ カ ー測 定 器(早 稲 田大 学 ・ヒ ロ ボ ー株 式 会 社 共 同
開発 され,保 育 ・教 育 現 場 で 使 用 さ れ て い る.
ま た,握 力 や 背 筋 力,脚
力,そ
の 他 の 筋 力 の消 長 は,仕 事 量 の 消 長 と 関 係 が
深 い た め,そ れ らの 筋 系 測 定 が 疲 労 検 査 と して も利 用 さ れ て い る.急 性 疲 労 で は,一
時筋 力 は衰 え る場 合 が 多 い が,蓄 積 疲 労 の初 期 に は若 干 の 筋 力 の増 進 が
認 め られ,そ の 後 は著 し く低 下 し,疲 労 の 脱 却 で 回 復 す る傾 向 を示 す.局 所 筋 疲 労 の場 合,運
動 後 に筋 力 は あ る程 度 上 昇 す る が,こ
と,疲 労 が発 現 した と考 え て よ い.
れ が下 降 す る よ う に な る
3.5.5 運 動 と過 労 疲 労 の 生 じな い 運 動 や トレー ニ ング は,運 動 に よ る効 果 を期 待 す る こ と は で きな い.運 動 の効 果 は,疲 労 とそ の 回復 を反 復 す る こ とに よ り,獲 得 され て い く もの だ か らで あ る.し か し,過 度 に運 動 や トレー ニ ング を 実 施 す る と,体 力 の 消 耗 が 疲 労 の 回復 を 待 た ず して 蓄 積 さ れ て い くの で,オ
ー バ ー トレー ニ ン グ
と な り,過 労状 態 が 現 れ て くる. こ の過 労 状 態 に な る と,い
く ら運 動 や トレー ニ ン グ を行 っ て も,行
う身体 運
動 が 単 にエ ネ ル ギ ー 消 費 の み に終 わ っ て い く.ま た,い ろ い ろ な 精 神 的 ・肉体 的 な 病 的 状 態 も生 じ て くる.例 失 調 症,体 重 減 少,い
え ば,不 眠 や 食 欲 減 退,血 尿,嘔
吐,自 律 神 経
らだ ち 等 で あ る.
3.5.6 疲 労 の 予 防 と回 復 疲 労 す る と,感 覚 が 鈍 り,判 断 の 誤 りが多 くな る.ま た,物 忘 れ を した り, 不 注 意 に な りや す く,眠 気 を催 す の で 事 故 の 危 険性 も増 加 す る. 疲 労 の 回復 にあ た っ て は,原 因 に 応 じた 回復 法 を行 わ な い と,効 果 が 上 が ら な い.例
え ば,身 体 疲 労 に は,入 浴 や マ ッサ ー ジ,栄 養 補 給,十
い し,一 方,精
神 疲 労 に は,睡
効 果 的 で あ る.ま た,長
眠 の ほ か,軽
分 な睡 眠 が 良
い ス ポ ー ツや レク リエ ー シ ョ ンが
時 間 に わ た っ て 同 じ姿 勢 を保 つ よ う な作 業 で は,全 身
の血 行 を よ くす る た め に軽 い 体 操 や 休 息 が 適 して い る. しか し,最
もよ い 疲 労 の 回復 法 は休 養 で あ り,睡 眠 は どん な程 度 の 疲 労 に も
必 要 な 回 復 法 で あ る.人
間が 健 康 で あ れ ば,身 体 内 の 自然 の 調 節 に よっ て,適
度 の休 養 を とれ ば疲 労 は 回 復 す る.と は い っ て も,安 静 が 必 ず し も適 切 な 疲 労 の 回復 法 で は ない こ と もあ り,軽 い 体 操 や ち ょっ と した 運 動 が,疲 労 回 復 の 効 果 を もた らす場 合 が 多 々あ る. 神 経 性 の疲 労 に は,睡 眠 に よ っ て,大 脳 作 用 に 十 分 休 息 を与 え る こ とが 大 切 で あ る.睡 眠 に よ っ て,中 枢 神 経 系 の 機 能 が 停 止 し,内 臓 諸 器 官 の 機 能 も減 退 す る の で,こ
の 間 に疲 労 に よ る障 害 が 除 か れ る の で あ る.
3.5.7 疲 労 対 策 a.休
養 と睡 眠
急 性 疲 労 は,短 時 間 の休 息 で 回復 で きる が,完
全 に静 止 状 態 に な る 休 息 よ り
も軽 い 運 動 や 体 操 な どに よ る積 極 的 な休 息 を と る 方 が,疲 労 か らの 回 復 を早 め る.ま
た,激
しい 運 動 を した 後 ほ ど,睡 眠 は必 要 で あ るが,睡
と深 さで 考 え な くて は な らな い.そ
こ で,睡
眠 の量 は,時
間
眠 を確 保 して 日常 の よい リズ ム を
保 つ こ とが 大 切 で あ る. b.消
耗 物 質 の 補 給 と栄 養 の 摂 取
運 動 に よ り失 わ れ た 物 質 は,食 事 に よ っ て 補 給 さ れ,エ る.運
ネ ル ギ ー を補 充 す
動 後 に生 じる 疲 労 に は,消 化 吸 収 の 速 い 糖 分 を と る と よ い.こ
り,血 糖 値 が 正 常 に も ど り,疲 労 感 は 薄 ら ぐ.ま た,激
れ によ
しい運 動 の場 合 に は,
良 質 の 蛋 白 質 を と る と よい.ま た,糖 分 を酸 化 した り,乳 酸 を グ リ コー ゲ ン に 還 元 す る た め に は,ビ 合 は,ア
タ ミ ンが 必 要 で あ る.筋
肉 や 血 液 が 酸 性 に傾 い て い る場
ル カ リ性 で カ ル シ ウム の 多 い牛 乳 や 野 菜,海
草 を とる と よい.ま
た,
前 もっ て 脂 肪 性 の 食 品 を とっ て い る と,力 の 持 久 性 に 優 位 で あ る.な お,発 汗 や排 尿 に よっ て 消 耗 した物 質 を補 給 す る た め に は,水 分 や 食 塩 の ほ か,無 機 質 と して のNa,P,Ca,ビ c.疲
タ ミ ンB1,Cが
必 要 で あ る.
労性 物質の除去
体 内 の 疲 労 性 物 質 とい わ れ る乳 酸 を早 く酸 化 させ るた め に は,多 取 り入 れ る必 要 が あ る.と
くの 酸 素 を
くに運 動 量 の あ る激 しい 運 動 で は,酸 素 が 体 内 で 不
足 す る の で,深 呼 吸 や 急 速 な 呼 吸 に よ っ て,空 気 中 の 酸 素 を多 量 に取 り入 れ る こ とが 大 切 で あ る. マ ッサ ー ジや 軽 い体 操,入
浴 は,血 行 を促 進 させ て,代 謝 物 質 を排 除 し,筋
肉 の 緊 張 を や わ ら げ る た め,疲 に,マ
労 性 物 質 を 除 去 す る の に 効 果 的 で あ る.と
く
ッサ ー ジ は,末 梢 部 か ら心 臓 に 向 か って 行 い,圧 刺 激 が 筋 肉 の 緊 張 を ほ
ぐ し,血 液,リ
ンパ 液 の還 流 を促 し,代 謝 産 物 を排 除 す る の に役 立 つ.ま
た,
サ ウ ナ や 温 水 と冷 水 に よ る 交 互 浴 は,血 行 を よ く し,疲 労 回復 の効 果 が あ る. d.運
動 のバ ラ ン ス
運 動 内 容 や 時 間 な どの全 体 の バ ラ ンス を 考 え て,局 所 疲 労 を もた らす よ う な 運 動 の 偏 りを な くす こ とが 大 切 で あ る.
【文
献】
1)内
閣 府:国
民 生 活 に 関 す る 世 論 調 査,2004.
2)内
閣 府:体
力 ・ス ポ ー ツ に 関 す る 世 論 調 査,2004.
3)文
部 科 学 雀 生 涯 学 習 政 策 局 調 整 企 画 課:平
4)文
部 科 学 省 保 健 体 育 審 議 会:ス
成14年
度 社 会 教 育 調 査,2002.
ポ ー ツ 振 興 基 本 計 画 の 在 り方 に つ い て ― 豊 か な ス ポ ー ツ
環 境 を 目指 し て ―,2000. 5)前
橋 明 編 著:幼
6)前
橋 明 ・高 橋 ひ と み ・藤 原 千 恵 子 ほ か:子
7)保
健 体 育 審 議 会 答 申,1997.
8)堺 9)文
賢 治:生
児 の 体 育,明
涯 ス ポ ー ツ 試 論,愛
研 図 書,1988.
部 科 学 省 生 涯 学 習 政 策 局:学
10)森
川 貞 夫:生
11)武
藤 芳 照 ほ か 編:中
12)日
本 医 師 会 編:健
13)内
閣 府:平
14)薗
田 硯 哉:高
15)島
田 裕 之:シ
研 図 書,2000.
媛 大 学 教 育 学 部 保 健 体 育 研 究 室 論 集4,1980. 校 基 本 調 査,2002.
涯 ス ポ ー ツ の す す め,共
成16年
ど も の 健 康 科 学,明
栄 出 版,1987.
高 年 の ス ポ ー ツ 医 学,南
江 堂,1997.
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ょ う せ い,2004.
齢 者 ス ポ ー ツ の 課 題 と展 望,体 ンポジウム
育 科 教 育37(7),1989.
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学 術 大 会,
2003. 16)服
部 伸 一 ・前 橋 明:活
動 前 の 疲 労 度 別 に み た ス ポ ー ツ 活 動 の 効 果 に つ い て,レ
ャ ー ・レ ク リエ ー シ ョ ン 研 究44,11-18,2001.
ジ
4.
食生活 と健康
4.1 食 生 活 の 現 状
わ が 国 の 国 民 健康 ・栄 養 調 査 と は,国 4246世 帯,対
象 者 数11491名)を
査 サ ンプ ル の"平 現 在,"肥
内 の 一 定 数 の 世 帯(平
対 象 に,1日
成14年
の 食 事 状 況 を 調 査 し,そ の 調
均"を 示 した も の で あ る.
満"と"や
せ"と
い う言 葉 が 頻 繁 に耳 に さ れ る よ う に,日 本 人 の
栄 養 状 態 は 二 極 化 の 傾 向 が 強 ま っ て い る1-3).男 性 肥 満 者 の割 合 は,30歳 で 明 らか な増 加 傾 向 が み られ,各 年 代 で 約30%に 性 肥 満 者 の 割 合 は,30歳
以 上59歳
上 で は 逆 に 増 加 傾 向 が み られ,男 (b)).一 の3)は,特
度は
方 で,20代
以上
達 して い る(図4.1(a)).女
未 満 で減 少 傾 向 が み られ る もの の,60歳 性 と 同 じ く約30%を
女 性 の る い そ う(羸 痩)者
筆 す べ き こ とで あ る(図4.1(c)).こ
以
占 め て い る(図4.1
の 割 合 が 著 し く増 加 して い る の よ うに,男 性 で は 各 年 代 で
適 正 体 重 維 持 率 が 低 下 して い る こ と,女 性 で は 若 年 層 で 適 正 体 重 維 持 者 の 割 合 が 減 少 して い る こ と等 か ら,日 本 人 の栄 養 状 態 の 二 極 化 は ます ます 進 行 す る と 予 想 さ れ る. こ こで 摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 ・摂 取 栄 養 素 量 の 年 次 推 移 を み る と1-4),摂 取 エ ネ ル ギ ー は減 少 傾 向 に あ る(表4.1).摂
取 エ ネ ル ギ ー の 減 少 は,三
大栄養 素の
う ち主 に炭 水 化 物 の 摂 取 が 大 き く減 少 して い る こ と に起 因 し,脂 質 お よ び た ん ぱ く質 の 摂 取 量 に さ ほ ど 大 きな 変 化 は み られ な い.ま と1-4),米 類 の摂 取 減 少 が 顕 著 で あ り,1975(昭
和50)年
た,食
品分類 別 でみ る
を100%と
す る と,
(a)肥 満 者(BMI≧25.0)の
(b)肥 満 者(BMI≧25.0)の
割 合(男 性)
割 合(女 性)
(c)る い そ う 者(BMI<18.0)の
割 合(女 性)
図4.1 肥満 と る いそ うの 割 合 (厚生 労 働 省:平 成14年 国 民 健 康 ・栄 養 調 査,2002)
2000年 に は65%に ま り,1回
ま で低 下 して い る.こ
れ は,主 食 で あ る 米 の 摂 取 減 少,つ
の食 事 で 摂 る デ ン プ ン質 由来 の糖 質 エ ネ ル ギ ー 量 が 減 少 して い る こ
と を示 して い る.ま
た,従 来 は 間 食 や デザ ー トと して食 され て きた果 物 の 摂 取
量 が 減 少 し,調 味 嗜 好 飲 料(清 涼 飲 料,ア
ル コー ル 等)の
摂 取 量 が 増 加 して い
る.持 続 性 の あ る 糖 質 の補 給 量 が低 下 した た め に 食 間 の体 内 エ ネ ル ギ ー保 持 量 が 低 下 し,単 糖 ・二 糖 類 中心 の 嗜 好 飲 料 で 補 給 す る,あ る い は飲 酒 の機 会 や 量 が 増 え た た め に食 事 で 摂 る米 飯 の 量 が 減 る等,食
生 活 の 変 化 が 窺 え る.
表4.1 国民 栄 養 調査 に お け る1人1日
当 た り栄 養 素 等 の 摂 取 量(年
(健康 局:国 民 栄養 の現 状(平 注:平
成13年
の 調 査 よ りビ タ ミンAは
な って い るが,大
2002(平
国 民栄 養 調 査 結 果),2000よ
り改 変)
レチ ノ ー ル 当量 で 示 され る よ うに な っ た た め 数値 は小 さ く
きな 減 少 は な い と考 え て い た だ きた い. (1IU=0.3μgRE)
成14)年
比 較 か ら,15歳 酸 過 多,多
成12年
次 別)
の 国民 栄 養 調 査 結 果 表3)と
以 上 か ら20∼30歳
価 不 飽 和 脂 肪 酸 不 足(肉
ギ ー 比 率 の上 昇,③ 取 量 の 減 少,⑤
代 を 中 心 に40歳 代 にか け て,① 類 摂 取 量 >魚 介 類 摂 取 量),②
食 塩 摂 取 量 の 過 多(目
カ リ ウ ム 摂 取 量 の 減 少,⑥
シ ウ ム摂 取 量 の 減 少,そ
「日本 人 の 食 事 摂 取 基 準 」6)の
標 量10g/日
以 下),④
飽和 脂肪 脂肪 エ ネル 食 物 繊 維摂
ビ タ ミ ンC摂 取 量 の 減 少,⑦
カル
して,⑧ 女 性 の鉄 摂 取 量 が 平 均 推 定 必 要 量 を 下 回 っ て
い る こ とが 明 らか に され て い る6).食 品群 別 摂 取 量 で み る と,ビ
タ ミ ンや ミネ
ラ ル の 給 源 と な る 野 菜 ・果 物 ・乳 製 品 ・豆 類 ・海 藻 類 の 摂 取 量 が 少 な い5). 2000(平
成12)年
に 出 さ れ た 「健 康 日本21」 に お い て,栄 養 ・食 生 活 改 善 に
関 係 す る具 体 的 目標 値 が 挙 げ られ て い る.虚 血 性 心 疾 患,脳 梗 塞,が
ん,骨 粗
鬆 症 な どの積 極 的 な予 防 を考 え れ ば,適 正 体 重 の 維 持 も さる こ と な が ら,毎
日
の 食 事 の 内容 を充 実 さ せ る こ とが 必 要 で あ る. 運 動 が 身体 へ の 物 理 的 刺 激 とす れ ば,食 事 は 身 体 構 成 に必 要 な材 料 の 供 給 で あ る.正
しい 食 生 活 は,健 康 的 な 生 活 を維 持 す るた め に不 可 欠 な も の で あ る.
個 々 人が,食
生 活 の見 直 しを長 期 的 視 点 に 立 っ て 考 察 す る必 要 が あ る.
4.2 日本 人 の食 事 摂 取基 準,食 生 活 指針
4.2.1 生 活 の 質 の 向上 と栄 養
「食 」 と は,文 字 通 り 「人 が 良 くな る こ と」 で あ る.と
満 た され,病
に悩 ん で い る.飽 食 の時 代 だ か ら こそ,心
こ ろが,現 状 は食 に
身 と も に健 康 な 毎 日の
た め に 正 しい 食 生 活 を見 直 した い. 国 民 の 健 康 増 進,生
活 の 質 の 向 上 お よ び食 料 の 安 定 供 給 の 確 保 を 目的 に文 部
科 学 省,厚 生 労 働 省,農
林 水 産 省 が 連携 し,2000(平
成12)年12月
に策定 さ
れ た 「食 生 活 指 針 」7)は,自 ら の 生 活 を見 つ め 直 し,改 善 に取 り組 む た め の 具 体 的 な 食 生 活 目標 で あ る. こ の 食 生 活 指 針 は,「 第 六 次 改 定 日本 人 の 栄 養 所 要 量 ―食 事 摂 取 基 準 ―」8) (以 下,食
事 摂 取 基 準)を
基 本 に,「 健康 日本21」 の 具 体 的 な 実 践 方 法 と して
策 定 さ れ た もの で あ り,国 民 一 人 ひ と りへ の 食 生 活 の メ ッセ ー ジ で あ る.ま た,食 事 摂 取 基 準 は,健 康 人 を対 象 と し,国 民 の健 康 保 持 ・増 進,生 活 習慣 病 の 予 防 の た め に標 準 と な る各 栄 養 素 の 摂 取 量 を示 す もの で,健 養 改 善 施 策 な ど の基 本 と な る もの で もあ る(2.3.3項
康 増 進 施 策,栄
参 照).
4.2.2 食 生 活 指 針 食 生 活 指 針 は,10項
目 か ら成 り,項 目 ご と に 具 体 的 に取 り組 む 実 践 目標 が
示 さ れ て い る(表4.2).QOL(生
活 の 質)に つ い て は,食 事 を楽 しみ,規
正 しい生 活 を す る こ とで あ る.楽
則
しい 食 事 は,栄 養 素 の 消 化 吸 収 に良 い ば か り
か,心
を和 や か に して くれ る.ま た,近 年,家 族 が 少 人 数 化 し,生 活 時 間 の ず
れ,単
身世 帯 の 増 加 な ど,家 族 揃 っ て の 食 事 が 困 難 に な っ て きて お り,そ の 上
に残 業 や 深 夜 勤 務,受 験 な どに よ って 夜 型 の生 活 を 送 る人 が増 え,朝 食 を 欠 食 す る 人 が 増 加 して い る 中,一
日 三 度 の食 事 を 規 則 正 し く と る こ とが 重 要 で あ
る.規 則 正 しい 食 事 の リズ ム は 好 ま しい 生 活 習 慣 を 形 成 し,健 康 につ なが る. 健 康 を増 進 し,生 活 習 慣 病 を 予 防 す る ため に は,食 事 の バ ラ ンス を保 ち,穀 類,野
菜 ・果 物,牛
乳 ・乳 製 品,豆 類,魚
な どを献 立 に う ま く組 み 合 わせ,食
塩 や 脂 肪 を控 え る こ とに よ っ て 適正 体 重 を維 持 して い くこ と が 大 切 で あ る.日
表4.2 食 生 活指 針
(文部 科 学 省 ・厚 生 労 働 省 ・農 林 水 産 省:食
生 活 指針 の解 説 要 領,2000)
本 の 食 事 様 式 の特 徴 は,主 食 の ご は ん(穀 類 製 品)に
副食の中心で ある主菜 と
付 け合 わ せ の副 菜 を揃 え て食 べ る こ とで あ り,こ の場 合,い
ろい ろ な食 品 を摂
りや す く,適 正 な 栄 養 摂 取 量 を確 保 しや す い.糖 尿 病 や が ん 等 の 生 活 習 慣 病 の 増 加 が 問 題 に な っ て い るが,野
菜 や 果 物 の 摂 取 回数 が 多 い ほ どが ん に か か りに
くい9,10)とい う研 究 成 果 が 得 られ て い る.さ め,多
ら に,肥 満 は生 活 習 慣 病 を は じ
くの疾 患 に 関 係 して い る こ とが指 摘 され て い る.
地 域 の 産 物 を使 い 調 理 や 保 存 を工 夫 し なが ら無 駄 や廃 棄 の ない 料 理 を心 が け る こ と は食 糧 政 策 の 観 点 か ら も重 要 で あ る.日 本 に は,正 月,節 句,祭
り等 の
伝 統 行 事 に 結 び つ い た 食 べ 物 が あ り,日 々 の 食 事 で も旬 の 味 を 大 切 に して き た.こ の よ うな 食 文 化 は,自 然 環 境 と深 い か か わ りが あ り,地 域 の 食 材 を 日 々 の 料 理 に生 か す た め の 工 夫 や 知 恵 が 詰 ま って お り,こ の 食 文 化 を次 の世 代 へ と 伝 え る こ と も私 た ちの 大 切 な役 割 で あ る. 食 生 活 に つ い て は,自 分 だ け で な く,家 族 や 仲 間 も含 め て 点 検 ・改 善 して い くこ とが 大 切 で あ る.健 康 で 豊 か な食 生 活 を築 い て い くこ と は,他 の 人 か ら与 え られ る も の で は な く,自 ら取 り組 むべ き課 題 で あ る.ま た,良 は,子
ど もの 頃 か ら養 わ れ る もの で あ り,家 庭 や 学 校,地
い食 生 活 習 慣
域 社 会 な どで,豊
か
な食 生 活 を 実践 し,学 ぶ 機 会 を作 る必 要 が あ る. 食 生 活 指 針 の 各 項 目や 実 践 目標 を チ ェ ッ ク し 自分 の 食 生 活 を振 り返 り,自 分 な りの 健 康 目標 を設 定 し,で き る こ とか ら実 行 す る こ とが 大 切 で あ る.こ 生 活 指 針 を 具 体 的 な 行 動 に結 び つ け る た め に,2005年4月,厚
の食
生 労 働 省 と農
林 水 産 省 が 「食 事 バ ラ ンス ガ イ ド」 を作 成 した.
4.2.3 食 生 活 の 未 来 日本 の 食 を取 り巻 く状 況 が 大 き く変 化 す る 中,自
ら考 え る消 費 者 に な る必 要
が あ る.つ ま り,食 生 活 の 未 来 は個 人 の 選 択 次 第 とい う こ とで あ る.栄 養 に は 個 人 差 が あ り,複 雑 な現 代 生 活 の 中 で 食 生 活 が 多 様 化 し,個 人 の栄 養 に偏 りが 目立 つ こ とか ら,自 分 の 食 生 活 は 自分 で 管 理 しな い とい け な い. 食 卓 を 囲 ん で の 食 事 は,家 族 団 らん を は じめ と して 人 と の ふ れ あ い を深 め, 親 か ら子 や 孫 に伝 え られ て きて い る 食 材 の 保 存 方 法 や 調 理 な どの食 生 活 の知 恵 や 家 庭 の 味 を伝 え る場 で もあ る の で,こ
う した多 様 な 機 能 を もつ 食 卓 も大 切 に
す べ きで あ ろ う. 長 期 的 展 望 と して は,今 後 食 料 供 給 が 不 安 定 に な る こ と も予 想 され る の で, 自給 率 の 低 い 日本 にお い て は,食 料 自給 率 の 向上 を視 野 に入 れ た 食 生 活 の あ り 方 が 求 め られ て い る. 食 べ 物 の種 類 や 食 べ 方 が 多 様 化 す る 中 で,気 や 食 べ 方 を 選 ぶ 場 合,選
ま ま な欲 求 に した が っ て食 べ 物
択 肢 が多 い ほ ど,食 生 活 の 形 態 は多 様化 し,過 食 か ら
拒 食 な どの 様 々 な 問題 も抱 え込 む こ と にな りか ね な い.食 教 育 の 果 た す 役 割 は ます ます 重 要 に な る が,そ の 効 果 を発 揮 す る た め に は,必 要 な 栄 養 素 を過 不 足 な く摂 取 す る こ とだ け で な く,食 事 を通 して 満 足 感 を 得 る こ と も大切 で あ る こ と を共 通 認 識 と して もち,各
自が 家 事 を分 担 し,生 活 時 間 を調 節 し,ゆ と りを
もっ て 食 事 を と る努 力 を 生 き 甲斐 にす る よ うな ラ イ フ ス タ イ ル を確 立 す る こ と が 大 切 で あ ろ う.「 健 康 日本21」 で は,食 生 活 の 個 人(成
人)目 標 の1つ
とし
て,「 一 日最 低 一 食 は きち ん と した食 事 を,家 族 な ど2人 以 上 で 楽 し く,30分 以 上 か け て と る 」 こ とが 勧 め られ て い る.
4.3 身 体 運 動 と エ ネ ル ギ ー 代 謝
4.3.1 運 動 と栄 養 車 を走 らせ る た め に は燃 料(ガ
ソ リ ン)が 必 要 で あ るの と同 様 に,人 が 動 く
(運動 す る)た め に も燃 料 が 必 要 で あ る.ヒ ン酸)と 酸)と
トの 場 合,ATP(ア
い う物 質 を燃 料 と して お り,そ のATPがADP(ア リ ン酸(Pi)に
デ ノ シ ン三 リ デ ノ シ ン二 リ ン
分 解 した と き に生 ず るエ ネ ル ギ ー を エ ンジ ンで あ る筋 肉
の動 力 に変 換 して い る. つ ま り,ヒ が あ る.こ
トが 動 くた め に は,常 に 筋 肉 に燃 料 で あ るATPを
のATPは,す
供 給 す る必 要
べ て 食 物 と して 摂 取 した栄 養 素 か ら産 生 され る.こ
の よ う に,食 物 と して 摂 取 し た栄 養 素 か らATPを
経 て エ ネ ル ギ ー を産 生 す る
こ とを エ ネ ル ギ ー 代 謝 とい う.身 体 運 動 に よ り消 費 さ れ る エ ネ ル ギ ー量 は ,体 内 に お け る 総 エ ネ ル ギ ー 消 費 量の 約15%を
占 め る.ち
な み に,総 エ ネ ル ギ ー
消 費 量 に 占 め る割 合 が 最 も高 い の は 基 礎 代 謝 量 で あ り,総 エ ネ ル ギ ー消 費 量 の 約75%を
占 め る.基 礎 代 謝 量 と は,安
静 な状 態 で代 謝 され る最小 の エ ネ ル
ギ ー量 で あ り,車 で い うア イ ドリ ン グ時 に必 要 な燃 料 の よ う な もの で あ る.筋 量 が 多 い 人 の 基 礎 代 謝 量 は 高 く,こ れ は大 型 の エ ン ジ ン を積 ん だ 車 ほ ど ア イ ド リ ング に よ り消 費 す る燃 料 が 多 い こ と と 同様 で あ る.ま た,総 量 の 残 りの 約10%は,食
エ ネ ルギ ー消 費
事 誘 導 性 体 熱 産 生 に よ る もの で あ る.こ
と して 摂 取 した エ ネ ル ギ ー が 熱 と して 消 費 され る 現 象 で あ る.こ
れ は,食
事
れ はエ ネル
ギ ー効 率 とい う観 点 か らす る と,無 駄 が 多 く燃 費 の 悪 い 状 態 で あ る. 身体 運 動 の エ ン ジ ンで あ る筋 肉 にエ ネ ル ギ ー 源 で あ るATPを
供 給 す る方 法
は,酸 素 が 介 在 しな い 無 酸 素 性 機 構 と,酸 素 が 介在 した 状 態 で行 わ れ る有 酸 素 性 機 構 と に 分 け ら れ る(表4.3).無 (ATP-CP系)と
乳 酸 性 機 構(解
肉 内 に 貯 蔵 さ れ て い るATPを 迅 速 で あ る が,筋
に分 け られ る.非 乳 酸 性 機 構 は,筋
肉 内 に貯 蔵 可 能 なATPは
成 す る 必 要 が あ る.そ
ギ ー を 発 生 す る.こ
ご くわ ず か で あ り,運 動 を 開始 し
ら に,運 動 を持 続 させ る た め に は,ATPを
こ で,筋
利 用 さ れ る.CPは,ク
る.し
糖 系)と
らに 非 乳 酸 性 機 構
そ の ま ま利 用 す る 機構 で あ る.こ の 機 構 が 最 も
て す ぐに枯 渇 して し ま う.さ
(CP)が
酸 素 性 機 構 は,さ
肉内 に貯 蔵 さ れ て い る ク レ アチ ン リ ン酸 レ ア チ ン と リ ン酸 に 分 解 す る 過 程 で エ ネ ル
の エ ネ ル ギ ー を 用 い て,ADPか
か し,CPもATP同
様,筋
らATPが
再 合 成 され
肉 内 に貯 蔵 可 能 な 量 は 限 ら れ て い る た め,
す ぐに 枯 渇 し て し ま う.筋 肉 内 の 貯 蔵ATPお 謝 を 非 乳 酸 性 機 構(ATP-CP系)と
再合
呼 び,運
よびCPを
用 い た エ ネ ル ギ ー代
動 の 開 始 時 に 利 用 され,最
大下
運 動 で は,数 秒 で終 了 す る. ATPの 糖 質(炭
再 合 成 に 用 い られ る 栄 養 素 は,肝 臓,筋 水 化 物)で
あ る.血
肉,お
よ び血 中 に存 在 す る
中 に 存 在 す る 糖 質(血 糖)は,グ
ル コー ス で あ
り,運 動 の エ ネ ル ギ ー 源 に な る ば か りで な く,脳 や 神 経 な どの エ ネ ル ギ ー 源 に もな る.一 方,肝 臓 や筋 肉 で は,糖 質 は グ リ コー ゲ ン と して貯 蔵 され て い る. 表4.3 人 体 の エ ネル ギ ー 代 謝系
筋 肉 内 に 運 搬 さ れ た グ ル コ ー ス1分 が2分
子 か ら,酸 素 が 介 在 し な い状 態 で,ATP
子 産 生 され る.一 方,筋 肉 内 に貯 蔵 され た グ リ コー ゲ ン1分 子 か らは,
ATPが3分
子 産 生 さ れ る.こ の よ う に,糖 質 か ら酸 素 の な い 状 態 でATPを
産 生 す るエ ネ ル ギ ー 代 謝 を乳 酸 性機構(解 酸 性 機 構 と同 様,酸
糖 系)と
呼 ぶ.乳 酸 性 機 構 は,非 乳
素 が 介 在 しな い 状 態 で糖 質 か らATPを
産 生 す る こ とが 可
能 で あ る.し か し,乳 酸 性 機 構 に よ るエ ネ ル ギ ー 代 謝 は,代 謝 産 物 と して乳 酸 を生 成 して しま う.乳 酸 の 蓄積 は,運 動 の 継 続 を困 難 に す るた め,乳 酸 性 機 構 は最 大 下 運 動 で は 数 十 秒 で終 了す る. 運 動 時 間が 長 引 くにつ れ て動 員 され は じめ る エ ネ ル ギ ー代 謝 系 が 有 酸 素 系 機 構 で あ る.有 酸 素 系 機 構 で は,酸 素 が 介 在 した状 態 で 栄 養 素 で あ る糖 質(炭 水 化 物)や
脂 質 か らATPを
で 行 わ れ るTCAサ は,乳
産生 す る.そ の 中 心 的 な 反 応 系 は ミ トコ ン ド リア 内
イ ク ル(ク
エ ン酸 回 路)お
よ び 電 子 伝 達 系 で あ る.糖
酸 性 機 構 に よ りピ ル ビ ン酸 に な り,TCAサ
よ り二 酸 化 炭 素 と水 に ま で 分 解 され る.1分 ATPは,乳
質
イ ク ル お よ び電 子 伝 達 系 に
子 の グ ル コー ス か ら産 生 され る
酸 性 機 構 で は2分 子 だ っ た の に対 し,有 酸 素 系 機 構 で は36分 子 で
あ る.こ の よ うに,有
酸 素 系 機 構 は,無 酸 素 系 機 構 に 比 べ る と大 量 のATPを
産 生 す る こ とが で き る. 脂 質 も糖 質 同 様,多 脂 肪 酸 は,糖
くのATPを
産 生 す る こ とが で きる.脂 質 か ら分 解 した
質 の 有 酸 素 的 代 謝 と同様,TCAサ
イ クルお よび電子伝達系 によ
り二 酸 化 炭 素 と水 に 完全 に分 解 さ れ る過 程 にお い て 大 量 のATPを
産 生 す る.
この よ うに,有 酸 素性 機 構 は,糖 質 も し くは脂 質 を栄 養 素 と して 酸 素 が 介 在 した 状 態 で エ ネ ル ギ ー 代 謝 を行 う.糖 質1gあ あ る の に 対 し,脂 質1gあ
た りの エ ネ ル ギ ー 量 が4kcalで
た りの エ ネ ル ギ ー 量 は9kcalと
高 い.ま
た,体
内
(肝臓 お よ び 筋 肉)に 貯 蔵 可 能 な糖 質 は 限 られ て い る の に対 し,脂 質 は 中性 脂 肪 と して 脂 肪 組 織 内 に貯 蔵 で き る.し か し,過 度 の脂 肪 貯 蓄 は肥 満 を導 き,多 くの 生 活 習 慣 病 の 原 因 に な る こ と に注 意 す る 必 要 が あ る. 有 酸 素 性 機 構 にお い て,糖 質 と脂 質 が 利 用 され る割 合 は,運 動 強 度 や運 動 時 間 な ど に依 存 す る.強 度 が軽 い 運 動 で は,糖 質 と脂 質 は ほ ぼ 同 じ割 合 で利 用 さ れ る.し り,90%以
か し,運 動 強 度 が50%を
越 え た あ た りか ら糖 質 の 利 用 が 徐 々 に 高 ま
上 の 運 動 で は 糖 質 が エ ネ ル ギ ー 供 給 の ほ とん ど を ま か な う.つ
ま
り,肥 満 解 消 を 目的 と した 脂 肪 燃 焼 の た め の 運 動 強 度 は50%程
度 の比 較 的 軽
い 運 動 が 推 奨 さ れ る. 以 上 の よ うに,運 動 を行 う た め に は,そ
の動 力 源 で あ る筋 肉 にエ ネル ギ ー を
供 給 す る 必 要 が あ り,人 間 は そ れ を 食 物 と して摂 取 した栄 養 素 か ら得 て い る. また,運
動 の 種 類 や 時 間,強 度 とい っ た 条 件 に よ り,エ ネ ル ギ ー 源 と して用 い
られ る栄 養 素 の種 類 や 量 は異 な る.こ の 運 動 に 必 要 なエ ネ ル ギ ー 量 に,基 礎 代 謝 と食 事 誘 導 性 体 熱 産 生 に用 い られ る エ ネ ル ギ ー 量 を足 した もの が 消 費 エ ネ ル ギ ー 量 で あ り,こ れ が 食 物 に よ る摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 よ り も大 きい と き(消 費 エ ネ ル ギ ー >摂 取 エ ネル ギ ー),脂 肪 組 織 に 貯 蔵 され て い る 中性 脂 肪 が 不 足 し た エ ネ ル ギ ー 源 と して 利 用 され る.逆 に,消 費 エ ネ ル ギ ー量 が 摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 よ り も小 さい と き(消 費 エ ネ ル ギ ー < 摂 取 エ ネ ル ギ ー),余
ったエ ネルギー は
中性 脂 肪 と して 脂 肪 組 織 に貯 蔵 さ れ る.健 康 の維 持 ・増 進 とい っ た 観 点 に立 っ て 考 え た場 合,両 者 の バ ラ ンス が 最 も大 き な意 味 を もつ(図4.2).
4.3.2 か ら だ づ く り と栄 養 a.筋
力 ・持 久 力 ・骨 格
1)筋
力 と栄 養
筋 肉 が 発 揮 し う る 最 大 の力(最 積)に
大 筋 力)は,そ
の 筋 肉 の サ イ ズ(筋 横 断 面
比 例 す る.「 マ ッチ ョは力 持 ち 」 と い う こ とか ら,理 解 さ れ や す い だ ろ
う.つ ま り,最 大 筋 力 を高 め るた め に は,筋 そ の た め に は,運 動 を 負荷 し,さ
らに筋 肉 を構 成 す る 材 料 とな る栄 養 素 を食 物
か ら摂 取 す る 必 要 が あ る.筋 肉 は,約80%が パ ク質 に よ り構 成 さ れ て い る.タ 結 合 した もの で,そ
肉 の サ イ ズ を大 き くす れ ば よい.
水 分 で,残
ンパ ク 質 は,20種
の ほ とん どが 約100∼1000分
りの ほ とん ど が タ ン
類 の ア ミ ノ酸 が ペ プ チ ド 子 も の ア ミ ノ酸 が 結 合 して
図4.2 体 内 に お け る エ ネ ル ギ ー バ ラ ンス
い る.摂 取 す る タ ンパ ク 質 は,ヒ
トの体 内 で は 合 成 す る こ とが で きな い9種 類
の ア ミノ酸(必 須 ア ミノ酸)を 十 分 かつ バ ラ ンス 良 く含 む もの が 理 想 的 で あ る. タ ンパ ク 質 の 所 要 量 は,一
般 成 人 で1日
体 重1kgあ
た り1.Og程
る.運 動 に よ り,所 要 量 は増 加 し,激 し い運 動 をす る 人 で は1日 た り1.5g∼2.Og程
度 と な る.そ れ 以 上 の 過 剰 摂 取 は,タ
た,タ
体 重1kgあ
ンパ ク質(ア
酸)の 代 謝 産 物 で あ る尿 酸 を排 泄 す る腎 臓 の 負 担 を増 大 させ,そ させ る.ま
度であ
ミノ
の機 能 を低 下
ンパ ク 質合 成 や エ ネ ル ギ ー 源 と して 用 い られ な い余 剰 な タ ン
パ ク質 は,中 性 脂 肪 に変 換 され,貯 蔵 脂 肪 と して脂 肪 組 織 に蓄 積 さ れ て しま う. 摂 取 タ イ ミ ング に つ い て は,筋 肉 にお け る タ ンパ ク質 合 成 を促 進 させ る 働 き が あ る成 長 ホ ル モ ンの 分 泌 と大 き く関係 す る.成 長 ホ ルモ ンは,筋 力 トレー ニ ング 直 後 お よ び睡 眠 後 約60分
後(ノ
ン レム 睡 眠 時)に
盛 ん に 分 泌 され る こ と
か ら,タ ンパ ク 質 は そ の タイ ミ ン グ を考 慮 して摂 取 す る こ とが 望 ま しい.こ の 際,摂 取 され た タ ンパ ク質 が 体 内 に消 化 ・吸 収 され る まで に か か る時 間 を 考 慮 す る必 要 が あ る.消 化 吸 収 が 速 い プ ロ テ イ ンサ プ リメ ン ト(栄 養 補 助 食 品)で も,消 化 ・吸 収 さ れ る まで に は約2時
間 は か か る.最 近,よ
く耳 にす る ア ミ ノ
酸 サ プ リメ ン トに つ い て は,筋 肉 の 主 成 分 で あ り,運 動 中,分 解 が 盛 ん な 分 岐 鎖 ア ミノ酸(バ
リ ン,ロ イ シ ン,イ ソ ロ イ シ ン)や,成
進 させ る ア ル ギ ニ ン を摂 取 す る と効 果 的 で あ る.さ
長 ホ ル モ ンの 分 泌 を 促
ら に,タ
ンパ ク質 や ア ミノ
酸 と と もに糖 質 を摂 取 す る と,筋 内 にお け る タ ンパ ク質 分 解 が抑 制 さ れ る. この よ うに,筋 力(最
大 筋 力)増
大 に は,筋 肉量 を増 や す 必 要 が あ り,そ の
た め に は筋 力 トレ ー ニ ン グ(運 動 負荷)と,そ め の タ ンパ ク 質 摂 取(栄 (休養)も
養 摂 取)が
の後 の タ ンパ ク 質 合 成 を補 うた
必 要 と な る.ま た,し
重 要 で あ る.こ れ ら3つ の うち,1つ
っ か り と休 む こ と
で も欠 け る と効 果 的 な 筋 力 増
大 は望 め な い. 2)持
久 力 と栄 養
持 久 力 は,筋 持 久 力 と全 身 持 久 力 に 分類 され る.こ
こで は,健 康 と密 接 な 関
係 が あ る全 身持 久 力 に着 目す る.全 身持 久 力 と は,長 時 間 の 運 動 を持 続 す る 能 力 の こ と を い う.長 時 間 の 運 動 を持 続 す るた め に は,活 動 筋 に エ ネ ル ギ ー を供 給 しつ づ け る 必 要 が あ る.筋 のATP供
肉 の エ ネ ル ギ ー 源 はATPで
給 は有 酸 素 性 機 構 に よ り行 わ れ る.つ
あ り,長 時 間 運 動 時
ま り,筋 肉 に 栄 養 素 と な る糖
質,も
し くは 脂 質 を供 給 す る こ とに よ り,長 時 間 の 運 動 が 可 能 と な る.し か
し,糖 質 に よ る エ ネ ル ギ ー代 謝 は,体 内 の糖 質 が 枯 渇 した 状 態 で は う ま く行 え な い.こ の こ とか ら,長 時 間 の 運 動 を持 続 す る に は,運 動 前 に糖 質 をい か に体 内 に蓄 積 し,運 動 中 に糖 質 をい か に摂 取 し,い か に節 約 す る か が 重 要 で あ る. 運 動 前 に体 内(肝 臓 お よび筋 肉)に
蓄積 す る糖 質 を最 大 に す る方 法 と して,
グ リ コー ゲ ンロ ー デ ィ ン グ(カ ー ボ ロ ー デ ィ ン グ)と 呼 ば れ る もの が あ る.こ れ は,体 内 の 糖 質 を枯 渇 状 態 に した後 に糖 質 を摂 取 す る と,も に糖 質 が 貯 蓄 さ れ る とい う性 質(超 動(本 後,3日
番)の1週
との レベ ル以 上
回復)を 利 用 した 方 法 で あ る.例
間 前 に激 し い 運 動(練
習)を
え ば,運
して 体 内 の 糖 質 を枯 渇 さ せ た
間 は低 糖 質 食 を摂 取 して グ リ コ ー ゲ ン合 成 を抑 制 す る.そ の後3日
間
は,逆 に 高 糖 質食 を摂 取 す る こ と に よ りグ リ コー ゲ ン合 成 を一 気 に 高 め る.こ の 方 法 に よ り,体 内 に貯 蓄 され る糖 質 は処 方前 の2倍 近 くに な る.し か し,糖 質 を枯 渇 させ た状 態 で 低 糖 質食 を摂 取 す る こ とは,身 体 へ の 負 担 が 大 きい.そ こで,現 在 で は,単
に運 動(本
番)数
日前 か ら高 糖 質 食 を 摂 取 し,そ れ と と も
に運 動 量 を徐 々 に 減 ら して い く方 法 な ど が取 り入 れ られ て い る. 運 動 中,体
内 の グ リ コー ゲ ン は徐 々 に 減 少 す る.運 動 を持 続 させ る た め に
は,糖 質 を補 給 して糖 の枯 渇 を防 ぐ必 要 が あ る.し か し,運 動 初 期 に お け る糖 質 摂 取 は,血 糖 値 を 上 昇 させ,膵
臓 か らの イ ンス リ ンの 分 泌 を促 進 す る.イ
ス リ ンは,血 糖 の臓 器(肝 臓 や 筋 肉)へ
ン
の 吸収 を促 す と と もに,脂 肪 酸 の 放 出
を抑 え,脂 質 代 謝 を 抑 制 す る.こ の 結 果,糖 質 の 利 用 が 促 進 され る.し か し, 運 動 開始 か ら しば ら くす る と交 感 神 経 が 活 性 化 され,ノ が 促 進 さ れ る.ノ ル ア ドレナ リ ン は,イ
ル ア ドレ ナ リ ンの 分 泌
ンス リ ンの 分 泌 を抑 制 す る た め,こ の
状 態 で は糖 質 摂 取 を 積 極 的 に行 うべ き で あ る.こ の よ う に,運 動 初 期 で は イ ン ス リ ンの 分 泌 を上 昇 させ な い よ う な糖 質 の摂 取 を心 が け るべ きで あ り,そ の 後 は 吸 収 が 速 い糖 質 の摂 取 を心 が け るべ き で あ る. つ ま り,持 久 力 の優 劣 は,エ ネ ル ギ ー源 と して の 糖 質 の摂 取 方 法 に大 き く左 右 され る.ま
た,有 酸 素 性 機 構 に よ るエ ネ ル ギ ー代 謝 を 円滑 に 行 う た め の 潤 滑
油 と して 働 い て い る ビ タ ミ ンB群 い.
の 摂 取 も重 要 で あ る こ と を忘 れ て は な ら な
3)骨
格 と栄 養
骨 格 を形 成 して い る骨 は硬 く,一 度 で きた ら一 生 変 わ らな い もの と思 わ れ が ち だ が,実 謝),1年
際 は常 に分 解(骨
吸 収)と 合 成(骨 形 成)を
で 全 体 の20∼30%の
く り返 して お り(骨 代
骨 が 入 れ 替 わ っ て い る.現 在,高
齢 者の 間で
問 題 と な っ て い る骨 粗 鬆症 は,骨 吸 収 が骨 形 成 を上 回 る こ とに よ り,骨 が 脆 く な る疾 病 で あ る.こ の よ う な疾 病 は,高 齢 者 の み な らず,中
・高 生 で も同 様 に
み られ る よ う に な って きた.骨 形 成 と骨 吸 収 の バ ラ ンス は,運 動 や 栄 養 に 大 き く影 響 さ れ る.運 動 不 足 は,骨 吸 収 を促 進 させ る.こ れ は,使 わ な い筋 肉 が 萎 縮 す る の と同 じ原 理 で あ り,負 荷 に耐 え る必 要 の な い骨 か ら カル シ ウ ム は 流 出 す る.逆 に,運 動 は骨 形 成 を促 進 させ る. 骨 の 強 度 に関 係 す る主 な 栄 養 素 は,カ ル シ ウ ム で あ る.カ ル シ ウ ム は,体 重 の2%を
占 め,ミ
の99%は,骨
ネ ラ ル の 中 で 最 も豊 富 に体 内 に存 在 す る.体 内 の カ ル シ ウム
も し くは 歯 に存 在 し(貯 蔵 カ ル シ ウム),残
に 存 在 す る(機 能 カ ル シ ウ ム).貯 し,機 能 カル シ ウ ム は,筋 収 縮,ホ
り1%は
筋 肉 ・血 液
蔵 カ ル シ ウ ム は,骨 格 の 強 度 を 維 持 ・増 進 ル モ ン分 泌,血
液凝 固 な どの 生 命 活 動 に は
欠 か せ な い 重 要 な役 割 を担 っ て い る.血 中 カ ル シ ウ ム が 不 足 す る と,そ れ を補 うた め に骨 吸 収 を促 進 して 骨 か らカ ル シ ウ ムが 流 出 す る.こ の 結 果,骨 す る.こ の よ う な悪 循 環 を 防 ぐた め に は,カ
は軟化
ル シ ウ ム を十 分 に摂 取 す る 必 要 が
あ る.カ ル シ ウ ム は,飽 食 と言 わ れ る現 代 社 会 に お い て も,所 要 量 を満 た して い な い 数 少 な い 栄 養 素 で あ り,成 人 で は,1日600∼700mgの
摂 取が必 要で
あ る. この よ う に,骨 格 を形 成 す る 骨 の 強 度 を維 持 ・増 進 す るた め に は,適 度 な運 動 を継 続 す る と と もに,食 物 か らカ ル シ ウ ム を しっ か りと摂 取 す る こ とが 重 要 で あ る.運 動 と して は,力 学 的 負 荷 が 大 き い方 が骨 形 成 を促 進 させ る.カ ウ ム の 体 内 へ の 吸 収 は,ビ る.ま
た,カ
タ ミ ンDと
ルシ
同 時 に摂 取 す る こ と に よ り促 進 さ れ
ル シ ウ ム と と も に骨 の構 成 成 分 で あ る リ ン も カ ル シ ウ ム の 吸 収 に
影 響 を及 ぼ す 栄 養 素 で あ る.リ
ンは,カ
ル シ ウ ム に つ い で 体 内 に豊 富 に あ る ミ
ネ ラ ル で 体 重 の1%を
の80%が
リ ン酸 カ ル シ ウム と して 骨 や 歯 に存
占め,そ
在 す る.カ
ル シ ウ ム と リ ン は,1∼1.5:1の
割 合 で食 物 か ら摂 取 す る の が 望
ま しい.そ
れ 以 上 に リ ンを摂 取 す る と,カ ル シ ウ ム の 吸 収 が 抑 え られ る.
b.か
ら だ づ く り と栄 養
体 重 調 整 が で きれ ば,生 活 習慣 病 の 発 症 を 予 防 し,健 康 的 な 生 活 を送 る こ と が で き る.身
長 と体 重 の 相 関 か らbody
(m)2)を 求 め,25以
上 を肥 満,18.5未
mass
index(BMI=体
重(kg)/身
長
満 を や せ と し,一 般 的 にBMI=22と
な る と きの 体 重 が 標 準 体 重(身 長(m)2×22)と
され て い る.ま た,生
活 習慣
病 予 防 の 観 点 か らは,体 脂 肪 率 や体 脂 肪 分 布 が重 要 で あ る.体 重 は,正 常 域 で も体 脂 肪 率 が 高 い場 合 や 体 脂 肪 分 布 が 内 臓 脂 肪 型 の 場 合 に は,高 血 圧 ・高 脂 血 症 ・糖 尿 病 な どの 生 活 習 慣 病 の 誘 引 と な りう る11).そ の た め,体 4.4),ウ
エ ス ト周 囲(成
型 肥 満 が 疑 わ れ る)な で は,ど は,当
人 男 性85cm以
上,成
人 女 性90cm以
脂 肪 率(表
上 で 内臓 脂 肪
どが 簡 便 な指 標 と な る.
うす れ ば適 正 な体 重 や 体 脂 肪 を維 持 で き るの か.体 重 調 整 の 大 前 提
然 の こ と なが ら,「 自分 に 見 合 っ た 食 品 量 の 摂 取 」 と 「身体 活 動 量 の維
持 ・増 加 」 で あ り,「 食 べ る=身
体 へ の 栄 養 素 補 給 」,「動 く=身 体 の エ ネ ル
ギ ー ・栄 養 素 消 費 」 で あ る.日 常 生 活 に お け るエ ネ ル ギ ー は,基 礎 代 謝 に よる もの と身体 活 動 に よ る もの に大 別 さ れ る.よ
く耳 に す る 「食 べ な い の に や せ な
い 」 は,身 体 活 動 量 が 少 な く,基 礎 代 謝 量 を含 め た 身体 の エ ネ ル ギ ー 消 費 能 力 が 低 く,「 食 べ て も太 らな い」 は,身 体 活 動 量 が 十 分 で,か つ 基 礎 代 謝 量 を含 め た 身 体 の エ ネ ル ギ ー 消 費 能 力 が 高 い と考 え るべ きで あ る. 基 礎 代 謝 量 は,筋 組 織 量 と関 連 が 深 く,見 か け は標 準 的 体 型 で あ る が,体 脂 肪 率 が 高 く筋 肉量 が 少 な い,い わ ゆ る 「隠 れ 肥 満 」 で は,基 礎 代 謝 量 が低 下 し て 脂 肪 蓄 積 を 助 長 す る.ま
た,一 般 に,「 食 べ て い な い 」=「"量(か
多 くな い」 とい う意 味 の 表 現 が 多 く聞 か れ る が,実 ル ギ ー 量 は食 品 ご と に異 な る(表4.5).同
際 に は100gあ
さ)"は た りの エ ネ
じ重 量 で も,高 エ ネ ル ギ ー の 食 品
を 頻 繁 に摂 取 して い る場 合 や,摂 取 エ ネ ル ギ ー の み を考 え て糖 質 ・脂 質 ・た ん
表4.4 体脂肪率による肥満度の判定基準
(日 本肥 満 学 会:日
本 肥満 学 会 判 定基 準,2000)
表4.5 100gあ
た りの エ ネ ルギ ー 量 と1食
あ た りの 目安 重 量
ぱ く 質 以 外 の 栄 養 素 を 考 慮 し て い な い 場 合 に は,エ タ ミ ンB1,B2や
鉄,カ
ル シ ウ ム 等 の ミ ネ ラ ル の 摂 取 不 足 が 予 想 さ れ る.
内 容 の 整 っ た 食 事 を す る と い う こ と は,"最 用 率 の 高 いnutrition
complex(栄
ス ク ワ ー ク 中 心 の20歳
要 量 と1日
の 望 ま し い 食 事 量 を 提 示 す る. 場 合,理
・基 礎 代 謝 基 準 値24
想 体 重=1
.Okcal/kg/日
も 自 然 で,か
養 複 合 体)を
と し て,デ
・身 長170cmの
ネ ル ギ ー代 謝 に 関 与 す る ビ
代 男 性(身
摂 る"と
つ総合 的 に生体利
い う こ と で あ る.例
長170cm)の
推定エ ネルギー必
.7×1.7×22=63.6kg と す る と,基
礎 代 謝 量=63.6×24.0=
1526kcal ・机 上 事 務,あ
る い は 車 の 運 転,食
事,入
・通 勤 ,仕
事 な ど の 通 常 の 歩 行 時 間:
・読 書 ,テ
レ ビ を 見 る 等,リ
浴 な ど の 時 間:
11時 間 3時 間
ラ ッ ク ス し て 座 る,横
に な る 時 間:
・睡 眠 時 間: と く に 意 識 的 な 運 動 の 実 行 は な い と す る.こ (低 い)で,推
の 場 合 の 身 体 活 動 レ ベ ル は1.4
定 エ ネ ル ギ ー 必 要 量=1526×1.4=2136kcalと
な り12),そ
に 見 合 っ た 量 の 食 事 を 摂 取 す る こ と が 体 重 調 整 の 基 本 と な る.お kcalに と で,エ
3時 間 7時 間
該 当 す る 食 品 量 と 目 安 量 を 示 し た(表4.6).表 ネ ル ギ ー,タ
ンパ ク 質,脂
よ そ2160
に示 した 食 品 を摂 る こ
質 お よ び 糖 質 の 適 正 量 を 維 持 し,前
栄 養 素 の 代 謝 に 関 与 す る ビ タ ミ ンB1お
よ びB2,抗
れ
述 の3
酸 化 作 用 を もつ ビ タ ミ ン
表4.6 2160kcalに
(健 康 ・栄 養 情 報 研 究 会:第
A,Cお
よ びE,骨
該 当 す る食 品 量 と 目安 量
六 次改 定 日本 人 の 栄 養 所 要 量 ― 食 事 摂 取 基 準―,1999よ
り改 変)
格 を維 持 す る カ ル シ ウ ム お よ び ヘ モ グ ロ ビ ン構 成 成 分 で あ
る鉄 の 充 足 が 見 込 ま れ る. 一 方,あ
る 特 定 の パ フ ォー マ ンス を行 う た め に 体 重 調 節 を必 要 とす る場 合
は,健 康 増 進 の た め の体 重 維 持 と は異 な っ た視 点 で 食 事 を考 え る.体 脂 肪 量 の 増 加 を防 ぐた め に必 須 脂 肪 酸 欠 乏 が 起 こ らな い 程 度 の 脂 質 摂 取 量 を確 保 した 上 で,持
久 力 系 の パ フ ォー マ ンス で は糖 質 重 視,筋
力 系 の パ フ ォー マ ンス で は タ
ン パ ク 質 重 視 の 食 事 を摂 る13).ヒ トの 体 内 の 糖 質 保 持 量 は少 な い た め,摂
取
エ ネ ル ギ ー量 が不 足 す る と,体 脂 肪 や 骨 格 筋 の タ ンパ ク質 が エ ネ ル ギ ー 源 と し て使 わ れ る.と
くに体 脂 肪 量 が 少 な い場 合,パ
エ ネ ル ギ ー源 と し て消 費 され る た め,消
フ ォー マ ンス に必 要 な骨 格 筋 が
費 エ ネ ル ギ ー 量 に見 合 っ た エ ネ ル ギ ー
摂 取 量 の 維 持 が 重 要 で あ る.ま
た,運 動 に よ る酸 化 ス ト レス 下 に あ る こ とか
ら,抗 酸 化 ビ タ ミ ンの 身 体 要 求 量 も増 加 す る14).こ れ ら を考 慮 して 食 事 内 容 と食 品量 を 決 め る必 要 が あ る. しか し,厳 密 な エ ネ ル ギ ー 摂 取 量 お よ び 消 費 量 の 算 出 は 困 難 で あ る こ と か ら,定 期 的 に体 重 や 体 脂 肪 率 の 測 定 を 行 い,健 康 維 持 ・回 復,あ
る いはパ フ
ォ ー マ ンス の 維 持 ・向 上 の ため に適 正 体 重 を維 持 で きる よ う に,食 事 内 容 と活 動 量 を見 直 す こ とが 大 切 で あ る.
4.3.3 栄 養 とエ ネ ル ギ ー代 謝 地 球 の 究 極 の エ ネ ル ギ ー 源 は,太 陽光 で あ る.太 陽 か らの 輻 射 熱 エ ネ ル ギ ー は,植 物 に利 用 され て光 合 成 に よ っ て,炭 水 化 物,タ 物 がH2O,CO2,O2な
ンパ ク質,脂
質 な ど有 機
どの 無 機 物 に合 成 され る.
食 べ 物 や 飲 み物 と して体 内 に 摂 取 され た物 質 は,消 化 吸 収 され,い
ろい ろな
栄 養 素 に分 解 さ れ て 各 諸 器 官 で 使 わ れ た り,蓄 積 さ れ た りす る.エ ネ ル ギ ー 代 謝 とは,変 換 さ れ た 化 学 的 エ ネ ル ギ ー を熱 エ ネ ル ギ ー ・力 学 的 エ ネ ル ギ ー と し て使 用 す る栄 養 素 に 関 す る代 謝 過 程 で あ る. a.エ
ネ ル ギ ー代 謝 の 測 定 方法
1)直
接 法(direct
calorimetry method)
閉鎖 型 の 代 謝 室 に お い て,そ
こ に 循 環 す る水 の 温 度 変 化 を 測 定 す る と 同 時
に,こ の と きの 生 体 か ら発 生 す る 水 蒸 気 や 呼 気 ガ ス を分 析 して 産 熱 量 を測 定 す る方 法 で あ る. 2)間
接 法(indirect
calorimetry method)
生 体 内 で の エ ネ ル ギ ー 代 謝 は,酸 素 摂 取 量,二 酸 化 炭 素 排 出量 と尿 中 の 窒 素 量 を測 定 し算 出 す る.測 定 に は,大 別 して 閉 鎖 型 と開放 型 が あ る.閉 鎖 型 は, 酸 素 タ ンク に充 満 させ た 酸 素 を再 呼 吸 させ,酸 素 の減 少 か ら酸 素 消 費 量 を測 定 し,二 酸 化 炭 素 は 呼 吸 計 の 中 の 水 酸 化 カ リ ウ ム で 吸 収 し,測 定 す る方 法 で あ る.開 放 型 は,ガ ス マ ス ク を装 着 し,外 気 を吸 入 させ て 呼 気 ガ ス を呼 吸 計 で酸 素 消 費 量,二 酸 化 炭 素 排 出 量,お 3)二
重 標 識 水 法(doubly
よ び 窒 素 量 を測 定 す る 方 法 で あ る.
labeled water method)
放 射 性 同 位 元 素 で 標 識 した2種
類 の 水(H218O,2H2O)を
摂 取 させ て,体
組 織 内 へ の 分 布 と消 失 率,CO2産
生 産 を算 出 し,CO21l当
た りの エ ネ ル ギ ー
必 要 量 か らエ ネ ル ギ ー 消 費量 を求 め る方 法 で あ る. 4)生
活 時 間調 査 法(time
and motion method)
日常 生 活 の 活 動 を生 活 時 間 調 査 票 に記 録 し,個 々の 活 動 につ い て,あ
らか じ
め 算 出 され た基 礎 代 謝 と生 活 活 動 強 度 の数 値 を代 入 して算 出 す る 方 法 で あ る. 5)HR法(heart
rate method)
負 荷 実 験 に よ り,心 拍 数 と酸 素 摂 取 量 の 関 係 を求 め,さ
ら に 日常 生 活 にお け
る心 拍 数 を連 続 記 録 し,得 られ た心 拍 数 を代 入 して 酸 素 消 費 量 を 算 出 す る方 法 で あ る. 6)歩
数 計 法(pedometer
method)
身体 に歩 数 計 を装 着 し,歩 数 と 身 長,体 重 な どの 数値 を代 入 して 算 出す る方 法 で あ る. b.1日 1)生
の エ ネ ル ギ ー代 謝 量 の 算 出方 法 活 時 間 調 査 法(time
基 礎 代 謝(basal
and motion method)
metabolism)は,暑
く も寒 く も な い 快 適 な 環 境 温 下 で 安 静
を保 持 し て い る と きの最 小 の エ ネ ル ギ ー代 謝 量 で あ る.即
ち,20∼25℃
の もと
に 肉 体 的 に も精 神 的 に も安 静 状 態 に あ り,食 後12∼15時
間 を経 て 消 化 ・吸 収
作 用 が 終 了 して お り,仰 臥 して覚 醒 して い る状 態 で の 産 出 エ ネ ル ギ ー量 と定 義 さ れ て い る.「 第 六 次 改 訂 日本 人 の 栄 養 所 要 量 」 の 策 定 で は,エ 量 の算 定 に 関 して,基 礎 代 謝 の概 念 を暫 定 的 に 「身 体 的,精 で代 謝 され る 最 小 の エ ネル ギ ー代 謝 量 で あ っ て,生 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 で あ る」 と した(表4.7).ま
エ ネ ル ギ ー 所 要 量=1日
神 的 に安 静 な状 態
き て い くた め に必 要 な 最 小
た,1日
所 要 量 は,基 礎 代 謝 に 対 す る生 活 活 動 強 度(表4.8)の
ネルギー所 要
あ た りの エ ネ ル ギ ー 倍 率 で 算 出す る.
の基 礎 代 謝 量 ×生 活 活 動 強 度
生 活 活 動 強 度=ΣAf・T/1440分 Af:動 T:各
作 強 度(activity
種 生 活 活 動 時 間(分)
生 活 活 動 強 度 の 区 分 は,Ⅰ(低 い),Ⅳ(高
factor:基 礎 代 謝 の 倍 数)
い)4段
い),Ⅱ(や
階 に 分 け られ る.1日
や 低 い),Ⅲ(適
度=好
まし
あ た りの エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は,基
表4.7 性 ・年齢階層別基礎代謝基準値 と基礎代謝量
(健康 ・栄 養 情 報 研 究 会:第
六 次 改 定 日本 人 の 栄 養所 要量 ― 食事 摂 取 基 準 ―,第
礎 代 謝 に対 す る生 活 活 動 強 度(表4.9)の 2)HR法(heart 心 拍 数 は,身
一 出 版,1999)
倍 率 で 同 様 に算 出す る.
rate method)16) 体 活 動 に伴 う生 理 的 指 標 を 示 す 有 効 な 指 標 と して 多 く用 い ら
れ,酸
素 摂 取 量 と の 間 に 有 意 な相 関 関 係 が 成 立 す る こ とが 知 られ て い る.ま
た,長
時 間 の 心 拍 数記 録 装 置 が 開発 され,日
常 生 活 で の心 拍 数 の 連 続 記 録 が で
き る よ う に な っ た. 1日 の エ ネ ル ギ ー消 費 量 は,安 静 代 謝(仰 そ れ ぞ れ2本
の 回帰 式 を 求 め,こ
位)と 活 動 代 謝
れ らに 日常 生 活 で の心 拍 数 を適 用 して酸 素 摂
取 量 を 算 出 す る.酸 素 摂 取 量 をKcalに な わ ち,酸 素1l当
臥 位,椅 座 位,立
た り4.924Kcalと
換 算 す る に あ た っ て は,RQ=0.9,す す る15).
4.4 ス ポ ー ツ 栄 養 とサ プ リ メ ン ト
サ プ リ メ ン ト(dietary
supplement)は
で は 明 確 な 定 義 は な い.米 制 定 し た.わ
が 国 は,1991年
栄 養 補 助 食 品 と 訳 さ れ る が,わ
国 で は,1994年 に
に ダ イ エ タ リ ー サ プ リ メ ン ト法 を
「特 定 保 健 用 食 品 」 を 制 度 化 し,2001年
「保 健 機 能 食 品 制 度 」 が 発 足 し た .サ
が 国
には
プ リ メ ン トの 有 効 性 ・安 全 性 を 正 し く理
表4.8 生 活 活 動 強 度 の 区分(目
注1:生
活 活 動 強 度 Ⅱ(や や低 い)は,現
生 活 活 動 強 度 Ⅲ(適
度)は,国
在,国
安)
民 の大 部 分 が 該 当 す る もの で あ る.
民 が 健 康 人 と して 望 ま しい エ ネル ギ ー 消 費 を して,活
発な生活行
動 を して い る場 合 で あ り,国 民 の望 ま しい 目標 とす る もの で あ る. 注2:「
生 活動 作 」 の 「立 つ 」 「歩 く」 等 は,必
ず しも 「立 つ 」 「歩 く」 の み を 指 す の で は な く,
これ と同 等 の 生活 動 作 を 含 む概 念 で あ る. 注3:「
時 間」 は,1時
な っ て い る が,例
間 を 単 位 と して い る の で,20∼30分
え ば,Ⅲ(適
(健康 ・栄 養情 報研 究 会:第
度)で
前 後 の も の は 「0」 と し て の表 示 に
の筋 運 動 は全 く行 わな い とい う こ とで は な い.
六 次改 定 日本 人 の 栄養 所 要 量 ― 食 事 摂 取 基 準―,第
一 出 版,1999)
解 す る に は,有 益 な 作 用 が 期 待 で きる適 切 な摂 取 量 の範 囲 や,有 害 な 影 響 が 現 れ な い 上 限 な どが把 握 さ れ な け れ ば な らな い. サ プ リ メ ン トは,一 般 に 「 栄 養 成 分 の補 給 ・補 完 を 目的 と し,錠 剤 ・カ プ セ ル等 の 形 を し た食 品 」 と定 義 さ れ,「 栄 養 補 助 食 品」 と位 置 づ け られ て い る. つ ま り,不 足 して い る栄 養 素 を 補 充 す る た め の 食 品 とい うこ とが で きる.し
か
し,わ が 国 にお け る 多 くの ア ス リー トの受 け 止 め 方 は,単 に 栄 養 摂 取 の 補 助 と して の み な らず,ま
た 栄 養 素 の よ う な,元 来,食 物 中 に含 ま れ る物 質 ば か りで
表4.9
日常 生活 の動 作 強 度 の 目安
注:動 作 強 度 は,そ れぞ れ平均 的 な動 作 にお け る値 で あ る. (健康 ・栄 養情 報研 究会:第 六次改 定 日本 人の栄 養所 要量― 食 事摂 取基 準―,第 一 出版,1999)
な く,化 学 合 成 物 質 や 薬 物 を含 め た,疲 労 回 復 や 競 技 力 向 上 の た め の 積 極 的効 果 を期 待 して い る傾 向が 強 い.
サ プ リ メ ン トは,欠 乏 して い る 栄 養 素 を 簡 便 に補 充 し,欠 乏 症 を予 防 し,治 療 を効 率 的 にす る 手 段 と して用 い られ る の が 本 来 の姿 で あ る.原 則 的 に は,必 要 な 栄養 素 や そ の 他 の 食 品成 分 は 本 来,食
物 と して摂 取 し,栄 養 のバ ラ ンス を
適 正 化 し,ス ポ ー ツ競 技 力 の前 提 と な る 身体 の 健 康 状 態 を 高 く維 持 す べ き もの で あ る.し か し,そ の た め に は,専 門 的 な 知識 と食 材 の入 手 や 調 理 の手 間 な ど を伴 うた め,よ
り簡便 な 手 段 と して サ プ リ メ ン トを頻 用 す る こ とが,わ が 国 の
ス ポ ー ツ界 に よ く見 られ る.し たが っ て,サ
プ リ メ ン トを使 用 す る人 の意 識 と
知 識 を深 め,過 度 の依 存 を避 け る と と も に,使 用 の 適 切 化 を 図 る こ とが 望 ま れ る.
4.4.1 ス ポ ー ツ用 サ プ リメ ン トの分 類 サ プ リ メ ン トの 概 念 と して,こ
こ で は実 態 に基 づ き,「 体 力 増 強 物 質」 を含
め た もの と して 扱 う こ と とす る と,現 在,国
際 的 に も国 内 的 に も,多 種 類 の サ
プ リメ ン トが 出 回 っ て い る.こ れ らに つ い て国 際 的 な 基 準 づ く りは も と よ り, 系 統 的 な整 理 す ら十 分 な され て い な い の が 現 状 で あ る.国
内 の 製 品 は,必 ず し
も欧 米 に比 べ て 多 くは な い が,選 手 が 個 別 的 に持 ち 帰 っ た り,海 外 に注 文 して い る もの も少 な くな い と思 わ れ,こ の 使 用 の 実 態 は不 明 で あ る. サ プ リ メ ン トの種 類 は,補 給 栄 養 成 分 に よ る分 類 が 比 較 的 わ か りやす い(表 4.10). ス ポ ー ツ関 連 の サ プ リ メ ン トと して 代 表 的 な もの に,運 動 で 産 生 す る乳 酸 に よ る ア シ ドー ジ ス を防 止 す る緩 衝 物 質 と して の 重 炭 酸 塩,筋
表4.10
(小林 修 平 編:ア
サ プ リメ ン トの種 類(補
肉細 胞 内 に お け る
給 栄養 成 分 に よる 分類)
ス リー トの た め の 栄 養 ・食 事 ガ イ ド,第 一 出 版,2001)
エ ネ ル ギ ー 供 与 体 と して の ク レア チ ニ ン,脂 肪 酸 の代 謝 関連 物 質 と して の カ ル ニ チ ン,電 子 伝 達 系 関 連 物 質 と して の コエ ンザ イ ムQ等
が 挙 げ られ る.
4.4.2 サ プ リメ ン トの ス ポ ー ツ に お け る効 能 サ プ リメ ン ト と して 使 わ れ て い る 成 分 は,人
の 生体 機 能 を 正 常 に維 持 す る た
め の 必 要 量 が 不 足 して い る場 合 に は,そ の 摂 取 が 健 康 の た め に も,競 技 力 向 上 の ため に も必 要 で あ る と され,そ
の科 学 的 根 拠 は 少 な くな い.古
くは,鉄 欠 乏
や た ん ぱ く質 の 欠 乏 ・ア ミノ酸 構成 の 不 適 切 な どに よ る貧 血 が,持 久 力 を は じ め とす る運 動 機 能 低 下 を招 くこ とは よ く知 られ て い る.例 え ば,エ
ネルギー代
謝 を助 け る補 酵 素 を 供 給 す る ビ タ ミ ンB1の 境 界 域 欠 乏 が ア ス リー トの 自覚 的 慢 性 疲 労 と関 連 して い る こ と が 明 らか に な っ て い る.し
たが っ て,欠 乏 に よる
障 害 の 恐 れ が あ り,通 常 の 食 事 か ら補 給 す る こ とが何 らか の 理 由 で 困難 な場 合 に,こ れ らの 栄 養 素 をサ プ リメ ン トと して 摂 取 す る こ と は,む
し ろ適 切 な こ と
で あ る.現 実 の 問 題 と して は,「 体 力 増 強 物 質 」 と し て の サ プ リ メ ン トの効 能 を ど う考 え る か とい う こ とで あ る. 栄 養 学 的 体 力 増 強 物 質 の 例 とそ の 機 能 と して の 特 徴 を表4.11に
示 した.こ
れ まで ほ とん ど の専 門 家 が 一 致 して,そ の 有 効 性 を 支 持 して い る成 分 は,持 久 力 増 強 効 果 を もつ 高糖 質 食 に 関 わ る糖 質 に 限 られ て い る.明 確 な被 験 者 試験 に よ り,普 通 食 の 対 照 群 に比 べ,高 糖 質 食 摂 取 後 の 有酸 素 運 動 継 続 時 間が 延 長 で き た17)こ とが 証 明 され て お り,そ の 理 論 的 根 拠 と して,筋
肉内で の主 たる運
動 エ ネ ル ギ ー 供 給 源 で あ る筋 グ リ コー ゲ ンの補 充 機 能 が 証 明 され て い る.
4.4.3 サ プ リメ ン トの 過 剰 摂 取 に よ る 障害 へ の 配 慮 サ プ リ メ ン トの有 効 性 に対 して,そ の 安 全 性 の確 保 は優 先 的 な課 題 で あ る. こ と に競 技 力 向 上 に至 上 の 意 義 を 置 くア ス リー トの場 合 に は,十 分 な 配慮 が 必 要 と な る.ス ポ ー ツ関 連 の サ プ リ メ ン トは対 応 策 が 未 成 熟 な た め,健 康 管 理 上 十 分 な注 意 が 望 ま れ る. 最 近,多
くの 栄 養 素 につ い て,そ の 過 剰 な摂 取 も健 康 上 問 題 が あ る と され,
第 六 次 改 定 日本 人 の 栄 養 所 要 量(1999年)に され た.引
き続 い て 食 事 摂 取 基 準(2005年)に
お い て,許 容 上 限 摂 取 量 が 策 定 お い て 示 され た 各 栄 養 素 の 許
表4.11
注:多
栄 養 学 的 体 力増 強物 質
くは 有効 性 の科 学 的根 拠 や長 期 摂 取 に よる 安 全性 は確 認 中 の もの で あ る. (小林 修 平編 ・日本 体 育 協 会 ス ポ ー ツ 医 ・化 学 専 門 委 員 会 監 修: ア ス リー トの た め の栄 養 ・食 事 ガイ ド,第 一 出 版,2001よ
容 上 限 摂 取 量 を表4.12に
り改 変)
示 した.
4.4.4 サ プ リメ ン トの望 ま しい 利 用 法 サ プ リメ ン トに つ い て は,そ の利 用 に 関す る科 学 的 根 拠 を確 認 し,か つ安 全 性 を確 認 した 上 で使 用 す る と と もに,そ
の成 分 が 食 事 で 摂 取 可 能 な らば,で
る だ け そ の よ う に努 め る こ とで あ る.日 常 の食 品 で摂 っ た場 合,他
き
の有 用 な 成
分 もバ ラ ンス よ く摂 取 で き る こ と を念 頭 に置 き,サ プ リメ ン トは本 当 に必 要 な 時 と場 所 に 限 っ て 利 用 す る とい っ た視 点 が 重 要 で あ る.
表4.12
日本 人 の 栄 養 所 要 量― 食事 摂 取 基準 ― での 許 容 上 限 摂 取 量 (対象 年 齢18∼49歳,一
(厚 生労 働 省:日
【 文 1)健
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:国
部 抜 粋)
本 人 の 食事 摂 取 基 準,2005)
献 】
民 栄 養 の 現 状 ― 平 成12年
厚 生 労 働 省 国 民 栄 養 調 査 結 果,
民 栄 養 の 現 状 ― 平 成13年
厚 生 労 働 省 国 民 栄 養 調 査 結 果,
民 栄 養 の 現 状 ― 平 成14年
厚 生 労 働 省 国 民 栄 養 調 査 結 果,
第 一 出 版,2002. 2)健
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:国 第 一 出 版,2003.
3)健
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:国 第 一出 版,2004.
4)日
本 栄 養 士 会 栄 養 指 導 研 究 所:戦 る―,第
5)中
原 澄 男:新
6)健
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:日
7)田
中 平 三 ・坂 本 元 子 編:食
公 衆 栄 養 学,第
8)健
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:第
9)厚
生 労 働 省 策 定:成
をふ りか え
一 出 版,2004. 本 人 の 食 事 摂 取 基 準(2005年 生 活 指 針,第
国 地 区 衛 生 組 織 連 合 会:食
11)日
本 肥 満 学 会 編:肥
六 次 改 定 日本 人 の 栄 養 所 要 量,第
康 ・栄 養 情 報 研 究 会 編:第 一出版 ,2000. 坊 幸 弘 ・木 戸 康 博 編:栄
一出 版,2005.
一 出 版,1999.
一 出 版.1990.
生 活99,2005.
満 ・肥 満 症 の 指 導 マ ニ ュ ア ル,医
12)健
版),第
一 出 版,2002.
人 病 予 防 の た め の 食 生 活 指 針,第
10)全
13)中
後 昭 和 の 栄 養 動 向 ― 国 民 栄 養 調 査40年
一 出 版,1998.
六次改定
歯 薬 出 版,1998.
日本 人 の 栄 養 所 要 量 ― 食 事 摂 取 基 準 の 活 用,第
養 科 学 シ リ ー ズNEXT
応 用 栄 養 学,講
談 社 サ イエ ンテ ィ フ
ィ ク,2003. 14)中
野 長 久:ス
ポ ー ツ と 栄 養 と食 品,朝
倉 書 店,2005.
15)沼
尻 幸 吉:活
動 の エ ネ ル ギ ー 代 謝,労
働 科 学 研 究 所,1974.
16)Tsubouchi,S.,Makoro,S.,Hamaguchi,M.,Matsuura.Y.and estimation
of energy
consumption
per
day
Shimizu,N.:A through
heart
rate,Osaka
Reserch
study
of
Journal
of Physical 17)中
野 昭 一,竹
Education 宮
隆:運
24,30-38,1986. 動 とエ ネ ル ギー の 科 学,杏
林 書 院,1998
.
5.
休養と健康
5.1 睡 眠 と 生 活 リ ズ ム
ヒ トの 概 日 リズ ム につ い て は,生 理,内 分 泌,そ あ り,ヒ
の他,様
々 なパ ラ メ ー タが
トが 発 育 して い く こ と と,リ ズ ム の 形 成 過 程 にお い て,概
日 リズ ム を
もっ て い る こ とが 知 られ て い る.
5.1.1 睡 眠 と覚 醒 リズ ム 睡 眠 と覚 醒 は,最
も基 本 的 な生 理 現 象 と考 え られ る.す
め と して 多 くの 高 等 動 物 で は,約25時 生 後8週
く らい ま で は,概
日 リ ズ ム は 明 確 で は な い.8週
と,昼 間 の覚 醒 時 間 が 多 く,15週
よ り18週 まで は,24時
を持 っ た概 日 リズ ムが 出 現 し,26週 乳 児 が1日
トを は じ
まで に24時
か ら15週 に な る 間 よ りや や 長 い 周 期
間 リ ズ ムへ と 同調 して い く.
の う ちで 睡 眠 に費 や す 時 間 の 割 合 は,生 後2∼3週
ら26週 の57%と 程 は,睡
な わ ち,ヒ
間 の 概 日 リズ ム を もっ て い る.
睡 眠 時 間 は わず か に減 少 す る.概
の64∼65%か
日 リ ズ ム を獲 得 して い く過
眠 時 間 の 短 縮 とい う形 で は な く,睡 眠 の夜 間 へ の統 合 とい う形 に よ っ
て な され る. 24時 間 の 時 間 別 に み た 覚 醒 と睡 眠 の リズ ム は,生 き り し な い もの の,午 後7∼8時 2時 が 最 も低 い.こ 帯 に80%近
後3∼6週
で は未 だ は っ
に児 が 覚 醒 して い る率 が最 も高 く,午 前1∼
の 傾 向 は,生 後15∼18週
くが 覚 醒 し て お り,午 前1∼3時
に な る と,午 後7∼8時
の時 間
で は 児 が 覚 醒 し て い る確 率 は
5%に
も満 た な い.こ
の よ うに して,覚
睡 眠 ・覚 醒 リズ ム が,年
醒 と睡 眠 の リズ ムが 確 立 して い く.
長 児 や 成 人 で は 昼 間 に覚 醒 し て,夜 間 に 睡 眠 を と る
よ う に な っ て い く.す な わ ち,午 後8時 つ い て は,生 後6週
∼ 午 前8時
を 夜 時 間 とす る と,睡 眠 に
で か な り夜 時 間 にお け る睡 眠 の確 率 が 高 くな り,3ヵ
月以
降 で は よ りは っ き りと夜 時 間 で の 睡 眠 が 確 立 され て くる.一 方,覚 醒 につ い て は,昼
時 間 の 午 前8時
で 高 くな り,4ヵ
∼ 午 後8時
まで に 目が 覚 め て い る 割 合 は生 後3ヵ
月以降
月 半 以 降 で は っ き り と昼 時 間 に覚 醒 し,昼 に覚 醒 し,夜 に睡
眠 す る とい う通 常 の 睡 眠 が 確 立 す る. しか しな が ら,幼 少 児 は,午 後 の 昼 寝 の 時 間 と し て1∼2時 る.5∼6歳
間 を必 要 とす
に達 す る と次 第 に昼 寝 を しな くて もす む よ うに な り,成 人 と同 じ
よ う な睡 眠 ・覚 醒 リズ ム を獲 得 して い く.
5.1.2 大 人 の 生 活 リズ ム の 乱 れ と睡 眠 障 害 近 年,不
眠 や 過 眠 な どの 睡 眠 障 害 者 が 増 加 して お り,睡 眠 障 害 に よ る外 来 推
計 患 者 数1)は,1984(昭 な っ て い る.ま
和59)年
た,1997(平
か ら1993(平
成9)年3月
成5)年
に か け て約2.3倍
と
に実 施 され た健 康 づ く りに関 す る意
識 調 査2)を み る と,「 睡 眠 に よる 休 養 が 十 分 で な い」 と感 じて い る人 は23.1% に達 して い る. 睡 眠 障 害 の うち 最 も多 く現 れ るの は,ス わ ゆ る生 活 の24時
間化 に伴 い,夜
トレ ス か ら生 じる不 眠 で あ る が,い
眠 れ な い,朝 起 き ら れ な い とい っ た症 状 を
示 す 睡 眠 ・覚 醒 リズ ム障 害 も増 加 して お り,学 校 にお い て 不 適 応 を生 じて い る こ と3)が 指 摘 され て い る. 患 者 調 査 に よ る外 来 の 受 療 率1)を み る と,1984(昭 に,躁
和59)年
うつ 病 は約2倍
か ら1993(平
成5)年
に か け て,神 経 症 は約1.7倍
に増 加 して い る.
ま た,心
身 症 は,心 の 問 題 が 気 管 支 喘 息,不 整 脈,過 敏 性 大 腸 症 候 群,消 化 性
潰 瘍 な どの 身 体 症 状 と して 現 れ た もの で あ る が,こ の うち気 管 支 喘 息 は 同 じ く こ の9年
間 に 約1.3倍
に,不 整 脈 は 約2倍
に,過 敏 性 大 腸 症 候 群 は約1.4倍
に
増 え て い る.こ れ らの 身 体 症 状 は ス トレス の影 響 が 強 い と され て い る. 不 眠 は多 くの 精 神 疾 患 の 初 期 症 状,あ
る い は 主 要 な 症 状 と して 現 れ る こ とか
ら,精 神 疾 患 の 早 期 発 見 ・早 期 治 療 の た め に も睡 眠 の 適 切 な 管 理 が 重 要 で あ
る.ま た,睡
眠 不足 が 産 業 事 故 や 交 通 事 故 の 原 因 とな る こ と も多 く,睡 眠 障 害
の 予 防 は経 済 面 で も重 要 性 が 高 ま っ て い る. 夜 間 労 働 従 事 者 や 交 代 制 勤 務 者 らの場 合 は,労 働 条 件 に よ り 日中 睡 眠 を と ら な け れ ば な らず,睡 5.1).昼
眠 時 間 も一 定 しな い た め,睡
眠 障 害 に悩 む こ とが 多 い(図
間 睡 眠 は,健 常 者 の 夜 間 睡 眠 に比 し,中 途 覚 醒 が 多 く,睡 眠時 間 も1
∼2時 間 短 縮 す る傾 向 が 認 め られ る .勤 務 中 の仮 眠 は,注 意 水 準 の 維 持,ね
む
け や だ る さ の 自覚 疲 労 症 状 の 抑 止 に効 果 が 認 め られ,睡 眠 障 害 の 予 防 に も効 果 が あ る. 睡 眠 の 確 保 は,急 性 疲 労 か らの 回復,慢
性 疲 労 の 防 止 に重 要 で あ り,睡 眠状
態 は外 部 環 境 との 意 識 的 な接 触 は 中 断 す るが,生 体 の 内 部 環 境 に お い て は 次 の 覚 醒 時 点 ま で 間 断 な く活 動 が 続 い て い る.と 準 が 異 な り,レ ム 睡 眠(REM:rapid
筒 井 末 春:ス
くに,脳 は 睡 眠段 階 に よ り活 動水
eye movement)で
は 眼球 運動 が み ら
図5.1 交 代 勤 務 に み られ る心 身 の 症 状 トレス 状 態 と心 身 医 学 的 ア プ ロ ーチ,診 断 と治 療 社,1989よ
り改 変)
れ,血 圧,心
拍 数,体 温 な どの 基 礎 代 謝 の不 安 定 な挙 動 も認 め られ る.ま た,
覚 醒 後 も記 憶 に残 る夢 は,レ ム 睡 眠 と関連 し,感 情 の変 化 に も 関連 す る と され て い る.
5.2 ス ト レ ス と健 康
5.2.1 ス トレス と は 休 養 は,仕 事 や 家 事 な ど の活 動 に よ って 蓄 積 され る疲 労 や 日常 の ス トレス を 回 復 させ る た め に重 要 で あ る.睡 眠不 足 が 続 くこ とで 心 身 の機 能 を低 下 させ, 適切 な判 断 を鈍 らせ る こ とが あ る.と
くに,心 身 に ス ト レス を 感 じて 不 眠傾 向
に あ る と,正 常 な社 会 的 役 割 を担 う こ とが 困 難 に な っ て くる. H.セ リエ は,環 境 か らの あ らゆ る刺 激 か ら生 体 が 生 じ る 生 物 学 的 な 反 応 と して,ス
トレス を引 き起 こす 環 境 刺 激 を 「ス トレ ッサ ー 」 と定 義 し,汎 適 応 症
候 群 とい う概 念 を提 唱 した5).そ の後,ス ホ ー ム ズ とR.H.レ
トレス は,様
々 な 見 解 を され,T.H.
イ は,配 偶 者 の死 や 失 業 な どの 一 時 的,客
(ラ イ フ イベ ン ト:生 活 出 来 事)の
観 的 な生 活 環 境
変 化 を ス トレス と して 捉 え,個 人 の 主 観 的
ス ト レス レベ ル を測 定 す る た め に 「社 会 的 再 適 応 評 価 尺 度(SRRS)」 した6).こ れ に 対 して,R.S.ラ こ と等,持
ザ ラス とJ.Bコ
を作 成
ー エ ンは,家 族 の こ と,仕 事 の
続 的,慢 性 的 な 日常 苛 立 ち事(表5.1)が
重 大 な病 因 に な り う る と
報 告 して い る7).ま た,ラ ザ ラ ス と ロ ウ ナ ー は,人
と環 境 との 関係 性 を ス トレ
ス と した8).こ れ は,ス
トレ ッサ ー に対 す る 本 人 の 対 処 能 力 や 主 観 的 な 認 知 評
価 を重 視 した も の で,心 理 的 な 過 程 が 含 ま れ る. この よ う にス トレス と定 義 され る もの は,一 般 に,心 理 的 ・精 神 的 に 不快 な もの とさ れ る.し
か し,人 々 に とっ て の ス トレス は,不 快 な もの だ け で な く,
成 長 や 発 達 に 必 要 な ス ト レ ス も 存 在 す る.不 快 な ス ト レ ス を デ ィ ス トレ ス (distress),快 な ス トレス をユ ー ス トレス(eustress)と
呼 ぶ.
5.2.2 ス トレ ス に対 す る反 応 と対 処 行 動 人 は,ス す.例
トレス に さ ら され る と生 体 の 防 御 反 応 と して 様 々 な 反 応 を引 き起 こ
え ば,試
合 や 発 表 会 の 前 な ど に,「 手 に汗 を握 る 」 「喉 が 渇 く」 「心 臓 が
表5.1
自己 抑 制 型 行 動 特 性(通
称 イ イ子 特 性)尺
「いつ もそ うで あ る」 と答 えた 場 合 は2点,「 た場 合 は1点,「
まあ そ うで あ る」 と答 え
そ う で は ない 」 と答 え た 場 合 は0点.15点
イ子 が 強 く,自 分 を抑 えて い る.ま た6点
度
以上 はイ
以 下 は イ イ子 が弱 く,誰 にで
も 自分 の 意 見 や 気 持 ち を 言 え る タイ プ とい え る. (ヘ ルス カウ ンセ リ ン グ学 会 編:ヘ
ル ス カ ウ ンセ リ ング辞 典,日
総 研,
2000)
ドキ ドキ す る 」 等 で,こ
れ らは す べ て ス トレス 反 応 で あ る.「 ま わ りか らの 期
待 に応 え た い 」 「自分 自身 を上 手 に 見 せ た い 」 とい う思 い が 過 剰 に な る と,ス トレス とな り反 応 を起 こす の で あ る.こ
うい っ た ス トレス が,持 続 化,慢
す る と心 身 に 不 調 を来 す よ う に な る.例
えば,「 口 内 炎 が で きた」 「風 邪 を引 き
や す くな っ た 」 「胃 が 痛 い 」 と い う症 状 が そ れ で あ る.こ の よ う に,ス
性化
トレ ス
に 対 して,病 気 や 疾 患 な ど 身 体 化 す る こ と,「 不 安 」 「うつ 」 「葛 藤 」 な ど精 神 化 す る こ と,「 喫 煙 」 や 「ア ル コ ー ル 依 存 」 「もの を投 げ た り,壊 す 」 な ど行 動 化 す る こ とで,対 処 しよ う と して い る. ス トレ ス対 処 行 動9)に は,仕 事 の 課 題 や 疾 病 の 治 療 に対 して,「 助 言 を得 る」 「薬 を使 用 す る」 等 の手 段 的 なス トレス 対 処 行 動 と 「 気 分 転 換 す る」 「鬱 憤 を晴 らす 」 等 の情 緒 的 な ス トレス対 処 行 動 が あ る.こ トレス 反 応 を軽 減,解
消 で きる.ま
れ らの対 処 行 動 に よ っ て,ス
た,手 段 的 な ス トレス対 処 行 動 の な か で も
「見 通 し や 計 画 を立 て て み る」 「人 か ら問 題 解 決 の 手 が か り を得 る 」 等 の よ う に,問 題 解 決 に 向 け て積 極 的 に 対 処 し よ う とす る行 動 で あ れ ば,過 度 な 緊 張 や 興 奮 を抑 え,問 題 解 決 の た め に 自信 を 高 め る こ とが で き る.し か し,「 憂 さ晴 ら し をす る 」 「困 難 な仕 事 を避 け る」 等,逃
避 的 に対 処 し よ う とす る 場 合 は,
問題 解 決 に失 敗 しやす く,そ れ が 自信 喪 失 や 無 力 感 につ な が り,さ らに逃 避 的
な 対 処 をす る こ とで 悪 循 環 が お き,ス
トレス 状 態 が 慢 性 化 す る 恐 れ が あ る.
5.2.3 ス トレス を た め や す い 特 性 あ る事 象 につ い て ス トレス と感 じる人 もい れ ば,そ
うで な い 人 もい る.ラ ザ
ラ ス ら は,あ る 問 題 に対 して どの よ う に認 知 し,評 価 す るか は,そ の 人 の 問 題 対 処 能 力 に よ る と して い る10).つ ま り,ス め や す い か ど うか は,そ
トレ ス を感 じや す い,あ
るい はた
の 人 の 問 題 対 処 能 力 や 行 動 特 性 に よ っ て左 右 さ れ る.
不 安 障 害 や 感 情 障 害,虚 血 性 心 疾 患 な ど を 引 き起 こ しや す い とい わ れ る タイ プA行
動 特 性11)は,競
争 心 が あ り,仕 事 や 課 題 な ど を よ り多 く こ な そ う と
し,駆
り立 て ら れ る よ う に急 ぎ,攻 撃 的 な 行 動 特 性 で あ る.タ
イ プA行
動特
性 を もつ 人 は,自 分 の体 を休 め る こ と に対 して恐 怖 心 が あ り,逃 避 的 対 処 行 動 と 関連 し,日 常 苛 立 事 に 影 響 し,さ ら に は神 経 症 症 状 を作 りだ しや す い と い わ れ て い る.ま た,タ 性(通
称:イ
イ プA行
動 特 性 と強 い 相 関 が み られ る 自己 抑 制 型 行 動 特
イ 子 特 性12.13))は,自
分 の気 持 ち を抑 え て,周 囲 の 期 待 に 応 え よ
う とす る特 性 で あ る.こ の 特 性 は 自 分 の 気 持 ち を抑 え るた め に,「 私 が こ ん な に して あ げ て い る の に,ど
う して わ か っ て くれ な い の」 とい う よ う な不 満 や 不
安 を感 じや す く,周 囲 に対 して 無 力 感 や喪 失 感 を もちや す い.し か も,自 分 自 身 に 悪 い イ メ ー ジ を も っ て い るの で,こ な対 処 行 動 を とる こ とが 多 い.イ
れ らの気 持 ち を解 消 す る た め に 逃 避 的
イ子 特 性 を もつ 人 は,周 囲 の 期 待 に応 え て い
る よ う に見 えて も,実 際 は 自 らの 依 存 欲 求 を 満 た す た め の行 動 で あ り,必 ず し も真 の 期 待 に応 え て い る わ け で は ない.そ
の た め,信 頼 を失 い や す い.こ の よ
う な行 動 特 性 を もっ て い る と,心 身 にス トレス をた め や す くな り,様 々 な 領 域 の 心 身症 を発 症 した り,精 神 的健 康 を悪 化 させ る こ とが あ る.
5.2.4 ス トレス マ ネ ジ メ ン ト ス トレス と上 手 に つ き あ う に は,ど
うす れ ば い い の か.ス
トレス を う ま く コ
ン トロ ー ル す る こ と を ス トレ ス マ ネ ジ メ ン トとい う.高 度 情 報 化 社 会 と な り, 誰 もが パ ソ コ ンや 携 帯 電 話 で メ ー ル の や りと りや ホ ー ム ペ ー ジ 閲 覧 を行 え る よ う に な り,リ ア ル タ イ ム で 情 報 を取 得 した り,国 内外 問 わ ず,自
由 に コ ミュ ニ
ケ ー シ ョ ンを とる こ とが で き る よ うに な った.し か し,一 方 で あ ふ れ る情 報 に
溺 れ,自
らの 仕 事 や 時 間 を コ ン トロ ー ル で きな くな っ た り,直 接,人
と会 っ て
会 話 す る こ とが ス トレス と な り,自 分 の 気 持 ち を う ま く伝 え る こ とが で きな く な る 人 が 増 加 して い る. こ れ ら を解 決 す る た め の ス トレス マ ネ ジ メ ン トの 一 つ と して,タ
イムマ ネジ
メ ン ト法 と コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンス キ ル につ い て 概 説 す る.タ イ ム マ ネ ジ メ ン ト 法 は,仕 事 や 学 業 な どの 目の 前 の 課 題 に対 して 効 率 的 に解 決 して い く手 法 で あ る.課 題 や 日標 に 対 して,優 先 度 と見 通 し をA・B・C等
で 順 位 づ け を 行 う.
短期 ・中 期 ・長 期 の 課 題 や 目標 を設 定 し,そ れ ぞ れ に 対 して,1ヵ 間,1日
月,1週
に 行 うべ き こ と と して 設 定 して い く.こ の よ う に,見 通 し を確 保 す る
こ とで 焦 りや 不 安 とい っ た デ ィ ス トレス を意 欲 や 期 待 とい うユ ー ス トレ ス に変 え て い く.こ の よ うに,今 あ る課 題 や 目標 につ い て マ ネ ジ メ ン トす る こ とが重 要 で あ る が,余 命 が6ヵ 月 と い う状 況 を イ メ ー ジ し,そ の 中 で の 課 題 や 目標 を 設 定 す る と,日 々 の 生 活 課 題 か ら解 放 さ れ た 本 当 に 自分 が 実 現 した い課 題 や 目 標 が 見 え て くる の で は な い だ ろ うか. 次 に,コ
ミュ ニ ケ ー シ ョ ンス キ ル につ い て で あ る が,大
グ ス キ ル(listening
き く分 け て リス ニ ン
skill)と ア サ ー シ ョ ン ス キ ル(assertion
skill)が あ る.
リス ニ ン グ ス キ ル は,自 分 の 意 見 や 考 え を脇 に置 き,共 感 的 に聴 くス キ ル で あ る.相 手 の 話 を聴 くた め には,相 手 の 言 語 的 表 現 と非 言 語 的表 現(顔
の表情や
ジ ェス チ ャー 等)を 捉 え る こ とが 重 要 で あ る.ま た,自 分 の 意見 や価 値 観,過 去 の 経 験 な ど を脇 に 置 い た 上 で 相 手 の 気 持 ち に沿 っ て 傾 聴 し,相 手 の 言 っ た こ と を共 感 的 に繰 り返 す こ とで 話 の 内 容 を確 認 す る.一 方,ア は,効
サ ー シ ョンス キ ル
果 的 な 自 己 主 張 ス キ ルで あ り,自 分 の正 直 な気 持 ち を 表 現 す るが,相
手
の 気 持 ち を傷 つ け る こ と な く,そ の 場 にふ さわ しい 方 法 で 表 現 す るス キ ル の こ と で あ る.そ の た め に は,I(私)を こ とが 重 要 で あ り,You(あ は しな い.こ
主 語 に して,「 私 は ∼ して ほ しい 」 とす る
な た)を 主 語 に して 「あ な た は ∼ す るべ きだ」 と
の よ う な ス キ ル を 利 用 し て対 人 関 係 を 良好 に 保 つ こ とで,サ ポ ー
トネ ッ トワ ー ク を広 げ て い くこ とが ス トレス の軽 減 ・解 消 に効 果 的 で あ る. また,ス
トレス を コ ン トロ ー ル す る た め の 心 理 学 的 な 手 法(呼
吸法,自
律訓
練 法,筋 弛 緩 法 な ど)を 用 い て 緊 張 を や わ ら げ た り,気 分 転 換 を す る こ と も効 果 的 で あ る.ま
た,自 分 自身 の 気 持 ち や 感 情 を 自 己 カ ウ ンセ リ ン グ法14)な ど
に よ っ て 整 理 し,ス す る,あ り,ま
ト レス と感 じ る背 後 の 感情 や ス トレス に 対 す る認 知 を変 更
る い は 過 去 の 心 傷 体 験 を 癒 す こ とで 悪 循 環 的 な対 処 行 動 を改 善 し た わ りの期 待 に応 え る た め に 自分 を抑 え る よ う な行 動 特 性 か ら自立 的 で 自
分 自 身 を 信 じ る 行 動 特 性 に 変 更 し て い く こ と が で き る. 様 々 なス
ト レ ス を 抱 え る 現 代 人 は,様
々 な 手 法 を用 い て ス トレス マ ネ ジ メ ン
ト を す る こ と で よ り快 適 な 生 活 を 送 る こ と が で き る.ど い う こ と で は な く,自
分 に と っ て 負 担 が 少 な く,適
の 手 法 が 最 も良 い か と
し た も の を 取 り入 れ て い く
こ と が 大 切 で あ る.
【文 1)厚
生 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部:患
2)財
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ル ス カ ウ ン セ リ ン グ 辞 典,日
己 カ ウ ン セ リ ン グ で 成 長 す る 本,DANぼ,1998.
総 研,2000.
神衛生研
6.ラ
イフステージと健康管理
6.1 乳
幼
児
期
6.1.1 遅 い 就 寝 5歳 児577人 9時44分
の 生 活 実 態 を調 査1)し た.保 育 園 児 の 就 寝 時 刻 が 平 均 して午 後
な の に対 し,幼 稚 園 児 は 午 後9時15分.保
約30分,寝
る の が 遅 く,ま た,午
後10時
育 園 児 は幼 稚 園 児 よ り も
以 降 に 就 寝 す る 園 児 も38%を
た.育 児 の 基 本 で あ る 「早 寝 」 が 大 変 困 難 に な っ て きて い る.な ぜ,子 ち は そ ん な に遅 くま で 起 きて い る の だ ろ うか.午 後10時
占め ど もた
以 降 の 活 動 で 最 も多
い の は,「 テ レ ビ,ビ デ オ視 聴 」 で あ っ た. ま た,保 育 園 児 の 睡 眠 時 間 は9時 ら な い 幼 児 は,翌
間19分
と短 か っ た が,9時
間 程 度 しか 眠
日に 精 神 的 な 疲 労 症 状 を訴 え る2)こ と も明 らか に され て い
る.や は り,夜 に は,10時
間 以 上 の 睡 眠 時 間 を確 保 す る こ と は 欠 か せ な い.
朝 食 を きっ ち り と ら な い子 ど も も心 配 で あ る.調 査 で は,幼 稚 園 児 で5.4%, 保 育 園 児 で13.4%の
幼 児 が,毎
朝,欠
食 して い た.朝
食 の 開 始 時 刻 が 遅 く,
食 事 量 が 少 な く,内 容 も悪 い た め,排 便 をす ませ て 登 園す る 子 ど もが 幼 稚 園 児 で23.3%,保
育 園 児 で15.0%と,3割
を 食 べ て い て も,テ す る.こ
に も満 た な い 状 況 に な っ て い る.朝 食
レ ビ を見 な が らで あ っ た り,一 人 で の食 事 に な っ て い た り
の習 慣 は,マ ナ ー の悪 さ や 集 中 力 の な さ,そ
しゃ く回 数 の 減 少 の み な
らず,家 族 との ふ れ あ い の 減 少 に まで つ なが る. 保 護 者 の 悩 み と して,睡 眠 不 足 の ほ か に,肥 満 や偏 食,疲 労,運
動 不 足 も多
く挙 げ られ て い た が,こ
う した 悩 み は,生 活 の 中 に 運 動 あ そ び を積 極 的 に取 り
入 れ る こ と で,解 決 で きそ うで あ る.運 動 量 が 増 せ ば,睡 食 欲 は 旺 盛 に な る.習 慣 化 に よ っ て,子
眠 の リズ ム が 整 い,
ど もの 心 身 の コ ンデ ィシ ョン も良 好 に
維 持 され る.起 床 時 刻 や 朝 食 開 始 時 刻 の遅 れ を防 ぐに は,ま ず 就 寝 時 刻 を少 し ず つ 早 め るべ きで あ る.こ れ に よ っ て,朝 の 排 便 が 可 能 と な り,子 ど もた ち が 落 ち つ い て 園 生 活 を送 れ る と同 時 に,豊 か な 対 人 関係 を築 くこ とが で き る よ う に な る で あ ろ う.
6.1.2 生 活 リズ ム の 乱 れ 起 床,食
事 に 始 ま り,休 憩,就
床 に至 る生 活 行 動 を,私 た ち は,毎
日,周 期
的 に行 っ て お り,そ れ を生 活 リズ ム と呼 ん で い る.私 た ち の まわ りに は,い い ろ な リズ ム が存 在 す る.例
え ば,朝,目
ム,郵 便 局 の多 くが 午 前9時
に営 業 を始 め て 午 後5時
ズ ム,日 は,地
ろ
覚 め て 夜 眠 く な る とい う生体 の リズ に終 え る とい う社 会 の リ
の 出 と 日 の入 り とい う地 球 の リ ズ ム 等 で あ る.原 始 の 時 代 にお い て
球 の リズ ム が 即,社
会 の リズ ム で あ っ た.そ
の 後,文
明 の発 達 に 伴 い,
人 類 の 活 動 時 間 が 延 び る と,社 会 の リ ズ ム が 地 球 の リズ ム と合 わ な い 部 分 が 増 え て きた.現 代 で は,昼 夜 を問 わず,様
々 な 仕 事 が 増 え,私 た ち の 生 活 の リズ
ム も,社 会 の リズ ムの 変 化 に応 じ,さ らに変 わ っ て きて い る. 夜 間,テ
レ ビや ビデ オ に 見 入 っ た り,両 親 の 乱 れ た 生 活 の影 響 を 受 け た り し
た 子 ど もた ち は,睡 眠 の リズ ム が 遅 くず れ て い る.原 始 の時 代 か ら地 球 の リ ズ ム と と も に培 わ れ て き た 「生 体 の リ ズ ム 」 と彼 ら の 生 活 リ ズ ム は合 わ な くな り,心 身 の 健 康 を損 な う原 因 と な っ て い る.子
ど もは,夜
眠 っ て い る間 に,脳
内 の 温度 を下 げ て 身 体 を休 め る ホ ルモ ン 「メ ラ トニ ン」 や,成 を助 け る 成 長 ホ ル モ ンが 分 泌 され るが,今
長や細胞の新生
日で は大 人 社 会 の影 響 を受 け,子
もの 生 体 リズ ム は 狂 い を生 じて い る.そ の結 果,ホ
ど
ル モ ンの 分泌 状 態 が 悪 くな
り,様 々 な生 活 上 の 問 題 が現 れ て い る. 例 え ば,「 日中 の 活 動 時 に 元 気 が な い」 「昼 寝 の 時 に 眠 れ な い」 「み ん な が 起 き る こ ろ に寝 始 め る」 とい っ た 現 象 で あ る.さ
らに,低 体 温 や 高体 温 とい う体
温 異 常 の 問 題3)も 現 れ て きて い る.こ れ は,自 律 神 経 の 調 節 が 適 切 に 行 わ れ て い な い こ と を物 語 って お り,も はや 「国民 的 な 危 機 」 と い え る.幼 児 の 生 活 リ
ズ ム の 基 本 で あ る,就 寝 は 遅 く と も午 後9時 に,朝
は午 前7時
頃(で
き れ ば,午
後8時)ま
頃 ま で に は 自然 に 目覚 め て も ら い た い.午 後9時
に は,夕 食 は遅 く と も午 後7時 も時 に はあ る だ ろ うが,朝
で
に眠 るため
頃 まで に 開始 す る必 要 が あ る.夜 遅 く眠 る こ と
は常 に 一 定 の 時刻 に起 き る こ とが 大 切 で あ る.朝
規 則 正 しい ス タ ー トづ く りが,何
の
よ り も肝 腎 で あ る.
6.1.3 体 温 異 常 近 頃,保 育 園 や幼 稚 園へ の登 園 後,遊
ばず に じ っ と して い る 子 や,集
中力や
落 ち 着 きが な く,す ぐ に カ ッ とな る 子 が 目に つ くよ う に な っ た.お か しい と思 い,保 育 園 に登 園 して き た 幼 児 の 体 温 を計 っ て み る と,36℃ 子 ど もだ けで な く,37.0℃ 調 査 で は,約3割
を越 え37.5℃
の子 ど もが,低
時 間 で体 温 変 動 が1℃
未 満 の低 体 温 の
近 い 高 体 温 の子 ど もが 増 え て い た.
体 温,高 体 温 で あ る こ とが わ か った.朝
の2
以 上 変 動 す る 子 ど も の 出現 率 も増 え て きた.体 温 は3歳
ご ろ か ら 日内 リズ ム が つ く られ る が,変 動 の な い 子 ど も も7.2%い
た.
そ こ で,体 温 調 節 が う ま くで きな い の は 自律 神 経 の 働 きが う ま く機 能 して い な い か ら と考 え,子
ど もた ち の生 活 実 態 を調 べ て み る と,「 運 動 不 足 」 「睡 眠 不
足 」 「朝 食 を十 分 に と っ て い な い 」 「温 度 調 節 さ れ た 室 内 で の テ レ ビ ・ビ デ オ視 聴 や ゲ ー ム あ そ び が 多 い」 と い う,生 活 習 慣 の乱 れ と,睡 眠 リズ ム の ず れ が 共 通 点 と して み られ た.生
活 リズ ム の 崩 れ は子 ど もた ち の 体 を壊 し,そ れ が 心 の
問 題 に ま で影 響 して きて い るの だ ろ う.生 活 の リズ ム が 悪 い と,そ れ ま で反 射 的 に行 わ れ て い た 体 温 調 節 が で き に く くな る. そ こ で,「 問題 解 決 の カ ギ は 運 動 量 に あ る」 と考 え,子 い き り遊 ばせ て み た.そ
の 結 果,登
園 時 の 体 温 が36℃
ど も た ち を戸 外 で思
台 と36℃ 未 満 の 低 体 温
の 子 ど もた ち は,午 前 中 の 運 動 あ そ び に よ る筋 肉 の活 動 で 熱 を産 み,体 温 が 上 が っ た.一 方,登
園 時 の 体 温 が37℃
以 上 で あ っ た 幼 児 の 体 温 は 下 が っ た.低
体 温 の 子 も高 体 温 の 子 も,と も に36℃ か ら37℃ の 間 に収 ま っ て い っ た の だ. 体 を動 か して遊 ぶ こ とで,幼 児 の 「産熱 」 と 「放 熱 」 機能 が 活 性 化 され,体 温 調 節 能 力 が 目 を 覚 ま した の だ ろ う.さ
ら に,体 温 異 常 の 子 ど も を含 む181人
に,毎
間行 っ た.こ れ に よっ て,体 温 調 節 の
日2時 間 の 運 動 を 継 続 的 に18日
う ま くで き な い子 ど もが 半 減 した.
飛 ん だ り,跳 ね た りす る こ とで,筋 肉 は 無 意 識 の う ち に 鍛 え られ,体 温 も上 が る.そ の 結 果,ホ
ル モ ンの分 泌 が よ くな り,自 然 に 活 動 型 の 正 常 な か ら だ の
リズ ム に も ど る.今 の 幼 児 に は,運 動 が 必 要 で あ り,そ の た め に は 大 人 が 意 識 して,運 動 の 機 会 を 設 け る こ とが 欠 か せ ない.
6.1.4 生 活 リズ ム 改 善 へ の 提 案 早 寝 早 起 きで 睡 眠 の リ ズ ム を整 え,き 体 温 はお の ず と高 まる.そ
ちん と朝 食 を 食 べ て 徒 歩 登 園 す れ ば,
れ が子 ど もた ちの 心 身 の ウ ォー ミ ング ア ッ プ につ な
が り,い ろ い ろ な 活 動 に 積 極 的 に取 り組 む こ とが で き る よ う に な る.保 護 者 は,頭 で は 理 解 して い て も,今
日の 夜 型 化 した 生 活 の 中 で の 実 行 とな る と,な
か なか 難 しい よ う だ. 早 寝 ・早 起 きの 知 恵 と して,そ れ ぞ れ4つ の ポ イ ン トを挙 げ て み よ う. 1)早
寝
●太 陽 の下 で 十 分 運 動 させ,心 地 よい 疲 れ を得 る.午 前 中 だ け で な く,午 後3 時 以 降 の 運 動 あ そ び を 充 実 す れ ば,夕 き,午 後8時
方 に は お な か が す い て 夕 食 に専 念 で
頃 に は 眠 くな る.反 対 に,昼
間 に部 屋 の 中 で テ レ ビ を見 た り,
夕 食 前 に お や つ を食 べ なが らテ レ ビゲ ー ム をす る と,心 地 よ い疲 れ が 得 られ ず,な
か な か 眠 れ な い.
●夕 食 と入 浴 を早 め に 済 ませ,テ
レ ビ を見 る時 間 や寝 る 時 刻 を決 め,寝
る前 に
飲 食 や 過 度 な 運 動 を させ な い こ とが 大 切 で あ る.夜 は 入 浴 で 体 を温 め,リ ック ス させ るの が よい.午 後7時
ラ
を過 ぎて 夕 食 を食 べ 始 め る と,就 寝 は午 後
10時 を過 ぎ る場 合 が 多 くな る. ●家 族 が 協 力 して 子 ど もが 安 心 して 眠 れ る環 境 をつ くる.静 か で優 しい 音 楽 を 流 す の も よい. ●翌 朝 の通 園 が 楽 しみ と い う雰 囲 気 をつ くる. 2)早
起き
● カー テ ンを 薄 め に し,朝
日が射 し込 む よ う にす る.朝 に な っ た ら カー テ ンを
開 け,外 の 新 鮮 な 空気 を部 屋 の 中 に入 れ る.ま た,ベ
ッ ドの 位 置 を窓 の近 く
に移 し,戸 外 の 小 鳥 の 鳴 き声 や 生 活 音 な どが 自然 な形 で 入 りや す くす る. ●寝 つ い た ら エ ア コ ン を切 り,例 え ば,冬
は寒 気 で 自然 に 目覚 め る よ う にす
る. ●楽 し く起 きる こ とが で きる よ う にす る.お い しい朝 食 を作 り,起 き る 時 刻 に 子 ど もの 好 き な 音 楽 を か け る.子
ど もの 好 きな 目覚 ま し時 計 を 使 うの も よ
い. ●親 が 早 く起 きて 見 本 を示 す. a.食
事の大切 さ
キ レ る,荒 れ る,む か つ く,イ ラ イ ラす る,疲 れ て い る等,子
ど もた ち の 問
題 行 動 が低 年 齢 化 して,今 で は,幼 児 期 に も,そ の 一 端 が 見 受 け られ る.子
ど
も た ち の発 達 相 談 や 健 康 相 談 に携 わ っ て い る と,そ の よ うな子 ど も に は,共 通 して 「休 養 」 「栄 養 」 「運 動 」 と い う健 康 を支 え る3要 て い な い とい う背 景 に気 が つ く.な か で も,1日
因が,し
っ か り保 障 さ れ
の ス ター トを快 く切 るた め の
朝 の 食 事 が し っか り して い な い.欠 食 した り,た とえ 食 べ て い て も,菓 子 パ ン 程 度 で あ っ た り して,食 生 活 が 乱 れ て い る. ま た,食 事 は,栄 養 素 の 補 給 を す る だ け の もの で は な い.家
族 の コ ミュニ
ケ ー シ ョ ンを 図 る絶 好 の機 会 と も な り,心 の 栄 養 補 給 も して い る の で あ る.食 は,「 人 に 良 い 」 と書 く.子 ど も た ち が 良 く育 つ た め に は,食 要 で あ る.し
っ か り遊 ん だ 後 は,お 腹 が す い て,子
で,食 事 を作 っ て 待 機 して も らい た い.子 あ る.今,食
の場 は 非 常 に重
ど も は 必 ず 帰 っ て くる の
ど も は,し っ か り覚 え てい る もの で
卓 の6割 以 上 が 加 工 食 品 で 占 め られ て い る 中 で,手 づ く りの 食 事
を作 っ て 待 機 して くれ る家 庭 に は,子 も,温 か い お 母 さん や 家 族 が,一
ど もの 問 題 は ほ とん ど生 じ な い.い
つ
生 懸 命 に食 事 を準 備 して待 っ て い て くれ る か
ら だ.食 事 の 場 は,自 分 の 悩 み を 聞 い て も らっ た り,将 来 の こ と を相 談 した り で きる,す
ば ら しい家 族 の た ま り場 ・居 場 所 な の で あ る.成 長 して か ら も,お
ふ くろ の 味 を思 い 出 して 帰 っ て くる.友 くな る.そ
れ が,満
だ ち を家 に招 待 して,家 族 に 会 わせ た
た さ れ て い な い と,子
ど もた ち は帰 っ て こ な い.「 家 は う
っ と う しい 」 「居 心 地 が 悪 い」 「外 の 方 が い い」 と,外 出が 多 くな る.だ ん だ ん 親 か ら も離 れ て い く.そ して,夜 b.快
間俳 徊 も,自 然 に多 くな る.
便 のスス メ
近 年,朝 食 を欠 食 し,保 育 園 や 幼 稚 園 に着 い て か ら ポー ッ と して い る子 ど も が 目立 っ て きた.こ
の よ うな 子 ど もは,き
ま っ て朝,排
便 を して い な い.ス
ナ
ッ ク菓 子 程 度 の 朝 食 で は,成 長 期 の 子 ど もが必 要 とす る食 事 の 質 や 量 と して は 不 十 分 で あ る.あ わ て て 食 べ て 園 に 駆 け込 む の で は,子 で あ る.こ
ど もた ち が か わ い そ う
う い っ た子 ど も は,朝 の あ そ び 中 に排 便 をす る.友 だ ち との 社 会 性
を育 くむ あ そ び の最 中 に便 意 を生 じ,ト イ レ に駆 け 込 ま なけ れ ば な ら な い.こ れ で は,人
と関 わ る力 も育 た な い.
子 ど も の排 便 の 実 態 を つ か も う と,2003年 を実 施 した.す
る と,「 朝,排
い 」 幼 児 が 約8割 す で,長
に 年 間 を 通 じて 幼 児 の 生 活 調 査
便 を し な い 」,「朝 の排 便 の 習 慣 が 定 着 して い な
に の ぼ っ た.便
は,食 べ も のが 体 内 で 消 化 吸 収 さ れ た 残 りか
い 腸 を通 っ て 出 て くる.つ
ま り,腸 の 中 に満 ち る だ けの 食 べ もの が な
け れ ば な らな い.朝 食 を欠 食 す る と1日2食
と な り,腸 内 の 量 が 満 た され ず,
便 秘 しが ち に な る.便 が 一 定 の 量 に な らな い と,排 便 の た め の 反 射 を 示 さ な い.た
と え 朝 食 を とっ て も,菓 子 パ ン と牛 乳 とい っ た簡 単 な もの だ と,食 物 の
残 りか す が で き に く く,便 秘 しが ち に な って し ま う. また,便
に は,ほ
どよ い柔 らか さ が 必 要 で あ る.と
大 切 で あ る.卵 や 魚,肉 ち に な るが,野
りわ け,朝 の 水 分 補 給 は
な どの タ ンパ ク 質 の 多 い 主 菜 だ け に 偏 る と,便 秘 しが
菜 や 芋,海 草 で つ くる 副 菜 は排 便 を促 す.心
地 よい 排 便 に は,
食 事 に主 菜 と副菜 の 両 方 が 整 っ て い る こ とが 大 切 で あ る. 排 便 の 不 調 は,十 分 な量 の 朝 食 と 時 間 的 なゆ と りをつ くる こ とで,解 決 で き そ うだ.そ
の た め に は,早 め に 就 寝 し,十 分 な 睡 眠 時 間 と質 の よい 睡 眠 を確 保
す る こ とが 欠 かせ な い.早 起 き を し て 胃 が 空 っ ぽ の と こ ろへ 食 物 を入 れ れ ば, そ の刺 激 を脳 に伝 え て 大 腸 の ぜ ん 動 運 動 が 始 ま り,便 意 を も よお す.ま 食 を食 べ て も出 か け る まで に30分 朝,排
は な い と,排 便 に は 至 らない こ とが 多 い.
便 をす ませ て い ない と,日 中十 分 に 筋 力 を発 揮 で きず,快 適 に活 動 で
きな い4)こ と も わ か っ て い る.子 で,排 便 をす ませ,ゆ c.運
た,朝
ど もた ち に は,十
分 な 朝 食 を食 べ させ た 上
と りを もっ て 登 園 させ た い もの で あ る.
動量の確保
健 康 に 関 す る重 要 な課 題 の 一 つ と して,生 活 リズ ム の確 立 に加 え,「 運 動 量 の 確 保 」 が 挙 げ られ る.と
くに子 ど も に とっ て 午 前 中,活 動 意 欲 が わ くホ ル モ
ンが 分 泌 され て体 温 が 高 ま っ て い く時 間帯 の戸 外 あ そ び は重 要 で,成 長 過 程 に お け る必 須 の 条 件 とい え る.
で は,幼 児 に は ど の く らい の 運 動 量 が 必 要 な の だ ろ うか?「
歩 数 」 を指 標 に
し て,運 動 の 必 要 量 を 明 らか に して み よ う.筆 者 らの 調 査5)に よ る と,午 前9 時 か ら11時
まで の2時
場 合 は,5歳
男 児 で 平 均3387歩,5歳
女 児 が3925歩 で,戸
間 の 活 動 で,子
で あ っ た.室
ど もた ちが 自 由 に 戸 外 あ そ び を行 っ た 女 児2965歩,4歳
内 で の 活 動 は,ど
男 児4508歩,4歳
の 年 齢 で も1000∼2000歩
台
外 よ り少 なか っ た.ま た,自 然 の 中 で 楽 し く活 動 で きる 「土 手 す べ り」
で は,5歳
男 児 で5959歩,5歳
児 で4114歩
で あ っ た.さ
ん だ 場 合 は,5歳 4歳 女 児4437歩 条 件(保
育 者)の
女 児 で4935歩,4歳
らに,同
女
じ戸 外 あ そ び で も,保 育 者 が い っ し ょ に遊
男 児 で 平 均6468歩,5歳 と,最
男 児 で4933歩,4歳
女 児5410歩,4歳
も多 くの 歩 数 が 確 保 さ れ た.環
か か わ りに よ っ て,子
男 児5353歩,
境 条 件(自 然)と
人的
ど もの 運 動 量 が 大 き く増 え る こ とが 確
認 さ れ た. 戸 外 あ そ び に よ っ て,子
ど もた ち は運 動 の快 適 さ を実 感 す る.人 や 物,時
へ 対 処 す る こ と に よ っ て,社 会 性 や 人 格 を育 くん で い く.子 番,活
動 的 に な れ る の は,生 理 的 にみ る と体 温 が 最 も高 ま っ て い る午 後3時
ら5時 頃 で あ る.こ
の 時 間 帯 に も4000∼6000歩
間
ど もた ち が,一 か
が 理 想 で あ る が,近 年 は仲 間
や 遊 び 場 が 少 な くな っ て お り,せ め て半 分 くら い は 歩 く時 間 を確 保 し た い もの で あ る.午 前11時 と,1日
か ら午 後3時
に7000∼10000歩
頃 まで の 生 活 活 動 と して の 約1000歩
を加 え る
を確 保 す る こ とが 可 能 に な る.
運 動 あ そ び の 伝 承 を 受 け て い な い現 代 っ 子 で あ る が,保 育 者 や 親 が 積 極 的 に あ そ び に関 わ っ て い け ば,子
ど も と大 人 が 共 通 の世 界 をつ くる こ とが で きる.
そ して,「 か ら だ」 と 「心 」 の 調 和 が とれ た 生 活 が 実 現 で き る の で は ない だ ろ う か.
6.1.5 生 命 力 の 低 下 近 年 の幼 児 の 生 活 上 の 問 題 点 を,健 康 面 か ら探 っ て ま とめ て み る と,①
日
中 の 戸 外 あ そ び が 少 な く,遅 寝 遅 起 き に,②
運 動 不 足 に よ る 肥 満,③
園 を しな い た め,精 神 力 ・持 久 力 が 低 下,④
朝 食 を と ら な い た め,排 便 が 不
安 定,と
い っ た 様 々 な 問 題 が 見 つ かっ た.そ
訴 え,遊 び た が ら な い状 態 に な っ て い る.
して,子
徒歩通
ど もた ち は 朝 か ら疲 労 を
人 間 は 長 い歴 史 の 中 で,昼 に 活 動 し,夜 眠 る と い う生 活 リズ ム をつ くっ て き た.自 律 神 経 も,日 中 は交 感 神 経 が や や 優 位 に 緊 張 し,夜 眠 る と き は副 交 感神 経 が 緊 張 す る とい う リ ズ ム を もっ て い る.し か し,子
ど もの 生 活 リズ ム が悪 く
な る と,自 律 神 経 の 本 来 の働 き方 を 無 視 す る こ と に な る.自 律 神 経 は,内 臓 や 血 管,腺
な ど に分 布 して,生 命 維 持 に 必 要 な 呼 吸,循 環,消 化 吸 収,排 せ つ 等
の機 能 を 自動 的 に調 節 して い るが,生 こ れ らの 調 節 が で き な くな る.ま
活 の リズ ム が 悪 い と,反 射 的 に行 わ れ る
た,幼
児 期 か らの お け い こ ご とが 増 え た た
め,脳 が 処 理 す べ き情 報 量 も増 加 して い る.そ れ に反 比 例 した 睡 眠 時 間 の 減 少 は,子
ど もた ちの 大 きな ス トレス とな り,常 に 緊 張 状 態 が 続 き,脳 の オ ー バ ー
ヒ ー ト状 態 に な る.そ
して,幼 児 に副 交 感 神 経 の著 しい 機 能 不 全 が 起 こ って い
く.つ ま り,生 体 リズ ム を支 え る脳 機 能 に マ イ ナ ス の 変 化 が 生 じ,時 差 ぼ け と 同 じ よ う な症 状 が 現 れ る.こ の状 態 が さ ら に慢 性 化 し,重 症 化 す れ ば,睡 眠 は 浅 く長 い もの と な り,ホ ル モ ンの 分 泌 異 常 に よ っ て活 動 能 力 は極 端 に 下 が って い く.さ
らに,将 来,小 学 校 か ら中 学,高 校 へ と進 学 す る プ ロ セ ス の 中 で,勉
強 に全 く集 中 で きず,日 常 生 活 も困 難 とな り,家 に 閉 じ こ も っ て い く よ うな 事 態 も予 想 さ れ る. 最 も大 き な 問 題 は,生 体 リズ ム の 混 乱 に伴 う,子
ど もた ちの 生 命 力 そ の もの
の 低 下 で あ る.生 体 リズ ム の乱 れ が 背 景 とな り,自 律 神 経 機 能 の 低 下 や 障 害, エ ネ ル ギ ー 代 謝 異 常 な どが 複 雑 に絡 み,子 っ て い る とい え る.こ
ど もた ち を活 気 の な い 状 況 に 追 い や
の21世 紀 は,人 生 の 基 礎 を作 る乳 幼 児 の 生 活 点 検 を し
て,大 切 な こ とや 改 善 す べ きこ とを再 考 して ほ しい.
6.2 児
児 童 期 と は,満6歳
童
期
か ら12歳 ま で を い う.児 童 期 は,乳 幼 児 期 の親 や 保 育
者 に庇 護 さ れ る他 律 的 な健 康 生 活 か ら,自 律 的 な健 康 生 活 の 完 成 が 望 まれ る時 期 で あ る.ま
た,心
とか らだ の 成 長 著 しい 時 期 で もあ るの で,そ
性 を考 慮 す る こ とが 重 要 で あ る.加
え て,子
の発育発達特
ど もの毎 日の 生 活 は,社 会 の 中 で
営 ま れ て お り,変 化 が 加 速 化 して い る と言 わ れ て い る 現 代 社 会 の現 状 と切 り離 して 考 え る こ とは で き な い.そ
こで,ま ず,子
ど もの 置 か れ て い る現 在 の社 会
を考 察 し,通 学 して い る小 学 校 に お け る保 健,生 活 リズ ム とい った 面 か ら児 童 期 の 健 康 管 理 を考 え て み た い.
6.2.1 統 計 か らみ る社 会 と子 ど も 2003(平
成15)年
ク時 の1958(昭 口(15歳
の 全 国 の 小 学 生 は722万
和33)年
の1350万
人 に比 べ,半
未 満 の 子 ど もの 数)1790万
は,14.0%で,老
年 人 口(65歳
人(全
人 口 の5.6%)6)で,ピ
数 近 く とな っ て い る.年 少 人
人 が 総 人 口1億2760万
以 上)の19.0%を
率 が 年 少 人 口 比 率 を 上 回 っ た の は,2000(平
人 に占 める割 合
下 回 っ て い る.老 年 人 口 比
成12)年
で,こ
の傾 向 は そ の 後
も続 い て お り,そ れ に伴 い増 加 の 一 路 を た ど っ て い た 総 人 口 も,2006(平 18)年
ー
成
を ピー ク に減 少 して い く こ とが 予 想 さ れ て い る.
2004年 の 合 計 特 殊 出 生 率7)は1.29で,最 3.14,最
も高 い 市 町 村 は 沖 縄 多 良 間 村 の
も低 い の は 東 京 渋 谷 区 の0.75で
あ る.近 年 は,母 親 の 初 産 年 齢 の 上
昇 と早 産,低 体 重 児 の 増 大 傾 向 が 認 め られ るが,一 組 の 夫 婦 が 生 む 子 ど もの 数 は,こ
こ30年
間2.2人
生 の 親 世 代 で あ る1960年
と,さ ほ ど大 きな 変 化 は な い.出 生 力 は,現 在 の小 学 代 生 まれ が,30代
に達 し た1990年
頃 か ら大 き く低
下 して きた. ま た,全 世 帯 数 の う ち,18歳 (昭和50)年
の53.0%に
35)年 の 平 均4.14人
未 満 の 児 童 が い る世 帯 の 占 め る 割 合 は,1975
比 べ,28.3%と
か ら2000(平
減 少,加
成12)年
現 代 は,結 婚 適 齢 期 に 家 庭 を もち,2人
え て 世 帯 人 数 も1960(昭
は2.67人
和
と減 少 して い る.
以 上 の子 ど も を生 み 育 て る と い うラ
イ フス タ イ ル が 一 般 的 だ っ た 時 代 か ら確 実 に変 容 して い る こ とが うか が え る. この よ う な時 代 に は,子 育 て 中 の両 親 に 限 らず,独 婦,高
身 者,子
ど も を も た な い夫
齢 者 な どの 視 線 も子 ど もに 向 け られ,地 域 社 会 の 中 で 社 会 の 宝 で あ る子
ど も を育 ん で い くと い う雰 囲 気 が 必 要 で あ ろ う. 少 子 ・高 齢 化 傾 向 が 顕 著 に な っ て き た 背 景 に は,高 学 歴 化,未 化,晩
産 化,価
値 観 の多 様 化,経 済 的不 安 定 の 増 大,社
育 て 負 担 感 の 増 大 な どが 考 え られ る.子
婚 化,晩
婚
会 環 境 整 備 の 遅 れ,子
ど も は,将 来 の社 会 を支 え る大 切 な存
在 で あ り,さ らに 次 世 代 を 育 む 親 とな る こ と を考 え る と,子
ど もの 健 や か な 成
長 は 個 人 レベ ル に 限 られ た こ とで は な い.一 生 涯 に わ た り健 康 を維 持 す る た め
に は,児 童 期 に 何 を す べ きか と い っ た視 点 が 必 要 に な っ て くる.
6.2.2 子 ども の 健 康 課 題 と学 校 保 健 子 ど もの 健 康 は,生 命 の生 存,健 康 の保 護,さ る こ とが 必 要 で あ る.ま ず,死 週 以 後 生 後1週
未 満),新
ら に発 達 の 保 障 の 面 か ら考 え
亡 率 の推 移6)か ら み る と,周 産 期(妊
生 児(生 後4週
未 満),乳
児(生 後1年
娠 満22
未 満)の
死亡
率 は いず れ も低 下 して お り,出 生 率 の 低 下 と相 ま って 少 産 少 死 の 傾 向 が あ る. 5∼14歳
の死 亡 率 も減 少 傾 向 に あ り,2003(平
2項 目は,不 慮 の事 故,悪 性 新 生 物 で,合
成15)年
に お け る 死 因 の上 位
わせ て全 体 の 約 半 数 を 占め て い る.
不 慮 の 事 故 の 内 訳 で は,交 通 事 故 が52%,溺
死 お よ び溺 水 が24%で
あ る.
学 校 にお け る負 傷 発 生 は,幼 稚 園 ・保 育 園 の 保 育 時 間 中,中 学 校 以 上 の課 外 活 動 中 に対 して,小 学 校 で は 休 憩 時 間 中 が 半 数 以 上 を 占 め て い る の が特 徴 で あ る.こ れ は授 業 中 の 緊張 か らの 解 放 感 や 自分 の 体 の 動 き を 自分 で コ ン トロ ー ル す る調 整 力 不 足 な どが 考 え られ る.学 校 生 活 や 通 学 中 の安 全 が 確 保 され る よ う な環 境 ・条 件 整 備,安 能 力 の 育 成,そ
全 管 理 は も ち ろ ん,自
らが 自 己 の 体 を守 る こ とが で き る
して,行 動 の 変 容 に必 要 な態 度 や 能 力 を育 て る 安 全 教 育 が 必 要
で あ る.近 年,学 校 で は,外 部 か らの 侵 入 者 に よる 事 件 も続発 して い る .事 件 や 事 故 を 完 全 に 防止 す る こ とは 難 しい が,学 校 安 全 にお い て は,発 生 の危 険 を 低 減 す る た め の 「リス ク マ ネ ー ジ メ ン ト」,発 生 後 は適 切 で,迅 害 を最 小 限 に抑 え る 「ク ラ イ シ ス マ ネ ー ジ メ ン ト」 の 発 想,そ
速 な対処 で被 して,速
やかに
通 常 の 生 活 が再 開 で きる シス テ ム が必 要 で あ る. また,健 康 面 につ い て は,学 校 に お け る保 健 管 理 の 一 環 と して 健 康 診 断 や, 健康 相 談 が 行 わ れ て い る.学 校 保 健 統 計8)(結 果 は4%に の疾 病,異 未 満,ア
常 被 患 率 に よ る と,小 学 校 で は う歯(齲
レ ル ギ ー(鼻
は,肥 満 とや せ 傾 向,喘
・副 鼻 腔 疾 患)等
為,い
じめ,子
酒 ・薬 物 乱 用,凶
息,ア
歯:虫
あ た る無 作 為 抽 出) 歯) ,裸 眼 視 力1.0
が 問 題 と して あ げ られ る.こ の ほ か に
トピ ー性 皮 膚 炎,学
ど も虐 待 な どが 増 えて い る.さ
校 長 期 欠 席 児 童,暴
力行
らに 中 高 生 に な る と,喫 煙 ・飲
悪 犯 罪,性 感 染症 な どの 問題 も加 わ っ て くる.こ
れ らは,い
ず れ も低 年 齢 化 の 傾 向 にあ り,小 学 校 段 階 で の正 しい 知 識 の 習得 や 保 健 教 育 が 今 後 ま す ま す 必 要 と な っ て くる.12歳
の1人
当 た りの 虫 歯 数(永
久 歯)は,
減 少 傾 向 に あ るが,平 7)年
均 で2.1本
あ り,裸 眼 視 力1.0未
頃 か ら増 え 始 め,2003(平
47.8%,高
校 で は60.0%と
肥 満 傾 向 児(性 児(同,80%以
成15)年
に は 小 学 校 で25.6%,中
9.0%,2.8%,12歳
出 現 率 は,そ れ ぞ れ6歳
学校 で
で10.8%,4.2%と
上 の者),痩
な っ て い る.自
の 割 合 は 減 っ て い き,高 校 生 女 子 で は7.6%と い 」 「少 し だ け やせ た い 」 が89.9%を
身傾 向
で4.6%,0.8%,9歳
は,半 数 以 上 が 「今 の ま まが よい 」 と答 えて い るが,年
で
分 の体 型 に関 して
齢 が 上 が る に つ れ,そ
な る.そ
して,「 か な りや せ た
占 め,低 体 重 で あ る に もか か わ らず 「減
ら そ う と して い る」 が 女 子 で41%,普
や せ 症(神
成
な っ て い る.
別,年 齢 別 の 身 長 別 平 均 体 重,120%以 下 の者)の
に達 す る.こ
満 児 は,1995(平
通 の 体 重 で も70%(男
子 で は22%)
う した意 識 の 変 化 に伴 っ て ダ イ エ ッ ト経 験 も増 え て お り,思 春 期
経 性 食 欲 不 振 症)や
摂 食 障 害 につ な が る こ とが 懸 念 され て い る.
学 校 長 期 欠 席 児 童 は,前 年 度 よ り6千 人 減 少 して6万2千 1600件 と 増 加 し,い
じめ は6051件
人,暴 力 の発 生 は
で 発 生 し た小 学 校 は 全 体 の11.9%と
なっ
て い る.こ れ らの背 景 に は,低 年 齢 か らの忍 耐 力 の 乏 しさ や公 共 心 の 低 下 が 指 摘 さ れ て お り,生 命 の 大 切 さ や他 人 を思 い や る 心,善 悪 の判 断 な ど の規 範 意 識 と と もに 自 己効 力 感 を育 て る こ とが 必 要 で あ る.現 在,教 科 指 導 と して は,体 育 科 の 保 健 領 域 と して,第3学 せ,個
年 以 上 で 健 康 ・安 全 に つ い て の 理 解 を 深 め さ
人 お よ び 集 団 の 健 康 を高 め る 能 力 と態 度 を 育 て る こ と を 目標 に,24単
位 時 間程 度 授 業 が 行 わ れ て い る.第3,4学
年 で は8単 位,内
生 活 と健 康,②
育 ち ゆ く体 とわ た し,第5,6学
け が の 防 止,②
心 の 健 康,③
3年 以 上)が
年 で は,16単
位,内
容 は①
病 気 の 予 防 で,担 任 お よ び 養 護 教 諭(経
験 年数
担 当 す る こ と に な っ て い る.保 健 学 習 は,他
会 ・理 科 ・家 庭 ・道 徳)や
容 は① 毎 日の
の教 科(生
総 合 的 な学 習 な ど と の連 携 も重 要 で あ る.さ
活 ・社 らに,
保 健 指 導 は,児 童 が 直 面 す る 様 々 な心 身 の 健 康 に 関 す る 問 題 に適 切 に 対 処 し, 健 康 な生 活 が 実践 で きる 能力 や 態 度 を 養 う こ とを 目標 に,学 級 ・児 童 会 ・ク ラ ブ 活 動 や 学 校 行事 な どの特 別 活 動 や 保 健 室 で 行 わ れ て い る.保 健 学 習(理 論) と保 健 指 導(実
践)は,お
た,学 校 給 食 で は,2005(平
互 い に 関 連 して お り,密 接 な 連 携 が 望 ま れ る.ま 成17)年
よ り,栄 養 教 諭 制 度 が 開始 さ れ,よ
り
一 層 の 食 育 の 推 進 が 図 られ て い る .偏 った 栄 養 摂 取 や 朝 食 欠 食 な ど,食 生 活 の
乱 れ を学 校 給 食 を 中 心 と した指 導 か ら改 善 し よ う とす る もの で,望
ま しい 食 習
慣 の 形 成 と 自己管 理 能 力 の確 立 が 目的 で あ る. 児 童 期 の 大 きな課 題 で あ る 「 生 き る力 を育 む」 に は,健 や か な体 づ く り と同 時 に,豊 か な人 間性,確
か な学 力 を育 て る こ とが 必 要 で あ る.そ れ は,人 間 の
心 とか らだ は密 接 な 相 関 関係 を もっ て お り,児 童 期 には と りわ け心 身 の 調 和 の とれ た 発 達 が 望 ま しい か らで あ る.そ の 基 礎 とな る の は,体 力 の 向 上 で あ る. 2002(平
成14)年,中
央 教 育 審 議 会 に お い て も,「 体 力 は,人 が 知 性 を磨 き,
知 力 を働 か せ て 活 動 して い く源 で あ る.生 活 をす る 上 で の 気 力 の 源 で も あ り, 体 力 ・知 力 ・気 力 が 一 体 とな っ て,人
と して の 活 動 が 行 わ れ て い く.体 力 は,
『生 き る力 』 の 極 め て重 要 な要 素 とな る もの で あ る」9)との 教 示 が あ っ た .前 述 した よ う に,体 力 は,大
き く行 動 体 力 と防 衛 体 力 とに 分 け られ,そ れ ぞ れ に 身
体 的 要 素 と精 神 的 要 素 が あ る.児 童 の 体 格 は,戦 後 一 貫 して 大 型 化,早
熟化傾
向が あ る とい わ れ て きた が 、 こ こ10年 間,身 体 計 測 値 は 横 ば い で,こ の 傾 向 に も歯 止 め が か か りつ つ あ る.ま た 、 新 体 力 テ ス ト(握 力,上 体 起 こ し,長 座 体 前 屈,反
復 横 跳 び),お
m走,立
ち 幅 跳 び)の 結 果 で は,全 般 的 に10年 前 を下 回 っ て い る.筋 力 ・心
肺 機 能 が15∼16歳
よ び運 動 能 力 テ ス ト(持 久 走,20mシ
ャ トル ラ ン,50
で 充 実 す る の に 比 べ,児 童 期 に は 敏 捷 性 や ス ピー ド調 整 力
の伸 び が め ざ ま しい た め,様 く こ とが 必 要 で あ る.ま
々 な 動 き を体 験 し,運 動 の 神 経 回路 を増 や して い
た,気 分 の 調 節 不 全 に よ る 自覚 症 状 と して,「 集 中 し
た り,す ば や く考 え た りで きな い こ とが あ る」「落 ち 着 か な くて じっ と して い ら れ な い こ とが あ る」と い っ た訴 えが み られ る.自 分 の体 に気 づ き,そ の 様 子 を 上 手 に 表 現 で き る能 力,体
の調 子 を整 え,健 康 に 良 くな い こ とを 自 ら絶 つ こ と
の で きる 能 力,自 分 自身 を大 切 に す る態 度,ス
トレス へ の 対 処 法 な ど を 身 に つ
け る必 要 が あ る. 児 童 期 の 健 康 教 育 は,ヘ
ル ス プ ロモ ー シ ョ ンの 理 念,す
の 健 康 を コ ン ト ロ ー ル し,改 (WHOオ
タ ワ憲 章1986)の
乳 幼 児 期 同 様,か
な わ ち 「人 々が 自 ら
善 す る こ とが で き る よ う にす る プ ロ セ ス」
考 え に立 つ こ とが 望 ま れ る.
らだ と心 を よ く動 か し,し っ か り食 べ て ぐっす り眠 る生 活
は,健 康 生 活 の 基 本 で あ る.朝 食 を毎 日食 べ る の は84%だ 弧 食 はそ の う ち の14%で,ほ
とん ど食 べ な い子 ど も も5%お
が,1人
で食べ る
り,朝 食 欠 食 は
高 校 卒 業 ま で に32.7%が ど も は,女 子 で60%お
習 慣 化 され る10)と い わ れ て い る.朝,排
便 し な い子
り,だ る さ,疲 れ や す さ,立 ち く らみ,め
ま い を感 じ
る 子 ど も も増 え て い る.放 課 後 は学 習 塾 や け い こ ご とに 通 う子 ど もが90%を 越 え て お り,11歳 %,睡
で は,午 後10時
以 降 の 就 寝 が80%以
眠 不 足 を感 じ る子 ど もは15%い
る.こ
上,夜
食 の 摂 食 は40
う した 生 活 様 式 の 変 化 は 生 活 リ
ズ ム の 乱 れ を招 い て お り,子 ど もの活 動 意 欲 を停 滞 させ て い る面 もあ る.生 活 リズ ム 確 立 の た め に は,家 庭 で の 生 活 習慣 の 見 直 し を支 援 す る と と も に,運 動 体 験 や 自然 体 験 を提 供 で き る遊 び場 の 確 保,子
ど もの 居 場 所 づ く りな ど地 域 社
会 と も連 携 を図 っ て い く こ とが 課 題 で あ る.
6.3 大 学 生 の 健 康
日本 を含 め て 先 進 国 の健 康 問 題 の 第 一 は,生 活 習 慣 病 の 予 防 と治 療 で あ る. 豊 か で快 適 な生 活 を享 受 し続 け る こ と は,と 健 康 で あ る た め に は,栄 養,運
き に健 康 を害 す る こ とに もな る.
動,休 養 な どの 適 切 な 生 活 習 慣 が 確 立 され て い
る こ と を点 検 しな け れ ば な らな い.そ
して,栄 養 と運 動 の ア ンバ ラ ンス や 日常
の ラ イ フス タイ ル の 影 響 を 強 く受 け て 発 症 す る生 活 習 慣 病 は,中 高 年 ば か りで な く,若 年 層 に も起 こ り うる. 大 学 生 の 生 活 時 間 は,ど の よ うで あ ろ う か.NHKの る と,成 人 の 生 活 時 間 は10年 夜 型 化 が 進 み,睡
前 に比 べ て,起
床,就
生 活 時 間 調 査11)に よ 寝 時 刻 の 遅 れ か ら生 活 の
眠 時 間が 短 くな っ て い る と報 告 して い る.ま た,渡 辺 らの 大
学 生 の 健 康 生 活 の 実 態 調 査12)に よ る と,健 康 生 活 の6領
域 の う ち 「運 動 とス
ポ ー ツ」 「学 業 と休 息 」 の 項 目で 望 ま し くな い 回 答 が 全 体 の 約 半 数 を 占め て お り,な か で も,日 常 の 学 生 生 活 に お い て,元 気 が で な い(59.0%),居 で る(64.2%),目
の疲 れ や 肩 こ りを 感 じる(65.9%),朝
り し な い(73.6%),疲 (89.4%)が
の 目覚 め が す っ き
動 不 足 で あ る と 感 じて い る
最 も多 か っ た.「 食 事 と栄 養 」 「体 の 管 理 」 「心 の 健 康 」 「社 会 性 」
に つ い て は,望 る(50.7%),自
れ や す い(70.5%),運
眠 りが
ま し く ない 回答 の項 目は そ れ ほ ど多 くな い が,間 食 を摂 りす ぎ 分 の 判 断 に 自信 が も て な い(69.1%),家
食 時 に テ レ ビ を 見 る(73.6%),他
庭生 活 のなかで 夕
人 と違 う意 見 が あ っ て も気 後 れ して 発 表 で
き な い(50.1%)が
高 率 で あ っ た.つ
ま り,交 友 関 係 や 精 神 的 な 健 康 とい っ
た もの は 多 少 満 足 す べ き状 態 で あ る が,身 体 の 不 定 愁 訴 や 不 調 さ を感 じて お り,運 動 や ス ポ ー ツ を 生 活 に取 り入 れ る努 力 が 必 要 で あ る こ とや 食 生 活 の 乱 れ も 身体 の 不 調 の一 因 とな っ て い る こ と を指 摘 して い る. 高 い水 準 で 健 康 を 維 持 す る た め に は,生
き て い る こ との喜 び や 汗 をか い た後
の 爽 快 感,爽 や か な 目覚 め,食 事 や 睡 眠 の 喜 び,そ
して,精 神 的 活 動 や 人 間 関
係 を通 じて 得 る精 神 的 な 高 揚 や 充 実 感 な ど に対 す る感 覚 を育 て,健 康 的 な生 活 習 慣 を実 践 で き る よ うな 健 康 教 育 が 大 学 生 に は 必 要 で あ る.青 年 期 は 自 ら の存 在 に意 義 を見 い だ し,そ の 価 値 を認 め,健 康 の獲 得 と成 立 に 向 け て 自立 的 に行 動 す る 時期 で あ る.し た が って,青 年 期,と
くに 大 学 生 に対 す る健 康 教 育 は,
健 康 を求 め て 自 ら努 力 す る よ う に教 育 す る こ と が 大 事 で あ る.こ の 時期 にセ ル フ ケ ア 能 力 を 高 め て,自
ら健 康 管 理 を 自 分 で 行 う態 度 を確 立 す る 必 要 が あ
る13). ま た,大 学 生 は本 来,生 涯 の う ちで 一 番 体 力 が 充 実 して い な け れ ば な ら な い 時 期 で あ る.し か し,大 学 新 入 生 の 体 力 低 下 が 指 摘 され て 久 し く,受 験 準 備 の 厳 し さが 運 動 不 足 を ま ね い て い る こ と14)が 明 らか に さ れ て い る. 文 部 科 学 省 の 新 体 力 テ ス ト(握 力,上 体 起 こ し,長 座 体 前 屈,反 復 横 と び) で は,男 女 と も,17歳(高 で は,17歳
よ り低 い値 とな っ て い る.ま
シ ャ トル ラ ン,50m走,立 歳,女
校 生)が 最 高 の 値 を示 し,18歳
子 は13∼14歳
た,運
ち 幅 と び,ハ
∼19歳(大
学 生)
動 能 力 テ ス ト(持 久 走,20m
ン ド ボ ー ル投 げ)で は,男 子 が17
に最 高値 を示 し,そ の 後,加 齢 に伴 い 低 下 して い る.こ
の 事 実 は,大 学 受 験 が 体 力 ・運 動 能 力 に影 響 して い る こ と を 表 して い る.ま た,運
動 ・ス ポ ー ツ の実 施 頻 度 が 高 い ほ ど体 力 水 準 が 高 い とい う 関係 が9歳 頃
か ら 明 確 に な り,そ の 傾 向 は79歳 て,運
に 至 る ま で 認 め られ て い る15).し た が っ
動 ・ス ポ ー ツ の実 施 は,体 力 を高 い水 準 に保 つ た め の 重 要 な要 因 の 一 つ
に な っ て い る. こ の 年 代 は,大
学 に進 学 す る人 以 外 は学 校 生 活 か ら離 れ る た め,運
動 やス
ポ ー ツ の 機 会 が 少 な くな り,運 動 不 足 に な りや す い.積 極 的 に運 動 ・ス ポ ー ツ を実 践 す る機 会 を み つ け,健 康 の 維 持 と体 力 の 向上 を 図 る と と もに,ス ポ ー ツ を楽 しむ 習 慣 を 身 につ け た い もの で あ る.さ
ら に,一 人 暮 ら しを始 め る 人 も多
く,生 活 の す べ て を 自分 で 管 理 しな け れ ば な らな くな る. こ こ で は,医 療 ネ ッ トワー クが 発 表 して い る大 学 生 活 を快 適 に送 るた め に必 要 な 項 目 と し て,ブ 時 間,②
ほ とん ど毎 日朝 食 を とる,③
18.5∼23.0)を い,⑦
レス ロ ー ら の7つ
維 持 す る,⑤
飲 酒 頻 度 は 週1回
の健 康 習 慣(① 間 食 が 週2回
睡 眠 時 間 が1日7∼8 以 下,④
日 頃運 動 や ス ポ ー ツ を行 う,⑥
適 正 体 重(BMⅠ 喫煙 の経験が な
以 下 にす る)を 参 考 に,大 学 生 の た め の 健 康 管 理 に
つ い て ま とめ た16,17). 1)健
康 診 断 は きち ん と受 け る
大 学 が行 う年 に1度 の 健 康 診 断 は,き て 不 安 な こ とが あ れ ば,そ の 際,医 2)保
ちん と受 診 す る.普 段 か ら健 康 に 関 し
師 や 看 護 師 に相 談 して み る と よい.
健 管 理 セ ン ター を活 用 す る
保 健 管 理 セ ン タ ー に は,医
師 や 看 護 師 が い る.簡
単 な 診 断 ・治 療 が で き る
し,健 康 に 関 す る相 談 も受 け付 け て くれ る.か か りつ け 医 を もつ の も よ い こ と で あ る. 3)生
活 リズ ム を整 え,睡 眠 を きち ん と と る
大 学 生 は,ク
ラ ブ活 動,定
期 試 験,レ
を し て生 活 リズ ムが 崩 れ や す い.こ
ポ ー ト作 成,ア
ル バ イ ト等 で 夜 更 か し
の 時 期,自 分 の体 力 や 体 質 に適 した 生 活 様
式 を確 立 し,自 分 の生 活 リズ ム を整 え て い くこ とが 大 事 で あ る.居 眠 りが で た り,朝 の 目覚 め が 悪 い とい う学 生 が6∼7割
い た.夜,早
時 間 を十 分 に と り,朝 日 をた っぷ り と浴 び る と,1日 4)栄
め に就 寝 して,睡
眠
快 適 で あ ろ う.
養 をきちん ととる
生 活 リズ ム の 乱 れ か ら,食 事 時 間 が不 規 則 に な っ た り,1人
暮 ら し に よ り,
外 食 や イ ンス タ ン ト食 品 の 利 用 の機 会 が 多 くな り,食 事 の 内 容 に偏 りが 生 じや す い.栄 養 バ ラ ンス を 考 え た 食 事 を1日3回
しっ か り と る こ とは,健 康 保 持 の
た めの 基 本 で あ る. 5)酒
量 は 自分 で調 整 す る
毎 年,何
人 もの 大 学 生 が 急 性 ア ル コー ル 中 毒 で亡 くな っ て い る.濃 い お 酒 を
短 時 間 で 多 量 に 飲 む こ と は 避 け る こ と.「 一 気 飲 み 」 は 厳 禁 で,友
だ ち に無 理
強 い す る こ と も,「 過 失 致 死 」 に問 わ れ る こ とが あ る の で 注 意 し て ほ しい. 6)タ
バ コは 吸 わ な い
タバ コ は依 存 性 が あ り,肺 が ん や 肺 気 腫 な どの 呼 吸 器系 疾 患 の 可 能性 を 高 め る だ け で な く,他 に も様 々 な 健 康 に影 響 を 及 ぼ す.ま
た,自 分 だ け で な く,ま
わ りの 人 の 健 康 を損 な っ て い る こ と も知 っ て お くべ きで あ る. 7)運
動 を 定期 的 に行 う
人 生 の う ち で,心
身 と もに 最 も活 動 的 な は ず の18歳
か らの 数 年 間,全
く運
動 や ス ポ ー ツ と無 縁 の 生 活 を送 る 大 学 生 もい る.受 験 に よ る 運 動 習 慣 の 低 下 や 過 激 な 中学 ・高 校 の 運 動 部 活 動 に よ る燃 え尽 き現 象(バ
ー ンア ウ ト)な どが 原
因 で あ る.各 個 人 の 生 活 に合 っ た 無 理 の な い方 法 で,定 期 的 に運 動 をす る こ と を勧 め る. 8)体
重管理 をす る
思 春 期 か ら青 年 期 にか け て,女 子 は 「肥 満 」 とい う 言 葉 に極 度 の 関心 を も っ て い る.「 自分 は 太 っ て い る,も
っ とや せ た い 」 と思 い,ダ
イ エ ッ トに興 味 を
示 す 例 は 珍 し くな い.や せ 願 望 の あ ま り,間 違 った 食 生 活 や 薬 剤 に よ る ダ イエ ッ トの 結 果,貧
血 や 月経 困 難 な ど の 身 体症 状 や 神 経 性 食 欲 不 振 症 な どの 精 神 的
異 常 を伴 う こ と もあ る.自 9)悩
満 か 否 か,正 確 に 把 握 す る 必 要 が あ る.
み ご と を相 談 で き る友 達 を つ く る
青 年 期 は,い しか し,20歳 ず,友
らが,肥
くつ もの 悩 み を もち な が ら,そ れ を乗 り越 え て 成 長 して い く. 前 後 の死 因 の 上 位 は,事
達 や 家 族,指
10)病
み ご とは心 に貯 め
導 教 員 に 相 談 し て,精 神 的 負 担 を 軽 く した り,趣 味 を も
ち,気 分 転 換 を 図 る こ と.生 ぶ こ と も よい.医
故 と 自殺 で あ る.悩
き方 や 将 来 へ の不 安 に対 して 書 物 や 他 の 人 か ら学
師 や カ ウ ンセ ラー 等 の 専 門 家 に相 談 す る 方 法 もあ る.
気 や けが を し た と きの 対 応 を準 備 して お く
も し も健 康 を損 ね た ら,自 己 流 の 診 断 で 手 遅 れ に な らな い よ うに,早 め に保 健 管 理 セ ン タ ー や 病 院 を受 診 す る こ と.簡 単 な けが の 手 当 て や 心 肺 蘇 生 術 を 身 につ け て お く と よい.と
く に運 動 部 に所 属 す る場 合 に は,応 急 処 置 法 は必 須 の
知 識 で あ る.
6.4 成
20∼64歳
まで の成 人 期 は,身 体,精
人
期
神 と も に 充 実 し,社 会 や 家 庭 に お け る
生 活 ス タ イル の 基 盤 が 築 か れ る 時期 で あ る.こ の 期 間 は,年 齢 や ラ イ フ ス タイ ル が 幅 広 く,長 期 に わ た り生 活 に 変 化 を も た らす の で ,青 年 期(20∼29 歳),壮
年 期(30∼49歳),熟
年 期(50∼64歳)に
分 け て,性 差 に よ っ て個
人 を考 慮 した 健 康 管 理 が 必 要 と な る. 近 年 の 総 死 亡 に 占め る4大 生 活 習 慣 病(が 病)死
亡 率 の 割合 は,横
ん,虚 血 性 心 疾 患,脳 卒 中,糖 尿
ば い状 態 で あ る が,が
ん と糖 尿 病 の 占め る割 合 は 漸 増
して お り,が ん や糖 尿 病 の受 療 率 も1.1∼1.3倍
と高 い.こ れ ら の疾 患 を含 む
生 活 習 慣 病 は,公 衆 衛 生 審 議 会 の 意 見 具 申(1996(平 「生 活 習慣 病 とは ,食 習 慣,運
動 習 慣,休
養,喫
成8)年12月18日)に
煙,飲
酒 な どの 生 活 習 慣 が,
そ の 発 症 ・進 展 に 関 与 す る疾 患 群 」18)と定 義 され て い る.ま た,病
因 は,生 活
習 慣 と リス クが 相 乗 的 に 関 連 し,複 合 化 した状 態 で あ る.し た が っ て,こ
の時
期 に お け る健 康 管 理 上 の 最 大 の 目標 で あ る生 活 習 慣 病 の 予 防 と健 康 寿 命 の延 伸 を 図 る た め に は,宿
主 要 因(遺
伝,性
酒,運
ト レス,価
値 観 な ど),自 然 環 境 要 因(気 象 状 況,騒
動,休
環 境 汚 染,化
養,ス
別,年
齢,体
格,栄
学 製 品 な ど),社 会 経 済 文 化 要 因(居 住 地,家
活 形 態,食 習 慣,職
業,医
療 環 境,教
養 状 態,喫
煙,飲 音,
族 構 成,住 居,生
育 な ど)を 調 査 して健 康 阻害 要 因 を見 い
だ し,具 体 的 な健 康 教 育 を実 施 しな け れ ば な らな い. ま た,成 人 期 と もな る と,不 健 康 な 生 活 習 慣(喫
煙,過 食,不
規 則 な生 活 な
ど)で あ っ て も,本 人 に と っ て は快 適 な生 活 リズ ム と し て確 立 して い る こ と も 多 く,望 ま しい 生 活 習 慣 へ 行 動 を変 容 させ る こ とは 容 易 で は な い.そ の た め, 行 動 科 学 に基 づ い た 行 動 療 法 を用 い て,本 人 へ 自覚 を促 し,自 己決 定 心(や 気)を
る
起 こ し,望 ま しい 行 動 へ と変 容 させ 維 持 す る こ とが,生 活 習 慣 病 の 一 次
予 防 と生 活 の 質(QOL)の
向 上 につ な が る.
6.4.1 青 年 期(20∼29歳) 青 年 期 は 人 の 一 生 の 中 で 急 激 な成 長 が み られ る 最 も活 動 的 な 時期 で あ り,す べ て の 器 官 が ほ ぼ 成 人 と同 等 の レベ ル に達 し,健 康 度 と体 力 ・筋 力 ・持 久 力 と も生 涯 で 最 も高 く,体 格 は 強 固 とな り骨 量 も最 大 と な る.運 動 習 慣 者 の 割 合 が 低 く(図6.1),や
が て 迎 え る壮 年 期 ・高 齢 期 の 健 康 を 維 持 す る た め に も,健
康 づ く りと運 動 へ の 関 心 を 高 め る大 事 な 時 期 で あ る.ま た,性 へ の 目覚 め か ら
図6.1 運 動 習慣 者 の割 合(性 ・年 齢 階級 別) (厚生 省:2002年 度 国民 栄 養 調 査 よ り改 変)
異 性 へ の 関 心 も高 ま り,自 己 の ボ デ ィ イ メ ー ジに こだ わ り始 め る.と で は,皮 下 脂 肪 層 が 増 加 す る 時 期 で,自 傾 向 が 強 く,20歳
代 女 性 でBMⅠ
くに 女 子
分 の体 型 を実 際 以 上 に 太 め に評 価 す る
が18.5未
満 の やせの割 合 の増加 が顕 著 であ
る.や せ 願 望 か ら 「食 事 を 減 らす 」 「特 定 の 食 品 だ け を食 べ る 」 な ど,偏 っ た ダ イ エ ッ トを実 施 す る こ とが 多 く,体 重 減 少 に伴 う月 経 不 順,貧 不 良 や,過 食 ・拒 食,神
血 な どの体 調
経 性 食 欲 不 振 症 な どの 栄 養 生 涯 を きた す 危 険 もあ る.
生 活 面 で は,大 学 進 学,社
会 に 適 応 す る者 な ど,様 々 な 人 生 の 転 換 期 で あ
り,家 族 と一 体 の 生 活 か ら 自 己 中 心 の 生 活 時 間 や生 活 リズ ム が 形 成 され,嗜
好
中 心 で簡 便 志 向 な食 生 活 に陥 りや す い. 一 般 的 に 青 年 期 は 自分 の 健 康 状 態 につ い て の 自覚 が 乏 し く,正 しい 食 生 活 や 生 活 習 慣 へ の 関 心 が 低 い傾 向 に あ る.自
己の 意 思 が 明確 に な り,成 人 と して の
自覚 も確 立 し,知 識 の習 得 や 理 解 が 比 較 的 容 易 に な る た め,セ
ル フ ・ケ ア の 面
か ら健 康 感 を育 成 す る こ とが 大 切 で あ る.
6.4.2 壮 年 期(30∼49歳) 壮 年 期 は,社 会 に お け る 中 核 を な す 年 齢 期 で あ り,家 庭 生 活 に お い て は 結 婚,出
産,子 育 て 等,人 生 に お け る大 きな 節 目 と な る活 力 に あ ふ れ た 時 期 で あ
る.生 活 環 境 面 で は,過 労 や 精 神 的 ・肉 体 的 ス トレ ス の増 大,運
動 不 足,睡
不 足 や 不 摂 生 な生 活 リズ ム に 陥 りや す い.食 生 活 面 で は,食 事 の 遅 延,外
眠
食の
増 加,加
工 食 品 と調 理 済 み 食 品 の 利 用,欠
食,不 必 要 な間 食 の摂 取,単
身赴任
に よ る食 事 管 理 の欠 如 な ど,健 康 を 阻害 す る要 因が 多 くな り,食 生 活 習 慣 は 乱 れ や す くな る.40代
を 過 ぎ る 頃 か ら諸 臓 器 の 機 能 は 減 退 し は じめ,基 礎 代 謝
や 各 種 適 応 機 能 の 減 退,代 謝機 能 の低 下 に 加 え,生 活 習 慣 病 を 中心 と した 疾 病 を発 症 す る割 合 が 高 く な る.ま た,こ の 時 期 の 生 活 習 慣 の 適 否 が,高 齢 期 の 健 康 状 態 に も大 きな 影 響 を及 ぼす. 男 性 で は,BMI25以
上 の 肥 満 者 の 割 合 が こ の20年
間 で 約1.5倍
増 加19)し
て い る.肥 満 は,重 篤 な生 活 習 慣 病 に 結 びつ きや す い た め,栄 養 状 態 を適 正 に 保 つ た め に必 要 な栄 養 素 の摂 取 を心 が け る と と も に,QOLの
向上 につなが る
よ うに 毎 日の 食 生 活 の見 直 しに取 り組 む 必 要 が あ る.ま た,減 食 療 法 と運 動 療 法 を組 み 合 わせ る こ と に よ り,エ ネ ル ギ ー消 費 と摂 取 の 均 衡 が 保 た れ,体 脂 肪 量 が 減 少 し筋 肉 量 が 保 持 ・増 加 す る.こ の状 態 が 持 続 す る こ とで,減 少 した体 重 は リバ ウ ン ド しに く くな り,肥 満 の 是 正 に つ なが る.身 体 活 動 を 高 め,基 礎 代 謝 や 筋 力 を 維 持 し,骨 密 度 の 減 少 を抑 制 す る た め に は,日 常 生 活 中 に運 動 を 取 り入 れ,継 一 方,女
続 で きる 環境 づ く りが 大 切 で あ ろ う.
性 で は,青 年 期 か ら壮 年 期 前 半(20∼30代)に
か け て 「や せ 」 の
割 合 が 多 く20),無 理 な 減 食 に よ る必 要 栄 養 素 の 摂 取 不 足 と 身体 へ の 悪 影 響 が 危 惧 され る.「 や せ 」 に は,身 体 的 要 因 の 他 に心 理 的要 因 が あ り,本 人 が 食 行 動 の 異 常 に 気 づ い て い な い 場 合 も あ る た め,摂 6.1)を
食 態 度 調 査 表(EAT
26;表
用 い て摂 食 障 害 の 兆 候 を 早 期 に発 見 し,専 門 医 の 治療 と栄 養 カ ウ ンセ
リ ン グ に よ る 継 続 的 な 支 援 を 行 い,摂 食 行 動 の 正 常 化 を 図 る こ とが 必 要 で あ る.ま た,錠 剤,カ
プ セ ル,顆 粒,ド
リ ン ク状 の ビ タ ミ ンや ミネ ラ ル(い わ ゆ
る栄 養 サ プ リメ ン ト)を 利 用 す る割 合 は,各 年齢 層 と も女 性 は 男 性 に比 べ て 高 率 で あ る. ま た,40歳
代 後 半 か らの 更 年 期 は,ホ
ル モ ン ・バ ラ ンス の 変 化 に よ っ て も
た ら され る体 の 急 激 な変 化 を起 こす 時 期 で あ る.女 性 で は,更 年 期,つ 経 期 に現 れ る 多 彩 な症 状(頭 痛,肩 つ 状 態 な ど の 不 定 愁 訴 との ぼ せ,ほ 状)を
こ り,腰 痛,イ て り,発 汗,動
ま り閉
ラ イ ラ,不 眠,不 安 感,う 悸,め
まい等 の身体 的症
一 括 して 「更 年 期 障 害」 また は 「更 年 期 症 状 」 と い い,こ れ は 卵 巣 由来
の エ ス トロ ゲ ンの 欠 乏 が 関 与 し てい る.エ ス トロ ゲ ン は,骨 量 を 増 加 させ る働
表6.1 EAT26摂
採 点法 は6段
階(「
いつ もそ う」 「非 常 に しば しば 」 「し ば しば 」 「と き どき」 「まれ に」
「ま っ た くな い」)の
回答 の うち,上
「いつ もそ う」 … …3点 採 点 ス コアが20点
食障害の調査票
位3段
階 の み3点
法で採点する
「非 常 に しば しば 」 … …2点
「しば しば」 ……1点
以 上 の場 合 は,「 拒 食症 」 や 「過 食症 」 が 強 く疑 わ れ るた め 専 門 医 に 相
談 す る よ うに指 導 す る. (切池 信 夫:摂
食 障 害,医
学 書 院,2000よ
り改 変)
きが あ り,更 年 期 に卵 巣 エ ス トロ ゲ ンが 欠 乏 す る と骨 量 の 減 少 か ら骨 粗 鬆 症 へ とつ なが る た め,積 極 的 な カ ル シ ウム 摂 取 と運 動 が 最 大 の 防 御 法 で あ る. 具 体 的 対 策 と して 「21世 紀 の 国 民 健 康 づ く り運 動 」(健 康 日本21)に て,日
おい
頃 の 生 活 習 慣 を改 善 す る こ と に よ り疾 病 の 発 症 を 防 ぐ一 次 予 防 の考 え 方
が 推 奨 され て い る.し か し,と
くに 臨 床 成 績 上 異 常 が認 め られ ない 場 合 や 自覚
症 状 に乏 しい 場 合 は,対 象 者 の疾 病 予 防 に対 す る意 識 が低 く,生 活 習 慣 の 改 善
は容 易 で は な い た め,検 診 成 績 や 栄 養 調 査 成 績 な どの 客 観 的 な 指 標 を示 し,対 象 者 個 人 の 状 態 や ニ ー ズ を正 確 に把 握 し た上 で,対 象 者 の生 活 ス タ イ ル を 考慮 しなが ら,セ ル フケ ア行 動 へ 向 か う よ う に生 活 指 導 や 食 事 指 導 を行 う必 要 が あ る.ま た,就 業 上 の 都 合 な どで や む を得 ず 単 身生 活 と な っ た場 合 は,対 象 者 本 人 へ の適 正 な食 生 活 管 理 を働 きか け る と と もに,支 援 者 とな り得 る者 に対 す る 認 識 の 向 上 な ど,環 境 の 整 備 が 重 要 と な る. 食 事 ス タ イ ル で は,所 得 水 準 の 向 上,核
家 族 化,単
身 赴 任,女
出,生 活 の 簡 便 化 な どか ら,外 食 や 調 理 済 み 食 品(中 食)を 常 に 高 く な っ て い る20).外 食 や 調 理 済 み 食 品 は,摂
性 の社 会 進
利 用 す る頻 度 が 非
取 食品 や摂取 栄養 素が偏
る傾 向 が 強 く,継 続 的 に利 用 して い る とエ ネ ル ギ ー や 脂 質 の 過 剰 摂 取,ビ
タミ
ン ・ミネ ラ ル ・食 物 繊 維 の 慢 性 的 な 不 足 な ど,栄 養 の バ ラ ンス が 崩 れ,肥 満 や 生 活 習 慣 病 を引 き起 こす 原 因 とな る.し か し,現 在 の 社 会 状 況 を踏 ま え る と外 食 の 頻 度 を大 幅 に 低 下 させ る こ とは 極 め て 困 難 で あ る た め,適 切 な栄 養 バ ラ ン ス が 得 られ る よ うな メニ ュー の選 択 や 不 足 しや す い 食 品 群 や 栄 養 素 を適 切 に補 う こ と,市 販 の 弁 当 類 ・調 理 済 み 食 品 の 利 用 方 法 を 教 え る こ と も必 要 で あ る (図6.2,6.3). 1990(平
成2)年
に,厚 生 省 か ら 「成 人 病(生 活 習 慣 病)予
図6.2 外 食 利 用率 の 年 次変 化 (厚生 省:国 民 栄 養 調 査 よ り改 変)
防 の た め の食 生
(a)男 性
■ ほ とん ど毎 日1回 以上 ■週2∼5回
■週2∼7回
以上
■ほ とん ど毎 日1回 以上 ■週2∼5回
■ 週2∼7回
以上
(b)女 性
図6.3 外 食 利 用頻 度(市 販 弁 当 を含 む) (厚 生 省:2000年 度 国 民 栄 養 調 査 よ り改 変)
活 指 針 」21)が示 され た.生 活 習 慣 病 は,長 年 に わ た る生 活 習 慣,と
くに 食 生 活
の あ り方 が 大 き く影 響 を及 ぼ して お り,こ の 指 針 に した が っ て 生 活 の あ らゆ る 方 面 か らの 配 慮 が 大 切 で あ る.
6.4.3 熟 年 期(50∼64歳) 熟 年 期 は,身
体 的 に は す で に 老 化 現 象 が 始 ま り,加 齢 と と も に推 定 エ ネ ル
ギ ー 必 要 量 と基 礎 代 謝 は 低 下 す る22).就 労 者 で は,社 会 的 に 責 任 あ る 仕 事 内 容 に つ くこ とが 多 く,生 活 活 動 指 数 の低 下 と不 規 則 な 生 活 時 間 と食 事 の 乱 れ か ら,摂 取 エ ネ ル ギ ー が 消 費 エ ネ ル ギ ー よ り多 くな り,肥 満 に な りや す い.体 型
の 変 化 をBMIを
用 い て10年
前 と比 較 す る と,男 性 ・女 性 と も に過 体 重,肥
の 割 合 が 高 くな っ て い る.肥 満 は,高 血 圧症,心
臓 病,脳
満
血 管 障 害,痛 風,糖
尿 病 な どの生 活 習慣 病 を 引 き起 こ し,健 康 を損 な う危 険 性 を伴 う.こ れ ら疾 病 の 要 因 と して 考 え られ る遺 伝,生
活 様 式,食 事 をそ れ ぞ れ の 側 面 か ら捉 え,熟
年 期 を健 や か な 老 年 期 を迎 え る準 備 段 階 と して 健 康 の 保 持 ・増 進 に努 め る こ と が 大 切 で あ る.ま た,老 化 現 象 に も個 人 差 が あ るの で,対 なが ら常 に 「食 」 や 「健 康 」 に対 す る 関 心 を もた せ,自
象 者 の人 格 を 尊 重 し ら食 生 活 や 生 活 習 慣 を
改 善 して い く意 欲 を もたせ る効 果 を 地域 に お け る健 康 増 進 活 動 の 中 で 考 え る こ とが 大 事 で あ る.
6.5 高
65歳 以 上 を 高 齢 期 と い うが,こ
齢
期
の 時 期 は 加 齢 に 伴 う 身 体 面 に お け る衰 退 期
で あ り,社 会 的 に も職 業 か らの 引 退 や 子 育 て の 終 了 に伴 っ て 生 涯 活 動 か らの 後 退 を余 儀 な くされ る.ま た,加 齢 に よ り,予 備 力,回 復 力(運 疲 労,病
気,け
が の 回 復 力),防
疾 病 に 対 す る抵 抗 力),適
衛 反 応(危
応 能 力(生
動 や仕 事 に よ る
険 に 直 面 した と き の 避 け る 動 作,
活 環 境 に適 応 し て い く能 力)の
理 機 能 の低 下,臓 器 機 能 の低 下 が 一 般 にみ られ るが,こ
減 退や生
れ らの 低 下 は 個 人 差 が
大 き く,老 化 の 程 度 は 同 一 で は な い23).精 神 的 ・知 的 能 力 は,比 較 的 高 齢 に な っ て も保 持 され るが,計
算 力 や記 憶 力,と
くに新 しい情 報 を記 憶 した り,そ
れ を思 い 出 す 能 力 の 低 下 は 著 し い.心 理 面 にお い て は,退 職,病 気,障
害 の発
生,配 偶 者 や 友 人 との 死 別,社 会 に お け る地 位 の変 化 な どか ら,喪 失 感 や 対 人 関 係 に生 じた 摩 擦 な ど,孤 独 感 が 高 ま り,悲 観 的 に な り,物 事 を ネ ガ テ ィ ブ に 捉 えが ち に な る. ま た,身
体 障 害 が あ る 場 合 の 日 常 生 活 活 動 の 障 害 の 程 度 を 示 すADL
(activity of daily living:日 常 活 動 動 作)の ADLの
低 下 した 高 齢 者 は,タ
energy
malnutrition)に
低 下 は,高 齢 期 の 特 徴 と い え る.
ンパ ク 質 エ ネ ル ギ ー 栄 養 障 害(PEM:protein
陥 りや す い24)が,ADLの
た 介 護 と適 切 な介 助 が 行 わ れ る こ とに よ り,QOLの ADLが
状 態 を把 握 し,そ れ に応 じ 向上 につ なが る.最 近,
血 清 ア ル ブ ミ ン濃 度 で 代 表 され る 栄 養 状 態 との 関 連 性 が 高 い24)こ とが
わ か っ て きて お り,食 事 の よ う に 日々繰 り返 され る最 も身 近 な 日常 行 為 か ら高 齢 者 のQOL向
上 を 目的 と し た健 康 管 理 を 考 え る必 要 が あ る.
6.5.1 生 体 の 加 齢 変 化 皮 膚 は,加 齢 に よ り皮 脂 の 分 泌 が低 下 し,角 層 が 乾 燥 し肌 荒 れ の状 態(乾 皮 症)に
な る.ま
た,皮 下 組 織 で は,日 光 の 紫 外 線 に よっ て カ ル シ ウ ム の 吸 収 に
必 要 な ビ タ ミンDが め,ビ
タ ミ ンDを
の 機 能 も低 下 す る た
多 く含 む食 品 の 摂 取 に努 め な け れ ば な らな い.
骨 量(骨 密 度)の 気,使
合 成 され て い る が,加 齢 に 伴 い,こ
減 少,筋
肉量 の 減 少 と筋 力 の 低 下 の 原 因 と して,加 齢,病
わ な い こ とに よ る萎 縮 な どが 考 え られ るが,運
動 に よ り筋 肉 の 萎 縮 を遅
らせ る こ と は可 能 で あ る.高 齢 期 の 骨 量 を決 定 す る の は,20∼30歳
代 の中 頃
ま で の最 大 骨 量 とさ れ て お り,幼 児 期 か ら運 動 を心 が け て,最 大 骨 量 の 増 加 と 骨 格 筋 を強 化 す る こ とで,高 齢 者 の寝 た き りの 原 因 と され る骨 折 を予 防 す る こ とが で きる.ま
た,筋
力 の低 下 は,基 礎 代 謝 量 の 減 少 を もた らす.65歳
い ま で は,体 重 と除 脂 肪 量(骨 格,骨 70歳 以 降 は 逆 に減 少 し,PEMの
格 筋,内 臓 な どの 重 量)は 増 加 す るが,
有 病 率 が 増 加 す る25).
消 化 器 系 で は,各 種 消 化 酵 素(胃 リパ ー ゼ.ア
くら
の ペ プ シ ン,唾 液腺 の ア ミラ ー ゼ,膵 臓 の
ミラ ー ゼ ・ トリプ シ ン)の 生 産 能 が 低 下 す る.腎 機 能 も次 第 に低
下 して く るた め,薬
剤 の 副 作 用 が 起 こ りや す くな る.
口腔 機 能 で は,舌
の 味 蕾 の 数 が 減 り,味 覚 が 鈍 感 に な る.60歳
を境 に,急
激 に 閾値 が 上 昇 し,濃 い 味 つ け を 好 む よ う に な る た め,減 塩 指 導 を行 い,塩 分 の取 り過 ぎ に注 意 す る 必 要 が あ る.歯 の 欠 損 に よる 咀 嚼 力 の低 下 は,消 化 吸 収 に も影 響 を及 ぼす た め,義 歯 を 入 れ て 治 す こ とが 大 切 で あ る.ま た,唾 液 の 分 泌 量 の減 少 と,口 腔,咽 み が う ま くい か ず,嚥
頭,食
道 な ど,嚥 下 筋 の筋 力 低 下 に よ り食 物 の 飲 み 込
下 障 害 が 起 こ りや す くな る.嚥 下 障 害 が あ る と,誤 嚥 が
起 こ りやす く,誤 嚥 性 肺 炎 や 窒 息 とい った 生 命 危 機 に も 関 わ る た め,飲 み 込 み や す い 食 品 や 調 理 方 法,供 と な る(図6.4).
食 時 の 姿 勢 や 食 事 介 助 の仕 方 等 へ の 配 慮25)が 必 要
図6.3 食事 環 境 と動 作 の観 察 (中山 玲 子 ・宮 崎 由 子 編:栄 養教 育論,化 学 同 人,2004)
6.5.2 高齢 期 の 疾 患 高 齢 に な る と,1人
で2つ 以 上 の 慢 性 疾 患,あ
る場 合 も多 い.具 体 的 に は,が ん,高 血 圧,糖
る い は 身 体 的 問 題 を抱 え て い
尿 病,虚
血 性 心 疾 患,歯 周 病,
骨 粗 鬆 症,関 節 炎,認 知 症,白
内 障,脱 水 な どで あ る.ま た,老 年 症 候 群 とい
わ れ る もの に,誤 嚥,転
禁,褥
倒,失
瘡 が あ る.高 齢 者 は,こ
の よ う な疾 患
を あ わ せ もつ 一 方 で,病 気 の症 状 が 乏 し く,症 状 の現 れ 方 が 非 典 型 的 で あ るた め,気
づ くの が 遅 れ,簡 単 に生 理 機 能 の 失 調 を き た しや す い.
こ れ か ら求 め られ る高 齢 者 に 対 す る健 康 管 理 は,従 来 の疾 患 の 症 状 の悪 化 ・ 進 行 を抑 え,延 命 効 果 や 生 存 時 間 の 延 長 を 重 視 した 医 療 中 心 の 考 え 方 か ら, well-being(良 魂)を
好 な 状 態)の5つ
十 分 に考 慮 し,QOLを
の 側 面(身
体 的,心 理 的,社
会 的,情
緒,
尊 重 す る,全 人 的 な 医療 と ケ ア が 中心 と な る.
す な わ ち,疾 病 や け が の 予 防 と早 期 の リハ ビ リテ ー シ ョ ン等 に よ る機 能 回復 な ど,本 人 の満 足 度 を優 先 的 に考 え た支 援 と介 護 を行 う こ とでQOLの
目標 が 達
成 さ れ る. 近 年,要
介 護(痴 呆 ・寝 た き り等)や
要 支 援 の 高 齢 者 が 増 加 傾 向 に あ り,高
齢 者 保 健 福 祉 施 策 の 一 層 の 充 実 を 図 る た め に新 た な プ ラ ン と して,2000(平 12)年4月
か らの5年
計 画 で 「ゴー ル ドプ ラ ン21」26)が 策 定 さ れ た.ま
成 た,
同年 に 介 護 保 険制 度 が 開 始 さ れ た.こ 場 合,尊
れ は,高 齢 者 が 万 一 介 護 が 必 要 に な っ た
厳 を もっ て 自立 した生 活 が 送 れ る よ う支 援 す る た め の 適 切 なサ ー ビス
が 提 供 され る制 度 で あ る(表6.2). 表6.2 介 護 サ ー ビス 施 設 の 種 類
(厚生 労働 省:平
成12年
介 護 サ ー ビス 施 設 ・事 業 所 調査 の概 要,2001よ
【文 1)前
橋
明 ほ か:乳
り改 変)
献】
幼 児 健 康 調 査 結 果(生
活 ・身 体 状 況)報
告,運
動 ・健 康 教 育 研 究12
(1), 69-143, 2002. 2)前
橋
明 ・石 井 浩 子 ・中 永 征 太 郎:幼
労 ス コ ア の 変 動,小
稚 園児 な らび に保 育 園 児 の 園 内生 活 時 に お け る疲
児 保 健 研 究56(4),569-574,1997.
3)前
橋
明:子
ど も の か ら だ の 異 変 と そ の 対 策,体
4)前
橋
明:子
ど も の 生 活 リ ズ ム の 乱 れ と 運 動 不 足 の 実 態,保
橋
明 ・石 垣 恵 美 子:幼
5)前
実 態-,聖
児 期 の 健 康 管 理-保
育 学 研 究49(3),197-208,2004. 健 室87,11-21,2000.
育 園 内 生 活 時 の 幼 児 の 活 動 内 容 と歩 数 の
和 大 学 論 集29,77-85,2001.
6)厚
生 統 計 協 会:国
7)内
閣 府:少
8)文
部 科 学 省:学
校 保 健 統 計 調 査 報 告 書,2004.
部 科 学 省:文
部 科 学 白 書(平
成16年
度),2005.
本 ス ポ ー ツ 振 興 セ ン タ ー:平
成12年
度 児 童 生 徒 の 食 生 活 等 実 態 調 査,2001.
9)文 10)日
11)NHK世 12)渡
民 生 活 の 動 向 ・厚 生 の 指 標 51(9),2004.
子 化 社 会 白 書(平
論 調 査 部:生
成16年
版),2004.
活 時 間 の 国 際 比 較,大
辺 貫 二 ・内 山 須 美 子:女
空 社, 1995.
子 短 大 生 の 健 康 生 活 の 実 態 調 査 に 関 す る 一 考 察,国
際学院埼
玉 短 期 大 学 研 究 紀 要 24,85-91,2003. 13)後
閑 容 子 ・蝦 名 美 智 子 編:基
14)神
戸 体 育 ・ス ポ ー ツ 研 究 会:運
15)文
部 科 学 省:平
16)医
療 改 善 ネ ッ ト ワ ー ク:MIネ
成12年
guide/student.html
礎 看 護 学 健 康 科 学 概 論,廣 動 と健 康 生 活,遊
川 書 店,2001.
戯 社,1995.
度 体 力 ・運 動 能 力 調 査 結 果,2001. ッ ト:大
学 生 の た め の13条, http://www.mi-net.org/
17)Belloc,
N. B. and
tices, Prev,
Breslow,
L.:Relationship
of physical
health
status
and
health
prac
Med.1;409-421,1972.
18)大
野 良 之 ・柳 川 洋 編:生
19)桑
守 豊 美 ・志 塚 ふ じ 子 編:ラ
活 習 慣 病 マ ニ ュ ア ル 改 訂3版,南
20)中
山 玲 子 ・宮 崎 由 子 編:栄
養 教 育 論,化
21)岩
崎 良 文 ・戸 谷 誠 之 編:栄
養 学 各 論 改 訂 版 第3版,南
22)江
指 隆 年 ・中 嶋 洋 子 編:応
用 栄 養 学,同
23)中
原 澄 雄 監 修,岩
山 堂,2002.
イ フ ス テ ー ジ の 栄 養 学 実 習,み
ら い,2002.
学 同 人,2004. 山 堂,2001.
文 書 院,2003.
間 範 子 ・山 口 蒼 生 子 ・山 下 静 江 編:栄
養 指 導 マ ニ ュ ア ル 改 訂3版,南
山 堂,2002. 24)桑
守 豊 美 ・志 塚 ふ じ子 編:ラ
25)中
村 丁 次 ・吉 池 信 男 ・杉 山 み ち 子 編:生 ァ ル,第
26)中
イ フ ス テ ー ジ の 栄 養 学 実 習,み
一 出 版,2003.
山 玲 子 ・宮 崎 由 子 編:栄
養 教 育 論,化
ら い,2002.
活 習 慣病 と高齢 者 ケ アの た め の栄 養 指 導マ ニ ュ
学 同 人,2004.
7.保
健行動と健康管理システム
7.1 保
健
行
動
7.1.1 保 健 行 動 と は 人 は,健 康 を保 持 ・増 進 す る た め に様 々 な 手 法 を用 い る.近 年,メ
デ ィ ア等
に よる 影 響 もあ り,従 来 か らの 医 療 や 健 康 づ く りに加 えて,各 種 ダ イ エ ッ ト法 の 実 施,禁 煙 補 助 や 栄 養 補 助 食 品 の 摂 取,温
泉 療 法 な ど,い わ ゆ る 民 間 療 法 が
流 行 して い る.こ の よ うな健 康 を保 持 ・増 進 させ る行 動 を健 康 行 動(狭 健 行 動),あ
るい は保 健 行 動 と呼 ぶ.
保 健 行 動 とは,健 康 の あ らゆ る段 階 に お い て,健 康 保 持,回 復,増 と して,人
義の保
々が 行 う あ らゆ る 行 動 を い う.つ
的 とす る行 動 で あ り,結 果 と して,そ で あ る か,不
健 康 行 動(unhealthy
進 を 目的
ま り,健 康 保 持,回 復,増
の 行 動 が 健 康 行 動(healthy
behavior)で
進を目
behavior)
あ る か は 区 別 し て い な い.健
康 状 態 に か か わ らず,保 健 行 動 と し て とっ た 行 動 が 客 観 的 にみ て効 果 の あ る場 合 もあ れ ば,効 果 の な い場 合 もあ り,効 果 の 結 果 は 問 わ れ な い の で あ る.こ で い う健 康 の あ らゆ る段 階 とは,① 状 態,④
死 の4つ
健 康 状 態,②
の 段 階 に 分 け られ る.そ
半 健 康 状 態,③
こ
疾 患 ・疾 病
して,健 康 段 階 に 応 じて 保 健 行 動
が と られ るの で あ る(表7.1)1). 健 康 状 態 に あ る と き は,健 診,予 防 注 射,食
事 改 善,運 動 な どの予 防 的 保 健
行 動 あ る い は健 康 増 進 行 動 が と ら れ る.「 食 欲 が な い」 「イ ラ イ ラ す る」 「口 内 炎 が で きた 」 等 の 半 健 康 状 態 の と き は,心 身 の ス トレス が 蓄 積 して い る 状 態 で
表7.1 保健行動の健康段階別分類
(宗 像恒 次:新
版 行 動 科 学 か らみ た健 康 と病 気,メ
ヂ カル フ レ ン ド社,1990よ
り改 変)
あ る.こ の よ う な 状 態 が,長 期 化 ・慢 性 化 す る と重 大 な疾 患 に 結 びつ くの で, 「い つ も よ り早 め に寝 る 」 「気 分 転 換 を はか る」 等 の 病 気 回避 行 動 を と り,持 続 化 させ な い こ とが 重 要 で あ る.し か し,半 健 康 状 態 が 続 き,自 覚 症 状 が現 れ る と診 断 を う け る,投 薬 す る な どの 病 気 対 処 行 動 を取 る こ とが 重 要 で あ る.T. パ ー ソ ンズ の病 者 役 割 理 論2,3)に よ る と,① れ,全 面 的 で は ない が 正 当 化 され,② 免 除 され る一 方,③
病 者 は 病 者 と して 他 者 か ら認 め ら
仕 事 や 家 事 な どの 通 常 の社 会 的 役 割 を
健 康 を 回復 す る こ と に努 め る と と も に,④
健康 回復 のた
め に 医療 技 術 の 援 助 を求 め,そ の 援 助 に協 力 す る こ とが 要 求 され る.し か し, 病 気 の状 態 が 長 く続 くと,向 か う と こ ろ は死 で あ る.死 に直 面 す る時 期,つ
ま
り,タ ー ミナ ル 期 に 必 要 な行 動 とは,健 全 な死 あ るい は安 らか な 死 を望 む た め の 行 動 で あ る.
7.1.2 保健 行 動 の モ デ ル a.保
健 行 動 の シー ソ ー モ デ ル
保 健 行 動 を と る場 合,保
健 行 動 を とろ う とす る動 機 とそ の 時 々 に 発 生 す る経
済 的,身 体 的,精 神 的 な 負 担 との力 関 係 に よ り,そ の行 動 が 実 行 され る か ど う か 決 定 さ れ る.例
え ば,虫 歯 を過 去 に 患 っ てお り,治 療 に対 して の 恐 怖 感 が大
きい と,「 歯 磨 きを す る」 「禁 煙 を す る 」 と い っ た予 防 的 保 健 行 動 の 動 機 が 高 ま りや す い.ま
た,い
ざ 虫 歯 に な っ た と き に 「歯 科 に通 い 治 療 す る 」 と い う病 気
対 処 行 動 を とろ う と思 っ て も,「 時 間が な い」 「歯 医者 に行 くの は 怖 い 」 等 の負
担 感 が 大 き くな る と,実 行 さ れ に くい.し か し,周 囲 か らの 支 援 が あ り,本 人 が 自 己管 理 意 欲 が 高 い 場 合 に は,動 機 が 強 め られ る.こ の よ うに,保 健 行 動 は そ の 動 機 と負 担 のバ ラ ンス(シ
ー ソ ー)に
よ っ て,実 行 さ れ る か 否 か が 決 定 さ
れ る の で あ る(図7.1)4). b.保
健信 念 モデル
保 健 信 念 モ デ ル は,保 健 態 度 の 認 知 的 な側 面 を モ デ ル に した もの で あ る(図 7.2).ま
ず,個
人 の 疾 患 に対 して 罹 りや す い とい う脆 弱 性 や 感 受 性 が あ り,疾
(宗像 恒 次:保
図7.1 保 健 行 動 シー ソー モ デ ル 健 行 動 の モ デ ル,看 護 技 術 29(14),20-29,1983)
図7.2 (Rosenstock,I.M.:Historical health
BeliefModel
and
予 防 的保 健 行 動 にお ける 保 健信 念 モ デ ル origins
Personal
Health
of the
health
Behavior,1974)
belief model.In
M.H.Becker(ed.):The
患 に よ り重 大 な結 果 を 伴 う と思 っ て い る こ とが,保 健 行動 へ の 準 備 状 態 を高 め る.こ
う し た個 人 の 認 知 は,そ の 人 のパ ー ソナ リ テ ィ特 性 や性 別 や 年 齢,社
会
階 層 な どの 心 理 社 会 的 要 因,過 去 の 病 気 経 験 な ど に よ って 影 響 を受 け る.そ
し
て,メ
デ ィ アや 周 囲 の 人 か らの情 報 を得 る こ とで,疾 患 に対 して の恐 れ が 強 ま
り,必 要 と され る保 健 行 動 を とる 可 能 性 が 高 ま る.こ の よ う に,個 人 が保 健 行 動 を とる可 能 性 は,過 去 の 病 気 の経 験 な どに よっ て 得 た予 防 的 行 動 を とる 利 益 と負 担 に つ い て 損 得 勘 定 をす る こ とで 決 定 さ れ る.モ デ ル は,疾 患 に罹 りや す い 恐 れや 重 大性,保
健 行 動 の 効 果 な どの 情 報 を 提 供 す る こ とが 保 健 行 動 を 促 す
こ と に な る こ とが 説 明 の で き るモ デ ル で あ る. c.保
健感 覚モデル
保 健 信 念 モ デ ルが 認 知 的 な 要 素 を重 視 して い た の に対 して,保 健 行 動 を お こ す 上 で 感 情 的 な 要 素 に 主 眼 を 置 い た モ デ ル が あ り,保 健 感 覚 モ デ ル5,6)とい う.健 康 問題 の 存 在 を感 知 す る手 が か りと して の 感 覚 と,そ の健 康 問 題 の解 決 に 必 要 と され る 行 動 自体 の 好 み と し て の 感 覚 と,大
き く2つ あ る.前 者 の 方
は,感 覚 的 に違 和 感 が な く,不 快 感 が ない 行 動 を 選 ぶ と,満 足 感 を もた らす よ う な 感 覚 と行 動 が 条 件 づ け られ,強 化 され る とい う もの で あ る.こ の よ う に, 健 康 に とっ て 条 件 づ け られ,強 化 さ れ,習 慣 化 され る感 覚 を保 健 行 動 にお け る 「感 知 感 覚 」 と呼 ば れ る.一 方,後
者 の 方 は,保 健 行 動 を実 行 す る際,そ
の行
動 自体 を好 み と して の 感 覚(「 行 動 感 覚 」)が 重 要 で あ る.つ ま り,保 健 行 動 自 体 が これ ま で の 好 み の 行 動 感 覚 と 同 じ よ う な傾 向 を も ち,簡 単 で,日 常 的 に も 極 力 自然 で,急 d.保
が ない も の で あ る と き,保 健 行 動 が推 進 され る の で あ る.
健規範 モデル
人 はあ る特 定 の 状 況 にお い て,何 れ て い る か,そ
をす べ きか,あ
る い は 何 をす べ き と期 待 さ
こ に は,あ る一 定 の 基 準 を も っ て い る.こ れ を社 会 学 で は,社
会 規 範 と呼 ん で い る.規 範 に反 す る行 為 を と る と,人 か ら批 判 され た り,様 々 な制 裁 を受 け た りす る.こ
れ を保 健 行 動 に あ て は め た もの が,保
健規 範 で あ
る.例 え ば,病 気 に な っ た 際 に,「 病 院 に行 く」 「薬 を飲 む 」 等 の 病 気 対 処 行 動 を と る とい う規 範 が あ る.こ れ に 反 して 病 気 に な っ て も病 院 に 行 か ず,か て 悪 化 させ た 場 合 は,ま わ りか ら批 判 され る等,支
えっ
援 が 受 け られ な くな っ て し
ま う.パ ー ソ ンズ の病 者 役 割 理 論2,3)も保 健 規 範 モ デ ル の ひ とつ で あ る.こ の
よ うな 保 健 規 範 は,病 者 役 割 だ け で な く,保 健 者 役 割,看 護 ・介 護 者 役 割 に も み られ る. e.保
健行動実行 の ために
人 は,日 頃,健 康 や 保 健 行 動 の た め に 生 きて い る わ け で は な く,よ
り良 い 生
活 を送 る上 で健 康 が 必 要 で あ り,保 健 行 動 が 必 要 とな っ て く るの で あ る.保 健 行 動 の シ ー ソー モ デ ル に よ る と,保 健 行 動 を実 行 可 能 にす るた め に は,保 健 行 動 の 動 機 が負 担 を上 回 る必 要 が あ る.と
くに,保 健 行 動 の 動 機 と生 活 行 動 に お
け る動 機 が合 致 した と きに 保 健 行 動 の 実 行 可 能 性 が 高 くな る.一 方 で,保 健 行 動 の 動 機 が生 活 行 動 に お け る 動 機 と競 合 し た場 合 は,実 行 不 可 能 に な る こ とが 多 くな る.例
えば,肥 満 者 の ダ イ エ ッ トは,健 康 上 の 動 機 と美 容 上 の 動 機 とが
合 致 しや す い.現 在 は,男 女 問 わ ず 美 容 上 の動 機 か ら ダ イエ ッ ト行 動 を実 行 す る こ とに負 担 が 少 な く,結 果 や 継 続 に つ い て は ど うで あ れ,誰
で も取 り組 む こ
とが で き る.一 方,刑 事 ドラマ や 映 画 な ど の影 響 で タバ コ を吸 う こ とが フ ァ ッ シ ョ ン(社 会 規 範 の一 種)と
な っ て い る場 合 は,禁 煙 と フ ァ ッシ ョンの 動 機 が
競 合 しや す くな り,禁 煙 す る こ とが 難 し くな る.例 降,分 煙 が 進 み,自
え ば,健 康 増 進 法 の施 行 以
由 に 喫 煙 で きる ス ペ ー ス が減 少 して い る.禁 煙 箇 所 が 増 え
る こ とで,喫 煙 とい う生 活 行 動 の 負 担 が 大 き くな る と,自 然 に 禁煙 とい う保 健 行 動 の 動 機 が 高 ま る.こ の よ う に,環 境 を改 善 す る こ とは,保 健 行 動 の実 行 に 有 効 で あ る.ま た,自 分 自身 に保 健 行 動 に 関 す る課 題 を設 定 して,課 題 達 成 の 成 否 に よ っ て 自分 に 褒 美 や 罰 を科 した り(自 己 賞 罰 法),で ず つ 課 題 達 成 に近 づ け て い く(ス モ ー ル ス テ ッ プ法),あ
き る こ とか ら少 し る い は,課 題 達 成 の
た め の 期 間 に 自 らの 行 動 を 日記 な ど に記 す こ とで 管 理 す る(自 己 観 察 日記 法) な どの 手 法 を とる こ とで 保 健 行 動 実 行 の た め の 動 機 を 強 化 した り,負 担 を軽 減 させ た りす る こ とが で き る.ま た,家 族 や 職 場 あ る い は 同 じ課 題 を もつ仲 間 か らの 支 援 を も ら う こ と も重 要 で あ る.
7.2 健 康 支 援 施 策
7.2.1 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン 保 健 行 動 や 健 康 を支 援 して い くた め に は,個 人 の 動 機 強 化 だ け で な く,環 境
の 整 備 が 必 要 とな る.ヘ ル ス プ ロ モー シ ョ ン とは,オ
タ ワ憲 章(1986)に
よる
と 「人 々 が 自 らの 健 康 を コ ン トロ ー ル し,改 善 して い く能 力 を高 め る プ ロ セ ス で あ る」7)とさ れ,① り,③ 換,が
健 康 的 な 公 共 政 策 の 立 案,②
地 域 活 動 の 強 化,④
個 人 技 術 の 開 発,⑤
健 康 を支援 す る環境 づ く 保 健 医療 サー ビスの方 向転
必 要 で あ る こ とが 挙 げ られ て い る.
これ ま で,保 健 行 動 や 健 康 行 動 を 含 む ラ イ フ ス タイ ル の改 善 に は個 人 的 な要 因 を問 題 とす る こ とが 多 か った が,オ
タ ワ憲 章 以 降,社 会 シス テ ム の 変 革 を意
識 し,社 会 環 境 を 改 善 す る こ と を 問題 視 す る よ う に な っ た.例 ブ ッ シ ュ の 健 康 都 市(healthy (healthy company)な
city),あ
る い はH.ロ
え ば,I.キ ッ ク
ー ゼ ンの 健 康 会 社
ど,健 康 的 な 社 会 環 境 の 整 備 を 通 じて,個
人の生 活 の
質 を 高 め よ う とす る動 きが 出 て き た.ま た,漠 然 と した 目標 で は な く,具 体 的 な 目標 値 を設 定 し,目 標 志 向 型 の 健康 増 進 施 策 が 国 内 外 で 策 定 され る よ う に な っ て き た.例
え ば,米
国 に お け る 「ヘ ル シー ピー プ ル2000(Healthy
People
2000)」 や わが 国 の 「健 康 日本21」 が そ れ で あ る.
7.2.2 わ が 国 に お け る健 康 増 進 施 策 日本 にお け る 健康 増 進 施 策 は,1978年
の 「第 一 次 国 民 健 康 づ く り対 策 」8)が
は じ ま り と さ れ て い る.「 第 一 次 国 民 健 康 づ く り対 策 」 は,二 次 予 防 に重 点 を 置 い た 対 策 で,①
生 涯 を 通 じる健 康 づ く りの 推 進 の た め に乳 幼 児 か ら高 齢 者
に 至 る ま で の 健 康 診 査,保 と して,健
健 指 導 体 制 を確 立 す る,②
健 康 づ く りの 基 盤 整 備
康 増 進 セ ン タ ー,保 健 所 お よ び 市 町 村 保 健 セ ン ター の 整 備,保 健
婦,栄 養 士 な ど,マ ンパ ワ ー の確 保 に よ る健 康 づ く りを具 体 的 に推 進 す る体 制 を 整 備 す る,③
健 康 づ く りの 啓 発 や 普 及 を 目的 と して 食 生 活 改 善 推 進 員 組 織
な ど に よ る 啓 発 普 及 活 動 を推 進 す る,と い う3つ の 大 きな柱 で 構 成 さ れ た. 続 い て,1988年
か ら の 「第 二 次 国 民 健康 づ く り対 策(ア
ク テ ィ ブ80ヘ
ルス
プ ラ ン)」8)は,ラ イ フス タ イ ル の 変 化 に よる 生 活 習 慣 病 予 防 を 念 頭 に置 い た対 策 で,①
第 一 次 予 防へ の 転 換,②
運 動,栄
養,休
養 の 重 点 化,③
健康増進施
設 認 定 制 度 の 創 設 お よ び運 動 指 導 者 の育 成 な どが 柱 と な り,第 一 次 国民 健 康 づ く り対 策 を 受 け る形 で 対 策 が 講 じ られ た. そ し て,2000年
か ら開 始 さ れ た 「第 三 次 国 民 健 康 づ く り対 策(健 康 日本
21)」9)は,少 子 高 齢 化 の 社 会 背 景 を 受 け て,生 養 ・食 生 活,②
身 体 活 動 ・運 動,③
⑤ ア ル コー ル,⑥ 野 に 分 け て,具
歯 の 健 康,⑦
活 習 慣 や 生 活 習 慣 病 を,①
休 養 ・こ こ ろ の 健 康 づ く り,④
糖 尿 病,⑧
循 環 器 病,⑨
た ば こ,
が ん,の9つ
体 的 数 値 目標 を設 定 し,健 康 寿 命 の 向 上 と,QOLの
栄
の分
向上 を目
指 して い る.「 健 康 日本21」 で は,そ れ ま で の 個 人 に任 せ た健 康 づ く りで は な く,健 康 の た め の 環 境 づ く りに 重 点 を置 い て い る.ま た,人 生 の 各 段 階 に 応 じ た 健 康 課 題 や 役 割 を設 定 し,幼 年 期 や 少 年 期 の 生 活 習慣 の確 立 か ら,青 年 期 で の 予 防 知 識 や 技 術 の 提 供,壮
年 期 で の 具 体 的 な活 動 とい っ た 生 涯 を通 じた 健 康
改 善 を 目指 して い る. ま た,「 健 康 日本21」 を推 進 す る に あ た り,法 的基 盤 整 備 が 必 要 で あ る とい う認 識 か ら2003年
に 「健 康 増 進 法 」 が 施 行 され た.健 康 増 進 法 は,栄 養 改 善
法 の 内容 を継 承 し,生 活 習 慣 病 を 予 防 す る た め の 栄 養 改 善,運 動,飲 酒,喫 煙 な どにつ い て の生 活 習 慣 の改 善 を 目的 と して い る.
7.2.3 母 子 保 健 施 策 人 生 の 各 段 階 に お け る保 健 対 策 が 推 進 さ れ て お り,な か で も少 子 化 と高 齢 化 とい う現 在 の 問題 を 受 け て,母 子 保 健 施 策 と老 人 保 健施 策 が 重 視 され て い る. 母 子 保 健 施 策 は,1947年
に 厚 生 省(現:厚
生 労 働 省)に
児 童 局が 設 置 さ
れ,児 童 福 祉 法 が 公 布 され た こ とに 始 ま り,乳 児 死 亡 率 の低 下,乳 幼 児 検 診 な ど一 定 の 成 果 を あ げ,母 子 保 健 サ ー ビ スが 向 上 し た.そ の 後,少 子 化 が 叫 ば れ る よ うに な っ た1989年
の1.57シ
示 す 合 計 特 殊 出生 率 が1966年
ョ ッ ク(女 性 が 一 生 の 間 に 産 む 子 ど もの 数 を
の 丙 午 の1.58を
少 子 化 対 策 へ と移 行 し て い っ た.1994年 の 基 本 的 方 向 に つ い て(エ
下 回 る)か
ら,母 子 保 健 施 策 は
の 「今 後 の 子 育 て 支 援 の た め の 施 策
ンゼ ル プ ラ ン)」8),1999年 の 「重 点 的 に 推 進 す べ き
少 子 化 対 策 の 具 体 的 実 施 計 画 に つ い て(新 エ ンゼ ル プ ラ ン)」8)等の 施 策 と各 事 業 が 次 々 と発 表 さ れ た. そ して,2000年
に は,21世
紀 の母 子 保 健 を 関 係 各 団 体 が 一 体 と な っ て 推 進
す る 国 民 運 動 計 画 と して,「 健 や か 親 子21」8,9)が策 定 され た(図7.3).「 か 親 子21」 で は,①
思 春 期 の 保 健 対 策 の 強 化 と健 康 教 育 の 推 進,②
産 に 関 す る 安 全 性 と快 適 さ の 確 保 と不 妊 へ の 支 援,③
健や
妊 娠 ・出
小 児 保 健 医 療 水 準 を維
図7.3 健 や か 親子21の 施 策 の 概 要 図 (厚生 統 計 協 会:国 民 衛 生 の動 向,2004)
持 ・向 上 させ る た め の 環 境 整 備,④
子 ど も の心 の 安 ら か な 発 達 の 促 進 と育 児
不 安 の 軽 減,と
い う4つ の課 題 を挙 げ,そ れ ぞ れ に具 体 的 目標 値 を 設 定 し進 め
られ て い る.そ
の 後 も,2002年
に 「少 子 化 対 策 プ ラス ワ ン」8),2003年 に 「次
世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 」8)など の 少 子 化 対 策 が 施 さ れ て い る が,少 子 化 の流 れ を抑 え る こ とが で きず,2004年
の 合 計 特 殊 出 生 率 は1.29と
な っ て い る.
7.2.4 老 人 保 健 施 策 老 人 保 健 施 策 は,1963年
の 老 人福 祉 法,1982年
の 老 人 保 健 法 な どに よ っ て
総 合 的 な対 策 が 推 進 され て きた.老 人 保 健 法 は,老 後 の 健 康 保 持 と適 切 な 医療 の確 保 の た め に,従 来 の 保 健 事 業 と老 人 医 療 を連 携 させ 総 合 的保 健 サ ー ビ ス を 提 供 し よ う とす る もの で あ る.老 人保 健 事 業 につ い て は,第 一 次 計 画(1982) か ら 第 四 次 計 画(2000)ま
で 改 定 を し なが ら進 め られ て き た.第
四次計 画 で
は,「 健康 日本21」 で の 目標 値 を参 考 に地 域 の 実 情 に 合 わせ て 具 体 的 な 目標 値 を 設 定 し,生 活 習 慣 改 善 や 介 護 予 防 に重 点 が 置 か れ た.ま さ れ た 「高 齢 者 保 健 福 祉 推 進10カ 「 新 ・高 齢 者 保 健 福 祉 推 進10カ
た,1989年
に策定
年 戦 略 」(ゴ ー ル ド プ ラ ン)8),1994年
の
年 戦 略 」(新 ゴー ル ドプ ラ ン)8)に よ っ て ,在 宅
福 祉 の 整 備 が 推 進 さ れ た.こ れ らの老 人保 健 ・老 人 福 祉 対 策 は,一 定 の 成 果 を あ げつ つ も,予 想 以 上 に 進 む 高 齢 化 に対 応 す る こ とが 課 題 に な っ て お り,1999 年 に 「今 後5カ
年 間 の 高 齢 者 保 健 福 祉 施 策 の 方 向」(ゴ ー ル ドプ ラ ン21)が
策
定 さ れ,介 護 サ ー ビ ス の基 盤 整 備,介 護 予 防,生 活 支 援 な ど を推 進 す る こ と と な っ た.ゴ
ー ル ドプ ラ ン21で は,具 体 的 施 策 と して,①
介 護 サ ー ビス の基 盤
整 備 「い つ で も ど こで も介 護 サ ー ビ ス」,② 痴 呆 症 高 齢 者 支 援 対 策 の 推 進,③ 元 気 高 齢 者 づ く りの 対 策 の推 進 「ヤ ン グ ・オ ー ル ド(若 々 しい 高 齢 者)作 の 推 進,④ ス の 育 成,⑥
地 域 生 活 支 援 体 制 の 整 備,⑤
戦」
利 用 者 保 護 と信 頼 で き る 介 護 サ ー ビ
高 齢 者 の 保 健 福 祉 を 支 え る 社 会 的 基 礎 の確 立,を
推進 す る とと
も に,新 た に グ ル ー プ ホ ー ム の 整 備 を重 点 化 して い る.
7.2.5 これ か らの 健 康 支 援 わ が 国 で は,こ
の よ う に健 康 日本21を は じめ,具 体 的 な 目標 設 定 を行 い,体
系 的 に 健 康 支 援 施 策 を 推 進 し て い る.こ れ ま で 健 康 増 進 や 健 康 獲 得 の た め に
は,個 人 の 要 因 に原 因 を求 め て きた が,少 子 高齢 化 に よ る社 会 経 済 構 造 の 変 化 を受 け て,健 康 的 な環 境 づ く りに 施 策 の 中心 が 置 か れ る よ う に な っ て きた.ま た,健 康 支 援 施 策 の 主体 も 中央 か ら地 方 へ,行
政 か ら民 間へ と移 行 し,地 域 独
自 の 施 策 が 実 施 さ れ て い る.例 え ば,高 齢 者 福 祉 対 策 と して 山 梨 県 都 留 市 の 高 齢 者 を 対 象 と した 「ウ ェ ル ネ ス ア ク シ ョ ンつ る」10)や東 京 都 武 蔵 野 市 の 「シニ ア活 力 ア ップ事 業 」10,11)など,地 方 自治 体 が 中 心 と な っ た 活 動 が あ る.ま た, 少 子 化 対 策 ・子 育 て 支 援 対 策 は,各 タ ー,NPO団
地 域 の 子 育 て 支 援 セ ン ター や 保 健 セ ン
体 な どが 中 心 と な り,各 地 域 に密 着 した 活 動 が 行 わ れ て い る.
こ れ か らの 健 康 支 援 は,行 政 依 存 型 の支 援 か ら地 域 のエ ンパ ワー メ ン トや ネ ッ トワー ク を利 用 した 支 援 が 重 要 で あ り,地 域 住 民 が 主 体 に な り,行 政,民
間
企 業,大 学 な どが 連 携 し,支 援 体 制 を整 え る 必 要 が あ る.
7.3 健 康 管 理 シ ス テ ム
7.3.1 健 康 管 理 の た め の 諸 条 件 a.健
康 管 理 の考 え方
健 康 管 理 とは,個 人 ま た は 集 団 を対 象 に,健 康 の維 持 ・増 進,疾 病 の 早 期 発 見 と治 療,早 期 の 機 能 回復 ・社 会 復 帰 を 図 る こ と を 目的 と して,社 会 資 源(人 的 ・物 的 ・経 済 的)を 効 率 的 か つ 計 画 的 に活 用 して行 う一 連 の 諸 活 動 をい う. 狭 義 の 健 康 管 理 は,健 康 人 を対 象 とす る もの で あ る が,疾 病 を有 す る人 を対 象 とす る疾 病 管 理 まで を含 め た もの を広 義 の 健 康 管 理 とい う.一 方,自 で健 康 管 理 を行 う行 動 を,自 己 管 理(セ b.健
分 自身
ル フ ケ ア)と い う.
康 管 理 の 目的
健 康 管 理 の 目 的 は,健 康 の あ ら ゆ る 段 階 に お い て疾 病 を予 防 す る こ とで あ り,疾 病 予 防 の段 階 に よ っ て,以 下 の3つ ・健 康 の保 持 ・増 進,特
異 的 予 防(一
・疾 病 の早 期 発 見 ・早 期 治療,疾
に 区分 され て い る.
次 予 防)
病 リス ク の発 見(二
次 予 防)
・障 害 の制 限,疾 病 罹 患 後 の 社 会 復 帰,機 能 訓練(三
次 予 防)
この う ち,一 次 予 防 は,生 活 習 慣 の 改 善 を通 じて健 康 の 増 進 や疾 病 の 予 防 を 図 る もの で,最
も基 本 的 か つ 効 果 的 な 予 防 手 法 と して,近 年 と くに 重 視 さ れ て
い る.ま
た,特 異 的 予 防 とは,予 防 接 種 の よ うに,原 因 の 明 らか な疾 病 に対 す
る特 定 の 予 防 対 策 を い う. 健康 管 理 にあ た っ て は,こ れ ら各段 階 の予 防法 を最 適 な組 み合 わ せ で実 施 す る こ とが 重 要 で あ る. c.健
康管理の戦 略
予 防 医 学 の 戦 略 と し て,「 ハ イ リ ス ク ア プ ロー チ 」 と 「ポ ピ ュ レー シ ョ ン (集 団)ア
プ ロー チ 」 が あ る.ハ
イ リス ク ア プ ロー チ は,相 対 的 リス ク の 高 い
個 人 の み を対 象 とす る もの で あ り,ポ ピ ュ レー シ ョン ア プ ロ ー チ は 集 団 全 体 を 広 く対 象 とす る もの で あ る. ロ ー ズ12)は,両
者 を比 較 して,対
象 疾 患 が 集 団 に広 く認 め られ,罹 患 率,
死 亡 率 が 高 い 場 合 に,罹 患 率 ・死 亡 率 の 減 少 に大 き く貢 献 す る ポ ピュ レー シ ョ ン ア プ ロ ー チ の 考 え方 を 強 調 して い る.2つ
の予 防医学的 アプローチの特徴 を
理 解 し,対 象 や 状 況 に応 じて,有 効 な 方 法 を選 択,組
み合 わ せ る こ とが 重 要 で
あ る.こ の 考 え 方 は,欧 米 の 健 康 施 策 に大 き な影 響 を 与 え,わ が 国 の 「 健康 日 本21」13)で も基 本 理 念 の 一 つ とな っ て い る(図7.4). d.健
康 管理 の 技 術 体 系
健 康 管 理 を 行 うた め に は,ま ず 対 象 を設 定 し,そ の ニ ー ズ に基 づ く事 業 計 画 を立 て,計 画 に した が っ て 事 業 を実 施 し,そ の 結 果 を評 価 し,次 の計 画 に反 映 させ る と い う,「 計 画(plan)→ み(PDSサ
実 施(do)→
評 価(see)」
イ ク ル)が 基 本 と な る.
図7.4 ハ イ リス ク ア プロ ー チ と集 団 ア プ ロー チ (厚生 労 働 省:健 康 日本21,2000よ り改 変)
の 連 続 的 な 取 り組
●現 状 把 握 と問 題 点 の 明確 化
対 象 とな る個 人,ま
た は集 団 の 健 康 状 況 を把
握 し,問 題 点 や ニ ー ズ を明 らか にす る. ● 目標 と対 策 の 決 定(事 業 計 画)
問 題 点 を解 決 す る た め の 目標 の 設 定 お よ
び 対 策 の 決 定 を行 う. ●事 業 の 実 施
事 業 計 画 に基 づ き,対 象 お よび 目標 を設 定 し,事 業 を実 施 す
る. ●事 業 の 評 価 施 す る.ま
事 業 終 了 時 に あ らか じめ 決 め て お い た 方 法 に よ り,評 価 を実 た,評 価 結 果 は,計 画 の 見 直 しや 次 の 計 画 に 反 映 させ る.
7.3.2 健 康 管 理 の 方 法 a.健
康教育
疾 病 を予 防 し,健 康 を保 持 ・増 進 す る た め に は,一 人 ひ と りが 健 康 に対 す る 正 しい 知 識 を も ち,そ れ を 生 活 の 中 で 実 践 す る こ とが 重 要 で あ る.健 康 教 育 は,対 象 とな る 個 人 や 集 団 に 対 して 正 しい 知 識 を提 供 し,理 解 させ,実
践 させ
る た め に行 う もの で あ り,健 康 管 理 の 最 も基 本 的 な 手段 で あ る. 健 康 教 育 の 主 た る 目的 は 個 人 の 行 動 変 容 に あ る が,そ の 目標 や理 論 は 時 代 と と も に変 遷 して い る.か つ て健 康 教 育 は,「 知 識 の 普 及 → 態 度 の 変 容 → 行 動 の 変 容 」 とい うモ デ ル を 基 に展 開 さ れ て きた.1970年
代 以 降 は,米 国 を 中 心 に
保 健信 念 モデ ルや 汎理論 的モ デル等 の社 会心 理学 的保 健行動 モ デルが提 唱 さ れ,こ れ に 基 づ く健 康 教 育 が 展 開 さ れ て きた.最 え て,政
策 ・制 度 ・組 織 な ど社 会 環 境 整 備(社
近 で は,個 人 の 行 動 変 容 に加 会 変 容)の
必要 性 が再認 識 さ
れ,健 康 教 育 の 考 え 方 も,従 来 の 「指 導 者 に よ る 指 導 ・操 作 」 型 か ら,「 指 導 を 受 け る 者 の 自 由 意 思 の 尊 重 と合 意 形 成(エ
ン パ ワ ー メ ン ト)」型 へ と転 換 し
て きた. また,健
康 教 育 の 形 態 は,表7.2の
的,内 容 に 応 じて,最 b.健
よ う に様 々 な も の が あ り,そ の 対 象 や 目
も効 果 的 な もの を選 択 す る 必 要 が あ る.
康 相談
健 康 相 談 と は,心 身 の 健 康 に 関す る 不 安 や 悩 み 等 につ い て,専
門家 が 個 別 に
相 談 に応 じて 必 要 な 指 導 お よび助 言 を行 う こ と に よ り,来 談 者 が 自主 的 に 問 題 解 決 で き る よ う支 援 す る こ とで あ る.健 康 相 談 は,通 常1対1の
個別相 談が主
表7.2 健 康 教 育 の 形 態
(宮坂 忠 夫:健
康 学 概 論,大
修 館 書 店,1971よ
り改 変)
で あ る が,相 談 の 過 程 で家 族 や 関 係 者 が加 わ っ た り,集 団 相 談 の形 態 を と る場 合 もあ る. 健 康 相 談 の 方 法 と し て,カ ウ ンセ リ ング 的 な もの と,コ ンサ ル テ ー シ ョン的 な も の が あ る.カ
ウ ンセ リ ング 的健 康 相 談 は,臨 床 心 理 士 ら に よ り,健 康 に対
す る不 安 や 症 状 を和 らげ るた め に行 う もの で あ る.ま た,コ 的健 康 相 談 は,医
ンサ ル テ ー シ ョン
師,保 健 師 ら に よる,疾 病 に 関 す る説 明 や 保 健 指 導 を 主体 と
して 行 う もの で あ る. 健 康 相 談 の 内 容 と して は,① 疾 病 や 障 害 に 関 す る保 健 指 導,③
健 康 上 の不 安 や悩 み に 関 す る相 談,② 精 神 保 健 相 談,④
発 達 相 談,⑤
特定 の
遺伝 相談 な
どが 挙 げ ら れ る. こ う した 健 康 問 題 に対 して,健 康 相 談 が 果 たす 役 割 は,以 下 の よ う な もの で あ ろ う. ・来 談 者 の 健 康 上 の 問 題 点 を 明確 化 し,そ の 解 決 手 段 の 準 備 ・調 整 を行 う. ・情 報 提 供 す る こ とに よ っ て,来 談 者 が 問 題 点 を 自覚 し,積 極 的 に解 決 手 段 を利 用 す る こ とを促 す. ・来 談 者 が 自己 の行 動 を 調 整 で きる よ う支 援 す る.
c.健
康 診 査(健 康 診 断)
健 康 診 査(健
康 診 断)は,主
と して 疾 病 の二 次 予 防 の た め の 手 段 と して,わ
が 国 で は 広 く行 わ れ て い る.ま た,健 康 診 査 は,健 康 状 態 を 継 続 的 に観 察 す る こ とに よ っ て疾 病 の 発 症 を予 防 で き る こ とか ら,一 次 予 防 と して も役 立 つ. 健 康 診 査 の 目的 は,①
疾 病 の 早 期 発 見(ス
状 態 の 継 続 的 な監 視(サ
ー ベ イ ラ ンス),お
ク リー ニ ング)の よび,③
ほ か,②
健康
健康 影 響 の 継 続 的 な 観 察
(モニ タ リ ン グ)で あ る. 健 康 診 査 に は,個 人 を 対 象 とす る もの(人 間 ドック や 個 別 検 診 な ど)と,集 団 を 対 象 とす る もの(集
団 検 診 や 定 期 健 康 診 断 な ど)が あ る.
また,健 康 診 査 は,地 域,学 校,職 場 な ど に お い て,個
人 また は集 団 の健 康
状 態 全 般 を チ ェ ック(多 項 目ス ク リー ニ ン グ)す る た め の 「健 診 」 と,が ん や 結核 な ど,特 定 の 疾 患 に 罹 患 して い な い か ど う か を確 認(単 グ)す
項 目ス ク リー ニ ン
る た め の 「検 診 」 に大 別 され る.
集 団 検 診 に お い て,比 較 的簡 単 ・迅 速 に実 施 で き る検 査 や 質 問 調 査 な ど を用 い て,疾 病 に罹 患 して い る疑 い の あ る者 を,一 定 の 基 準 に基 づ い て選 び 出 す こ と を 「ス ク リ ー ニ ン グ」 とい う.ス ク リ ー ニ ング で は,そ れ に用 い る 検査 の 手 法 や 基 準 値(カ 陽 性)し
ッ トオ フ値)の
と り方 に よ っ て,正 常 の もの を異 常 と判 断(偽
た り,異 常 の もの を正 常 と判 断(偽
陰 性)し
た りす る場 合 が あ る.ス
ク リー ニ ング に よ り,患 者 を 陽性 と す る 率 を 「敏 感 度」,健 常 者 を陰 性 とす る 率を 「 特 異 度」 とい い,こ れ らが 高 い もの ほ ど,精 度 が 高 い 検 査 とい え る(表 7.3). ま た,健 康 診査 の 結 果 に 基 づ き,受 診 者 に 対 して行 う保 健 指 導 を事 後 指 導 と い う.こ の 事 後 指 導 が適 切 に行 わ れ な け れ ば,健 康 診 査 はそ の 意 義 が 薄 れ て し ま う.
7.3.3 健 康 管 理 の 実 際 わ が 国 に お い て,制
度 的 に実 施 され て い る健 康 管 理 活 動 は,そ の 対 象 に よっ
て,都 道 府 県 や 市 町 村 が 主 体 とな っ て 行 う地 域 保 健,学 学 校 保 健,企 健)に
校 や教育委員 会に よる
業 や 地域 産 業 保 健 セ ン ター 等 に よ っ て 行 わ れ る 産 業 保 健(職
大 別 され る.こ れ らの行 政 体 系 を,図7.5に
示 す.
域保
表7.3
ス ク リー ニ ン グ検 査 の有 効 性 の評 価 敏 感 度=a/(a+b) 偽 陰 性 率=1−
敏感度
特 異 度=d/(c+d) 偽 陽 性 率=1−
特異度
陽 性 適 中 率=a/(a+c) 陰 性 適 中 率=d/(b+d)
a.地
域 に お け る健 康 管 理(地
域 保 健)
地 域 に お け る健 康 管 理 活 動 は,地 域 保 健 と 呼 ば れ,地 域 住 民 の 健 康 生 活 を 支 援 す る た め の 保 健 活 動 で あ る.地 域 保 健 は,厚 生 労 働 省 が 管 轄 し,都 道 府 県 や 市 町 村 が 主 体 とな っ て行 わ れ て い る.ま 母 子 保 健,老
人 保 健,精 神 保 健,歯
た,対 象 の 年 齢 や健 康 問 題 に応 じて,
科 保 健,感
染 症 対 策,健
康 増 進 な ど,き め
細 か い対 策 が な され て い る. わ が 国 に お け る 地 域 保 健 活 動 は,か つ て 結 核 や伝 染 病 な どの 感 染 症 対 策 が 中 心 で あ っ た が,生
活 様 式 の変 化 や衛 生 環 境 の改 善 な どに伴 い,が
図7.5 わ が 国 の保 健 行 政 の体 系
ん や循 環 器 疾
患 な どの 生 活 習 慣 病 や 心 の 健 康 問 題 が 主 体 とな っ て き た.ま た,高 齢 化 の 進 展 に伴 い,寝 た き りや 認 知 症(い
わ ゆ る痴 呆)な
ど,介 護 を要 す る 高 齢 者 の 増 加
も大 きな 課 題 に な っ て い る.こ
う した 状 況 に対 応 して,地 域 保 健 活 動 も一 次 予
防,二 次 予 防 を中 心 とす る予 防対 策 が 重 視 され る よ う に な っ て きた. 厚 生 労 働 省 で は,1982年
に老 人 保 健 法 を制 定 し,40歳
以 上 を主 た る対 象 と
す る老 人保 健 事 業 を これ ま で4次 に わ た り展 開 して き た. ま た,国 民 の 健 康 づ く りを推 進 す る た め,1988年 プ ラ ン」14)(第二 次 国民 健 康 づ く り運 動),2000年 康 づ く り運 動(健
康 日本21)」(第
に 「ア クテ ィ ブ80ヘ
に 「21世 紀 にお け る 国民 健
三 次 国 民 健 康 づ く り運 動)が
養 ・運 動 ・休 養 を 三 本 柱 と す る 予 防 活 動 が 展 開 さ れ て き た.健 は,壮 年 期 死 亡 の 減 少,健
ルス
策 定 され,栄 康 日 本21で
康 寿 命 の 延 伸 お よ び 生活 の 質 の 向上 を 目標 に,9つ
の 分 野 に つ い て 具 体 的 な 目標 値 が掲 げ られ て い る(図7.6). さ らに,介 護 を要 す る 高 齢 者 が増 加 す る一 方,家 族 や 地 域 に お け る介 護 機 能
図7.6 健 康 日本21の9つ
の重 点 領 域 と 目標 設 定
が 低 下 し て い る こ と か ら,2000年
に は 介 護 保 険 制 度 が 施 行 さ れ,各
種 介護
サ ー ビス が 提 供 され て い る. b.学
校 に お け る健 康 管 理(学
校 保 健)
学 校 保 健 と は,文 部 科 学 省 設 置 法 第5条
に よ る と,「 学 校 にお け る保 健 教 育
お よび 保 健 管 理 を い う」 と定 め ら れ て い る.学 校 保 健 の 目的 は,児 童 生 徒 お よ び教 職 員 の 健 康 を 保 持 ・増 進 し,健 康 生 活 の 実 践 能 力 の発 達 を 図 る と と もに, 学 校 教 育 活 動 に 必 要 な保 健 安 全 的 配 慮 を行 う こ とで あ る. 学校 保 健 の 対 象 は,幼 稚 園 か ら大 学 に い た る 教 育 機 関 とそ の 園児,児 徒,学
生 お よ び教 職 員 で,対
象 者 数 は約2400万
人 と人 口 の1/5を
童,生
占 め る.学
校 保 健 は,成 長 期 に お け る心 身 両 面 に わ た る 健 康 管 理 は も と よ り,そ の 後 の 健 康 生 活 へ の 基 礎 づ く りと い う面 で も重 要 な役 割 を果 た す.ま
た,教 職 員 の 健 康
管 理 は,個 人 の み な らず 児 童 生 徒 の 健 康 へ の 影 響 を考 慮 して 行 わ れ て い る. 学 校 保 健 は,児 童 生 徒 の健 康 生 活 能 力 の発 達 を 目指 す 「保 健 教 育 」 と,健 康 を保 持 ・増 進 す る た め の 「保 健 管 理 」 が 二 本 柱 と な って い る.保 健 教 育 は,学 校 教 育 法(学 習 指 導 要 領)に 別 さ れ る.ま
基 づ く教 育 活 動 で あ り,保 健 学 習 と保 健 指 導 に大
た,保 健 管 理 は,学 校 保 健 法 に基 づ い て 行 わ れ る もの で,健 康 診
断,健 康 相 談,伝 染 病 予 防 お よ び学 校 環 境 衛 生 か ら な る.こ 動 を 効 果 的 に 行 うた め に,「 学 校 保 健 委 員会 」 が 設 置 され,学
う した学 校 保 健 活 校保 健安全 計画
の 策 定,並 び に そ の 円 滑 な実 施 が 図 られ て い る. c.職
場 に お け る健 康 管 理(産
業 保 健)
わが 国 の 就 労 人 口 は,女 性 の 就 業 の 拡 大 や雇 用 形 態 の 多 様 化 な どに伴 い,近 年,著
し く増 加 して お り,人 口 の 約 半 分,お
よそ6500万
人 と な っ て い る.産
業 保 健 の 目的 は,職 場 を安 全 で 衛 生 的 な環 境 に 整 備 し,労 働 に 起 因す る 健 康 障 害 の 発 生 を 予 防 す る と と もに,労 働 者 の 健 康 を保 持 ・増 進 させ,作
業 能率の向
上 を 図 る こ と に あ る. 職 場 に お け る健 康 管 理(労 働 衛 生 管 理)は,主 実 施 さ れ,①
作 業 環 境 管 理,②
作 業 管 理,③
に 労 働 安 全 衛 生 法 に基 づ い て 健 康 管 理 の3要 素(い
わゆる労
働 衛 生 三 管 理)が 基 本 と さ れ,こ れ に労 働 衛 生 管 理 体 制 お よび 労 働 衛 生 教 育 を 加 え た もの は,五 管 理 と よ ば れ る. 作 業 環 境 管 理 と は,作 業 環 境 中 の 有 害 因子 を 除 去 し,快 適 な 作 業 環 境 を維 持
す る た め に 行 わ れ る.作 業 管 理 と は,職 業 性 疾 病 の 発 生 を予 防 す る た め,作 業 内 容,作
業 条 件 な ど,作 業 自体 を管 理 す る こ とで あ る.ま た,健 康 管 理 と は,
労 働 者 の健 康 を継 続 的 に観 察(健 康 診 断 や 人 間 ドッ ク な ど)す る こ とに よ り, 職 業 性 疾 病 の 予 防,衛 生 環 境 の 改 善,向
上 を 図 る こ とで あ る.職 場 に お け る健
康 診 断 と して,全 労 働 者 を対 象 とす る 一 般 健康 診 断 と,有 害 業 務 従 事 者 を対 象 とす る特 殊 健 康 診 断 が実 施 され て い る. 近 年,技
術 革 新 や 就 業 形 態 の 多 様 化,労
働 人 口 の 高 齢 化 な どに よ り,職 場 に
お い て も生 活 習 慣 病 や ス トレス の 増 加 へ の 対 策 が 求 め ら れ て い る.そ の た め, 厚 生 労 働 省(旧
労 働 省)は,1989(平
モ ー シ ョ ンプ ラ ン(THP)」15)(図7.7)を
成 元)年
策 定 し,労 働 者 の 心 身両 面 に わ た る
健 康 の 保 持 ・増 進 対 策 が進 め られ て い る.ま 対 策 の 充 実 を 図 る た め,2001年
に 「トー タ ル ・ヘ ル ス ・プ ロ
た,職 場 にお け る メ ン タル ヘ ル ス
に は 「事 業 所 に お け る 心 の健 康 づ く りの た め
の 指 針 」 が 策 定 さ れ た.
図7.7 THPに お け る健 康 測 定 と指 導 (国 民 衛 生 の 動 向,2005)
7.3.4 疾 病 管 理 a.が
ん
1)疫
学
わ が 国 に お け る が ん(悪 性 新 生 物)に 位 とな っ て お り,2004年 る(図2.2参 %)の
照).部
順 に,女
よ る 死 亡 は,1981年
の 死 亡 数 は 約32万
以 来 死 因 の 第1
人 と死 亡 全 体 の 約3割
位 別 に み る と,男 性 で は肺 が ん(22.3%),胃
性 で は 大 腸 が ん(14.6%),胃
が ん(14.2%),肺
を占め てい が ん(17.2 が ん(12.3
%)の 順 に 多 い. が ん の 多 くは,宿 主 要 因 と環 境 要 因 が 相 互 に作 用 し,多 要 因,多 段 階 の メ カ ニ ズ ム に よ り,加 齢 の影 響 を受 け て発 生 す る と され る.宿 主 要 因 と して,性, 年 齢,遺 伝 的 素 因 な どが,環 境 要 因 と し て,た ば こ,ア ル コ ー ル,食 生 活,運 動,ス 2)予
トレス 等 が 挙 げ られ て い る. 防
が ん の 一 次 予 防 と して は,危
険 因 子 や 発 が ん 物 質 を除 去 す る こ とが 基 本 で あ
る.が ん 予 防 の た め の 生 活 習 慣 と して,国 た め の12カ
条」16)(表7.4),が
立 が ん セ ンタ ー に よ る 「が ん を 防 ぐ
ん 疫 学 研 究 会 に よ る が ん 予 防 指 針 「生 活 習 慣
と主 要 部 位 の が ん」 等 が あ る.二 次 予 防 と して は,が ん を早 期 発 見 ・早 期 治 療 す る こ とで あ り,わ が 国 で は,死 亡 率 や 罹 患 率 が 高 く,発 見 後 の 生 存 率 が 高 い,胃
が ん,肺
が ん,大 腸 が ん,乳 が ん,子 宮 が ん等 を 中心 に,が ん 検 診 が 広
く行 わ れ て い る.
表7.4 が ん を防 ぐた め の12カ
条(国 立 が んセ ン ター)
b.循
環器疾 患
1)疫
学
高 血 圧,心
疾 患,脳
器 疾 患 と い う.2004年 人(15.5%),脳 わが 国 は,欧
血 管 疾 患(脳
卒 中),動
脈 硬 化 症 な ど を総 称 して,循 環
の 人 口 動 態 統 計17)で は,心
血 管 疾 患 に よ る死 亡 は 約13万 米 に比 べ,心
診 して い る総 患 者 数 は 高 血 圧 が699万
な っ て い る.
の 患 者 調 査18)に よ る と,医 療 機 関 を受 人 と最 も多 く,脳 血 管 疾 患137万
人,虚
人 と な っ て い る.
近 年 の 循 環 器 疾 患 の増 加 や 内 容 の変 化 は,人 よ る 影 響 が 大 きい.循 慣 を は じめ,多
人(12.5%)と
疾 患 に よ る死 亡 は少 な く,脳 血 管 疾 患 に よる 死 亡 は
多 い とい う特 徴 が あ る.ま た,2002年
血 性 心 疾 患91万
疾 患 に よ る 死 亡 は 約16万
口の 高 齢 化 や 生 活 習慣 の 変 化 に
環 器 疾 患 の 発 症 に は,食 事,運 動,ス
くの 要 因 が 関 与 して い る.と
トレス 等 の 生 活 習
くに,高 血 圧 は,他 の循 環 器 疾 患
の 危 険 因 子 に も な っ て い る. 2)予
防
虚 血 性 心 疾 患 につ い て は,高
コ レ ス テ ロ ー ル 血 症,高 血 圧,喫
煙 が三大危険
因子 と され て い る.脳 血 管 疾 患 の 最 大 の危 険 因 子 は高 血 圧 で あ る が,そ の 他 の 危 険 因 子 と して,喫 煙,糖
尿 病 な どが 挙 げ られ る.
循 環 器 疾 患 の 一 次 予 防 の た め に は,こ れ らの 危 険 因 子 の 除 去 を は じめ,生 活 習 慣 の 改 善 が 基 本 で あ る.ま た,二 次 予 防 の た め に は,各
自が 健 康 診 査 な ど に
よ り,そ の 病 状 や 危 険 因子 の 程 度 を把 握 す る と と もに,必 要 に応 じて専 門 医 に よ る治 療 を受 け,疾 患 の悪 化 ・進 行 を予 防 す る こ とで あ る.ま
た,脳 卒 中 後 遺
症 や 心 筋 梗 塞 後 の 患 者 に対 して は,三 次 予 防 と して,機
能 回 復 と社 会 復 帰 に 向
け た 専 門家 に よる リハ ビ リテ ー シ ョ ン(機 能 訓 練),な
らび に生 活 習 慣 の 改 善
や 治 療 の 継 続 に よ る再 発 防 止 が 重 要 で あ る. c.糖
尿病
1)疫
学
糖 尿 病 と は,イ (Ⅱ 型糖 尿 病)に
ン ス リ ン の 絶 対 的 不 足(Ⅰ
型 糖 尿 病),ま
た は相対 的不 足
起 因 す る糖 代 謝異 常 をい う.
2002年 に 厚 生 労 働 省 が 実 施 した 「糖 尿 病 実 態 調 査 」19)によ る と,わ が 国 に お い て糖 尿 病 が 強 く疑 わ れ る 人(HbA1c>6.1ま
た は 治 療 中)は
約740万
人
で,こ
れ に 糖 尿 病 の 可 能 性 を否 定 で き な い 人(HbA1c>5.6)を
加 え る と約
1620万 人 と な っ て い る.男 女 と も年 齢 が 上 が る に つ れ この 割 合 が 高 ま る傾 向 に あ り,と
くに40歳 代 か ら急 増 し,60歳
以 上 で は3人
に1人
とい う状 況 で あ
っ た. こ う した糖 尿 病 の 増 加 は,運 動 不 足 や 偏 食,エ
ネ ル ギ ー の 過 剰 摂 取,ス
トレ
ス の 増 加 な どの 不 適 切 な 生 活 習 慣 に よる もの が 大 きい.糖 尿 病 は,初 期 に は 自 覚 症 状 も少 な い が,進
行 す る と脳 卒 中 や 虚 血 性 心 疾 患 の ほか,糖
尿 病性 腎 症,
網 膜 症 な ど を引 き起 こす こ とか ら,そ の 予 防 と管 理 が 重 要 で あ る. 2)予
防
Ⅱ型 糖 尿 病 の 発 症 に は,食 事 や 運 動 な どの 生 活 習 慣 が 大 き く関 与 して い る. し たが っ て,一 次 予 防 と して は,美 食 ・過 食 を避 け,適 度 な 運 動 を実 行 す る こ と に よ り,肥 満 や エ ネ ル ギ ー の 過 剰 摂 取 を 防 ぐ こ とが 基 本 と な る.ま た,定 期 的 に健 診 を受 け,早 期 発 見 ・治療 に努 め る こ とが 二 次 予 防 と して重 要 で あ る. と くに,Ⅱ 型 糖 尿 病 で は遺 伝 的 素 因 に よ る影 響 も大 きい の で,近 親 者 に糖 尿 病 が あ る場 合 は注 意 が 必 要 で あ る. 糖 尿 病 治 療 の 原 則 は,食 剤,イ
事 療 法,運
動 療 法 お よ び 薬 物 療 法(経
口血 糖 降 下
ン ス リ ン等)の 組 み 合 わ せ に よ る血 糖 コ ン トロー ル で あ る が,初 期 の う
ち は,食 事 療 法 と運 動 療 法 か ら始 め る.糖 尿 病 を発 症 した場 合,適
切な治療 の
継 続 は,血 糖 を良 好 に コ ン トロ ー ル し,悪 化 を予 防 す る と と もに,重 篤 な合 併 症 を予 防 す る 上 で きわ め て 重 要 で あ る. d.肥
満
1)疫
学
肥 満 と は,脂
肪 組 織 に 過 剰 に 脂 肪 が 蓄 積 した 状 態 を い い,単
に体重 が重 い
「過 体 重 」 と は異 な る.肥 満 の 大 部 分 は 単 純 性 肥 満 で あ り,一 部 に 疾 患 が 原 因 で 起 こ る症 候 性 肥 満 が あ る.単 純 性 肥 満 の 原 因 は,主 に エ ネ ルギ ー の過 剰 摂 取 と運 動 不 足 で あ る. ま た肥 満 は,脂 肪 の 蓄 積 す る 部 位 に よ り,内 臓 脂 肪 型 肥 満(上 半 身肥 満)と 皮 下 脂 肪 型 肥 満 に 分 類 さ れ る. 肥 満 の 判 定 の た め に は,身 長 と体 重 に よ る 算 出法 の ほか,体 脂 肪 量 の 測 定, 皮 下 脂 肪 厚 の測 定 な どが 行 わ れ る(表7.5).2003年
の 国 民 健 康 ・栄 養 調 査 結
表7.5 肥 満 の 判 定 法
果20)に よ る と,肥 満 者(BMI≧25)の
割 合 は,男 性 で は20年
増 加 して お り,30∼69歳
を 占 め る.ま た 女 性 で は60歳
者 の 割 合 が3割
で は約3割
前 の 約1.5倍
代 で肥満
を超 え て い た.
肥 満 は,単 純 性 の もの で あ っ て も,糖 尿 病,虚 血 性 心 疾 患,高 血 圧,胆 な どの 疾 患 を 引 き起 こ しや す い.と 高 脂 血 症,さ
に
石症
くに 内臓 脂 肪 型 肥 満 は,高 血 圧 や 糖 尿 病,
らに は 心 血 管 疾 患 な ど の生 活 習 慣 病 を引 き起 こす 土 台 とな っ て い
る こ とか ら,「 メ タ ボ リ ッ ク ・シ ン ドロ ー ム」 と名 づ け られ(表7.6),そ 防 の 重 要性 が 強 調 され て い る.
表7.6 メ タボ リ ッ ク ・シ ン ドロ ーム の 診 断 基 準
(日 本 内科 学 会 ほか,2005)
の予
2)予
防
単 純性 肥 満 を予 防 す る た め に は,食 事 と運 動 に留 意 し,摂 取 エ ネ ル ギ ー と消 費 エ ネ ルギ ー の バ ラ ンス を図 る こ とが 基 本 で あ る.食 事 につ い て は,過 食 を避 け る と と も に,糖 質 と脂 質 を制 限 して タ ンパ ク質 の 摂 取 に重 点 を お き,栄 養 の バ ラ ンス を 図 る こ とが ポ イ ン トで あ る .肥 満 予 防 の 運 動 に つ い て は,脂 肪 を効 率 よ く燃 焼 させ る こ とを 目的 に,ウ
ォー キ ン グ,ジ
ョギ ン グ,水 泳 な ど中 等 度
の 有 酸 素 運 動 を 長 時 間 続 け る こ とが 効 果 的 と され て い る. e.感
染症
1)疫
学
病 原性 の あ る微 生 物(ウ
イ ル ス,細 菌,寄 生 虫 な ど)が 体 内 へ 侵 入 す る こ と
に よ っ て起 こ る疾 病 を感 染 症 とい う.わ が 国 で は,か つ て結 核 を は じめ,伝 染 病 や 寄 生 虫 症,な
どの 感 染 症 が 主 要 な疾 患 で あ っ た.近 年,衛
生 環 境 や 栄養 状
態 の 改 善 に よ り,感 染 症 は全 体 と して 激 減 した もの の,結 核 罹 患 率 の 減 少 の鈍 化,後
天 性 免 疫 不 全 症 候 群(AIDS),エ
(SARS)な
ボ ラ 出 血 熱,重
ど の新 興 ・再 興 感 染 症 の 出現,輸
症急性 呼 吸器症 候 群
入 感 染 症 や 性 行 為 感 染 症 の増 加 な
どが 問題 とな っ て い る. 2)予
防
わ が 国 で は,結 核 予 防 法 及 び感 染 症 法(感 染 症 の 予 防 及 び感 染 症 の 患 者 に 対 す る 医 療 に 関 す る法 律)に 1類 ∼5類
感 染 症,指
基 づ き,予 防 対 策 が 行 わ れ て い る.感 染 症 法 で は,
定 感 染 症 お よび 新 感 染 症 に分 類 され,そ
め られ て い る.感 染 症 の 発 生(成 立)に
は,感 染 源,感
れぞれ対応が 定
染 経 路,宿
主 の感 受 性
の 三 要 因 が 関係 し て お り,こ れ らに対 応 した 予 防対 策 を講 じる必 要 が あ る. ・感 染 源 対 策:殺
菌 ,消 毒 な どに よ り病 原 体 を殺 した り,病 原 体 の 排 出 を抑 制
す る対 策 ・感 染 経 路 対 策:病 原 体 の 生 体 内 へ の侵 入 経 路 を遮 断 し,侵 入 を 防 止 す る対 策 ・感 受性 対 策:生 f.精
神疾患
1)疫
学
体 側 の免 疫 力 を高 め ,病 原 体 に打 ち 克 つ 対 策(予
防接 種)
精 神 障 害 と は,「 精 神 分 裂 病,精 神 作 用 物 質 に よ る 急 性 中 毒 また は そ の 依 存 症,知
的 障 害,精
神 病 質 そ の 他 精 神 疾 患 を 有 す る 者 」(精 神 保 健 福 祉 法 第5
条)と
さ れ て い る.
近 年,社
会構 造 の 変 化 や 人 間 関 係 の 複 雑 化 な ど に伴 っ て 精 神 的 負 担 が 増 大 し
て お り,心
の 健 康 の 重 要 性 が 一 層 高 ま っ て い る.ま
知 症(痴
呆)の
た,高
齢 化 の 進 展 に伴 う認
増 加 や 社 会 経 済 の 悪 化 な ど に伴 う 自 殺 者 の 増 加 が 社 会 問 題 と な
っ て い る.さ
ら に,い
じ め や 不 登 校,少
年 犯 罪 な どが 増 加 し て お り,発
達期の
子 ど も の 心 の 問 題 も課 題 と な っ て い る. 2002年
の 患 者 調 査19)に よ る と,精
神 分 裂 病)で,つ
い で,認
知 症(痴
神 科 入 院 患 者 の6割 呆 性 疾 患),気
弱 が 統 合 失 調 症(精
分 障 害(躁
う つ 病 を 含 む),
精 神 作 用 物 質 使 用 に よ る 精 神 お よ び 行 動 の 障 害 の 順 と な っ て い る.ま 患 者 で は 気 分 障 害 が28.9%と
最 も 多 く,つ
性 障 害 ・ス ト レ ス 関 連 障 害21.1%の 降,と
く に45歳
2)予
∼60歳
い で,統
順 で あ る.自
た,外
合 失 調 症25.2%,神
来 経症
殺 者 に つ い て は,1998年
以
の 働 き 盛 りの 男 性 の 増 加 が 著 し い.
防
近 年,精
神 疾 患 に つ い て も 通 院 治 療 が 主 体 と な っ て き て お り,受
環 境 に な りつ つ あ る.し
か し な が ら,精
て 抵 抗 が あ る こ と か ら,地 係 の 調 整,心
域 や 学 校,職
診 しや す い
神 科 を受 診 す る こ と につ い て 依 然 と し 場 な どに お け る ス トレス対 策 や 対 人 関
理 相 談 な ど が 精 神 疾 患 を 予 防 し,心
の 健 康 づ く りを進 め る上 で 重
要 で あ る. ス ト レ ス を 軽 減 す る た め の 方 法 と し て,運 に よ る も の の ほ か,リ
動 や ス ポ ー ツ 等,生
活 習慣の改 善
ラ ク セ ー シ ョ ン 法 や 認 知 ・行 動 科 学 的 ア プ ロ ー チ 等 に よ
る ス ト レ ス ・マ ネ ジ メ ン トが 知 ら れ て い る.
【 文 1)宗
献】
像 恒 次:新 版 行 動科 学 か らみた 健康 と病 気,メ ヂ カル フ レ ン ド社,1990.
2)Parsons,T.:The 3)Parsons,T.,武
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健康 支援 学 ヘ ル ス プ ロモ ー シ ョ ン最前 線
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生 労 働 省:21世
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紀 に お け る 国 民 健 康 づ く り運 動(健
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8.
社会生活と健康
8.1 職 業 ・作 業 活 動 と健 康
8.1.1 作 業 活 動 と健 康(身 体 的 ・精 神 的 側 面) a.作
業 活 動 の歴 史 的 変 遷
作 業 活 動 とは,人 間 が 行 うす べ て の 行 為 を包 括 す る言 葉 で あ る.人
間生 活 に
お い て作 業 す る こ と は ご く自然 な活 動 で あ り,生 命 を維 持 す るた め に重 要 な役 割 を担 っ て い る.縄 文 時 代,人 を した.そ
して,動
間 は 生 命 を維 持 す る た め に,道 具 を作 り,狩 り
物 を食 す る た め に 火 をお こ した.時 代 が 進 み,弥 生 時 代 に
は 農 作 物 を作 り,収 穫 し て生 命 を維 持 した.科 学 が 発 展 し,日 進 月 歩 で 生 活 様 式 が 変 化 す る現 代 社 会 にお い て も,同 様 に人 間 は 生 命 維 持 の た め に作 業 活 動 を 行 っ て い る. したが っ て,人
間 は食 生 活 を確 立 す る こ と で生 命 維 持 を行 い,知 力 や 体 力 を
養 い,生 活 を仕 事 へ と発 展 させ,さ
らに 文 明 や 産 業 を繁 栄 させ た.つ
ま り人 間
は 作 業 活 動 と生 活 に お い て相 対 的独 立性 や 相 互 依 存 性 の 関係 の 中 で 共 存 共 栄 し て き た. b.作
業 活 動 と作 業 療 法
こ の作 業 活 動 と呼 ば れ る 日常 的 に毎 日平 凡 に繰 り返 さ れ る 生 活 活 動 を治 療 手 段 と して 活 用 して い るの が 作 業 療 法 で あ る.実 際,作 業 療 法 は身 体 的 ・精 神 的 分 野 にお い て 障 害 の あ る も の に対 し,作 業 活 動 を 利 用 して 医療 ・福 祉 ・保 健 の 分 野 で 活 躍 して い る.作 業 療 法 に お け る 作 業 活 動 の 時 代 的要 約 をみ る と,精 神
的領 域 は ヨー ロ ッパ を 中 心 に 精 神 障 害 者 を 対 象 に そ の 効 果 が 示 さ れ た.ま た, 身体 的 領 域 は 第 一 次 世 界 大戦 時,戦 争 の 戦傷 者 の 身体 障 害 者 に利 用 さ れ,そ の 効 果 が 着 目 され た. 西 暦172年 に,ガ
レ ン は木 工 作 業 や 農 業(土
掘 り)な ど を 精 神 障 害 者 に処 方
し,身 体 面 ・精 神 面 に一 定 の 効 果 を得 て,「 仕 事 を す る こ とは,自 然 の 中 で最 善 の 医 師 で あ り,人 間 の幸 福 に不 可 欠 な もの で あ る」 と提 唱 した.健 康 に生 活 を送 る た め に は作 業 活 動 は絶 対 条 件 と い え る. 人 間 は,仕 事(目
的 動 作)を
どの よ う に活 用 す るか が,そ
の 発 達 に影 響 を与
え る とい う能 動 的 な 存 在 で あ る.す な わ ち,人 間 は,外 的 ・内 的 因 子 の 影 響 に よ る主 観 的 動 機 に よ っ て仕 事(目
的 活 動)を 行 い,自
らの 身体 的 ・精 神 的 ・社
会 的 環 境 に 直 接 影 響 を与 え る こ とが で き る存 在 で あ る.し か し,た だ 仕 事(目 的 動 作)を
行 う だ け で 健 康 な生 活 を 得 られ る わ け で は な く,仕 事 の 選 択 や 仕 事
量 の 決 定,環 境 因子 や ラ イ フス タ イ ル 等 多 くの 要 素 が 相 ま っ て 身 体 的 ・精 神 的 幸 福 を手 に 入 れ る こ とが で き る. 作 業 活 動 の こ う した 過 程 の 中 で,健 康 を促 進 す る 因 子 を模 索 し,仕 事(目 的 動 作)に
適 応 させ て い くこ とで 健 康 を 得 や す い状 況 と な る.ま た,過 程 を阻 害
す る 因 子 を 模 索 す る こ と に よ り不 健 康 の 原 因 を見 つ け,そ れ を改 善 し促 進 す る 因子 へ と変 化 させ る こ と に よ っ て 身体 的 ・精 神 的 に よ り健 康 に近 い状 態へ と変 化 させ る こ とが で きる. c.作
業 活動の分類
作 業 活 動 は,① 関 連 活 動(家 活 動(ス
日常 生 活 活 動(基
事,育
ポ ー ツ,レ
児,近
本 動 作,食 事,排
隣 へ の 外 出 な ど),③
泄,入 浴 な ど),②
仕 事(生
ク リ エ ー シ ョン,趣 味 活 動 な ど),⑤
産 的 活 動),④ 休 息(睡
生活 余暇
眠)に 大 別
す る こ とが で き る. 作 業 活 動 を 継 続 す る こ とに よ り,そ の作 業 的 行 動 は 真 剣 な も の か ら軽 薄 な も の ま で,公 式(公
的)な
非 生 産 的 活 動 まで の2つ
もの か ら非 公 式(私
的)な
もの まで,生 産 的活 動 か ら
の範 囲 の ど こ か に 位 置 す る.
こ れ らの 諸 活 動 を行 うた め,人 間 に は 運 動 機 能,感 (行 為 概 念 機 能,認 し,実
知 機 能,言
語 機 能),心
理 機 能,社
覚 統 合 機 能,高 次 脳 機 能 会 適 応 機 能 な ど を統 合
に 精 巧 に,環 境 に 適 した 作 業 遂 行 能 力 を 作 り,心 身 の 健 康 を保 っ て い
る. 作 業 活 動 を人 間 は 利 用 し,そ れ ぞ れ に正 と負 の利 用 結 果 を出 した.正 結 果 と して は,身 体 諸 機 能 の 維 持 や 向 上,知 さ,日 常 生 活 の 安 定,自 る.ま た,負
己 啓 発,社
の利 用 結 果 と して は,例
的 能 力 の 向 上,対
の利用
人交 流の 円滑
会 的価 値 観 の 認 識 や 向 上 な どが 挙 げ られ え ば,腰 痛 や 疲 労 な どの 身 体 的症 状,心
理 的不 安 定 や 精 神 科 疾 患 な どの 精 神 的 ス トレス等 が 挙 げ られ る. d.作
業 活 動 と身 体 的 側 面
人 間 は,脳
・脊 髄 の 中枢 神 経系 と脳 神 経 ・脊 髄 神 経 ・自律 神 経 の 末梢 神 経 系
を 有 して お り,こ れ らの 神 経 系 は 複 雑 な 構 造 の うえ に 豊 富 な刺 激 を 必 要 とす る.こ の 刺 激 は乳 幼 児 期 ・少 年 期 ・青 年 期 ・成 人 期 ・壮 年 期 ・老 年 期 の そ れ ぞ れ に環境 が 存 在 し,各 期 に 適 した 活 発 な社 会 参 加 が 重 要 とな る. 乳 幼 児 期 ∼ 青 年 期 を成 長 期,成 人 期 ∼ 高 齢 期 を維 持 期 と大 別 して整 理 す る. 成 長 期 に お け る子 ど も の神 経 系 お よ び筋 骨 格 系 は,あ
そ び とい う作 業 活 動 を通
じて学 習 し成 長 す る.あ そ び は,成 長 期 の神 経 系 が 要 求 す る運 動 プ ロ グ ラム に 重 要 な刺 激 を与 え,環 境 適 応 す る場 とな る.成 長 期 の 身体 的 構造 は遺 伝 子 レベ ル で の 定 め ら れ た 変 化 も重 要 で あ るが,あ
そ び の 環 境 か ら運 動 神 経 や 感 覚 神 経
が経 験 す る成 長 の 変 化 も多 くの 影 響 を含 ん で い る.あ そ び の 経 験 不 足 は,成 長 後 の維 持 期 に お い て 不 健 康 とな り,多 くの弊 害 を導 くこ と に な る. 維 持 期 の 作 業 活 動 は,成 長 期 で 発 達 した生 物 学 的 機 能 を保 つ た め に 必 要 とな る.例
え ば,神 経 系 機 能(運 動 ・感 覚 ・自律)の
持,関
節 可 動 域 の 維 持,心
ル モ ン等)な (趣味)・
維 持,筋
力 ・筋 持 久 力 の 維
肺 機 能(循 環 ・呼 吸)の 維 持,生
どが 生 理 学 的 機 能 とな る.維 持 期 に は,生
理 機 能(代 謝 ・ホ
産 的 活 動 ・余 暇 活 動
ス ポ ー ツが 主 た る 作 業 活 動 に な り,こ れ らが 不 足 す る とス トレス と
な り,身 体 的 に も多 大 な る 悪 影 響 を及 ぼ す.年 齢 が 若 い と き は,多 少 の ス トレ ス を受 け て も健 康 を維 持 す る こ とが で き るが,壮 年 期 か ら老 年 期 に か け て ス ト レス を受 け る こ と は寿 命 に影 響 を与 え る.こ れ は,人 生 を有 意 義 に 過 ご して い る 人 に 比 べ,無
為 に 人 生 を過 ご して い る 人 が 急 に重 い 障 害 を生 じた り,病 気 に
よ り死 亡 す る こ とが 比 較 的 多 い 傾 向 に あ る こ とか ら もわ か る. こ の よ う に,作 業 活 動 は 人 間 の 身体 的 な健康 を保 つ た め に重 要 か つ 必 要 な も の で あ り,わ れ わ れ の 人 生 を も左 右 しか ね ない もの で あ る と い え る.
e.作
業 活 動 と精 神 的 側 面
作 業 活 動 と人 間 の 精 神 的側 面 の 間 に は,身 体 的 側 面 と同様 に 密 接 な 関係 が あ り,成 長 期 と維 持 期 に分 け て整 理 す る.成 長 期 の あ そ び に は,子
ど も の世 界 観
が 存 在 し精 神 面 に 対 して 重 要 な現 実 的 社 会 の 刺 激 を有 して い る.「 三 つ 子 の魂 百 ま で」 とい う よ う に,成 長 期 に あ そ び か ら学 ぶ 精神 的 経 験 は,維 持 期 にお け る精 神 的社 会 適 応 に 大 き な影 響 を与 え る. 成 長 期 の あ そ び は,肯 定 的 や 否 定 的 な 情 緒 を経 験 させ,同 の 中 で 秩 序 や 上 下 関係,優
じ年 代 の 集 団 社 会
越 感 や 劣 等 感 な ど を経 験 す る.こ れ は,維 持 期 にお
け る社 会 生 活 環 境 の準 備 段 階 と もい え る. 成 長 期 の集 団 や 対 人 関 係 は,成 長 と と もに 家 庭 か ら近 隣,近 隣 か ら学 校(幼 稚 園,保
育 園,小
・中 ・高 等 学 校),そ
して,地 域 社 会 へ と拡 が り,よ り高 度
化 して い く.そ の 中 で子 ど もは,自 分 の感 情 や 周 囲 の 出 来 事 を コ ン トロ ー ル し 成 功 ・失 敗 体 験 をす る.純 粋 な 気 持 ち を もつ 子 ど もが,あ
そ び か ら多 くの経 験
をす る こ と は,創 造 力 を 豊 か に して 将 来 の社 会 生 活 か ら受 け る 多 くの ス トレス に対 す る耐 性 を 養 う こ と とな る. 成 長 期 にあ そ び の 経 験 が 少 な く,ま た は,大 人 か らあ そ び を 奪 わ れ た子 ど も は問 題 解 決 能 力 が 乏 し く,人 間 関 係 調 整 も う ま くで き な い た め,維 持 期 にお け る作 業 活 動(と
くに 生 産 的 活 動)で
失 敗 す る こ とが 多 くな り,そ の 結 果 と して
社 会 生 活 が 不 適 応 に な る可 能 性 が 高 い. 維 持 期 は,自 分 自身 や 家 族 の生 活 を 安 定 させ る た め,作 業 活 動 を 利 用 す る よ う に な る.と
くに,生 産 的 活 動 につ い て は 安 定 した収 入 を求 め て活 動 す る 機 会
が 多 くな る.ま た,生
産 的 活 動 は作 業 能 力 や 対 人 関 係 な どの 自 己評 価 が しや す
く,精 神 的 安 定 を 図 る 手段 と な る.し か し,生 産 的 活 動 に お け る精 神 的 安 定 は 多 くの ス トレス と 表 裏 一 体 で あ り,日 常 生 活 活 動 や 生 活 関 連 活 動,余 (趣 味)な た,老
暇活 動
ど で ス トレ ス を発 散 し,人 生 へ の 活 力 に す る こ とが 重 要 で あ る.ま
年 期 で は 生 産 的活 動 が 減 少 す る た め個 人 の 能 力 は減 退 す る.し か し,多
くの 余 暇 活 動 を通 じ過 去 の経 験 を生 か した活 動 と新 しい活 動 の 探 索 が 刺 激 とな り,有 意 義 な生 活 を送 る こ とに よ り精 神 面 の 健 康 に つ な が る. 健康 を 保 つ た め の 精 神 的側 面 は,公 的 な場 で の 精 神 状 態 と私 的 な場 で の精 神 状 態 と の バ ラ ン ス を良 好 に し,い か に安 定 した精 神 面 を維 持 す るか とい う こ と
が 重 要 で あ る.
8.1.2 生 活 環 境(ハ a.国
ー ド面 と ソ フ ト面)
際 生 活 機 能 分 類(ICF)
ICF(InternationalClassification
of Functioning,Disability
は,障 害 を もつ 当事 者 とそ の 家 族,専
and Health)
門 家 な ど,障 害 に 関 わ る す べ て の 人 の
「共 通 言 語 」 を 目指 し,国 際 障 害 分 類(ICIDH)の
改 訂 版 と して 策 定 され た.
ICF分 類 の 目的 は,健 康 状 況 と健 康 関連 状 況 を記 述 す る た め,統 一 的 で標 準 的 な言 語 と概 念 的 な枠 組 み を提 供 す る こ とで あ り,そ れ に含 まれ る領 域 は健 康 領 域 と健 康 関連 領 域 に 分 類 さ れ る.こ 3つ の 視 点 に立 っ て,①
の2つ の 領 域 は 身体,個
心 身 機 能 ・構 造,②
今 回 の 改 訂 で と くに 注 目 さ れ る 点 は,背 mental factors)と 個 人 因子(personal
活 動 と参 加,に 分 類 して い る. 景 因 子 と して 環 境 因 子(environ
factors)が
くに環 境 因子 は,物 的 環 境 や 社 会 的 環 境,人
人,社 会 とい う
整 備 さ れ た こ とで あ る.と
々の 社 会 的態 度 に よ る環 境 の特 徴
的 が もつ 促 進 因子 と阻 害 因 子 に つ い て整 備 され,環 境 が 個 人 に もた らす影 響 の 重 要性 が 明確 に な っ た と捉 え る こ とが で きる. b.生
活環境
「生 活 」 と 「環 境 」 の 合 成 語 で あ る 生 活 環 境(living
environment)は
多様
な構 成 要 素 を も ち,こ の 用 語 の 使 用 方 法 も多 岐 に わ た る.生 活 環 境 と は,「 生 命 の 営 み を行 う人 間 を取 り囲 ん で い る 世 界 」 で あ り,人 間 と生 活 環 境 は 相 互 作 用 の 影 響 を 及 ぼ す 関 係 とい え る.こ の うち 比 較 的 身 近 な福 祉 を取 り巻 く生 活 環 境 と し て,生 活 環 境 と健 康 に つ い て考 え る こ と にす る. 福 祉 を取 り巻 く生 活 環 境 の ニ ー ズ の 多 くは,子
ど もや 高 齢 者 な どの 援 助 を必
要 とす る場 合 や 障 害 者 ・障 害 児 な ど の 介 護 を必 要 とす る 場 合 な ど,自 宅 や 地 域 社 会 で の 日常 的 な 生 活 の 問題 解 決 の た め に表 面 化 され る.こ れ ら環 境 面 に対 す る ニ ー ズ は,大
き く物 的 な もの(ハ
ー ド面)と
人 的 な もの(ソ
フ ト面)に 分 け
る こ とが で き る. c.ニ
ー ズ とデ ィマ ン ズ
人 間 は 自 己 の 希 望 を 「ニ ー ズ(needs)」
と 「デ ィマ ンズ(demands)」
とい
う形 で 表 現 す る.ニ ー ズ とは 「必 要 性 」 「希 望 」 「願 い 」 等 と言 い換 え る こ とが
で き,人 間 が 自己 の 内 面 で 考 え て い る 本 心 で あ り,他 者 に向 け て あ ま り表 現 を し な い.デ
ィマ ンズ は 「要 求 」 「欲 求 」 「請 求 」 な ど とい う言 葉 に 置 き換 え る こ
とが で き,言 葉 や 態 度 で 外 部 に 向 け て 表 現 さ れ る.デ
ィマ ンズ は,本 心 で 考 え
て い る 内 な る 感 情 の ニ ー ズ が 部 分 的 に表 現 され る こ とが 多 い.例
え ば,「 玄 関
の 段 差 を 解 消 して ほ し い」 と表 現 され た場 合,「 段 差 解 消 」 は デ ィマ ンズ とな り,ニ ー ズ は 「外 出 した い 」 とい う こ と に な る. こ れ ら の こ と は,と
くに 生 活 に対 し何 らか の 障 害 を もつ 場 合 に強 く,デ ィマ
ンズ と し て 表 現 され る た め,常 の ニ ー ズ(true
needs)を
に対 象 者 の 深 層 心 理 の 隠 れ た 感 情 を模 索 し,真
見 つ け 出す こ とが,福 祉 を取 り巻 く生 活 環 境 を健 全
に 保 つ こ と に つ な が る. d.物
的 環 境(ハ
ー ド面)に
お けるニーズ
適 した物 的環 境 は 適 した生 活 活 動 を 導 く.そ の 結 果,閉
じ こ も りや寝 た き り
の予 防 と な り,活 動 範 囲 は拡 大 し,生 きる 活 力 が 生 ま れ る.建 築 構 造 が 配 慮 さ れ た もの で あ れ ば,身 体 的負 担 は少 な く疲 労 し に くい.ま た,活 動 で き る空 間 が 広 けれ ば精 神 的 ス トレス が 少 な く,精 神 面 で も健 康 を保 つ こ とが で き る.こ れ ら は健 常 者 や 障 害 者 す べ て の 人 間が もつ潜 在 的 な真 の ニ ー ズ で あ り,福 祉 を 取 り巻 く物 的環 境 の ニ ー ズ は,日 常 生 活 活 動 や 生 活 関連 活 動 を ス ム ー ズ に 行 い た い とい う こ とに密 接 に 関係 し,多
くの手 段 や 方 法 が 用 い られ る.
福 祉 を取 り巻 く環 境 の 代 表 的 な も の に,ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ンの 理 念 を具 体 的 に 実 践 して い く考 え方 の バ リ ア フ リー デ ザ イ ン とユ ニバ ー サ ル デ ザ イ ンが あ る.バ
リ ア フ リー は1960年
代 以 降,米
国 で 身体 障 害 者 に対 す る建 築 物 の段 差
や 扉 な ど,物 理 的 障壁 を解 放 す る と い う意 味 で 広 ま っ た.現 在 で は社 会 生 活 や IT分 野 な どで 広 義 に 使 わ れ て い る.わ が 国 で は,1995(平
成7)年,策
定の
「障 害 者 プ ラ ン(ノ ー マ ラ イゼ ー シ ョ ン7ヵ 年 戦 略)」 の 中 で住 宅 整 備 の推 進 が 示 され,住
ま い や 地 域 で の 活 動 の 場 の 確 保 が 目標 と され た.2003(平
成15)
年 には 「 新 障 害 者 プ ラ ン」 が 策 定 され,目 標 達 成 の た め の具 体 的 数 値 目標 が 掲 げ られ た.こ の 中 で,ユ ニ バ ー サ ル デザ イ ンに よる ま ちづ く りや 住 宅 ・建 築 物 の バ リア フ リー 化 の 推 進 な ど,生 活 環 境 にお け る 重 点 項 目が 示 さ れ た. 1994(平
成6)年
に 「高 齢 者,身
の 建 築 の 促 進 に 関 す る法 律(ハ
体 障 害 者 等 が 円 滑 に利 用 で きる 特 定 建 築 物
ー トビ ル 法)」 が 制 定 され た.そ の 後,わ
が国
で 急 速 に 進 む 高 齢 化 に対 応 し,2003(平 が 拡 大 さ れ,ま
成15)年
の改 正 で特 定 建 築 物 の 対 象
た老 人 ホ ー ム の よ う な 高 齢 者 や 身体 障 害 者 な どが 利 用 す る特 定
建 築 物 に は 「利 用 円滑 化基 準 」 が 義 務 づ け られ た.さ イ ン は,1990(平 (ADA)」
成2)年,米
ら に,ユ ニ バ ー サ ル デザ
国 で 制 定 さ れ た 「障 害 を もつ ア メ リ カ 人 法
に よ り社 会 に広 く知 られ る よ う に な っ た.ユ
は,年 齢 や 身 体 能 力,障
ニ バ ー サ ル デザ イ ン と
害 の 有 無 な ど個 人 の 特 徴 に よ る 区分 が な く,誰 で もが
使 い や す い デ ザ イ ンの こ とで あ り,す べ て の 人 が 安 全 か つ 快 適 な 生 活 が で きる 環 境 づ く り を設 計 段 階 か ら考 えて い る.こ れ ら国 が掲 げ て い る 制 度 の 他 に も各 自治 体 や 企 業 で バ リア フ リー デ ザ イ ン ・ユ ニ バ ー サ ル デザ イ ンに 基 づ い た積 極 的 な 取 り組 み が 行 わ れ て い る.階 段 の横 に 緩 や か な 傾 斜 の ス ロ ー プ を設 置 す る こ とや 介 護 タ ク シ ー ・低 床 型 バ ス の増 加 な どが 例 に挙 げ られ る. 住 居 に お け る ニ ー ズ の 目的 の 焦 点 は 日常 生 活 活 動(床
上 動 作 ・移 動 ・排 泄 ・
入 浴 ・食 事 ・整 容 ・更 衣 ・コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン)の 向 上 と外 出 に 多 く集 中 す る.こ の 目的 を達 成 す る た め の 方 法 と して,住 環 境 整 備(住
宅 改 造)と 福 祉 用
具 の 導 入 が 挙 げ られ る.住 環 境 整 備 の場 所 とそ の ポ イ ン トを 以 下 に ま とめ て整 理 す る. ① 玄 関 ・ア プ ロー チ:手
す りの 設 置 ・ス ロ ー プ の 設 置 ・玄 関 ス ペ ー ス の 確
保 ・上 が りか ま ちの 高 さ調 節 な ど ② 廊 下 ・階段:有
効 幅 員 の確 保 ・床 仕 上 げ ・手 す りの 設 置 ・踏 面 の 幅 と蹴
上 げ の 高 さ調 節 ・各 部 屋 との段 差 解 消 な ど ③ トイ レ:入
り口 や 便 座 の 配 置 ・ス ペ ー ス の 確 保 ・手 す りの 設 置 ・ ドア の
形状 な ど ④ 洗 面 所 ・浴 室:洗
面 台 の 高 さ ・水 道 栓 の 形 状 ・ドア の 形 状 ・出 入 り口 の
段 差 解 消 ・浴 槽 の 形 状 ・床 仕 上 げ ・換 気 と暖 房 設 備 な ど ⑤ 居 室 ・居 間:ベ ⑥ そ の 他:照
ッ ドの 高 さ ・床 仕 上 げ ・移 動 スペ ー ス の 確 保 な ど
明 の 明 る さ ・壁 や カー テ ン等 の 色 彩 ・家 具 の 選 択 や 配 置 な
ど. 以 上 の よ うな 住 居 の 環境 を整 え る こ とに よ り,家 庭 内 の事 故(転 倒 ・転 落 ・ 浴 槽 内 で の溺 死 な ど)を 予 防 し,安 全 で快 適 な生 活 を送 る こ とが で き る. 福 祉 用 具 の 導 入 は専 門 的 な知 識 を必 要 とす るが,杖
や 車 椅 子 な どの 歩 行 支 援
機 器 や 電 動 ベ ッ ド,階 段 昇 降 機,段 差 解 消 器,自 助 具,リ
フ ト等,各
日常 生 活
活 動 に 適 した 機 器 を 活 用 す る こ と で 活 動 の 容 易 さ や 快 適 さ を得 る こ とが で き る.日 常 生 活 活 動 を身 体 的 ・精 神 的 に余 力 を も っ て行 う こ と は社 会 交 流 へ の 活 力 を 生 み,住 環 境 整 備 と調 和 して 外 出 の機 会 を多 く し,健 康 な社 会 生 活 を営 む こ と を可 能 にす る. e.人
的 環 境(ソ
フ ト面)に
お けるニーズ
現 在 の わ が 国 で は,核 家 族 化 や い わ ゆ る 田 舎 離 れ が 深 刻 な 問 題 で あ り,と に農 村 地 域 で は 高 齢 化 が 急 速 に 進 ん で い る.そ 助(介
く
して,高 齢 者 が 高 齢 者 の生 活 援
護)を す る とい っ た結 果 を 生 ん で い る.物 的 環 境 の ニ ー ズ を満 た した と
して も,自 力 で は外 出 や 日常 生 活 活 動 が で きな い 高 齢 者 や 障 害者 は家 族 の介 助 や 人 の 手 を 必 要 とす る.し
か し,介 助 者 が 高 齢 者 の場 合,介
く,当 事 者 の ニ ー ズ を十 分 に満 た す まで に至 らな い.ニ
護力 が非常 に弱
ー ズ が満 た され な い ま
まで ス ト レス が 増 大 す る と家 族 関係 は不 良 とな り関 係 障 害 を生 じ る.一 方 の介 助 者 も腰 痛 や 膝 痛 な どの 身体 症 状 が 出 現 し,ス
ト レス に悩 ま さ れ る こ と に な
る. こ の よ う に,人 的 環境 の 弊 害 は 当事 者 や 取 り巻 く家 族 な どの 身体 的 ・精 神 的 健康 に 悪 影 響 を 及 ぼ す.2000(平 は,こ
成12)年
よ り実 施 さ れ た 介 護 保 険 制 度 で
の よ う な人 的援 助 も視 野 に入 れ て い る.ホ ー ム ヘ ル プ サ ー ビス ・通 所 リ
ハ ビ リテ ー シ ョ ン ・通所 介 護 ・訪 問 リハ ビ リ ・訪 問 看 護 ・短 期 入 所 な どが 代 表 的 な もの で あ る.こ れ らの サ ー ビ ス は 自立 支 援 と個 別 的 尊 重 を理 念 に も ち,対 象 者 の 身 体 お よ び精 神 面 の 支 援 と,介 護 に あ た る 家 族 の 身 体 的 ・精 神 的 負 担 を 軽 減 す る こ と を 目的 に して い る.こ の よ う な介 護 保 険 制 度 のサ ー ビス や わ が 国 に お け る そ の 他 の 制 度 や 資 源 を有 効 活 用 す る こ とは,人 的 環 境 へ の ニ ー ズ を満 た し,物 的 環 境 の 整 備 と相 ま って 健 康 の 定 義 で あ る 「身 体 的,精 神 的,社 会 的 に 完 全 に 良 好 な 状 態 」 に 近 づ い て い く.
8.2 住 環 境 と 健 康
8.2.1 内 的 環 境 と外 的 環 境 フ ラ ンス の 生 理 学 者,ベ
ル ナ ー ル は,人 間 に は2つ の 環 境 が あ る こ と を指 摘
して い る.1つ
は,身 体 を取 り囲 ん で い る環 境(外
は,身 体 の 内部 に あ る環 境(内
的 環境)で
人 間 は,身 体 の 内 部 の 水,酸 素,体
的 環 境)で
あ る.
温 お よ び栄 養 素 の 補 給(塩
な ど)等 の 内 的環 境 を一 定 範 囲 に保 って い る.そ メ オ ス タ シス(homeostasis:恒
あ り,他 の1つ
常 性 の 維 持)と
類,脂 肪,糖
う した 状 態 を 保 つ 働 きを,ホ い う.人 間 は 様 々 に 変 化 す る
外 的環 境 の なか で,内 的 環 境 を維 持 す る こ と に よ り,生 命 を維 持 す る こ とが 可 能 で あ る.
8.2.2 環 境 の分 類 と要 素 一 般 的 に は,環 境 と は外 的 環 境 を 意 味 す る.こ こ で は,外 て 述 べ る.環 境 は 英 語 でenvironmentと
い い,こ
的 環境 を環 境 と し
れ はenviron(取
い う動 詞 か らで きた 名 詞 で あ る.広 い 意 味 で の 環 境 は,人
り囲 む)と
間 を取 り囲 むす べ て
の も の で あ る. 環 境 は,自 然 環 境 と社 会 的 環 境(人 為 的 環 境)と 形 や 気 象,植 や 風,寒
に 分 け られ る.人
間 は,地
物 や 他 の 動 物 な どの 自然 環境 に適 応 して 生 き て きた.同 時 に,雨
さや 暑 さ等 の 刺 激 に対 応 す る 手段 と して,住
まい や 衣 服 な どの 保 護 的
環 境 を作 り上 げ て きた. 環 境 に は,化 学 的 要 因,物 理 的要 因,生 物 的 要 因,社 会 的 要 因 が 含 ま れ る. 化 学 的 要 因 と は,空 気(酸
素,炭 酸 ガ ス,窒 素,一
で あ り,物 理 的 要 因 と は,気
候(温
度,湿
た,生 物 的 要 因 は,植 物,動 物,細 菌,ウ 化,産 業,教
8.2.3 住
育,経
環
済,交 通,人
度,気
酸 化 炭 素),水,粉 流),熱,光,音
塵など な ど,ま
イ ル ス等 で あ る.社 会 的 要 因 は,文
な どで あ る.
境
人 間 の 住 居 は,社
会 的 環 境 に分 類 され るが,自 然 環 境 の 影 響 を 受 け なが ら,
様 々 な 環 境 要 因 に よっ て 構 成 され て い る.生 活 の 主 要 な 場 で あ る住 居 環 境 の要 因 と健 康 につ い て 考 え て み る. a.空
気
空気 は,生 命 を維 持 す るた め に必 要 不 可 欠 な酸 素 を 含 ん で い る.空 気 中 の酸 素 含 有 量 は20.9%で
あ る.人
間 は 酸 素 を取 り込 み,体
内 で 生 じた 二 酸 化 炭 素
(CO2;炭
酸 ガ ス)を 排 出 して い る.大 気 中 の二 酸 化 炭 素 は0.03%で
呼 気 中 の 二 酸 化 炭 素 は4%で
あ る が,
あ る(表8.1).
閉 め 切 っ た 部 屋 の 中 に,長 時 間,ま た は大 勢 の 人 間が い る と,酸 素 濃 度 が低 下 し,二 酸 化 炭 素 が 多 くな る.室 内空 気 汚 染 の 指 標 と して,二 酸 化 炭 素 が 用 い られ る.日
常 生 活 の 許 容 濃 度 は0.1%で
あ る.室 内 の 空 気 を清 浄 に保 つ た め に
必 要 な 新 鮮 空 気 量 が 必 要 換 気 量 で あ り,炭 酸 ガ ス 濃 度 を基 準 と して,次 式 よ り 求 め られ る.
必 要 換 気 量(m3/時)= 室 内 に発 生 す る炭 酸 ガ ス 量(m3/時) 炭 酸 ガ ス の 許 容 度(0.1%)‐ 新 鮮 外 気 中 の 炭 酸 ガ ス濃 度(0.03%)
b.水 人 間 の 体 重 の60∼70%は パー セ ン トを 失 う と,生
水 で あ る.そ 命 の 危 険 に 陥 る.生
の10%を
失 う と 脱 水 に な り,20
命 を 維 持 す る た め に は,1日
外に 排 出 さ れ る 量 と 同 じ 量 の 水 を 摂 取 し な く て は な ら な い.成 1500∼2500mlの
水 分 摂 取 が 必 要 で あ る(表8.2).
表8.1 空気 の成 分
表8.2 成 人 の1日
の 水 分 出納 量
人 で は,ほ
に体 ぼ
ま た,水 は,飲 水 用 だ け で な く,料 理,洗
濯,浴 用,清 掃 な どの 生 活 用 水 も
必 要 で あ る.日 本 で は,上 水 道 が 完 備 され て お り,安 全(病 原 性 微 生 物,有 物 質 を含 まな い)で,使 (臭 い,濁
害
用 上 不 便 が な い(着 色 が な い,軟 水 で あ る),不 快 感
り)の な い 水 が供 給 され て い る.
一 方,2003年
の 日本 の 下 水 道 普 及 率1)(処 理 人 口/総 人 口)は66.7%で
り,英 国(96%,1993年)の
あ
よ う な 先 進 諸 国 に 比 べ て 極 め て低 水 準 で あ る.
下 水 とは,市 街 地 の不 要 な水 の 総 称 で,汚 水(家 意 味 して い る.下 水 は,多
庭排 水,産 業 排 水)と 雨 水 を
くの 有 害 物 質 を含 み,汚 水 氾 濫 を起 こ す 等,生
活環
境 に悪 影 響 を及 ぼす の で,早 急 な 下 水 道 の 普 及 が 必 要 で あ る. c.採
光 と照 明
日光 を 室 内 に取 り入 れ る場 合 が 採 光 で あ り,白 熱 灯 や 蛍 光 灯 な どの 人 口 光 源 に よ っ て 明 る さ を得 る場 合 が 照 明 で あ る.明 る さが不 適 切 で あ る と,近 視 や 眼 精 疲 労 な どの 障 害 を起 こ しや す く,不 快 感 や 目の 疲 労 感,作 業 能 率 の 低 下 を生 じる. 建 築 基 準 で は,採 光 に 有 効 な 窓 の 広 さ に床 面 積 に対 す る割 合 の 下 限 を決 め て い る.住 宅,病 院 で は7分
の1以 上,保 育 所 や学 校 で は5分 の1以 上 と な っ て
い る. 照 明 の 方 法 に は,あ る 部 分 の み を 明 る くす る 局所 照 明 と,部 屋 全 体 を 明 る く す る全 般 照 明 とが あ る.ま
た,光 源 を直 接 用 い る直接 照 明 と反 射 光 を利 用 す る
間接 照 明 が あ る. 直 接 照 明 で は,強 い光 源 に よ り不 快 感 を生 じ,も の が 見 え に く くな り,視 力 の 低 下 を きた す の で,視 線 か ら30度 以 内 の 範 囲 に強 い 光 源 な どの 輝 きの 強 い もの を置 か な い よ う に 配慮 す る必 要 が あ る. d.室
内 気候
室 内 気 候 は,温 度,湿
度,気
流 の 要 素 が あ る.人
間 の 温 熱 環 境 と して 温 冷
感,快 適 感 な どの 指 標 とな る. 総 合 的 な 環 境 指 標 と し て は,気 温 と湿 度 か ら不 快 指 数(discomfort が 算 定 さ れ,夏 期 の 蒸 し暑 さ等 を評 価 す るの に容 易 な方 法 で あ る. 不 快 指 数=0.72(Ta+Twb)+40.6 Ta:乾
球 温 度,Twb:湿
球温 度
index)
有 効 温 度(感
覚 温 度:effective
temperature)は,乾
流 の 条 件 を 変 え た と き の 体 感 反 応 が 算 出 で き る.日 る 快 感 域 は,冬
季 で は19±2℃,湿
湿 度45∼65%で
あ り,春
度40∼60%で
球 温 度,湿 本 人 に と っ て,快 あ り,夏
球 温 度,気 適 と感 じ
期 は22±2℃,
季 と秋 季 は こ の 中 間 程 度 で あ る.
8.3 歯 と 口 の 健 康
歯 と 口 の 健 康 と は,適 切 に 発 育 ・成 長 し,ま た,各 て,最
ラ イ フス テ ー ジ に お い
良 な状 態 で そ の 機 能 が発 揮 され る状 態 とい え る.
しか し な が ら,「 歯 と 口 の健 康 」 は全 身 の 健 康 か ら独 立 した も の で な く,あ くま で も身 体 各 部 の 良 好 な状 況 と密 接 に関 連 して い る こ とを 理 解 して お か な け れ ば な ら な い.ま
た,近
運 動 」(80歳 で20歯
年,生
涯 自分 の 歯 で 食 べ る こ と を 目的 と し て 「8020
以 上 の 歯 を残 す)が 提 唱 され て い る2).
8.3.1 歯 と 口 の発 育 成 長 歯 と口 の 健康 に つ い て 考 え る と き,各 時 期 に 応 じ た適 切 な 発 育 成 長 に つ い て 知 らな け れ ば な らな い.各 a.胎
時 期 にお け る発 育 形 成 の 概 略 を示 す(図8.1).
生期
胎 生期 に は,顎 顔 面 お よ び 歯 と 口 の発 育 成 長 が 始 ま っ て い る.顎 顔 面 と 口 を 形 成 す る細 胞 は,お また,胎 生7週
よそ 胎 生4週 か ら口 を 形 成 す る筋 群 や骨 をつ く り始 め る.
か ら,将 来 歯 を形 成 す る細 胞 の 集 ま りで あ る乳 歯 の 歯 胚 が 形
成 され る.さ
らに,表8.3に
る.ま た,歯
に カ ル シ ウ ム が 沈 着 す る石 灰 化 も胎 生 期 か ら始 ま り,永 久 歯 で最
初 に 萌 出す る 第1大 形 成 され,萌 b.乳
示 す よ うに,一 部 の 永 久 歯 の 歯 胚 の形 成 も行 わ れ
臼 歯 の 石 灰 化 は,出 生 時 で あ る.石 灰 化 が 進 み,歯 冠 が
出 す るが,歯 根 の 形 成 は歯 の 萌 出 後 も続 い て い く.
幼 児期
乳 幼 児 期 以 降 も,顎 顔 面 と口 と歯 の形 成 は 進 ん で い く.口 の 中 で は,生 後4 ヵ月 頃 か ら乳 歯 が 萌 出 し,2歳6ヵ
月 頃 に は 乳 歯20歯
の 萌 出 が 終 わ り,乳 歯
列 が 完 成 す る.栄 養 の 摂 取 も歯 の萌 出 と と も に,摂 食 機 能 が 高 ま り,母 乳 や 人 工 乳 か ら離 乳 食,通
常 食 へ 移 行 して い く.ま た,発 音 を行 う た め の 調 和 の とれ
た筋 群 の 動 きを 習 得 して い く時 期 で もあ る.
図8.1 歯 列
表8.3 歯 の 形成 時 期
(Schour,I.and Massler,M.:Studies in tooth development.The growth pattern of the human teeth, J.A.D.A.27:1778-1793,1940)
c.学
童期 以降
6歳 頃,最 初 の 永 久 歯 で あ る,第1大
臼 歯 の 萌 出が 始 ま り,順 次,乳 歯 と置
き換 わ る よ う に永 久 歯 が 萌 出 して い き,乳 歯 と永 久 歯 が 存 在 す る 混 合 歯 列 期 (永久 歯 と乳 歯 の生 え代 わ り期)を 経 て,お
よそ12歳
す べ て の 永 久 歯 が 萌 出 し,永 久 歯 列 が 完 成 す る.さ
頃 に は 第3大 臼 歯 を 除 く らに,青 年期 まで に顎 顔 面
の発 育 成 長 も終 了 す る3).
8.3.2 歯 と口 の 主 な機 能 歯 と 口 の健 康 を考 え る際 に は,そ の 機 能 を理 解 して お く こ とが 重 要 で あ る. a.咀
嚼
最 も重 要 な歯 と口 の機 能 が,咀嚼 入 れ,そ 下(飲
れ を 噛 み 砕 き,唾 液 と混 ぜ て 食 塊 とい わ れ る 団子 状 の 固 ま り と し,嚥
み 込 む)す
る まで の 一 連 の 活 動 で あ る.咀嚼
異 な る働 きを して い る.前 歯 は,主 た,小
機 能 で あ る.咀 嚼 とは,食 物 を 口 の 中 に
臼歯,大
臼 歯 は,取
に お い て,歯 は 部 位 ご と に
に食 物 を 口 に取 り込 む働 き を して い る.ま
り組 まれ た食 物 をか み砕 く機 能 を担 っ て い る.咀 嚼
を 行 う た め に は,歯 の み で な く,口 の筋 肉,顎
の筋 肉,舌 な どの 連 携 した 運 動
が 行 わ れ て い る.そ の た め,歯 の 喪 失 だ け で な く,顎 関節 症 に よ る顎 の運 動 の 機 能 低 下 な どが 起 き る と,そ の 機 能 は低 下 し,完 全 な食 塊 形 成 が で きな い こ と に よ り胃 や腸 の 消 化 機 能 に負 担 をか け る こ と に な る. また,上
下 顎 の 歯 列 に よ り食 物 を噛 む 動 作 は,唾 液 の分 泌 を促 進 し,食 塊 形
成 を促 進 す る.さ
ら に,脳 の 満 腹 中 枢 に 刺 激 を与 え,過 剰 な 食 事 の 摂 食 を予 防
す る だ け で は な く,精 神 的 な 満 足 感 を与 え る. b.味
覚
咀 嚼 す る こ と に よ り,食 物 中 の 味 覚 成 分 が 唾 液 中 に 溶 出 す る.溶 出 した 味 覚 成 分 は,舌 の 表 面 上 に あ る味 蕾 細 胞 に よ り,甘 味,塩 味,酸 味,苦 味 の4つ の 基 本 的 な 成 分 と して 認 識 さ れ る.こ れ らの4つ
の 基 本 成 分 が 複 雑 にか か わ る こ
と に よ り,そ の 食 物 の もつ 微 妙 な味 覚 を味 わ う こ とが で き る. c.発
音
発 音 は,呼 吸 器 か らは き出 され た呼 気 に よ り,口 腔 や 鼻 腔 の 中で,空 動 し て音 とな る.そ の際,舌
や 口唇,歯
気が振
に よ り,呼 気 の 流 れ を変 え て,そ れ ぞ
れ の音 を 発 す る.し
たが っ て,正
しい発 音 をす る た め に は,口 の 中 の 各 器 官 の
調 和 の とれ た動 きが 必 要 で あ る.そ の た め,欠 損 歯 が あ っ た り,合 わ な い 総 義 歯 を装 着 し て い る場 合,舌
や 口 唇 の 形 態 や 機 能 に異 常 が あ る場 合 には,呼 気 の
流 れ を コ ン トロ ー ル しづ ら くな り,聞 きづ らい 発 音 とな り,コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン に障 害 を生 ず る. d.審
美感
人 を見 る と き,歯 の 色 や 歯 並 び 等,口 の まわ りの 形 態 は,そ
の 人 を 印象 づ け
る 要 素 に な る.無 歯 顎 の 高 齢 者 で は,顎 位 の低 下 に よ り老 人 顔 貌 とな り,実 際 よ り高 齢 な 印 象 を与 え る.ま た,口 元 の 形 態 が 気 に な る た め,と ケ ー シ ョ ン を とる 際 の 障 害 とな り う る.し たが っ て,社
きに コ ミュ ニ
会 的 満 足 感 を得 る た め
に 無 視 で き な い要 因 で あ る.
8.3.3 ラ イ フ ス テ ー ジ別 に見 た 歯 と 口 の健 康 歯 と 口 の健康 を考 え る際 に重 要 な の は,各 育 ・成 長,お a.乳
ラ イ フス テ ー ジ にお い て適 切 な発
よ び機 能 が 行 わ れ て い る か ど うか で あ る.
幼 児期
乳 幼 児 期 は,そ
れ まで の 吸 飲 か ら乳 歯 の 萌 出 に よ り,摂 食 が 始 ま る大 切 な期
間 で あ る.ま た,摂 食 ・燕 下 機 能 や発 音 な どの 口腔 機 能 を獲 得 して い く時 期 で もあ る. 出 生 直 後 の 乳 児 は,母 乳 や 人 工 乳 を飲 む こ とで 栄 養 を摂 取 して い る.そ 際,乳
児 自 身 が 頬 筋 や 口 唇,舌
の
な どの筋 群 を動 か し,口 腔 内 に 陰 圧 をか け られ
る こ とが 重 要 と な る.ま た,先 天 的(胎 生 期)の 主 な 異 常 と して 口唇 裂 ・口蓋 裂 が あ る.口 唇 裂 で は,口 唇 の 癒 合 不 全,ま み られ るが,後 た め,早
た 口蓋 裂 で は 口蓋 骨 の 癒 合 不 全 が
者 の 場 合 に は裂 け た部 分 よ り母 乳 が 漏 れ,栄
養 摂 取 が で きな い
期 の処 置 が 必 要 で あ る.
乳 歯 は生 後6ヵ
月位 か ら萌 出 を は じめ,お
よそ1歳6ヵ
月 で16歯,3歳
で
20歯 が 生 え そ ろ う.乳 歯 の 萌 出 に伴 い 離 乳 が 行 わ れ,離 乳 食 を 摂 取 し,通 常 食 に移 行 して い く.こ の過 程 が ス ムー ズ に移 行 され る こ とが,こ
の 時 期 にお い
て 重 要 で あ る.ま た,乳 歯 は,う 蝕 に罹 りや す い た め,保 護 者 に よ る仕 上 げ磨 き と と もに,幼 児 自身 が 歯 み が きの 習 慣 を 身 に つ け て い く大 切 な 時 期 で あ る.
1)胎
生 期 に お け る母 親 に対 す る注 意
胎 生 期 に は す で に歯 と口 の 形 成 が 始 ま っ て お り,胎 児 の 正 常 な発 育 の た め に は,肉 や 魚 な どの 良 質 の タ ンパ ク質 と カ ル シ ウ ム の摂 取 が 必 要 とな る.ま た, 異 常 や 奇 形 が 生 じる 原 因 と して,母 胎 の 栄 養 障 害,感 ジ フ テ リ ア),放 射 線 の 被 爆(レ
ン トゲ ン検 査),一
染性 疾 患(梅 毒 ・風 疹 ・
部 の 薬 物 の 摂 取 も原 因 と な
る こ とが あ る の で,早 期 の 受 診 と受 診 時 に,医 師 ・歯 科 医 師 ・薬 剤 師 な ど に妊 娠 して い る こ と を告 げ る こ と に よ り,薬 物 の 投 与 や レ ン トゲ ンに よる リス ク を 防 ぐ こ とが で き る.ま た 飲 酒 や 喫 煙,ス 2)出
トレス 等 も原 因 と な る こ とが あ る4).
生 後 の 健 康 に対 す る注 意
一 般 的 に,乳 幼 児 期 に は 個 体 差 が 多 くみ られ る.し た が っ て,歯 の 萌 出 時 期 や 発 音 な ど,歯 や 口 に 関 して 成 長 が 遅 くて もす ぐに 気 にす る必 要 は な い.個 体 差 を 十 分 に 配 慮 して乳 幼 児 の 発 育 を見 守 っ て い く必 要 が あ る. 1歳 前 後 か ら,離 乳 が 始 ま るが,固 形 の 食 物 を摂 取 す る た め に は,咀 嚼 が 必 要 で あ る.咀 嚼 は,噛 む こ とだ けで な く,舌 や 口 の 筋 肉 の 調 和 の とれ た 運 動 が 必 要 で あ る.咀 嚼 や 嚥 下 が 自然 に行 え な い 場 合 に は,家 族 だ け で悩 まず,市
町
村 保 健 セ ン ター 等 で行 わ れ て い る相 談 を利 用 す る こ とが 重 要 で あ る. また,乳
歯 の う蝕 予 防 で は,萌 出直 後 の 歯 は,エ ナ メ ル質 の 結 晶構 造 が 未 完
成 で あ る た め,容 易 に う蝕 に な りや す い.乳 幼 児 は,自 分 自身 で は 歯 み が きを 完 全 に行 う こ と は不 可 能 で あ る た め,臼 歯 の 噛 み 合 わ せ の面 や 歯 と歯 の 間 な ど は,う 蝕 の 原 因 とな る プ ラー ク(細 菌 の 集 合 体)が 保 護 者 に よ る仕 上 げ 磨 き は,重 要 で あ る.ま
沈 着 しや す い.そ の た め,
た,乳 歯 う蝕 は 進 行 が 早 い た め,
早 期 の 歯 科 受 診 が 必 要 で あ る.う 蝕 予 防 の た め に,歯 科 医 院 に お け る フ ッ化 物 の 塗 布 や 保 育 園 な どで の 集 団 応 用 と して フ ッ化 物 の 洗 口が 行 わ れ て い る.さ
ら
に,市 販 され て い る 子 ど も用 歯 みが き剤 に もフ ッ化 物 が 配 合 され て い る. 次 に,不 良 習 癖 で あ る.乳 幼 児 で は,指 とん ど の 場 合,3歳
しゃ ぶ りを して い る者 が 多 いが,ほ
前 後 に は行 わ れ な くな る.し か しな が ら,そ の 後 も続 け て
い る と,歯 列 不 正 が 発 生 す る場 合 もあ る.原 因 と して は,親 子 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの 不 足 か ら行 わ れ て い る場 合 が 多 い の で,会 話 や 親子 あ そ び等 を通 じて コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン を積 極 的 に 図 る こ とが 重 要 で あ る. わ が 国 で は,母
子 保 健 法 に基 づ き,「 母 親 教 室 」,「1歳6ヵ
月 児 健 診 」,「3
歳 児 健 診 」 が す べ て の 市 町村 で 行 わ れ て お り,健 診 時 に は,歯 科 検 診 や 栄 養 相 談 も行 わ れ て い る. b.学
童期
こ の 時 期 は,歯
と口 の 機 能 が 完 成 して い く時期 で あ る.し た が って,生
え替
わ り時 の 異 常 や う蝕 に よ る機 能 の低 下 が 起 きな い よ う に,十 分 な 注 意 が 必 要 な 時 期 で あ る. 6歳 頃 か ら永 久 歯 が 萌 出 し始 め る.永 久 歯 の歯 冠 が 完 成 し萌 出 す る準 備 が で き る と と もに,す
で に あ る乳 歯 の 歯 根 は吸 収 され 脱 落 す る.こ の よ う な生 え替
わ りは,お お よそ12歳
頃 ま で 続 き,永 久 歯 列28歯
が 完 成 す る.こ の 時 期 以 降
か ら永 久 歯 列 に よ る噛 み 合 わ せ が 始 ま り,咀 嚼 能 力 も高 ま り,成 人 期 に移 行 す る大 切 な時 期 で あ る.ま た,う 蝕 罹 患 性 が 高 く十 分 な注 意 が 必 要 な 時 期 で もあ る.さ
らに,口 腔 内 の不 潔 に よ る歯 肉 炎 の 発 生 や 顎 関節 症 につ い て も注 意 しな
け れ ば な らな い. この 時 期 の健 康 に対 す る注 意 と して は,生 る か に 注 意 す る と よい.こ 乳 歯 が,永
え替 わ りが ス ム ー ズ に行 わ れ て い
の 生 え替 わ りが ス ム ー ズ に 行 わ れ る た め に は,①
久 歯 の 完 成 を待 っ て 自然 に脱 落 す る こ と,②
ズ に対 応 して 発 育 して い る こ と,の2点
顎骨 が永 久歯 のサ イ
が 重 要 と な る.乳
歯 は,う 蝕 罹 患 性
(む し歯 の な りや す さ)が 高 く,生 え 替 わ りが 行 わ れ る ま で に,う 蝕 に よ り喪 失 しな い よ う にす る こ とが 大 切 で あ る.ま た,生
え替 わ り時期 を終 え て も乳 歯
が 残 っ て い る場 合 もあ り,こ の よ う な と きに は,歯 科 医 を受 診 し,生 え 替 わ る 永 久 歯 が あ るか を レ ン トゲ ンで確 認 す る必 要 が あ る.ま 常(歯
列 か ら大 き く外 れ て い る),歯
の 傾 斜,反
た,永 久 歯 の位 置 の 異
対 咬 合(下
顎 の歯列 が上 顎の
歯 列 よ り前 方 に位 置 して い る)の 場 合 に は,十 分 な 噛 み 合 わせ が で き な い こ と もあ る の で,矯 正 治 療 の 必 要 性 も考 慮 す べ きで あ る. 顎 骨 の成 長 は,よ い る.し
く噛 む こ とに よ り,骨 芽 細 胞 が刺 激 され る こ とが 関係 して
た が っ て,幼
児 期 か ら柔 らか い 物 ば か りを 与 え な い こ とが 大 切 で あ
る.し か し,顎 骨 の 発 育 に は,個
人 差 や 遺 伝 に よ る影 響 も大 きい た め,噛
み合
わ せ が 不 正 で あ る場 合 に は,歯 科 医 師 に よ る診 断 を受 け,必 要 に応 じ て矯 正 治 療 が 必 要 で あ る. 永 久 歯 の う蝕 予 防 につ い て は,と
くに混 合 歯 列 期 は,乳 歯 と永 久 歯 が 混 在 し
て い る た め,歯
み が き に よ る プ ラー ク 除 去 が 難 し く,注 意 が 必 要 で あ る.ま
た,乳 歯 と同 様 に 萌 出 直 後 の永 久 歯 は う蝕 罹 患 性 が 高 い た め,早 期 の 歯 科 受 診 と治療 が 重 要 で あ る.う 蝕 予 防 と して は,歯 み が きが 重 要 で あ り,フ
ッ化 物 の
応 用 も効 果 的 で あ る. 歯 肉 炎 の 予 防 に つ い て は,と 要 で あ る.歯
肉炎 は,プ
く に,プ ラ ー ク の付 着 に よ る歯 肉 炎 に注 意 が 必
ラ ー ク 中 の 細 菌 の 毒 素 が起 因 と な り,歯 肉 表 層 の炎 症
が 生 じる疾 患 で あ る.歯 肉 の発 赤 ・腫 脹 が 主 な症 状 で あ る.歯 肉 炎 は,可 逆 性 の疾 患 で あ り,歯 み が きに よる プ ラー ク を除 去 す る こ と に よ り改 善 す る. 顎 関節 症 につ い て は,咀 嚼筋 の 異 常 や 緊 張 や 噛 み 合 わ せ の不 調 和,ス 等 に よ り発 症 す る.主
な症 状 は,開
口障 害,噛
トレス
み 合 わ せ 時 の疼 痛 ・関 節 雑 音 で
あ る.生 活 に支 障 が 出 る場 合 もあ り,早 期 の 受 診 が 必 要 で あ る. c.成
年 期 か ら高 齢 期(持
続 的 に 口腔 機 能 を維 持 す る時 期)
こ の 時 期 は,完 成 した歯 と口 の 機 能 を保 持 増 進 す る と と もに,加 齢 に よ る機 能 の 低 下 に順 応 して い く時 期 で あ る.10代
後 半 の 比 較 的 早 い 時 期 に,完 成 し
た 歯 と噛 み 合 わせ は,生 涯 使 用 す る こ と に な る.し か しなが ら,わ が 国 の現 状 で は,歯 は 成 人 期 以 降,歯 周 炎 と う蝕 に よ り喪 失 して い く.図8.2に よ うに,歯 の 喪 失 は 加 齢 と と も に進 行 し,70歳 で約12歯,80歳
み られ る
で 約7歯
とな っ
て い る5).し た が っ て,歯 周 炎 の 予 防 が 重 要 と な る.喪 失 した 歯 の 部 分 は,補
図8.2 1人 平均 の年 代 群 別 平 均 現 在 歯 数 (厚 生 労働 省 医 政 局 歯科 保 健 課編:平 成11年 歯 科 疾 患 実 態 調 査 報 告,1999)
綴 物 の使 用 に頼 る こ と と な る.し か し なが ら,補 綴 物 の使 用 で は,咀 嚼 能 率 は 大 き く低 下 す る た め,自 分 の 歯 を残 す こ とが,高
齢 期 を快 適 に過 ごす た め に 大
切 で あ る6). ま た,全 身 の 機 能 が 低 下 す るの と同 様 に,口 の 中 で も機 能 の低 下 が 起 きる. 唾 液 腺 は,唾 液 の 分 泌 量 が低 下 し,嚥 下 や 発 音 な どに 支 障 が 生 じる.ま
た,咀
嚼 筋 や 口唇 周 囲 の 筋 群 の運 動 機 能 も衰 え をみ せ る.こ の 時 期 の 歯 の 喪 失 の 多 く は,歯 周 炎 に よ る もの で あ る.こ
れ は,歯 肉 炎 と異 な り,歯 の 土 台 とな る歯 槽
骨 や 歯 周 組 織 の破 壊 を伴 う不 可 逆 性 の疾 患 で あ る.原 因 と して は,プ 付 着,不
良 修 復 物 や 補 綴 物 に よ る 過 剰 な 咬 合 圧,咬
ラー ク の
合 性 外 傷 な どが 挙 げ られ
る.予 防 と して は,歯 磨 きに よる プ ラ ー ク 除 去 が 重 要 とな る.歯 周 炎 は,多 の 場 合,無
く
自覚 に 進 行 す る た め,定 期 的 に 歯 科 健 診 を 受診 す る こ とが 重 要 で あ
る.ま た,口 腔 が ん に も注 意 して も ら い た い. が ん 全 体 に 占 め る 口腔 が ん の 割 合 は,数 は,放
置 した う蝕 の 鋭 縁 や補 綴 物,充
パ ー セ ン トと少 な い.原
因 と して
填 物 の 鋭 縁 に よ る慢 性 的 な機 械 刺 激 や
喫 煙 が 挙 げ られ る. 補 綴 物(義
歯)の 使 用 に つ い て は,歯 の 喪 失 後,顎 提(歯
た 軟 組 織 と骨)の
の土台 となってい
吸収 は 進 み,形 態 が 変 化 して い くの で,義 歯 の 機 能 を維 持 し
安 定 させ る た め に,顎 堤 の形 状 に合 わせ て 義 歯 の 形 態 修 整 や 再 製 作 が 必 要 とな る.
8.4 子 育 て 支 援 法
近 年,女 性 は社 会 へ 進 出 し,結 婚 後,母
親 に な っ て も,引 続 き仕 事 を継 続 し
た り,あ るい は,新 た な仕 事 に 従 事 す る 人 が 多 くな っ て きた.そ も の育 児 を保 育 現 場 へ 依 頼 す る 母 親 が 増 加 した.つ
の た め,子
ど
ま り,今 日で は,わ が 国 の
母 親 の多 くに,仕 事 と育 児 を両 立 させ よ う とす る実 態 が あ る.こ
の こ とは,母
親 が 家 事 や 育 児,仕 事 な ど多 様 な ス ト レス を受 け なが ら生 活 して い る こ と に な り,子 ど もへ の 影 響 も少 な くな い と考 え られ る. こ の よ うな 状 況 に対 して,保 育 者 を は じめ とす る育 児 支援 者 は,母 親 の健 康 管 理 や ス トレス マ ネ ジ メ ン ト,育 児 に つ い て 支援 を し,母 親 が よ り良 い心 身 の
コ ンデ ィ シ ョン を保 ちつ つ,子 育 て に臨 ん で も らえ る よ う,援 助 して い く必 要 が あ る.こ
こで は,保 育 現 場 にお け る 母 親 の子 育 て 支 援 の あ り方 に つ い て,具
体 的 な方 策 を論 じて み た い.
8.4.1 子 育 て 支 援 の基 本 子 育 て支 援 には,保 育 者 と保 護 者 との 信 頼 関係 を つ くって い くこ とが 大 変 重 要 で あ る.そ れ に は,少
しず つ の 積 み重 ね が 大 切 で,日
々の 保 育 の 中 で,保 育
者 が 一 人 ひ と りの 子 ど も を尊 重 して,一 生 懸 命 に 関 わ っ て い くこ とが 前 提 とな る.そ
して,両 者 が お 互 い を 見 て 受 け入 れ なが ら,心 か ら話 し合 え る よ う に な
る こ とが 一 番 望 ま しい.子 育 て 支 援 は,保 護 者 と の 日常 の 挨 拶 や 会 話(コ
ミュ
ニ ケ ー シ ョ ン)を 大 切 に し,話 を 聞 い て も ら え る とい う保 護 者 の 安 心 感 か らス タ ー トす る.安 心 して 話 が で き る よ うに な る と,自 ず か ら信 頼 関 係 が 深 ま って くる.そ の た め に は,ま ず,保
育 者 自 身 が 子 育 て の楽 し さ を実 感 す る こ と も大
切 で あ る. 助 言 や 指 導 は,保 護 者 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが 十 分 とれ る よ う に な る ま で,焦
らず,じ
っ く り待 つ こ と も大 切 で あ る.基 本 的 に は,保 育 者 が 保 護 者 の
思 い を共 有 し,と もに 育 っ て い くこ とを忘 れ な い こ とで あ る.そ れ に は,保 護 者 の気 持 ち を理 解 しな が ら,と
も に子 育 て をす る姿 勢 や,保 育 者 と保 護 者 とが
同 じ価 値 観 を もつ こ とが 大 切 で あ る. ま た,子
ど もを よ く知 り,保 護 者 を よ く理 解 す る た め の話 し合 い の 機 会 をつ
く り,そ の と き,保 護 者 が 本 根 を 気 軽 に話 せ る よ う,和 や か な 雰 囲 気 づ く りを して も らい た い.そ
の 際,今
ま で 行 って きた保 護 者 の育 児 方 法 や 育 て 方 を 否 定
し な い こ とが 大 切 で あ る.園
と家 庭 の 役 割 を し っか り把 握 した 上 で,保 護 者 と
の 連 携 を 図 って い くこ とが 求 め られ る. 一 般 に,子 育 て 支 援 の た め の 手 順 と して は,次
の4つ
の 流 れ7)が 考 え られ
る.こ こ か ら は,保 護 者 と し て の母 親 を と り上 げ て 話 を進 め て い く. 1)母
親 の 話(悩 み)を
聞く
話 を 聞 い て,母 親 の情 緒 を安 定 させ て あ げ,悩 み や 訴 え をつ か も う.ま た, 母 親 が 援 助 を必 要 と した と き に は,き 話 を 聞 く と きは,子
ち ん と受 け 止 め る.聞
くだ け で も よ い.
ど もに つ い て の悩 み に相 づ ち を打 ち なが ら聞 き,母 親 とい
っ し ょ に考 え て い こ う とす る姿 勢 で,母 親 の 思 い や気 持 ち に 寄 り添 って い くこ とが 大 切 で あ る. 2)母
親 の して い る こ と を認 め る
「頑 張 っ て い ます ね 」 と,母 親 が 行 っ て い る こ と を ほ め た り,励 ま しの言 葉 を か け て応 援 す る.ま た,母 親 の頑 張 りに よ っ て,子
ど もが 良 い 方 向 へ 変 わ っ
て きて い る 様 子 も伝 え る. 3)母
親の良 い ところをほめる
少 しで も頑 張 っ て い る と こ ろ や 良 い 点 は,誠 実 に ほ め て あ げ よ う.母 親 も誰 か に認 め て も らい た い し,ほ め て も ら う こ とで,情 緒 が 安 定 す る. 4)母
親 に大 切 な こ と を伝 え る
子 ど もは 自分(自
分 の 家 族)で 育 て る とい う認 識 や,育
児に関す るポイ ン ト
等 を具 体 的 に わ か りや す く,か つ,実 践 しや す い よ う に噛 み くだ い て 知 らせ て い こ う.
8.4.2 育 児 支 援 者 の 心 構 え 育 児 支 援 者 に求 め られ る こ とは,支 援 者 自身 が,心 入 れ られ る 人 とな る よ う努 力 す る こ とで あ る.つ
豊 か で,人
を暖 か く受 け
ま り,人 間性 を伸 ばす 努 力 を
し,適 切 な 育 児 の 助 言 者 とな り,良 き 相 談 相 手 に な る こ と だ.ま
た,保 護 者
が,い つ で も相 談 しや す い接 し方 を常 に心 が け て お くこ と も必 要 で あ る.そ の 際,母 親 や 家 庭 に 対 す る先 入 観 を もた ず に接 す る こ とが 求 め られ る. さ らに,支 援 者 自身 が,子
ど もの発 達 や 個 々 の 能 力,個 性 が 出 し切 れ る援 助
の しか た に つ い て も,絶 えず 勉 強 して い か ね ば な ら な い.そ の た め に も,各 種 専 門 家 との 交 流 を図 り,貴 重 な助 言 を得 た り,新 しい 育 児情 報 を得 る努 力 を心 が け て お こ う.こ a.母
こで,保 育 者 が心 が け る基 本 的 姿 勢 を,次
に整 理 して み る.
親 との 対 応 場 面 で の保 育 者 の 姿 勢
「指 導 す る」 と い っ た 気 持 ち で は な く,母 親 と 同 等 の 立 場 に な っ て 考 え た り,話
した りす る 姿 勢 が 大 切 で あ る.母 親 の 抱 え る問 題 は,家 庭 の 問題 や 親 の
責 任 的 問 題 と して 片 づ け る の で は な く,母 親 と同 じ立 場 に 立 つ 努 力 を して話 を 聞 き,親
の 苦 し み や 痛 み を 少 しで も取 り除 け る よ う に 心 が け る.そ
のた め に
も,日 頃 か ら保 護 者 との 挨 拶 を 通 して,母 親 と気 軽 に話 が で き る よ うな 雰 囲 気
づ く り を して お く こ とが 大 切 で あ る. まず は,送 迎 時 に は 暖 か い気 持 ち で接 す る た め に,4つ
の 笑 顔 の 挨 拶 を忘 れ
な い こ とで あ る. ●登 園 の と き ・笑 顔 の 「お は よ う ご ざ い ます 」 ・笑 顔 の 「行 っ て ら っ しゃ い」 ●お 迎 え の と き ・笑 顔 の 「お帰 りな さい 」 ・笑 顔 の 「さ よ うな ら」 ま た,母 親 が 安 心 して 仕 事 に行 け る よ う に,朝 の 受 け入 れ 時 は,園 と して, 保 育 者 の 人 数 を増 や して 対 応 す る こ と も,物 理 的 に は 有 効 な 試 み か も しれ な い.
b.母
親 へ の啓 発 場 面 で 配 慮 す べ き事 項
まず,保
育 者 間 で,保 護 者 へ の啓 発 活 動 に 関 す る共 通 理解 を して お くこ とが
基 本 で あ る.職 員 全 員 が 共 通 の 目標 を も ち,一 貫 した対 応 を し ない と,ス ム ー ズ に支 援 活 動 が で き ない.担 任 一 人 の 意 見 や 考 え で な く,園 全 体 で 話 し合 い, 園 と して の 考 え 方 で 助 言 や 指 導 を行 お う.そ
して,保 育 者 の 経験 や 思 い の 範 躊
か らで な く,保 護 者 の 状 況 を十 分 に 把 握 した上 で,母 親 の ニ ー ズ に合 っ た助 言 を して い くこ とが 大 切 で あ る.と
きに,育 児 指 導 だ け で は な く,悩 み に起 因 す
る 心 の ケ ア を行 っ て い くこ と も必 要 で あ ろ う. そ の た め に も,第 一 に,相 手 の 話 を しっ か り聞 い て あ げ た 上 で,い 考 え た り,と きに は 専 門 的 な立 場 で 助 言 して,よ
っ し ょに
り良 い解 決 方 法 を見 い だす よ
う に して ほ しい.ま ず は,保 育 者 側 の 考 え を伝 え る よ り も,母 親 の 気 持 ちや 思 い,考
え,悩 み,要 望 な ど を よ く聞 い て あ げ よ う.こ の 際,保 育 者 側 か らの 一
方 的 に 決 め つ け た 言 葉 か けや 押 しつ け る よ うな助 言 は,絶 対 に行 わ ない こ とで あ る.と
くに,頭
ご な し に は言 わ な い こ とで あ る.
具 体 的 なや り と りで は,母 親 の話 に 共 感 的姿 勢 で う な ず き なが ら,具 体 的事 例 を 折 り込 み,育
児 へ の 自信 を な くさ な い よ う に励 ま して,話
を進 めて い こ
う.悩 み につ い て は,母 親 が 一 人 で悩 み を抱 え 込 ま な い よ う に,保 育 者 が と も に 考 え て い く姿 勢 が 大 切 で あ る.こ の 場 合,保
育 者 が 母 親 の 立 場 に立 っ て対 応
す る よ う に心 が け る こ とが ポ イ ン トで あ る. 園 で の 子 ど もの 様 子 を話 す と きに は,言 葉 を よ く考 え て,母 親 の 気 持 ち の 中
に,育 児 に 対 す る 向 上 心 が わ く よ う に話 す 必 要 が あ る.つ
ま り,母 親 に伝 えた
い こ とは,誤 解 を招 か な い よ う に十 分 吟 味 し,批 判 的 な言 葉 は使 わ な い よ う に す る.母 親 に 対 して,「 い く ら言 っ て も協 力 して くれ な い」 とい っ た 思 い が 強 す ぎる と,母 親 と の信 頼 関係 が崩 れ るの で,伝
え方 を十 分 に 工 夫 す る こ とが 大
切 で あ る. c.母
親 へ の 啓 発 場 面 で の 伝 達 内 容 と留 意 点
母 親 は,子
ど も の成 長 ぶ りが つ か め な い と,意 識 が 子 ど も に向 か な い.子
ど
もの す ば ら しい 面 や育 って い る様 子 な ど,プ ラ ス 面 の 内 容 を 具 体 的 に伝 え て い って も らい た い の で あ る.子
ど もの 良 い 面 を育 て,良 い 面 を伸 ば し,そ の 様 子
を母 親 に伝 え て い く こ とで 喜 ん で も らい,母 親 と協 力 し合 っ て 子 育 て を す る. と くに,子
ど もが 頑 張 った こ とや 良 か った こ と等 は 必 ず 知 らせ,母
親 の考え を
プ ラス 思 考 に 向 け る こ とが 大 切 で あ る.育 児 の楽 し さや 大 切 さ,喜 び を啓 蒙 し て,焦
らず,不
安 や 不 信 感 を抱 かせ な い こ と で あ る.母 親 に とっ て は,子
ども
の か わ い ら し さや 育 児 の 楽 しさ を伝 え て あ げ る と,大 き な励 ま し に な る.し た が っ て,「 保 育 者 が,わ
が 子 を や さ し く暖 か く見 て くれ て い る」 と い っ た安 心
感 の もて る接 し方 を心 が け て も らい た い. また,保 育 の 中 で 起 きた 出 来 事 だ け で な く,子 ど もの 心 の 中 に潜 む 気 持 ち や 十 分 に 表 現 で き な い思 い を,母 親 に伝 え て い くこ と も大 切 で あ る.母 親 が 行 っ て い る 良 い 点 も認 め,母
親 の 頑 張 りが 見 られ た と きは しっ か りほ め る こ とで あ
る.そ の 後 に,園 側 と して 気 に な っ て い る と こ ろ を少 しず つ 話 して い こ う.た だ し,子 ど も の前 で 悪 い 面 を 親 に伝 え な い こ とが 重 要 で あ る. 保 育 者 と して 言 っ て は な ら な い の は,「 他 の 保 護 者 の 欠 点 」 「差 別 の 言 葉 」 「子 ど も の 成 長 に 期 待 が もて な い よ う な 内 容 」 「命 令 的 な 言 葉 」 で あ る .と く に,否 定 的 な言 葉 は,個 々 を 伸 ば す 企 て に ス ト ップ を か け る こ とに な る.実 際 に は,将 来 へ の 発 展 的 な見 方 を も って 話 を し,な す べ き事 柄 は 身近 に で き る こ と か ら少 しず つ 始 め る よ う助 言 を して い く.保 育 者 の過 去 の 経 験 か ら,い ろ い ろ な事 例 を 話 し,母 親 の 気 持 ち を少 しで も和 らげ て か ら行 う と有 効 で あ る.ま た,保
育者 自身 の子 育 て 失 敗 談 を話 す こ と も,親 近 感 を もっ て も ら う上 で は重
要 で あ る.も して,言
ち ろ ん,母 親 の ニ ー ズ に合 っ た 臨 機 応 変 な対 応 が 必 要 で あ る.そ
い っ ぱ な しに な らな い よ う に,話 や 助 言 を した後 は,再 度,必
ず声 を
か け よ う.つ
ま り,母 親 の 気 持 ち を,繰
り返 し受 け止 め て 返 して い く こ とが 大
切 で あ る. そ の 他,留
意 す べ きこ と と して,プ
ラ イ ベ ー トな家 庭 事 情 に は深 く立 ち入 ら
な い こ と,保 護 者 か らの 相 談 内 容 の 秘 密 は 絶 対 に 守 る こ と を忘 れ て は な ら な い.
d.母
親 へ の ア ドバ イ ス
保 育 者 は,何 事 に も親 身 に な って,誠 意 を も って,事
に あ た る よ う にす る こ
とは もち ろ ん の こ と,母 親 へ の ア ドバ イ ス と して は,「 子 ど も の 良 い と ころ を 認 め る」 「他 の 子 と比 較 し な い 」 「子 ど もの 育 ち を 焦 らず 待 つ こ と も大 切 で あ る」 「子 ど も と し っ か り関 わ る ・ス キ ン シ ップ を もつ 」 「子 ど もの 話 を よ く聞 く」 「子 ど も を ほ め て認 め,任 せ て 見 守 る」 等 を,日 頃 の保 護 者 との 対 話 の 中 で伝 え て い く必 要 が あ る. そ して,こ
の 乳 幼 児 期 が,子 育 て の 中 で 一番 大 切 な 時 期 で あ る こ と を,母 親
に機 会 あ る ご と に伝 え て い くこ とが 求 め られ る.中 る4つ の 時 間 に,4つ
で も,1日
の 笑 顔 とス キ ンシ ップ を も っ て,子
の 中 で節 目 と な
ど も と接 す る よ う伝
え て も らい た い. ●起 床 時 「お は よ う」 して,登
朝 か らせ か さ な い で す む よ う に,生 活 リズ ム を 考 慮
園 まで に最 低1時
間 の ゆ と りを も と う.
●登 園 時 「行 っ て らっ し ゃい 」 ●帰 宅 時 「お 帰 り」 ●就 寝 時 「お や す み 」
朝 か ら叱 らな い よ う に努 め よ う.
園 で の 出 来事 や 楽 しか っ た こ と を 聞 い て あ げ よ う. 安 ら ぎ の 中 で ,良 い夢 が み ら れ る よ う,笑 顔 で接 し
て あ げ よ う. こ の4つ
の場 面 で の 母 親 の 笑 顔 は,子
ど もの 元 気 の源 と な る.ま た,生 活 の
中 で は,子
ど も を ほ め た り,認 め た り,励 ま した りす る こ と を増 や し,子 ど も
の 目を 見 なが ら接 す る よ う助 言 して も らい た い.ま
た,保 育 園 に任 せ っ ぱ な し
の保 護 者 に対 して は,「 保 育 園 は 親 の 代 わ りは で き ない の で,親 は責 任 を もっ て 行 っ て も らい た い 」 こ とを,い くこ とが 必 要 で あ る.
のすべ きこと
ろい ろ な 場 を通 して 啓発 して い
8.4.3 疲 労 度 の 高 い母 親 に 対 す る具 体 的 な支 援 こ こで は,1日
を通 して疲 労 の 訴 え の多 い 母 親 を取 り上 げ,そ
対 す る 具 体 的 な 支援8)に つ い て,ポ a.第
れ らの 母 親 に
イ ン トを提 案 して み る.
一 子 を も つ 母 親 に対 す る支 援
第 一 子 を もつ 母 親 は,第 一 子 誕 生 と と もに 生 活 が 急 変 す るた め,家 事 と育 児 の両 立 に悩 ま さ れ,と
くに,初 め て の子 育 て につ い て,多
くの 不 安 を抱 い て い
る.第 一 子 を もつ 母 親 へ の 具 体 的 な支 援 は,母 親 の子 ど もへ の か か わ り方 や 効 率 的 な 家 事 の しか た,初 め て の 子 育 て の しか た につ い て の 具 体 的 な知 識 と工 夫 の 要 領 を知 らせ る.第 一 子 だ か ら,甘 え た り,わ が ま まで あ る と い う見 方 で は な く,ど の 子 も通 る 過 程 に い る こ とや,個
人 差 や 個 性 と して 捉 え る こ と を知 ら
せ よ う.一 人 で悩 み を抱 え込 ま な い よ う伝 え,い つ で も相 談 に応 じる 姿 勢 を示 して お く. また,地 域 で,親 子 い っ し ょ に集 え る場 を 紹 介 し,積 極 的 に 出 向 く よ う に勧 め た り,そ こ で,母 親 同 士 が お 互 い に励 ま し合 え る こ とや,そ
うす る こ と に よ
っ て,頑 張 れ る こ と を知 らせ る.母 親 一 人 の 負 担 が 大 き くな ら な い よ う,家 族 が 協 力 し合 うこ と も伝 え よ う. b.3歳
未 満 児 を も つ 母 親 に対 す る支 援
3歳 未 満 児 を もつ 母 親 は,日 た り,子 ど もが幼 い た め,手 未 満 児2人
々 の生 活 の 中 で,第
一 子 の 子 育 て に不 安 が あ っ
が か か り,心 身 の 負 担 が 大 きい と思 わ れ る.3歳
を もつ 母 親 へ の具 体 的 な支 援 は,1人
の子 ど も を預 か っ た り,関 わ
っ た りし て,母 親 が1人 ず つ の 子 ど もに 対 応 で きる よ う,実 質 的 な援 助 を行 う と よい.下
の子 に 手 の か か る 時 期 に も,上 の 子 と関 わ る大 切 さや 関 わ り方 の工
夫 を 助 言 す る こ と に よ り,子 ど も の欲 求 を満 た し,母 親 の 不 安 や 悩 み の 軽 減 へ つ な げ て い く. 3歳 未 満 児2人
を も ち,上 の 子 が 退 行 現 象 を お こ した 場 合 は,上 の 子 の 気 持
ち を 代 弁 し,甘 え た い 時 期 で あ る こ と を母 親 に知 らせ る.ま た,家 庭 で は,上 の子 を先 に甘 え させ る こ とを 心 が け る よ うに 助 言 す る.登 園 時 に は,母 親 が 安 心 して 仕 事 に行 け る よ う,下 の 子 を先 に 受 け 入 れ,母 親 が 上 の 子 に 十 分 対 応 で きる よ う援 助 す る.
c.内
職 を して い る母 親 に 対 す る支 援
内 職 を して い る母 親 は,家 庭 と仕 事 の 場 が 同一 で あ り,時 間 や 仕 事 に 区切 り が つ き に くい た め,生 活 に も メ リハ リ をつ け に くい 環境 にあ る.ま た,家 庭 内 に こ も りが ち で,他
の母 親 との 交 流 を図 る機 会 も少 な い た め,気
分転換 や リフ
レ ッ シ ュ の 時 間 が も て な い 傾 向 に あ る. 内 職 を して い る母 親へ の 具 体 的 な 支 援 は,内 職 を して,家 庭 内 に こ も りが ち な 気 持 ち を和 らげ た り,育 児 の ヒ ン トが 得 られ る よ う に,園 行 事 へ 無 理 な く招 待 した り,保 護 者 の活 動 を紹 介 した りし て,他 の 母 親 と楽 し く交 流 で きる よ う に す る.母 親 自身 が リ フ レ ッシ ュ の た め の時 間 を もつ こ とや,時 工 夫 を ア ドバ イス す る.メ
間の 使 い 方 の
リハ リの あ る時 間 の使 い 方 をす る こ とが,自
分 自身
の 気 分 転 換 や仕 事 の効 率 化 につ な が る こ と を知 らせ よ う. d.若
い母 親 に対 す る支 援
若 い母 親 は,初
め て の 子 育 て や核 家 族 の 中 で 育 児 をす る場 合 で の悩 み が 多 い
よ う だ.ま た,育 児 に 対 して不 安 で 悩 ん で い て も,気 軽 に相 談 で き る 人 が 近 く にい な い とい う状 況 下 にあ り,仕 事 の 負 担 に加 え て,新 児 が 合 わ さっ て,肉
しい環 境 で の家 事 や 育
体 的 に疲 れ る だ け で な く,精 神 的 に も負 担 は大 き く な って
い る. 若 い母 親 に対 して は,子 育 て の 方 法 や 細 か な 育 児 情 報 を,そ の 母 親 の 日頃 の 生 活 の様 子 に合 わ せ て,で 母 親 が,保 くる.そ
きる だ け わ か りや す く具 体 的 に 知 らせ て い く.若 い
育 者 に 気 軽 に話 せ,何
で も相 談 で き る よ う な雰 囲 気 や 信 頼 関 係 をつ
して,職 場 の 先 輩 や 同僚,友
だ ち等,よ
き相 談 相 手 を も つ よ う に助 言
す る.
8.4.4 育 児 支 援 の 具 体 的 な 活 動 内容 例 お よび 留 意 点 保 育 者 と して は,子
ど もた ちの 基 本 的 な 生 活 習 慣 づ く りと情 緒 の 安 定 を 図 り
なが ら,生 活 経 験 の 場 を広 げ る保 育 を行 う こ とが 基 本 で あ り,両 親 そ ろ っ て参 加 で き る活 動 や 行 事 を設 け る こ と は,と
りわ け有 効 で あ る.次
に,育 児 支 援 の
具 体 的 な活 動 内容 例 と留 意 点 を示 して お く. 子 ど もが 小 さ い と き か ら,母 親 とい っ し ょに遊 ぶ とい う 「母 子 」 共 通 の世 界 を も つ こ とが 大 切 で,具 体 的 に は,親 子 体 操 や 親 子 ク ッキ ン グ,親 子 遠 足 な
ど,親 子 で と もに活 動 す る機 会 を設 け て い くこ とが 有 効 で あ る.育 児 支 援 の た め に計 画 した 活 動 は,長 い 時 間 を か け るの で は な く,短 い 時 間 で 興 味 づ け る企 画 が 大 切 で あ る. 行 っ て よか っ た と思 え る行 事 の計 画,例
え ば,子
ど もた ち を連 れ て 行 け る 時
間 帯 の 夕 涼 み 会 や 楽 しい 親 子 ク ッキ ン グや 給 食 の 試 食 会 を 計 画 す る.園 開 放 日 を 設 定 し,園 庭 で,親 子 が 自 由 に遊 ん だ り,運 動 した り して,そ れ ぞ れ の 生 活 や ふ れ あ い づ く りに 生 か して も らう.ク
ラス 懇 談 会 ・参 観 日 を利 用 して,子
ど
もの 様 子 や 状 況 を知 らせ て い く.子 ど もの か わ い さ や 子 育 て の 楽 し さ に つ い て,日 頃 の 子 ど も の 写真 や ビデ オ を利 用 して 伝 え て い く.お 便 り ・ニ ュー ス を 入 れ る フ ァイ ル を 園 で準 備 して,綴
じて い く.お 便 り(園 だ よ り ・ク ラス だ よ
り ・給 食 だ よ り ・健 康 だ よ り)や 連 絡 帳 を積 極 的 に 書 き,必 要 な こ とは,そ
れ
らの 中 で 啓 発 す る. 未 入 園 児 の 育 児 支 援 を積 極 的 に行 い,育
児 情 報 の 提 供 と相 談 活 動 を実 施 す
る.送 迎 時 に,お 茶 を準 備 して,気 分 転 換 と コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンづ く りの 場 を 設 け て い く.な お,母
親 の サ ポ ー トにつ い て,家 族 に よ る援 助 と保 育 者 か ら の
精 神 的 援 助 の 面 か ら考 え て み る と,母 親 の 労 働 が 家 族 に援 助 して も らえ る 状 況 な らば,育 児 を1人 で抱 え 込 まず に,協 力 して も ら う こ と に よ り,母 親 の 精 神 的 ・身 体 的 負 担 を軽 減 す る 方 向 へ の 助 言 を し よ う.そ の 際 は,母 親 に 対 して 具 体 的 な 知 識 や サ ー ビ ス を提 供 す るだ け で な く,子 育 て へ の 自信 や 意 欲 を 高 め る よ うな 精 神 的 な サ ポ ー トが併 せ て 重 要 で あ る.子 育 て に不 安 ・困 難 を 感 じて い る こ と を問 題 視 す る の で は な く,そ の 困難 や 不 安 を 親 自身 が 乗 り越 え られ る こ とが 大 切 で あ る.
8.5 障 害 児 と 健 康
子 ど もは,体 調 が 悪 い と き,そ れ を 自分 で 十 分 伝 え る こ とが で きな い こ とが し ば しば あ り,ま して,障 害 児 の 場 合 は な お さ らで あ る.そ の よ うな場 合,周 囲 の 者 が 子 ど もの 変 化 に気 づ き,配 慮 す る こ とが 必 要 で あ る.健 康 状 態 の 把 握 は,①
元 気 さ,②
睡 眠 状 態,な
機 嫌,③
食 欲,④
活 発 さ,⑤
顔 色,⑥
顔 つ きや 表 情,⑦
どを観 察 す る こ とか ら始 ま る.平 素 の 健 康 状 態 と異 な る子 ど もの
変 化 を捉 え,早
い 時 期 に 疲 労 や 異 常 の 把 握 に 努 め る こ とが 大 切 で あ る.と
く
に,障 害 児 は そ れ ぞ れ 身 体 の 状 況 が 異 な る た め,平 素 か ら低 体 温 に な りや す い,お
う吐 しや す くむせ やす い,つ
まず い て 転 びや す い,感 染 症 にか か る と重
症 に な りや す い,呼 吸 が 苦 し くな りや す い と い っ た 身 体 の 状 態 の 把 握 と と も に,わ ず か な 変 化 へ の細 心 の注 意 と早 め の 対 応 が 必 要 で あ る.し か し,子 ど も の健 康 状 態 を 気 遣 う あ ま り,子 ど も 自 身 の 自発 的 な 活 動 を妨 げ る こ との な い よ うに 注 意 しな け れ ば な らな い. 一 般 的 な 健 康 管 理 と して は,疾 病 予 防,健 康 習 慣 の 確 立,身 体 の鍛 錬 や 運 動 な どが あ る.し か し,障 害 児 は,基 礎 疾 患 が あ っ た り虚 弱 な体 質 で あ っ た りす る た め に,健 常 児 の よ う に活 発 に運 動 し,体 力 づ く りを図 る こ とは,な か な か 困 難 で あ る.し して,感
たが っ て,障 害 児 の場 合 は,一 人 ひ と りの健康 の維 持 を 目的 と
染 症 の 原 因 と な る よ う な過 労 は極 力 避 け,食 事,排
泄,睡 眠 と い っ た
生 理 的 な 状 況 を整 え,規 則 正 し く 自然 な生 活 リズ ム を保 っ た 生活 を させ て い く こ とが,健 康 管 理 の 中 心 と な る9-13).
8.5.1 生 活 リズ ム 朝 決 ま っ た 時 間 に起 きて,夜 早 く寝 る とい う こ とは,子
ど も の発 達 の 基 盤 を
つ く り,体 調 を整 え る うえ で 大 切 で あ る こ と は い う まで も な いが,障
害児 に と
っ て 難 しい場 合 が 多 い.夜 な か なか 寝 な い,昼 夜 逆 転 とい っ た子 ど もが 健 常 児 に比 べ 多 く,家 族 を悩 ま せ る こ と も多 い.そ
の よ う な子 ど もに とっ て は,睡
眠
や 食 事 の リズ ム を,保 育 園 ・幼 稚 園 ・学 校 に通 う こ と に よ っ て確 立 す る こ とが 望 まれ る.保 育 園 ・幼 稚 園 ・学 校 へ の 行 き帰 り,日 中 の しっ か り と身 体 を使 っ て の 活 動,給
食 や お 弁 当 をお い し く食 べ る こ と,帰 宅 後 の楽 しい 家 族 との食 事
とあ そ び,ス
ッキ リ と した 朝 の 目覚 め とい う リズ ムが 作 れ る と,子 ど もの姿 は
生 き生 き して くる.家 庭 の 事 情 は,様 々 な の で,養 育 者 に 「早 寝 早 起 きの習 慣 づ け」 を依 頼 して も,改 善 が 難 しい こ と もあ る.こ
の よ うな 場 合,起
間 の 活 動 が どれ だ け充 実 して い る か が 問 題 に な っ て くる.し 園 ・幼 稚 園 ・学 校 で の 「静 」 と 「動 」 の 活 動,つ
きて い る
た が っ て,保
育
ま り,思 い 切 り体 を動 か して
外 で活 動 す る時 間 と静 か に過 ごす 時 間 の 組 み 合 わせ が,生 活 リズ ム をつ く るた め に ふ さ わ しい もの に な っ て い る か が 重 要 な 鍵 と な る.
そ して,家
庭 で な か なか 寝 な い と き,寝 る前 の少 し前 の 時 間,親 子 や き ょ う
だ い で 布 団 の 上 な どで 軽 く身 体 を使 っ て 遊 ん だ り,そ の 後 で 静 か に本 を読 ん で あ げ た りす る こ と で,身 体 も気 持 ち も満足 して 眠 りに つ くこ とが あ る.食 事 や 排 便 の 関 係 も見 逃 せ な い.と
くに便 秘 が ちの 場 合 は,不 快 で 眠 れ ない こ と もあ
る.身 体 の 発 達 の 遅 れ か ら,生 理 基 盤 が 整 い に く く,睡 眠 の リズ ム が 確 立 しな い場 合 や,多 動 で 一 日中 走 りま わ っ て い る子 ど も等 に つ い て は ,体 力 を 出 し切 っ た活 動 が で きて い な い場 合 もあ る た め,ど せ ら れ る か,専
う した ら昼 間 の 覚 醒 を しっ か りさ
門機 関 に相 談 す る こ と も必 要 で あ ろ う.
こ の よ う に して リズ ムが 整 い,繰
り返 さ れ て い く中 で,子
ど もの緊 張 と弛 緩
の バ ラ ンス が 調 整 され,安 定 した 生 活 をつ く り出 す こ と に つ な が る.そ れ に よ っ て,日 常 生 活 の 基 本 と も い え る 子 ど もの 身 体 的 な 健 康 が 保 た れ,ま
た 自分 の
生 活 を身 体 を 通 して見 通 せ る よ うに な っ て い く14,15).
8.5.2 鍛 錬 と運 動 鍛錬 や 訓 錬 に つ い て は,障 害 の 状 況 や体 力 を無 視 した 画 一 的 な もの は望 ま し くな い.た
と え ば,風
邪 に か か ら な い 体 力 づ く り を 目標 に,一 律 に 薄 着 の 励
行,乾 布 摩 擦 な どを 行 う こ とが あ るが,感 染 症 に か か りや す か っ た り,体 温 が 低 下 しや す か っ た りす る障 害 児 もい る の で,十 分 に 配 慮 す る 必 要 が あ る.し か し,皮 膚 の 感 覚 は,自 分 と 自分 以外 の も の とを 区 別 し た り,外 界 の様 子 を認 識 した りす る基 礎 と な る 感 覚 な の で,大 切 に考 え られ な けれ ば な ら な い.脳 性 の 障 害 児 の 中 に は,こ
の 皮 膚 感 覚 が 過 敏,あ
る い は鈍 磨 して い て,身 体 に触 られ
る こ とや 手 をつ な ぐこ と を嫌 が っ た り,つ ね っ て もあ ま り痛 が ら なか っ た りす る子 ど も もい る.そ
の 意 味 で,皮 膚 に正 しい 刺 激 を与 え る こ とは,発 達 を促 進
す る こ とに つ な が る と い え る.健 康 状 態 を見 極 め なが ら,こ れ らの 活 動 が 集 団 教 育 の ス ケ ジ ュ ー ル に と り入 れ て あ る と,個 人 で は困 難 な 鍛 錬 や 運 動 が 可 能 と な り,集 団 全 体 の健 康 感 や 連 帯 感 に もつ なが る13-16).
8.5.3 食
事
障 害 児 は,食 事 の 問 題 をか か え て い る こ とが 多 い.例 は,い
え ば,貧
く ら食 事 の 量 が 多 くて も,偏 食 が あ れ ば貧 血 を起 こす.貧
血 を もつ 子 血 は,子
ども
か ら活 気 を奪 い,感 染 に対 す る抵 抗 力 を弱 め,病 気 か らの 回復 力 を弱 め るの で 注 意 が 必 要 で あ る.重 度 の 障 害 児 の 場 合 は,消 化 の よい もの,軟
らか い もの と
い う食 べ 物 の 配 慮 を しな け れ ば な らな い場 合 も あ る が,消 化 器 の発 達 を促 す た め に は,消 化 が 少 し悪 い もの,や や 硬 め の もの 等 も少 しず つ 与 え て,刺 激 す る と い っ た 配 慮 が 求 め られ る. こ の 他,食 事 の と き,椅 子 に座 れ な くて ウ ロ ウ ロ した り,す ぐ席 を立 って し ま う等 の 行 動 上 の 問 題 を もっ て い る場 合 や,嫌
い な もの を絶 対 食 べ ず に,机 の
上 を 散 らか した り,無 理 や り食 べ させ よ う とす る とパ ニ ッ ク を起 こ して し ま っ た り等,食 べ る こ とや 食 べ る もの に対 して抵 抗 感 を もっ て い る子 ど も もい る. ま た,家 か ら好 き な もの だ け を入 れ た お 弁 当 を も っ て きて い る子 ど も もみ られ る.こ の よ う な場 合,障 け させ る こ とが,健
害児 が 楽 し く食 事 が で き る正 しい 食 生 活 習 慣 を身 につ
康 増 進 に と ど ま らず,問
題 行 動 の改 善 に も必 要 とな って く
る. した が っ て,家
庭 で は ス ム ー ズ に 食 事 が で き な い 障 害 児 に 対 して は,保 育
園 ・幼 稚 園 ・学 校 の 集 団教 育 の 場 を食 事 指 導 の 場 と して 利 用 す る こ と も有 効 で あ る.友 だ ちが 楽 しそ うに 食 べ て い るの を見 て,同
じ よ う に食 べ る よ う に な る
こ と が あ る.給 食 を と もに す る こ とで,食 べ た い 気 持 ち が 育 ち,様 々 な 工 夫 と 結 びつ い て,や
が て 食 べ る こ と につ なが る.さ
ら に,食 事 へ の 意 欲 を 高 め るた
め の 取 り組 み と して,お 好 み 焼 きや ホ ッ トケ ー キ 等 の調 理 を家 庭 や 集 団 教 育 の 場 で 行 う こ と も,食 事 へ の 動 機 づ け と な る11-15).
8.5.4 健 康 に 配 慮 した 環 境 の 整 備 健 康 管 理 の 一 環 と して,採 光,日 照,換 気,温
度,湿
度,清 潔,さ
ら に過 度
な 音 や 騒 音 防 止 な ど の生 活 環境 の 整 備 につ い て,細 心 の 注 意 が 払 わ れ な け れ ば な らな い.も
し,子 ど もが,採 光 の 悪 い,じ
め じめ した 環 境 で 生 活 しな け れ ば
な ら な い と した ら,健 康 に 悪 影 響 が あ る ば か りで な く,爽 快 な 生 活 も望 め な い.こ
の よ う な 意 味 か ら,健 康 上 問 題 が あ る,あ
る い は 身 体 的 配 慮 を 要 す る子
ど もの 場 合 に は,生 活 す る場 の 衛 生 環 境 に つ い て 十 分 に検 討 され る 必 要 が あ る17). 障 害 児 の 場 合,障
害 名 や 障 害 の 程 度 の み に 注 意 が 向 け られ,や
や もす る と病
気 で あ る か の よ う に受 け止 め られ る こ と もあ るが,健 康 生 活 を営 む こ とへ の 必 要性 は,障 害 の 有 無 に左 右 され る もの で は な い.む
しろ 必 要 な の は,情 緒 の 安
定 と体 調 の コ ン トロー ルが い か に 図 られ て い るか と い うこ とで あ り,一 人 ひ と りの 子 ど もの特 性 を ま わ りの 養 育 者 が 理 解 して い る こ と,そ れ が 健 康 に 配 慮 し た 環 境 の 基 本 とな る.
8.6 障 害 者 と 健 康
8.6.1 健 康 の視 点 か らみ た リハ ビ リテ ー シ ョン(予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ン) a.健
康 と予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ン
先 進 諸 国 で,慢 性 疾 患 が 主 要 な 死 因 と な り,健 康 増 進 の必 要 性 が 協 調 され た の は1960∼70年
代 で あ る.こ
の 頃,わ
が 国 で は,1965(昭
和40)年,「
理学
療 法 士 及 び作 業 療 法 士 法 」 が 施 行 され,医 療 の新 た な分 野 と して リハ ビ リテ ー シ ョ ンが 加 え られ た. WHOは
健 康 促 進 戦 略 と し て,発
(1987年),先
展 途 上 国 向 け の 「ア ル マ ・ア タ 宣 言 」
進 国 向 け の 「オ タ ワ 憲 章 」(1986年)を
「第 一 次 国 民 健 康 づ く り対 策 」(1978年)か 法 」 制 定(2002年)ま
提 唱 した.わ
が 国 で は,
ら健 康 増 進 に注 目 し 「健 康 増 進
で に至 っ て い る.
この よ う な状 況 の 中 で,リ ハ ビ リテ ー シ ョ ンは徐 々 に注 目 を集 め,当 初,病 気 や 障 害 の あ る方 の み を 対 象 と して い た が,年
々増 加 す る社 会 の健 康 増 進 に対
す るニ ー ズ に応 え るべ く健 常 者 の 健 康 も対 象 と し,健 康 教 室 や 転 倒 予 防 教 室 な どの 活 動 を行 い,予 b.介
防 的 リハ ビ リ テ ー シ ョン分 野 を確 立 して い る.
護 保 険制 度 と予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョン ・介 護 予 防
2006(平
成18)年
の 介 護 保 険 制 度 見 直 し に よ り,要 介 護 度 の 低 い 人 に 対 し
て新 た な予 防給 付 が 導 入 され る こ と に な っ て お り,介 護 予 防 が ク ロ ー ズ ア ップ さ れ て い る. この 介 護 予 防 が ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ た 背 景 に は,医 療 ・介 護 費 の増 大 と い う 財 政 的 問 題 の 影 響 が 大 き い が,で (QOL)を
きるだ け介 護 を受 けず に個 人 の 生 活 の質
長 く維 持 した い とい う社 会 的 風 潮 の 影 響 もあ る.
予 防 に は2つ の 考 え方 が あ る.1つ
目は,病 気 や 障 害 に な る 前 に運 動 機 能 や
精 神 機 能 を高 め,こ っ た 後,ま
れ らを予 防 す る(一 次 予 防).2つ
目 に,病 気 や 障 害 に な
た は 高 齢 に な っ た時 に現 状 よ りも運 動 機 能 や 精 神 機 能 が 低 下 しな い
よ う維 持,も
し くは改 善 を 図 る(三 次 予 防),と
い う も の で あ る.ま
た二次予
防 と して,早
期 発 見 ・早 期 治 療 シ ス テ ム が 確 立 さ れ て い る.後 者 は,介 護 予
防 ・老 化 予 防 と も呼 ば れ 現 状 で は確 立 され た シス テ ムが 少 な い.予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ンは,こ れ ら2つ の分 野 に 関 連 し実 施 さ れ て い る. 作 業 療 法 士 ・理 学 療 法 士 は 身体 機 能 や 精 神 機 能,各 種 能 力 に対 す る 評 価 に優 れ て お り,予 防 の 分 野 で も活 躍 して い る.し か し,予 防 に 対 す る 関 わ り方 や そ の 手段 な どに は確 立 さ れ た もの が 少 な く,今 後 の 課 題 と もい え る.そ の 中 で, 予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ン は運 動 機 能 ・精 神 機 能 ・日常 生 活 活 動 ・環 境 整 備 に 重 点 を 置 き実 施 さ れ る も の で あ る.ま QOL維
た,そ
の 方 法 や 手 段 な ど は,個
人の
持 と向 上 を 原 則 と し全 人 的 な ア プ ロ ー チ が 必 要 で あ る.
c.廃
用 症 候 群 ・誤 用 症 候 群 ・過 用 症 候 群
リハ ビ リテ ー シ ョ ン分 野 に お い て,「 廃 用 症 候 群 」 「 誤 用 症 候 群 」 「過 用 症 候 群 」 は そ れ ぞ れ概 念 が 異 な るが,こ 群(disuse
syndrome)と
れ らの 予 防 は極 め て重 要 で あ る.廃 用 症 候
は,長 期 間 の 安 静 や 寝 た き り等,身
体 活動 が行 われ
ず に二 次 的 障 害 に よ り,身 体 の 一 部 や 全 体 の 機 能 が 低 下 す る こ と を い う.ま た,目 的 とす る運 動 に対 して 運 動 方 向 や 加 重 な どが 適 切 に 行 わ れ な か っ た場 合 の 二 次 的 障 害 を誤 用 症 候 群(misuse
syndrome),個
人 が も っ て い る 身体 機 能
に対 して 運 動 の量 や 質 が 過 度 に な る こ とに よ って 引 き起 こ され る 二 次 的 障 害 を 過 用 症 候 群(overuse 1)廃
syndrome)と
い う.
用症候群
廃 用症 候 群 は 「安 静 の害 」 と も呼 ば れ,長 期 間の 臥 床 が続 い た り,ギ プス や 装 具 な どで 固 定 さ れ 活 動 が 制 限 され た と き に生 じる合 併 症 で あ る.こ れ に は筋 や 関節,骨,心
肺 機 能 な ど とい っ た 身体 面 の 機 能 低 下 や 認 知 症,自
発性の低下
な ど とい った 知 的 ・精 神 面 の 機 能 低 下 も含 まれ る. 廃 用症 候 群 の 代 表 的 な もの と して,廃
用 性 筋 萎 縮,関 節 拘 縮,骨 粗 鬆 症,心
肺 機 能低 下,身 体 持 久 力 低 下,表 在 感 覚低 下,知 的 能 力 低 下,認 知 症,自 低 下,褥 創 が 挙 げ られ る.こ れ らは,さ きる 限 り予 防 す る 必 要 が あ る.
発性
ら に他 の 合 併 症 を 引 き起 こ す た め,で
2)誤
用症候群
運 動 を誤 っ た 方 法 に よ り不 適 切 に 行 っ た場 合,炎 で あ る.予 防 は比 較 的 簡 単 で,専
症 や 痛 み 等 が 生 じる合 併 症
門 知 識 を も った 指 導 者 が 運 動 方 向 ・頻 度 ・負
荷 量 な ど,適 切 な 指 導 を行 う こ とに よ り予 防 す る こ とが で きる.誤 用 症 候 群 の 代 表 的 な もの と して,関 節 の 炎 症 に よ る痛 み,筋 炎 症,骨
・腱 ・靱帯 な ど,軟 部 組 織 の
・関 節 の 変 形,主 動 作 筋 と拮 抗 筋 の協 調 性 障 害,麻 痺 に よ る痙 性 の増
悪 が 挙 げ られ る.こ の よ う な症 状 の 結 果,例
え ば,関 節 の痛 み や 変 形 な どに よ
り,歩 行 バ ラ ンス が 悪 くな り,転 倒 や 骨 折 を起 こす. 3)過
用症候群
過 用 症 候 群 に は正 常 な身 体 機 能 に ス パ ル タ式 的 な過 度 の負 荷 を与 え て 症 状 が 発 生 す る 場 合 と,老 化 や麻 痺 な ど に よ って 弱 くな っ て い る 身体 機 能 に 少 し過 度 な負 荷 を 与 え,症 状 が発 生 す る場 合 とが あ る.両 者 と も 身体 機 能 を適 切 に評 価 し,そ の 評 価 結 果 に 応 じた 運 動 プ ロ グ ラ ム を実 施 す る こ と に よ り予 防 す る こ と が で きる.過 用 症 候 群 の代 表 的 な もの は,誤 用 症 候 群 と ほ ぼ 同様 で あ る. d.予
防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ンの 実 際
予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョンは,二 用 症 候 群)を
次 的 合 併 症(廃
用 症 候 群 ・誤 用 症 候 群 ・過
引 き起 こ さな い よ う実 施 し な けれ ば な ら な い.
運 動 負 荷 量 決 定 の簡 単 な 目安 と して は,運 動 終 了 後1時 な い 運 動 で あ れ ば安 全 に実 施 で き る.も
し,1時
間以 上 疲 労 感 が 残 ら
間 以 上 疲 労 感 が 残 る よ うで あ
れ ば,過 剰 な 運 動 量 の可 能性 が あ り,誤 用 症 候 群 ・過 用 症 候 群 を起 こ す 危 険 性 が 高 ま る.予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ンの 方 法 や そ の 領 域 は数 多 く存 在 す る が, 加 齢 や 障 害 を も っ た と き,大 き な問 題 とな る筋 力 低 下 の 予 防 につ い て述 べ る. 人 間 が 有 す る 諸 機 能 の 中 で も,身 体 を 支 えて 多 くの 活 動 を行 っ て い る の が 筋 肉 で あ る.筋 力 が 低 下 す れ ば 日常 生 活 活 動 に大 きな影 響 を与 え る.マ ー チ ン ら に よ る と,20歳
代 の 筋 力 を 最 大 と考 え る と10年 ご との 加 齢 で 約7.5%ず
つ筋
力 が低 下 す る18)と 報 告 さ れ て い る.ま た,筋 容 量 も20代 以 降徐 々 に減 少 し, と くに50歳
代 以 降 か ら顕 著 に な る.
筋 力 低 下 を予 防 す る方 法 と して,マ
シ ン トレー ニ ング とマ シ ンを使 用 しな い
トレー ニ ン グ とに 分 け る こ とが で き る. マ シ ン トレー ニ ン グ に は,パ
ワー リハ ビ リテ ー シ ョ ン(以 下 パ ワ ー リハ)と
い う 方 法 が あ り,と は,6種
くに歩 行 能 力 の 向 上 に 高 い 結 果 を 出 して い る.パ ワ ー リハ
類 の マ シ ン を用 い て 行 う (上肢2種
類 ・体 幹1種
標 準 プ ロ グ ラ ム は,そ れ ぞ れ の 機 種 で 適 当 な負 荷 量(ボ 的 運 動 強 度 で 「楽 で あ る」 を 目安)の
も と10回
マ シ ンを 使 用 しな い 筋 力 ト レー ニ ング は,重 錘(腕
類 ・下 肢3種 ル グ(Borg)の
類). 主観
×3セ ッ ト行 う. 錘 や 鉄 ア レ イ,チ ュ ー ブ,自
立 て 伏 せ,腹 筋 運 動 な ど)等 の 方 法 で行 わ れ る.ト
レー ニ ン グ内 容 に つ
い て個 々 の 身 体 能 力 と トレ ー ニ ン グの3大 条 件 に あ る頻 度 ・強 度 ・持 続 時 間 に よ っ て運 動 が 決 定 され る.
トレー ニ ン グ の 頻 度 は,多
くの 研 究 に よ る と週1回
で は効 果 が ま っ た くな
く,週2∼3回
で 均 等 に 日 に ち 間 隔 をあ け て実 施 す る こ と に よ り,高 い 効 果 が
得 られ る.1回
の トレー ニ ン グ に お け る頻 度 は1セ
ッ ト実 施 す る.強 度 は最 大 筋 力 の70∼80%程
ッ ト10回 前 後 で2∼3セ
度 の 負 荷 をか け て 実 施 す る.
こ れ らの 筋 力 トレー ニ ン グ と 同 時 に,実 際 の 日常 生 活 の 中 で歩 行 トレー ニ ン グ や 日常 生 活 活 動 の応 用 動 作 な どを 実 施 す る.こ れ に よ り,身 体 持 久 力 や バ ラ ンス 機 能 な ど,筋 力 以 外 の 諸 機 能 の 維 持 ・向上 を 図 る こ とが で き,廃 用 症 候 群 の 予 防 に も な る.ま た,活 動 性 が 向 上 す る こ とで脳 へ の 刺 激 が 多 くな り,脳 が 活 性 化 さ れ,精
神 機 能(認
知 症 ・自発 性 の 低 下 な ど)の 低 下 予 防 に もつ な が
る. e.運
動 の継続
ど ん な に優 れ た予 防 リハ ビ リ テ ー シ ョン プ ロ グ ラム が 立 案 さ れ た と して も, 三 日坊 主 で は ま っ た く無 意 味 な もの に な っ て し ま う.プ
ログ ラムを実施 す る
「動 機 づ け」 が 重 要 な役 割 を果 た す .そ の 方 法 と して,①
少 し努 力 す れ ば 達 成
で き る 目標 を 設 定 す る,②
成 功 体 験 を多 く感 じ させ る,③
ム を 実 施 して い る 意 識 を もた せ る,④
自主 的 に プ ロ グ ラ
自己 の 身 体 機 能 を 詳 し く把 握 さ せ る,
⑤ プ ロ グ ラ ム 内容 に 関 心 と興 味 を も た せ る,等 が 挙 げ られ る.動 機 づ け が う ま くで きれ ば,プ 果 が 得 られ る.
ロ グ ラ ム は 長 期 間 持 続 す る こ とが で き,よ
り高 い水 準 で の 効
8.6.2 障 害 者 ス ポ ー ツ a.障
害 者スポ ーツ とは
障 害 者 の ス ポ ー ツ と は,障 害 者 の た め に特 別 に 考 案 さ れ た ス ポ ー ツだ け を指 す もの で は な く,原 則 と して 健 常 者 が 行 っ て い る ス ポ ー ツ を,① た め に で き な い こ とが あ る,② が あ る,③
障 害 が あ る た め に ス ポ ー ツ に よ る事 故 の 心 配
障 害 を 増 悪 化 させ る お そ れ が あ る,④
し に くい,等
障 害が ある
競技 規則が 複雑 なため理解
の 理 由 で ル ー ル を 一 部 変 更 して 行 っ て い る もの を 指 す19).パ ラ
リ ン ピ ッ クの 礎 を築 い たS.グ ッ トマ ン は,「 失 わ れ た もの を数 え る な,残
って
い る もの を 最 大 限 に生 か せ(Ⅰt's ability and not disabilitythat counts)」 と い う名 言 を残 して い る.こ の 言 葉 が 象 徴 す る よ う に,「 何 が で き な い か」 で は な く,「 何 が で き る か 」 とい う こ と に 目 を 向 け,ル ー ル や 器 具 の 工 夫 ・変 更 を し な が ら行 わ れ て い る もの が 障 害 者 ス ポ ー ツで あ る20). 例 え ば,車 椅 子 バ ス ケ ッ トボ ー ル の場 合,ル に 準 じて い る が(コ
ー トの広 さや リ ン グの 高 さ は 同 じ),車 椅 子 の 特 性 を考 慮
し,ボ ー ル を 保 持 した状 態 で2プ る.ま
ッ シュ まで 車 椅 子 を こ ぐ こ とが 認 め られ て い
た,視 覚 障 害 者 を対 象 と した ス ポ ー ツの 一 つ に5人 制 サ ッ カー が あ り,
この 種 目 は,2004年,ア ム5名
ー ル は一 般 のバ ス ケ ッ トボ ー ル
テ ネ パ ラ リ ン ピ ッ ク か ら正 式 競 技 とな っ た.1チ
ー
が ピ ッチ 上 で プ レー で き,さ ら に コ ー ラ ー と呼 ば れ る コ ー チ が,相 手
ゴー ル の裏 か ら指 示 を出 す こ とが 認 め られ て い る.ゴ ー ル キ ー パ ー は,晴 眼 者 また は弱 視 者 が 行 う.こ の よ う に,視 力 に 障 害 の あ る選 手 の ス ポ ー ツで は,選 手 の 目 の役 割 を果 た す ガ イ ドと と もに プ レー す る こ とが 認 め られ て い る も の が 数 多 くあ る. b.障
害者 スポ ーツの種類
障 害 者 が 行 う こ とが で き る ス ポ ー ツ は,健 常 者 に比 べ 限界 が あ る もの の,そ の 内 容 は,開 発 ・考 案 ・修 正 ・改 良 ・削 除 ・単 純 化 に よ っ て多 種 多 様 と な っ て い る20).表8.4に
は パ ラ リ ン ピ ッ ク正 式 競 技,表8.5と
表8.6に
は,日
本障
害 者 ス ポ ー ツ 協 会 が 示 して い る現 在 広 く行 わ れ て い る ス ポ ー ツ を列 挙 した. 一 例 と し て,「 陸 上 競 技 」 の 場 合,一 が,障
般 の 陸 上 競 技 に 準 じて 行 わ れ て い る
害 を考 慮 して実 施種 目や 競 技 規 則,用
具 な どが 一 部 変 更 され て い る.車
椅 子 使 用 者 の 陸 上 競 技 で は,「 レー サ ー 」 と呼 ば れ る軽 量(約5∼8kg),か
つ
表8.4 パ ラ リ ン ピ ック 正 式競 技
表8.5 国 内 外 で 広 く行 わ れ て い る ス ポ ー ツ
ID(intellectual
disability):知
的 障 害 者 を対 象 と して い る
表8.6 主 に国 内 で 行 わ れ て い る ス ポ ー ツ
空 気 抵 抗 の低 減 を配 慮 した フ レー ム形 状 の専 用 車 椅 子 を使 用 す る こ とが 多 い. ま た,下 肢 切 断 の 選 手 で は,ス ポ ー ツ用 に 開 発 さ れ た 義足 を装 着 して競 技 を 行 う 選 手 も多 い.視 覚 障 害 者 の場 合 は,ガ ィ ー ル ド競 技 に お い て は,コ
イ ドラ ンナ ー(伴 走 者)と の 走 行,フ
ー ラ ー(手 た た きや 呼 び 声 な どの 音 源 を選 手 の た
め に 出 す 人)に よ る 方 向 指 示 を得 て の 跳 躍 や 投 て きが 認 め られ て い る等,障
害
の 種 類 や 程 度 に応 じた 工 夫 が な され て い る.こ ん 棒 投 げ とい っ た特 別 に考 案 さ れ た種 目 も行 わ れ て い る19). c.障 1948(昭
害者 スポーツの意義 和23)年,ロ
ン ドン オ リ ン ピ ッ ク 開 会 式 の 日,ス
トー クマ ン デ ビ
ル 病 院 内 で 脊 椎 損 傷 者 の ア ーチ ェ リー 大 会 が 開 催 され た.こ れ が 現 在 の パ ラ リ ン ピ ッ ク の 原 点 で あ る.そ の 後,こ う大 会 と して,毎
の 大 会 は,リ ハ ビ リテ ー シ ョンの 成 果 を競
年 開 催 され,1952(昭
展 し て い る.1960(昭
和35)年
和27)年
に は,国
際 競 技 大 会 へ と発
に ロ ー マ で 開 か れ た 大 会 は,初
ック終 了 後 に 同 地 で 開催 され て お り,第1回
めて オ リンピ
パ ラ リ ン ピ ック と位 置 づ け られ て
い る.「 パ ラ リ ン ピ ッ ク」 とい う言 葉 は,「 対 麻 痺 者 」 を意 味 す る 「パ ラ プ レジ ア(paraplegia)」
のparaと
「オ リ ン ピ ッ ク(Olympic)」
のlympicを
組 み合
わせ た 語 で あ っ た.こ の こ とか ら も,障 害 者 ス ポ ー ツ は,そ の 初 期 段 階 にお い て,脊 椎 損 傷 者 を 中 心 と す る 一 部 の 障 害 者 を対 象 と して行 わ れ て い た こ とが わ か る.現 在 の パ ラ リ ン ピ ック は,さ
ま ざ まな 障 害 を もつ 人 が 参 加 す る 大 会 へ と
発 展 して い る こ とか ら,「 パ ラ リ ン ピ ッ ク」 とい う言 葉 は,「 も う一 つ の ・同 じ もの 」 とい う 意 味 を もつ 「パ ラ レル(parallel)」 のparaと のlympicを
「オ リ ン ピ ッ ク」
組 み 合 わ せ た 「も う一 つ の オ リ ン ピ ッ ク」 と して 発 展 して い る.
この よ う な世 界 的 動 きの 中 で,わ が 国 で積 極 的 に障 害 者 ス ポ ー ツが 行 われ る よ う に な っ た の は,1964(昭
和34)年
に東京 で開催 された東京 パ ラ リ ンピ ッ
ク 以 降 で あ っ た.当 時 の 日本 選 手 は,身 体 障 害 者 施 設 の入 所 者 で あ り,病 院 の 患者 で あ っ た.そ
の 後,病
(機能 回 復 訓 練)の
一 環 と し て,②
して,ス
院,施
設 の 中 で,①
医 学 的 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン
健 康 増 進 や 社 会 参 加 意 欲 を 助 長 す る もの と
ポ ー ツ が 取 り入 れ られ て き た.1965(昭
大 会(秋 季 大 会)が
和40)年
か ら は,国 民 体 育
開催 され た 地 で,身 体 障 害 者 の全 国 ス ポ ー ツ大 会 が 開 催 さ
れ る よ う に な り,次 第 に 訓 練 の 延 長 と して で は な く,ス ポ ー ツ を ス ポ ー ツ と し て 楽 しむ とい う意 識 が 生 まれ て くる よ うに な っ た19,22,23). 1978(昭
和53)年
に,国 連 教 育 科 学 機 関(ユ
ネス コ)か
ツ に 関す る 国 際 憲 章 」23)が出 され て い る.そ の1条
ら,「 体 育 ・ス ポ ー
にお い て 「体 育 ・ス ポ ー ツ
の 実 践 は,全 て の 人 に とっ て の 基 本 的 権 利 で あ る」 と述 べ られ て い る.さ に,「 学 齢 前 児 童 を 含 む 若 者,高
齢 者,身 体 障 害 者 に 対 して,そ
ら
の 要 求 に合 致
した 体 育 ・ス ポ ー ツ の プ ロ グ ラ ム に よ り,そ の 人 格 を全 面 的 に発 達 させ る た め の 特 別 の 機 会 が 利 用 可 能 と され な け れ ば い け ない.」 と も述 べ られ て い る.こ の よ う に,障 害 者 に と っ て もス ポ ー ツ をす る こ と は,人 間 と して の基 本 的権 利 で あ る とみ な され,ス
ポ ー ツ は 明 る く豊 か な人 生 を 送 る 上 で す べ て の 人 に とっ
て,不 可 欠 な文 化 で あ る と捉 え られ る よ う に な っ た. 1981(昭
和56)年
の 国 連 の 「国 際 障 害 者 年 」,お よび,こ
れ に 続 く 「障 害 者
の 十 年 」 を契 機 と して,「 完 全 参 加 と平 等 」 の も と,ス ポ ー ツ を 含 む 社 会 参 加 へ の 気 運 が さ ら に高 ま っ て きた.ま
た 近 年,国 際 的 に も,よ
害 者 ス ポ ー ツ の 大 会 が 開 催 され,わ
が 国 か らも選 手 と して 参 加 す る 障 害 者 が増
加 して きて い る.こ
り競 技 性 の 高 い 障
の よ う な多 面 的 な 変 化 を受 け て,障 害 者 の ス ポ ー ツ に対 す
る 意 識 も,リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ンの延 長 とい う考 え 方 か ら,日 常 生 活 の 中 で 楽 し
む ス ポ ー ツ,競 d.こ
技 す る ス ポ ー ツへ と 広 が っ て き た24).
れ からの障害者 スポーツ
障 害 者 ス ポ ー ツ は,障
害 が あ っ て も活 用 で き る 能 力 を 生 か し て プ レ ー で き る
よ う に 考 案 さ れ た ス ポ ー ツ,ち
ょ っ と 工 夫 し て,そ
た ス ポ ー ツ と い う こ と か らadapt(適 ッ ド ・ス ポ ー ツ(adapted
sports)」
応 させ る)と
の 場 そ の 場 に適 した 形 に し い う 語 を 用 い て 「ア ダ プ テ
と 称 さ れ て い る.か
つ て は,「 障 害 が あ る
人 の た め の ス ポ ー ツ 」 で あ っ た 障 害 者 ス ポ ー ツ は,「 何 ら か の 障 害 の あ る 人 も 行 う こ と が で き る ス ポ ー ツ 」 へ と そ の 概 念 を 変 え つ つ あ る20,25,26). こ の よ う に,ア
ダ プ テ ッ ド ・ス ポ ー ツ と捉 え る よ う に な っ た こ と で,最
近で
は 健 常 者 も こ れ ら の ス ポ ー ツ を 一 競 技 と し て 楽 し む よ う に な っ て き て い る.車 椅 子 バ ス ケ ッ トに 関 し て は,「 障 害 者 の た め の バ ス ケ ッ トボ ー ル 」 か ら 「車 椅 子 を 使 っ た バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 」 に 捉 え 方 が 変 化 し,使
わ れ る 車 椅 子 も 「障 害 者
の 道 具 」 か ら 「ス ポ ー ツ 器 具 の 一 つ 」 と 捉 え ら れ る よ う に な っ て き て い る. 2002(平
成14)年
に は,車
椅 子 バ ス ケ ッ ト ボ ー ル に 興 味 を も つ 若 者 が 集 ま り,
「車 椅 子 バ ス ケ ッ ト を 通 し て 健 常 者 と 障 害 者 の 相 互 理 解 の 促 進 を 行 う 」 こ と を 活 動 目 的 と し た 日 本 車 椅 子 バ ス ケ ッ トボ ー ル 大 学 連 盟 が 発 足 し て い る27). ル ー ル や 器 具 の 工 夫 次 第 で,ま 係 な く,と
方 を 少 し 変 え る こ と で,障
も に ス ポ ー ツ を 楽 し む こ と が で き る.最
ュ ー ミ ッ ク ス(車
て き て い る.健
近 で は,車
害 の 有 無 に関 椅子 テニスのニ
椅 子 利 用 者 と 健 常 者 が 組 ん で 行 う ダ ブ ル ス の テ ニ ス)や
子 ダ ン ス と い っ た,障
ら,と
た,見
車椅
害 を 持 つ 者 と 持 た な い 者 が ペ ア ー に な っ て 行 う競 技 も 出
常 者 同 士,あ
るい は障 害 者 同 士 だ け で ス ポ ー ツ を楽 しむ 時 代 か
も に ス ポ ー ツ を 楽 し む 時 代 に な っ て き て い る.こ
の こ と に よ り,今
後,
ス ポ ー ツ の も つ 魅 力 ・楽 し さ は さ ら に 広 が る と い え よ う.
【 文 1)厚
献】
生 統計 協 会:国 民衛 生 の動 向,2005.
2)8020推
進財 団 ホー ム ペ ー ジ http//www.8020zaidan.or.jp
3)Sperber,G.H.,江
藤 一洋 ・後藤 仁 敏 訳:頭 蓋顔 面 の 発生,医 歯 薬 出版,1992.
4)木
下 盈 四 郎:先 天異 常 の 医学,中 央 公論 社,1989.
5)厚
生 労 働 省 医 政 局 歯 科 保 健 課 編:平 1999.
成11年 歯 科 疾 患 実 態 調 査 報 告,口 腔 保 健 協 会,
6)中
沢 勇:全
部 床 義 歯 学,永
7)前
橋 明:子
ど も の 心 と か らだ の 異 変 と そ の 対 策,明
末 書 店,1976.
8)前
橋 明:い
ま,子
ど も の 心 と か ら だ が 危 な い,大
研 図 書,2001. 学 教 育 出 版,2004.
9)佐
藤 泰 正:障
害 児 保 育,学
10)高
松 鶴 吉:入
門 障 害 児 保 育 の 原 理,学
11)巷
野 悟 郎:保
育 の 中 の 保 健,萌
12)辻
井 正:障
害 児 保 育 の 考 え 方 と 実 践 法,エ
13)白
石 正 久:は
じ め て の 障 害 児 保 育,か
14)田
代 和 美:新
15)徳
田 克 己:ハ
ン デ ィ の あ る 子 ど も の 保 育 ハ ン ドブ ッ ク,福
16)北
野 与 一:体
力 ・健 康 概 論,杏
17)山
根 希 代 子:幼
18)Martin
芸 図 書,2002.
・保 育 講 座15障
文 書 院,1998. ン デ ル研 究 所,1999.
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ネ ル ヴ ァ 書 房,2003. 村 出 版,1997.
林 書 院,1990.
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害 者 と ス ポ ー ツ,岩
21)北
野 与 一:体
力 ・健 康 概 論,杏
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田 直 章:障
害 者 の ス ポ ー ツ の 現 状 と 発 展 へ の 課 題,名
古 屋 芸 術 大 学 研 究 紀 要24,
1-23,2003. 26)藤
田 紀 昭:障
害 者 と地 域 ス ポ ー ツ ‐地 域 ス ポ ー ツ 振 興 と 統 合 を め ぐ っ て ‐,体
50(3),213-217,2000. 27)日
本 車 椅 子 バ ス ケ ッ トボ ー ル 大 学 連 盟 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.gbp-jp
育の科学
索
引
一 次 予 防 12 ,20,146 欧
文
家 庭 婦 人 51
飲 酒 26
カー ボ ロ ーデ ィ ング 87
イ ン ス リ ン 87
過 用 症 候 群 193,194
ADL
132
ADP
82
ウ ェ ル ネス 2
が ん 155
ATP
82
う蝕 177
感 覚 温 度 173
BMI
23,89,158
う蝕 予 防 177
環 境 因 子 166
HR法
カル シ ウ ム 88
93
運 動 65
間接 法 92
イ ク ル 147
運 動 感 覚 の 統 合 39
感 染 症 法 159
PEM
132
運 動 習 慣 者 12
が ん を防 ぐた め の12カ 条 155
QOL
126
運 動 処 方 53,61
PDSサ
SRRS
105
TCAサ
イ ク ル 84
THP
154
WHO
1
運 動 ・ス ポー ツ 34
偽 陰 性 150 基 礎 代 謝 量 63,82,89
永 久 歯 175,178
基 礎 的 運 動 能 力 45
栄 養 18
喫 煙 13,29
栄 養 教 諭 制 度 120
機 能 カル シ ウ ム 88
栄 養 素 19,114 エ ネ ル ギ ー 消 費 量 23
急 性 ア ル コー ル 中毒 28,124
悪 性 新 生 物 10,155
エ ネ ル ギ ー 代 謝 82,92
吸 啜 反 射 41
ア クテ ィ ブ80ヘ ルス プ ラ ン
エ ネ ル ギ ー 必 要 量 90
休 養 74
12,142,152
休 養 指 針 23
ア サ ー シ ョン ス キ ル 108
嚥 下 障 害 133 エ ンゼ ル プ ラ ン 143
ア セ トアル デ ヒ ド 27
エ ンパ ワー メ ン ト 148
休 養 に よ る健 康 づ く り対 策 26
あ
行
ア ダプ テ ッ ド ・ス ポ ー ツ 199 ア デ ノ シ ン三 リ ン酸 82
休 息 163
休 養 状 況 調 査 表 25 協 応 性 17
オ タワ 憲 章 192
教 科 指 導 120
ア デ ノ シ ン二 リ ン酸 82
競 技 ス ポ ー ツ 57
ア ミノ 酸 サ プ リ メ ン ト 86
か
行
ア ル ギ ニ ン 86
偽 陽 性 150 虚 血 性 心 疾 患 156
ア ル コー ル 飲 料 26
介 護 保 険 制 度 153,169
起 立 性 蛋 白 尿 67
ア ル コー ル性 肝 障 害 28
介 護 予 防 192
筋 持 久 力 17,86
ア ル コー ル 脱 水 素 酵 素 27
外 食 130
筋 力 17
ア ル マ ・ア タ宣 言 3,192
外 的環 境 170
安 全 教 育 119
顎 顔 面 175
グ リコ ー ゲ ン 83
覚 醒 102
グ リコ ー ゲ ン ロー デ ィ ン グ 87
生 きが い 10,38
学 校 基 本 調 査 49
グ ル コ ー ス 83
育児 支援 187
学 校 体 育 48
車 椅 子 バ ス ケ ッ トボ ー ル 196
育 児 支援 者 182
学 校 保 健 150,153
ク レア チ ン 83
育 児 指 導 183
学 校 保 健 委 員 会 153
ク レペ リ ン検 査 72
維 持 期 164
活動的平均 余命 5
結 核 10
生 涯 自由 時 間 9
欠 食 128
さ
行
血 中 ア ル コ ー ル 濃 度 27
生 涯 ス ポ ー ツ 37,48 上 限 量 23
ゲ ー トボ ー ル 55
催 奇 形 作 用 28
少 産 少 死 119
健 康 観 8
採 光 172
少 子 化 対 策 プ ラス ワ ン 145
健 康 管 理 146,153,189,191
作 業 活 動 162
少 子 ・高 齢 化 118
健 康 教 育 148
作 業 環 境 管 理 153
照 明 172
健 康 行 動 137
作 業 管 理 153
消 耗 説 64
健 康 習 慣 124
作 業 能 率検 査 72
食 事 190
健 康 寿 命 5,53
作 業 療 法 162
食 事 摂 取 基 準 20,21,79
健 康 診 査 150
サ プ リ メ ン ト 94,97
食 事 誘 導 性 体 熱 産 生 83
健 康 診 断 150
サ ーベ イ ラ ンス 150
食 生 活 指 針 79,80
健 康 相 談 148
産 業 保 健 150,153
人 為 的 環 境 170
健 康 づ く り 10
三 次 予 防 146
心 疾 患 11 心身二元論的健康観 8
健 康 定 義 8 健 康 日本21 12,78,79,142, 147,152 検 索 反 射 41 原 始 反 射 41
死 因 119
新 体 力 テ ス ト 123
シ ェ イ プ ア ップ 63
心 理 的 離 乳 48
自覚 症 状 調 査 68 自 己観 察 日記 法 141
随 意 運 動 40
事 後 指 導 150
推 奨 量 22
誤 飲 44
自 己賞 罰 法 141
推 定 平 均 必 要 量 21
広 域 ス ポ ー ツ セ ン ター 38
仕 事 163
睡 眠 74,102
口蓋 裂 176
歯 周 炎 180
睡 眠 障 害 103
合 計 特 殊 出生 率 118
次 世 代 育成 支援 対 策推 進 法
ス ク リー ニ ン グ 150
咬 合 性 外 傷 180
144
口唇 裂 176
室 内気 候 172
健 や か 親 子21 143 ス トレス 105
功 緻 性 17,45
疾 病 曲線 51
ス トレス 対 処 行 動 106
行 動 感 覚 140
疾 病 構 造 12
ス トレ ス マ ネ ジ メ ン ト 107,
行 動 体 力 2,16
児 童 期 15
更 年 期 128
死 亡 率 119
ス トレ ッサ ー 105
抗 利 尿 ホ ル モ ン 66
社 会 体 育 48
ス ポ ー ツ 34,57,65
高 齢 化 社 会 53
社 会 的 環 境 170
ス ポ ー ツ学 習 48
高 齢 社 会 53 ゴー ル デ ンエ イ ジ 47
社 会 的 再 適 応 評 価 尺 度 105
ス ポ ー ツ実 施 率 34
住 環 境 170
ス ポ ー ツ振 興 基 本 計 画 37
ゴー ル ドプ ラ ン21 134,144
柔 軟 性 17
ス ポ ー ツ ラ イ フ 47
国 際 生 活 機 能 分 類 3,166
主観的健康 2
ス ポ ー ツラ イ フ ス タ イル 47
国 民 健 康 栄 養 調 査 76
受 動 喫 煙 30
ス モ ー ル ス テ ッ プ法 141
個 人 因子 166
主 要 死 因別 死 亡 率 10
子 育 て支 援 法 180
主 流 煙 30
生 活 活 動 強 度 93
骨 代 謝 88 5人 制 サ ッ カ ー 196
受療率 5
生 活 環 境 166
循 環 器 疾 患 156
生 活 関 連 活 動 163
コ ミュ ニ ケ― シ ョ ン ス キ ル
瞬 発 力 17
生 活 時 間 調 査 122
108
障害 4
生 活 時 間 調 査 法 93
誤 用 症 候 群 193
障 害 児 188,191
生 活 習 慣 病 12,18,122,126,
障 害 者 192 障 害 者 ス ポ ー ツ 196
160
128 生 活 の 質 3,126
ノル ア ドレナ リ ン 87
生 活 リズ ム 111,113,189
中枢 神 経 系 39
成 人期 15
超 回復 62
精 神 障 害 159
調 節 機 能 失 調 説 65
成 長期 164
調 理 済 み食 品 128,130
成 長 ホ ル モ ン 86
直 接 法 92
青 年 期 15
貯 蔵 カ ル シ ウ ム 88
行
廃 用 症 候 群 193 ハ イ リス クア プ ロー チ 147 8020運 動 173
生 物 学 的 老 化 53 生命 の質 3
は
デ ィ ス トレス 105
生命 表 9
デ ィ マ ンズ 166
生 命 力 116
電 子 伝 達 系 84
発 育 ・発 達 課 題 48 発 育 発 達 曲線 51 ハ ー トビ ル法 167
生 理 機 能 検 査 72
早 起 き 113
石 灰 化 173
統 合 失調 症 160
積 極 的 な 休 養 24
糖 尿 病 実 態 調 査 156
早 寝 113 パ ラ リ ン ピ ッ ク 197
摂 食 障 害 128
特 異 度 150
バ リ ア フ リー デ ザ イ ン 167
セ ル フ ケ ア 146
トレ ー ニ ン グの 五 大 原 則 60
パ ワー リハ ビ リ テー シ ョン 194
全 身 持 久 力 17,86 全 人的な健康 9
な
行
反 射 40,41 反 対 咬 合 178
総 合 型 地 域 ス ポ ー ツ ク ラ ブ 38
内臓 脂肪 型 肥 満 157
咀 嚼 175
内 的 環境 170 内 部 環境 変 化 説 65 た
汎 理 論 的 モ デ ル 148 皮 下 脂 肪 型 肥 満 157 皮 下 脂 肪 厚 158
行 ニ コ チ ン 29
ビ タ ミンB群 87
体 育 56
二 次 的合 併 症 194
ビ タ ミンD 88
体 育 ・ス ポ ー ツ に 関す る 国 際 憲
二 重標 識 水 法 92
非 乳 酸 性 機 構 83
章 198
二 次 予 防 12,20,146
肥 満 76,128
第 一 次 国 民 健 康 づ く り対 策
ニ ー ズ 166
肥 満 の判 定 157
12,142,192
日常 生 活 活 動 163
病 者 役 割 理 論 138
ダ イ エ ッ ト 63
日本 医 師 会 ・健 康 運 動 の ガ イ ド
疲 労 59,64
第 三 次 国 民 健 康 づ く り対 策
ラ イ ン 53
疲 労 感 68
12,142
日本 人 の 栄 養 所 要 量 79,93
疲 労 ス コ ア 69
体 脂 肪 率 89
日本 人 の 食 事 摂 取 基 準 78
敏 感 度 150
体 脂 肪 量 測 定 158
乳 酸 性 機構 83
敏 捷 性 17,45
第 二 次 国 民 健 康 づ く り対 策
乳 歯 173,176
12,142
乳 児 期 15
フ ァ ミ リー ス ポ ー ツ 51
第 二 の 現 役 期 9,52
乳児死亡率 5 ニ ュ ー ス ポ ー ツ 50
フ ィ ジ カ ル ・フ ィ ッ トネ ス 16
体 力 2,16,121
尿 66
不快 指 数 172
体 力 の 低 下 曲線 50 タバ コ 29
認 知 症 160
副 交 感神 経 117
多 量 飲 酒 13
年 少 人 口 118
不健 康 行動 137
単 純 性肥 満 157
年 代 別 運 動 習 慣 者 50
負傷 発 生 119
タ イム マ ネ ジ メ ン ト法 108
副流 煙 30
プ ラ イ マ リ ・ヘ ル ス ケ ア 4
タ ンパ ク尿 67
地 域 保 健 150 蓄 積 説 65
フ ィ ッ トネ ス 2
脳 血 管 疾 患 10,156
プ ラー ク 179,180
ノー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン7ヵ 年 戦
フ リ ッカ ー検 査 72
略 167
プ レゴ ー ル デ ンエ イ ジ 46
プ ロ テ イ ン サ プ リ メ ン ト 86
ユ ニバ ー サ ル デ ザ イ ン 167
分 煙 31
ま
行
分 岐 鎖 ア ミノ 酸 86
幼 児 15 マ ク ロ フ ァ ー ジ貪 食機 能 18
余 暇 活 動 163
平 均 寿 命 5,9
マ シ ン ト レー ニ ン グ 194
予 防 的 リハ ビ リテ ー シ ョ ン
平 衡 性 17,45 ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン 4 ,121,
民 間 療 法 137
192
141
ら
行
無 酸 素 性 機 構 83 保 育 者 181,187
無 歯 顎 176
ラ イ フサ イ ク ル 9,40
防 衛 体 力 2,16 防 煙 31
ラ イ フサ イ ク ル 論 47 メ タボ リ ック ・シ ン ドロー ム
保 健 学 習 120
158
保 健 感 覚 モ デ ル 140
メ デ ィ カル チ ェ ッ ク基 準 53
ラ イ フ ス タ イ ル 142 ラ イ フ ス テ ー ジ 10,176
保 健 管 理 119,153
目安 量 22
罹患率 5
保 健 規 範 モ デ ル 140
メ ラ トニ ン 111
リス ニ ン グ ス キ ル 108
保 健 教 育 119,153
燃 え 尽 き現 象 125
リ ン酸 82
保 健 行 動 137
目標 量 22
リ ン酸 カ ル シ ウ ム 88
モ ニ タ リ ン グ 150
る い そ う 77
保 健 行 動 の シー ソ ー モ デ ル 138 保 健 指 導 120 保 健信 念 モ デ ル 139,148
や
行
保 健 体 育 審 議 会 47
レ クス コ ア 60 レ ク リエ ー シ ョ ン 59
保 護 者 181
や せ 76
母子 保 健 施 策 143
や せ 願 望 127
歩 数 計 法 93
連 続 色 名 呼 称 検 査 72 老 人 保 健 施 策 143
ポ ピュ レー シ ョ ン ア プ ロ ー チ
有 効 温 度 173
老 年 期 15
147
有 酸 素性 機構 83
ロ ー レル 指 数
ホ メ オ ス タ シ ス 170
有 病 率 5
ホ ル モ ン 117
ユ ー ス トレス 105
158
監修者略歴 緒 方 正 名 1926年 岡 山県に生 まれ る 1949年 岡山 医科大学 医学 部卒 業 現 在 岡山 大学名 誉教授 ・医学博 士
編著者略歴 前
橋
明
大
1955年 岡山県 に生 まれる 1978年 米 国 ミズー リ大学大学 院修 了 現 在 早 稲 田大学教授 ・博士(医 学)
森
豊
最 新健康科 学概論 2005年12月5日
初 版 第1刷
2007年4月25日
第3刷
緑
1959年 岡山県 に生 まれ る 1996年 米国ハーバ ー ド大 学大学院修了 現 在 和 歌 山 県福 祉保 健 部健 康局 長 医学博 士
定価はカバーに表示
監修者 緒
方
正
編著者 前
橋
名 明
大
森
豊
緑
発行者 朝
倉
邦
造
倉 書
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会社 発行所 株式 朝
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町6-29 郵 便 電
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〈 検 印省 略〉 C2005〈 ISBN
無 断 複 写 ・転 載 を禁 ず 〉 978-4-254-64033-5C3077
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