電 子 物性 工 学 基 礎 か らデバ イ ス へ
今村
T D U
舜仁 著
東京電機大学出版局
R〈日本複 写 権 セ ン ター 委託 出版物 ・特 別 扱 い〉 本 書 の無 断 複 写 は,著 作 権 法 上 で...
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電 子 物性 工 学 基 礎 か らデバ イ ス へ
今村
T D U
舜仁 著
東京電機大学出版局
R〈日本複 写 権 セ ン ター 委託 出版物 ・特 別 扱 い〉 本 書 の無 断 複 写 は,著 作 権 法 上 で の例 外 を除 き,禁 じ られ て い ます。 本 書 は,日 本複 写 権 セ ン ター 「出版 物 の 複 写 利用 規 程 」 で定 め る特 別 許 諾 を必要 とす る出 版物 です。 本 書 を複 写 され る場 合 は,す でに 日本 複 写 権 セ ン ター と包 括 契約 を され て い る方 も事 前 に 日本 複写 権 セ ン タ ー(03‐3401‐2382)の 許 諾 を得 て くだ さい。
まえがき 本 書 は,主 に大 学 工 学 部 学 生 の た め に電 子 物 性 工 学,固 体 電 子 工 学,半
導体工
学 とい った 科 目 に関 す る 内容 を学 習 者 の 姿 勢 で 書 い た もの で あ る.学 科 に よ っ て は,章
・項 目の 取 り上 げ方 に よ っ て,ま た 読 み 方 に よっ て学 部 学 生 な い し修 士 課
程 学 生 の教 科 書 あ る い は参 考 書 と な ろ う. 上 記 の科 目内 容 の 理 解 に は,量 子 論,統 計 力 学,物 性 物 理 学 な ど,基 礎 的 学 問 の予 備 知 識 が 要 求 され る.し か し,最 近 は学 習 分 野 の 拡 大 に と もな い,こ れ ら を じっ く り学 習 す る こ と は,一 般 の工 学 部 学 生 に と って 難 しい よ うで あ り,学 習 に よ って 覚 え て 身 に付 け な けれ ば な らな い事 柄 を,ブ
ラ ッ ク ボ ック ス と し て専 ら憶
えて 暗 記 す る こ とに な りか ね な い. 本 書 にお い て も,内 容 の 多 くは量 子 論 に基 づ い て い る が,極
く基 本 的 な 概 念 と
数式 の み を用 い,予 備 知 識 が あ ま りな くて も電 子 物 性 工 学 を 定性 的 に は理 解 で き るよ うに,ま た,理 解 しに くい と思 わ れ る と こ ろ は特 に詳 し く,で き る だ け解 説 的 に書 い た つ も りで あ る.5章
と7章 は付 録 と して も よい が,本 書 を読 む 際 に,必
ず 通 過 しな け れ ば な ら ない 基 礎 的事 項 な の で敢 えて 章 に加 え た. 本 書 は,解 説 的 な 記 述 と は言 っ て も概 論 で は な い の で,必 ず し もや さ し くは な い 内 容 も含 まれ て い る.ま た,解 説 に は著 者 の理 解 が 不 十 分 で 独 善 的 な と ころ が あ るか も しれ な い.考
えな が ら読 ん で理 解 を深 め る こ と を期 待 す る.
新 しい 電 子 デバ イ ス が続 々 と開 発 され て い るが,厳
密 な 理論 的 解 析 に よ る もの
は割 合 に 少 な く,そ れ らの 多 くは物 性 論 に も とづ く定 性 的 な考 察,卓 抜 な ひ ら め き,新 しい ア イデ ア な どが 高 度 な 技 術 に支 え られ て実 現 さ れ た もの の よ うに 思 わ れ る.逆 に,そ れ は物 性 論 が 大 筋 に お い て正 しい こ とを証 明 して い る.読 者 が 物 性 論 の考 え 方 を身 に付 けて,将 来 この 分 野 の進 歩 に大 きな 貢 献 を な され る こ と に なれ ば著 者 と して は 大 きな 喜 び で あ る.
な お,本 書 の 書 名 で は誘 電体 や 磁 性 体 も内容 に含 め る べ き で あ ろ うが,取 扱 い 方 が か な り異 な っ て く る こ と と,紙 数 の都 合 で 割 愛 した.機 会 が 得 られ れ ば 物 性 工 学 の 視 点 か ら,こ れ らを追 補 した い と思 っ て い る. 畏 友 中 沢 叡 一 郎(工 学 院 大 学),上
野 信 雄(千 葉 大 学 工 学 部)両 博 士 に は執 筆 中
に た び た び ご 討 論,ご 教 示 を い た だ き,ま た,草 稿 の 多 くに 目 を通 され て貴 重 な ご意 見 を いた だ い た.ま 所)両
た,藤 本 勲(NHK技
研),森
下 忠 隆(超 電 導工 学 研 究
博 士 に は,専 門 的 な ご教 示 を いた だ い た.こ れ ら諸 氏 お よ び ご努 力 い た だ
い た 出 版 関 係 の 方 々 に厚 く感 謝 す る次 第 で あ る. 1996年1月 筆 者 しる す
目
1. 光 子
・電 子
・原 子
次
・仮 想 粒 子
1.1 光
子
1
1.2 電
子
3
1.3 原
子
4
1.4 粒 子間 の 相 互 作 用
6
1.5 仮 想 粒 子
7
2. 原 子 の 電 子 状 態
2.1 ボ ー ア の 水 素 原 子 構 造 モ デ ル(前 2.2 原 子 の 電 子 構 造(量
期 量 子 論 モ デ ル)
子 力 学 モ デ ル)
8 12 19
2.4 周 期 律
20
3. 結
2.3 原 子 中 の 電 子 配 置
晶
3.1 固 体 の 結 合 力
22
3.2 固 体 の 種 類
30
3.3 結
31
晶
3.4 結 晶 構 造 解 析
38
3.5 結 晶 構 造 の 例
41
3.6 結 晶 の 育 成
43
4.
格 子 欠 陥
5. 波
6.
4.1 点 欠 陥
49
4.2 転
位
52
4.3 面 欠 陥
56
動
5.1 振
動
58
5.2 波
動
59
5.3 定 在 波
61
5.4 巡 回 波
65
5.5 波
66
束
5.6 波 動 方 程 式
67
5.7 シ ュ レ ー デ ィ ン ガ ー の 波 動 方 程 式
68
粒 子 集 団 の 統 計
6.1 分 布 関 数
73
6.2 古 典 統 計― マ ク ス ウ ェ ル ・ボ ル ツ マ ン 統 計
78
6.3 量 子 統 計― フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ ク 統 計 と ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タ イ ン 統 計 6.4 古 典 統 計 と 量 子 統 計
81 84
7. 粒 子 の 流 れ
7.1 粒 子 流
86
8.
7.2 粒 子 の 衝 突
87
7.3 拡 散 流
89
7.4
91
ド リ フ ト流
7.5 拡 散 流 と ド リ フ ト流
93
7.6 非 定 常 流 ・流 れ の 連 続 方 程 式
93
熱 的 性 質 8.1 格 子 振 動 の モ ー ド
95
8.2 結 晶 格 子 の 振 動 状 態
97
8.3 格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー
100
8.4 格 子 比 熱
103
8.5 格 子 熱 伝 導
105
8.6 電 子 に よ る 熱 的 性 質
108
8.7 物 質 の 熱 伝 導
111
9. 固 体 の 電 子 状 態
9.1 電 子 エ ネ ル ギ ー 帯(エ
10.
ネ ル ギ ー バ ン ド)
113
9.2 表 面 ポ テ ン シ ャ ル 障 壁
126
9.3 量 子 サ イ ズ 効 果
128
9.4 不 純 物 ・格 子 欠 陥 の 電 子 状 態
131
9.5 非 晶 質 の 電 子 状 態
135
光 学 的 性 質 と素 子
10.1 光 吸 収
137
10.2 光 吸 収 の 理 論― 巨 視 的 ア プ ロ ー チ
138
11.
10.3
光 吸 収 の 理 論― 微 視 的 ア プ ロ ー チ
141
10.4
固 体 の 光 吸 収
145
10.5
固 体 の 光 放 出― 温 度 放 射 と ル ミ ネ セ ン ス
150
10.6 外 力 に よ る 光 学 的 効 果
161
10.7 液 晶 の 電 気 光 学 効 果
166
電 気 伝 導 11.1
ド リ フ ト電 気 伝 導
11.2 拡 散 電 気 伝 導
175
11.3
175
固 体 内 伝 導 電 子 の 有 効 質 量 と正 孔
11.4 固 体 内 伝 導 電 子 ・正 孔 に 対 す る磁 界 の 効 果
12.
13.
171
180
半 導 体
12.1 半 導 体
183
12.2 熱 平 衡 状 態 に お け る 半 導 体
186
12.3 非 平 衡 状 態 に お け る キ ャ リ ア
193
12.4 非 晶 質 半 導 体
197
半 導 体 素 子
13.1 金 属 と半 導 体 の 接 触 お よ び 関 連 素 子
199
13.2 pn接
205
合 と 関 連 素 子
13.3 バ イ ポ ー ラ ト ラ ン ジ ス タ と 関 連 素 子
215
13.4 絶 縁 体 と の 接 触 を 含 む 素 子
220
13.5 光 導 電 と光 導 電 素 子
226
13.6 熱 ・温 度 の 効 果 と 関 連 素 子
230
14. 電 子 放 出 と 素 子 14.1 熱 電 子 放 出
235
14.2 光 電 子 放 出
238
14.3 2次 電 子 放 出
241
14.4 冷 電 子 放 出(電 界 放 出)
243
15. 超 電 導 と 素 子 15.1 超 電 導 現 象
248
15.2 BCS超
256
電 導 理 論
15.3 ジ ョゼ フ ソ ン効 果 と素 子
261
参 考 文 献
267
付
録
268
索
引
270
1. 光 子 ・電 子 ・原 子 ・仮 想 粒 子
物 性 論,固 体 電 子 工 学,物 性 工 学 な ど の分 野 の 主 役 は,電 子,光 子,原 子 で あ る.本 章 は,こ れ らの 粒 子 の イ メ ー ジ作 りの た め に設 け た.電 子 と光 子 は粒 子 で あ る と同 時 に波 動 で も あ り,固 体 の さ ま ざ まな物 性 を理 解 す るに は電 子,光 子 の 粒 子 性 あ る い は 波動 性 の 特 質 を把 握 して お く必 要 が あ る.固 体 を形 成 して い る原 子 に つ い て も,そ の 粒 子 的 構 造 を理 解 し て お く必 要 が あ る.原 子 の 電 子 的 構 造 に つ い て は次 の章 で述 べ る.物 性 論 で は,こ れ らの 粒 子 の ほ か に フ ォ ノ ン そ の他 さ まざ まな 名 称 の仮 想 粒 子 が 登 場 す る が,こ れ らは 実 粒 子 で は な く,固 体 内 に存 在 す る と考 え られ る さ ま ざ ま な波 動 を量 子 化 した もの で あ る.
1.1 光
子
高 融 点 の 固体 を加 熱 す る と熱 線(赤 外 線)を 放 出 し,さ
らに加 熱 す る と赤 い 光
か ら紫 外線 を も含 む 白 い 光 の 放 出 に変 化 す る.こ の よ う に物 体 が 温 度 に関 係 す る 電 磁 波 を放 出 す る現 象 を温 度 放 射 また は熱 放 射 とい う.こ の電 磁 波 の エ ネ ル ギ ー 密 度 の 温 度 ・波 長 依 存性 を理 論 的 に解 析 す る た め に プ ラ ン ク(M.Planck)は 期 的 な エ ネ ル ギ ー量 子 説 を1900年
に提 唱 した.電 磁 波(光)は
画
電 荷 を有 す る調 和
振 動 子 に よ っ て生 ず る と考 え られ る が,プ ラ ン ク は1つ の 振 動 数ν で 振 動 して い る調 和 振 動 子 の エ ネ ル ギ ーEの
値 は,次 の 式 で 表 さ れ る と仮 定 した.
(1.1.1) hは こ こで 初 め て 導 入 され た プ ラ ンク の 定 数 で,
の 値 を 有 し,角
運 動 量 の 次 元 を 持 つ.
こ の 式 は,振 動 子 の 振 動 エ ネ ル ギ ー は 連 続 で は な く,エ ネ ル ギ ーhν る と び と び の 離 散 的(discrete)な
値 に 限 ら れ る と す る も の で あ る.そ
を間 隔 とす し てhν
を
エ ネ ル ギ― 量 子 と呼 ん だ(そ の 後 に発 展 した 量 子 力 学 に よれ ば,調 和 振 動 子 の エ ネ ル ギ ー はE=(1/2+n)hν
で 与 え られ る.hν/2は
度 に無 関 係 で あ るた めOKで
零 点 エ ネ ル ギー とい わ れ,温
も振 動 エ ネル ギ ー が存 在 す る.プ ラ ン ク の仮 定 は,
これ を省 略 した形 と な っ て い る(本 書 で も これ を省 略 す る).こ の よ う な仮 定 か ら プ ラ ン クが 導 い た 温 度 放 射 の 振 動 数(波 長)分 布 式 は,実 験 結 果 と極 め て良 く一 致 した.こ の エ ネ ル ギー 量 子 化仮 説 の提 唱 を 契機 とし て,以 降,量 学,物 性 論,量 子 電 磁 力 学,素 粒 子 論,あ
子 論 は量 子 力
る い は 宇 宙 論 へ と深 く広 く発 展 す る こ
とに な る. さて,光 が波 の性 質 を有 す る こ とは干 渉 現 象 そ の他 の事 実 か ら19世 紀 の 初 め ご ろ か ら知 られ て い た.こ れ に対 しア イ ン シ ュ タ イ ン(A.Einstein)は,光 よ っ て物 体 か ら電 子 が 飛 び出 す現 象,す は,光 を粒 子― 光 量 子(photo-quantum)― 子 仮 説 を1905年
に提 唱 した.こ
子 の 光 速 度υ=cの
照射 に
なわ ち光 電 子 放 出 現 象 を理 解 す るた め に と考 え な けれ ば な ら な い とい う光 量
れ に よれ ば,振 動 数ν=υ/λ の 光 の 波 動 は 光 量
流 れ と考 え る.そ
して 光 量 子1個
のエネル ギー を (1.1.2)
で 表 し,光 量 子 数 がN個
の と き は全 エ ネ ル ギ ー はE=Nhν
対 性 理 論 か ら光 量 子 は質 量m=0の
粒 子 で あ っ て,1個
で 表 す.ま た,特 殊 相 の運動 量 は
(1.1.3) で 表 され る と した.質 量m,速 =p2/2mで
度υ,運 動 量p=mυ
あ る.こ れ か らmが
対 し,E=hν=hυ/λ
この 仮 説 の 正 当 さ はX線
線 か らm波
表 向 き出 な い形 でdE=υdpと
で 表 され る波 動 の と き にdE=υdpの
光 速 で 一 定 だ か らdp=d(h/λ),す
―の 解析 か ら1922年
の粒 子 の運 動 エ ネ ル ギ ー はE
な わ ちp=h/λ
書 か れ る.こ れ に
形 に な る た め に は,υ は
で な けれ ば な ら な い の で あ る.
が 電 子 に衝 突 す る と きの 散 乱 現 象― コ ン プ ト ン効 果
に確 認 され た.現 在 で は光 量 子 を光 子(photon)と
い う.X
に及 ぶ す べ て の 電磁 波 は光 子 と考 え る こ とが で き る.
この よ う に し て光 は,波 動 性 と粒 子 性 の2面 性 を有 す る こ とが 明 らか に な っ た.
エ ネ ル ギ ーhν の光 子 数Nが
大 きい こ とは,振 動 数ν の 波 の 振 幅 が大 き い こ と に
対 応 す る.光 子 密 度 が大 きい とき は,光 子 の波 動 が 干渉 す る確 率 が 高 くな り,干 渉 効 果 が 観 測 され る よ うに な る.密 度 が 小 さ い と き は,粒 子 性 が 観 測 され る よ う に な る.通 常 のX線
は,密 度 が 小 さい の で ガ イ ガ ー 計 数 管 で 粒 子 計 数 され る.ま
た,現 在 で は,可 視 光 で も極 微 弱 光 に つ い て は光 子 計 数 が 可 能 に な っ て い る. 現 在,光
子 は 自然 界 に 実在 す る い くつ か の素 粒 子(究
極 の 基 本 粒 子)の
中 の1
つ で あ る と され て い る が,質 量 が ゼ ロで 物 質 粒 子 で な い素 粒 子 は光 子 の み で あ る.
1. 2 電
子
さ まざ まな 電 気 現 象 が正 負 の 電 荷 に よ り起 こ る とい う考 え方 は,18世 ら存 在 して い た が,そ た.1897年
紀 ごろか
の電 荷 と し て は現 在 の イ オ ンの よ うな もの が 考 え られ て い
に トム ソ ン(J.J.Thomson)は,真
空 中 に お け る荷 電(電
子)ビ
の電 界 あ るい は磁 界 に よ る偏 向 の 実 験 か ら電 荷 量 と質 量 の 比 の値q/mを イ オ ン よ り も は る か に軽 い微 粒 子― 電 子(electron)―
ーム
測 定 し,
が 存 在 す る こ と を初 め て
確 認 した. 以 来,電 子 は素 電 荷 量 の電 荷 と質 量 を有 す る物 質 粒 子 で あ る とされ て きた.こ れ に対 し,1923年
に ドゥ ・ブ ロ ー イ(L.de
Broglie)は,光
子 と同 様 に 電 子 に も
波 動 性 を考 えな けれ ば な らな い と い う画 期 的 な電 子 波 仮 説 を提 唱 し た.そ れ は運 動 量pの
電 子 の波 長 λは,光 子 の 場 合 の式(1.1.3)と
同様 に
(1.2.1) で 与 え られ る と仮 定 す る もの で あ る. こ の仮 説 の 正 当 さ は,1927年
に ダ ヴ ィ ソ ン(C.Davisson)ほ
か の電 子 回 折 の
実 験 か ら実証 され た.電 子 の波 は ドゥ ・ブ ロー イ波 と もい わ れ,質 量 を有 す る粒 子 の 波― 物 質 波― の1つ で あ る.式(1.2.1)は,波
動 量 子 力 学 の 基 礎 とな る重 要
な 関 係 式 で あ り,本 書 で も よ く用 い る.電 子 は光 子 と同 様 に密 度 が 小 さい と きは, 粒 子 性 が 顕 著 で1個1個
を観 測 す る こ とが で き,密 度 が 大 き くな る と電 子 線 回 折
現 象 の よ うに 波動 性 が 観 測 さ れ る.電 子 も素粒 子 の1つ
で あ る.
1.3 原
子
マ ク ロ な 意 味 で の 各 物 質 の 性 質,い (atom)と
い わ れ る.a-tomは
わ ゆ る物 性 を 持 つ極 小 の 粒 子 は,原 子
ギ リシ ャ語 か ら 由来 し,分 割 で きな い も の とい う
意 味 が あ る.化 学 的 性 質 の 異 な る原 子 を 元素(element)と で 区 別 され,現 在 の と こ ろ1番 か ら111番
まで の111種
い い,元 素 は原 子 番 号 類 が 見 つ け られ て い る.
1番 の 水 素 か ら92番 の ウ ラニ ウ ム まで は 自然 界 に存 在 し,93番
のネプ チニ ウム
以 上 は人 工 の 元 素 で あ り,今 後 も新 し い元 素 が 作 られ る可 能 性 が あ る.原 子 の 形 は ほ ぼ球 状 で,大
き さ は さ ま ざ ま な測 定 か ら10-8cm=A程
度 で あ る こ とが 確 か
め られ て い る. 原 子 は,原 子 核(nucleus)と
そ の周 囲 で 安 定 な エ ネ ル ギー を持 っ て運 動 して い
る電 子 か ら構 成 さ れ て い る.原 子 核 は,1個 な い し複 数 の 陽 子(proton)と0個 い し複 数 個 の 中 性 子(neutron)か
な
ら構 成 され て い る.な お,陽 子 と中性 子 は,通
常 は安 定 に存 在 す る基 本 的粒 子 で は あ る が 素粒 子 で は な い.原 子 核 内 陽 子 数Zを 原 子 番 号(atomic
number)と
い う.陽 子 は電 子 の 負 電 荷 と等 しい正 電 荷 を有 す
るが,中 性 子 は電 荷 を有 しな い.原 子 核 の周 囲 に あ る電 子 の 数 は陽 子 の 数Zと しい.こ
等
のた め原 子 は電 気 的 に 中性 で あ る.原 子 の物 性 は 主 に電 子 か ら生 ず る.
陽子 と中 性 子 の質 量 は ほ ぼ等 し く,電 子 の 質 量 の約1837倍
もあ る.し た が っ て,
原 子 の質 量 は陽 子 と中 性 子 の総 質 量 に ほぼ 等 しい.原 子 の質 量 は,次 の よ う に い くつ か の 表 し方 が あ る. ① 質量 数 陽 子 数Z+中 位 元 素(isotope)は
性 子 数N=Aを
原 子 番 号Z(陽
質 量 数(mass
number)と
子 数)が 等 し く,中 性 子 数Nが
い う.同 異 な る原 子
で あ る.こ の た め元 素 周期 表 で は同 族 に位 置 す るが 質 量 が 異 な る.元 素 を質 量 数 まで 書 く と き は,例 え ば ウ ラ ニ ウム の 場 合,238 92Uの よ う に添 字 左 下 にZ,左
上に
Aを書 く.同 位 元 素 は235 92Uのよ う に 区別 され る. ② 原 子 量 と い い,各
炭 素12 6Cの
質 量 の1/12=1.6605×10-24〔g〕
原 子 の 実 質 量 を こ の 単 位 で 割 っ た 値Mを
を 原 子 質 量 単 位mu
原 子 量(atomic
weight)と
い う.原 子 量 は各 原 子 の実 質 量 の 相 対 値 を示 す.M≒Aで
あ っ てMの
整 数部 が
Aに等 しい. ③ 原 子 の 実 質 量 原 子 量 に 等 しい 質 量 〔g〕,すな わ ち 原 子1モ 子)の 質 量 を1モ ル 中 の 原 子 数,す った値 が 原 子1個
ラム原
な わ ち ア ボ ガ ドロ 定 数NA=6.022×1023で
の 実 質 量(mass)で
割
あ る.
光 子,電 子,陽 子,中 性 子,水 素 原 子 の物 理 量 を表1.3.1に 中性 子 は物 質 粒 子 で あ るが,そ
ル(グ
示 す.電 子,陽 子,
の大 き さ は書 か れ て い な い.こ れ ら微 粒 子 の 大 き
さは決 め られ て い な い の で は な く,粒 子 性 と同時 に 波 動性 を考 え る量 子 論 に よれ ば決 め る こ とが で き な い の で あ る.
表1.3.1
基本 的 粒 子 の物理 量
電 子 は 原 子 よ り も 小 さ い こ と は 確 か で あ る が,電 う な 考 え 方 も あ る.ま 静 止 質 量mの 一 方,電
イ ン シ ュ タ イ ン の 質 量 エ ネ ル ギ ー 等 価 則 に よ れ ば,
電 子 が 有 す る エ ネ ル ギ ー はcを 子 の 電 荷qか
空 の 誘 電 率),こ る.し
ず,ア
か し,qを
ら距 離rに
光 速 と し てEm=mc2で
の 電 位 に お い て 電 荷qが
有 す る エ ネ ル ギ ー はEs=q2/4π
点 と す る とr=0でEsは
発 散 し て し ま うか ら,qの こ でEs=Emと
eの 距 離 ま で 均 一 に 分 布 し て い る とす る と,re=q2/4π 光 速 で あ る.こ
のreを
で は い れ ら れ な い も の で あ る が,電
あ る.
お け る 電 位 はq/4π ε0rで あ る か ら(ε0は
よ う に 分 布 し て い な け れ ば な ら な い.そ
得 られ る.cは
子の大 きさにつ いては次の よ
ε0rで あ 電 荷 は雲 の
な る よ う に 素 電 荷qがr ε0mc2=2.818×10-13〔cm〕
古 典 電 子 半 径 と い う.こ 子 の 大 き さ の1つ
真
が
の 考 え 方 は量 子 論
の 目 安 に は な る.陽
子,中
性 子 の 大 き さ,し た が っ て原 子核 の 大 きさ も同 程 度 と考 え られ る. 以 上 か ら,原 子 の イ メ ー ジ は 次 の よ うに描 け よ う.原 子 の 中 心 に正 電 荷 の 原 子 核 が あ り,そ の 回 りに負 電 荷 の電 子 が 安 定 に運 動 し て い る.原 子 核 と電 子 の 大 き さ は非 常 に小 さ くて 測 定 もで きな い が,同
じ くらい の大 き さで あ ろ う.原 子 の 大
き さ は電 子 の 運 動 領 域 の 大 き さで決 め られ,そ
の 大 体 の 大 き さ は推 定 す る こ とが
で き,ま た 測 定 され る.原 子 の大 き さは 原 子 核 や電 子 の 大 き さ よ り もず っ と大 き い こ とは 確 か で あ り,原 子 核 は正 電 荷 の"点",電
子 は 負電 荷 の"点"と み な せ る.
さ らに原 子核 は陽 子 と中性 子 が 結 合 した粒 子 で あ る が,原 子 核 が 点 とみ なせ るほ ど強 く結 合 し て い る.原 子 の 中 の 大 部 分 は"空 間"と
み なせ る.し か し他 の 原 子
は入 り込 め な い の で"真 空"で あ る. 一 方,電 子 の 重 さ は 原子 核 の 重 さ に比 べ れ ば 非 常 に軽 い た め に,原 子 の 重 さ は 原 子 核 の 重 さで ほ ぼ決 ま り,"点"の 原 子 核 に集 中 して い る.つ
ま り原 子 核 は非 常
に重 い粒 子 とい え る.
1.4 粒 子 間 の 相 互 作 用 光 子 と原 子 内電 子 は,互 い に エ ネ ル ギ ー をや りと りす る相 互 作 用 が あ る とい う こ とが重 要 で あ る.原 子 内 に束 縛 され て い る電 子 に 光 を照 射 す る と,電 子 は光 子 を吸 収 す る こ とが で き る.電 子 に飲 み込 まれ た 形 で 光 子 は消 滅 し,電 子 は飲 み 込 ん だ 光 子 の エ ネ ル ギ ー 分 だ けエ ネル ギ ー が 高 ま り,原 子 は励 起 され た状 態 に な る. この 励 起 され た 状 態 は 長 い 時 間 にわ た っ て安 定 で は な く,あ る時 間 後 に元 の状 態 に戻 る.こ の とき,エ ネ ル ギ ー の 高 ま っ て い た 電 子 は,一 旦 飲 み込 ん だ 光 子 を再 び 光 子 の 形 で エ ネ ル ギ ー を吐 き出 す.す 固 体 で は発 光 の ほ か,高
な わ ち 発 光 が起 こ る.
ま った エ ネル ギ ー を固 体 中 の 原 子 列(結
晶格 子)に 与
え,そ の 格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー を高 め る よ う に放 出 す る場 合 も あ る.格 子振 動 エ ネ ル ギ ー の 高 ま りは,そ の 固体 の 温度 を高 め る か ら,結 局 は 熱 エ ネル ギ ー と して 吐 き出 され る こ と に な る.こ の よ うに 原 子 や 固 体 の 光 吸 収,発
光,呈 色 に は 電 子 と
光 子 が 主 役 を,熱 エ ネル ギ ー が準 主 役 を演 ず る. 光 子 は 陽 子 と も相 互 作 用 が あ る.正 負 電 荷 間 の距 離 の2乗
に反 比 例 す る クー ロ
ン引 力 は,歴 史 的 に も正 当性 を認 め られ た経 験 則 で あ るが,現 代 の 量 子 電磁 力 学 に よ って,こ
の 引 力 は光 子 を媒 介 と した電 子 と陽 子(正 電 荷)の
間 の相 互 作 用 に
よ って 生 ず る こ とが 明 らか に され て い る.原 子 内 の 電 子 と原 子 核 の 間 の クー ロ ン 引 力 も当 然 この作 用 に よ る. 電 子 と電 子 の 間,あ
る い は電 子 と原 子 の 間 に も相 互 作 用 が あ る.高 い エ ネ ル ギ
ー の電 子 を原 子 あ るい は固 体 に衝 突 させ る と き,原 子 内 電 子 あ るい は固 体 内 電 子 の励 起,発
光,発
熱,散 乱,電 子 線 回 折,そ
の他 多 彩 な 現 象 が生 ず る.
電 子 と光 子 は粒 子性 と波 動 性 を共 に持 つ の で,電 子 や 光 子 の 関与 す る相 互 作 用 に も とづ く多 様 な現 象 を理 解 し よ う とす る と き,あ る場 合 は粒 子 イ メー ジ で,あ る場 合 は波 動 イ メ ー ジで 解 析 さ れ る.一 般 に相 互 作 用 で エ ネ ル ギ ー の や り取 りが 問題 に な る とき は,粒 子 と して扱 わ れ る こ とが 多 い.
1.5 仮 想 粒 子 原 子,電
子,光 子 は 実 在 す る こ とが認 定 され て い る粒 子 で あ る が,固 体 の性 質
を解 析 す る と き に仮 想 粒 子(擬 粒 子,準 粒 子 と もい う)の 概 念 を用 い る こ とが よ く行 わ れ る.い くつ か を挙 げ る と,フォ ノ ン(phonon,音 (exciton,エ
キ シ トン),ポ ー ラ ロ ン(polaron),ポ
トン(soliton),プ
ラズ モ ン(plasmon),マ
子,音 響 量 子),励 起 子
ラ リ トン(polariton),ソ
グ ノ ン(magnon)な
リ
どが あ る.い ず
れ も波 動 性 が 関 与 す る現 象 にお い て量 子 化 され た エ ネル ギ ー が 観 測 され る と き, そ の波 動 を量 子 化 して考 えた 仮 想 粒 子 で あ って,実 粒 子 で は な い.こ れ らの 中 で, 特 に,フォ
ノ ン は固 体 を構 成 す る配 列 原 子 の 熱 エ ネ ル ギ ー に よ る振 動 の 波 動 を量
子 化 した もの で,固 体 の 熱 的 性 質 を理 解 す る と き に重 要 とな り,本 書 中 で もた び た び登 場 す る.
2. 原 子 の 電 子 状態
原 子 ガ ス を放 電 に よ って 励 起 す る と発 光 が 見 られ る.そ の光 を分 光 す る と タ ン グ ス テ ン電 球 の光 とは 異 な り,波 長 分 布 に規 則 性 の あ る多 数 の 特 定 波 長 の輝 線 発 光 ス ペ ク トル か ら成 って い る こ とが観 測 さ れ る.電 子 を1個
しか 有 し な い 原 子 で
あ る水 素 ガ ス の放 電 で も多 数 の 輝 線 ス ペ ク トル が 見 られ る.ま た,原 子 ガ ス を光 照 射 す る とき の 吸収 ス ペ ク トル で も多 数 の線 吸収 が 観 測 さ れ る.こ れ らの 事 実 は, 原 子 に は特 定 の エ ネ ル ギ ー を持 つ多 数 の 状 態 が あ る こ とを示 唆 して い る. 水 素 原 子 の この よ うな 現 象 を説 明 す るた め に,ボ ー ア(N.Bohr)は,1913年 に前 期 量 子 論 を適 用 した 水 素 原 子 内電 子 の エ ネ ル ギ ー 構 造 モ デ ル を提 唱 し,前 記 の スペ ク トル が 生 ず る機 構 の 理 論 的 解 析 に成 功 した.そ の 後,こ
の前期量子論 の
延 長 線 上 で 発 展 した量 子 力 学 に よ っ て,水 素 の電 子 エ ネル ギ ー構 造 は 完 全 に解 明 さ れ る こ とに な る.水 素 以 外 の 原 子 に つ い て は,水 素 ほ ど完 全 に は 解 析 され て い な い が,同
2.1
じ考 え方 で説 明 され る.
ボ ー ア の 水 素 原 子 構 造 モ デ ル(前
原 子 の 大 き さ に比 べ原 子 核 は非 常 に小 さい.ま
期 量 子 論 モ デ ル) た,原 子 核 の 外 側 に あ る電 子 の
大 きさ も非 常 に小 さ い と考 え られ る.し た が っ て水 素 の場 合,原 子 核 は1個 電 荷 の点,電
の正
子 は1個 の 負電 荷 の 点 と考 え,点 電 荷 間 の クー ロ ン引 力 を考 え て 良
い.
一 方,こ
の 引 力 に よ っ て電 子 が 原 子 核 に落 ち込 まず にあ る距 離 を保 っ て い る の
は,電 子 が 原 子 核 の 周 囲 に軌 道運 動 を して い て,電 子 に働 く遠 心 力 が ク ー ロ ン 引 力 と釣 り合 って い る た め と考 え る.原 子 核 の 質 量 は,電 子 よ りは る か に 大 き い か ら原 子 核 は 静 止 して い る と考 え て 良 い.軌 道 を円 軌 道 と して 図2.1.1の デ ル を考 え る.遠 心 力 とク ー ロ ン引 力 の 釣 り合 い の式 は,
ようなモ
(2.1.1) で あ る.qは 率,mは
素 電 荷 量,ε0は 真 空 の誘 電
電 子 の 質 量,υ は電 子 の運 動 速
度 の 大 きさ,rは
円 軌 道 半 径 で あ る.こ の
式か ら
(2.1.2) 図2.1.1
が 得 ら れ る.ま エ ネ ル ギ ーEは
た,こ
の 場 合,電
子 の全
水 素 原 子 中 の電 子 の 円軌道運動 モデル
運 動 エ ネル ギ ー と クー ロ ン ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の和 で
(2.1.3) で あ る.ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギー の原 点 は ど こ に とっ て も良 い が,こ
こ で は電 子
に働 くク ー ロ ン引 力 が ゼ ロに な る点 を原 点 に選 ぶ.引 力 が ゼ ロ と はr=∞,す
な
わ ち 電 子 が 原 子 か ら離 れ て正 イ オ ン化 す る こ と を意 味 す る.ま た,イ オ ン化 す る まで は,電 子 は 原 子 内 で エ ネ ル ギ ー の 低 い状 態 に存 在 して い る は ず で あ るか ら, ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の符 号 は負 に取 っ て い る. 式(2.1.3)で
は,電 子 の エ ネ ル ギ ー は連 続 した値 を取 る こ とが で き る.一 方,
高速 で 円 軌 道 運 動 をす る荷 電 粒 子 は,電 磁 波 を 放 射(制
動 放 射)し
て エ ネル ギー
を失 う.こ の た め に釣 り合 い は破 れ て,電 子 は 連 続 的 に 電磁 波 を放 射 し なが ら原 子 核 に落 ち込 ん で し ま う こ とに な る. これ に 対 し,ボ ー ア は以 下 の よ うな 電 子 エ ネ ル ギ ー構 造 モ デ ル を 考 えた.原 子 の周 りで エ ネ ル ギ ー が 一 定 の安 定 な円 軌 道 運 動 をす る こ とが で き る電 子 の エ ネル ギ ー は,不 連 続 な とび とび の(離 散 的 な)特 定 の値 の もの に 限 られ る とい う もの で あ る.そ の よ うな 安 定 な状 態 に あ れ ば,電 子 は連 続 的 に電 磁 波 を放 射 して 除 々 に エ ネ ル ギ ー を失 う こ とは な い と考 え る.エ ネ ル ギ ーが 一 定 の 安 定 な運 動状 態 を 定 常 状 態 とい い,そ の とび とび の エ ネ ル ギ ー の値 をエ ネ ル ギ ー 準 位 とい う. 定 常 状 態 は多 数 存 在 して,電 子 の エ ネル ギ ー が 最 も低 い定 常 状 態 に あ る とき を 原 子 の基 底 状 態(ground
state)と
い い,そ れ よ りエ ネ ル ギ ー の 高 い多 数 の 定 常
状 態 に あ る とき を原 子 の 励 起 状 態(excited
state)と
い う.励 起 状 態 は定 常 状 態
で は あ るが 長 時 間 存 在 す る こ と は な く,あ る時 間 後 に は基 底 状 態 に戻 る.多 数 の 状 態 の エ ネ ル ギ ー準 位 を低 い 方 か ら高 い 方 へ の 順 でE1,E2,… 状 態,そ
と記 す.E1は
基底
の 他 は励 起 状 態 の エ ネ ル ギ ー 準 位 を 表 す.
異 な る状 態 間 の突 然 の 移 り変 わ りを遷 移(transition)と
い う.異 な る状 態 は エ
ネ ル ギ ー 差 が あ る か ら,遷 移 の際 に は エ ネ ル ギ ー の 吸 収 あ る い は放 出 を 伴 う.電 磁 波 の放 射 は,電 子 の エ ネ ル ギ ー が 高 い 状 態Efか
らエ ネ ル ギ ー の低 い 状 態Eiへ
遷 移 す る と き に差 の エ ネ ル ギ ー が放 出 され た もの と考 え られ る.こ を 採 り入 れ る と,放 射 は 光(電 (1.1.2)を
磁 波)の
光 量 子(光
子)の
こで 光 量 子 説
放 出 で あ っ て,式
用 い る と,次 の特 定 の振 動 数ν を有 す る はず で あ る.
(2.1.4) この 式 をボ ー ア の 振 動 数 条 件 とい う.電 磁 波(光)の
吸収 は,こ の 逆 の 遷 移 過 程
と考 え られ る. こ の よ うな モ デ ル を考 え る と,放 電 に よっ て励 起 状 態 に なっ た水 素 原 子 の 電 子 が さ ま ざ ま な 高 い エ ネル ギ ー 準 位 か ら,さ ま ざ ま な低 い エ ネ ル ギ ー準 位 に遷 移 す る とき に,波 長 が と び とび の 多 数 の輝 線 発 光 スペ ク トル を示 す こ とが 期 待 さ れ る こ とに な る. 次 に,ボ ー ア は そ の よ うな とび とび の エ ネ ル ギー を有 す る特 定 の 円軌 道 運 動 と は どの よ う な もの か を考 え た.そ
して,電 子 が 円 軌 道 を1周 す る と きの 角 運 動 量
の積 分 値 が,角 運 動 量 の 次 元 を 有 して い る プ ラ ン ク定 数hの され て い な け れ ば な らな い と仮 定 した.角 運 動 量 をL,運
整 数 倍 の値 に量 子 化
動 量 をpと
す る と,こ
れは
(2.1.5) と 表 さ れ る.nは
ボ ー ア の 量 子 数(quantum
で あ る. ま た,こ
の 式 は
number)と
い わ れ,n=1,2,3,…,∞
(2.1.6) と も表 さ れ る.こ
こ でh=h/2π
チ バー と読 む.式(2.1.5)あ こ れ を 式(2.1.2)と
は デ ィ ラ ッ ク(P.Dirac)の る い は 式(2.1.6)を
式(2.1.3)に
定 数 と い わ れ,エ
ッ
角 運 動 量 量 子化 条 件 とい う.
代 入 す る と,エ
ネ ル ギ ー 一 定 の 運 動 状 態,
す な わ ち 定 常 状 態 の 円 軌 道 半 径 と エ ネ ル ギ ー は,
(2.1.7) (2.1.8) で 表 さ れ る.rnとEnもnの
値 で 量 子 化 さ れ た と び と び の 値 を 有 し,図2
.1.2の
よ う に 描 か れ る. n=1は
電 子 が 最 も強 く原 子 核 に 引 き寄 せ ら れ て い る状 態 で あ り,全 エ ネ ル ギ ー
が 最 低 の 基 底 状 態 を 表 す .水 い る.n=2,3,…,∞ n =1と
し て 式(2
素 の1個
の 電 子 は,通
は エ ネ ル ギ ー が 高 い 定 常 状 態,す .1.8)を
計 算 す る とE1≒-13.58〔eV〕
エ ネ ル ギ ー 実 測 値 と 一 致 す る .ま た,式(2.1.7)か
図2.1.2
常 は こ の エ ネ ル ギ ー を取 っ て な わ ち励 起 状 態 を表 す と な り,水
.
素 の イ オ ン化
ら計 算 さ れ るr1≒0.529×10-8
ボ ー ア モ デ ル に よ る水 素 原 子 中 の 電 子 の エ ネ ル ギ ー と円 軌 道 半 径
〔cm〕 を ボ ー ア 半 径 と い う.こ れ は 水 素 の 原 子 半 径 と ほ ぼ 一 致 す る. ま た,そ 2.1.3の
の 発 光 ス ペ ク ト ル に は,図
よ う に 多 数 の 励 起 準 位 か らn=
1の 準 位 へ,あ n =3へ
る い はn=2へ,あ
るい は
,… 等 の エ ネ ル ギ ー 準 位 間 の 電 子
遷 移 に 伴 っ て,系
列 化 され た 規 則 性 が 生
ず る も の と解 釈 さ れ る.各
輝 線 波 長 の計
算 値 は 実 験 値 と一 致 し,ボ
ーアが仮定 し
た2つ
の 条 件 の 正 し さ が 証 明 さ れ た.
な お,角 は,電
運 動 量 量 子 化 条 件 式(2.1.5)
子 を 粒 子 と 考 え た も の で あ る が,
図2.1.3
水 素 原 子の エ ネル ギ ー 準位 と発光系列
そ の 後 に 提 唱 され た 電 子 波 を表 す 式 (1.2.1),p=h/λ
気 を用 い る と
(2.1.9) とな る.つ ま り,軌 道 円 周 長 が 電 子 の 波 長 λの整 数 倍 で あ る軌 道 の み が 定 常 状 態 で あ る こ と に な り,ボ ー ア の 角運 動 量 量 子 化 の 条件 は円 軌 道 を一 定 速 度 で 巡 回 す る電 子 波 動 の 定 常 条件(周
2.2
期 性 境 界 条 件)と
原 子 の 電 子 構 造(量
同等 で あ る(5.4節
参 照).
子 力 学 モ デ ル)
ボ ー ア の水 素 原 子 モ デ ル は大 きな成 功 を収 め たが,そ
の 後,実 験 が 精 密 化,多
様 化 す る に伴 い,磁 界 下 の 発 光 スペ ク トル に は よ り複 雑 な 微 細 構 造 が 観 測 され る こ と,あ るい は2個 以 上 の 電 子 を持 つ原 子 の ス ペ ク トル は ボ ー ア モ デル で は 説 明 で き な い こ と,な どが 明 らか に な っ た.こ れ は その 後,進 解 明 され た.そ
展 した量子力学 に よ り
の 詳 細 は量 子 力 学 の教 科 書 に記 載 され て い るの で,以 下 そ の 結 論
の み を述 べ る. 量 子 力 学 に よ る と,波 動 性 を有 す る粒 子 の運 動 は5.7節
で 述 べ る シ ュ レー デ ィ
ンガ ー の 波 動 方 程 式 で 表 さ れ る.特 に,原 子 内 で電 子 が 定 常 状 態 に あ る とき の運
動 状 態 は,次 の 時 間 を含 まな い シ ュ レー デ ィ ン ガ ー の波 動 方 程 式 を満 足 す る.
(2.2.1) こ こで,ψ(x,y,z)は
電 子 の状 態 を表 す 波 動 関 数 Ψ(x,y,z,t)=ψ(x,y,z)φ(t)の
振 幅 で あ る.V(r)は,電 r=√x2+y2+z2で
子 が 置 か れ て い る環 境 を表 す ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー で
あ る.
い ま の 場 合,V(r)は
ク ー ロ ン の ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー で あ り,V(r)
=-q2/4π ε0rで あ る.こ の 方程 式 を解 い て 波 動 の振 幅 関 数 ψ と,そ れ に属 す る電 子 の 固有 エ ネ ル ギ ーEが
求 め られ る.こ の 計 算 は か な り複 雑 な の で,こ こで は省 略
す る.解 を 要 約 す る と次 の 形 とな る. (2.2.2) こ こで,座 標 は極 座 標r,θ,φ 関 数Rと
に変 換 さ れ,解
角 度 部 分 を 表 す 関 数Yと
V(r)に 関 係 し,運 動 軌 道 の 形 とEを 記 す)に 関 係 す るが,V(r)に
は変 数 分 離 され て 動 径 部 分 を 表 す
の 積 で 表 さ れ て い る.Rnl(r)はnとlと 決 め る.Ylm(θ,φ)はlとm(以
後,mlと
は無 関 係 で軌 道 の 傾 き を決 め る.
n,l,ml は整 数 で あ り,次 の よ うな値 を取 る. n =1,2,…,n(nは1か
ら∞ まで の正 の整 数):n個
l =0,1,2,…,n-1:n個 ml=-l,-(l-1),…,-1,0,1,…,(l-1),l:(2l+1)個 n,l,ml は相 互 関 係 が あ り,nの 値 に よ っ てlの 値 が 決 ま り,続 い てlの 値 か ら mlの 値 が 決 ま る.n,l,mlの1つ
の 組 が1つ
の 電 子 状 態 ψ(n,l,ml)を
表 すか ら
n,l,ml は電 子 状 態 を表 す 量 子 数 で あ る.原 子 中 の 電 子 状 態 を表 す の に ボ ー ア の モ デ ル で は1種 類 の量 子 数 が 用 い られ た が,量 な の で あ る.nを
主 量 子 数,lを
子 力 学 で は3種 類 の 量 子 数 が 必 要
方 位 量 子 数,mlを
磁 気 量 子 数 とい う.
ま た,ψ(n,l,ml)の は電 子 の 定 常 的 な 運 動 状 態 を表 す 関 数 で あ っ て 電 子 軌 道 と も いわ れ る.軌 道 の 形 はmlに
は 関 係 せ ず,nとlで
ー ア モ デ ル で仮 定 した よ うな1本
の線 状 の"道"で
決 め られ る.軌 道 と い っ て もボ はな い .量 子 力 学 で は,電 子
の よ う な微 粒 子 で は位 置 と速 度 を同 時 に は確 定 で きな い とい う こ と を 自然 の 原 理
と考 え る か ら"道"も
確 定 で きな い.電 子 の 存 在 は電 子 を見 つ け る確 率 ψ2で与 え
られ,電 子 が運 動 して い る領 域 の 形 は確 率 分 布 ψ2(x,x,z)で 表 され る と考 えて良 い. 以 上 は,波 動 方 程 式 を解 くこ とに よ っ て得 られ た 電 子 の 軌 道 運 動 に 関 係 す る量 子 数 で あ る.こ れ ら に よ っ て水 素 原 子 の 発 光 スペ ク トル 構 造 は 良 く説 明 され るが, 磁 場 を印 加 す る と各 ス ペ ク トル 線 は さ らに2本 次 の値 を有 す る量 子 数msが
に分 か れ る.こ れ を説 明 す るに は,
必 要 とな る. :2個
こ の 量 子 数 は 後 で も述 べ る が,電 れ る の で ス ピ ン 量 子 数 と い う.当
子 の 自 転 運 動(ス 然,msも
ピ ン)を
想 定 す る と説 明 さ
軌 道 ψ の 形 に は 関 係 し な い.msはs
と も書 か れ る. 結 局,量
子 力 学 で 原 子 の 発 光 ス ペ ク トル 構 造 を 原 子 内 電 子 の 運 動 状 態 か ら 解 析
す る に はn,l,ml,msの4つ (2l+1)個
の 量 子 数 が 必 要 と な る.あ るlに
で あ る か ら,あ
の 状 態 が 含 ま れ る.こ
4f,…
決 ま る の で,軌
文 字 で 表 す.ま
道 をnlの
の 記 号 で 表 す の が 慣 例 で あ る.例
お よ び 図2.2.1に
それ ぞ れ に 含 まれ る状 態 を一
字 で 表 し てK,L,M,N,O,P,Q殻
慣 例 的 に そ れ ぞ れs,p,d,fと
形 はnとlで
は ボ ー ア モ デ ル と は 異 な っ て2Σ(2l+1)=2n2個
の た めn=1,2,3,4,5,6,7の
括 し て 電 子 殻 と い い,文 2,3は
るnに
含 ま れ る 状 態 数 は2
と い う.ま た,軌
た,l=0,1,
道 あ る い は確 率 分 布 の
組 と し て1s,2s,2p,3s,3p,3d,4s,4p,4d, と し て,n=1,2,3の
示 す.
表2.2.1 原 子 内電 子 状 態 と量 子 数
と き の 状 態 を 表2.2.1
以 下 で は これ らの 量 子 数 の 意 味,ま た, それ に よ っ て規 定 され る各 電 子 状 態 の軌 道 の 形 とエ ネ ル ギ ー な どに つ い てや や具 体 的 に述 べ る. まず,ボ
ー ア モ デ ル の 場 合 は,軌 道 角
運 動 量 の 量 子 数nは1,2,…
で あ った
が,量 子 力 学 モ デ ル で は軌 道 角 運 動 量 の 量 子 数 は 方 位 量 子 数l=0,1,2,… る.角 運 動 量Lの
であ
大 き さ は,
(2.2.3) と計 算 され て い る.つ
ま りlの 値 は,角
図2.2.1
電 子 殼 と電 子 軌 道 の 表 示
運 動 量 の 大 き さ を表 す 量 子 数 で あ る.主 量 子 数 はn=l+1で,ボ
ー ア モ デ ル の 量 子 数nに
対 応 す る.
水 素 原 子 の 場 合 は,磁 界 や 電 界 な ど外 力 を 印加 しな けれ ば,エ 子 数nの
み で 決 ま り,各 殻 内 の2n2個
の 電 子 状 態 は 同 一 エ ネ ル ギ ー を取 っ て い る
こ とが観 測 され,ボ ー ア モ デ ル に よ る式(2.1.8)と 場 合 は複 数 個 の 電 子 間 の相 互 作 用 の た め,nが も違 っ て くるの で 電 子 状 態(軌 l=0(し
た が っ て,ml=0)の
道)の
ネル ギ ー は主 量
一 致 す る.水 素 以 外 の 原 子 の
同 じで もlが 異 な る とエ ネ ル ギ ー
エ ネ ル ギ ー は 通 常 はnとlで
決 め られ る.
と き は角 運 動 量 は ゼ ロで あ る.つ ま り,s状 態 の
電 子 は ボ ー ア モ デ ル の よ う な円 軌 道 運 動 を して い る の で はな い こ と に な る.し か し,運 動 エ ネ ル ギ ー は有 す るか ら,s電 子 は原 子 核 を中 心 とす る弾 性 的振 動,つ ま り直 線 軌 道 運 動 を し て い る と も考 え ら れ る.ま
た,l=0の
と きは波 動 の振 幅
関 数 ψ はrの
み の 関 数 で あ っ て,s軌
道 の 確 率 分 布 ψ2は 球 対 称 と な る(図
2.2.2(a)).し
た が っ て,s電 子 は す べ て の 方 向 に等 しい直 線 運 動 を し て い る よ う
なモ デル が 考 え られ る. l=1す
な わ ちp軌
道 の 関 数 ψ はr,θ,φ の 関 数 で直 交 座 標 系 の3つ
向 に ま たが る8の 字 状 の3つ の 軌 道 に分 か れ る(図2.2.2(b)).そ に ス ピ ン を含 め2個
の正 負 方
れ ぞれ の軌 道
まで 電 子 が 配 分 さ れ る.各 軌 道 の 確 率 分 布 の 形 は 亜 鈴 状 と な
(a) s軌 道(b) p軌
道
図2.2.2
る.こ の 形 の3つ
軌 道 波 動 関 数 と確 率 密 度 分 布 の 形
の軌 道 の 確 率 分 布 を加 算 した ψ2=ψx2+ψy2+ψz2,す な わ ち 全 体
と して の 確 率 分 布 は球 対 称 とな る. l=2のd軌
道 とl=3のf軌
道 は,こ
こで は 省 略 す る が や や 複 雑 な 方 向性 を有
す る. この よ う に,l角
運 動 量Lの
大 き さ を与 え る と と もに,軌 道 あ る い は確 率 分
布 の 方 向 を規 定 す るた め に方 位 量 子 数 と いわ れ る.
図2.2.3
軌 道 角 運 動 量Lの
磁 界 方 向(z方 向)量 子 化
次 に,mlとlは
図2.2.3に
軌 道 角 運 動 量 ベ ク トル のz方
示 す よ う な関 係 に あ る.大 き さ│L│=√l(l+1)hの 向 の 角 運 動 量 成 分Lzは
量 子 数mlで
量 子 化 さ れ,そ
の大 きさは (2.2.4) で与 え られ る.す な わ ち,磁 気 量 子 数mlはLzの
大 き さ を表 す 量 子 数 で あ り,ま
た 図 か ら も分 か る よ う に,LzとLの
大 き さが 与 え られ れ ばz方
傾 き角度 が 決 ま る.そ の 角 度 はmlに
よ って 規 定 され る.
つ ま りmlに
よ っ て軌 道 面 の 傾 き も規 定 され る.こ の 傾 き は とび とび の 角 度 で
あ っ て,ml=-l,…,+lの(2l+1)個 傾 きが 一 定 な ら ばLzは 歳差 運 動(首
向 に対 す るLの
の傾 き しか 取 れ な い.z方
等 し くな る.そ
振 り運 動)を
向 に対 す るLの
こで 角運 動 量 ベ ク トルLはz軸
の 周 りに
して い る と考 え られ る.軌 道 面 の 傾 き は ボ ー ア の モ デ
ル の よ う に一 定 で は な く,歳 差 運 動 に伴 っ て刻 々 変 化 し て い る こ とに な る.ま た, 電 子 の軌 道 運 動 は 磁 気 モ ー メ ン トmLを 逆 向 きで,大
生 ず る.mLは
角 運 動 量 ベ ク トルLと
は
きさは
(2.2.5) で 与 え ら れ る.こ
こ でmは
ボ ー ア 磁 子(Bohr
電 子 質 量,μB=qh/2mは
magneton)あ
と こ ろ で,普 通 の 状 態 で はz方 い.し
か し,磁 界 をz方
界 方 向 に 対 す るLの μBmlと
な る.ま
る い は 単 に磁 子 と い わ れ る. 向 は 特 定 で き な い か らLz,ml,mLは
向 に 印 加 す る と き は,z方
傾 き が 決 ま る.z方 た,磁
磁 気 モ ー メ ン トの 単 位 量 で,
向 のLzに
気 モ ー メ ン トmLzは
決 め られ な
向 は 磁 界 の 方 向 に 固 定 さ れ,磁 よ る 磁 気 モ ー メ ン ト はmLz=-
磁 界Hzと
相互作 用 して
(2.2.6) の エ ネ ル ギ ー が 電 子 に 加 わ る.こ の た め に,あ る(n,l)で
決 ま る1つ の 軌 道 の 電 子
状 態 の エ ネ ル ギ ー は,磁 界 の 印 加 に よ っ て さ ら にml個,す エ ネル ギ ー に 分 離 す る .し た が って,1本 ル線 に分 離 して 観 測 さ れ る.mlは
な わ ち(2l+1)個
の 発光 スペ ク トル 線 はml本
の
のスペ ク ト
軌 道 の傾 きに 関 係 す る量 子 数 で あ るが,磁 界 の
作 用 で 顕 在 化 して 観 測 され るの で磁 気 量 子 数 とい わ れ る.
こ れ に 加 え,磁 界 中 で(n,l,ml)の
で 決 ま る ス ペ ク トル の 各 線 が,さ
か れ て い る こ と が 観 測 さ れ る.こ
子(電 呼 ぶ.±
荷 雲)の
値 の(2l+1)個
と な るmsの
自 転 運 動(ス
は 自 転 の 向 き(右
ン 角 運 動 量Sの
に分
の た め 磁 界 中 で 顕 在 化 す る 新 し い 量 子 数msが
必 要 と な る.mlが-1,…,+1の ms で は(2s+1)=2個
ら に2本
の 値 を 取 る こ と に 対 応 さ せ る と,
値sは,-1/2と+1/2の
ピ ン)に
回 り,左
み で あ る.こ
よ る も の と想 定 し,msを
回 り)に
対 応 させ る.こ
れ を電
ス ピ ン量 子 数 と
れ か らz方
向 のス ピ
大 き さ は,
(2.2.7) で与 え られ る.ス ペ ク トル の 分 裂 の大 き さか ら電 子 に加 わ った エ ネ ル ギ ー は, U =-mszHz=2μBmsHzで
あ る こ とが 確 め られ るの で ,磁 界 方 向 の ス ピ ン磁 気 モ ー
メ ン トはmsz=-μBお
よ び+μBで
あ り,磁 界 に平 行 か 逆 平 行 の 磁 気 モ ー メ ン ト
と して観 測 され る. な お,複 数 の 異 な る状 態(軌 状 態 は縮 退(degeneration),あ
道)が
同一 の エ ネル ギ ー値 を と る とき,そ の 電 子
る い は縮 重 し て い る と い い,そ の 複 数 の 状 態 数
を縮 退 度,縮 重 度,多 重 度 な ど と い う.礎 界 や 電 界 な ど,何 らか の 外 力 に よ っ て 縮 退 度 の数 の エ ネ ル ギ ー 値 に分 か れ る こ とを縮 退 が 解 け る とい う.磁 界 の作 用 で 縮 退 が 解 け て分 裂 す る効 果 はゼ ー マ ン(Zeemann)効 は シ ュ タル ク(Stark)効 作 用 が な け れ ばn以
果,電 界 の作 用 に よ る場 合
果 とい わ れ る.前 述 した よ うに,水 素 で は外 部 か らの
外 の量 子 数 の状 態 は縮 退 して い る.
以上 述 べ た電 子 状 態 は 電 子 が 占 め 得 る状 態,例
えば電 子 が 座 れ る座 席 あ る い は
部 屋 を規 定 す る だ け で あ る.こ れ らの 電 子 状 態 を どの よ う に電 子 が 占 め る か を 規 定 す る の は,次 の パ ウ リ(W.Pauli)の principle)で "4つ
排 他 原 理(排 他 律,禁
制 律,exclusion
あ る.す な わ ち,
の 量 子 数 の 組(n,l,ml,ms)で
占 め る こ とが で き な い",あ る い は"1つ
規 定 さ れ る1つ の 状 態 は1個
の 電 子 しか
の 電 子 軌 道 に は正 と負 の ス ピ ン を持 つ2
個 の電 子 まで しか 占 め る こ とが で き な い". この 原 理 の理 論 的 証 明 は な い が,実 験 事 実 は これ に従 う もの の み で あ っ て,自 然 界 の 基 本 原理 の1つ
と して,そ の 正 当 性 が認 め られ て い る.こ の 原 理 に 従 う と,
エ ネ ル ギ ー の 低 い方 か ら数 えて,s状 態 に は ス ピ ン まで 含 め て2個 は6個 ま で,d状
態 に は10個
まで,f状 態 に は14個
まで,p状
態に
まで 電 子 が 占 め る こ とが で き
る. 以 上 の よ う に,量 子 力 学 に よ れ ば 原 子 の 状 態 は4つ
の 量 子 数 の 組(n,l,ml,
ms)で 規 定 され る量 子 化 さ れ た 多 数 の 電 子 状 態 で 表 さ れ る.水 素 の場 合 は,1個 の 電 子 が 最 もエ ネ ル ギ ー の低 い1s電
子 状 態 を 占 め て い る基 底 状 態 か ら励 起 され
る と,エ ネ ル ギ ー の高 い 多 数 の 励 起 状 態 の どれ か を 占 め る.発 光 ・吸収 に関 係 す る緩 和 ・励 起 エ ネ ル ギ ー は,量 子 化 され た 各 状 態 の エ ネ ル ギ ー の差 で 決 ま る.こ の よ うに して 量 子 力 学 は,水 素 の発 光 ス ペ ク トル を磁 界 に印 加 した場 合 も含 め て 完 全 に解 明 す る こ とに成 功 した ので あ る.
2.3
原 子中の電子 配置
水 素 以 外 の2個 以 上の 電 子 を もつ原 子 の 場 合 は,水 素 ほ ど簡 単 で は な い.例 ば,最
え
も外 側 に あ る電 子 に働 くク ー ロ ン力 は,内 側 にあ る電 子 に よ る遮 蔽 効 果 の
た め に 弱 め ら れ る.そ の 他 の状 況 も考 慮 す る と,波 動 方 程 式 の厳 密 な 解 を求 め る こ とは 困 難 で あ るが,近 似 解 に よ っ て 多 電 子 原 子 の電 子 状 態 が推 定 され て い る. そ れ に よれ ば,エ ネ ル ギ ー の 値 は水 素 の 場 合 と異 な りnの も依 存 す る.ま た,Z個 高 い2s,2p,…
み で は 決 ま ら ず,lに
の電 子 は エ ネ ル ギ ー の最 も低 い1s状 態 か らエ ネル ギ ー の
状 態 ヘ パ ウ リの 原 理 に従 って 順 次 に 占 め る.
元 素 の 電 子 配 置 を付 表 に示 す.電 子 は ほ ぼ上 記 の 仕 方 で配 置 され て い る.し か し,電 子 数 が 多 くな っ てZ=21の
ス カ ン ジ ウム(Sc)以
4f電 子 状 態 を完 全 に 占 めず に,そ の上 の4sあ
上 に な る と,3dあ
るい は
るい は5s電 子 状 態 を 占 め て配 列 順
序 の乱 れ を生 じて い る原 子 が か な りあ る.こ れ は,電 子 間 の相 互 作 用 の た め に4s (あ る い は5s)軌
道 の エ ネ ル ギ ー準 位 が3d(あ
る い は4f)軌
干 下 に な っ て い るた め で あ る.こ の よ う に,3d状 有 とな っ て い る元 素 を遷 移 元 素(transition Fe,Co,Niを
含 む21Scか
71Luま で の4f遷
ら28Niま で の3d遷
移 元 素 は希 土 類(rare
道 の そ れ よ り も若
態 あ る い は4f状
element)と
態が不完全 占
い う.遷 移 元 素 の うち
移 元 素 は鉄 族 元 素,ま た57Laか
earth)元
ら
素,ま た は ラ ン タ ノ イ ドとい わ
れ,磁 性 体 や 発 光 体 な ど応 用 上 で も重 要 とな る元 素 で あ る.
2.4
周期律
周 期 表 はそ も そ も各 元 素 を原 子 番 号 順 に並 べ,化 学 的性 質 が似 て い る元 素 を族 で グ ル ー プ分 け を す る と,周 期 性 が生 ず る こ とを示 した もの で あ る.各 族 は さ ら にaお
よ びbの
サ ブ グ ル ー プ(亜 族)に 分 け られ て い る.aは
配 列 の 方 法 に は短(小)周
期 型 と長(大)周
各族 の 初 め と終 りやaとbの
金 属 の み で あ る.
期 型 とが あ る.付 表 は後 者 で あ っ て,
区 別 が見 や す い.
化 学 反 応 に関 与 す るの は外 殻 電 子 で あ る か ら,周 期性 は外 殻 電 子 配 置 に関 係 す るは ず で あ る.Z=1のHか
らZ=18のArま
で の 元 素 の 最 外 殻 の軌 道 電 子 数 を
右 上 添 字 で 記 す と,Ⅰ 族 からⅦ 族 まで 順 にs1,s2,s2p1,s2p2,s2p3,s2p4,s2p5で あ る. s電 子 の み を含 む もの はa,s電 すⅠ ∼Ⅶ の数 字 はs,p電
子 とp電 子 の 両 方 を含 む もの はbに 属 し,族 を表
子 の 数 と同 じで あ る.こ の 規 則 性 は20Caま
21Sc以 降 の元 素 で は外 殻 電 子 配 置 がs1かs2に
止 ま り,そ の 内側 のd状
で続 くが, 態への配置
が 起 こ る.す なわ ち,鉄 族 遷 移 元 素 で あ る.こ れ らはaに 属 し,族 番 号 はs電 子 とd電
子 数 の和 に ほ ぼ等 しい.d状
か らs,p状
態 が10個
態 へ の 配 置 が 規 則 的 に 始 ま り,bに
同様 に,57La以 降 の 希 土 類 元 素 はs2と4f電 イ ド元 素 はs2と5f電 外 殻s状
の電 子 で 満 た さ れ る と,再 び29Cu 属 す る元 素 に な る. 子 数 で,ま た89Ac以
降 のア クチノ
子 数 で特 徴 づ け られ る遷 移 元 素 で あ る.鉄 族 のd状
態 の す ぐ内側 に存 在 す るが,希 土 類 とア ク チ ノイ ドのf状
側 に存 在 す る とい う相 異 が あ る.0族 閉 殻 構 造 とな っ て い る.な お,ラ
はs2p6でs,p軌
態 は最
態 は よ り内 殻
道 と も完 全 占 有 され て い る
ンタ ノ イ ドとア ク チ ノ イ ドに は電 子 配 置 が確 定
され て い な い もの が あ る. 以 上 の よ う に,族 の 周 期 性 は 外 殻 電 子 数 か ら理 解 され,ま
た,サ
つ い て は,外 殻 電 子 がs電 子 配 置 の み の元 素 は 金 属 で あ っ てaに びp電 子 配 置 が あ る もの はbに 属 す る.bの
ブ グル ー プ に
属 し,s電 子 お よ
うちs電 子 の み の 元 素 は金 属,sと
p電 子 を 含 む 元 素 は半 金 属 あ る い は非 金属 で あ る. 原 子 と原 子 が 結 合 す る際 に,関 与 す る原 子 が 電 子 を 引 き付 け る能 力 を電 気 陰 性
度 と い う.電 気 陰 性 度 はⅠa族 か らⅦb族 へ 向 か っ て増 大 す る.化 学 反 応 に は多 少 と も電 気 陰 性 度 が 関係 す る.電 気 陰 性 度 が小 さい 元 素 は,電 気 陰 性 度 の大 き い結 合 の相 手 方 原 子 に外 殻 電 子 を移 して 正(陽)イ
オ ン に な りや す い.こ
のた め 陽 電
性 元 素 と い う こ とが あ る. 逆 に,電 気 陰 性 度 が 大 きい 元 素 は電 子 を受 け入 れ て 負(陰)イ
オ ン にな りや す
い.こ の た め陰 電性 元 素 とい う こ とが あ る.受 け入 れ 可 能 な電 子 の標 準 的 な 数 は, 最 外 殻 のp軌 道 の未 占有 電 子 数,す な わ ち(6-p電 す 電 子 数(+)と
受 け入 れ る電 子 数(-)の
族 に向 か っ て,順
に+1,+2,+3,+4,-3,-2,-1で
子 数)で
あ る.原 子 価 は,移
標 準 的 な数 に 対 応 し,Ⅰa族
Ⅳb族 は,結 合 の相 手 方 に よ っ て まれ に-4と
か らⅦb
あ る. な る こ とが あ る.遷 移 元 素 は+3
とな る もの が 多 い.Ⅶ 族 は 原 子 価 が 一 定 しな い遷 移 元 素 で あ る.0族
はs,p軌
道
と も完 全 占 有 され て い て,電 子 を移 し も受 け入 れ も し な い安 定 な元 素 で 原 子 価 は 0で あ る.し た が って,他 の元 素 と化 学 反 応 は しな い の で不 活 性 元 素 あ るい は希 ガ ス とい わ れ る.外 殻 電 子 は原 子 価 と関 係 す るの で,価 電 子(valence い わ れ る. 以 上 の よ うに,周 期 律 は原 子 の 電 子 構 造 か ら説 明 さ れ る.
electron)と
3. 結
結 晶(crystal)は
晶
固体 の1つ の 形 態 で あ っ て,原 子 分 子 が きれ い に並 び,目 で
見 て も宝 石 の よ う に きれ い な もの が 多 い.シ い に は見 えな いが,実
リコ ン人 工 結 晶 は宝 石 の よ う に きれ
は原 子 は宝 石 よ りも きれ い に並 ん で い る の で あ る.
物 質 の性 質 は,原 子 分 子 が きれ い な 並 び 方 を して い る こ とを基 盤 とし て理 解 さ れ,き
れ い に並 ん で い な い 固 体 の場 合 もそ れ を基 に理 解 され る.
こ こで は,原 子 分 子 が 結 びつ い て 固体 を作 る力,原 子 配 列 の仕 方,結 晶 の作 り 方 な どに つ い て 述 べ る.
3.1
固体 の結合 力
固 体 は 原 子,分 子 あ る い は イ オ ンが 強 く結 合 し,そ の 位 置 が ほ ぼ 固 定 さ れ て い る もの で あ る.物 質 に は気 相,液 相,固
相 の3相 が あ る.ば
らば ら に存 在 して い
た原 子 が 結 合 して,固 体 に な る まで に放 出 した エ ネ ル ギ ー が 固体 内 原 子 の結 合 エ ネ ル ギ ー で あ る.凝 集 エ ネ ル ギ ー と もい う.逆 の見 方 か ら は,固 体 を ば らば らの 多 数 の原 子 にす る解 離 エ ネル ギ ー で もあ る. 固 体 内 原 子 の原 子 核 の 状 態 お よ び 原 子 核 に近 い内 殻 電 子 の 電 子 状 態 は 自 由原 子 の そ れ と変 わ らな い.し た が っ て,各 原 子 を結 び付 け て い る力 は,各 原 子 の外 殻 電 子 の 間 の 相 互 作 用 に よ っ て生 ず る全 く電 子 的 な力 と考 え られ る.固 相 の エ ネ ル ギ ー が低 い とい う こ と は,外 殻 電 子 の エ ネ ル ギ ー が 自 由 原 子 内 よ り も固 体 内 で は 低 下 して い る こ とに ほ か な らな い. 大 まか に考 え て2つ の 原 子 が 近 づ くと斥 力(反 発 力)と
引 力 が 原 子 間 に働 き,
そ の合 成 が 結 合 力 とな る. 斥 力 は 主 に核 外 電 子 の 重 な りで生 じ る.こ れ は2つ の 原 子 の ス ピ ン の 向 き が 同 じ電 子 は,同
じ状 態 を 占 め得 な い とい うパ ウ リの排 他 原 理 に よ る もの で あ る.ポ
テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の 原 点 と して2つ の 原 子間 の 距 離rが
∞ で力 が働 か な い
と き をゼ ロ に取 る と,電 荷 に働 く斥 力 の ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ーUrと
斥 力F
rは,大 まか で は あ るが 一 般 に,次 の よ う に表 され る.
(3.1.1)
こ こ でAとBは
比 例 定 数,Rは2つ
原 子 の 半 径 の 和,mは
定 数 で あ る.経
の 験
的 にmは12で
近 似 さ れ る.図3.1.1に
示 す よ う に,距
離 が 近 づ く と斥 力 は 急 増 す る.
また,引 力 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ーUaお れ,Uaは
図3.1.1
よ び 引力Faは,一
原 子 間 力
般 に次 式 で 表 さ
距 離 が 近 づ く と低 下 す る. (3.1.2)
こ こでCは
比 例 定 数,nは
定 数 で 引 力 の 種 類 お よ び そ の 具 体 的 内 容 に よ り異 な
る. 全 エ ネ ル ギ ーUと
原 子 間 の 力Fは, (3.1.3)
で与 え られ る.斥 力 と引 力 が 平 衡 して 生 ず る最 低 エ ネ ル ギ ーU0(r0)が
結合 エネル
ギ ー で あ る.そ の 平 衡 位 置r0が 固 体 内 の原 子間 距 離 とな る. さて,固 体 に お け る 電 子 的 な結 合 引 力 は,以 下 の よ うに5種 類 に分 類 さ れ る. 物 質 に よ っ て は,い
くつ か の種 類 の 結 合 引 力 が 混 在 して い る.
(1) イ オ ン結 合 正 負 の イ オ ン間 に は ク ー ロ ン引 力 が 働 く.NaClやKClな 族 化 合 物(ア
ど,周 期 表 のⅠa-Ⅶb
ル カ リハ ラ イ ド)の 結 晶 は,電 気 陰 性 度 が 極 め て小 さい 陽電 性 原 子
と電 気 陰 性 度 が極 め て 大 き い陰電 性 原 子 の化 合物 で あ る .陽電 性 原 子 の 最 外 殻 に あ る価電 子 は,陰電 性 原 子 の 空 軌 道 に移 行 す る た め に陽電 性 原 子 は正 に,陰電
性
原 子 は 負 に ほ ぼ完 全 に イ オ ン化 して い る.こ の た め これ らの 結 晶 の 結 合 力 は,結 晶 内 の正 負 イ オ ン間 の クー ロ ン引 力 と考 え られ,イ
オ ン結 合 とい う.イ オ ン結 合
力 が 主 な結 晶 はイ オ ン結 晶 とい わ れ る.引 力 指 数 はn=1で
あ る.1つ
の イオ ンを
取 り囲 む反 対電 荷 の イ オ ンは空 間 的 に多 数存 在 す る か ら,結 合 力 は,こ れ らの 間 の クー ロ ンエ ネ ル ギー の 和 で あ る.こ の 力 は 結 晶 内 で は 等 方 的 に働 くの で 指 向 性 が な い. な お,イ
オ ン結 晶 で は電 荷 分 布 が球 対 称 の イ オ ン球 が ほぼ接 して配 列 され て い
る の で,正 負 各 イ オ ン半 径 の 和 が 最 近 接 イオ ン(原 子)間 距 離 に ほ ぼ等 しい. 結 合 エ ネ ル ギ ー は6∼10eVと
大 き く,融 点 は比 較 的 高 い.正 負 イオ ン 内 の電 子
配 置 は,希 ガ ス原 子 と同様 の 閉 殻 構 造 で あ るた め電 気 的 に は絶 縁 体 と な る. な お,希
ガ ス 原 子 以 外 の原 子 に は多 少 と も電 気 陰 性 度 に差 が あ る.こ の た め イ
オ ン結 晶 以 外 の 化 合 物 結 晶 に は 多 少 と もイ オ ン結 合 力 が存 在 す る.
(2) 共 有 結 合 イ オ ン結 合 で は,結 合 に関 与 す る価電 子 が1つ
の 原 子 か ら隣 接 す る原 子 へ ほ と
ん ど完 全 に 移 行 して い る.こ の 共 有 結 合 で は,あ
る原 子 の価電 子 は隣 接 原 子 に も
共 有 され て い る.つ
ま り,隣 接 す る2つ の 原 子 に また が る1つ の電 子 軌 道 に各 原
子 か ら1つ ず つ,計2個
の電 子 が その 軌 道 上 で 運 動 して い る状 態 で あ る.各電 子
が どち らか の原 子 の もの か は判 別 で き な い.隣 接 す る2つ の 原 子 の価電 子 が1つ の軌 道 を共 有 す る状 態 は1つ
の結 合 状 態 で あ り,共 有 結 合(covalent
bonding)
とい う.た だ し,パ ウ リの 原 理 に よ り2つ の電 子 の ス ピン 角運 動 量 の 向 きは 反 平 行,す な わ ち ス ピン量 子 数 は ±1/2で な け れ ば な らな い.共 有 結 合 は電 子 対 結 合, 等 極 結 合 と もい わ れ,ま
た,結 合電 子 が価電 子 で あ る の で 原 子 価 結 合 と もい わ れ
る. H2分
子 は 共 有 結 合 を し て い る.2つ
Hが あ る 程 度 近 づ く と,図3.1.2の に,2つ
のHに
+ψ1s)が
形 成 さ れ る.そ
の よ う
ま た が る 分 子 軌 道(ψ1s の 軌 道 を2つ
の 図3.1.2
Hか ら の1s電
子2個
水 素 分子 の 共 有 軌 道
が 占 め て い る が,
パ ウ リの 原 理 に よ りス ピ ン 角 運 動 量 が 互
い に反 平行 で共 有 結 合 して い る.も う1つ 考 え られ る分 子 軌 道(ψ1s-ψ1s)は,水 素 分 子 の場 合 は,ス
ピ ンが 同 じ向 きの2個 の 電 子 が 占 め る こ と に な る の で,大
き
な斥 力 が働 き結 合 軌 道 に は な らな い. 周 期 表Ⅳb,Ⅴb,Ⅵb族
の 単 元 素 固 体,お よび それ らの 原 子 の化 合 物 な どの 結合 力
は,主 に共 有 結 合 力 で あ る. 原 子 の場 合 は,各 電 子状 態 す な わ ちs,p,dな
どの各 軌 道 は 区別 され て い るが,
共 有 結 合 性 を有 す る 固体 や 分 子 の場 合 は,原 子 間 距 離 が 小 さ くな る と各 状 態 の 波 動 関 数 が混 り合 っ て混 成 軌 道 を形 成 す る場 合 が あ る. Ⅳb族 の ダ イ ア モ ン ド(C),Si,Geな
どの原 子 は,4個 の 価 電 子 がs状
p状 態 に2個 の配 置,つ ま り,s2,p2の 配 置 を取 り,2つ 合 計4つ
の軌 道 に 区別 され て い る.と
子 がp状
態 に移 行 して,4個
つ の(s1p3)軌 価 電 子1個
のs軌 道 と2つ のp軌 道,
こ ろが 固体 に な る と,各 原 子 の1個
の価 電 子 は新 しい4つ
う に な る.こ の4つ の(s1p3)軌
の(s1p3)混
示 す よ う に,正4面
成 軌道 を作 る よ
道 と重 な っ て い る.隣 の 原 子 の
が 同様 に,こ の軌 道 に配 置 さ れ る か ら,各 原 子1個
る.こ の(s1p3)軌
のs電
道 の そ れ ぞ れ に 価 電 子 が1個 ず つ配 置 され る.1
道 は,隣 の 原 子 の1つ の(s1p3)軌
ピ ンが 反 平 行 の合 計2個
態 に2個,
の 電 子 が1つ
の(s1p3)軌
ず つ,そ れ ぞれ ス
道 を共 有 す る結 合 状 態 が で き
道 は4つ の 方 向 に指 向性 が あ る軌 道 で,そ の 方 向 は 図3.1.3に 体 の 中心 か ら4つ の角 に 向 か う方 向 で あ る.こ れ らの 結 晶 の
構 造 は,後 で述 べ る よ うに ダ イ ア モ ン ド型 で あ る が,そ れ は この 結 合 軌 道 の 方 向 性 か ら生 ず る もの で あ る.こ の よ う に共 有 結 合 軌 道 の 方 向 性 は,一 般 に 結 晶 構 造 と深 い 関 係 が あ る.な お,こ の 図 お よび 以 下 の 図 で は 共 有 軌 道 を長 楕 円 形 に描 い
て あ るが,実 際 の 軌 道 は ひ ょ うた ん形 で, そ の くび れ の 部 分 に格 子 点 原 子 が あ る. 炭 素 に は ダ イ ア モ ン ド構 造 の ほ か に グ ラ フ ァイ ト構 造 が あ る.こ の 場 合 は,3 つ の(s1p2)混
成 軌 道 と1つ
のp軌
形 成 され て い て,価 電 子 が1個 さ れ る.図3.1.4の
道が
ずつ配置
よ うに,(s1p2)軌 道 は
平 面 上 に あ っ て正3角
形の頂点 方向の指
向性 が あ り,隣 の 原 子 の電 子 が 共 有 す る. この 軌 道 を 占 め る電 子 はσ 電 子 と い わ れ る.残
りのp軌
図3.1.3
s1p3共 有 結 合 軌 道
道 は平 面 に垂 直 で,こ
れ を 占 め る電 子 は π 電 子 とい わ れ る.π 電 子 の軌 道 は,σ 電 子 の 軌 道 と も い く ら か 混 成 す る た め に 層 の 平 面 に沿 って 広 が っ て い る.し か し結 合 に は あ ま り関 与 し な い.こ
の よ うな軌 道 の 方 向 性 か ら グ ラ フ ァイ トの 結 晶 は層 状 構 造 とな る.
図3.1.4
C,Si,Geの
結 晶 の 結 合 エ ネ ル ギ ー の 概 略 値 は,ダ
4.7eV,Geで3.9eVと 硬 い.電
s1p2共 有 結 合 軌 道+p1(π)軌
道
イ ア モ ン ドで7.4eV,Siで
大 き く イ オ ン 結 合 と 同 程 度 で あ る.一
気 的 に は 絶 縁 体 で あ る.グ
般 に 融 点 が 高 く,
ラ フ ァ イ ト も融 点 が 高 い が,結
合 に あ ま り与
か ら な い π 電 子 の た め に 層 の 面 に 沿 っ て は 伝 導 性 が あ る. ま た,Ⅲb-Ⅴb族
化 合 物 のGaAs,ⅠnPやⅡb-Ⅵb族
化 合 物 のZnSも
ダ イア モ ン
ド構 造 類 似 の 閃 亜 鉛 鉱 構 造 を取 る.こ れ も共 有 結 合 力 に よ る もの で あ るが,イ ン結 合 力 も40%前
オ
後 併 存 して い る と考
え られ て い る. Vb族
のP,As,Sbで
子 の う ち,3つ い る.残
は 外 殻 のs2,p3電 図3.1.5 p3共
のp電 子 が 共 有 結 合 して
りの2つ のs電 子 は,隣 接 原 子 のs電
らか共 有 結 合p軌
道 に混 成 す るた め,図3.1.5の
有結合 軌道
子 と結 合 す るが,そ の 軌 道 が い く よ うに,本 来 の3つ
の指向性
p軌 道 が 押 しつ ぶ さ れ た 共 有 結 合 軌 道 とな って い る.こ の た め結 晶 は,押
しつぶ さ
れ た正 四 面 体 を重 ね た 層状 構 造 とな る.
図3.1.6 p2共
Ⅵb族 のS,Se,Teで い る.2つ
有結合軌 道+孤立電子対
は外 穀 のs2,p4電 子 の うち,2個
のp電 子 が 共 有 結 合 して
のs電 子 は隣 接 原 子 のs電 子 と結 合 す るが,そ
p軌 道 に い くらか 混 成 す るた め,図3.1.6の 向 性 共 有 結 合p軌
よ う に,互
道 とな っ て い る.残 りの2個
のp電
のs軌 道 が 共 有 結 合
い に直 線 か らや や 傾 いた 指 子 は ± ス ピ ンの対 で,そ
の
原 子 に局 在 す る閉 じた軌 道 を作 って い る.こ の よ う な 閉 じた 軌 道 の状 態 を孤 立 電 子 対(lone-pair)と
い う.こ の 結 晶 は,1次
元 的 な鎖 状 あ るい は環 状 あ る い は ら
せ ん 状 の構 造 と な る.
(3) 金 属 結 合 共 有 結 合 で は価 電 子 の 軌 道 は隣 の原 子 とだ け重 な って い る が,金 属 で はす べ て の価 電 子 の 軌 道 は,す べ て の 原 子 に広 が っ て い て伝 導 電 子 とな っ て い る.価 電 子 を放 した す べ て の原 子 は,閉 殻 電 子 構 造 の 正 イオ ン とな っ て い る.イ オ ン配 列 に
よ る平 均 ポ テ ン シ ャ ル エ ネル ギ ー は 自 由 イ オ ンの そ れ よ り低 く,平 均 運 動 エ ネ ル ギ ー も低 下 す るの で,す (図9.1.5参
照).こ
べ て の価 電 子 の エ ネ ル ギ ー は原 子 の そ れ よ り も低 くな る
の エ ネル ギ ー 低 下 が 結 合 エ ネ ル ギ ー で あ っ て 金 属 結 合 とい わ
れ る.多 原 子 系 にお け る クー ロ ンエ ネル ギ ー と も考 え られ る. 結 合 エ ネ ル ギ ー は一 般 に小 さ く,融 点 は低 く,ま た,軟
らか い もの が 多 い.結
合 力 の指 向性 はな い.当 然,電 気 伝 導 性 は良 い.周 期 表 のⅠa,Ⅱa,Ⅲa族 で 価 電 子 が3個 以 下 の 原 子 の 固 体 は金 属 で あ る こ とが 多 い.Na,Kな 金 属 結 合 の代 表 的 結 晶 で あ る.Naの 金 属 で もFe,Pt,Wな
どの ア ル カ リ金 属 は
結 合 エ ネ ル ギ ー は約1.1eVで
あ る.他 方,
ど は 融 点 が 高 く,ま た 硬 い.結 合 エ ネ ル ギ ー はFeで4.3
eV,Ptで5.9eV,Wで8.7eV程
度 で あ る.こ れ ら3d不
の イオ ンは指 向性 軌 道 を もつ3d電
完 全 殻 を持 つ遷 移 金 属
子 が外 側 に あ り,こ れ に よ る 大 きな 共 有 結 合
エ ネル ギ ー が併 存 し て い るた め と考 え られ る.
(4) フ ァ ン ・デ ル ・ワ ー ル ス 結 合 原 子 内 の 多数 の電 子 は,そ れ ぞ れ独 立 に運 動 して い るの で,そ 荷 の 重 心 の位 置 は図3.1.7の
れ ら の電 子 の 電
よ う に,原 子 の 中 心 か ら絶 えず ゆ らい で い る もの と
考 え られ る.こ の ゆ ら ぎ は,あ
る瞬 間 に 自 ら電 気 双 極 子 を生 ず る と同 時 に,隣 接
原 子 に電 気 双 極 子 を誘 起 す る.こ の た め 原 子間 に電 気 双 極 子― 電 気 双 極 子 相 互 作 用 に よ る引 力 が 生 ず る.こ の 結 合 力 は,前 記3つ
の結 合 力 の 場 合 の よ う に原 子 間
に わ た る電 子 軌 道 の 重 な りが な くて も,電 気 的 に 中性 な原 子 の 間 に働 く引力 で あ
図3.1.7
電 子 の 重 心 の ゆ ら ぎに よ る双 極 子 と誘 起 双 極 子
り,フ ァ ン ・デ ル ・ワ ー ル ス(Van 周 期 表0族
der Waals)結
合 とい わ れ る.ArやNeな
ど,
の 閉 殻 構 造 電 子 配 置 の 希 ガ ス を冷 却 して 得 られ る固 体 や 有 機 分 子 の 固
体 な どの 多 くは,こ
の力 で結 び 付 け られ て い る と考 え られ る.こ の た め,こ
の結
合 力 は分 子 性 結 合 力 と もい わ れ る. 引 力 の指 数 はn=6で
あ る.原 子 ・分 子 が 多 少 離 れ て い て も,こ の相 互 作 用 が働
く.こ の力 も指 向 性 が な い. 結 合 エ ネ ル ギ ー は0.02∼0.2eVと
小 さ く,融 点,沸 点 が 低 く解 離 しや す い.電
気 的 に は絶 縁 体 とな る.
(5) 水 素 結 合 H2O結
晶(氷)の
中 で は,H原
の共 有 結 合 力 が あ り,図3.1.8の
子 の1s電 子 とO原 よ うに,H-O-Hの
子 の2p電
子 に よ る指 向 性
角 度 は104°で あ る.ま た,O
は電 気 陰 性度 が 大 きい の で,結 合 電 子 の 密 度 分 布 はOの
方 に 少 し偏 よ っ て,H+δ,
Oδとな り ,結 合 角 度 が 固 定 され て い るの で永 久 電 気 双 極 子 が 発 生 して い る.こ の た め イ オ ン結 合 力 と永 久双 極 子 間 の結 合 力 が 併 存 す る.電 気 陰 性 度 の 大 きい2つ の原 子 の 間 にHが
存 在 す る と きの 結 合 を,特 に水 素 結 合 と いい,こ れ も分 子 性 結
合 力 の1つ で あ る. この 結 合 は,H2Oの 合 物 結 晶,あ
ほ か に もF,N,Oな
ど電 気 陰 性 度 の大 きい 原 子 とHと
る い は 結 晶 水 を 含 む 化 合 物 結 晶 に 存 在 す る.例
図3.1.8
水 の 水素 結 合
え ば,KH2PO4
の化
(KDP,リ
ン 酸 カ リ)やNaK(C4H4O6)4H2O(ロ
ッ シ ェ ル 塩)な
ど の 強誘 電 性
結 晶 な ど が あ る. 結 合 エ ネ ル ギ ー は0.1eV程
度 と小 さ く,融
点 が 低 い.電
気 的 に は絶 縁 体 で あ
る.
3.2
固体の種類
原 子 間 力 の平 衡 位 置 で原 子 の位 置 が 固 定 され て 固体 が 形 成 され るが,固 体 内 原 子 ・イ オ ン ・分 子 の 配 列 状 況 は,電 子 顕 微 鏡 に よ っ て 直 視 的 に 観 察 され て い る も の もあ るが,そ
の例 は少 な く,ほ とん どす べ てX線
や電 子 の 散 乱 ・回 折 現 象 の 解
析 か ら調 べ られ て い る.配 列 状 況 は結 晶 学 的 構 造 とい わ れ る.そ れ に よれ ば,固 体 は大 別 し て,結 晶(crystal)と 体,ガ
非 晶 質(ア
モ ル フ ァス-amorphous,無
ラ ス質 と も い う)に 分 類 され,こ の うち 結 晶 は単 結 晶(single
多 結 晶(poly
crystal)に
定形 固 crystal)と
分 類 さ れ る(図3.2.1).
単 結 晶 は固 体 全 体 に わ た っ て原 子,分 子 が 規 則 正 し く並 ん で い る もの で あ っ て, ダ イ ア モ ン ド結 晶 や シ リコ ン単 結 晶 が そ の例 で あ る.物 性 は そ の 固体 固 有 の 特 性 を示 し,ま た 配 列 方 向 で 物 性 が 異 な る異 方性 が現 れ る.大 な い.し か し,大 き さ10∼1nm程
き さ の制 限 は一 般 に は
度 の超 微 小 結 晶(nano-crystal)に
な る と,普
通 の単 結 晶 と はか な り異 な る原 子 配 列 と物 性 を示 す. 多 結 晶 は 小 さ な単 結 晶粒 の 集 合 体 で,原 子 配 列 方 向 は各 単 結 晶 ご とに 異 な り, 結 晶 粒 界 が 多 数 存 在 す る.ふ つ うの 鉄 材,ア
ル ミ材,多
結 晶 シ リコ ン な どが その
例 で あ る.基 本 的 な物 性 は,単 結 晶 の もの と大 きな 差 異 は な い が,等 方性 で あ る. 非 晶 質 は数 原 子 間 隔 程 度 の 近距 離 で は秩 序 性 は保 た れ て い る が,固 体 全 体 に わ た って は配 列 間 隔 や 方 向 の規 則 性 は失 わ れ て,長 距 離 無 秩 序 配 列 とな っ て い る. 普 通 の ガ ラ ス,プ
ラ ス チ ッ クス,ア モ ル フ ァ ス シ リ コ ン な どが そ の 例 で あ る.物
性 は単 結 晶 とは か な り異 な る こ とが 多 く,ま た,等
方性 で あ る.
多結 晶 や 非 晶 質 の 物 性 は,固 体 内 原 子 が 理 想 的 配 列 を し て い る単 結 晶 の物 性 を 基 礎 と して 理 解 され る こ とが 多 い.
図3.2.1
3.3
結
原 子 配 列 に よ る 固体 の分 類
晶
(1) 原 子 配 列 の 規 則 性 と そ の表 し方 単 結 晶 の 原 子 配 列 の 規 則 性 は,結 晶 学 的 に は以 下 の よ う に原 子 配 列 の 回 転 対 称 性 と並 進対 称 性 で 表 され る. 図3.3.1(a)の
よ うに立 方 体 状 の原 子配 列 が あ る と き,適 当 な 点(格
子点 で も
格 子間点 で もよ い)を 通 る軸 上 に存 在 す る原 子 を90° ず つ 回 転 す る と,そ の た び に 同種 原 子 と重 な り,4回
目 に元 の原 子 に 重 な る.こ れ を4回
の回転対 称性 とい
う.こ の形 で は180° 回 転 に よ る2回 対 称 もあ り,体 対 角線 を軸 とす る3回 対 称 も あ る.図(b)の
よ う な上 面,下 面 が正 方 形 の 直 方 体 で は3回 対 称 性 が 失 わ れ,図
(a)
(b) 図3.3.1
(c)の
よ う な 上 面,下
こ の よ う に,あ き る.一 般 に,あ
る軸 の ま わ り の2π/n回
素 は1,2,3,4,6の
対 称 性 が 失 わ れ る.
転 ご と に元 の配 列 図 形 に重 ね 合 わ せ る こ
の 回 転 対 称 性(rotational
symmetry)が
あ る とい い,nを
学 的 に は 何 回 の 対 称 性 で も 考 え ら れ る が,結
み で あ る こ と が 証 明 さ れ て い る.1は
晶 の回 転 対 称 要
無 対 称 性 を 意 味 す る.5
下 で 述 べ る 並 進 対 称 性 が な い た め に 除 か れ る.
次 に,図3.3.2(a)の
よ う に,(x,y,z)点
原 点 と し て,直
(inversion)と い,あ
対 称 が あ る)
る軸 の まわ りの 回転 操 作 か ら原 子 配 列 の 状 況 を考 え る こ とが で
対 称 要 素 と い う.数
点0を
(c)
の ほ か に6回
面 が 矩 形 の 直 方 体 で は3回,4回
と が で き る と き,n回
は,以
回転 対 称(こ
に あ る 原 子 を対 称 中 心 と い わ れ る あ る
線 矢 印 に 沿 っ て(-x,-y,-z)点
い う.反 転 操 作 に よ る 点 に 原 子 が 存 在 し な い 配 列 を,対 称 中 心 が な
る い は 反 転 対 称 性 が な い と い う.あ
反 転 →2π/n回
る 軸 の ま わ り に 同 じ 向 き に2π/n回
転→
転 → 反 転 … を 繰 り返 し,元 の 配 列 図 形 に 重 ね る こ と が で き る 場 合 を
n回 の 回 反 対 称 性(rotatory
inversion
symmetry)が
結 晶 の 回 反 対 称 要 素 は 図 に 示 し た1(反 は 図 の よ う に,1つ
の 鏡 面(mirror
と な の で 鏡 映 対 称 と も い い,mと
あ る と い う.
転),m(=2),4の3種
plane)に
類 の み で あ る.2
つ い て 鏡 像 関 係 の対 称 性 が あ る こ
書 く こ と が 多 い.3と6は
合 わ せ で で き る の で 独 立 要 素 で は な い.す 結 局,独
に移 す 操 作 を 反 転
他の対称要素 の組 み
な わ ち,3=3+1,6=3+mで
立 な 回 転 対 称 要 素 は1,2,3,4,6,1,m,4の8種
あ る.
類 で あ る.こ れ ら の 固 定
さ れ た 点 あ る い は 軸 に 関 す る 回 転 要 素 を 組 み 合 わ せ る と,結 晶 点 群 と い わ れ る32 種 の 原 子 配 列 の 形 が 得 ら れ る.
(a) 1(b)
2=m(c)
(d) 4(e)
3=3+1
6=3+m 図3.3.2
回反 操 作
対 称 性 に は この ほ か に,並 進 対 称 性(translational
symmetry)が
あ る.こ れ
は一 定 方 向 に一 定 距 離 だ け移 動 す るご とに,元 の 原 子 配 列 図 形 に重 ね 合 わ せ る こ とが で き る こ と を い い,原 子 配 列 の空 間 的 周 期 性 を表 す.5の
回転対称 要素が省
か れ た の は,5角 形 で は明 らか に 並進 性 が ない か らで あ る.ま た,こ こで は省 略 す るが,こ
の並 進 とそ の 方 向 に平 行 な面 に よ る鏡 映 を組 み合 わ せ た 映 進 対 称 性,お
よび 並 進 と,そ の 方 向 に 平 行 な回 転 を組 み合 わ せ た らせ ん対 称 性 の合 計3要 素 が あ る.こ の操 作 に よ っ て,原 子 配 列 構 造 は空 間 に広 が る格 子 状 の 構 造 で 表 され る こ とに な る.格 子 線 の 交 点 を格 子 点 とい う. 回 転 に関 す る32種 の 操 作 と,並 進 対 称 性 に 関 す る3種 の操 作 を組 み 合 わ せ る と
(a)
(b) 図3.3.3
空 間 的 広 が り まで を含 む230種 な お,図3.3.3(b)の
結 晶 基(●
… … ○)
の 結 晶 空 間群 が で きる.
よ う に,一 定構 造 の原 子 団(白 丸 と黒 丸)が 図(a)と
同じ
周 期 配 列 を す る場 合 も あ る.格 子 点 に お け る 白丸 と黒 丸 の よ う な原 子 団 を結 晶 基 と い う.図(a)と
図(b)の
結 晶 の 格 子 構 造 は 同 じ で あ る が,回 転 対 称 性 が 異 な る
か ら点 群 も空 間群 も異 な る. 自然 界 の 結 晶 構 造 は,未 知 の結 晶 まで 含 め す べ て230種 つ で 表 され る.最 近,5回
中 の 空 間 群 の どれ か1
対 称 性 の あ る結 晶 が 見 いだ され て い るが,単 一 の格 子 で
は 並 進 性 が な い た め に,空 間 的 広 が りの 途 中 に 隙 間 が で き る の は避 け られ ず,他 の構 造 の格 子 で〓 間 が 埋 め られ て い る.こ
の よ う な結 晶 は 準 結 晶(quasi-crystal)
といわ れ,上 記 の 空 間 群 に は入 ら な い.
(2) 結 晶 格 子 多 数 の結 晶 空 間群 を 回転 対 称 性 に着 目 して,立 方,六 分 類 す る と,格
子 の 形 が 分 か り や す い.
こ れ ら の 結 晶 系 の 格 子 の3つ 結 晶 軸 と い い,結 は,こ
方 な ど7種 類 の結 晶 系 に
の格 子 線 を
晶 格 子(crystal
lattice)
の 軸 に 沿 っ て 図3.3.4の
よ
う な 単 位 格 子 あ る い は 単 位 胞(unit cell)と
い わ れ る 平 行6面
で 構 成 さ れ る.単
体 の積 み重 ね
位 格 子 の 格 子 点 は,原
図3.3.4
単 位 格 子(単
位 胞)と
格子定数
子 あ る い は 結 晶 基(原 結 晶 軸 間 の 角α,β,γ
子 団)で
あ る.単 位 格 子 の3つ
を格 子 定 数(lattice
表3.3.1
constant)と
結 晶 系 とブ ラべ 格 子
の 結 晶 軸 長a,b,cお い う.結
よ び各
晶格 子 の中で の
単位 格 子 の取 り方 に は任 意 性 が あ るが,7種
の結 晶 系 に つ い て 並 進 性 を も考 慮 し,
体 心,面 心 の 格 子 点 を含 め て分 類 した14種 の ブ ラべ(Bravais)格 され る.こ れ を表3.3.1に
子 が 広 く利 用
示 す.
単 位 格 子 中 の原 子 数 を数 え る場 合,隅,辺(陵),面
上 に あ る原 子 は 隣 りの単 位
格 子 に も属 し て い るか ら,隅 に あ る原 子 数 は1/8個,辺 面 に あ る原 子 数 は1/2個,中
に あ る原 子 数 は1個
に あ る原 子 数 は1/4個,
と数 え る.し た が っ て,単 位 格
子 中 の原 子配 列 構 造 と格 子 定 数 が 分 か れ ば,単 位 体 積 中 の 原 子 数 が 求 め られ,ま た,グ ラ ム原 子(モ
ル)と,ア
単 位 体 積 の質 量(比 重)が
ボ ガ ドロ数 か ら原 子1個
の質 量 が 求 め られ る か ら,
計 算 で き る.
(3) 格 子 面 単 結 晶 の原 子 は 図3.3.5の
よ う に,直
線 上 に配 列 す る と同 時 に,奥 行 き方 向 の 平 面 上 に も配 列 して い る.こ の よ う な面 は極 め て 多 数 あ っ て格 子 面 とい わ れ る. また1つ の 面 に平 行 で 同 等 な面 が 多 数 あ る.以 下 で は,図3.3.6を
参 照 しな が ら 図3.3.5
格 子 面 の 表 し方 に つ い て 述 べ る.
さ ま ざ ま な格 子 面 と面 間 隔
任 意 の格 子 点 を原 点 に取 り,任 意 の格 子 面Pを
次 の形 式 の 方 程 式 で 表 す.
(3.3.1)
こ こ でA,B,Cは,面 長 で あ る.結
が 各 軸 を切 る切 片
晶 の 場 合 は,格
子 面Pの
切
片 長 は 格 子 定 数 の 整 数 倍 で あ る か ら,A =pa
,B=qb,C=rc(p,q,rは
整 数) 図3.3.6
で あ る.こ こ でp,q,rの
逆 数 の比 を最 小
任 意 の格 子 面Pと ミラ ー 指 数(hkl) で表 され る 面PM(230)
の 整 数 比h,k,lに
置 き換 え る 操 作 を 行 う.す
な わ ち,
(3.3.2) こ れ を 用 い る と,式(3.3.1)か
ら,次
の 新 し い 格 子 面PMの
方 程 式 が 得 ら れ る.
(3.3.3) 面PMは ロ)で
前 の 面Pに
あ っ て,切
index)あ
つ,原
点 に 最 も 近 い 面(原
片 長 はa/h,b/k,c/lで
あ る .h,k,lを
る い は 面 指 数 と い い,面PMを(hkl)と
ミ ラ ー 指 数 面hkl)で 指 数 は0で
平 行,か
あ る.原
表 す.多
点 を通 る面 は 右 辺 が ゼ ミ ラ ー 指 数(Miller 数 の平 行 で 同 等 な 面 は
代 表 さ れ る こ と に な る.軸 に 平 行 な 面 は,切 片 を ∞ と し て 点 か ら 負 の 切 片 の と き は,バ
ー を付 け て,例
え ば(100)の
よ
う に 書 く. 図 の 例 で は,面Pでp=3,q=2,r=∞ 1/∞=2:3:0=h:k:lと
で あ る か ら,1/p:1/q:1/r=1/3:1/2:
な り,PMは(230)と
面 の 間 隔 を 面 間 隔 と い い,dhklと る 平 行 な 面 で あ る か ら,原
表 す.式(3.3.3)の
点 と面PMと
た,格
り合 う平 行 な 格 子
右 辺 が ゼ ロの 面 は原 点 を通
の 垂 線 距 離 が 面 間 隔 で あ り幾 何 学 的 に も
計 算 で き る.例 え ば,立 方 晶 系 で は,格 子 定 数 をaと で あ る.ま
表 さ れ る.隣
す る とdhkl=a/(h2+k2+l2)1/2
子 面 の 方 向 す な わ ち 格 子 軸 の 方 向 は 面 の 垂 線 の 方 向 で[hkl]の
よ う に 表 す. 逆 に,(hkl)の
値 か ら 同 等 な 面 を 代 表 す る 面PMを
図3.3.7
図 で 表 す こ と が で き る.す
面 の ミラ ー 指 数 表示 例
な
図3.3.8
わ ち,各 軸 長a,b,cをh,k,lで
六 方 晶 の ミラー 指 数 表 示 例
割 っ た 長 さ を 原 点 か ら取 り,そ れ を 結 べ ば こ の 面
が 描 か れ る.図3.3.7に,面
の ミ ラ ー 指 数 の 具 体 例 を 示 す.
ミ ラ ー 指 数 は 結 晶 軸 が 直 交 系 で も斜 交 系 で も 適 用 で き る の で,面 で あ る.た
だ し,六
度 のa1,a2,a3軸
方 晶 系 で は,図3.3.8に
を と り,こ
lの4つ(Miller-Bravais
示 す よ う に 底 面 内 に 互 い に120° の 角
れ に 垂 直 にC軸
indexと
の 表 現 に便 利
い う)で
を と る.指 表 す.こ
数 は こ の 順 序 に,h,k,i,
の う ちiは
次 の 関 係 が あ り,
独 立 で は な い.
(3.3.4) 図 に はc軸
に関 して 対 称 性 の あ る 同 等 な 面 の 例 を(hkl)と(hkil)で
指 数 で は これ らの 面 の 同 等 性 が 分 か りに くい が,4指
表 した.3
数 で 表 す と指 数 値 が 循 環 し
て い るの で,同 等 な面 で あ る こ とが 直 ち に分 か る利 点 が あ る.
3.4 結 晶 構 造 解 析 (1) 結 晶 構 造 解 析 法 結 晶 構 造 を調 べ る に はX線 る.X線
回 折 法(X-ray
diffraction)が
主 と して 用 い られ
が 結 晶 に 入射 す る と原 子 は励 起 され,同 波 長,同 位 相 のX線
な 方 向 に放 出 す る(散 乱 す る).X線 で あ る.こ の た め 図3.4.1に 入 射 角 で 平 行X線
の波 長 は1A程
度,格
示 す よ う に,特 定 の 格 子 面(●
をいろいろ
子 面 間 隔 は数A程
で 示 した)に 特 定 の
を入 射 す る と,各 格 子 面 上 に あ る各 原 子 か らの 散 乱X線
は,同 位 相 の と き に強 め合 って 干 渉 を起 こ す.X線
度
の波
の進 行 方 向 が 変 わ るの で 回折
図3.4.1 ブ
ラ ッ グの 回 折 条 件
とい わ れ る.回 折 を起 こす 条 件 は 次 の ブ ラ ッグ(Bragg)の
回折 条 件 式 で 表 さ れ
る.
(3.4.1) こ こでdhklは 面 間 隔,θ は格 子 面 に対 す るX線 波 の放 射 角 も同 じ θで あ る.λ はX線 左 辺 は散 乱X線1',2'の
光 路 差AB+BCに
の波 長,nは
の入 射 角 で,回 折 を起 こす 散 乱 正 の整 数 で 回折 次 数 とい う.
等 しい.こ の 式 は隣 り合 う平 行 な 面 か
ら の鏡 面 反 射 波 の光 路 差 が,波 長 の整 数 倍 の と きの 光 の 回 折 条 件 を表 す 式 と同 じ で あ っ て,幾 何 光 学 的 に簡 単 に導 く こ とが で き る.回 折 線 強 度 は 回 折 次 数 と散 乱 を起 こす 原 子 の種 類 に関 係 す る. また,図
の よ うに,も
し も○ で 示 し た よ う な 同 じ面 間 隔 の 格 子 面 が さ らに存 在
す る場 合 は,λ/2だ け位 相 が ず れ た 回 折 線3が 生 じ,● で 示 した 面 に よ る回 折 線 は 消 滅 あ る い は弱 め られ る.例 え ば,● を単 純 立 方 の(100)格 心立 方 で は ○ の よ うな格 子 面 が 存 在 す るの で,(100)面
子 面 とす る と,体
による回折線 は消滅 ある
い は弱 め られ る.こ の こ とか ら,単 純 立 方 と体 心 立 方 が 判 別 さ れ る. な お,ブ ラ ッ グの 回 折 条 件 が 満 た さ れ な い と き は,X線
は入 射 の 向 き に結 晶 中
を進 行 す る. 電 子 線 の 回 折 条 件 も同 じで あ る が,結 晶 に対 す る電 子 侵 入 深 さが 小 さ く,結 晶 表 面 付 近 で の み 回折 が起 こ るの で,主
に表 面 や 薄 膜 の 構 造 解 析 に 利 用 さ れ る.
X線 回 折 法 は,大 別 して以 下 の よ う な2種 類 が あ る. (a) ラ ウ エ(Laue)法 単 結 晶 試 料 を用 い,小 さい 直 径 の 白色X線(連
続 した 波 長 分 布 を 有 す るX線)
ビ ー ム を 入 射 す る.単 結 晶 中 に は,入 射 方 向 に 対 し て さ ま ざ ま な 角 度 を も つ (hkl)面
が 多 数存 在 す る.こ れ らに対 し て 回折 条 件 を満 た す と,λ とdhklが 自 動
的 に選 択 され,X線 線 をX線
は 回折 条件 を満 た す い くつ か の θの 方 向 に 回折 す る.反 射X
感 光 写 真 乾 板 に記 録 す る と,X線
ビー ム径 の 大 き さ の 回 折斑 点 の 分 布 パ
タ ー ンが 得 られ る. 斑 点 の そ れ ぞ れ が 各 格 子 面 に対 応 し て い るか ら,結 晶 面 の 方 位 や対 称 性 を調 べ るの に利 用 され る.し か し,連 続 波 長 中 の どの λが 回 折 した か は 分 か らな い か ら, 物 質 固 有 のdhklは 決 め られ な い の で物 質 判 定 は で き な い. (b) デ バ イ ・シ ェ ラー(Debye-Scherrer)法,ま 粉 末 あ る い は 多 結 晶 試 料 を用 い,小
た は粉 末 法
さ い 直 径 の 単 色X線(一
定 波 長 のX線)
ビー ム を入 射 す る.一 定 の λ と一 定 のdhklと で 決 まる 一 定 の θの 方 向 に 回 折 す る が,粉 末 や 多 結 晶 試 料 中 に は あ らゆ る方 向 を向 い た 同 等 なdhkl面 が 無 数 に 存 在 し て い るか ら,写 真 乾板 上 で は 回折 斑 点 が 円周 上 に無 数 に 並 ん だ リン グ状 とな る. 異 な るdhkl面 は異 な る θで 回 折 す るか ら,一 般 に は い くつ か の 同 心 円パ タ ー ンが 得 られ る.測 定 装 置 の 幾 何 学 的 配 置 か ら θが 求 め られ,λ は既 知 だ か ら,各 グ に対 応 す るdhklが 求 め られ る.ほ
とん どの物 質 のdhklと,そ
度 は測 定 され て い て,そ の 値 は例 え ば,JCPDS(Joint Diffraction Standards)カ
リン
れ に よる回折 強
Committee
of Powder
ー ドの よ う に デ ー タ化 され て い る.こ の デ ー タ と測 定
値 を比 較 す る こ とに よ り物 質 の 判 定 が で き る. ア モ ル フ ァ ス試 料 で は,dhklに
分 布 が あ る た め リ ン グの 線 が ぼ や け て 広 が り,
ハ ロ(halo)・ パ タ ー ン とな る.し か し,原 子 配 列 の 近 距 離 秩 序 性 はあ る の で,ほ ぼ 回折 角 θの 方 向 に 回折 す る た め 物 質 判 定 も ほ ぼ可 能 で あ る.
写 真 乾 板 の 代 わ り にX線
計 数 管(Geiger
counter)を
用 い,試
料 と計 数 管 を 回
転 し な が ら 回 折 線 を 検 出 す る デ ィ フ ラ ク トメ ー タ が 広 く 用 い られ て い る.
(2)
逆格 子
あ る 原 点 か ら 格 子 面 の 方 向 に 面 間 隔 の 逆 数 の 長 さ の 点 を と る.こ 子 面 に つ い て 行 う と,そ と い わ れ る.原
の 点 の 集 合 は 格 子 状 に な り,逆 格 子(reciprocal
lattice)
点 か ら逆 格 子 点 へ の 逆 格 子 ベ ク トル の 向 き と大 き さ で,格
方 向 と 面 間 隔 が 表 さ れ る こ と に な る.回 り,ま
の操 作 を各 格
の 格 子 面 は1点
の 回折 点 と な
た 面 間 隔 が 小 さ く て 面 指 数 が 大 き い 面 ほ ど θ が 大 き く,半
径 の大 きな回
折 リ ン グ 上 に 乗 る.こ
れ か ら,回
折 で は1つ
子面 の
折 パ タ ー ン は逆 格 子 点 の 投 影 像 とみ る こ とが で
き る. 一 般 にX線
を 含 む 電 磁 波,電
子 波,弾
性 波 な ど の 波 動 は,波
動 ベ ク トル を 用 い て 表 現 さ れ る こ と が 多 い.こ 動 の 挙 動 は,結
3.5
長 の逆数で ある波
の た め 結 晶 内 に お け る これ らの波
晶 を 逆 格 子 に 置 き 換 え て 解 析 さ れ る こ とが 多 い.
結 晶 構 造 の 例
NaやKな cubic,略
ど ア ル カ リ 金 属 は ブ ラ べ 格 子 の 体 心 立 方 構 造(body し てbcc)を
心 立 方 構 造(face わ れ る.ま
た,金
取 っ て い る.そ の 他 の 単 元 素 金 属 はAu,Ag centered
cubic,fcc)が
属 で はCo,Mg,Znの
図3.5.1
多 い.面
,Cuの
よ うに 面
心 立 方 は立 方 最 密 構 造 と もい
よ う に 六 方 最 密 構 造(hexagonal
最 密 積 み 重 ね
centered
close
(a) 立 方 最 密 積 み 重 ね(ABCABC…
… …)(b) 図3.5.2
pack,hcp)も
立 方最 密 積 み 重 ね に よ る 面心 立 方 構 造 立方最密構造
多 い.
最 密 構 造(close
pack)と
3.5.1の
子球 あ るい はイ
よ う に,原
オ ン 球 を 密 接 して 並 べ,3つ
は,図
の球 の
間 に で き る凹 み の 上 に次 の段 の 球 を 乗 せ る よ う に し て ほ と ん ど〓 間 が な く積 み 重 な っ た 格 子 構 造 を い う.1 段 目 の 並 び をA面,2段 B面 みC点
とす る.3段
目の並 びを
目 は図 の よ う に凹
に 乗 せ る か,A面
の 凹 みA点
方 法 が あ る.図3.5.2に
と並 べ る と,面 心 み 重 な りの 方
向 で あ る.
一 方,図3.5.3の B,…
りの
示 す ように
立 方 構 造 が で き る.積 向 は[111]方
… …)
の球 の真上
に 乗 せ る か の2通
A,B,C,A,B,C,…
(a) 六 方最 密 積 み 重 ね(ABAB…
よ う にA,B,A,
の 順 に 密 に 積 み 重 ね る と六 方
(b) 六 方 最 密 積 み 重 ね に よ る六 方 最 密 構 造 図3.5.3
六 方最密構造
最 密 構 造 が で き る.積 み 重 な りの 方 向 は c軸 方 向 で あ る.こ れ は ブ ラ べ の 六 方 格 子 の 各 格 子 点 に2原 子 の 結 晶 基 を配 置 し た 構 造 で あ る. 金 属 結 合 力 は 指 向 性 が な い の で,原 子 ・イオ ン球 が 密 接 して並 び や す く,最 密 構 造 を取 る もの が 多 い と考 え られ る. フ ァ ン ・デ ル ・ワー ル ス結 合 力 や イ オ
図3.5.4
ダ イ ア モ ン ド型構 造 と 閃 亜 鉛 鉱 型構 造
ン結 合 力 も指 向性 が な い の で,Ar,Neな どの 希 ガ ス 固 体 やNaClやKClな
どの イオ ン結 晶 は立 方 最 密構 造,す なわ ち面 心
立 方 格 子 に結 晶 す る もの が 多 い. 炭 素 結 晶 の1つ の 形 態 で あ る ダ イ ア モ ン ドやSi,Geは,ダ あ る.図3.5.4は,ダ
イア モ ン ド型 構 造 で
イ ア モ ン ド型 構 造 を示 す.面 心 立 方格 子 の 各 格 子 点 に同 種
2原 子 の 結 晶 基 が 配 置 され て い る.す な わ ち,格 子 定 数 を単 位 と して(0 ,0,0)に あ る 白丸 原 子 と(1/4,1/4,1/4)に 子)と
色 で 示 し た が 白丸 と同 種 原
が結 晶 基 で あ る.こ の構 造 は1つ の 面 心 立 方格 子 と,そ れ を1本 の 体 対 角
線 の 方 向 に1/4だ て4本
あ る灰 色 原 子(灰
けず ら した 面 心 立 方 格 子 と を重 ね た 形 と見 られ,ず
の体 対 角 線 上 の1/4の
位 置 に1個 ず つ 計4個
らしによ っ
の灰 色 で 示 した原 子 が 配 置 さ
れ る.灰 色 の 原 子 は,周 囲 に あ る4個 の 原 子 で 作 る正4面
体 の 中 心 に あ る.単 位
格 子 内 原 子 数 は8個 で あ る.こ れ らの 各 同 種 原 子 は,図 の 太線 で 示 した よ うな 方 向 で指 向性 共 有 結 合 を して い る. 閃 亜 鉛 鉱(zincblende)型
構 造 は,図3.5.4に
れ ぞれ 異 種 原 子 に置 き換 わ った もの で,白 丸,灰 の 共 有 結 合 が存 在 す る.β-ZnSやGaAsが
お い て 白 丸,灰 色 丸 の 原 子 が そ 色丸 の原子 の間には異種原子間
その 例 で あ る.な お,ZnSは1020℃
上 の 高 温 で は,六 方 晶 系 に属 す る ウル ツ鉱 型 構 造 のα-ZnSに
3.6
以
転 移 す る.
結 晶の育成
単 結 晶 は ダ イ ア モ ン ド,ル ビー,水
晶 な ど天 然 宝 石 に代 表 さ れ るが,天 然 宝 石
は結 晶構 造 の ひず み,欠 陥,不 純 物 な どが 多 く,資 源 量 も少 な い.こ
のため にシ
リコ ン単 結 晶 に代 表 され る よ うな 人 工 単 結 晶 の育 成 が行 わ れ る.各 種 類 の材 料 に つ い て,そ れ ぞれ に適 す る育 成 法 が 考 案 さ れ て い るが,結 晶 成 長 は原 子 を1個1 個 積 み重 ね る過 程 で あ るか ら,ど の 方 法 で も温 度,成 長 速 度,雰
囲 気 の種 類 と気
圧 な どの 非 常 に微 妙 な 制 御 が 要 求 され る.
(1) 原 材 料 の精 製 原 材 料 の純 度 は酸 化,還 99.999%程
元,蒸
留,昇 華 な ど,通 常 の 化 学 的手 法 に よ る精 製 で
度 ま で 高 め られ る.半 導 体 素 子 で は10-4%程
度 の ご く微 量 添 加 す
る不 純 物 の効 果 が 明 確 に 現 れ る こ とが 要 求 され る の で,こ れ 以 上 に純 度 を 高 め る こ とが 必 要 とな る.こ の た め に化 学 的 手 法 で 精 製 した材 料 を,偏 析 現 象 を利 用 す る物 理 的 手 法 で さ ら に精 製 す る. 図3.6.1は,A,B2成
分 系 合 金 で よ く見 られ る状 態 図 で あ る が,い まの場 合 は,
Aは 精 製 す べ き材 料,Bは
不 純 物 で あ る.溶 融 状 態 で不 純 物 濃 度NLの
め て ゆ っ く り と温 度 を下 げ,温 度T1で
液 相 か ら極
液 相 線 に達 す る と不 純 物 濃 度Nsの
固相 を
析 出 す る.室 温 まで 冷 却 して 得 られ る 固体 中 の 不 純 物 濃 度 は元 の液 相 で の 濃 度, つ ま り原 材 料 中 の 濃 度 よ り も低 い.こ
れ を偏 析(segregation)現
象 と い い,k=
Ns/NL を偏 析 係 数 とい う. 固 相 線,液 相 線 と も右 下 が りの状 態 図 な ら ばk<1で
あ っ て,原 材 料 の 精 製 が行
わ れ る.多 種 の 不 純 物 に つ い てk<1で あ る. 実 際 に は図3.6.2の 料 の1部
よ うに,棒 状 原 材
を高 周 波 コイ ル で誘 導加 熱 あ る
い は 抵 抗 線 加 熱 で溶 融 帯 と し,溶 融 帯 を 移 動 す る と,溶 融 帯 内 の 不 純 物 濃 度 は移 動 と と もに高 まる が,残
さ れ た 固 相 は純
化 さ れ る.こ の 方 法 を 溶 融 帯 域 精 製 法 (melt-zone
refining method)と
い う.
図3.6.1
A-B2成
分系の状態図
図3.6.2
溶融 帯 域 精 製 法
金 属,半 導体,有 機 物 固 体 の精 製 が 行 わ れ る.純 度99.999%のSiは,こ 法 を6回
く らい繰 り返 す と99.999…9%と11nine程
の精 製
度 ま で精 製 され る.
(2) 単 結 晶 育 成 法 (a) フ ラ ッ ク ス法 融 点 の 高 い材 料 に融 剤(flux,フ
ラ ック ス)と い われ る物 質 を混 ぜ,る つ ぼ の 中
で加 熱 す る と材 料 は融 点 以 下 で溶 融 し,フ
ラ ッ ク ス は蒸 発 し,材 料 は過 飽 和 状 態
とな って あ る程 度 大 きな 結 晶 を析 出 す る.高 融 点 の 酸 化 物,ガ
ー ネ ッ ト系 の 磁 性
体 や 人 工 宝 石 の育 成 に利 用 され る. (b) ベ ル ヌー イ(Bernoulli)法 燃 焼 ガ ス 中 に材 料 粉 末 を少 量 ず つ 送 り込 む と粉 末 が溶 融 され て 滴 下 し,低 温 部 に堆 積 す る とき に単 結 晶 が 成 長 す る.火 炎 溶 融 法 と もい わ れ る.Al2O3やTiO2 な ど高融 点 の 電 気 絶 縁 性 単 結 晶 や,ル
ビー,サ
フ ァイ ア な ど,人 工 宝 石 の育 成 に
利 用 され る. (c) 気 相 成 長 法 加 熱 す る と溶 融 せ ず に昇 華 し て気 体 とな る材 料 で 用 い られ る.温 度 勾 配 の あ る 横 型 電 気 炉 内 に,水 平 に置 か れ た 耐 熱 炉 心 管 の 高 温 部 で 多結 晶 粉 末 を昇 華 させ, 不 活 性 気 体 を 流 して 低 温 側 へ移 動 させ る と,適 当 な温 度 の管 壁 上 に結 晶成 長 が 起 こ る.CdS,CdSe,ZnOな
どの 育 成 が行 わ れ る.
(d) 水 熱 合 成 法 高 温(数100℃)・
高 圧(100MPa程
溶 液 お よ び種 単 結 晶 を入 れ る.炉
度)に 耐 え る容 器 中 に原 材 料 と可 溶 性 水
は温 度 勾 配 が あ り,種 は低 温 部 に設 置 す る.高
温 ・高 圧 加 熱 す る と,低 温 部 で 過 飽 和 とな っ た水 溶 液 か ら種 単 結 晶 上 に結 晶 成 長
が起 こ る.水 晶,コ
ラ ンダ ム,方 解 石 な
どの 単 結 晶 育 成 に利 用 され る. (e) ブ リ ッジ マ ン(Bridgman)法 図3.6.3の
よ う に,電 気 炉 で 石 英 な ど
の 密 閉 容 器 中 の 材 料 を溶 融 し,次 に極 め て ゆ っ く り低 温 部 に移 動 させ る と,容 器 先 端 部 分 に で きた 微 結 晶 を核 と して 単 結 晶 が成 長 す る.縦 型,水 平 型 の 移 動 法 が あ る.古
くか らの 方 法 で あ り,多 種 類 の
結 晶 の 育 成 が行 わ れ て い る.
図3.6.3
ブ リ ッ ジマ ン法
(f) 溶 融 帯(zone leveling)法 図3.6.2と
同様 な装 置 を用 い る.耐 熱 炉 管 内 の ボー トに あ らか じめ 作 った 多 結
晶 棒 を水 平 に置 き,そ の一 端 に種 単 結 晶 を置 く.種 結 晶 側 の 多 結 晶 を 帯 溶 融 す る と種 単 結 晶 を核 と して単 結 晶 が成 長 す る.溶 融 帯 域 を水 平 に 移 動 しな が ら棒 全 体 を単 結 晶 化 す る.SiやGeに
用 い られ る.
(g) フ ロー テ ィ ング ゾ ー ン(floating
zone)法
縦 型 炉 内 に多 結 晶 の 棒 を縦 配 置 と し,そ の下 端 に種 単 結 晶 を取 り付 け る.種 結 晶 の付 近 か ら,高 周 波 コ イ ル誘 導加 熱 に よ る狭 い溶 融 帯 を ゆ っ く り と上 方 に移 動 さ せ,あ
る い は棒 を下 降 させ て棒 全 体 を単 結 晶 化 す る.狭 い 溶 融 部 の表 面 張 力 に
よ り溶 融 液 は流 れ落 ち な い の で,る つ ぼ や ボー トを必 要 と しな い.SiやGaAsの 結 晶 育 成 に用 い られ る. (h) 回 転 引 上 げ法 チ ョク ラル ス キ(Czochralski)法
あ るい はCZ法
と もい わ れ る.図3.6.4の
よ
うに,る つ ぼ 中 で溶 融 した 材 料 に種 とな る単 結 晶 を浸 し,ゆ っ く り と回転 しな が らゆ っ く り と上 方 に引 き上 げ る と,種 結 晶 と同 じ結 晶 軸 を持 つ 単 結 晶 が大 き く成 長 す る.多 種 類 の 単 結 晶 が この 方法 で育 成 され る.SiやGeの の 方 法 で 育 成 さ れ る.
単 結 晶 は,主 に こ
(i)
エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長(epitaxial
growth)法 単 結 晶 基 板 の 上 に 同 じ結 晶 方 位 で 単 結 晶 薄 膜 を 成 長 さ せ る 方 法 で あ る.大 て2つ
別 し
の 方 法 が あ る.
1つ は,単
結 晶 基 板 に液 体 材 料 を接 触
さ せ る 液 相 エ ピ タ キ シ ャ ル(liquid phase
epitaxial,LPE)法
ば,図3.6.5の
で あ る.例
よ う に,Gaを
え
溶 媒,GaAs
を溶 質 と した高 温 液 体 を単 結 晶 基 板 に接 触 さ せ て 温 度 を 下 げ る と,溶
質 のGaAs
が 少 しず つ 析 出 して 単 結 晶 基 板 式 に成 長 が 起 こ る.基
板 よ り も良 質 な結 晶 が 成 長 図3.6.4
図3.6.5
液 相 エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 法(ス
回 転 引 上 げ 法(チ
ョクラル ス キ法)
ラ イ ドボ ー ト 式)
す る こ とが 多 い.図 の よ う に,基 板 結 晶 を ス ラ イ ドして種 々 の不 純 物 を添 加 し た 溶 質 に 接触 させ,接
合 を作 る こ と もで き る.こ の 方 法 はⅢb-Ⅴb族 化 合 物 の よ う
に融 点 まで加 熱 す る と分 解 す る もの,あ
るい は あ る温 度 で 結 晶 構 造 転 移 が起 こ る
よ うな材 料 に も適 用 で き る. もう1つ は,単 結 晶 基 板 に気 体 材 料 を接 触 させ て 成 長 さ せ る気 相 エ ピ タキ シ ャ ル(vapor
phase epitaxial,VPE)法
で あ る.特 に,化 合 物 気 体 の 熱 分 解 や 還 元
図3.6.6
に よ る 堆 積,あ
る い は基 板 材 料 と化 合 物 気 体 の 化 学 反 応 で 成 長 さ せ る と き は
CVD法(chemical
vapor
SiHCl3→Si+SiCl4+H2,あ 基 板SiにSi単
気 相 エ ピ タキ シ ャ ル成 長 法
deposition)と
い わ れ る.例
る い はSiHCl3+H2→Si+HClな
結 晶 が 成 長 す る.不
え ば,図3.6.6の
よ う に,
どの 反 応 で単 結 晶
純 物 を添 加 す る こ と もで き る.
4. 格 子 欠 陥
原 子 が 規 則 配 列 を して い るの が 結 晶 で あ るが,実 在 す る結 晶 中 に は多 少 と も必 ず 格 子 配 列 の乱 れ が 存 在 して い る.こ の 乱 れ を格 子 欠 陥(lattice は結 晶 不 整(crystalline
imperfection)と
defect),あ
るい
い う.格 子 欠 陥 に は個 々 の 格 子 点 原 子
に関 す る点 欠 陥,格 子 線 配 列 に 関 す る線 欠 陥,格 子 面 配 列 に 関 す る面 欠 陥 が あ る. これ らは結 晶 の機 械 的(力
学 的)性 質,電
気 伝 導 性,熱
的 性 質,光
構 造 敏 感 な性 質 に大 き く,あ る い は微 妙 に影 響 す る.ま た,そ
学的性質 な ど
の 影 響 は応 用上 マ
イナ ス に働 く場 合 と,プ ラ ス に働 く場 合 が あ り,言 わ ば 毒 に も薬 に もな る.し た が っ て,格 子 欠 陥 の制 御 が 重 要 に な る. こ こで は 主 に,格 子 欠 陥 の形 態 的 構 造 に つ い て 記 す.欠 陥 の電 子状 態 に つ い て は9章 で述 べ る.
4.1
点欠 陥
格 子 原 子 の 孤 立 的 な 欠 陥 を点 欠陥(point
defect)と
い い,熱 お よ び不 純 物 に よ
っ て 固体 中 に必 ず 存 在 す る.こ の ほ か電 子 線 ・粒 子 線 衝 撃 や 高 エ ネル ギ ー光 子 照 射 に よっ て も生 成 され る.単 純 な1個 の 点 欠 陥,点
欠 陥 と点 欠 陥 の 複 合,点
欠陥
と電 子 の複 合 な どの形 態 が あ る.
(1) 点 欠 陥 最 も単 純 な 孤 立 的 欠 陥 で,次 の よ うな もの が 考 え られ る.図4.1.1は,こ の構 造 を示 す. (a) 格 子 点 原 子 空孔(atomic 格 子 点 原 子 の欠 落 で,シ
vacancy)
ョ ッ トキ ー(Schottky)型
欠 陥 と もい う.
れら
(b)
格 子 間 原 子(interstitial
atom)
格 子 点 の 間 の 位 置 に 割 り込 ん だ 母 体 と 同 種 原 子,あ
る い は 不 純 物 原 子 で,フ
ン ケ ル(Frenkel)型 (c)
レ
欠 陥 と も い う.
格 子 点 置 換 原 子(substitutional
atom) 図4.1.1
点 欠陥
格 子 点 原 子 が不 純 物 原 子 に置 き換 わ っ
た も の で,半 導体 素子 の 電 気 伝 導性 や,ル
ミネ セ ンス 材 料 の発 光 特性 の 制 御 に添
加 され る不 純 物 は この 形 態 が 多 い. 温 度Tに
お い て熱 平 衡 状 態 に あ る空 孔 密度 は,一 般 に次 式 で 与 え られ る.
こ こで,nは
空 孔 密 度,Nは
(4.1.1)
化 エ ネ ル ギ ー で1eV前
格 子 点 密 度,Wは1個
の 空 孔 を作 るの に必 要 な活 性
後 の値 で あ る.空 孔 密度 は,温 度 上 昇 と と もに 急 激 に増 加
す る. 例 え ば,W=1〔eV〕,T=1000〔K〕
の と き はn/N=10-5と
見積 ら れ,か
なり
多 くの空 孔 が生 ず る こ とに な る.高 温 か ら急 に冷 却 す る と,こ れ ら多 数 の 空 孔 が 凍 結 さ れ る.フ レ ンケ ル 型 欠 陥 の場 合 は,格 子 間 に原 子 が 割 り込 む た め にWは
大
き く,ま た周 囲 に ひ ず み を生 ず る. 格 子 間 原 子,あ る い は格 子 点 置 換 不 純 物 原 子 な ど の点 欠 陥 は濃 度 勾 配 が あ る と, 拡 散 に よ っ て結 晶 内 を移 動 す る.拡 散 速 度 は拡 散係 数Dに
関係 し,温 度 に依 存 す
る.拡 散 の 際 に越 え ね ば な ら な い ポ テ ン シ ャ ル 障 壁 を 拡 散 の活 性 化 エ ネ ル ギ ー EDと
い い,拡 散 係 数 は
(4.1.2) の 形 で 表 され る.EDは0.5eV前
後 の値 で あ る.
空 孔 が あ る と き は,隣 接 原 子 と位 置 変 換 が 可 能 な た め に拡 散 しや す い.一 方, 格 子 間 を通 る拡 散 に は大 き な エ ネ ル ギー を要 す る と考 え られ る.
(2) 複 合 型 点 欠 陥 イ オ ン結 合 結 晶 で は,負(正)イ
オ ンが 抜 け出 た 空 孔 の付 近 は正(負)の
電荷
が過 剰 に な る.結 晶 全体 は電 気 的 に 中性 で な け れ ば な らな い の で,逆 符 号 の電 荷 が 存 在 し な け れ ば な らな い.こ の た め,次 い る.図4.1.2(a)は,こ
の よ う な欠 陥 が存 在 す る と考 え られ て
れ らの 構 造 を示 す.
(a) イ オ ン結 晶 に お け る 複合 型 点 欠 陥(b) 図4.1.2
共有 結 合 結 晶 に お け る 複 合型 点 欠 陥
複合 型 点 欠 陥
(a) 格 子 点 イ オ ンの 空 孔 と,そ こか ら抜 け 出 て 表 面 に位 置 した イ オ ンの対 広 い意 味 の シ ョ ッ トキ ー型 欠 陥. (b) 格 子 点 イ オ ンの 空 孔 と,そ こか ら抜 け 出 て 格 子 間 を 占め た イオ ン の対 広 い意 味 の フ レ ン ケル 型 欠 陥. (c) 正 負 イ オ ン空 孔 対 シ ョ ッ トキ ー 型 欠 陥 の対. (d) 負 イ オ ン空孔 と,そ の 付 近 に 束 縛 され た電 子 負 イ オ ンが結 晶 外 に抜 け 出 した場 合 の 負 イ オ ン空 孔,あ
るい は正 イ オ ン数 が 負
イ オ ン数 よ り も多 い 箇 所 に は,電 子 を束 縛 して電 気 的 中性 が成 り立 つ と考 え られ て い る.透 明 な ア ル カ リハ ラ イ ドの イ オ ン結 晶,例
え ば,NaClやKClに
この 欠
陥 が 存 在 す る と,幅 の 狭 い光 吸 収 帯 が 生 じて着 色 す るの で,こ 中心(color
center)と
いわ れ る.ま た,ド イ ツ語 のFarbe―
もい わ れ る.こ の 欠 陥 を さ らに 複 合 した構 造 のM,R,V中
の型 の 点 欠 陥 は色 色― か らF中 心 と
心 な ど も あ る が,こ
こ
で は 省 略 す る. また,共 有 結 合 結 晶 で も さ ま ざ ま な複 合 型 点 欠 陥 が あ る.例
を 図(b)に
示 す.
(e) ダ ング リン グ ボ ン ド 格 子 構 造 の 周 期 性 の 乱 れ に よ っ て原 子 間 の1つ の 共 有 結 合 が 切 断 され る と,結 合 の相 手 を欠 い た不 対 電 子(unpaired きず にぶ らぶ ら して い るの で,ダ
electron)が
残 され る.不 対 電 子 は結 合 で
ン グ リ ング ボ ン ド(dangling
bond)と
もいわ
れ る. (f) 荷 電 欠 陥 対 電 気 抵 抗 が 高 い共 有 結 合 結 晶 や 非 晶 質 で は,イ オ ン結 晶 と同様 に正 負 に荷 電 し た原 子(イ オ ン)の 対,あ
る い は原 子(イ
オ ン)と 空 孔 の対 が 存 在 す る場 合 が あ
る. 点 欠 陥 は原 子 サ イ ズ で あ る の で 直 接 観 察 は で きな い.以 上 述 べ た構 造 は,さ
ま
ざ まな 現 象 を解 析 し,理 論 的 に 推 定 され た もの で あ る. 点 欠 陥 は,物 質 の電 気 的 性 質,特 あ っ て,そ の 種 類,数,密
に半 導 体 の 電 気 伝 導 性 に与 え る影 響 が 顕 著 で
度 を制 御 す る こ とが 極 め て 重 要 に な る.こ の ほか,光
学 的性 質,熱 的 性 質 な ど に も大 きな 影 響 を与 え る.な お,誘 電 性 や 磁 性 へ の 影 響 は比 較 的 小 さ い.
4.2
転
位
線 状 の 欠 陥 を転 位(dislocation)と
い う.結 晶 に機 械 的 な応 力 を加 え る と き,
弾 性 変 形 の 限 度 を越 す と元 に戻 らな い 塑 性 変 形 を起 こす.こ
の 変 形 は 隣 接 す る2
つ の格 子 面 の 間 の す べ りに よ っ て起 こ る.す べ りは 原 子 が 最 も密 に並 ん で い る格 子 面 で起 こ りや す く,す べ り面 とい う.面 心 立 方 格 子 で は(111),体 (110)で あ る.も
心立 方 で は
し も,す べ り面 の 全 原 子 が 結 合 力 を断 ち切 っ て 一 度 に す べ る と
す る と,塑 性 変 形 に は 非 常 に大 きな 応 力 が 必 要 な は ず で あ る が,実 際 に は小 さ な
図4.2.1
応 力 で す べ りが 起 こ る.す (a)
刃状転位
べ り 方 に よ っ て2種
類 の 転 位 が 生 ず る.
刃状転位
図4.2.1は,結
晶 の 上 半 分 に 応 力 を 加 え た と き の す べ り の 途 中 の 様 子 を 示 す.
左 側 の 部 分 は1原
子 間 隔 の す べ りが 生 じ て お り,右
い な い.そ の 境 界 線D-D'が が 線 状 に 並 ん で い る.転 ち 込 ま れ,そ (edge
転 位 で あ っ て,す べ り に 垂 直 な 方 向 の 結 合 が な い 原 子 位 の 上 半 分 は,半
い う.こ
す べ り は 図 中 の ベ ク トルbで
表 さ れ,バ
ー ガ ー ス(Bargers)ベ き さ は1原
ク トル と も い わ
子 間 隔 で あ る.刃
状 転位
垂 直 で あ る.
らせ ん転 位
図4.2.2に
示 す よ う に 結 晶 の 一 部 に 応 力 を 加 え る と,応
ら な い 部 分 と す べ っ た 部 分 の 境 界 線S-S'が 面 か らす べ っ た 面 を 経 て,こ す る と き の よ う に,1原
平 行 で あ る.
力 の 方 向 に平 行 に す べ
で き る.す べ ら な い 部 分 の1つ
の 境 界 線 の 周 囲 を 一 回 り す る と,ら
dislocation)と
い う.ら
の格子
せ ん階 段 を昇 降
子 間 隔 離 れ た す べ っ た 格 子 面 に 達 す る.こ
の 境 界 線 を らせ ん 転 位(screw トルbに
の よ う な転 位 を 刃 状 転 位
の 転 位 の 位 置 を 示 す の に ⊥ の 記 号 が 使 用 さ れ る.
ク トル の 向 き は す べ り の 向 き で,大
は す べ りベ ク トルbに (b)
平 面 の 原 子 面 が ナ イ フの 刃 の よ う に打
の 刃 先 が 転 位 と な る 形 で あ る の で,こ
dislocation)と
れ る.ベ
側 部 分 で は す べ りが 起 こ っ て
の た め に,こ
せ ん 転 位 は,す
べ りベ ク
図4.2.2
らせ ん転 位
これ らの転 位 は1原 子 間 隔 の 原 子 の変 位 で 作 られ るの で,小
さな 応 力 で容 易 に
発 生 す る.ま た,図4.2.3に
示 す よ う に,
転 位 の 周 囲 の 原 子 の1原 子 間 隔 以 下 の変 位 で,転 位 は移 動 し得 るの で 小 さ な応 力 で 容 易 に運 動 す る.し た が って,結 晶 は 図4.2.3
転 位 を介 す る こ と に よ っ て小 さな 応 力 で す べ りを起 こ して 可 塑 的 に な る.な お,不 純 物,そ
転 位 の 移 動
の 他 の格 子 欠 陥 は転 位 の 運 動
を 阻害 す る. 転 位 に よ っ て す べ りが 生 じや す い こ と につ い て,次 の よ うな 例 え が あ る.床 に 置 か れ た 重 い カ ー ペ ッ トの 位 置 を変 え るの に,引
きず るや り方 は大 きな力 を必 要
とす る.こ れ に対 し,カ ー ペ ッ トの端 に 作 った た る み を移 動 させ るの は容 易 で あ り,こ れ を繰 り返 して カー ペ ッ ト全 体 を 容 易 に動 か す(す べ らせ る)こ
とが で き
る.た る み が 転 位 に相 当 す る. 以 上 の よ う に,転 位 は応 力 に よ っ て発 生 しや す く,ま た 移 動 しや す い性 質 が あ る.応 力 と して は機 械 的 応 力 の ほか,結
晶 内 に不 均 一 な 温 度 分 布 が あ る と熱 膨 張
の 差 か ら熱 的応 力 が 生 ず る.熱 的 応 力 も転 位 を移 動 さ せ る こ とが で き る.こ の た め 転 位 が存 在 す る結 晶 を加 熱 す る と,転 位 は移 動 し て結 晶 か ら外 れ,転 位 数 が減 少 す る こ とが あ る.
転 位 の存 在 は原 子 の 欠 陥 で あ る に もか か わ らず,直 接 観 測 す る こ とが で き る. これ は転 位 の周 囲 に は,格 子 ひず み が 数μmの 範 囲 まで存 在 し,そ れ が 線 状 に連 な っ て い る こ とに よ る.薬 品 で 結 晶 表 面 を化 学 腐 食 す る と,転 位 周 辺 の ひ ず み領 域 は腐 食 され や す く,エ ッチ ピ ッ ト(腐 食 孔,etch
pit)が 掘 られ る.金 属 顕 微 鏡 で
ピ ッ ト数 を観 測 す る と,表 面 まで 到 達 して い る転 位 の 密 度 が わ か る.ま た,ひ み 領域 にお け るX線 顕 微 鏡 写 真 やX線
ず
や 電 子 線 の 回 折 方 向 は,正 常 格 子 領 域 と は異 な るの で,電 子
回折 写 真 か ら内部 の転 位 の位 置 や形 まで 観 測 す る こ とがで きる.
転 位 の 密度 は単 位 面 積 を貫 く転 位 本 数 で表 し,か な り良 質 な 結 晶 で102本/cm2, 多 い結 晶 で1012本/cm2と
広 範 囲 に わ た る.合 金 結 晶 は 一般 に転 位 が 多 い.
転 位 は結 晶 の 性 質 に,以 下 の よ うな 影 響 を与 え る. ① 力学 的 ・機 械 的 性 質
純 粋 で 完 全 な結 晶 は弾性 が 高 く,ま た 可 塑 性 も高 い.
転 位 が 非 常 に多 い とひ ず み が 多 く,転 位 の 移 動 が 阻 害 され て 可 塑 性 は 失 わ れ,逆 に硬 さ を増 して脆 くな る.こ の た め繰 り返 し応 力 を加 え る と,ぜ い(脆)性
疲労
に よ り亀 裂 や破 断 が 生 ず る.鉄 線 を繰 り返 し折 り曲 げ て応 力 を加 え る と,転 位 が 多 数 生 成 さ れ て切 断 され る の は 身 近 か な例 で あ る.刃 物 の焼 入 れ は,高 温 で 機 械 的 衝 撃 を与 え て 多数 の 転 位 を 生 成 し,そ れ を 急 冷 して 凍 結 す る こ とで硬 さ を付 与 す る こ とで あ る.焼
き鈍 しは 逆 に高 温 に保 持 す る こ とで,残 留 転 位 を結 晶 外 に追
い 出 して 弾 性 を付 与 す る こ とで あ る. ② 結 晶成 長
らせ ん 転 位 の端 が 結 晶 表 面 に 出 て い る と,図4.2.2の
よ う に表
面 に は 階段 状 の 原 子 サ イ ズの 角 が あ る.外 部 か らの原 子 は この 箇 所 に結 合 しや す い.こ の た め,図4.2.4の
よ う に,ら せ ん 転 位 を 中心 と して 回 る よ う に原 子 層 が
図4.2.4
らせ ん 転 位 に よ る結 晶成 長
成 長 す る.成 長 速 度 は完 全 結 晶 面 よ り も大 き くな る.こ の た め針 状 結 晶 や,ひ 結 晶(whisker
crystal)と
い わ れ る た だ1本
げ
の らせ ん転 位 を 含 む 結 晶 の 成 長 速
度 は 大 き い. ③ 電 気 伝 導 性
特 に,半 導 体 結 晶 の 電 気 的 性 質 に与 え る影 響 が 大 きい.共 有
結 合 結 晶 で は,転 位 線 の原 子 は 共 有 結 合 の 相 手 の電 子 を欠 く不 対 電 子 と な る の で, 対 を作 る よ う に電 子 を補 獲 す る傾 向 を生 ず る.こ の た め転 位 密度 の 低 い結 晶 が 要 求 され る.シ
リコ ン で は無 転 位(dislocation
free)単 結 晶 の製 造 も可 能 に な っ て
い る.
4.3
面 欠 陥
面 欠 陥 に は 積 層 欠 陥,結
晶 界 面,結
電 子 顕 微 鏡,電
回 折 な ど で 直 接 観 測 す る こ とが で き る.
(1)
子 線 ・X線
晶 表 面 な ど が あ る.こ
積層 欠陥
3.5節
に お い て 述 べ た よ う に,原 子 球 をA,B,C,A,B,C,…
と 立 方 最 密 構 造 が 形 成 さ れ,A,B,A,B,… れ る.こ
と層状 に積 み重 ね る
と 積 み 重 ね る と六 方 最 密 構 造 が 形 成 さ
の 積 み 重 ね の 順 序 に 異 変 が 起 こ り,A,B,C,A,B,A,B,C,…
み 重 ね られ る と,立
方 晶 中 の1つ
A,B,…
のC面
な ら ば1つ
fault)と 転 移 す る.こ
(2)
れ ら は 金 属 顕 微 鏡,
が 挿 入 さ れ る.こ
方 晶 でA,B,A,B,C,A,B,
の よ う な 面 欠 陥 を 積 層 欠 陥(stacking
低 温 で は 立 方 晶 系 で あ り,高
の よ う な2つ
の 構 造 が あ る 結 晶 で は 積 層 欠 陥 が 生 じ や す い.
温 で は六 方 晶 系 の構 造 に
boundary)
結 晶 粒 と 結 晶 粒 の 界 面 で は,結
影 響 す る.
が 欠 け る.六
い う.ZnSは
結 晶 粒 界(crystal
こ の た め,原
のC面
の よ うに積
晶 軸 の 方 向 や 面 間 隔 が 一 致 し な い こ とが 多 い.
子 結 合 の 不 完 全 さ を 生 じ や す い .こ
の 界 面 欠 陥 も半 導 体 の 伝 導 性 に
(3) 表
面
結 晶 表 面 は原 子 配 列 が 断 絶 して い るの で,一 種 の 面 欠 陥 で あ る.表 面 の 原 子 配 列 構 造 は 内 部 の 結 晶構 造 に依 存 して はい るが,表 面 か ら2,3原 子 層 まで の 原 子 位 置 は若 干 移 動 す るた め に,表 面 特 有 の 周 期 性 と対 称 性 が 付 加 され た もの とな って い る.ま た,吸 着 原 子,分 子 や酸 化 層 の 存 在 の た め に,表 面 は 内 部 とは 異 な る構 造 が生 じや す い.表 面 で は 内部 とは 異 な る電 子 準 位 が 存 在 し,伝 導 電 子 の再 結 合 中心 や補 獲 中 心 と して働 く もの と考 え られ る.特 に共 有 結 合 半 導 体 で は,原 子 配 列 の 断絶 は 不 対 電 子 を作 る か ら電 子補 獲 中 心 とな る.
5. 波
固 体 内 に は電 子 波,弾 性 波(音
波)な
動
どの 波 動 が 存 在 し,ま た 光 な どの 電 磁 波
や 弾性 波 が 外 部 か ら導 入 され る こ と もあ る.こ こで は,そ れ ら波 動 の 挙 動 を取 り 扱 う場 合 に必 要 とな る事 柄 を ま とめ て お く.
5.1
振
動
あ る物 理 量 が,あ
る 一 定 の 値(平
衡 点)を
中 心 と し て時 間 と と も に周 期 的 に変
化 を繰 り返 す こ とを振 動 とい う.変 化 す る物 理 量 と して は,質 点 の 変 位,電
界,
磁 界 の 大 き さ な どが あ る.振 動 す る系(振 動 体)を 振 動 子 とい い,変 化 量 を振 幅 と い う.最
も単 純 か つ 重 要 な 振 動 子 は,単 振 動 子 ま た は調 和 振 動 子(harmonic
oscillator)と い わ れ る もの で,変 化 量 に比 例 す る復 元 力 を受 け る振 動 系 で あ る. 調和 振 動 子 の 振 幅 の時 間 変 化 は,振 幅 をu,比
例 係 数 を ω2とす る と,次 の 運 動
方程 式
(5.1.1) で 表 され る.こ れ を解 く と振 幅 の 時 間 的 変 化u(t)は,次
の よ う に正 弦 波 あ るい は
余 弦 波 で 表 され,振 幅 が 波状 に変 化 す る こ とが 分 か る. (5.1.2) こ こ でAは し振 動 数(周 t =0の
最 大 振 幅,ω 波 数)をvと
は 角 振 動 数 ま た は 角 周 波 数 と い わ れ,1秒 す る と,ω=2πvの
と き の 初 期 位 相 で あ る .tとt+2π/ω
2π/ω で あ る か ら,
関 係 が あ る.(ωtδ)は
間 の 繰 り返 位 相,δ
に お け る 振 幅 は 等 し く,周 期 はT=
は
(5.1.3) の 関 係 が あ る. エ ネ ル ギ ー の時 間 平 均 が一 定 に保 たれ る状 態 を定 常 状 態 とい うが,調 和 振 動 子 の エ ネル ギ ー も一 定 で あ る か ら,式(5.1.2)は
5.2
波
定 常 状 態 を表 す 関 数 で あ る.
動
空 間 的 に移 動 しな が ら振 幅 が時 間 的 に 変 化 す る振 動 は,移 動 す る波 す な わ ち波 動 と して 扱 わ れ る.電 磁 波 や 音 波 な どが あ る.電 子 波 も波 動 と して 扱 わ れ る. 以 下 で は,移 動 して もエ ネ ル ギ ー が 変 化 しな い定 常 状 態 の波 動,す 振 幅 が 一 定 の 周 期 性 波 動 を考 え る.こ 問 題 に な る場 合 以 外 はsinを 単 にcosに x軸
こで は主 に正 弦 波 表 式 を用 い るが,位 相 が 置 き換 え て も差 支 えな い.
の 方 向 に移 動 す る1次 元 波 動 を考 え,図5.2.1の
縦 軸 に振 幅uを
とる.時 刻t=0に
次 式 の よ う に,x軸
なわ ち最 大
お い て,x点
よ うに横 軸 に 距 離xを,
に お け る正 弦 波(1)の
振 幅 は,
を含 む1つ の 平 面 内 で 振 動 す る平 面 波 で 表 され る.
図5.2.1
前進 波 と後 退 波
(5.2.1) (5.2.2)
kは
長 さ2π の 中 の 波 長 λ の 数 と い う形 で あ る の で,波
い わ れ る.こ の 正 弦 波 が 速 度υ で+xの
数(wave
向 き に 前 進 す る と,t=tで
number)と は 図 の(2)の
形 と な る.位 相 の 等 し い 点 の 振 幅 は速 度υ で 移 動 す る の で,υ は 位 相 速 度(phase velocity)と
い わ れ る.(2)のxt点
の 振 幅 に 等 し い.し
た が っ て,空
よ う な 波 動 関 数(wave
function)で
に お け る振 幅 は(xt-υt)の
位 置 に お け る(1)
間 的 に 前 進 し な が ら移 動 す る 波 の 状 態 は,次
の
表 さ れ る.
(5.2.3) この式 は前 進 波 を表 す が,同 様 に して(3)の
よ う な後 退 波 で は,x't点 に お け る振
幅 は,(x't+υt)の 位 置 に お け る(1)の 振 幅 に 等 しい.そ の 波 動 関 数 は,次 式 で 表 さ れ る.
(5.2.4) 以 下 で は,前 進 波,後
退 波 を 波 動 関 数 中 の ± また は〓 の符 号 で 区別 した 形 で
表 す.符 号 の 上 は前 進 波,下
は後 退 波 を示 す.
見 方 を変 え て,横 軸 を時 間tに 取 る と,xt点
に お け る時 刻tはxt/υ
で あ るか
ら,tに お け る振 幅 は 前 進 波 の 場 合 は(t-xt/υ),後 退 波 の 場 合 は(t+xt/υ)の に お け る振 幅 に等 しい.し
時刻
た が って,波 動 は次 の よ う に も表 され る. (5.2.5)
tに
お け る 波 形 とt+λ/υ
で あ る.し
た が っ て,位
に お け る 波 形 は 一 致 す る か ら,周
期 はT=2π/ω=λ/υ
相速度 は
(5.2.6) で あ る.こ
れ を 用 い る と式(5.2.3),式(5.2.4)は
(5.2.7) と 表 さ れ,ま
た,式(5.2.5)は
(5.2.7)' と な る.以 て も 良 い.
上 の2つ
の 表 式 は 位 相 が π だ け 異 な っ て い る が,こ
れ も ど ち ら を用 い
また,波 わ ち,オ
あ るい は波 動 を虚 数 の 指 数 関 数 形 式 で 表 す こ とが よ く行 わ れ る.す な
イラーの公式
に よ り,波 動 関数 を
(5.2.8) あ るい は (5.2.8)' と表 す.ど
ち らの表 式 を用 い て も良 い.こ の2つ の 指 数 関 数 は複 素 共 役 で あ り,
そ の 実 部 はcos形
式 の 波 動 関 数 と一 致 す る.こ の 形 式 を用 い る と,微 分 ・積 分 し
て も形 が 変 わ らな い の で 計 算 に便 利 で あ る.た だ し,振 幅uは るか ら,計 算 の結 果uが
現 実 に は実 数 で あ
複 素 数 とな る と き は実 部 を取 らな けれ ば な ら な い.
3次 元 空 間 に お け る波 動 は,
(5.2.9) の よ う に 表 さ れ る.式(5.2.8)のkxは で あ る.そ
こ で 波 数kは
ベ ク トル の ス カ ラ ー 積k・rのx成
ベ ク トル の 意 味 を 有 す る の で 波 数 ベ ク トル と も い わ れ
る.ベ
ク トル の 向 き は 波 動 が 進 行 す る 向 き で あ り,大
は3成
分 に 分 解 で き な い が,波
3成 分 をkx,ky,kzと
分 の形
き さ は2π/λ で あ る.波
数 ベ ク トル は 分 解 で き る.そ
こ で,ベ
長 λ
ク トルkの
す ると
(5.2.10) で あ る.波 数kの
この よ う な性 質 か ら,定 常 状 態 の 波 動 を時 間 因 子 を省 い て単 に (5.2.11)
と表 す こ と も行 わ れ る.こ れ はu=Acos(kx〓
5.3
ωt)に 対 応 す る.
定 在波
(1) 1次 元 定 在 波 振 幅,波 長,速 度 が等 しい 前 進 波u1と と き,こ の2つ
の 波動 の 合 成 波 動uが
後 退 波u2が
生 ず る.
位相 差 δで 同 時 に存 在 す る
(5.3.1) (5.3.2) (5.3.3) こ の 合 成 波 動 は,x点 +δ/2)の
に お け る振 幅2Asin(kx+δ/2)の
形 で 変 化 す る が,x方
wave)ま
た は 停 立 波(ま
大 き さ が 時 間 的 にcos(ωt
向 の 移 動 は な い 波 で あ る の で 定 在 波(standing
た は 定 立 波)と
い わ れ る.こ の 状 態 は1つ
の定常状態 で
あ る. 定 在 波 で は 振 幅u=0,す 式(5.3.3)に
な わ ち 節 の 位 置 は 時 間 に か か わ ら ず 不 動 で あ る か ら,
おい て
(5.3.4) で な け れ ば な ら な い. δ=0な
ら ばkx=nπ,n=0,±1,±2,±3,…,の
き の 定 在 波 は 式(5.3.3)か
と き 常 にu=0と
な る.こ
の と
ら,
(5.3.5) と表 さ れ る. δ=π な ら ば,kx=(n+1/2)π
の と き 常 にu=0と
な る.こ
の と きの定 在 波 は
(5.3.6) と 表 さ れ る. δ=0ま
た は π 以 外 の と き は,合
成 波 の 位 相 はtと
と も に ず れ て い くの で 定 在
波 は 形 成 さ れ な い. な お,定
在 波 はu±=A(eikx±e-ikx)と
次 に,x=0お
よ びx=Lの
も表 さ れ る.
間 の 限 定 さ れ た 空 間 内 で,前
さ れ る 定 在 波 を 考 え る.定 在 波 が 立 つ と き は,x=0とx=Lに 等 し い.し
た が っ て,式(5.3.5),式(5.3.6)か
ら
進 波 と後 退 波 か ら形 成 お け る振 幅 は常 に
(5.3.7) す なわ ち,間 隔(長
さ)Lは
半 波 長 の整 数 倍 で あ る こ とが 必 要 で あ る.こ れ を 閉
じ込 め られ た 波 動 の 定 在 波 境 界 条 件 とい う.逆 に,Lの ま る こ とに な る.式(5.3.5)の 式(5.3.6)の 定 在 波u_で 最 大 振 幅 は│2A│で
定 在 波u+で
はx=λ/4,3λ/4で
値 か ら定 在 波 の 波 長 が 決
はx=0,λ/2,Lで 常 にu=0で
常 にu=0で あ り,x=0,Lに
あ る. おけ る
あ る.
1次 元 定 在 波 の 重 要 な例 と して,前 進 波 が あ る1つ の 平 面 で 垂 直 に完 全 反 射 さ れ,そ
の反 射 波 と前 進 波 とが 合 成 さ れ て立 つ 定 在 波,あ
るい は2枚 の 平 行 平 面 の
間 で 垂 直 入 射 と反 射 を繰 り返 す と きに立 つ 定 在 波 が あ る.前 進 波 は 入 射 波,後 退 波 は反 射 波 で あ る.図5.3.1に
示 す よ う に,反 射 波 は位 相 が π だ け 変 化 して逆 向
き に進 行 す る波 で あ る.入 射 波 をu1=Asin(kx-ωt)と - A,k→-kと
置 い てu2=-Asin(-kx
-ωt)=Asin(kx+ωt)で っ て,合
(2)
す る と,反 射 波 はA→
あ る.し
成 波 と し て 定 在 波u+が
た が
立 っ.
3次 元 定 在 波
1次 元 有 限 空 間 内 に 閉 じ 込 め ら れ て い る 波 動 の 定 在 波 は,前 =nπ/L,ま
記 の よ う に 波 数k
た は λ=2L/nを
れ ば な ら な い.こ nに よ っ て,1つ
れ は1つ
の 定 在 波 を1つ
い う.こ れ を3次
有 限 空 間 に 拡 張 す る.空 LxLyLz=L3=Vと
の ん あ るい は
の 定 在 波 が 決 め られ る
と い う こ と で あ る.1つ の 状 態(state)と
満 足 しな け
元 の
間 の大 き さ を
す る.式(5.2.10)を
用 いて 図5.3.1
反射 に よ る定 在 波
(5.3.8) で あ る.こ
こ で,nx,ny,nzが0を
含 む こ と に 注 意 す る.
し た が っ て3次
元 の 場 合 は,図5.3.2に
る 全 空 間 の1/8の
第1象
組(nx,ny,nz)に
限 内 で(nx,…
よ っ て1つ
示 す よ う に,nx,ny,nzを は0を
含 む 正 整 数 だ か ら),整
の 定 在 波 が 指 定 さ れ る こ と に な る.Lが
分 布 が 連 続 と 近 似 で き る と す る と,n=(n2x+n2y+n2z)1/2を の 表 面 積 は,nつ が1か
らnま
ま りkの
直 交 軸 とす
等 し い 定 在 波 の 数 を 表 し,ま
で の 定 在 波 の 全 数Z(n),す
数 の1つ 大 き く,kの
半 径 と す る 球 面 の1/8 た,球
の 容 積 の1/8はn
な わ ち 全 状 態 数 を 表 す.す
な わ ち,
(5.3.9) とな る.こ れ をkで 表 す と,kで
図5.3.2
表 した 波 の 全 状 態 数 は,
3次 元 定 在 波 の 数 の 数 え 方
の
(5.3.10) と な る.ま
た,kとk+dkの
間 に あ る 状 態 数 は,
(5.3.11) で 与 え ら れ る.z(k)を,波 こ の 結 果 は,固
数kに
関 す る 状 態 密 度(density
of states)と
い う.
体 内 の 電 子 波 や 格 子 振 動 波 の 解 析 に よ く用 い ら れ る の で 重 要 で あ
る.
5.4
巡 回波
円 周 長Lの
輪 状 軌 道 上 を一 定 波 長,一 定 速 度 で 一 定 の 向 き に前 進 また は後 退 し
な が ら巡 回 す る波 動 が あ る と き,そ の輪 を 図5.4.1の
よ う に,あ る箇 所xで
切断
して 直 線 に延 ばす と,そ の両 端 にお け る振 幅 と位 相 が 常 に等 し く
(5.4.1)
図5.4.1
巡 回波 と周 期 的 境 界条 件
とな る よ うな 波 が 存 在 し得 る.こ れ を波 動 の周 期 的 境 界 条 件 とい う.長 さLの
中
の 波 の数 は 常 に一 定 で あ るか ら,こ の よ うな 波 動 も1つ の定 常 状 態 で あ る.こ の 条 件 を満 た す1次 元 前 進 波 あ る い は後 退 波 は,す べ て のxとtに が 成 立 す る.
つ い て次 の 関 係
(5.4.2) ゆ え に,
(5.4.3)
で な けれ ば な らな い.つ ま り長 さLは
定在 波 の 場 合 と異 な り,波 長 の整 数 倍 で な
けれ ば な らな い. 定在 波 の場 合 と同様 に,3次
元 空 間 に お け る定 常 的 な波 の 状 態 数 を 求 め る こ と
が で き るが,こ の場 合 は,前 進 波 と後 退 波 を区 別 す る の でnの
成 分 はnx,ny,nz
=0 ,±1,±2,… で あ る.し た が っ て,nを 半 径 とす る全 球 内 の状 態 数 を数 え な け れ ば な ら な い.
(5.4.4) で あ る か ら,式(5.4.3)を
入 れ る と,
(5.4.5) と な る.こ れ は定在 波 の 全 状 態 数 の 式(5.3.10)と 同 じ で あ る.状 (5.3.11)で 与 え られ る.式(5.4.3)に が,正 負 のkを
お け るkの
態 密 度 も式
間 隔 は 式(5.3.7)の2倍
数 え る か ら等 し くな るの で あ る.結 局,定在
である
波 境 界 条 件 と巡 回 波
の 周 期 的境 界 条 件 は,状 態 数 と状 態 密度 につ い て同 じ結 果 を与 え る. 固 体 は周 期 的 境 界 条 件 を 満 た す 大 き さLが
多 数 連 な って い る とみ な す こ とが
で き る の で,固 体 内 電 子 波 や 格 子 振 動 波 の 定 常状 態 は定在 波 条 件 と同 様 に,こ の 周 期 的 条 件 で も解析 され る.
5.5
波
束
振 幅 が 等 し く,波 長 と速 度 が わ ず か に異 な る2つ の 波 動u1とu2が す る とき の合 成 波動uを
考 え る.
同 時 に存在
(5.5.1) こ こ で,k,ω
の 差 が 極 め て 小 さ く,Δk→dk,Δ
ω →dkの
と き は,k+Δk≒k,ω
+Δ ω≒ ω で あ る か ら,
(5.5.2) こ れ は 図5.5.1の
よ う に,2Asin(kx-ωt)がcos(dx・x-dω
絡 線 で 示 さ れ る波 動 で,そ
・t)で 変 調 さ れ た 包
の包 絡 線 の 重 心 の進 行 速 度 は
(5.5.3) で あ る.υgを packet)あ
群 速 度(group
velocity)と
る い は 波 群 と い う.波
い う.ま
た,包
絡 線 は 波 束(wave
束 は 波 の 塊 と も い え る.
図5.5.1
波 束 と群 速 度
これ まで は2つ の 波 だ け を考 えた が,実
際 に は波 長 や速 度 が わ ず か に異 な る多
数 の 波 が存 在 して収 束 性 の高 い 波束 を作 る こ とが 多 い. 位 相 速 度 が 波長,波
数 に依 存 しな い場 合 は 波 の 進 行 速 度 は位 相 速 度 で あ る が,
波 長,波 数 に依 存 す る場 合 は群 速 度 で 進 行 す る.例 え ば,固 体 中 の 光速 は一 般 に 波 長 に依 存 し,か つ,真 空 中 の光 速 よ り遅 い.そ れ は屈 折 率 が 波 長 依 存 性 を有 し, 固体 中 の 光 は群 速 度 で 進 行 す る か らで あ る.固 体 内 伝 導 電 子 の輸 送 速 度 も群 速 度 で あ り,固 体 内弾 性 波 の 進 行 速 度 す な わ ち音 速 も群 速 度 で あ る.
5.6
波 動方程式
波 動 関 数u(x,t)=Aexp{ik(x-υt)}をx-υt=ω 微 分 す る と,
と置 い て,xあ
る い はtで
(5.6.1)
と な る.こ れ か ら次 の 方 程 式 が 得 られ る.
(5.6.2) この 形 の2階 偏 微 分 方 程 式 を波 動 方 程 式 とい い,一 般 に一 定 の 波 形,一 で 移 動 す る波 動 関 数 は,す べ て この 式 を満 足 す る.5.2節
定の速度
で記 した す べ て の 形 式 の
古典 的 波 動 関 数 も,こ の 波動 方 程 式 を満 足 す る解 の 形 で あ る.
5.7 シュ
レ ー デ ィンガ
ーの波動方 程式
シュ レー デ ィンガ ー(E.Schrodinger)は,ド
ゥ ・ブ ロー イ の 電 子 波 の考 え を発
展 させ て,粒 子 性 と波 動 性 を併 せ持 つ 粒 子(以 下,電 態 を表 す 量 子 力 学 の 波 動 方 程 式 を1926年 式(5.2.8)で 表 され る 波動 関 数uと
子 で 代 表 させ る)の 運 動 状
に 導 い た.
区別 す るた め,量 子 力 学 波 動 関 数 を Ψ と記
す.
(5.7.1) これ をxに
つ い て 微 分 す る と,
(5.7.2) と な る. とこ ろ で,2章 で 述 べ た よ うに 量子 力 学 にお い て は,電 子 の 波 動 性 を表 す 基 本 的 関 係 式 は,次 の2つ
で あ る.す なわ ち,運 動 量 は
(5.7.3) エ ネ ル ギ ー は,
(5.7.4) で 表 さ れ る.Eは
粒 子 と し て は,運
動 エ ネ ル ギ ーp2/2mと
ポ テンシ
ャルエ ネル
ギ ーV(x,t)との
和の 全 エ ネ ル ギ ー で,E=p2/2m+V(x,t)で
あ る.こ
れ か ら
(5.7.5) と な る.E-V(x,t)は
運 動 エ ネ ル ギ ー で あ る.こ
れ を 式(5.7.2)に
入 れ る と,
(5.7.6) と な る. 一 方
,Ψの
時 間 微 分 にihを
掛 け る と,
(5.7.7) と な り,こ
れ を 式(5.7.6)に
入 れ てEを
消 去 す る と,
(5.7.8) が 得 られ る.この
方 程 式 はシュ レー デ ィンガ ーの 波 動 方 程 式,あ
る い は時 間 を含
むシュ レー デ ィンガ ーの 波 動 方 程 式 とい わ れ,量 子 力 学 に お い て,ニュ 方 程 式の 代 わ りに 波 動 性 を も有 す る粒 子(電 子)の
ー トンの
運 動 を表 す 基 本 方 程 式 で あ
る. 次 に,波 動 関 数 式(5.7.1)がxを
含 む部 分 と,tを 含 む部 分 に変 数 分 離 され る よ
うな場 合 を考 え, (5.7.9) と 置 く.こ
れ をxに
つ い て 微 分 す る と,e-iωtは
消 えて
(5.7.10) が 得 ら れ る.ポ V(x,t)をV(x)で
テンシ
ャ ル エ ネ ル ギ ーV(x,t)が
置 き換 え て 式(5.7.5)を
時 間 に 無 関 係 で あ る と き は,
式(5.7.10)に
代 入 す る と,
(5.7.11) が 得 られ る.こ れ は時 間 を 含 ま な いシュ レー デ ィンガ ーの 波 動 方 程 式 とい わ れ る. これ を解 い て 得 られ る ψ(x)は 時 間 に 無 関 係 で,波 動 関 数Ψ(x,t)の
振 幅の 空 間
分 布 形 を与 え る 関数 で あ る.波 動 関 数 Ψ(x,t)は 式(5.7.9)に よ り,ψ(x)にe-iωt
あ る い はe-iEt/hを 付 けた 形 の式 で与 え られ る. 一 般 に,束 縛 さ れ た 電 子 は定 常 的 な状 態 に あ る の で,そ ネ ル ギ ーEを
の状 態 の 空 間 分 布 や エ
求 め るた め に,こ の 方 程 式 を用 い る こ とが 多 い.Eは
ψ(x)の 固 有 値 と して求 め られ る.こ の 場 合,単
各kに
対する
に ψ(x)を 波 動 関 数 と呼 ぶ こ と も
あ る. Aeikxは
この 波 動 方 程 式 の特 解 で あ るが,Ae-ikxも
の1次 結 合 で ψ(x)=A(eikx±e-ikx),す また,こ
特 解 で あ る.一 般 解 は,そ
な わ ち定 在 波 で あ る.
の 方 程 式 を解 くに は,電 子 が 置 か れ て い る環 境 を表 す もの とし て,電
子 に作 用 す る力 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ーV(x)の ば,2章
形 を与 え る必 要 が あ る.例
え
で述 べ た よ うに,水 素 原 子 の 原 子 核 に束 縛 され た電 子 の 定 常 電 子 状 態 と,
そ の エ ネ ル ギ ー は ク ー ロ ン ポテ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー を用 い て解 か れ る.ま た完 全 に 自 由 な電 子 に対 して はV(x)=0と
置 い て 解 く と,
(5.7.12) と な り,古 典 的 運 動 方程 式 を用 い た 場 合 と同 じ結 果 が 得 られ る.固 体 内 を運 動 す る伝 導 電 子 につ い て は,厳 密 なV(x)を
与 え る こ とは 困 難 な の で,原 子 の 周 期 的 配
列 を考 慮 した 周 期 性 ポ テ ン シ ャル とか,一 定 値 のVと
か を用 い て近 似 定 常 解 を求
め る こ とが 多 い. 次 に,量 子 力 学 波 動 関 数 の意 味 を述 べ る.ま ず,5.2節 ,t)は,振
で 述 べ た一 般 の 波 動 関 数u(x
動 子 の振 動 状 態 を 表 し て お り,振 動 子 の 位 置xと
に 正 確 に決 め られ る こ とを 前 提 と し て い る.一 方,量 体 の 位 置xと,運
動 量pを
時 刻(t)は 同 時
子 力 学 で は運 動 して い る物
同 時 に確 定 す る こ と(ミ ク ロ的 な意 味 で)は で き な い
と考 え る.こ れ は電 子 の よ うな微 粒 子 が 高 速 で 運 動 して い る ミク ロ な 系 で 重 要 と な る.そ の 不確 定 さ をΔx,Δpで
表 す と,次 の 関 係 が あ る.
(5.7.13) hは プ ラ ン ク の 定 数 で あ る.し た が っ て,xを Δx
=0に
ま た,x方
し よ う と す る と ,pの
不 正 確さΔpは
正 確 に 決 め よ う と す る と,す な わ ち ∞ に な っ て し ま う.
向 に 運 動 す る 粒 子 の エ ネ ル ギ ー は,E=p2/2mで
あるか ら
で あ り,両 辺 にΔtを 掛 け る と
(5.7.14) と な り,運 動 エ ネ ル ギ ー と時 間 も同時 に確 定 す る こ とは で き な い こ とに な る.こ れ らの 関 係 を不 確 定 性 原 理 とい い,ハ イ ゼ ンベ ル ク(W.Heisenberg)が1927年 に提 唱 した もの で,自 然 界 の 原 理 の1つ
と考 え られ て い る.こ の 原 理 に よ れ ば,
粒 子 の 位 置 は確 率 的 に しか確 か め られ な い の で 大 き さ も決 め られ な い. 古 典 的 波 動 関 数u(x,t)は
振 幅 の よ うな 測 定 可 能 な量 で あ り,そ の 自乗 はエ ネ
ル ギ ー に比 例 す る.u(x,t)と
して複 素 関 数 形 の 式(5.2.8)も 用 い られ るが,こ れ
は計 算 の便 宜 の た め で,uは
あ くま で実 関 数 で あ るの で,実 部 の み が 振 幅 の よ う
な現 実 的意 味 を持 つ.こ れ に対 し,量 子 力 学 に お いて は,波 動 関 数 Ψ(x,t)は 測 定 可 能 な量 で はな く,そ の 自乗 の み が 実 際 的 な意 味 を持 つ. す な わ ち,波 動 関 数 Ψ(x,t)と その 複 素 共 役 関 数Ψ*(x,t)と
の 積Ψ Ψ*dxが,
粒 子 を時 刻tに お い て位 置xとx+dxの 間 に見 つ け 出 す 確 率 を与 え る.ΨΨ*= |Ψ│ 2は 実 関 数 で あ り ,確 率 密 度 関 数 とい わ れ る.3次 元 空 間 で は粒 子,例 えば 電 子 を見 出 す 確 率 は,雲 の よ うに空 間 分 布 して い る こ とに な る.電 子 の よ うな微 粒 子 は 大 き さ も位 置 も確 定 で き な いが,あ
る時 刻 に確 率 雲 の 中 の ど こか に存 在 して い
る と考 え る の で あ る. つ ま り粒 子 の存 在 は確 率 的 に し か指 摘 し得 な い.規 格 化 され た Ψ を用 い る と き は ΨΨ*dxを 全 空 間 に積 分 す れ ば積 分 値 は1と な る.確 率 が1と
い う こ と は,そ
の粒 子 は全 空 間 の ど こか に必 ず 存 在 す る とい う こ とを意 味 し,当 然 の 事 実 と一 致 す る. Ψ が 式(5.7.9)の よ うに,xの
み を含 む 関 数 とtの み を含 む関 数 の 積 で 表 され
る関 数 な ら ば,
(5.7.15) とな る か ら,電 子 を見 出 す確 率 は 当 然tに 無 関 係 で,こ れ る状 態 は,定 常 状 態 で あ る こ とが 示 され る.
の よ うな 波 動 関 数 で 表 さ
│Ψ│2は この よ う な意 味 を もつ が,波 動 関 数Ψ の 分布 状 況 は軌 道(orbital)と
も当 然 空 間 分 布 し て い る.そ のΨ
い わ れ る.定 常 状 態 の 定 常 軌 道 は ψで あ る.し か
し,こ れ は ボ ー ア の 原 子 モ デル で考 え られ た よ う な電 子 が 運 動 す る"道 筋"と て の軌 道(orbit)と
し
は意 味 が違 うの で あ る.
以 上 の よ う に,普 通 の 波 動 現 象 を表 す 波動 関 数 は実 数 で な けれ ば な ら な いが, 量 子 力 学 で は実 数 で あ る必 要 は な く,粒 子 の量 子 的 な現 象 を表 す波 動 関 数 は,む しろ複 素 関 数 で あ る こ とが 本 質 的 に必 要 で あ る. と こ ろで,固 体 内電 子 の 波 動 関 数 が固 体 全 体 に 広 が っ て い る場 合,電
子 を見 付
け る確 率 は 固体 内 で一 様 で あ る.他 方,電 気 伝 導 な ど電 子 が 空 間 時 間 的 に輸 送 さ れ て い る こ とが 明 らか な 現 象 が 存 在 す る.こ れ は前 述 した 波束 の 概 念 に よ って 理 解 され る.す な わ ち,電 子 の 位 置 は波 束 の広 が り幅 の 中 に あ り,そ の移 動速 度 は 群 速 度 で あ る.こ れ は不 確 定 性 原 理 と矛 盾 しな い.
6. 粒 子 集 団 の統 計
物 質 は気 体,液
体,固 体 の3態
どの粒 子 の 集 合(系)で
が あ る が,す べ て 原 子,分 子,イ
オ ン,電 子 な
あ る.こ れ らの 系 は膨 大 な 数 の 粒 子 を 含 む か ら,ミ ク ロ
な 立場 か ら個 々 の 粒 子 の 運 動 方 程 式 を解 い て,系 全 体 の 平 均 エ ネ ル ギ ー や 平 均速 度 の よ うな マ ク ロ な量 の値 を求 め る こ とは,ほ
とん ど不 可 能 で あ る.し か し,集
団 を構 成 す る個 々 の 粒 子 の速 度 や エ ネ ル ギ ー の よ うな ミク ロ な 力 学 量 が,あ
る統
計 則 に 従 っ て 分 布 して い る場 合 は,ミ ク ロ な量 か らマ ク ロ な量 を導 く こ とが で き る.ク ラス の成 績 の 平 均 値 や偏 差 値 を統 計 分 布 関 数 を用 い て求 め るの と同様 で あ る.統 計 力 学 は,対 象 とす る諸 粒 子 の独 特 な力 学 的 性 質 か ら独 特 な 統 計 分 布 関数 を 導 き,そ れ に よ っ て マ ク ロな 量 を求 め る学 問 で あ る. 固体 の電 気 的性 質 の多 くは,電 子 集 団 の 示 す マ ク ロな 現 象 で あ る.ま た,光
を
含 む電 磁 波 の性 質 は光 子 集 団,固 体 の 熱 的 性 質 は フ ォ ノ ン集 団 の示 す 現 象 と考 え る こ とが で き る. こ こで は統 計 力 学 の 考 え 方,統 計 力 学 分 布 関 数 の特 徴,お
よ び そ れ を固 体 に適
用 す る場 合 の基 本 的 考 え 方 に つ い て述 べ る.
6.1
分布関数
い ろ い ろ な エ ネ ル ギ ーEを 定 の エ ネ ル ギ ーEiを
持 つ多 数 のN個
の粒 子 の 集 団 が あ る と き,あ る特
持 っ て い る 粒 子 数 の 割 合 が φ(Ei)な ら ば,そ
の粒 子 数
n(Ei)は, (6.1.1) で 与 え られ る.当 然,Σn(Ei)=N,Σ は 粒 子 がEiを
φ(Ei)=Σn(Ei)/N=1で
持 つ 確 率 を 意 味 す る.粒
あ る.つ
子 系 の 全 エ ネ ル ギ ー は,
ま り,φ(Ei
で あ る か ら,粒 子1個
当 た りの 平 均 エ ネ ル ギ ー は (6.1.2)
で 与 え られ る. 多 数 の粒 子 が 熱 平 衡 状 態 に あ る とき は,そ れ らの粒 子 の 熱 運 動 エ ネル ギ ー は, 図6.1.1の
よ う に,連 続 あ る い は ほ ぼ連
続 した 値 で分 布 して い る と考 え られ る. その 分 布 形 を確 率 関 数 φ(E)で 表 す と, EとE+dEの
間 のエネルギー を占めて
い る粒 子 数 は, (6.1.3) また,1個
の 粒 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー は,
全 エ ネ ル ギ ー を全 粒 子 数 で 割 っ て
(6.1.4) で 与 え ら れ る.し
た が っ て,φ(E)が
ネ ル ギ ー が 求 め られ る.φ(E)を
図6.1.1
与 え ら れ れ ば,Eに
粒 子 の エ ネ ル ギー 分 布
存 在 す る粒 子 数 や 平 均 エ
エ ネ ル ギ ー 分 布 関 数(energy
distribution
function)
と い う. と こ ろ で 量 子 力 学 お よ び 統 計 力 学 で は,粒 部 屋)を 6.1.2の
考 え る.粒 よ う に,一
子 が 存 在 し得 る 状 態(座
子 集 団 中 の 粒 子 が 存 在 し 得 る 状 態(占 般 に エ ネ ル ギ ー 分 布 を し て い る.そ
と す る と,EとE+dEの
間 の 状 態 数(座
席 あ るいは
め 得 る 座 席)も
図
の 分 布 を 表 す 関 数 をZ(E)
席 数)はdZ(E)/dE・dE=z(E)dEと
表 さ れ る. z(E)は
単 位 エ ネ ル ギ ー 当 た りの エ ネ ル ギ ー 状 態 数 で,エ ネ ル ギ ー に 関 す る状 態
密 度(density に,g個
of states)と
い わ れ る.z(E)は
物 質 の 種 類 に よ っ て 異 な る.さ
の 状 態 が 同 じ エ ネ ル ギ ー を 持 つ と き の ミ ク ロ な 状 態 密 度 はgz(E)で
ら あ
図6.1.2
状 態 数 を 考 慮 した 占有 粒 子 分 布
る. 1個 の 粒 子 が あ る エ ネル ギ ー を有 す る状 態Z(E)を と,EとE+dEの
占 め る確 率 をf(E)と
する
間 の状 態 を実 際 に占 め る粒 子 数 は, (6.1.5)
で与 え られ る. また,全 粒 子 数Nは (6.1.6) で与 え られ る.し た が っ て,粒 子 系 で 実 現 され る エ ネ ル ギ ー 分 布 の 関 数 形 は, (6.1.7)
で 表 され る.こ の 式 は全 粒 子 数 で割 って 規 格 化 さ れ て い る か ら,φ(E)は
実 際 に起
こ る分 布 の確 率 を意 味 す る.φ が 規 格 化 され て い な い φ'の と き は,φ=Aφ'と
置
き, (6.1.8) か ら規 格 化 定 数Aを
求 め,Aφ'(E)に
よ っ て規 格 化 され た 分 布 式 を得 る こ とが で
き る.こ れ か ら1個 の 粒 子 の平 均 エ ネル ギ ー は,
(6.1.9)
で与 え られ る. 以 上 で は,エ ネ ル ギ ーEに
つ い て 述 べ た が,速 度υ,あ るい は運 動 量p=mυ
に
つ い て も同様 の 形 式 が 成 立 す る. と こ ろ で,粒 子 の エ ネル ギ ー分 布n(E)を れ ば な らな い.z(E)は
知 る に は,z(E)とf(E)を
物 質 に 依 存 す る が,f(E)は
知 らなけ
統 計 力 学 に よれ ば,粒 子 の 種 類
の み に依 存 す る普 遍 的 関 数 で あ る. 量 子 論 に よれ ば,自 然 界 に お け る基 本 的 微 粒 子 は,ス 合 は,フ
ピ ン量 子 数 に着 目 した 場
ェ ル ミ粒 子 とボ ーズ 粒 子 の2種 類 に分 類 さ れ る.こ の2種
の粒 子 は 同 種
の もの の 集 団 の 中 で は1つ ひ とつ を識 別 す る こ とは で きな い. フ ェ ル ミ(Fermi)粒 る.電 子,陽
子 は,ス
ピ ン量 子 数 が1/2,3/2,…
子,中 性 子 な どは フ ェル ミ粒 子 で あ る.フ
排 他 原 理 に よ り1つ の 状 態 に は+ス
ピ ン粒 子1個,−
の 半 整 数 の もの で あ
ェル ミ粒 子 は,パ ス ピ ン粒 子1個,合
ウ リの 計2個
まで しか 占 め 得 な い. ボ ーズ(Bose)粒
子 は,ス ピ ン量 子 数 が0ま
た は整 数 の もの で あ る.4He粒
子
は ボ ーズ 粒 子 で あ る.ボ ーズ 粒 子 に は排 他 原 理 が 適 用 され ず,1つ の状 態 を何 個 で も占 め る こ とが で き る.光 子 は非 物 質 粒 子 で あ り,ス ピ ン量 子 数 は1と
して ボー
ズ粒 子 で あ る.さ ら に,フ ォ ノ ン は仮 想 粒 子 で あ る が,光 子 に類 似 した性 質 が 考 え られ る の で ボ ーズ 粒 子 と して取 り扱 わ れ る. この よ うな 粒 子 が 状 態Z(E)を Z(E1),Z(E2)の2つ,粒 図(a)は
占 め る様 子 を,図6.1.3に
子 数 は3個,各
モ デ ル で 示 す.状 態 は
粒 子 は識 別 で きな い とす る.
フ ェル ミ粒 子 の場 合 で,ス ピ ン に よ る縮 退 度g=2で
あ る.粒 子 を各 状
態 に 分 配 す る仕 方 は重 複 を許 さな い組 み合 わ せ の 数 だ け あ る.こ の よ うな分 配 法 に よ る統 計 をフ ェル ミ統 計 とい う.こ の例 で は,図 の よ う に分 配 法 は2通
りで あ
る.矢 印 は ス ピ ン角 運 動 量 の 向 き ± を 表 す. 図(b)は
ボ ーズ 粒 子 の場 合 で,分 配 の仕 方 は重 複 を許 す組 み 合 わ せ の 数 だ け あ
(a) FD
(b) BE
(c) MB
図6.1.3
各統 計 の粒 子 分 配 法
る.こ の よ うな 統 計 の仕 方 をボ ー ズ 統 計 とい う.こ の例 で は,分 配 法 は4通
りで
あ る. 図(c)は
量 子 論 以 前 の古 典 的 な ボ ル ツマ ン統 計 に よ る分 配 法 を 示 す.こ の 統 計
で は粒 子 は互 い に 識 別 で き,ま た,1つ の 状 態 を何 個 で も占 め る こ とが で き る とす る.分 配 の 仕 方 は 重 複 を許 す順 列 の 数 だ け あ る.こ の 例 で は,分 配 法 は8通
りで
あ る. この例 か ら粒 子 の エ ネル ギ ー分 布 は,分 配 法 に よ って 異 な って くる こ とが 分 か る.さ
ら に,熱 平 衡 に お い て は粒 子 集 団 の 分 布 は,次 の よ うな 条 件 を満 た す 必 要
が あ る.ま ず,集
団 の 全 エ ネル ギ ー を 最 小 にす る分 布 で な け れ ば な らな い .こ の
た め,こ の 例 で は各 統 計 と も図 の 右 半 分Bの くな る.ま た,集
よ うな分 配 状 態 が生 ず る確 率 は小 さ
団 の エ ン トロ ピ ー が最 大 とな る よ うに,な
る べ く分 散 した エ ネ
ル ギ ー を 占 め る分 布 で な けれ ば な らな い.こ の た め に各 統 計 と も図 の 上 下,Z(E1) とZ(E2)の
どち らか に集 中 す る よ う な分 配 の確 率 は小 さ くな る.
以 上 の よ うな考 察 に基 づ い て,統 計 力 学 で は熱 平 衡 状 態 に お い て 粒 子 がEに 配 さ れ る(Eを な わ ち,図(a)の
分
占 め る)確 率 関 数 と して3種 類 の 分 布 関 数 が 導 出 され て い る.す 分 配 の仕 方 か ら フ ェル ミ ・デ ィラ ッ ク分 布 関 数,図(b)か
ー ズ ・ア イ ン シ ュ タイ ン分 布 関 数 が 得 られ る.図(c)か
らボ
らは マ ク ス ウ エ ル ・ボル
ツ マ ン分 布 関 数 が 得 られ る が,こ れ は以 下 で も述 べ る よ う に,あ
る条 件 下 にお い
px
て 図(a)と
図(b)の
量 子 力 学 的分 布 関 数 の 近 似 と して も導 か れ る.
以 下 で は,各 分 布 関 数 の特 徴 と そ の適 用 条 件 に つ い て 述 べ る.
6.2
古 典 統 計―
マ ク ス ウ エ ル ・ボ ル ツ マ ン 統 計(ボ
状 態 数 に比 べ て粒 子 数 が 少 な い場 合,粒
ル ツ マ ン 統 計)
子 間 距 離 が 大 きい の で 粒 子 は 互 い に識
別 で き る とす る.ま た,粒 子 間 相 互 作 用 は小 さ いか ら,粒 子 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー は考 え る必 要 はな く,運 動 エ ネ ル ギ ー の み を考 え れ ば よい.し
た が っ て,
各 粒 子 は,そ れ ぞれ 独 立 に あ らゆ る連 続 的 な エ ネ ル ギ ーE=mυ2/2=p2/2mを り得 る.mは
粒 子 の質 量,υ は速 度,pは
希 薄 な原 子 ・分 子 ガ ス)が この統 計 で は,1つ
運 動 量 で あ る.理 想 気 体(具
取
体 的 に は,
こ の よ うな 条 件 を満 足 して い る.
の エ ネル ギ ー 状 態Eに1個
の粒 子 が 分 配 さ れ る確 率 は,次
の マ ク ス ウ エ ル ・ボ ル ツ マ ン(Maxwell‐Boltzmann)分
布 関 数 で 与 え られ る. (6.2.1)
Aは比 例 定 数,kBは
ボ ル ツマ ン定 数 で,exp(-E/kBT)は
ボ ル ツ マ ン因 子 と いわ
れ る. 次 に,こ の よ うな 系 の運 動 エ ネ ル ギ ー 分 布 を考 え る.古 典 力 学 で は,1個
の粒子
の 状 態 は運 動 の 向 き ま で考 慮 し て,座 標 と運 動 量 の6次 元 空 間 内 の1点(x,y,z, ,py,pz)で 表 され る.こ の 空 間 を 位 相 空 間 とい うが,い
まの 場 合 は運 動 エ ネ ル
ギ ー の み を考 え るの で,図6.2.1の に,運 動 量 成 分 を3軸 を考 えれ ば よ い.1つ
よう
とす る運 動 量 空 間 の粒子 の運動 の状
態 は,こ の空 間 内 の1点 で 表 され る.こ れ か ら多 数 の粒 子 の運 動 量 分 布 は,運 動 量 空 間 内 の点 の分 布 で 表 さ れ る. 前 記 の 条 件 か ら,こ れ ら の点 は,こ の 空 間 内 に連 続 して一 様 に分 布 して い る と 図6.2.1
運 動 量 空 間 と状 態
考 え られ るか ら,半 径p,厚
さdpの
球 殻 内 に あ る点 の 数 が 運 動 量 の状 態 密 度 を表
す こ とに な り,次 式 で与 え られ る. (6.2.2)
E=p2/2mで
あ る か ら,こ
れ をエ ネ ル ギ ー 状 態 密 度 に 書 き換 え る と,
(6.2.3) と な る.こ
こ で,式(6.2.1)と
式(6.1.7)を
用 い る と,次
の 式 が 得 ら れ る.
(6.2.4)
φ(E)を 規 格 化 され たマ ク ス ウ エ ル ・ボ ル ツ マ ンの エ ネ ル ギ ー 分 布 式 と い う. φ(E)は 規 格 化 され た 確 率 関 数 で あ るか ら,N個 有 す る粒 子 数n(E)は,式(6.2.4)にNを
の粒 子 か らな る系 に お いて,Eを
掛 け れ ば 求 め られ る.
規 格 化 され て い な い φ'の と き は,規 格 化 条 件 式(6.1.8)か
ら
と置 く こ と に よ り,
と 求 め られ る の で,式(6.2.4)を
得 る こ と が で き る.
粒 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー は,式(6.1.9)か
ら
(6.2.5)
とな る.こ の式 は,こ の 統計 に従 っ て い る粒 子 集 団 の 平 均 エ ネ ル ギ ー が,粒 子 の 質 量 に無 関 係 で あ る こ と を示 して い る.原 子 で も分 子 で も電 子 で も同 じで あ る. な お,こ の 平 均 エ ネ ル ギ ー は3つ の 自 由度 に等 分 配 さ れ,次 の エ ネ ル ギ ー等 分 配 則 が 成 立 す る. (6.2.6) 式(6.2.4)をE=mυ2/2を
用 い て 書 き 換 え る と,
(6.2.7) とな る.こ の 式 を規 格 化 され た マ ク ス ウエ ル ・ボ ル ツ マ ンの 速 度 の 大 き さ(速 の 分 布 式 とい う. この 式 を用 い て粒 子 の 平 均 速 度 は,
(6.2.8) また,自 乗 平 均 速 度 は
(6.2.9) で 表 さ れ る.平
均 エ ネ ル ギ ー はm〈υ2〉/2
で あ る か ら,こ の 式 か ら も 式(6.2.5)が
得
図6.2.2
マ クス ウエ ル ・ボ ル ツ マ ン の 速 度:(大きさ)分布 関 数
ら れ る.
な お,上 の 各 式 の 導 出 に は定 積 分 公 式*を
* 定 積 分公 式
用 い る と良 い.
さ)
以 上,い
くつ か の結 果 が 得 られ た が,こ
れ らは 希 薄 な原 子 ・分 子 気 体 の み な ら
ず,後 述 す る よ うに,半 導 体 中 の 自 由電 子 の よ うに 希 薄 な電 子 集 団 に対 して も近 似 的 に適 用 さ れ る の で 重 要 で あ る.図6.2.2に,マ
ク ス ウ エ ル ・ボ ル ツ マ ン分 布
関 数 の 形 を示 す.
6.3 量 子 統 計―
フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ ク 統 計 と ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タ イ ン統 計
電 子 や 光 子,あ
るい は フ ォ ノ ンな ど の粒 子 は互 い に識 別 で きな い.波 動 性 を も
有 し,運 動 量p=mυ=h/λ 量 子 化 され,そ
の 関 係 が あ る.粒 子 が 存在 し得 る状 態 は 波 動 性 に よ り
の エ ネ ル ギ ー状 態 は とび とび で 不 連 続 で あ る.そ の状 態 を 占め 得
る粒 子 数 は粒 子 の種 類 に よ り異 な り,ま た 通 常 は状 態 数 に近 い 高 密 度 で 存 在 す る.
(1) フ ェル ミ ・デ ィ ラ ッ ク統 計(フ 1個 の フ ェル ミ粒 子 が1つ
ェ ル ミ統計)
の エ ネ ル ギ ー 状 態Eを
ミ ・デ ィ ラ ッ ク(Fermi‐Dirac)分
占 め る確 率 は,次
の フェル
布 関 数 で与 え られ る.
(6.3.1) 電 子 の よ うな物 質 粒 子 で は定 数 α=-μ/kBTで
あ って,こ
の 関 数 は次 の よ う に
表 され る.
(6.3.2) μ は化 学 ポ テ ン シ ャル(chemical し,粒 子 系 に お い て粒 子1個 ネ ル ギー+ポ
potential)と
い わ れ,エ
ネ ル ギ ー の 次 元 を有
が増 減 す る と きの粒 子 系 全 体 の エ ネ ル ギ ー(運 動 エ
テ ン シ ャ ル エ ネル ギ ー)の 変 化 量 を意 味 す る.分 子 の よ うな粒 子 で
は構 成 原 子 の運 動 エ ネ ル ギ ー を も含 む.μ の 値 は物 質 粒 子 の種 類 ご とに 異 な る. な お,化 学 ポ テ ン シ ャ ル μ の 異 な る2つ の粒 子 系 が 接 触 す る と,両 者 間 に は粒 子 の 移 動 が起 こ るが,熱 平 衡 状 態 に達 す る と両者 の粒 子 数 の増 減 はな くな り,両 者 の μ は等 し い値 に な る.
特 に,粒 子 が 電 子 の と き は,μ はEFと
書 か れ,分 布 関 数 を (6.3.3)
と表 す.EFは
フ ェ ル ミ ・エ ネ ル ギ ー と い わ れ る.EFは
存 性 を 有 し,温 で,こ
度 が 高 く な る と 小 さ く な る.し
こ で はEF(T〔K〕)=EF(0〔K〕)と
T=0〔K〕 の 第1項
に お い て は,E>EFの はe+∞=∞
の 変 化 は非 常 に 小 さ い の
エ ネ ル ギ ー 状 態 に 対 し て は,式(6.3.3)の
で あ る か ら,f(E)=0と
な わ ち,EF以
か し,そ
す る.
状 態 を 占 め る こ と が で き な い.E<EFで f(E)=1.す
わ ず か で は あ るが 温 度 依
な る.す
な わ ち,粒
は 分 母 の 第1項
子 はEF以
はe-∞=0で
分母 上 の
あ る か ら,
下 の 状 態 に は す べ て 粒 子 が 存 在 し 得 る.EFは,T=0
〔K〕に お い て 粒 子 が 占 め 得 る 最 高 の 状 態 エ ネ ル ギ ー 値 で あ る. 次 に,有 限 の 温 度T=T〔K〕 な る の で,EFを
の 場 合 を 考 え る.E=EFで
占 め る 確 率 は1/2で
粒 子 が 占 有 す る 確 率f(E,T)が 一 方,E<EFに
あ る.E>EFの
は 分 母 の 第1項
は1と
エ ネ ル ギ ー 状 態 に 対 し て は,
生 ず る.
対 して は 占 有確 率 が 減
少 し て1-f(E,T)と
な る.図6.3.1に
フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ ク分 布 関 数 の 形 を示 す.任 意 温 度 に お け るf(E,T)FDの
値は
数 値 計 算 に よ り求 め る. 特 に,E≫EFの
状 態 は 占有 確 率 が小 さ
く,ま た,分 母 第2項
の1が 無 視 で きる
の でfMBの 形 に な る.す な わ ち,電 子 の よ うな フ ェル ミ粒 子 で あ っ て も,状 態 の 数 よ りも粒 子 の数 が 非 常 に少 な い場 合 は, ボル ツマ ン統計 で近 似 で き る こ とに な る.高 温 に な る ほ どEが
よ り高 い状 態 に
ボル ツ マ ン分 布 をす る こ とに な る. 図6.3.1
あ る エ ネ ル ギ ーEを
占め る電子 の個
フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ クの エ ネ ル ギ ー 分 布 関 数fFD(E)
数n(E)を
求 め る に は,電 子 集 団 の 状 態 密 度z(E)が
実 空 間 の 体 積 をv=LxLyLz=L3と
必 要 で る.粒 子 集 団 が 占 め る
す る.こ の 中 で 安 定 に 存 在 す る 電 子 の 状 態
は,電 子 波 の 定在 波 条 件 また は周 期 的境 界 条 件 を満 足 して い な け れ ば な らな い. こ の状 態 密度 は,式(5.3.11)
で与 え られ る.電 子 波 と電 子 粒 子 は運 動 量p=hkに
よ っ て結 ば れ る か ら,上 式 を
書 き換 え る と,
(6.3.4) と な る.さ
ら に,E=p2/2mに
よ っ て 粒 子 エ ネ ル ギ ーEで
表 す と,
(6.3.5) と表 さ れ る.そ
こ で,エ
ネ ル ギ ーEを
占 め る 電 子 数n(E)は,次
式 で 表 さ れ る.
(6.3.6) た だ し,±
の ス ピ ン を考 慮 してg=2で
あ る.
この 式 か ら電 子 の 実 際 の分 布 を求 め るに は,f(E)FDの れ ば な らな い.EFの
中 のEFの
値 を知 らな け
値 は基 本 的 に は,次 の方 法 で 決 め られ る.す な わ ち,電 子 の
総数nは,
(6.3.7) で あ る か ら,総 と に な る.そ
(2)
数nお
よ びz(E)を
の 例 は,本
与 え れ ば,f(E)FDに
含 ま れ るEFが
求 まる こ
書 中 で 後 に い く つ か 取 り上 げ る.
ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タ イ ン 統 計(ボ
1個 の ボ ー ズ 粒 子 が1つ
ー ズ 統 計)
シ ュ タ イ ン(Bose‐Einstein)分
の エ ネ ル ギ ー 状 態 を 占 め る 確 率 は,次
の ボ ー ズ ・ア イ ン
布 関 数 で 与 え られ る.
(6.3.8)
フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ ク 分 布 関 数f(E)FD と比 べ る と,分
母 の+が-に
変わ った
の が 大 き な 違 い で あ る.α は フ ェ ル ミ ・デ ィ ラ ッ ク 統 計 と同 じ定 数 で あ る.光 フ ォ ノ ン な ど,非 場 合 は α=0と
子 や
物質粒子 や仮想粒子 の
置 く こ とが で き,
(6.3.9) とな る.こ の 関 数 形 を図6.3.2に
示 す.
こ の分 布 関 数 と状 態 密 度 を用 い て,各 状 態 を 占 め る ボー ズ粒 子 数 が 求 め られ,
図6.3.2
分 布 関 数fBE(E)
後 の 章 で 述 べ る よ う に物 体 か らの 温 度 放 射 の 式,あ
ボ ー ズ ・ア イ ン シュ タ イ ン の エ ネ ル ギ ー
る い は格 子 振 動 分布 や 比 熱 の
式 な どを 導 くこ とが で き る. な お,エ ネル ギーEを
占 め る粒 子 数 は,n(E)=z(E)f(E)BEか
光 子 の場 合 は1つ の λ,ν,あ るい はkに
つ い て,2つ
の偏 光 方 向 の横 波 の 状 態 が
同 じ エ ネ ル ギ ー を取 り得 る の で状 態 数 は2倍 に す る.フ 波,1つ
ォ ノ ンの 場 合 は2つ の 横
の縦 波 の状 態 が 同 じエ ネ ル ギ ー を取 り得 るの で状 態 数 は3倍
こ の関 数 も分母 の 第1項
6.4
ら求 め られ るが,
が1よ
り非 常 に大 き い と きは,fMBの
にす る.
形 で近 似 で き る.
古 典 統 計 と量 子 統 計
6.3節 に お い て,基 本 微 粒 子 は ス ピ ン量 子 数 の 観 点 か ら フ ェ ル ミ粒 子 と ボ ー ズ 粒 子 の み に分 類 され,そ れ ぞ れ フ ェル ミ ・デ ィ ラ ッ ク統 計 と ボー ズ ・ア イ ン シ ュ タイ ン統 計 に 従 うべ き も の で あ る こ と を述 べ た.ま た,エ ネル ギ ーEを 率 が 小 さ い と き,す な わ ち,Eに
属 す る状 態 数 に比 べ てEを
占 め る確
占 め る粒 子 数 が 少 な
い と き は,両 方 と もマ ク ス ウ エ ル ・ボ ル ツ マ ン統 計 で 近 似 で き る こ とも述 べ た. 次 に,粒 子 が 存 在 し得 る状 態 密 度 は,古 典 統 計 で は式(6.2.2)で 与 え られ る.す な わ ち,
一 方
,量
子 統 計 で は 式(6.3.4),す
な わ ち,
で与 え られ,粒 子 集 団 が存 在 す る実 空 間 体 積Vが
関 係 す る.
古典 統 計 で は,1個 の粒 子 が 占 め る運 動 量 空 間 の 部 屋 の 広 さ は,特 に 限定 せ ず に 点 で も良 い.こ の た め,あ る エ ネ ル ギ ーEを 全個 数Nを
占 め る粒 子 数 は,式(6.2.4)に
粒 子の
掛 け て 単 純 に求 め られ,実 空 間体 積 に は無 関 係 で あ る.
量 子 統 計 で は,1個
の粒 子 が 占 め得 る部 屋 の 広 さ に は 限定 され た大 き さが あ る.
式(6.3.4)を 運 動 量 空 間 の球 殻 の 体 積4πp2dpので割 る と,運 動 量 空 間 の 単 位 体 積 当 た りの状 態 数 はV/h3個
とな る.し た が っ て,実 空 間 の体 積Vを
単 位 体 積 に取 っ
た場 合 は,運 動 量 空 間 で は1つ の粒 子 が 占 め得 る空 間 の 大 きさ はh3の 大 きさ に 限 定 され る.つ ま りh3の 大 き さ の運 動 量 空 間 が 粒 子 の1つ の 状 態 に対 応 し て い る. 粒 子 が電 子 の 場 合 は,±
ス ピ ンの2個
の電 子 が このh3の 大 き さ の 運 動 量 空 間 を
占 め る こ とが で き る. この よ うな 制 限 は粒 子 の 波 動 性 の た め に,安 定 に存 在 す る定 常 波 が 実 空 間 体 積 Vに依 存 す る こ とか ら き て い る.こ の た め,あ は,式(6.3.6)か
るエ ネ ル ギ ーEを
ら与 え られ る よ うに 実 空 間 体 積Vが
占 め る粒 子 数
関 係 す る こ とに な る.
7. 粒 子 の 流 れ
固体 内 で は流 れ が 存 在 す る場 合 が あ る.例 え ば,原 子 ・イ オ ンの 拡 散 流,電 流, 熱 流 な ど特 定 方 向 へ の輸 送 現 象 で あ る.流 れ が 存 在 す る状 態 は,そ の 系 に外 力 が 加 え られ て い る非 平 衡 状 態 で あ る.非 平 衡 状 態 の解 析 は,平 衡 状 態 か らの 小 さな ず れ と して 取 り扱 わ れ る.ま た 実 際 に も,こ の よ うな場 合 が 多 い.流 れ の 解 析 手 法 と して は,安 定 状 態 の 波動 が 力 に よ りわ ず か に変 化 す る と して 扱 う こ と,あ る い は熱 平 衡 状 態 にあ る粒 子 群 の 速 度 分 布 が 力 に よ りわ ず か に 変 化 す る と し て扱 う こ とが考 え られ る.し か し,ど ち らの 方 法 で も解 析 は複 雑 とな る. そ こ で,粒 子群 の 平 均 速 度 が 力 に よ りわ ず か に変 化 す る と して 取 り扱 う こ とを 考 え る.こ れ に よ って 解 析 は簡 単 に な り,流 れ 現 象 の 本 質 を 失 わ ず に有 用 な結 果 が 得 られ る. な お,固 体 内 を 流 れ る粒 子 と して は,電 子 あ るい は フ ォ ノ ン を想 定 す る.
7.1 粒 子 流 粒 子 の 拡 散 流 は,
(7.1.1) で表 され る.Dは
拡 散 係 数,dn/dxは
粒 子 密 度 の 空 間 勾 配 で あ る.
電 界 を印 加 した と きの電 流 は,
(7.1.2) で表 され る.σ は導 電 率,Eは
電 界,dV/dxは
電 位 勾 配 で あ る.
温 度 勾 配 が あ る と き の熱 流 は, (7.1.3)
で 表 され る.κ は 熱伝 導 率,dT/dxは
温 度 勾 配 で あ る.
い ず れ も同 じ形 式 で あ っ て 物 理 量 の 空 間勾 配 に比 例 して い る.そ れ ら は結 局 は ポ テ ン シ ャル 勾 配,す
な わ ち,力
と して流 れ を生 み 出 して い る と考 え られ る.
これ らの 流 れ を粒 子 群 の 流 れ と して考 え る.単 位 時 間 に単 位 面 積 を通 過 す る粒 子 数 を流 れ の 強 さ(強 度),あ
る い は流 束(flux)と
い う.粒 子 数 密 度 をn,粒
子
群 の 平 均移 動 速 度 をυ とす る と,流 束jは 単 位 時 間 に単 位 面 積 を通 過 す る粒 子 数 と して 定 義 され る.す な わ ち, (7.1.4) で 表 さ れ る.ま
た,粒
子 に 働 く力 をFと
し て,
(7.1.5) と表 す と き,比 例 定 数 μ は粒 子 の 移 動 度(mobility)と
い わ れ,単 位 の 力 で 得 ら
れ る速 度,す なわ ち力 に よ る粒 子 の動 きや す さ を表 し,粒 子 の 種 類,物 質 の種 類, 個 々 の個 体 ご とに 異 な る値 を取 る.こ の 式 か らは力 が 働 け ば各 粒 子 は加 速 され, 速 度,し
た が っ て 流 束 は い く らで も増 加 す る こ とに な るが,実
際 に は有 限 の 速 度
υに な る.こ れ は粒 子 が 何 か に衝 突 し て減 速 され る た め と考 え られ る.こ の た め 粒 子 流 を理 解 す る に は,衝 突 を考 慮 す る こ とが 極 め て重 要 とな る. な お,波 動 の移 動速 度 は波 束 の移 動 速 度 す なわ ち群 速 度υgで 表 す が,こ
れ は,
こ こ で考 え る粒 子 群 の 平 均 移 動 速 度υ と同 じ と考 え て よ い.
7.2 粒 子 の 衝 突 個 々 の 粒 子 が衝 突 す る 現 象 は非 常 に 複雑 で あ るが,こ
こで は粒 子 群 内 の 多 くの
衝 突 に よ る効 果 の平 均 を 考 え て単 純 化 す る. 固 体 内 の 伝 導 電 子 あ る い は フ ォ ノ ンな どの粒 子 は,原 子 配 列 の規 則 性 に よ っ て 決 め られ る多 数 の エ ネ ル ギ ー 状 態 の うち の どれ か を 占め る こ とが で き る.そ の状 態 は,固 体 の 全 空 間 に広 が っ て い て粒 子 は ど こ にで も存 在 で き る.熱 平 衡 状 態 で は多 数 の 粒 子 は互 い に衝 突 を繰 り返 しな が ら も粒 子 固有 の 分 布 則 に 従 っ て,平 均 と して どれ か のエ ネ ル ギ ー状 態 を実 際 に 占 め て い る.流 れ に よ る粒 子 の 移 動 が起 こ って も,原 子 配 列 が 規 則 的 で あ る限 りは,ど の位 置 で も占 め る こ とが で き る の
で,そ の 移 動 は妨 げ られ な い.波 動 で言 え ば,波 束 の 移 動 は妨 げ られ な い. しか し,固 体 内 に原 子 配 列 の 乱 れ が 存 在 す る と,熱 平 衡 状 態 に あ る粒 子 の運 動 も,流 れ状 態 に あ る粒 子 の移 動 も阻 害 され る.乱 れ の 第1は,熱 規 位 置 か ら変位 した 格 子 点 原 子 で あ る.第2は 不 純 物,転 位,結
格 子 欠 陥,す
振動 に よって正
な わ ち,格 子 空 孔,
晶 粒 界,表 面 な どで あ る.こ の ほ か粒 子 同 士 の衝 突 が あ る が,
流 れ に お い て は乱 れ 箇 所 との衝 突 の 影 響 が 大 きい.波 動 で 言 え ば,原 子 配 列 の規 則 性 に従 う定 常 的 波 動 は その 箇 所 で 乱 され,波 束 の 移 動 もそ の箇 所 で 阻 害 され る. 乱 れ の箇 所 は,衝 突 中心 あ る い は散 乱 中 心 といわ れ る.以 下 で は,粒 子 と衝 突 中 心 との衝 突 を考 え る. 熱 平 衡 状 態 に お い て,あ る衝 突 か ら次 の 衝 突 まで の平 均 の 時 間 をτccとす る と, 図7.2.1の
よ うに,熱 平 衡 状 態 で 平 均 速 度υmで 運 動 す る1個 の 粒 子 が 衝 突 す る
まで の 時 間 は大 ざ っ ぱ で は あ るが,τc=τcc/2と 近 似 して 良 い.全 粒 子 に つ い て も, 熱 平衡 状 態 に あれ ば平 均 して 時 間τcご とに衝 突 す る と考 え られ,τcを 熱 平 衡 状 態 に あ る粒 子 の 平 均 衝 突 時 間,ま
た は平 均 衝 突 寿 命(mean
とい う.τcの 間 の粒 子 の 平 均 移 動 距 離lは,衝 path)と
lifetime of collision)
突 の 平 均 自 由 行 程(mean
い わ れ,次 の 式 で 表 され る. (7.2.1)
τcとlの 大 きさ は,衝 突 中心 の種 類 や 数 に左 右 され る. 図7.2.2の
よ うに,単 位 体 積 にN個
の
衝 突 中心 が あ り,そ れ ぞ れ が 粒 子 の運 動 方 向 に垂 直 な 断 面 積Sを す る.1個 均1回
の 粒 子 がSに
有 す る もの と 入 射 す れ ば,平
の 衝 突 が 起 こ る.単 位 体 積 に は
NSの 断 面 積 が あ る か ら,単 位 時 間,単 位 体 積 当 た りNSυm回
の衝 突 が起 こ る こ と
に な る.し た が っ て,平 均速 度υmの1個 の粒 子 が1回 の 衝 突 を起 こす まで の 時 間
図7.2.1
粒 子 の 平均 衝 突 時 間
free
τcは,
(7.2.2) で表 され る.1/τcは,粒
子1個
が単位 時
間 に衝 突 を起 こす 確 率 を意 味 す る.Sは 衝 突 中心 の 実 断 面積 とは必 ず し も等 し く は な く,衝 突 断 面 積 あ る い は散 乱 断 面 積 な ど といわ れ,1個
の 中 心 が 衝 突 を引 き
起 こす 確 率(能 力)を 表 し てい る.
図7.2.2
衝 突 中心 と衝 突 断 面積
熱 平 衡 状 態 で は粒 子 系 全体 の 移 動,す な わ ち流 れ は な い が,密 度 勾 配 が 存 在 す る とτcの 間 だ け粒 子 は拡 散 して 流 れ が 起 こ る.あ る い は,外 力 が働 く と τcの問 だ け粒 子 は加 速 され,粒 子 系 の 平 均 速 度 が 増 加 して 流 れ が 起 こる.
7.3
拡散 流
何 らか の 原 因 に よ っ て粒 子 密 度 に 空 間 勾 配 が存 在 す る と,粒 子 は密 度 の 高 い場 所 か ら低 い場 所 へ 熱 運 動 速 度 で移 動 して 熱 平 衡 状 態 に 戻 ろ う とす る.そ の 移 動 は, 密 度 差 の ほ か粒 子 の 種 類 に よ っ て規 定 さ れ る 内部 エ ネ ル ギ ー に も依 存 す るが,簡 単 化 の た め粒 子集 団 が 同 一 種 類 の 粒 子 の みか ら構 成 さ れ て い る場 合 を考 え る.図 7.3.1の よ う に,粒 子 密 度nに 間 勾 配dn/dx(図
一定 の空
で は 正 の 勾 配)が
ある
とす る.粒 子 は あ らゆ る 方 向 に熱 運 動 し て い るが,エ
ネル ギ ー 等分 配則 か ら,流
れ の 向 き の 粒 子 の 平 均 速 度υmは,
図7.3.1
粒 子 密 度 勾配 と拡 散 流
(3kBT/2)/3=mυth2/2か
ら 与 え られ る 次 の 熱 運 動 速 度υthで
あ る.
(7.3.1) 図7.3.2の
よ う に,xとx+Δxの間
の 微 小 領 域 を考 え,こ の領 域 内 の 粒 子 数 の 変 化 を考 え る.①x点
か ら右 へ 単 位 時
間 に 脱 出 す る 粒 子 数 は,平 nxυth/2で
あ り,②
均 して
即点 か ら 左 へ は
-nxυth /2で あ る. 他 方,x点
へ移 動 して くる粒 子 数 は,平
均 自 由行 程l以
内 の粒 子 で あ るか ら,③
左 か ら右 へ は(nx-dn/dxl)υth/2で
図7.3.2
あ り,④
流 入 が あ る.こ れ ら を合 計 す る と,x点
拡 散 の 平衡
右 か ら左 へ は-(nx+dn/dxl)vth/2の
で は 差 し引 き,右 か ら左 へ (7.3.2)
の 正 味 の 流 れ が 存 在 す る.x+Δx点
で も同様 に右 か ら左 へ (7.3.3)
の 流 れ が 存 在 す る.両 者 は 等 し い か ら,Δxの
間 で 粒 子 の 蓄 積 は起 こ ら な い .こ れ
ら の 式 はxとtを
よ う に 密 度 勾 配 が 一 定 な ら ば,そ
含 ま な い の で,図7.3.1の
に 比 例 し て 勾 配 と逆 向 き に 定 常 流 が 流 れ る こ と を 表 し て い る .し に よ る 流 れ は 式(7.2.1)と
式(7.3.1)を
た が っ て,拡
れ 散
用 い る と,
(7.3.4) あ る い は,
(7.3.5) と表 さ れ る.こ わ れ る.こ
こで
の 式 は 良 く知 ら れ た 拡 散 流 の 式 で,フ
ィ ッ ク(Fick)の
式 と もい
(7.3.6) は拡 散 係 数,l=√Dτcは
拡 散 長(diffusion length)と
いわ れ る.
電 子 の場 合 は拡 散 電 流,格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー の 量 子 で あ る フ ォ ノ ンの拡 散 で は 熱 伝 導(熱 拡 散)が 生 ず る.
7.4
ド リ フ ト流
外 力 が働 く と,熱 平衡 状 態 は崩 れ て各 粒 子 は外 力 の 方 向 に加 速,あ さ れ る.加 速 の場 合,加
る い は減 速
速 され た 粒 子 は衝 突 に よ りそ の 速 度 の増 加 分 を失 う.こ
の た め に無 限 に加 速 さ れ る こ と は な く,有 限 の 速 度 増 加 に と ど ま る.こ の 過 程 を 粒 子 の 平 均 速 度 の変 化 で 考 え る. 平 均 熱 速 度υthの 多 数 の粒 子 の集 団 は,平 均 衝 突 時 間(平 均 寿 命)τcの 間 だ け 加 速 され,外 力 の 向 きの 平 均 速 度 がυdだ け増 加 す る.し た が っ て,粒 子 群 が この 速 度 で 移 動 す る.こ れ を ド リフ ト(drift)流 で は,ド リ フ ト粒 子 流jd=nυdが
とい う こ と にす る.粒 子 密 度nの
流 れ る こ とに な る.な お,一 般 にυd<υthで あ る.
電 界 や磁 界 な どに よ る外 力 が 働 く と きの電 子 流 は,こ れ の 代 表 例 で あ る. 粒 子 の 質 量 をm,外
力 をF,加
速 の運 動 方 程 式 を
(7.4.1) で 表 す と,図7.4.1の
よ う に,平
均
寿 命 τcの 間 に 多 数 の 粒 子 の 平 均 速 度 がυdだ
け 増 加 す る か ら,
(7.4.2) で あ る.粒 υdは
子 群 が移 動 す る平 均 速 度
ド リ フ ト速 度(drift
velocity)
と い わ れ る.こ の 式 を 式(7.1.5)と
比
べ る と,移 動 度 μ は 次 式 の 内 容 を 持 つ.
系
(7.4.3) そ こ で,ド
リ フ ト粒 子 流 は 次 の よ う に 表 さ れ る.
(7.4.4) 平 均 自由 行 程lの
間 に外 力 が 作 用 して平 均 速 度 がυdだ け増 加 す るか ら,そ の 間
に 費 や され た エ ネ ル ギ ー は,粒 子1個
当た り
(7.4.5) で あ る.単 位 時 間 に起 こ る平 均 衝 突 回 数 はl/τcで あ るか ら,単 位 体 積 にn個
の粒
子 が あ れ ば,単 位 体 積,単 位 時 間 に全 粒 子 が 得 た エ ネル ギ ー は,
(7.4.6) で あ る.こ のエ ネ ル ギ ー は衝 突 を介 して格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー,す
な わ ち熱 エ ネ ル
ギ ー に変 換 され る.電 流 の場 合 は ジ ュー ル 熱 とな る. 衝 突 過 程 の見 方 を少 し変 えて み る.粒 子 は多 数 存 在 す る か ら,あ
る粒 子 が加 速
され て い る と き,す で に加 速 され て い る粒 子 は衝 突 に よる 減速 が 同 時 進 行 して い る と考 え られ る.前 述 の よ う に,定 常 状 態 の 速 度υdが 衝 突 に よ り τc時間 で 失 わ れ るか ら,υd(t)/τcを減 速 の割 合 と考 え る こ とが で き る.し た が っ て,粒 子 系 全 体 の 移 動 の運 動 方 程 式 は,次 の よ うに 表 され る. (7.4.7) 右 辺 第1項
は 外 力 す な わ ち加 速 力,第2項
件 をt=0でυ=0と
は減 速 力(抵
抗 力)で
あ る.初 期 条
して この式 を解 く と, (7.4.8)
と な る.定
常 速 度υdはt=∞
と して
(7.4.9) と な る.こ
れ は 式(7.4.2)と
た め に 時 間tと
同 じ で あ る.加
速 過 程 で は,衝
と も に 加 速 は 次 第 に 小 さ く な り,定
突 に よ る抵 抗 を受 け る
常 流 の 速 度υdと
な る.
定 常 状 態 か ら 外 力Fを お け るυd(t)を
急 に と り 除 く と き は,式(7.4.7)でF=0,ま
定 常 速 度υdと
置 く と,次
たt=0に
式 が 得 られ る.
(7.4.10) 一 般 に,非 平 衡 状 態 か ら平衡 状 態 に戻 る過 程 を緩 和 過 程 とい い,緩 和 の時 定 数 を緩 和 時 間(relaxation
time)と
い う.い まの 場 合 は,外 力 が 働 い て い る非 平 衡
状 態 の平 均 速 度 か ら熱 平 衡 状 態 の 平 均 速 度 へ 戻 る過 程 で あ り,上 式 は衝 突 の緩 和 過 程 を表 して い る.衝 突 の緩 和 時 間 は,衝 突 時 間(平 均 寿 命)τcに 等 しい.
7.5
拡 散 流 と ド リ フ ト流
式(7.3.6)の 拡 散 係 数D=kBTτc/m,お τcF/mに
よ び 式(7.4.2)の
含 ま れ る 衝 突 時 間 τcは同 じ意 味 を持 つ .そ
ド リ フ ト速 度υd=
こ でτcを 消 去 し,ま た 式
(7.1.5)を 用 い る と,次 の 式 が 得 られ る.
(7.5.1) μ は移 動 度 で あ る.こ の 式 は 同種 類 の 粒 子 の 拡 散 係 数 と移 動 度 を結 ぶ 関 係 式 で あ る. 拡 散 流 と ド リフ ト流 が 同 時 に存 在 す る こ と もあ り得 る.こ の と きの 流 れ は, (7.5.2) で 表 され る.
7.6
非 定 常 流 ・流 れ の 連 続 方 程 式
固体 内 で 密 度 勾 配 や外 力 が 一 様 で な い 場 合 は,流 れ粒 子 の 密 度,し
たが って流
れ は空 間 的 時 間 的 に一 定 とは な ら な い で 非 定 常 流 とな る.こ の とき は 図7 .6.1の よ うに,微 小 区間Δxへ る.j(x)>j(x+Δ)の
の 単 位 時 間 の 流 入 量j(x)と
と き,
流 出量j(x+Δx)に
差が生 ず
〓と展 開 す る.右 辺 はΔx内
にお け る単 位 時 間 当 た りの 流 れ 粒 子 の 蓄 積 量 で あ るか ら,∂n/∂t・Δxと 書 け る.し た が って,
(7.6.1) の 関係 式 が 得 られ る.こ れ は,固 体 中 を 通 過 す る粒 子 の流 れ が 時 間 的 に も空 間 的 に も連 続 す る た め に必 要 な条 件 式 で,流 れ の 連 続 方 程 式 とい う. 拡 散 流 の み が 存 在 す る 場 合 は,式 (7.3.5)が 固 体 中 の す べ て の 位 置,す べ て の時 刻 に お い て成 立 す る もの と して代 入 す る と,
(7.6.2) とな る.こ の 式 は拡 散 方 程 式 とい わ れ る. 図7.6.1
非 定 常 流
物 体 の 一 部 分 に一 時 的 に注 入 され た粒 子 の 拡 散 の挙 動 な ど は,こ の 方 程 式 で解 析 され る. 拡 散 流 の ほ か に ドリ フ ト流 も存 在 す る と き は,次 の よ う に表 さ れ る.
(7.6.3) さ ら に,考
え る微 小 領 域 内 で 粒 子 が 新 た に 発 生 し た り,あ る い は消 滅 し た りす
る よ う な こ とが あ る な らば,そ の発 生 速 度 をG,消
滅 速 度 をRと
置 く と,粒 子 粒
の 流 れ の 連 続 方 程 式 は,次 の よ う に表 さ れ る. (7.6.4)
8. 熱 的 性 質
固体 の熱 的性 質 で は,比 熱 と熱 伝 導 を 主 要 な対 象 とす る.こ れ らは格 子 原 子 の 熱 振 動 と固体 内 自 由電 子 の 熱 運 動 に 関係 す る.格 子 原 子 の振 動 は,原 子 変 位 の波 動 を生 じる.こ の格 子 波 動 は,量 子 化 さ れ て仮 想 粒 子フォ ノ ンの 概 念 が 導 入 さ れ る.そ
こで,熱 的性 質 は 固体 内 のフォ ノ ン と電 子 の 集 団 が 示 す性 質 と して 解 析 さ
れ る.絶 縁 体 や半 導体 で はフォ ノ ン,金 属 で は電 子 が 主 に関 与 す る.比 熱 はフォ ノ ンや 電 子 の熱 的平 衡 状 態 が 示 す 性 質 で あ り,熱 伝 導 は熱 的 非 平 衡 状 態 が 示 す 性 質 で あ る.
8.1
格子 振動の モー ド
固体 内各 原 子 は,熱 エ ネ ル ギ ー に よ り格 子 点 を 中心 に して 振 動 変 位 し て い る. そ の エ ネ ル ギ ー はkBT程
度 で あ る.kBT=hν
か ら振 動 数ν は室 温 で1012Hz程
度 と見 積 られ る.各 原 子 は結 合 力 で連 結 され てい る の で,1つ
の原子 の振動 はそ
の結 合 を通 じて 固体 全 体 に伝 わ る振 動 状 態,す な わ ち,波 動 が 生 ず る. 空 気 中 を伝 わ る音 波 は,自 由 な空 気 分 子 が 波 動 の 進 行 方 向 に 平 行 に変 位 す る縦 波(londitudinal
wave)の
振 動 の み で あ る.
一 方,固 体 中 で は 各 格 子 原 子 の 熱 振 動 に よ る変 位 の 自由 度 は3つ め,波 動 の 進 行 方 向 に 垂 直,か (transversal wave)の
つ 互 い に 直 角 な2つ
あ る.こ の た
の 方 向 に も変 位 す る 横 波
振 動 も生 ず る.こ の た め1つ の波 動(1つ
の 波 長,1つ
の
振 動 数)に 対 して3つ の 波 動 の状 態(ま た は振 動 状 態)が 存 在 し得 る.固 体 内 原 子 数 がN個
で あ る と き,総 状 態 数 は3N個
動 状 態 につ い て,1つ
を越 え る こ と はな い.な お,1つ
の波
の 古典 的 振 動 子(単 振 動 子,調 和 振 動 子)を 対 応 させ る こ
とが で き る. な お,波 動 の移 動 速 度 に は縦 波 速 度υLと 横 波 速 度υTが あ り,一 般 に は等 し く
な い. 単 位 格 子 中 に2個 の 原 子 が存 在 す る とき の1次 元 原 子 配 列 の 振 動 の 変 位uは, 単 位 格 子 内 の 隣 接 原 子(イ う に な る.○
オ ン)の 振 動 の 位 相 まで 考 え る と,図8.1.1に オ ン)は,同
一 種 で も異 種 で も差 支 え な い.横 波 は
進 行 方 向 に直 角 な 振 動 の 自 由度 が2つ(進
行 方 向 をzと す る と,そ れ に互 い に直
角 なx,y方
と● の 原 子(イ
示すよ
向 の 振 動)あ
るか ら格 子 振 動 モ ー ド(振 動 の型,振 動 の 状 態)の
数は
6つ で あ る.
図8.1.1
格 子 振 動 モ ー ド(uは
原 子 変 位 の 大 き さ)
(単位格子 に2個 の原子●○があ る場合)
① LAモ
ー ド(londitudinal
acoustic
波 の 進 行 方 向 に 平 行 な 振 動 で,隣 ② LOモ
ー ド(londitudinal optical
ー ド(transversal
mode,縦
波 光 学 モ ー ド)
接 原 子 は 逆 向 き に 変 位 す る.
acoustic
波 の 進 行 方 向 に 直 角 な 振 動 で,隣
波 音 響 モ ー ド)
接 原 子 は 同 じ 向 き に 変 位 す る.
波 の 進 行 方 向 に 平 行 な 振 動 で,隣 ③ TAモ
mode,縦
mode,横
波 音 響 モ ー ド)
接 原 子 は 同 じ 向 き に 変 位 す る.モ
2つ. ④ TOモ
ー ド(transversal optical
mode,横
波 光 学 モ ー ド)
ー ド数 は
波 の 進 行 方 向 に直 角 な振 動 で,隣 接 原 子 は 逆 向 きに 変 位 す る.モ ー ド数 は2 つ.
音 響 モ ー ドの名 は,音 波 の場 合 の 原 子 変 位 と位 相 関 係 に対 応 す る こ と,ま た, 光 学 モ ー ドの名 は,図 中 の ○ ● が そ れ ぞ れ正,負
イ オ ンの と き,そ れ に よ る電 気
双 極 子 の 振 動 に よ っ て光 の 吸収 が 起 こる こ とに 基 づ い て い る.
8.2
結 晶格 子の振動状 態
(1) 1次 元 格 子 振 動 質 量mの
原子 の 調 和 振 動 子 を考 え る.原 子 の変 位 がuで
あ る と き,uに
比例 す
る復 元 力 が 働 くと考 え る.す なわ ち,フ ッ クの 法 則 が成 り立 つ とす る.β を比 例 定 数 とす る と,運 動 方 程 式 は
(8.2.1) で あ る.振 動 関 数u=Aexp(iωt)は
明 ら か に1つ
の 特 解 で あ る の で,こ
れ を入 れ
る と,
(8.2.2) が 得 られ る.調 和 振 動 子 の 角 周 波 数 は一 定 で,ω0を 固 有 振 動 数 とい う. 次 に,質 量mの を考 え る.図8.2.1の
同 種 類 の 原 子 が 等 間 隔aで よ う に,LAモ
図8.2.1
配 列 さ れ た1次
元単純 格子 の振動
ー ドで変 位 す る場 合 を 考 え る.あ る原 子 が 変
1次 元格 子 の 振 動
位 す る と,両 隣 の 原 子 との 結 合 に よ る引 張 り力 が 働 く.こ れ を フ ッ クの 法 則 の 形 で 表 して比 例 定 数 を β とす る.n番 はx方
向 に,n-1番
位 をunと
目 の原 子 に対 して,n+1番
目 の 原 子 に よ る力 は-x方
目 の 原 子 に よ る力
向 に働 くか ら,n番
目の 原 子 の 変
す る と,運 動 方 程 式 は,
(8.2.3) で 表 さ れ る.こ
の 方 程 式 の 解 は 波 動 関 数,u(x,t)=Aexpi(kx-ωt)の
る と 考 え る.い
ま の 場 合,x=naで
形 を有 す
あ るか ら
(8.2.4) と し て 式(8.2.3)に
入 れ る と,
(8.2.5) と な る.こ
れか ら
(8.2.6) が 得 ら れ る.ω は 正 の 値 で あ る か らsinは
図8.2.2
絶 対 値 を と る.図8.2.2は,ω
1次 元 単 純 格 子 の 振 動 数 と波 数
と 波 数k
との関 係 を示 す.ω
はk依 存 性 が あ り,k=±
π/aで 最 大 値ωmを 示 し,
(8.2.7) で あ る.式
の 形 式 上 はk=±3π/a…
以 下 の 波 長)の
で も 最 大 値 と な る が,k=±
波 は,-π/a≦k≦+π/aの
の た め,こ
の 領 域 は 還 元 帯 域(reduced
(Brillouin
zone)と
い わ れ,よ
π/a以 上(λ=2a
領 域 の 波 と 同 等 の 原 子 変 位 を 与 え る.こ zone),あ
り大 き いkの
る い は 第1ブ
リュ ア ンゾ ー ン
領 域 は 順 次 に 第2,第3ブ
リ ュア ン
ゾ ー ン と い わ れ る. 以 上 の よ う に,格 の 分 布(分
散)を
一 般 に,波 度υ=ω/kで
子 原 子 の 熱 振 動 に よ る 波 動 は 単 振 動 子 と は 異 な り,振
生 じ,ま
た,最
の 速 度 が 波 長(振
大 振 動 数ωmが 動 数)に
存 在 す る.
よ っ て 変 わ ら な い と き は,速
与 え ら れ る が,格 子 振 動 で は 図8.2.2の
に 依 存 す る か ら,波
動数 ω
度 は位相速
よ う に 速 度 ω/kがk(波
長)
動 が 実 際 に 伝 搬 す る速 度 は 群 速 度
(8.2.8) で 与 え ら れ る.波
長 が 短 くな る と速 度 は 遅 く な り,最
逆 に 波 長 が 格 子 定 数aよ
りか な り長 く て,k≪1/aな
大 振 動 数ωmで0と
な る.
ら ばsinka/2≒ka/2で
あ
る か ら,
(8.2.9)
とな る.す な わ ち,速 度 は波 長 に よ らず 一 定 とな る.波 長 が格 子 定 数 よ りか な り 長 い こ と は,原 子列 を連 続 媒 体 とみ な せ る こ とで あ る の で,こ の領 域 の 波 動 は 弾 性 波,移 動 速 度 は音 速 とい わ れ る. エ レ ク トロ ニ ク ス で は,固 体 中 に お け る音 波 信 号 の伝 送 を取 り扱 う分 野 が あ る. 実 際 に 発 生 可 能 な 音 波 の 最 高 周 波 数 は 約100GHz,波 が,こ れ で も波 長 は原 子 間 隔3A程
長 で 約300A程
度 と比 べ て か な り長 く,k=0の
度である
付近 にあるか
ら,固 体 は連 続 媒体 と み なせ る領 域 で あ る.こ れ に対 し固体 中 の 原 子 振 動 に よ る
波 動 の 振 動 数 は1013Hz近
く まで 分 布 して い る の で,連 続 媒 体 と は み な せ な い.
以 上 で は,単 位 格 子 に1個 の 原 子 を含 む場 合 に つ い て 考 えた が,単 位 格 子 に複 数 の 同 一 原 子 を 含 む 場 合(例 場 合(例
え ば,Si)や
え ば,NaCl)は,8.1節
質 量 が 異 な る数 種 の 原 子 ・イ オ ン を含 む
で 述 べ た よ うな さ ま ざ ま な モ ー ドが 出 現 す る の
で複 雑 とな る.
(2) 3次 元 格 子 振 動 この場 合,速 度 が 一 定 でυ=ω/kと
仮 定 す る.固 体 の 大 き さVが
有 限 で定 在 波
が立 つ とす る と,波 数 で 表 した状 態 密 度 は式(5.3.11)で 与 え られ る.た だ し,1 つのkに は3倍
対 し2つ の横 波 と1つ の縦 波 が 同 じエ ネル ギ ー を取 り得 るの で,状 態 数 し,
(8.2.10) と表 さ れ る.こ れ を ω の 状 態 密 度 で 表 す と,
(8.2.11) とな る.た だ し,簡 単 化 の た め にυ は縦 波 速 度υLと 横 波 速 度υTの 平 均 の 速 度 と した.な
8.3
お,ω の 分 布 に は1次 元 と同 様 に,最 大 値 ωmが 存 在 す る は ず で あ る.
格 子振 動 エ ネ ル ギ ー
これ ま で格 子 振 動 を波 動 の形 の み で 取 り扱 っ て きた が,そ エ ネ ル ギ ー に よ る振 動 で あ る.そ
もそ も格 子 振 動 は熱
こで,電 磁 波 のエ ネ ル ギ ー が 量 子 化 さ れ た もの
が光 子 で あ る こ とに対 応 し,格 子 振 動 波 の エ ネ ル ギ ー を量 子 化 した 粒 子 を考 え る. これ をフォ ノ ン(phonon,音
子,音 響 量 子)と
い う.フォ
ノ ン は,エ ネ ル ギ ー は
量 子 化 され る と い う事 実 か ら導 入 され た仮 想 粒 子 で あ っ て,実 粒 子 で は な い.単 位 格 子 中 に複 数 の 原 子 が あ る と き は,振 動 モ ー ドに 対 応 し てTAフォ フォノ ン,LAフォ 光 子 と同様 に,1個
ノ ン,LOフォ
ノ ン,TO
ノ ンな どが存 在 す る.
のフォ ノ ンの エ ネ ル ギ ー は 零点 振 動 を省 略 してE=hω,ま
た運 動 量 はp=hk=hω/υ
で 与 え られ る.ω は1つ の モ ー ドの格 子 振 動 数,υ
は
そ の格 子 振 動 に よ る波 動 の移 動 速 度 で あ る.こ の 仮 想 粒 子 は,物 質 粒 子 で は な い. 発 生 と消 滅 の た め に その 数 は 不 定,互
い に 区別 で き な い,磁 気 モ ー メ ン トが ゼ ロ
な どの性 質 か ら光 子 と同 様 に,次 の ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タイ ン統 計 分 布 関 数fBEに 従 うス ピ ン量 子 数 が1の
ボ ー ズ 粒 子 と して 取 り扱 わ れ る.す な わ ち,
(8.3.1) こ の 式 は 温 度Tに
お い て,量 子 化 さ れ た エ ネ ル ギ ーhω
を1個
の フ ォ ノ ンが 占 め
る 確 率 を 表 す. 温 度Tに
お い て,1つ
る フ ォ ノ ン 数n(ω,T)dω
の 波 動 状 態 の 密 度 がz(ω)dω は,次
で あ る と き,そ
こ に存 在 す
式 で 与 え ら れ る.
(8.3.2) し た が っ て,エ
ネル ギーは
(8.3.3) で 与 え ら れ る.状 れ て い る が,エ る 体 積V中
態 密 度 は 式(8.2.11)で
与 え ら れ る.振
動 エネルギ ーは量子化 さ
ネ ル ギ ー 準 位 分 布 は ほ ぼ 連 続 と し て 良 い.そ
こ で,温
度Tに
おけ
の 全 格 子 振 動 に よ る エ ネ ル ギ ー,つ ま り格 子 の 熱 エ ネ ル ギ ー は 全 フ ォ
ノ ン の エ ネ ル ギ ー と して,次
の 積 分 形 で 表 さ れ る.
(8.3.4) しか し,実 際 に は振 動 数 は ∞ まで は存 在 し な い.こ の 積 分 の 上 限,す な わ ち格 子 振 動 の 最 大 振 動 数 は次 の よ う に して決 め る. N個
の原 子 に対 し許 され る 全振 動 モ ー ド数 は3N,す
る全 状 態 数 は3Nで
な わ ち フ ォ ノ ンが 占 め得
あ る.そ こ で,あ る振 動 数 ωDま で の許 され る振 動 状 態 が す べ
て励 起 され て い る と仮 定 して,式(8.2.11)を0か 等 しい とす る(図8.3.1).す
な わ ち,
ら ωDま で 積 分 し た値 を3Nに
(8.3.5) とす る.こ れ か ら最 大 振 動 数 と して
(8.3.6) が 得 ら れ る.こ
の よ う に し て定 義 され た
ωDを デ バ イ(Debye)振
動 数 と い う.ま
た,
(8.3.7) で 定 義 さ れ る 温 度ΘDを 式(8.3.6)を
デ バ イ温 度 と い う.
式(8.3.4)に
限 を ωDと す る と,格 Ethは,ωDを
入 れ,積
分上
図8.3.1
状 態 密 度z(ω)と
最 大 振 動 数 ωD
子振動 エ ネルギ ー
含 む 次 の よ うな 式 で与 え ら
れ る.
(8.3.8) こ こ で,x=hω/kBT,xD=hωD/kBT=ΘD/Tと
置
く と,
(8.3.9) とΘDを 含 む式 で 表 され る. デバ イ 温 度ΘDは 物 質 ご とに異 な る値 を有 し,後 に述 べ る よ う に,比 熱 や 音 速 の 測 定 か ら決 め られ て い るが,そ
の値 か ら次 の よ う に さ ま ざ ま な情 報 が 得 られ る.
式(8.2.7)に 戻 って み る と,原 子 間 結 合 力 が 大 き くて硬 く,融 点 が 高 い物 質,あ る い は原 子 質 量 が 小 さ く,軽 い物 質 で は ωDが 大 き く,し た が っ てΘDが 高 い.ま た,式(8.3.6)か
ら原 子 密 度 が 高 く,音 速 が 高 い物 質 はΘDが 高 い.ま た,温 度T
に お け る 自由 な1個
の振 動 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー がkBT程
度 で あ る こ と と対 比 す
る と,結 晶 格 子 の場 合 は,温 度ΘDに お け る フ ォ ノ ン の平 均 エ ネル ギ ー はkBΘD程 度 と考 え る こ とが で き る. 普 通 の 温 度 で は,ωD付 近 の振 動 が 多 数励 起 され て い る結 晶 が 多 い の で,kBΘDは
普 通 の 温 度 に お け る フ ォ ノ ン の 平 均 エ ネ ル ギ ー の 近 似 値 と み て 良 い.ま ノ ン の 波 長 は2a程
度,波
表8.3.1は,ΘDの
数 はk=π/a程
8.4
ォ
度 と み て 良 い.
典 型 例 を 示 す.ΘDが
表8.3.1
た,フ
数100K程
度 の 物 質 が 多 い.
物 質 の デ バ イ温 度
格子比 熱
物 体 の温 度 を1K上
昇 させ る の に要 す る 熱 エ ネ ル ギ ー(熱 量)を,そ
熱 容 量 とい う.単 位 質量 の物 質 の 温 度 を1K上 を,そ の物 質 の 比 熱Cと 固 体 で は,1K当
の物 体 の
昇 させ るの に要 す る熱 エ ネル ギ ー
い う.単 位 は 〔J/kg・K〕,ま た は 〔cal/kg・K〕で あ る.
た りの 格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー が 比 熱 で あ る.比 熱 に は,一 定 気 圧 下
にお け る定 圧 比 熱Cpと,温
度 が 変 化 して も体 積 は一 定 とす る定 積 比 熱Cυ が あ
る.温 度 が 上 昇 す る とCpがCυ
よ り若 干 大 き くな る.測 定 は一 般 に定 圧 下 でCp
が 測 定 され るが,理 論 的 解 析 で は体 積 膨 張 を考 え な いCυ を取 り扱 う. また,単 位 質 量 の代 わ りに物 質1モ ル を1K上 モ ル 比 熱Cmo1〔cal/mol・K〕 増 加 す る熱 エ ネ ル ギ ー,つ
昇 さ せ るの に要 す る熱 量 を定 積
とい う.こ れ は1原 子 また は1分 子 当 た りの1Kで ま り原 子 ・分 子 の 熱 容 量 に比 例 す る.ま た,単 位 体 積
当 た りの 比 熱 を体 積 比 熱Cv〔J/m3・K〕
とい う.密 度 をd〔kg/m3〕
とす る と,Cv
=Cυ ・dで あ る.以 下 で は,主 に定 積 比 熱Cυ を取 扱 い,単 に比 熱Cで さて,ω と ω+dω の 間 の振 動 の 比 熱 に対 す る寄 与 は,式(8.3.4)を
表 す.
温 度Tで
微
分 して,
(8.4.1)
で あ る. し た が っ て,比
熱 は
(8.4.2) で 表 さ れ る. モ ル 比 熱Cmolに
つ い て は,NAを
体 定 数 と す る と,NkB=NAkB=Rで
ア ボ ガ ド ロ(Avogadro)数,Rを1モ あ り,さ ら に 式(8.3.9)を
ル の気
導 い た と き と 同 じ変
数 置 き 換 え を す る と,
(8.4.3) が 得 ら れ る.こ の 式 は デ バ イ の 比 熱 の 式 と い わ れ,物 含 む か ら,T/ΘDを
変 数 と し た と き のCmolの
温 度 特 性 曲 線 は,図8.4.1に
に,す べ て の 物 質 で 同 一 曲 線 に な る は ず で あ る.多 適 当 なT/ΘDの な 各 物 質 のΘDが 特 に,T≫ΘDの
質 定 数 と し て はΘDの
み を
示す よう
く の 物 質 の 比 熱 の 測 定 結 果 は,
値 を 選 ぶ と 理 論 曲 線 と一 致 す る.こ れ か ら,表8.3.1に
示 した よ う
求 め ら れ て い る. 高 温 の と き はxが
図8.4.1
小 さ い か ら,式(8.3.9)の
デ バ イの 比 熱 曲 線
積 分 はx2の
積 分で
近 似 さ れ,Eth=3RTが
得 ら れ る.し
Cmol≒3R≒6〔cal/K・mol〕 ら,す
≒25〔J/K・mol〕
べ て の 物 質 の モ ル 比 熱 は3Rで の 法 則 と 一 致 す る.ま
(8.3.9)の
た が っ て,高
積 分 値 は π4/15と
と な る.こ
あ る,と
た,T≪ΘDの
れ は物 質 定 数 を含 ま な い か
い う デ ュ ロ ン ・プ テ ィ(DulongPetit) 低 温 で はxD=∞
と 置 け る の で,式
な り,
とな る.す な わ ち,比 熱 は低 温 で はT3に
8.5
温 に お け る 比 熱 は 一 定 値 で,
比 例 す る.こ れ も実 験 結 果 と一 致 す る.
格子 熱伝導
物 質 中 に温 度 勾 配dT/dxが
存 在 す る と き,高 温 部 か ら低 温 部 へ熱 エ ネル ギ ー が
伝 導 す る.熱 エ ネ ル ギ ー の キ ャ リア はフォ ノ ン お よ び電 子 で あ る.こ こ で は,フ ォノ ンに よ っ て熱 エ ネ ル ギ ー が運 ばれ る熱 伝 導― 格 子 熱 伝 導― に つ い て 述 べ る. この 熱 伝 導 は,伝 導電 子 数 が 少 な い電 気 絶 縁 体 や 半 導体 にお い て支 配 的 で あ る. フォ ノ ン の 密 度 をn,平 dEth/dx=d(nε)/dxで
均 エ ネ ル ギ ー を εと す る と,熱 エ ネ ル ギ ー 勾 配 は
表 され る.微 小 な領 域Δxの
両 端 に お け るエ ネル ギ ー 差 を
ΔEth,Δxの 間 の 温 度 勾 配 を一 定 とす る と,
(8.5.1) と表 され る. 一 方,Δxの 両 端 に お け る温 度 差 をΔTと 積 比 熱Cvを
考 え る と,Cv=dEth/dTで
し,比 熱 はフォ ノ ン密 度 に対 応 し て体
あ るか ら,Δxの 両 端 に お け る エ ネ ル ギ ー
差 は, (8.5.2) と 書 か れ る.式(8.5.1)と
式(8.5.2)は
等 し い.
フォ ノ ン は そ の 拡 散 の 平 均 自 由 行 程l以
内 で は散 乱 を受 け ず にエ ネル ギ ー を運
ぶ.1個
のフォ ノ ン がx方
向 にlだ け移 動 す る と き に運 ぶ エ ネ ル ギ ー は,エ ネ ル
ギ ー 等 分 配 則 か ら ε/3で あ る か ら,x方 で あ る.そ
こで,Δx=l,フォ
向 に移 動 す るフォ ノ ン 全 体 で はΔEth/3
ノ ンの 速 度 をυ とす る と,単 位 時 間 に 単位 面 積 を
通 過 して運 ば れ る熱 エ ネ ル ギ ー,す
なわ ち熱 流jQは
(8.5.3)
で 与 え られ る.式(8.5.3)は
熱 伝 導 の 式 とい わ れ る.拡 散 す るフォ ノ ン粒 子 が 熱 を
運 ぶ と考 えた ので,拡 散 流 の 式(7.3.5)と 同 じ形 とな っ て い る.κ は熱 伝 導 率 で拡 散 係 数 に対 応 して い る.Cvは1個 もの で あ るか ら,フォ の 速 度,つ
のフォ ノ ン の 熱 容 量cにフォ
ノ ン数 が 多 く,フォ
ノ ン数 を 掛 け た
ノ ンの 平 均 自由 行 程 が 長 く,フォ ノ ン
ま り波 動 の 速 度 が 大 きい ほ ど熱伝 導 率 が 大 きい.ま
た,こ
の式 は位 置
xと時 間tを 含 ま な い か ら,物 体 中 の 温 度 勾 配 が 一 定 に保 た れ る な ら ば,物 体 中 ど こで も一 定 な熱 エ ネ ル ギ ー流jQが 定 常 的 に 流 れ る こ と を示 して い る. 温 度 勾 配 が 物 体 中 で 一 定 で な い とき は,熱 エ ネ ル ギ ー 流 は 定 常 流 で は な くな る. この場 合 の 熱 エ ネ ル ギ ー 流 の連 続 は,式(7.6.1)でnをnε=Ethに,jをjQに
置き
換 えて
(8.5.4) で 表 さ れ る.左 のxに
辺 に お い て 式(8.5.2)の
お い て,式(8.5.3)が
関 係 を 考 慮 し,ま
た,す
べ て のt,す
べて
成 立 す る と し て 右 辺 に 入 れ る と,
(8.5.5)
が 得 られ る. こ の式 は熱 伝 導 方 程 式 とい わ れ,拡
散 方 程 式 と同 形 で あ る.物 体 の一 部 に短 時
間 熱 を加 えた 後 の 熱 伝 導 の 時 間 的 空 間 的 変 化 な ど は,こ の 式 を解 い て 求 め られ る.
Kは
温 度 伝 導 率 あ るい は熱 拡 散 率 とい わ れ る.K(が
小 さ い と熱伝 導 が 低 下 し,ま
た 温 度 の時 間 変 化 が 小 さ くな り,定 温 に保 た れ る よ う に な る.つ ま りそ の よ う な 物 質 は保 温 材 とな る. 格 子 熱 伝 導 率 κを支 配 す る の は,式(8.5.3)に る.フォ
よ り比 熱 とフォ ノ ン の 散 乱 で あ
ノ ン散 乱 に 関係 す る因 子 は,格 子 欠 陥,結 晶 粒 界 な どの 各種 欠 陥 や 表 面
な ど,お よ びフォ ノ ン同 士 の 衝 突 す な わ ち格 子 波 動 間 の相 互 作 用 に よ る散 乱 で あ る.さ
らに伝 導 電 子 密 度 が 大 き い場 合 に は,フォ
ノ ン と電 子 との相 互 作 用 に よ る
散 乱 が 加 わ る. フォ ノ ン同 士 の散 乱 は,図8.5.1(a)の のフォ ノ ンの 波 数 ベ ク トル をk1,k2と を生 ず る.こ の 第3フォ あ り,ま た,エ
よ う に 表 さ れ る.互 い に衝 突 す る2つ す る.衝 突 は新 た な格 子 振 動(フォ
ノ ン)
ノ ンの 波 数 ベ ク トル は,運 動 量 保 存 則 か らk3=k1+k2で
ネ ル ギ ー も保 存 され る の で,こ
の衝 突 を繰 り返 す こ とに よ っ て フ
ォ ノ ン系 の 熱 平衡 が 達 成 され る.
(a) 正常 散 乱
(b) ウム ク ラ ッ プ散 乱 図8.5.1 フォ
ノ ンの 衝 突 散 乱
温 度 が 低 くな る とフォ ノ ン数 が 少 な いの で,フォ ォ ノ ンの 平 均 自 由行 程lが
ノ ン 同 士 の散 乱 も少 な く,フ
長 くな るの で κは大 き くな る.し か し,さ ら に低 温 に
な る と,格 子比 熱CがT3に
比 例 して 小 さ くな るの で,κ はT3に
比 例 し て減 少 す
る. 温 度 が 高 くな る と比 熱Cが を支 配 す る.フォ で,kは1/Tに
ほ ぼ 一 定 とな るの で,フォ
ノ ン平 均 自 由行 程lが
κ
ノ ン数 は 温 度 に比 例 して 増 大 し,欠 陥 との衝 突 数 が増 加 す るの 比 例 して減 少 す る.通 常 の 温 度 域 で は,こ の よ う な温 度 依 存 性 を
示 す.表 面 に よ る 散 乱 も同様 で あ る が,表 面 の 影 響 は 固体 の 寸 法 がlよ
り小 さい
と き に顕 著 に な る. さ ら にT≧ΘDに
な る と,フォ ノ ン数 は非 常 に 多 くな る の で,フォ ノ ン同 士 の衝
突 に よ る影 響 が 大 き い.ま た,k1,k2も
大 き くな るの で,図8.5.1(b)の
k3の 熱 伝 導 方 向 の 成 分 の 大 き さが π/aよ り大 き くな る こ とが あ る.8.2節 た よ う に,こ れ は ω がkの
よ う に, で述 べ
周 期 関 数 で あ る こ とか ら,還 元 領 域 のk3-2π/a=kuの
大 き さ のフォ ノ ン と同 等 で あ る.kuは す るフォ ノ ン で あ る.こ の 散 乱 は,フォ
図 の よ うに,伝 導 の 向 き と は逆 向 きに運 動 ノ ンの ウ ム ク ラ ップ(Umklapp,急
旋回
の 意)散 乱 過 程 と いわ れ,負 の 熱 伝 導,言 い換 え る と熱 抵 抗 を生 ず る こ と に な る. 散 乱 角 は π に近 くな る の で 大 きな 熱 抵 抗 を生 ず る.こ の 過 程 で も κは1/Tに
比
例 して 減 少 す る. なお,図8.5.1に
お い て,例 え ばk2,k3,kuを
電 子 波 のkに
置 き換 え る と,こ の
図 はフォ ノ ン に よ る電 子 の 衝 突 散 乱 を表 す こ と に な る.
8.6
電 子 に よ る熱 的 性質
電 子 はkBT程
度 の 熱 エ ネ ル ギ ー を有 す る の で,絶 縁 体 や 半 導体 よ り も伝 導 電 子
数 が は る か に 多 い 金 属 で は,電 子 に よ る熱 的性 質 を考 え な けれ ば な ら な い.な お, 解 析 に は9章 で 述 べ る知 識 が 多 少 と も必 要 と な る の で,9章
の読 了 後 に読 み 直 し
て ほ しい.
(1) 電 子 比 熱 金 属 内 に は 多 数 の伝 導 電 子 が 存 在 す るの で,そ れ に よ る比 熱 も大 き い と考 え ら れ るが,実
際 に はフォ ノ ン に よ る比 熱,つ
金 属 内伝 導 電 子(自 ーEF付 ギ ーEFを
ま り格 子 比 熱 よ り もず っ と小 さい.
由 電 子)の 密 度 分 布 の 温 度 変 化 は,主
近 で生 じて い る(図9
に フ ェル ミエ ネル ギ
.1.12参 照).そ の 変 化 の 大 部 分 は,フ ェ ル ミエ ネル
中心 と し て,ほ ぼkBTの
幅 に 分 布 し て い る電 子 状 態 を 占 め る電 子 に よ
る もの と考 えて 良 い.こ の 幅 の 中 に 存在 す る電 子 数 を見 積 っ て み る.金 属 内 に お け る 自 由電 子 の 状 態 密 度 は,9章
の 式(9.1.11)か
ら
(8.6.1) で与 え られ る.EF付
近 に お け る状 態 密 度 は,こ の 式 でE=EFと
与 え られ る.ま た,こ の 付 近 で 分布 関 数fFD(E)=1と
置 い たz(EF)で
す る と,熱 エ ネル ギ ー で変 化
し得 る電 子 数 は,ほ ぼ
(8.6.2)
で 与 え ら れ る. 一 方,金
属 内 の 全 自 由 電 子 数Nは
式(8.6.1)か
ら
(8.6.3) と な る か ら,
(8.6.4) とな る.金 属 で はn/Nの
値 は小 さ い.例 え ば,EF=5〔eV〕,T=300〔K〕
比 熱 に 関与 す る電 子 数 は全 自由 電 子 数 の1%弱
の と き,
と見 積 られ る.
式(8.6.2)で 表 さ れ る電 子 群 中 の 各 電 子 が,温 度Tに
おいて平均 熱エ ネルギー
kBTを有 す る とす る と,こ の電 子 群 の 全 熱 エ ネ ル ギ ー は, (8.6.5) で あ る.こ れ をTで
微 分 し て電 子 体 積 比 熱 は,
(8.6.6) で 与 え られ る. な お,EFの
温 度 変 化 ま で 考 慮 し た 詳 し い 計 算 に よ れ ば,γ=π2/3×4EF1/2kB2と
な る が 大 差 は な い.Ceの 算 す る と,Cemolの
値 は 小 さ い.例
値 は ほ ぼ0.2J/K・molと
え ば,EF=5〔eV〕,T=300〔K〕 な り,格 子 比 熱Cmolの1%弱
こ れ か ら 電 子 比 熱 の 全 比 熱 に 対 す る 寄 与 は 小 さ い こ とが 分 か る.
と して計 で あ る.
(2) 電 子 熱 伝 導 金 属 中 の伝 導 電 子 に よ る熱 伝 導 率 は,次 の よ うに 式(8.5.3)と 同 形 に書 く こ とが で き る.
前 項 で 述 べ た よ う に,金 そ の 速 度υ はEF=(1/2)mυF2か 突 時 間 をτcと す る と き,平 (8.6.6)を
代 入 し,ま
属 の 熱 的 性 質 に 関 係 す る の はEF付 ら 与 え ら れ るυFで 均 自 由 行 程 はl=υFτcで
た,式(8.6.4)を
用 い る と,電
近 の 電 子 で あ り,
あ る.ま あ る.こ
た,電
子 の平 均 衝
れ らの 関係 お よび 式
子熱伝導率 は
(8.6.7) と表 され る.金 属 で は比 熱 に関 係 す る電 子 数nの
全 電 子 数Nに
さ い た め に 電 子 比 熱 は小 さい が,熱 伝 導 で は全 電 子 数Nが リア とな るnの
対 す る割 合 が 小
大 きい た め に熱 の キ ャ
絶 対 数 は非 常 に 多 い.ま た,フ ォ ノ ンの 波 数kは
伝 導電 子 の 波 数
kと同 程 度 の 大 き さ で あ るの で,フ ォ ノ ン と電 子 は大 き く相 互 作 用 して,そ れ ぞれ 強 く散 乱 され て 金 属 の格 子熱 伝 導 は非 常 に小 さ くな る.こ の よ うな事 情 の た め に, 金 属 で は普 通 の 温 度 で は電 子 熱伝 導 が 格 子 熱 伝 導 を上 回 る.し か し,結 晶性 や 純 度 が 低 い場 合,あ
る い は低 温 の場 合 に は,格 子 熱 伝 導 も無 視 で き な くな る.
次 に,金 属 は 電 子 に よ る熱 伝 導性 と電 気 伝 導性 が 共 に 高 い の で,両 者 の 間 の 関 係 を調 べ る.電 気 伝 導 の場 合,電 界 を印 加 す る と全 自 由電 子N個 導 電 率 σは11章
が 加 速 さ れ る.
で述 べ る よ う に,
(8.6.8) で表 され る.qは
素 電 荷 量 で あ る.
電 子 熱 伝 導 率 κeとの 比 を取 る と,
と な る.こ
の 式 は,電
気 良 導 体 で は 熱 伝 導 率 と 導 電 率 は 比 例 関 係 に あ り,か
そ の 比 は 温 度 に 比 例 す る こ と を 示 し,ヴ Frantz)の れ る.比
法 則 と い わ れ る.比
ィ ー デ マ ン ・フ ラ ン ツ(Wiedemann
例 係 数Lは,ロ
ー レ ン ツ(Lorentz)数
熱 の と こ ろ で 述 べ た よ う な 理 由 か ら,Ceの
=π2/3×(kB/q)2=2
.45×10-8〔w・
つ,
Ω/K2〕 と な る.こ
と もいわ
詳 し い 計 算 値 を 用 い る と,L の 値 は 実 測 値 と か な り 良 く一
致 す る.
8.7
物 質 の熱伝導
格 子 熱 伝 導 と電 子 熱 伝 導 を含 めた 熱 伝 導率 の 温 度 依存 性 の概 要 を図 8.7.1に 示 す.低 温 で は,温 度 上 昇 と と もに比 熱 に比 例 して 上 昇 し,次 に フォノ ンあ る い は電 子 の 平 均 自 由行 程 の減 少,あ
る い は ウム ク ラ ップ散
乱 過 程 に よ り大 き く減 少 す る.普 通 の 温 度 域 で は,温 度 上 昇 に よ る平 均 自由 行 程 の 減 少 と,フォ
図8.7.1
熱 伝 導 率 の 温 度 依 存性
ノンあるい
は 電 子 の 熱 運 動 速 度 の増 加 とが 相 殺 して,熱 伝 導 率 は ほ ぼ 一 定 値 に な る傾 向 を 示 す. 熱伝 導 率 の値 は結 晶 性 の 良 否 や 不 純 物 量 で変 動 す る.概 略 値 を表8.7.1に
示 す.
電 気 絶 縁 体 は,フォ ノ ンの 密 度 と速 度 が 金属 中 の 電 子 密度 と速 度 よ り小 さ い た め, 一 般 に熱 伝 導 率 は金 属 よ り も小 さい
.し か し,ダ イ ア モ ン ドは電 気 絶 縁 体 で あ る
に もか か わ らず,熱 伝 導 率 は金 属 を上 回 る.こ れ はフォ ノ ンの 平 均 自由 行 程 が 大 き い こ と,構 成 原 子 の 炭 素 の 質 量 が小 さい ので デ バ イ 温 度〓Dが 高 く,ウ ム ク ラ ッ プ散 乱 過 程,つ
ま り熱 抵 抗 が 生 じな い こ と な どに よ り格 子 熱 伝 導 性 が 高 い た め
で あ る.非 晶 質 材 料 は,フォ
ノ ン と電 子 の 平 均 自 由行 程 が 特 に 小 さ い の で 熱伝 導
性 が 低 い.ガ ラ ス は そ の代 表 例 で あ る.
表8.7.1 物 質 の熱伝 導率
9. 固体 の 電 子状 態
原 子 ・分 子 の 発 光 や光 吸収 の 波 長 依 存 性 は,線 状 ス ペ ク トル列 を示 す が,固 体 の 発 光 ・吸収 で は,基 本 的特 徴 と して 固体 物 質 固有 の 帯 状 の スペ ク トル が 観 測 さ れ る.こ れ は固 体 を構 成 す る多 数 の 原 子 の エ ネ ル ギ ー 準 位 に は,極 め て 接 近 して 帯状 に分 布 して い る もの が あ る こ と を示 唆 して い る.こ 固体 の 特 徴 で あ る帯 状 の 電 子 準 位 が で きる か を,2つ
こで は,ど の よ う に して
の ア プ ロー チ手 法 に よ っ て
考 え る.ま た,帯 状 の 電 子 状 態 が 固体 の 基 本 的 な光 学 的,電 気 的 性 質 に どの よ う に関 係 す るか を述 べ る.さ
らに,固 体 で は不 純 物 や 格 子 欠 陥 が 含 まれ る と,新 し
い電 子 状 態 が 生 じ るた め に光 学 的,電
気 的 性 質 に も変 化 が起 こ る こ とが 知 られ て
い る.こ れ ら欠 陥 の電 子状 態 を帯 構 造 と関 連 さ せ て 述 べ る. な お,固 体 中 の電 子 は,基 本 物 理 定 数 で あ る 自 由電 子 の 静 止 質 量mと 値 の 有 効 質 量m*で をmと
9.1
は異 な る
挙 動 す る.こ の章 以 降 も,特 に明 記 す る以 外 は 固体 内 電 子 質 量
記 す が,そ れ はm*を
意 味 す る.有 効 質 量 の 詳 細 は,11章
電 子 エ ネ ル ギ ー 帯(エ
で述 べ る.
ネ ル ギ ー バ ン ド)
(1) 孤 立 原 子 の 電 子 状 態 か ら電 子 エ ネ ル ギ ー 帯構 造 へ の ア プ ロー チ 2つ の 同 種 原 子 が互 い に近 寄 っ て分 子 を作 る と き を考 え る.内 殻 電 子 は 原子 核 の近 くに 存 在 す る か ら,そ の軌 道 す な わ ち電 子 状 態 は,ほ とん ど影 響 を受 け な い . しか し,外 殻 電 子 につ い て は両 方 の原 子 核 か ら クー ロ ン引 力 の 相 互 作 用 を受 け る. この た め2つ の 原 子 の 間 で は,ク ー ロ ン ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー は大 き くな る(エ ネ ル ギ ー 準 位 図 で は下 が る).両 者 間 の ポ テ ン シ ャル 高 が 低 下 す る の で 両 方 の外 殻 電 子 の 軌 道 は 広 が り,軌 道 は重 な っ て両 方 の 原 子 に また が る2つ の合 成 軌 道 とな る.つ
ま り,結 合 前 に は そ れ ぞ れ の 原 子 に束 縛 され て い た両 方 の 外 殻 電 子 は,結
合 後 に は原 子 間 に また が る2つ の軌 道 で 動 け る こ と に な る.こ の2つ
の軌 道 の エ
ネ ル ギ ー は 異 な る の で,近
づ く前 に同 一
で あ っ た エ ネ ル ギ ー 準 位 が 近 接 す る と, 2つ の エ ネ ル ギ ー 準 位 に 分 裂 す る こ と に な る. N個
の 同 種 原 子 が 固 体 を 作 る と き は,
こ れ ら 多 くの 原 子 に ま た が り,わ エ ネ ル ギ ー の 異 な るN個 さ れ,図9.1.1の
の軌道 が形 成
よ う に,電
ー 帯(energy
band)が
子 エネルギ
形 成 され る
ス ピ ン 状 態 ま で 含 め る と,1つ の 全 状 態 数 は2N個
ずか に
.±
の帯 の 中
で あ る.こ の 場 合 も,
パ ウ リの 排 他 原 理 は 成 立 し な け れ ば な ら な い の で,エ
図9.1.1
ネ ル ギ ー の 低 い状 態 か ら高
N個 の 孤 立 原 子 か らN個 の 原 子 を含 む 結 晶 へ の 変 化 に 伴 う 外殻 電 子 エ ネル ギ ー準位の変化
い 状 態 へ 電 子 は2個
ず つ 占 め て い く.
エ ネ ル ギ ー 帯 は,電 子 の 占 め得 る電 子 状 態 か ら形 成 され て い るか ら許 容 帯(all owed
band)と
も いわ れ,ま た,帯
と帯 の 間 の 電 子 状 態 が 存 在 しな いエ ネ ル ギー
間 隔 は,禁 止 帯 あ る い は禁 制 帯(forbidden
band)と
い わ れ る.禁 止 帯 の幅 は電
子 に働 くポ テ ン シ ャル に 関係 し,一 般 に結 合 力 が 強 い と幅 が 大 き くな る.あ
る物
質 で は,許 容 帯 と許 容 帯 が 重 な っ て禁 止 帯 が存 在 し な い こ と も起 こ る.以 下,典 型 的 な エ ネル ギー 帯 に つ い て述 べ る. (a) 金
属
1価 金 属Naを る.図9.1.2は,Na原
例 に 取 る.Na原 子 が 隣 接Na原
子 の 電 子 配 置 は(1s)2,(2s)2,(2p)6,(3s)1で あ 子 に近 づ く と きの各 電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー
分裂 の様 子 を示 す.非 常 に近 接 す る と,斥 力 ポ テ ン シ ャ ル の た め電 子 の エ ネ ル ギ ー は急増 す る.図 の 右 は,結 晶 と して実 現 され る間 隔― 原 子 間 隔d― ネ ル ギ ー 準 位 図 を示 す.最
も外 側 の3s状
態 に は電 子 が2個
3s電 子 は1個 で あ る.こ の た め3sエ ネ ル ギ ー 帯 の2N個 れ,半 分 は空 で あ る.OKに
にお け るエ
占 め 得 るが,Naで
は
の 状 態 は半 分 が 占 め ら
お い て 占 め られ た状 態 の 最 も高 い エ ネル ギ ー は,フ ェ
図9.1.2
ル ミエ ネル ギ ーEFで
Na結
晶の電子 エネルギー準位
あ る.
電 界 印 加 に よ る外 力 が 働 く場 合,EF付 ー を増 し,す
近 の許 容 帯 に あ る電 子 は運 動 エ ネ ル ギ
ぐ上 の 空 の 許 容 状 態 に容 易 に励 起 され る.空 の電 子 状 態 は 多 数 存 在
す るか ら,電 子 は運 動 エ ネル ギ ー を増 しな が ら力 の向 きに空 間移 動 す る.す な わ ち,電 気 伝 導 が 生 ず る. ア ル カ リ土 類 金 属 とい わ れ る2価 の 金 属,例
え ばBe,Mgな
どの 原 子 で は,外
側 のs状 態 は2個 の 電 子 で満 た され て い るが,固 体 に な る とs電 子 エ ネ ル ギ ー 帯 と,そ の外 側 の空 のp電 子 エ ネ ル ギ ー帯 が 大 き く重 な り,充 満 状 態 のす ぐ上 に空 の状 態 が 多 数 存 在 す るの で,1価
金 属 と同 様 な電 気 伝 導 が 生 ず る.
以 上 の よ うに,金 属 の エ ネ ル ギ ー バ ン ド構 造 は,許 容 帯 の電 子 状 態 の一 部 が フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ー まで電 子 が 占 め られ,そ
の す ぐ上 に空 の 許 容 電 子 状 態 が帯 状 に
存 在 す る こ とに特 徴 が あ る. (b) 絶 縁 体 と半 導 体 イ オ ン結 晶NaClを
例 に と る.イ オ ン結 合 状 態 で は, Naは(3s)1電
子 をClに
移
して正 イ オ ン とな り,直 ぐ内側 の(2p)6は そ の ま ま残 さ れ て い る.Cl原 子 の電 子 配 置 は(1s)2,(2s)2,(2p)6,(3s)2,(3p)5で あ る が,3p状
態 にNaか
ら移 さ れ た 電 子 が付
加 さ れ,(3ρ)6の に,バ
負 イ オ ン と な っ て い る.Na+とCl-も
ン ド形 成 の 様 子 を 示 す.Clの3ρ
充 満 帯 で あ り,Naの3sバ
閉 殻 構 造 で あ る.図9.1.3
バ ン ドの す べ て の 状 態 は 電 子 で 占 め ら れ た
ン ド は 全 く空 帯 で あ る.こ
の2つ
の 帯 の 間 に は幅 広 い
禁 止 帯 が あ る.
図9.1.3
NaCl結
電 界 が 印 加 され た と き,Clの3p状
晶 の 電 子 エ ネ ル ギ ー 準 位
態 の 上 は無 状 態 の 禁 止 帯 で あ る か ら,電 子 は
運 動 エ ネ ル ギ ー を増 す こ とが で きな い.し た が っ て,電 気 伝 導 が 起 こ らな い.Cl の3p電
子 が 空 帯 で あ るNaの3sバ
ン ドへ 熱励 起 され る と,電 気 伝 導 が 生 ず る こ
と にな る が,通 常 の温 度 で は そ の 電 子 数 は極 め て 少 な い.イ オ ン結 晶 は一 般 に電 気 絶 縁 体 で あ る. イ オ ン 結 合 性 の ほ か に共 有 結 合 性 を も有 す る多 くの 化 合 物 結 晶 の バ ン ド構 造 は,NaClと
同様 に充 満 帯 と空 帯 か ら構 成 され る.し か し,そ の 中 に はCdSやInSb
の よ う に,金 属 ほ どで は な いが か な り電 気 伝 導 性 が 良 く,半 導 体 といわ れ る もの が 数 多 くあ る.こ れ らは禁 止 帯 幅 が小 さ く,通 常 の 温 度 で 充 満 帯 か ら空 帯 へ 多 数 の 電 子 が 熱 励 起 され て い る た め で,バ ン ド構 造 は 本 質 的 に は絶 縁 体 と同 じで あ る. 共 有 結 合 性 単 原 子 物 質,例
え ば,ダ イ ア モ ン ド(C),Si,Geな
ド構 造 も充 満 帯 と空 帯 か ら構 成 され て い るが,そ
どの 結 晶 のバ ン
の形 成 過 程 は イ オ ン結 晶 とは異
な る.siを
例 に 取 る.孤 立 し たsi原
で あ る.外
側 に は ± の ス ピ ン ま で 数 え て2つ
の 状 態 が あ る が,そ 図9.1.4の
の う ちs状
よ う に,Si原
態 に2個,p状
子 が 隣 接Siに
図9.1.4
な る とす べ て の3sと3p状
子 の 電 子 配 置 は(1s)2,(2s)2,(2p)6,(3s)2,(3p)2 のs状
態,6つ
態 に2個
のp状
態,合
計8つ
の 電 子 が 配 置 さ れ て い る.
近 づ く とバ ン ドが で き る が,あ
る距 離 に
Si結 晶 の 電 子 エ ネル ギー 準 位
態 の 波 動 関 数 の 重 な りに よ っ て3.1節
で述 べた よ う
な(s1p3)混 成 状 態 が 生 ず る よ う に な る.さ らに 近 寄 る と,8つ の状 態 は そ れ ぞ れ4 つ の状 態 か ら な る2つ の バ ン ドに 分 か れ る.下 の(s1p3)混 成 状 態 の バ ン ドは,4個 の共 有 結 合 電 子 で 占 め られ て充 満 帯 で あ る.上 の(s1p3)混 成 状 態 の バ ン ドは,空 で 非 結 合 状 態(反 結 合 状 態 とい う)の 空 帯 で あ る.こ の2つ の バ ン ドの 間 に は禁 止 帯 が 存 在 す る.ダ イ ア モ ン ドは禁 止 帯 幅 が 大 き く絶 縁 体,SiやGeは
禁止帯幅 が
小 さ く半 導体 とな る. 以 上 の よ う に,絶 縁 体 と半 導 体 の電 子 エ ネル ギー 帯 構 造 は,充 満 許 容 帯,そ 上 の 禁 止 帯,さ
の
らに そ の 上 の 空 許 容 帯 か ら構 成 され て い る こ とが特 徴 で あ る.半
導 体 は,禁 止 帯 の エ ネ ル ギ ー 幅 が 小 さい もの で あ る.充 満 帯 は価 電 子 か ら構 成 さ れ て い る の で価 電 子 帯(valence
band),上 の 許 容 空 帯 は1部
を電 子 が 占 めれ ば電
気 伝 導 性 が生 ず るの で,こ の 空 帯 は伝 導 帯(conduction
band)と
た,価 電 子 帯 と伝 導 帯 の 間 の 禁 止 帯 の エ ネ ル ギ ー 幅Egは
バ ン ドギ ャ ップ(band
gap),あ
る い はエ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ といわ れ る.
い わ れ る.ま
また,半 金 属(semi-metal)と で あ るが,3.1節
い わ れ る物 質 が あ る.例 え ばAs,Sb,Biな
ど
で述 べ た よ うに,外 殻 のs状 態 は2個 の 電 子 で満 た され,p状
に は3個 の 電 子 が あ り,こ の3個 のp電
子 が共 有 結 合 電 子 で あ る.こ のp電
態 子は
s電 子 と と も に充 満 さ れ た バ ン ド,つ ま り価 電 子 帯 を形 成 す る.残 りの 空 の3つ
の
p状 態 は,反 結 合 状 態 のバ ン ド,つ ま り伝 導帯 を形 成 して い るが,こ の 伝 導 帯 と価 電 子 帯 と はわ ず か に重 な っ て い る.こ の 重 な りの た め に半 ば金 属 的伝 導 を生 ず る が,伝 導 電 子 あ る い は正 孔 密 度 が1017∼1020cm-3程
度 で あ っ て,金 属 の1023cm-3
程 度 と比 べ て 少 な いの で導 電 率 は小 さ い.こ の よ うに半 金 属 は,バ
ン ドギ ャ ップ
Egが ゼ ロの 半 導 体 と も考 え られ る. 以 上 の よ うに,こ の ア プ ロ ー チ の 方 法 は物 質 固 有 の原 子 か ら出 発 す るた め に物 質 固 有 の エ ネ ル ギ ー帯 を考 察 す るの に有 用 で あ る.
(2) 結 晶 全 体 に広 が った 電 子 状 態 か ら電 子 エ ネ ル ギ ー 帯 構 造 へ の ア プ ロー チ 多数 の 原 子 が 周 期 的 配 列 を し て い る とき,電 子 に 働 く結 晶 の ポ テ ン シ ャ ル も周 期 的 で あ る.こ の よ うな結 晶 全 体 に広 が る周 期 的 ポ テ ン シ ャ ル場 に1個 の電 子 が 存 在 す る と き,そ の電 子 状 態 は結 晶 全 体 にわ た る波 動 で 表 さ れ る.ポ は一 定 で はな いか ら,1個 体 内 原 子 数 をNと
な い か ら,N個
の電 子 は さ ま ざ ま な エ ネ ル ギ ー を取 る こ と に な る.固
す る と,1個 の 電 子 が 取 り得 る状 態 数 はN個
排 他 原 理 に よ り,1つ
で あ る.パ ウ リの
の エ ネ ル ギ ー 状 態 に は ス ピ ン を 含 め2個 の 電 子 しか 占 め 得
の状 態 の エ ネル ギ ー は異 な っ て い な けれ ば な ら な い.こ の た め1
個 の 電 子 が 取 り得 るエ ネル ギ ー は,図9.1.5に の帯 は2N個
テ ン シ ャル
示 す よ うに 帯状 に分 布 す る.1つ
の 電 子 を収 容 で き る.各 電 子状 態 は結 晶全 体 に 広 が っ て い る か ら,各
電 子 は 結 晶 内 の ど こに で も存 在 で き る.多 数 の 空 状 態 が あ れ ば,電 子 は 固体 内 空 間 を移 動 す る こ とが 可能 と な る. まず,結 晶 内 電 子 に働 くポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ーV(x)は,自 の 場 合 の よ う に一 定 で は な い.も し,正 しいV(x)が
由 空 間 に あ る電 子
与 え られ れ ば,そ れ を時 間 を
含 ま な い シ ュ レ ー デ ィ ンガ ー の 波 動 方程 式 に入 れ て解 け ば,定 常 的 波 動 関 数 と そ の エ ネ ル ギ ー 固 有 値 が 求 め られ る こ とに な る.そ の 解 の 波 動 関 数(振 幅 関 数)は,
図9.1.5
結 晶 全 体 に 広 が る電 子 エ ネ ル ギー 準 位
次 の 形 を持 つ こ とが証 明 され て い る. (9.1.1) こ こ でu(x)は
格 子 定 数aと
同 じ周 期 性,つ
ま りV(x)と
同 じ周 期 性 を持 つ 関
数 で あ る.す な わ ち,
(9.1.2) と す る.ψ(x)は
図9.1.6(a)に
示 す よ う に,k方
(a) ブ ロ ッホ 関 数u(x)と
向 に 進 む 正 弦 波 が格 子 の 周 期 と
波動 関 数 ψ(x)
(b) 格 子 ポテ ン シ ャ ル 図9.1.6
ブ ロ ッホ 関 数 と格 子 ポ テ ン シ ャル
同 じ周 期 関 数 で 変 調 され た 波 を表 して い て ブ ロ ッホ(Bloch)関
数 と いわ れ る.
固 体 内 自 由電 子 の 実 際 の波 動 関 数 は,ブ ロ ッホ 関 数 の 形 を して い る は ず で あ り, また これ で表 され る状 態 の電 子 は,格 子 点 原 子 の 配 列 状 況 が 変 化 しな い 限 り,格 子 点 原 子 と衝 突 す る こ とな く,固 体 内 を 自由 に運 動 で き る はず で あ る.し か し,V (x)を 決 め る の は難 しい.V(x)は 小 値,核
図(b)の
よ うに,お お む ね 原 子 核 の 位 置 で 最
と核 の 中 間 位 置 で最 大 値 を取 る と考 え られ る が,ク
ロ ー ニ ヒ とペ ニ ー は
これ を方 形 波 周 期 ポ テ ン シ ャル で 近 似 し て解 を求 め て い る.実 際 に は,V(x)は 質 ご とに異 な り,ま た,結
晶 軸 の 方 向 に も関 係 す る複 雑 な 関 数 形 で あ ろ う.
こ こで は さ ら に簡 単 化 して,V(x)を にu(x)=1と
物
一 定 と仮 定 す る と,完 全 な 自 由電 子 の よ う
置 く こ とが で き る.し か し,完 全 に 自 由 で は な い の で,結 晶 内 に閉
じ込 め られ,か つ,結 晶 の 周 期 性 に よ っ て制 限 さ れ る波 動 関 数 を考 え る こ と に す る.結 晶 の 表 面 に は ポ テ ン シ ャ ル 障壁 が 存 在 し,結 晶 内 電 子 の 波 動 は閉 じ込 め ら れ て い る.ポ テ ン シ ャ ル 障 壁 が 十 分 に大 き け れ ば,閉
じ込 め られ た 波 動 は 定 在 波
を作 る. 時 間 を 含 ま な い シ ュ レ ー デ ィ ン ガ ー の 波 動 方 程 式 は,V(x)が V(x)=0と
一 定 の場 合 は
お いて, (9.1.3)
で あ る.解 を定 在 波 の 波 動 と して
(9.1.4) と置 く.た だ し,波 数kは
次 の 定 在 波 条 件 式(5.3.7)を
満 足 して い な け れ ば な らな
い.
(9.1.5) こ こ でNは 式(9.1.4)を
原 子 数,aは 式(9.1.3)に
格 子 定 数,L=Naは 入 れ る と,こ
結 晶 の 長 さ で あ る. の定 在 波 の エ ネル ギ ー は
(9.1.6) とな る.こ の 式 が 結 晶 内 自由 電 子 の エ ネ ル ギ ー準 位 を与 え る式 で あ る.各kの
状
態 を ス ピ ン ±1/2の2個 9.1.7(a)の
の 電 子 が 占 め る こ と が で き る.Eは,kに
よ う に 放 物 線 で 表 さ れ る が,kは
値 し か 許 さ れ な い の で,Eも
式(9 .1.5)で 決 め ら れ る と び と び の
と び と び の 値 を 取 る.た
の 最 大 値 π/aよ り ず っ と 小 さ い か ら,kは
関 して 図
だ し,kの
間 隔 π/Naは,k
ほ ぼ連 続 と み な し て 良 い .他 方,完
自 由 な 電 子 に 対 す る エ ネ ル ギ ー も 同 じ 形 でE=mυ2/2=h2k2/2m2で
全 に
あ る が,kは
ど ん な 値 で も許 さ れ る と い う 違 い が あ る.
(a) 定 在 波 表 現 図9.1.7
(b) 前進 ・後 退 定 常 波 表 現 結 晶 内 自由 電 子 の エ ネ ル ギー 準 位E(k)
見 方 を変 え て定 常 波 を周 期 的 境 界 条 件 か ら考 え る.結 晶 で は 原 子 が 規 則 的 配 列 を して お り,結 晶 内 の あ る 区間Lご L=Naは x =Lに
と に同 じ電 子 状 態 が 繰 り返 され る と考 え る.
結 晶全 体 の 大 き さ よ りず っ と小 さ い が
,aに 対 して 十 分 大 き く,x=0と お け る波 の振 幅 と位 相 は 等 し い とす れ ば よ い .こ の 条 件 を 満 足 す る進 行
波(+k)と
後 退 波(−k)のE対kの
関 係 は,図9.1.7(b)の
一般 には
,こ の 表 示 方 式 の 方 が 多 く用 い られ る.た だ し,5.4節
よ うに描 か れ る. で 述 べ た よ うに,
kは 式(5.4.3)で 与 え られ,
(9.1.7) で あ る.kの
間 隔 は,定 在 波 の 場 合 の2倍 で あ る.
次 に,結 晶 内電 子 波 で は次 の よ うな 制 限 が あ る.面 間 隔aの 射 す る電 子 波 の う ち,ブ ラ ッグ の 回 折 条 件
格 子 面 に垂 直 に入
(9.1.8)
を 満足 す る波 長,波
数 の もの は完 全 反 射 され て進 行 す る こ とが で き な い.こ
は 定在 波 条 件 を 満 足 し て は い るが,こ い こ と に な る.こ のkに
のk
の定 在 波 に 限 っ て は 結 晶 内 で は 存 在 し得 な
お い て,電 子 が 取 り得 な い エ ネ ル ギ ー の値 を次 に考 え る.
結 晶 内 で は,各 電 子 は散 乱 ・反 射 を繰 り返 して い る た め,さ 波 が存 在 す る で あ ろ う.し か し,定 常 状 態 に お い て は,あ れ に対 し て位 相 差 が0と
π の2つ の 後 退 波 が 干 渉 し,5.3節
まざ ま な位 相 差 の
る1つ の進 行 波 と,そ で 述 べ た よ うな2種
類 の 定 在 波 が 立 つ こ と に な るで あ ろ う.仮 にk=±
π/aに お い て も定 在 波 が 存 在
す る と考 え る と,そ
ら
こで は 式(5.3.5)と 式(5.3.6)か
(9.1.9)
の2つ
の形 の解 が あ る はず で あ
る.電 子 の確 率 密 度 関 数 は│ψ│2で あ る か ら,図9.1.8に
示 す よ う に,
│ψ+│2は格 子 間 隔aの
中 間点 で最
大,│ψ-│2は 格 子 点 で最 大 とな る. 他 方,格
子の ポテ ンシャルエネ
ル ギ ー は,aの 中 間 点 で 最 大,格 子 図9.1.8
点 で 最 小 で あ る.こ
± π/aに お い て,│ψ+│2と│ψ-│2で
表 さ れ る電 子 が 取 り得 な い エ ネ ル ギ ー 差 は,格
ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー 差 と い う こ と に な る.こ 以 上 の よ う に,結 え て も,図9.1.9(a)の が 禁 止 帯 つ ま りk=±
電 子 の 存 在 確 率 と格 子 ポ テ ン シ ャ ル
の た めk= 子
れ が 禁 止 帯 幅 と 考 え ら れ る.
晶 内 に 広 が る 電 子 波 が 周 期 的 ポ テ ン シ ャ ル 中 に 存 在 す る と考 よ う に,や
は り許 容 帯 と禁 止 帯 が 存 在 す る こ と に な る.k
π/aに 近 づ く と,ブ
ギ ー の 増 加 は ゆ る や か に な り,k=±
ラ ッ グ 回折 効 果 が 増 大 す る た め エ ネ ル
π/aで はdE/dkは
ほ ぼ ゼ ロ に な る.電 子 に 働
く引 力 が 強 い と,格 子 点 に お け るポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギー は低 くな る か ら禁 止 帯 幅 は大 き くな る.
(b) 還 元E(k)表
(a) E(k)
図9.1.9
k=±
固 体 内 自由 電 子 のE(k)と
π/a,±2π/a,…で 区切 られ た各k空
とい う.波 数kが
禁止帯の生成
間 領 域 は,格 子 振 動 波 の場 合 と同様 に
ブ リュ ア ンゾ ー ン とい わ れ,そ れ ぞ れ 第1ブ ー ン,…
現
リュ ア ン ゾー ン,第2ブ
±π/aよ り大 きい 波(波 長 の 短 い 波)は,格
リュ ア ン ゾ 子振 動波
の振 動 数 が 最大 振 動 数ωmで 制 限 され た の とは 異 な り,電 子 波 で は エ ネ ル ギ ー は 制 限 さ れ な い. しか し,kは
−2π/aだ けず ら して ±π/a以 内 の 波(波 長 の長 い波)に
こ とが で き るの で,図9.1.9(b)の (還元 帯 域)表 現 で あ る.1つ ピ ン まで数 え る と,1つ
還元 す る
よ うに表 す こ とが で き る.こ れ は還 元 ゾ ー ン
の ゾー ンの 中 のkの
数 は(2π/a)/(2π/Na)=N,±
の バ ン ドの 中 の 電 子 状 態 数 は2N個
ス
で あ る.kは 単 位 格 子
ご とに1つ で あ るか ら,単 位 格 子 内 の 原子 当 た り2個 の価 電 子 が 存 在 す れ ば,1 つ のバ ン ドは価 電子 で 充 満 され る.も
し禁 止 帯 が 存 在 す れ ば,絶 縁 体 や 半 導 体 に
な る.禁 止 帯 が存 在 し な け れ ば金 属 や 半 金 属 にな る. 実 際 の結 晶 で は,結 晶 軸 の 方 向 に よ り原 子 配 列 が 異 な り,格 子 ポ テ ン シ ャ ル も 複 雑 で あ る た め,E(k)の
形 は単 純 な放 物 線 で は な く,理 論,実 験 両 面 か ら決 め ら
れ る.図9.1.10に,SiとGaAsのE(k)を
示 す.
(a) Si(間 接 遷 移 型) 図9.1.10
SiとGaAsの
次 に,バ ン ド内 の 状 態 密 度z(E)の る定 在 波 のkとk+dkの
(b) GaAs(直
接 遷 移 型)
エ ネ ル ギー 準 位
エ ネ ル ギ ー分 布 を考 え る.3次
元空 間 におけ
間 にあ る状 態 数,す な わ ち状 態 密 度 は式(5.3.11)で 与 え
られ る.電 子 の 場 合 は1つ のkに
対 し,± ス ピ ン を含 む2つ
の 状 態(g=2)ま
で数
えた 状 態 密 度 は,
(9.1.10) で あ る.こ 度 は,次
れ をE=h2k2/2mを
用 い て 書 き 換 え る と,EとE+dEの
間 の状 態 密
式 で 与 え ら れ る.
(9.1.11) す な わ ち,図9.1.11の
よ うに,状 態 密 度z(E)はE1/2に
比 例 して(Eはz(E)に
対 し て放 物 線 状 に)分 布 す る.実 際 に は前 述 した よ うに,複 雑 な結 晶格 子 ポ テ ン シ ャル が 存 在 す るか ら,物 質 に よ って,ま
た 結 晶 軸 の 方 向 に よ っ て状 態 密 度 の分
布 は異 な っ て くる.し か し,電 子 波 の 波 長 が格 子 定 数 よ り十 分 長 い と き(kが
小さ
い とき),つ ま り,バ ン ドの下 端 と上 端 の付 近 で は放 物 線 で 近 似 して 良 い と され て い る.バ
ン ドの 上 部 か らはE=−Eと
置 い て下 向 きの 放 物 線 状 とな る.
図9.1.11
3次
元E(k)とz(E)
この電 子状 態 を価 電 子 が 占 め る わ け で あ るが,金 ネ ル ギ ーEFま
属 で は許 容 帯 中 の フ ェル ミエ
で 占 め る.金 属 のEFは,エ
ネル ギ ー 帯 中 の 状 態 密 度 の式 を用 いて
求 め る.単 位 体 積 中 の 自 由電 子 総 数nは
式(6.3.7)に よ り,次 の よ うに 与 え られ
る.
金 属 で はOKに f(E)=1で
お け る 自 由 電 子 の 最 高 の エ ネ ル ギ ー はEFで
あ る か ら,式(9.1.11)を
あ り,E≦EFで
は
用 い ると
(9.1.12) と な る.こ
れか ら
(9.1.13) が 得 られ る.電
子 の 総 数nは,結
れ る の でEFが
求 め ら れ る.例
属 のEFは
数eVか
ェ ル ミ分 布 関 数,占
ら10eVの
晶 構 造 か ら単 位 体 積 中 の 価 電 子 数 と して計 算 さ え ば,Naで
は3.1eV,Agで
程 度 で あ る.金
属 のT〔K〕
有 電 子 密 度 の 関 係 を 図9.1.12に
示 す.
は5.5eVな
ど,金
に お け る 電 子 状 態,フ
図9.1.12
絶 縁 体 ・半 導 体 で は,OKで
金 属 の 価 電 子(自 由 電 子)の エ ネ ル ギー 分 布
許 容 帯 で あ る価 電 子 帯 の 状 態 を す べ て 占 め る.
以 上 の よ う に,こ の ア プ ロー チの 方 法 で は エ ネ ル ギ ー帯 の 一 般 的 特 質 が 解 析 的 に表 現 で き るの で,エ 図9.1.13に,金
ネ ル ギ ー 帯 に関 係 す る諸 現 象 の解 析 に有 用 とな る.
属,絶 縁 体,半 導 体,半 金 属 の エ ネ ル ギ ー バ ン ド構 造 と電 子 占
有 状 況 の違 い をモ デ ル 的 に示 す.
図9.1.13
9.2
バ ン ド構 造 と電 子 占 有 モ デ ル 図
表 面 ポ テ ン シ ャル 障 壁
原 子 内電 子 を束 縛 す る クー ロ ン ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー はr=∞
で ゼ ロ と し,
これ を真 空 状 態 と定 義 した.電 子 に働 くポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー は,こ れ を 原 点 と して負 の値 で 表 した.こ
の よ う にす る と,電 子 を真 空 中 へ 解 放 す るの に必 要 な
最 小 エ ネル ギ ー,す
な わ ち,イ オ ン化 エ ネ ル ギ ー は最 も弱 く束 縛 され て い る電 子
の 束縛 エ ネ ル ギ ー に等 しい. 固体 内 に閉 じ込 め られ て い る 自由 電 子 に つ い て も,真 空 状 態 を ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の 原 点 に 取 る.こ れ を真 空 準 位(vacuum
level)と い い,こ こで はEVAC
と記 す.固 体 内 自 由 電 子 は,真 空 準 位 か ら測 っ て 負 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー で 束 縛 さ れ て い る こ と に な るが,そ
の エ ネ ル ギ ー は簡 単 に は分 か ら な い.そ
こで 絶
対 零 度 で 固 体 内 自 由 電 子 が 占 め得 る最 高 エ ネ ル ギ ー の フ ェル ミエ ネル ギ ーEFか ら,電 子 を真 空 中 に 解 放 す る最 小 エ ネ ル ギ ーqφ を考 え る.qφ=EVAC-EFで され る φ〔V〕を仕 事 関 数(work Function)と
い う.φ は エ ネ ル ギ ーEFに
定義 あ る電
子 に対 す る 表 面 ポ テ ン シ ャル 障 壁 で もあ る.な お,仕 事 関 数 は エ ネ ル ギ ーqφ 〔eV〕 で も表 され る. 金属 で は図9.2.1の
よ うに,絶 対 零 度 でEFに
電 子 が存 在 して お り,そ の 電 子1
個 を真 空 に放 出 す る に要 す る最 小 エ ネ ル ギ ー はqφ で与 え られ る. 絶 縁 体 や 半 導体 で は,EFは
禁 止 帯 中 に 位 置 す るの が 普 通 で あ り,そ こに は電 子
は存 在 し な い.こ の た め電 子 を放 出 す る に要 す る最 小 エ ネ ル ギ ー と して は,真 空 準 位EVACと 部)か
価 電 子 帯 頂 上EVと
の 差 の エ ネ ル ギ ー が 必 要 に な る.ま た,真 空(外
ら物 質 に1個 の 電 子 を付 与 す る と き に放 出 され るエ ネ ル ギ ー は,電 子 親 和
力(electron
affinity)と い わ れ,x〔eV〕 で表 され る.絶 縁 体 や 半 導 体 で は真 空 準
(a) 金
属
図9.2.1
(b) 絶 縁 体 ・半 導 体 表 面 ま で を 含 む エ ネル ギー 準 位
位 と伝 導 帯 の 底 の エ ネ ル ギ ー 差 がxで ル ギ ー はx+Egで
あ る.し た が っ て,放 出 に 要 す る 最 小 エ ネ
も表 され る.
この よ う に真 空 準 位 を エ ネ ル ギ ー の 原 点 に選 ぶ と,異 な る物 質 の エ ネ ル ギ ー 帯 の 高低 比 較 お よ びEFの
高 低 比 較 が 可 能 に な る.た だ し,表 面 ポ テ ン シ ャ ル 高 お よ
び ポ テ ン シ ャル の形 は,表 面 の 物 理 的状 態 で 変 化 し,ま た,EFも
電子集 団の状態
に よっ て 変 化 す る の で,測 定 され る仕 事 関数 は 物 質 固 有 の一 定 値 に は な らな いの が普 通 で あ る.
9.3
量 子 サ イズ 効 果
まず,図9.3.1の
よ う に,厚 さ を極 端 に薄 く した薄 膜 状 結 晶 を 考 え る.xとy方
向 で は十 分 大 きな 寸 法 で,z方 xとy方
向,つ
向 の 厚 さLwは
非 常 に 小 さ い とす る.
ま り膜 面 方 向 につ い て は電 子 の 運 動 は ほ ぼ 自 由 で あ り,そ の エ
ネル ギ ー は,
(9.3.1) で 表 され る.そ の電 子 状 態 は,面 積LxLy=L2=Aの2次
元 空 間 に 存 在 す る定 在 波
で 考 え る こ とが で き る. 5.3節 の 方 法 を2次 元 の場 合 に 適 用 す る.Lx,Lyが
大 き い か ら波 数kの
間隔
は小 さ く,ほ ぼ連 続 と み な せ る.全 状 態 数 はn=kL/π 1/4内(正 数 をkに
を 半 径 とす る 円 の 面 積 の
のnx,nyを
取 る た め)のnの
変 換 し,正 負 の ス ピ ン まで 数 え
る と,
(9.3.2) で あ る か ら,kとdkの
間 に ある状態 密
図9.3.1
超
薄
膜
度z(k)は,
(9.3.3) で 与 え ら れ る.E=h2k2/2m*を
用 い て 書 き 換 え る と,
(9.3.4) とな る.す な わ ち,3次 た が,2次
元 空 間 の 状 態 密 度 はz(E)dE∼E1/2dEの
放 物 線 で 表 され
元 空 間 で は結 晶 内 自由 電 子 の状 態 密 度 は,エ ネ ル ギ ー に よ らず 一 定 と
い う特 徴 が 注 目 され る. 膜 の 両 面 に お け る ポ テ ン シ ャ ル 障 壁V0が
非 常 に大 き い とす る と,膜 厚z方
向
につ い て は,極 め て狭 くて深 い 井 戸 型 ポ テ ン シ ャル 中 に完 全 に閉 じ込 め られ た 電 子 の 状 態 を考 え る こ とに な る.z方
向 の 定 在 波 のkと
エ ネ ル ギ ー は, (9.3.5)
(9.3.6) で 与 え ら れ る. 膜 厚 方 向(z方
向)の
電 子 の 運 動 に か か わ る エ ネ ル ギ ー 準 位Eznは,図9.3.2
の よ う に,と び とび で 不 連 続 に 量 子 化 さ れ る こ と に な る.例 え ば,Lw=1〔nm〕,m* =0 .5mと
す る と,Ez1=0.03〔eV〕,Ez2=0.12〔eV〕
と見 積 ら れ る.こ
の よ う に,寸
法 が 非 常 に小 さ い こ とに よ って 量 子 化 が 起 こ る こ と を量 子 サ イ ズ効 果,ま
た は量
子 閉 じ込 め効 果 とい い,こ の ポ テ ン シ ャ ル 井 戸 を量 子 井 戸(quantum い う.こ の 結 果,3次
well)と
元空間で通常 は
で表 され るほ ぼ連続 なエ ネ ル ギー 状 態 は,量 子 井 戸 中 で は閉 じ込 め られ て とび
図9.3.2
量 子 井 戸 中の 定 在 波 と 電子 エネルギー準位
と び な 状 態 と な り,全
エネルギー は
(9.3.7) で 与 え ら れ る.k=0に
お け る 電 子 の エ ネ ル ギ ー は,3次
元 の 場 合 よ りEz1だ
け大
き く な る. 式(9.3.6),式(9.3.7)か
ら,電
子 波 の 波 長 を λ と す る と,
(9.3.8) の よ うな超 薄膜 で量 子 サ イ ズ効 果 が 顕 著 に 出 現 す る もの と考 え られ る.Lwは 10∼1nm,す
な わ ち,数10原
約
子 層 か ら10原 子 層 程 度 で あ る.逆 に,原 子 が この
程 度 の 数 以 上 配 列 す れ ば,通 常 の 固 体 の性 質 が 現 れ る こ と に な る. なお,z方
向 の状 態 密 度z(E)とEzは
よ う に階 段 状 とな る.Lwが け るz(E)dE∼E1/2dEの
式(9.3.4)と 式(9.3.6)か
大 き くな る とス テ ップ が小 さ くな り,3次 元 空 間 に お 放 物 線 に近 づ く.
次 に,禁 止 帯 幅 の 異 な る2種 類 の 半 導 体 超 薄 膜A(厚 LA)をz方
ら,図9.3.3の
さLA)とB(厚
向 に規 則 正 し く交互 に 重 ね て 多 重 層 を作 る と,図9.3.4の
さLB≦ よ うに量 子
井 戸 が 連 な っ た 多 重 量 子 井 戸 構 造 が で き る.こ の 構 造 を超 格 子(super-lattice) 構 造 とい う.LBの
幅 は極 め て 狭 い の で,井 戸LAの
果 に よ り多 重 層 全 体 に 広 が る.ま た,結 晶Aの ル(周 期a)は,量
中 の 電 子 状 態 は,ト ン ネ ル効
原 子 配 列 に よ る 周期 的 ポ テ ンシ ャ
子井 戸配列 の周期的
ポ テ ン シ ャ ル(周
期d=LA+LB>a)
で 変 調 さ れ る. この た めLA中
の とび とび の エ ネ ル ギ
ーEz1 ,Ez2,… は,そ れ ぞ れ 図 の よ う に多 重 層 全 体 に わ た る小 さ な 電 子 帯 に 変 わ り,単 一 量 子 井 戸 に よ る 閉 じ込 め効 果 は 緩 和 さ れ,電 子 は膜 厚 方 向(z方
向)に
も移 動 で き る よ う に な る.こ の電 子 帯 は サ ブ バ ン ドあ る い は ミニ バ ン ドとい わ れ
図9.3.3
量 子 井 戸 の状 態 密 度z(E)
図9.3.4
超格 子 の サ ブ バ ン ド
る.サ ブ バ ン ドは,自 然 界 の結 晶 に は存 在 しな い人 工 的 に制 御 で き るエ ネ ル ギ ー バ ン ドで あ る. GaAs-AlxGa1-xAsの
積 層 超 格 子 構 造 は,高 移 動 度 トラ ン ジ ス タ(high
tron mobility transistor,HEMT)や,発 良 い量 子 井 戸 半 導 体 レー ザ な ど,新
光 波 長 が 短 波 長 に あ り,か つ 単 色 性 が しい素 子 に 適 用 され て い る.
以 上,超 薄 膜 の量 子 サ イ ズ効 果 を述 べ た が,直 径 約10nm以 で は2次 元 量 子 井 戸,超
elec
下 の超 細 線 状 結 晶
微 小 結 晶 で は3次 元 量 子 井 戸 に閉 じ込 め られ た 電 子 状 態
が存 在 す る と考 え られ る.
9.4
不 純 物 ・格 子 欠 陥 の 電 子 状 態
固体 中 に不 純 物 や 原 子 空 孔,転
位,界 面 な どの格 子 欠 陥 が 存 在 す る と,フ
ンや電 子 の 移 動 に影 響 を与 え る.ま た,半
ォノ
導体 や 絶 縁 体 で は伝 導 電 子 数 に影 響 を
与 え る.し た が っ て,不 純 物 や 欠 陥 は電 気 伝 導性 に大 き く関 係 す る.ま た,光
吸
収 な ど光 学 的 性 質 に も関 係 す る.不 純 物 や 格 子 欠 陥 の 電 子 状 態 は,図9.4.1の
よ
うに,母 体 の 禁 止 帯 の 中 に エ ネ ル ギ ー 準 位 を有 す る もの と,遷 移 元 素 不 純 物 の よ うに,母 体 の電 子 状 態 とは無 関 係 なエ ネ ル ギ ー 準位 を有 す る もの とが あ る.欠 陥 数 は結 晶 原 子 数 に比 べ て少 数 で あ るか ら,そ の 電 子 状 態 は結 晶 全 体 に は 広 が らな
図9.4.1
欠陥 ・不 純 物 の電 子 準 位
い で 局 在 的 準 位 とな り,局 在 的 で あ る こ と を示 す た め に 準 位 を破 線 で表 す .
(1) 点 欠 陥 欠 陥 の電 子 状 態 と母 体 の電 子 状 態 の 間 に相 互 作 用 が あ る とき,半 導体 や 絶 縁 体 で は,欠 陥 の電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー は禁 止 帯 中 に存 在 す る.こ の欠 陥状 態 と母 体 の電 子 帯 の 間 に 電 子 遷 移 が起 こ り得 る. 半 導 体 中 に存 在 す る不 純 物 原 子 の 基 底 電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー を,不 純 物 準 位 (impurity level)と
い う.こ の う ち伝 導 帯 に伝 導 電 子 を供 給 す る もの を ドナ ー
(donor)準
位,価 電 子 帯 か ら電 子 を受 け取 る もの を ア ク セ プ タ(acceptor)準
位
とい う.ア
クセ プ タ は結 果 と して 価 電 子 帯 に 伝 導 正 孔 を供 給 す る.
また,あ
る種 の 不 純 物 や格 子 ポ テ ン シ ャル の 乱 れ は,半 導 体 中 の伝 導 キ ャ リア
を捕 獲 す る.そ の 電 子 準 位 が伝 導 帯 ま た は 価 電 子 帯 の バ ン ド端 か ら見 て 浅 い もの は トラ ッ プ(捕 獲 中 心,trapping
center)と
位 が 禁 止 帯 の 中 央 付 近 に あ っ て,バ (recombination
center)と
い わ れ る.捕 獲 中心 の 中 で も電 子 準
ン ド端 か ら 見 て 深 い も の は 再 結 合 中 心
い わ れ,伝 導 キ ャ リア の 寿 命 に関 係 す る.ま た,キ
ャ
リア 捕 獲 時 間 が 極 め て長 い特 殊 な 場 合 は メ モ リ効 果 を 生 ず る.写 真 の 潜 像 形 成 は そ の 例 で あ る. 多 くの実 験 結 果 に よれ ば,欠 陥 状 態 の電 子 準 位 は物 質 ご とに異 な り,ま た,図
の よ うに比 較 的 単 純 な もの,複 雑 な エ ネ ル ギ ー 分 布 を し て い る もの な ど,多 様 で あ る と推 定 され る.こ の た め,欠 陥 状 態 の 一 般 的 解 析 は 困 難 で あ るが,次 る欠 陥 は,水 素 原 子 類 似 の 電 子 構 造 を有 す る と考 え られ,あ
に述 べ
る程 度 の 解 析 が 可 能
で あ る. 共 有 結 合 結 晶,例 え ばSi中 の 格 子 点 を 5価 の不 純 物 原 子,例
え ばP(リ
置 換 した場 合 を考 え る.Pの5個 子 の う ち の4個
はSiの4個
共 有 結 合 す る.図9.4.2の の1個
はP+イ
ン)で の価 電
の価電 子 と よ うに,残
り
オ ンの ク ー ロ ン 引 力 で 束
図9.4.2
シ リ コ ン 中 の ドナ ー(P)と ア ク セ プ タ(B)
縛 され る形 に な る.こ の状 況 は,水 素 原 子核 に束 縛 さ れ た1個
の電 子 と類 似 して い る.た だ し,水 素 原 子 の 電 子 が 置 か れ
て い る媒 体 は真 空 で あ るの に対 し,こ の場 合 の媒 体 は物 質 で あ る.こ の た め,ク ー ロ ン引 力Fは
物 質Siの
誘 電 性 の た め に 弱 め られ
,次 の 式 で与 え られ る. (9.4.1)
εrはSiの
比 誘 電 率 で あ る.こ
れ か ら ク ー ロ ン ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー は,
(9.4.2) で 表 さ れ る.こ
こ で,V(r)の
原 点 と し て は,電
子 がP+イ
オ ン の 束 縛 を離 れ て 自
由 な 伝 導 電 子 に な る と い う 意 味 か ら,伝 導 帯 の 底 をV(r)=0に
取 る こ と に す る.
ボ ー ア の 水 素 原 子 モ デ ル の 場 合 と同 様 の 方 法 に よ り,こ
の 不 純 物 の電 子状 態 の 基
底 準 位 エ ネ ル ギ ー(n=1)は,式(2.1.8)と
よ び 有 効 質 量m*を
式(2.1.7),お
考慮
し て 次 式 で 表 さ れ る.
(9.4.3) また,そ
の軌道半径 は (9.4.4)
で 表 され る.Siの
場 合,εr=12, m*=0
.4mと す る と,E=-0.04〔eV〕,r=8〔Å
〕
とな り,こ の 準 位 は伝 導 帯 の 底 に近 い禁 止 帯 中 に あ り,軌 道 半 径 は 数 原 子 間 隔 に まで広 が っ て い る こ とが推 定 され る.こ の よ うな不 純 物 が ドナ ー とな る. Siを3価
の不 純 物,例
た よ う に,4つ てB-イ
えばB(ボ
ロ ン,ホ ウ素)で 置 換 した と き は,図 に示 し
の共 有 結 合 を つ くる た め に近 接Siか
オ ン とな り,近 接Siに
らBに1個
の 電 子 が移 行 し
は 電 子 の 抜 け穴 す な わ ち正 孔 が 残 る.こ の状 態 は
B-イ オ ンに正 孔 が 束 縛 さ れ て お り,電 荷 符 号 を逆 に した 水 素 原 子 類 似 状 態 とみ ら れ る.正 孔 の エ ネ ル ギ ー は,式(9.4.3)と
同様 の 式 で 与 え られ る.ポ テ ン シ ャル エ
ネ ル ギ ー の 原 点 は価 電 子 帯 の 上 端 に取 るの で,正 孔 の準 位 は価 電 子 帯 に近 い禁 止 帯 中 に存 在 す る.こ の よ うな 不純 物 が ア クセ プ タ とな る. ま た,ハ ロゲ ン化 ア ル カ リの 色 中 心 は,例 え ばKClのClイ して い る)に1個
の電 子 が 捕 え られ た もの で,や
オ ンの 空 孔(正
帯電
は り水 素 原 子 類 似 状 態 と考 え ら
れ る.
(2) 転
位
転 位 は原 子 の 周 期 的 結 合 が 断 絶 す る箇 所 で あ る.共 有 結 合 結 晶 で は,1個 合 電 子 が 結 合 の相 手 を失 っ て不 対 結 合 手(ダ
の結
ン グ リン グ ボ ン ド)と な る.こ れ も
他 の 電 子 を捕 獲 しや す い状 態 で,禁 止 帯 の 中 に捕 獲 準位 を作 り,半 導 体 の 電 気 的 性 質 に影 響 を与 え る.
(3) 表 面 と界 面 表 面 は原 子 の周 期 的 結 合 が 断 絶 す る平 面 で,1種 の 欠 陥 で あ る.ま た結 晶 と結 晶 が 接 触,あ
る い は接 合 す る界 面 で は結 合 の不 整 に よ る欠 陥 が 生 じや す い.絶 縁 体
や 半 導 体 で は,図9.4.1の の準 位― 表 面 準 位―,あ 結 晶 との 間,あ
よ うに,禁 止 帯 中 に孤 立 した 表 面 状 態(surface
states)
る い は界 面 準位 を作 る と考 え られ て い る.こ れ らは母 体
る い は表 面 吸 着 原 子 との 間 に電 子 の移 行 が起 こ っ て,荷 電 した状
態 とな りや す い.こ の た め に 表 面 の 電 子 エ ネ ル ギ ー構 造 や電 気 的 性 質 に影 響 を与 え る.
(4) 遷 移 元 素 不 純 物 遷 移 元 素 が 不 純 物 と して 存在 す る場 合,母
体 構 成 原 子 の 電 子 との相 互 作 用 は,
遷 移 元 素 原 子 の最 も外 側 に あ るs電 子 に よ っ て主 に行 わ れ る.こ の た め,そ の 内 側 の電 子 占 有 が 不 完 全 な鉄 族 元 素 のd状
態 あ る い は 希 土 類 元 素 のf状 態 は,母 体
結 晶 の電 子 エ ネ ル ギー 構 造 とは無 関 係 に 図9.4.1の
よ うに,孤 立 原 子 の離 散 的 な
エ ネ ル ギ ー状 態 が ほ ぼ 保 存 され て い る.た だ し,各 状 態 の エ ネ ル ギ ー 値 は原 子 の もの とは異 な る.固 体 中 で は このd状
態 内,あ るい はf状 態 内 の エ ネ ル ギ ー 準 位
間 電 子 遷 移 に よっ て 光 吸 収 や 発 光 が 起 こ る.発 光 ス ペ ク トル は原 子 の ス ペ ク トル に類 似 した 線 状 で あ り,あ る種 の 遷 移 元 素 は純 粋 色 の 蛍 光 体 や レ ー ザ材 料 と し て 利 用 され る.
9.5
非晶質 の電子状態
非 晶 質(ア
モ ル フ ァ ス材 料)は,原
子 間 隔 や 原 子 結 合 角 の 無 秩 序 な乱 れ の た め,
格 子 ポ テ ン シ ャル の規 則 性 が 低 下 して い る.し た が っ て,結 晶 で定 義 され た 電 子 エ ネ ル ギ ー 帯 構 造 も変化 す る. 特 に,非 晶 質 の半 導体 な い し絶 縁 体 で は図9.5.1の
よ うに,帯 端 付 近 の 状 態 の
変 化 が 大 き く,欠 陥 に よ る局 在 状 態 は禁 止 帯 の 中 央 に 向 か っ てEAお
よ びEBま
で 斜 線 で 示 した よ う に,幅 広 く分 布 して い る と考 え られ て い る. 電 気伝 導 の活 性 化 エ ネ ル ギ ー か ら求 め たバ ン ドギ ャ ップEμ は モ ビ リテ ィギ ャ ップ とい わ れ,結 晶 の場 合 に な らっ てEμ =Ec'-Ev'と びEv'以
す る.つ ま り,Ec'以 上 お よ
下 の状 態 は,そ の非 晶 質 全体 に
広 が っ て い て 電 気 伝 導 が 起 こ る と考 え ら
図9.5.1
非 晶 質半 導 体 の 状 態 密 度 分 布
れ る.Ec'とEAの
間 お よ びEBとEv'の
間 の状 態 は裾 状 態(tail
states)と
いわ
れ,波 動 関 数 の重 な りが小 さ い局 在 的状 態 が 高 密 度 で存 在 し て い る と考 え られ る. 裾 状 態 の状 態 密 度 分 布 は は っ き りし な い が,Ec'ま 少 す る分 布 が 多 い よ うで あ る.ま た,光 ッ プEopが
ら指 数 関 数 的 に 減
吸収 特 性 の 吸 収 端 か らオ プ テ ィ カル ギ ャ
求 め られ る.一 般 にEμ >Eopで あ る.Eμ あ る い はEopは
ドギ ャ ッ プEgと また,フ
た はEv'か
結 晶 のバ ン
一 致 し な い.
ェル ミ準 位 は モ ビ リ テ ィ ギ ャ ップ の ほ ぼ 真 ん 中 に 位 置 し,そ の 付 近 に
も高密 度 の 局 在 状 態 が 存 在 す る もの と考 え られ て い る.こ れ らの 局 在 状 態 は捕 獲 中心 や 再 結 合 中 心 とな る.
10. 光 学 的性質 と素子
光(電 磁 波)を 物 質 に照 射 す る と反 射,散 た,電 気 伝 導性 の 変 化 や 起 電 力 の 発 生,あ
乱,透 過,着
色 な どが 見 られ る.ま
る い は物 質 外 へ の 電 子 放 出 な どが起 こ
るが,こ れ らは す べ て 物 質 に よ る光 の吸 収 が 関 係 し て い る.こ こで は 光 吸 収 が な ぜ 起 こ る か を考 察 し,次 に 固体 の 光 吸 収 現 象 の 特 徴 を述 べ る. 光 に関 す る も う1つ の 重 要 な 現 象 は,光 放 出 で あ る.高 温 物 体 か ら の光 放 出(温 度 放 射),け い光 体 か らの ル ミネ セ ン ス,発 光 ダ イ オ ー ドか ら の発 光,レ ー ザ 光 な どの 発 光 が 身 近 か に あ る.こ
こで は,こ れ らの光 の 放 出機 構 の考 察 と特 徴 に つ い
て 述 べ,最 後 に,磁 界 や 電 界 が 加 わ る と きの磁 気 光 学 効 果 や電 気 光 学 効 果 な どに つ い て概 要 を述 べ る.
10.1
光吸収
光 が物 質 を通 過 す る と き,光 の強 さ(単 位 面 積 を単 位 時 間 に通 過 す る光 エ ネ ル ギ ー あ るい は光 子 数)は,物
質 中 の場 所xに
る.こ れ は 物 質 に よ る光 吸 収(optical
お け る強 さI(x)に
absorption)に
比 例 して 減 衰 す
よ っ て起 こ る現 象 で, (10.1.1)
と表 さ れ る.比
例 係 数 α は 吸 収 係 数(absorption
〔1/cm〕 が 一 般 的 で あ る.x=0に
coefficient)と
お け る強 さ をI0と
い わ れ,単
位 は
す る と,
(10.1.2) と な る.こ と,光 1/eに
の 式 は ラ ン バ ー ト(Lambert)の
式 と い わ れ,光
が 物 質 中 を進 行 す る
の 強 さ が 通 過 距 離 の 指 数 関 数 で 減 衰 す る こ と を 表 し て い る.ま な る 通 過 距 離 はx=1/α
に 変 形 して
で あ り,光 吸 収 深 さ と い う.式(10.1.1)を
た,強
さが
時間変化
の よ う に書 く と,物 質 内 の光 速 度υ は一 定 で あ る か ら,α は単 位 時 間 に起 こる光 エ ネ ル ギ ー(光 子 数)の
減少 の 割 合 に比 例 す る こ とを も意 味 す る.す なわ ち,α は
単 位 時 間 に お け る光 子 の 吸収 確 率 に比 例 す る量 で あ る.
10.2
光 吸 収 の 理 論―
図10.2.1の
巨視 的 ア プ ロー チ
よ うに,物 質 中 でxの
向 きに進 行 す る光(電
磁 波)の
電界 を
(10.2.1)
図10.2.1
光 波 の 電 界
の よ う に偏 っ た 進 行 平 面 波 で 表 す.υ は物 質 中 の 光 速 で,真 空 中 の 光 速 をc,物
質
の光 屈 折 率 をn*と
表
す る と,υ=c/n*で
あ る.ま た,光 の磁 界 をz方 向 のHzで
す. 一 方,均 一 な 等 方 性 物 質 を誘 電 率 ε,透磁 率 μ,導 電 率 σで 表 す と,物 質 中 の光 波 は,マ
クスウエルの電磁方程 式
を 満 足 す る.い
ま の 場 合,こ
と な り,両 式 か らHzを
の 方 程 式 はx,t,Ey,Hzの
消 去す る と
み を 含 むか ら
(10.2.2) が 得 ら れ る.式(10.2.1)を
これ に 代 入 す る と,
とな る.こ こで 真 空 の 誘 電 率 を ε0,物 質 の 比 誘 電 率 を εr,真 空 の 透 磁 率 を μ0,物 質 の比 透磁 率 を μrで 表 す と,物 質 の屈 折 率 は
(10.2.3) と複 素 数 で 表 さ れ る. 真 空 に つ い て は,εr=1,μr=1,σ=0,n*=1で
あ る か ら,真
空 中の光速度 は
(10.2.4) で 表 され る. 一 般 の物 質 の 場 合,光
波 の 磁 界 が 小 さ い こ と,お よび光 周 波 数域 の 磁 界 変 化 に
磁 気 モ ー メ ン トの 動 きが 追 随 で きな い こ とか ら,光 が 物 質 内 の 磁 気 モ ー メ ン トに 与 え る変 化 は極 め て 小 さい.し た が っ て,物 質 中 で も μr=1と
して 良 い.こ れ か
ら式(10.2.3)は,
(10.2.5) とな る.こ の 式 は物 質 の 屈 折 率 が複 素 数 で あ る こ と,そ の2乗
が誘 電 率 で あ る こ
と,お よび 導 電 性 は虚 部 で 関 係 して い る こ と を示 して い る.一 方,物 は一 般 に複 素 数 で あ る の で εr*と 表 す.そ
質 の誘 電 率
こで,
(10.2.6) と置 き,式(10.2.5)と
実 部,虚
部 の比較 をする と
(10.2.7) とな る.kの
意 味 は 以 下 で 明 らか に な る.な お,誘 電 率 は静 電 誘 電 率 で は な く,光
周 波 数 の よ うに 高 い 周 波 数 域 の値 で あ り,一 般 に静 電 誘 電 率 よ り若 干 小 さい 値 で あ る.こ れ らの関 係 を入 れ て式(10.2.1)を 書 き直 す と,次 の 式 が 得 られ る. (10.2.8)
振動項 減衰項 右 辺 の 指 数 関 数 の 第2項 エ ネ ル ギ ー はEy2に
は,xと
と もに電 界 が 減 衰 す る こ と を示 して い る.光 の
比 例 し,強 度Iは
単 位 時 間 に 単 位 面 積 を通 過 す るエ ネ ル ギ ー
で あ る か ら, (10.2.9) と な る.こ
れ を 式(10.1.2)と
比 較 す る と,
(10.2.10) と な る.な
お,kは
光 消 衰 係 数(extinction
coefficient)と
い わ れ,式(10.2.8)か
ら,光 の 電 界 振 幅 の 減 衰 に 関 係 す る こ と が 分 か る.ま た,nとkは
光 学 定 数(opti
cal constant)と
い わ れ る.
以 上 に よ り,光
吸 収 は主 に光 周 波 数 域 に お け る複 素 誘 電 率 の 虚 部 に関 係 して い
る こ と が 理 解 さ れ る. な お,式(10.2.7)か
ら,絶
縁 体 で は σ=0,し
た が っ てk=0で
で は 絶 縁 体 は 透 明 な 物 質 と い う こ と に な り,n2=ε1が 物 質 の 光 反 射 も 光 学 定 数nとkに は,次
の フ レ ネ ル(Fresnel)の
関 係 す る.垂 式 で 与 え ら れ る(導
あ る.こ
の理論
成 立 す る. 直 入 射 の 場 合 の 垂 直 反 射 率R 出 は 省 略).
(10.2.11) kが 大 き い とRは1に さ い とRはnで
近 づ く.つ ま り吸 収 が 大 きい と反 射 も大 き くな る.kが
ほ とん ど決 ま る.ま た,nが
小 さ い とkに 無 関 係 にRは1に
小 近
づ く. 以 上 の 理 論 で は,物 質 を一様 な誘 電 率,透 磁 率,導 電 率 で 表 し た.光 の 波 長 は, 物 質 内 原 子 間 隔 に比 べ 十 分 に 大 き い か ら,こ の よ う に表 して 良 い わ け で あ る.し た が っ て,上 記 の 結 果 は一 般 的 な 正 当性 を有 し,光 学 特 性 の 解 析 に 広 く用 い られ
る.し か し α,n,kの 周 波 数(波 長)依
10.3
存 性 は,こ の 理 論 で は 導 か れ な い.
光 吸 収 の 理 論― 微 視 的 ア プ ロ ー チ
(1) 古 典 的 電 子 論 に よ る光 吸 収 理 論 物 質 内 の 電 子 や イ オ ン な どの荷 電 粒 子 に 電 磁 波 の 振 動 電 界 が働 く と,荷 電 粒 子 は変 位 させ られ る.一 方,そ れ らの荷 電 粒 子 が 束 縛 され て い れ ば変 位 に対 す る復 元 力 と制 動 力 が 働 く.こ の 状 況 は振 動 子 の 強 制 振 動 状 態 で あ る.荷 電 粒 子 の変 位 は電 気 双 極 子 を誘 起 す るか ら,こ の場 合 の振 動 子 は 電 気 双 極 子 で あ る.こ の電 気 双 極 子 の誘 起 の た め に,電 磁 波 の エ ネ ル ギ ー が 費 や され て吸 収 が 起 こ る と考 え ら れ る. 質 量m,電
荷qの
粒 子 が振 動電 界E=Eoexp(iωt)の
振 動 の運 動 方 程 式 は,xを
中 に置 か れ た とき の強 制
粒 子 の平 衡 位 置 か らの 変 位 とす る と,一 般 的 に
(10.3.1) で 表 され る.左 辺 の 第2項
は,荷 電 粒 子 の変 位 速 度 に比 例 し て働 く抵 抗(制 動)力
の 意 味 が あ り,比 例 定 数 γは振 動 電 界 に対 す る応 答 速 度 に 関 係 す る.第3項
は荷
電粒 子 の 変 位 に比 例 して働 く平 衡 位 置 へ の 復 元 力 の意 味 が あ り,比 例 定 数 β は, この 振 動 子 の 固 有 角 振 動 数 を ω0と す る と,ω0=√β/mの
関 係 が あ る.解 をx=A
exp(iωt)と 置 い て こ の方 程 式 を解 く と, (10.3.2) が得 られ,x(t)は
複 素 数 で 表 され る.対 象 とす る単 位 体 積 中 の荷 電 粒 子 の 数 をN
とす る と,こ の変 位 で 単 位 体 積 当 た りに生 ず る電 気 分 極 はP=Nqxで xは 複 素 数 で あ る か らPも
複 素 数 でP*と
あ る.
書 き換 え る.一 方,誘 電 性 に は
(10.3.3) の 関 係 が あ る.た だ し,εrは 複 素 数 と し な け れ ば な ら な い の で εr*と 書 き 換 え る. そ こ で 式(10.3.2)と
式(10.3.3)か
ら,
(10.3.4) が 得 ら れ る.ま た,εr*は れ る.す
式(10.2.6)と
式(10.2.7)に
よ っ て光 学 定 数 と関 係 付 け ら
な わ ち,
(10.3.5)
(10.3.6)
とな る.こ れ か ら誘 電 率 と光 学 定 数 の 周 波 数 依 存 性 は,図10.3.1の
よ うな 形 とな
る.電 磁 波 の振 動 数 が 誘 起 双 極 子 の 固 有 振 動 数 ω0の と こ ろ で 共 鳴 振 動 し て エ ネ ル ギ ー が大 き く消 費 さ れ,電 磁 波 の 吸 収 が 大 き くな る. 吸 収 に 関係 す る ε2は ω0で 最 大 と な る が,k(し
たが っ て,吸 収 係 数 α)の 最 大
値 は ω0か らわ ず か に ず れ た 位 置 に 存 在 す る.こ れ はk=ε2/2nで
あ る か ら,nの
周 波 数 依 存 性 が 関係 す る た め で あ る.図 に は式(10.2.11)を
用 い て 垂 直 反 射 率R
の 周 波 数 依 存 性 を も示 す.こ
の よ う に,
この 理 論 に よ っ て光 学 定 数 の 周 波 数 依 存 性 が あ る程 度 説 明 さ れ る. 誘 起 され る電 気 双 極 子 は,電 子 や イ オ ンの 変 位 で 生 ず る.そ れ ぞれ 固有 振 動 数 は 異 な るの で,紫 外 か らマ イ ク ロ 波 まで の ω の 範 囲 で い くつ か の 吸 収 ピ ー ク が
図10.3.1
誘 電 率 と光 学 定 数
現 れ る.こ の 特 性 は一 般 に誘 電 分 散 とい わ れ る.特
に双 極 子 が電 子 の 変 位 に よ る
とき は,光 周 波 数 域 に お け る吸 収 が 生 ず る. 証 明 を省 略 す るが,式(10.3.1)の た 直 後 の荷 電 粒 子 の振 幅xは,ほ
右 辺 を ゼ ロ と置 いて 解 く と,光 照 射 を停 止 し ぼexp(−
γt/2)の形 で減 衰 す る とい う解 が 得 ら
れ る.し た が って,励 起 され た 双 極 子 の エ ネ ル ギ ー はexp(− γt)で減 衰 し,励 起 さ れ た双 極 子 の 寿 命 は ほ ぼ1/γ で 与 え られ る.一 方,式(10.3.5)か 半 値 幅(ε2ピ ー ク値 の1/2の
ら,ε2(ω)曲線 の
とこ ろ の ω 幅)は 近 似 的 に γで 与 え られ る.し た が っ
て,尖 鋭 で 幅 が 狭 い 吸 収 線 また は発 光 線 は励 起 状 態 の 寿命 が 長 い こ と を示 して い る.
(2) 量 子 論 に よ る光 吸 収 理 論 量 子 論 で は,光 の入 射 に よ り原 子 が励 起 状 態 に な る こ と,つ ま り原 子 内 の 電 子 が 入 射 光 子 の エ ネ ル ギ ー を吸 収 して 高 い エ ネ ル ギ ー を有 す る電 子 状 態 に遷 移 す る こ とを光 吸 収 と考 え る.図10.3.2の 始 状 態)の
準 位 をEi,励
よ う に,エ ネ ル ギ ー が 低 い電 子 状 態(遷 移 の
起 状 態(遷 移 の 終 状 態)の
子 の振 動 数 をν,光 子 の エ ネル ギ ー をE=hν
それ をEfと
す る.入 射 光
で 表 す と,吸 収 され る光 子 の 振 動 数
νfiあ るい は波 長λfiは,次 式 で与 え られ る.
(10.3.7) 2つ の微 視 的 吸 収 理 論 を対 比 す る と,古 典 的 振 動 子 に基 づ く理 論 で 考 え た 入 射
(a) 吸
収
(b) 誘 導 放 出 図10.3.2
光 吸 収 と光 放 出
(c) 自然 放 出
光 の振 動 と誘 起 双 極 子 の 固 有 振 動 の 共 鳴 に よ る吸 収 は,量 子 論 に お け る光 子 入 射 に よ る2つ の エ ネ ル ギ ー準 位 間 の 電 子 遷 移 に 対 応 して い る こ とが わ か る.た だ し, 1個 の 電 子 が 複 数 の 励 起 状 態 に励 起 さ れ る可 能 性 が あ る とき は,1個 複 数 の振 動 子 が 対 応 す る.1個 振 動 子 強度(oscillator の和 は,1個
の電 子 で も
の 電 子 が そ れ ぞ れ の 励 起 状 態 に遷 移 す る強 さ は,
strength)と
い わ れ,遷 移 確 率 に比 例 す る.各 振 動 子 強 度
の 電 子 の 遷 移 確 率 を表 す た め に1に 規 格 化 され る.
さて,多 数 の 同 一 の 原 子 か ら構 成 され て い る系 が 温 度Tで き,低 エ ネ ル ギ ー状 態iと 高 エ ネル ギ ー状 態fに
熱平 衡状態 にあ ると
あ る原 子 数 の比 は,ボ ル ツ マ ン
分布
(10.3.8) で 与 え ら れ る.こ
の 系 に エ ネ ル ギ ーu(νfi) の 光 が 入 射 し て,図10.3.2(a)の
に 吸 収 が 起 こ る と,エ ネ ル ギ ー の 高 い 状 態fの 変 化 の 速 さ は,被
励 起 原 子 数Niと
原 子 数Nfが
よう
増 加 す る.こ の 過 程 の
入 射 エ ネ ル ギ ー と に 比 例 し,
(10.3.9) で表 され る.こ の 過程 は通 常 の 吸 収 で あ る が,光 の 入 射 が 吸 収 を誘 発 す る か ら誘 導 吸 収 と もい う.Bifは
比 例 係 数 で,単 位 時 間 に起 こ る遷 移 確 率 を意 味 して お り,
吸 収 係 数 α に比 例 す る. こ こで ア イ ン シ ュ タ イ ンは重 要 な 考 え方 を 導 入 し た.す な わ ち,光 (b)の
の入 射 は 図
よ うに,吸 収 と同 時 に光 放 出 を誘 発 す る こ とが あ り得 る と考 え た.こ の場
合,Nfの
減 少 の 速 さ は,Bfiを
比 例 係 数 と して (10.3.10)
で 表 さ れ る.u(νfi)に u(νfi )と 同 じ で あ る.こ (stimulated 一 方,エ
emission,あ
は 位 相 も含 め て い る の で,放 の 過 程 は,光
出 され る光 の位相 は入射光
の 入射 が 光 の放 出 を誘 発 す る の で誘 導 放 出
る い はinduced
emission)と
い わ れ る.
ネ ル ギ ー の 高 い 状 態 に あ る 原 子 は,光 入 射 が な く て も 図(c)の
よ う に,
低 い 状 態 へ 偶 発 的 に 自 然 に 遷 移 し,νfiの 光 を 放 出 す る.こ れ を 自 然 放 出(sponta
neous
emission)あ
る い は 偶 発 放 出 と い う.こ
の 過 程 の 速 さ はNfの
み に 比 例 し,
(10.3.11) で表 され る. と こ ろ で,式(10.3.8)に 〔eV〕,T=300〔K〕
よ れ ば 普 通 はNf<Niで
の と き,Nf/Ni=e-40と
入 射 が あ る と き,普 通 は式(10.3.10)の
な り,Nfは
あ る.例
え ば,Ef-Ei=1
無 視 で き る.し た が っ て光
誘 導 放 出 光 は無 視 で き る ほ ど弱 く,光 吸 収
のみ が 観 察 され る.誘 導 放 出 は後 記 す る よ う に,レ ー ザ で の み観 測 され る. 以 上 は光 吸収 の 一 般 論 で あ る.各 物 質 の遷 移 確 率 や 固 体 に お け る吸 収 の 特 徴 に つ い て は,量 子 力 学 を適 用 した 解 析 が必 要 とな る.
10.4
固 体の光吸収
光 吸 収 の波 長 また は周 波 数依 存 性 を,吸 収 ス ペ ク トル あ る い は吸 収 の 分 光 特 性 とい う.原 子,分
子 の 吸 収 ス ペ ク トル は,と び とび の エ ネ ル ギ ー 準 位 構 造 を反 映
した 線 状 吸 収 の 列 の み で あ るが,固 体 で は 外 殻 電 子 の エ ネ ル ギ ー 帯 構 造 を反 映 す る強 い帯 状 吸収 ス ペ ク トル が存 在 す る こ とが 大 き な特 徴 で あ る.こ の 他 に も,固 体 特 有 の吸 収 が い くつ か現 れ る.こ れ らの 吸 収 は,紫 外 か ら赤 外 に わ た る広 義 の 光 領 域 に あ る こ とが 多 い. 以 下 で は,多 様 な 吸 収 が 観 測 され る半 導 体 に つ い て 述 べ る.図10.4.1に,半 体 の 光 吸 収 ス ペ ク トル と,そ れ に関 係 す る電 子 遷 移 の概 要 を 示 す.
導
図10.4.1
半 導 体 に お け る吸 収 スペ ク トル と電 子 遷 移
(1) 基 礎 吸 収 半 導 体 や 絶 縁 体 の 価 電 子 帯 の電 子 が,光 子 のエ ネ ル ギー を得 て伝 導 帯 の空 準 位 に遷 移 す る帯 間 の電 子遷 移 に よ る吸 収 を基 礎 吸 収(fundamental
absorption)ま
た は固 有 吸 収 とい う.こ の と き価 電 子 帯 に は,電 子 の 抜 け穴 す な わ ち正 孔 が 発 生 す る こ とに な る.帯 中 の 電 子状 態 の エ ネル ギ ー は密 接 して い る の で,線 状 吸 収 線 が 密 接 して 並 ぶ 吸 収 帯(absorption (absorption
edge)と
band)と
な る.吸 収 帯 の 長 波 長 端 は,吸 収 端
い われ る.こ の 吸 収 は,価 電 子 帯 の上 端 か ら伝 導 帯 の底 へ
電 子 励 起 す る こ とか ら始 まる の で,吸 収 端 の値 か ら禁 止 帯 幅 の エ ネ ル ギ ー が分 か る.吸
収 端 波 長 をλgで 表 す と,禁 止 帯 幅 す な わ ち バ ン ドギ ャ ッ プEgは
式
(10.3.7)か ら,
(10.4.1)
で 与 え られ る.実 測 す る 際 に は,吸 収 端 付 近 にお け る吸 収 の 波 長 依 存 性 は な だ ら か に変 化 す る の で,λgは 簡 単 に は決 め られ な い. 基礎 吸 収 の吸 収 係 数 αは,物 質 ご とに 異 な る波 長 依 存 性 が あ り,最 大 値 は105 ∼106〔1/cm〕
に も達 す る強 い吸 収 で あ る.
吸収 の確 率 は始 状 態iか 帯 間遷 移 の 場 合 は,さ
ら終 状 態fへ
の電 子遷 移 確 率Wifに
比 例 す るが,こ の
ら に それ ぞ れ の帯 の 中 の 状 態 密 度zi(E)とzf(E)が
関係す
る.帯 間 遷 移 の場 合 の 実 効 的 な 状 態 密 度 は,近 似 的 に√zizfと 考 え られ,結 合 状 態 密 度(joint
density of states)と
い わ れ る.こ れ を用 い て 各 波 長 に お け る 吸収 係
数 は,一 般 に
(10.4.2) で 表 され る.個 々 の 物 質 の 遷 移 確 率 の 導 出 に は,高 度 な量 子 力 学 の 計 算 が必 要 と な るが,α の 波 長(周
波 数)依 存 性,す な わ ち 吸 収 スペ ク トル の 形 はほ ぼ√zizfで
決 め られ る と して 良 い. さて,光 子 の 入 射 に よ る電 子 遷 移 の場 合 で も,エ ネ ル ギ ー保 存 則 と運 動 量 保 存 則 が 成 立 し な け れ ば な らな い.エ
ネル ギ ー保 存 則 は,
(10.4.3) で あ る.運 動 量 保 存 につ い て は,2つ
の 場 合 が あ る.
① 光 子 が 結 晶 内 電 子 の み と,相 互 作 用 して遷 移 す る場 合(直 光 子 の 運 動 量 をpp=hkpと
接 遷 移):
す る と,運 動 量 保 存 則 は
(10.4.4) で あ る.と
こ ろ で,価
電 子 帯 と伝 導 帯 内 電 子 の 波 数kiとkfの
子 間 隔 と す る と π/aの 程 度 で あ る の で,kp=2π/λ《ki,kfで
大 き さ は,aを あ る.し
原
た が っ て,
(10.4.5) と な る.す 数)は
な わ ち,こ
不 変 で あ る.こ
10.4.2(a)に も い わ れ る.
の 場 合 は,光
に よ る遷 移 の 前 後 に お い て 電 子 の 運 動 量(波
の よ う な 場 合 を 直 接 遷 移(direct
示 す よ う に,E-k図
transition)と
い い,図
で は遷 移 は垂 直 な線 で 描 か れ るの で垂 直 遷 移 と
(a) 直接 遷 移
(b) 間 接 遷 移
図10.4.2
光 子 吸 収 に よ る遷 移
価 電 子 帯 の頂 上 と,伝 導 帯 の 底 の 電 子 の 波 数kが
等 しい電 子帯 構 造 を有 す る 固
体 は直 接 遷 移 型 とい わ れ,こ の構 造 を有 す る絶 縁体 や 半 導 体(例 で 示 したGaAs)で
え ば,図9.1.10
は,吸 収 は垂 直 遷 移 か ら始 ま る.
② 光 子 が結 晶 内電 子 の み な らず,フォ ノ ン(格 子振 動 の 量 子)と
も相 互 作 用 し て
遷 移 す る場 合(間 接 遷 移): フォ ノ ンの 波 数 はkq=π/a程 の た め,フォ
度 で あ るか ら,電 子 の 波 数kiと 同程 度 で あ る.こ
ノ ン と結 晶 内電 子 の 相 互 作 用 が 無 視 で きな い.こ の 場 合,保
フォノ ンの エ ネ ル ギー をEqと
存則 は
して (10.4.6)
で 表 され る.+はフォ
ノ ン吸 収(励
起 され た 電 子 が格 子 振 動 の エ ネ ル ギ ー を も ら
う).− はフォ ノ ン放 出(励 起 さ れ た 電 子 が エ ネ ル ギ ー を格 子 に与 え る)を 表 す. フォノ ン が 介 在 し て 可 能 と な る遷 移 で あ る の で 間 接 遷 移(indirect とい い,図10.4.2(b)の
よ うに,kiか
描 か れ,斜 め 遷移 と もい わ れ る.フォ
ら波 数 がkqだ
け異 な るkfへ
transition) の 遷 移 と して
ノ ンが 介 在 す るた め に遷 移 確 率,し
たが っ
て,吸 収 係 数 は直 接 遷 移 の場 合 よ り も小 さい. 価 電 子 帯 頂 上 と伝 導 帯 の底 の 波 数 が 等 し くな い電 子 帯 構 造 は,間 接 遷 移 型 とい
わ れ,こ の構 造 を有 す る絶 縁 体 や 半 導 体(例
え ば,図9.1.10で
示 したSi)で
は,
吸 収 は 間 接 遷 移 か ら始 ま る.吸 収 端 は,や は り価 電 子 帯 と伝 導 帯 間 の最 小 エ ネ ル ギ ー幅― 禁 止 帯 幅― を示 す.入 射 光 子 の エ ネ ル ギ ー が 大 き くな る と(短 波長 に な る と),直 接遷 移 が 優 勢 に な る.
(2) 励 起 子 吸 収 吸 収 端 よ りわ ず か に長 波 長 側 に,比 較 的 シ ャー プ な 線 ス ペ ク トル 列 の 強 い 吸収 が 低 温 で観 測 さ れ る こ とが あ る.こ の 吸 収 は励 起 子 吸 収 とい わ れ,基 礎 吸 収 と と もに基 本 的 な もの で あ る. 絶 縁 体 や 半 導 体 の結 晶 が 何 らか の 方 法 に よ り励 起 され る と,励 起 され た 電 子 と 正 孔 が ク ー ロ ン引 力 で結 合 し て い る電 子状 態 が 存 在 し得 る.こ れ を励 起 子 状 態 と い う.こ の 結 合 状 態 を粒 子化 し て考 え られ る仮 想 粒 子 は,電 子 ・正 孔対 で あ り, 励 起 子(exciton)と
い わ れ る.励 起 子 状 態 は 結 晶 中 ど こで も一 様 に 存在 し得 るの
で,励 起 子 は 結 晶 中 を運 動 で き る.た だ し,電 気 的 に 中性 で あ る か ら電 流 に は な らな い. 励 起 子 の構 造 は,陽 子 に電 子 が 束 縛 され て い る水 素 原 子 の場 合 と類 似 し て い る. この た め そ の準 位 は,と び とび の エ ネル ギ ー を有 す る と考 え られ る.し か し,電 子 と正 孔 の 結 合 エ ネ ル ギ ー は結 晶 の 誘 電 性 で弱 め られ て お り,共 有 結 合 半 導体 中 の不 純 物 や,イ
オ ン結 晶 中 の着 色 中 心 と同 様 な 方 法 で エ ネ ル ギ ー 準 位 を見 積 る こ
とが で き る.そ の値 は 基底 状 態 の エ ネ ル ギ ー が1meV∼0.1eVと 正 孔 の結 合 距 離 も数 原 子 間 隔 程 度 とな る.し た が って,小
小 さ く,電 子 と
さい 外 部 エ ネ ル ギ ー が
加 わ る と,分 離 して 伝 導 電 子 と伝 導正 孔 に な る.こ の た め励 起 子状 態 の 基 底 準 位 は,伝 導 帯 の わ ず か 下 お よ び価 電 子 帯 の わ ず か上 の 禁 止 帯 中 に あ る とされ る. この よ う な励 起 子 構 造 の た め,光 で励 起 す る とき は,エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップEgよ り も励 起 子 の 基 底 状 態 の エ ネ ル ギ ー だ け小 さ い エ ネ ル ギ ー の光 子 入 射 で 励 起 子 が 作 られ る.こ の よ うに して,吸 収 端 よ りわ ず か に長 波 長 側 に あ る線 状 の励 起 子 吸 収 ス ペ ク トル が 理 解 され る.し か し,熱 エ ネ ル ギ ー程 度 で も励 起 子 は分 解 され る の で,極 低 温 以 上 の温 度 で は,こ の 吸 収 は観 測 され な い こ とが 多 い.
ま た,不 純 物 や 欠 陥 が 存 在 す る と励 起 子 は,そ の 箇 所 に局 在 化 さ れ て 束 縛 励 起 子 と呼 ば れ る状 態 が 出 現 す る.
(3) その 他 の 吸 収 (a) 不 純 物 吸 収 不 純 物 電 子 状 態 か ら伝 導 帯,あ
る い は価 電 子 帯 へ の 電 子 励 起 に よ る吸 収 で 可 視
域 か ら近 赤 外 域 に あ る. (b) 伝 導 電 子 吸 収 光 の電 界 で加 速 され た 固 体 内 伝 導 電 子 が フ ォ ノ ン と衝 突 す る と,加 速 で 得 た エ ネ ル ギー を格 子 原 子 に与 え るの で吸 収 が 起 こ り得 る.電 子 数 に も関 係 す るが 吸 収 は 小 さ い.吸 収 帯 は,金 属 で は近 紫 外 な い し可 視 域,半
導体 で は 赤 外 域 に あ る.
(c) 格 子 振 動 吸 収 入 射 光 子 に よ り格 子 振 動 状 態 間 の 励 起 を生 ず る吸収 で,電
子状態 間の遷移 で は
な い.赤 外 域 に あ る. (d) 遷 移 元 素 不 純 物 吸 収 遷 移 元 素 が イ オ ン結 合 性 固 体 に不 純 物 と して取 り込 まれ る と,格 子 原 子 を置 換 して 正 イ オ ン と して 存 在 す る.遷 移 元 素 の不 完 全 占有d状 最 外殻 のs状 態 で遮 蔽 され て い る た め に,ほ よ る母 体 の 電 子 帯 構 造 とは無 関 係 に,d状 幅 の狭 い 吸 収 線 が 生 ず る.例 え ば,ル 換 され て い る.ル
10.5
る い はf状
態は
ぼ保 存 さ れ て い る の で,光 子 入 射 に
態 あ る い はf状
ビー はAl2O3中
ビー の 赤 色 は,Cr+3のd電
態,あ
態内の電 子遷移 に よる
のAl+3の
一 部 がCr+3で
置
子 の励 起 に よ る 吸 収 の色 で あ る.
固 体 の 光 放 出― 温 度 放 射 と ル ミ ネ セ ン ス
固体 か らの光 放 出 現 象 で 身 近 か に見 られ る もの は,加 熱 物 体 か ら放 出 さ れ る温 度 放 射 と蛍 光 に代 表 され る ル ミネ セ ンス で あ る.温 度 放 射 は波 長 が 連 続 した ス ペ ク トル 分 布 を示 す.光 源 と して 広 く用 い られ る.ル
ミネ セ ンス は,一 般 的 に波 長
が 不 連 続 な 線 スペ ク トル を示 す.表 示 や 光 源 と して広 く用 い られ る.レ ー ザ光 も ル ミネ セ ンス の 延 長 線 上 の 放 出光 で あ る.
この ほ か,物 質 内光 速 よ り も速 い 一 定 速 度 の荷 電 粒 子 が 物 質 中 を通 過 す る とき に発 生 す るチ ェ レ ン コ フ(Cherenkov)放
射 が あ るが,特 殊 で あ るの で こ こで は
除 く.
(1) 温 度 放 射 す べ て の物 質 は,温 度 に依 存 す る電 磁 波 を常 に放 出 して い る. これ を温 度 放 射 (temperature radiation)あ
る い は熱 放 射(thermal
radiation)と
い う.赤 熱 し
た 鉄 か ら放 出 す る光 や 電 球 の タ ン グ ス テ ン フ ィ ラ メ ン トの 光 は,そ の顕 著 な例 で あ る.温 度 放 射 は,次 の よ うな 特 徴 が あ る. ① 温 度 の み に依 存 す る.例 え ば,融 点 に あ る固 体 の鉄 か らの 光 と溶 融 した液 体 の 鉄 か らの光 とは ほ ぼ同 じ よ う に見 え る.し た が っ て,原 子 結 合 に は 関 係 な い よ うで あ る. ② 物 質 の 種 類 に よ らな い.例 え ば,同 じ温 度 に あ る導 電 体 の 鉄 と絶 縁 体 の陶 器 か らの光 は ほ ぼ 同 じ よ うに見 え る.し た が って,原 子 の 電 子 エ ネ ル ギ ー状 態 や伝 導 電 子 に は 関係 な い よ うで あ る. ③ 赤 熱 した 鉄 塊 の色 は,鉄 塊 表 面 で も鉄 塊 内部 で も ほ ぼ等 しい よ う に見 え る. した が っ て,内 部 に存 在 す る光 は ほ とん どそ の ま ま放 出 され て い る よ うで あ る. ④ 幅 広 く連 続 した振 動 数(波 長)ス
ペ ク トル分 布 を持 つ.そ の 分 布 と全 放 出 エ
ネ ル ギ ー は温 度 に よ って 変 化 す る.こ の た め 放 出 光 の色 も温 度 に よ り変 化 す る. ⑤ 偏 光 性 が な い 自然 光 で あ る. この よ うな温 度 放 射 の性 質 を調 べ る際 に,温 度 で 発 生 した放 射 を極 め て 良 く放 出 す る物 質 が 必 要 で あ る.一 般 に,黒
い物 質 は 光 吸 収 が 良 く,温 度 放 射 も良 い.
そ こで,す べ て の振 動 数 の 電 磁 波 を100%吸
収 す る理 想 的 物 体 と して完 全 黒 体 と
い う もの を考 え る.吸 収 率 と放 出率 の 比 は す べ て の 物 質 で一 定 で あ る の で,完 全 黒 体 は吸 収 さ れ た電 磁 波 エ ネル ギ ー を熱 エ ネ ル ギ ー に100%変 して再 び100%放
換 し,温 度 放 射 と
出 す る理 想 的 物 体 で あ る.
しか し,実 際 に は完 全黒 体 は存 在 し な い.そ
こで,密 閉 さ れ た 高 温 炉 の壁 に小
さい穴 を あ け,外 部 か ら そ の穴 に光 を入 れ た とす る と,内 壁 が黒 体 で な くて も少
しで も光 吸 収 性 が あ れ ば,炉 内 空 洞 で 反 射 吸 収 を繰 り返 して 完 全 に 吸 収 され,光 は穴 か ら再 び 外 部 に は 出 て来 な い.す
なわ ち,光
に対 して この 空 洞 壁 は 完 全 黒体
とみ な され る.外 部 か ら光 を入 れ な い 場 合 は,空 洞 内 壁 か ら放 出 さ れ る温 度 放 射 は内 壁 を 照 射 して 吸収 され,次 した が って,空
に再 び 放 出 さ れ る.
洞 内 は温 度 放 射 光 で 満 た さ れ て い る.内 壁 を一 定 温 度 に保 つ と
き は,放 射 を 発 生 す る 内壁 物 質 の 原 子 と発 生 した 温 度 放 射 とは 熱 平 衡 状 態 に あ る. つ ま り放 射 の 放 出 と吸 収 は釣 り合 って い る.こ の 熱 平 衡 状 態 に あ る放 射 は小 孔 か ら漏 れ 出 て 測 定 され る. 完 全 黒体 で は黒体 内 部 に す る放 射 はす べ て放 出 され る の で,外 部 に 放 出 さ れ る 放 射 の性 質 と内部 に存 在 す る放 射 の 性 質 は等 しい.小 孔 か ら出 て く る光 は温 度 放 射 そ の もの で あ る.完 全 黒体 か らの 温 度 放 射 を黒体 放 射(black
body radiation)
とい い,完 全 黒体 は 実 在 し な くて も黒体 放 射 は,こ の 空 洞 放 射 に よ っ て実 現 され, 黒体 放 射 の 振 動 数(波
長)分 布 や,そ
の温 度 依 存 性 を測 定 す る こ とが で き る.
さ て 空 洞 放 射 に お い て は,空 洞 内 壁 を構 成 して光 を放 出 し て い る 原 子 群 と空 洞 内 に存 在 す る光― 光 子 群― とは 熱 平 衡 状 態 に あ り,同 じエ ネ ル ギ ー分 布 を し て い る は ず で あ る.内 壁 に お け る光 放 出 が どの よ うな機 構 で起 こ るか は は っ き り しな い.波 長 連 続 スペ ク トル で あ る こ とか ら,お そ ら く個 々 の 原 子 の熱 振 動 に よ っ て 原 子 内 の 正 と負 の 電 荷(原 子 核 と電 子)の
それ ぞ れ の 重 心 が 変 位 し,そ れ で 生 ず
る電 気 双 極 子 振 動 に よ り発 生 す る光(電 磁 波)で
あ ろ う.そ の エ ネ ル ギ ー 分 布 は
空 洞 壁 物 質 に 無 関 係 に,そ れ と熱 平 衡 状 態 に あ る 空 洞 内 の 光 エ ネ ル ギ ー 分 布 で規 定 され る.そ
こで,以 下 で は 空 洞 内で 熱 平 衡 状 態 に あ る光 の振 動 数 分 布 を考
え る. 初 め に,前 期 量 子 論 に基 づ い て温 度放 射 を解 析 す る.1.1節 ラ ンク は空 洞 内 に 存 在 す る振 動 数ν の光 に対 し,1つ
で述 べ た よ う に,プ
の調 和 振 動 子 が存 在 す る と
考 え,そ の エ ネ ル ギ ー が 次 の 式 で 表 され る と仮 定 した.
(10.5.1) す な わ ち,1つ
の 振 動 子 に はhν,2hν,3hν,…の よ うに,等
間 隔 の エ ネ ル ギ ーhν
で量 子 化 され た エ ネ ル ギ ー を有 す る多 数 の 振 動 準 位 が 存 在 す る と仮 定 し た.nが
大 きい こ とは振 動 子ν の 振 幅 が 大 きい こ と に相 当 す る.ま た,そ の後 に提 唱 され た光 子 像 で は,ν に 属 す る1つ の 状 態 にn個
の光 子 が 存 在 して い る こ とに相 当 す
る. 式(10.5.1)で 与 え られ る振 動 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー は,振 動 子 エ ネル ギ ー の ボ ル ツ マ ン分 布 を仮 定 す る と,
(10.5.2)
で 与 え られ る.分
母 は 公 比 がexp(-hν/kBT)=rの
で あ る.ま
た,分
子 は 分 母 を1/kBTで
で あ る.こ
れか ら
等比級数 で あるか ら
微 分 し た 形 で あ る か ら,
(10.5.3) が 得 ら れ る.hν
は 一 定 値 で あ る か ら,〈E〉=〈nhν〉=〈n〉hν
と し て 良 い.し
たが
っ て,
(10.5.4) とな る.こ れ は温 度Tに 量 子(後
お い て,E=hν
の エ ネ ル ギ ー 状 態 に存 在 す るエ ネル ギ ー
の 光 子)の 平 均 数 を表 し,プ ラ ン クの 分 布 とい う.
一 方,空 洞 内 に閉 じ込 め られ て い る光 は,一 定 の 条件 を満 た す 定 在 波(あ は周 期 性 進 行 波)を 作 っ て い る.そ の 状 態 密 度 は式(5.3.11)か
るい
ら,
(10.5.5) で 与 え られ る.p=hk=h/λ=hν/cの
関 係 か らkを 振 動 数ν に書 き直 し,光 の 場 合
は状 態 数 を2倍 に す る こ とを考 慮 す る と,ν とν+dν の 間 に あ る振 動 数,つ
まり
振 動 の状 態 密 度 は,
(10.5.6) と表 さ れ る.こ れ らか ら空 洞 内 の光 の エ ネ ル ギ ー の 振 動 数 分 布,あ 布(ν=c/λ
る い は波 長 分
に よ り変 換 して)は,
(10.5.7)
と表 され る.こ の 式 はプ ラ ン ク の黒 体 放 射 エ ネ ル ギ ー 分 布 式 とい わ れ る. な お,以 上 の よ うな 前 期 量 子 論 に よ る振 動 子 の 取 扱 い 方 は,8章
で述 べ た フ ォ
ノ ンに つ い て も,同 様 に適 用 して比 熱 の 解 析 を 行 う こ とが で き る. 一 方,こ の 式 は後 に 確 立 され た光 子 の 量 子 統 計 を用 い る と,次 の よ うに直 接 的 に導 か れ る.光 子 は ボ ー ズ 粒 子 で あ り,ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タイ ン統 計 分 布 則
(10.5.8) が 適 用 さ れ る.空
洞 内 光 子 は,こ
を 占 め る.E=hν=hc/λ,k=2π/λ
の 分 布 則 に 従 っ て 式(10.5.6)で の 関 係 を 用 い る と,振 動 数ν
与 え られ る状 態 とν+dν
の間 の 状
態 に 存 在 す る 光 子 数 は,
(10.5.9) で与 え られ る.こ れ か ら温 度Tに
お け る光 子群 の エ ネ ル ギ ー 密 度,す なわ ち,黒
体 放 射 エ ネ ル ギ ー 密 度 の 振 動 数 分 布 は,u(ν,T)dν=n(ν)hνdν
か ら,式(10.5.7)
と一 致 す る結 果 が 直 接 的 に得 られ る. 次 に,実 際 に測 定 され るの は単 位 時 間 に放 射 され る エ ネ ル ギ ー,す
なわ ち放 射
強 度 で あ る.ま た,黒 体 表 面 か らの放 射 は点 光 源 で は な く,面 光 源 と して の放 射 強 度 を 考 え な け れ ば な らな い.エ ネ ル ギ ー 密度u(ν,T)の ら,表 面 に垂 直 な微 小 立 体 角dω 内 に光 速 度cで 間 にw0(λ,T)dω=cu(λ,T)dω/4π
黒体 表面の単位面積 か
放 射 さ れ るエ ネ ル ギ ー は,単 位 時
で あ る.表 面 の 法線 か ら θの 角 度 に放 射 さ れ
(a)
(b) 図10.5.1
る 強 度 は,図10.5.1(a)に ま た,図(b)の
示 す よ う に,w0coSθdω
よ う に 水 平 角 φ を 取 る と,半
AB×AC=r2Sinθdθdφ dφ で あ る.そ
面か らの 放 出
こ で,表
で あ る か ら,4Sの
の 形 で 分 布 す る.
径rの
球 面 上 の 微 小 面 積 はdS=
張 る 立体 角 はdω=dS/r2=Sinθdθ
面 か らの 半 空 間 の 全 立体 角 に つ い て 積 分 し て,黒体
表 面の
単 位 面 積 か らの 全 放 射 強 度 は,
(10.5.10) とな る.こ の 式 が プ ラ ン クの 黒体 放 射 強度 分 布 式 で あ って,こ 特 性 は,実 測 と極 め て 良 く一 致 す る.図10.5.2の
れ に よ る分 光 分布
よ う な形 で あ る.
温 度 放 射 は原 理 的 に は 物 質 の種 類 に依 存 しな い.し か し,普 通 の物体 は完 全 黒 体で は な い の で,吸 収 率 や 放 射 率 は100%で る.こ の た め放 射 率(emiSSivity)eλ
は な く,ま た 若 干 の波 長 依 存 性 が あ
<1を,式(10.5.10)に
掛 けた 強 度 分 布 の 光 を
放射 す る.し か し,高 温 の 高 融 点 重 金 属 か らの放 射 光 の 分 光 分 布 の形 は,eλ を掛
け て もほ ぼ プ ラ ン ク の式 の 形 に近 い. 白熱 電 球 の タ ン グ ス テ ン ・フ ィ ラ メ ン トか らの光 はそ の 例 で あ る. 次 に,エ
ネル ギー 準 位 間 隔 が 小 さい
こ と か ら,式(10.5.10)を
全波長範囲
(λ=0→ ∞)で 積 分 す る と,や や 面 倒 な計 算 に な るが,温 度Tに
お い て単 位
表 面 積 か ら単位 時 間 に放 射 され る全 放 射 エ ネ ル ギ ー 密 度Wと
し て,次 式 が
得 られ る.
図10.5.2
黒体 放射 強 度 分 布
(10.5.11) こ れ は シ ュ テ フ ァ ン ・ボ ル ツ マ ン(Stefan-Bolztmann)の 式 で あ る.黒
体 以 外 の 物 体 で は,全
法 則 と い わ れ る関 係
波 長 範 囲 に お け る 放 射 率eλ の 平 均 値 〈eλ 〉<1
を こ の 式 に 掛 け な け れ ば な ら な い. ま た,式(10.5.10)を に な る が,放 (Wien)の
波 長 で 微 分 し て0と
置 く こ とか ら,こ れ も や や 面 倒 な 計 算
射 強 度 分 布 曲 線 の 最 大 値 を 示 す 波 長λmを
与 え る次 の ウ イー ン
変 位 則 が 得 ら れ る.
(10.5.12) 右 辺 の 定 数 は数 値 計 算 で 求 め られ た.し か し,式(10.5.10)の
近 似 と して 分 母 の
1を 無 視 す る と,こ の定 数 は数 式 計 算 で 求 め られ, (10.5.13) と な っ て 大 差 は な い.こ
の ウ イ ー ン の 変 位 則 は,図10.5.2の
が 短 波 長 に 変 位 す る こ と を 表 し て い る.こ
よ う に 高 温 ほ どλm
れ は 高 温 に な る ほ ど大 き な エ ネ ル ギ ー
を 持 つ 振 動 が 増 加 し,高
い 振 動 数 の 電 気 双 極 子 が 励 起 さ れ,短
波 長 の光 が 多 くな
る か ら で あ る. 逆 に 放 射 強 度 の 分 布 の 測 定 か らλmを 知 れ ば,式(10.5.13)に 温 度 が 求 め ら れ る.可
温 度 に よ り変 化 す る.あ る と き,そ
(2)
よ り温 度 放 射 体 の
視 域 内 の 分 布 も温 度 に よ っ て 変 化 す る の で,可
る 光 の 色 が あ る 温 度 の 黒 体 放 射 の 色 と視 覚 的 に 等 色 で あ
の 光 を そ の 色 温 度(color
temperature)の
光 と い う.
ル ミネ セ ン ス
光 照 射,電
子 衝 撃,イ
オ ン 衝 撃,電
子 ・正 孔 注 入,電
界 印 加,熱,力
ギ ー な ど の エ ネ ル ギ ー に よ っ て 固 体 を 励 起 す る と発 光 が 生 ず る.こ の 電 子 準 位 間 の 遷 移 に よ る 発 光 で あ っ て,ル れ る.物
視光の色 は
学 エネル れ は物 質 固 有
ミ ネ セ ン ス(luminescense)と
質 に 依 存 し な い 温 度 放 射 と は 原 理 的 に 異 な る.ル
いわ
ミ ネ セ ン ス で は,Nf<Ni
の 分 布 が 保 た れ て い る の で 自 然 放 出 光 と な る. 光(主
に 紫 外 線)照
る 陰 極 線(cathode LED)に
射 で 生 ず る ホ 卜(photo)ル ray)ル
ミ ネ セ ン ス,発
ミ ネ セ ン ス,電
光 ダ イ オ ー ド(light
emitting
キ ャ リ ア を 注 入 し た と き に 生 ず る キ ャ リ ア 注 入(carrier
ミ ネ セ ン ス,電
子線 衝撃 に よ diode,
injection)ル
界 印加 に よ って 加 速 さ れ た 伝 導 電 子 が 発 光 中心 を励 起 して生 ず る
エ レ ク ト ロ(electro)ル
ミ ネ セ ン ス(EL)な
ど が あ り,強
く発 光 す る も の は 発
光 材 料 や 発 光 素 子 と し て 広 く利 用 さ れ る. な お,発 光 ダ イ オ ー ドの 発 光 もエ レ ク ト ロ ル ミ ネ セ ン ス と い わ れ る こ と が あ る. ル ミ ネ セ ン ス の う ち 残 光 時 間 が 短 い も の を け い 光(蛍 い も の を リ ン 光(phosphorescence)と 別 が あ る わ け で は な い.発 特 に け い 光 体(phosphor)と ル ミ ネ セ ン ス 材 料 は,直
光,fluorescence),特
い う こ と が あ る が,残
光時間 に明確 な 区
光 ダ イ オ ー ド以 外 の け い 光 ・ リ ン光 を 放 出 す る 材 料 は い わ れ る. 接 遷 移 型 電 子 帯 構 造 の 半 導 体 が 多 い.間
接遷 移 型 半 導
体 は 光 吸 収 と 同 様 に フ ォ ノ ン が 介 在 し て 遷 移 し な け れ ば な ら な い の で,発 こ り に く い か ら で あ る.単
に長
光が起
結 晶 か らの ル ミネ セ ン ス は偏 光 し て い る こ とが 多 い.
発 光 遷 移 過 程 の 主 な も の を,図10.5.3に
示 す.
(a)
(b)
(d)
(c)
図10.5.3
発光遷移過程
(a) バ ン ド間 遷 移 発 光 伝 導 帯 に励 起 され た 電 子 が,価 電 子 帯 に残 され た 正 孔 と再 び 結 合 して励 起 エ ネ ル ギ ー を光 と して放 出 す る.発 光 ダ イオ ー ドや半 導体 レー ザ で 利 用 さ れ る. (b)
ドナ ー ・ア ク セ プ タ ・ペ ア(D-Apair)発
ドナ ーDに
捕 え られ た 電 子 とア ク セ プ タAに
きの 発 光 で,DとAは
光 捕 え られ た 正 孔 が 再 結 合 す る と
近 接 した 位 置 に あ り,そ れ ぞ れ の状 態 の 波 動 関 数 は あ る程
度 重 な って い る必 要 が あ る.直 接 遷 移型 半 導 体 に発 光 中 心 とな る ドナ ー ・ア ク セ プ タ不 純 物 を添 加 した もの は,け い光 体 とし て広 く利 用 され て い る. 例 え ば,ZnSにAg(A)とCl(D)を Cu(A)とAl(D)を
添 加 した もの(青 色 発 光,0.45μm),Znに
添 加 した もの(緑 色 発 光,0.53μm)は,カ
ラ ーTV用
け い光
体 に利 用 され る. (c) 等 電 子 トラ ッ プ(isoelectronic 間 接 遷 移 半 導 体GaPに な る.Nの
trap)発 光
等 原 子価 のN(窒
素)を 添 加 す る と,Nは
波 動 関 数 は極 め て局 在 化 して い る た め,図10.5.4の
は 電 子 状 態 のkの 発 光 はk=0に
トラ ップ と
よ う に,k空
間で
値 は幅 広 く分 布 して い る.こ の た め励 起 は間 接 遷 移 で あ るが,
お け る垂 直 遷 移 で 生 ず る.発 光 ダ イ オ ー ドに利 用 され る.
(d) 希 土 類(rare
earth)発
光
格 子 点 置 換 不 純 物 と し て添 加 さ れ た 希 土 類 イ オ ンの 不 完 全 占 有f状
態 内の発
光 遷 移 で あ る た め,母 体 の エ ネ ル ギ ー帯 構 造 と は無 関 係 に 線 状 スペ ク トル を示 す.
例 え ば,Y2O2Sに
発 光 中 心 と し てEuを
添 加 す る と,Y+3の1部 れ,そ の4f状 μm)す
る.カ
がEu+3で
置 換 さ
態 内 遷 移 で 赤 色 発 光(0.62 ラ ーTVけ
い光 体 に 利 用
さ れ る.
(3)
レー ザ
ボ ル ツ マ ン 分 布 を 表 す 式(10.3.8)に り,通
常 は 図10.5.5(a)に
Nf<Niで
あ る た め に,通
よ
示 す よ うに 常 の ル ミネ セ
図10.5.4
等 電 子 トラ ップ の電 子 状 態 と発光
ン ス は 自 然 放 出 光 で あ る.こ れ に 対 し,図
(a) 熱 平 衡 状 態 図10.5.5
(b)の
よ う に,Nf>Niの
ポ ン ピ ン グに よ る反 転 分 布 の 生 成
分 布 が 存 在 す れ ば 誘 導 放 出 光 が 観 測 さ れ る は ず で あ る.
こ の 分 布 は 反 転 分 布 と い わ れ,ま 置 く こ と な の で,負
(b) 反 転 分 布 状 態
温 度(negative
た,式(10.3.8)に
お い て,形 式 的 にTを
temperature)状
を 実 現 す る に は,励 起 状 態 の 寿 命 が 長 い 特 殊 な 物 質,す べ た よ う に,吸
−Tと
態 と も い わ れ る.反
転 分布
な わ ち,10.3節(1)項
で述
収 あ る い は 発 光 の ス ペ ク トル 線 幅 の 狭 い 物 質 を 用 い,か
つ,高
密
度 の 励 起 状 態 を 作 る た め に,大 き な パ ワ ー を 投 入 す る 操 作 が 必 要 と な る.こ の 操 作
をポ ン ピ ン グ とい う.固 体 に対 して は強 力 な ポ ン ピ ン グ光 を照 射 す る,ダ イ オ ー ド に対 して は伝 導帯 に高 密 度 の 電 子,価 電 子 帯 に 高 密 度 の正 孔 を電 極 か ら注 入 す る, 気 体 に対 して は 高 密 度 の放 電 を行 わ せ る,な
どの 操 作 で 反 転 分 布 が 実 現 され る.
反 転 分 布 の 状 態 で 振 動 数νfiの 光 を入 射 す る と,式(10.3.9)で 式(10.3.10)で
表 され る誘 導 放 出 が 同時 に起 こ る が,Nf>Niで
も放 出が 強 い.す レー ザ(light
表 され る吸 収 と あ るか ら吸 収 よ り
なわ ち,入 射 エ ネ ル ギ ーu(νfi)は 増 幅 さ れ た 形 とな る.こ れが
amplification by stimulated
emission
る.こ の誘 導 放 出 の状 況 は,ポ ン ピ ン グでEf準
of radiation,laser)で
あ
位 に た め られ た 多数 の電 子 が,νfi
の 入 射 を 引 き金 と して 栓 が 抜 か れ,一 斉 に 下 の 準 位 に遷 移 す る もの とい え よ う. 誘 導 放 出 に よ る発 光 は,ル ミネ セ ン ス と同様 に準 位 間 遷 移 に よ る発光 で あ る が, 自 然放 出 に よ るル ミネ セ ン ス と区別 して レー ザ 光 とい わ れ る.レ
ーザ 光 は 次 の よ
うな特 質 が あ る.① 単 色 性 が 良 い,② 長 い 波 連 を も つ,③ 干 渉 性 が 良 い(coher ent),④ 指 向 性 が 良 く光 ビー ム が 広 が ら な い.し た が っ て 集 光 性 も良 い,⑤ 位 相 が 入 射 光 と同 じ,⑥ エ ネル ギ ー 密 度 が 高 い. 実 用 され て い る レー ザ 装 置 は,図10.5.6に 材 料,お の1枚
よび 発 光 材 料 の 両 側 に配 置 した2枚
は100%以
下)で
示 す よ う に,ポ ン ピン グ装 置,発 光 の反 射 鏡(1枚
は反 射 率100%,他
構 成 した光 波 共 振 空 洞 を組 み合 わ せ た もの で あ る.
誘 導 放 出 光 は,共 振 空 洞 の 中 の反 射 に よ り発 光 材 料 を通 過 す る た び に増 幅 され る.入 射 光u(νfi)と して は,自 ら放 出(発 振)し
図10.5.6
たνfiの 光(自
レー ザ 発振 装 置
然 放 出光 あ る い は
誘 導 放 出 光)を
用 い,反 射 に よ りそ れ を何 回 も帰 還 して増 幅 され る.す な わ ち,
実 用 レー ザ 装 置 は,外 部 か らの光 を増 幅 し て い るの で は な く光 発 振 器 な の で あ る. 増 幅 され た 光 の1部
は反 射 率 が100%で
な い 鏡 か ら外 部 に抜 け出 し利 用 さ れ る.
レー ザ 装 置 か らの レー ザ光 は直 線 偏 光 性 が あ る. 極 め て 多 種 類 の レー ザ が 開 発,実 用 化 さ れ て い る.連 続(CW)発 パ ル ス(PW)的
振 す る もの と
に しか 発 振 しな い もの が あ る.以 下 に,い くつ か を挙 げ て み る.
① 固 体 レーザ 固 体 中 に 添 加 され た不 純 物 遷 移 元 素 の 電 子 準 位 間 遷 移 に よ る 発 光 で,Al2O3単
結 晶 にCrを
Y2Al5O12単 結 晶 にNd(ネ ラス にNdを
添 加 し た ル ビー レ ー ザ(PW,波
オ ジ ム)を 添 加 したYAGレ
長694nm),
ー ザ(PW,1.06μm),ガ
添 加 した ガ ラ ス レ ー ザ(PW,1.06μm)な
どが あ る.高 パ ワ ーXe
放 電 管 な どの 光 に よ っ て ポ ン ピ ン グが 行 わ れ る. ② 気 体(ガ
ス,イ オ ン)レ ー ザ 中性 ガ ス,イ オ ン ガ ス,金 属 蒸 気 な ど,気 体
の 電 子 準 位 間 発 光 に よ る もの で,He-Neレ (CW,325お
よ び442nm),Arイ
ス(CO2)レ
ー ザ(CW,10.6μm),窒
ー ザ(CW,633nm),He-Cdレ
オ ン レー ザ(CW,515お 素(N2)レ
ーザ
よ び488nm),炭
酸ガ
ー ザ(PW,337nm),エ
マ レー ザ(PW,XeCl-308nm,KrF-249nm,ArCl-175nm)な
キシ
どが あ る.
③ 色 素(dye)レ ー ザ シ ア ニ ン,フ タ ロ シ アニ ン,ロ ダ ミ ンブ ル ー な どの 有 機 分 子染 料 を溶 質 と して,ア
ル コー ル な どの溶 媒 に溶 か した 液 体 を レ ー ザ材 料 とす
る.分 子 の 振 動 ・回転 に よ る多 数 の 電 子 準 位 がバ ン ド状 に分 布 し て い るた め に, 他 の レー ザ とは異 な り,幅 の あ るス ペ ク トル の レー ザ 光 とな る.種 々 の溶 質 と分 光 器 を 用 い て 可 視 域,お よび その 付 近 の希 望 の 波 長 のCWあ 光 が得 られ る.ポ ン ピ ン グ に はArイ
る い はPWの
レー ザ
オ ン レー ザ や 窒 素 レー ザ な ど,他 の レー ザ 光
が使 わ れ る. ④ 半 導 体 レーザ とINPを
10.6
これ に つ い て は13章
で述 べ るが,直 接 遷 移 型 材 料 のGaAs
主 材 料 と して い る(CW,660nm∼1.6μm).
外 力 に よ る光 学 的 効 果
電 磁 波 が 進 行 す る方 向 に対 して電 界 ベ ク トル と磁 界 ベ ク トル は垂 直,か
つ互 い
に垂 直 で あ る.電 界 ベ ク トル と光 の 進 行 方 向 を含 む面 を電 磁 波 の 振 動 面,磁
界ベ
ク トル と光 の進 行 方 向 を含 む面 を偏 波 面 とい う.し か し,こ の 両 面 は常 に互 い に 垂 直 で あ る か ら,光 で は振 動 面 を偏 光 面 とい う こ とが 多 い.進 行 方 向 に垂 直 な面 に投 影 され た光 の電 界 ベ ク トル の 先端 の 軌 跡 が 直 線 に な る光 を 直線 偏 光 とい い, 一 定 の傾 きの 平 面 内 で振 動 し なが ら進 行 す る の で平 面 偏 光 と もい う
.進 行 時 間 と
と もに 電 界 ベ ク トル が 時 間 と と もに 回 転 して 円軌 跡 に な る光 を 円偏 光,回
転の と
き に ベ ク トル の 大 き さが 周 期 的 に変 化 して 楕 円軌 跡 に な る光 を楕 円偏 光 とい う. な お,直 線 偏 光 は電 界 ベ ク トル の大 き さが 不 変 で,回 転 速 度 が等 しい 右 回 り, 左 回 りの 円 偏 光 が 合 成 され た もの と考 え る こ とが で き る.太 陽 な どの 温 度 放 射 自 然 光 は非 偏 光,反 射 光 は一 般 に完 全 偏 光 か 部 分 偏 光 で あ る. 光 が物 質 を通 過 す る と き,偏 光 の状 態 が 変 化 す る こ と を光 学 活 性 とい う.光 学 活 性 の う ち直 線 偏 光 面 が 回転 す る性 質 を旋 光 性 とい い,直 線 偏 光 が楕 円 偏 光 に変 化 す る性 質 を円 二 色 性(円 偏 光 二 色 性)と
い う.右 回 り,左 回 りの 円偏 光 に対 す
る吸 収 の 差 が 大 き い と き,見 る方 向 に よ り二 色 が見 え る こ とが あ る の で,円 二 色 性 とい わ れ る.光 学 活 性 は結 晶構 造 的,磁
気 的 あ る い は 電 気 的 極 性 に異 方性 が あ
る結 晶 で 見 られ る. 他 方,磁 界,電 界,応 力 な どの 印 加 に よ って 異 方性 が 生 じ,偏 光 状 態,吸
収,
反 射,発 光 な どが 変 化 す る結 晶 が あ る.
(1) 磁 界 の効 果 (a) ゼ ー マ ン効 果 原 子 ・分 子 の縮 退 した電 子 状 態 が磁 界 を 印加 す る と縮 退 が 解 け,エ ネ ル ギ ー が わ ず か に異 な る状 態 に分 か れ る.こ の た め 無 磁 界 中 で励 起 した と き に生 ず る1本 の 発 光 線 は,磁 界 中 で 励 起 した と きに は,複 数 本 の 発 光 線 に分 裂 す る.分 裂 エ ネ ル ギ ー 幅 は磁 界 に比 例 す る.こ の現 象 をゼ ー マ ン効 果 とい う.縮 退 が 解 け た 各 状 態間 の遷 移 確 率 は,円 偏 光 の 回 転 の 向 き(右 回 り,左 回 り)に よっ て 異 な る.こ の た め 発 光 に は偏 光 性 が 生 じ,逆 に,吸 収 で は 入射 光 の 偏 光 状 態 が 関 係 す る.
(b) 磁 気 光 学 効 果 磁 化 され た物 質 は,磁 気 モ ー メ ン トの整 列 の た め磁 気 異 方 性 が あ る.そ の 中 を 直 線 偏 光 が 進 行 す る とき,偏 光 面 が 進 行 時 間 と と もに 回 転 す る現 象 を磁 気 光 学 (magneto‐optic,MO)効
果 とい う.以 下 の よ うに,こ の効 果 に は い くつ か の形 態
が あ る. ① フ ァ ラ デ ー 効 果 図10.6.1 の よ うに,直 線 偏 光 が 磁 化 あ る い は外 部 磁 界 に 平 行 に進 行 す る と き (フ ァラ デ ー 配 置 と い う),直 線 偏 光 面 が 回 転 す る現 象 を フ ァラ デ ー (Faraday)効
果 あ るい は磁 気 旋
図10.6.1
フ ァ ラ デ ー 効 果(フ
ァ ラ デ ー 配 置)
光 効 果 と い う.こ れ は ゼ ー マ ン効 果 と関 係 が あ る.直 線 偏 光 を構 成 す る右 回 り, 左 回 り円偏 光 の 波 長 が わ ず か に 異 な るた め に,そ れ ぞ れ の 円 偏 光 の屈 折 率,し
た
が っ て位 相 速 度 が 異 な る.こ の た め 右 回 り と左 回 りの 円偏 光 面 の 回転 速 度 が 異 な り,直 線 偏 光 面 の 回 転 が 起 こる.回 転 角 は フ ァ ラ デ ー 回 転 角 といわ れ,磁 化 あ る い は磁 界 の 大 き さ の1乗
に比 例 す る.こ の 効 果 は,磁 化 した 強 磁 性 体 で は外 部 磁
界 を印 加 しな くて も起 こ るが,自 発 磁 化 を持 た な い常 磁 性 体 で は,磁 界 を 印加 し た と き に の み起 こ る.Bi3Fe5O12やYIG=Y3Fe5O12な ② フ ォ ー ク 卜効 果 図10.6.2の
どで 効 果 が 大 き い.
よ うに,磁 化 あ る い は磁 界 に垂 直 に直 線 偏 光
が 入射 す る と き(フ ォ ー ク 卜配 置 とい う),通 過 光 が 楕 円偏 光 とな る現 象 を フ ォー
図10.6.2
フ ォ ー ク 卜効 果(フ
ォ ー ク 卜配 置)
ク ト(Voigt)効 Mouton)効
果 とい う.主 に 液体 で 観 測 され るコ ッ トン ・ム ー トン(Cotton‐
果 も同 じ効 果 で あ る.こ の 効 果 もゼ ー マ ン効 果 と関 係 が あ り,電 界 ベ
ク トル が磁 化 に平 行 な 直 線 偏 光 と磁 化 に 垂 直 な 直 線 偏 光 は,吸 収,屈
折 率,位
相
速 度 に 差 が あ る. 図 の よ う に任 意 の 向 きの 直 線 偏 光 で は,磁 化 に平 行 な成 分(異 成 分(正
常 光)と
垂 直な
は屈 折 率 の差 の た め,異 な る位 相 速 度 で進 行 し て楕 円 偏 光 とな
る.進 行 と と もに楕 円 の 長 軸 方 向,つ 磁 化 の2乗
常 光)と
ま り偏 光 面 が 回 転 す る.偏 光 面 の 回 転 角 は
に比 例 す る.入 射 光 に対 す る結 晶軸 の 方 向 に よ っ て は,異 な る速 度 の
2つ の 直線 偏 光 に分 離 され て複 屈 折 が 起 こ るの で 磁 気 複 屈 折 効 果 と もい わ れ る. ③ 磁 気 カー 効 果 図10.6.3の
よう
に,磁 化 した物 質 の表 面 に垂 直 あ る い は斜 め に直 線 偏 光 を入 射 す る と き,反 射 光 は楕 円偏 光 と な り,楕 円 の 長 軸 方 向 が 反 射 光 の 進 行 方 向 を軸 と して 回転 す る 現 象 を 磁 気 カ ー(magnetic Kerr)効
果 とい う.磁 化 の 向 き は任 意
で あ る が,反 射 面 に垂 直 な磁 化 の と き 図10.6.3
磁 気 カ ー 効 果
回 転 角 が 最 も大 き い.金 属 は光 を ほ と ん ど透 過 しな い の で,こ
の効 果 で 偏 光 状 態 が 測 定 さ れ る.こ の 効 果 は,磁 気 光 学
記 録 の 読 み 出 し再 生 に利 用 され る.Tb-Fe-Coな
ど希 土 類 非 晶 質 合 金 が 用 い られ
る.
(2) 電 界 の 効 果 (a) シ ュ タル ク効 果 原子 が 強 電 界 中 に 置 か れ る と,ゼ ー マ ン効 果 と同 様 に縮 退 が 解 け る現 象 をシ ュ タ ル ク 効 果 とい う.電 界 に よる 付 加 エ ネ ル ギ ー で 電 子 の角 運 動 量 が 変 化 す る こ と に よ る.分 裂 は非 常 に 小 さ く電 界 に も比 例 しな い.ま た,偏 光 状 態 の 変 化 も小 さ い.以 下 の 電 気 光 学 効 果 とは関 係 な い.
(b) 電 気 光 学 効 果 誘 電 性 結 晶 に電 界 を 印加 す る と屈 折 率 に異 方性 が 生 じ,あ る い は異 方 性 が 変 化 し,通 過 光 に変 化 が 生 ず る現 象 を電 気 光 学(electro-optical,EO)効
果 とい う.
光 の 電 界 ベ ク トル が 印加 電 界 の 方 向 に平 行 な 成 分 と垂 直 な 成 分 とで は,屈 折 率 す な わ ち位 相 速 度 が 異 な っ て く るの で 偏 向面 が 回 転 す る.電 気 光 学 効 果 の う ち,結 晶構 造 に反 転 対 称 性 の な い圧 電 性 結 晶 で は,屈 折 率 変 化 は電 界 の1乗 ポ ッケ ル ス(Pockels)効
に比 例 し,
果 とい わ れ,反 転 対 称 性 が あ る等 方 性 結 晶 で は電 界 の
2乗 に比 例 し,カ ー(Kerr)効
果 とい わ れ る.
入 射 光 に 対 す る結 晶軸 の 方 向 に よ っ て は,複 屈 折 が 生 ず る の で電 気複 屈 折 効 果 と もい わ れ る.な お,直 線 偏 光 の 偏 光 方 向 に平 行 な電 界 を印 加 す る と き,フ
ァラ
デ ー 効 果 の よ う な旋 光 は起 こ らな い. 印 加 電 界 の 大 き さ を信 号 変 調 して 入 射 偏 光 面 の 回転 角 を変 化 させ,そ
の透 過 側
に 一 定 方 向 偏 光 を通 す 検 光 子 を置 い て 通 過 させ る と,回 転 角 に よ っ て電 界 ベ ク ト ル の 大 き さ が変 わ る.つ ま り光 強度 の 信 号 変 調 が で き る.強 誘 電 性 単 結 晶 のKDP =KH2PO4やLiNbO3な
ど はポ ッケ ル ス効 果 が 大 き く,KTN=K(Ta,Nb)O3は
カ ー効 果 が 大 き い. (c) フ ラ ンツ ・ケ ル デ ィシ ュ効 果 強 電 界 を 印 加 す る と,半 導 体 の 基 礎 吸 収 端 が 長 波 長 側 に変 位 す る現 象 を フ ラ ン ツ ・ケ ル デ ィシ ュ(Franz-Keldysh)効 果 とい う.図10.6.4の
よ うに,価 電 子 帯
波動 関 数 の 電 子 状 態 が 禁 止 帯 中 に しみ 出 し,こ の状 態 か ら同様 に 禁 止 帯 に しみ 出 した 伝 導 帯 波 動 関 数 の電 子 状 態 へ 遷 移 す るた め に,バ
ン ドギ ャ ップ よ りも小 さ い
エネル ギーの光子が吸収 され ることにな る.反 射 に つ い て も同 様 の効 果 が あ る. 吸収 端 波 長 の光 の 変 調 が で き る.
図10.6.4
フ ラ ン ツ ・ケ ル デ ィ シ ュ 効 果
(3) 音 響 光 学 効 果 結 晶 内 に 音 波(弾 性 波)を 導 入 して 定 在 波 を立 た せ る と,音 波 の 波 長 で格 子 点 原 子 変 位,つ
ま りひ ず み の 周 期 的分 布 状 態 が 形 成 さ れ る.し た が っ て,屈 折 率 も
周 期 的 に変 化 して い る.こ れ に対 して斜 め に光 を入 射 す る と,音 波 の 波 長 に よ っ て反 射 光 の 方 向 や 強 度 が 変 化 す る現 象 を音響 光 学(acousto-optic,AO)効
果と
い う.ブ ラ ッ グの 回折 条 件 を満 た す と き強 く反 射 さ れ る.音 波 の 波 長 を変 化 させ て光 の 変 調,偏
10.7
向 な どが で き る.TeO2,PbMoO4な
どが用 い られ る.
液 晶の電 気光学効 果
(1) 液
晶
あ る種 の 高 分 子 液 体 が 温 度 に よ り光 学 的性 質 が 変 化 す る こ とは,約100年 か ら知 られ て い た.そ 球 状 高 分 子 は,あ され,液 晶(liquid
して その よ う な液 体 を構 成 す る棒 状 高 分 子,な
以前
い し長 楕 円
る温 度 範 囲 で は結 晶 の よ う に規 則 的 に配 列 して い る こ とが見 出 crystal,LC)状
態 と名 づ け られ た.液 相 が 温 度 に よ っ て相 転
移 した 液 晶 相 と もみ られ る.現 在 ま で に,極 め て 多 数 の液 晶 相 を示 す 材 料 が 見 い だ され て い る. 液 晶 相 で は分 子 の 配 列 状 況 に よ り,光 散 乱 や光 学 異 方 性 が 変 化 す る.棒 状 分 子 は 電 気 双 極 子 あ る い は磁 気 双 極 子 を有 し,液 体 の た め に流 動 性 が あ る か ら,電 界, 磁 界,弾 性 波,応
力,熱
な どで 配 列 状 況,し
た が って 光 学 的性 質 が 変 化 す る.
液 晶 材 料 は棒 状 分 子 の規 則 配 列状 態 に よ っ て,次 の3つ ① ス メ ク チ ッ ク(smectic)液
晶
"せ っ けん の"と
っ けん 液 中 の分 子 配 列 に見 られ,図10.7.1(a)の
の型 に大 別 され る.
い う意 味 が あ り,濃 厚 せ
よ う に,棒 状 分 子 が 長 軸 方 向 に
規 則 整 列 し た層 状 構 造 で あ る.分 子 間 の 結 合 が 比 較 的 強 く粘 性 が 大 きい.外 力 で 配 列 を変 え る こ とは や や 難 しい. ② ネ マ チ ック(nematic)液 味 が あ り,図(b)の
晶
"糸(あ
る い は,ひ
も)の
よ う な"と い う意
よ う に,分 子 長 軸 は一 方 向 に整 列 して い るが,各
方向の分子
間 隔 は無 秩 序 で あ り,各 分 子 は長 軸 方 向 に比 較 的 容 易 に移 動 で き る の で粘 性 が 小
液
体
(a) ス メ ク チ ッ ク液 晶
(b) ネ マ チ ッ ク 液晶 (c) コ レ ス テ リッ ク液 晶 図10.7.1
液
晶
さ い.外 力 で配 列 を変 え や す い. ③ コ レス テ リ ッ ク(cholesteric)液 る こ と に由 来 す る.図(c)の
晶 コ レス テ ロ ー ル 誘 導 体 に 多 く見 ら れ
層状 に 重 な っ て い る.ま た,層
よ う に,分 子 が軸 方 向 を そ ろ え て規 則 配 列 した 面 が ご との 分 子 軸 方 向 は らせ ん 状 に変 化 して い る.ら
せ ん ピ ッチ が 温 度 に よ り変化 す る た め,反 射 色 が温 度 に よ り変 化 す る.
(2) 液 晶 の 電 気 光 学 効 果 と液 晶 素 子 液 晶 は分 子 の長 軸 方 向 の屈 折 率nII,短
軸 方 向 の 屈 折 率n⊥ の 差Δnが
固体 結 晶
と比 べ て 大 きい た め,直 線 偏 光 に対 し大 きな旋 光 性 を示 す .代 表 的 な液 晶 で はnII は1.5,n⊥
は1.7程
度 で あ る.ま た,直 線 偏 光 の進 行 方 向 に対 して 分 子 軸 の傾 き
が あ る と円偏 光,楕
円偏 光 と な り,複 屈 折 が 起 こる.ま た,各 分 子 軸 が らせ ん 配
列 で あ る と き,ら せ ん軸 方 向 に直 線 偏 光 が 入 射 す る と,偏 光 面 が 進 行 と と もに 回 転 す る.
液 晶 の 大 きな 光 学 異 方 性 は,電 界 印加 に よ っ て さ らに 変 化 させ る こ とが で き る. 1968年 に ハ イ ル マ イ ア(G.Heilmeier)ら
は,室 温 付 近 の 液 晶 相 を用 い,電 界 で
光 学 的 性 質 を制 御 す るパ ター ン表 示 素 子 を考 案 し,以 降,こ の 方 面 の 研 究 ・開 発 ・ 実 用 化 が盛 ん に行 わ れ て い る. 液 晶 表 示 素 子 は極 めて 多 くの形 態 の もの が 考 案 され て い る.こ こ で は,最
も広
く利 用 さ れ て い る ネ マ チ ッ ク液 晶 表 示 素 子 の 基 本 形 を述 べ る. 液 晶 パ ネ ル の 構 成 を図10.7.2に ITO(In2O3)透
示 す.ガ ラ ス板 の 表 面 に は,画 素 の 形 状 を した
明 電 極 薄 膜 が あ る.そ の 上 に分 子 配向 樹 脂 薄 膜 が あ る.樹 脂 膜 の 表
面 処 理 に よ っ て 最 近 接 分 子 の 長軸 方 向 を面 に 平 行,あ とが で き る.こ
るい は垂 直 に 配向 させ る こ
の2枚 の ガ ラ ス板 の 間 に液 晶 材 料 お よび スペ ー サ と な る多 数 の微
小 な プ ラ ス チ ッ ク球 状 粒 子 が 注 入 され,分 子 は規 定 さ れ た 方 向 に配 列,か ラ ス板 は5∼10μmの
つ,ガ
間 隔 を 置 い て 対 向 す る.液 晶 層 の 厚 さ は パ ネ ル 面 の全 範 囲
で均 一 で あ る こ とが 要 求 され る.
図10.7.2
広 く 用 い ら れ る 素 子 の 分 子 配向 nematic,ね
じ れ ネ マ チ ッ ク)状
液晶 表 示 パ ネル
は,図10.7.3(a)の
よ う なTN(twisted
態 で,分 子 長 軸 は 配向 処 理 に よ り電 極 間 で 強 制 的
に90° ね じ ら れ て い る.つ ま り コ レ ス テ リ ッ ク 状 態 と 同 様 で あ る.直 線 偏 光 が ガ ラ
(a) 無電 界
(b) 電 界 印 加
図10.7.3
TNの
動 作
ス に垂 直 に 入 射 す る と,偏 光 面 は液 晶 層 で90° 回 転 す る .電 極 間 に 電 圧(約1.5V 以 上)を
印加 す る と,図(b)の
よ うに,多
くの 分 子 の長 軸 は電 界 の 方 向 に 向 け ら
れ るの で 回転 角 が 小 さ くな る.液 晶 パ ネ ル の 両 面 に は フ ィル ム状 の 偏 光 子 と検 光 子 が 取 り付 け て あ るの で,コ
ン トラ ス トの あ るパ ター ン が 表 示 さ れ る.ね
約200° と大 き く した もの はSTN(super
TN)と
い わ れ,コ
じれ を
ン トラ ス トが 良 い.
表 示 は透 過 型 と反 射 型 が あ る.後 者 で は反 射 層 が付 加 され る.カ ラ ー表 示 に は, 画 素 ご と に3原 色 の フ ィル タ が 取 り付 け られ る.ま た,各 ジ ス タ(TFT)を
画 素 ご とに 薄膜 トラ ン
取 り付 け る と,コ ン トラ ス トや 中 間調 が 改 善 され る.
11. 電 気 伝 導
電 気 伝 導 性 固体 に 電 界 を印 加 す る と電 流 が 流 れ る.こ れ を荷 電 粒 子 の 流 れ と考 え る と,7章
に述 べ た 取 扱 いが 適 用 で き る.荷 電 粒 子 と して は電 子,正
ン が あ るが,こ
孔,イ
オ
こで は 電 子,正 孔 を対 象 とす る.こ れ らは 電 荷 を選 ぶ とい う意 味
で キ ャ リア(carrier)と
呼 ば れ る.キ ャ リア は電 界 で 加 速 され るが,衝 突 中 心 に
衝 突 して加 速 は制 限 さ れ る.衝 突 中 心 は格 子 原 子 の 正 規 位 置 か らの 変 位,す
なわ
ち格 子 振 動 を量 子 化 した フ ォ ノ ン,不 純 物,格 子 欠 陥,原 子 間 隔 の 乱 れ,他
の電
子 な どで あ る.さ
らに,半 導 体 で は キ ャ リア が補 獲 され て移 動 が 妨 げ られ,あ
る
い は消 滅 す る こ とが あ る. この 章 で は,ド
リフ ト電 気 伝 導,拡 散 電 気 伝 導 の概 要,伝 導 電 子 の 挙 動,伝
導
電 子 に対 す る磁 界 の 効 果 な ど,電 気 伝 導 の 基 礎 的 事 項 につ い て述 べ る. 半 導 体 に特 有 な 電 気 伝 導 に つ い て は,12章 な お,電 気 伝 導 に 関係 す る単 位,例 圧)V,電
界Ex=-dV/dxな
電 子 はExと
え ば,電 荷q,電
流i,電
位V,電
位 差(電
どは,す べ て正 電 荷 に つ い て 定 義 され て い る.
電 荷 に働 く電 界 の 力 はqEで れ,そ の 向 きに電 流i=qυ
で述 べ る.
あ るか ら,正 電 荷 は電 界Exの
向 き に速 度υ で 流
が 流 れ る.一 方,電 子 に働 く力 は-qExで
は逆 向 きに動 くが,i=(-q)(-υ)で
あ るか ら,
あ る か ら,電 流 の 向 きは 正 電 荷
の 場 合 と同 じで あ る.正 電 荷 は電 位― ポ テ ン シ ャ ル― の 高 い 方 か ら低 い 方 へ 流 れ, 電 子 は電 位 の 低 い方 か ら高 い 方 へ 流 れ る.電 子 の電 位 が-Vな ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー は(-q)(-V)=qVで
ら ば,電 子 の ポ テ
あ る か ら,電 子 は ポ テ ン シ ャル エ ネ
ル ギー の 高 い 方 か ら低 い 方 へ 流 れ る.正 孔 は逆 に,電 子 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の 低 い 方 か ら高 い方 へ 流 れ る.
11.1
ド リ フ ト電 気 伝 導
7章 で 述 べ た よ う に,力 に よ る粒 子 の 流 れ の速 度 は無 限 に増 大 す る もの で は な く,衝 突 散 乱 に よ っ て制 限 され る.定 常 ド リフ ト流 は,式(7.4.4)に
より (11.1.1)
で 表 され る.Fは 速 度,mは
粒 子 に働 く力,nは
粒 子 数 密 度,υd=τcF/mは
粒 子 の ド リフ ト
粒 子 質 量,τcは 熱 運 動 し て い る 粒 子 の 平 均 衝 突 時 間,μ=τc/m
〔cm/s・N〕 は粒 子 の ド リフ ト移 動 度 で,単 位 の力 〔N〕に よ る速 度 で定 義 され,力 に よ る粒 子 の 動 き や す さ を表 す. 粒 子 が 電 荷qを
有 す る キ ャ リア の と き は,キ
qExで 加 速 され,そ
れ に よ って 得 た速 度(あ
ャ リア は電 界Exに
よ る力F=
る い は エ ネ ル ギ ー)は 衝 突 に よっ て
失 わ れ て減 速 し,加 速 と減 速 が 釣 り合 っ て定 常 的 な電 流 と な る.ド リフ ト電 流 は, (11.1.2) で 表 さ れ る. こ こ で,キ
ャ リ ア の ド り フ ト移 動 度(drift
mobility)を
(11.1.3) で 定 義 す る.こ
れ を 用 い る と,キ
ャ リ ア の ド リ フ ト速 度 と ド リ フ ト電 流 は,
(11.1.4) (11.1.5) で 表 さ れ る.し
た が っ て,μdは
き や す さ を 表 す.μdの 表 す と,μdの
値 は 物 質 ご と に 異 な る.υdを
単位 は
〔cm2/s・V〕
キ ャ リ ア が 電 子 の 場 合 は,電 は 正 電 荷(正
孔)の
単 位 電 界 に よ る 速 度 で,電
〔cm/s〕,Exを
〔V/cm〕
で
で あ る.
界 の 向 き と反 対 の 向 き に 運 動 す る が,電
場 合 と同 じ く式(11.1.5)で
リ ア の 判 別 は で き な い.
界 に よ るキ ャ リアの 動
表 さ れ,電
流 の向 き
流の向 きか らはキャ
τcは 式(7.2.1),お
よ び 式(7.2,2)に
よ り,
(11.1.6)
で あ る.lは
キ ャ リア の 平 均 自 由行 程,υmは
速 度,Ncは
衝 突 中 心 の 密 度,Sは
伝 導 に関 与 す る電 子 集 団 の平 均 運 動
衝 突 断 面 積 で あ る.
υmは 金 属 と半 導 体 で は,次 の よ う な違 い が あ る.金 属 で は伝 導 電 子 数(価 数)nは,ほ
ぼ原 子 密 度 に等 し く,ほ ぼ 一 定 とみ て良 い.こ の 全 電 子 が 電 界 に よ り
加 速 され るが,図9.1.10で ギ ーEFま
電子
も示 した よ う に,熱 平 衡 状 態 で す で に フ ェル ミエ ネ ル
で の エ ネル ギ ー を持 っ て お り,EF付
ギ ー は ほぼEFと
近 の電 子 数 も多 い の で 平 均 エ ネ ル
して良 い.し た が っ て,加 速 前 の 平 均 速 度υmは,ほ
ぼ次式 か ら
与 え られ るυFと して 良 い. (11.1.7) 他 方,半 導 体 や絶 縁体 で は,加 速 前 の電 子 は伝 導 帯 の底 に存 在 して い る か ら, υmは 式(7.3.1)で
与 え られ る熱 運 動 速 度υthで あ る.す な わ ち, (11.1.8)
で あ る. 式(11.1.5)を
(11.1.9) と 書 く と,こ
の 式 は オ ー ム の 法 則 を 表 し,導 電 率(electric
conductivity)σ
の 中
身 は,
(11.1.10) と表 さ れ る.導 電 率 は電 子 密 度nお る.金 属 で はnは
よび衝 突 時 間 τc,し た が っ て μdで 支 配 され
ほ ぼ一 定 で あ る か ら,σ の値 は ほ ぼ μdで 決 まる.こ の た め,不
純 物 量 や 格 子 欠 陥 に よ っ て σ は か な り変 化 す る.ま た,合 金 の σは 一 般 に純 金 属 よ り小 さ い.半 導体 で はnと
μdに よ り σ は極 め て大 き く変 化 す る.
次 に,導 電 率 σ=qnμdの 温 度 依 存 性 を考 えて み る.金 属 の 場 合,伝 導 電 子 数n は,温 度 に よ らず ほ ぼ一 定 と考 え て よい.半 導 体 の 場 合 は,価 電 子 帯 電 子 あ る い は不 純 物 内 電 子 の 熱 励 起 に よ り,nはexp(-α/T)の つ の で,温
度 上 昇 と と もにnは
形 の大 きな 温度 依 存 性 を持
急 激 に増 大 す る.
一 方,μdし た が っ て τcの温 度 依 存 性 は や や 複 雑 で あ る.温 度 が 上 昇 す る と格 子 振 動 が 活 発 に な り,格 子 振 動 の振 幅 がTに
比 例 し て大 き くな る.こ れ は ボ ー ズ ・
ア イ ン シ ュ タ イ ン分 布 則 に よ り,ω の 振 動 数 状 態 を 占 め る フ ォ ノ ン数 が増 大 す る こ とで あ る.hω <kBTの 中心 密 度Ncは
ほ ぼTに
した が っ て,τcはTに
と き は フ ォノ ン数,す な わ ち 式(11
い て は,温度
お け る衝 突
比 例 し て増 大 す る. 反 比 例 して 低 下 す る.電 子 の 平 均 速 度υmに つ い て は,
金 属 で は温 度 に よ らず ほ ぼ一 定 で,υm=υFで え られ るVthで
.1.6)に
あ る.半 導 体 で は式(11.1.8)で
あ る か ら,υm=υth∝T1/2の 温 度 依 存 性 が あ る.衝 突 断面 積Sに
に よ らず一 定 と し て よ い.結 局,フ
与 つ
ォ ノ ン との衝 突散 乱 に よ る温 度
依 存 性 は,金 属 で は μd∝τc∝1/T,半 導 体 で は μd∝τc∝1/T(1+1/2)=1/T3/2で 表 さ れ る. 他 方,不 純 物 や格 子 欠 陥 に よ る衝 突 散 乱 は,金 属 で は ほ とん ど温 度 依 存 性 は な い とされ て い る.半 導 体 で は これ ら に よ る温 度 依 存 性 が あ るが,あ
ま り明 確 で な
い の で 省 略 す る. 一般 的 傾 向 と して,金 属 の 導 電 率 はn の 温 度 依 存 性 が ほ とん ど な い た め にμd の温 度 依 存 性 に支 配 され,温 度 上 昇 に よ り温 度 に反 比 例 して低 下 す る.半 導 体 で も温 度 上 昇 に よ り μdは 低 下 す る が,n の 増 大 が 支 配 的 で あ っ て,導
電 率 は温
度 に対 し,指 数 関 数 的 に増 大 す る(図 11.1.1). ド リフ ト移 動 度 μdは 式(11.1.10)に よ り,σ とnを
測 定 す れ ば求 め られ る.
図11.1.1
導 電 率 の 温 度 依 存性
nは11.4節
で 述 べ る ホ ー ル 効 果 か ら測
定 さ れ る.半 導 体 で は 走 行 時 間(time flight,TOF)法
of
に よ っ て 直 接 的 に測 定
す る こ と も で き る.す
な わ ち,図11.1.2
の よ う な 配 置 と 寸 法 に お い て,左
側電極
付 近 に パ ル ス 光 を 照 射 し て 電 子 ・正 孔 キ ャ リ ア を 発 生 さ せ る.こ 加 し て,右
の と き電 界 を 印
側 電 極 か らの 出 力 電 流 を オ シ
ロ ス コ ー プ で 観 測 す る と,図 形 が 得 ら れ る.Ttは
の よ うな波
電 極 間 距 離Lの
走
行 時 間 で あ る.Tt=L/υd=L/μdEx= L2/μ dVか
ら電 子 の μdが 求 め られ る.電
圧 極 性 を 逆 に す れ ば,正 ら れ る.光
孔 の μdが 求 め
照 射 に 換 え て,左
図11.1.2
側 電 極 にパ
ル ス 電 圧 を 印 加 し て キ ャ リ ア を 注 入 し て も よ い.こ ャ リ ア 捕 獲 が あ っ て も,そ 最 後 に,典
の 方 法 に よ れ ば,走
行 中にキ
れ を 含 む 実 際 の ド リ フ ト移 動 度 が 測 定 さ れ る.
型 的 な 値 を 入 れ て τ,l,υdな ど を 見 積 っ て み る.
金 属 の 場 合,EF=5〔eV〕,σ=5×105〔1/Ω 10-5〔V/cm〕
ドリフト移 動 度 の 測 定(TOF法)
・cm〕,n=7×1022〔1/cm3〕,Ex=5×
と す る と,υF=1×108〔cm/s〕,τc=3×10-14〔s〕,l=3×10-6〔cm〕,μd
=5×10〔cm2/V・s〕
,υd=2×10-3〔cm/s〕
と な る.
半 導 体 の 場 合,T=300〔K〕,μd=1×103〔cm2/V・s〕,Ex=1〔V/cm〕
と す る と,
υth=7×106〔cm/s〕,τc=6×10-13〔s〕,l=4×10-6〔cm〕,υd=1×103〔cm/s〕
と な
る. 以 上 の 見 積 りか ら,衝 突 は 極 め て 短 時 間 に 起 こ る こ と,100原 る と 衝 突 が 起 こ る こ と,υd≪υF,υthで
あ る こ と な ど が 分 か る.
以 上 は,通 常 の 電 界 を 印 加 し た 場 合 で あ る が,特 υth +υd=υExが 格 子 温 度Tよ
増 大 し,mυ2Ex/2=3kBTe/2と
子 間隔程度走 行す
に 強 電 界Exを
印加 した と き は
置 い た と き の 等 価 温 度Teが
物質 の
り高 く な る こ と が あ る.こ の よ う な 電 子 は ホ ッ トエ レ ク ト ロ ン と い
わ れ る.平 均 衝 突 時 間 τc(Ex)=l/υExは さ く な る.こ
の 結 果,υdも
ず れ て く る.な
お,Teは
電 流iも
小 さ く な る の で,μd(Ex)=qτc(E)/mは
電 界 に 比 例 し な く な る.つ
小
ま りオ ー ム則 か ら
一 般 に高 速 荷 電 粒 子 気 体 に つ い て 定 義 さ れ る電 子 温 度 に
対 応 す る.
11.2
拡 散 電 気 伝 導
温 度Tに
お い て,粒
(7.3.4)で,ま
子 密 度 に 空 間 勾 配dn/dxが
た 拡 散 係 数Dは
式(7.3.6)で
あ る と き の 拡 散 流jDは
与 え ら れ る.す
式
な わ ち,
(11.2.1) (11.2.2) lは粒 子 の 平 均 自 由行 程 で,l=√Dτcは
粒 子 の拡 散 長 で あ る.
これ か ら,電 荷 の 拡 散 流 す な わ ち拡 散 電 流 は,正 孔(+q)の
場合 は
(11.2.3) 電 子(-q)の
場 合 は,
(11.2.4) で あ る. 拡 散 係 数Dと
荷 電 粒 子 ド リ フ ト移 動 度 μdの 関 係 は,式(7.5.1)とqμ=μdか
ら,
(11.2.5) と表 され る.こ れ はア イ ンシ ュ タ イ ンの 関 係 式 とい わ れ,ド
リフ ト電 気 伝 導 と拡
散 電 気 伝 導 を結 ぶ 式 で あ る.
11.3
固 体 内 伝 導 電 子 の 有 効 質 量 と正 孔
電 子 とい う粒 子 が 固 体 内 を移 動 す る こ と は,実 際 に 観 測 され て い る.こ れ に対
し,電 子 波 の 立 場 か らは 結 晶 中 の 自 由電 子 は,周 期 ポ テ ン シ ャル 中 の 進 行 波 波 動 関 数 Ψ(x)で
表 され るが,そ の 波 動 は 固体 内 で 一 様 に広 が っ て お り,電 子 の存 在
を 表 す ΨΨ*=│Ψ│2も 一 様 で あ る.し た が っ て,1つ
の 進 行 波 で 電 子 の 移 動 を表 す
こ と は で きな い. 一 方,5.4節
に お い て 局 在 化 した 波動 は,波 長 と速 度 が わ ず か に異 な る多 数 の波
か ら合 成 さ れ た 波 束 で 表 さ れ る こ と,お よび 波 束 の速 度 は群 速 度 で 表 され る こ と を述 べ た.波 動 の 波 数 をk,角
速 度 を ω とす る と,群 速 度 は 式(5.5.3)で
与えら
れ る.す なわ ち,
(11.3.1) で あ る.こ れ を 自 由空 間 にお け る電 子 波(物 質 波)に p=hkの
適 用 す る と,E=hω
お よび
基 本 的 関 係 か ら,υg=∂E/∂pと な る.
他 方,電 子 を古 典 的 粒 子 とす る と,E=p2/2mお ら,∂E/∂p=p/m=υ
とな る.し た が って,υg=υ
よ びp=mυ
の基 本 的関係 か
で あ る.す な わ ち,電 子 波 の 群
速 度 は古 典 力 学 に お け る粒 子 の速 度 と一 致 す る.量 子 力 学 で は電 子 を見 い だ す 確 率 は|Ψ2| で あ るが,こ れ は波 束 の幅 の 中 の ど こ か に 電 子 は存 在 す る と言 い換 え る こ とが で き,不 確 定 性 原 理 に も適 合 す る. 本 書 で も,こ れ まで 電 子 の 速 度 をυ で 表 して来 た が,こ れ はυgと しな けれ ば な らな い.ま た,普 通 は1個 の 電 子 を1つ の 波 動 で 表 す が,こ れ は便 宜 上 の こ とで, 本 来 は波 束 に対 応 させ る べ き もの と考 え られ る. 群 速 度 は,
(11.3.2) と書 か れ る.こ の 式 を時 間tで 微 分 して加 速 度 αの 形 を求 め る と, (11.3.3) とな る. 次 に,外 力 を加 え た場 合 の 電 子 の運 動 を 波 束 の運 動 で 表 す.速 度υgの 電 子 に力 Fが 働 い て,dxだ
け 動 か され た電 子 が 得 るエ ネ ル ギ ー はdE=Fdxで
あ るか ら,
単 位 時 間 に電 子 が 得 る エ ネ ル ギ ー は, (11.3.4) で あ る.式(11.3.2)を
代 入 し てυgを 消 去 す る と,
と な る か ら,
(11.3.5) と な る.こ
れ を 式(11.3.3)に
入 れ る と,加
速 度 は,
(11.3.6) と表 さ れ る. 他 方,電 子 を粒 子 と考 え た と き,自 由 空 間 に お け る電 子 の加 速 度 は, (11.3.7) で あ る.上 の2つ の 式 を比 較 す る と波 束 で 表 した 電 子 は,あ
たか も
(11.3.8)
の 質 量 を 持 っ て い る よ う に 加 速 さ れ る も の と 考 え る こ と が で き る. さ て,完
全 に 自 由 な 電 子 の 場 合,波
動 性 は 運 動 量p=hk,エ
2m*=h2k2/2m*で
与 え ら れ,E(k)は
放 物 線 で あ る.群
か らυg=hk/m*と
な っ てkに
量m*は
比 例 し,質
ネ ル ギ ー はE=p2/ 速 度 は 式(11.3.2)
式(11.3.8)か
らkに
無関係 で
あ る. 他 方,結
晶 の 周 期 ポ テ ン シ ャ ル 中 の 自 由 電 子 の エ ネ ル ギ ーE(k)は,9.1節
述 べ た よ う に,k=±
π/aご と に 禁 止 帯 が あ り,図11.3.1に
± π/a付 近 でdE/dkは
小 さ くな る.こ
の た めυg(k)とm*(k)は
も 示 す よ う に,k= 完 全 自由 電 子 と
は 異 な り,図 に 示 す よ う な 曲 線 と な る.速 度υgはE(k)曲 はE(k)曲
線 の 曲 率 に 反 比 例 す る.m*は
で
有 効 質 量(effective
線 の 傾 き に 比 例 し,m* mass)あ
る い は実
(a) 自由 電 子 図11.3.1
(b) 結 晶 周 期 ポ テ ン シ ャル 中の 電 子 電 子 エ ネル ギーE,速
度υg,有 効 質 量m*と
波 数kの 関 係
効 質 量 とい わ れ る.外 力 に対 して 結 晶 中 の電 子 は,こ の よ う な質 量 を有 す る か の よ う に挙 動 す る. した が っ て,こ れ まで 固体 内 自 由電 子 の 質 量 は,孤 立 自由 電 子 の 静 止 質 量mと 同 じ と して取 り扱 って きた が,実 はmをm*で る.m*の
値 は,物 質 の 種 類 お よび 結 晶 軸 の 方 向 に依 存 し,一 般 に 完 全 に 自 由 な電
子 の 質 量mと 電界Exを
置 き換 え な け れ ば な ら な い の で あ
は異 な る.mよ
り大 きい場 合 も小 さい場 合 もあ る.
印 加 す る と きは,力F=-qExが
kが増 大 し てエ ネル ギ ー を増 す.m*が
電 子 に働 き,電 子 は速 度υgつ ま り 小 さ けれ ば,電 界 に よ る加 速 が 大 きい.k
が 帯 の 上 端 ± π/aに近 くな る と,逆 に減 速 さ れ て エ ネル ギ ー の増 加 は小 さ くな り, 上 端 で はυgは ほ ぼ ゼ ロ とな る.ま た,GaAsの
よ うにm*が
結 晶 で は ホ ッ トエ レ ク トロ ン現 象 が 起 こ りや す い.
小 さ く,μdが 大 きい
m*の
測 定 は,次 節 に述 べ る サ イ ク ロ トロ ン共 鳴 に よ っ て行 わ れ る.次 章 の 表
12.1.1に,そ
の 結 果 の例 を 示 す.自 由電 子 の 質 量mと
比 べ 非 常 に小 さいm*を
示
す結 晶 も あ り,そ れ ら は超 高 周 波 用 素子 に適 す る. さ て,図11.3.1に
お い て,m*は
帯 の下 部 で は正 で あ るが,帯 の 上 部 で は負 に
な っ て い る こ とが 特 に 注 目 され る.電 子 はm*が ら,電 界Exと
正,電 荷 は-qの
逆 向 きに 加 速 され る.一 方,m*が
負 な らばExの
粒 子で あるか 向 き に加 速 され
る こ とに な る.し か し,負 質量 の 電 子 は 実 際 に は存 在 しな いか ら,帯 の上 部 で は 電 子 の 有 効 質 量 は意 味 を持 た な くな る.そ の 粒 子 な らばExの
粒 子 を仮 定 す る.こ
向 き に加 速 さ れ る.電 子 帯 で 考 え られ る+qは"電
=空 席 電 子 状 態"で 図11.3.2の
こで+m*,+qの
あ る.
よ うに,帯 の 上 端 付 近 に空 席 状 態 が あ る と,外 力(い
電 界 に よ る力)に
子 の 抜 け穴
まの 場 合 は,
よ っ てエ ネル ギ ー を増 し た電 子 は その 状 態 を占 め得 る.そ の後
に は空 席状 態 が 残 され る.こ れ を繰 り返 す と,空 席 状 態(抜
け穴)の
エ ネルギー
は,図 で は下 向 きの 方 向 に増 大 す る.こ れ は 抜 け穴+qがExの
向 き に加 速 され て
エ ネル ギ ー が 増 大 す る こ と を意 味 す る.こ の有 効 質 量+m*,電
荷+qの
孔(positive
hole)と
呼 ぶ.単
粒 子 を正
にホ ー ル と も い う.価 電 子 帯 に お い て は,帯 の 上
部 に電 子 状 態 の 空 席 が あ る と きの み,す
な わ ち価 電 子 帯 上 部 の正 孔 に よ って の み
電 気 伝 導 が 起 こ る.正 孔 エ ネ ル ギ ー は価 電 子 帯 上 端 で最 も低 く,価 電 子 帯 の 中 央 に 向 か っ て(電 子 エ ネ ル ギ ー帯 図 の 下 の 方 に 向 か っ て)増 大 す る.
図11.3.2
電 界Exに
よ る 正 孔(○)の
移 動
電 界 を 印加 す る と き,金 属 で は全 価 電 子 が 集 団 と して動 くの で,キ
ャ リア は電
子 の み で あ って 正 孔 伝 導 は な い が,半 導 体 で は伝 導 帯 中 の 電 子 と,価 電 子帯 中 の
抜 け穴― 正 孔― の両 方 が 伝 導 キ ャ リア で あ る.半 金 属 で も電 子 と正 孔 が キ ャ リア とな る.
11.4
固 体 内伝 導 電 子
・正 孔 に 対 す る 磁 界 の 効 果
(1) ホ ー ル 効 果 図11.4.1の
よ う に,板 状 の 固 体 に電 界 を 印加 して 電 流 を流 し,電 流 の 方 向 に直
角 に磁 界 を印加 す る と,電 流 と磁 界 に直 角 な方 向 に電 位 差 が 生 ず る.こ の 現 象 を ホ ー ル効 果 とい い,古 こ とで あ るが,今
く1879年
に ホ ー ル(E.Hall)に
よ っ て 発 見 さ れ た とい う
日 で も重 要 性 の 高 い効 果 で あ る.
図11.4.1
物 質 中 の 電 荷qに
電 界Eと
ホ ー ル 効 果 の 測 定(正
磁 界Hが
孔○,電
子 ●)
働 くと き,電 荷 の 受 け る 力 は (11.4.1)
で表 され,一 般 に ロー レ ン ツ(Lorentz)力 で,υ は 電 荷qの
運 動 速 度,B=μHは
る.こ の 力 はqの 運 動 速 度υ とHに
とい わ れ る.第2項
は磁 界 に よ る力
物 質 内 の磁 束 密 度,μ は物 質 の透 磁 率 で あ 直 角 に働 き,電 荷 の運 動 方 向 が 曲 げ られ る.
フ レ ミ ング の左 手 則 は,υ の 向 き を電 流 の 向 きに 取 った もの で あ る. 熱 平 衡 状 態 に あ る 固体 内 自 由電 荷 は あ らゆ る方 向 に運 動 し て お り,電 界 を印 加 しな け れ ば磁 界 に よ りあ ら ゆ る向 きに 曲 げ られ る の で電 位 差 は生 じ な い.ホ ー ル 効 果 で は,電 界 に よ る力qExが
同時 に働 いて い る た め,電 界 方 向 の 電 荷 の速 度 は
ド リフ ト速 度υdだ け増 大 して い る.し た が っ て,式(11.4.1)でυ=υdと
置 いた
力 が 働 き,ド
リフ ト電 荷 の 運 動 は一 方 向 に 曲 げ られ,電 荷 分 布 に 偏 りが 生 じ て電
位 差 が発 生 す る. 図 の よ うな 配 置 と寸 法 の 場 合,+q(正 差+VHに
よ る電 界 は-Ey=VH/tで
孔)に
じで も速 度 は-υdで
よ る電 流 の とき は発 生 した 電 位
あ る.-q(電
あ るか ら,-qは+qと
子)の
とき は電 流 の 向 き は同
同 じ向 きに 曲 げ られ,-VHが
る.定 常状 態 で は,発 生 した 電 位 差 に よ る力qEyと
生ず
ロー レ ン ツ力Fy=qυdBzと
が
釣 り合 っ て い る か ら, (11.4.2) で な け れ ばな らな い.こ の よ う な定 常 状 態 に な る と伝 導 電 荷 は直 進 す る.nを 電 荷 密 度 とす る と,電 流 はIx=qnυdωtで
あ るか ら,
(11.4.3)
で あ る.VHは
ホ ー ル 電 圧,RHは
ホ ー ル係 数 とい わ れ る.RHはVH,Ix,Bz,ω
測 定 値 か ら求 め られ,し た が っ て,伝 導 キ ャ リア 密 度nが あ る い はVHの 電 荷q(正
求 め られ る.ま た,RH
符 号 はq の符 号 に よ っ て 決 ま る か ら,そ の極 性 か らキ ャ リアが 正
孔)で
あ るか,負 荷 電-q(電
これ に 加 え て,試 料 の長 さがLの れ ば,σ=qnμdで
の
子)で
あ るか を判 定 す る こ とが で き る.
と き,H=0で
あ るか ら,μd=│RH│σ
導 電 率 σ=IxL/Vωtを
か ら μdが 求 め られ る.
な お,ホ ー ル効 果 と導 電 率 か ら求 め た この 移 動 度 はHall移 伝 導電 荷 の 平 均 自 由 行 程l以
内(平
測定 す
均 衝 突 時 間 τ以 内)に
動 度μHと い わ れ, お け る ミ ク ロ な動 き
や す さ を表 す.電 極 間 移 動 中 に キ ャ リア 捕 獲 が あ る と き は μd〓μHと な る. ホ ー ル効 果 はn,μdな
ど物 質 固 有 の定 数 の 測 定,あ
が で き る の で 重 要 で あ る.ま た,VHが
る い は伝 導 電 荷 の 正 負 判 定
磁 束 に 対 して較 正 さ れ た ホ ー ル 素 子 が あ
り,磁 界 の測 定 に利 用 され る.μdが 大 きいInSbな
どが 使 用 され る.
(2)
サ イ ク ロ トロ ン 共 鳴
図11.4.2の
よ う に,質
量m*の
多 数 の 固 体 内 自 由 電 子,あ
る い は 正 孔 が あ らゆ
る方 向 に 平 均 速 度υ で運 動 して い る と き,電 界 を印 加 せ ず に 磁 界H(磁 B)を
印 加 す る と,Hに
い る電 子(正 孔)は
束密度
直 角 に運 動 して
磁 界 に よ る ロー レ ン
ツ力 が 加 わ っ て運 動 の 向 きが 刻 々 曲 げ ら れ,衝 突 が 起 こ らな けれ ば半 径rの
らせ
ん運 動 を始 め る.定 常状 態 で は遠 心 力 と 求 心 力(ロ ー レ ン ツ カ)が m*υ2/r=qυBで あ る か ら
釣 り合 い, 図11.4.2
サ イ ク ロ トロ ン 共 鳴
(11.4.5) で あ る.こ の運 動 の 角周 波 数 はサ イ ク ロ トロ ン周 波 数 とい わ れ, (11.4.6) で与 え られ る.こ の よ う な らせ ん運 動 を して い る と き,Bに
直 角 に電 磁 波 を入 射
す る と,電 磁 波 の 角 周 波 数 が ωcの と き共 鳴 を起 こ して電 磁 波 は 強 く吸 収 され る. この 現 象 を サ イ ク ロ トロ ン共 鳴(cyclotron (B)か
ら電 子(正
孔)の
有 効 質 量m*が
resonance)と
求 め られ る.
な お,電 磁 波 を吸 収 し た電 子(正 孔)は,エ
ネ ル ギ ー を得 て 運 動 半 径 が 大 き く
な り,衝 突 を起 こ して し ま う こ とに な るの で,こ は,電 子(正
孔)が
り,極 低 温,強
い う.こ の ωcとH
の共 鳴 吸 収 が 観 測 さ れ るた め に
平 均 衝 突 時 間τc以 内 に 少 な く と も一 周 す る こ とが 必 要 で あ
磁 界,高
周 波 電 磁 波(マ
イ ク ロ波)で 測 定 が 行 わ れ る.
12. 半 導 体
金 属 の 電 気 抵 抗 率ρ=1/σ
は,10-8∼10-6Ω
Ω ・m以 上 の もの は 絶 縁 体 と い っ て 良 い.す た る 物 質 は 半 導 体 と い え る で あ ろ う.し
・m(10-6∼10-4Ω
・cm)で
る と.そ の 中 間 の10-6∼109Ω
か し,物
性 論 で は,価
よ う.し
た が っ て,絶
下 のEgを
・mに わ
電 子 帯 と伝 導 帯 の
間 に 禁 止 帯 が あ る 絶 縁 体 型 電 子 エ ネ ル ギ ー 帯 構 造 に お い て,禁 もの が 半 導 体 と い わ れ る.約3.5eV以
あ り,1010
止 帯 幅Egが
狭 い
持 つ もの が 半 導 体 の 目安 と さ れ
縁 体 の う ち 可 視 光 を 吸 収 し て 着 色 し て 見 え る も の が,一
般
に 半 導 体 に な り得 る と言 え よ う. 半 導 体 の 理 論 は,1948年
か ら1949年
ブ ラッ テ ン(W.Brattain),シ
に か け て の バ ー デ ィ ー ン(J.Bardeen),
ョ ッ ク レ イ(W.Shockley)ら
タ の 発 明 を き っ か け と し て 革 新 的 に 発 展 し た.こ
に よ る トラ ン ジ ス
の 章 で は,半
導 体 物 質 の 特 徴,
半 導 体 特 有 の 伝 導 キ ャ リ ア の 状 態 と挙 動 な ど に つ い て 述 べ る.
12.1 (1)
半 導 体 固 体 の 結 合 力 と半 導 体
9章 で 述 べ た よ う に,絶
縁 体 お よ び 半 導 体 で は,絶
対 零 度 に お い て,価
完 全 に 占 有 さ れ た 価 電 子 帯 の す ぐ上 に エ ネ ル ギ ー 幅Egで が あ り,さ
が 残 り,伝
電子状 態 が ない禁止帯
ら に そ の 上 に は 完 全 に 未 占 有 の 伝 導 帯 が あ る.温
電 子 帯 の 電 子 の1部
が 伝 導 帯 に 熱 励 起 さ れ る と と も に,価
導 帯 で は 電 子,価
電子 で
度 が 上 昇 す る と,価
電子 帯 には同数の正孔
電 子 帯 で は正 孔 が キ ャ リア とな っ て あ る程 度 の 電 気
伝 導 性 が 生 じ て く る. 特 に,禁
止 帯 の エ ネ ル ギ ー 幅Egが
約3.5eV以
下 の も の は,不
純 物 量 が極 め て
少 な く て も 通 常 の 温 度 に お い て あ る 程 度 の 電 気 伝 導 性 が あ り,真 (intrinsic semiconductor)と
い わ れ る.
性 半 導 体
以 下 で は,ど ん な 物 質 が 真 性 半 導体 に な るか を考 え て み る. 価 電 子 を伝 導 帯 に励 起 す る とい う こ とは"化 学 結 合 を断 ち切 る"こ
とで あ る.
結 合 力 の 主 な もの は,イ オ ン結 合 力 と共 有 結 合 力 で あ る.イ オ ン結 合 力 が 大 きい と,正 負 イ オ ンの 外 殻 電 子 の 確 率 密 度 分 布 は,そ れ ぞ れ の イオ ン の 方 に 偏 り,正 負 イ オ ン の電 子 状 態 の 重 な りが少 な くな る.こ の た め許 容 電 子 帯 の幅 の 広 が りが 小 さ く,逆 に 禁止 帯 幅Egが
大 き くな る.
一 方,共 有 結 合 で は,隣 接 原 子 同 士 の 外 殻 電 子 の 波 動 関 数 は重 な り,一 体 化 し た波 動 関 数(混 成 軌 道)を 作 っ て い る.こ の た め許 容 電 子 帯 幅 は広 が ってEgは 一 般 に小 さ くな り,真 性 半 導 体 に な りや す い. 周 期 表 のⅣb族 の 単 元 素 固 体 は,ほ 1.1eV,Geは0.67eVで が 極 め て 強 く,Egは
とん ど共 有 力 で 結 合 して い る.SiのEgは
真 性 半 導 体 と な る.た だ し,ダ イ ア モ ン ド(C)は 約5.5eVと
結 合力
大 き くて 通 常 の温 度 で は絶 縁 体 で あ る.
次 に,化 合 物 半 導 体 につ い て考 え る.周 期 表 に お い て,Ⅳb族 か らⅠa族 に 向 か っ て 原 子 の 電 気 陰性 度 が 小 さ く,つ ま り陽 電 性 が 大 き くな り,Ⅳb族 か らⅦb族 に向 か っ て電 気 陰 性 度 が大 き くな る.ま た,a亜
族 に属 す る 元 素 は金 属 で あ り,bに 属
す る元 素 よ り も電 気 陰 性 度 が 小 さ く陽 電 性 が 強 い.こ の よ うな イ オ ン化 傾 向 の た め に,化 合物 結 晶 は イ オ ン結 合 力 と共 有 結 合 力 が共 存 し て い る.一 般 に,電 気 陰 性 度 の 差 の 大 き い原 子 の化 合物 は,イ オ ン結 合 性 の割 合 が 高 く真 性 半 導 体 に は な りに くい. 例 を挙 げ て み る.Ⅰa-Ⅶb化
合 物 のNaClな
合 性 が 最 も高 く,例 え ば,NaClのEgは AgClのEgは
約3.3eVと
り高 く,MgOのEgは
どの アル カ リハ ラ イ ドは,イ オ ン結
約7eVも
比 較 的 小 さ い.Ⅱa-Ⅵb化
約4eVで
な りあ り,CdSのEgは2.41eVで
あ る.他 方,Ⅰb-Ⅶb化
合物 の
合 物 は イ オ ン結 合 性 は か な
絶 縁 体 で あ る.Ⅱb-Ⅵb牝
合 物 は共 有 結 合 性 が か
半 導 体 で あ る.Ⅲb-Ⅴb化
合 物 は,Ⅳb族 単 原
子 固体 に次 い で 共 有 結 合 性 が 高 く,ほ とん ど半 導 体 と な る.EgはGaAsで1.43 eV,InSbで0.18eVで
あ る.
以 上 か ら,真 性 半 導体 とな るた め に は価 電 子 数 が4個 以 上 のⅣb,Ⅴb,Ⅵb,Ⅶb原 子 を 含 ん で い て 共 有 結 合 性 の割 合 が 高 い こ と,ま た,こ
れ らの 原 子 と結 合 す る相
手 原 子 と の 電 気 陰 性 度 の 差 が 小 さ い 必 要 が あ る こ と が 分 か る. 3元 化 合 物 半 導 体 で も 同 様 で あ る.例 を 満 た し て い てEgは
約2.0eVで
え ば,ZnSiP2,CuInS2な
ど は,こ
の条 件
あ る.Ga1-xAlxAsは,(GaAs)1-x:(AlAs)xの
組 成 比 の 共 有 結 合 性 結 晶 の 混 晶 で あ る.混
晶 で は 両 者 の格 子 定 数 が等 し くな けれ
ば 転 位 が 発 生 し,良 質 な 単 結 晶 が 生 成 さ れ な い.GaAsとAlAsの 子 定 数 は ほ ぼ 等 し い.EgはGaAsの
値1.43eVか
ぼxに
値 を 制 御 す る こ とが で き る.
比 例 し て 変 化 す る の で,Egの
各 種 真 性 半 導 体 の 禁 止 帯 幅Eg,そ 表12.1.1
らAlAsの
場 合,両
者の格
値2.15eVま
の 他 の 特 性 値 の 例 を 表12.1.1に
で ほ
示 す.
各 種 半 導 体 の特 性 値
(2) 不 純 物 半 導 体 9.4節 に お い て述 べ た よ う に,真 性 半 導体 が 不 純 物 を含 む と きは,不 純 物 電 子 状 態 が 禁止 帯 中 に存 在 す る よ うに な る.不 純 物 に よ る物 性 の 変 化 が 大 きい 半 導 体 は, 不 純 物 半 導 体(impurity
semiconductor)あ
る い は 外 因 性 半 導 体(extrinsic
semiconductor)と
いわ れ る.図9.4.1に
示 した よ う に,伝 導 帯 に 近 い準 位 の 不
純 物 は,熱 エ ネ ル ギ ー で 容 易 に伝 導 帯 に キ ャ リア と な る電 子 を供 給 す る ドナ ー とな り,不 純物 は,そ の位 置 に 固定 され た正 イ オ ン とな る.こ の 半 導 体 は負(negative) 電 荷 の 電 子 が 主 な キ ャ リア とな るの で,n型
半 導 体 といわ れ る.
逆 に,価 電 子 帯 に近 い準 位 は,価 電 子 帯 か ら熱励 起 され る電 子 を受 け取 るア ク セ プ タ とな り,不 純 物 は 負 イオ ン とな る.こ の 半 導体 は価 電 子 帯 に残 され た 抜 け 穴(正 孔)-正(positive)電 荷― が 主 な キ ャ リア とな るの で,p型 半 導 体 とい わ れ る. 熱 平 衡状 態 に あ る不 純 物 半 導 体 中 に は,価 電 子 励 起 に よ る少 数 の電 子 と正 孔 の ほ か に,不 純 物 励 起 に よ る多 数 の電 子 あ る い は正 孔 が 存 在 す る.よ る キ ャ リア を多 数 キ ャ リア(majority 少 数 キ ャ リア(minority (正孔),少
carrier)と
carrier),よ
り少 な く存 在 す る キ ャ リア を
い う.n型(p型)の
数 キ ャ リア は正 孔(電 子)で
り多 く存 在 す
多 数 キ ャ リア は,電 子
あ る.
精 製 した 真 性 半 導体 に 添 加 す る不 純 物 の種 類 でn型,p型
を制 御 す る こ とが で
き,ま た,不 純 物 量 の制 御 で 導 電 率 を制 御 す る こ とが 可 能 とな る.Siは 真 性 半 導 体 で あ る が,P,As,Sbな
ど5価 の 不 純 物 原 子 を含 む とn型
節 で 述 べ た よ うに,こ れ ら不 純 物 の5個 電 子 と共 有 結 合 して い る.残
りの1個
熱 エ ネ ル ギー で も離 れ や す いの でn型 と き は,Siと Siの1個
とな る.9.4
の価 電 子 の う ち の4個 は,Siの4個
の価
は そ の付 近 に ゆ る く結 合 され て い る の で, とな る.B,Al,Gaな
ど3価 の 不 純 物 を含 む
共 有 結 合 が1つ 欠 け て い る.熱 エ ネ ル ギ ー が 与 え られ る と,周 囲 の
の価 電 子 が この不 完 全 結 合 を 補 う.周 囲 のSi(価
正 孔 が 残 され てp型 伝 導 を示 す.SiやGe中 位 は,9.4節
典型 的 な
電 子 帯)に
は,1個
の
の この よ う な不 純 物 の エ ネ ル ギ ー 準
で述 べ た よ うに,水 素 原 子 モ デ ル に よ り,帯 の 端 か ら0.05eV前
後離
れ た 禁 止 帯 中 に あ る と推 定 され る.
12.2
熱 平 衡 状 態 に お け る半 導 体
半 導 体 の 電 気 伝 導 に 関 与 す る キ ャ リア は,価 電 子 帯 あ る い は不 純 物 か ら熱励 起 され た 伝 導 電 子,あ
るい は伝 導 正 孔 で あ っ て,そ の 数 を知 る必 要 が あ る.キ
ア 数 は温 度 に依 存 す る.そ の温 度 依 存 性 を 知 る た め に は,フ ェル ミ準 位EFの
ャリ 値を
知 る必 要 が あ る.半 導体 のEFを
求 め る こ とは,金 属 の場 合 ほ ど簡 単 で は な い.EF
の 値 を知 る こ とは,ま たn型,p型
の 区別 や 他 の半 導体 や 金 属 との接 触 ・ 接 合 を利
用 す る半 導 体 素 子 の 動 作 機 構 を理 解 す る場 合 に も不 可 欠 とな る.
(1) 熱 平 衡 状 態 に お け るキ ャ リア密 度 図12.2.1に
お い て,伝 導 帯 下 端 の エ ネ ル ギ ー をEc,価
ギ ー をEv,Ec-Ev=Egと ミエ ネ ル ギ ーEFの
電子帯 上端 のエ ネル
す る.フ ェル 位 置 は未 定 で あ るが,
キ ャ リア は価 電 子 帯 か ら熱 的 に励 起 され た伝 導 帯 中 の電 子 と,価 電 子 帯 に存 在 す る正 孔 で あ る か ら,フ ェル ミ分 布 関 数 の 形 か ら推 定 し て禁 止 帯 の 中 の あ る位 置 と す る. 伝 導 帯 状 態 密 度zc(E)は,式(9.1.11)
図12.2.1
半 導 体 の エ ネル ギー 準 位
か ら,± ス ピ ン を含 んで,
(12.2.1) で 表 さ れ る.mnは
電 子 の有 効 質 量 で あ る.こ の 状 態 を電 子 が 占 め る確 率 は,フ ェ
ル ミ分 布 関 数をfnと
す る と,絶 対 温 度Tに
お い て伝 導 帯 中 で エ ネ ル ギ ーEを
有
す る電 子 密 度 は,
(12.2.2) で与 え られ る. 禁 止 帯 幅 はEg>kBTと
し て 良 い の で,fnは
ボ ル ツ マ ン分 布e-(E-EF)/kBTで
近 似 で き る.し た が っ て,伝 導 帯 中 の 全 電 子 数 は,
(12.2.3) で あ る.こ
こ で,E-Ec=xと
置 き,積
分公式
を 用 い る と,
(12.2.4)
と な る.こ の式 の形 を見 る と,Ncは
伝 導 帯 の全 状 態 密 度 が 伝 導 帯 の下 端Ecに
中 し て存 在 す る こ と と等 価 で あ る.こ の た めNcは,伝 れ る.fcは,こ
集
導 帯 の実 効 状 態 密 度 とい わ
の実 効 状 態 を電 子 が 熱 的 に 占 め る確 率 で あ る.
と こ ろ で半 導 体 に 不 純 物 が 存 在 す る と,そ の量 に よ って,ま よ って キ ャ リア数 が 変 化 す る.し た が っ て,電 子 分 布 とEFが 性 半 導 体 のEFは,半
変 化 す る.他 方,真
導 体 母 体 の み で定 義 可 能 な一 定 値 で あ る.真 性 半 導 体 のEF
を真 性 フ ェル ミ準 位 と呼 び,図12.2.1のEiで フ ェル ミ準 位 がEiで く と,式(12.2.4)か
た熱 エネル ギーに
表 す.
あ る と き の 真 性 半 導 体 の 電 子 キ ャ リア 密 度nをniと
置
ら (12.2.5)
と表 さ れ る.こ (12.2.4)はEiごを
れ を 用 い る と,(Ec-EF)=(Ec-Ei)+(Ei-EF)で
あ る か ら,式
基 準 と し て,
(12.2.6) と表 され る.こ れ は真 性,外
因 性 を問 わ ず半 導 体 全 般 に適 用 され る式 で あ る.
一 方,価 電 子帯 の キ ャ リア とな る正 孔 が 価 電 子 状 態 を占 有 す る確 率fp(E)は, 電 子 がEを
占 め な い確 率 で あ る か ら,
(12.2.7) で 表 され る.ま た,正 孔 の実 効 質 量 をmpと
す る と,価 電 子 帯 の状 態 密 度 は
(12.2.8) と表 され る.ま た,電 子 の場 合 と同 様 な 手 法 で
(12.2.9)
を得 る.Nvは
価 電 子帯 の 実 効 状 態 密 度,fvは 正 孔 が これ を熱 的 に 占 め る確 率 で あ
る. フ ェル ミ準 位 が 真性 フ ェル ミ準 位Eiで
あ る と き の真 性 半 導 体 の 正 孔 キ ャ リア
密 度 は,
(12.2.10) と表 され,こ
れ を用 い て 電 子 の 場 合 と同 様 な 手順 に よ り,真 性,外
キ ャ リア 密 度 はEiを
因性 を問わ ず
基 準 と して (12.2.11)
と表 さ れ る.こ
こ でnとpの
積 を 書 く と,
(12.2.12) と な る. 以 下 に 述 べ る よ う に,半 る が,こ
の 式 はEFを
ら れ れ ば,真
含 ん で い な い.す
p>ni>n な ら ばp型
(2)
な わ ち,半
の 関 係 をnp積一
た が っ て,n=p=ni=pi,な で あ る.ま
らEFがEiよ
た,不
導 体 物 質(Eg,Nc,Nv)が
与 え
平 衡 に お け る キ ャ リア 密 度nとp
定 則 と い う.真 性 で も外 因 性 で も,nとp
り大 き く な る こ と は な い.一
よ り小 さ くな る.し
(12.2.11)か
禁 止 帯 中 の さ まざ ま な エ ネ ル ギ ー 値 を取
性 で も不 純 物 を 含 ん で い て も,熱
の 積 は 一 定 で あ る.こ が 同 時 にniよ
導 体 のEFは
方 がniよ
り大 き い と き は,他 方 はni
ら ば 真 性,n>ni>pな
ら ばn型,
純 物 の 有 無 に 関 わ ら ず,式(12.2.6)と
り も 上 に あ れ ばn型,下
に あ れ ばp型
式
と定 義 さ れ る.
真 性 半 導 体 の フ ェル ミエ ネ ル ギ ー とキ ャ リア密 度
不 純 物 を 含 ま な い 真 性 半 導 体 に お い て は,電 子 は す べ て 価 電 子 帯 か ら 励 起 さ れ,
熱 平 衡 で は 常 にn=pで
あ る.し た が っ て,熱 平 衡 に あ る 真 性 半 導 体 の キ ャ リ ア 密
度nは,式(12.2.12)か
ら
(12.2.13) と な る.(NcNv)1/2は,真
性 半 導 体 中 の 電 子 の 熱 的 遷 移 に か か わ る 結 合 状 態 密 度,
(fcfv)1/2は そ の 熱 的 遷 移 の 実 効 確 率 を 表 す.真 化 エ ネ ル ギ ー は,Eg/2で
性 半 導 体 キ ャ リア の 熱 励 起 の 活 性
あ る.
真 性 半 導 体 で は 式(12.2.4)と ル ミ エ ネ ル ギ ーEF=Eiは,次
式(12.2.9)は
等 し い か ら,真
性 半導体 の フェ
の よ う に 求 め られ る.
(12.2.14) 第3項
の値 は比 較 的 小 さ い もの で,Eiは
禁 止 帯 の ほ ぼ 真 ん 中 に存 在 す る.こ れ
は,フ ェ ル ミ統 計 分 布 曲線 か ら も予 想 され る こ とで あ る.
(3) 不 純 物 半 導 体 の フ ェル ミエ ネ ル ギ ー とキ ャ リア密 度 不 純 物 半 導体 の ドナ ー 準 位 が 図12.2.2の その エ ネ ル ギ ー をEDと
よ う に,伝 導 帯 の下ΔEDに
す る.ド ナ ー 状 態 密 度zD(E)は,ド
(a) n型
図12.2.2
(b) p型 不 純 物 半 導 体 の エ ネル ギー 準 位
あ る と し,
ナ ー 密 度ND(ED)に
等 しい.ド
ナ ー の電 子 が 伝 導 帯 に熱 励 起 され る と ドナ ー は正 イ オ ン とな り,そ の
密 度 をND+と
す る.こ の 正 イ オ ン は,真 性 半 導体 に お け る正 孔 に対 応 す る.ΔED
< Egで あ るか ら,価 電 子 帯 か ら伝 導 帯 へ の 熱 励 起 に よ るni,piを 無 視 し,ま た, 伝 導帯 電 子 状 態 密 度 に比 べ,キ
ャ リア密 度 が 非 常 に小 さい こ とか ら ボル ツ マ ン分
布 を適 用 す る と,真 性 半 導 体 と同様 な手 法 を用 い て
(12.2.15) (12.2.16) と表 さ れ る. 伝 導 帯 キ ャ リ ア 密 度nは,イ
オ ン化 ドナ ー 密 度ND+に
等 しい か ら
(12.2.17) で あ る.ま
た,式(12.2.15)と
式(12.2.16)は
等 し い か ら,
(12.2.18) と な る.す
な わ ち,こ
置 す る.EFはEiよ っ て,式(12.2.12)に
の 半 導 体 のEFは
り上 に あ る か ら,式(12.2.6)に よ るnp積
ャ リ ア は 電 子 で あ っ てn型 Δ
ED/2で
図 の よ う に,EDとEcの よ りn>niと
一 定 則 か らn>ni>pと
半 導 体 と な る.キ
ほ ぼ真 ん 中 に位
な る.す
な る.し
たが
な わ ち,多 数 キ
ャ リアの 熱 励 起 活 性 化 エ ネ ル ギー は
あ る.
上 式 か らNDら が 大 き い と,EFはEcの 上 昇 し て もEFはEcの に 近 づ く た め に,逆
方 に 上 が る こ と が 分 か る.ま
方 に 少 し 上 が る が,さ にEiの
方 に 下 が る.つ
ア ク セ プ タ 準 位 が 価 電 子 帯 の 上ΔEAに
た,温
度 が
ら に 温 度 が 上 昇 す る とnがniの
値
ま り,外
因 性 か ら真 性 に 移 行 す る.
存 在 す る と き も同様 に して
(12.2.19) (12.2.20)
(12.2.21) (12.2.22) が 得 られ る.EFは
図 の よ う にEvとEAの
あ るか ら,式(12.2.11)に
ほ ぼ 真 ん 中 に 位 置 し,EFはEiの
よ りp>pi>nと
な り,p型
下に
半 導 体 とな る.
温度 が 上 昇 す る と,不 純 物 原 子 はす べ て イ オ ン化 され た 飽 和 状 態 が生 ず る.こ の 温度 領 域 は不 純 物 の 電 子 が 出 払 っ て い る の で,出 払 い 温 度 領 域 と もい わ れ る. この と き,例 え ばn型
で はn=NDら
とな り,キ ャ リア 数nは
一 定 とな る.さ ら に温
度 が上 昇 す る と,価 電 子 帯 か らの 熱 励 起 分 が優 勢 とな り,真 性 半 導 体 キ ャ リア の 温 度 依 存 性 を示 す よ う に な る.横 軸 に1/T,縦
軸 にlogenま
温 度 依 存 性 を,図12.2.3に
示 す.NcとNvの
温 度 変 化 は比 較 的 小 さ い の で,直 線
の傾 きか ら式(12.2.17)に
よ りΔEDが
求 め られ,ま た,式(12.2.13)に
た はlog10nを 取 った
よ りEg
が 求 め られ る.こ の よ うにnの
温度依存
性 は非 常 に大 き く,他 方,μdの 温 度 依 存 性 は 小 さ い の で,導
電 率 σ=qnμdの 温
度 依 存 性 は ほ とん どnの 温 度依 存性 で 決 ま る.半 導 体 素 子 で は,素 子 特 性 の温 度 依 存 性 を 小 さ くす るた め に,室 温 付 近 が 出 払 い温 度 領 域 に入 る よ う に不 純 物 量 が 制 御 さ れ て い る ものが 多 い. なお,上
記 の よ うに,あ
を表 す 変 数 の 対 数 と,1/Tを
る現 象 の強 さ プ ロ ッ トし
て,現 象 が起 こ る熱 的 活 性 化 エ ネル ギ ー (ΔE)を
求 め る 方 法 は 一 般 的 に 行 わ れ,ア
と い わ れ る.
図12.2.3
n型 半 導 体 の キャリア 密 度 の 温 度 変化
レ ー ニ ウ ス プ ロ ッ ト(Arrhenius
plot)
12.3
非 平 衡 状 態 に お け る キ ャ リア
(1) 過 剰 キ ャ リアの 注 入 と再 結 合 電 子 を キ ャ リア とす る金 属 に電 源 を含 む 閉 回 路 で電 子 を流 し込 む と,そ の 瞬 間 に金 属 は負 帯 電 し,そ の 後,極
め て 短 時 間 に回 路 外 に 流 出 して放 電 し,電 気 的 中
性,す な わ ち平 衡 状 態 に戻 る.CR回
路 の充 放 電 と同 じで あ る.荷 電 の 非 平 衡 状 態
か ら平 衡 状 態 に戻 る ま で の 時 間 を誘 電 緩 和 時 間 τrとい い,誘 電 率 εと導 電 率 σ で 表 す と,τr=ε/σ で あ る. 半 導 体 の 場 合,熱
平 衡 状 態 に あ る キ ャ リア よ り も過 剰 な キ ャ リア を流 し込 む こ
と をキ ャ リア注 入(injection)と
い う.過 剰 キ ャ リアが 存 在 して い る間 は非 平 衡
状 態 で あ る.注 入 され る キ ャ リアが 多数 キ ャ リア で あ る と き と,少 数 キ ャ リア で あ る と き とで は注 入 キ ャ リ アの 挙 動 が異 な る. (a) 多 数 キ ャ リア 注 入 熱 平 衡 に お い てn0個
の 多 数 キ ャ リア とp0(<n0)個
るn型 半 導体 に2つ の 電 極 を付 け,1つ 剰 にΔn(<n0)だ
の 少 数 キ ャ リア が 存 在 す
の電 極 か ら多 数 キ ャ リア で あ る電 子 を過
け注 入 す る と非 平 衡 状 態 とな るが,金 属 の場 合 と同様 に,誘 電
緩 和 時 間 τr後に同 数 の 多 数 キ ャ リア が 他 の 電 極 か ら押 し出 さ れ る形 で流 出 し,電 気 的 中性 の 平 衡 状 態 に戻 る.典 型 的 半 導 体 の τrは10-12s程 度 で あ る. (b) 少数 キ ャ リア 注 入 n型 半 導 体 に1つ の 電 極 か ら少 数 キ ャ リア の 正 孔 をΔp(>p0)だ 合,正
け 注 入 す る場
孔 が 注 入 さ れ て も押 し出 され る正 孔 が な い(極 め て少 な い)か
ら,電 気 的
中性 を保 つ た め に他 方 の 電 極 か ら τr時間 に多 数 キ ャ リ ア がΔn(=Δp)だ
け逆 に
流 入 す る. そ の後,ΔpとΔnは
結 合 して 消 滅 し,平 衡 状 態 に 戻 る.こ の 結 合 を過 剰 少 数 キ
ャ リア の再 結 合(recombination)と ア 寿 命(life time)と
い い,τ で 表 す.再 結 合 の過 程 が 入 る の で,普 通 は τ>τrで
あ り,電 気 的 中 性 条 件 は図12.3.1の 常 に成 立 して い る.
い う.再 結 合 す る まで の 時 間 を 少 数 キ ャ リ
よ うに,τrの 間 を 除 いて 平 衡 状 態 に戻 る まで
また,真 性 半 導 体,n型
半 導体,p型
半 導 体 に 光 照 射 や 電 子 線 衝 撃 をす る と き,価 電 子 帯 電 子 が伝 導 帯 に励 起 され, 伝 導 帯 にΔn,価
電 子 帯 に こ れ と同 数
のΔpが 生 成 され る.こ れ も過 剰 キ ャ リア の 注 入 とみ な され るの で,当 然, 再 結 合 が 起 こ る.
(2) 再 結 合 過 程― 深 い捕 獲 中 心 の効 果 図12.3.2の
よ う に,過 剰 キ ャ リア が
直 接 的 に再 結 合 す る こ と を直 接 再 結 合
図12.3.1
過 剰 キ ャ リア の 再 結 合
とい うが,そ の 確 率 は普 通 は小 さ い と 考 え られ る.ΔnとΔpの
数 が 少 な く,
そ れ ぞ れ が 運 動 し て い る か ら,物 質 内 で 遭 遇 す る機 会 が 少 な い た め と考 え ら れ る.間 接 遷 移 型 電 子 帯 構 造 の半 導 体 は,再 結 合 に もフ ォノ ンが 介 在 す るの で 直 接 遷 移 型 半 導 体 よ りも再 結 合 確 率 図12.3.2
再 結 合 過 程
が 小 さ くな る. 普 通 の再 結 合 は図 の よ うに,禁 止 帯 の ほ ぼ 中央 付 近 にエ ネル ギ ー 準 位 を有 す る 深 い 捕 獲 中心,す
なわ ち再 結 合 中 心 を介 す る間 接 再 結 合 が 支 配 的 で あ る と考 え ら
れ て い る.過 剰 電 子 は,位 置 が 固 定 され て い る深 い再 結 合 中 心 に捕 獲 され や す い. 捕 獲 され た 電 子 は熱 的 に 解 放 さ れ に く く,そ の位 置 が 固 定 され る.移 動 す る過 剰 正 孔 が この 位 置 に遭 遇 す る と,正 孔 も この 中心 に 捕 ら え られ て 両 者 は再 結 合 して 過 剰 キ ャ リアの 寿 命 が終 わ る. 前 項 で述 べ た よ う に,同 数 の過 剰 なΔnとΔpが とp0+Δpに
比 例 す る.再 結 合 の速 度 方 程 式 は,Cを
存 在 す る と,再 結 合 はn0+Δn 比 例 定 数 と し て,
(12.3.1) で 表 され る.た だ し,右 辺 の 中 のCn0p0は
熱 励 起 と釣 り合 って い る か ら除 く.
一 般 的 なn型 半 導体 で は,n0>Δn=Δp>p0と
い う条件 が 成 り立 つ か ら,
(12.3.2) とな る.す な わ ち,再 結 合 速 度 は 少 数 キ ャ リア の 寿 命 に支 配 され る.こ の 式 か ら, 注 入 少 数 キ ャ リア 数 の 時 間 的 変 化 は,
(12.3.3) と表 され る.Δp0は 注 入 量 の初 期 値 で あ る. 一 方,捕 獲 中心 に キ ャ リアが 捕 獲 さ れ る まで の過 程 は,キ 衝 突 す る過程 と考 え られ,捕 獲 まで の衝 突 時 間(平
均 寿 命)は
ャ リア が 捕 獲 中 心 に 式(7.2.2)に
なら
い
(12.3.4) と表 され る.Ntは
捕 獲 中 心 密 度,Stは
で あ る.式(12.3.2)の
捕 獲 断 面 積,υthは キ ャ リア の熱 運 動 速 度
寿 命 τpは,非平 衡 か ら平 衡 状 態 へ の緩 和 時 間 で あ るか ら,
7.4節 で 述 べ た よ う に衝 突 時 間 に 等 しい.す な わ ち,τpは 式(12.3.4)の
衝突時 間
τに等 しい. 寿 命 τpは,過 剰 キ ャ リア をパ ル ス 的 に注 入 した と きの 電 気 伝 導 の 過 渡 減 衰 の 測 定 か ら求 め られ る.
(3)
トラ ッ ピ ング過 程― 浅 い捕 獲 中心 の効 果
浅 い 捕 獲 準 位 に 捕獲 され た 一 部 の キ ャ リア は,熱 エ ネ ル ギ ー で解 放 され て再 び 伝 導 キ ャ リア とな る.捕 獲 され た キ ャ リア 数 をptと す る と,そ の解 放 速 度 は (12.3.5) で 表 さ れ る.ν
は 脱 出 振 動 数(attempt-to-escape
子 の 振 動 数,す
な わ ち1012∼1010〔1/s〕
frequency)と
の 程 度 と さ れ る.Etは
い わ れ,格
子原
電 子 帯 端 か ら測 った
捕 獲 中 心 の深 さ で あ る.浅 い 捕 獲 準 位 で 捕 獲 と熱 的 解 放 を繰 り返 した 後 に再 結 合 に よ り寿 命 を終 わ る.捕 獲 と解 放 の経 過 時 間 が 加 算 さ れ るた め に 寿 命 は見 か け上 長 くな る.逆 に,捕 獲 され て い る時 間 中 の キ ャ リア は移 動 し な い か ら ド リ フ ト移 動 度 μdは 小 さ くな る. 過 剰 キ ャ リア 注 入 が 定 常 的 に 行 わ れ,価 電 子 帯 中 の キ ャ リアΔpと 補 獲 さ れ た キ ャ リアptが 熱 平 衡 して 定 常 状 態 が 実 現 され て い る と き,見 か け の 寿 命 τaは, Δに対 す るptの 割 合 だ け真 の 寿 命 τよ り長 くな る.す な わ ち,
(12.3.6) と 表 さ れ る. 一 方,ド
リ フ ト移 動 度 は 捕 獲 が な い と き の ド リ フ ト移 動 度 μd0よ り も 全 キ ャ リ
ア 数Δ+ptに
対 す るptの
割 合 だ け 小 さ くな る.す
な わ ち,
(12.3.7) と表 され る.し た が っ て,定 常 状 態 で は上 の2つ の 式 か ら
(12.3.8) が 成 立 す る.こ れ は トラ ッ ピ ン グ の 影 響 が あ る と きの μτ積一 定 則 とい わ れ る.
(4) 過 剰 少 数 キ ャ リアの 拡 散 n型 半 導 体 に過 剰 少 数 キ ャ リアΔpが 注 入 され る と,密 度 勾 配 が で き る の で 拡 散 が生 じ,ま た,再 (7.6.4)か
結 合 も起 こ る.こ の場 合,キ
ャ リア拡 散 流 の 連 続 方 程 式 は式
ら,
(12.3.9) と書 か れ る.解 は公 式 に も あ る よ う に (12.3.10) で あ る.注 入 点x=0でΔp=Δp0と p =0と
置 い て 良 い か らB=0で
置 く と,A=Δp0で あ る
.し
た が っ て,
あ り,ま た,x=∞
で はΔ
(12.3.11) と な る.こ の 式 は注 入 少 数 キ ャ リア の 空 間 的 変 化 を表 す.Lp=√Dpτpを
少数 キ ャ
リア の 拡 散 長 とい う.こ れ を 用 い る と,注 入 キ ャ リアΔpあ るい はΔnに
よ る拡 散
電 流 の 空 間 的 変 化 は,次 式 で表 され る. (12.3.12) (12.3.13)
12.4
非晶質 半導体
非 晶 質 半 導 体 は9.5節
で 述 べ た よ う に,禁 止 帯 の 中 央 に 向 か っ て 局 在 的 裾 状 態
や 多 くの局 在 準 位 が 存 在 す る. モ ビ リテ ィギ ャ ップ以 下 の 裾 状 態 の局 在 的 準 位 は捕 獲 中 心 とな る.捕 獲 中 心 密 度 が 高 い と き は,中 心 間 の距 離 が 小 さい.こ が 印加 され る と,図12.4.1(a)の
の た め に捕 獲 され た キ ャ リア は電 界
よ う に,伝 導 帯 を経 由 し な い で捕 獲 中 心 か ら隣
の 捕 獲 中心 へ と跳 ぶ こ とに よっ て,伝 導 が 可 能 に な る と考 え られ て い る.こ れ を ホ ッ ピ ン グ(hopping)伝
導,あ る い は俗 に ピ ョン ピ ョ ン伝 導 と い う.こ れ に よ る
ド リフ ト移 動 度 は,
(12.4.1)
(a) ホ ッ ピ ン グ 図12.4.1
(b) 分 散 型 ホ ッピ ング
ホ ッ ピン グ伝 導 モ デ ル
で 表 さ れ る.μh0は 欠 陥 間 の 距 離 や 脱 出振 動 数 に関 係 し,ΔEは
活性化 エネル ギー
で,移 動 度 ギ ャ ップ あ る い は欠 陥 間 の ポ テ ン シ ャ ル 障 壁 高 に 関係 す る.ホ
ッピン
グ移 動 度 は結 晶 と比 べ て 何 桁 も小 さ く,ま た キ ャ リア 数 も少 な い の で 導電 率 も非 常 に小 さ い. 裾状 態 中 の捕 獲 中心 の エ ネル ギ ー が,図(b)の
よ う に幅 広 く分 布 し て い る と
きは,ホ ッ ピ ン グ ドリ フ ト移 動 度 μdは 一 定 値 で は な く,分 散 した値 を持 つ よ うに な る.こ の よ うな ホ ッ ピ ン グ伝 導 は分 散 型 伝 導 とい わ れ る. 禁 止 帯 の 中 央 付 近 に エ ネ ル ギ ー 準 位 を有 す る局 在 的 欠 陥 は,主 な る.共 有 結 合 性 を有 す る非 晶 質 半 導 体 で は,不 対 電 子(ダ
に再 結 合 中心 と
ン グ リ ング ボ ン ド)が
多 く存 在 し,再 結 合 中 心 とな る.ア モ ル フ ァス ・シ リコ ン(a-Si)で
は,水 素 ガ
ス と反 応 させ る と,不 対 電 子 と水 素 の電 子 が 結 合 して ダ ン グ リン グ ボ ン ドが 消 去 され,孤 立 電 子 対 とな る.こ れ に よ って 導 電 性 や 光 導 電 性 が 向上 す る. また,非
晶 質 は結 晶 と比 べ て原 子 配 列 の秩 序 性 が 低 い.こ
れ は 逆 に,原 子 結 合
の 自由 度 が あ る こ とを意 味 す る.こ の た め に 共 有 結 合 性 非 晶 質 に 原 子 価 の異 な る 不純 物 を添 加 して も,そ の価 電 子 は母 体 原 子,特
に多 数 存 在 す る不 対 電 子 と結 合
して し ま う.こ の た め フ ェル ミ準 位 は ほ とん ど変 化 しな い.こ の よ うな 理 由 か ら 非 晶質 半 導 体 は,不 純 物 添 加 に よ る物 性 制 御 が 困 難 で あ る.こ れ に対 し,水 素 化 a-Siは 不 対 電 子 が 補 償 され るの で,不 純 物 添 加 に よ りn型,p型 な る.a-Siの
の作 成 も可 能 と
太 陽 電 池 そ の 他 の 素 子 は,こ の 水 素 化 技 術 を用 い て 作 られ て い る.
13. 半 導 体 素 子
半 導 体 を用 い た機 能 素 子 や機 能 材 料 は,か な り以 前 か ら研 究 され,ま 供 され て い た.例 え ばSeやCu2Oを 子,BaOを
用 い た 整 流 器,SeやCdSを
用 い た熱 電 子 放 出 陰 極,Cs2Oを
た写 真 感 光 材 料 な どが あ る.し か し,1948年 を きっ か け と して,半
た実用 に
用 いた光導電 素
用 い た光 電 子 放 出 陰 極,AgBrを
用い
の点 接 触 型 トラ ンジ ス タ作 用 の 発 見
導 体 技 術 は半 導 体 物 理 と相 補 的 な 関 係 を保 ち な が ら著 しい
進 歩 を遂 げ,機 能 性 の 高 い 新 しい半 導体 素 子 が 数 多 く開 発 され た. 主 な もの を挙 げ る と,1951年 1960年 にMOSト
に バ イ ポー ラ トラ ン ジス タ,1958年
ラ ン ジス タ,1969年
に集 積 回路,
に室 温 ・連 続 発 振 半 導 体 レ ー ザ な どが 出 現
した.ま た,素 子利 用 技 術 も著 し く進 歩 し,現 在 で は社 会 的 基 盤 の1つ
とな っ て
い る. こ こ で は まず半 導 体 素 子 で 多 く用 い られ る接 触 と接 合 に つ い て,次
に多 種 多 様
な 半 導 体 素 子 の うち,基 本 的 か つ 広 く利 用 され て い る もの に つ い て述 べ る. 半 導 体 メ モ リ素 子 につ い て は 重 要 性 は 高 い が,半 導 体 自体 は 帯 電 保 持 を除 い て は メモ リ性 は な い の で,こ
13.1
こで は省 く こ とに す る.
金 属 と半 導 体 の 接 触 お よ び 関 連 素 子
(1) 金属 と半 導 体 の接 触 接 触(contact)は2つ
の 物 質 の 単 な る物 理 的 接 触 で,金 属 と半 導 体 の 接触 は シ
ョ ッ トキ ー 接触 と もい わ れ,半
導体 に対 して金 属 の真 空 蒸 着,融 着,あ
るい は単
純 な機 械 的 接 触 な どの技 法 が 用 い られ る. 一 般 に,2つ
の 物 質 粒 子 系 を接 触 させ る と,化 学 ポ テ ン シ ャ ル の 高 い 系 か ら低
い系 へ 物 質 粒 子 が 移 行 し,平 衡 に達 した とき両 者 の化 学 ポ テ ン シ ャル は等 し く, 両 者 間 の粒 子 の 移 行 は な くな る.い
まの 場 合,粒 子 は電 子 で あ り,化 学 ポ テ ン シ
ャ ル は フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ーEFで
あ る.
エ ネ ル ギ ー を 測 る 基 準 を 真 空 準 位EVACに 小 で 表 さ れ る.図13.1.1は,金
属 とn型
取 る と,EFの
高 低 は 仕 事 関 数 φ の大
半 導 体 が 接 触 す る以 前 の エ ネル ギ ー 図
で,金 属 の仕 事 関 数 φMが 半 導 体 の 仕 事 関 数 φsよ り大 きい場 合 を示 す.χ は 半 導 体 の電 子 親 和 力 で あ る. 金 属 と半 導 体 を 接触 させ る と,半 導体 の 伝 導 帯 に存 在 す る電 子 は,エ ネ ル ギ ー の 低 い 金 属 の 方 へ移 行 す る の で,半 導体 電 子 系 の エ ネ ル ギ ー は 仕 事 関 数 の差 q(φM-φs)だ け下 が り,EFが
一致す る
(a) 金 図13.1.1
よ う に な る.
属
(b) n型 半 導 体
接 触前 の 金 属 とn型 半 導 体 の 電 子 準 位(φM>
φs)
金 属 側 で は,移 行 して来 た 電 子 は,金 属 内 電 子 との クー ロ ン反発 力 に よ り接 触 界 面 側 に押 し返 され,図13.1.2の
よ うに
金 属 表 面 は 負 に帯 電 す る.こ の 負 電 荷 に よ っ て半 導体 内 キ ャ リア電 子 も内 部 に押 しや られ,半
導 体 表 面 付 近 は正 に帯 電 す
る. この 正 帯 電 は電 子 が 押 しや られ て,残 さ れ た 正 イ オ ン化 ドナ ー に よる もの で あ る た め,正 電 荷 が分 布 した 幅dの
図13.1.2
接 触 に よ る電 気2重
層 の 形成
空間電
荷 領 域 が 形 成 され る.こ の 領 域 内 の ドナ ー は,す べ て イ オ ン化 され,正
の空間電
荷 が均 一 に分 布 して い る と仮 定 す る. この 領 域 内 に は キ ャ リアが ほ とん ど存 在 しな い の で,空 乏 層(depletion
layer)
とい わ れ る.こ の 空 間 正 電 荷 量 と金 属 表 面 負 電 荷 量 は等 し く,電 気2重 層 が形 成 され た こ とに な る.こ れ に よ っ て生 ず る電 界 の 向 き は,半 導体 か ら金 属 へ の電 子 移 行 を 阻 止 す る 向 きで あ る.す なわ ち,キ
ャ リア電 子 に とっ て は 半 導体 内 部 よ り
も表 面 の 方 が 電 子 エ ネ ル ギ ー が 高 い.こ れ を エ ネ ル ギ ー 障 壁(barrier),そ さ を 障 壁 高(barrier
height)と
の大 き
い う.
空 間 正 電 荷 領 域 内 の 電 位 分 布V(x)は,次
のポ ア ソ ン の 方 程 式 か ら計 算 さ れ
る.
(13.1.1) ρは正 の 空 間 電 荷 密度 で,い まの 場 合 は,ド ナ ー が す べ て イ オ ン化 さ れ て い る た め ドナ ー 密 度 に等 しい.ε は 半 導 体 の誘 電 率 で あ る.接 触 界 面 をx座 り,空 間 電 荷 層 の 厚 さ をx=dと -dV/dx=0,V=0と
す る.境 界 条 件 をx=dに
標 の 原 点 に取
お い て 電 界Ex=
す る.こ れ に よ り,電 位 は伝 導帯 の 下 端Ecか
ら測 る こ と に
な る.こ の 方 程 式 を積 分 す る と,
(13.1.2) とな る.こ の 電 界 の た め に キ ャ リア は移 動 させ られ る の で,空 ャ リア は存 在 しな い.も う一 度 積 分 し,境 界 条 件,x=dに
間電 荷 層 内 に は キ
お い てV=0,に
より
空 間 電 荷 層 内 の 電 位 は,
(13.1.3) と な る.電 子 エ ネ ル ギ ー 図 はV(x)に-qを
掛 け て 図13,1.3(a)の
よ う に描 か
れ る.空 乏 層 内 の 電 子 準 位 は 放 物 線 状 に弯 曲 し て い る.界 面x=0に
お け るエ ネル
ギ ー は,半
導 体 キ ャ リア に対 して
(13.1.4) だ け 高 い.こ の 大 き さ はEcの
電 位 の変 化 量,す
な わ ち仕 事 関 数 の差 に等 し く
(13.1.5) で あ る.qVDは
半 導 体 内 キ ャ リ ア に 対 す る 障 壁 高 で あ る.電 位VDに
お い て,半
導
体 か ら金 属 へ の キ ャ リ ア 拡 散 と金 属 か ら半 導 体 へ の キ ャ リア 拡 散 が 平 衡 し て い る の で,VDは
拡 散 電 位(diffusion
potential)と
た 障 壁 高 は,q(φM-φs)+q(φs-χ)=qσ(φM-χ)で
もい わ れ る.一 あ る.
方,金
属 側 か ら見
(a)
(b)
(c)
(d)
図13.1.3
金属 と半導 体 接 触 の 電 子 エ ネ ル ギ ー 準 位
空 間 電 荷 領 域 す な わ ち 空 乏 層 の 厚 さ は,式(13.1.4)か
ら,
(13.1.6) で 表 され る. な お,図(a)に
示 す よ うに,金 属,半
導体 それぞれの他の端 の自由表面 の間 に
は障 壁 高 ポ テ ン シ ャ ル に等 しい 電 位 差 φM-φsが 存 在 す る.こ れ は接 触 電 位 差
(contact
potential
difference)と
い わ れ,静
電 的 に 測 定 す る こ と が で き る.
図13.1.3(b)∼(d)は
仕 事 関 数 の 相 対 関 係 が,図(b)はn型
半導 体 につ い て
φM< φs,図(c)はp型
半 導 体 に つ い て φM> φs,図(d)はp型
半 導 体 に つ い て
φM < φsの 場 合 の エ ネ ル ギ ー 図 を 示 す. 図(a)と
図(d)はVDが
大 き く,qVDは
シ ョ ッ トキ ー バ リ ア と い わ れ る.こ の 接
触 は,金 属 か ら の キ ャ リア の 流 入 が 障 壁 で 阻 止 さ れ る の で,阻 止 型 接 触(blocking contact))と
も い わ れ る.さ
ら に,後 記 す る よ う に,こ の 接 触 は 整 流 性 が あ る の で
ノ ン オ ー ミ ッ ク(non-ohmic)接 一 方,図(b),(c)で
触 と も い う.
は,半 導 体 の 接 触 界 面 付 近 に 伝 導 キ ャ リア が 集 め ら れ た
非 常 に 薄 い キ ャ リ ア 蓄 積 層(accumulation layer)が た 電 荷 と 電 気2重
層 を 形 成 す る.障
ク 接 触 と な る.半
導 体 に 金 属 電 極 を 付 け る場 合,キ
で き,金
壁 高 は 非 常 に 小 さ く,整
属 表 面 に誘 起 され 流性 が な いオ ー ミ ッ
ャ リ ア が 容 易 に 流 入,流
出す
る た め に は,オ ー ミ ッ ク 接 触 を す る よ う な 仕 事 関 数 の 金 属 を選 ぶ の が 基 本 で あ る. 実 際 に は 金属,半
導 体 の 表 面 の 状 態 な ど が 関 係 す る の で,仕
事 関 数 の み で は決 ま
ら な い こ と が あ る.
(2)
シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド
こ れ ま で は 熱 平 衡 状 態 に お け る 接 触 を 述 べ て き た が,次 触 に 電 圧Vを
に,ノ
印 加 し た と き の 電 子 移 動 の 様 子 を 考 え る.n型
を例 に 取 る.V=0の
ン オ ー ミッ ク接
半 導 体 と金 属 の 接 触
場 合 は 熱 平 衡 状 態 で あ り,図13.1.3(a)と
導 体 内 電 子 は ボ ル ツ マ ン 分 布 を し て い る と 考 え ら れ る の で,エ 以 上 の エ ネ ル ギ ー を 占 め て い る 電 子 数 は,式(12.2.4)を
同 じ で あ る.半 ネ ル ギ ー 障 壁qVD
用 い て,
(13.1.7) で表 され る.Aは 子 数 をnMOと
比 例 係 数 で あ る.一 方,金 属 側 で 同様 な エ ネ ル ギ ー を 占 め る電
す る と,熱 平衡 状 態 で はnMO=nSOで
接 触 に流 れ る電 流 はI=0で
あ る.し た が っ て,V=0で
は
あ る.
金 属 側 に半 導 体 に 対 し+V,つ -Vを 印 加 す る と,図13.1.4(a)の
ま り半 導 体 側 で は 金 属 に対 し て 負 電 位 の 電 圧 よ うに,半 導 体 側 の 電 子 の ポ テ ン シ ャル エ
ネ ル ギ ー はqVだ
け高 くな る.空
乏 層 は伝 導 電 子 が 出 払 っ て い るか ら高 抵 抗 で あ り,電 圧 は ほ とん ど 空 乏 層 に印 加 さ れ る.こ の た め 半 導体 内側 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー は 電 圧 印 加 時 も水 平 に描 か れ
(a) 金 属 側 に+V印
加
(b) 金 属 側 に-V印
加
る.し た が って,電 圧 印 加 に伴 い 半 導 体 側 の 障 壁 高 はq(VD-V) と小 さ くな り,nSOはnSに
変化 す
る.す な わ ち,
(13.1.8) と な り,半 導 体 か ら金 属 へ拡 散 す
図13.1.4
電 圧Vを
印加 し た と きの 電 子 エ ネ ル ギー 準 位
る電 子 数 が 増 加 す る. 一 方,金 属 側 か ら見 た 障 壁 高 は 変 化 し な い か らnMOは きnS-nMOの
一 定 に保 た れ る.差 し引
電 子 が 半 導 体 か ら金 属 へ 拡 散 す る.nSに よ る電 流 は金 属 か ら半 導体
へ の 向 き にIS,nMOに
よ る電 流 は 逆 に半 導 体 か ら金 属 へ の 向 き で あ る か ら-IO
とす る と,接 触 に は 金 属 か ら半 導 体 べ の 向 きに 次 の 拡 散 電 流 が 流 れ る.こ れ を順 方 向 電流 と い い,次 の よ うに表 され る. (13.1.9) 次 に,逆
に 金 属 側 に-Vの
電 圧 を 印 加 す る と,図(b)の
よ う に,半
導体 側 ポ
テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー は 下 が り,半 導 体 側 の 障 壁 高 はq(VD+V)と
大 き く な る.
こ の 結 果,nSは
な る.こ れ に
小 さ く な り,nS=0と
よ る 拡 散 電 流 は-IOで
あ る.す
み な せ る か らnMO-nS=nMOと
な わ ち,接
触 を 流 れ る電 流 は
(13.1.10) と 表 さ れ る.こ
れ は 半 導 体 か ら 金 属 へ の 向 き の 電 流 で あ り,逆
式(13.1.9)を
図 示 す る と,図13.1.5の
よ う に な る.こ
方 向 電 流 と い う.
れ を 整 流 特 性 と い う.整
流 特 性 を示 す素 子 を ダイ オ ー ド(diode) と い う.特 に金 属 ・半 導 体 接 触 の 整 流 素 子 は,シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド(Schottky diode)と
い わ れ る.半 導 体 か ら金 属
に 流 入 した 過 剰 電 子 は,誘 電 緩 和 時 間 で 速 や か に 中和 され る の で応 答 が 速 く,高 周 波 用 ダ イ オ ー ドと して用 い られ る. 図13.1.5
13.2
pn接
シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ドの 整 流 特 性
合 と関連 素 子
(1) pn接 合 2つ の物 質 が 原 子 結 合 で つ な が れ た と き,両 者 の 界 面 付 近 を特 に接 合(junction) と い う.半 導 体 接 合 は,あ る半 導 体 結 晶 表 面 に別 の 半 導 体 結 晶 を成 長 させ る 技 法 で作 られ る.同 種 半 導体 接 合(homo-junction) が あ る.ま た,p型 で はp型Siとn型Siの
半 導 体 とn型 半 導 体 の接 合 をpn接
接 合 に代 表 さ れ る同 種pn接
接 合 に お い て も,熱 平 衡 で は図13.2.1の さ れ る エ ネ ル ギ ー 障 壁 高qVDは,両 -Δ
EA/2)で
と異 種 半 導 体 接 合(heterojunction) 合 とい う.こ こ
合 を解 析 す る.
よ う に,両 者 のEFは
一 致 す る.形 成
者 の 仕 事 関 数 の 差 か らq(Eg-ΔED/2
あ る.電 子 密 度 が 高 いn型
か らp型 へ電 子 が 拡 散 し,同 時 に正 孔 密 度 の 高 いp型 る こ とでEFの
か らn型
へ正 孔 が 拡 散 す
一 致 が 達 成 さ れ る.こ の
た め,界 面 の 両側 に は ドナ ー が 電 子 を放 して,正
に イ オ ン化 した 厚 さdnの
正空
間 電 荷 層 とア クセ プ タが 電 子 を 受 け と っ て,負
に イ オ ン化 した 厚 さdpの
負空 間
電 荷 層 が 形 成 され る.そ れ ぞれ の空 間 電 荷 層 内 の ドナ ー お よび ア クセ プ タ は,す べ て イ オ ン化 し,空 間 電 荷 は均 一 に分 布
図13.2.1
pnホ モ 接 合 の 電 子 エ ネ ル ギ ー 準 位 と 空 間 電 荷2重 層
して い る と仮 定 す る.そ れ ぞ れ の 空 間 電 荷 層 に つ い て,金 属 ・半 導 体 接 触 の場 合 に な らっ てポ ア ソ ンの 方 程 式 を解 く.n領 域(0<x<dn)で 電 導 帯 の下 端Ecか
は ρ=qNDと
お い て,
ら測 った 電 位 を求 め る と, (13.2.1)
と な る.
p領 域(-dp<x<0)で EVか
は ρ=-qNAと
お き,方 程 式 を解 い て 価 電 子 帯 の 上 端
ら測 っ た電 位 を求 め る と,
(13.2.2) と な る.Cは のx=0の
積 分 定 数 で あ る.x=0に
お け る 式(13.2.2)の
値 に 等 し い と い う 連 続 条 件 を 入 れ てCを
値 が,式(13.2.1)
求 め る と,
(13.2.3) と な り,伝
導 帯 下 端Ecか
ら測 っ たp域
の 電 位 は,次
の よ う に 表 さ れ る.
(13.2.4) した が っ て,n域
の伝 導 帯 電 子 に対 す る電 位 障 壁 はx=-dpと
お い て,
(13.2.5) と表 さ れ る.正
負 の 空 間 電 荷 量 は 等 し く,NDdn=NAdpで
あ る.こ の 関 係 を 用 い る
と,
(13.2.6) が 得 られ,接 合 の厚 さdは,
(13.2.7) で あ る.こ
れ か ら エ ネ ル ギ ー 障 壁 高 は,
(13.2.8) で 表 さ れ る.図13.2.2に,pn接
合 の 電 荷,電
界,電
位 の 分 布 を 示 す.ま
た,式
(a) 電 荷
(b) 電 界
(c) 電 位
図13.2.2
pnホ モ接 合 の電 荷,電 (電 位 は 伝 導 帯 の 底Ecか
(13.2.1)と 式(13.2.4)に-qを
界,電
位の分布
ら 測 っ た もの)
掛 け,こ の接 合 の 電 子 エ ネ ル ギ ー は 図13.2.1の
よ うに 描 か れ る. 以 上 に よ りpn接 合 で は,p型 とn型 の 間 に 高 抵 抗 の 空 乏 層 が 形 成 され て い る こ とが分 か る.こ の空 乏 層 を通 してp型
か らn型 へ 正 孔 が,ま たn型
か らp型 へ 電
子 が拡 散 し,熱 平 衡 で は こ の両 者 が 釣 り合 っ て い る.
(2) pnダ イ オ ー ド pn接 合 に電 圧 を 印加 す る と きは,熱 平 衡 は破 れ るの で電 子 と正 孔 の挙 動 を考 え な けれ ば な らな いが,基 本 的 に は 金属 ・半 導 体 接 触 の場 合 と同 じで あ る. 電 子 に よ る拡 散 電 流Inは,n型
か らp型 へ の電 子 拡 散 に よ り電 流Inpとp型
らn型 へ の 少 数 キ ャ リア 電 子 拡 散 に よ る電 流-Ipnの 印加 電 圧V=0の
と き は,熱 平 衡 状 態 でInp=Ipn=In0で
和 で,In=Inp-Ipnで あ る.
か あ る.
p型
の 方 にn型
に対 し
+Vの
電 圧 を 印加 す る と,電
圧 は ほ とん ど高 抵 抗 の 空 乏 層 に 印 加 さ れ,図13.2.3(a) の よ うに,n型
の電子 ポテ ン
シ ャ ル エ ネ ル ギ ー がp型 対 しqVだ
に (a) 順 方 向(p型
け 高 くな り,n型
の 方 にn型
に 対 し+V印
加)
側 か ら見 た障 壁 高 は低 下 す る.こ の た めn型
か らp型 へ
の拡 散 電 子 数 が増 加 す る.こ れ に よ る拡 散 電 流 は,
とな る.こ の 電 子 は空 乏 層 を 拡 散 し た 後 にp型
に少 数 キ
ャ リア と して 注 入 され,さ
ら
に 少 数 キ ャ リア の 拡 散 長 だ け
(b) 逆 方 向(p型 図13.2.3
の 方 にn型 に 対 し-V印
電 圧 印 加 に よ るpn接
加)
合 の エ ネル ギ ー 準 位 の 変 化
移 動 した 後 に再 結 合 に よ り寿 命 が終 わ る こ とに な る. 一 方
,p型
か らn型
へ の 拡 散 電 子 数 は 不 変 で,Ipn=In0で
あるか ら
(13.2.9) とな る. 正 孔 に対 して も同様 に 考 えて,熱 平 衡 時 の正 孔 拡 散 電 流 をIpoで 表 す と,障 壁 高 の 低 下 は 同 じで あ る か ら,
(13.2.10) と な る.し
た が っ て,順
方 向 電 流 はp型
か らn型
へ の 向 き に 流 れ,
(13.2.11)
と表 され る. 逆 電 圧(p型
の 方 に-V)の
と き は,図(b)の
よ うに 障 壁 高 は 大 き くな り,指
数項 は小 さ くな るの で逆 方 向 電 流 は,
(13.2.12) と表 さ れ る. 整 流 特 性 は シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド と 同 じ く,図13.1.5の
よ う に 描 か れ る.
Siのpnダ
イ オ ー ドで は 空 乏 層 内 トラ ッ ピ ン グ 効 果 の た め に 順 方 向 で は約
Eg/2のVま
で は 電 流Iは
制 限 さ れ,そ
の 中 の 少 数 キ ャ リア 数n(p)は の た め,逆
激 に 立 ち 上 が る.ま
極 め て 少 な い か ら,In0とIp0は
た,p(n)型
極 め て 小 さ い.こ
方 向 電 流 は シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド よ り も ず っ と小 さ く,ダ
は 極 め て 高 抵 抗 と な り,ほ pnダ
の 後,急
ぼ 理 想 的 な 整 流 特 性 を 示 す.
イ オ ー ドで は,p(n)型
間 が あ る た め に,時
間(周
イオー ド
に 拡 散 注 入 さ れ たn(p)は 波 数)応
答 特 性 は,多
少 数 キ ャ リア の 寿 命 時
数 キ ャ リア の み が 関 わ っ て い る
シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド よ り も 劣 る. 逆 電 圧 印 加 時 に お け る 空 乏 層 の 厚 さ は,式(13.2.7)か
ら,
(13.2.13) で あ り,Vに
よ り変 化 し,Vを
大 き くす る とdは
の 電 荷 量 はQ=qNDdn=qNAdpで
大 き くな る.ま た,正 負 空 乏 層
あ るか ら,空 乏 層 の電 気 容 量Cは,
(13.2.14) で表 され,印 加 電 圧 で 変 化 す る.電 圧 で制 御 され る可 変 容 量 とな る.
(3) ホ トダ イ オ ー ドと太 陽 電 池 (a) ホ トダ イ オ ー ド pn接 合 部 にバ ン ドギ ャ ッ プ以 上 の エ ネ ル ギ ー を有 す る光 子 の 光 を 照 射 す る と, ダ イ オ ー ド特 性 は図13.2.4の
よ うに な る.光 入 射 に よ っ て 空 乏 層 お よび 空 乏 層 か
ら拡 散 距 離 以 内 で 生 成 した キ ャ リア は空 乏 層 内電 界 に よ っ て 分 離,加
速 され,生
成 さ れ た キ ャ リ アΔn,Δpは,多 リ ア と し てn域,p域
数 キ ャ
に 注 入 さ れ,電 流 と
し て 外 部 回 路 を 流 れ る.こ 流(photocurrent)と
の 電 流 を光 電
い う.光 電 流ILの
向 き は,ダ
イ オ ー ドの逆 方 向 電 流 の 向 き
で あ る.す
な わ ち,式(13.2.11)を
用 い
て
図13.2.4
(13.2.15)
pnホ
トダ イ オー
ドの 特 性
と な る. 光 電 変 換 す な わ ち 光 を 光 電 流 と し て 検 出 す る ホ ト ダ イ オ ー ド(photodiode) と し て 使 う と き は,逆
電 圧-Vを
印 加 す る.回
路 に 流 れ る 電 流 は,
(13.2.16) とな る.逆 方 向 の 暗電 流I0が 小 さ けれ ばIは 光 電 流-ILに
等 し く,発 生 した キ ャ
リア 数 に ほ ぼ比 例 す る電 流 が 流 れ る. この よ う にpn接
合 は光 検 出 素 子 と し て動 作 す る.し か し,接 合 部 の受 光 断 面 積
は 小 さ いの で,実 際 の ホ トダ イ オ ー ドは,図13.2.5の を 大 き く した もの が あ る.入 射 光 は薄 いp層
よ うな構 成 と して 受 光 面 積
を通 過 し て空 乏層 に 達 して キ ャ リア
が 生 成 され る. また,空 乏 層 は薄 い の で,そ
の代 わ り
に 比 較 的 厚 い 真 性 半 導 体 層iを 挟 ん だ pin構 造 と し,よ
り多 くの キ ャ リ ア を 生
成 す る よ う に した もの が あ る.光 電 流 波 長 特 性 は,光 吸 収 波 長 特 性 に関 係 す るか ら材 料 に依 存 す る.応 答 時 間 は10-7s程 度 で あ る.SiやGaAsが
多 く用 い ら れ
て い る.多 数 の 微 小 なpn接
合 を1次
元
図13.2.5
大 面 積 ホ トダ イ オ ー ドと 太 陽 電 池
配 列 し た も の は ラ イ ン セ ン サ と し て,ま し て,画
た2次
元 配 列 し た もの は エ リア セ ン サ と
像 の 読 取 りや 撮 像 に 利 用 さ れ る.
負 荷 抵 抗Rを
十 分 大 き く し て 電 流 を 取 り出 さ な い と き は,式(13.2.15)でI
=0と す る と,回
路 開 放 電 圧V0と
し て 光 起 電 圧(photo-voltage)
(13.2.17) が 得 ら れ る.ま (b)
た,Rを
十 分 小 さ く し てV=0と
す れ ば 短 絡 光 電 流Isが
太陽電池
太 陽 電 池(solar
cell)は,図13.2.5の
受 光 面 積 を よ り大 き く した も の で あ る.
太 陽 電 池 で は 負 荷 に 電 力 を 出 力 し な け れ ば な ら な い.抵 抗 値Rの 続 す る と電 流IRが
流 れ,図13.2.4の
し,電 力P=VRIRが Rを
選 定 す る 必 要 が あ る.VRIR/VOIsの
変 換 効 率 は,こ
結 晶,多
結 晶,ア
の 順 に20∼5%程
大 電 力 を 取 り出 す に は,最 値 をfill factor(FF)と
モ ル フ ァ ス のSiが
(a)
ツェナー ダイオー ド
pn接
合 に 印 加 す る逆 電 圧-Vを
大 き く す る と,あ
よ う に,空
で は 多 数 の 電 子 が,p域
る 電 圧-VZB付
合 で,逆
近 か ら電 流
電 圧 を 高 め る と図
に 通 り抜 け る よ う に な る.こ
で は 多 数 の 正 孔 が 流 れ る.こ
い い,図(b)の
る 素 子 を ツ ェ ナ ー ダ イ オ ー ド(Zener VZB 付 近 の 電 圧 範 囲 は 狭 い の で,定 イ オ ー ド は,降
ネルギー
乏 層 の 領 域 で 禁 止 帯 の 空 間 的 幅 が 小 さ く な り,p域
電 子 帯 電 子 が ト ン ネ ル 効 果 に よ り突 然 にn域
breakdown)と
い う.太 陽 電 池 の
れ は 誘 電 体 の 絶 縁 破 壊 と類 似 の 現 象 で あ る.
添 加 不 純 物 量 が 多 く て 空 乏 層 の 厚 さ が 小 さ いpn接
(Zener
適 な負荷抵抗値
度 で あ る.
ツ ェ ナ ー ダ イ オ ー ド と ア バ ラ ン シ ホ トダ イ オ ー ド
13.2.6(a)の
発生
主 に 使 用 さ れ,エ
(4)
が 急 激 に 増 大 す る.こ
負荷 を直 列 に接
よ う に,順 方 向 特 性 でRにVR=RIRが
取 り 出 さ れ る.最
材 料 と し て は,単
n域
流 れ る.
伏 電 圧 が5∼200Vく
よ う な 特 性 を 示 す.こ diode)と
い う.電
の価 のため
れ をツ ェナー 降伏 の よ う な動 作 を す
流 が 急増 す る 降 伏 電 圧
電 圧 制 御 素 子 と し て 使 わ れ る.Si-ツ ら い の も の が 作 ら れ て い る.
ェナーダ
(a) 図13.2.6
(b)
ツ ェ ナ ー 降 伏 とツ ェナ ー ダ イ オー
ドの 特 性
(b) アバ ラ ンシ ホ トダ イ オ ー ド 添 加 不 純 物 が比 較 的 少 な く,空 乏 層 の厚 さが 厚 いpn接
合 で逆電 圧 を高 めてい
くと,空 乏 層 内 で 光 に よ っ て 生 成 され た電 子 正 孔 が 加 速 され る.そ の 運 動 エ ネ ル ギ ー が バ ン ドギ ャ ッ プEgよ
り大 き くな る と,図13.2.7の
よ う に,そ の エ ネ ル ギ
ー で価 電 子帯 電 子 を伝 導 帯 に励 起 して 自 由電 子 ・正 孔 を作 る
.こ れ を繰 り返 す と,
自 由電 子 ・正 孔 数 が 連 鎖 的 に 増 大 す る.こ れ を な だ れ 降 伏(avalanche
breakdown)
とい う.こ の よ うな 動 作 を す る もの をア バ ラ ン シ ホ トダ イ オ ー ドとい い, pnホ
トダ イ オ ー ドの103倍
も高感 度,か
つ応 答 速 度 が103程 度 も速 い 光 検 出 素 子
で あ る.た だ し,寿 命 と雑 音 に難 点 が あ る.
(5) 発 光 ダ イ オ ー ドと半 導 体 レー ザ (a) 発 光 ダ イ オ ー ド 発 光 中 心 とな る 不 純 物 を添 加 し たpn 接 合 に,順 方 向 バ イ ア ス電 圧 を 印加 す る と き,図13.2.8の
よ うに,注 入 され た少
数 キ ャ リア と多 数 キ ャ リア とが 直 接 あ る い は発 光 中 心 を 介 す る過 程 で再 結 合 し,
図13.2.7
ア バ ラ ン シ 降 伏
両 者 の ポ テ ンシ ャル エ ネ ル ギ ー差 に相 当 す る波 長 の 発 光 が生 ず る素 子 が あ る.こ れ を発 光 ダ イ オ ー ド(light diode,LED)と
emitting
い う.材 料 と し て は,直
接 遷 移 型材 料 が 基 本 的 に適 当 と さ れ る. 発 光 波 長 は,材 料 のバ ン ドギ ャ ップ エ ネ ル ギ ーEgに
関係 す る こ とが 多 い. 図13.2.8
GaAsは
発光 ダ イ オー ドの 発 光 機 構
直 接 遷 移 型 材 料 で 発 光 しや す
い が,Egが1.43eVと
小 さ く,発 光 波 長 は 近 赤 外 域 と な る.こ
い 材 料 と の 混 晶 とす る.例 も の で,xの
え ば,AlxGa1-xAsは,Egが2.15eVのAlAsを
色 か ら 黄 色(650∼590nm)の GaPはEgが2.26eVの
晶 も,バ
発 光 を 示 す. 加 す るN(窒
れ を 介 す る 直 接 的 再 結 合 に よ り,黄
発 光 を 示 す.ま
た,GaPにZnとOを
電 子 ト ラ ッ プ と な る た め 赤 色(700nm)の
素)が
等電
色 か ら緑 色
添 加 し て も,こ
の対 が 等
発 光 を 示 す.
青 色 発 光 ダ イ オ ー ドは 開 発 が 遅 れ て い た が,GaN,SiC,ZnSeな GaInxN1-xな
ン ド間 直 接
ン ド間 直 接 再 結 合 に よ り赤
間 接 遷 移 型 材 料 で あ る が,添
子 ト ラ ッ プ と な る た め,こ (590∼555nm)の
たGaAS1-xPx混
大 き 混 ぜた
値 に よ り近 赤 外 か ら 赤 色 に わ た っ て(910∼660nm)バ
再 結 合 に よ る 発 光 を 示 す.ま
(b)
の た めEgの
どが 研 究 さ れ,
ど は 実 用 化 さ れ る よ う に な っ て い る.
半 導 体 レー ザ
さ ま ざ ま な 半 導 体 に,さ こ とが で き る.そ の 中 でpnダ
ま ざ ま な ポ ン ピ ン グ 法 を 適 用 し て レ ー ザ 発 振 を起 こ す イ オ ー ド の 電 極 か ら 注 入 し た 多 量 の 電 子,正
結 合 発 光 す る ダ イ オ ー ド レ ー ザ 素 子 が 半 導 体 レ ー ザ(laser
diode,LD)と
孔 が再 い われ
て い る. 現 在,室
温 で 連 続 発 振 す る 半 導 体 レ ー ザ はGaAsを
用 い,か
す よ う な 構 成 を 基 本 と し て い る も の が ほ と ん ど で あ る.中 層(活
性 層)で,厚
のAlxGa1-xAsは
さ は 拡 散 距 離 程 度(100nm前 ク ラ ッ ド層 と い わ れ る.
後)で
つ,図13.2.9に
央 のp型GaAsは あ る.両 側 のn型
示 発光 とp型
こ の よ う に,こ
の 素 子 は2つ
のへ テ ロ
接 合 か ら構 成 され て い るダ イ オ ー ドで あ っ て,2重
へ テ ロ(double-hetero,DH)
構 造 と い わ れ る.ヘ 説 明 を 省 く が,熱
テ ロ接 合 につ い て は
平 衡 状 態 にお け る エ ネ
ル ギ ー 準 位 は,図(a)の
よ う に な る.
こ の 構 造 の 重 要 な 点 は,ま
ず,バ
ャ ッ プEgに
(a) 電 圧 印加 前
つ い て,Eg(GaAs)<Eg
(AlxGa1-xPs)の 光 学 屈 折 率Nに
関 係 が あ る こ と.ま た, つ い て,N(GaAs)>N
(AlxGa1-xPs)の る.紙
ン ドギ
関 係 が あ る こ とで あ
面 に垂 直 方 向 の結 晶端 面 を レー ザ
に 不 可 欠 な 光 空 洞 共 振 器 を構 成 す る 反 射 (b) 電 圧 印加 時
面 と し て い る.レ
ー ザ光 は紙 面 に垂 直 方
向 に 放 出 さ れ る.共
振 器 長 す な わ ち,こ
の 方 向 の 厚 さ は0.2∼0.3mm程 る.発
度 で あ
光 波 長 は660∼900nmで
通 の 発 光 ダ イ オ ー ド で は,順
あ る.普
ダ ブ ルへ テ ロ半 導 体 レー ザ
方向バ イア
ス電 圧 を高 め て 多 数 の電 子,正 が,2重
図13.2.9
孔 を注 入 して も連 続 的 レー ザ 発 振 は起 こ りに くい
へ テ ロ構 造 で は,順 方 向 バ イ ア ス が 印加 され た と き に注 入 され た 電 子,
正 孔 キ ャ リア は,図(b)の
よ う にエ ネ ル ギ ー 障 壁 でせ き止 め られ,活 性 層 内 の
電 子 お よ び正 孔 密 度 が 非 常 に 高 くな り,高 密 度 の再 結 合 発 光 を生 ず る.こ れ をDH 構 造 の キ ャ リア 閉 じ込 め 効 果 とい う. また,活 性 層 の 屈 折 率 が ク ラ ッ ド層 よ り も大 きい の で,発 光 は活 性 層 か ら ク ラ ッ ド層 に出 る こ とが 少 な く,増 幅 作 用 を助 長 す る.こ れ をDHの
光 閉 じ込 め 効 果
とい う.以 前 の 半 導 体 レー ザ は,発 振 に極 め て 大 き な注 入 電 流(約105A/cm2)を 必 要 と し て い た が,2重 注 入 電 流(103A/cm2前
へ テ ロの2つ 後)で
の効 果 に よ っ て,室 温 に お い て比 較 的 小 さ な
も安 定 に連 続 レ ー ザ 発 振 を起 こす よ う に な っ た.
こ の ほ か,InPとGaAsの 1.2∼1.6μm)も
混 晶 を発 光 層 と したDH半
導 体 レ ー ザ(発
振 波長
実 用 化 され て い る.ま た,さ まざ まな 材 料 を用 い て,よ り短 波 長
の半 導 体 レー ザ の 開 発 が 進 め られ て い る.
13.3 (1)
バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ と 関 連 素 子 バ イポ ー ラ トラ ン ジ ス タ
負 電 荷 の 電 子 と正 電 荷 の 正 孔 の 両 方(bipole)が
増 幅 動 作 に 関 与 す るnpn接
(a)
(b)
(c)
図13.3.1
npnバ
イ ポー ラ トラ ン ジ ス タの エ ミッタ
接 地 法 とキ ャ リア の 挙 動
合,ま
た はpnp接
transistor)と の よ う に,np接 のn層
合 構 造 の3端
子 増 幅 素 子 を バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ(bipolar
い う.以 下,npn構 合 とpn接
造 に つ い て 記 す.こ
合 が1つ
のp層
は エ ミ ッ タ(emitter,E),中
コ レ ク タ(collector,C)と べ ー ス のp層
の ト ラ ン ジ ス タ は 図13.3.1
で つ な が れ た 構 造 と な っ て い る.左
間 のp層
い わ れ る.エ
は ベ ー ス(base,B),右
ミ ッ タ のn層
は,コ
よ り多 量 の 不 純 物 が 添 加 さ れ て お り,よ
が 存 在 す る.ま た,べ
ー ス のp層
の 厚 さWは
側
側 のn層
レ ク タ のn層
は
お よび
り多 数 の キ ャ リ ア(電
子)
少 数 キ ャ リ ア 電 子 の 拡 散 距 離Lnよ
り薄 く作 られ て い る. バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ の 使 い 方 に は,エ ミ ッ タ 接 地 法 とべ ー ス 接 地 法 が あ る. エ ミ ッ タ 接 地 法 で はnpnト 電 圧 を 印 加 す る.エ に,J2は
ラ ン ジ ス タ に 対 し て は,図13.3.1の
ミ ッ タ 側 のnp接
大 き い 電 位 差VCE-VBEに
合J1は
小 さ い 電 位 差VBEに
よ うな 極 性 の よ っ て順 方 向
よ っ て 逆 方 向 に バ イ ア ス さ れ て い る.以 下,ト
ラ ン ジ ス タ の 動 作 に 関 係 す る 主 要 な キ ャ リ ア の 挙 動 を 考 え る.Eか
らBに
れ た 少 数 キ ャ リ ア の 電 子 は,W<Lnで
通 過 し てCに
到 達 す る.コ
レ ク タ 到 達 率 α は,ト
あ る た め に,大 部 分 がBを ラ ン ジ ス タ で は99%以
直 ち に 外 へ 流 出 し て コ レ ク タ 電 流Icと B内 む.し
で 正 孔 と 再 結 合 し て 消 滅 す る.消 た が っ て,エ
ミ ッ タ 電 流 をIEと
(電 子)
(電子+正
な る.残
りの1-α
上 で あ る.こ の 電 子(1%以
費 し た 正 孔 分 の 電 流IBが
注入 さ
の電 子 は 下)は,
べ ース に流れ 込
す る と,
孔)
(正 孔) (13.3.1)
で あ る.図13.3.2に,Si-npnト ッ タ 側 の 入 力 特 性 を 示 し,npダ は,コ
ラ ン ジ ス タ の 特 性 の 例 を 示 す.図(a)は,エ イ オ ー ドの 順 方 向 特 性 そ の も の で あ る.図(b)
レ ク タ 側 の 出 力 特 性 を 示 し,pnダ
イ オ ー ドの逆 方 向 電 流 に コ レ ク タ に到 達
し た エ ミ ッ タ 電 流 が 加 わ っ た 特 性 で あ る. BにΔIBの
ミ
信 号 電 流 を 流 し込 む と き は,式(13.3.1)か
ら,
(13.3.2) で あ る.す な わ ち,電 流 増 幅 作 用 が あ る.β は エ ミッ タ接 地 の 直 流 増 幅 率 でhFEと
(a) 入 力 側 特 性
(b) 出 力側 特 性
図13.3.2
も書 き,ふ つ う は100以
バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ の 特 性
上 で あ るた め,電 流 増 幅 素 子 と して,ま
路 に負 荷 抵 抗 を入 れ て 電 圧,電 力 増 幅,あ
た,コ
レクタ回
る い は ス イ ッ チ ン グ素 子 と して 広 く使
用 され る.た だ し,入 力 抵 抗 が小 さ く消 費 電 力 が 大 き い.ま た,EとBの 電 圧 信 号-ΔVBEを
入 力 す る と,B-E間
間 に負
の電 位 差 が 増 加 す る か らIB,し
たがって
Icが 増 加 す る.す な わ ち,出 力 側 の 位 相 は反 転 す る.こ の た め論 理 素 子 の イ ンバ ー タとなる . 次 に,β の意 味 を考 え る.Bに
電 荷 量(Q+,電
流ΔIBの 正 孔 が 注 入 され る と き,
B内 で はエ ミ ッタ か ら注 入 され た 少 数 キ ャ リア の 電 子 が 存 在 す る か ら再 結 合 が 起 こる.正 孔 の 寿 命τpは 少 数 キ ャ リア電 子 の 寿命 τnに等 し い か ら,
(13.3.3) と表 され る.こ のQ+の
中 和 は,Eか
らBに
行 わ れ る.し か し,注 入 さ れ た 電 子 はBの
注 入 され るIE中
狭 い 幅Wの
の電 子Q-に
走 行 時 間tTし かB中
よっ て に存
在 しな いか ら,
(13.3.4) で あ る.式(13
.3.2)∼
式(13.3.4)と
中 和 条 件(Q+=Q-か
ら,
(13.3.5)
とな る. 以 上 か ら,ト ラ ン ジ ス タ の 電 流 増 幅作 用 は,べ ー ス 電 流 で 注 入 され た 少 数 の 電 荷 を 中和 す るた め に,エ
ミ ッ タ か ら多 数 の電 荷 が2次 的 にべ ー ス へ 流 れ 込 み,そ
の 大 部 分 が コ レ ク タ に到 達 して 大 きい コ レ ク タ電 流 を生 ず る た め と理 解 さ れ る. αはべ ー ス走 行 時 間 な に よ っ て 決 ま る.解 析 は省 略 す る が,tTは
ほぼ
(13.3.6) で 表 さ れ る.Dnは
少 数 キ ャ リ ア 電 子 の 拡 散 係 数 で あ る.tTが
ク タ に 到 達 し な く な る.ωα=2πfα=1/tTは,使
大 き い と電 子 は コ レ
用 可 能 な 上 限 周 波 数 を 決 め る.fα を
α遮 断 周 波 数 と い う. ベ ー ス 接 地 法 は,図13.3.3の 接 合J1は
順 方 向,J2は
ス さ れ る.Eに
よ う に 電 圧 を 印 加 す る.エ ミ ッ タ 接 地 法 と同 様 に,
逆 方 向 にバ イ ア
班ΔIEを注 入 す る とΔIc=
αΔIEで あ る か ら,電 流 増 幅 率 はΔIc/ΔIE =α ≒1と
な り,電 流 増 幅 作 用 は な い の で
特 殊 な 場 合 以 外 は 用 い ら れ な い. pnpト
ラ ン ジ ス タ で は,エ
ミ ッタ 接 地
図13.3.3
べ ー ス接 地 法
で もべ ー ス接 地 で もキ ャ リア の符 号 お よ び 電 源 符 号 を 逆 に す れ ば よ い.し か し,負 電 圧 電 源 を 必 要 と す る た め,npnト
ラ ン
ジ ス タ の 方 が 広 く用 い ら れ て い る.
(2)
ホ ト トラ ン ジ ス タ
ベ ー ス の 外 部 回 路 を 取 り外 し て フ ロ ー ト し,べ
ー ス に光 を 照射 して キ ャ リア を
発 生 さ せ る と,こ れ は キ ャ リア 注 入 で あ る か ら電 流 増 幅 さ れ て,pnホ ドの 約100倍
も 高 感 度 の 光 検 出 素 子 と な り,ホ
と い わ れ る.し
か し,応
光 量 に 対 し非 直 線 性 が あ る.
トダ イ オ ー
ト ト ラ ン ジ ス タ(phototransistor)
答 時 間 は や や 遅 く10-8s以
下 で あ り,ま
た,hFEは
(b) 特
(a) 構 造 と 回路 図13.3.4
(3)
サ イ リ ス タ,SCRの
性
構 造 と特 性
サ イ リ ス タ とSCR
図13.3.4(a)の
よ う に,p1n1p2n2(ま
の 接 合J1,J2,J3が
あ り,p1n1p2が1つ
ジ ス タ と見 る こ と が で き る.た
た はnpnp)4層
構 造 を 考 え る と,3つ
の トラ ン ジ ス タ,n1p2n2が
だ し,べ ー ス と な るn1とp2は
も う1つ
の トラ ン
普 通 の トラ ン ジ ス タ
よ り も 幅 が 広 い. ま ず 図(a)に
お い て,ゲ
の よ う な 極 性 の 電 圧Vを さ れ る.2端 のOFF領
ー トGと
ゲ ー ト回 路 が な い2端
印 加 す る と,J1とJ3は
子 の 電 流 はJ2で 域 の 特 性 を 示 す.こ
子 素 子 を 考 え る.図
順 方 向 に,J2は
逆 方 向 にバ イ ア ス
制 限 さ れ,か つ,到 達 率 α1,α2は小 さ い の で,図(b) こ か らVを
増 加 す る と,J2に
印 加 さ れ て 空 乏 層 厚 が 広 が り,ま た べ ー スn1とp2の
は高 い逆 バ イ ア ス が
幅 が 狭 く な る の で α1,α2が大
き く な る. さ ら にVを
増 加 す る と,空
乏 層 内 は 強 電 界 と な っ て 電 子 な だ れ 降 伏 が 起 こ り,
電 子 数 と 正 孔 数 が 急 激 に 増 加 し て 負 性 抵 抗 を 生 ず る.こ に 蓄 積 さ れ,逆 のON領
にJ2の
域 に 移 る.こ
流 特 性 にOFF状
バ イ ア ス 電 圧 を 下 げ,ま の よ う に4層
態 とON状
態 の2つ
子 を サ イ リ ス タ(thyristor)と 次 に,図
の よ う にp2あ
構 造,あ
の 電 子 と 正 孔 はn1とp2
た,α1,α2を 小 さ くす る の で 正 抵 抗 る い は さ ら に 多 層 構 造 で,電
の 安 定 状 態 を 有 す る2端
圧 ・電
子 ス イ ッチ ン グ素
い う.
る い はn1に
制 御 ゲ ー ト電 極Gを
設 け た3端
子 サ イ リス
タ素 子 を 考 え る.こ の 素 子 は,SCR(silicon
controlled rectifier)あ る い は シ リ
コ ン制 御 整 流 素 子 とい わ れ る.ゲ ー ト電 極Gか
らp2に 正 孔 を注 入 す る と,同 時 に
n2側 か ら電子 が 注 入 され る.こ の 電 子 はp2を 通 過 してJ2で 加 速 され,n1に
入 る.
す る とp1側 か ら正 孔 が 注 入 され,J2で 加 速 され てp2に 入 る.こ の た め電 子 な だ れ を助 長 してON状
態 が起 こ しや す くな る.
そ こで 正 孔 注 入 ゲ ー ト電 流IGを う こ とが で き る.し か し,一 度ON状 は な らな い の で,OFFに
制 御 す る こ とに よ り,回 路 電 流 の ス イ ッ チ を行 態 に な る と,IGを ゼ ロ に して もOFF状
す る に は 印加 電圧 をOFFに
を印 加 しな け れ ば な らな い.こ の た めSCRは,む く使 用 され て い る.な お,ON-OFFの
13.4
す る か,p1側
態に
の端 子 に-V
し ろ交 流 電 力 の 制 御 に適 し,広
応 答 時 間 は数 μs程 度 で あ る.
絶 縁 体 との 接 触 を含 む 素 子
(1) 金 属 ・絶 縁 体 ・半 導 体3層 構 造 半 導 体(semiconductor)上 に金 属(metal)電
極 を付 けた 構 造 をMIS構
の と きは,特 にMOS構 絶 縁 体 薄 膜(厚
に絶 縁 体(insulator)薄
後)と
ら に そ の上
造 とい い,絶 縁 体 が 酸 化 物(oxide)
造 とい わ れ る.ふ つ うは,Si半
さ100nm前
膜 を設 け,さ
導 体 表 面 を酸 化 してSiO2
し,そ の上 に ゲ ー ト とい わ れ る金 属 電 極 を付
け て機 能 素 子 とす る.Siを 酸 化 してSiO2と
す る こ と は,半 導 体 表 面 準 位 の 影 響 を
著 し く安 定 化 す る効 果 もあ る.半 導 体 と金 属 の間 に は 絶 縁 体 が 介 在 す るた め に, 熱 平 衡 状 態 で も両 者 の 間 に電 荷 の移 行 は起 こ らな い.半 導 体 と金 属 の 間 に電 圧V を印 加 して も電 荷 の 移 行 は起 こ らな い. も し も絶 縁体 が2つ
の 金 属 電 極 に狭 まれ た単 純 な平 行 平 板 コ ン デ ンサ構 造 な ら
ば,電 圧 を印加 す る と2つ の金 属 表 面 に正 負 の電 荷 が誘 起 さ れ る.こ の場 合,金 属 は キ ャ リア が 多 いか ら表 面 付 近 の 導 電 率 は変 化 しな い と考 えて 良 い.し か し, MOS構
造 で は,半 導 体 と金 属 の 間 に電 圧 を印 加 す る と,半 導 体 の 表 面 付 近 に は静
電 的 に電 荷 が誘 導 され,本
来 存 在 す る キ ャ リアが 少 な い か ら,半 導 体 の 表 面 付 近
領 域 の 導電 率 が 変 化 す る こ とが 考 え られ る. ま ず,金 属 と半 導 体 の 間 に 電 圧VG=0を
印加 す る と,金 属 と半 導 体 の フ ェ ル ミ
(a)
(b)
図13.4.1
印加電圧ゼ ロにおけ る 金 属―
絶 縁 体―p型
半導 体 の 接 触
準 位 は 一 致 す る.絶 縁 体 を通 す 電 荷 の 移 行 は な い か ら,両 者 の 仕 事 関 数 の 差 は, 静 電 誘 導 電 荷 に よ る電 界 で補 償 され,半
導 体 内 に は一 般 に,図13.4.1(a)の
よ
し も両 者 の 仕 事 関 数 が 等 しい な らば,半
導体 中
よ う に,接 触 前 と同 様 に フ ラ ッ トとな る.図(a)の
よ
うに空 間電 荷 の 分 布 が 生 ず る.も の 電 子 準 位 は 図(b)の
う な場 合 で も,適 当 な 電 圧VGを
印 加 す れ ば フ ラ ッ トバ ン ドに な るが,こ
こで は
簡 単 化 し て,フ ラ ッ トバ ン ドの 状 態 か らp型 半 導 体 に 対 し て 金 属 ゲ ー トに 電 圧 VGを印 加 す る場 合 を考 え,図13.4.2を
参 照 しな が ら述 べ る.
① 金 属 の 方 に半 導 体 に対 して負 電 位 の 電 圧VG<0を
印 加 す る と き:
金属 の 電 子 エ ネ ル ギ ー は,半 導 体 の フ ェル ミエ ネ ル ギ ーEFよ
①
② 図13.4.2
③ MOS構
造 の エ ネ ル ギー 準 位
④
りqVGだ
け高 く
な る.同 時 に半 導 体 内 多 数 キ ャ リアpは 表 面 の 方 へ 引 き寄 せ られ,表 面 付 近 に は 熱 平 衡 状 態 よ り も多 い 正 孔 キ ャ リア の蓄 積 層 が 形 成 され る.表 面 付 近 の導 電 率 は わ ず か に増 大 す る.蓄 積 層 の 幅 は約10-6cmと ② 逆 に,金 属 に小 さな 正 電 圧VG>0を 金 属 の電 子 エ ネル ギ ー がqVGだ
狭 い.
印加 す る と き:
け低 下 す る と同 時 に,キ ャ リアpは 半 導 体 内部
に押 しや られ,表 面 付 近 に は負 イ オ ン化 ア クセ プ タN-Aに
よ る負 の 空 間 電 荷 層 が
で き る.ま た,同
じ電 荷 数 の 正 電 荷 が 金 属 表 面 に誘 起 され る.半 導 体 表 面 の負 の
空 間 電 荷 層 は,キ
ャ リア の 空 乏 層 で あ る か ら表 面 付 近 の 導 電 率 は低 下 す る.
③ 金 属 に大 き な正 電 圧VG≫0を キ ャ リアpは
印 加 す る と き:
さ らに 内 部 に押 しや られ て 空 乏 層 の幅 が 広 が る.同 時 に 少 数 キ ャ
リア で あ る電 子nが 型 半 導 体 のEFが
表 面 に 引 き寄 せ られ る.あ
真 性 半 導体 のEF=Ei,す
面 で は 真 性 半 導 体 と同 様 にn=pと
るVGに
な る と,表 面 に お け るp
な わ ち禁 止 帯 の ほ ぼ 中 央 に一 致 し,表
な る.し か し両 者 は共 に非 常 に 少 な く高 抵 抗
とな る. ④ さ ら に大 きな正 電圧VG≫0を キ ャ リアpは,さ 近 に お け るEFはEiの 表 面 付 近 はn型
印加 す る と き:
ら に 内部 に押 しや られ て空 乏 層 の 幅 が 広 が る.同 時 に表 面付 上 に な る.こ の と き,式(12.2.6)か
に な る.す な わ ち,表 面 付 近 にお け る電 子 密 度 が 高 ま っ て表 面 付
近 はp型 か らn型 に 反転 し,反 転 層(inversion この 結 果,半
ら も分 か る よ うに,
layer)が
形 成 さ れ る.
導 体 表 面 付 近 に は空 乏 層 内 の 負 の 空 間 電 荷 と反 転 層 内 電 子 を合 わ
せ た 負 電 荷 が存 在 し,金 属 表 面 に は そ れ と同 数 の 正 電 荷 が 誘 起 さ れ る.電 子 はp 型 内 部 で は少 数 キ ャ リア で あ るが,n型
に 反転 した 表 面 層 内 で は多 数 キ ャ リア で
あ る.こ の と き紙 面 に垂 直 な 方 向 に電 界 を 印加 す る と,反 転 層 内 で は多 数 キ ャ リ ア の 電 子 に よ る ド リフ ト電 子 伝 導 が 紙 面 に垂 直 な 方 向 で 生 ず る.表 面 付 近 の キ ャ リア の 通 路 を チ ャネ ル(channel)と 半 導体 を用 い る と き はpチ cm程
い う.い まの 場 合 は,nチ
ャネ ル が で き る.チ ャネ ル 幅 はVGに
度 で 空 乏 層 幅 約10-4cmよ
ャネ ル とい う.n型 依 存 す るが,10-6
り も狭 い.
以 上 の 過 程 に お け る表 面 付 近 の 導電 率 の 変 化 は,図13.4.3の
よ うに な る.
この よ う に半 導 体 表 面 付 近 の 電 気 伝 導 が 印 加 電 圧(電 を,MOS構
界)で
制 御 され る現 象
造 の 電 界 効 果(field
effect)
と い う.
(2)
MOSト
MOS構
ラ ンジ ス タ
造 の 電 界 効 果 に よ っ て増 幅 作
用 を 生 ず る3端
子 素 子 をMOS-FET 図13.4.3
(metal-oxide-semiconductor-field effect transistor),MOS電 ン ジ ス タ,あ
薄 いn領
界 効 果 トラ
る い は 略 し てMOSト
13.4.4に,nチ
ャ ネ ルMOSト
ラ ン ジ ス タ(モ
と き は,ド
レ イ ン 電 圧VDを
合 で あ る た め に ド レ イ ン 電 流IDは
を 図13.4.5(a)に,VG-ID特
図13.4.4
印 加 し て もSとDの
示 す.VG=VTに
反 転 層 が 形 成 さ れ る.Sか
MOSト
上 に局 在 的 な 間
の 電 極 が あ る.
流 れ な い.VG>0の
性 を 図(b)に
面 に はn型
い う.図
ドレ イ ンD(drain),SとDの
介 在 さ せ て ゲ ー トG(gate)の3つ
ゲ ー ト電 圧VG≦0の
対 向 す るp-Si表
ス トラ ン ジ ス タ)と
ラ ン ジ ス タ の 構 造 を 示 す.p型Siの
域 を 介 在 さ せ て ソ ー スS(source)と
に は 薄 い 酸 化 物(SiO2)を
npn接
ゲー ト電 圧 に よ る 表 面導 電 率 の変化
らn域
ラ ン ジ ス タ(nチ ャ ネル)の 構 造 と回 路
間 で は
と き のVD-ID特
性
達 す る と,Gに に注 入 さ れ た電 子
(a) 図13.4.5
はVDが
(b) MOSト
ラ ン ジ ス タの 特 性
印 加 され て い る か ら,SとDの
す る こ とが で き る よ うに な る.VGを を省 略 す るが,IDは
間 のnチ
ャ ネ ル の 中 を伝 導 してDに
達
高 め る と ド レ イ ン電 流IDも 増 大 す る.解 析
次 式 で 表 され る. (13.4.1)
μdは 電 子 の ド リ フ ト移 動 度,Cは
酸 化 層 の 電 気 容 量,Wは
チ ャ ネ ル 幅,Lは
チ ャ
ネ ル 長 で あ る. と こ ろ が,SとDの (x)は,Sか
間 に はVDが
らDに
向 か っ て 高 くな っ て い る.こ
はVeff=VG-V(x)と
な る か ら,図
か っ て 減 少 し,あ
印 加 さ れ て い る か ら,そ
電 圧 が 高 くな る か ら,接
に 示 す よ う にnチ
り に 移 動 す る が,同
合 の 空 乏 層 はS寄
極 に 達 す る.こ ,図
オ フ 効 果 と い う.し る 式 で あ る.ピ
ャ ネ ル 幅 はSか
時 にD側
向
と い う. 合 の逆
ピ ン チ オ フ点 の 間 の 高 抵 抗 の 空 乏
の た め ピ ン チ オ フ が 生 ず る と,IDは
に 示 す よ う な 飽 和 特 性 を 示 す よ う に な る.こ た が っ て,式(13.4.1)は,ピ
のpn接
らDに
り に 広 が る.
こ の た め ピ ン チ オ フ 点 に 達 し た 電 子 は,Dと
一 定 電 流 とな り
の 電 位V
の た め反 転 層 を作 る有 効 電 圧
る 点 で ゼ ロ に な る.こ の 点 を ピ ン チ オ フ(pinch-off)点
VDを 高 め る と ピ ン チ オ フ 点 はS寄
層 を 通 っ てD電
の 間 のx点
増 加 しな い で の現 象 を ピ ンチ
ン チ オ フ点 ま で に の み 成 立 す
ン チ オ フ 状 態 の 飽 和 領 域 に お け る 相 互 コ ン ダ ク タ ン ス は,gm=
∂ID/∂VGで与 え られ,GとSの る.D側
間 に加 えた 信 号 電 圧 に よ っ てIDは
大 き く変 化 す
の 回路 に負 荷 抵 抗 を接 続 す れ ば電 圧 増 幅 素 子 とな る.
以 上 の よ う に,正 負(バ
イ ポ ール)の
キ ャ リア,特
に 少 数 キ ャ リア の拡 散 が動
作 に 関 与 す る バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ と異 な り,MOSト (モ ノ ポ ー ル)の
ラ ン ジ ス タ は1種
類
多 数 キ ャ リ アの ドリ フ ト伝 導 が 動 作 に 関 与 して い る.GとS間
に酸 化 物 絶 縁 層 が あ る た め に入 力 消 費 電 力 は 極 め て小 さ く,特 性 は真 空 管 と類 似 し て い る.応 答 速 度 はGとSの
間 の電 気 容 量 が 大 き い た め,バ イ ポ ー ラ トラ ンジ
ス タ よ りや や 劣 る. しか し,Siの
基 板 上 に微 小 パ タ ー ン で集 積 で き る こ とや,小 電 力 の 利 点 か ら,
増 幅 素 子,ス イ ッチ ン グ素 子,メ モ リ素 子,IC回 n型 基 板 上 に作 られ るpチ
ャネ ルMOSト
路 な ど に広 く用 い られ る.な お,
ラ ン ジ ス タ は,負 電 圧 電 源 を必 要 とす
る ので ほ とん ど用 い られ な い.
(3) 薄 膜 トラ ン ジ ス タ MOS・FETは
単 結 晶 を 用 い るが,図13.4.6の
板 上 に ア モ ル フ ァスSiやCdS多
ラ ス な ど の絶 縁 板 基
結 晶 の 薄 膜 を形 成 し,そ の 導 電 率 を ゲ ー ト電 圧
で 制 御 す る よ う に した 比 較 的 簡 単 な構 造 のFETを transistor,TFT)と
よ うに,ガ
い う.大 面 積 に多 数 のTFTを
薄 膜 トラ ン ジ ス タ(thin
film
配 列 す る こ とが で き る.主 に
ス イ ッチ ング 素 子 と して 液 晶 デ ィス プ レイ な ど に使 用 され る.応 答 速 度 は や や遅 く1∼20μsで
あ る.
図13.4.6
薄 膜 ト ラ ン ジ ス タ(TFT)
図13.4.7
CCDの
構 造 と動 作
(4) 電 荷 結 合 素 子 単 結 晶MOS構
造 に お い て,多 数 の 金 属 ゲ ー ト電 極 を図13.4.7の
よ う に1次 元
あ るい は2次 元 配 列 とす る.そ れ らの 金 属 電 極 は転 送 電 極 といわ れ,3個 接 続 され て い て3相
お きに
φ1,φ2,φ3の 移 相 ク ロ ッ クパ ル ス電 圧 が 印 加 さ れ る.時 刻t1
に お い て1番 電 極 下 のp型Siは
反 転 状 態 に あ り,こ こ に信 号 電 荷 の 電 子 を蓄 え
る. 次 に,t2に
お い て は2番 電 極 下 が1番
よ りポ テ ン シ ャル エ ネル ギ ー の 低 い 反 転
状 態 で あ るか ら,信 号 電 荷 は2番 電 極 下 に移 動 し始 め,t3に お い て全 信 号 電 荷 が2 番 電 極 下 に移 動 す る.こ の過 程 が 繰 り返 され て信 号 電 荷 が転 送 され る.こ の よ う な転 送 素 子 を電 荷 結 合 素 子(charge
coupled device,CCD)と
い う.pnホ
トダ イ
オ ー ド画 素 に 画 像 光 を照 射 し,生 成 さ れ た 信 号 電 荷 の電 子 を1番 電 極 下 に 取 り込 ん で,TV走
13.5
査速 度 で 転 送 す る撮 像 素 子 が 撮 像 カ メ ラ に利 用 され る.
光 導 電 と光 導 電 素 子
(1) 光 導 電 あ る種 の半 導体 に 光 を照 射 す る と導 電 率 が著 し く増 大 し,電 流 も増 大 す る.こ の 現 象 を光 導 電(光 伝 導 と も書 か れ る,photoconduction)と
い う.電 流 の増 分 を
光 電 流(photocurrent)と う.光
い い,そ
導 電 体 と い わ れ る 材 料 は,暗
た 格 子 欠 陥 も 多 い.こ の ほ か,少
の よ う な 半 導 体 で は,一
以 下,n型
般 に 多数 キ ャ リア数 が 少 な い こ と
数 キ ャ リ ア が 捕 獲 さ れ る こ と が 多 い.電
ど ち ら か の キ ャ リ ア 数,あ
る い は 移 動 度 の 大 小 に よ っ てn型
リ コ ン の よ う な 半 導 体 と は 異 な り,n型,p型 光 導 電 体 を 考 え る.図13.5.1の
ル ギ ー の 光 子 が 単 位 面 積,単
い
中 で は 非 常 に 高 抵 抗 で あ り絶 縁 体 に 近 い.ま
数 キ ャ リ ア の 移 動 度 が 多 数 キ ャ リア よ り小 さ い.ま
位 が 存 在 し て お り,少
とな る.シ
の 半 導 体 を光 導 電 体(photoconductor)と
た,多
数の捕獲準
子 あ るい は正 孔 の あ る い はp型
半導体
の 制 御 が 困 難 で あ る.
よ う に,バ
ン ドギ ャ ップ 以 上 の エ ネ
位 時間当 た
りf〔1/cm2・s〕 個 入 射 す る と,単 位 体 積 当 た りηf個 の 電 子 と正 孔 が 生 成 さ れ る.η は 生 成 の 量 子 効 率 で,波 簡 単 化 の た め,以
長 に 依 存 す る.
下 で は η=1と
正 孔 は 直 ち に トラ ッ プ さ れ,電 リア と な る.こ
す る.
子が キ ャ
の 電 子 を 光 電 子(photo 図13.5.1
electron,photocarrier)と
光
導
電
い う.光 照 射 で
光 電 子 密 度 が 暗 中 の η か らΔnだ け増 加 し,電 界 を 印加 す れ ば光 電 流 が 流 れ る. Δn >nで あ って,光 電 流 は ほ と ん どΔnで 決 ま る.光 電 子 の増 加 速 度 は,
(13.5.1) と表 さ れ る.右 辺 の 第1項
は発 生速 度,第2項
は消 滅 速 度 を表 す.τ は光 電 子 の寿
命 で,そ の時 間 後 にΔnの 電 子 が 正 孔 との 再 結 合 に よ り消 滅 す る こ とを意 味 す る. 定 常 状 態 で は左 辺 は ゼ ロで あ るか ら,
(13.5.2) で あ る.こ の 式 は キ ャ リアの 発 生 速 度(入
射 光 強 度)と
寿 命 で定 常 キ ャ リア数 が
決 ま る こ と を示 す 重 要 な 関 係 式 で あ る.電 界 を 印加 した と きの定 常 光 電 流 は,
(13.5.3)
と 表 さ れ る.υ
は 光 電 子 の ド リ フ ト速 度,μdは
Lは 電 極 間 距 離,Exは
電 界 で,Lの
ド リ フ ト移 動 度,Vは
間 で 一 定 と仮 定 し て い る.光
印 加 電 圧,
電 流 は μdτ積 に
比 例 す る. キ ャ リ ア で あ る 電 子 の 電 極 間 走 行 時 間(transit
time)tTは,
(13.5.4) で 与 え ら れ る の で,式(13.5.3)は
次 の よ う に 表 さ れ る.
(13.5.5) Gを 光 導 電 利 得(gain)と
い う.fLは
単 位 時 間 当 た りの 全 入 射 光 子 数 で あ る
か ら,左 辺 は入 射 光 子 当 た りの 光 電 子 数 を表 し て い る.τ が 大 き くて,ま (13.5.4)か G>1と
らLを
小 さ く,Vを
た式
大 き くす れ ば,τ >tTの 条 件 は容 易 に 満 た され て
な る.す な わ ち,キ ャ リア 発 生 効 率(量 子 効 率)を 上 回 っ て大 き な定 常 光
電 流 が 流 れ る こ とに な る.光 電 導体 で は,こ の よ う な こ とが 実 際 に起 こ る. 入 射 光 子 数 よ り も発 生 す る光 電 子 数 が 多 い こ と は,通 常 の光 波 長 で は あ り得 な い の で,こ の 現 象 は,ト が2次
ラ ップ され た 正 孔 電 荷 を 中 和 す る た め に,電 極 か ら電 子
的 に流 入 す る た め と考 え られ る.こ れ を2次 光 電 流 とい う.こ の よ うな状
況 は,バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ をエ ミッ タ接 地 す る と きの 電 流 増 幅 機 構 と似 て い る.電 極 を阻 止 型 電 極 とす れ ば,2次
光 電 流 の流 入 は阻 止 さ れ て,発 生 した 光 電
子 の み が流 れ る.τ はtTで 制 限 さ れ てG<1と 光 照 射 直 後 の 過 渡 的光 電 子 数 は,式(13.5.1)か
な る が,応 答 速 度 は速 くな る. ら
(13.5.6) の 形 で 増 加 し,ま た,照 射 停 止 後 は
(13.5.7) の 形 で 減 衰 す る.浅 (12.3.6)で
い トラ ッ プ に よ る キ ャ リ ア 捕 獲 と 開 放 が あ る と き は,τ
は式
与 え ら れ る 見 掛 け の 寿 命 τaで 置 き 換 え ら れ,応 答 速 度 は 遅 く な る.定
常 光 照 射 の 場 合 は,ト 定 則 の 式(12.3.8)か
ラ ッ プ の 効 果 に よ り 見 掛 け の 寿 命 が 長 く な っ て も,μ τ積 一 ら分 か る よ う に,ド
リ フ ト移 動 度 が 小 さ く な る の で,定
常
光 電 流 の大 き さ は変 わ らな い.し か し,パ ル ス光 照 射 や光 強 度 が 高 周 波 で 変 調 さ れ た 光 照 射 の場 合 は立 上 が り,立 下 が り,と も に不 十 分 とな るの で 光 電 感 度 が 低 下 す る.
(2) 光 導 電 素 子 (a) 光 導 電 セ ル 簡 便 な 光 検 知 素 子 と して,CdSとCdSeの (photoconductive
混 晶 焼 結 体,そ
の他 の光 導電 セ ル
cell)が あ る.電 極 間 距 離 を小 さ く して2次 光 電 流 を利 用 す る
た め 高 感 度 で あ るが,応 答 速 度 は遅 い. (b) 電 子 写 真 用 感光 体 と撮 像 管 用 光 導 電 体 画 像 情 報 を表 示 す る電 子 写 真 装 置(複
写 機 や レー ザ ビー ム プ リ ンタ)や 撮 像 管
の感 光 体 は,導 電 性 基 板 の 上 に形 成 した 大 面 積 の 光 導 電 性 薄 膜 で あ る.ど ち らの 光 導 電 体 も電 極 は 片側 の み で あ り,キ ャ リア に対 す る電 界 は次 の よ うな 方 法 で 印 加 す る.図13.5.2に
示 す よ う に,電 子 写 真 で は光 導 電 薄膜 の 光 入 射 側 自由 表 面 に
空 気放 電 に よ る イ オ ン を付 着 させ て帯 電 させ る.撮 像 管 で は,裏 側 自 由 表 面 に走 査 電 子 ビー ム で電 子 を付 着 して 帯 電 させ る.基 板 に は,逆 符 号 の電 荷 が誘 起 さ れ る. この 結 果,表 面 と基 板 との 間 の帯 電 電 位 差 に よっ て キ ャ リア を加 速 す る電 界 が
(b) 撮 像 管
(a) 電 子 写 真 図13.5.2
電 界 印加 法
印 加 さ れ る.光 の入 射 に よ っ て表 面 付 近 に発 生 した光 導 電 キ ャ リア が,こ の 電 界 に よ り対 向 面 に 到達 す る と,光 量 に比 例 して帯 電 電 荷 が 放 電 す る.こ の 結 果,画 像 光 情 報 は,表 面 帯 電 電 荷 量 の2次 元 パ タ ー ンに 変換 され て 潜 像 とな る.電 子 写 真 で は,イ オ ン と逆 符 号 に帯 電 した トナ ー(着 色 粉 末)を 付 着 させ て 可 視 像 に現 像 し,ト ナ ー の像 を紙 に転 写 す る.撮 像 管 で は放 電 電 荷 量 に 見 合 う再 帯 電 に要 す る電 子 ビ ー ム 電 流 をTVの に,2次
画 像 信 号 と し て い る.画 像 の 再 現 性 を 良 くす る た め
光 電 流 を阻 止 した 光 導 電 を利 用 す る必 要 が あ り,ま た,材 料 と して は μdτ
積 が大 き くて光 導電 性 が 高 い こ と,帯 電 保 持 性 が 高 い こ とな どが 要 求 され る.電 子 写 真 に は非 晶 質Se-Te,さ tor,OPC),非
晶 質Siな
まざ まな 有 機 光 導 電 材 料(organic
conduc-
どが 用 い られ る.ま た,撮 像 管 用 に は分 光 感 度 特 性 が 視
感 度 特 性 に近 い 多結 晶PbO,非
13.6
photo
晶 質Se-As-Te,そ
の 他 が 用 い られ る.
熱 ・温 度 の 効 果 と 関 連 素 子
(1) 熱 電 効 果 と熱 電 素 子 金 属 あ る い は半 導 体 の両 端 に 温度 差 が 存 在 す る と,両 端 間 に電 位 差 が発 生 す る. これ は ゼ ー ベ ッ ク(Seebeck)効 (thermo-electromotive
force)が
この現 象 の 主 な 原 因 の1つ
は,フ
果 と い わ れ,こ
の電 位 差 に よ っ て熱 起 電 力
発 生 す る.以 下,熱 起 電 力 を単 に電 位 差 で表 す. ェル ミ準 位 の温 度 変 化 に よ る もの で,両 端 の フ
エル ミ準位 の差 が起 電 力 とな る.も う1つ は電 子 密 度 の温 度 変 化 に よ る もの で, 密 度 差 か ら生 ず る拡 散 電 位 に よ って 起 電 力 が 生 ず る. 図13.6.1に 温TLに
お い て,物 質(金 属 また は半 導 体)Aの
一 端 が 高 温TH,他
端が低
保 た れ る と き に生 ず る起 電 力 は, (13.6.1)
で あ る.αA=dVA/dTを
そ の物 質Aの
絶 対 熱 電 能 とい う.こ の起 電 力 は,高 温 部
と低 温 部 の 温 度 差 の み に比 例 し,途 中 の 温 度 勾 配 に は依 存 し な い.普 通 は,ど ち らか の 温 度 を基 準 温 度 に保 つ.こ の起 電 力 を例 え ば,TLを るた め に は,TH側
のAに
金 属 また は半 導体 の 導 線Bを
基 準 温 度 と して測 定 す 接 続 す る必 要 が あ る.B
も また起 電 力 を発 生 す るか ら,TL側
にお
け る起 電 力 は両起 電 力 の差 とな る.す な わ ち,
(13.6.2) で あ る.BはAと
は 異 種 の材 料 で な け れ
ば な ら な い.し た が って,熱 起 電 力 は異 な る2つ の 金 属 の接 触 部,金 属 と半 導 体 の接 触 部,あ
る い は異 な る半 導体 の 接 合
部 な どが 熱 的 非 平 衡 状 態 に置 か れ た とき
図13.6.1
熱起電 力の測定
の起 電 力 と し て測 定 さ れ る.αABをAB 対 の熱 電 能(thermo-electric
power)ま
た はゼ ー ベ ック係 数 とい う.
金 属 で は キ ャ リア の密 度 差 が 小 さ く,フ ェル ミ準 位 の温 度 変 化 に よ る起 電 力 が 支 配 的 とな る.温 度 測 定 に 使 用 さ れ る金 属 の熱 電 対(thermo-couple)は,ABの 適 当 な組 み合 わ せ で 生 ず る電 位 差VABに
よ って,基 準 温 度(普
通 は,0℃
に取 る)
に対 す る高 温 部 あ る い は低 温 部 の 温 度 を 測 定 す る もの で あ る.起 電 力 を大 き くす るた め に,AとBの
フ ェル ミ準 位 の 温 度 変 化 の差 が大 きい もの,あ
互 い に逆 変 化 す る もの が 望 ま しい.JIS規 か つ 大 き い値 を示 すAB材 な お,基 準 温 度 側(例 とBに,さ
格 で は熱 起 電 力 が 温 度 差 に 良 く比 例 し,
料 の 組 み合 わ せ,お よ びVABの
え ば,TL)に
らに 同一 材 料 の 導線Cを
るい は温 度 で
値 が 定 め られ て い る.
お い て電 位 差 の 真 値 を測 定 す るた め に は,A 接 続 して電 位 差 測 定 器 に導 く必 要 が あ る.
半 導体 で は,電 子 密 度 の 温 度 変 化 に よ る熱起 電 力 が 支 配 的 で あ る.n型 半 導 体 に つ い て考 え る.図13.6.2の
よ う に,長 さLの
間 に一 定 の 温 度 勾 配 で 温 度 差 を与 え
る と,ド ナ ー の 熱 励 起 に よ り高 温 側 の 伝 導 電 子 密 度 が大 とな っ て,低 温 側 へ 拡 散 す る電 子 に よ る拡 散 電 流iDが 流 れ,低 温 側 は 負 に帯 電 す る. 一 方,高 温 側 は正 に イ オ ン化 した ドナ ー が 残 され る か ら正 に 帯 電 し,低 温 側 を 基 準 に取 る と,高 温 側 の電 位 は上 昇 して+Vと
な る.こ の た め電 位 差Vに
よる
電 界 に よ り ド リフ ト電 流idも 同 時 に生 ず る.両 者 は互 い に逆 向 きの 電 流 で あ る.
温 度 差ΔTが
小 さ い と して 温 度 が 一 様
で あ る と きの 電 流 の 式 を適 用 し,ま た, 電 界 がLの
間 で 一 定 す る と,
(13.6.3) と 表 さ れ る.平
衡 状 態 で は この 両 者 が釣
り合 う か ら,iD=-id,V=VAと
置 き,ア
図13.6.2
n型 半 導 体 の 熱 起 電 力
イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 式D/μd=kBT/q を 用 い る と,平
衡 状 態 に お け る 電 位 差,
す な わ ち 熱 起 電 力VAは,
(13.6.4) で 表 さ れ る.こ
こ で,
(13.6.5) で あ る.ま
をEFの
た,n型
半 導 体 に お け る キ ャ リア 密 度 を 与 え る 式(12.2.15)
温 度 変 化 を無 視 してTで
と な る の で,式(13.6.5)に
微 分 す る と,
代 入 し,式(13.6.4)か
ら熱 起 電 力 を表 す式
(13.6.6) が得 られ る. p型 半 導 体 で は,高 温側 で価 電 子 帯 電 子 の 熱励 起 に よ り,ア クセ プ タ の負 イ オ ン
化 が 進 み,残
され た 正 孔 が 低 温 側 へ 拡 散
す る.こ の た め高 温 側 の電 位 は,低 温 側 に対 し低 下 す る.熱 起 電 力 は,次 式 で与 え られ る.
(13.6.7) こ の よ う に 熱 起 電 力(電
圧)の
図13.6.3
ら,ホ ー ル 効 果 よ りも簡 便 にn型,p型
の判 定 が で き る.
半 導 体 の 熱 起 電 力 は 金 属 よ り2桁 程 度 大 きい.図13.6.3の Bをp型
の 半 導 体,ABを
+αBC)ΔTと
熱 発電素子
符号 か
結 ぶ 金 属 導 体 をCと
よ うに,Aをn型,
す る と,熱 起 電 力 はVAB=(αCA
な り,大 き な熱 起 電 力 が 発 生 す る の で 熱 発 電 素 子 と して利 用 され る.
次 に,温 度Tに して電 流Iを
お い て,金 属 また は半 導 体ABの
流 す と,ABの
接 触 また は接 合 に電 圧 を印加
境 界 部 で 吸 熱 また は 発 熱 が 起 こ る.吸 熱 また は発 熱 は
電 流 の 向 き に よ る.こ れ はペ ル チ エ(Peltier)効
果 とい わ れ る.吸 熱 ・発 熱 量Q
は,
(13.6.8) で 表 さ れ る.πABは
ペ ル チ エ 係 数 と い わ れ,πAB=αABTの
この 例 と して 図13.6.4の 半 導 体Aの
関 係 が あ る.
よ うに,n型
両 端 に 金 属 導 体Bを
る場 合 を考 え る と,BAとABの
接続 す 接触 が
で きる.電 圧 印 加 に よ っ て左 側 の 金属B か ら半 導 体Aに Bか
流 入 す る1個
ら障 壁 高EC-EFだ
の 電 子 は,
け大 き い エ ネ
ル ギ ー を運 び 出 す の で 冷 却 が起 こ る.そ の電 子 が 右 側 の金 属Bに ネ ル ギ ーEC-EFお
到 達 す る と,エ
よ び半 導体 中で 得
た運 動 エ ネ ル ギ ー を放 出 す る の で発 熱 が
図13.6.4
ペ ル チ エ効 果
起 こる.つま り電 子 に よ る熱 ポ ンプ で あ る.この 現 象 を利 用 してn型
お
よびp型 半 導 体 を用い,図13.6.5の よ う な電 子 冷 却(加 熱)器 が 構 成 さ れ る. 熱 電 効 果 に は,こ ソ ン(Thomson)効
の ほ か トム 果 が あ る.金属
図13.6.5
ペ ル チ エ 効 果 を 用 い た 電 子 冷 却 ・加 熱 素 子
が 半 導体 中 に 一 様 に温 度 勾 配 が あ る と き,電 流Iを 流 す とジ ュ ー ル 熱 発 生 以 外 に,材 料 中 に一 様 に 吸 熱 また は 発 熱 が 起 こ る.あ る い は材 料 の 一 部 分 の み に温 度 差 が あ る場 合,つ
ま り部 分 的 に 温 度
勾 配 が あ る場 合 で も,そ の部 分 の 両 端 で 吸 熱 また は発 熱 が 起 こ る.こ の効 果 で は, 接 合 や 接 触 は関 係 な い.低 温 側 か ら高 温 側 へ電 子 を流 す と,電 子 は熱 エ ネ ル ギ ー を吸 収 しな が ら流 れ,逆 に 高 温 側 か ら流 す と きは,熱
エ ネ ル ギ ー を放 出 しな が ら
流 れ るた め に,こ の現 象 が起 こ る.熱 量 は
(13.6.9) で 表 され る.τ を トム ソ ン係 数 とい う. 熱 電 効 果 の大 きい 半 導 体 材 料 は,Bi2Te3やSb2Te3な
どで あ る.
(2) 感 温 素 子 電 気 抵 抗 が 温 度 に 極 め て 敏 感 に 変 化 す る半 導 体 素 子 にサ ー ミ ス タ(thermistor)が あ る.Fe,Ni,Co,Mnな
ど,遷 移 金 属 元 素 の酸 化 物 混 合 粉 末 を焼 結 した
もの が 多 い.混 合 材 料 に よ っ て抵 抗 値 や 使 用 温 度 範 囲 が 異 な るが,1Ω ∼1MΩ,100∼+700℃
の範 囲 で 適 当 な もの が 選 択 で き る.抵 抗 変 化 は 温 度 に対 し非 直 線 性
が あ る.室 温 付 近 で は 数%/Kの され て い る.ま た,V(バ
抵 抗 変 化 を示 す.温 度 検 出 や 温 度 制 御 に 広 く利 用
ナ ジ ウ ム)酸 化 物 系 で は,あ る温 度 で 抵 抗 が 急 変 す る も
の が あ り,温 度 に よ る ス イ ッチ ン グ素 子 と して 利 用 され る.
14. 電 子 放 出 と 素 子
物 質 内 電 子 が,何 放 出(electron 電界,静
らか の エ ネル ギ ー を与 え られ て物 質 外 に飛 び 出 す 現 象 を電 子
emission)と
い う.与 え るエ ネ ル ギ ー は熱,光,電
子 線,粒 子線,
電 エ ネ ル ギ ー な ど さ ま ざ まで あ る.真 空 管 が エ レ ク トロニ クス 素 子 の主
流 で あ っ た時 代 は,さ ま ざ ま な電 子 放 出材 料 の 物 性 研 究 と開発 が盛 ん に行 わ れ た . 現 在 で は 多 くの 電 子 素 子 は,半 導 体 な ど固 体 で 置 き換 え られ て い る が,な お 半 導 体 で置 き換 え る こ とが で き な い真 空 管 や放 電 管 が あ り,ま た,新
しい真 空 エ レ ク
トロ ニ ク ス デバ イ ス の 開 発 も進 め られ て お り,そ れ ら は な お 電 子 放 出 現 象 に よっ て支 え られ て い る.
14.1
熱 電子放 出
真 空 中 で金 属 あ る い は半 導体 を高 温 に加 熱 す る と電 子 が 放 出 さ れ る.こ の 現 象 を熱 電 子 放 出(thermionic
emission)と
い う.金 属 あ るい は半 導 体 を陰極,適 当
な金 属 を 陽 極 とす る2極 真 空 管 を構 成 して 陽 極 側 を正 電 位 に 保 つ と,こ の 回路 に 電 流 が 流 れ る.適 当 な 正 電 位 を与 え る と放 出 電 子 は,す べ て 陽極 に到 達 して ほ ぼ 一 定 の飽 和 熱 電 子 流 が 流 れ る
.電 子 流 の 大 き さ は,陰 極 温 度 に よ っ て変 化 す る.
この 現 象 は古 くか ら観 測 され,放 thermo-ion
emissionを
出 荷 電 粒 子 は イ オ ン と考 え られ て い た の で,
意 味 す る術 語 とな った .そ の 後,放 出 荷 電 粒 子 は,電 子 で
あ る こ とが 確 認 され た もの の,現 在 で も学 術 英 語 名 はthermionic
emissionで
あ
る. 金 属 あ る い は半 導体 をか な り高 温 に加 熱 す る と,電 子 の フ ェル ミ分 布 形 が 変 化 し,高 い エ ネル ギ ー準 位 を 占 め る確 率 が増 大 す る.真 空 に放 出 され る電 子 の エ ネ ル ギーEは,フ
ェ ル ミエ ネ ル ギ ーEFよ
め る確 率 分 布 式fFDは,E-EF>kBTと
りか な り高 い と考 え て よ い か ら,Eを
占
して ボル ツ マ ン分 布 で近 似 で き る.す な
わ ち,
(14.1.1) 次 に,6.4節
で 述 べ た よ う に,実 空 間 で 単 位 体 積 を 取 る と,運 動 量p空
る電 子 の 状 態 密 度z(p)は,ス 間 に 書 き 換 え る と,p=mυ υを 有 す る 電 子 密 度 は,次
ピ ン の 向 き ま で 数 え て2/h3で で あ る か らz(υ)=2(m/h)3で
間 にお け
あ る.こ れ を 速 度υ 空 あ る.し
た が っ て,速
度
の よ う に 与 え ら れ る.
(14.1.2) この うち外 部 に放 出 し得 る電 子 は,そ か つ,図14.1.1の
の運 動 の 向 きが 表 面 か ら外 部 へ 向 か い,
よ う に,仕 事 関 数qφ の障 壁 を越 えて 真 空 準 位VVAC以
上 のエ ネ
ル ギ ー 準 位 を 占 め て い る もの の み で あ る.す なわ ち, 放 出 の 向 き をx軸
に取 る と,
(14.1.3)
図14.1.1
熱電 子 放 出
を満 足 しな けれ ば な らな い. υ とυ+dυ の間 の 速 度 で 単 位 時 間 に表 面 の 単 位 面 積 の 方 に 運 動 し て 放 出 さ れ る電 子 数 は,n(υ)υxdυ で あ るか ら,外 部 に放 出 され る熱 電 子 の 流 れin(T)は,
次 の よ うに 計 算 され る.
放 出 電 流 と して は-xの
向 き,つ ま り陽 極 か ら電 子放 出 体(陰 極)へ
流 れ るか
ら,熱 電 子 放 出 の飽 和 電 流i(T)は,
(14.1.4) で 表 さ れ る.こ の 式 は リチ ャ ー ドソ ン ・ダ ッ シ ュ マ ン(Richardson-Dushman)の 式 といわ れ る.定 数Aは,表
面 か らの 脱 出 確 率 が 表 面 の状 態 に よ っ て変 わ るの で,
上 記 の値 と差 が あ るの が 普 通 で あ る. い くつ か の 温 度 で 熱 電 子 放 出 電 流i(T)を ッ トし,得
測 定 し てlog(i/T2)と1/Tを
プロ
られ る直 線 の 傾 きか ら,そ の 材 料 の仕 事 関 数 φ[V]が 求 め られ る.こ
の方 法 は リチ ャー ドソ ンプ ロ ッ ト法 と いわ れ,仕 事 関 数 を測 定 す る標 準 的 な 方 法 で あ る. 実 用 的 な 熱 電 子 放 出体,い わ ゆ る 熱 陰 極 と して は仕 事 関 数 φが 小 さ い方 が大 き い 熱 電 子 流 が 得 られ る.高 融 点 金 属W,Moな
どのqφ は,4
この た め これ らの 金 属 を作 る と き にBaやThを
含 浸(混
に 表 面 に形 成 され るそ の 単 原 子 被 膜 層 の効 果 で,qφ 熱 陰 極 が あ る.半 導体 で は同 じ材 料 で も真 性 やp型
.5eV前
後 と大 き い.
入)し,加
熱 した と き
を2 .5eV程
度 に低 下 させ る
よ りn型 の 方 が 仕 事 関 数 が 小
さ い. 広 く使 用 され て い る熱 陰 極 は,BaO・SrO・CaOの
混 晶 粉 末 を 金属 基 板 に塗 布
し た も の で 酸 化 物 陰 極(oxide を 行 う と,金
cathode)と
属 基 板 に よ りBaOが
型 半 導 体 と な る.qφ
い わ れ る.高 温 に 加 熱 す る 活 性 化 処 理
還 元 さ れ,生
は1.0∼1.6eV,放
成 し た 過 剰Baを
ドナ ー とす るn
出 電 流 は1000Kで100mA/cm2前
後 で
あ る.
14.2
光 電 子 放 出
金 属,半
導 体 に 光 を 照 射 す る と き,価
れ た エ ネ ル ギ ー 準 位 が 真 空 準 位EVACよ 象 を光 電 子 放 出(photo‐electron 過 程 は,①
り 高 け れ ば 電 子 の 放 出 が 起 こ る.こ
の現
emission,photo-emission)と
の 過 程 に 分 解 さ れ る.①
状 態 密 度 と 遷 移 確 率 で 決 ま る.② で は,表
が あ る た め に,表
面 か ら脱 出 深 さ(escape
み が 放 出 さ れ る.脱
い う.光 電 子 放 出
励 起 電 子 の 表 面 へ の 移 動,③
は 光 吸 収 で あ る か ら,励
の 過 程 で,励
て 散 乱 さ れ る.③
表面 か
起 に関 わ る結 合
起 電 子 は 欠 陥 や 他 の 電 子 と衝 突 し
面 ポ テ ン シ ャ ル 障 壁 の 高 さ が 関 係 す る.②,③ depth)以
の過 程
内 で 生 成 され た 励 起 電 子 の
出 深 さ は 光 吸 収 深 さ よ り も 小 さ く,金 属 で 数10Å,半
導体 で
程 度 で あ る.
図14.2.1(a),(b)の (threshold
起 さ
光 照 射 に よ る 励 起 電 子 の 生 成,②
ら の 脱 出 の3つ
数100Å
電 子 が 光 子 エ ネ ル ギ ー を 吸 収 し,励
energy)あ
よ う に,放
出 を 起 こ す 最 小 の 光 子 エ ネ ル ギ ーEt=hνt
る い は 長 波 長 端 λtは,金
属 で は,
(14.2.1) 半 導体 で は,
(14.2.2) と表 され,cは
光 速 で あ る.し た が っ て,光 電 子 放 出 の 分 光 特 性 の 長 波 長 端 か ら金
属 で は 仕 事 関 数 φ が,半 導 体 で はEVAC-EVが
測 定 さ れ る.
光 子 エ ネ ル ギ ーhν が 大 き く,hν >hνtな らば放 出 光 電 子 は 図(c)の
よ う に運
動 エ ネ ル ギ ー分 布 を持 っ て い る.そ の 最 大 エ ネ ル ギ ーεmは, (14.2.3)
(a) 金 属
(b) 半 導 体
(c) 放 出 光 電 子 の エ ネル ギー 分 布
図14.2.1
光 電 子 放 出
で あ る.こ の 式 は ア イ ン シ ュ タ イ ンの 光 量 子 仮 説 の 基 本 とな る式 で あ る.エ ネ ル ギ ー 分 布 中 の エ ネ ル ギ ー εは,図 か ら分 か る よ うに
(14.2.4) の 関 係 式 で 与 え られ る.金 属 で はEVをEFに
置 き換 え れ ば 良 い.EBは
励 起前 の
電 子 の エ ネ ル ギ ー で あ る.放 出 電 子 のエ ネ ル ギ ー 分布 は,エ ネ ル ギ ー 分 析 器 で 測 定 され る.し た が っ て,光 電 子 生 成 以 後 の移 動 と脱 出 過 程 で エ ネ ル ギ ー分 布 形 が 大 き く乱 され な け れ ば,価 電 子 帯 や 伝 導帯 の 電 子 エ ネ ル ギ ー状 態 を真 空 準 位EVAC を基 準 に取 っ て調 べ る こ とが で き る.光 子 エ ネ ル ギ ーhν を変 化 す れ ば,よ り多 く の 情 報 が 得 られ る. 近 赤 外 域,可 視 域,近
紫 外 域 の 光 検 出 に用 い られ る光 電 子 放 出 材 料 は,ホ
トカ
ソー ド―光 陰 極― とい わ れ る.可 視 域 付 近 で あ るた め に,EVAC-EVが1.0∼1.8 eVと 小 さ い こ とが必 要 で あ り,ホ トカ ソー ドの 多 くはCSを1つ
の 成 分 とす る特
殊 なp型
属 ・半 金 属 の化
半 導 体 で あ る.代 表 的 材 料 は,金 属 間 化 合 物 半 導体(金
合 物 半 導 体)のCS3Sbの
多 結 晶 薄 膜 で あ る.酸 化 しや す いCSを
の 材 料 は真 空 中 で しか 存 在 し得 な い.さ らに余 分 なCS原 表 面 に吸 着 す る と,CSは
含 む た め,こ れ ら
子 が,こ のp型
半導体 の
極 め て 陽 電 性 の 強 い(電 気 陰 性 度 が 小 さ い)原 子 で あ る
た め に電 子 を放 して正 イ オ ン とな り,放 た れ た電 子 は ア ク セ プ タ に捕 え られ,半 導 体 表 面 付 近 に は 負 の 空 間 電 荷 層 が 形 成 され る.こ の た め に 表面 付 近 の エ ネ ル ギ ー 準 位 は,図14.2.2(a)の
よ う に,弯 曲 してEVACが
下 が る.表 面 障 壁 高 は小 さ
くな る の で,電 子 は放 出 され や す くな る.
(a) 表 面 障 壁 の 低 下 図14.2.2
ま た,あ (b)の
る 種 のp型
(b) NEA型
ホ トカ ソー
p型 半 導 体 ホ トカ ソー ドに お け るCs吸 着 の効 果
単 結 晶 半 導 体 の 清 浄 表 面 にCSが
よ う に伝 導帯 の底Ecよ
electron affinity,NEA)状
ド
吸 着 す る と,EVACは
図
り下 に な る.こ の 状 態 は 負 電 子 親 和 力(negative
態 と いわ れ る.こ の状 態 で は表 面 障 壁 は存 在 しな い の
で,伝 導 帯 に励 起 され た 電 子 の うち,表 面 か ら拡 散 長 以 内 の もの は容 易 に放 出 さ れ る こ と に な る.ま た,長 波 長 端 はhνt=Egと 表 面 にCSを
吸 着 させ て,長 波 長 端1.0μmく
な る.実 際 に単 結 晶GaASの らい まで 高 感 度 を有 す るNEA型
清浄 ホ
トカ ソー ドが 実 用 化 され て い る. 光 検 出 に 用 い る と き,光 電 子 放 出 電 流 は入 射 光 強 度 に 正 比 例 し,応 答 時 間 も 10-10S以 下 と極 め て 速 い優 れ た光 電 変 換 機 能 が あ る.感 度 は可 視 域 白色 光 に対 し て は数10μA/ル
ー メ ン,単 色 光 に対 して は最 大50mA/W程
す る放 出電 子 数 の 比,す
な わ ち量 子 効 率 は 最 大 で0.5程
度,入 射 光 子 数 に対 度 で あ る.
14.3
2次
電 子 放 出
真 空 中 で 数10eVか 衝 撃 す る と,材
ら2keV程
度 の エ ネ ル ギ ー の 電 子(1次
料 か ら 別 の 電 子(2次
放 出(secondary
electron
エ ネ ル ギ ーEpの1次
電 子)が
emission,secondary
電 子 で 衝 撃 し,放
定 す る と,図14.3.1の
よ う に な る.弾
電 子)で
放 出 さ れ る.こ
の 現 象 を2次
emission)と
出2次
材料 を 電子
い う.
電 子 の エ ネ ル ギ ー εの 分 布 を 測
性 反 射 さ れ てEpの
エ ネ ル ギ ー を持 つ電 子
(Ⅰ)の 数 は 極 め て 少 な い.2次
電 子 の 大 多 数(Ⅲ)は,5eV前
っ て い る.ま
間 に 物 質 固 有 の エ ネ ル ギ ー ス ペ ク トル を 示 す 少 数
の2次
た,(Ⅰ)と(Ⅲ)の
電 子(Ⅱ)が
後 の エ ネ ル ギ ー を持
存 在 す る.
図14.3.1
2次 電 子 電 流isと1次
放 出2次 電 子 の エ ネル ギー 分 布
電 子 電 流ipの
比 δ=is/ipと,1次
電 子 エ ネ ル ギ ーEpの
関 係 は,図14.3.2の
よ う な 特 性 と な る.図
50eV前
な り,数100eVで
δ の 最 大 値δm>1が
な る.δ >1は1個
の1次
後 で δ=1と
高 ま る と再 び δ<1と
は 金 属 の 場 合 で,多
く の 材 料 でEpが
現 れ,さ
電 子 に よ っ て1個
が 生 成 さ れ る こ と で あ る.す な わ ち,δ は 電 子 増 倍 率 で あ っ て2次 れ る.1個
の 高 速1次
れ た こ と に な る.半 金 属 で は0.8∼1.5程
電 子 の エ ネ ル ギ ー が,δ 個 の 低 エ ネ ル ギ ー2次 導 体 や 絶 縁 体 薄 膜 で は,δmが10以
ら にEpが
以 上 の2次
電子
電 子 利 得 とい わ 電 子 に分 配 さ
上 に 達 す る も の も あ る が,
度 と 小 さ い.金 属 で は 伝 導 電 子 に よ る2次
電 子の散乱 が多 い
図14.3.2
た め と考 え られ る.Epが
2次 電 子 放 出 比(δ)特 性
大 き い と きに δ<1と な る の は,表 面 か ら深 い 箇 所 で 生
成 され た2次 電 子 が 散 乱 され るた め と考 え られ る. 2次 電 子 放 出 の 機 構 は明 確 で は な い が,次
の よ うに 考 え られ る.大
きな エ ネ ル
ギ ー の1次 電 子 が 入 射 す る と,価 電 子 と内 殻 電 子 の励 起 が 起 こる.ま ず,価 電 子 は1次 電 子 の 運 動 量 の 向 きに加 速 さ れ,格 子 面 に よ るブ ラ ッ グ反 射 を 受 け て入 射 側 に放 出 され る.1個
の 価 電 子 の励 起 に は10eV程
度 の1次 電 子 エ ネ ル ギ ー で足
りる の で,複 数 の2次 電 子 が 放 出 され る.こ れ が 図14.3.1の(Ⅲ)に
示 した 電 子 と
な る. こ の よ うな2次 電 子 生 成 は,表 面 か ら数10∼100Å る.1次
程 度 の領 域 と考 え られ て い
電 子 エ ネル ギー が 高 くな る と,内 殻 電 子,例 え ば,L殻
次 電 子 が生 成 され る.L殻
に残 さ れ た 穴 を他 の外 殻(例
電 子 を励 起 して2
え ば,M殻)電
子 が遷移
して 埋 め る.こ の とき放 出 され る緩 和 エ ネ ル ギ ー を他 の殻 の 電 子 が 吸 収 して,こ れ も2次 電 子 とな る.こ の よ うに,励 起 され た 内 殻 電 子 が 電磁 波 放 出 に よ る緩 和 で な くて,他 の 電 子 を励 起 しな が ら緩 和 す る過 程 は オ ー ジ ェ(Auger)過 わ れ る.図 中 の(Ⅱ)の 放 出 電 子 は,オ
程 とい
ー ジ ェ過 程 に よ る もの で,詳 細 に分 析 す る
と内 殻 電 子 状 態 を反 映 して お り,オ ー ジ ェ元 素 分 析 装 置 と して 利 用 され る. δ>1の2次
電 子 増 倍 作 用 に よ っ て極 微 小 電 流 の増 倍 が で き る.特 に,微 小 な 光
電 流 を増 倍 す る素 子 は,光 電 子 像 倍 管(photo-multiplier 14.3.3の
よ う に,光 電 子 放 出 材 料 か ら の 光 電 子 を1次
tube)と
い わ れ る.図
電 子 と し,ダ イ ノ ー ド
(dynode)と
い わ れ るn段
の2次 電 子 放
出面 で2次 電 子 放 出 を繰 り返 す と,光 電 流 は δn倍 に 増 倍 さ れ る.ダ イ ノ ー ドの 2次 電 子 放 出 材 料 と して は,Cu-Be合 やAg-Mg合
金 を選 択 酸 化 して,表 面 に
酸 化 薄 膜BeOあ た もの,あ CS3Sbな
金
る い はMgOを
形成 し
る い は光 電 子 放 出 材 料 と同 じ
どが 用 い られ る.ダ イ ノー ド段
数n=10,各 度,δ=4程
ダ イ ノー ド間 電 圧100V程 度,増 倍 率410≒106倍 程 度 の
もの が一 般 的 で あ る.光 電 子 増 倍 管 は, 各 種 光 検 出 器 の 中 で最 高 の感 度 を有 し, 感 度 は光 量 に比 例 し,か つ 高速 応 答 す る 図14.3.3
の で光 計 測 に 広 く用 い られ る.
14.4
冷 電 子 放 出(電
光電子増倍 管
界 放 出)
熱 や 光 エ ネ ル ギ ー を与 え ず に起 こ る電 子 放 出 を冷 電 子 放 出(cold とい う.こ れ に は い くつ か の現 象 が あ るが,そ
emission)
の 中 で か な りの 電 流 が 得 られ るの
は,強 電 界 印 加 で起 こ る電 界 放 出(field emission)で
あ る.電 界 放 出 は古 くか ら
知 られ て い た が,最 近 で も新 しい 応 用 分 野 が 開拓 され つ つ あ る.
(1) 外 部 強 電 界 に よ る電 子 放 出 熱 陰 極 あ る い は ホ トカ ソー ドに対 して 陽 極 に与 え る正 電 圧 を高 めて い く と,飽 和 熱 電 子 流 あ るい は光 電 子 流 が電 圧 とと もに少 しず つ 増 大 す る.こ の 効 果 は シ ョ ッ トキ ー 効 果 と い わ れ,鏡 像 力 に よ る もの と して 説 明 され る.図14.4.1の に,電 子 が 放 出 さ れ て 陰極 表 面 か らxの
距 離 に あ る とき,-xの
よう
点 に+電 荷 が 存
在 す る とみ な され る クー ロ ン引 力 が働 い て,電 子 は 陰 極 面 の 方 に 引 か れ る.こ れ が 鏡 像 力 で あ っ て,
(14.4.1) で 与 え ら れ る.こ
の力 に よ る ポ テ ン シ ャ
ル エ ネ ル ギ ー は,x=∞
で の値 を原 点 に
取 る と,
図14.4.1
鏡
像
力
(14.4.2) で あ る. 一 方,外 部 電 界Exを
印 加 した とき に,電 子 を陰 極 か ら引 き離 す 力 の ポ テ ン シ ャ
ル エ ネ ル ギ ー は-qExxで
あ る か ら,電 子 に働 く正 味 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー
は,
(14.4.3) と な る.こ
の 関 数 はx0=q/16π
ε0Exに お い て,次
の 最 小 値 φOを 有 す る.
(14.4.4) し た が っ て,電 界Exを Ф0だ け 小 さ く な り,放 他 方,加
印 加 す る と図14.4.2(a)の
よ う に,仕 事 関 数 はqφ か ら
出 電 流 が 増 加 し て シ ョ ッ トキ ー 効 果 が 生 ず る.
熱 や 光 照 射 を 行 わ ず に,極
出 が 起 こ る こ と が 観 測 さ れ て い る.こ
め て 強 い 外 部 電 界 を印 加 す るだ け で 電 子 放 れ は シ ョ ッ トキ ー 効 果 と は 異 な り,図(b)
の よ う に,強 電 界 に な る と表 面 の ポ テ ン シ ャ ル 障 壁 幅 が 狭 くな り,10nm以 る と,価
下 にな
電 子 の 波 動 関 数 が 障壁 を透 過 して 外 部 に ま で存 在 す る よ う に な る た め と
考 え られ る.こ
の 量 子 力 学 的 トン ネ ル 効 果 に よ る 電 界 放 出 は,特
出(tunnelling
emission)と
い わ れ る.ト
ン ネ ル 放 出 電 流iの
フ ァ ウ ラ ー・ ノ ル トハ イ ム(R.Fowler&L.Nordheim)に
に,ト
ンネル放
電 界Ex依
存 性 は,
よ れ ば,次
の 関係 式
で 表 さ れ る.
(14.4.5) こ こ で,Bと
β は 定 数 で あ る.
(a) シ ョ ッ ト キー 効 果
図14.4.2
(b) トン ネ ル 放 出 外 部 強 電 界 の効 果
金 属 で は フ ェル ミ準 位 付 近 の電 子 が トンネ ル す る確 率 が大 き く,図(b)か
ら次
の 関 係 が 成 立 す る. (14.4.6) こ こでxtは
トン ネル 幅 で あ り,10nmと
仮 定 す る と,Exと
して は5×106V/cm
以 上 の 強 電 界 が必 要 で あ る こ とに な る. 実 際 に は,あ る程 度 の面 積 の 陽極 に対 し,先 端 の 曲 率 半 径 が1μm以
下の針状 の
突 起 を陰 極 す る と,陰 極 表 面 の電 気 力 線 密度 が 大 き くな って 強 電 界 が 生 ず るの で, 比 較 的 容 易 に1mA/cm2程
度 の電 界 放 出 電 流 が 生 ず る.針 の先 端 は 大 電 流 密 度 な
の で,高 融 点 金 属 材 料 を用 い る必 要 が あ る.ま た,放 電 しや す い の で 真 空 度 の 条 件 が厳 しい. 走 査 型 トン ネ ル電 子顕 微 鏡(scanning した針 を材 料 の表 面 に 沿 っ て 移 動 さ せ,ト
tunneling microscope,STM)は,近
接
ン ネ ル放 出 電 流 に よ っ て 原 子 的 尺 度 に
近 い精 度 で 凹 凸 や 物 質 の 分布 状 況 な ど を観 察 す る装 置 で あ る.ま た,図14.4.3は, 大 面 積 放 出 体 とす る た め に 多 数 の 突 起 を平 面 上 に配 列 し,か つ,制 御 ゲ ー トを設
図14.4.3
外 部 強 電 界冷 陰 極 ア レ イ
けた 冷 陰 極2次
元 ア レイ で あ る.陰 極 材
料 はW,Mo,Si,ダ
イ ア モ ン ドな どで あ
る.
(2) 内 部 強 電 界 に よ る電 子 放 出 金 属(MA)―
絶 縁 層(I)― 金 属 層(MB)
の3層 薄 膜 構 造,あ
る い は 金 属― 半 導 体
pn接 合― 金 属 層 の 構 造 で,IとMBは さ10nm前
厚
後 の 超 薄 膜 とす る.図14.4.4
の よ うに,電 圧 を 印加 し て絶 縁 層 内 電 界 が106V/cm以
図14.4.4
内部強電 界冷陰極
上 に 達 す る と,金 属MA
か ら絶 縁 層 の 伝 導 帯 ヘ トン ネ ル効 果 に よ り電 子 が 注 入 され る.こ の 電 子 は絶 縁 層 中 で 加 速 され,こ
の うち 金 属Bの
仕 事 関 数qφ を越 え る エ ネ ル ギ ー を有 す る もの
が 外 部 に放 出 され る.絶 縁 体 中 で ア バ ラ ン シ増 倍 さ れ て 放 出 す る可 能 性 もあ る. 外 部 強 電 界 放 出 よ り も広 い 放 出面 積 が得 られ や す く,ま た 真 空 度 の 条 件 が緩 和 さ れ る.し か し,強 電 界 の た め絶 縁 破 壊 を起 こ しや す い の で 対 策 が 必 要 とな る.絶 縁 層Iの 材 料 と して はAl2O3,SiO2,Si-pn接 層MBと
して はAuな
どが使 用 され る.
合,高 分 子 単 分 子 層 な ど,ま た金 属
15. 超 電 導 と素 子
オ ンネ ス(K.Onnes)は,Hg(水
銀)を
電 気 抵 抗 が 突 然 ゼ ロ に な る こ と を1911年 conduction)と
極 低 温(4K付
で 冷 却 す る と,
に発 見 した.こ の状 態 を超 電 導(super
い う.超 伝 導 と も書 か れ る.以 降,現 在 まで に単 元 素 金 属,合 金,
化 合 物 な どで 超 電 導 を 示 す 多 数 の物 質 が 見 出 され た.し 列,あ
近)ま
か し,ど の よ うな 原 子 配
る い は電 子 エ ネ ル ギ ー 構 造 の物 質 が 超 電 導 を示 す か とい う基 本 的 な こ とは
い まだ に明 らか で な い. 超 電 導状 態 で は,次 の よ う に極 め て特 異 な現 象 が見 られ る.巨 視 的 現 象 と して, ① 電 気 抵 抗 が ゼ ロ の完 全 導 体 で あ り,永 久(永 続)電
流 を維 持 で き る.② 完 全 反
磁 性 を示 す マ イ ス ナー 効 果 が あ る.ま た,微 視 的現 象 と し て,③ 磁 束 量 子 化 現 象 が生 ず る.④ 電 子 波 の 干 渉 を示 す ジ ョゼ フ ソン効 果 が起 こ る. 超 電 導状 態 を得 るた め に,従 来 は液 体He(4.2K),液
体H2(20K)な
温 冷 却 剤 と,め ん ど う な低 温 技 術 を必 要 とす る難 点 が あ った.こ 年 に約90Kの
どの超 低
れ に対 し,1987
高 温 で 超 電 導 を示 す物 質 が 発 見 さ れ た.こ れ は ほ ぼ無 尽 蔵,安 価,
取 扱 い容 易 な 液体N2(77K)で
冷 却 す る こ とが で き る.そ の後,多
くの 高 温 超 電
導 体 が 開発 され,超 電 導 の研 究 と技 術 は新 しい展 開 期 に 入 っ て い る. 電 気 抵 抗 が ゼ ロで あ る こ とか ら,電 力 面 で は無 損 失 の送 電 線,電 力 トラ ン ス 用 無 損 失 コ イ ル,高 磁 界 発 生 用電 磁 石 コ イ ル,電 気 エ ネ ル ギ ー 貯 蔵 装 置 な ど,マ イ ス ナ ー効 果 か らは,マ ロニ ク ス面 で は,ジ
イ ク ロ 波 キ ャ ビテ ィ,電 磁 シ ール ドな ど,ま た,エ ョゼ フ ソ ン効 果 を利 用 した 高 感 度 磁 束 計,標
レクト
準 電 圧 発 生,コ
ン ピ ュ ー タ 用 高速 応 答 ス イ ッチ ン グ素 子 や メモ リ素 子 な ど,多 彩 な応 用 が 展 開 さ れ て い る.
15.1
超 電導現 象
(1) 超 電 導 電 流 超 電 導 状 態 の 電 気 抵 抗 率 は,現 在 で は10-26Ω ・m程 度 まで 測 定 され て い る とい う こ とで あ る.こ れ は電 気 抵 抗 が ゼ ロ と して 差 し支 え な い 値 で あ り,超 電 導 体 は 完 全 導 体 とい って 良 い.ま た,超 電 導 リン グ に 流 した 電 流 は,電 源 を切 っ て も105 年 以 上 も減 衰 し な い こ とが 実 験 か ら推 定 さ れ て お り,超 電 導 電 流 は 永 久 電 流 (persistent current)と
い っ て 良 い.こ の電 流 は,電 界 が ゼ ロ で流 れ て い るか ら通
常 の電 流 で は な い.電 流 密 度 は106A/cm2も
流 せ る合 金 系 材 料 が 見 い だ され て い
る. 普 通 の 電 気 伝 導 を常 電 導 とい う と,常 電 導 状 態 で は伝 導 電 子 は フ ォ ノ ン,格 子 欠 陥,不 純 物 との衝 突 に よ っ て散 乱 され る.こ の た め伝 導 キ ャ リア の微 視 的 な電 子 波 の 位 相 は無 秩 序 に分 散 して お り,ま た 波 連 の長 さ も短 く,か つ 分 散 して い る. 一 方,超 電 導 状 態 は,衝 突 散 乱 が ほ ぼ ゼ ロの 状 態 で あ る の で,理 想 的 な電 子 波 が 巨 視 的 に存 在 し,す べ ての 超 電 導 キ ャ リアの 電 子 波 間 の位 相 関 係 は一 定 に保 た れ て い る と考 え られ る.す なわ ち,レ ー ザ 光 や 電 波 の よ う に コ ヒー レン トな 波 動 と 考 え て 良 い. な お,超 電 導 キ ャ リア は,後 述 す る よ う に単 独 の 電 子 で は な くて,2個
の電子
が 結 び つ い て い る 電 子 対 とい う特 異 な もの で あ る こ と は ほ ぼ 確 か で あ り,磁 束 量 子 化 現 象 や 超 電 導理 論 も電 子 対 の存 在 を示 し て い る.
(2) 臨界 温 度 超 電 導 体 は 通 常 の 温 度 で は電 気 抵 抗 を有 す る が,冷 却 す る と図15.1.1の
よう
に,あ る温 度 に お い て狭 い温 度 範 囲(超 電 導 金 属 で は約10-3K以
内,高 温 超 電 導
体 で は1∼10K程
然 に超 電 導 状 態
度,不 純 物 や格 子 欠 陥 が 多 い と広 が る)で,突
に変 わ る.こ の温 度 を臨 界 温 度Tcと
い う.こ の 温 度 で 比 熱 も急 激 に変 化 す る の
で,臨 界 温 度 は常 電 導相 か ら超 電 導 相 へ の相 転 移 温 度 と も考 え られ る.逆 に超 電 導 体 を加 熱 す る と,Tcに お いて 突 然 に電 気 抵 抗 が 存 在 す る常 電 導状 態 に変 わ る.
後 述 す る よ う に,超
電 導 キ ャ リア と常
電 導 キ ャ リア に は明 確 な エ ネル ギ ー差 が あ り,超
電 導 キ ャ リ ア の 方 が 低 い.伝
キ ャ リ ア 当 た りkBTC程 れ る.Tcは
導
度 の差 と見 積 ら
単 金 属 のAl,Znな
ど で1K
前 後,Pbで7.19K,Nbで9.23K,Nb 3Snな
ど,Nbを
含 む 合 金 で20K前
あ る.YBa2Cu3O7-xな むCuの
ど,酸
後 で
素欠 陥を含
酸化物 セ ラ ミックスや 単結晶 で
は90∼125Kで
あ り,特
図15.1.1
超 電 導 体 に お け る電 気 抵 抗 の 温度依存性
に高 温 超 電 導 体
と い わ れ る.
(3) 臨 界 磁 界 超 電 導 状 態 で 磁 界 を印 加 す る と,あ る磁 界 ま で は磁 界 の 向 き と逆 向 きの 磁 化 (磁 気 モ ー メ ン ト),す な わ ち反 磁 性 が 誘 起 され る.超 電 導 物 質 に よ っ て 図15.1.2 の よ うな2種 類 の 磁 化 特 性 が 示 され る.図(a)で は外 部 磁 界 に比 例 し,あ る磁 界Hcで 常 電 導 状 態 に な る.Hcを 電 導 体 とい い,多
は,反 磁 性 の 磁 気 モ ー メ ン トM
突 然 に ゼ ロ と な り,同 時 に超 電 導 は消 失 して
臨 界 磁 界 とい う.こ の よ うな 特 性 を 示 す もの を第1種 超
くの単 金 属 超 電 導 体 は これ に属 す る.図(b)で
は,外 部 磁 界 が
Hc1に な る と,超 電 導 の 破 れ た 領 域 が 糸状 の形 で 混 入 し始 め る.こ れ は 渦 糸 状 態 と い わ れ る.磁 界 と と も に渦 糸状 態 が 増 加 す るが,Hcを して超 電 導 が 保 た れ,Hc2で
経 由 し てHc2ま
で は全 体 と
完 全 に超 電 導 性 が 失 わ れ る.こ の特 性 を示 す もの を第
2種 超 電 導 体 とい い,合 金 や 酸 化 物 高温 超 電 導 体 は これ に属 す る.比 較 的 強 い磁 界Hc2ま
で超 電 導状 態 が保 た れ る の で超 電 導 電 線 や コイ ル に は,主
に第2種
の合
金 線 が使 わ れ る. 不 純 物 や 格 子 欠 陥 を導 入 す る と,Hc2が 高 くな る.こ れ は 渦 糸 の ピ ン止 め と いわ れ る.臨 界 磁 界 を臨 界 磁 束 密 度Bcで す なわ ち100∼1000G(ガ
表 す と,Bc=μ0Hcは10-2∼10-1T(テ
ス ラ),
ウス)程 度 で あ る.な お,こ れ らのHcは,図15.1.3の
(a) 第1種.
(b) 第2種 図15.1.2
超 電 導 体 の 磁 化 の 印 加 磁 界 に よ る変 化
よ う に温 度 依 存 性 が あ る. この よ うに 臨 界磁 界 が 存 在 す るの は,磁 界 を印 加 した と きの キ ャ リア集 団 の 内 部 エ ネ ル ギ ー の 増加 分 が,超 電 導状 態 と常 電 導状 態 の キ ャ リアの エ ネ ル ギ ー 差 に 達 した と きに起 こ るた め と考 え られ る.
図15.1.3
臨 界温 度TCの
磁 界依 存 性
図15.1.4
超 電 導 領 域
さ らに,超 電 導 体 に超 電 導 電 流 が 流 れ る と きは,そ れ に よ っ て発 生 す る磁 界 が Hcを超 え る と超 電 導 が 破 壊 され る.こ の と きの 電 流 を臨 界 電 流Icと ば,半 径rの
長 い 超 電 導電 線 で はIc=2πrHcで
以 上 を ま とめ る と,超 電 導 状 態 は図15.1.4の
い う.例 え
あ る. よ う にTc,Hc,Icで
囲 まれ た領 域
内 に 存 在 す る.
(4) マ イ ス ナ ー効 果 物 質 に磁 界 を 印加 す る と,物 質 内部 に侵 入 した磁 束 に よ っ て 原 子 内 で 軌 道 運 動 を して い る電 子 に ロー レ ンツ力 が働 き,運 動 の 向 きが 曲 げ られ る.こ の た め 各 軌 道 電 子 に は,磁 束 に垂 直 な平 面 内 で歳 差 運 動 とい わ れ る新 た な 首 振 り回転 運 動 が 生 じ る.こ の 回 転 運 動 の 向 き は,す べ て の 軌 道 運 動 電 子 に つ い て 同 じで あ り,す べ て の 原 子 は 印 加 磁 界 と逆 向 きの 磁 気 モ ー メ ン トを発 生 す る.こ の よ うに 印加 磁 界 と逆 向 き に誘 起 され る磁 性 が 前 述 した反 磁 性 で あ り,す べ て の物 質 で 起 こ る現 象 で あ るが,磁 化 は一 般 に非 常 に小 さ く,超 電 導 体 で も常 電 導 状 態 で は 当然 この 非 常 に小 さ い反 磁 性 を示 す.し か し,超 電 導 状 態 で は非 常 に 大 き な 反磁 性 が 現 れ る. さ て,超 電 導 体 の超 電 導 状 態 で磁 界Hを 磁 束 密 度B=μH=0で
あ る こ とが,1933年
印 加 した 場 合,超 電 導 体 内部 で は常 に マ イ ス ナ ー(W.Meissner)お
よび
オ ク セ ン フ ェル ト(R.Ochsenfeld)に
よ っ て 見 い だ され た.こ の 現 象 を マ イ ス ナ
ー 効 果 とい う.磁 気 モ ー メ ン トをMと
す る と,こ の効 果 か らはB=μ0H+M=0
で あ るか ら,超 電 導 体 の磁 化 は
(15.1.1) で な けれ ば な らな い.つ
ま り超 電 導 状 態 で は,磁 界 を印 加 す る と前 項 で 述 べ た よ
うな磁 化 特 性 を生 ず るが,そ
の磁 気 モ ー メ ン トの大 き さ は,印 加 磁 界 を 完 全 に反
発 す る大 き さで あ る.こ の事 実 か ら,超 電 導 体 は 巨視 的 に は あ た か も完全 反 磁 性 体 で あ る よ う に振 る舞 う とい う こ とが で き る. 印 加 磁 界 の磁 束 は 図15.1.5の
よ う に,超 電 導 体 内部 に 侵 入 しな いで 超 電 導体 の
外 側 を通 る.超 電 導 体 原 子 に よ る物 質 的 な反 磁 性 は極 め て 小 さ い か ら,こ の反 発
磁 界 は,印 加 磁 界 に よ っ て誘 導 され た 環 状 の超 電 導 電 流 に よっ て 生 ず る もの と考 え ざ る を 得 な い.し か も 内 部 で はB=0 で あ るか ら,こ の電 流 は表 面 の み を流 れ る環 状 電 流 で な けれ ば な ら な い.す
なわ
ち反 発 磁 界 は,こ の表 面 環 状 電 流 で 発 生 す る もの で あ る.こ の超 電 導 電 流 は 反 磁 図15.1.5
性 電 流 とい わ れ る.マ イ ス ナー 効 果 は超 伝 導 状 態 を特 徴 づ け,さ
超電 導 体 周 辺 の 磁 束 (マ イ スナ ー効 果)
ま ざ ま な超 電 導
現 象 に 関 わ る重 要 な現 象 で あ る.超 電 導 体 が磁 界 中 で 浮 上 す る現 象 もマ イ ス ナ ー 効 果 に よ る反 発磁 界 で 起 こ る. 超 電 導 体 を単 に完 全 導 体 で あ る とす る と,マ ク ス ウ エ ル の電 磁 方 程 式 か らは マ イ スナ ー効 果 は 説 明 され な い.つ くな い か ら,7章,11章 も し電 界Eが
ま り,超 電 導状 態 で は キ ャ リア の 衝 突 散 乱 は 全
で述 べ た よ うな 衝 突 時 間 τcは∞ で あ る. した が っ て,
存 在 す る とす る と,電 荷qs,質
量mの
超 電 導 キ ャ リア の 加 速 度 は,
次 の 式 で 表 さ れ る よ う に増 大 す るの み とな る.
(15.1.1) キ ャ リア密 度 をnと
す る と,電 流 はi=qsnυ
で 表 され る か ら (15.1.2)
で あ る.こ
こ で マ ク ス ウ エ ル の 式,rotE=-dB/dtを
使 う と,
(15.1.3) と な る.同
じ く,rotB=μ0iを
と な る.rot rot=grad div-〓2の に よ りdivB=0,divdB/dt=0で
使 う と,μ0di/dt=rotdB/dtで
一 般 的 関 係 に お い て,い あ る か ら,rot
rot=-〓2で
あ る.こ
ま の 場 合 は,磁
れ か ら
あ る.し
束 保 存 則 た が っ て,
(15.1.4) が 得 ら れ る.こ で あ る.し
れ は,マ
か し,こ
ク ス ウ エ ル の 式 か ら導 か れ た超 電 導 体 中 の磁 束 を表 す 式
の 方 程 式 はB=一
定 値 と い う 特 解 が あ る か ら,常
にB=0で
あ る マ イ ス ナ ー 効 果 を 説 明 す る こ と が で き な い. こ れ に 対 し,ロ
ン ド ン 兄 弟(F&H.London)は,次
の 式 を仮 定 し た.
(15.1.5) こ の 式 は 式(15.1.3)でdi/dt→i,dB/dt→Bと ン 方 程 式 と い わ れ る.こ dB /dt→Bと
置 き 換 え た 形 式 を 有 し,ロ
の 式 を 前 と 同 様 に し て 変 形 す る と,式(15
ン ド
.1.4)で
置 き換 え た形 の
(15.1.6) が得 られ る.こ の 方 程 式 は,B=0の
特 解 が あ る形 で あ るか らマ イ ス ナー 効 果 を説
明 で き る.こ れ を解 く と,超 電 導 体 内 の磁 束 密 度 分 布 と して (15.1.7) が 得 ら れ る.ま
た,式(15.1.5)のrotを
取 り,同
様 に し て電 流 分 布
(15.1.8) が 得 られ る(図15.1.6).B0,i0は お け る値,xは
表面 に
深 さで あ る.λLはロ ン ド
ンの 磁 界 侵 入 深 さ と い わ れ,単 金 属 で は 10-6cmの
程 度 で 極 め て浅 い.す な わ ち,
磁 界 は超 電 導 体 に 全 く侵 入 しな い の で は な く,極
く表 面 付 近 に は侵 入 して磁 束 が
存 在 す る が,内 部 の大 部 分 で は特 解 の よ う にB=0に
な る.電 流 に つ い て も同様
図15.1.6
超電導体 表面付近におけ る 磁 束(ま た は電 流)の 侵 入
にi=0で
あ る.な お,ロ ン ド ン 方 程 式(15.1.5)は
い る と,B=rotAで
ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル.Aを
用
あ る か ら,
(15.1.9) と も書 か れ る.こ れ は表 面 環 電 流(反 磁 性 電 流)が,磁
界 のベ ク トル ポ テ ン シ ャ
ル の み に比 例 す る電 流 で あ る こ とを示 す.言 い換 え る と,こ の 電 流 は磁 界 に よ る ロー レ ン ツ力 の み に よ っ て生 じた もの で あ る.電 流 の 値 は 印加 磁 界 を 完 全 に打 ち 消 す 逆 向 き磁 界 を生 み だ す大 き さで あ る.こ れ も超 電 導 電 流 で あ る か ら,磁 界 を 取 り除 い て も永 久電 流 と して 持 続 す る.た だ し,こ の 環 電 流 は外 部 に 取 り出 す こ と はで きな い. な お,i=qsnυ
と置 く と,式(15.1.9)か
ら超 電 導 キ ャ リア の 運 動 量 は, (15.1.10)
とな る.こ の 式 は磁 界 の みが 働 くと き の荷 電 粒 子 の 運 動 量 を表 す 式,p=-qAと 同 じ形 で あ る. この よ う に して ロ ン ドンが 提 唱 した仮 定 の 式 は,マ イ ス ナ ー 効 果 を良 く説 明 し た.そ
して 後 に,BCS理
論 に よ っ て 理 論 的 に導 か れ,そ の 正 当性 が 証 明 され る こ
とに な る. この よ う に超 電 導 体 内 部 で は磁 束 密 度 が ゼ ロ で,表 面 の み に超 電 導 環 電 流 が 存 在 す る状 態 はマ イス ナ ー 状 態 とい わ れ る.普 通 は,地 磁 気 そ の他 の 浮 遊 磁 気 が 存 在 す るか ら,完 全 磁 気 遮 蔽 を行 わ な い限 り,表 面 環 電 流 の 大 き さの 差 は あ っ て も 超 電 導 状 態 に あ る超 電 導 体 は マ イ ス ナー 状 態 に あ る.ま た,外 部 磁 界 を 印 加 しな い で超 電 導 電 流 を流 し込 ん だ と き は,そ の電 流 に よ って 発 生 した 磁 界 が超 電 導 体 に働 き,こ の磁 界 を打 ち消 す よ う に反 磁 性 環 状 表 面 電 流 が 流 れ て 内 部 の磁 束 が 常 に ゼ ロ に な る よ うに 調 節 さ れ る.す なわ ち,こ の と き も超 電 導体 は マ イ ス ナ ー状 態 と な り,流 し込 ん だ 超 電 導電 流 は表 面 の み を流 れ る. マ イ ス ナ ー効 果 の た め に,超 電 導 電 線 の直 径 は2λLよ りや や 大 きい 程 度 で 良 い. 大 電 流 を流 す電 線 は,臨 界 電 流 の 制 限 か ら多 数 の細 い 電 線 を束 ね て作 られ る.超 電 導 線 を ル ー プ に す れ ば,外 部 か ら流 し込 ん だ電 流 は損 失 が な い か ら持 続 す る永
久 電 流 と して貯 蔵 で き,反 磁 性 電 流 とは 異 な り,再 び 外 部 に取 り出 し て仕 事 を さ せ る こ とが で き る.ひ
と口 に 永 久 電 流 とい っ て も反 磁 性 電 流 と,い わ ゆ る超 電 導
電 流 とが あ るわ けで あ る.
(5) 磁 束 の 量 子 化 外 部 磁 束 で 誘 導 さ れ た 環状 反 磁 性 電 流 に よ る磁 束 は,以 下 の よ う に重 要 な 性 質 を有 す る.内 径rの
超 電 導 リン グ,な い し中 空 円筒 を考 え る.こ れ に磁 界 を印 加
す る と,図15.1.7の
よ うに,環 状 反 磁 性 流 に よ る磁 束 お よ び印 加 磁 束 の 和 の 全 磁
束 φ が リン グ内 側 の空 間 を貫 く.こ の と きの誘 導 超 電 導電 流 は,リ ング の 内 側 の 表 面 のr+λL域
の み を流 れ,そ の 大 き さ は Φ に よっ て 決 ま り,超 電 導体 内 部 の磁
束 密 度 をゼ ロ に して い る.印 加 磁 界 を取 り除 い て も内 部 の磁 束 が ゼ ロ とな る よ う に誘 導電 流 が 変 化 す る.そ の と きの誘 導 磁 束 は,や
図15.1.7
は り リ ング 内 側 空 間 を貫 く.
超電 導 リ ン グに よ る磁 束 と印 加 磁 束 (全 磁 束 の 量子 化)
全 磁 束 φ は ス トーク ス の 定 理 に よ り,φ=∫BdS=〓Adlで ン グ 内 の 面 積 素 片,dlは
表 さ れ る .dSは
円 軌 道 上 の 長 さ 素 片 で あ る .式(15.1.10)を
リ
用 い る と,
(15.1.11)
と表 され る.一 般 に,kdx=2πdx/λ た が っ て,い
まの場合,〓kdlは
は位 置 変 化 に よ る波 の位 相 の 変 化 を 表 す.し 円軌道 を1周
した と き の 位 相 の 変 化 量Δ θ を表
す. 超 電 導電 流 は巨 視 的 電 流 で あ るが,そ
の キ ャ リア は理 想 的 電 子 波 動 を有 す る と
考 え られ る.超 電 導 で は キ ャ リア は散 乱 さ れ な い か ら,す べ て の キ ャ リア の 波 動 の 位 相 関 係 は,円 軌 道 を何 周 して も不 変 で あ る.し た が っ て, (15.1.12) で な け れ ば な ら な い.nは
整 数 で あ る.こ
れか ら
とな る.す な わ ち,環 状 超 電 導 電 流 に よ る リン グ 内側 空 間 の全 磁 束 は量 子 化 され て い る.磁 束 の 測 定 結 果 か ら,電 子 の 電 荷 を−qと
してqs=−2qと
な り,超 電 導
キ ャ リア に は2個 の 電 子 が ひ と ま とめ で 関係 して い る こ とが 示 され る.こ れ か ら (15.1.13) と 表 さ れ る.h/2q=Φ0=2.068×10-15〔Wb〕=2.068×10-7〔Gauss・cm2〕 基 本 単 位 で 磁 束 量 子(フ
15.2
BCS超
ラ ク ソ イ ド,fluxoid)と
現 象 が 発 見 さ れ て か ら46年
の 特 性 を ど う解 析 す る か.こ
後,つ
ー パ ー(L.Cooper),シ
が 発 表 した い わ ゆ るBCS理 は,超
い わ れ る.
電 導 理 論
超 電 導 現 象 が な ぜ 起 こ る か,そ
(J.Bardeen),ク
は磁 束 の
ま り 約 半 世 紀 も 経 た1957年
の 難 問題 は超 電 導 に バ ー デ ィー ン
ュ リ ー フ ァ ー(J.Schrieffer)の3名
論 に よ っ て ほ ぼ 解 明 さ れ た と さ れ て い る.こ
の理論
電 導 現 象 が 格 子 振 動 と 関 係 が あ る と い う 考 え に 基 づ い て い る.
一 方,実
験 で は 超 電 導 物 質 の 原 子 を 重 さ の 異 な る 同 位 元 素 で 置 き 換 え る と,そ
の 質 量 に 関 係 し てTcが
変 化 す る と い う 同 位 元 素 効 果 が 見 い だ さ れ て い る.こ
は 超 電 導 が 格 子 振 動 と 関 係 が あ る こ と を 示 唆 し て い る よ う で あ る.
れ
BCS理
論 に よ れ ば超 電 導 キ ャ リア は電 子 対 で あ り,ク ー パ ー 対(Cooper
pair)
とい わ れ る. 完 全 に 自 由 な空 間 で は,2つ
の 電 子 は 反 発 して結 合 す る こ とは な いが,結
晶中
で は1個 の 自 由電 子 が 存 在 す る と,そ の周 囲 の 正 イ オ ン(金 属 で は伝 導 電 子 を放 して い る原 子)を
引 き寄 せ る.こ れ に よ り,電 子 の 周 囲 の 正 電 荷 密 度 が 高 くな り
(周囲 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー が 低 下 し),さ 力 が2電
ら に別 の電 子 を引 き寄 せ る.こ の
子 間 の 反 発 力 を上 回 れ ば 電 子 対 が作 られ る.す な わ ち,正 イ オ ンの 変 位
が 電 子 対 形 成 を媒 介 して い る とい う こ とが で き る.イ オ ンの 変位 に よ っ て 結 晶全 体 の格 子 振 動 が 変 化 す るか ら,格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー を量 子 化 した フ ォノ ン の変 化 分 を媒 介 と して電 子 対 が 作 られ る と も言 い換 え られ る.こ の電 子 対 を超 電 導 キ ャ リア と考 えれ ば,さ ま ざ ま な超 電 導 現 象 が 説 明 さ れ るの で,BCS理 され た.な
論 は 高 く評 価
お,磁 束 量 子 化 の 測 定 か ら2個 の 電 子 が1個 の 超 電 導 キ ャ リア に対 応
す る こ とを確 認 した の は,こ の 理 論 の発 表 の後 で あ る. 以 上 は電 子 対 形 成 の 簡 単 な考 え方 で あ るが,BCS理
論 で は対 の形 成 に は い くつ
か の 条 件 が 必 要 と され る.理 論 は非 常 に 難 解 で あ る.以 下 で は,そ れ を定 性 的 に 述 べ るが,や や 難 しい と思 わ れ れ ば ス キ ップ され た い. まず,通 常 の電 気 抵 抗 を考 え る.電 気 抵 抗 は主 に,格 子 原 子 ・イ オ ン の 変位 で 生 ず る格 子 ポ テ ン シ ャル の 乱 れ に よ っ て伝 導 電 子 が 散 乱 され る こ とか ら生 ず る. 格 子 原 子 の 熱 振 動 に よ る変 位 は,結 晶 全 体 にわ た る振 動 波 を形 成 して い るの で, 電 子 の エ ネ ル ギ ー を吸 収 す る と振 動 波 の 状 態 が 変 化 す る.こ の 過 程 を,振 動 波 の エ ネル ギ ー を量 子 化 し た フ ォ ノ ン と電 子 との 相 互 作 用 と して 表 現 す る と,電 子 が フ ォ ノ ン を放 出 して エ ネ ル ギ ー を失 い, 格 子振 動 波 が そ の フ ォ ノ ン を 吸 収 して振 動 エ ネ ル ギ ー を増 した こ とに な る.
(a) 図15.2.1
図15.2.1(a)は,こ
の 相 互 作 用 を粒 子
(b) 電 子 と フォノンの 相 互 作 用 に よ る 電子の散乱
の 散 乱 過 程 と して 描 い た もの で あ る.hk,hk'は 量,hqは
相 互 作 用 す る前 後 の 電 子 の 運 動
電 子 が 放 出 した フ ォ ノ ンの 運 動 量 で あ る.一 方,電 子 が格 子 振 動 か らフ
ォノ ン を吸 収 す る こ と もあ り得 る.そ の特 殊 な 場 合 と して,電 子 が格 子振 動 か ら -h qを 吸 収 す る と きは,図(b)に な る.図(a),(b)両
示 す よ う に,電 子 の運 動状 況 は 図(a)と
同 じに
過 程 と も運 動 量 お よ び エ ネ ル ギ ー の保 存 則 が 満 足 され て い
る.し た が っ て,電 子 とフ ォノ ン との 相 互 作 用 の 結 果 は,2通
りの過 程 の ど ち ら
に よ って も可 能 と な る. さ て,BCS理
論 で は2個 の 電 子 とフ ォノ ンの 相 互 作 用 過 程 を考 え る.相 互 作 用
前 の2つ の 電 子 の 運 動 量 をhk1,hk2と を放 出 して,第2の 程 は,図15.2.2(a)の
す る.第1の
電 子 が 運 動 量hqの
フ ォノ ン
電 子 が そ の フ ォ ノ ン を直 ち に 吸収 す る とす る.こ の と きの 過 よ うに 表 され る.一 方,前 記 の1電 子 の場 合 に2通
程 で 可 能 で あ っ た よ う に,第2の
電 子 が 逆 向 き の-hqの
りの過
フ ォ ノ ン を放 出 し,第1
の 電 子 が そ の フ ォ ノ ン を吸 収 す る こ と も可能 で あ る.こ の 状 況 は 図(b)の
よ うに
表 され る.
(a)
(b) 図15.2.2
(c)
フ ォ ノ ン の吸 収 ・放 出 を 介 す る 相 互 作 用 に よ る2電 子 散 乱
どち らの 場 合 も,相 互 作 用 前 後 の状 態 は同 じで あ る.つ ま り フ ォノ ンの 仲 介 に よ っ て2個 の 電 子 は あ た か も1つ の粒 子 の よ う に挙 動 す る可 能 性 が あ る.こ れ を 2個 の電 子 の 結 合 状 態 と考 え る.図 か ら も明 らか な よ う に,フ ォ ノ ンが 介 在 して い る に もか か わ らず,2電
子 系 の 運 動 エ ネ ル ギ ー は相 互 作 用 前 後 で変 わ ら な い.
した が っ て,2つ
の 電 子 は結 び付 きな が ら格 子 に エ ネ ル ギー を与 え る こ とな く運
動 す る可 能 性 が あ る.す な わ ち,超 電 導 が 起 こ る可 能 性 が あ る.こ の 相 互 作 用 は 2電 子 系 の1つ の状
態 か ら1つ の<(k1-q),(k2+q)>状
態 への遷移 と
して 取 り扱 わ れ る. BCS理
論 の 詳 しい 計 算 に よれ ば,2個
↑,k2↓ と表 す),か
つ,k1とk2が
の電 子 の ス ピ ン 角 運 動 量 が 逆 平 行(K1
大 き さが 等 し く逆 平行(k2↑=-k1↓)の
と
き に遷 移 確 率 が 最 も高 くな る.さ ら に,相 互 作 用後 の2電 子 系 の 全 エ ネ ル ギ ー は, 相 互 作 用 前 の全 エ ネ ル ギ ー よ り も低 くな る.す な わ ち,結 合 力 が 存 在 す る こ とに な る. 結 局,超 電 導 キ ャ リア とな る電 子 対 は,ス ピ ン逆 平 行 のか ォ ノ ン を介 して結 び 付 い た<(k-q)↑,-(k-q)↓>へ とに な り,図(c)の
らフ
の 遷 移 で 生 ず る とい う こ
よ う に表 され る.こ の対 の 合 成 ス ピ ン角 運 動 量 は ゼ ロ で あ る
か ら,電 子 対 形 成 は フ ェ ル ミ粒 子 が ボ ー ズ粒 子 に凝 縮 す る こ とで あ る. 理 論 で 見 積 られ た 結 合 力 は 弱 く,高 温 で は,結 合 は破 壊 され る の で 超 電 導 は低 温 で の み 実 現 され る こ とに な る.ま た,超 電 導 材 料 に ス ピ ン を有 す る磁 性 イ オ ン が含 まれ る とき は,逆 平 行 ス ピ ンの 条 件 が 乱 され るの で 超 電 導 は起 こ りに くい こ とに な る. 上 記 の 条 件 を満 た して 結 合 した 電 子 対 が ク ーパ ー 対 で あ る.結 合 とい っ て も2 個 の電 子 は 必 ず し も隣 接 す る必 要 は な く,10-4cm程
度 離 れ て い て も相 互 作 用 を
行 っ て対 を作 り得 る と され る.こ の距 離 は コ ヒー レ ン ト距 離 とい わ れ,常 子 間 距 離 よ り1000倍 程 度 も あ る の で,こ
電導電
の電 子 対 は 長 距 離 秩 序 性 が あ る と い え
る. 超 電 導電 流 が 流 れ て い な けれ ば,前 記 の 条 件 か ら対 の 運 動 量 はゼ ロ で あ る.電 流 が 流 れ て い る状 態 で は,一 方 の電 子 の運 動 量 はk+Δk,他
方 の電 子 はk-Δkと
な り,対 の重 心 が 移 動 す る. さ らに,BCS理 ネ ル ギ ーEF付 程 度 で あ る.2つ
論 に よれ ば 実 際 に結 合 す る電 子 は,全 伝 導 電 子 の う ち フ ェル ミ 近 でkBTc幅
に あ る電 子 に 限 ら れ る.こ れ は 全 伝 導 電 子 数 の10-4
の 電 子 の結 合 エ ネ ル ギ ー を2Δ で表 す と,1電
子 当 た りの結 合 エ
ネル ギ ー はΔ で あ る か ら,超 電 導 状 態 は1電 子 当 た りで はEFよ
りΔ だ け エ ネ ル
ギ ー が 低 い状 態 で あ る. また,超 電 導 体 に2Δ の エ ネ ル ギ ー を加 え る と,電 子対 は壊 れ て常 電 導 性が 生 ず る.そ
こで 便 宜 的 に 超 電 導 粒 子(電
子 対)の
エ ネ ル ギ ー 帯 モ デ ル を 描 く と,図
15.2.3の よ うに な る.超 電 導 粒 子 の 状 態 は,普 通 の常 電 導 体 の1電 子 状 態 のEF の 上 下 にΔ だ け押 しや られ た 形 で描 か れ る.基 底 状 態 は電 子 対 が 安 定 に存 在 す る 超 電 導 帯 で あ り,励起 状 態 は励 起 電 子 対− 準 粒 子 とい わ れ る− の状 態 の 帯 で あ り, そ の 間 に2Δ の エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ が 存 在 す る.準 粒 子 は,こ の モ デ ル で は な お 電 子 対 で あ る が,普 通 の エ ネ ル ギ ー 帯 モ デ ル で は,電 子 対 が 壊 れ て で き る2個 の 常 電 導 電 子 を意 味 す る.た だ し,エ ネ ル ギ ー は普 通 の伝 導 電 子 のEFよ
りΔ 以 上 高
い の で,準 粒 子 とい わ れ る.
図15.2.3
な お,Tc以
電 子 対2q
の バ ン ドモ デ ル
下 の 温 度 に お いて も熱 励 起 に よ り,少 数 で は あ るが 準 粒 子 が 準 粒 子
帯 に存 在 して い る.つ ま り少 数 の常 電 導 キ ャ リア がEF付
近 に存 在 す る.従 来 か ら
の 低 温 超 電 導体 に熱,磁 界,光 な どで2Δ 以 上 の 外 部 エ ネ ル ギ ー を与 え る と,電 子 対 は壊 れ て常 電 導状 態 とな る.BCS理
論 に よ れ ば,0Kに
お い て2Δ=3.52kBTcと
計 算 され て い る.エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ2Δ の 存 在 は,赤 外 線 吸 収 そ の他 か ら も実 証 され て い て,金 属 で は2meV前
後 の値 で あ る.
超 電 導 キ ャ リア は,フ
ォ ノ ン を 介 し て作 られ る電 子 対 で あ る とす るBCS理
は,超 電 導 の さ ま ざ ま な性 質 を 説 明 す る こ とに成 功 した.こ
論
の 理 論 は,原 子 内電
子 構 造 まで は 取 り扱 っ て い な い に もか か わ らず,か な りの 成 功 を収 め た こ とか ら, 超 電 導 は原 子 配 列 に 関 係 して い る現 象 と考 え て 良 さ そ うで あ る. 一 方,最
近 発 見 され た 高 温 超 電 導 体 は,い
ば,BCS理
論 に よ るTcは40K程
くつ か の 問 題 を提 起 して い る.例 え
度 が 上 限 と され て い る が,高 温 超 電 導 体 のTc
は それ を は るか に上 回 る,高 温 超 電 導 体 の エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ は ま だ明 確 で な い, 高 温 超 電 導 体 の 多 くは磁 性 イ オ ン を含 ん で い る,キ
ャ リア 密 度 が か な り小 さ い な
どで あ る.し か し,高 温 超 電 導体 で も キ ャ リア が 電 子 対 で あ る こ と は ほぼ 確 か で あ る の で,新 な お,BCS理
しい電 子 対 形 成 機 構 が 模 索 され て い る. 論 で は,2つ
の 電 子 の 結 合 に フ ォ ノ ン粒 子 を介 す る機 構 を考 え た
が,物 理 学 で は一 般 に2つ の粒 子 の 結 合 力 は,第3の る の で唐 突 な 発 想 で は な い.例
粒 子 を介 して 生 ず る と考 え
え ば,ク ー ロ ン引 力 に は光 子 が 介 在 し,原 子 核 内
の 陽子 ・中 性 子 結 合 の 核 力 に は,中 間 子 が介 在 す る とさ れ て い る.
15.3
ジ ョゼ フ ソ ン効 果 と素 子
ジ ョゼ フ ソ ン(B.Josephson)は,2つ
の超 電 導 体 の 間 に,厚
ンネ ル 効 果 を生 ず る く らい の 極 め て薄 い 常 電 導 性 薄 膜(厚
さが 電 子 波 の ト
さ10∼20Å)を
挟ん
だ接 合 構 造 を想 定 す る と,そ れ ぞれ の超 電 導体 に存 在 す る電 子 波 の 干 渉 現 象 が 現 れ るで あ ろ う こ と を,1962年
に理 論 に よ っ て予 見 した.こ れ は,そ の 後 に実 証 さ
れ て ジ ョゼ フ ソ ン効 果 とい わ れ,基 礎 ・応 用 両 面 に わ た っ て重 要 性 が 高 い.そ の 接 合構 造 は ジ ョゼ フ ソ ン接 合(J-J)と
い わ れ る.常 電 導 性 薄 膜 と して は,普 通 は
絶 縁体 薄 膜 が 使 用 され,超 電 導体 で あ る2つ のPbの Pb-PbO-Pb構
(1) dc(直
間 に絶 縁体 のPbOを
挟 んだ
造 が 代 表 的 で あ る.こ の ほ か い くつ か の接 合 構 造 が あ る.
流)ジ
ョゼ フ ソ ン効 果
2つ の 超 電 導体S1,S2,そ
の 間 に挟 ん だ薄 い 絶 縁 層 をI層
に よれ ば,S1,S2中 に そ れ ぞ れ独 立 に きれ い な(コ
とす る.ジ ョゼ フ ソ ン
ヒー レ ン トな)電 子 波 が 存 在
し,双 方 の電 子 波 はI層
を トン ネ ル 効 果 で透 過 して い る.超 電 導電 流 を流 す と き,
電 流 の 大 き さ は双 方 の電 子 波 の位 相 差 θ に 関係 し,
(15.3.1) で 表 さ れ る.こ の 電 流Iを
直 流 ジ ョゼ フ ソ ン電 流,ま たIcを ジ ョゼ フ ソ ン臨 界 電
流 とい う.Icは 接 合 の構 造 と温 度,特
に絶 縁 層 の厚 さ に依 存 して 決 ま る 最 大 電 流
値 で あ る.電 流 が 流 れ る とS1,S2は マ イ ス ナ ー状 態 に な る か ら,図15.3.1の に超 電 導 電 流 は表 面 を流 れ る.電 流 に よ る磁 界 が非 超 電 導 体 で あ るI層 入 す るた め に,ト
よう
にやや侵
ンネ ル 超 電 導 電 流 もや や 内 部 に侵 入 して 流 れ る.こ の た めI層
も超 電 導 状 態 に取 り込 まれ る.
図15.3.1
ジ ョゼ フ ソ ン接 合 の 電 流
図15.3.2
dcジ
ョゼ フ ソ ン 効 果
実 際 に ジ ョゼ フ ソ ン接 合 に電 流 を 流 す と きの特 性 は,図15.3.2の 電 流 値Icま で は電 流 が 増 加 す るが,S1とS2の
間 の 電 位 差 は0で
よ う に な る. あ る.こ
のよう
に,電 位 差 ゼ ロに お い て絶 縁 層 が 存 在 す る に もか か わ らず 直 流 電 流 が 流 れ る現 象 をdcジ
ョゼ フ ソ ン効 果 とい う.こ の効 果 は,超 電 導 体 に は コ ヒー レ ン トな 巨 視 的
電 子 波 が 存 在 す る こ と を示 して い る.次 に,Ic以 に有 限 の 電 位 差Vcが わ ち,Ic以
上 の電 流 を流 そ う とす る と突 然
出 現 し,そ れ 以 上 の電 流 で は電 位 差 は 電 流 に比 例 す る.す な
上 の電 流 に は常 電 導 成 分 が含 まれ て い る.
こ の特 性 は電 子 対 の エ ネ ル ギ ーバ ン ドモ デ ル か ら説 明 され る.図15.3.3(a)に 示 す よ うに,S1,S2間
の 電 位 差 が ゼ ロ の と き は,両 者 の フ ェル ミエ ネ ル ギ ーEFは
一致 し ,電 子 対 の トンネ ル に よ るIcが 流 れ る.Ic以 上 の 電 流 は,温 度Tで
存在す
(a) 図15.3.3
(b) dcジ
(c)
ョゼ フ ソ ン 特 性 に お け る エ ネ ル ギ ー バ ン ド図
るわ ず か の準 粒 子 に よ る常 電 導 電 流 で あ る が,そ れ に よ ってI層 (EFの 差),が 小 さい と き は,図(b)の り得 な い の でIc=0と
に生 ず る電 位 差
よ う に,禁 止 帯 へ の 電 子 対 の トンネ ル は あ
な る.
さ ら に 準 粒 子 流 が 増 加 し て,図(c)の
よ う に両 者 のEFの
差 が2Δ に な った と
き を考 え る と,S2の 電 子 対 がS1の 準粒 子 帯 ヘ トン ネル す る状 態 で あ る の で,突 然 に 大 き な常 電 導電 流 成 分 が 生 じ,I層
に は2Δ/q の 電 位 差 が 発 生 す る.す な わ ち,
Vc =2Δ/q で あ る.こ れ以 上 で は,発 生 電 位 差 は電 流 に比 例 す る よ う に な る.こ の 状 態 か ら電 流 を下 げて2Δ/q 以 下 の 電 位 差 に な る と,準 粒 子 流 は ほ ぼ ゼ ロ とな る の で,図15.3.2の ま た,電
よ うな ヒス テ リシ ス特 性 が 現 れ る.
流 の 方 向 に 直 角,す
なわち接
合 の面 に沿 う方 向 に臨 界 磁 界 以 下 の磁 界 を 印 加 す る と,式(15.3.1)の
臨界電 流
Icは,接
合 を 貫 く全 磁 束 φ に よ っ て 図
15.3.4の
よ う に 変 化 す る.こ
れは
(15.3.2) の よ うに 表 され る.電 流 は一 方 向 だ か ら
図15.3.4
ジ ョゼ フ ソン 最 大 電 流 の 磁 束 依 存 性
絶 対 値 を取 る.全 磁 束 φ が磁 束 量 子 φ0の整 数 倍 ご とにIcは ゼ ロ に な る.こ の 式 の 導 出 は面 倒 で あ るが,印 加 磁 界 を増 加 す るに つ れ て,誘 導 され た 表 面 電 流 に よ る磁 束 がI層 領 域 に 次 第 に深 く侵 入 し,そ の 中 で 磁 束 量 子 ご とに多 数 の 閉 じた 渦 電 流 が 生 ず る た め に 電 流 が 流 れ な くな り,Icに
は図 の よ うな 回 折 パ タ ー ン状 の効
果 が 生 ず る もの と理 解 され る.磁 界 に よ るIcの 変 化 は ピ コ秒 程 度 で起 こ る の で, この 現 象 を利 用 して微 小 磁 界 で 制 御 す る超 高 速 ス イ ッチ ン グ 素 子,演 憶 素 子 な どの 開 発 が進 め られ て い る.ま た,こ
算 素 子,記
の現 象 か ら磁 界 の 計 測 が 原 理 的 に
は可 能 で あ る.た だ し,接 合 面 積 を小 さ く して φ を φ0と同 程 度 にす る 必 要 が あ る. 磁 界 の 精 密 計 測 に は,SQUID(superconducting device,超 電 導 量 子 干 渉 計)と SQUIDと
い わ れ,2つ
接 合J1,J2を
quantum
interference
い わ れ る素 子 が 考 案 さ れ て い る.図15.3.5は,dc
の ジ ョゼ フ ソ ン
並 列 に 結 合 して リ ン グ と し
た も の で あ る. 印 加 磁 界 が な い と き,J1,J2の 位 置 で 生 ず る 位 相 差 を θ1,θ2とす る と,電 (15.3.1)か
流 は式
ら
(15.3.3) で あ る.磁 界 を印 加 す る と,リ ン グ を一 方 向 に回 る誘 導 表 面 電 流 が 生 ず る.こ の 電 流 は リン グ外 に は 流 出 しな い 環 電 流 で あ る が,磁 束 を 量 子 化 し,そ れ に 結 合 し てJ1,J2を れ る.す
な わ ち,電
(15.1.12)と
図15.3.5
超電導 量子干渉計 (SQUID)の
構成
流 れ る接 合 電 流 の 位 相 が 調 整 さ
流 が 一 周 す る と し た と き の 両 電 流 の 位 相 差 θ1−θ2は,式
式(15.1.13)か
ら,
(15.3.4) と な る.J1,J2の
特 性 が そ ろ っ て い てIc1=Ic2=Icと
置 け る と き は,
(15.3.5) と な る.す
な わ ち,J1,J2を
干 渉 効 果 に よ り,Iは 束
リン グ を貫 く全 磁
φ の 関 数 と な り,φ
図15.3.6の
流 れ る電 流 の
よ う に 変 化 す る.そ
測 定 す る こ とが で き る.な て 小 さ い の で,そ
図15.3.6
直 流SQUIDの
電流の磁 束依存性
の増加 と ともに の 周 期 は φ0で あ る か ら,磁
お,Icも
式(15.3.2)の
の 変 化 は 無 視 で き る.こ
程 度 の 微 小 磁 束 密 度 ま で 測 定 で き る.こ
束 を磁 束 量 子 単 位 で
よ う に 変 化 す る が,φ
は極 め
の 干 渉 計 に よ っ て10−13〔T〕=10−17〔G〕
の ほ か,リ
ン グ に1個
被 測 定 直 流 磁 界 に 高 周 波 磁 界 を 重 畳 さ せ て 測 定 す るrf(高
の 接 合 の み を 用 い, 周 波)SQUIDが
あ
る.
(2)
ac(交
流)ジ
印 加 電 圧V=0に
ョゼ フ ソ ン 効 果 お い て,両
波 動 が 存 在 し て い る と す る.こ の と きS1,S2の
側 の 超 電 導 体S1,S2に
そ れ ぞ れ 位 相 ωt,ωt+θ の
こ で,接
印 加 す る 場 合 を 考 え る.こ
合 に 電 圧Vを
フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ーEF1,EF2に
キ ャ リ ア の 波 動 の 間 に は,次
は 差 が 生 ず る の で,双
方 の超 電 導
式 で 与 え ら れ る 振 動 数 差 が 生 じ る.
(15.3.6) 双 方 の 波 動 の 位 相 差 は,次 の よ う に 時 間 変 化 す る.
し た が っ て,
(15.3.7) と な る.θ0はt=0に
お け る 位 相 差 で あ る.こ
の た め,式(15.3.1)の
超電 導電 流
は,
(15.3.8)
とな る.す な わ ち,あ
る直 流 電 圧Vを
印 加 す る と周 波 数
(15.3.9) の超 電 導 振 動 電 流I(ω)が
発 生 す る.こ の よ う に直 流 電 圧 印 加 で交 流 を発 生 す る
現 象 をacジ
ョゼ フ ソ ン 効 果 とい う.1V当
483.6MHzの
高 周 波 電 流 を発 生 す る.dcジ
た り2q/hの
周 波 数,1μV当
た り
ョゼ フ ソ ン効 果 の 特 性 を測 定 す る 際
に も,電 位 差 が ゼ ロで 臨 界 電 流Icが 生 ず る と き を除 い て,電 位 差 が 存 在 す る と き は高 周 波 電 流 が 発 生 して い る の で あ るが,直 流 特 性 の 測 定 で は表 立 って は観 測 さ れ な いだ け で あ る.周 波 数 は6桁 の精 度 で 測 定 で き るの で,発 生 周 波 数 か ら印加 電 圧 を精 密 に 測 定 で き る こ とに な る. 実 際 に は,接 合 部 に外 部 か らマ イ ク ロ波 を照 射 す る と きの 干 渉 現 象 を利 用 す る. 周 波 数fの
マ イ ク ロ波 を照 射 し な が ら印 加 直 流 電 圧Vを
電 流 の 直 流 成 分 に よ っ て,図15.3.7の
変 え て い く と,ビ ー ト
よ うに
(15.3.10) の電 圧 ご とに 階段 状 に接 合 電 流 が 変 化 す る. 現 在,電
圧 の 国 際 標 準 は この 方 法 で決
め られ て い る.ま た,こ
れの逆手法 で高
周 波 検 波 器 が 構 成 され,宇
宙天体が発 す
る微 弱 な 電 磁 波 の 観 測 も行 わ れ て い る. また,キ
ャ リア は 接 合 を 通 過 す る と き
2qV=hω
の エ ネ ル ギ ー を 得 る の で,そ
の一 部 の キ ャ リ ア は式(15.3.9)で
与え
られ る周 波 数 の電 磁 波 を放 射 す る.し か し出 力 は 極 め て 小 さ い の で(10−9W程 度),信 い.
号 発生 器 として は実用 的 では な
図15.3.7
電 磁 波 照 射 時 の ジ ョゼ フ ソン 素 子 の電 圧 電 流 特 性
参 考 文 献(ほ
ぼ章の順)
1.小
出 昭 一 郎:量
子 論(裳
2.朝
永 振 一 郎:量
子 力 学(Ⅰ),(Ⅱ)(み
す ず書 房)
3.仁
田 勇:X線
結 晶 学(上),(下)(丸
善)
4.高
良 和 武,菊
田惺 志:X線
5.新
美 達 也,馬
場 英 夫:半
6.C.Kittel:宇
野,津
華 房)
回 折 技 術(東 導 体 材 料(コ
屋,森
7.H.M.Rosenberg:山
田,山
下,福
京 大 学 出 版 会)
ロ ナ 社)
下 訳,固
地 訳,固
8.青
木 昌 治:応
用 物 性 論(朝
倉 書 店)
9.川
村 肇:固
体 物 理 学(共
立 出 版)
10.田
中 哲 郎:物
性 工 学 の 基 礎(朝
11.有
山正 孝:振
動 ・波 動(裳
12.小
暮 陽 三:統
計 力 学(森
13.日
本 物 理 学 会 編:半
14.塩
谷 繁 雄 ほ か 編 著:光
15.佐
々 木 昭 夫,苗
16.佐
藤 進:液
17.古
川 静 二 郎:半
18.山
口次 郎 ほ か 共 編:半
19.深
海 登 世 司 監 修:半
体 物 理 学 入 門(上),(下)(丸
体 の 物 理(上),(下)(丸
善)
倉 書 店)
華 房) 北 出 版)
導 体 超 格 子 の 物 理 と応 用(培
風 館)
物 性 ハ ン ド ブ ッ ク(朝 倉 書 店)
村 省 平 編 著:液
晶 の 世 界(産
晶 デ ィ ス プ レ イ の す べ て(工
業 図 書)
導 体 デ バ イ ス(コ
ロナ 社)
導 体 工 学(オ
導 体 工 学(東
ー ム 社)
京 電 機 大 学 出 版 局)
20.和
田 正 信 監 修:電
21.川
村 肇 ほ か 共 著:電
子 材 料 ハ ン ドブ ッ ク(朝 倉 書 店)
22.薄
膜 委 員 会 編:薄
23.岸
野 正 剛:超 伝 導 エ レ ク トロニ ク ス の 物 理(丸
24.電
気 学 会 編:ジ
25.応
用 物 理 学 会 編:応
26.国
立 天 文 台 編:理
子 放 射 と半 導 体(産
業 図 書)
膜 工 学 ハ ン ドブ ッ ク(オ ー ム 社) 善)
ョゼ フ ソ ン効 果 《 基 礎 と応 用 》(電 気 学 会) 用 物 理 ハ ン ドブ ッ ク(丸 善)
科 年 表(丸
善)
業 調 査 会)
善)
付 表
原子の電子配置表(1)
原 子の 電子配 置表(2)
索
引 化 学 ポ テ ン シ ャ ル
ア行
角 運 動 量 量 子 化 条 件
ア イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 式
175
ア ク セ プ タ 132 ア バ ラ ン シ ホ トダ イ オ ー ド
212
ア モ ル フ ァ ス
30
拡 散 係 数 拡 散 長
位 相 速 度
24
91
拡 散 電 位
201
拡 散 電 流
175
拡 散 流
94
89
確 率 密 度 関 数
60
移 動 度
87
価 電 子
色 温 度 色 中 心
157 52
価 電 子 帯
71
21 117
間 接 再 結 合
194
間 接 遷 移
148 99,123
ウ イ ー ンの 変 位 則
156
還 元 帯 域
ウ ム ク ラ ッ プ 散 乱
108
完 全 黒 体
151
緩 和 時 間
93
永 久 電 流
11
91
拡 散 方 程 式 イ オ ン結 合
81
248
液 晶 166 エ ッチ ピ ッ ト
55
エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ
117
基 礎 吸 収
146
基 底 状 態
9
軌 道
72
エ ネ ル ギ ー 障 壁 201 エ ネ ル ギ ー 等 分 配 則 79
希 土 類 発 光 逆 格 子 41
円 二 色 性
キ ャ リ ア注 入
162
158 193
キ ャ リ ア の ド リ フ ト移 動 度 オ ー ジ ェ過 程
242
オ ー ミ ッ ク接 触
203
オ プ テ ィ カ ル ギ ャ ッ プ 音 響 光 学 効 果 音 子 100 過 度 伝 導 率 温 度 放 射
166 107
151
146
鏡 映 対 称
32
共 有 結 合
24
禁 止 帯
114
禁 制 帯
114 28
クー パ ー対 165
回 反 対 称 性
32
外 因 性 半 導 体 回 転 対 称 性
吸 収 帯 136
137
金 属 結 合
カ行 カ ー 効 果
吸 収 係 数
185 32
空 乏 層
200
群 速 度
67
257
171
け い 光
157
結 合 エ ネ ル ギ ー 結 合 状 態 密 度 結 晶 基 34
22
結 晶 空 間 群 結 晶 系
磁 気 光 学 効 果
163
磁 気 旋 光 効 果
163
磁 気 複 屈 折 効 果
147
磁 気 量 子 数 34
磁 子
34
17
自然 放 出
144
結 晶 格 子
34
仕 事 関 数
127
結 晶 点 群
32
磁 束 量 子
256
49
質 量 数
結 晶 不 整 原 子 価
21
3
実 効 質 量
原 子 価 結 合
24
164
13
177
実 効 状 態 密 度
188
周 期 的 境 界 条 件 高 温 超 電 導体
249
光 学 活 性
162
光 学 定 数
140
光 子
周 期 律
縮 退 18 シ ュ テ フ ァ ン ・ボ ル ツマ ン の 法 則 主 量 子 数
2
格 子 欠 陥
格 子 振 動 モ ー ド
格 子 比 熱
100
96
35
格 子 熱 伝 導
105
242 238
65
準 結 晶
34 186
少 数 キ ャ リア 寿 命
193
少 数 キ ャ リア 注 入
193
少 数 キ ャ リア の 再 結 合 衝 突 断 面 積
光 導 電 226 黒 体 放 射 152 古 典 電 子 半 径
13,69 巡 回 波
準 粒 子 260 少 数 キ ャ リア
103
格 子 面 36 光 電 子 像 倍 管 光 電 子 放 出
13
シ ュ レー テ ィ ン ガ ー の 波 動 方 程 式
49
格 子 振 動 エ ネ ル ギ ー 格 子 定 数
65
20
衝 突 中 心
88
固 有 振 動 数
97
状 態 密 度 65,74 シ ョ ッ トキ ー 効 果
孤 立 電 子 対
27
シ ョ ッ トキ ー 接 触
混 成 軌 道
5
ジ ョゼ フ ソ ン効 果 サ行
199
真 空 準 位 182
127
真 性 半 導 体
183
サ イ リス タ
219
真 性 フ ェ ル ミ準 位
再 結 合 過 程
194
振 動 子 強 度
再 結 合 中 心
188
144
132 42
水 素 結 合
撮 像 管 用 光 導 電 体 磁 気 カ ー 効 果
164
229
29
裾 状 態 136 ス ピ ン量 子 数
205
261
シ リ コ ン 制 御 整 流 素 子
サ ー ミス タ 234 サ イ ク ロ ト ロ ン共 鳴
最 密 構 造
243
シ ョ ッ トキ ー ダ イ オ ー ド
25
193
89
14,18
220
156
正 孔
179
転 位
ゼ ー ベ ッ ク効 果 ゼ ー マ ン効 果 積 層 欠 陥 接 合
230 162,230
49
電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ 電 界 放 出 243
56
電 荷 結 合 素 子
205
接 触 電 位 差
閃 亜 鉛 鉱 型 構 造
20
電 気 光 学 効 果
43
阻 止 型 接 触
165
電 子 エ ネ ル ギ ー 帯 203
電 子 殻
114
14
電 子 軌 道
タ行
13
電 子 写 真 用 光 導 電 体
ダ イ ア モ ン ド型 構 造 ダ イ オ ー ド 太 陽 電 池
43
電 子 状 態
205
電 子 対
30 186
多 数 キ ャ リア 注 入 脱 出 振 動 数 単 位 格 子
193
195
単 位 胞
34
単 結 晶
30
24
電 子 熱 伝 導
109
3
電 子 比 熱
34
伝 導 帯
108 117
等 極 結 合
単 振 動 子 58 ダ ン グ リ ン グ ボ ン ド
127
257
電 子 対 結 合 電 子 波
24
等 電 子 トラ ップ 発 光 52
導 電 率 172 ドウ ・ブ ロ ー イ 波
蓄 積 層 203 チ ャ ネ ル 222
ドナ ー
超 格 子
130
トム ソ ン効 果
超 電 導
247
直 接 再 結 合 直 接 遷 移
234
132
トラ ッ ピ ン グ過 程
195
58
トラ ン ジ ス タ
215,223
194
ド リ フ ト速 度
91
ド リ フ ト電 流 ド リ フ ト流
ツ ェ ナ ー ダ イ オ ー ド
211
171 91
トン ネ ル 放 出
244
ナ行
62
定 在 波 境 界 条 件
63
流 れ の 連 続 方 程 式
94
102
デ バ イ ・シ ェ ラ ー 法 デ バ イ 振 動 数
3
132
トラ ッ プ 264
147
デ バ イ 温 度
158
ドナ ー ・ア ク セ プ タ ・ペ ア 発 光
超 電 導 量 子 干 渉 計 調 和 振 動 子
229
13
電 子 親 和 力
211
多 数 キ ャ リア
定 在 波
165
電 気 複 屈 折 効 果 19
223
226
電 気 陰 性 度
202
遷 移 10 遷 移 元 素
多 結 晶
52
点 欠 陥
2次 電 子 放 出
40
2重 へ テ ロ構 造
102
デ ュ ロ ン ・プ テ ィの 法 則
105
241 214
158
熱 運 動 速 度 90 熱 起 電 力 230
フ ァ ン ・デ ル ・ワ ー ル ス 結 合
熱 電 子 放 出
235
フ ェル ミ ・エ ネ ル ギ ー
106
フ ェル ミ ・デ ィ ラ ッ ク分 布 関 数 フ ェル ミ粒 子 76
熱 電 対
231
熱 伝 導 の 式 熱 伝 導 方 程 式 熱 伝 導 率
29
ヴ ィー デ マ ン ・フ ラ ン ツ の 法 則
フ ォー ク ト効 果
106
フ ォ ノ ン
106
負 温 度 ノ ンオ ー ミ ッ ク接 触
203
71
3
不 純 物 半 導 体 185 ブ ラ ッ グ の 回 折 条 件
53
バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ
163
159
物 質 波
バ ー ガ ー ズ ベ ク トル
216
81
100
不 確 定 性 原 理
ハ行
111
82
ブ ラ べ 格 子
39
36
パ ウ リの 排 他 原 理
18
プ ラ ンクの黒 体放 射 エ ネル ギ ー分布
薄 膜 トラ ン ジ ス タ
225
154
波 群
67
プ ラ ン ク の 黒 体 放 射 強 度 分 布
155
波 数 波 束
60 67
フ ラ ン ツ ・ケ ル デ ィ シ ュ効 果
165
ブ リュ ア ン ゾ ー ン
発 光 ダ イ オ ー ド 波 動 関 数 波 動 方 程 式 半 金 属
213
60 68
分 布 関 数
118
反 結 合 状 態 反 磁 性
120 198
73
粉 末 法
40
117
251
反 磁 性 電 流 反 転 層
ブ ロ ッホ 関 数 分 散 型 伝 導
99,123
252
222
反 転 対 称
32
反 転 分 布
159
平 均 自 由 行 程
88
平 均 衝 突 時 間
88
平 均 衝 突 寿 命
88
並進 対称 性 32 ペ ル チ ェ 効 果 233
半 導 体 レー ザ 213 バ ン ド間 遷 移 発 光 158
偏 析
バ ン ドギ ャ ッ プ
方 位 量 子 数 13 ボ ー ア の 振 動 数 条 件
光 起 電 圧 光 吸 収
117
44
ボ ー ア 半 径
137
83
非 定 常 流
ボ ー ズ 粒 子
93
103
表 面 準 位 134 ピ ンチ オ フ効 果
ホー ル
163
76
179
ホ ー ル 係 数 224
ホ ー ル効 果 捕 獲 中 心
フ ァラ デ ー 効 果
8
12
ボ ー ズ ・ア イ ン シ ュ タ イ ン 分 布 関 数
光 消 衰 係 数 140 非 晶 質 3σ 比 熱
10
ボ ー ア の 水 素 原 子 構 造 モ デ ル
211
181 180 132
ポ ッ ケ ル ス効 果
165
ホ ッ トエ レ ク トロ ン ホ ッ ピ ン グ伝 導
174
励 起 子
ホ トカ ソ ー ド
197 239
ホ トダ イ オ ー ド
218
ロ ー レ ン ツ カ 251
マ ク ス ウ ェル ・ボ ル ツ マ ン の エ ネ ル ギ ー
acジ
さ 分 布 80 マ ス ク ウ ェ ル ・ボ ル ツ マ ン 分 布 関 数
BCS理
78
CCD
ミ ラ ー 指 数 面 間 隔
37
面 欠 陥
56
面 指 数
37
37
ョゼ フ ソ ン効 果 論
256
ョゼ フ ソ ン効 果
F中 心 MIS構
177
誘 電 緩 和 時 間
造
220
MOS構
造
MOS構
造 の 電 界 効 果
220
MOSト
ラ ン ジ ス タ ホ トカ ソ ー ド
NEA型
誘 導 放 出
144
np積 一 定 則
ラ行
0PC
189
230
40 137
リチ ャ ー ド ソ ン ・ダ ッ シ ュ マ ン 式 129
量 子 統 計
80
臨 界 温 度
248
臨 界 磁 界
249
臨 界 電 流
251
pn結 合 237
SCR
205 220
SQUID
264
VPE法
47
129
X線
回 折 法
α 遮 断 周 波 数 ル ミ ネ セ ン ス
223 223
193
143
量 子 サ イ ズ効 果
262
52
誘 電 分 散
ラ ンバ ー トの 式
266
226
dcジ
ヤ行
253
ア ル フ ァベ ッ ト
分 布 78 マ ス ク ウ ェル ・ボ ル ツ マ ン の速 度 の 大 き
量 子 井 戸
180
ロ ン ドン 方 程 式
マ イ ス ナ ー 効 果
ラ ウ ェ 法
2
冷 電 子 放 出 243 レ ー ザ 160
マ行
有 効 質 量
10
零 点 エ ネ ル ギ ー
210
ホ ト トラ ン ジ ス タ
149
励 起 状 態
38 218
157 μτ積 一 定 則
196
240
<著者紹介> 今 村 舜 仁 学 歴 北海道大学理学部物理学科卒業 理学博士 職 歴 日本放送協会放送技術研究所 千葉大学工学部教授 明星大学理工学部教授 東京電機大学非常勤講師
理工学講座 電 子 物 性 工 学― 基 礎 か らデバ イ スへ― 1996年2月20日
第1版1刷
発行
著
者 今 村 舜 仁
発 行 者 学 校 法人 東 京 電 機 大 学 代 表 者 廣 川 利 男 発行 所 東 京 電 機 大 学 出 版 局 〒101 東京 都 千 代 田 区神 田錦 町2-2 振 替 口座 00160-5-71715 電 話 (03)5280-3433(営 業) (03)5280-3422(編 集) 印刷 三 美印 刷(株) 製本 (株)徳 住 製本 所
〓Imamura
Shunji
Printed in Japan *無 断 で転 載 す る こ とを禁 じ ます。 *落 丁 ・乱 丁本 はお取 替 え いた します 。 ISBN
4-501-31800-7
C3055
R<日本 複 写権 セ ンタ ー委 託 出版 物 ・特 別 扱 い>
1996
物理化学関係図書 理工学講座 改訂 量子 物理学 入門
理工学講座 改訂 物 理学
物質 工学 を学 ぶ 人の た め に 青野 朋 義 監 修 A5判 348頁 理 工系大学の一般教養テキ ス ト 。 内容を全面的に見 直 し徹 底的 に補 足修 正を加えた改訂版。
青野 朋義/木 下 彬/尾 林 見 郎 著 A5判 298頁 理工系大学の基礎課程 で物理学に引き続き,量 子物 理学を学ぶための教科書 として編集 したものである。 物理定数,数 学的補遺 を付録 としてつけ加 えた。
量 子 力 学 演 習
理工学講座 統計 力学演 習
桂 重 俊/井 上 真 共著 A5判 278頁
桂 重俊/井 上 真 共 著 A5 判302頁
本書は,非 相対論理 的量子力学を扱 った演習書の形 式によ り,量 子 力学 の知 識が得 られ る。特に厳選 し た問題 に詳 しい解説 をつけた。
本書は,平 衡系の統 計力学を扱 った演習書の形式に より,統 計力学の知識 が得 られ る。特に厳選 した問 題に詳 しい解説 をつけてある。
理工学講座 量子 力学概論
色彩工学
原子 ス ペ ク トル と分 子 ス ペ ク トル
大 田 登 著 A5判 320頁
理工学 講座
篠原 正 三 著 A5判 114頁 物理の立場か ら物質の勉学をす るには もちろん,化 学の方面か らの研究に も必要な量子力学の基礎知識 を解説。
物質工学講座 高分子 合成化学
学生 ・技術者 ・研 究者 を対象に,色 彩 工学 の基礎 と その発展 をCIE表 色系 を中心にバ ランスよ くまとめ るとともに,産 業 界での応用例 も含め て総合的に集 大成 した。
入門 有機化学
山 下雄 也 監修 A5判 426頁 高分子化学は急速に進歩 し,高 性能 ・高機能 を追求 した新素材が次々 と誕生 した。化学専攻課程 の教科 書 として最新の研究 を盛 り込んで執筆。
佐 野隆 久 著 A5判 296頁 初めて科学を学ぶ 人を対象に,有 機 化学 と有機化合 物の基礎的 事項 に重点をおい て執筆 した。
続高分子科学教科書
高分子科学教科書
材 料 ・加 工 ・応 用 編
FW.ビ ル メイ ヤーJr 著 田島守 隆 訳 A5判 492頁 高分子の物性 と合成 の科学を解説 した。大学 の関連 学科の教科書や技術 者の参考書に最適で ある。 *定 価,図
F.W.ビ
ル メ イ ヤ ーJr 著
田 島 守 隆/小 川 俊 夫 共 訳 A5判 278頁 プ ラ スチ ック とエ ラス トマー を材 料 ご と に網 羅 し,重 合 ・製 造 ・応 用 と加 工 技 術 へ の 発 展 に つ い て解 説。
書 目録 の お 問 い合 わ せ ・ご要 望 は 出版 局 ま で お願 い 致 し ます.
B-51