7 応用化学シリーズ
電気化学の基礎と応用 美浦 佐藤 神谷 奥山 縄舟 湯浅 …………
隆 祐一 信行 優 秀美 真 [著]
朝倉書店
応用 化学 シ リーズ代 表 佐 々 木 義 典 前千葉大学工学部物質工学科教授
第7...
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7 応用化学シリーズ
電気化学の基礎と応用 美浦 佐藤 神谷 奥山 縄舟 湯浅 …………
隆 祐一 信行 優 秀美 真 [著]
朝倉書店
応用 化学 シ リーズ代 表 佐 々 木 義 典 前千葉大学工学部物質工学科教授
第7巻 執 筆者 美
浦
隆 慶應義塾大学理工学部応用化学科教授
佐
藤
祐
一 神奈川大学工学部応用化学科教授
神
谷
信
行 横浜国立大学大学院工学研究院教授
奥
山
縄
舟
湯
浅
優 秀
小山工業高等専門学校物質工学科教授
美 甲南大学理工学部機能分子化学科教授 真 東京理科大学理工学部工業化学科教授 (執筆 順)
『応 用 化 学 シ リ ー ズ 』 発刊 に あ た って
こ の 応 用 化 学 シ リー ズ は,大 学 理 工 系 学 部2年
・3年 次 学 生 を対 象 に,
専 門 課 程 の 教 科書・ 参 考 書 と し て企 画 され た. 教 育 改 革 の 大 綱 化 を 受 け,大 学 の 学 科 再 編 成 が 全 国 規 模 で行 わ れ て い る. 大 学 独 自 の 方 針 に よ っ て,応 れ ば,応
用 化 学 科 と,た
用 化 学 科 をそ の ま ま 存 続 させ て い る大 学 も あ
とえ ば 応 用 物 理 系 学 科 を合 併 し,新
し く物 質 工 学
科 と して 発 足 させ た 大 学 も あ る.応 用 化 学 と応 用 物 理 を 融 合 さ せ 境 界 領 域 を究 明 す る効 果 をね ら っ た もの で,こ
れ か らの 理 工 系 の 流 れ を象 徴 す る も
の の よ う で も あ る.し か し,応 用 化 学 とい う分 野 は,学 科 の 名 称 が どの よ うに 変 わ ろ う と も,そ の 重 要 性 は 変 わ らな い の で あ る.そ れ ど こ ろか,新 し い特 性 を も っ た 化 合 物 や 材 料 が 創 製 さ れ,ま
す ます 期 待 さ れ る分 野 に な
りつ つ あ る. 学 生 諸 君 は,そ
れ ぞ れ の 専 攻 す る分 野 を究 め る た め に,そ
の土台 であ る
学 問 の 本 質 と,こ れ を 基 盤 に 開 発 さ れ た 技 術 な ら び に そ の 背 景 を理 解 す る こ と が 肝 要 で あ る.目
ま ぐる し く変 遷 す る時 代 で は あ る が,ど
の よ うな 場
合 で も最 善 をつ く し,可 能 な 限 り専 門 を確 か な も の と し,そ の 上 に 理 工 学 的 セ ン ス を 身 に つ け る こ とが 大 切 で あ る. 本 シ リー ズ は,こ
の よ う な理 念 に 立 脚 し て 編 纂,ま
執 筆 者 は 教 育 経 験 が 豊 富 で,か
とめ られ た.各 巻 の
つ 研 究 者 と して 第 一 線 で 活 躍 して お られ る
専 門 家 で あ る.高 度 な 内容 を わ か りや す く解 説 し,系 統 的 に 把 握 で き る よ うに 幾 度 とな く討 論 を 重 ね,こ
こ に刊 行 す る に 至 っ た.
本 シ リー ズが 専 門 課 程 修 得 の役 割 を果 た し,学 生 一 人 ひ と りが 志 を 高 く も っ て 進 ま れ る こ と を希 望 す る もの で あ る. 本 シ リー ズ 刊 行 に 際 し,朝 倉 書 店 編 集 部 の ご尽 力 に 謝 意 を表 す る次 第 で あ る. 2000年9月 シ リー ズ代 表 佐 々 木 義 典
は
じ
め
に
本 書 の企 画 を引 き受 けて か ら,随 分 と長 い 時 間 を費 や して し ま った.こ と え に小 生 の 遅 筆 に よ る もの で,言
れ はひ
い訳 に な るが,電 気 化 学 の教 科 書 が多 数 新 刊
され る 中 で 基 礎 事 項 の解 説 に特 色 を追 究 しす ぎ て し まっ た. 本 書 の構 成 や 執 筆 陣 に関 し て は,共 著 者 の 佐 藤 祐 一 先 生 か ら も ア ドバ イ ス し て い た だ き,幅 広 い 応 用 分 野 を網 羅 した 教 科 書 と して刊 行 す る こ とが で きた. 今 日,電 気 化 学 が 主役 をつ とめ る 注 目分 野 は きわ め て 多岐 に わ た っ て い る.エ ネ ル ギ ー デ バ イ ス と して の 高 性 能 二 次 電 池,燃 料 電 池,電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ, 電 気 エ ネ ル ギ ー の ア シス トな しで は 起 こ りえ な い各 種 電 解 反 応,金 属 腐 食 現 象 の 解 明 と防 止,界 面 反 応 の 特 徴 を活 か した 各 種 表 面 処 理,生 体 内 で の電 気 化 学 的 現 象,各 種 化 学 セ ン サ な どが あ る. この よ う に,電 気 化 学 とそ の 応 用 分 野 が 重 要 性 を増 しつ つ あ る今 日,若 い学 生 諸 君 や 電 気 化 学 を初 め て学 ぶ 非 化 学 系 の方 々 に と って,本 書 が い さ さか で もお役 に立 て る こ とを願 っ て や ま な い.
最 後 に,企 画 の段 階か らお世 話 くだ さった朝倉 書店編集部 の方々 に深謝 の意 を 表 す る.
2003年10月 執筆 者 を代表 して 美 浦
隆
目
次
1. 電 気 化 学 の 基 礎
〔美 浦
隆 〕 1
1.1 電 気 化 学 系 の 全 体 像
1
1.1.1 電 気 化 学 系 を構 成 す る2つ の電 極 系
1
1.1.2 電 極 系 の構 成 要 素:電
子 伝 導 体 とイ オ ン伝 導 体
1.1.3 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ:2つ 1.1.4 電 気 化 学 セル:2つ
2
の誘電性界面
2
の反応性界面
3
1.1.5 電 気 化 学 系 の定 常 動 電 と非 定 常 動 電
5
1.2 電 気 化 学 系 の 熱 力 学
5
1.2.1 化 学 熱 力 学 の あ ら ま し
5
1.2.2 電 気 化 学 系 へ の拡 張:電 気 化 学 熱 力 学
8
1.3 誘 電 性 界 面 付 近 の静 電 状 態
10
1.3.1 電 気 二 重 層:界 面 両 側 に対 立 す る正 負 の 過 剰 電 荷
11
1.3.2 電 子伝 導 体 側 の過 剰 電 荷
11
1.3.3 イ オ ン伝 導 体 側 の 過 剰 電 荷
12
1.3.4 電 極 系 の 静 電 位 差 とそ の変 化
14
1.4 反 応 性 界 面 の 静 電 状 態 1.4.1 界 面 を横 切 る電 荷 担 体 の動 的 平 衡:交
16 換電流密 度
16
1.4.2 標 準 水 素 電 極 系 の 基 準 設 置
17
1.4.3 相 対 電 極 電 位 に 関 す る ネ ル ンス トの式
18
1.4.4 ネ ル ン ス トの式 の 意 味
19
1.4.5 空 間電 荷 層 の影 響
20
1.5 伝 導 体 内部 で の動 電 現 象 1.5.1 電 荷 担 体 の運 動 方 程 式 と移 動 度 1.5.2 ア イ ン シ ュ タ イ ンの 関 係 式 と電 気 伝 導 率 1.5.3 電 気伝 導 経 路 の 抵 抗 とジ ュー ル熱 1.6 誘 電 性 界 面 付 近 で の 動 電 現 象
21 21
22 23 24
1.6.1
分 極 性 電 流 の 通 過:過
剰 空間電荷 量の増減
1.6.2
誘 電 分 極 の 限 界:分
1.6.3
分 極 性 電 流 と非 分 極 性 電 流 の 特 徴
24
極 性 界 面 の 降伏
25 26
1.7 反 応 性 界 面 で の 動 電 現 象
26
1.7.1
移 動 電 荷 量 と化 学 種 の 物 質 量 変 化:フ
1.7.2
反 応 関 与 物 質 お よ び電 荷 の 定 常 輸 送
1.7.3
過 電 圧 と三 電 極 法
33
1.7.4
電 子移 動 過 電 圧
34
1.7.5
濃 度過 電 圧
2. 電
池
ァラ デ ー の 法 則
27
35
〔 佐 藤 祐 一 〕 37
2.1 電 池 の 始 ま り
2.1.1
バ グ ダ ッ ド電 池(ホ
2.1.2
ボ ル タ の 電 池 以 降 の歴 史
2.2 電 池 の 構 成,エ
27
37
ー ヤ ッ ト ・ラ ッ プ ア 電 池)
ネ ル ギ ー 密 度 と容 量 密 度
2.3 実 用 化 さ れ て い る 主 な 電 池
37 39 41 43
2.3.1
一 次 電 池
44
2.3.2
二 次 電 池
51
2.3.3
燃 料 電 池
3. 電
58
解
〔 神 谷 信 行 〕 63
3.1 電 解 科 学 の 基 礎 事 項
64
3.1.1
理 論 電 気 量原 単 位
64
3.1.2
理論分解 電圧
66
3.1.3
電極反応速 度
3.2 電 解 プ ロ セ ス,電
解 リア ク タ ー の 特 徴
3.3 水 溶 液 電 解 電
68 72
75
3.3.1
水
解
3.3.2
食 塩 電 解
76
3.3.3
省エ ネルギー型食塩電解 法
78
3.4 溶 融 塩 電 解 工 業
75
78
3.4.1
溶 融 塩 電 解 の概 要
78
3.4.2
ア ル ミニ ウ ム 電 解
79
3.4.3
マ グ ネ シ ウ ム製 錬
80
3.4.4
ナ ト リウ ム製 造
81
3.4.5
有 機 化 合 物 の 電 解 フ ッ素 化
81
3.5 金 属 の 電 解 採 取 ・電 解 精 錬
81
3.5.1
電 解 採 取
81
3.5.2
電 解 精 錬
82
3.6 そ の 他 の 工 業 電 解 プ ロ セ ス
84
3.6.1
電 解 に よ る無 機 化 合 物 の製 造
84
3.6.2
電 解 に よ る有 機 化 合 物 の 製 造
84
3.6.3
表 面 処 理,寸
法加工工業
3.6.4
電 気 浸 透,電
気 透析
4. 金
属
の
腐 食
85 86
〔 奥 山
優 〕 87
4.1 腐 食 の 原 理
87
4.1.1
水 溶 液 腐 食 の2つ
4.1.2
腐 食 電 位
90
4.1.3
電 位-pH図
4.1.4
腐 食 電 位 と腐 食 電 流
92
4.1.5
不
94
4.1.6
環 境 に よ る影 響
働
の タイ プ
87
態
90
96
4.2 局 部 腐 食 と形 態
99
4.2.1
粒 界 腐 食
100
4.2.2
孔
食
100
4.2.3
隙 間 腐 食
101
4.2.4
応 力腐食割 れ
4.2.5
流 動 腐 食
4.2.6
接 触 腐 食
4.2.7
選 択 腐 食
4.3 電 気 化 学 防 食 法
102 102 102 103
103
4.3.1
腐 食 環 境 の調 整
4.3.2
犠牲 アノー ド
4.3.3
カ ソ ー ド防 食
105
4.3.4
イ ンヒビター
105
5. 電 気 化 学 を 基 礎 と す る 表 面 処 理
104
104
〔縄 舟 秀 美 〕 106
5.1 湿 式 め っ き 法 5.1.1
湿 式 め っ き の 目 的 と金 属 の 特 性
5.1.2
め っ き の 目 的 と標 準 電 極 電 位 と の 関 係
5.1.3
電 気 め っ き と無 電 解 め っ き の 原 理
5.1.4
湿 式 銅 め っ き の先 端 分 野 にお け る応 用 例
106
110
電 着塗装 の特徴
5.2.2
カ チ オ ン電 着 塗 装 の 原 理
バ リ ア 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜
5.3.2
ポ ー ラ ス 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜
5.3.3
ポ ー ラ ス 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜 の 電 解 着 色
6. 生 物 電 気 化 学 と化 学 セ ン サ 6.1 生 体 系 に お け る 電 気 的 現 象
121
122 122
5.3 ア ノ ー ド酸 化 5.3.1
111
115
5.2 電 着 塗 装 5.2.1
107
123
124
125 125
〔湯 浅
真 〕 127 128
6.1.1
細 胞 と膜 電 位
128
6.1.2
神 経 細 胞 と活 動 電 位
129
6.1.3
生体 表面で の電気的現 象
131
6.2 生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 6.2.1
生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 と は?
6.2.2
呼 吸 と呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系
6.2.3
光 合 成 と光 合 成 電 子 伝 達 系
132 132 135 137
6.3 生 物 電 気 化 学 の 応 用 6.3.1
生 物電 気化学計測
6.3.2
生 物 電 気 化 学 的 な サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジー
140 140
143
6.3.3
生 物 電 池
6.4 化 学 セ ン サ
付
146
148
6.4.1
セ ン サ と は?
148
6.4.2
イ オ ン セ ンサ
150
6.4.3
ガ スセンサ
152
6.4.4
バ イ オ セ ンサ
154
録
156
参 考 文 献
164
索
引
166
1 電気化学の基礎
基 礎 現 象 の 解 明 を省 い た 応 用,そ
れ は ま さ し く砂 上 の 楼 閣 で あ る.ま ず この 章
で は,電 気 化 学 の 基 礎 概 念 ・事 項 を し っ か り と把 握 して も らお う.わ ず か40ペ ー ジ程 度 に 多 くの エ ッセ ン ス を盛 り込 む の は至 難 で あ った が ,大 学1年
修了程度
の化 学 ・物 理 学 ・数 学 をべ ー ス に,電 気 化 学 系 に登 場 す る い ろ い ろ な現 象 を真 正 面 か ら記 述 した つ も りで あ る.ま た,本 質 的 な理 解 を深 め るた め,既 存 の 教 科 書 で は省 か れ て い る 内容 も あ え て記 述 した の で,す で に他 書 を通 読 さ れ た 方 は違 和 感 を覚 え るか も知 れ な い.な ベ ル で あ るの で,手
お,以 下 で や や小 さ な活 字 を使 用 し た項 はや や 高 レ
に お え な い と感 じる 方 は,と
りあ え ず と ば して読 ん で いた だ
い て も よい.
1.1 電 気 化 学 系 の 全 体 像
まず は,異 な る電 気 の運 び 屋―
電 子 とイ オ ン―
が 協力 しな が ら電 気 を運 ぶ
世 界 に ご案 内 し よ う.電 気 化 学 で 最 も重 要 な 現 場 は電 子 とイ オ ンの 接 点― 系―
電極
で あ り,そ の 接 点 を通過 す る電 流 に は2種 類 が あ る.
1.1.1 電 気 化 学 系 を構 成 す る2つ の電 極 系 電 気 化 学 が 対 象 とす る 系 は,一 般 に 電 子 伝 導 相HL│イ
オ ン伝 導 相BL‖ イ オ ン伝 導 相BR│電
と表 記 され る.以 下 で は,電 子 伝 導 相H│イ 系,2つ
オ ン伝 導 相Bの
子 伝 導 相HR 組 み 合 わ せ を電 極
の 電 極 系 が 対 に な っ た も の を電 気 化 学 系 と呼 ぶ.
イオ ン伝 導 体 ど う し の 界 面‖ の 存 在 は電 気 化 学 系 の 必 要 条 件 で は な い が,‖ が 複 数 存 在 した り,通 過 イ オ ン選 択 性 な どの 機 能 を果 た す 応 用例 も少 な くな い.イ
図1.2 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ の等 価 回 路
図1.1 電 気 二重 層 キ ャパ シ タの誘 電 分 極
オ ンが 界 面‖ を通 過 す る非 平 衡 現 象 に 関 して は,他 書1,2)を参 照 され た い.
1.1.2 電 極 系 の 構 成 要 素:電 子 伝 導 体 とイ オ ン伝 導 体 電 荷 担 体(=長
距 離 移 動 可 能 な荷 電 粒 子.電 子 や イ オ ン)が 電 場 に よ り移 動 す
る現 象 を電 気 泳 動 と呼 ぶ(1.5.1項).原 自 由 電 子,あ 子,イ
子 核 の 束 縛 を逃 れ て 相 空 間 を 移 動 で き る
る位 置 か ら隣 接 位 置 へ 次 々 に移 動 で き る イ オ ン が 担 体 と な る.電
オ ンが 担 体 の伝 導 体 を そ れ ぞ れ電 子 伝 導 体,イ
使 い(=混
オ ン伝 導 体 と呼 ぶ が,両 刀
合 伝 導 体)も 電 池 活 物 質 や 金 属 腐 食 な どの 舞 台 で 登 場 す る(1.7.2.d).
い ず れ に して も,電 気 化 学 系 の 取 り扱 い は,電 荷 担 体 の 明 確 な 区別 か ら出 発 す る. 液 体 イ オ ン伝 導 体 の1種 で あ る電 解 質 溶 液 は,こ れ まで 多 くの電 気 化 学 書 で 詳 述 され て きた が,そ
の イ オ ン伝 導 は も と も と物 理 現 象 で あ る.
1.1.3 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ:2つ 電 気 化 学 系 に 電 流(=以
の誘電性 界面
下 無 指 定 な ら,直 流)が 通 過 す る と き,左 右 の電 極 系
で は誘 電 分 極 また は化 学 変 化 が 起 こる.前 者 の 典 型 例 は,新 エ ネル ギ ー貯 蔵 デ バ イ ス と して注 目 され る図1.1の 電 気 二 重 層 キ ャ パ シ タ で,担 体 が 界 面 を実 際 に横 切 る こ とな く,み か け 上 の 充 電 ・放 電 電 流 が 通 過 す る. 誘 電 分 極 とは,電 場 中 で 正 電 荷 と負 電 荷 の 重 心 が ず れ る現 象 で,極 性 分 子 が整 列 す る配 向分 極,イ
オ ンが 変 位 す る イ オ ン分極,原
子 や イ オ ン に束 縛 さ れ た電 子
が 変 位 す る電 子 分 極 な どが あ る.電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ で は2つ の誘 電 性 界 面 で それ ぞ れ 過 剰 電 荷 が 集 積 す る.電 解 液 の 中 央部 は イ オ ン伝 導 性 で,電 荷 輸 送 に は 寄 与 す るが,誘
電 分 極 しな い.つ
ま り,2つ
の キ ャパ シ タ要 素(=誘
電 性界 面)
図1.3 直 接 電 子 移 動:均
一系
酸化還元反応
図1.4 電 極 を 介 した電 子 移 動:電
衝 突 時 の み 電 子 移 動 が 可 能.
での酸化還元反応
気 化 学 セル
を イオ ン伝 導 経 路 で 結 ん だ 図1.2の 等 価 回 路 で 表 せ る.正 常 な充 電 に 際 して,両 電 極 近 傍 に発 生 す る過 剰 電 荷 が 異 符 号 等 量 の た め,通 常 の キ ャパ シ タ(電 解 コ ン デ ンサ を含 め な い)の 延 長 線 で 「電 解 質 溶 液=誘
電体 」 と誤 解 され や す い が,誘
電 分 極 に 関 わ る電 解 質 溶 液 は 両 電 極 界 面 近 傍 に 限 られ る(1.6.1項).
1.1.4 電 気 化 学 セ ル:2つ
の反応性 界面
a. 均 一 系 の 酸 化 還 元 反 応 一 方,電
流 が 通 過 す る と酸 化 と還 元 の 化 学 変 化 が 起 こ る 電気 化 学 系 が あ り,電
気 化 学 セ ル と呼 ぶ.ま
ず,水 溶 液 中 の イ オ ン種 間 の 電 子 移 動 を例 に,酸 化 還 元 反
応 を説 明 す る.FeCl2とCoCl3水
溶 液 を混 合 す る と,
Fe2++Co3+→Fe3++Co2+
(1.1)
の 変 化 が 自発 的 に起 こ る(図1.3)が,こ 還 元:Co3++e−
れ は レ ドッ ク ス(Redox)反
→Co2+
(1.2)
酸 化:Fe2+→Fe3++e− で,1個
の電 子 がFe2+か
応
らCo3+へ
(1.3) 移 動 す る こ とに他 な らな い.
電 子 は通 常 の 溶 液 中 で不 安 定 な た め,長 距 離 ジ ャ ンプ は不 能 で,電 子 移 動 は ド ナ ーFe2+と
ア ク セ プ タ ーCo3+が
衝 突 し た と き だ け起 こ る.衝 突 の 場 所 は 特 定
され な い の で,均 一 系 の 酸 化 還 元 反 応 と呼 ぶ.電 子 が 自 然 に移 動 す る変 化 で も, 均 一 系 反 応 経 路 の場 合 は,電 子 移 動 の 駆 動 力 を外 部 回路 で 利 用 で きな い.
b. 電 気 化 学 セ ル の 酸 化 還 元 反 応 電 気 化 学 セ ル(図1.4)で
は,Fe2+→Co3+の
電 極A→
導 線L→
電 極Aを
ア ノー ド,還 元 が 起 こ る 電 極Cを
お よびCは,電
電 極C→Co3+と
直 接 電 子 移 動 で は な く,Fe2+→
電 子 移 動 経 路 が 指 定 さ れ る.酸 化 が 起 こ る カ ソー ド と呼 ぶ.電
子 の 経 路A,L
子 伝 導 体 で な けれ ば な らな い.こ の セ ル は
A│FeCl2(aq),FeCl2(aq)‖CoCl2(aq),CoCl2(aq)│C と表 記 さ れ,Lの
(1.4)
途 中 に 電 気 的 負 荷 を は さ め ば,電 子 移 動 の駆 動 力 を 直 接 利 用
し,セ ル に電 気 仕 事 を さ せ る こ とが で き る. セ ル 全 体 の 変 化 は式(1.1)で 電 極Aへ
表 せ る が,左 側 の 溶 液 中 の 電 気 的 中性 条 件 は,
流 出 し た電 子 と等 電 荷 量 の ア ニ オ ンの 流 入(ま
を 要 求 す る.同 様 に 右 側 で は,電 極Cか の 流 出(ま
た は カ チ オ ンの 流 入)が
た は カ チ オ ンの 流 出)
ら流 入 した 電 子 と等 電 荷 量 の ア ニ オ ン
必 要 とな る.隔 膜Dが
も し カ チ オ ンの 移 動
を許 す と,前 述 の均 一 系 反 応 も起 こ っ て し ま う. こ の セ ル は2つ の反 応 性 界 面 を 含 む が,そ る.電 気 回路 図 を描 く人,見 「電 流10Aで
の等 価 回路 は電 池 記 号 た だ1つ
であ
る人 が,電 池 を ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス 化 す るた め だ が,
端 子 電 圧 が0.2V変
化.だ
か ら内 部 抵 抗 は0.02Ω 」 とい う木 を 見
て 森 を見 ず の議 論 が 続 く.本 章 で は セ ル の 開 回路 電 圧,閉
回路 電 圧 の 支 配 因 子 を
明 ら か に す る.セ ル の 開 回路 電 圧 は電 気 化 学 系 の 熱 力 学(1.2.2項)で
議論 され
る. c. 電 子 の 自然 流 と逆 流 導 線Lが
切 れ た ら,A→Cの
回路 の静 電 状 態(=電
電 子 移 動 は 不 能 で,反 応 も停 止 す る.し か し開
荷 静 止 の 状 態)で
Cの 間 で 電 子 は 往 復 で き る.つ
も,Fe2+/Fe3+対
とA,Co2+/Co3+対
と
ま り電 子 移 動 の 平 衡 が 両 界 面 で 成 り立 ち,A-C
間 に は電 子 の位 置 エ ネ ル ギ ー の 差 が 開 回路 状 態 で 存 在 す る. 図1.4の よ う にA-C間 を用 い,A-C間
を導 線 で 結 べ ば,電 子 は 自発 移 動 す る.し か し外部 電 源
に静 電 状 態 以 上 の 電 位 差 を与 えれ ば,電 子 の 不 自然 な逆 流 も可
能 で あ る.こ の と き電 子 は逆 方 向 に移 動 し,化 学 変 化 の 方 向 も反 転 す る.電 気 エ ネル ギ ー を外 部 か ら投 入 す る電 子 逆 流 の典 型 例 は,電 気 分 解 で あ る.電 気 屋 さん が 描 く電 解 槽 の 等 価 回路 は抵 抗1本
だ ろ うが,外 部 電 源 か ら見 た 電 解 槽 の等 価 抵
抗 は非 線 形 で,無 限 大 に 発 散 した り,経 時 変 化 もす る.
1.1.5 電 気 化 学 系 の 定 常 動 電 と非 定 常 動 電 以 上 の よ うに,電 気 化 学 系 内 の動 電(= 電 荷 が 動 く.物 理 学 のcharges
in motion)
現 象 に は電 子 と イオ ンの伝 導 が 同 時 に 関与 す る.電 極 系 界 面 で起 こ るの が,誘 電 分 極 か 酸 化 還 元 変 化 か が 分 岐 点 で,後 者 は重 要 な応 用 分 野 に つ なが る. 動 電 現 象 の考 察 に は定 常(=時
間 に依 存
しな い)と
非 定 常 との区別 が重 要 で あ る
(図1.5).蓄
積 過 剰 電 荷量 に 上 限 が あ る電
図1.5 定 常 電 流 と非 定 常 電 流
気 二 重 層 キ ャ パ シ タ で は,充 電 ・放 電 に よ らず,有
限 の定 常 電 流 を維 持 で き な い.一 方,電 気 化 学 セ ル で は,定 常 的 な反 応
物 搬 入 と生 成 物 搬 出が 両 極 界 面 の 局 所 的 な 反 応 場 で と も に可 能 な ら,有 限 の定 常 電 流 が 通 過 す る.
1.2 電 気 化 学 系 の 熱 力 学
電 気 化 学 系 内 で 起 こ る状 態 変 化 が 誘 電 分 極 で あ っ て も酸 化 還 元 反 応 で あ っ て も,電 気 的 な仕 事 を外 部 回路 と必 ず や り と りす る.こ の 節 で は,電 気 的 な仕 事 が 関 与 しな い 化 学 熱 力 学 を まず復 習 して か ら,電 気 化 学 系 へ の 拡 張 を考 え よ う.熱 力 学 が嫌 い な 方 も,こ の節 を と ば し て し まっ た ら先 へ 進 め な い.い わ ば必 修 項 目 で あ る.
1.2.1 化 学 熱 力 学 の あ ら ま し a. 系 と外 界,系
の状態変化
熱 力 学 で は考 察 対 象 の物 質 群 を系 と 呼 び,系
の 状 態 変 化 に伴 っ て 周 囲 の 外
界 か ら系 へ 移 動 す る 熱 量qと,系
が
外 界 に対 して な す 力 学 的 仕事量wの 関 係 を議 論 す る.今,図1.6の
状 態変
化 を考 え る.化 学 反 応 式 で表 せ ば,
図1.6 状 態変化経路 に依 存す る熱量 と仕事量
(1.5) で,変 化 前 はH2(g)1mol,O2(g)0.5molが 1molで
別 々 に存 在 し,変 化 後 はH2O(l)
T,圧
あ る.化 学 結 合状 態 と分 子 集 合 状 態 だ けで は な く,系 の 物 理 変 数 の 温 度 力Pも
指 定 す る必 要 が あ り,こ の例 で は変 化 前 後 と も298K,1atmで
あ
る. b. エ ネ ル ギ ー保 存 則:内 部 エ ネ ル ギ ー増 加 量,吸 系 の 内 部 エ ネ ル ギ ーUは 化 のΔUは
熱 量,外 界 に な す仕 事 量
化 学 的 ・物 理 的 状 態 で 定 ま る.多
くの 場 合,化
学変
変 化 前 後 の化 学 結 合 エ ネ ル ギ ー の 差 に ほ ぼ等 しい.熱 力 学 第 一 法 則
ΔU=q−w
(1.6)
は エ ネ ル ギ ー 保 存 を表 し,系 が 外 界 か ら吸 う熱 量qと との 差 が 内 部 エ ネ ル ギ ー 増 加ΔUに
等 しい.ΔUは
後 の 状 態 で 一 義 的 に定 ま るの で,(q−w)も
系 が 外 界 に な す 仕 事 量w 変 化 経 路 に は よ らず 変 化 前
変 化 経 路 に よ ら な い が,qとwそ
の もの は経 路 に依 存 す る. c. 仕 事 に対 す る制 限 条 件:変 化 前 後 の 状 態 で 決 ま る仕 事 量 と熱 量 そ こで 第1制
限 条件 と して,系
体 積 仕 事 量 と呼 ぶ)wPVが,仕
の体 積 膨 張 で外 界 に なす 力 学 的 仕 事 量(以
事wの
全量 に 等 しい
w=wPV とす る.wPVは
(1.7)
外 界 の 圧 力Pextに
さか らっ て 系 が膨 張 す る体 積 仕 事
wPV=∫PextdV
で 表 現 で き,Vは さ ら に第2制 事wPVが
(1.8)
系 の 体 積 で あ る. 限 条 件 とし て,体 積Vが
ゼ ロ だ か ら,式(1.6)を
変 化 前 後 で 等 しい とす れ ば,唯 一 の 仕
書 き直 せ ば,
ΔU=qV とな る.qVを でVが
(1.9)
等 容 反 応 熱 と呼 ぶ が,等 容 と はV一
等 し い こ とを 規 定 す る.qVはΔUと
的 に決 ま る(吸 熱 が正,放 別 の 第2制
下,
定 の 経 路 で は な く,変 化 前 後
同様,変
化 前後 の系 の状態 で一 義
熱 が 負 の定 義 に再 度 注 意).
限 条 件 と し て,圧 力Pが
状 態 変 化 前 後 で 等 しい と し,系 の圧 力P
をPextで 置 き換 え る と,式(1.6)は qP=ΔU+PΔV≡
ΔH
(1.10)
と な る.変 化 前 後 の 系 の 状 態 でΔUも 化 に 固 有 な熱 量 で,新 た な 状 態 関 数(=エ
ΔVも
る.P=Pextは
力 学 的 平 衡 条 件 で,wPV最
定 ま るた め,等 圧 反 応 熱qPは
ン タ ル ピ ー)の 変 化 ΔHが
変
定 義 され
大 の可 逆 的 体 積 変 化 を規 定 す る.た
え ば爆 発 の よ う に不 可 逆 的 体 積 変 化 過 程 を含 む な ら,qP=ΔHの
と
関 係 は成立 し
な い. d. 可 逆 的 状 態 変 化 に お け る吸 熱 量 熱 と仕 事 の授 受 に 関 す る 外 界 との平 衡 を 保 ちつ つ,逆 行 可 能 な微 小 ス テ ップ を 重 ね,無 限 長 時 間 で 初 期 状 態 か ら最 終 状 態 に 至 る仮 想 的 な 変 化 経 路 を,可 逆 経 路 と呼 ぶ.可 逆 経 路 で の 熱量qrevも
変 化 前 後 の状 態 で 一 義 的 に定 ま る.
ボ ー ル が 坂 道 を落 下 す る よ うな 有 限 速 度 の 自発 的 変 化 で は,不 可 逆 な 熱 が 系 内 で 発 生 す る.そ の一 例 は分 子 ・原 子 の 移 動 に伴 う摩 擦 熱 で あ る.こ の た め,自 発 的 な不 可 逆 変 化 経 路 で 系 が 外 界 か ら受 け取 る熱 量qirrevは,必
ず
qrev>qlrrev
(1.11)
とな る.こ の不 等 式 は不 可 逆 過 程 の定 義 を与 え,系 が 外 界 へ 放 出 す る熱 量 は 可 逆 過 程 で 最 少 とな る こ とを 示 す. e. 化 学 的 経 路 で の 状 態 変 化 の 自発 性 wPVの みが 関 与 す る 自発 的 不 可 逆 変 化 の 条 件 は,変 化 前 後 でVま しい 状 態 変 化 に対 し,そ れ ぞ れ 式(1.9),(1.10)よ
た はPが
等
り
qrev>qV=ΔU
(1.12)
qrev>qP=ΔH
(1.13)
で 表 現 で き る. こ こで,[エ
ネ ル ギ ー][絶 対 温 度]−1次 元 を もつ エ ン トロ ピ ーS (1.14)
を新 状 態 量 と して 定 義 す る.Sは
エ ネ ル ギ ー で は な く,エ ネ ル ギ ー の 質 を表 し,
系 が 乱 雑 化 す るほ ど増 加 す る.変 化 前 後 の 温 度 がTで
等 しい と き,qrevは
qrev≡TΔS で表 され,ΔSは PとTが
(1.15)
系 の エ ン トロ ピー 変 化 で あ る.
前 後 で 同 一な ら 自発 的状 態 変 化 の条 件 は,式(1.13),(1.15)よ
Δ G≡ ΔH−TΔS<0 と書 け る.左 辺 の状 態 関数Gは
り (1.16)
ギ ブズ 自 由 エ ネ ル ギ ー と呼 ば れ ,Gが
減少 す る
変 化 は 自 発 的 ・不 可 逆 で あ る.乱 雑 性 の 高 い 気 体 の 物 質 量 が 増 加 し(ΔS>0), 発 熱 す る(ΔH<0)反
応 は,必 ず 自発 的 に 起 こ る.な お,ΔG>0な
変 化 が 自 発 的 で,ΔG=0な
ら ば2つ の状 態 が そ のP,T下
ら逆 方 向 の
で 平 衡 に あ る.
f. 系 が 開 い て い る場 合 の ギ ブズ 自由 エ ネ ル ギ ー 変 化 仕 事 や 熱 に加 え,外 界 との 間 で物 質 の 往 来 も許 す 系 を 開 い た 系 と呼 ぶ.こ 合,た
の場
と えば 新 た に加 わ る物 質 が 先在 物 質 群 に混 合 す るか,単 独 で新 相 をつ くる
か の 問 題 が生 じ る.詳 細 は省 くが,開
い た 系 の 状 態 変 化 の ΔGは,生
成 系 と反
応 系 物 質 群 の 化 学 ポ テ ン シ ャル μ の 総 和 差 (1.17) で,ν は各 物 質 の化 学 量 論 係 数 で あ る.各 物 質 の化 学 ポ テ ン シ ャル は, (1.18) で表 せ,μ1° は標 準 化 学 ポ テ ン シ ャ ル,a1は 単 独 相 を つ くる と き1)で
活 量(=
熱 力 学 的 な無 次 元 化 濃 度.
あ る.任 意 の化 学 変 化 に対 す る ΔGは
(1.19) (1.20)
と書 け る.以 上 が 化 学 熱 力 学 の概 略 だ が,w=wPVの
制 限 条 件 に 注 意 され た い.
1.2.2 電 気 化 学 系 へ の拡 張:電 気 化 学 熱 力 学 a. 電 気 仕 事 の 関 与 電 気 化 学 的 状 態 変 化 で は電 気 仕 事 も関 与 し,w=wPVは は 電 気 仕 事 量:welecがwPVに
適 用 さ れ な い.以 下 で
加 わ る場 合 に限 定 し,電 気 化 学 熱 力 学 な る新 語 で 注
意 を喚 起 す る.な お 光 電 気 化 学 も一 重 要 分 野 だ が,こ
こで は光 エ ネ ル ギー の 関 与
を 除 外 す る.さ てwelecが 加 わ れ ば,系 が外 界 に な す仕 事 量wは w=wPV+welec
(1.21)
と な り,エ ネ ル ギ ー 保 存 則 か ら系 の 吸 熱 量qも Δ S,ΔVで
定 義 され たΔH,ΔGは
時 に,ΔHは b.電
変 わ る.経 路 に よ ら な いΔU,
経 路 に 独 立 だ が,w=wPVの
等 圧 反 応 熱 を意 味 せ ず,ΔGの
制 限 解 除 と同
符 号 も変 化 の 自発 性 を判 定 しな い.
気化 学的経 路での可逆的状態変化
可 逆 的 状 態 変 化 の 条 件 は電 気 化 学 経 路 で もq=qrevだ
か ら,変 化 前 後 が 等 圧 の
場 合,welec,revは 式(1.6)よ
り (1.22)
を 満 た す.qrevはqの
最 大 値 で,ΔUとPΔVは
welec,revは必 然 的 にwelecの 最 大 値 とな る.つ の最 大 値 で,前
経 路 に 依 存 し な い た め,
ま り,右 辺(
)内 はwPVとwelec
後 が 等 圧 かつ 等 温 で あ る電 気化 学 経 路 の状 態 変 化 に対 して , (1.23)
と書 き直 せ る.前 後 が 等 圧 か つ 等 温 の 状 態 変 化 に 対 し,化 学 経 路 の 場 合 ΔGは そ の符 号 しか 意 味 を もた な い が,電 気 化 学 経 路 で は ―ΔGがwelec
,maxに 等 し い.
以 上 の誘 導 過 程 の 「電 気 的 」 仕 事 は 本 質 的 制 限 で は な く,前 後 が 等 圧 か つ等 温 の 状 態 変 化 で な し うる 「非体 積 」 仕 事 の 最 多 量 を―ΔGは
表 し て い る.
c. 電 気 化 学 的 経 路 で の 状 態 変 化 の 自発 性 自発 過 程 の 条 件 は 電 気 化 学 経 路 で もq0の
状 態 変 化 は0<welec<welec,rev,放
熱 量−q>−TΔSな
ら 自発 進 行 す る(典 型 例 は可 逆 電 圧 以 下 で放 電 す る電 池) .−ΔG<0の も−q>−TΔSさ
え満 た せ ば 自発 的 で,−welec>−welec
入 さ れ る(典 型 例 は 可 逆 電 圧 以 上 で の 電 気 分 解).電 発 過 程 の 放 熱 量 は最 少 値−TΔS(決
して−ΔHで
状 態変化
,rev>0の 電 気 仕 事 が 投
気 仕 事 の 方 向 に よ らず,自
は な い)よ
り多 い.
d. 電 気 仕 事 量 の 表 記 welecは[電
圧 ×電 荷 貴]ま
た は[電 圧 ×電 流 ×時 間]で
表 せ る.電 気 化 学 系
は2つ の 電 極 系 で構 成 され る の で,電 圧 は左 側 基 準,電 流 は系 内 を左 → 右 と約 束 し,混 乱 を防 止 す る.実 測 さ れ る電 気 化 学 系 の 電 圧Uは,左 由電 子 の フ ェル ミエ ネル ギ ーEFの
右 の電極相 中 の 自
差, (1.24)
で あ る.電 磁 気 学 で は 「電 流 は高 電 位 → 低 電 位 」 と表 現 す る の で,負
の素 電荷
−eを もつ 電 子 の 位 置 エ ネル ギ ーEFの 高 低 と電 位 の 高低 は逆 転 す る. 電 気 化 学 系 は 外 部 電 圧Uextに 系 の 電 圧UでUextを
さか ら っ て電 気 仕 事 を な す(wPVと
類 似)が,
置 き換 え られ れ ば,電 気 仕 事 量 を (1.25)
で 表 せ,Qは
状 態 変 化 の 完 了 ま で に 移 動 す る全 電 荷 量 で あ る.
e. 電 気 化 学 セ ル の 熱 力 学 電 気 化 学 セル の 場 合,電 荷 移 動 方 向 の約 束 は 左側 電 極 系 で 酸化 反 応,右 側 電 極 系 で 還 元 反 応 を 意 味 し(左 右 逆 に書 け ば,セ ル 反 応 が 逆 転:−ΔGとUrevの 号 も反 転),外
部 回 路 の 電 子 移 動 は左 → 右 で あ る.−ΔG>0の
場 合,こ の 電 子 移
動 は 自発 的 で 電 気 仕事 を な す の で,EF,L>EF,RでU>0で 電 荷 量Qは 出 し2H+に
あ る.
反 応 関 与 化 学 種 の 物 質 量 変 化 に 関 係 し,た と え ばH2は2e− 酸 化 さ れ る の で,1molあ
[素 電 荷 × ア ボ ガ ド ロ 数]に mol(i)−1で,状
た り2Fで
等 しい.つ
符
あ る.Fは
ま り,あ る 化 学 種iの1molあ
態 変 化 を 表 す と きのQはnFで,nはiの
を放
ファラ デー定 数 で た り,
反 応 電 子 数 で あ る.
した が っ て,電 気 化 学 セ ル が な し う る電 気 仕 事 量 の 最 大 値welec,revは, (1.26) で 表 せ る が,nFの dQ=const.(全
電 荷 移 動 が 完 了 す る ま で 可 逆 電 圧Urevが
一 定,d(−
ΔG)/
化 学 種 が 単 独 相 を形 成)の 場 合 に は,
nFUrcv=−ΔG
(1.27)
と簡 単 に な る. さ て 「電 位 」 の 用 語 が,電 気 化 学 の 大 き な 混 乱 要 因 で あ る.端 的 な例 を 示 そ う.金 属M1│金
属M2の
接 触 が 平 衡 状 態 に あ れ ば,界 面 を横 切 る電 流 は ゼ ロで,
自由 電 子 の往 来 は均 衡 す る.つ
ま り,M1,M2に
位 置 エ ネ ル ギ ー は両 側 で 等 し い.と ネ ル ギ ー(=仕
事 関 数)が
電 位 差 はな く,自 由 電 子 の 平 均
ころ が,M1とM2で
自 由 電 子 を束 縛 す る エ
異 な る の で,
[全 位 置 エ ネ ル ギ ー]=−[束 と分 離 す れ ば,静 電 位 差(=接
縛 エ ネ ル ギ ー]+[静
触 電 位 差)が
電 的 位 置 エ ネ ル ギ ー]
あ る と表 現 され る.電 子 や イ オ ン の
荷 電 粒 子 集 団 を 扱 う電 気 化 学 で も,そ れ らの 位 置 エ ネ ル ギ ー を化 学 的項 と静 電 的 項 に 分 離 し て議 論 され る.し か し静 電 位 と は,媒 質 と相 互 作 用 しな い仮 想 点 電 荷 に対 して 定 義 さ れ る概 念 上 の 物 理 量 で,相 が 異 な る2点 間 の 静 電 位 差 は 実 測 で き な い.本 章 で は静 電 位 を電 位 と は呼 ば な い こ と にす る.
1.3 誘 電 性 界 面 付 近 の 静 電 状 態
電 子 伝 導 体 と イ オ ン伝 導 体 を接 触 させ た ら,そ の 界 面 は どの よ うな 自然 状 態 に
落 ち 着 くか を考 え よ う.こ の 節 で は,界 面 を横 切 る 電 子 の 移 動 が 許 され な い場 合,つ
ま り自 然 状 態 が電 子 移 動 の 平 衡 で規 定 され な い場 合 を取 り上 げ る.結 論 を
先 に示 す と,電 子 伝導 体 表 面 に対 す る各 イ オ ンの 個 性(た 集 ま りや す い)に
とえ ば ア ニ オ ン の 方 が
よ っ て,界 面 近 傍 の イ オ ン伝 導 体 は 電 気 的 中性 を失 い,過 剰 な
電 荷 を も つ.電 子 伝 導 体 側 で は表 面 付 近 に これ と等 量 で 異 符 号 の過 剰 電 荷 が 対 立 し,界 面 全 体 と し て は電 気 的 に中 性 で あ る.こ の よ うに,最
も 自然 な状 態 で は,
対 立 過 剰 電 荷 量 が 一 般 に ゼ ロで は な い.ま た これ と同 時 に,電 極 系両 側 の 静 電 位 差 を考 え る に は,対 立 過 剰 電 荷 が 界 面 の垂 線 方 向 に どの よ う に分 布 す るか が 重 要 で あ る.
1.3.1 電 気 二 重 層:界
面 両側 に対 立 す る正 負 の 過 剰 電 荷
た と え ば2つ の 白金 電 極 を硫 酸 水 溶 液 に浸 し,左 右 対 称 な電 気 化 学 系 Pt│H2SO4(aq)│Pt を準 備 す る と,同
(1.28)
じ状 態 に あ る両 端 の 白 金 間 に 電 位 差 は な い.し
か し,白 金│溶
液 界 面 に は正 負 の 過 剰 電 荷 が 非 クー ロ ン 的作 用 で 自然 に 対 立 し,そ こ に静 電 位 勾 配 が 生 まれ る.ま た 界 面 で 反 応 が 起 こる場 合,電
子移 動や関与化学種輸 送が過剰
電 荷 の 分 布 領 域 で 行 わ れ る た め,現 象 が 複 雑 化 す る.
1.3.2 電 子 伝 導 体 側 の 過 剰 電 荷 周 期 的 格 子 の 末 端 表 面 原 子 だ け に 許 さ れ る 特 殊 な 電 子 状 態 が 結 晶 に は存 在 す る.こ の 表 面 電 子 状 態 の二 次 元 密 度 が 高 けれ ば,す べ て の 過 剰 電 荷 は表 面 原 子 層 に 収 容 され て 内部 へ 拡 が らず,表 面 電 子 状 態 の 占有 ・非 占 有 だ け で過 剰 電 荷 量 を 議 論 で き る(=帯
電 し た金 属 で も内 部 に電 場 は な い).一 方,電
子 状 態(三
次元)
密 度 が 低 い半 導 体 で は,表 面 電 子 状 態 密 度 も低 く,過 剰 電荷 の一 部 は内 部 へ 拡 が る.ポ ア ソ ン方 程 式 に よ れ ば,電 荷 が 分 布 す る領 域(=空
間 電 荷 層)の 静 電 位 φ
は一 様 で は な い. 電 子 伝 導 体 の過 剰 電 荷 二 次元 密 度σEを,半
導体 も含 め て 一 般 に表 す と,
σE=σS+σSC
(1.29)
で,σSは 表 面 電 子 状 態 中,σSCは 空 間 電 荷 層 中 の 過 剰 電 荷 で あ る.表 面 と内 部 の 静 電 位 差(φS− φE)と σEの関 係 は一 般 に 複 雑 で あ る.例 外 は金 属 や 高 表 面 電 子 状 態 密 度 の 半 導 体 で,φS=φEの
ま ま σEが自在 に 変 化 す る.
図1.7 金 属 結 晶│電 解 質 溶 液 界 面 の イ オ ン種 と溶 媒 双 極 子 (イ メ ー ジ図)
1.3.3 イ オ ン伝 導体 側 の 過 剰 電 荷 界 面 に集 積 す る過 剰 イ オ ン に は各 種 の微 視 的 モ デル が あ るが,直 接 的 な観 察 例 は 知 らな い.液 体 誘 電 体 を電 場 中 で 冷 却 し,電 場 配 向 の ま ま分 子 を凍 結 す る と, 両 面 が 正 負 に帯 電 した 固 体(エ るが,こ
レ ク トレ ッ トと呼 ぶ.永 久 磁 石 に類 似)が 得 られ
れ が 今 後 の ヒ ン トとな るで あ ろ う.
金 属 結 晶│電 解 質 溶 液 界 面 の モ デ ル を 図1.7に 描 い た.① ② 完 全 脱 溶 媒 和 イ オ ン(=特
異 吸 着 イ オ ン),③
完 全 溶 媒 和 イ オ ン,
部 分 脱 溶 媒 和 イ オ ン,④
溶媒
和 に参 加 し な い溶 媒 分 子,が 表 面 付 近 に存 在 す る可 能 性 が あ り,表 面 と接 しな い イ オ ン の 過 不 足 も過 剰 電 荷 量 に関 与 す る.図1.8の ンの 最 近 接 面 を界 面 に 平 行 な面Hと
シ ュ テル ンモ デル で は,イ オ
す る.
a. 空 間 電 荷 に対 す るポ ア ソ ン‐ボ ル ツ マ ン方 程 式 電極 相 表 面 か らイオ ン伝 導体 内部 へ 向か う座 標 をx,過 せ ば,ポ ア ソ ン方程 式 は
剰 電荷 三 次元 密度 を ρ1で表
(1.30) で,ε0は 真 空 の誘電 率,ε は媒 質 の比 誘 電率 で あ る.面Hの
座標 をxH,過 剰 電荷 ゼ ロ
のバ ル クの座標 をx1と す る と,過 剰電荷 の二 次元密 度 σ1は (1.31) で表 せ る. 簡単 の た め,+1価 カ チオ ン と−1価 ア ニオ ンの電 解質 を仮定 す る と,カ チオ ン密 度 N+と アニオ ン密度N− の不均衡 で 生 じる ρ1は,
図1.8 シ ュ テル ン の電 気 二 重 層 モ デ ル 1:溶
媒 配 向 分 極領 域,2:空
二 重 層),3:バ
間 電 荷 領 域(拡
散
ル ク(過 剰 電 荷 密 度 ゼ ロ).
ρ1=e(N+−N−) で あ る.静
電 位
(1.32)
φ が 高 い ほ ど カ チ オ ン は い に く く,ア
ニ オ ン は い や す い が,バ
ル クの
静 電 位 を φ1と し て ボ ル ツ マ ン 分 布 則 を 適 用 す れ ば, (1.33)
(1.34) と 書 け,N1は
バ ル ク に お け るN+,N−
で あ る.ρ1と
ソ ン 方 程 式 と 組 み 合 わ せ れ ば よ い.そ
φ の 関 係 を 表 す これ らの 式 を ポ ア
の ポ ア ソ ン‐ ボ ル ツ マ ン 方 程 式 の 解3)を
著者 が書
き 換 え る と, (1.35)
(1.36) で,uHは
静 電 位 差(φH−
φ1)を
無 次 元 化 す る.電
と 分 母 に ア ボ ガ ド ロ 数 を か け る とRT/F)は,25℃ つ ま り,25℃
に お け るkTは
こ こ で│uH│≪1の
約25meV(25−25で
気 化 学 で よ く 登 場 す るkT/e(分 で 約25mVの
子
電 位 差 に 相 当 す る.
覚 え や す い)の
エ ネ ル ギ ー で あ る.
と き,式(1.35)は (1.37)
と 近 似 で き る.ε0/F・m−1=ε0/C2・J−1・m−1=8.85×10−12,k/J・K−1=1.38×10−23,e/C =1
.62×10−19で
あ り,ε1=80(水
1mol・dm−3),T/K=298の1−1型
の 概 略 値)と
す れ ば,N1/cm−3=6.0×1020(=濃
電 解 質 水 溶 液 に 対 し て,こ
μC・cm−2(=3.6×1013e・cm−2=3.6×10−3e・A−2)と
度
の 式 右 辺 の 平 方 根 は5.9
見 積 ら れ る.
b. 空 間 電 荷 層 の 厚 さ 面Hで
の 静 電 位 勾 配 の ま ま,ど れ だ け溶 液 内 部 へ 進 め ば φ1の静 電 位 に達 す るか を 示
す デ バ イ 長 さLddは,空
間 電 荷 層 の 重 要 なパ ラ メ ー タ で, (1.38)
と定 義 され る.一 方,電
束 線 に 関 す る ガ ウ ス の 定 理 を 適 用 す れ ば, (1.39)
が 得 ら れ,こ
れ らの 式 か ら (1.40)
(1.41) が 導 け る.近
似 式(1.41)は│uH│≪1,│φH−
型 電 解 質 の 密 度N1の
φ1│≪(kT/e)の
平 方 根 に 逆 比 例 す る が,uHに
場 合 に 適 用 さ れ,1−1
は依 存 し な い.こ
表 厚 さ を同 様 に 見 積 る と,濃 度1mol・dm−3でLdd/nm=30と
の空間電 荷層 の代
な る.
c. 固 定 電 荷 と分 布 電 荷 面Hは
ヘ ル ム ホ ル ツ 面 と通 常 呼 ば れ る が,こ
の 面 上 の 過 剰 電 荷 二 次 元 密 度 σHを も し
別 扱 い に す れ ば, (1.42) と書 き直 さ れ,吸
着 の よ う な 非 電 磁 気 学 的 要 因 で 集 積 す る イ オ ン の 過 剰 電 荷 量 も σHに
含 め ら れ る.右 辺 第2項
の 空 間 分 布 電 荷 が 無 視 で きれ ば σ1〓σHで,σHは
電 子 状 態 中 の 過 剰 電 荷 量 に相 当 す る.x>xHの double
layer)と
い の で,注
呼 ば れ,後
電極 相 の表 面
空 間 電 荷 領 域 は 拡 散 二 重 層(diffused
に 登 場 す る 拡 散 層(diffusion
layer)と
きわ め て 紛 らわ し
意 を 要 す る.
1.3.4 電 極 系 の 静 電 位 差 と そ の 変 化 電 極 系 界 面 両 側 の 電 気 的 中 性 条 件 は,も
ちろん
σE=− σ1 で あ る.電
(1.43)
極 相 表 面(平
面 と す る)Sと
面H間
電 荷 の み で 過 剰 真 電 荷 が 存 在 し な い と仮 定 し,ガ
の 領 域(0<x<xH)に
は,分
極
ウ ス の 定 理 を 再 度 適 用 す れ ば, (1.44)
と な る.つ
ま り,こ
の 領 域 を 平 行 平 板 キ ャ パ シ タ と み な す も の で,水
溶 液で水 の
図1.9 電 極 系 の 静 電 位 差 の配 分 #:イ
オ ン伝 導 体 側 の 空 間 電 荷 層(拡
*:電
子 伝 導 体 側 の 空 間 電 荷 層.
散 二重 層),
(a):#な
し,*な
し
(b):#あ
り,*な
し
(c):#な
し,*あ
り (d):#あ
り,*あ
り
比 誘 電 率 をそ の ま ま代 入 す るな らば,ε1/−=78.54(298K)で 界 面 両 側 の 静 電 位 φの 変 化 を一 般 化 し,図1.9に
あ る.
示 した.φ が 非 直 線 的 に 変 化
す る両 側 の 空 間 電 荷 層 は,電 子 担 体 や イ オ ンの バ ル ク密 度 が 高 い と圧 縮 され,界 面 は(a)の
よ う にS−Hの
平 行 板 キ ャパ シ タ に近 づ く.
電 子 伝 導 相 バ ル ク とイ オ ン伝 導相 バ ル ク との 静 電 位 差
(1.45) は絶 対 電 極 電 位 と呼 ば れ る こ とが あ る.し か し このgは,組 で の 静 電 位 差 で,直
接 的 に 実 測 で きな い.静 電 位 差gの
成 が 異 な る二 相 間
絶 対 値 は 不 可 測 だ が,
そ の変 化 量 Δg=−Δ(φS− φE)+Δ(φH− φⅠ) は測 定 ・設 定 で き る.図1.10の
(1.46)
よ う に,電 極 相 が 金 属 の 場 合 は 右 辺 第1項
半 導 体 の場 合 は(か な り注 意 を要 す るが)第2項
を,
を無 視 す るの が 一 般 的 で あ る.
電 極 系界 面 の 微 分 静 電 容 量Cは (1.47) で,2つ
の キ ャパ シ タCE,CIの
直 列 接 続 に あ た る.上 述 の近 似 はCE≫CI(金
属
図1.10 電 極 系 の 静 電 位 差 変 化 の配 分 (b):金
電 極),CE≪CI(半
属 電 極 の典 型例,(c):半
導 体 電 極)と
等 価 で,Δgと
導 体 電 極 の典 型 例
σ の変 化 に 際 して,静 電 容 量 が
小 さ く分 極 しや す い 側 で 大 きな 静 電 位 差 が 発 生 す る.
1.4 反 応 性 界 面 の 静 電 状 態
電 子 伝 導 体│イ オ ン伝 導 体 界 面 を横 切 る電 子 移 動 が 可 能 な ら ば,界 面 の 自然 状 態 は電 子 移 動 の 平 衡 条 件 で規 定 され る.電 子 ピ ッチ ャ ー(還 元 体)と 電 子 キ ャ ッ チ ャー(酸 化 体)の 種 類 に よ って,電
―つ ま りレ ドッ ク ス対 が 何 か―
とそ れ ら の人 口 密度
子 伝 導 体 中 の 自 由電 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー が 決 ま る.平 衡 状 態 で や り
と り され る電 子 の 流 束 が 交 換 電 流 密 度 に対 応 す る.「 酸 化 体 ・還 元 体 の 少 な く と も一 方 は イ オ ン」 と 「電 子 は遠 投 が きか な い の で,界 面 直 近 の 酸 化 体 ・還 元 体 濃 度 が 考 察 対 象 」 の2点
は,是 非 読 み落 と さな い で ほ し い.
1.4.1 界 面 を横 切 る電 荷 担 体 の 動 的 平 衡:交 セ ル(1.1.4項)の
電 極A│Fe2+/3+,電
換電 流密度
極C│Co2+/3+の
ような電 子 ノ ンブ ロ ッ
キ ン グ界 面 を考 え よ う.均 一 系 の場 合 と 同 様 の 理 由 で,Fe2+やFe3+がAの 面 に接 近 した と き だ け電 子 が 移 動 し,遠 投 は で き な い.図1.11の 授 受 に参 加 で き るFe2+,Fe3+の
表
よ う に,電 子
整 列 面 を電 極 面 と呼 び,電 極 相 表 面 と区 別 す る.
両 方 向 の 電 子 移 動 速 度 がi0で 等 し く,正 味 の 電 子 流 束 が ゼ ロ の 平 衡 状 態 を図 1.12に 示 す.i0は
交 換 電 流 密 度 と呼 ば れ,電 子 移 動 速 度 を単 位 界 面積 あ た りの 電
流 値 で 表 した もの だ が,そ
の 大 き さ は 動 電 現 象 の 容 易 さ(1.7.4項)と
外 乱 に対
図1.11 電極 面 の概 念
図1.12電
電 子 移 動 に 参 加 可 能 なR,O
子 移 動 の 平 衡 と交 換 電流密度
の 整 列 面.
す る 電 極 系 の 安 定 度 を 示 す.i0の 大 きい 電 極 系 は,平 衡 か らわ ず か に ず れ た だ け で か な りの反 応 電 流 を生 じ る.1万
人 の乗 客輸 送 が ロ ー カ ル 線 よ り東 海 道 新 幹 線
に とっ てず っ と楽 で あ るの と似 て い る. 酸 化,還
元 方 向 の電 流 密 度i+,i− は,そ れ ぞ れ i+=k+NempNFe2+
(1.48)
i−=k−NocpNFe3+
(1.49)
で 近 似 で き,NempとNocpは 密 度,NFe2+とNFe3+は たk+,h−
電 極 相 表 面 で の空 電 子 状 態 と占有 電 子 状 態 の二 次 元
電 極 面 で の 電 子 ドナ ー とア ク セ プ タ ー の 二 次 元 密 度,ま
は速 度 定 数 で あ る.こ れ は各 電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー分 布 を 考 慮 しな い
近 似 で,詳 細 は他 書4)に ゆず るが,通
常 の電 極 系 界 面 で の 電 子 移 動 は 等 エ ネ ル ギ
ー の 占 有 ・非 占有 状 態 間 で 起 こ り,電 磁 波 の 出入 りを伴 わ な い. 電 極 相 を 金 属 に 限 定 す る と き,NcmpやNocpは
定 数 と さ れ る.ま た 電 極 相 が 半
導 体 の と き は,そ の表 面 ば か りで は な く,ト ン ネ ル 効 果 で 内 部 と行 う電 子 遠 投 授 受 も考 慮 す べ き場 合 が あ る.
1.4.2 標 準 水 素 電 極 系 の 基 準 設 置 セ ル 起 電 力 の 基 準 とな る 左 側 電 極 系 に は,標 準 状 態 の 水 素 電 極 系(安 電 極 相 がH2分 standard
圧1atmの
hydrogen
これ を 左 側,任
気 相 とH+イ
定 な 白金
オ ン活 量 が1の
水 溶 液 相 とに 接 した 系.
electrodeの 頭 文 字 か ら略 称SHE)が
国 際 的 標 準 と され る.
意 の可 逆 電 極 系 を右 側 に お き,た と え ば
(1.50) の セ ル を 構 築 し,実
測 され る可 逆 起 電 力 (1.51)
か ら,任
意 電 極 系 電 極 相Cの
式(1.50)の
フ ェ ル ミ準 位EF,cをEF,Pt基
反 応 を 移 動 電 子 数n=2で
準 で 定 め る.
記 述 す る と,
ア ノ ー ド反 応:H2→2H++2e− カ ソ ー ド反 応:2Fe3++2e−
(1.52)
→2Fe2+
(1.53)
全 反 応:H2+2Fe3+→2H++2Fe2+ で,そ
の−⊿Gは1.2.1.fか
(1.54)
ら (1.55) (1.56)
で 表 さ れ る.α1は
化 学 種iの
活 量,μ1゜ は 標 準 化 学 ポ テ ン シ ャ ル,−⊿G゜
自 由 エ ネ ル ギ ー 減 少 で あ る.標
は標 準
準 水 素 電 極 の 定 義 を も と に 書 き 直 せ ば, (1.57)
で,μH+゜
と μH2゜は と も に ゼ ロ と さ ら に 約 束 す る と,−⊿Gは (1.58)
と な り,右
側 電 極 系 の 酸 化 体 ・還 元 体 の 種 類 と活 量 だ け で 表 現 で き る.
セ ル 反 応 の −⊿Gを1molの る 可 逆 起 電 力Urcvに
電 子 に 対 す る 電 位 差 に 換 算 し た も の が,実
測 され
等 し くな る (1.59)
に は,イ
オ ン 伝 導 体 間 の 界 面‖ に 静 電 位 差 が あ っ て は な ら ず,Urcvの
計測 機器
が 十 分 に 大 き い 入 力 抵 抗 を も つ こ と も必 要 で あ る.
1.4.3 相 対 電 極 電 位 に 関 す る ネ ル ン ス トの 式 さ て,右
側 の 電 極 系 で の 還 元 反 応 を よ り一 般 的 に カ ソ ー ド反 応:xO+ne−
と 書 け ば,移
動 電 子nmolに
→yR 対 す る −⊿Gは
(1.60)
(1.61) で 表 さ れ る.左
側 にSHEを
お い た セ ル のUrevを,右
側 電極 系の可逆電極電位 (1.62)
と定 義 す る と,上
の式 か ら (1.63)
(1.64) が 導 か れ,Erevは 呼 ば れ るE゜
酸 化 体 と還 元 体 の 活 量ao,aRの
はao=aR=1の
関 数 と な る.標
と き のErevで,電
準電極電位 と
極 系 の 固 有 値 で あ る(付
録A参
照). 標 準 水 素 電 極 は 取 り扱 い や 維 持 が 容 易 で は な い た め,実 基 準 電 極 系(参
照 電 極 と も 呼 ぶ.付
録B参
照)を
際 の 測 定 に は他 の 第 二
用 い る こ と が 多 い.
1.4.4 ネ ル ン ス トの 式 の 意 味 式(1.63)は
熱 力 学 的 に 導 か れ た が,図1.13の
よ う に,電
子 を 収 容 し た い 酸 化 体O
が 増 え,電
子 を 放 出 し た い還 元 体Rが
減 る と,電 子 移 動 平 衡 を保 つ に は 電 極 相 のEFを
下 げ,Oへ
の 電 子 供 給 を 抑 制 し てRか
ら の 電 子 収 納 を促 進 す る必 要 が あ る.EF低
下 は
Erev上 昇 と等 価 で あ る. 他 書5)で す で に 指 摘 さ れ た が,電
子 伝 導 体 中 の 自 由 電 子 と 同 様 に,R/Oレ
系 中 に保 持 さ れ る反 応 関 与 電 子 に 対 して もフ ェル ミ-デ ィ ラ ッ ク 統 計
図1.13 電極面上 での酸化体 ○/還元体○ 濃度比 による電極相EFの 変 化
ドックス
(1.65)
が 成 り立 っ こ と を,ネ
ル ンス トの 式 は 示 し て い る.こ
状 態 を 電 子 が 占 有 す る確 率 で,f(EF)=0.5で の 分 母 は,kTで
は な くRTと
簡 単 の た め,RとOの 態,Oは
電 子n個
し,電
こで,f(E)は
あ る.エ
子1molに
つ い て 表 記 し て い る.
化 学 量 論 係 数 は い ず れ も1と
が 空 で あ る 状 態 と考 え る.電
占有 状 態 の 密 度 がnaRに
エ ネ ル ギ ーEの
ネ ル ギ ー を 無 次 元 化 す るexp項
し,Rは
電 子n個
を所 有 す る状
子 の 全 状 態 密 度 がn(ao+aR)に,電
子
正 比 例 す る な ら ば, (1.66)
と書 け,こ
れ を 式(1.65)に
代 入 す れ ば, (1.67) (1.68)
を 得 る.ao=aRの
と き のEFをEF゜
と お い て,Eを
消 去 す る と, (1.69)
と な り,ao/aR(近
似 的 にO/R濃
度 比)に
に 対 す る 電 位 変 化 に換 算 す れ ば,ネ
よ るEFの
変 化 を表 す.こ
ル ン ス トの 式(1.63)と
れ をnmolの
電子
同 形 に な る.
1.4.5 空 間 電 荷 層 の 影 響 電 子 移 動 に 関 わ る の は,電 極 相 表 面 近 傍 のRやOに ら の 存 在 位 置 を ヘ ル ム ホ ル ツ面H上 は 面H上 R,Oの
の 値 で,バ
と仮 定 す れ ば,ネ
限 定 さ れ る.し た が っ て,そ
れ
ル ン ス トの 式 中 の 活 量 比aO/aR
ル ク に お け る値 で は な い.
少 な く と も一 方 は イ オ ン種 で,か
位 が バ ル ク φ1と面H上〓
つ 同 価 数 イ オ ンで は あ り得 な い た め,静
で 異 な る場 合 に は,ao/aRも
と え ばRが+2価,Oは+3価
の カ チ オ ン で,そ
バ ル ク と面H上
電
で 異 な る.た
れ らの 活 量 が (1.70) (1.71)
の 関 係 に した が う な らば(=電
気 化 学 ポ テ ン シ ャル の 仮 定), (1.72)
が 導 か れ るが,両
辺 の(3−2)は
荷領 域 が 拡 が る 場 合 も,〓
移 動 電 子 数nに で 決 ま るEFに
ao.I/aR,Iか ら形 式 的 に算 出 さ れ るEFに い る.つ
一 般 化 さ れ る.面Hの 静 電 位 差(φH−
等 し く な る こ とを,式(1.69),(1.72)は
ま り,拡 散 二 重 層 の 存 在 はEFやErevに
影 響 しな い が,ao
外側 に空間 電
φI)Fを 加 味 す れ ば, 示 して
,H/aR,Hを 変 化 させi0
に は影 響 す る.電 極 相側 に空 間電荷 領域 が存 在 す る場 合 も,ま った く同様 で あ る.
1.5 伝 導 体 内 部 で の 動 電 現 象
い よ い よ電 荷 が 一 方 向 に移 動 す る現 象 を述 べ よ う.こ の 節 で は,電 子 伝 導体 や イ オ ン伝 導 体 の 内 部 にお け る電 荷 担 体 の移 動 現 象 を ま と め た.元 来 は100%物 学 の ジ ャ ン ル で あ ろ うが,電
理
気 化 学 に とっ て も重 要 な事 項 を含 ん で い る.
1.5.1 電 荷 担 体 の 運 動 方 程 式 と移 動 度 ビル 屋 上 か らパ チ ン コ玉 を落 とせ ば,空 気 抵 抗 力 は ほ ぼ 無 視 で き,地 面 ま で の 大 半 は等 加 速 度 落 下 す る.質 量mと
半 径 γ の比(m/γ)が
小 さ い ピ ン ポ ン玉 な
ら,空 気 抵 抗 力 の た め 大 半 は等 速 度 落 下 す る.電 場 中 で の 電 子 や イ オ ン の運 動 は ピ ンポ ン玉 落 下 に類 似 で,位 置 に よ らな い 一様 な電 場 が 伝 導体 に印 加 され る と, 電 荷 担 体 は最 初 加 速 され る が,周 囲 か らの 抵 抗 力 が 増 加 す る と等 速 度 運 動 に入 る. 重 力 場 の 影 響 を無 視 し,x軸 電zeの
方 向 の一 様 な電 場 強 度 をVと
し て,質 量m,荷
坦 体 粒 子 の 運 動 方程 式 を書 け ば, (1.73)
で あ る.左 辺 第1項
は 電場 か ら受 け る駆 動 力,第2項
は速 度 に 正 比 例 して 媒 質 か
ら受 け る抵 抗 力 だ が,速 度 が 上 昇 し て こ れ らが つ り あ う と,加 速 度 は ゼ ロ と な り,等 速 度 の 定 常 運 動 に 至 る.こ の とき,坦 体 の 定 常 速 度 は (1.74) で 表 せ,V,zと
抵 抗 力 の 係 数Yで
決 ま る.定 常 速 度 をVで
割 る と,
(1.75) で 泳 動 の 移 動 度(=ド
リ フ ト移 動 度)uが
流 体 中 の イ オ ン に 対 す る 係 数Yは,流 Y=6π で 表 さ れ,ス
定 義 で き る. 体 を か き わ け て 進 む 球 モ デ ル か ら,
ηγ トー ク ス 式 と 呼 ぶ(π:円
(1.76) 周 率).流
体 の 粘 性 率 η が 高 い ほ ど,イ
オ ン半 径rが
大 き い ほ ど移 動 度uは
低 下 す る.固 体 中 を泳 動 す る 自 由電 子 や イ
オ ン の場 合 は,構 成 原 子 や 他 イ オ ン との 衝 突 で 高 速 度 ほ ど跳 ね 返 され や す くな る.ま た 高 温 ほ ど格 子 振 動 が 激 しい の で,自 由 電 子 の移 動 度 は低 下 す る. 2階 常 微 分 方 程 式(1.73)を
時 間tで1回
積 分 し,初 速 度 を ゼ ロ とお く と, (1.77)
を得 る.exp項
を無 次 元 化 す る非 定 常 運 動 の 時 定 数 τは, (1.78)
で,こ
の時 定 数 以 内 に電 場 自体 が 変動 す れ ば,定 常 運 動 に至 らず,オ
ームの法則
も適 用 で きな い.水 溶 液 中 の イ オ ン伝 導 に対 す る オ ー ム の 法 則 の上 限 周 波 数(= 1/τ)を,便
覧 デ ー タ か ら見 積 も られ た い.mは[エ
ネ ル ギ ー][速 度]−2次 元 で
あ る.
1.5.2 ア イ ン シ ュ タ イ ンの関 係 式 と電 気 伝 導 率 電 流 はゼ ロ だ が,荷 す る場 合,静
電zeを
もつ 担 体 の 密 度Nと
静 電 位 φがx軸
電 位 置 エ ネ ル ギ ー に 関 す る ボル ツ マ ン則 で 密 度Nを
方向 に変化
表 せ れ ば, (1.79)
で,N0は
φ=0の 基 準 点 で の 担 体 密 度 で あ る.Nの
勾配 (1.80)
は,無 次 元 化 静 電 位zeφ/kTの
勾 配 とNの
積 に 等 し い.担 体 が 濃 度 勾 配 で 拡 散
す る際 に運 ぶ 電 流 密 度idiffは,フ ィ ック の第 一 法 則 か ら (1.81) で 表 せ,Dは
そ の(自 己)拡 散 係 数 で あ る.こ れ らの 式 か ら, (1.82)
を得 る.一 方,担 体 が 静 電 位 勾 配 で泳 動 す る際 の電 流 密 度imlgは (1.83)
だ か ら,idiff+imlg=0で
電 流 ゼ ロ の と き,ア
イ ン シ ュ タ イ ン の 関係 式 (1.84)
が 導 け る.こ
の 式 は,φ
とN(厳
密 に は 化 学 ポ テ ン シ ャ ル)が
場 で,担
体 の 静 止 条 件 を 規 定 す る.z=+1の
cm−3)で
存 在 す る な ら,電
と も に変 化 す る
担 体 が1mol・dm−3(密
位 勾 配+25mV・dm−1が
度6×1020
濃 度 勾 配−1mo1・dm−4と
つ
り あ う(25℃). 電 荷z1e,移
動 度u1の
担 体iが
密 度N1で
共 存 す る と き,伝
導 率κ は 一 般 に (1.85)
で表 され る.こ れ は各 担 体 の 独 立 泳 動 の仮 定(=電 シ ュの イ オ ン独 立 移 動 則)を
含 む が,電
解 質 溶 液 の場 合,コ
ール ラウ
気 伝 導 や 拡 散 な どの 不 可 逆 輸 送 現 象 で
は,各 流 束 の相 関 関 係 も議 論 の 対 象 とな る(た
とえ ば,文 献6)参 照).
1.5.3 電 気 伝 導 経 路 の 抵 抗 とジ ュー ル 熱 伝 導 率 κの 電 気 伝 導 体 が 電 流 通 過 断 面積A,距
離Lの
形状 を もつ な ら, (1.86)
で,そ
の 電 気 抵 抗Rを
簡 単 に表 せ る.し か し電 解 液 の 伝 導 経 路 でAが
は む し ろ例 外 で あ る.Aが
一 定 で な く と も通 過 距 離 の 関 数 で 表 せ れ ば(同 心 二
重 円筒 面 間,異 面 積 の 平 行 平 面 間 な ど),Rを オ ー ム の 法 則 に よれ ば,抵 抗Rの 端 に電 圧IRが りI2Rの
一定 なの
積 分 で 求 め られ る.
経 路 に電 流Iで
電 荷 を移 動 させ る に は,両
必 要 で,電 気 伝 導 の た め に貴 重 な 電 気 エ ネ ル ギ ー が 単 位 時 間 あ た
ジ ュ ー ル 熱 に変 わ る.IかRを
小 さ くす れ ば,こ
ジ ュ ー ル 熱qJは 電 気 化 学 系 が 放 出 す る不 可 逆 熱(1.2.2.c)の
の損 失 を抑 制 で き る. 一 部 に す ぎ な いが,
そ の 発 生 速 度 は各 伝 導 経 路iの 抵 抗 をRiと す る と, (1.87) で 表 せ る.qJ抑
制 の た め にIを
と え ば,ソ ー ダ電 解 槽 でIを50%に
小 さ くす る と,工 業 上 は経 済 的 損 失 を生 む.た
約50%に
な り,NaOH1tあ
す る と,単 位 時 間 あ た りのNaOH生
産量も
た りの 人 件 費 や プ ラ ン ト償 却 費 は 約2倍
に増 加 す
る.不 可 逆 的 な 放 出熱 の抑 制 や 有 効 利 用(一 部 の燃 料 電 池 で は温 水 併 給 で実 施)
は,高 電 力 料 金 のわ が 国 にお け る電 気 化 学 工 業 で は と くに重 要 で あ る.
1.6 誘 電 性 界 面 付 近 で の 動 電 現 象
この節 で は,電 子 移 動 反 応 が 起 こ り得 な い界 面 に通 過 す る電 流 を考 え よ う.こ の 種 の 電荷 輸 送 は,界 面 で 対 立 す る 過剰 電 荷 の 変 化 を必 然 的 に もた らす.「 過 剰 電 荷 量 の 上 限 に よ り定 常 電 流 は ゼ ロ」 と 「過 剰 電 荷 量 の 制 限 を オ ーバ ー す れ ば, 電 子 移 動 を伴 う破 壊 現 象 が 起 こ る」 の2点 が キ ー ポ イ ン トで あ る.
1.6.1分
極 性 電 流 の通 過:過
剰 空 間 電 荷 量 の増 減
誘 電 性 界 面 に通 過 す る電 流 は,自 然 浸 漬 状 態 で先 在 す る界 面 過 剰 電 荷 量 を増 減 させ,図1.14の
よ う な誘 電 分 極 を引 き起 こす.単 位 面 積 あ た りCの
微分 静電容
量 を もつ 界 面 に,一 定 電 流 密 度iを 与 え た とき の応 答 は,式(1.47)か
ら (1.88)
で 表 せ,C一
定 の範 囲 内 で は,絶 対 静 電 位 差g(≡
的 に変 化 す る.不 可 測 なgを
φE−φI)が 時 間tに 対 し直 線
可 測 な 相対 電 極 電 位Eで
置 き換 え る と,
E−Epzc=g と書 け るが,左
(1.89)
辺 のEpzcは
え る無 電 荷 電 位(potential 1)自 然浸 漬 状態 電極表面に正電荷
charge)で,静
of
zero
電容量や界面 張力 な
どの 測 定 で実 験 的 に 決 定 で きる. 自然 浸 漬 電 位Espか
2)分 極 途 中状 態 非帯電.Epzc
σ=0を 与
電 位Eに
ら別 の あ る電 極
保 持 す る と,分 極 性 電 流 密
度は
3)外 部 分 極状 態 電極表面に負電荷
(1.90) の よ う に,時 間tに 対 し て指 数 関 数 的
図1.14 金 属│電 解 質 溶 液 界 面 に お け る誘 電 分極 過程 の一 例(電 〓 :溶 媒 双 極子,*:空 重 層).
流 方 向 ←)
間 電荷 領 域(拡
散二
に 減 少 す る.こ
こで,Rは
こ の電 極
系 の等 価 直 列 抵 抗 で,CRは
非 定常電
流 の 時 定 数 に あ た る.次
項 に 述 べ る 理 由 か ら,誘
電 性 界 面 に お け る動 電 現 象 は す
べ て 非 定 常 的 な も の と し て 取 り扱 うべ き で あ る .
1.6.2 誘 電 分 極 の 限 界:分 静 電 容 量Cの
極 性 界 面 の 降伏
通 常 の キ ャ パ シ タ を 電 圧Uま
電 体 に蓄 え られ た 静 電 エ ネ ル ギ ーEPolは,そ
で 充 電 し た と き,分 極 電 荷QPolと
誘
れ ぞれ (1.91) (1.92)
で 表 され るが,U,Qpol,Epolに 分 子,不
は上 限 が あ る.図1
電 子 な だ れ),絶 シ タ 内 部 にEpolが
放 出 さ れ,不
可 逆 的 な構 造 変 化 を 招 く. も上 限 が あ り,本 来 は 誘 電 性 の 電 極 系 界 面 が,非
極 性 電 流 の 通 過 を許 し始 め る.図1.16の の 界 面 に つ い て 独 立 で,負
極 表 面 の 蓄 積 電 子 が 電 解 液 側 へ しみ 出 し た り,電 子
元 ・酸 化 が 起 こ る.「 正 極 付 近 の 集 積 ア ニ オ ン が 酸 化 さ れ,負 還 元 さ れ る 」 とは 限 ら ず,そ
れ 以 外 の 化 学 種(溶
図1.15 誘 電 体 結 晶 の 降 伏:電 子 点 の価 電 子,○:正
分
よ う に,過 剰 電 荷 の 集 積 を 妨 げ る こ の 降 伏 現
が 枯 渇 した 正 極 表 面 に 電 解 液 側 か ら電 子 が し み 入 っ た り して,電
●:格
電 体 の 構 成 原 子,
れ らが 玉 つ き移 動 し(=
縁 破 壊 の 電 子 電 流 が 通 過 す る.両 極 の 蓄 積 電 荷 の 中 和 に際 し て キ ャパ
電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ のEpolに
象 は2つ
.15の よ うに,誘
可 動 イ オ ンが 強 電 場 に 耐 え きれ ず 電 子 を 放 出 し て,そ
子 なだ れ 電 流 孔
電 子 と正 孔 の対 は ね ず み 算 式 に増 加.
解 液 中の 化 学種 の還
極 付 近 の 集 積 カ チ オ ンが
媒 な ど)が 対 象 で も よ い が,電
図1.16 分 極 性 界 面 の 降 伏: 還元電流 の とき 負 に帯 電 した 電 極 相 表 面 か ら 電 子 が 飛 び 出 し,何
らか の化
学 種(過 剰 な カ チ オ ン と は限 ら な い)を 還 元.
解液 中
央 部 に は電 子 電流 で は な くイ オ ン電流 が通過 す る.
1.6.3 分 極 性 電 流 と非 分 極 性 電 流 の特 徴 以 上 の よ う に,電 極 系界 面 で の動 電 現 象 で は,対 立 過 剰 電 荷 量 を増 減 さ せ る誘 電 分 極 性 電 流 と,反 応 を伴 う非 分 極 性 電 流 との 明 確 な 区 別 が 必 要 で あ る.重 要 な 点 は,①
界 面 が 誘 電 性 を保 つ 限 り非 分 極 性 電 流 は通 過 し な い が,反
は分 極 性 電 流 も一 部 通 過 す る,② ず,イ
オ ン もあ り う る,③
極 系 が と もに 非 分 極 性,と
応性界 面 で
非 分極 性 界 面 を横 切 る 坦 体 は 電 子 に 限 定 さ れ
実 用 は さ て お き電 荷 輸 送 だ け を 考 え る と,左 右 の電 も に分 極 性 で あ る 必 要 は な い.
「非 」 が 逆 に つ くが,誘 電 分 極 性 電 流 を非 フ ァ ラ デ ー 電 流(in−F),非 分 極 性 電 流 を フ ァ ラ デ ー 電 流(iF)と
も呼 ぶ.誘
電 性 界 面 で の 過剰 電 荷 量 に は上 限値 が あ る た め,図1.17の
模式 図 の よ うに通 過
す るin−Fの 定 常 値 は ゼ ロ で,時 間 依 存 性 の 非 定 常 成 分 だ け か らな る.一 方,反 応 性 界 面 で はin−Fの ほ か にiFも 通 過 で き,反 応 が 定 常 的 に進 行 可 能 な らiFは 有 限 の 定 常 値 を も つ(iF=非 +定 常 成 分).主
定常成分
要応 用 分野 の電解 槽 や
電 池 な どは,左 右 と も に定 常 進 行 可 能 な 反 応 性 界 面 で 構 成 さ れ る.
図1.17 電 極 系 を通 過 す る非 フ ァ ラ デ ー電 流(in−F)と
フ ァ ラデ ー 電 流(iF)
1.7 反 応 性 界 面 で の 動 電 現 象
つ い に電 気 化 学 の メ イ ンテ ー マ にた ど りつ い た.電 子 移 動 反 応 が 起 こる反 応 性 界 面 で の 通 過 電 流 に対 して は,電 荷 収 支 の み な らず 反 応 関与 物 質 の 収 支 も考 慮 す る必 要 が あ る.反 応 に 関 与 す る の は,一 般 に 電 子 とイ オ ン と非 イ オ ン で あ り, 「電 子 は伝 導 電 子,イ る泳 動(電
オ ン は伝 導 イ オ ン」 と は限 ら な い.物 質 輸 送 の 駆 動 力 で あ
子 とイ オ ン の み),拡
散,対 流(流 体 相 中 の み)の 働 き を,1.7.2項 で
注 意 深 く読 み取 って ほ しい. な お この 節 で は,時 間tも 考 慮 す べ き非 定 常 な輸 送 現 象 を割 愛 した.
1.7.1 移 動 電 荷 量 と化 学 種 の 物 質 量 変 化:フ 反 応 性 界 面 を通 過 す る電 荷 量Qと
ァラ デ ー の 法 則
関 与 化 学 種 の物 質 量 変 化⊿Mと
が正 比例 す
る とい う フ ァ ラ デ ー の法 則 は
(1.93) と書 け る.こ
こで フ ァ ラ デ ー 定 数Fは1molの
mol(e−)−1),ま
たnは
その 物 質1molあ
この 式 は フ ァ ラ デ ー電 流(定 して 成 立 し,電 流Iが
電 子 が もつ 電 荷 量(=96.5kC・
た りに移 動 す る電 子 のmol数
で あ る.
常 で な くて も よ い)を 時 間tで 積 分 した 電 荷 量 に対
非 フ ァ ラデ ー 成 分 を含 む場 合 に は適 用 で き な い.
1.7.2 反応 関 与 物 質 お よ び 電 荷 の 定 常 輸 送 電 極 系 で の 反 応 の進 行 に は,伝 導 電 子 → 反 応 電 子 ⇒ 反 応 関 与 イ オ ン→ 伝 導 イ オ ン(ま た は そ の 逆)の 電 荷 リレ ー と同 時 に,リ 関 与 非 イ オ ン種 も含 め た物 質 輸 送)も 図1.18に 描 い た が,こ
レー ラ ンナ ー のや り く り(=反
応
要 求 され る.最 も 単純 な反 応 の 進 行 過 程 を
れ は反 応 性 界 面 へ の 反 応 物 の 搬 入,電 子 移 動,反 応 性 界
面 か らの生 成 物 の搬 出 の 素 過 程 か らな る.一 般 に は,電 子 移 動 に先 行 また は後 続 す る化 学 反 応 や 吸 着 ・脱 着 な どの 過 程 も含 まれ る.界 面 電 子 移 動 に あ た る矢 印 ⇒ の 議 論 は後 回 し とし,こ
こで は そ れ以 外 の 輸 送 現 象 を 述 べ る.
関 与 物 質 の 輸 送 場 は反 応 性 界 面 に接 す べ きだ が,非
イ オ ン種 の輸 送 場 だ け は,
電 子 伝 導 相 や イ オ ン伝 導 相 に 限 らず 第3 の相 で も よい.つ 立 な気 相,液
ま り,両 伝 導 相 と は独
相,固 相 を含 ん だ 三 相 界 面
1)は じめ
2)反 応 物 の移 動
の 電 極 系 もあ りう る.関 与 物 質 の輸 送 が 遅 れ,時
間 と と もに反 応 場 で 反 応 物 が 不
3)電 子 の移 動
足 し,生 成 物 が 蓄 積 さ れ る と,反 応 の 進 行 が 阻 害 され る.時 間 を考 慮 す べ き非 定
4)生 成物の移動
常 輸 送 現 象 は 除 外 し,以 下 で は定 常 輸 送 を考 え る.ま た,関 与 物 質 濃 度 に勾 配 が 生 じ る領 域 を輸 送 層 と定 義 す る.
5)お わ り
図1.18 最 も単 純 な電 極 反 応 の 進 行(素
過 程)
電 子 移 動 に先 行 ・後 続 す る化 学 反 応 過 程 な し.
なお 反 応 電 子,反
応 関 与 イ オ ンが 唯 一
の 電 荷 担 体 で もあ る場 合 に は,そ れ ぞれ 反 応 電 子 と伝 導電 子,反 応 関 与 イオ ン と 伝 導 イオ ン の 区別 は不 要 とな る.反 応 関 与 物 質 群 の輸 送 駆 動 力 は一 般 に拡 散 と泳 動 で あ るが,各 物 質 の移 動 が 互 い に独 立 な 限 り,非 イ オ ン種 の輸 送 に 静 電 位 勾 配 図1.19p型
半導体電極相への伝導帯電子
(少 数 電 荷 担 体)の
注入(係
は関 係 しな い.
数b》1)
a. 反 応 関 与 電 子 の 輸 送 層 半 導 体 電 気 化 学 を 詳 述 す る紙 数 の 余 裕 は な い が,半 子 帯 正 孔h+が 費 が,そ
区 別 さ れ る.こ
反 応 を 図1.19に %,左
れ ら電 荷 担 体 間 の 熱 的 平 衡 を 乱 す よ う な 担 体 の 生 成 や 消
の 表 面 で 進 行 す る場 合 に,以
p型 半 導 体(内
端 面PEで
e−,PEで
部 でh+の 描 い た.表
合 が 起 こ る.実
下 の考 察 が 必 要 とな る.
輸 率 が1)表
面 で,伝
面 の 輸 送 層 右 端 面SEで
はh+が100%の
右 向 き に100h+の
導 体 中 で は 伝 導 帯 電 子e− と価 電
導 帯 へ 少 数 担 体e− が 注 入 され る酸 化 は,非 平 衡 な 高 濃 度 に あ るe− が100
電 荷 を 輸 送 す る.単 位 時 間 あ た りSEで
左 向 き に100
定 常 流 束 が あ れ ば,輸 送 層 内 で は100(e−+h+)の
電 子再 結
在 粒 子 の 電 子 が 消 滅 す る の で は な く,表 面 で 注 入 さ れ た 非 平 衡e− は,
寿 命τe−が つ き る と低 エ ネ ル ギ ー 安 定 状 態(=h+)に
遷 移 し,電 荷 輸 送 は 継 続 さ れ る.
h+の 右 移 動 はe− の 左 移 動 に相 当 す る. SEで 注 入 さ れ たe− の 平 均 拡 散 距 離Le− は,そ
の 拡 散 係 数 をDe− とす る と, (1.94)
で 表 せ る.左 向 き の 位 置 座 標 をxと
し,x=Le−
で のe− 濃 度Ce− を ゼ ロ と近 似 す れ ば,
輸送 層 内 での平 均濃 度 は (1.95) と書 け,Ce−,0はSEで
のe− の 定 常 濃 度 で あ る.さ
うe− の 拡 散 流 束 が,定
常 反 応 電 流 密 度iに
ら に,フ
ィ ッ ク の 第 一 法 則 に した が
相 当 す る な ら ば, (1.96)
とな る.Ce−,0はiに さ い ほ ど,そ
正 比 例 す る が,再
結 合 速 度 が 低 くて τe− が 長 い ほ ど,ま たDe− が 小
の 比 例 係 数 が 小 さ くな る.以
上 と は 逆 に,e− が 表 面 か ら引 き 抜 か れ る還
元 反 応 の 場 合 は読 者 の 課 題 とす る. b. 反 応 関 与 化 学 種 の 輸 送 層 今,還 の反応 を
元 体Rl,酸
化 体Okの
化 学 量 論 係 数 を そ れ ぞ れvi,vkと
し,電
極 系で
(1.97) と 書 く.上
述 の よ う に,Rl,Okの
な く と も1つ
は イ オ ン 種 で,イ
う ち少 オ ン伝 導 相
に 存 在 す る.非
イ オ ン 種 は イ オ ン 伝 導 相,
電 子 伝 導 相,別
の 第 三 相 の いず れ に存 在 し
て も よ い.各 す れ ば,電
化 学 種 の 荷 電 数 をzl,zkと
荷収 支条件 は 図1.20 輸送 層内での反応物欠乏 と 生成物 蓄積
(1.98)
で 表 せ る.イ オ ン伝 導 相 に は反 応 非 関 与 イ オ ン も一 般 に共 存 す るが,定 常 状 態 の 輸 送 層 で は,非 関与 イ オ ン は静 止 し,関 与 イ オ ン種 の みが 電 荷 を輸 送 す る. 反 応 場 に 流 入 す るRlの 流 束 を〓Rl,反 応 場 か ら流 出 す るOkの れ ば,定 常 電 流 密 度(酸 化 方 向 を正 と定 義)iに
流 束 を〓Okと す
お け る物 質 収 支 条件 か ら,
(1.99) が 成 り立 ち,全 化 学 種 に要 求 さ れ る定 常 流 束 は1移 動 電 子 あ た り, (1.100) とな る.こ れ らの 物 質 輸 送 の駆 動 力 は濃 度 勾 配 に よ る拡 散 で,輸 送 層 内 の 静 電 位 勾 配 が小 さ け れ ば,イ 生 成 物Okが
オ ン種 の輸 送 に対 す る泳 動 の寄 与 も無 視 で き る.
図1.20の 輸 送 層 内 を一 次 元 的(非
イ オ ン種 な ら電 流 と無 関 係 な方
向 で よい)に 拡 散 す る と き,フ ィ ッ ク の第 一 法 則 で〓Okを 表 現 す れ ば, (1.101) とな り,GOk,Hは DOkはOkの
反 応 面 で のOk濃
拡 散 係 数,LOkはOkの
度,COk,lは
輸 送 層 外 側 で のOkバ
ル ク濃 度,
拡 散距 離 で あ る.電 流 密 度 が 高 い ほ ど,生 成
物 が 蓄 積 され てCOk,Hは 上 昇 し,反 応 が それ だ け 阻 害 さ れ る の で,定 常 進 行 に よ り多 くの 駆 動 力(一 般 に濃 度 過 電 圧 と呼 ば れ る)を 必 要 とす る.こ れ は,輸 送 層 内 に静 電 位 勾 配 が 生 じ る もの で は な い.化 学 種 濃 度 に は上 限 が あ り,液 相 輸 送 場 で はOkを
含 む沈 殿,固
相 輸 送 場 で はOkを
含 む 別 固 相 が 生 成 す る可 能 性 が あ る.
新 固相 の 出 現 に際 して は 結 晶 核 の生 成 と生 長 が 必 要 で あ る. 逆 に 反 応 物R1の 流 束 を表 現 す れ ば, (1.102) と な り,電 流 密 度 が 高 い ほ どCRl,Hは 低 下 し,反 応 物 が 欠 乏 す るの で,反 応 の 定 常 進 行 に よ り多 くの駆 動 力 を要 す る.CRl,Hが 下 限値 ぜ ロ ま で低 下 す る と, (1.103) と な り,拡 散 支 配 の 限 界 電 流 密 度iLに 達 す る.iL以
下の電流密度で は (1.104)
が 成 立 し,(i/iL)《1な
らばCRl.H〓CRl,lで,Rlの
輸 送 の 不 可 逆 性 は消滅 す る.
輸 送 場 が 流 体 の 場 合,物 質 輸 送 は対 流 で 促 進 され る.と 流 動 を行 う と,拡 散 層 の 厚 さLoi,LRlが
くに,強 制 的 に撹 拌 や
減 少 し,流 束 が 増加 す る.
c. 対 流 の 関 与:銅 電 解 精 製 槽 図1.21の
よ う な単 純 な電 気 化 学 セ ル ― 銅 の 電 解 精 製 槽― は (1.105)
で 表 せ る.Cu(A)で
粗 銅 をCu2+イ
オ ン に 酸 化,Cu(C)表
面 上 でCu2+を
銅に
還 元 す る の で,左 右 の 電 極 系 で 同 一 反 応 が 逆 に起 こる特 異 例 で あ る.銅 よ り酸 化 さ れ に くい不 純 物 は(A)を もの は(C)で
囲 む布 袋 に粉 体 で 回 収 され,銅
よ り酸 化 さ れ や す い
析 出せ ず 電 解 液 中 に イ オ ン と して蓄 積 され る.(C)に
図1.21 銅 の 電 解 精 製 槽 に お け る 電荷 と物 質 の 定 常 輸送 バ ル ク の イ オ ン伝 導 はH2SO4の み に よ り,H+の 輸 率 を0.8と し た.下 の 枠 内 は対 流 の 輸 送 で,電 荷 は 運 ば な い.両 と拡 散 の 駆 動 力 が つ りあ い,Cu2+以
極 近 傍 の 輸 送 層 内 で は泳 動
外 は み か け上 動 か な い.
純 銅薄板 を
準 備 す れ ば,精 製 され た 厚 板(=電
気 銅)が
得 られ る.
イ オ ン伝 導 体 の 硫 酸 銅 ・硫 酸 混 合 水 溶 液 中 の イ オ ン は,濃 度 勾 配 に よ る拡 散 と 静 電位 勾 配 に よ る泳 動 で動 き,対 流 も一 部 関与 す る.電 極 や 容 器 の 表 面 近 傍 で は 流体 の 運 動 が 制 限 され るた め,自 で は反 応 に関 与 す るCu2+の 反 応 無 関 係 電 解 質(=支
由 に対 流 で きな い.電 極 表 面 近 傍 の 輸 送 層 領 域
み が 電 荷 を輸 送 し,H+やSO42−
で,イ オ ン電 流 の100%を
持 電 解 質 と も呼 ぶ.こ
(C)付
近 で はH+が
(A)か
ら運 ば れ たCu2+は
担 う場 合,(A)付
の 場 合 は 硫 酸)が
近 で はH+が
増 加 ・SO42−が 減 少 す る.(A)付 電 解 質CuSO4と
囲 のSO42− と と も に電 解 質H2SO4と
十分 高濃度
減 少 ・SO42−が 増 加, 近 に 泳 動 し たSO42− と
し て,(C)付
して,そ
は 動 か な い.
近 に泳 動 したH+は
周
れ ぞ れ 反 対 極 側 へ 対 流 で 輸 送 され
る.対 流 は全 化 学 種 濃 度 を均 一 化 し,電 解 質 も輸 送 す るが,電 荷 を運 ぶ こ と はな い.現 実 の対 流 は よ り ミ ク ロ な空 間領 域 で起 こる. 電 荷 輸 送 は 両 極 の 輸 送 層 中 で はCu2+が,バ
ル ク で はH+とSO42−
応 関 与 イ オ ン種 と伝 導 イ オ ン とが 同 一 で あ る必 要 は な い.ま
が 行 い,反
たCu2+は
輸送 層中
で は拡 散 で,バ ル ク で は対 流 で運 ば れ,無 関 係 電 解 質 が 静 電 位 勾 配 を小 さ くし て い る の で,泳 動 の 寄 与 は少 な い.輸 送 層 の 厚 さ は 流体 力 学 で 決 ま るが,水 度 の粘 性 率 の 液 体 が 壁 に 対 し静 止 す る場 合,数 え に くい 固体 電 解 質,毛
と同 程
十 μmと さ れ る.対 流 自体 が 考
細 管 間 隙 中 の 電 解 液,高 粘 度 電 解 液(電
解 液 をゲ ル 状 に
し て液 漏 れ 防 止 を 図 る電 池 もあ る)な ど,対 流 が抑 制 され る 系 も多 い.固 体 電 解 質 も含 め て イ オ ン伝 導 率 の正 しい 測 定 に は,か な りの 基 礎 知 識 を要 す る. d. 混合 伝 導 体 中 の 輸 送 層 反 応関 与 イオ ンを収 容可 能 な電 極 相 は,混 合 伝導(=電
子伝 導+イ オ ン伝導)体 とみ
なすべ きで あ る.そ こで,電 極 系 の構 成 を新 た に 純 電 子伝 導相〓 混 合伝 導相│イ オ ン伝 導相 とすれ ば,界 面〓 はイ オ ンの通 過,界 面│は 電 子の 通過 を許 さ ない.以 下 で は,+z価 カチオ ンが│か ら挿入 され る単純 な還元 反応 (1.106) を例 にあ げ,混 合 伝 導 性ホ ス トTが 相 変化 を起 こさず,Mz+とe− す る意 味 で は な い)す る濃 度範 囲 に限定 す る.T内
を溶 解(液 相 に限定
の 電 荷 収 支 か ら,│で 挿 入 され る
Mz+と 同電荷 量 のe− が〓 で 流入 す るはずで あ るが,Tが
変 化 す るた め厳 密 な 定常状 態
は想定 しに くい.準 定常輸 送 を図1.22で 考 え る と,両 端 面 の制 限 か らMz+はPⅠ %,PEで0%,ま
たe− はPEで100%,PIで0%の
電荷 輸 送 を担 う.Mz+とe−
で100 が50%
ず つ 電 荷 輸 送 を 担 う面 を等 寄 与 面Rと
定義
す る. MZ+進
行 方 向(=電
と り,坦 体iの
流 方 向)にx座
濃 度 をC1,拡
に は 成 分 拡 散 係 数)を 表 す.各
標 を
散 係 数(厳
密
、Dl,移 動 度 をulで
担 体 の 流 束 は 泳 動 項 と拡 散 項 か ら
な る が,左
向 き[Mz+全
[e−全 流 束]と
流 束]と
の 和 が,任
右 向 き
意 の位 置 で この
還 元 反 応 の 電 流 密 度 一iに 相 当 す る か ら, 図1.22 混合伝 導体中の電荷 と物質の 準定常輸 送 M*の 化学拡散 は等寄与面Rか ら左 向き と右 向き.
(1.107) と書 け る.こ
こ で,ア
イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 式 を 用 い てD1を(m1kT/z1e)で
書 き換
え,成 分 伝 導 率 σ1と輸 率tlを (1.108) (1.109) で 定 義 して,整
理 す る と,任 意 の 点 で の 静 電 位 勾 配 (1.110)
が 得 られ る.な
お,固
体 電 気 化 学 や イ オ ニ ク ス の 分 野 で は,化
学 ポ テ ン シ ャル μ を用
いた 表記 (1.111) (1.112) が 一 般 的 で あ る. 式(1.110),(1.112)右
辺 の 第1項
他 はMz+とze−
下M*対
の 対(以
は 混 合 伝 導 の オ ー ム 降 下 を 与 え る 静 電 位 勾 配 で, と呼 ぶ)の
荷 を輸 送 し な い化 学 拡 散 で は,zDが 勾 配 が 要 求 さ れ る.第2項 zCMz+)が
化 学 拡 散(付
大 き い 坦 体 を減 速,小
はMz+の
録C参
照)に
由 来 す る.電
さ い 坦 体 を加 速 す る 静 電 位
先 行 拡 散 を 抑 え る 静 電 位 勾 配 で,uMz+∝(tMz+/
低 く電 子 性 が 優 勢 な伝 導 体 で は消 滅 す る.同
様 に第3項
は,イ オ ン性 が 優 勢
な 伝 導 体 で は 無 視 で き る. 面R左
側 で は[e− 泳 動 流 束]>[Mz+泳
動 流 束]で,M*対
は 左 へ 化 学 拡 散,面R右
側 で は[e− 泳 動 流 束]<[Mz+泳 M*の
濃 度 は 面Rで
│−i/2e│相
極 大 と な る.準
当 で つ り あ い,過
CMz+はPI側
ほ ど,Ce‐
tMz+な ら面Rよ
解 こ う.M*対
定 常 状 態 の 任 意 の 点 で,Mz+とe−
の全 流束 は
と も と不 可 逆 輸 送 現 象 な の で,
ほ ど 高 く,厳 密 な 電 気 的 中 性 は 中 間 の 無 電 荷 面(te−>
り左,te−
ら 面Rよ
右 辺 第2項
り右)で
しか 成 り立 た な い.
が 無 視 で き るte−→1の
の拡 散 方 向 に よ り第3項
し,こ の 静 電 位 勾 配 を面Plか
は右 へ 化 学 拡 散 す る か ら,生 成 物
剰 電 荷 は 増 減 し な い.も
はPE側
微 分 方 程 式(1.112)を 傍)で
動 流 束]で,M*対
ら面PEま
極 限(M*対
の 符 号 が 面R両
生 成 はPI近
側 で 逆 転 す る こ と を考 慮
で 定 積 分 す る と, (1.113)
を 得 る.σe−が 十 分 高 け れ ば 第1項
の オ ー ム 降 下 も無 視 で き,す
電 流 通 過 時 も擬 似 的平 衡(=電
子 の 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ルEFは
相 違 は 静 電 位 差⊿ φで 相 殺)が
成 立 す る.こ
の 極 限 例 は,PI上
ば や い 電 子 に関 して は 一 様:両
端 で のCe− の
で 生 成 し た 金 属Mの
内
部 へ の 拡 散 と等 価 で あ る. 一 方,tMz+→1で
σMz+も十 分 高 い 極 限 例(M*対
生 成 はPE近
傍)で
は, (1.114)
と な り,す
ば や い イ オ ン に 関 し て は擬 似 的 平 衡 が 成 り立 つ.こ
トの 式 が 示 す 濃 淡 電 池 の 起 電 力(=EFの 難 だ が,任
差)に
意 の 位 置 でzCMz+=Ce−=zCM*を
の と き⊿ φ は,ネ
等 し い.式(1.113)の
ル ンス
一 般 的積 分 は困
仮 定 す る な ら, (1.115) (1.116)
が 導 け る.化
学 拡 散 に 起 因 す る 右 辺 第2項
は,tM+=0.50,tM2+=0.67,tM3+=0.75の
場
合 に消 滅 す る.
1.7.3 過 電 圧 と 三 電 極 法 反 応 進 行 時 の 電 極 電 位Eと
可 逆 電 極 電 位Erevと
の 差 と し て ア ノ ー ド,カ
ソー
ドの 過 電 圧 ηA,ηcを ηA=EA−Erev,A>0
(1.117)
ηc=Erev,c−Ec>0 と定 義 す る.セ (Ec−EA)で
ル の 開 回 路 電 圧Urevは(Erev,C−Erev,A)だ
(1.118) が,閉
回 路 電 圧Uは
は な く, ±(U−Urev)=ηA+ηc+IΣRi
(1.119)
W:作
用電極
C:対 R:参 D1:隔
極 照電極 膜
D2:隔 膜 P;直 流電 源or負
荷
図1.23 三電 極 法 に よ る単 極 過 電 圧 の 測 定
に し た が い,複 は 伝 導 部iの
号 の 正 は 電 気 仕 事 投 入 時,負
抵 抗 で,(Urev−U)/Iが
は 電 気 仕 事 放 出 時 に 適 用 さ れ る.Rl
電 池 の 「内 部 抵 抗 」 の 正 体 で あ る.
オ ー ム 降 下 の 影 響 を 排 除 し て ηA,ηCを 評 価 す る に は,図1.23の い る.作
用 電 極Wと
照 電 極R(電
対 極Cの
流 経 路 外)を
要 な ら 隔 膜D1,D2を 導 体 の 先 端 をW極
間 に 電 流 計A経
基 準 に,W極
お き,各
由 で 電 流 を 流 し,可
の 電 位 変 化 を 電 圧 計Vで
溶 液 間 の 自 由 混 合 を 防 ぐ.R極
近 傍 へ 導 か な い と,オ
三電極 法 を用 逆状 態 の参
計 測 す る.必
に 接 す るイ オ ン伝
ー ム 降 下 の 影 響 を受 け る.
1.7.4 電 子 移 動 過 電 圧 レ ド ッ ク ス 系R/Oの が,あ
る 電 流 密 度iで
差 が 必 要 で,こ
種 類 と 電 極 面H上
の(aO,H/aR,H)比
電 子 に 界 面 を 横 切 らせ る に は,電
れ を 電 子 移 動 過 電 圧 ηctと呼 ぶ.ηctとiと
でEF,revは
決 まる
極 相 のEFとEF,revに
の 関 係 は 一 般 に 図1.24
で 表 現 で き る. (1.120)
(1.121)
(1.122)
(1.123) a++a−=1 こ こ で,i0は
交 換 電 流 密 度,i+とi−
段
(1.124) は そ れ ぞ れ 電 極 相 へ の 電 子 移 動(anodic),
図1.24 電子移動 過電圧 と電流密度 の関係
電 極 相 か ら の 電 子 移 動(cathodic)の 移 動 係 数 で あ る.基
部 分 電 流 密 度,ま
本 式(1.120)は
バ ト ラ ー-フ
た α+と α−は 各 方 向 の
ォ ル マ ー の 式 と呼 ば れ,電
動 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 考 慮 し て 導 か れ る(付
録D参
子移
照).式(1.121)は (1.125)
の 場 合,ま
た タ ー フ ェ ル 式 と 呼 ば れ る 式(1.122),(1.123)は,そ
れぞれ (1.126)
の 場 合 に つ い て,式(1.120)を
1.7.5濃
度
過
近 似 し た も の で あ る.
電 圧
物 質 輸 送 は 速 い と み な せ る 場 合 の 式(1.120)は,aR,Hやao,Hが i0に 含 ん で い る.し CR,HとCo,Hが =φ1で
か し 物 質 輸 送 が 速 く な い 場 合 に は(濃
各 平 衡 値(CR,HO,Co,HO)か
不 変 と仮 定 し, 度 表 記 に 直 す が),
ら 変 化 す る.1.4.5項
で 述 べ た が,φH
拡 散 二 重 層 の 存 在 が 無 視 で き る 場 合 に 限 り,CR,HOやGo,HOは
ル ク 濃 度 に 等 し い.こ
それ ら の バ
の 式 を よ り一 般 的 に 書 き 直 せ ば, (1.127)
と な る.物
質 輸 送 が 非 定 常 な らCR,HやCo,Hは
は 複 雑 に な る.さ
ら に 厳 密 に は,電
れ ら と 同 じ と は 限 らず,電 れ る 可 能 性 も あ る.
経 時 的 に 変 化 し,一
子 移 動 過 程 で の 反 応 物,生
般 的 取 り扱 い
成物が全反 応の そ
子 移 動 に先 行 また は後 続 す る化 学 反 応 過 程 な どが 含 ま
i0》│i│で,電 子 移 動 が ほ と ん ど可 逆 的 とみ な せ る な ら,可 逆 電 極 電 位 に関 す る ネ ル ン ス トの 式 か ら過 電 圧 を,
(1.128) と書 け,こ れ を濃 度 過 電 圧 と呼 ぶ.R/Oレ 本 の参 照 電 極 を電 極 面Hと
ド ック ス対 に対 して 可 逆 電 位 を示 す2
バ ル ク に お け ば,原 理 上 ηconcを実 測 可 能 だ が,電
を さ え ぎ ら な い微 小 参 照 電 極 を 古 典 的 技 術 で電 極 面Hに
流
セ ッ トす るの は難 しい.
2 電
電 池 は携 帯 電 話,ノ
池
ー ト型 パ ソ コ ン,ビ デ オ カ メ ラ,自 動 車,時
計,そ
の他数
え切 れ な い ほ ど広 い分 野 で 使 わ れ て お り,も し も電 池 が な くな れ ば,た ち まち こ の文 明 社 会 は 機 能 しな くな っ て し ま うで あ ろ う.電 池 は太 陽 電 池 の よ うに物 理 現 象 に基 づ く電 池 と化 学 反 応 に基 づ く化 学電 池 に分 け られ る.こ の 章 で は後 者 の 化 学 電 池 に つ い て 学 ぶ.化 学 電 池 は一 次 電 池,二
次電 池,燃 料 電 池 に分 け られ る.
一次 電 池 は使 い切 りの 電 池,二 次 電 池 は容 量 が な くな る と充 電 す る こ とに よ り 再 使 用 で きる 電 池 で,い ず れ もわ れ わ れ の 生 活 に な くて は な らな い 必 需 品 とな っ て い る.化 学 電 池(以 後 単 に電 池 と呼 ぶ)を 反 応 物 質(活 物 質)の る と,わ が 国 で は10種
類 ほ ど の 電 池 が 流 布 し て お り(表2.1),世
種 類 で分 類 す 界 で 最 も研
究 ・技 術 レ ベ ル が 高 く,多 種 類 の電 池 を使 用 して い る国 で もあ る.そ れ らの 具体 的 内 容 に つ い て は後 述 す る. 燃 料 電 池 は,外 部 か ら反 応 物 質 で あ る水 素 と酸 素 を あ た か も燃 料 の よ うに連 続 的 に供 給 して 発 電 す る 一種 の 直 流 発 電 機 と も い え よ う.反 応 生 成 物 が 水 で あ り, 環 境 汚 染 防 止 の 観 点 か らク リー ンエ ネ ル ギ ー と し て大 き な 期 待 が 寄 せ られ て お り,実 用 化 に 向 け て活 発 な 研 究 開 発 が続 け られ て い る.
2.1電
2.1.1バ
グ ダ ッ ド電 池(ホ
池 の 始 ま り
ー ヤ ッ ト ・ラ ッ プア 電 池)1)
イ ラ ク博 物 館 の ドイ ツ人 考 古 学 者,W.Konigが,1932年,イ ヤ ッ ト ・ラ ッ プ ア(Khujut 遺 跡(パ
Rapu'a)と
呼 ばれ る小 さな丘 に あ る 古 代 ペ ル シ ャ の
ル チ ア ン 時 代,BClC∼ADlC)か
た(図2.1).こ
の つ ぼ に は,お
ラ ク東 方 の ホ ー
よ そ10cmの
ら,小 さ な花 瓶 状 の つ ぼ を 発 掘 し 薄 い銅 製 の 円筒 が 封 入 され て お り,
.
パ イ ラ ル構 造)は
**有 機 溶 媒 に加 えて 使 用
*円 筒形(ス
大 電 流充 放 電 可 能 .
表2.1 実 用電 池 の種 類 と用途
図2.1 バ グダ ッ ド電 池(ホ
ー ヤ ッ ト ・ラ ッブ ア 電 池)(文
献1)を 一 部 改 変)
液 漏 れ が な い よ う に 円筒 の つ な ぎ 目 は 鉛-ス ズ 合 金 で 封 じ られ て い た .円 筒 上 部 の ア ス フ ァル トを貫 い て 鉄 棒 が 挿 入 され て お り,電 解 液 に は 何 を用 い た か定 か で な い が,金,銀
め っ き をす るた め に用 い られ た 電 池 で は な い か と考 え られ て い
る.ま た,同 様 の つ ぼ や 銅 筒,鉄 棒 が い くつ も発 見 され た とい う.ア メ リカ の 技 師 が この つ ぼ の 複 製 品 を つ く り,硫 酸 銅 の 溶 液 を筒 内 に満 た して,豆 電 球 をつ な い だ と こ ろ,光 が と も っ た とい う.鉄 0.8Vぐ
と銅 の 組 み 合 わ せ で あ るか ら,起 電 力 は
らい し か得 られ な い はず で あ り,も し,こ れ を金 め っ きや銀 め っ き の 電
源 と して 用 い た とす れ ば,直 列 につ な い で 使 用 した こ とで あ ろ う.こ の 電 池 はバ グ ダ ッ ド電 池,ま
た は ホ ー ヤ ッ ト ・ラ ップ ア 電 池 と呼 ば れ て い る.今
日で もバ グ
ダ ッ ドで は,金 物 細 工 師 が 起 源 の は っ き りし な い電 池 を用 い た め っ き浴 を用 い て い る とい う.
2.1.2 ボ ル タ の 電 池 以 降 の 歴 史 今 日の 電 池 に連 な っ て い る,起 源 の は っ き り した 最 初 の 電 池 は,1800年,イ タ リー のA.Voltaに
よ っ て発 明 さ れ た 電 池 で あ ろ う.食 塩 水 で 濡 ら し た 草 や 紙
や 革 を使 い,こ れ を サ ン ドイ ッチ の よ う に2種 類 の 金 属 で は さみ,何 層 に も積 み 重 ね て発 電 させ た こ とか ら ボル タ の 電 堆(pile:同 の)と
い わ れ て い る.こ の 電 堆 を用 い,水
わ れ た.1834年
種 同形 の もの を積 み 重 ね た も
の電 気 分 解 や 金 属 カ リ ウム の 単 離 が 行
に は フ ァ ラデ ー の法 則 が 見 出 され た.1836年,J
.F.Danielが
ボ
ル タ の電 池 を改 良 して,多 孔 質 の 隔壁 を用 い る こ とに よ り,硫 酸 銅 溶 液 と希 硫 酸 が す ぐに は 混 じ らな い よ う に し,よ り長 時 間 放 電 が 可 能 な 電 池 と した.電 池 か ら 得 られ る安 定 し た 直 流 電 流 に よ っ て,電 磁 誘 導 現 象 が 発 見 され,発 (1840)へ
と連 な っ て い る.今
電 機 の発明
日 の電 気 エ ネ ル ギ ー に支 え られ た 高 度 情 報 化 社 会
もボ ル タ の 電 池 に 端 を発 して い る とい っ て も過 言 で は な い.そ の 後,1866年, G.Leclancheが
二 酸 化 マ ン ガ ン を正 極 に,亜 鉛 を 負 極,電
ウ ム溶 液 を用 い た電 池 を つ くっ た.こ れ が,今 あ る.さ
解 液 に 塩 化 ア ンモ ニ
日の マ ンガ ン乾 電 池 の は じ ま りで
ら に1888年,C.GassnerやHellesensは
ル クラ ン シ ェ電 池 を改 良 し
て,携 帯 に 便 利 な構 造 の 電 池 を つ く った.わ
が 国 で も,1885(明
治18)年,屋
井 先 蔵 が ル ク ラ ン シ ェ電 池 を改 良 して 乾 電 池 を つ く り,屋 井 乾 電 池 合 資 会 社 を設 立 した.こ の 乾 電 池 は故 障 が 多 く,最 大 の難 関 は正 極 か ら電 解 液 が しみ 出 る こ と に よ る金 属 の 腐 食 で あ っ た が,1889年,正
極 の炭 素 棒 を パ ラ フ ィ ン で 煮 る こ と
を 思 い つ き,一 応 の 完 成 を み た.
マ ンガ ン乾電 池 の発 明者― 屋井先 蔵 屋 井 先 蔵 は 明 治 維 新 の5年
前,越
後 長 岡 藩 士 の 家 に 生 ま れ た.11歳
の と きに没
落 した 家 名 を 上 げ よ う と上 京 し時 計 屋 の 丁 稚 に な っ た が 新 潟 な ま りを 笑 わ れ た り, 小 さ な不 手 際 で 食 事 を 抜 か れ た り と苦 労 した.寝 た 箱 に寝 な が ら,彼
は 発 明 家 を 夢 見,発
気 で 制 御 す る装 置 の 特 許 を と っ た.電 刻 を示 す よ う に す れ ば,鉄
小 便 も続 い た とい う.わ
らを入れ
明 に 情 熱 を燃 や し,多 数 の 時 計 の 時 刻 を電 流 に よ っ て,100個,200個
の時計 が同 一時
道 の 車 両 衝 突 の 危 険 は防 げ る し,時 計 の 正 確 さ を尊 ぶ 郵
便 局 な どで も大 い に 役 立 つ と見 込 ん だ の だ ろ う.こ
の 「連 続 時 計 」 の 発 明 は1891
年 に 専 売 特 許 を認 め られ,わ
が 国 の 電 気 に 関 す る特 許 第1号
時 計 の 電 源 は 湿 式 電 池 で,維
持 が わ ず らわ し く,冬 に は凍 結 の 恐 れ も あ り,売 れ な
か っ た.こ
で あ る.し
か し,こ の
う し た 体 験 が 携 帯 に 便 利 な 乾 電 池 の 発 明 へ と 向 か わ せ た の だ ろ う.1885
年 に特 許 を と っ て い れ ば,乾 電 池 発 明 の名 誉 は 彼 の もの に な っ て い た で あ ろ うが, す ぐ に 特 許 を と ら な か っ た の は,一 と い う.職 人 気 質 ゆ え,も れ な い.事
実,当
説 に 貧 乏 で 特 許 の 申請 料 に も事 欠 い て い た た め
っ と改 良 し て か ら,特 許 を 申請 し よ う と考 え た の か も し
初 の 電 池 は 欠 陥 が 多 く,故 障 が 続 出 した.最
品 が し み 出 し,金 具 を 腐 食 す る こ と だ っ た.1889年,偶 フ ィ ン で 煮 る こ と を 思 い つ き,こ 新 潟 日報,2002.8.9付
け に よ る)
然,正
大 の 難 関 は正 極 に 薬 極 の 炭素 棒 をパ ラ
こ に 乾 電 池 は 一 応 の 完 成 をみ た.(文
献2)お よ び
一 方,充 1860年
電 す る こ と に よ っ て 繰 り 返 し 使 用 可 能 な 二 次 電 池 は,G.Planteが
鉛 電 池 を,Edison(1901)とJungner(1902)が
ル ・鉄,酸
そ れ ぞれ 酸 化 ニ ッ ケ
化 ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 電 池 を 発 明 し て い る.ま
さ れ て い る 燃 料 電 池 も,そ い た が,実
用 化 は1960年
た,現
の 原 理 は す で に1839年W.Groveに
在,最
も注 目
よ っ て 示 され て
代 の ジ ェ ミニ や ア ポ ロ計 画 に お け る人 工 衛 星 電 源 と し
て 使 用 さ れ る ま で 待 た な け れ ば な ら な か っ た.
2.2
電 池 の 構 成,エ
電 池 反 応 は 必 ず2つ
の 半 反 応,す
ネ ル ギ ー 密 度 と容 量 密 度
な わ ち 負 極 で 進 行 す る 酸 化 反 応 と正 極 で 進 行
す る 還 元 反 応 の 組 み 合 わ せ か ら な る酸 化 還 元 反 応 で あ る.半 次 の よ う に 表 し てn1とn2の つ くれ ば,こ
反 応1と
最 小 公 倍 数 を 用 い て 電 子(e−)を
れ が 電 池 反 応 武(2.3)で
半 反 応2を
含 ま な い 反応 式 を
あ る.
O1+n1e−=R1
(2.1)
O2+n2e−=R2
(2.2)
n2× 式(2.1)−n1× こ こ に,O,Rは
式(2.2):n2O1+n1R2=n2R1+n1O2
酸 化 体,還
え ら れ,式(2.3)の
元 体 を 表 す.反
応 に 関 わ る 電 子 数 はn=n1×n2で
電 池 反 応 に 対 す る 電 池 の 起 電 力Uは
衡 電 位 の 差,U=E1e−E2eで
(2.3)
与 え ら れ る.ま
与
式(2.1),(2.2)の
た,E1e,E2eは
平
次 式 で 与 え ら れ る. (2.4) (2.5)
た だ し,E1°,E2°
は 式(2.1),(2.2)の
還 元 体 の 活 量 で あ る.電
池 に は 固 有 の 表 記 法 が あ り,左
で あ る.電
池 の 起 電 力Uは
が っ て,還
元 反 応 式(2.1)が
O2+n2e−)が 正 極 活 物 質,負
M1,M2は す.以
標 準 酸 化 還 元 電 位,aoは
必 ず 正 で あ る か ら,上 正 極 で,式(2.2)の
負 極 で 進 行 し,電
酸 化 体,aRは
極 を負 極 に す るの が 約 束
記 で はE1e>E2eで
あ り,し
た
逆 反 応 で あ る 酸 化 反 応(R2=
池 表 記 は 以 下 の よ う に な る.O1,R2は
そ れ ぞ れ,
極 活 物 質 と呼 ば れ る.
出 力 端 子(集
電 体)で,〓
は セ パ レ ー タ 部(液−
上 を ダ ニ エ ル 電 池 に 当 て は め て み よ う.ダ Cu2++Zn=Cu+Zn2+
液 接 触 界 面)を
ニ エ ル 電 池 の電 池 反 応 は (2.6)
示
半 反 応 と電 極 電 位 は (2.7) (2.8) 式(2.6)−
式(2.7)よ
り,電
池反応 は (2.9)
た だ し,そ
れ ぞ れ の 活 量 は 等 し い と し た(αcu2+=aZn2+).E°(cu2+/Cu)(0.337
>E°(zn2+/zn)(−0.763V)で
あ る か ら,半
反 応 は そ れ ぞ れ 以 下 の よ う で あ る.
正 極=Cu2++2e−=Cu
(2.10)
負 極:Zn=Zn2++2e− ま た,電
V)
(2.11)
池 表 記 は 下 記 の よ う に な る. (−)Zn│Zn2+〓Cu2+│Cu(+)
電 池 は,活
物 質 の 反 応 に 伴 う ギ ブ ズ 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化(⊿G)を
直接電 気エ
ネ ル ギ ー に 変 換 す る 装 置 で あ り,電 池 反 応 の 最 大 エ ネ ル ギ ー と 次 式 の 関 係 が あ る. ⊿G=−NFU こ の よ う に,化
(2.12)
学 電 池 に は 物 理 電 池 の よ う に 半 永 久 的 に 使 え る 電 池 は 存 在 せ ず,
そ の 電 池 系 特 有 の エ ネ ル ギ ー 密 度 が 存 在 す る.F=96485C・mol−1=(96485C/ 3600s)h=26.8Ah・mol−1と の 単 位 で 表 す.こ
お い て,nFU=26.8×n×UをWh(Watt
れ を 注 目 す る 電 池 反 応 に 関 与 す る 反 応 物 質(活
(単 体 の 場 合 は 原 子 量)の
和 で 割 っ た も の を 理 論 質 量(重
(Wh・g−1,Wh・kg−1)と
い い,体
(Wh・cm−3,Wh・dm−3)と
た は 密 度)の
化 還 元 系 の 標 準 電 位 を 用 い てU°
電 子数nは2で る か ら,エ
の質 量 は考
常,簡
物 質Pbの
単 の た め にUの
体 的に理
代 わ りに 酸
の値 を用 い て エ ネ ル ギ ー 密 度 を 計
は2.077Vで
あ り,反
原 子 量 は207.2,PbO2の
応 に関与 す る
式 量 は239.2で
あ
ネ ル ギ ー 密 度 は26.8×2×2.077÷(207.2+239.2)=0.245Wh・g−1=
245Wh・kg−1と
な る.た
だ し,硫
酸 の 質 量 は 無 視 し た.表2.2に
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 を 示 し た.こ 液,セ
ネル ギ ー密 度
小 さ い ほ ど大 き くな る.具
を 計 算 し,こ
述 す る 鉛 蓄 電 池 のU°
あ る.活
式 量
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 は 反 応 電 子 数 と起 電 力 が 大 き
っ 活 物 質 の 式 量(ま
と え ば,後
量)エ
池 反 応 に 水 が 関 与 す る 場 合,水
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 を 計 算 し て み よ う.通
算 す る.た
物 質)の
積 量 で割 っ た も の を体 積 エ ネ ル ギ ー 密 度
い う.電
慮 し な い の が 通 例 で あ る.理 い ほ ど,か
hour)
パ レ ー タ,集
の 値 に は,電
主 な 電 池 系 の理
池 構 成 材 料 で あ る 容 器,電
電 体 等 の 質 量 が 含 ま れ て お ら ず,ま
解
た活 物質 の利 用効 率 も
表2.2 代 表 的 な電 池 系 の起 電 力 と理 論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度3)
100%で
は な い の で,実
程 度 で あ る.電
際 の電 池 の エ ネ ル ギ ー 密 度 は 理 論 値 の 数 分 の1か
池 技 術 と は,取
ら1/10
り出 し可 能 なエ ネ ル ギ ー を い か に 理 論 エ ネ ル ギ ー
に 近 づ け る か と い う こ と に な ろ う. ま た,エ
ネ ル ギ ー 密 度 と と も に 電 池 の 重 要 な 特 性 の1つ
ペ ア ・ア ワ ー(Ah)で 量,3600Cに
表 さ れ る .1Ahは1Aの電
相 当 す る.そ
し て,容
う.単
体 の 活 物 質 の 理 論 的 な 容 量,お
化 学 反 応 に 基 づ い て 計 算 で き る.た 活 物 質MnO21mol(86.95g)あ で,容
よ び 容 量 密 度 は,そ
た り,2F取
ら び に体 積 あ た り に換 い
れ ぞ れ の活 物 質 の電 気
と え ば 後 述 す る マ ン ガ ン 乾 電 池 の 場 合,正
極
電 気 量 を取 り出 す こ とが で き る の
な り,MnO2の
86.95g=0.308Ah・g−1=308Ah・kg−1と 1mol(65.4g)あ
した と きの電 気
よ び 体 積 容 量 密 度(Ah・dm−3)と
た り1Fの
量 は96485÷3600=26.8Ahと
流 を1h流
量 を 重 量 あ た り,な
算 し た も の を 重 量 容 量 密 度(Ah・kg−1),お
で あ る容 量 は通 常 ア ン
な る.他 り 出 せ る の で,容
質 量 容 量 密 度 は26.8Ah÷ 方,負
極 活 物 質 のZnで
量 は53.8Ahと
な り,容
は, 量 密
度 は53.8Ah÷65.4g=0.820Ah・g−1=820Ah・kg−1と
な る.マ
は2molのMnO2と1molのZnが
の 容 量 密 度 は53 .8Ah÷
反 応 す る の で,そ
(86.95×2+65.4)g=0.224Ah・g−1=224Ah・kg−1で
2.3
ン ガ ン乾 電 池 で
あ る.
実 用 化 さ れ て い る主 な電 池
上 に 述 べ た よ う に 電 池 は2つ
の 酸 化 還 元 反 応 の 組 み 合 わ せ で あ る か ら,理
に は 数 え 切 れ な い ほ ど た く さ ん の 電 池 系 が 可 能 で あ る.し
か し,そ
論的
れ らが 実 用 化
さ れ る た め に は,①
エ ネ ル ギ ー 密 度 が 大 き い,②
サ イ ク ル 寿 命 が 長 い(二 い,⑤
安 全 で,か
次 電 池 の 場 合),④
つ 信 頼 性 が 高 い,⑥
価 で ど こ で も 入 手 可 能,な
大 電 流 放 電 が 可 能,③
自 己 放 電 が 少 な く,保
充放 電
存寿 命が 長
毒 性 の あ る物 質 を使 用 し て い な い,⑦
ど の 条 件 が 必 要 で あ る.そ
の た め,こ
安
れ らの 厳 し い条
件 を同 時 に 満 た す こ との で き る活 物 質 の 組 み合 わ せ は 非 常 に 限 られ た もの に な る (表2.1).次
に 具 体 的 に い くつ か の 電 池 に つ い て 述 べ よ う.
2.3.1 一
次
電
池
a. マ ン ガ ン 乾 電 池 1866年,フ
ラ ン ス のG.Leclancheは
液 が こ ぼ れ ず,持
ち 運 び の 容 易 な よ う にNH4Cl水
ぜ て 電 解 液 と し た 電 池 を 発 明 し た.現 は,国
正 極 にMnO2,負
用 い,電
解
溶 液 をの こ ぎ り くず な ど に混
在 も大 量 に使 用 さ れ て い るマ ン ガ ン乾 電 池
内 市 販 品 で は 電 解 質 こ そ ほ と ん どZnCl2に
こ れ と 同 じ シ ス テ ム で,公
極 にZnを
称 電 圧 は1.5Vで
変 わ っ た も の の,本
質 的 には
そ の 電 池 構 成 は 次 の よ う に表 さ れ
る. (−)Zn│ZnCl2,(NH4Cl),H2O│MnO2│C(+) 電池 の電極反応 は 正 極:8MnO2+8H20+8e−=8MnOOH+80H−
(2.13)
負 極:4Zn+ZnCl2+80H−=ZnCi2・4Zn(OH)2+8e−
(2.14)
電 池:8MnO2+4Zn+ZnCl2+8H20=8MnOOH+ZnCl2・4Zn(OH)2 (2.15) こ の 電 池 で は 水 も反 応 物 質 で あ り,電 池 反 応 が 進 む に つ れ て消 費 され,い わ ば 電 池 系 が 乾 い た 状 態 に な る.こ の た め,NH4Clが 頃,電
電 解 質 と し て 用 い られ て い た
池 を 機 器 内 に放 置 す る と頻 発 し た 液 漏 れ もZnCl2に
こ らな くな っ た.ま た,封
置 き換 わ っ て か ら起
口技 術 の進 歩 も液 漏 れ 防 止 に 大 き く寄 与 して い る.た
だ し,新 品 と旧 品 を混 用 した り,複 数 個 の う ち,1個
の 正 負 を逆 に装 填 し た よ う
な場 合 に は,そ の 電 池 が 原 因 と な っ て,過 放 電(旧 品)や
充 電(逆 装 填)が 起 こ
り,ガ ス発 生 等 に連 な り,液 漏 れ の起 こ る こ とが あ る.外 国 で は い ま だNH4Cl を主 電 解 質 とす る電 池 も製 造 され て い る.そ の 場 合 の電 極 反 応 は以 下 の よ うで あ る.
図2.2 マ ン ガ ン乾 電 池 の構 造
正 極:2MnO2+2H2O+2e−=2MnOOH+2OH−
負 極:Zn+2NH4Cl=Zn(NHI3)2Cl2+2H++2e
(2.17)
電 池:2MnO2+Zn+2NH4Cl=Zn(NH3)2Cl2+2MnOOH
(2.18)
電 池 形 状 は親 し まれ て い るR20(単1形)か 6F22と
(2.16)
呼 称 さ れ る9Vの
で の円筒形 と
角 形 に分 け られ る.か つ て は測 定 機 器 電 源 と して 大 型
の 角 形 電 池 が 存 在 した が,エ 形(図2.2)で
らR1(単5形)ま
レ ク トロニ ク ス技 術 の 進 歩 に よ りな くな っ た.円 筒
は 負 極 物 質 で あ る金 属Zn自
身 が 円 筒 缶 と して 容 器 も兼 ね て い る
点 が マ ン ガ ン乾 電 池 の今 日の 発 展 を促 し,位 置 づ けた 大 き な技 術 革 新 とい っ て も よ い.Zn缶
の 内 側 に は セパ レ ー タ と して の 薄 い ク ラ フ ト紙 お よび 缶 底 に は底 紙
を介 在 させ て お り(ペ ー パ ー ラ イ ン ド方 式),ク る.こ
の ク ラ フ ト紙 の 内 側 に はMnO2粉
ク の 混 合 物 をZnCl2電
ラ フ ト紙 に は糊 剤 を塗 布 して あ
末 と導 電 剤 と し て の ア セ チ レ ン ブ ラ ッ
解 液 で 練 り固 め て 成 形 した 正 極 合 剤 を 挿 入 し て お り,中
央 に は集 電 体 と し て炭 素 棒 を 打 ち込 み,上 端 が 正 極 端 子 とな っ て い る.電 池 の 容 量 はMnO2量
で 定 ま る.合 剤 上 部 に は つ ば紙 を介 して,乾 燥 お よび 漏 液 防 止 の た
め の ワ ック ス を 流 し,Zn缶
の 開 口 部 は プ ラ ス チ ッ ク製 の ふ た で 封 口 して あ る.
素 電 池 は塩 化 ビニ ル 製 収 縮 チ ュー ブで 被 覆 し,電 解 液 の 蒸 発 お よび 漏 液 を 防 ぐ. 炭 素 棒 上 端 に は メ タル キ ャ ッ プ を は め て,正 極 端 子 と し,負 極Zn缶
の 外 側 の底
に 金属 製 底 板 を 当 て 負 極 端 子 とす る.さ 能,耐
らに金 属 製 外 装 で 覆 っ て長 期 間 の 貯 蔵 性
漏 液 性 を 向上 させ て い る.
MnO2に
は,天 然 二酸 化 マ ンガ ン,合 成 二 酸 化 マ ンガ ン,電 解 二 酸 化 マ ンガ ン
が あ るが,高
性 能 品 に は 電 解 二 酸 化 マ ン ガ ンが 用 い られ,よ
種 々 の 割 合 の 混 合 物 が 用 い られ て い る.負 極 のZn缶 量 のPbを
加 え て 展 延 性 を増 大 させ,六
押 し出 す 衝 撃 法 で 製 造 さ れ る.Znの
り安 価 な 製 品 に は
は 純Znで
は脆 い の で,少
角板 状 の ペ レ ッ トと した の ち,加 圧 して
腐 食 を 防 ぐた め,か つ て は缶 の 内 壁 はHg
に よ りア マ ル ガ ム 化 され て い た が,高 純 度 材 料 と腐食 抑 制 剤 の使 用 に よ り,今 で は 無 水 銀 化 が 実現 し て い る.性 能,形 状 等 はJIS規 用 途 と し て は 灯 火 器 具,カ ジオ,玩 具,時 計,石
格 で 規 定 さ れ て い る.
セ ッ トテ ー プ レコ ー ダ,ラ
ジ カ セ,ト
ランジスタラ
油 ス トー ブ点 火 用 な どで,わ れ わ れ の 生 活 に深 く入 り込 ん
で い る.安 価 で信 頼 性 の 高 い この 電 池 は今 後 も永 く愛 用 され よ う. b. ア ル カ リ ・マ ン ガ ン電 池 この 電 池 の正 極,負 濃 厚KOH溶
極 の 活 物 質 は マ ンガ ン乾 電 池 と同 じで あ るが,電 解 液 の み
液 を 用 い る こ と に よ り,大 電 流 特 性 お よ び低 温 特 性 を 向 上 さ せ,
大 容 量 化 を 図 っ た 点 に特 長 が あ る.音 響 機 器 をは じ め とす る マ イ ク ロ モ ー タ駆 動 用 の 大 電 流 用 途 の ニ ー ズ に適 合 し て い るの で,需 要 が 伸 び て お り,最 近 国 内 で は マ ン ガ ン系 乾 電 池 生 産 量 の50%以
上 を 占 め て い る.ア ル カ リマ ン ガ ン電 池 の 形
状 はマ ン ガ ン乾 電 池 と互 換 性 の あ る 円筒 形(R20-R1形)と お よ び 酸 化 銀 電 池 と互 換 性 の あ る ボ タ ン形 で,JISで
角 形(6LR61形), は 前 二 者 を ア ル カ リ乾 電
池,後 者 を ア ル カ リボ タ ン電 池 と呼 称 して い る.電 池 構 成 は 以 下 の よ うに 示 され る. (−)Zn│KOH(ZnO飽
和),H2O│MnO2(C)(+)
電極反応 は 正極:2MnO2+2H20+2e−=2MnOUH+2OH−
E°=0.12V (2.19)
負極:Zn+40H−=[Zn(OH)4]2−+2e−
E°=−1.33V (2.20)
電 池:2MnOz+Zn+2HzO十20H−=2MnOOH+[Zn(OH)4]2− U°=1.45V(2.21)
図2.3 アル カ リ乾 電 池 の 構 造
こ こ で 注 意 し な け れ ば な ら な い の は,式(2.20)のE°
は 還 元 反 応,す
応 式 で 電 子 を左 側 に 書 い た 場 合(一 般 式:O+ne-=R)に
なわ ち反
対 応 す る値 で あ る こ
とで あ る.以 降 の電 池 の 負 極 のE° に つ い て も同様 で あ る. 円 筒 形 電 池 の 外 形 寸 法 は マ ン ガ ン乾 電 池 と同一 で 互 換 性 が あ るが,大 容 量 で 大 電 流 を取 り出 す た め の 工 夫 の 結 果,そ 2.3).内 外 面 と もNiめ
の 内 部 構 造 は か な り異 な っ て い る(図
っ き した 鉄 製 缶 に 円筒 状 に 成 型 した 正 極 合 剤 を内 壁 に 密
着 させ て挿 入 し,内 部 空 間 部 に セパ レー タ を兼 ね た ビ ニ ロ ン,レ ー ヨ ン製 不 織 布 の袋 を入 れ,こ れ に 負 極 活 物 質 で あ る ゲ ル 状Znを
充 填 後,ナ
イ ロ ン,ポ
リエ チ
レ ン ま た は ポ リプ ロ ピ レ ン な どの プ ラ ス チ ック 製 の 正,負 極 の 絶 縁 を兼 ね た 封 口 板 で 封 口す る.電 解 液 の ク リー プ 防止 の た め封 口面 に シ ー ラ ン トを塗 布 す る.集 電 体 と し て黄 銅 製 また は ス ズ め っ き した 鉄 製 の釘 を封 口板 の 中 央 か らZn部 か っ て 挿 入 す る.こ の ま ま で は マ ンガ ン乾 電 池 と正 負 極 が 逆 な の で,封
に向
口後 上 下
を 逆 転 し,正 極 端 子 をつ け,プ ラ ス チ ッ ク製 の外 装 を す る こ とに よ り,外 観 は マ ン ガ ン乾 電 池 と同 様 に し て い る. Znの 腐 食 に基 づ く水 素 ガ ス の 発 生 は不 純 物 の 影 響 を敏 感 に受 け る の で,正 極
作 用 物 質 で あ るMnO2に MnO2に
は 高 純 度 の γ型 電 解MnO2が
使 用 さ れ て い る.こ
の
導 電 剤 と して 高純 度 黒 鉛 と電 解 液 お よび バ イ ン ダ を加 え混 練 し,正 極 合
剤 とす る.本 電 池 の特 長 で あ る大 電 流 特 性 を 可 能 とす る た め に 負極 活 物 質 に は 粉 末Zn(粒
度 分 布40∼200メ
ッ シ ュ)を 用 い,表 面 積 を広 く して い る.Znの
に よ る水 素 ガ ス発 生 を抑 制 す る た め に,か
腐食
つ て こ の電 池 に は電 池 質 量 あた り1.5
%も の 水 銀 が 使 わ れ て い た.使 用 済 み 電 池 の廃 棄 に よ る水 銀 汚 染 防 止 の 観 点 か ら,多 Biな
くの 検 討 が な され た結 果,水 どの 金 属 とZnと
銀 に代 わ っ て 水 素 過 電 圧 の大 き いGa,Ⅰn,
の 合 金 が 用 い ら れ る よ う に な り,1991年
無 水 銀 化 が 実 現 した.電 解 液 に は35%前
後 のKOH水
溶 液 を使 用 し,こ れ にZn
の腐 食 に よ る水 素 発 生 を抑 制 す るた め に,飽 和 近 く までZnOを この溶 液 にZn粒
子 を分 散 させ,ゲ
ル 化 剤(カ
世 界 に 先 駆 け,
溶 解 し て い る.
ル ボ キ シ メ チ ル セ ル ロ ー ス,ポ
ア ク リル 酸 ナ ト リウム な ど)を 加 え,ゲ ル 化 してZn粒
子 の沈 殿 を防 い で い る.
本 電 池 の特 長 は,①
ン ガ ン乾 電 池 の2∼3倍,
図2.3),③
大 電 流 放 電 可 能,②
大 容 量(マ
リ
低 温 特 性 に優 れ て い る こ と,で あ る.
用 途 はマ ン ガ ン乾 電 池 と同様 で あ る が,と
くに大 電 流 を必 要 とす る モ ー タ駆 動
機 器 に威 力 を発 揮 す る.ボ タ ン形 電 池 は酸 化 銀 電 池 に比 べ,動 作 時 間 は短 い もの の 安 価 な た め,小 型 時 計 を は じめ とす る電 子 機 器 に今 後 も汎 用 され よ う. c. 空 気 亜 鉛 電 池 正 極 活 物 質 に空 気 中 の 酸 素,負 極 活 物 質 に 金 属 を用 い る電 池 系 を総 称 して 空 気 電 池 とい う.金 属 と してZn,Alな 時 に は,た の1種
どが 用 い られ て い る.反 応 物 質 と し て,作 動
え ず 外 部 か ら空 気 を 取 り入 れ て い る こ とか ら,燃 料 電 池(2.3.3項)
と も い え よ う.こ こで は空 気 亜 鉛 電 池 に つ い て述 べ る.
空 気 中 の 酸 素 を正 極 活 物 質,Znを NH4Cl,ZnCl2を
負 極 活 物 質 と し て 用 い,電 解 液 と し て は
用 い る弱 酸 性 系 電 池 とKOHを
用 い る アル カ リ系電 池 が あ る.
後 者 は さ ら に注 水 式 の大 型 電 池 とボ タ ン形 電 池 に 分 け られ る.流 布 し て い る の は ボ タ ン形 で あ る の で,こ れ につ い て述 べ る.こ の ボ タ ン形 電 池 は補 聴 器 用 電 源 と して 使 わ れ て い た酸 化 水 銀 電 池 が 環 境 汚 染 防 止 の 観 点 か ら製 造 中止 に な っ た こ と か ら,そ の代 替 電 池 と して 急 速 に普 及 す る よ うに な った.そ (−)Zn(Hg)│KOH(ZnO飽 電 極 反 応 は以 下 の よ うで あ る.
和),H20│C(触
の電 池 構 成 は
媒),O2(−)
正 極:O2+2H20+4e−=4OH−
負 極:2Zn+8OH−=2[Zn(OH)4]2−+4e−
電 池:O2+2Zn+2H20+80H−=2[Zn(OH)4]2−
E°=0.401V
(2.22)
E°=一1.33V
(2.23)
U°=1.731V (2.24)
電 池構 造 は図2.4の
よ うで あ る.容 器 底 に 空 気 取 り入 れ 口 が1∼2個
保 存 時 に は空 気 を 通 しに くい シー ル テ ー プ で 覆 わ れ,使 質 は ア ル カ リ乾 電 池 と同 様 に ゲ ル状Znで 困 難 で,Hgア
マ ル ガ ム化Znが
レ ー タ下 部 に は空 気 極(正
あ い て お り,
用 時 に はが す.負 極 活 物
あ る.た だ し,今 の と こ ろ無 水 銀 化 は
使 わ れ て い る.正 極 活 物 質 充 填 部 が な く,セ パ
極)が
設 け られ,こ の 空 気 極 下 部 に撥 水 性 の 多 孔 性 フ
ッ素 樹 脂 膜 が 存 在 し,正 極 に 酸 素 を送 る と と も に電 解 液 の 流 出 を防 い で い る.拡 散 層 に は不 織 布 が 用 い られ,空
気 孔 か ら流 入 した 酸 素 を空 気 極 全 体 に行 き わ た ら
せ る役 目 をす る. この 電 池 の ポ イ ン トは空 気 極 に あ り,Niネ
ッ トに触 媒 層 を圧 着 し,空 気 孔 に
面 した 側 に は 多 孔 性 フ ッ素 樹 脂 膜 が 圧 着 さ れ て い る.酸 素 還 元 触 媒 と して はPt が 最 良 で あ るが,高 価 な た めMn酸
化 物 な どが 活 性 炭 や カ ー ボ ン ブ ラ ッ ク と混
合 して 用 い られ て い る.こ の ボ タ ン電 池 の 特 長 は,①
あ らか じ め 正 極 物 質 を充
填 す る必 要 が な く,そ の ス ペ ー ス まで 負 極 活 物 質 を充填 で き るの で,エ 密 度 が 高 い(200∼330mWh・g−1,700∼1000mWh・cm−3),② ∼1 .3Vと
ネル ギー
放 電 電 圧 が1.2
平 坦 で あ る こ と,で あ る.
この 電 池 は 開封 後,空
気 中 の炭 酸 ガ スの 吸 収 に よ り劣 化 す るの で,長 期 使 用 が
困難 で あ り,短 期 間 で使 い 切 る補 聴 器 や ペ ー ジ ャ(ポ ケ ッ トベ ル)用 電 源 な ど に 最 適 で あ る.
図2.4 ボ タ ン 形 空気 亜 鉛 電 池 の 構 造
d. リ チ ウ ム 電 池 リチ ウ ム電 池 とは,負 極 活 物 質 と して 金 属 リチ ウム を,電 解 液 に非 水 溶 媒 を使 用 す る電 池 の総 称 で,3Vと
い う水 溶 液 系 で は不 可 能 だ っ た 高 電 圧 を実 現 した.
正 極 活 物 質 に はMnO2,(CF)x(フ じ め,さ
ッ化 黒 鉛),SOCl2(塩
化 チ オ ニ ル)な
どを は
まざ ま な物 質 が 使 用 され て い る.前 二 者 は わ が 国 で発 明 され た.リ チ ウ
ム 電 池 の 特 長 は, ① 作 動 電 圧 が3Vと
高 い.
② エ ネ ル ギ ー 密 度 が 高 い. ③ 作 動 温 度 範 囲 が 広 い.電 池 種 に よ っ て は−55∼+85℃
で 作 動.
④ 自 己 放 電 速 度 が 遅 く,保 存 特 性 に 優 れ る.放 電 電 流 が 小 さ い 場 合 に は 5∼10年 作 動 が可 能. ⑤ 耐 漏 液 性 に優 れ る. これ らの 水 溶 液 系 電 池 に な い 利 点 を生 か し,多 わ れ て い る.こ
こで は,最
くの エ レ ク トロニ ク ス機 器 に使
も生 産 量 の 多 い二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウム 電 池 に つ い て
述 べ る. 正 極 活 物 質 に は高 温 で 脱 水 処 理 した 電 解MnO2に
導 電 剤 と して 黒 鉛,バ
ダ と し て フ ッ素 を加 え た合 剤 を粉 末 成 型 した もの,ま
イン
た は 合 剤 に粘 着 剤 を加 え て
ス ラ リー状 に して 金 属 製 芯 体 に塗 布 した もの を,電 解 液 に は プ ロ ピ レ ンカ ー ボ ネ ー ト(PC)を
主 体 と す る有 機 溶 媒 にLiCl 4を 加 え て 使 用 す る.一 般 に 有 機 電 解
液 の 導 電 率 は 水 溶 液 に比 べ て1∼2桁 コ イ ン形(図2.5),も
低 い の で,電 池 の 抵 抗 を下 げ る手 段 と して,
し くは渦 巻 き状 円 筒 形(図2.6)と
して 電 極 間 距 離 を短 く
して い る.セ パ レ ー タ に は ポ リプ ロ ピ レ ン な どの高 分 子 材 料 か らな る不 織 布,微 多 孔 膜,ま
た は そ れ ら を張 り合 わ せ た有 機 電 解 液 に不 溶 な二 層 セ パ レー タが 用 い
られ る.電 池 電 圧 は3Vで,電
池 反 応 は次 式 で 示 され る.
正 極:Li++Mn(Ⅳ)O2+e−=Mn(Ⅲ)O2(Li+)
(2.25)
負 極:Li=Li++e−
(2.26)
電 池:Li+Mn(Ⅳ)O2=Mn(Ⅲ)O2(Li+) 正 極 で はMnO2の たLi+が
(2.27)
還 元 が 起 こ る と と も に,負
電 解 液 中 を 拡 散 した 後,MnO2に
形 電 池 の 用 途 は メ モ リバ ッ ク ア ッ プ 用,電
極 で 金 属Liが
放 電 した 結 果 生 じ
固 相 拡 散 に よ り侵 入 し て く る.コ 卓,カ
メ ラ,デ
ジ タ ル ウ ォ ッ チ,体
イ ン 温
図2.5 コイ ン形 二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウ ム電 池 の 構 造
図2.6 円 筒 形 二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウム 電 池 の 構 造
計,薄
型 ラ ジオ な ど,円 筒 型 電 池 の 用 途 は 自 動 巻 き 上 げ カ メ ラ,デ
ラ,水 道,ガ
ジ タル カメ
ス,電 力 メ ー タ,通 信 機 器,計 測 機 器,各 種 メモ リバ ッ ク ア ッ プ 用
な どで あ る.
2.3.2 二
次
電
池
a. 鉛 二 次 電 池 鉛 蓄 電 池 と もい わ れ る こ の電 池 は 発 明 後140年
後 の 今 も使 わ れ て お り,安 価 で
信 頼 性 の 高 い電 池 で あ る.毒 性 の 高 い 鉛 が 正,負 極 活 物 質 と して使 わ れ て い る欠
点 は あ るが,環 境 汚 染 防 止 と資 源 の 有 効 活 用 の観 点 か ら,早 け られ,今
で は廃 電 池 の 回 収 率 は95%を
に多 い が,据
くか ら回 収 が 呼 び か
越 え て い る.用 途 は 自 動 車 用 が 圧 倒 的
え置 き型 と して ビル な どに設 置 され,無 停 電 電 源 と して 目 に見 えな
い と こ ろ で 活 躍 して い る.電 解 槽 の構 造 か ら,開 放 式 と密 閉 式(図2.7)に
分け
られ る.電 池 反 応 は 次 の よ うで あ る. 正 極:
放電 充電 (2.28)
負 極:
放電 充電
電 池:
(2.29)
放電 充電 (2.30)
この 電 池 の 特 長 は 水 の 分 解 電 圧 が1.23Vで
あ る こ と を考 え る と起 電 力 が 異 常
に 高 い とい う点 に あ り,理 論 的 に は 存 在 しえ な い電 池 で あ る.負 極 活 物 質 で あ る Pbの
電 位 は−0.355Vで
あ り,水 素 発 生 反 応(2H++2e−=H2,E°=0V)の
E° よ り負 に あ り,次 の 反 応 に よ り 自己 溶 解 し,水 素 を発 生 し て も よ い は ず で あ る. Pb+2H++SO42−=H2+PbSO4 U°=0.355V
(2.31)
し か し,こ の よ う な 反 応 は起 こ り に く く,鉛 蓄 電 池 が 存 在 し う る の は,Pbの 水 素 過 電圧 が きわ め て大 きい た めで あ る.一 次 電 池 の と こ ろ で 述 べ な か っ た が,Pbの
他 にZn,Hgが
同様 の 性 質 を
もち,こ れ らの 金 属 上 に お け る水 素 発 生 反 応 の 速 度(交
換 反 応 電 流 密 度)はPt
の そ れ に比 べ,1/106∼1/108と 遅 く,そ の た めPb負
きわ め て
極 は 式(2.31)の
よ う な 反 応 に よ り自 己 溶 解 す る こ と も な い.ま
た,正
極 のPbO2の
電位 は式
図2.7 シ ー ル形 鉛 蓄 電 池 の 概 略 構 造
(2.28)に 示 す よ う に,1.685Vで
酸 性 溶 液 中 で の 水 の 酸 化 を 起 こす 電 位(O2
+4H++4e−=2H2O,U°=1.23V)よ
り十 分 正 に あ り,強 い 酸 化 剤 と し て作 用
し,理 論 的 に は次 の 反 応 が 起 こ り,酸 素 を発 生 して もよ い はず で あ る. 2PbO2+4H++2SO42−=2PbSO4+O2+2H2O
U°=0 .455V (2.32)
しか し,酸 性 溶 液 中 のPbO2は に貴 電 位 に あ っ て もPbO2自
酸 素 発 生 の 過 電 圧 が と くに 大 き く,こ の よ う
身 の 安 定 性 は保 た れ て お り,PbのH2発
生過 電圧
が 大 きい とい う双 方 の効 果 が加 わ っ て,水 溶 液 系 電 池 と し て異 常 に 高 い 電 圧 を保 持 で き るの で あ る. b. ニ ッケ ル ・水 素 二 次 電 池 こ の 電 池 は,正 極 に ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 二 次 電 池 と 同 じ ニ ッ ケ ル 酸 化 物 (NiOOH)を,負
極 に 水 素 吸 蔵 合 金 を,電 解 液 に は 濃 厚 ア ル カ リ溶 液 を用 い て,
環 境 へ の受 け入 れ が 容 易 な よ うに ニ ッケ ル ・カ ド ミウ ム二 次 電 池 との 置 き換 え を 目標 に して 実 用 化 さ れ た.し た が っ て,公 称 電 圧 は1.2Vで
ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ
ウ ム 二 次 電 池 と同 じで互 換 が 容 易 で あ り,充 放 電 サ イ クル 寿 命 が 永 く,か つ容 量 は1.3∼2倍
もあ る優 れ た電 池 で あ る.水 素 吸 蔵 合 金 は 熱,水
て,水 素 の 吸 蔵 ・放 出 が 可 能 な合 金 で,約2質
量%も
素 圧,電 位 に よ っ
の 水 素 を吸 蔵 す る こ とが で
き る.こ の 電 池 は,電 位 を変 え る こ とに よ って 水 素 の 吸 蔵 ・放 出 が 可 能 な こ とを 利 用 した もの で,TiNi系
やLaNi5系
合 金 の 検 討 か ら始 ま っ た.合 金 が 水 素 の 吸
蔵 ・放 出 を繰 り返 す た び に起 こ る膨 張 ・収 縮 の た め に微 粉 化 す る,電 解 液 との接 触 に よ る合 金 の 腐 食 な ど の た め 充 放 電 サ イ クル 寿 命 が 短 い とい う問 題 は,Mm (NiCoMnAl)5系
合 金(た
と え ばMmNi3.8Co0.5Mn0.4Al0.3,Mm:ミ
ッシ ュ メ タ
ル,希 土 類 元 素 の 混 合 物)を 用 い る こ とに よ っ て 克 服 され,世 界 に先 駆 け,1990 年 わ が 国 で 実 用 化 され た.電 池 反 応 は次 の よ うに 示 され る. 正 極:
負 極:
電 池:
こ こで,Mは
充電 放電
充電 放 電
充電 放電
水 素 吸 蔵 合 金,MHabは
(2.33)
(2.34)
(2.35)
水 素 が 合 金 に 吸 蔵 さ れ た状 態 を 示 す.
図2.8 円 筒 形 ニ ッケ ル ・水 素 二 次電 池 の構 造
こ の よ う に,電 池 反 応 は正 極 負 極 間 の 水 素 の移 動 だ け で あ り,電 解 液 の 消 耗 が な い の で,高 信 頼 性 が 期 待 で き る.電 池 形 状 と して,円 筒 形(図2.8)と 在 し,携 帯 電 話,ス は,こ
角形 が存
テ レオ ヘ ッ ド フ ォ ン な どに使 用 され て い る.注 目す べ き こ と
の 電 池 の単1形
が組 電 池 化 され,ハ
イ ブ リ ッ ド車 電 源 と して ガ ソ リン車 に
搭 載 され,環 境 浄化 に寄 与 し始 め た こ とで あ る. c. リチ ウム イ オ ン二 次 電 池 金 属 リチ ウ ム を 負極 活物 質 と して二 次 電 池 化 で きれ ば,理 想 的 な高 エ ネル ギ ー 密 度 電 池 とな るが,充 電 時 にで き る樹 枝 状 リチ ウ ム に よ る内 部 短 絡,電 解 液 と リ チ ウム の反 応 に よ る充 放 電 効 率 の低 下 な ど に よ り,い まだ 実 現 して い な い.こ よ う な状 況 下 で,カ
ー ボ ン を負 極 材 料 と して,リ
の
チ ウム を そ の結 晶 中 に取 り込 む
こ とに よ り,上 記 の 問 題 を解 決 し,正 極 に非 晶 質 五 酸 化 バ ナ ジ ウ ム(V2O5)を 用 い た コ イ ン形 電 池 が1989年 形 電 池 が1991年 携 帯 電 話,ノ
に,コ バ ル ト酸 リチ ウ ム(LiCoO2)を
に い ず れ もわ が 国 に お い て 実 用 化 され た.と
用い た円筒
くに後 者 の 電 池 は
ー ト型 パ ソコ ン,ビ デオ カ メ ラ な どの電 源 と して,そ
の生 産 量 が 急
増 し て い る.こ の 電 池 は,充 電 状 態 で も負 極 内 で リチ ウ ム が イ オ ン と して 存 在 し,充 放 電 に際 し て,リ チ ウ ム イ オ ンが 正 極 と負 極 の 間 を往 復 す る こ とか ら,"リ チ ウ ム イ オ ン二 次 電 池",あ
る い は単 に"リ
チ ウ ム イ オ ン電 池"と
い わ れ て い る.
メ モ リー 効 果 ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 二 次 電 池 や ニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 に は メ モ リー 効 果 とい う奇 妙 な現 象 の あ る こ とが 知 ら れ て い る.こ
れ は,電
池 を 完 全 に 放 電 し き る こ とな
く浅 い 放 電 と充 電 と を繰 り返 し て い る と放 電 電 圧 が 低 下 し,本 来 の 容 量 を 取 り出 せ な くな る現 象 で,当
初 そ の 原 因 は 負 極 の カ ド ミウ ム に あ る と され,負
極 が 水素 吸合
金 に置 き換 わ っ た ニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 で は 起 こ ら な くな る とい わ れ た こ と も あ っ た.し
か し,や
は りニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 に も現 れ る(図2
電 の 繰 り返 し は,結 か ら β-NiOOHに
.9).浅
い放 電 と充
局 過 充 電 と な る こ とで あ り,充 電 に よ り,通 常 は β-Ni(OH)2 酸 化 さ れ る べ き と こ ろ,さ
平 均 酸 化 数=3.7)が NiOOHは,β-NiOOHよ
ら に 酸 化 の 進 ん だ γ-NiOOH(Niの
生 成 す る た め で あ る こ と が わ か っ て き て い る.こ の γり抵 抗 が 大 き く,そ の標 準 酸 化 還 元 電 位 も低 い た め,そ
の 生 成 に よ り放 電 電 圧 が 低 下 す るわ け で あ る.そ
して,こ
の メ モ リー 効 果 は 強 制 的
に 完 全 に 放 電 し て は 充 電 す る こ と を 数 回 繰 り返 す と消 滅 し,正 常 状 態 に 復 帰 す る 場 合 が 多 い.し
か し,こ
の 電 池 を使 用 す る機 器 に は,普 通,強
制 放電機 能 はつい てい
な い か ら,電 池 が 壊 れ た もの と して 破 棄 さ れ る こ とが 多 い .こ れ を起 こ ら な い よ う に す る こ とが 大 き な 課 題 で あ る.
図2.9 単4形
ニ ッケ ル ・水 素 電 池 の放 電 曲 線
(250mA,30℃) A:正
常 電 池 の 放 電 曲 線,B:浅
を300サ
い 放 電 と充 電
イ ク ル 実 施 後 の 放 電 曲線.
この 電 池 の充 放 電 反 応 は 図2.10の
よ う に示 さ れ,充 電 に 際 し て は, LiCoO2を
形 成 して い た リチ ウム イ オ ンが コバ ル ト酸 化 物 か ら抜 け 出 し,電 解 液 中 を通 っ て カ ー ボ ン内 に挿 入(イ が,下
ン タ ー カ レ ー シ ョ ン)さ れ,放
記 の よ う に進 行 し,平 均 作 動 電 圧 は3.6∼3
電 に際 して はその逆 反応
.7Vと
現 行 電 池 で は最 も高 い
値 を示 す. 正 極:
充電 放電
負 極:
(2.36) 放電 充電
電 池:
(2.37)
充電 放電
(2.38)
コバ ル トは 資 源 的 に量 が 少 な く,価 格 変 動 が激 し い とい う欠 点 が あ るた め,安 価 で か つ 高 容 量 の 代 替 物 質 が 精 力 的 に探 索 され て い る.一 部 で よ り安 価 な マ ンガ ン酸 リ チ ウ ム(LiMn2O4)が とLiMn2O4か
らMnが
使 用 され 始 め た が,若 干 容 量 が 少 な く,高 温 に な る
溶 解 し,性 能 が劣 化 す る欠 点 が あ る.そ の た め 安 価 で,
高 容 量 の正 極 活 物 質 が探 索 され て い る. 負極 材 料 で あ る カ ー ボ ン は そ の 出発 物 質 や 炭 素 化 プ ロ セ ス な どに よ って さ ま ざ まな 結 晶 構 造,微 細 構 造 を とる こ とが知 られ て お り,ど の よ うな カ ー ボ ン を採 用 す るか に よっ て,そ の 充 放 電 容 量,サ
イ クル 寿 命 が大 き く変 化 す る.結 晶 化 度 の
高 い 黒 鉛 は 炭 素 原 子 が 六 角 網 平 面 状 に 結 合 した 層 が積 層 した 構 造 を示 して お り, リチ ウ ム イ オ ン は そ の 層 間 に取 り込 まれ て 層 間 化 合 物 を形 成 す る.炭 素6個 して リチ ウ ム1個
に対
が配 位 した状 態 の と き,最 も吸 蔵 量 が 多 くな り,372mAh・g-1
図2.10
リチ ウ ム イ オ ン二 次電 池 の 充 放 電
とい う理 論 容 量 とな る.こ れ を上 回 る可 能 性 の あ る非 晶 質 炭 素 や 結 晶 構 造 の異 な る炭 素 の探 索 研 究 が 活 発 に行 わ れ て い る.炭 素 材 料 よ り,数 倍 高容 量 が 期 待 で き るス ズ,シ
リコ ン な ど を負 極 活 物 質 に 用 い る研 究 が 活 発 に続 け られ て い る.
電解 液 に は,た
と え ば,6フ
ン カ ー ボ ネ ー ト(EC)と
ッ化 リ ン酸 リチ ウ ム(LiPF6)を
ジエ チ ル カ ー ボ ネ ー ト(DEC)の
溶解 したエ チ レ
混 合 溶 媒 が 用 い られ て
い る.大 型 化 され た と きの い っ そ う の安 全 性 を求 め,難 燃 性 溶 媒 の合 成 研 究 も行 わ れ て い る. 電 池 構 造 例 を図2.11に 示 す.正 極 お よび 負 極 材 料 粉 体 を 溶 剤 や バ イ ン ダ(ポ リフ ッ化 ビニ リ デ ン な ど),必 要 に応 じ導 電 剤 を 加 え て ペ ー ス ト状 に した もの を 前 者 は ア ル ミニ ウム 箔 に,後 者 は銅 箔 に塗 布 した 後,セ
パ レー タ(ポ
リエ チ レ ン
の微 孔 性 フ ィル ム)を 介 して三 者 を 渦 巻 き状 に巻 く こ とに よ って 円筒 状 と し,電 解 液 と と もに電 池 容 器 に封 入 さ れ て い る.ま た,楕
円状 に巻 い た もの を角 形 容 器
に充 填 した 電 池 も生 産 され て い る.こ の電 池 は電 圧 が4 .5Vを
超 え る と電 解 液 の
分 解 が 起 こ る可 能 性 が あ り,ガ ス発 生 に よ り電 池 内 圧 が 上 昇 し危 険 で あ る.そ で,充 電 器 の 故 障,誤
用 に よ る過 充 電,過
放 電,あ
る い は組 電 池 に お け るバ ラ ン
ス の 崩 れ で 容 量 の少 な く な った 不 良 電 池 に過 充 電,過 し な い よ う に,安 い る.ユ
こ
放 電 が な され た 場 合 も破 裂
全 機 構 が組 み 込 ま れ て
ー ザ ー の 要 求 に合 わ せ て 製 造 さ
れ る の で 電 池 寸 法 は さ ま ざ ま で あ る.容 量700∼1650mAhの 池(直 mm)と
数種 類 の 円筒 形 電
径14.8∼18.8mm,高
さ50∼65
容 量500∼1600mAhの
角形 電 池
(厚 さ5.4∼14.8mm,幅28.7∼34.2 mm,高
さ47.1∼67.9mm)が
て い る.最
近 は,ゲ
製 造 され
ル 状 ポ リマ ー 電 解 質
を 使 用 す る 薄 型 電 池(厚 も量 産 さ れ て お り,携
さ4mm以
帯 電 話 や ノ ー ト型
パ ソ コ ン に 搭 載 さ れ て い る.放 形 状 に は,放
電 曲線 の
電 に つ れ 電 圧 が な だ らか に
低 下 し て い く タ イ プ と,平 し,放
下)
坦 な ま ま進 行
電 末 期 で 急 に低 下 す るタ イ プが あ
図2.11 円 筒形 リチ ウム イ オ ン二 次 電 池 の 構 造
るが,こ
れ は負 極 材 料 で あ る炭 素 の 種 類 に依 存 す る.
ハ イ ブ リッ ド車,電
気 自動 車 用,あ
る い は据 え置 き型 電 源 と して の大 型 リチ ウ
ム イ オ ン電 池 の 開 発 研 究 も行 わ れ て い る.
2.3.3 燃
料
電
池
火 力 発 電 所 や 自動 車 で の 化 石 燃 料 の 大 量 消 費 に よ り放 出 され る二 酸 化 炭 素,あ るい は硫 黄 酸 化 物 や 窒 素 酸 化 物 に よ る地球 規 模 の 環 境 汚 染 が 深 刻 な 問題 とな って い る.わ が 国 で は,電
力 と運 輸 の 両 部 門 で 放 出 され る二 酸 化 炭 素 量 が 全 体 の50
%を 占 め て お り,低 公 害 の新 しい発 電 装 置 や輸 送 用 動 力 源 の 早 急 な実 現 が 強 く望 まれ て い る.こ の よ うな観 点 か ら,最 も期 待 され て い る エ ネ ル ギ ー源 の1つ が 燃 料 電 池 で あ る.図2.12に 右 側 か ら空 気(酸
よ り,そ の 原 理 を説 明 す る と,左 側 か ら燃 料 の 水 素 を,
素)を 入 れ て や る と,そ れ ぞ れ 電 極 に付 与 さ れ た 触 媒 の作 用 で
次 の 反 応 が 進 行 し,負 極 か ら放 出 され た 電 子 は外 部 回路(負 荷)を
通 っ て,正 極
に 流 れ る.こ の間 で 電 球 を点 灯 した り,電 子 機 器 を作 動 させ た りす るわ けで あ る. 正 極:1/2O2+2H++2e-→H2O
E°=1.229V
(2.39)
負 極:H2→2H++2e-
E°=0V
(2.40)
電 池:H2+1/2O2=H2O
U°=1.229V
図2.12 燃 料 電 池 の 原理
(2.41)
全 体 と して,水 素 が燃 焼 し て水 が で き る反 応 で あ り,水 素(燃
料)が 供 給 され
て い る 間 は 発 電 が 持 続 す る.充 電 が で きな い こ とか ら,一 次 電 池 の1種 で もあ る.実 際 の 起 電 力 は 燃 料 の種 類 に よ っ て若 干 異 な るが,た
か だ か1V程
度で あ
る か ら,大 電 圧 を得 るた め に は,単 セ ル を数 百 セ ル積 層 す る. こ こで 燃 料 電 池 の エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 に つ いて 考 え る.す で に 述 べ た よ うに, 電 池 は熱 機 関 を用 い ず 反 応 物 質 の化 学 エ ネ ル ギー を直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 す る シ ス テ ム で あ る か ら,原 理 的 に は,ΔG° を す べ て 電 気 エ ネ ル ギ ー に 変 換 で き る.一 方,物 質 の 燃 焼 に よっ て 得 られ る エ ネ ル ギ ー,ΔH°(エ
ン タ ル ピ ー変 化)
は ΔG° との 間 に次 の 関係 が あ る. ΔG°=ΔH°-TΔS° こ こ に,Tは
(2.42)
絶 対 温 度,ΔS° は エ ン トロ ピー 変 化 で あ る.最 大 エ ネ ル ギ ー 変 換
効 率 εは ε=ΔG°/ΔH°=(ΔH°-TΔS°)ΔH° で 示 され,TΔS°
(2.43)
の み が 変 換 時 に お け る損 失 分 とな る.燃 料 電 池 を25℃ で 作 動 さ
せ る とす る と式(2.41)に -237.1kJ・mol-1(H2Oが
対 す る ΔH° と ΔG° の 値 は そ れ ぞれ-285.8kJ・mol-1, 液 体 の 場 合)な
の で,ε は83%も
燃 料 電 池 は電 解 質 の種 類 に よ っ て分 類 され,い
の 高 効 率 とな る.
くつ か の 燃 料 電 池 類 が 存 在 す
る. a. 固 体 高 分 子 電 解 質型 燃 料 電 池 電 気 自動 車 駆 動 用 電 源 と して 最 も注 目 さ れ て い る のが,小 出 力 密 度 が 期 待 で き る高 分 子電 解 質 型 燃 料 電 池(polymer PEFC)で
型 軽 量 で 高効 率 ・高 electrolyte fuel cell,
あ る.最 近,世 界 の 主 要 自動 車 メ ー カ ー が 一 斉 に 開 発 に着 手 し た た
め,産 業 界 全 体 を 巻 き込 ん だ 開 発 競 争 が 全 世 界 的 に始 まっ て い る.こ の 電 池 は, 水 素 イ オ ン の み を 透 過 す る フ ッ素 系 イ オ ン交 換 性 高 分 子 膜 を 電 解 質 に 用 い, 60∼100℃ の比 較 的 低 温 で 作動 す る.反 応 式 は式(2.39)∼(2.41)で 用 のPEFCの
性 能 と して は,0.7A・cm-2で
り,こ れ を200∼300セ
単 セ ル 電 圧0.7∼0.8Vが
あ る.自 動 車 目標 で あ
ル 積 層 し,ス タ ッ ク とす る.水 素 を高 圧 タ ン ク,水 素 吸
蔵合 金 や液 体 水 素 タ ン ク に貯 蔵 して 用 い る方 式 とメ タ ノ ー ル な どの液 体 燃 料 を車 上 で 水 素 に 改 質 して供 給 す る方 式 が 検 討 さ れ て い る.前 者 で は,か な り高 性 能 化 が進 ん で い るが,コ
ス ト,水 素 充 填 ス タ ン ドの イ ン フ ラ整 備 や 走 行 可 能 距 離 な ど
の 点 で 実 用 的 に問 題 が あ る.後 者 は,ガ ソ リ ン車 並 み の 利 便 性 を有 す るが,改 質
器 の 小 型 化,メ
タ ノ ー ル な どの 燃 料 の 分 解 時 に発 生 す るCOをppmレ
除 去 す る こ と,始 動 時 間 の短 縮 な どの 解 決 が 必 要 で あ る.Ptは
ベ ル まで
優 れた負極 触媒
で あ る が,わ
ず か 数ppmのCOが
混 在 す る と失 活 し,電 圧 低 下 が 生 じ る.現 在
は,Pt-Ru合
金 に よ り100ppm程
度 のCOが
安 価 な 耐CO被
許 容 さ れ る よ う に な っ た が,よ
毒 触 媒 の 開発 が 待 た れ る.正 極 触 媒 はPtが
り
主 流 で 発 電 効 率 は50
%以 上 の 高効 率 を実 現 して い るが,新 触 媒 の 発 見 に よ る さ ら な る大 幅 効 率 向 上 や Pt使 用 量 低 減 の 余 地 が あ る.わ が 国 で は2002年
末,世 界 に先 駆 け 国産 の 燃 料 電
池 車 が 実 用 化 され た.た だ し,価 格 は い まだ 非 常 に 高 く,寿 命 を は じめ,解 決 す べ き点 は 多 い が,こ
れ らが 克服 され,安 価 な 燃 料 電 池 車 の 普 及 が 待 た れ る.さ
ら
に,燃 料 電 池 の 改 善 も さ る こ とな が ら,安 価 な 水 素 製 造 技 術 の 開 発 が 必 要 で あ る.将 来 的 に は太 陽 光 発 電 や 風 力 発 電 で 発 電 した電 力 で,水
の電 気 分 解 を行 い,
得 られ た水 素 ガ ス で燃 料 電 池 を作 動 させ る時 代 が 来 る と思 わ れ る.ま た,電 力 の 得 られ る給 湯 シ ス テ ム と して 都 市 ガ ス やLPGを
燃 料 とす る家 庭 用 燃 料 電 池 の 開
発 も進 め られ て い る. b. ア ル カ リ型 燃 料 電 池 電 解 液 にKOH水
溶 液 を用 い,100℃
以 下 の 低 温 で作 動 させ る.純 水 素,純
素 を用 い る高 エ ネル ギ ー 密度 電 源 と して,ア の電 源 に採 用 され,実
酸
メ リカ の ア ポ ロ宇 宙 船(1968∼1972)
用 化 され た.電 解 液 が 二 酸 化 炭 素 に よ り劣 化 す るの で,一
般 商 用 電 源 と して は二 酸 化 炭 素 を多 量 に 含 む ガ ス,た
と え ば天 然 ガ ス な どの 化 石
燃 料 を水 蒸 気 改 質 した粗 製 水 素 を そ の ま ま燃 料 に 用 い る発 電 シ ス テ ム に は 不 適 で あ り,燃 料 と して純 水 素 と純 酸 素 が で き る特 殊 用 途 に 限 られ て い る.電 池 反 応 は 正 極:1/2O2+H2O+2e−=2OH− 負 極:H2+2OH−=2H2O+2e−
電 池:H2+1/2O2=H2O
E°=0.401V
(2.44)
E°=−0.828V
(2.45)
U°=1.229V
(2.46)
c. リ ン酸 型 燃 料 電 池 高 濃 度 の リン酸 水 溶 液 を電 解 液 と して 用 い,正 極 に は天 然 ガ ス や メ タ ノー ル を 改 質 す る こ と に よ っ て得 られ る水 素 を,負 極 に は 空 気 を用 い,約200℃
で発 電 を
行 う.燃 料 を脱 硫 後 改 質 器 で 次 の反 応 に よ り,水 素 が 主 成 分 の ガ ス に 改 質 す る. CH4+H2O=CO+3H2
(2.47)
CH3OH+CO=CO+2H2 この と き生 成 す るCOは CO2に
(2.48)
電 極 の触 媒 を被 毒 す る の で,変
成器 で 次 の反 応 に よ り
変 換 す る. CO+H2O=CO2+H2
(2.49)
出 力 電 圧 は1セ ル あ た り0.6∼0.8Vと 転 さ れ(図2.13),実
低 い の で,直 列 に 数 百 セ ル を 積 層 して 運
用 化 が始 ま っ た.発 電 に よ るエ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 は40%程
度 で あ るが,燃 料 の 改 質 時 に発 生 す る熱 も暖 房 や 給 湯 に利 用 す る と全 エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 は50∼80%に
達 す る.
d. 溶 融 炭 酸 塩 型 燃 料 電 池 次 世 代 の 電 池 と して 開 発 が 進 め られ て い る この 電 池 は,電 解 と してLi2CO3, K2CO3の
共 晶 塩 を用 い,650℃
め に,γ-LiAlO2が
の 溶 融 状 態 で 作 動 す る.こ の 流 体 を 安 定 化 す るた
混 合 さ れ て い る.そ の 反 応 は
正 極:CO2+1/2O2+2e−=CO32−
負 極:H2+CO32−=H2O+CO2+2e−
(2.50)
電 池:H2+1/2O2=H2O
(2.51)
(2.52)
通 常 の 燃 料 電 池 の よ う に プ ロ トン の 移 動 で は な く,CO32− が 移 動 す る の で あ る が,全
反 応 は 同 じで あ る.こ の電 池 と後 述 の 固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 は リ ン酸 型 燃
料 電 池 よ り高 効 率 が期 待 され て い る.そ れ は,高 温 作 動 の た め 酸 素 還 元 反 応 の過 電 圧 が よ り小 さ くな り,出 力 時 の 電 圧 を 高 く保 持 で きる た め で あ る.溶 融 炭 酸 塩
図2.13
リン酸 型 燃 料 電 池 の 単 セ ル の 構 成 これ を 数 百 セ ル 積 層 す る.
型 で は 単 セ ル あ た り,150mA・cm−2,0.8V以
上 を 目標 とし て い る.
e. 固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 この 電 池 は 酸 化 物 イ オ ン(O2−)伝
導 性 固 体 電 解 質 を用 い,1000℃
させ る.電 解 質 と して は,安 定 化 ジル コニ ア が 主 流 で,ZrO2に
付 近で作動
カル シアや イ ッ
トリア な どを添 加 し て焼 成 した 焼 結 体 が 用 い られ る.電 池 反 応 は 正 極:1/2O2+2e−=O2− 負 極:O2−+H2=H2O+2e−
(2.53)
(2.54)
電 池:1/2O2+H2=H2O
電 極 材 料 と して,高 で安 定 な物 質,負
(2.55)
い 電 子 伝 導 性 を もつ必 要 が あ り,正 極 に は高 温 酸 化 雰 囲 気
極 に は水 素 お よび 還 元 性 雰 囲 気 に 強 い材 料 を用 い る必 要 が あ
る.前 者 に 試 用 さ れ て い る の はLaCoO3やLaMnO3を ト型 酸 化 物,後
主 体 と した ペ ロ ブ ス カ イ
者 に は 多 孔 性 ニ ッケ ル ま た はニ ッケ ル ‐安 定 化 ジ ル コニ ア サ ー メ
ッ トの 使 用 が 考 え られ て い るが,こ
れ は正 極 材 料 に比 べ て 技 術 的 問 題 が 少 な いた
め で あ る.い ず れ も,電 池 の昇 降 温 時 に固体 電 解 質 と電極 界 面 に剥 離 が起 こ るの を 防 ぐた め,固 体 電 解 質 と同 程 度 の熱 膨 張 率 を有 して い る必 要 が あ る.固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 で は,小 型 化 お よび低 温 化 の 開 発 が 活 発 に 行 わ れ て い る. 以 上,代 表 的 な一 次,二 次 お よ び燃 料 電 池 に つ い て 簡 単 に述 べ た が,他 くの 電 池 が あ る.そ れ らの 詳 細 は他 の専 門 書 を見 て欲 し い4−6).
に も多
3 電
解
大 学 入 試 問 題 で しば し ば食 塩 水 の電 気 分 解 が 取 り上 げ られ る.高 校 の 化 学 で は 食 塩 水 の 電 気 分 解 でH2,NaOH,Cl2が
生 成 す る と教 え て お り,こ れ を頭 に 入
れ て お か な い と大 学 入 試 で 失 敗 す る.工 業 電 解 で は高 度 な電 解 技 術 を使 っ て い る の で 確 か に こ の通 りで あ るが,身 近 に あ る電 極 を使 っ て実 験 して み る と陽極 か ら 発 生 す る ガ ス に は か な り多 くの酸 素 が 混 じ っ て い る こ とに 驚 く.Pt電 5%く
ら い の食 塩 水 の 電解 で は酸 素 が50%も
極 を使 い,
生 成 す る こ とが あ る.塩 素 は大 変 危
険 な物 質 で あ る の で,中 学,高 校 の化 学 の 授 業 で 演 示 さ れ る こ とは少 な い し,分 析 す る に は そ れ な りの 準 備 が 必 要 で あ る.し た が っ て,こ の 事 実 を知 る余 地 も な い か も知 れ な い が,理 論 は ど うか,ど
う し て こ うな る の か を知 っ て お く こ と は と
て も重 要 で あ る. 最 近,か
な り濃 い 食 塩 水 を電 気 分 解 し て もH2とO2し
か 発 生 し な い電 極 が 開
発 され て お り,こ れ が 工 業 化 さ れ る こ と に な る と ます ます 複 雑 に な る.食 塩 水 の 電 気 分 解 で は理 論 的 に は水 の 電 気 分 解 でH2とO2が い とい うの が 正 解 だ が,な ぜCl2が 発 生 し,NaOHも
発 生 して,NaOHは
で きな
生 成 す る の だ ろ うか.
硫 酸 水 溶 液 を電 気 分 解 す る と理 論 的 に は水 素 と酸 素 が 発 生 す る のが 当 た り前 で あ る.し か し,少 し条 件 を変 え て 実験 す る とオ ゾ ンや 過 硫 酸 を生 じ る.こ れ も そ れ ほ ど特 別 な条 件 下 で 行 っ て い るわ けで は な い.電 解 で オ ゾ ンや 過 硫 酸 をつ くる 装 置 は す で に実 用 化 され て い る. 電 気 化 学 反 応 で物 質 が 生 産 さ れ る とき に は どの 場 合 に も当 て は ま る こ とだ が, 2つ の た い へ ん重 要 な フ ァ ク タ ーが あ る こ とを知 っ て お か な くて は な らな い.す な わ ち,理 論 で は ど うか とい う,電 流 を流 さな い と きの 値 を論 じ る平 衡 論 と,電 流 を流 して 実 際 に物 質 を生 産 す る と きの 電 極 触 媒 作 用,電
極 反 応 速 度 を論 じ る速
度 論 の2つ で あ る.高 校 の化 学 で は これ を 区別 し て詳 し く教 え る こ と は難 しす ぎ
図3.1 い ろ い ろ な物質 の酸 化 還 元 電 位 とpHの
関係
る の で,工 業 的 に行 わ れ て い る事 実 だ け を教 え る こ とに な る. 図3.1に 電 解 に 関 係 した,い す.図3.1で
ろ い ろ な 物 質 の 酸 化 還 元 電 位 とpHの
は多 くの 反 応 が酸 性 条 件 下 で進 む こ とを 示 し て い るが,ア
条 件 下 で はH+の
代 わ りにH2Oが
反 応 し,OH−
が 生 成 す る.E−pHの
関係 を示 ル カ リ性 関 係 は同
じで あ る. この よ うな背 景 か ら この章 で は電 解 科 学 の 基 礎 事 項 と して フ ァ ラ デ ー の 法 則 か ら導 か れ る理 論 電 気 量,平 衡 論 に よ る電 極 電 位,理 論 電 解 電 圧,速 媒 の 理 論 を述 べ た後,実
度 論,電
極触
際 に 工 業 電 解 で生 産 され て い る実 例 を述 べ る.
3.1 電 解 科 学 の 基 礎 事 項
3.1.1 理 論 電 気 量 原 単 位 一 般 にn個
の 電 子 が 関 与 す る反 応 で,xmolの
場 合 の,反 応 に 関与 す る電 気 量Qは Q=nFx
物 質 が 生 成 あ る い は消 滅 す る
次 の よ うに表 され る. (3.1)
こ こで, Q:流
れ た 電 気 量:(=電
流 ×時 間)
n:反
応 に関 与 した 電 子 数
F:フ
ァ ラ デ ー定 数=96487C・mol−1
x:生
成 あ る い は消 費 した 物 質 の モ ル 数
す な わ ち,電
気 化 学 反 応 で は流 れ る電 気 量 は 反 応 に 関 与 す る 物 質 の 量 に比 例
し,単 位 電 気 量 に関 係 す るの は,物 質 の 種 類 で は な く,反 応 に関 与 す る電 子 数 と 物 質 の 数(モ
ル 数)で
あ る.こ れ を フ ァ ラデ ーの(電
気 分 解 の)法 則 と呼 ぶ.
実 用 的 に は物 質 の 量 は個 数 で は な く,質 量(重 量)mで この場 合 は物 質 の 原 子 量,分
子 量,式 量Mと
表 され る こ とが 多 い.
電 気 量が 関 係 す る こ とに な る.
m=(1/F)(M/n)Q 単 位 質 量,す 位Q°
なわ ちm=1の
(3.2) と き,電 解 に 必 要 な 理 論 電 気 量 を理 論 電 気 量 原 単
で 表 す こ と に す る と,式(3.2)か
ら
表3.1 無機工業電解で生産 される物 質 とその理論電気量原単位
Q°:=(n/M)F
(3.3)
が 得 られ る.無 機 工 業 電 解 で生 産 さ れ るい くつ か の物 質 の理 論 電 気 量 原 単 位 を表 3.1に 示 す. 式(3.3)か
ら明 らか な よ う に原 子 量(式 量)の
小 さ な物 質 の 理 論 電 気 量 原 単
位 は大 き く,単 位 質 量 あた り,た く さん の 電 気 エ ネ ル ギ ー を蓄 え て い る と考 え る こ とが で き る.電 池 にお い て は この原 単 位 が 大 き い もの ほ ど,容 量 の大 きな電 池 を つ くる こ とが で き る.
3.1.2 理 論 分 解 電 圧 フ ァ ラ デ ー の 法 則 は電 気化 学 反 応 に関 与 す る化 学 物 質 の量 と電 気 量 の 関係 を表 して い る が,こ まず,水
こ で は電 解 に お け る エ ネ ル ギ ー の 相 互 変 換 を取 り扱 う.
の 分 解 反 応 を電 解 で 行 う と きの必 要 な 電 圧 を考 え る.
H2O(l)→H2(g)+1/2O2(g)
(3.4)
水 素 と酸 素 の 燃 焼 熱286kJ・mol−1を
水 に与 え れ ば水 が 分 解 す る だ ろ う と,や
か ん の 水 を熱 し て も水 は決 し て水 素 と酸 素 に分 解 し な い.し 圧 を加 え る と水 は分 解 す る.1.23Vは
水 と水 素,酸
か し,1.23Vの
電
素 の もつ ポ テ ン シ ャ ル の 違
い を示 し,こ の エ ネ ル ギ ー は電 気 エ ネ ル ギ ー や 仕 事 で まか な う こ とが で き る.実 際 に は 過 電 圧 や 液 抵 抗 に相 当 した余 計 な電 圧 が 必 要 で あ るが,熱
を加 えて も起 こ
ら な い 反 応 を わ ず か な電 圧 で可 能 に す るの は電 解 の 大 きな特 長 で あ る. 熱 エ ネ ル ギ ー をエ ン タル ピ ー 変 化(ΔH°),電 (ΔG°)で 表 す こ と にす る と水 の反 応 式(3.4)は
気 や仕事 の部分 をギ ブズ 関数 次 の よ う に表 さ れ る.
(3.5) こ こ で,ΔS°
は エ ン ト ロ ピ ー 変 化 を 表 し,TΔS°
エ ネ ル ギ ー で あ る .ΔH°,ΔS°
は エ ン トロ ピ ー 変 化 に 伴 う 熱
は 温 度 に 対 し て あ ま り大 き く 変 化 し な い が,
ΔG° は 温 度 の 影 響 を 受 け る. ΔG° は 電 気 エ ネ ル ギ ー に 等 し い が,電
気 エ ネ ル ギ ー は(電
気 量)×(電
圧)で
表 さ れ る の で, ΔG°=(電
気 量)×(電
=(nF)×(U°)
圧) (3.6)
こ こ で,U°
は 標 準 状 態 に お け る理 論 分 解
電 圧 を 示 す.n,Fは 数,フ
反 応 に 関与 した 電 子
ァ ラ デ ー 定 数 を 表 す.水
298Kに
の電 解 で は
お け る 理 論 分 解 電 圧 は237000/(2×
96487)=1.23Vと 次 に,水
な る.
の 分 解,水
素 ‐酸 素 の 反 応 に お け
る ΔG° と 温 度 の 関 係 を 図3.2に
示 す。 図 に
は ΔH° と ΔG° の 関 係 が 示 さ れ て い る が, そ れ ぞ れ 熱 エ ネ ル ギ ー,電 え る と,そ
気 エ ネ ル ギ ー と考
れ ぞ れ が 温 度 と と もに ど う変 化 す
図3.2 水 の 分 解 に お け る熱 エ ネ ル ギー と 電気エ ネルギーの関係
る か が わ か る.
1気 圧 の も とで は水 は100℃ を超 え る と蒸 気 に な り,高 温 域 で の 様 子 を 見 る に は 水 を水 蒸 気(H2O(g))と
して 取 り扱 う方 が わ か りや す い.液 体 と気 体 で はエ
ネ ル ギ ー の 値 は異 な る が,概 念 と して は同 じで あ るの で,こ (気体)と
の 図 中 で は水 を蒸 気
し て考 えて い る.
ポ イ ン トー ΔH° と ΔG° の 違 い ― 水 素 と酸 素 が 反 応 し て 水 が 生 成 す る 際286kJ・mol−1の 池 で 反 応 さ せ る と237kJ・mol−1の
熱 が 出 る.一
方,燃
料電
電 気 エ ネ ル ギ ー が 出 る.電 気 の場 合 は237kJに
相 当 し た 電 気 を加 え れ ば 水 分 解 が 起 こ る の に,熱
の場 合 は286kJの
熱 を加 えよ う
と し て も反 応 が 進 ま な い の は な ぜ だ ろ う. ΔG° は電 気 な ど の 仕 事 を表 す 一 方,反 し て い る.ΔG°−RT
ln Kと
応 が 自発 的 に 進 む か ど うか の 指 標 を も示
い う 熱 力 学 の 関 係 式 が 示 す よ う に,水
水 素 と酸 素 を 生 成 す る反 応 は ΔG°=237kJか い,あ
る い は進 ま な い こ とが わ か る.そ
らK=10−42を
れ で もTΔS°
与 え,と
が分 解 して
て も進 み に く
に 相 当 した 熱 を 外 部 か ら取
り入 れ て い る の で10−42分 だ け は 反 応 が 進 む と考 え る こ と も で き る が,図3.2で 温 度 を上 げ て い く に した が っ てTΔS° う に な る の で,ΔG°
の 部 分 が 大 き くな り,熱
を 多 く吸 収 す る よ
は 小 さ くな る こ と を 示 して い る.
反 応 が 起 こ れ ば必 ず ΔH° に相 当 し た 反 応 熱 の 出 入 りが 生 じ,こ っ て も ほ ぼ 同 じ値 を と る.ΔG°>0の ま な い が,電 を1atmで
は
と き は,K<1で
解 で 与 え る電 気 エ ネ ル ギ ー は 平 衡 をK=1ま 得 る こ とを 可 能 にす る.
れ は温 度 が変 わ
あ り,反 応 は 自 発 的 に は 進 で 移 動 さ せ,水
素,酸
素
これ か ら,高 温 に な る に つ れ て 水 を 電 気 分 解 す る際 の理 論 分 解 電 圧 が低 下 す る こ とが わ か る.一 方,燃 す る.4000Kく
料 電 池 な どで 水 素 と酸 素 か ら取 り出 す 理 論 起 電 力 も低 下
らい に まで 温 度 を上 げ る と ΔG° は0に な り,わ ざ わ ざ電 解 し な
くて も水 は 水 素 と酸 素 に分 解 す る.逆 電 力 は0Vで
に考 え る とそ の温 度 で は燃 料 電 池 の 理 論 起
あ る.
3.1.3 電 極 反 応 速 度 食 塩 水 を電 解 す る とア ノ ー ドで 何 が 生 成 す る の か.酸 素 な のか,塩 ど う して そ の よ う な選 択 が 起 こ る の か.ギ
素 な のか,
ブズ関数 の計 算 は理論 的 な値 とはい
え,平 衡 状 態 の 値 を示 す わ け だ か ら,特 別 の条 件(電 極 が 反 応 して し ま う な ど) を除 け ば,ど の よ う な電 極 で も理 論 的 に は同 じ値 を示 す.し
か し,電 流 を流 して
実 際 に電 解 が 始 ま る と生 成 す る物 質 は 電 極 に よ っ て異 な って くる.こ れ は反 応 速 度 に関 係 して 決 ま る もの で あ り,こ れ を決 め る の は電 極 触 媒 で あ る.こ の様 子 は 電 流‐電 位 曲線 を描 い て み れ ば明 らか とな る. a. 電 位 ‐電 流 の 関 係 次 の よ うな 酸 化 還 元 反 応 が電 極 上 で 起 こっ て い る もの とす る. Red=Ox+ne− 還 元 体Redが
(3.7)
酸 化 され る電 流 密 度 をiA,酸 化 体Oxが
還 元 さ れ る電 流 密 度 をic
とす る.そ れ ぞれ の 電 流 密 度 を 正 の 値 で 表 す と,外 部 か ら観 測 で き る正 味 の電 流 は i=iA−ic とな る.こ
(3.8)
こで は酸 化 方 向 の正 味 の 電 流 値
を正 に と る こ とに す る. 電 極 反 応 が 進 行 す る と電 位 ‐電 流 の 関 係 は 図3.3の よ う に変 化 す る.破 線 は ア ノ ー ドな い しカ ソー ドの 電 流 で,わ れ わ れ が 観 測 で き るの は実 線 で 示 し た 曲線 で あ る. i−E曲 線 は 電 流 値 の 小 さ な 部 分 か ら大 きな部 分 まで3つ き る.①
の領 域 に分 け る こ とが で
平 衡 電 位 近 傍 の電 流 ‐電 位 の 関 係
が 直 線 に な る領 域,②
電 流‐電 位 の 関 係 が
図3.3 電 極 反 応 の 電 位 ‐電 流 曲線
非 線 形 に な る領 域,③
平 衡 電 位 か ら大 き く離 れ,電
流 値 が 飽 和 して し ま う領 域
で あ る. ①,②
は 電 極 上 で の電 荷 移 動 が 律 速 と な る 部 分 で,こ
の領 域 を解析 す る こ と
で 触 媒 能 の も と とな る反 応 速 度 定 数 や,反 応 機 構 を推 定 で き る.一 方,③
の領
域 か らは 拡 散 に 関 す る諸 デ ー タ が 求 ま る.電 解 で 所 定 の物 質 を効 率 よ く製 造 す る た め に は これ らの 条 件 を う ま く取 り入 れ て 行 う こ とが 重 要 で あ る. 電 極 を 電 解 質 溶 液 に浸 漬 し,照 合 電 極 に対 す る 電 位 を測 定 す る と,必 ず何 らか の 電 位 が観 測 さ れ る.電 流 を流 して い るわ けで は な い の で,何
も反 応 が起 こっ て
い な い よ う に見 え るが,正 方 向,逆 方 向 の 反 応 が 同 じ速 度 で起 こ っ て お り,外 部 に は電 流 が 観 測 され な いの で あ る.こ の と き i=iA−ic=0
(3.9)
と な り,観 測 され る電 極 電 位 は平 衡 電 位Eeqで
あ る.こ
の ときの それ ぞれの電
流 を交 換 電 流 密 度i0で 表 す. iA=ic=i0
(3.10)
i0は 電 極 反 応 速 度 定 数kや
活 物 質 の 濃 度 に 関 係 す るが,条
件 が 一定 の も と で
は定 数 とな り,電 解 反 応 を 左 右 す る非 常 に大 き な要 因 とな る. b. 電 荷 移 動 律 速 反 応 に関 係 す る物 質 が 電 極 上 に十 分 存 在 す る と,自 然 に 反 応 して も よ さ そ う な もの で あ るが,電 る)の
極 反 応 は化 学 反 応 と異 な り,反 応 を 引 き起 こす(電
は電 位 で あ り,電 位 を変 化 させ る こ とに よ っ て反 応 速 度,す
制 御 で き る.電 位 と電 流(密 度)の
流が 流れ
なわち電流 を
関係 は
(3.11) の よ う に電 位 を変 化 させ る こ とで 電 流 は指 数 関 数 的 に変 化 す る.E−Eeqを 圧 ηで 表 す と酸 化 電 流iA,還
過電
元 電 流icは そ れ ぞ れ 次 の よ うに 表 され る.
(3.12) (3.13) αは 活 性 化 状 態 に あ る物 質 の 反 応 の 方 向 性 を示 す 移 動 係 数 で あ る.iと
ηの 関
係 を整 理 して み よ う. 1) ① の 領 域 (3.12),式(3.13)のexpの それ ぞ れ
ま ず,流
れ る 電 流iが 小 さ い 部 分 を 考 え て み よ う.式
部 分 は ηが(│η│<25mV)で
あれ ば線 形近 似 して
(3.14) (3.15) と書 くこ とが で き る.し た が っ て,観 測 され る電 流 密 度iは
(3.16) とな り,iと
η は 直 線 関 係 と な る.こ
の直 線 の傾 き
Δη/Δi=RT/nFi0)
(3.17)
は 反 応 抵 抗 と も 呼 ば れ る.こ
れ か ら,i0を
求 め,反
応 速 度 定 数,電
極 触 媒 能 を知
る こ と が で き る. 2) ② の 領 域
電 流 密 度,過
電 圧 が 大 き く な り,| η | ≫120mVで,し
か
も 物 質 移 動 律 速 に な ら な い 範 囲 で はiA,icの
ど ち ら か が 支 配 的 と な り,②
域 に 入 る.た
な る の で,iAと
と え ば,ア
ノ ー ドで はiA≫icに
の領
ηだ け が 観 測 され
る 非 線 形 の 電 流 ‐電 位 曲 線 が 得 ら れ る.
(3.18) 両 辺 を対 数 表 示 に し て η につ い て整 理 す る と
(3.19) 定 数 項 を ま と め る と 次 式 の よ う に η とlog で はlniで
示 し た が,使 η=a+blog│i|
式(320)は
iが 直 線 の 関 係 に な る.式(3.19)
い や す い よ う に 常 用 対 数 で 表 す こ とが 多 い.
(3.20)
タ ー フ ェ ル の 式 と呼 ば れ る.a,bは
電 流 密 度 に依 存 し な い 定 数
で 次 の よ う な 中 身 を 持 っ て い る.
(3.21) (3.22) aは 電 極 反 応 速 度(電 極 触 媒 能)を,ま
たbに
含 まれ る αnは 反 応 に 関 係 した
電 子 数 や 移 動 係 数 とい った 反 応 機 構 に 関 し た情 報 を含 んで い る. c. 物 質 移 動 律 速 過 電 圧 が 大 き くな る と電 流 値 は飽 和(限
界)に
近 づ く.こ れ は電 極 反 応 に必 要
な 物 質 の 拡 散 が 追 い つ か な くな る た め で,拡 散 支 配 の 領 域 と呼 ぶ.こ 散 電 流 密 度 は次 の よ う に表 され る.
の と き の拡
(3.23) こ こでDは
拡 散 係 数,C°
は液 本 体 の濃 度,Cは
電 極 表 面 で の濃 度,δ
は拡 散
層 の厚 さで あ る. さ らに 電 流 密 度 を 上 げ る と,限 界 電 流 密 度i1,に 到 達 す る.こ の 領 域 に な る と, 電 極 触 媒 の 問 題 は な くな る の で,ど
の電 極 で も同 じ拡 散 方 程 式 に した が っ て限 界
電 流 密 度 が 求 ま る. (3.24) た だ し,D,C°
は そ れ ぞ れ の 物 質 に よ っ て 異 な るの で 生 成 物 の 生 成 割 合 も違
っ て くる. d. 2つ 以 上 の 物 質 が 同 時 に反 応 す る場 合 の 取 り扱 い は じ め に取 り上 げた よ う に,食 塩 水 電 解 の ア ノー ドで は理 論 的 に は塩 素 よ り も 酸 素 発 生 の方 が起 こ りや す い の に,実 際 の 工 業 電 解 で は塩 素 し か得 られ な い.こ れ は 酸 素 よ り も塩 素 が 化 学 工 業 で は有 用 な 製 品 で あ るか ら,塩 素 だ け を生 成 す る 電 極 を開 発 した成 果 で あ る.一 方,海
水 を 電 解 して 水 素 と酸 素 を得 た い 場 合 に は
酸 素 だ けが 発 生 す る電 極 が 要 求 さ れ る.こ の 違 い は,式(3.18)のi0の
大 小 で制
御 す る こ とが 可 能 で あ る.i0は 過 電 圧 と密 接 な 関係 に あ り,i0が 小 さ い と い う こ と は過 電 圧 が大 きい とい う こ とで あ る.塩 素 を優 先 的 に 生 成 す る た め に は,酸 素 発 生 の 過 電 圧 が 大 き く,塩 素 発 生 の過 電 圧 が 小 さ い こ とが 重 要 で あ る.i0は 電 極 触 媒 の 性 能 に よ る と ころ が 非 常 に大 きい が,反 応 物 質 の 濃度 に も関 係 す る.電 極 上 で の 電 位 ‐電 流 密 度 の 関 係(タ
ー フ ェ ル プ ロ ッ ト)を 図3.4に 示 す.
図3.4 食 塩 水 か ら塩 素,酸
素 を得 る 電極 の 電位‐電 流 密 度 の 関 係(概
(a)塩 素 発 生 有 利 (b)酸 i0,cl,i0,oは塩 素,酸
素発生有利
素 発 生 の 交 換 電 流 密 度,Ecl°,Eo°
酸 素 の 標 準 電 極 電 位.
は塩 素,
念 図)
電極反 応速 度 に 関す るポ イ ン ト (ⅰ)電
流iを
流 す の に 必 要 な η を小 さ くす る に は タ ー フ ェ ル 式 のaを
す る必 要 が あ る.こ の た め に はi0を 大 き くす れ ば よ い が,電
小 さ く
極 触 媒 能 を 上 げ た り,
反 応 物 質 の 濃 度 を大 き くす る こ とが 重 要 で あ る. (ⅱ) CRed°,Cox° を 大 き くす る こ と は 拡 散 限 界 電 流 を 大 き く し,iを
大 き くす
る. (ⅲ) 温 度 を 上 昇 させ る.電 気 化 学 反 応 もや は り化 学 反 応 で あ るた め,温 度 を上 昇 させ る こ と は 反 応 速 度 を大 き くす る.
水 銀 法 食 塩 電 解 で は陰 極 に水 銀 を用 い た.水 銀 は 水 素 過 電 圧 が 非 常 に高 い上, い ろ い ろ な金 属 とア マ ル ガ ム を つ く る.水 素 過 電 圧 が 高 い と水 素 発 生 は起 こ りに く く な り,通 常起 こ りえ な い よ うなNa+の 成 したNaが
水 銀 と反応 して,水
還 元 さ え起 こ る.も ち ろ ん これ は 生
の 中 で も比 較 的 安 定 な ア マ ル ガ ム をつ く るた め
で もあ る. この 他 に も過 電 圧 を制 御 す る こ とで水 か らオ ゾ ン をつ くっ た り,硫 酸塩 水 溶 液 か ら過 硫 酸 を つ くっ た り と,電 解 技 術 は進 歩 し て い る.
3.2 電 解 プ ロ セ ス,電
解 リア ク タ ー の 特 徴
電 解 は,電 子 伝 導 体 で あ る電 極 とイ オ ン伝 導体 で あ る 電 解 質 との界 面 で起 こ る 電 極 反 応 を利 用 した 電 気 化 学 シ ス テム の1つ で あ る が,電 池 が 自発 的 な ダ ウ ン ヒ ル の 化 学 反 応 を利 用 して い るの に対 して電 解 はア ップ ヒル の 反 応 で あ る の で,外 部 か ら電 気 エ ネ ル ギ ー を加 えな い と自然 に は起 こ らな い.言
い換 え れ ば,投 入 し
た 電 気 エ ネ ル ギ ー は物 質 の 化 学 変 化 の た め に使 わ れ る の で,化 学 エ ネ ル ギ ー と し て貯 蔵 す る こ と もで き る.広 を用 い た 電 気 透 析,さ
く考 えれ ば,め っ き,電 解 加 工 な ど の表 面 処 理,膜
らに は二 次 電 池 の充 電 過 程 も含 まれ る.電 解 プ ロ セ ス の 特
徴 を述 べ る と ① 熱 エ ネ ル ギ ー だ けで は進 まな い反 応 を行 わ せ る こ とが で き る. ② 化 学 反 応 で は得 られ な い強 力 な 酸化 剤,還 元 剤 を得 る こ とが で き る. ③
フ ァ ラ デ ー の 法 則 に した が い,生 産 量 は流 した電 気 量 に比 例 す る.
④ 反 応 が 電 極 界 面 に 限 られ,電 極 面 積 の 大 き さ で 生 産 量 が 制 限 され る の で,
大 量 生 産 の た め に は 同 じ反 応 容 器 を 多数 必 要 とす る.生 産 量 の調 整 は,電 流 を 調 整 す る こ と に よ り行 う こ とが で きる が,多 量 の製 品 を得 る た め に は電 流 容 量 の 大 きな 電 源 が 必 要 で あ る. ⑤ 電 圧 を調 整 す る こ とに よ り副 反 応 の発 生 を抑 制 す る こ とが で き る. ⑥ 酸 化 反 応,還 元 反 応 が 別 々 の 場 所 で 起 こ る た め2種 以 上 の製 品 が 得 られ, お の お の 高 純 度 の ものが 得 られ る. ② に つ い て は,水 の 電 気 分 解 が あ げ られ る.水
はわ れ わ れ が 住 む 世 界 で は一
番 安 定 な物 質 で あ り,熱 を加 え るだ け で は水 素 と酸 素 に分 解 しな い.し か し,わ ず か2V程
度 の電 圧 を加 え るだ け で 簡 単 に1気 圧 の 水 素 と酸 素 に 分 解 す る こ と
が で き る. ⑥ の 例 と し て は,次 (H2S2O8,パ い る が,こ
の も の が あ げ ら れ る.強
ー オ キ シ二 硫 酸 が 正 しい)は れ は水 との 反 応 でH2O2を
力 な 酸 化 剤 で あ る過 硫 酸
エ ッチ ン グ 試 薬 と し て 今 で も使 わ れ て
製 造 す る こ と は で き て も,逆 反 応 でH2O2
を原 料 に して 化 学 的 に 過 硫 酸 をつ く る こ と は で きな い.電 解 で はそ れ が 可 能 で あ る.オ
ゾ ン は無 声 放 電 で つ く られ て い るが,通
常 の 化 学 反 応 で つ くる こ とは で き
な い.そ れ を,水 の 電 解 とい う簡 単 な操 作 で 高 濃 度 の オ ゾ ン水 の 製 造 を可 能 に す る こ とが で き る.強 力 な 還 元 剤 で あ るNaは が,溶
水 溶 液 電 解 で つ くる こ とは で き な い
融 食 塩 電 解 を用 い る と容 易 に つ くる こ とが で き る.過 硫 酸(塩)やNaの
他 に も数 多 くの 強 力 な 酸 化 剤,還 元 剤 を電 解 で つ くる こ とが で き る. 工 業 的 に行 わ れ て い る電 解 プ ロセ ス を大 き く2種 類 に分 類 す る こ とが で き る. 1つ は,物 質 の製 造 に直 接 電 解 反 応 が 利 用 され る も の で,食 塩 電 解 の 塩 素,ア ル ミニ ウ ム精 錬 の ア ル ミニ ウ ム が そ の 代 表 的 な もの で あ り,電 解 製 造 と呼 ぶ こ と が で き る.こ れ ら は金 属 の 電 解 採 取 の他 に,無 機,有 機 の 製 品 の合 成 に 用 い られ る こ と も あ り,電 解 合 成 と呼 ば れ る こ と もあ る. 他 の1つ
は,物 質 の 純 度 を高 め るた め に電 気 分 解 を利 用 す る もの で,銅
め とす る金 属 の電 解 精 製 が そ の代 表 的 な もの で あ る.表3.2に
をはじ
電解 プ ロセスの応
用 例 を示 す. 電 気 分 解 を行 う装 置 は電 解 槽,あ 基 本 的 に は ア ノ ー ド(陽 極),カ
る い は 高 温 溶 融 塩 で は電 解 炉 で あ る.こ れ は
ソ ー ド(陰 極)の2種
の 電 極,電
解 質,隔 膜 の
4つ の 要 素 か ら成 り立 っ て い る.こ の う ち 隔膜 は な い場 合 も あ るが,2種 電 解 質 は必 ず 必 要 で あ る.ア
ノー ドで は脱 電 子 反 応,す
の 電 極,
なわ ち酸 化 反 応 が,カ
ソ
表3.2 電 解 プ ロ セ ス の応 用 例
ー ドで は受 電 子 反 応 ,す な わ ち 還 元 反 応 が起 こ る.電 解 質 中 に は反 応 に関 与 す る 物 質 が イ オ ン の形 で 存 在 して お り,原 料 の供 給,製 膜 は ア ノー ド生 成 物,カ
品 の 輸 送 の 役 割 も果 た す.隔
ソー ド生 成 物 の分 離 の た め に必 要 に応 じて 利 用 さ れ て い
る. 電 解 質 と して は,酸
ま た は ア ル カ リ とい っ た 水 溶 液 が 最 も多 く利 用 さ れ て い
る.非 水 溶 液 の 電 解 質 や 溶 融 塩 は 酸 素 発 生 反 応 よ り貴 な 電 位 の反 応,あ
る い は水
素 発 生 よ り卑 な電 位 の 反 応 の た め に用 い られ る.水 溶 液 で は水 の分 解 が 優 先 的 に 起 こ り,目 的 の 電 解 が で き な い か らで あ る.固 体 の状 態 で イオ ン 導 電 性 を有 す る 固 体 電 解 質 を 用 い る こ と も あ る.1000°C付 近 の高 温 で のO2− イ オ ン導 電 体 の ジル コニ ア(ZrO2),H+イ lyte,SPE)な
オ ン 導 電 体 の 固 体 高 分 子 電 解 質(solid
polymer
electro
どが あ る.こ れ らは 電 解 質 で あ る と と もに 隔 膜 の 機 能 も有 して お
り,こ れ か らの 電 解 プ ロセ ス へ の応 用 が期 待 され て い る. 工 業 電 解 プ ロセ ス は 多 方 面 にわ た って利 用 され て い る.と らな る単 体 の 製 造 に 関 して は60%以 解 精 製,さ
くに,単 一 の 元 素 か
上 の 元 素 が 電 解 に よ り製 造 さ れ て お り,電
らに は 電 解 採 取 で 得 られ る強 力 な 還 元 剤 の助 け に よ りつ く られ る元 素
まで 含 め る と,80%以
上 が 電 解 プ ロ セ ス と関 係 して い る.
3.3 水 溶 液 電 解
3.3.1 水
電
解
水 素 は 石 油 精 製,ア
ン モ ニ ア 合 成 な どに広 く使 わ れ て い る.か つ て は水 を電 気
分 解 して 得 る こ と もあ っ た が,現 在 で は大 部 分 が 石 油,天 然 ガ ス な どの 改 質 に よ りつ く られ て い る.と
くに,電 力 コス トの高 い わ が 国 に お い て は,大 規 模 な もの
は ほ とん ど な くな った.こ
の よ うな状 況 で も,世 界 的 に は水 力 発 電 な どで 安 い 電
力 の 得 られ る と こ ろで は大 型 新 鋭 水 電 解 槽 が 稼 働 して い る.ま た,ク
リー ンな 二
次 エ ネ ル ギ ー と して注 目 され て い る水 素 を,水 か らつ く り出 す 唯 一 の確 立 され た 工 業 的 製 造 法 と して,注
目 され て い る .ア ル カ リ水 溶 液 を用 い た と き の反 応 は 次
の通 りで あ る. ア ノ ー ド反 応:2OH−
→1/2O2+H2O+2e−
カ ソ ー ド反 応:2H2O+2e−
(3 .25)
→H2+2OH−
(3 .26)
全 反 応:H2O→H2+1/2O2
(3.27)
分 解 電 圧:
(3.28)
こ こで,PH2, Po2は 水 素,酸 で25℃,1atmで1.23Vと
素 の 分 圧,aH2Oは
水 の 活 量,U°
は標 準 分 解 電 圧
な る.し か しな が ら,水 の分 解 反 応 は吸 熱 反 応 で あ
る た め熱 の補 給 も必 要 で あ る.普 通,こ の反 応 の 非 可 逆 的 な部 分,つ
の 熱 エ ネ ル ギ ー(TΔS°)は
電気分解 時
ま り電 極 の抵 抗 や 液 抵 抗 に よ る オ ー ム 損 失,電 極 過
電 圧 に よ っ て生 ず る発 熱 で 補 わ れ る. 電 解 質 と して は,酸 溶 液 中 で の 電 解 も可 能 で は あ るが,鉄 ど の耐 食 性 と電 解 質 の抵 抗 を小 さ くす るた め,20∼30%KOH水
あ る い は ニ ッケ ル な 溶 液 が 用 い られ
て い る. 電 極 材 料 は,ア
ノ ー ドに は ニ ッ ケル め っ き を施 した ス チ ー ル,カ
ソー ドに は軟
鉄 その ま まか ニ ッケ ル め っ きで 安 定 化 した り,硫 化 処 理 し て活 性 を上 げ使 用 され て い る.い ず れ の 電極 も表 面 を 粗 面 化 して活 性 化 し,ガ ス 抜 け を よ くす る た め基 体 に はエ ク ス パ ン ドメ タル な ど を使 用 して い る. 生 成 す る 水 素,酸
素 の 分 離 の た め の 隔 膜 は石 綿膜 が 用 い られ て お り,ニ ッケル
線 で補 強 さ れ る こ と もあ る.電 解 槽 温 度 は 電 極 過 電 圧,液 抵 抗 の 面 か ら考 え て 高 温 が望 ま し く,80℃ で,こ
く らい で運 転 さ れ る.こ れ は材 料 と して鉄 が使 用 で き る上 限
れ を越 え る と個 々 の装 置材 料 の劣 化 が 激 し く,新 た な材 料 の 開 発 が 必 要 と
な る. 商 用 水 電 解 槽 と して 現 在 運 転 され て い る電 解 槽 の 圧 力 は通 常 は常圧 で あ る が, ル ル ギ の 方 式 だ け は唯 一 加 圧 式 で あ る.高 温,高
圧 水 電 解 法 は,高 圧 にす る こ と
で 水 の 沸騰 を防 ぎ,高 温 で の水 電 解 を可 能 に して い る.理 論 分 解 電 圧,電 極 反 応 抵 抗,液
抵 抗 を下 げ,さ
す るが,構
らに生 成 ガ ス の圧 縮 の 仕 事 が 軽 減 され る とい う利 点 を有
造 材 料 に 問 題 が 多 い.
アル カ リ水 溶 液 の 代 わ りに,電 解 質 と して水 素 イ オ ン導 電 体 で あ る固体 高 分 子 電 解 質 を 用 い た 電 解 法 はSPE電
解 と呼 ば れ る.こ れ はSPE膜
つ け る の で,槽 構 造 は コ ンパ ク トに な り,さ
上 に直 接 電 極 を
らに純 水 を供 給 す る だ け で水 電 解 が
で き る とい う大 きな 特 徴 を も っ て い る.原 理 的 に は 固 体 高 分 子 形 燃 料 電 池 と同 じ 構 造 で あ る.小 型 の もの は す で に商 品化 され て い る. 得 られ た水 素,酸 素 の エ ン タル ピー(正 確 に は水 分 解 にお け る標 準 エ ンタ ル ピ ー 変 化 ,ΔH°)を 投 入 した 電 気 エ ネ ル ギ ー(ΔG° に相 当)で 除 し た値 を,水 電 解 の エ ネル ギ ー 変 換 効 率 とい う.理 論 的 に は25℃,1atmで あ る.現 状 で は0.70∼0.80で
あ るが,よ
れ て お り,0.90を
越 す デ ー タ も出 て い る.
3.3.2 食
電
塩
ΔH°/ΔG°=1.21で
り効 率 の 高 い 水 電 解 槽 の 開 発 が 進 め ら
解
食 塩 水 を電 解 す る と,塩 素 ガ ス,水 酸 化 ナ ト リウ ム(カ セ イ ソー ダ),そ れ に 水 素 が 得 られ る.こ れ は工 業 的 に 食 塩 電 解,ソ
ー ダ電 解,あ
るい は塩 素 ・ア ル カ
リ電 解 と呼 ば れ る.水 酸 化 ナ トリ ウム,塩 素 は と もに化 学 工 業 に とって 重 要 な基 礎 素 材 で あ り,食 塩 電 解 は基 幹 産 業 と して重 要 な 地 位 に あ る.こ の た め,電 気 エ ネ ル ギ ー の 消 費 量 も電 解 工 業 の 中 で は最 も大 きい.食 塩 電 解 プ ロセ ス とし て は, 水 銀 法,隔
膜 法,イ
オ ン交 換 膜 法 の3つ が あ る.こ の う ち水 銀 法 は 環境 へ の 配 慮
か ら,わ が 国 で は1986(昭 隔 膜 法,イ
和61)年
に廃 止 され た.
オ ン交換 膜 法 に お け る 反 応 は次 の通 りで あ る.
ア ノー ド反 応:2Cl−/→Cl2+2e− カ ソー ド反 応:2H2O+2e−
→H2+2OH−
(3.29)
(3.30)
図3.5 イオ ン交換膜法食塩電解 槽の概 念図
全 反 応:2NaCl+2H2O→2NaOH+H2+Cl2 理 論 分 解 電 圧 は2.2V(80℃),製
(3.31)
造 に必 要 な 理 論 電 気 最 は 塩 素1tあ た り670kAhで
た り756
kAh,水
酸 化 ナ トリ ウム1tあ
あ る.隔 膜 と し て は,隔 膜 法 で は
石 綿,イ
オ ン交 換 膜 法 で は ナ ト リウ ム イ オ ン選 択 透 過 性 の フ ッ素 樹 脂 か らな る イ
オ ン交 換 膜 が 用 い られ る.水 銀 法 で は 隔膜 を必 要 と しな い.図3.5に
イ オ ン交 換
膜 法 食 塩 電 解 の 電 解 槽 の 概 念 を 示 す. カ ソー ド材 料 は水 銀 法 で は水 銀 とな るが 他 の2法 で は軟 鋼,あ
る い は ニ ッケ ル
な どで活 性 化 処 理 した低 過 電 圧 カ ソー ドが 用 い られ る.ア ノ ー ド材 料 は 旧 式 の も の で は黒 鉛 で あ る が,わ
が 国 で は す べ て金 属 電 極 に 置 き換 わ っ た .金 属 電 極 と
は,チ タ ン基体 の 上 に酸 化 ル テ ニ ウムRuO2あ
るい は酸 化 ル テ ニ ウ ム と金 属 酸 化
物 の複 合 酸 化 物 を 熱 分 解 被 覆 し た もの で,電
解 に よる電極 の消 耗 が ほ とん どな
く,形 状 に 変 化 が な い こ と か ら 寸 法 安 定 電 極(dimensionally DSAR)と
stable anode,
も呼 ばれ る.
イ オ ン 交 換膜 法 で は,液 の 浸 透 が な く,ナ オ ン交 換 膜 が 用 い られ る.こ の 開 発 したNafionRの
トリ ウム イ オ ン選 択 透 過 性 の 高 い イ
の膜 は フ ッ素 樹 脂 を基 本 と して お り,Du
出 現 で そ れ まで の水 銀 法,隔
膜 法 か ら イ オ ン交 換 膜 法 へ
の 製 法 転 換 が 一 気 に 進 ん だ.当 初 の 膜 は水 酸 化 物 イ オ ン(OH−)の く,電 流 効 率 も低 か っ た が,ア
Pont社
ノ ー ド側 に ス ル ホ ン基,カ
透 過が 大 き
ソー ド側 に カ ル ボ キ シ
ル基 を有 す る複 合膜 の 完 成 に よ り,電 流 効 率 も向上 し た.隔 膜 法 に比 べ て 電 解 電 力 で20∼30%,蒸
気 で80%の
切 り下 げが 可 能 とな り,全 所 要 エ ネ ル ギ ー も水 銀
法 を しの ぐまで に な っ た.エ ネ ル ギ ー コ ス トの 高 い わ が 国 で は,イ オ ン交 換 膜 を 用 い る新 しい 技 術 の お か げ で省 エ ネ ル ギー に 多大 な貢 献 を して い る.
3.3.3 省 エ ネ ル ギ ー型 食 塩 電解 法 通 常 の食 塩 電 解 で は塩 素,水
素 と水 酸 化 ナ トリ ウム が 生 成 す るが,カ
ソー ドに
ガ ス 拡 散 電 極 を通 し て酸 素 を供 給 す る こ とで水 素 の 発 生 が な い 代 わ りに投 入 電 力 を低 減 す る試 み が な さ れ,パ イ ロ ッ トプ ラ ン トが 動 き始 め て い る.こ の電 解 法 は 原 理 的 に は 水 素 と酸 素 を使 った 燃 料 電 池 が 電 解 槽 内 に組 み 込 まれ た もの で あ り, 理 論 的 に は1.23Vの
電 圧 低 減 効 果 が 見 込 まれ る.
通 常 の食 塩 電 解 法 2NaCl+2H2O=2NaOH+H2+Cl2
U°=2.21V
(3.32)
U°=0.96V
(3.33)
省 エ ネ ル ギ ー型 食 塩 電 解 法 2NaCl+1/2O2+H2O=2NaOH+Cl2
酸 素 の 還 元 は一 番 活 性 が あ る とさ れ るPtを 使 っ て も過 電 圧 が 高 く,十 分 な効 果 が 得 られ な い が,三
次元 的 な反 応 場 を持 つ ガ ス 拡 散 電 極 を使 う こ とで,1V程
度 の電 圧 低 減 が 図 られ る こ とが 実 証 さ れ た.
3.4 溶 融 塩 電 解 工 業
3.4.1 溶 融 塩 電 解 の 概 要 溶 融 塩 とは,常 温 で 固体 の塩 を高 温 で溶 解 させ た もの を い うが,イ オ ン結 晶 か ら な る塩 は融 解 す る と,イ オ ン伝 導 性 を示 し電 解 質 と して の役 割 を果 た す.塩 種 類 に よ り,室 温 よ り1200℃ の 範 囲 で 用 い られ る が,塩 安 定 性 を評 価 す る上 で 重 要 とな る.こ な反 応,水
の
の 分 解 電 圧,蒸 気 圧 が
こで は水 を使 用 し な い の で酸 素発 生 よ り貴
素 発 生 よ り卑 な反 応 を起 こす こ とが で き高 温 の シ ス テ ム が 可 能 で 反 応
が 容 易 に進 み,電 極 触 媒 に対 す る 負担 が小 さ い とい う利 点 が あ る.反 面,高 温 で は装 置 材 料 に か な りの 制 約 が 課 され る とい った 欠 点 もあ る. 工 業 電 解 と し て は,水 溶 液 電 解 で は 製 造 不 可 能 な 金 属 を 中 心 に 利 用 さ れ て い る.Li,Naの
よ うな ア ル カ リ金属,Ma,Caの
と して のNb,Ta,核
燃 料 で あ るU,Pu,Th,さ
ア ル カ リ土 類 金 属,Al,希
土類
らに フ ッ素 な どが 溶 融 塩 電 解
表3.3 溶 融 塩 電 解 プ ロ セ ス の 例
で 得 ら れ る 代 表 的 な も の で あ る.表3.3に の 例 を 示 す.金
は これ ら溶 融 塩 電 解 の 主 要 な プ ロ セ ス
属 は 液 体 の 状 態 で 生 成 さ せ,カ
し を 容 易 に す る.し 塩 が 選 ば れ る.具
た が っ て,浴
ソ ー ド と し て 利 用 し た り,取
の 温 度 は 金 属 の 融 点 以 上 と な り,そ
り出
れ に適 した
体 的 に は ハ ロ ゲ ン化 物 が 多 く用 い ら れ る.
3.4.2 ア ル ミ ニ ウ ム 電 解 ア ル ミ ニ ウ ム の 原 料 は ア ル ミナ(Al2O3)で リ ウ ム で 処 理 し 不 純 物 の 酸 化 鉄,酸 ム を 焼 成 し て 得 ら れ る(バ
ー キ サ イ トを水 酸 化 ナ ト 成 す る水 酸 化 ア ル ミニ ウ
イ ヤ ー 法).氷
中 に,融
点 を 下 げ る た めAlF3,CaF2を
5∼8%溶
か し て 電 解 す る.こ
る.反
あ り,ボ
化 ケ イ 素 を 除 き,生 晶 石(Na3AlF6)を 添 加 し,970℃
れ は,発
主 体 とす る電 解 浴 で 得 ら れ た ア ル ミナ を
明 者 に ち な ん で ホ ー ル エ ー ル 法 と呼 ば れ
応 は 次 の 通 りで あ る. ア ノ ー ド反 応:3C+6O2−
→3CO2+12e−
カ ソ ー ド反 応:4Al3++12e−
(3.34)
→4Al
(3.35)
全 反 応:2Al2O3+3C→4Al+3CO2 ア ノ ー ド に 炭 素,カ
(3.36)
ソ ー ドに 生 成 し た ア ル ミ ニ ウ ム を 利 用 す る が,ア
炭 素 が 電 気 化 学 的 に 消 費 さ れ な が ら 反 応 は 進 む.理 に つ き330kgの
炭 素 が 必 要 だ が,実
さ れ る 炭 素 の 供 給 方 法 は2通 電 極 を 焼 成 し て 用 い る.ゼ し,炉
論 的 に は,ア
際 に は400∼450kg消
り あ る.プ
リベ ー ク(既
ー ダ ベ ル グ(自
焼 成)式
か ら 放 出 さ れ る 熱 を 活 用 し て 焼 成 す る.図3.6に
ル ミ ニ ウ ム1t
費 さ れ る.こ
焼 成)式
ノ ー ドの
の消費
で は別 な炉 で 炭 素
で は電 気 炉 に直 接 炭 材 を補 給 プ リベ ー ク式 電 解 炉 を示
す. この よ う に炭 素 ブ ロ ッ ク(電 極)の 消 耗 に伴 い 補 給 が 自動 的 に な さ れ る が,Al2O3濃
度 が 低 下 す る とア ノ ー ド
でF− の 酸 化 が起 こ り,四 フ ッ化 炭 素 が 発 生 す る. 2F− →F2+2e−
(3.37)
C+2F2→CF4(g)
(3.38)
また,炭 素 電 極 表 面 が 次 第 に フ ッ素 化 され フ ッ化 グ ラ フ ァ イ トが 生 成 す
図3.6 プ リベ ー ク式 アル ミニ ウ ム 電 解 炉
る.そ の 結 果 溶 融 塩 との 濡 れ が 悪 くな り抵 抗 の 上 昇 で ス パ ー ク が 飛 び 始 め る.こ す る に はAl2O3の
れ を ア ノ ー ド効 果 と い う.こ
濃 度 を 一 定 に 保 つ 必 要 が あ り,電
し て い く必 要 が あ る.還
解 中 にAl2O3を
れ を 炉 外 に 抜 き 出 し て 徐 々 に 固 め,連
出 す,連
続 鋳 造 と い う方 法 で 素 材 を つ く っ て い る.
続 的 に ロ ー ラ ー で 柱 状 に して 送 り
ア ル ミ ニ ウ ム を工 業 的 に 生 産 す る 方 法 と し て は,こ
あ る.も
た えず 補 給
元 さ れ た 金 属 ア ル ミニ ウ ム は 溶 融 状 態 で 電 解 槽 の 底 に 溜
ま る.こ
は 唯 一 で あ る.わ
れ を防 止
が 国 で は,電
力 コ ス トが 高 く,生
の ホ ー ル エ ー ル法 が 現 状 で 産 量 は 消 費 量 の1/10以
下 で
っ ぱ ら 電 力 の 安 い 海 外 で つ く ら れ る 地 金 の 輸 入 に 頼 っ て い る.
3.4.3 マ グ ネ シ ウ ム 製 錬 Mgの
工 業 的 な 製 錬 はMgCl2を
Fe−Siで
還 元 す る 方 法 の2つ
CaCl2,LiClを 行 わ れ,生 Mgが
溶 融 塩 電 解 す る 方 法 と,高
で 行 わ れ て い る.電
加 え た 混 合 溶 融 塩 で,ア 成 し たMgは
量 は2205.5kAh・t−1で は5.7Vに
溶 融 状 態 で 析 出 浮 上 す る.ア
あ る が,電
な っ て い る.TiCl4をMgで
ロ ー ル 法 の 工 場 で は 副 生 す るMgCl2をMgに
な り,電
ソー ドは鉄 板 で 電 解 が
ノ ー ドで 発 生 す る塩 素 と
論 分 解 電 圧 は2.7V,理
流 効 率 εFは0.90,槽
切 り下 げ ら れ,εF=0.932と
13486kWh・t−1と
解 浴 はMgCl2にNaCl,KCl,
ノ ー ド は 黒 鉛,カ
接 触 し な い よ う に 〓 瓦 で 隔 壁 を 設 け る.理
温 下 でMgOを
電 圧 は6V,最
論 電気 近 の例 で
解 電 力 は5.7×2205.5/0.932=
還元 し て金 属 チ タ ン を 製 造 す る ク す る 回 収 電 解 が 行 わ れ る.
3.4.4 ナ トリウ ム 製 造 カ セ イ ソー ダ の 溶 融 電 解(カ ウ ン ズ 法)と
ス トナ ー 法)か
な っ た.NaOHの
る.電 流 効 率 は悪 く,0.5以
電 解 はNiア
ら始 ま り,食 塩 の溶 融 塩 電 解(ダ ノ ー ド とCuカ
ソー ドで 行 っ て い
下 で,電 解 電 力 は14000kWh・t−1で
あ る.現 在 は 使
用 され て い な い. NaClの
電 解 で は 金 属 ナ トリウ ム と塩 素 が 直 接 に 得 られ る.黒 鉛 ア ノー ドと鋳
鉄 カ ソ ー ドでNaClにCaCl2を 効 率 は0.83,電
加 えて 融 点 を 低 下 させ て600℃ で 電 解 す る.電 流
解 電 力 は10600kWh・t−1で
あ る.
3.4.5 有 機 化 合 物 の 電 解 フ ッ素 化 KF・2HFを
電 解 浴 と して100℃ で 電 解 す る.ア
は軟 鋼 を 用 い,ニ
ノ ー ド に は 炭 素,カ
ソー ドに
ッケ ル 合 金 金 網 を 隔 膜 とす る.電 解 の 進 行 に 伴 い 無 水HFを
原 料 と して 補 給 す る.無 水HFと
有 機 物 と の 混 合 溶 液 を直 接 電 解 す る と,取
り
扱 い 困難 な フ ッ素 を用 い ず に有 機 物 の フ ッ素 化 を行 う こ とが で き る.
3.5 金 属 の 電 解 採 取 ・電 解 精 錬
3.5.1 電
解
採
取
鉱 石 を酸 と と も に ば い焼 し,湿 式 処 理 を 行 っ て電 解 液 を作 製 して 電 解 を行 い, カ ソ ー ドに 目的 金 属 を析 出 さ せ る.ア
ノー ドに は炭 素 あ る い はPb−Sbの
よ うな
不 溶 性 の 電 極 を 使 用 す る.こ の 方 法 で 採 取 し て い る 金 属 に は,Zn,Sn,Ni, Cr,Mnな
どが あ る.表3.4に
こ の う ち,Znは
主 要 な電 解 採 取 プ ロ セ ス の例 を 示 す.
工 業 電 解 の 中 で は最 も重 要 な 金 属 の1つ
で あ る.亜 鉛 の 電 解
採 取 は乾 式 製 錬 法 と競 合 関 係 に あ るが,電 解 法 の 生 産 量 の 方 が 多 い.電 解 法 は大 量 生 産 に は 不 向 き で あ る が,小 規 模 生 産 に は,取 て,適
した 製 法 で あ る.
亜 鉛 の 鉱 石 は 閃 亜 鉛 鉱(ZnS)で る.こ
り扱 い が 容 易 で あ る点 を含 め
の後,硫
あ る.鉱 石 を1000℃ で ば い 焼 し,ZnOを
酸 酸 性 の電 解 廃 液 を リサ イ クル し てZnOを
浸 出 して 電 解 液 とす
る.電 解 槽 の一 例 を図3.7に 示 す.亜 鉛 の 標 準 電 極 電 位 は−0.763Vで よ りは る か に 卑 な 値 で あ るが,水
素 過 電 圧 が 高 い の で,適
得
水 素電極
切 な 条 件 を設 定 す れ
ば,亜 鉛 の電 解 採 取 は可 能 で あ る.そ の た め に は不 純 物 が 電 析 しな い よ うに電 解
表3.4 金 属 の 電 解 採 取 プ ロ セ ス の例
液 を 精 製 す る 必 要 が あ る.と Ni,Sb,Asな
ど が 電 極 に 析 出 す る と水 素
過 電 圧 を 下 げ た り,電 及 ぼ す.電
く にCu,Co,
析 亜 鉛 の 形状 に影 響 を
解 槽 内 の 反 応 は 次 の 通 りで あ る.
ア ノ ー ドで は H2O→1/2O2+2H+
(3.39)
カ ソ ー ドで は 図3.7 ZnOの
電 解 液 は2M程
電解採取
Zn2++2e−
度 の 硫 酸 溶 液 で 液 温 を30∼45℃
ニ ル な どの 耐 酸 容 器 を用 い る.ア
に保 つ.電
(3.40)
解 槽 は硬 質 塩 化 ビ
ノー ドに は不 溶 性 電 極 と して0.9%Ag−Pb電
極 が 用 い られ,浴
電 圧3.3V,500A・m−2付
3.5.2 電
精
解
→Zn
近 の 条 件 下 で操 業 され て い る.
錬
乾 式 に よ る還 元 あ る い は電 解 製 錬 に よ り製 造 され た金 属 は 多 くの 不 純 物 を含 ん で い る.実 用 に供 す る た め に は さ ら に精 製 す る必 要 が あ り,電 解 精 錬 法 は優 れ た 方 法 の1つ で あ る.粗 金 属(不 純 物 を含 む金 属)を
ア ノ ー ド溶 解 す る とそ の金 属
の 標 準 電 極 電 位 よ り卑 な不 純 物 金 属 は そ の金 属 と と もに溶 解 す るが,そ れ よ り貴 な 金 属 は溶 解 で きな い.ま た,溶
解 した 金 属 イ オ ン を カ ソー ドに 還 元 電 析 させ る
と逆 に そ の標 準 電 極 電 位 よ り貴 な不 純 物 金 属 イ オ ン は電 析 す るが,卑 な 不 純 物 金 属 イ オ ン は 電 析 で きな い.こ の原 理 を利 用 す る と金 属 の精 錬 す な わ ち 純 化 が で き る.電 解 精 錬 に よ っ て 精 製 を 行 っ て い る 金 属 はZn,Cd,Sn,Pb,Bi,Sb, Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Au,Ag,Ptな
ど多 岐 に わ た る.表3.5に
金 属 の 電解
表3.5
金 属 の 電 解 精 錬 プ ロ セ ス の例
精 錬 プ ロセ ス の例 を 示 す. この うち 工 業 的 に 最 も多 量 に生 産 され て い る例 と し て銅 の電 解 精 錬 が あ る.銅 の鉱 石 は黄 銅 鉱(CuFeS2)で,こ
れ を 空 気 で 酸 化 し,酸 化 物 とす る.さ
らにコ
ー ク ス に よ って 還 元 し,粗 銅 を得 る.粗 銅 は 鉱 石 経 由 のFe,Co,Ni,Zn,Pb, Ag,Au,Ptの
よ う な 金 属 成 分 とS,Sb,Se,As,Teの
よ うな非 金属 成分 が
不 純 物 と して 含 まれ て い る.ま た,最 近 は リサ イ クル の 回 収 銅 も原 料 と して使 わ れ て い る.こ れ ら粗 銅 を ア ノー ド と し,純 銅 を カ ソー ドと し て2Mの
硫酸溶液 中
で 電 解 す る.反 応 自体 は (3.41) の 可 逆 反 応 で あ る.す な わ ち ア ノ ー ドもカ ソー ド も同 じ平衡 電 位 で あ り,理 論 上 の 電 解 電 圧 は0で
あ るが,粗
銅 の ア ノ ー ド,純 銅 の カ ソー ド と も電 流 の 大 き さに
対 応 した 過 電 圧 分 だ け分 極 し,2つ
の過 電 圧 の和 が 電 極 間 に必 要 な極 間 電 圧 で あ
る.実 際 の 操 業 は,浴 電 圧0.3V,250A・cm−2,60℃ 精 錬 電 解 槽 の概 略 図 を図3.8,3.9に
図3.8 銅 の 電 解 精 錬
前 後 で 行 わ れ て い る.銅
示 した.こ の 銅 精 錬 で必 要 な仕 事 は電 極 間 の
図3.9 銅 精 錬 に お け る ア ノー ド反 応 とカ ソ ー ド反応 の電 位 範 囲 と精 製 原 理
電 圧 と電 流 の 積 で あ る.ア ノ ー ドで は 粗 銅 の溶 解 に 際 してCuの 他 に そ れ よ り卑 な 金 属 で あ るFe,Co,Ni,Zn,Pb,が
同 時 に 溶 解 す る.溶 解 で き な い 成 分 は
ア ノ ー ドの 下 部 に 不 溶 性 成 分 と して 堆 積 す る.こ れ を ア ノ ー ドス ラ ッジ とい い, Ag,Au,Ptな
ど の 貴 金 属,そ
の 他Pb,Cdな
成 分 を 含 ん で い る.AuとAgの よ り,Sb,Ceは
ど の 卑 金 属,As,Biの
電 解 精 錬 で,Pt,Rh,Pd,Bi,Teは
非 金属 精製に
還 元 反 応 に よ っ て純 成 分 を採 取 し て い る.電 解 精 錬 の純 化 は非
常 に合 理 的 で あ る.電 解 液 中 に 溶 けて い る金 属 イ オ ン は銅 よ り標 準 電 極 電 位 の貴 で あ るAg+,Rh3+,Ir+の
よ うな 貴 金 属 以 外 は析 出 し な い.
3.6 そ の 他 の 工 業 電 解 プ ロ セ ス
3.6.1 電 解 に よ る無 機 化 合 物 の 製 造 電 気 分 解 で は,ア
ノー ドで 酸 化,カ
ソー ドで は還 元 反 応 が起 こ り,熱 だ け の 反
応 で は容 易 に起 こ ら な い反 応 を行 わ せ る こ とが で き る.こ れ が い くつか の無 機 化 合物 の 製 造 に適 用 され て お り,狭 い 意 味 で 電 解 酸化,電 あ る.こ の 方 法 は,強 力 な酸 化,還 素 酸 塩,過 硫 酸 塩,二
元 を必 要 とす る小 規 模 生 産 に適 して い る.塩
酸 化 マ ンガ ン,二 酸 化 鉛 な どの 酸 化 生 成 反 応 に,ウ ラ ン精
製 の 際 の ウ ラニ ル 塩(U6+)の て い る.表3.6に
解 還 元 と呼 ばれ る こ とが
ウ ラ ナ ス塩(U4+)へ
の 還 元 反 応 の 際 に利 用 さ れ
は,電 解 に よ りつ くられ る無 機 化 合物 の 例 を示 す.
3.6.2 電 解 に よ る有 機 化 合 物 の 製 造 有 機 化 合 物,中
で も フ ァイ ンケ ミカ ル に属 す る 医 薬 品,香 料,農
価 値 が 高 い 製 品 で,少 量,多
薬 な どは付 加
品種 の 生 産 が 要 求 され る.電 解 プ ロセ ス は ス ケ ー ル
メ リッ トが 少 な く,反 応 を制 御 しや す いた め,こ れ ら有 機 合 成 法 へ の摘 要 が進 め られ て い る.ナ イ ロ ンの 原 料 で あ るア ジ ポ ニ トリル は,ア ク リ ロニ トリル の電 解 二 量 化 で つ くられ る. 2CH2=CHCN+2H++2e−
→NC(CH2)4CN
(3.42)
こ こ で は,電 解 質 の 導 電 性 を上 げ るた め の支 持 電 解 質 の選 択 と,カ
ソー ド生 成
物 の ア ノ ー ド室 へ の 混 入 を 防 ぐイ オ ン交 換 膜 が 技 術 的 に重 要 で あ る.ア ジ ポ ニ ト リル の 電 解 合 成 の工 業 化 に成 功 して以 来,電 解 有 機 合 成 法 は 注 目 さ れ て い る. 有 機 電 解 で は コ ル べ 反 応 に見 られ る よ う に,電 極 の 種 類,電
解 質,電 解 条 件 に
表3.6 電 解 プ ロセ ス で 生 産 さ れ る無 機 化 合 物 の例
よ り生 成 物 が 変 化 す る.逆 に,こ れ らを う ま く制 御 す れ ば,副 反 応 を抑 え て,目 的 物 を高 収 率 で 得 る こ と も可 能 で あ る.
3.6.3 表 面 処 理,寸 法 加 工 工 業 溶 液 中 の イ オ ン を カ ソー ドで 還 元 し て 金 属 の 薄 膜 を つ くる 方 法 を め っ き と呼 び,装 飾 用,防 食 用,工 業 用 に 広 く用 い られ て い る.め な どの素 地 調 整,脱
っ きす る加 工 表 面 は研 磨
脂 な どの表 面 清 浄 を行 っ て め っ きす る.銅 め っ き は硫 酸 銅,
シ ア ン化 銅 ピ ロ リ ン酸 銅 な どの浴 で,ニ
ッケ ル は硫 酸 ニ ッケ ル,ホ
ウ フ ッ化 ・ス
ル フ ァ ミン酸 の各 浴 か ら,ク ロ ム は 無 水 ク ロ ム 酸 浴 か ら,亜 鉛 とカ ドミ ウム は シ ア ン化 亜 鉛,硫
酸 塩 の 浴 か ら,ス ズ は 硫 酸 ス ズ と ス ズ酸 ナ トリウム 浴 か ら,鉛 は
ケ イ フ ッ化 ・ホ ウ フ ッ化 塩 浴 か ら行 わ れ,貴
金 属 の め っ きや 黄 銅 ・ニ ッケ ル‐コ
バ ル トな どの 合 金 め っ き も行 わ れ る .ア ル ミニ ウム の表 面 処 理 と して,硫 酸 や シ ュ ウ酸 中 で ア ノ ー ドと し て多 孔 質 の酸 化 被 膜 を生 成 させ,こ 法 が 広 く行 わ れ,ア
れ を封 孔 処 理 す る方
ル マ イ トと して知 られ る この 処 理 で ア ル ミニ ウム が 耐食 性 の
構 造 材 料 と して 使 わ れ て い る.ま た この 方 法 は電 解 コ ンデ ンサ 製 造 に も使 わ れ て い る. 電 気 め っ きで 目的 の形 を精 密 に複 製 す る方 法 を電 解 鋳 造 とい う.金 属 を機 械 的 に研 磨 す る と熱 や 圧 力 の た め,結
晶 性 を 失 っ た 薄 層 が で き るが,高
い電 流密度
で,適 当 な電 解 に よ りア ノー ド溶 解 さ せ る と微 視 的 な突 起 が 選 択 的 に溶 解 して, 輝 度 の 高 い研 磨 が で き る.こ れ を電 解 研 磨 とい う.こ れ よ り巨 視 的 な寸 法 で,金 属 を ア ノ ー ド溶 解 させ て寸 法 加 工 を 行 う もの を 電 解 加 工 と呼 び,鉄
につ い て は
1.7A・cm−2の 電 流 密 度 で3.3×10−3cm・min−1の 加 工 速 度 とな る.
3.6.4 電 気 浸 透,電
気透析
隔 膜 で 隔 離 した容 器 に溶 液 を入 れ,直 流 電 圧 を加 え る と隔 膜 を通 し て液 が移 動 す る.こ れ を電 気浸 透 とい う.こ れ とは反 対 に 隔 膜 を通 して液 を通 過 させ る と隔 膜 の 両 側 に電 位 差 が 発 生 す る.こ れ を流 動 電 位 と呼 ぶ. 2枚 の 隔 膜 で3室
に仕 切 られ た 中 央 部 に電 解 質 溶 液 を入 れ,外 側 に水 を入 れ て
電 解 す る と中 央 部 の 陽 イ オ ン は負 極 室 へ,陰 イ オ ン は正 極 室 へ移 動 し,除 去 され る.こ れ を電 気 透 析 とい う.陽 イ オ ンが通 りや す い 陰 性 膜 を 負極 室 に,陰 イ オ ン が 通 りや す い 陽 性膜 を正 極 室 に配 置 す る と透 析 の 効 率 は よ くな り,イ オ ン交 換 膜 を用 い て海 水 を電 気 透 析 す る と脱 塩 水 と濃 縮 か ん水 とが得 られ る.海 水 の 淡 水 化 と海 水 か らの 食 塩 の採 取 と して 実 際 に工 業 的 規 模 で 行 わ れ て お り,非 常 に 重 要 な 電 解 工 業 に な っ て い る.わ が 国 で は工 業 的 な食 塩 電 解 用 の原 料 食 塩 は ほ とん どす べ て を輸 入 に 頼 っ て い るが,食 用 塩 だ け は電 気 透 析 で 製造 して い る.ま た,離 島 や 中 東 諸 国 で は こ の電 気 透 析 を使 っ て飲 用 水 を得 て い る と こ ろ もあ る.
4 金 属 の 腐 食
金 属 が 〓 び る現 象 を 腐 食(corrosion)と が 溶 け た り,〓 び た りす る湿 食(wet
い う.腐 食 は 水 な ど の 溶 液 中 で 金 属
corrosion)と,空
との 反 応 に よ っ て 金 属 が 〓 び る乾 食(dry の うち湿 食,水
corrosion)と
気 中の酸素 な どの気体 に 区別 さ れ て い る.こ
溶 液 に お け る金 属 の腐 食 は電 気 化 学 現 象 と して理 解 され る.本 章
で は湿 食 に つ い て 取 り上 げ,ど の よ うな 仕組 み で 腐 食 が 起 こ る の か,電 気 化 学 の 理 論 を用 い て 説 明 す る こ とが で き る か を学 び,実 際 に起 こ る腐 食 の 形 態,防 食 法 に つ い て 学 ぶ.
4.1 腐 食
4.1.1 水 溶 液 腐 食 の2つ
の 原
理
の タイプ
水 の 中 で あ る い は雨 水 に よ っ て鉄 が容 易 に〓 び る現 象 は至 る所 で 目撃 さ れ る. 鉄 の 腐 食 は 自発 的 に起 こ り,〓 び る に した が い 表 面 は 黒 あ る い は褐 色 に変 化 して 行 くの が わ か る.酸 性 の 溶 液 な ど過 酷 な 条 件 下 で は水 素 を発 生 しな が ら溶 け る. 一 方 ,銅 の よ う な貴 金 属 は 〓 び に く く,ま ず 水 素 を発 生 して溶 け る こ とは な い. この違 い は 金 属 の イ オ ン化傾 向 と して知 られ て お り,卑 金 属 と貴 金 属 を 区別 す る 尺 度 と な っ て い る.そ れ で は貴 金 属 で あ る銅 は〓 び な い の で あ ろ う か.い や,銅 も〓 び る.銅
は水 素 を発 生 して溶 け る こ と は な い が,大 気 に 曝 さ れた 水 溶 液 に は
酸 素 が 溶 け込 ん で お り,い わ ゆ る溶 存 酸 素 が 酸 化 剤 と な っ て銅 を酸 化 す る.す な わ ち,程 度 の 差 は あ る が ど ん な金 属 で も原 理 的 に は 〓 び る の で あ る.こ の よ う に 水 溶 液 中 の 金 属 の 腐 食 に は2つ の タ イ プ が あ る. 水 素発生型腐 食―
卑金属 の腐食
酸 素消費型腐 食―
貴 金属の腐食
これ ら2つ の タ イ プ の 腐 食 に つ い て 例 を あ げ て 説 明 す る. a. 水 素 発 生 型 の 腐 食 酸 性 の 水 溶 液 中 で 鉄 は 水 素 ガ ス を発 生 しな が ら2価 の 鉄 イ オ ンの 形 で 溶 解 す る.こ
の 反 応 を化 学 反 応 式 で 表 す と,次 式 の よ う にな る. Fe+2H+→Fe2++H2
(4.1)
一 見 ,化 学 反 応 の よ う に見 え る が,本 質 は電 気 化 学 反 応 で あ る.鉄 表 面 で 鉄 が 溶 け る ア ノ ー ド反 応(anodic (cathodic
reaction)と
水 素 ガ ス が 発 生 す る カ ソ ー ド反 応
reaction.)と に分 解 され る.2つ
の 反 応 は 同 じ場 所 で起 こ る場 合 も,
場 所 が 異 な る場 合 もあ り,鉄 の表 面 状 態 に よ る.そ れ らの 反 応 は次 の 電 気 化 学 反 応 式 で 表 さ れ る. 部 分 ア ノ ー ド反 応:Fe→Fe2++2e− 部 分 カ ソー ド反 応:2H++2e−
(4.2) →H2
(4.3)
こ こ で重 要 な こ と は部 分 ア ノ ー ド反 応 と部 分 カ ソー ド反 応 が 等 し い速 度(電
流)
で 起 こ る こ とで あ る. こ の よ う な電 気化 学 反 応 の カ ップ ル は,部 分 カ ソー ド反 応 の 平 衡 電 位 が 部 分 ア ノ ー ド反 応 の そ れ よ り も貴 な場 合 にの み成 立 す る.平 衡 電 位 は ネル ン ス トの 式 と して 書 か れ る.式(4.2)の
反 応 を例 に と る と,
(4.4) 式(4.4)の ば れ,そ
中 のEFe°
は 鉄 の 標 準 電 極 電 位(standard
の 値 は 水 素 基 準 電 位(standard
−0.441Vで
electrode
hydrogen
potential)と
electrode
呼
potential)で
あ る.
[Fe2+]はFe2+の
濃 度 で あ る が,厳
活 量 で 純 粋 な 固 体 な の で 一 般 に は1と
密 に は 活 量 を 用 い る.ま す る.温
度 を25℃
た,aFeはFeの
と す れ ば,
E=−0.441+0.0592log[Fe2+]
(4.5)
の 関 係 が 得 ら れ る. 一 方,水
素 発 生 反 応 式(4.3)の
平 衡 電 位 は同 様 に
(4.6) で 与 え られ る が,EH2° と 呼 ば れ,定 −log[H+]な
は 水 素 の 標 準 酸 化 還 元 電 位(standerd
義 に よ り0Vで
あ る.PH2は
redox
開 放 系 で は1atmで
potential) あ り,pH=
る 定 義 か ら次 の よ う に 書 き 換 え ら れ る.
E=−0.0592pH
(4.7)
も し,pH=3で,鉄
の イ オ ン濃 度 が0.1Mと
の 平 衡 電 位 は−0.447Vと −0.178Vが
す れ ば,式(4.5)か
な り,式(4.7)か
ら水 素 発 生 反 応 の 平 衡 電 位 は
得 られ る.こ の場 合 は水 素 発 生 反 応 の平 衡 電 位 の 方 が 鉄 の 溶 解 反 応
の 平 衡 電 位 よ り貴 で あ り,鉄 の溶 解(腐 食)は の 電 位 が 等 し い か,あ 0.1Mと
ら,鉄 の溶 解
自発 的 に進 行 す る.も
し,こ れ ら
る い は 逆 で あ れ ば腐 食 は 起 こ らな い.鉄 の イ オ ン濃 度 を
仮 定 し,式(4.5)と
式(4.7)が
7.55を 得 る.こ れ は,pH7.55以
等 し い と し てpHの
値 を 求 め る と,
上 の 溶 液(中 性 か ら塩 基 性)で
は鉄 は腐食 し
な い こ とを意 味 す る.も ち ろ ん溶 解 す る鉄 イ オ ン の濃 度 に よ って も鉄 溶 解 の 平 衡 電 位 は 変 化 す る の で鉄 が 自発 的 に 腐 食 す るか どうか は溶 液 の状 態 次 第 で あ る. b. 酸 素 消 費型 腐 食 銅 の 標 準 電 極 電 位 は0.337Vで
水 素 発 生 の標 準 酸 化 還 元 電 位0Vよ
り貴 で あ
り,水 素 発 生 型 腐 食 は起 こ らな い こ とに な る.し か し大 気 に 開 放 さ れ た 水 に は酸 素 が溶 け て い る.酸 素 の 標 準 酸 化 還 元 電 位 は1.23Vで,銅 もは るか に貴 で あ る.こ の た め 酸 素 の 還 元 反 応(oxygen
の標準 電極電位 よ り reduction
reaction)
との 間 で 腐 食 系 を形 成 す る.こ の 場 合 の部 分 ア ノ ー ド反応 と部 分 カ ソー ド反 応 は 次 の よ う に書 か れ る. 部 分 ア ノ ー ド反 応:Cu→Cu2++2e− 部 分 カ ソ ー ド反 応:1/2O2+H2O+2e−
酸 素 の 標 準 酸 化 還 元 電 位 はAg(0.80
(4.8)
→2OH−
V),Pt(1.19V)よ
(4.9)
り も貴 で あ る.こ の
こ とは 銀 や 白金 も酸 素 の還 元 に よ っ て腐 食 す る こ と を意 味 す る.こ れ らの金 属 で は 金 属 イオ ンが 水 に溶 け に くい の で,金
属 表 面 に難 溶 性の 酸 化 物 を 形 成 す る.そ
の た め,腐 食 は進 行 し な い よ う に見 え る.一 方,金
の 標 準 電 極 電 位 は1.50Vと
酸 素 の 酸 化 還 元 電 位 よ り貴 で あ り,金 は常 温 で た だ1つ 酸 素 に よ っ て 酸 化 され な い 金 属 で あ る.
図4.1 水 中 で の 金 属 の腐 食 類 型
腐食 反応 と電池 反応 腐 食 反 応 は 異 な る ア ノ ー ド反 応 とカ ソ ー ド反 応 と の カ ッ プ ル か らな るが,電
池 も
ま っ た く同 様 な カ ッ プ ル か ら な り,原 理 的 に は 同 一 の 電 気 化 学 的 機 構 で 進 行 す る. 電 池 で は ア ノ ー ド とカ ソ ー ドが分 離 し,そ の 電 極 の 外 部 回 路 に 電 球 や モ ー タ な どの 負 荷 を挿 入 し て仕 事 を させ る の に 対 し,腐 食 系 で は電 極 が 短 絡 し て い る の で,仕
事
は しな い.
図4.2
4.1.2 腐
食
電
位
腐 食 して い る金 属 の 電 位 を測 定 す る と,腐 食 の進 行 に伴 っ て 変化 す るが,や が て 一 定 電 位 を示 す.こ の 電 位 を 腐食 電位(corrosion
potential)と
い う.腐 食 電
位 の 意 味 に つ い て は後 で 説 明 す る が,部 分 ア ノー ド反 応 の 平 衡 電 位 と部 分 カ ソー ド反 応 の平 衡 電 位 の 間 に あ り,2つ
の反 応 に よ り混 成 さ れ た 電 位 で あ る.こ の よ
う に腐 食 電 位 が 部 分 ア ノー ド反 応 の平 衡 電 位 に近 い の で,腐 食 電 位 を測 る こ とに よ り溶 液 のpHが
わ か れ ば,電 位−pH図
か ら対 象 とす る 金 属 が どの よ う な状 態
に あ るか を推 定 す る こ とが で き る.
4.1.3 電 位−pH図 こ こ ま で は腐 食 系 と して 鉄 の溶 解 反 応 の み を取 り上 げ た が,実 際 の鉄 の腐 食 の 状 態 を観 察 す る と,鉄 の 表 面 は場 合 に よ り黒 色 あ る い は褐 色 に変 色 す る.〓 び の 主 成 分 で あ る水 酸 化 物 や 酸化 物 が 形 成 して い るの で あ る.こ れ らの 〓 び を分 析 す
る とFe(OH)2,Fe(OH)3,Fe3O4,Fe2O3な が 確 認 さ れ る.と
ど
くに 中性 や ア ル カ リ性 溶 液 中
で は酸 化 物 は安 定 に存 在 す る.こ れ ら も鉄 の ア ノー ド反 応 に よ っ て生 成 され た もの で あ る.鉄 の 場 合 で も水 素 発 生 型 の腐 食 ば か りで な く,鉄 の 溶 解 反 応(−0.447V)よ 水 酸 化 物,酸
り平 衡 電 位 の 貴 な
化 物 を形 成 す る ア ノ ー ド反 応 が 関
与 す る酸 素 消 費 型 の腐 食 と し て進 行 す る.も
し
鉄 に関 す る 反 応 の 平 衡 電 位 が わ か れ ば腐 食 電 位 図4.3
鉄 の 電 位−pH図 (Pourbaix
を測 定 す る こ と に よ り,そ の 反 応 の種 類 を推 定
diagram)
で き る.そ の つ ど平 衡 電 位 の 計 算 は で き るが, 不 便 な の で あ らか じ め そ の 金 属 と水 との あ らゆ る 反 応 に関 す る平 衡 電 位 を計 算 し,作
成 し た 便 利 な 地 図 が あ る.こ
Pourbaix
diagram)と
い る.図4.3は
い う.現
れ を 電 位−pH図(あ
在 で は鉄 の 他 あ ら ゆ る 金 属 に つ い て つ く られ て
一 例 と し て 最 も 使 わ れ る 鉄 の 電 位−pH図
た と え ばFeか
らFe3O4に
る い は プ ー ル ベ 図,
で あ る.
電 気 化 学 的 に 酸 化 さ れ る反 応 を 考 え る.
3Fe+4H2O→Fe3O4+8H++8e−
(4.10)
こ の 反 応 の 平 衡 電 位 は ネ ル ン ス トの 式 に し た が い,式(4.4)と
同様 に
E=EFe3O4°−0.0592pH と 書 け る.た (4.11)か にpHを で,直
だ し,FeとFe3O4の
な ど の 固 体 の 活 量 は1と
ら こ の 平 衡 電 位 はpHの と る と式(4.11)は
関 数 で あ る こ と が わ か る.縦
直 線 関 係 を 示 し,直
線 よ り 下 の 領 域 はFeが
し な い の でx軸 る.一
(4 .11)
安 定 で あ る.鉄
に 平 行 で あ る が,[Fe2+]の
方,Fe2O3の
近 似 す る .式 軸 に 電 位,横
線 よ り 上 の 領 域 はFe3O4が
の 溶 解 反 応 式(4.2)はpHに
軸 安定 依存
濃 度 が 大 き い ほ ど上 方 に平 行 移 動 す
溶 解 の よ う な 電 子 の 移 動 の な い 化 学 反 応 は,次
の よ う な化 学
平 衡 が 成 り立 つ. Fe2O3+6H+=2Fe3++3H2O
(4 .12)
K=[Fe3+]2/[H+]6aFe2O3
(4 .13)
logK=6pH+2log[Fe3+]
(4 .14)
KはFe2O3の
化 学 溶 解 反 応 の 平 衡 定 数 で,Fe2O3の
の 平 衡 は 電 位 に 無 関 係 でFe3+の
濃 度 とpHで
活 量aFe2O3を1と
の み 決 ま り,図
し た.こ
上 で は蚕 直 な 直 線
とな る.直 線 はFe3+の
濃 度 が 大 き い ほ ど左 に 平 行 移 動 す る.直 線 の 右 側 で は
FexO3が 安 定 で,左 側 で はFe3+が
安 定 で あ る こ と を意 味 す る.図4.3に,鉄
関 す るす べ て の 反応 に つ い て電 位 をpHの 在 す る鉄 酸 化 物,鉄
関 数 と して プ ロ ッ トす る と,安 定 に存
イ オ ンの 領 域 が で き る.Fe2+やFe3+の
領 域 は鉄 が溶 解 して
い る こ と を意 味 し,腐 食 が 進 行 し て い る の で 活 性 態(active 一 方 ,そ れ に比 べ酸 化 物,水
state)と
称 す る.
酸 化 物 の領 域 は 反 応 の 進 行 が 遅 い の で 溶 解 が 抑 制 さ
れ る.こ の よ うな領 域 を不 働 態(passive この 電 位−pH図
に
state)と 呼 ん で い る.
を使 う と鉄 の 腐 食 状 態 を推 定 す る こ とが で き る.溶 液 のpH
と腐 食 電 位 を計 測 して 図 上 の位 置 を調 べ,そ れ がFe2+やFe3+の
領 域 に相 当 す れ
ば鉄 は活 性 態 に あ り,腐 食 は 進 行 して い る こ と を意 味 す る.逆
に酸 化 物 や水 酸 化
物 の 領 域 に あ れ ば 不 働 態 で あ り,腐 食 の 進 行 が 妨 げ られ る こ と を意 味 す る.ま た,同 時 に図 に は水 素 発 生 反 応 の 平 衡 電 位 と酸 素 還 元 の平 衡 電位 のpH依 破 線 で 示 し て い る.と
もに−0.0592V・pH−1の
存性 も
勾 配 を もつ 直 線 で あ る.腐 食 系
を形 成 す る に は 腐食 電 位 は水 素 発 生 反 応 あ る い は酸 素 還 元 反 応 の 平 衡 電 位 の ど ち らか の 電 位 よ り卑 で あ る必 要 が あ る.し か し こ こ で注 意 しな けれ ば な らな い こ と は,測 定 した腐 食 電 位 は後 に 述 べ る よ う に平 衡 電 位 か ら分極 され た 電 位 で あ り, 電 位−pH図 で 使 わ れ た平 衡 電 位 で は な い と い う 点 で あ る.し た が っ て あ く ま で も推 定 の域 を脱 し な い の で あ るが,そ
れ ほ ど大 き くは異 な らな い の で十 分 活 用 で
き る.
4.1.4 腐 食 電位 と腐 食 電 流 水 素 発 生 型 腐 食 は金 属 溶 解 の ア ノ ー ド反 応 と水 素 発 生 の カ ソー ド反 応 の 組 み合 わ せ で 起 こ り,し か もア ノー ド反 応 の 平衡 電 位 が カ ソー ド反 応 の そ れ よ り卑 で あ る場 合 の み カ ップ ル で き る こ とを述 べ た.次
に どの よ うに 腐 食 反 応 が 進 行 し て い
るか,速 度 の立 場 か ら述 べ る.腐 食 反 応 が 電 気 化 学 反応 で あ る の で,フ の 法 則 に よ り腐 食 速 度(corrosion
rate)vは
電 流 と して 記 述 で き る.
I=nFv こ こで,Fは
(4.15) フ ァラ デ ー定 数,nは
反 応 の 電 子 数 で あ る.
す で に述 べ て き た よ う に電 気 化 学 反 応(個 応(electrode
ァラデー
reaction)と
平 衡 電 位 を もつ.そ
々 の 反 応 に 注 目 した 場 合 は,電 極 反
い う場 合 が 多 い)は
そ れ ぞ れ 熱 力 学 に よ り導 か れ た
の電 位 よ り貴 の 方 向 に分 極 す る とア ノー ド電 流(正 電 流)が
流 れ,そ
れ よ り卑 の 方 向 に 分 極 す れ ば カ
ソ ー ド電 流(負
電 流)が
流 れ る.そ
れぞ
れ の 反 応 が 活 性 化 支 配 で あ れ ば電 極 反 応 の 分 極 し た と き の 電 流 と 過 電 圧(over potential)η
との 関 係 は理 論 的 に次 式 で
表 さ れ る. η=a+blog│i│ こ こ で,│i│は ノ ー ド反 応,カ
ソ ー ド仮 応 の 双 方 に 用 い
る こ と が で き る.ま
分 カ ソ ー ド分 極 曲 線 に よ る腐 食 電位 と
は平衡 電 位
±2.303RT/αnF
logi0,b=±2
diagram)
RT/αnF(α で,ア
た,η
か ら 分 極 し た 電 位 と の 差 で あ り,a=
図4.4 鉄 溶 解 と水 素 発 生 の部 分 ア ノ ー ド,部 電 流 の求 め 方(Evans
(4.16)
電 流 の 絶 対 値 で あ り,ア
ノ ー ド反 応 の と き 正 で,カ
は 透 過 係 数,nは
ソ ー ド反 応 で は 負 を と る.過
電 圧 η とlog│i│
を プ ロ ッ トす る と直 線 関 係 を 示 す こ と か ら タ ー フ ェ ル 線 と よ ば れ る.そ bで あ り,タ
.303 電 子 数)
ー フ ェ ル 勾 配 と い わ れ,±0.0592/αn(V・decade−1)で
の勾配 は あ る .こ
れ
ら の パ ラ メ ー タ か ら反 応 に 関 与 す る 電 子 数 な ど反 応 機 構 に 関 す る 情 報 を 得 る こ と が で き る.
腐 食 反 応 は2つ
の異 な る電 気 化 学 反 応 が 同 一 の電 極 上 で 進 行 す る の で,ア ノ ー
ド電 極 反 応 とカ ソー ド電 極 反 応 の電 位 は同 一 で な くて は な らな い.す
る と平 衡 電
位 の貴 な 水 素 発 生 反 応 は カ ソー ド方 向 に,鉄 の 溶 解 反 応 に つ い て は ア ノ ー ド方 向 に分 極 す る.過 電 圧 ηだ け分 極 す る た め に は,式(4.16)に
した が っ て 電 流iが
流 れ な けれ ば な ら な い.両 反 応 が ペ ア で起 こ るた め に は ア ノー ド電 流 とカ ソー ド 電 流 の大 き さ は 等 し くな くて は な らな い か ら,両 者 と も等 しい電 流(電 流 の 方 向 は ア ノ ー ド電 流 が 正 で,カ 分 極 さ れ,等
ソー ド電 流 は 負 な の で そ の絶 対 値 が 等 し くな る)ま で
しい 電 位 を示 す.図4.4に
線(polarization
curve)と
は鉄 の溶 解 反 応 と水 素 発 生 反 応 の 分 極 曲
腐 食 系 の 成 り立 ち を概 念 的 に 示 し た.縦 軸 は 対 数 で
表 示 して あ る の で,式(4.16)に
した が う タ ー フ ェル 線 が 観 測 さ れ る.そ れ ぞ れ
貴 に分 極 した 曲 線 をア ノ ー ド分 極 曲 線,卑
に分 極 した 曲線 を カ ソ ー ド分 極 曲線 と
い う.カ ソー ド分 極 曲 線 は も と も と負 の電 流 な の で 電 流 の絶 対 値 を と っ て表 示 し て あ る.ま た,一 般 に ア ノ ー ド分極 曲 線 とカ ソー ド分 極 曲線 の タ ー フ ェル 勾 配 は
可逆 系 と混成 系 こ こで鉄 溶 解反 応,水 素発 生反応 の おの おの の電極 反応 の アノー ド,カ ソー ド分 極 曲線 の 交点 は平衡 電 位 と交 換電流 密度 を与 え,同 じ反応 の正逆 反応 なの で これ を 可 逆系 と呼ぶ.そ れ に対 しア ノー ド反応 とカ ソー ド反応 が異 なる腐食 反応 は混成 系 と呼 ばれ る.こ の系 は平衡 でな いので それ ぞれの 反応 が進行 し,最 終 的 には鉄 が溶 解 しつ くす まで反応 し続 ける.
異 な る.同
じ よ うな 仕 方 で 鉄 の ア ノー ド分 極
曲線 と水 素 発 生 の カ ソー ド分 極 曲線 は交 叉 す る.こ の 交 点 の 電 位 が 腐 食 電 位Ecorに し,そ
相当
の と き の 電 流 が 腐 食 電 流 密 度icor
(corrosion
current)に
対 応 す る.こ の よ う
に分 極 測 定 に よ る部 分 ア ノー ド曲 線,部
分カ
ソ ー ド曲 線 を 用 い て腐 食 電位,腐
食 電 流 を求
め る作 図 を エ ヴ ァ ン ス図(Evans
diagram)
と呼 ん で い る. 一 方,銅
の腐 食 の よ うな 酸素 消 費 型 の 腐 食
で は カ ソー ド反 応 種 で あ る液 中 の 酸 素 分 子 の
図4.5 銅 の 酸 素 消 費 型 腐 食 に お け る ア ノ ー ド とカ ソー ド分極 曲線 に よ る腐 食 電位 と腐 食 電 流 の 関係
カ ソー ド反 応 面 へ の 供 給 が 追 い つ か な くな り,電 極 面 へ の輸 送 が 反 応 速 度 を支 配 す る,い わ ゆ る拡 散 律 速 とな り電 流 は飽 和 す る.銅 の ア ノ ー ド曲 線 の ター フ ェル 勾 配 が 大 き くて も交 叉 す る電 流値 は酸 素 還 元 の カ ソー ド電 流 で 決 ま っ て しま い,大
き くな らな い.図4.5に
この 様 子 を示 し
て い る.銅 の 腐 食 が 鉄 と比 べ て 小 さ い の は カ ソ ー ド反 応 の違 い に よ る.こ の よ う に カ ソ ー ド電 流 に よ って 腐 食 電 流 が 決 ま って し ま うの を カ ソ ー ド支配 と呼 ん で い る.逆
に ア ノ ー ド電 流 が小 さい 場 合 に は ア ノ ー ド支 配,ど
ち ら も同 じ程 度 で あ れ
ば混 合 支 配 と呼 ん で い る.
4.1.5 不
働
態
腐 食 電 位 か ら鉄 を ア ノ ー ド分 極 す る と,鉄 の 溶 解 が起 こ り,電 流 が 上 昇 し,タ ー フ ェル 線 を示 す .し か し,さ ら に分 極 を続 け る と電 流 は ピー ク を示 し た後,突 然3∼4桁
ほ ど小 さい 電 流 値 まで 低 下 す る.さ
ら に電 位 を上 げ て もほ ぼ 一 定 値 を
金 や 白金 が いつ も輝 いて い る理 由 金 は常温 で は酸化 され ないが,白 金 は酸化 され る.白 金 は塩化 物 イオ ンな どと錯 塩 をつ くらな い と水 には溶 けな いた め,不 働 態 酸化 物 皮 膜 は きわ め て難 溶 性 で あ る.し か もきわ めて薄 く,そ れ以上 ほ とん ど成長 しないの で可視 光線 を通 す.こ の た め金 属 の地金 が さん然 と輝 いて見 える.金 を除 けば,空 気 中 で は酸 化 しな い金属 はな く,酸 化物 皮膜 すな わち不 働態 皮膜 に覆 わ れて い る.金 属 に耐食性 があ るか ど うか は不働 態皮膜 の化 学 的強 さ に よる.
示 し た ま ま 推 移 す る.図4.6にpH=3の 硫 酸 水 溶 液 中 の鉄 の ア ノ ー ド分 極 曲 線 を示 し て あ る.や が て 電 位 が1.3Vに
達 する
と電 流 が 再 び上 昇 し,気 泡 の発 生 が 観 測 さ れ,水 の 電 気 分 解 に よ る酸 素 ガ ス の 発 生 が 起 こ る.こ の と きの 電 位 と電 流 の 関 係 は タ ー フ ェル 線 を示 して い る.途 中 なぜ 電 流 が 図4.6 酸 性 溶 液 中 で の 鉄 の ア ノー ド分 極 曲線
急 激 に低 下 す るか とい う こ と は,図4.3の 鉄 の電 位−pH図
理 解 で き る.図4.3のpH=3の
位 置 で 下 か ら縦 軸 に平 行 に電 位 を上 げ て行 く と,
鉄 イ オ ン の 濃 度 に よ るが,[Fe2+]=1Mな り,0.15V付
近 でFeか
近 で 鉄 の 表 面 にFe3O4層
に 当 ては めて み れ ば よ く
ら−0.441Vで
鉄 の活 性溶 解 が起 こ
ら生 成 す るFe3O4の
安 定 領 域 に ぶ つ か る.こ の 電 位 付
が 形 成 す る の で,鉄
の 活 性 溶 解 は抑 制 され る.こ の 電
位 が 図4.6の 鉄 の 分 極 曲 線 の電 流 が 急 激 に低 下 す る電 位 と ほ ぼ 一 致 し,表 面 が 酸 化 物 に覆 わ れ る こ とが 原 因 で あ る.こ の よ うな状 態 を不 働 態(passive い い,活 性 溶 解 が 起 こ っ て い る状 態 を活 性 態(active
state)と
state)と
い う.活 性 態 か
ら不 働 態 に移 り,急 激 に 電 流 が 低 下 す る現 象 を不 働 態 化(passivation)と また この 原 因 とな る表 面 酸 化 物 を不 働 態 皮 膜(passive ら に 電 位 を 上 げ て行 く と1.1Vで
film)と
は酸 素 発 生 の 電 位(破 線)に
の 分 極 曲 線 上 で の 酸 素 発 生(1.3V)は
い う.
呼 ん で い る.さ ぶ つ か る.図4.6
この 反 応 が 不 働 態 皮 膜 上 で 起 こ る こ と を
意 味 す る.一 般 に不 働 態 皮 膜 の 厚 さ は き わ め て 薄 い.電 位 に もよ る が,鉄 態 皮 膜 で5nm程 て は1nmか
度,耐
食 性 の あ る ス テ ン レ ス 鋼 で は3nmく
らい,白
の不 働
金 に至 っ
そ れ 以 下 で あ る.こ の よ う に不 働 態 皮 膜 は薄 い ほ ど そ の 金 属 の 耐 食
性 が よい. [ス テ ン レス 鋼] 鉄 も不 働 態 皮 膜 を つ くる が,決 て 鉄 が 溶 け 出 して くる.と
して 強 い もの で はな く,酸 の 中 で は簡 単 に壊 れ
くに 塩 化 物 イ オ ン に弱 く,酸 化 物 は破 壊 され や す い.
と こ ろが ク ロム は鉄 よ り も卑 な 金 属 で あ る に もか か わ らず 強 い酸 に も良 好 な耐 食 性 を示 す.そ
れ は強 固 な酸 化 物 皮 膜Cr2O3を
形 成 す るた めで あ る.防 食 の た め に
ク ロム め っ き を す る の は こ の理 由 に よ る.し か し,ク ロム は一 般 に は脆 い 金 属 で そ の ま ま で は 材 料 と し て は使 い に くい.そ
こで 鉄 と ク ロム を合 金 化 し,両 者 の欠
点 を補 っ た の が,ス
ロム 成 分 を15%程
テ ン レ ス鋼 で あ る.ク
度 加 え る とほ ぼ ク
ロム に匹 敵 す る耐 食 性 を与 え る.生 成 す る不 働 態 皮 膜 が薄 い の で,貴 金 属 と同 様 に 地 金 が 輝 い て 見 え る.実 際 の ス テ ン レス 鋼 は さ らに機 械 的 性 質 の 改 善 の た め に ニ ッ ケル 成 分 を加 え,18-8ス
テ ン レ ス 鋼(Fe-18%Cr-8%Ni)と
して実用化 さ
れ,〓 び な い 合 金 と して 流 し台 や鍋 な ど と して 身 近 に使 わ れ て い る. しか し,ク ロ ム に も欠 点 が あ る.化 学 的 に 丈 夫 なCr2O3で
あ っ て も分 極 に よ り
酸 素 発 生 電 位 近 くまで 上 昇 させ た り,硝 酸 イ オ ンの よ うな 強 力 な酸 化 剤(酸 化 還 元 電 位 の 貴 な物 質)が
あ る と6価 ク ロ ム と して 溶 け て し ま う.
Cr2O3+4H2O→Cr2O72-+8H++6e- この よ うな 現 象 を 過 不 働 態 溶 解(transpassive
E°=1.212 dissolution)と
V
い う.強 い 酸 化 剤
で あ る硝 酸 は鉄 や ニ ッケ ル な どの 金 属 を容 易 に不 働 態 化 す るが,ク せ る の で,ク
(4.17)
ロ ム を溶 解 さ
ロ ム を含 む ス テ ン レ ス鋼 は硝 酸 中 で は耐 食 性 を もた な い.
4.1.6 環 境 に よ る影 響 腐 食 は 金 属 の溶 解 な どの ア ノー ド反 応 と水 素 の発 生 や 酸 素 の還 元 の カ ソー ド反 応 の 対 で起 こ る こ と を原 理 的 に述 べ て き た が,も
う少 し広 く捉 えれ ば腐 食 とは 金
属 とそ れ が 曝 さ れ て い る環 境 との 反 応(電 気 化 学 反 応)と の 腐 食 環 境 は も う少 し複 雑 で あ る.温 度,塩
の種 類,液
い う こ とに な る.実 際 の 流 れ,pHな
どの 影 響
が 顕 著 に現 れ る. a. 温
度
今 ま で は25℃ の 標 準 状 態 で 腐 食 を扱 っ て きた が,腐
食 が 問 題 に な る環 境 は む
し ろ 高 温 で あ る.平 衡 電 位 は25℃ よ り大 き く異 な ら な け れ ば ネ ル ン ス トの 式 (4.4)を 近 似 的 に使 う と右 辺 第2項
の 係 数 が,25℃
で0.0296V・decade-1で
ある
図4.7 環境 に よ る腐 食 へ の 効 果 (a)温
度,(b)pH,(c)流
も の が40℃ で0.0311V・decade−1で
れ,(d)ア
ニ オ ン.
あ り,[Fe2+]=1Mと
し て も わ ず か1.5
mVし
か 変 化 し な い.し か し,反 応 速 度 へ の 影 響 は大 き い.10℃
は2倍
に な る とい わ れ る.ア ノ ー ド反 応,カ
速 度(腐
食 電 流)も
b. 溶
液
ソー ド反 応 と も に増加 す る の で腐 食
同程 度 増 大 す る(図4.7(a)).
のpH
腐 食 系 の 電 気 化 学 反 応 へ の 溶 液 のpHに
よ る効 果 は反 応 の形 に よ っ て平 衡 電
位 と反 応 速 度 の 双 方 に現 れ る.平 衡 電 位 のpH依 い る.図4.3の
鉄 の 電 位−pH図
解 す る反 応 に はpH依 化 学 反 応,多
存 性 は電 位−pH図
で述 べ た よ う に,式(4.2)の
存 性 は な い が,プ
存 性 を も ち,0.0592V・pH−1の
方,水 素 発 生 反 応,酸
低 下 す る(式(4.7)).ま
と え ば,式(4.10)の
反
勾 配 で 低 下 す る(式
素 還 元 反 応 も同様 に0.0592V・pH−1の
勾配 で
た,酸 化 物 や 水 酸 化 物 な ど は 酸 性 な ほ ど溶 解 度 が 高 く
不 安 定 とな り,活 性 態 で の 腐 食 が 進 行 す る.反 応 速 度 に対 す るpH効 れ る.単 な る 鉄 の溶 解 反 応 式(4.2)で 応 速 度 そ の も の はpHが
に示 さ れ て
ような鉄 が活性 溶
ロ トンや 水 酸 化 物 イ オ ンの 関 与 す る電 気
くは酸 化物 や 水 酸 化 物 が 関 与 す る反 応,た
応 の 平 衡 電 位 はpH依 (4.11)).一
違 う と反 応 速 度
も詳 細 に 検 討 す る とpH依
大 き い 方 が 速 くな る.し か し,pHを
果 も考 え ら 存 性 が あ り反
大 き くす る と酸 化
物 が 安 定 な 領 域 に入 り不 働 態 と な りや す い の で腐 食 の 進 行 は抑 え られ る(図4.7 (b)).と
こ ろ が,pHを
よ う に な る.鉄
大 き く しす ぎ る と酸 化 物 は オ キ シ ア ニ オ ンの 形 で溶 け る
の 場 合 で は図4.3の 電 位−pH図
に あ る よ う にpH
14付 近 で オ キ
シ ハ イ ドロ鉄 酸 イ オ ン と して溶 解 す る. Fe3O4+2H2O+2e− この よ う に溶 液 のpHは とな る.こ のpHの
→3HFeO2−+H+
(4.18)
大 き く して も小 さ くし て も腐 食 を進 行 させ る フ ァ ク タ ー
境 界 値 は金 属 に よっ て 異 な る.
図4.7(b)はCuの
酸 素 還 元 反 応 に よ る腐 食 の模 式 的 な エ ヴ ァ ンス 図 を 示 し て
い る.酸 素 カ ソー ド反 応 速 度 は拡 散 律速 に な る場 合 が 多 く,電 流 値 は ほ とん ど pHに
よ ら な い.pHが
小 さ い場 合 に は 部 分 ア ノー ド分 極 曲 線 と部 分 カ ソ ー ド分
極 曲線 の 交 点 は卑 な 電 位 側(活
性 態)に
あ り,腐 食 電 流 も大 きい.一
方,pHが
大 きい場 合 に は,分 極 曲 線 の 交 点 は不 働 態 領 域 に あ り,腐 食 電 流 も小 さ く,不 働 態 化 しや す い こ とを 示 して い る. c. 液
の
流
れ
液 が 流 れ て い る場 合 と静 止 して い る場 合 を比 較 す る と液 の 流 れ が あ る場 合 の
方 が 腐 食 が 進 行 す るケ ー ス が 多 い.液 の 流 動 の効 果 は拡 散 現 象 に直 接 現 れ る.腐 食 系 で あ れ ば酸 素 の カ ソー ド反 応 が速 度 を支 配 して い る場 合 に顕 著 で あ る.拡 散 支 配 に よ る定 常 電 流 は (4.19) で 与 え られ る.こ
こでDは
れ た 沖 合 い で の濃 度,Csは
拡 散 定 数,Fは
フ ァ ラ デ ー 定 数,C*は
電 極 か ら離
電 極 近 傍 で の 濃 度,δ は拡 散 層 の 厚 さ,nは
その反
応 の電 子 数 で あ る.こ の うち δが 流 動 の 影 響 を 受 け,流 れ が 層 流 で あ れ ば 流 れ の 速 度vと
次 の よ うな 関 係 が あ る.
(4.20) 流れが乱 流で あれ ば (4.21) の 関 係 が与 え られ て い る.こ こでvは
液 体 の 動 粘 度 で あ り,1は 表 面 に 沿 っ た 軸
の 電 極 の端 か ら の距 離 で あ る.い ず れ の場 合 も流 速 が 大 き い と δ は小 さ くな り, 式(14.19)に
した が っ て 電 流 は増 加 す る.銅 の 腐 食 を例 と し た 流 速 に よ る腐 食
電 流 の相 違 を図4.7(c)に
描 い て あ る.
d. ア ニ オ ンの 種 類 に よ る効 果 酸 や ア ル カ リに よ る水 溶 液 のpHの
効 果 は プ ロ トンの 濃 度 に よ る もの で あ るか
ら原 理 的 に は 酸 の 種 類 で は違 わ ない は ず で あ る.し か し,硫 酸,塩 酸,硝
酸で は
王
水
濃 塩 酸 と濃 硝 酸 の 混 合 液 で,モ
ル 比 が3:1の
もの が よ く知 られ て い る.普 通 の
酸 に は溶 け な い 白 金 や 金 を溶 か す こ と で 知 ら れ て い る.こ る.強 力 な 酸 化 剤 で あ る 濃 硝 酸 で 酸 化 す る の で あ るが,反 ア ノ ー ド反 応:Pt+4Cl−
れ も電 気 化 学 反 応 で あ 応 は次 の よ う に 起 こ る.
→PtCl42−+2e−
カ ソ ー ド反 応:2NO3−+4H++2e−
(4.22)
→N2O4+2H2O
(4.23)
生 成 す る 白 金 イ オ ン は塩 化 物 イ オ ン と錯 塩 を つ く ら な い と水 溶 液 中 に 溶 解 し な い こ と,錯 塩 を 形 成 す る とア ノ ー ド反 応 に し た が う標 準 電 極 電 位 は0.73Vと カ ソ ー ド反 応 の0.803Vよ
り卑 と な っ て 反 応 が 進 行 す る.ま
じ で も,材 料 が 環 境 の 中 で 自 然 に 劣 化 す る場 合 を"腐 食"と
低 下 し,
た,反
応 の原 理 は 同
い い,酸
化 剤 を用い て
人 工 的 に溶 か す 場 合 は エ ッチ ン グ と か 酸 洗 とい い 区 別 し て い る.
腐 食 の 形 態 が 異 な る.そ れ はプ ロ トンば か りで な く酸 を形 成 す る ア ニ オ ンが 腐 食 反 応 に関 わ っ て くるか らで あ る.ま ず,酸
に は硝 酸 の よ うな ア ニ オ ンが 酸 化 剤 と
な る酸 化 性 の 酸 と,塩 酸 の よ う な非 酸 化 性 の 酸 が あ る.硫 酸 は 中 間 で 普 通 の状 態 で は非 酸 化 性 の 酸 と して 振 舞 う が,熱 濃 硫 酸 とな る と硝 酸 と同 様 に 酸 化 性 の酸 と し て働 く.硝 酸 は酸 化 剤 とな る の で(希 薄 の 場 合 は非 酸 化 性 の酸 とみ な さ れ る), 不 働 態 化 を促 進 す る.非 酸 化 性 の酸 で はpH効
果 その もの が 現 れ る が,塩 酸 は違
っ て い る.塩 化 物 イ オ ン は金 属 イ オ ン との 親 和 性 が強 く,錯 塩 を形 成 し や す い. そ の た め,酸 化 物 皮 膜 を壊 して し ま うた め に不 働 態 化 を阻 止 す る方 向 に働 く.こ の働 きは酸 で な くて も中 性 の 塩 化 物溶 液,す
な わ ち海 水 で も不 働 態 皮 膜 の 破壊 を
引 き起 こす.海 岸 淵 の 鉄 や ア ル ミニ ウム で で きた構 造 物 が 〓 び や す い の は この 作 用 に よ る.後 で 取 り上 げ る局 部 腐 食 の 起 こ る 要 因 とな る.弱 酸 で あ る ギ 酸 や 酢 酸 の よ うな有 機 酸 も腐 食 を促 進 す る.こ れ も金 属 イ オ ン と錯 体 を形 成 し不 働 態 皮 膜 が 形 成 し に くい た め で あ る.図4.7(d)は
ス テ ン レ ス 鋼 の1Nの
硫 酸,塩
酸,
硝 酸 中 の ア ノー ド分 極 曲 線 の違 い を表 した 図 で あ る.
4.2 局 部 腐 食 と 形 態
これ まで は金 属 の 表 面 が均 一 に腐 食 す る場 合 の み扱 っ て きた.こ を 均 一 腐 食(homogencous
corrosion)と
晶 で あ れ ば異 な る 結 晶 面 が 現 れ,粒
の よ うな腐 食
い う.し か し,実 際 の金 属 表 面 は 多 結
界 が 存 在 す る.さ
ら に微 量 な 不 純 物 や 介 在
図4.8 局部腐食類 型
物,多
くの 欠 陥 が存 在 す る.場 所 に よ って 表 面 エ ネ ル ギ ー が 異 な るの で ア ノ ー ド
反 応 と カ ソー ド反 応 が 完 全 に分 離 した り,ア ノ ー ド反 応 自身 も場 所 に よ っ て異 な る こ と もあ る.こ の よ う に場 所 に よ る 不 均 一 な 腐 食 を局 部 腐 食(local sion)と
corro
い う.局 部 腐 食 の典 型 的 な型 を次 に取 り上 げ る.
4.2.1 粒 界 腐 食(intergranular 金 属,合
corrosion)
金 は一 般 に 多 結 晶 なの で粒 界 が 存 在 す る.粒 界 は結 晶 の乱 れ な ので エ
ネル ギ ー 的 に 高 いが,そ
れ 自身 が 腐 食 に影 響 す る こ と は少 な い.し か し,粒 界 に
は カ ー バ イ トの よ う な微 小 の析 出 物 が 偏 析 し や す い.Fe-Cr合
金 で は クロム カ
ー バ イ トCr23C6が 偏 析 し,粒 界 付 近 は ク ロ ム 濃 度 が 低 下 す る の で 耐 食 性 が 低 下 す る.こ
の た め粒 界 に 沿 っ て 腐 食 が 起 こ りや す く,粒 界 を通 じ て 劣 化 が 進 行 す
る.こ れ を粒 界 腐 食 とい う.図4.8に
そ の様 子 を模 式 的 に 示 した.こ れ を抑 え る
た め に は カ ーバ イ トが 生 成 しな い よ う に不 純 物 の 炭 素 の 濃 度 を極 力 下 げ れ ば避 け る こ とが で き る.実 用 合 金 の 中 にSUS ス テ ン レス 鋼 が 市 販 され て い るが,low
4.2.2 孔 食(pitting
304 Lと い う ふ う にLが carbon(C<0.03質
ついた製 品名 の
量%)の
略 で あ る.
corrosion)
針 の 先 ほ ど の小 さな 穴 の 開 く腐 食 で あ る.穴 の 幅 は あ ま り大 き くな らず,深
さ
方 向 へ と成 長 す る.つ い に は貫 通 す るの で 容 器 で あれ ば ガ ス や 液 体 が 漏 洩 す る原 因 とな る.鉄 や ス テ ン レス 鋼 な ど比 較 的 不 働 態 皮 膜 の 丈 夫 な金 属 や 合 金 に 見 ら れ,塩 化 物 イ オ ンが 関 与 す る.塩 化 物 イ オ ン は 酸 化 物 を破 壊 しや す く不 働 態 皮 膜 が 局 部 的 に破 壊 され る と下 地 の 金 属 は皮 膜 を補 修 し よ う とす る.こ の と き加 水 分
解 反 応 に よ っ て 酸 化 物 を形 成 す るた め プ ロ トンが 生 成 し,近 辺 の 溶 液 は次 第 に酸 性 に な る. Fe2++H2O→Fe(OH)2+H+
(4.24)
酸 性 部 分 で は下 地 金 属 の溶 解 が 進 み小 さな 穴 とな る.酸 化 物 が で き に く くな り, 金 属 は溶 け続 け る の で穴 は 成 長 す る.穴 の 内 部 で は 塩 化 物 イオ ンの 濃 縮 と酸 性 化 が 進 行 し,と
くに穴 の 先端 部 分 は活 性 溶 解 を起 こ し不 働 態 化 しな い.側 壁 は不 働
態 化 す るの で 穴 は深 さ 方向 に の み成 長 しや が て 貫 通 す る.こ の 機 構 を図4.8に 模 式 的 に示 す.孔 食 は ス テ ン レ ス鋼 な ど不 働 態 皮 膜 の 比 較 的 丈 夫 な 金 属 に起 こ りや す く厄 介 な現 象 で あ る.穴 の 底 に金 属 塩 化 物 が 堆 積 して い る例 も見 られ る.電 気 化 学 的 に は金 属 材 料 の種 類 と塩 化 物 イ オ ン濃 度,pH,温 孔 食 電 位(pitting
potential)が
な い.孔 食 の数 は1cm2あ
度 な どの 条 件 で決 ま る
あ り,こ の 電 位 以 上 に な らな い と孔 食 は起 こ ら
た りせ いぜ い 数 個 か ら数 十 個 しか で きな い.孔 食 の 発
生 す る起 点 と して 不 働 態 皮 膜 あ る い は下 地 金 属 の欠 陥 あ るい は不 純 物 が 考 え られ て い るが,論
理 的 に解 決 され る に は至 っ て い な い.孔 食 を防 止 す る に は塩 化 物 イ
オ ン を排 除 す れ ば よ いが,海
水 の よ うに それ が で きな けれ ば ス テ ン レス 鋼 に少 量
の モ リブ デ ン を添 加 す る.な ぜ モ リブ デ ンが 有 効 か は実 の と ころ よ くわ か っ て い な い.チ タ ン は孔 食 を起 こ さ な い金 属 と して 知 られ て い る.高 価 で あ るが 最 近 で は海 岸 建 造 物 な どに使 わ れ て い る.
4.2.3 隙 間 腐 食(crevice
corrosion)
水 道 水 な どの比 較 的 温 和 な環 境 で容 器 の 奥 の 部 分 や パ イ プ の継 ぎ手,ボ
ル ト‐
ナ ッ トの 隙 間 の奥 が 激 し く腐 食 して い る ケ ー ス が あ る.外 か ら見 え な い の で か な り進 行 し て か ら発 見 され る例 が 多 い.液
の流 動 が な い た め に塩 化 物 イ オ ンが 隙 間
の 中 で 濃 縮 す る こ とが 原 因 で起 こ る腐 食 で あ り,原 理 的 に は 孔 食 と類 似 して い る.こ の 様 子 を図4.9に 示 した.孔 食 との違 い は,人 工 的 に 開 い た 穴 が あ る こ と か ら出 発 す る点 で あ る.湯 沸 か し器 の銅 パ イ プが 時 々 腐 食 す るが,こ
の タイプの
腐 食 だ とい わ れ て い る.隙 間腐 食 は孔 食 に比 べ 穏 や か な 条 件 で もゆ っ く り と進 行 す るケ ー ス が 多 く,孔 食 電 位 に比 べ 卑 な 電 位 の隙 間 腐 食 電 位 が 存 在 し,こ の電 位 以 下 で は 隙 間腐 食 は起 こ らな い.こ
れ を防 止 す る に は設 計 の段 階 で容 器 や 管 の 中
に 液 の よ どみ が で き る よ うな 隙 間 や 穴 をつ く らな い こ とが 重 要 で あ る.
図4.9 局 部 腐 食 の類 型
4.2.4 応 力腐 食 割 れ(stress
corrosion cracking)
金 属 材 料 の 強 度 が 腐 食 環 境 で 低 下 す る.逆 腐 食 劣 化 は 速 く進 行 す る.と
をい え ば,力 の か か っ て い る材 料 の
くに橋 梁 な どの構 造 材 料 に とっ て は安 全 面 か ら重 大
な 障 害 とな る.金 属 材 料 に亀 裂 が 生 ず る とそ の先 端 に現 れ た新 生 面 が 溶 解 す る. と くに塩 化 物 イ オ ンが 共 存 す る と孔 食 と同 様 に先 端 の み腐 食 す る.腐 食 が 起 こ る と水 素 発 生 反 応 が 起 こ るの で発 生 した 水 素 が 亀 裂 先 端 に吸 蔵 され 脆 くな る こ と も あ る(水 素 脆 性).い
ず れ に し ろ亀 裂 先 端 に は応 力 集 中 が 起 こ り亀 裂 は進 展 す る.
再 び 現 れ た新 生 面 で溶 解 が 起 こ る.こ の 繰 り返 しが 腐 食 を早 め る こ とに な る(図 4.9).最 近 の 研 究 で は 鋼 の 中 に析 出 す る微 量 のMnSの
よ う な 介 在 物 が 起 点 とな
り,応 力 腐 食 が 進 行 す る と考 え られ て い る.
4.2.5 流 動 腐 食(erosion
corrosion)
パ イ プ の 中 を液 体 が 流 れ て い る場 合,流
れ の 速 い 部 分 が 早 く〓 び る 現 象 で,給
水 管 や配 水 管 等 の 曲 が っ た部 分 に よ く起 こ る.液 が 流 れ る と拡 散 に よ る酸 素 の 供 給 速 度 が増 加 した り,形 成 され る不 働 態 皮 膜 の 溶 解 速 度 が 増 す.あ
る い は 浮遊 物
あ る い は 剥離 した酸 化 物 な どの粒 子 が 衝 突 す る と機 械 的 に表 面 を削 る の で,下 地 の 金 属 が溶 解 す る か あ る い は不 働 態 皮 膜 を補 修 す る.こ の た め腐 食 速 度 が増 加 す るの で あ る(図4.10).こ
れ に は流 れ が 乱 流 に な らぬ よ う曲 率 半 径 を極 端 に小 さ
くし な い,浮 遊 す る粒 子 を トラ ップ す る な ど の対 策 を講 ず る.
4.2.6 接 触 腐 食(galvanic
corrosion)
異 な る金 属 を接 触 さ せ る とそ の標 準 電極 電 位 の相 違 か ら電 池 を形 成 し,ア ノ ー
図4.10 局 部腐 食 の 類 型
ド と な る金 属 が 溶 解 す る.こ の よ うな 系 をガ ル バ ニ電 池 とい う.こ の よ うな例 は 比 較 的 多 く,異 な る金 属 ど う しのパ イ プ の 接 続 や 異 な る材 質 の ボル トで 固 定 す る と き に現 れ,重
大 な事 故 に つ な が る こ とが あ る(図4
.10).こ れ を防 止 す る た め
に は 金 属 ど う しの 電 気 的接 続 を避 け る こ とが 必 要 で,絶 縁 体 を両 者 の 間 に入 れ る か,電 位 の あ ま り異 な らな い 金 属 ど う しを選 ぶ 必 要 が あ る.
4.2.7 選 択 腐 食(selective
corrosion)
卑 金 属 と貴 金 属 の よ うな イ オ ン化 傾 向 の著 し く違 う金 属 を合 金 化 す る と,卑 な 金 属 の み溶 解 して ス ポ ンジ状 の層 が 形 成 され,材
料 の 強 度 を失 っ て し ま う現 象 で
あ る.こ の 例 に真 鍮 が あ る.真 鍮 はZnとCuの
合 金 でZnが30∼40%含
まれ て
い る.加 工 性 が よ い の で 水 系 の管 や 蛇 口,弁 な どに 用 い られ て い る.塩 化 物 イ オ ン な どが 多 い,あ
るい は弱 酸 性 の 水 な どで は,時
とす る とZnが
て網 目状 の銅 が 表 面 に 残 留 す る現 象 が観 測 され る.ネ
選 択 的 に溶 解 し
ジ 山 が 崩 れ た り,弁 の 表 面
が 変 形 した りす る.
4.3 電 気 化 学 防 食 法
腐 食 は 自発 的 な 反 応 で あ り,金 属 は必 ず 腐 食 す る.腐 食 を人 為 的 に止 め た り, 速 度 を抑 制 す る こ とを 防食 とい う.腐 食 が 電 気 化 学 反 応 に基 づ い て起 こ る こ と を 述 べ て きた が,そ あ る.
れ な らば電 気 化 学 的 手 法 を 用 い て 防食 す る こ とが 可 能 な は ず で
4.3.1 腐 食 環 境 の 調 整 腐 食 は金 属 の溶 解 や 酸 化 の ア ノ ー ド反 応 と水 素 発 生 や 酸 素 還 元 な どの カ ソ ー ド 反 応 との ペ ア で起 こ る こ とが わ か った.す
な わ ち,も
とが で きれ ば腐 食 は起 こ ら な い こ と に な る.あ
しカ ソー ド反 応 を止 め る こ
るい は,起
こっ た と して も電 流 を
小 さ くす れ ば腐 食 は カ ソー ド支 配 とな る の で無 視 で き る.カ ソ ー ド反 応 が 水 素 発 生 反 応 で あ る よ うな卑 な 金 属 で は溶 液 のpHを の 方 向 に ず れ,ア
ノ ー ド反 応 がpHに
は低 下 す る.こ の 関係 は図4.4か 剤 はpH10程 るCuの
大 き くす る と水 素 の 平 衡 電 位 が 卑
よ り変 化 し な け れ ば,交 点 で あ る腐 食 電 流
ら類 推 で き る.自 動 車 の ラ ジエ ー タ ー 内 の 防 食
度 の ア ル カ リ性 を保 っ て い る.一 方,酸 素 消 費 型 の腐 食 の 例 で あ
腐 食 で は,溶 液 中 の溶 存 酸 素 を排 除 す る こ とに よ り停 止 で き る.
4.3.2 犠 牲 ア ノ ー ド 鉄 を防 食 す る方 法 と して 鉄 よ り卑 な 金 属,た
とえ ば 亜 鉛 をカ ッ プル す る と亜 鉛
が ア ノー ドとな っ て溶 解 し,鉄 は カ ソー ド とな っ て水 素 発 生 が 起 こ り,防 食 され る.い わ ゆ るイ オ ン化 傾 向 を利 用 した 防 食 法 で あ る.こ の 方 法 は古 くか ら活 用 さ れ て お り,鋼 板 の 上 に亜 鉛 をめ っ き した トタ ン板 と して 知 られ,屋 外 の耐 食 材 料
(b)カ ソー ド防 食
(a)犠 牲 ア ノ ー ド
(c)イ ン ヒ ビ ター
図4.11 電 気 化 学 的 な防 食 法
や 自動 車 等 の 塗 装 下 地 鋼 板 と し て多 量 に利 用 され て い る.ト
タ ン の利 点 は亜 鉛 が
表 面 を完 全 に覆 っ て い な くて も亜 鉛 が 残 っ て い る限 り防 食 効 果 を失 う こ と は な い とい う こ とで あ る(図4.11(a)).そ
の 他,黄 銅 製 の 船 の ス ク リュ ー の 防 食 の た
め,亜 鉛 な ど を近 くの 船 底 に貼 り防 食 して い る例 も あ る.
4.3.3 カ ソ ー ド 防 食 犠 牲 ア ノ ー ドが 卑 な 金 属 を わ ざ とカ ップル して腐 食 系 を形 成 し,目 的 の 金 属 を カ ソ ー ドに して 防 食 す る方 法 で あ るの に対 し,カ ソー ド防 食 は,目 的 の金 属 を直 接 電 気 化 学 的 に分 極 して カ ソ ー ドに して し ま う方 法 で あ る.そ の た め に は ア ノ ー ド とな る不 溶 性 の 補 助 電 極 との 間 に微 小 電 流 を流 し,目 的 金 属 か ら水 素 を 発生 さ せ る(図4.11(b)).長
時 間 海 水 に浸 され る港 湾 施 設 な ど は こ の 方 法 で 防 食 さ れ
て い る.
4.3.4 イ ン ヒ ビ タ ー 腐 食 反 応 速 度 を抑 制 す るた め に溶 液 中 に少 量 の 薬 剤 を添 加 す る 方 法 で あ る.こ の 薬 剤 を 防 食 剤 あ る い は イ ン ヒ ビ タ ー(inhibitor)と Cr2O72−,NO2−,SiO32−
な どが 金 属 溶 解 に抑 制 効 果 を も つ.こ
公 害 規 制 に よ り使 用 で き な い.図4.11(c)に 示 し て あ る.NやS,Oを
い う.無 機 塩 と し て は の う ちCr2O72-は
鉄 に 対 す る イ ン ヒ ビタ ー の効 果 を
もつ 有 機 物 も有 効 で あ り,チ ア ゾ ー ル 系 化 合 物 は 銅
の 防 食 に,安 息 香 酸 は鉄 の防 食 に効 果 が あ る とい わ れ る.
5 電気化学 を基礎 とす る表面処理
材 料 表 面 に 新 し い機 能 を付 与 す る表 面 処 理 技 術 が,種 用 さ れ て い る.わ 自動 車,建
々の産業分野 において利
れ わ れ が 日常 生 活 に お い て 使 用 して い る電 化 製 品,OA機
器,
築 材 料 な どの製 造 にお い て も,電 気 化 学 を基 礎 とす る種 々 の表 面 処 理
技 術 が使 用 さ れ て い る.た
と え ば,電 子 部 品 の 製 造 で は,電 気 化 学 的 な表 面処 理
技 術 で あ る湿 式 め っ き(電 気 め っ き,無 電 解 め っ き)法 が使 用 目的 お よ び 素材 に 応 じ て使 用 され て い る.ま た,自 動 車 や 冷 蔵 庫 ・洗 濯 機 な どの 家 電 製 品 の 塗 装 お よ び建 築 材 料 で あ る ア ル ミニ ウム サ ッシ の製 造 にお い て も,装 飾 ・防 食 を 目的 と した 電 着 塗 装 法 に よ る塗 膜 お よび ア ル ミニ ウ ム の ア ノ ー ド酸 化 法 に よ る酸 化 皮 膜 が 電 気 化 学 的 な 方 法 に よ り成 膜 され て い る.こ れ らの 材 料 表 面 に新 しい機 能 を 付 与 す る技 術 は,表 面 処 理(surface と呼 ば れ,材 料 の 高 機 能 化,長
treatment),表
面 技 術(surface
technology)
寿 命 化 な ど の特 性 改 善 の た め に種 々 の産 業 分 野 に
お い て幅 広 く適 用 され て い る.さ
ら に,こ れ らの 方 法 は低 コス トで 高 付 加 価 値 が
得 られ る こ とか ら,次 世 代 産 業 を支 え る基 盤 技 術 の1つ
と して 期 待 され て い る.
本 章 で は,代 表 的 な 電 気 化 学 を基 礎 とす る表 面 処 理 技 術 で あ る ① 材 料 表 面 に 他 の 物 質 の 薄 膜 を形 成 して,目 的 とす る表 面 特 性 を付 与 す る 湿 式 め っ き(電 気 め っ き,無 電 解 め っ き)法 お よび 電 着 塗 装 法 ② 材 料 の 表 面 を化 学 変 化 させ る こ とに よ り,目 的 とす る表 面 特 性 を付 与 す る ア ル ミニ ウム の ア ノー ド酸 化 法 に つ い て,必
要 とな る電 気 化 学 の基 礎 と応 用 を紹 介 す る.
5.1 湿 式 め っ き 法
日常 使 用 して い る装 飾 品 や 食 器 な どに,金 や 銀 が め っ き され て い る こ とは よ く
知 られ て い る.し か し,自 動 車,コ
ン ピ ュー タ,テ
レ ビ,携 帯 電 話 な ど に使 用 さ
れ て い る ほ とん どの 電 子 部 品 に,部 品 の 高 機 能 化 ・高 信 頼 性 な どの 要 求 に応 じて 種 々 の 湿 式 め っ き法 が 多 用 され て い る こ と は あ ま り知 られ て い な い.最 近 で は シ リコ ン半 導 体 デ バ イ ス の微 細 配 線 の形 成 に も湿 式 銅 め っ き法 が 適 用 され る よ うに な っ て きた.こ
の よ う に,急 速 に進 展 す る先 端 産 業 に お い て も,湿 式 め っ き法 は
重 要 な 要 素 技 術 とな っ て きて い る.
5.1.1 湿 式 め っ きの 目的 と金 属 の 特 性 湿 式 め っ き は,金 属 薄 膜 を対 象 物 の表 面 上 に形 成 す る技術 を い うが,通 常 は 電 気 化 学 反 応 に よ る機 能 性 金 属 薄 膜 の形 成 を さす 場 合 が 多 い.と
くに,水 溶 液 か ら
金 属 を析 出 さ せ る湿 式 め っ き法 で あ る電 気 め っ き と無 電 解 め っ きは,各 種 産 業 分 野 に お い て重 要 な 役 割 を 占 め る よ う に な って き た.こ
こで は,と
く に め っ き技 術
を要 素技 術 とす る電 子 部 品 を中 心 に,要 求 さ れ る め っ き皮 膜 の 特 性 を,表5.1に 示 す 関連 元 素 の周 期 表 お よ び物 性 か ら説 明 す る. a. 電 気 伝 導 性 電 気 伝 導 性 に つ い て は,周 期 表11族 ず れ も比 較 的 軟 らか い.銀
の銅,銀,金
が優 れ,こ
れ らの 金 属 は い
は比 抵 抗 が 金 属 の 中 で最 も小 さ く,次 い で 銅,金
であ
る.こ の よ うに,比 抵 抗 が 小 さい 性 質 は電 気 ・電 子 配 線 材 料 と して有 用 で あ り, 電 子 機 器 の 配 線 形 成 に は経 済 性 の 観 点 か ら主 に銅 め っ きが 採 用 さ れ て い る.半 導 体 リー ドフ レー ム で は一 部,銀
め っ きが 採 用 され て い る.
b. 電 気 接 点 特 性 電 子 機 器 の接 点 な どの 接 触 部 品 の め っ きで は,接 触 電 気 抵 抗 が 小 さ く,使 用 環 境 に お い て 表 面 に 酸 化 物 や 硫 化 物 な どを生 じ に くい材 料 が 必 要 に な る.現 在,工 業 的 に は主 に金 め っ きが 行 わ れ て い る.白 金 族 元 素 も金 と類 似 の特 性 が あ り,周 期 表9族
の ロ ジ ウ ム お よ び 周 期 表10族
の パ ラ ジ ウム は,銀
白色 で 融 点 が 高 く耐
食 性 に優 れ,硬 度 が 高 い こ とか ら耐 摩 耗 性 が 必 要 と され る高 負荷 接 点 に使 用 され て い る. c. ボ ン デ ィ ン グ性 半 導 体 素 子 の電 極 部 とパ ッケ ー ジ リー ドと を金 また は銀 の 極 細 線 で 熱 圧 着 また は超 音 波 圧 着 す る 方 法 が ワ イ ヤ ー ボ ン デ ィ ン グ で あ り,電 子 部 品 の 製 造 に お い て 不 可 欠 な技 術 で あ る.ボ ン デ ィ ン グ を行 う半 導 体 素 子 の 電 極 部 とパ ッ ケー ジ リー
表5.1
ド部 に は,通 常,電
め っ き に関連 す る元 素 の 周 期 表 お よび 物 性
気 め っ きや 無 電 解 め っ きが 行 わ れ,ボ
ン デ ィ ング 用 め っ き皮
膜 と して は軟 ら か く,表 面 に酸 化 物 皮 膜 な ど を形 成 しに く く,加 熱 接 合性 が あ る な ど の特 性 が 要 求 さ れ る.こ れ らの 要 求 を満 た す め っ き として,金
また は銀 め っ
きが 採 用 さ れ て い る. d. は ん だ 付 け 性 電 子 部 品 間 の 電 気 的 接 続 に は,ほ る.近 年,は
とん どの 場 合 に は ん だ 接 合 が 採 用 され て い
ん だ 接 合 は 電 子 部 品 の製 造 に お け る要 素 技 術 の1つ
で あ り,実 装 工
学 と し て の学 問 分 野 が形 成 され つ つ あ る.は ん だ 接 合 とは,接 合 し よ う とす る金 属 間 に低 融 点 の 金 属 お よび 合 金 を融 解 状 態 で 流 し,凝 固 と と も に接 合 を行 う こ と をい う.周 期 表14族
の ス ズ と鉛 は低 融 点 金 属 で あ り,ス ズ ‐鉛 合 金 は さ らに低 い
融 点 を示 し,電 子 部 品 間 の は ん だ 実 装 に不 可 欠 な材 料 で あ る.ス ズ ‐鉛 の 混 合 比 に よ り融 点 が 異 な り,共 晶 組 成 で あ る ス ズ61.9%‐
鉛38.1%の
合 金 の融 点 は
183℃ と低 い.し か し鉛 が 有 害 で あ る こ とか ら,最 近 で は環 境 保 全 の 観 点 か ら鉛 フ リー は ん だ(ス ズ ‐銀 ‐銅 合 金 系)の 開発 が 進 み,実 用 化 さ れ る よ うに な って きた. 通 常,は
ん だ接 合 をす る部 品 の表 面 は,は ん だ付 け を容 易 にす る た め,あ
らか
じめ は ん だ 付 け性 の 優 れ た め っ き を施 す 場 合 が 多 い.は
ん だ接 合 の機 構 か ら,め
っ き皮 膜 は,可 融 性 め っ き皮 膜,可 溶 性 め っ き皮膜,お
よび 非 融 性 非 溶 性 め っ き
皮 膜 の3種 類 に分 類 さ れ る.ス ズ お よ び ス ズ ‐鉛 合 金 め っ き皮 膜(現 ー は ん だ 接 合 に対 応 す る め っ き皮 膜 と して,ス ズ ‐銀,ス め っ きが 使 用 さ れ る よ うに な って きた)は,は
在,鉛
フリ
ズ‐ビ ス マ ス な どの 合 金
ん だ 接 合 温 度 で 融 解 状 態 と な り,
これ ら は可 融 性 め っ き皮 膜 に分 類 され る.金,銀,亜
鉛,銅
め っ き皮膜 は,は ん
だ 接 合 温 度 で は溶 融 しな い が,は ん だ 中 に速 や か に拡 散 溶 解 す る こ とか ら可 溶 性 め っ き皮 膜 に分 類 され る.可 融性 め っ き皮 膜 お よ び可 溶 性 め っ き皮 膜 で は,は ん だ 接 合 は め っ き皮 膜 の表 面 で は な く,素 地 金 属 表 面 また は め っ き皮 膜 内 部 で形 成 され る こ とに な る.す な わ ち,酸 化 物 や 表 面 汚 染 な どが 少 な い清 浄 な 部 分 で 接 合 され るの で,は
ん だ との接 合 が 完 全 に形 成 され る.こ れ に対 して,ニ
ッ ケ ルや 鉄
め っ き皮 膜 は 融 点 が 高 く,は んだ 中へ の拡 散 溶 解 が ほ と ん どな い こ とか ら非 融 性 非 溶 性 め っ き皮 膜 と呼 ば れ る.こ れ らの め っ き皮 膜 と は ん だ との 接 合 は,め っ き 皮 膜 表 面 で起 こ る の で,酸 化 物 皮 膜 が形 成 され る前,す
なわ ち,め
っ き直 後 か表
面 活 性 化 直 後 で な い と良 好 な は ん だ付 け性 が 得 られ な い.ま た,銅 や 銀 め っ き皮 膜 の 場 合 に も,こ れ らの 金 属 が 酸 化 物 を形 成 し や す い た め,は ん だ 接 合 が 困難 に な る.こ の た め,銅 お よ びニ ッケ ル め っ き後,連 続 し て薄 い 金 め っ き を施 す場 合 が 多 い.金 め っ き は酸 化 物 の形 成 が な く,下 地 め っ き金 属 を保 護 し,は ん だ 接 合 時 に速 や か に は ん だ に溶 解 す る性 質 が あ るの で,は
ん だ接 合 す る電 子 部 品 の ほ と
地球環 境保 護 とめっ き ス ズ ‐鉛 系 は ん だ 接 合 は,電
子 部 品 間 の 接 合 に お い て 重 要 な 技 術 で あ る.し
か し,
廃 棄 さ れ た 電 化 製 品 や 自動 車 な ど に使 用 さ れ て い る ス ズ ‐鉛 は ん だ か らの 鉛 の 溶 出 に よ る 地 下 水 ・河 川 水 の 汚 染,体 の 三 原 則 は,汚
染 者 負 担,未
内 摂 取 が 懸 念 さ れ る よ う に な っ て きた.環
然 防 止,生
境 政策
産 者 責 任 で あ り,地 球 環 境 保 護 に立 脚 した
問 題 解 決 が 必 要 に な る.現 在,ス
ズ ‐鉛 合 金 の 代 替 と し て,低 融 点 共 晶 合 金 で あ る
ス ズ ‐ビ ス マ ス 系,ス
ズ ‐亜 鉛 系 合 金 の 使 用 が 検 討 さ れ,こ
ズ‐銀 系,ス
れ らの鉛 フ
リー は ん だ 接 合 に 対 応 す る 鉛 フ リー は ん だ め っ き プ ロ セ ス が研 究 開 発 され て い る.
表5.2 標 準 電 極 電位E°(水
溶 液 系,25℃)
(a) 鉄 素材 よ り卑 な 亜 鉛 の め っ き(孔 が で き て も鉄 素 材 は腐 食 し ない)
(b) 鉄 素 材 よ り貴 な ス ズ の め っ き(孔 が で き る と鉄 素 材 が腐 食 す る) 図5.1 め っ き され た 鉄 素 材 の 腐 食 原 理 の模 式 図
ん どが,最 終 的 に金 め っ きが 適 用 され て い る.
5.1.2 め っ きの 目的 と標 準 電 極 電 位 との 関 係 め っ き皮 膜 の形 成 お よ び め っ き製 品 の性 質 に は,表5.1に 他 に,表5.2に
示 した 元 素 の 物 性 の
示 した標 準 電 極 電 位 が きわ め て 重 要 な 因 子 とな る.標 準 電 極 電 位
が 大 き な負 の値 を もつ 金 属 は,イ オ ン化 傾 向 が 大 き く,金 属 イ オ ン と して溶 液 に 溶 出 しや す い卑 な 金 属 で あ る.一 方,標
準 電 極 電 位 が 大 きな 正 の 値 を もつ 金 属
は,安 定 な 金 属 で あ り貴 な金 属 で あ る. 鉄 鋼(鉄
と炭 素 の 合 金)材 料 は安 価 で 優 れ た機 械 的 強 度 を もつ こ とか ら,構 造
材 料 として 使 用 され て い る が,鉄 の 標 準 電 極 電 位 は −0.440Vと 中 に放 置 した 場 合 に い わ ゆ る赤 〓(鉄
の酸 化 物Fe2O3)を
卑 で あ り,大 気
発 生 す る.こ れ を 防 ぐ
目的 で,亜 鉛 お よ び ス ズ をめ っ き した鋼 板 が,そ れ ぞ れ トタ ン板 お よび ブ リキ板 とし て使 用 され て い る.し か し,こ れ らの 防 食 作 用 は まっ た く異 な る.腐 食 の機 構 を 図5.1に 示 す.鋼 板 に 亜 鉛 め っ き した トタ ン板 で は,亜 鉛 の 標 準 電 極 電 位 が −0 .763Vで あ り,素 材 の 鉄 の標 準 電 極 電 位 が 亜 鉛 よ りも貴 な −0.440Vで ある た め,腐 食 環 境 下 に お い て亜 鉛 が優 先 的 に腐 食 す る こ とに よ り素材 の 鉄 の腐 食 を 防 ぐ.こ の よ うな 亜 鉛 の作 用 を犠 牲 防 食 作 用 とい い,自 動 車,船
舶,各 種機 械 構
造 物,建 築 材 料 な どの 鉄 鋼 素 材 の 防 食 に広 く用 い られ て い る.一 方,鋼 板 にス ズ め っ き した ブ リキ 板 で は,ス ズ の標 準 電 極 電 位 が −0.138Vで
あ り鉄 の 標 準 電 極
電 位 よ り も貴 な た め,鉄 素 材 が 空 気 中 の酸 素 や 水 と接 触 し腐 食 す る こ とを防 ぐバ リア と して 作 用 す る.し か し,ス ズ め っ き層 に素 材 に達 す る よ うな傷 が あ る場 合 に は,素 材 の 鉄 鋼 が優 先 的 に腐 食 し,外 観 お よ び機 械 的 強 度 が 急 速 に劣 化 す る こ とに な る. 以 上 の よ う に,湿 式 め っ きの 工 業 的 な応 用 に お い て は,使 用 目的 お よび使 用 環 境 を十 分 考 慮 し,め っ き金 属 を選 択 す る こ とが 重 要 で あ る.
5.1.3 電 気 め っ き と無 電 解 め っ きの原 理 湿 式 め っ き法 に は,①
外 部 直 流 電 源 を 用 い水 溶 液 中 の 金 属 イ オ ン の カ ソー ド
還 元 に よ り金 属 薄 膜 を形 成 す る電 気 め っ き(electrodeposition,electroplating)
図5.2 プ リン ト配 線 板
(a)電 気 銅 め っ き
(b)無 電 解 銅 め っ き(自 己 触 媒 型)
図5.3 電 気 銅 め っ き(a)と
と,②
無 電 解 銅 め っ き(b)の
原理図
外 部 直 流 電 源 を用 い ず に水 溶 液 中 に 添 加 した 還 元 剤 の ア ノ ー ド酸 化 反 応
を利 用 す る無 電 解 め っ き(chemical
deposition,electroless plating)が
あ る.電
子 機 器 に お い て 人 体 の 血 管 ・神 経 回路 に 相 当 す る プ リ ン ト配 線 板(図5.2)の
製
造 で は,比 抵 抗 の小 さ い銅 回路 の形 成 に,電 気 銅 め っ き と無 電 解 銅 め っ きが使 用 さ れ て い る.こ こで は 銅 め っ き を例 に,電 気 め っ き と無 電 解 め っ き の特 徴 を述 べ る. a. 電 気 め っ きの 原 理 電 気 銅 め っ きで は,図5.3(a)に
示 す よ う に,硫 酸 銅 と硫 酸 の 水 溶 液 中 に 銅
ア ノ ー ド と被 め っ き物 で あ る カ ソー ドを浸 し,外 部 直 流 電 源 か ら直 流 を 印 加 す る.溶 液 中 で硫 酸 銅 と硫 酸 は そ れ ぞ れ 解 離 し て,Cu2+,H+,HSO4-,SO42-イ オ ン と して 存 在 して い る.電 子 は 溶 液 中 に入 り込 め な い の で,溶 液 中 で は電 流 は これ らの イ オ ン の移 動 に よ り運 ば れ る.被 め っ き物 で あ るカ ソー ドに直 流 電 源 か ら電 子 が 運 ばれ て,溶 液 中 のCu2+イ
オ ン を 還 元 して 金 属 銅 が 析 出 し銅 皮 膜 が 形
成 され る.こ れ が カ ソー ド反 応(Cu2++2e−
→Cu)で
あ る.一 方,銅
ア ノ ー ドで
は逆 の 現 象 が 起 こ る.す な わ ち,銅 ア ノー ド と溶 液 の 界 面 で イ オ ン化 反 応 が 起 こ り,銅 は電 子 を放 出 してCu2+イ 反 応(Cu→Cu2++2e−)で
オ ン と して溶 液 中 に溶 け出 す.こ れ が ア ノ ー ド
あ り,放 出 され た電 子 はア ノ ー ドと導線 を経 て直 流 電
源 の端 子 に入 る.こ の よ う に電 気 め っ きで は,外 部 直 流 電 源 が 必 要 で あ り,被 め っ き物 は導 電 体 に限 定 され る.ま た,電 流 は等 電 位 面 に垂 直 に流 れ る こ とか ら, 限 られ た 場 合 を除 い て電 極 面 上 で の電 流 分 布 は不 均 一 で あ り,た とえ ば矩 形 の 平 板 に電 気 め っ きす る と角 や 辺 で は皮 膜 が厚 く な る.凹 凸 が あ る複 雑 な形 状 の 被 め
っ き物 で は,電 流 分 布 が さ ら に不 均 一 に な り,電 流 密 度 の高 い 凸 部 で は皮 膜 が 厚 くな り,電 流 密 度 の低 い 凹部 で は皮 膜 が 薄 くな る.電 気 め っ きに よ り均 一 な 厚 さ の皮 膜 を形 成 す る に は,特 別 の 工 夫 が必 要 で あ り,複 雑 な形 状 の 被 め っ き物 に均 一 な 皮 膜 を 形 成 す る こ と は難 し い.一 般 に電 気 め っ き浴 の構 成 は比 較 的 単 純 で あ り,カ
ソー ドで の銅 析 出 に よ り消 費 され るCu2+イ
オ ンは 銅 ア ノー ドの 溶 解 に よ
り供 給 さ れ るた め,長 時 間 の 電 解 を 行 った 場 合 に お い て も,浴 の 基 本 組 成 が ほ と ん ど変 化 す る こ とが な い の で 浴 管 理 が 容 易 で あ る. b. フ ァ ラ デ ー の法 則 とめ っ きの 電 流 効 率 電 気 め っ き反 応 で は,電 解 槽 を 流 れ る電 気 の 量 は,析 出 あ る い は溶 出 す る金 属 量 と密 接 な 関 係 が あ り,フ ァラ デ ー の法 則 が 重 要 とな る.す なわ ち,電 気 め っ き 反 応 に お い て は電 解 槽 に流 れ る 電 気 量 を測 定 す る こ と に よ り,目 的 の 金 属 の析 出 量 あ る い は溶 出 量 を 算 出 す る こ とが で き る.電 子1mol(6.022×1023)の 電 気 量 は1フ
ァ ラ デ ー と呼 ば れ,96485C(C=A・s)の
ラ デ ー 定 数(F)は96485C・mol−1と
もつ
電 気 量 に 相 当 し,フ
定 義 され る.フ
ァ
ァラ デ ー の 法 則 は 次 式 を 用
い て 表 す こ とが で き る. m={(It)/F}M/n=(Q/F)M/n こ こ で,mは
(5.1)
電 極 上 で 反 応 した 物 質 の 質 量[g],Iは
電 流 の 流 れ た 時 間[s],Qは
通 過 し た 電 流[A],tは
通 過 した 電 気 量[C],Mは
反 応 種 の 原 子 量,分
量 あ る い は 式 量 な どで あ り,nは
反 応 に 関 与 す る電 子 の 数 で あ る.な お,M/n
は 化 学 当量 と呼 ば れ,こ れ をFで
除 したM/nFは
子
電 気 化 学 当 量 と呼 ば れ る.
た と え ば,金 属 塩 の 水 溶 液 を 入 れ た 電 解 槽 を 直 列 に つ な ぎ,1Aの
電流 を
26.8時 間 通 じ る と,カ ソ ー ドで 析 出 す る金 属 量 は そ の金 属 の 原 子 量 を 反 応 に 関 与 す る電 子 の数 で 除 した 化 学 当量 に相 当 す る.電 解 槽 を 流 れ る電 気 量 は電 量 計 に よ り正 確 に測 定 す る こ とが で き る. 電 解 反 応 で は 電 極 上 で1種 類 の 反 応 だ けが 起 こ る こ と は一 般 に まれ で あ る.め っ き反 応 で は金 属 の 析 出 反 応 と水 素 発 生 反 応 あ るい は添 加 剤 な どの 有 機 物 の 還 元 反 応 が 同 時 に起 こ る場 合 が 多 い.こ
の よ う な場 合,目
的 の金 属 の析 出 反 応 に 用 い
られ た 電 気 量 の,全 電 気 量 に占 め る割 合 が 重 要 で あ り,そ の割 合 を電 流 効 率 と呼 ぶ.電
流 効 率 は,所 定 の め っ き厚 さ が 必 要 とな る場 合 に は と くに重 要 で あ る.一
定 電 流 で所 定 時 間 め っ き した 場 合,通
電 量 が わ か っ て い るの で フ ァラ デ ー の 法 則
よ りそ の理 論 析 出量 を知 る こ とが で き る.さ
ら に,そ の め っ き の電 流 効 率 が わ か
れ ば 実 際 の め っ き析 出 量 を 求 め る こ とが で き る.し か し,電 流 効 率(Eeff)[%] は,電 流 密 度(i),め
っ き時 間(t),浴
温,浴 組 成 な どの め っ き条 件 の 影 響 を 受
け て 変 動 す る た め,め
っ き条件 と電 流 効 率 との 関 係 を あ らか じ め求 め て お く必 要
が あ る.電 流 密 度 と電 流 効 率 を用 い て め っ きの 厚 さlを 表 す と (5.2) と な る.kfは
金 属 の 原 子量,密
度,イ
オ ンの荷 数 に よ っ て決 ま る定 数 で あ る.
c. 無 電 解 め っ きの 原 理 電 気 め っ きで は,外 部 直 流 電 源 か ら供 給 され た 電 子 に よ っ て電 極 界 面 の 金 属 イ オ ンが 還 元 さ れ て 析 出 す る.こ れ に対 して,無 電 解 銅 め っ きで は図5.3(b)に
示
す よ う に,ホ ル ム ア ル デ ヒ ドな ど の還 元 剤 が触 媒 表 面 で酸 化 す る と き に放 出 され る電 子 に よ っ てCu2+イ
オ ン が還 元 析 出 され,銅 皮 膜 が 形 成 され る.た とえ ば,プ
リン ト配 線 板 の 製 造 に お い て 使 用 され る無 電 解 銅 め っ き で は,パ
ラ ジ ウム や銅 な
ど の触 媒 活 性 を有 す る金 属 上 で ホ ル ム アル デ ヒ ドが 酸 化 さ れ て ギ 酸 に な り,こ の と き に放 出 され る電 子 に よ りCu2+イ
オ ンが 還 元 さ れ,銅 皮 膜 が 形 成 され る.
局 部 ア ノ ー ド反 応:2HCHO+4OH-→2HCOO-+H2+2H2O+2e (5.3) 局 部 カ ソ ー ド反 応:Cu2++2e-→Cu (5.4) 無 電 解 め っ きで は,同
じ電 極 表 面 上 で上 記 の2
つ の局 部 反 応 が 起 こ る.こ の様 子 を 図5 .4に 電 流 ‐ 電 位 曲線 を用 い て示 す.無 電 解 め っ きが 進 行 して い る電 極 上 で は,カ
ソー ド電 流 と ア ノ ー ド電 流 の
大 き さ が相 等 し く,こ の 条 件 に適 合 す る電 極 電 位 を示 す.こ
れ を混 成 電 位 と呼 ん で い る.め っ き速
度 は,混 成 電 位 に お け る カ ソー ド電 流 密 度(=ア ノ ー ド電 流 密 度)に き浴 組 成,浴
依 存 し,こ れ らの反 応 が め っ
条 件 に よ っ て どの よ うに変 化 す るか
を あ らか じめ 知 っ て お く こ とが,め
っ き速 度 の管
理 に お い て 重 要 で あ る.無 電 解 め っ きで は,電 気 め っ き と違 っ て 浴 中 を 電 流 が 流 れ な い.そ の た
図5.4 無 電 解 銅 め っ きの 局部 反 応 と混 成 電 位(Emp)
表5.3 還 元 剤 の標 準 電極 電 位E°(25℃)
め,導 電 体 の み な らず プ ラス チ ッ ク や セ ラ ミ ック の よ う な非 導電 体 に も成 膜 す る こ とが で き る.ま た,め
っ き厚 さ の分 布 が 品 物 の 形 状 に よ っ て 影 響 を受 けず,均
一 な 厚 さ の皮 膜 を形 成 す る こ とが で き る
.た だ し,め っ き反 応 の 進 行 に伴 い,金
属 イ オ ンや 還 元 剤 が 消耗 す るた め,逐 次 補給 す る必 要 が あ り浴 管 理 が 難 しい. 無 電 解 め っ き に お い て も,標 準 電 極 電 位 は重 要 で あ る.標 準 電 極 電 位 の貴 な 金 属 イ オ ン ほ ど還 元 は容 易 で あ り,た と え ば,金,白
金,銅
な どの イ オ ンは比 較 的
還 元 力 の弱 い 還 元 剤 に よ って 金 属 に まで 還 元 さ れ る.一 方,ニ
ッケル や コバ ル ト
な どの 無 電 解 め っ きで は,標 準 電 極 電 位 が 卑 で あ るた め,還 元 力 の強 い還 元 剤 を 必 要 とす る.一 般 的 に,金 属 イ オ ン と還 元 剤 の標 準 電 極 電 位(表5.3)の きい ほ ど反 応 は起 こ りや す く,反 応 速 度 も速 い.ま た,還
差 が大
元 剤 が 析 出 した 金 属 上
で 酸 化 反 応 を起 こす 自己 触 媒 性 が 重 要 で あ る. こ こに述 べ た 無 電 解 め っ きは,自 己 触 媒 め っ き(化 学 め っ き)と
も呼 ばれ る.
この 他 に 置 換 反 応 や 不 均 化 反 応 を利 用 した 無 電 解 め っ き も あ る.た
と え ば,金 イ
オ ン を含 む 溶 液 に ニ ッ ケ ル め っ き した 部 品 を浸 す と,標 準 電 極 電 位 の 卑 なニ ッケ ル が 溶 出 し,金 の 薄 膜 が 置 換 析 出 す る.
5.1.4 湿 式 銅 め っ きの 先 端 分 野 に お け る応 用 例 シ リ コ ン半 導 体 デバ イ ス の 多 層 配 線 に は,従 来 よ りRIE(reactive ing)に
よ る ア ル ミニ ウ ム 系 合 金 配 線 が 用 い られ て きた.し
etch
か し,マ イ ク ロ プ ロ
セ ッサ機 能 の 高 度 化 ・高 速度 化 が 要 求 さ れ る よ う に な り,LSIの 能 化 に 伴 い配 線 は微 細 化 ・多 層 化 して きた.こ
ion
高 集積 化,高 性
の よ う な配 線 の微 細 化 に よ る配 線
断 面 積 の 減 少 に伴 い配 線 抵 抗 が 増 大 す る.配 線 抵 抗 と配 線 容 量 の 積 で表 され る配
線 遅 延 は,LSIの
性 能 を決 定 す る要 因 とな る.ま た,配 線 断 面 積 の 減 少 は電 流 密
度 の 増 大 に つ な が り,発 熱 量 の 増 大 に 伴 い 配 線 金 属 が シ リ コ ンお よ びSiO2中 拡 散 移 動 す るエ レ ク トロマ イ グ レ ー シ ョ ン(EM)を 銅 の 比 抵 抗 は1.67μ Ω・cm(20℃)で (20℃)に
比 較 して 小 さ く,約1桁
生 じや す くな る.
あ り,ア ル ミ ニ ウ ム の2.69μ Ω・cm
高 いEM耐
性 を有 す る こ とか ら,LSI配
料 と して の 適 用 が 検 討 さ れ て き た.1997年,IBMは
生 産 を開 始 した(図5.5).銅
metal
oxide
に よ る タ ン タ ル また は チ タ ン の 窒 化 物)の
ド層 の 形 成,電
semi
デ ュ アル ダ マ シ ン は,下 層 配 線 との
コ ン タ ク トホ ー ル と上 層 配 線 用 トレ ン チ(配 線 溝)を 同 時 に 形 成 し,バ (PVD法
線材
銅 デ ュ ア ル ダ マ シ ン6層 配
線 技 術 を発 表 し,翌 年 に銅 配 線 を使 用 したCMOS(copper conductor)の
に
気 銅 め っ き に よ る銅 の 埋 め込 み後,ト
形 成,PVD法
リア 層
に よ る銅 シ ー
レ ンチ か ら突 出 した 銅 と表
面 バ リア層 をCMP(chemical
mechanical
セ ス で あ る(図5.6).現
微 細 配 線 の 形 成 に は電 気 め っ き法 の適 用 が 主 に検
在,銅
polishing)に
よ り研 磨 除 去 す る プ ロ
討 され て い る が,無 電 解 め っ き法 の 適 用 の 可 能 性 が あ る.た
とえ ば,次 世 代 の 三
次 元 配 線 へ の適 用 に関 し て は,無 電 解 め っ き法 の 適 用 が有 利 で あ る.電 気 め っ き 法 ま た は無 電 解 め っ き法 に よ る銅 微 細 配 線 の 形 成 は,高 価 な装 置 を必 要 とせ ず 生 産 性 も優 れ て い る. a. 電 気 銅 め っ きプ ロセ ス に よ るLSI微
細 配 線 の 形成
電 気 め っ き法 は生 産 性 に 優 れ,電 析 銅 膜 が スパ ッ タ膜 に比 べ て結 晶 子 の 大 き さ が大 き くジ ャ イ ア ン トグ レ イ ンが 形 成 され る こ とか ら,EM耐 に有 利 で あ る.現 在,プ
性 にお い て も非 常
リ ン ト配 線 板 の スル ー ホ ー ル め っ き に使 用 さ れ て い る酸
電気 分解/電 池 と電気 め っ き/無 電 解め っ き 電 気 エ ネ ル ギ ー を与 え 付 加 価 値 の 高 い 生 成 物 を得 る こ と を 目 的 と す る の が 電 気 分 解 で あ る.一
方,化
学(反
応)物
質Aが
反 応 し て生 成 物 質Bが
得 られ る と き に 発
生 す る電 気 エ ネ ル ギ ー を 得 る こ と を 目 的 とす る の が 電 池 で あ る.電 気 め っ き は,外 部 直 流 電 源 か ら電 気 エ ネ ル ギ ー を与 え る こ と に よ り得 られ た 電 子 に よ り電 極 界 面 の 金 属 イ オ ン が 還 元 析 出 す る こ とか ら電 気 分 解 で あ る.一 方,無 ム ア ル デ ヒ ド,ホ ス フ ィ ン 酸 塩 な ど の 還 元 剤(反 酸 化 生 成 物(生
成 物 質B)に
応 物 質A)が
電 解 め っ き は,ホ
ル
触媒 表 面 で 酸 化 し
変 化 す る と き に放 出 され る 電 子 に よ り金 属 イ オ ン を還
元 析 出 す る こ とか ら,電 池 反 応 や 腐 食 反 応 に よ く似 て い る.
図5.6 銅 デ ュア ル ダ マ シ ン プ ロ セ ス
図5.5 IBM社CMOS
表5.4 代 表 的 な 電 気 銅 め っ き(酸 性 硫 酸 銅 め っ き)浴
の 組成
性 硫 酸 銅 浴 の 一 例 を表5.4に 示 す.こ
の 浴 は 従 来 の 浴 に比 べ て 硫 酸 銅濃 度 が 低
く,硫 酸 濃 度 が 高 い.こ れ に伴 い,浴
の導 電性 が改 善 され均 一電 着性 が 向上 す
る.し か し,LSI銅
配 線 の形 成 に お い て は,銅
シー ドの溶 解 の 抑 制 お よ び ビア フ
ィ リン グ(コ
ン タ ク トホ ー ル や トレ ンチ へ の 銅 の充 填)を
目 的 と した,硫
高 濃 度 化,硫
酸 の 低 濃 度 化 が 検 討 され て い る.添 加 剤 は表5.4に 示 した 組 み合 わ
せ で あ り,微 量 の 塩 化 物 イオ ン を併 用 す る こ とに よ り,外 観,機 レベ リ ング(微 小 な凹 部 を埋 め る作 用)な
酸銅 の
械的性 質お よび
どの優 れ た 銅 皮 膜 が 得 ら れ る.酸 性硫
酸 銅 浴 に お け る銅 電 極 の カ ソー ド分 極 曲 線 に 及 ぼ す 添 加 剤 の 影 響 を 図5.7に 示 す.ポ
リエ チ レ ン グ リコ ー ル(PEG)は
銅 電 析 反 応 の 反 応 中 間 体 で あ るCu+を
捕 捉 しポ リカ チ オ ン を形 成 す る.こ れ が 銅 電 極 表 面 に特 異 吸 着 した塩 化 物 イ オ ン (Cl−)と の静 電 的 相 互 作 用 に よ り,と
くに銅 電 極 表 面 に単 分 子 層 程 度 に 吸 着 し,
図5.7 酸性 硫 酸 銅 浴 に お け る銅 電 極 の カ ソ ー ド分 極 に及 ぼ す 添 加 剤 の 影 響 (a)添
加 剤 無 添 加(基
+PEG+Cl−,(c)基
本 浴),(b)基
図5.8 電 気 銅 め っ き後 の コ ンタ ク トホ ー ル 断面
本浴
本 浴+SPS+JGB.
この 部 位 の 銅 析 出 を 抑 制 す る.一 方,ビ (SPS)に
ス(3‐ ス ル ホ プ ロ ピ ル)ジ
代 表 され る有 機 硫 黄 化 合 物 は,貴 な 電 位 領 域(凹 部)に
スル フ ィ ド
お いて銅電極
表 面 に 吸 着 し水 素 吸 着 を疎 外 す る こ とに よ り,こ の部 位 にお け る銅 析 出 を促 進 す る.こ れ らの 添加 剤 を併 用 す る こ とに よ り,ボ イ ド(ウ エ ハ 表 面 に お け る銅 析 出 が 優 先 す る ア ンチ コ ン フ ォー マ ル な析 出 に よ り生 じ る コ ンタ ク トホ ー ル や トレ ン チ 底 部 の 空 隙),お
よ び シー ム(ウ エ ハ 表 面 と コ ン タ ク トホ ー ル お よ び トレ ン チ
内 の銅 の 析 出速 度 が 等 しい コ ン フ ォー マ ル な析 出 に よ り生 じ る間 隙)を 生 じる こ と な く微 細 な コ ン タ ク トホ ー ル や トレ ンチ 内 に銅 の 充 填 が 可 能 に な る. ウ エ ハ 表 面 のSiO2絶 を図5.8に 示 す.こ
縁 層 に 形 成 さ れ た コ ン タ ク トホ ー ル に銅 を充 填 した 結 果
の 図 か ら も明 らか な よ う に,ボ イ ドや シー ム を 生 じる こ と な
く,微 細 な コ ン タ ク トホ ー ル 内 に銅 が完 全 に充 填 さ れ る.析 出 した銅 皮 膜 は面 心 立 方 構 造(fcc)の nm程
最 密 充 填 面 で あ る(111)面
度 と大 き い こ とか ら,優 れ たEM耐
も1.8μ Ω・cm(20℃)と
の優 先 配 向 を示 し,結 晶 子 が30
性 が 期 待 さ れ る.ま た,皮 膜 の 比 抵 抗
小 さ い値 を示 す.
b. 無 電 解 銅 め っ きプ ロセ ス に よ るLSI微
細配線 の形成
無 電 解 め っ き は,析 出速 度 は遅 い が 複 雑 な表 面 形 状 を有 す る材 料 に均 一 な厚 さ の 皮 膜 を得 る に は 有 利 な 方 法 で あ る.し か し,銅 微 細 配 線 形成 へ の 現 行 の無 電 解 銅 め っ きの 適 応 に は 多 くの 問題 が あ る.
プ リ ン ト配 線 板 の 製 造 に使 用 さ れ て い る ホ ル ム ア ル デ ヒ ド を 還 元 剤 とす る EDTA錯
体 浴 か らの無 電 解 銅 め っ き を用 い た,LSI銅
微細 配線 の形 成方 法 が報
告 さ れ て い る.し か し,発 癌 性 の あ る ホ ル ム ア ル デ ヒ ド,お よび わ が 国 に お い て も使 用 規 制 が 懸 念 さ れ るEDTAを
主成 分 とす る現行 の無電 解 銅 め っ きの使 用
は,環 境 対 応 上 の 問 題 が あ る.ま た,浴
のpHが
カ リ金 属 イ オ ン を含 有 す る こ と もLSI製
造 で は 問 題 とな る.さ
電 解 銅 め っ きで は,次 式 に した が っ て1molの
高 く,多 星 のNa+な
どの ア ル
ら に,現 行 の 無
銅 の 析 出 に伴 い,1molの
水素 ガ
ス が 発 生 す る. Cu2++2HCHO+4OH−
→Cu+2HCOO−+H2+2H2O
微 細 な コ ン タ ク トホ ー ル や トレ ンチ 内 に銅 を埋 め 込 むLSI銅
(5.5) 微 細 配 線 で は,コ ン
タ ク トホー ル 内 へ の 水 素 ガ ス の付 着 に よ る配 線 中 へ の ボ イ ド形 成 が 懸 念 さ れ る. 上 述 の 問題 を解 決 す るた め に は,現 行 の無 電 解 銅 め っ き とは 異 な る構 成 成 分 お よ び析 出機 構 に基 づ く新 規 な無 電 解 銅 め っ き浴 の 開 発 が 必 要 とな る.す なわ ち, LSI銅 微 細 配 線 の 形 成 に対 応 す る無 電 解 銅 め っ き浴 と して は,環 境 対 応 上 問 題 の あ る ホ ル ム アル デ ヒ ドを含 め て,無 電 解 め っ きに お い て使 用 さ れ て い る代 表 的 な 還 元 剤 で あ る,水 素 化 ホ ウ素 化 合 物,ホ
ス フ ィ ン酸 塩 お よ び ヒ ドラ ジ ン な どの水
素 原 子 の 引 き抜 きを 伴 う酸 化 反 応 が生 じ る還 元 剤 の 使 用 は,金 属 の 析 出 に伴 い水 素 ガ ス を 発 生 す る可 能 性 が あ る こ とか ら,そ の使 用 を避 け る必 要 が あ る.Vas− kelisら は,Co(Ⅱ)化
合 物 を還 元 剤 と す る エ チ レ ン ジ ア ミ ン錯 体 浴 か らの 無 電
解 銅 め っ き を提 唱 して い る.こ の 浴 で は,次 式 の 反 応 に よ りCo2+の pH6∼7付
酸 化 に伴 い
近 で 銅 が 析 出 す る. Cuen22++2Coen22+→Cu+2Coen33++en
筆 者 ら はVaskelisら
(5.6)
の 基 本 概 念 を 参 考 に,銅 の析 出速 度 に及 ぼ す 浴 組 成 因 子
の 影 響 を検 討 し,表5.5に
示 した 浴 組 成 お よ び め っ き条 件 を 見 出 した.本 浴 か ら
は,ア ス コ ル ビ ン酸 の 添 加 に よ り析 出 銅 皮 膜 の 溶 解 反 応 が 抑 制 され,2μm・h−1 程 度 の析 出速 度 で 銅 皮膜 が析 出す る.ま た,2,2′‐ビ ピ リジ ル の添 加 は銅 の異 常 析 出 を 抑 制 す る.基 本 浴 の 電 位−pH図
を概 算 した 結 果,pH7付
の 酸 化 反 応 に伴 い供 出 さ れ る電 子 に よ り,Cu+か され る(図5.9).本
近 に お い てCo2+
ら銅 が 析 出 す る可 能 性 が 示 唆
浴 で は銅 の析 出 に 伴 う水 素 ガ ス の発 生 は皆 無 で あ り,水 素 ガ
ス 泡 の付 着 に伴 う配 線 中 へ の ボ イ ド形 成 を懸 念 す る必 要 が な い.ま た,浴 組 成 か ら も明 らか な よ うに,有 害 物 質 の揮 散 も な い こ とか ら作 業 環 境 上 の 問 題 もな く,
表5.5 Co2+化 合 物 を還 元 剤 とす る中 性 無 電 解 め っ き 浴 の組 成
図5.9 Co2+化
合 物 を還 元 剤 とす る 中 性 無 電 解 銅
め っ き浴 系 の電 位−pH図
図5.10 Co2+化 合 物 を還 元 剤 とす る 中性 無 電 解 銅 め っ き浴 か ら 析 出 した 銅 の コ ン タ ク トホ ー ル断 面
中性 付 近 で 銅 が 析 出 す る こ とか ら,浴 構 成 上NaOHやKOHな
ど の ア ル カ リの
添 加 を必 要 と し な い. ウ エ ハ 表 面 のSiO2絶
縁 層 に 形 成 され た コ ン タ ク トホ ー ル に,本 浴 か ら銅 を充
填 した 試 料 の 断 面 写 真(図5.10)か
ら も明 らか な よ う に,10分
間 の処 理 に よ り
銅 が 完 全 に充 填 さ れ る こ とが わ か る.析 出 した 銅 皮 膜 はfcc構 造 の 最 密 充 填 面 で あ る(111)面
の 優 先 配 向 を示 し,40nm程
ら,優 れ たEM耐
度 の 結 晶 子 の 大 き さ を有 す る こ とか
性 が 期 待 さ れ る.ま た,皮 膜 の比 抵 抗 も1.8μ Ω・cm(20℃)
と小 さ い値 を示 す.
5.2 電
着
塗
装
自動 車 ボ デ ィ の塗 装 で は,ド ア ー 内面 や 下 回 りな どの 複 雑 に 入 り組 んだ 部 位 に は通 常 の 塗 装 方 法 が 適 用 で き な い.こ の よ う な部 位 は と くに発 〓 しや す く,細 部 に まで 均 一 な厚 さ の塗 装 が 必 要 に な る.電 着 塗 装(electrocoating)は,1950年 代 に ア メ リカ の フ ォー ド社 にお い て実 用 化 され た方 法 で あ り,今 日,生 産 さ れ る 自動 車 に この 方 法 が 採 用 され て い る.こ の 方 法 は,水 溶 性 の塗 料 あ る い は エ マ ル ジ ョ ン塗 料 に 金 属 電 極 と被 塗 装 材 料 を浸 し,金 属 電 極 と被 塗 装 材 料 の 間 に電 圧 を 印加 し,塗 料 を 被 塗 装 材 料 表 面 に析 出 さ せ た の ち焼 き付 け る.概 略 を 図5.11に
図5.11 電 着 塗 装 の概 略
示 す.被
塗 装 材 料 を カ ソー ド と し正 に帯 電 した 塗 料 を電 着 す る カチ オ ン電 着 塗 装
と,被 塗 装 材 料 を ア ノー ド と し負 に帯 電 した 塗 料 を電 着 す るア ニ オ ン電 着 塗装 が あ る.現 在,カ
チ オ ン電 着 塗 装 が 主 流 で あ り,代 表 的 な エ ポキ シ樹 脂 系 塗 料 を用
い る カ チ オ ン電 着 塗 装 の 特 徴 お よび 原 理 を以 下 に 示 す.
5.2.1 電 着 塗 装 の特 徴 電 着 塗 装 の 用途 は,主 に 自動 車 の ボ デ ィ で あ るが,建 材 お よ び冷 蔵 庫 や 洗 濯 機 等 の 家 電 製 品 の外 装 に も使 用 さ れ る よ う に な っ て きた.通 常 の 塗 料 の塗 装 に比 較 して,電 着 塗 装 に は下 記 の 特 徴 が あ る. ① 塗 料 溶 液 の 粘 度 が 低 く,塗 料 分 子 が 複 雑 な形 状 の 部 品 内 部 に も泳 動 す る た め,複 雑 な形 状 の 部 品 に も均 一 な 塗 膜 が 形 成 で き る. ② 析 出 した 樹 脂 層 は導電 性 が 小 さ い た め,析 出 層 が 薄 く塗 膜 の 形 成 が 未 完 成 な部 分 に電 流 が 集 中 す る こ と に よ り,析 出 層 の 厚 さが 均 一 に な る. ③ 塗 料 が 水 に溶 解 あ るい は分 散 す るた め,有 機 溶 媒 を使 用 しな い こ とか ら, 作 業 環 境 上 有 利 で あ る. ④ 大 量 生 産 が 可 能 で あ り,生 産 性 に優 れ て い る.
5.2.2 カ チ オ ン電 着 塗 装 の原 理 エ ポ キ シ樹 脂 系 塗 料 に よ る カ チ オ ン電 着 塗 装 プ ロセ ス で は,エ ポ キ シ樹 脂 とア ミ ンの 反 応 に よ りポ リア ミノ樹 脂 を合 成 す る.エ ポ キ シ樹 脂 は耐食 性の 観 点 か ら ビス フ ェ ノ ー ル 系 が 主 に使 用 さ れ,ア
ミ ン は 第 二 級 ア ミン が 一 般 的 に 用 い られ
る.
(5.7)
ポ リア ミ ノ樹 脂 は酢 酸 な どの カル ボ ン酸 と反 応 し,正 に帯 電 した 水 溶 性 塗 料 分 子 と カ ル ボ ン酸 ア ニ オ ンに な る.
(5.8) 被 塗 装 材 料 を カ ソー ド,対 極 を ア ノ ー ドと し電 圧 を 印加 す る と,塗 料 分 子 はカ ソー ドで あ る被 塗 装 材 料 へ,カ
ル ボ ン酸 ア ニ オ ン は ア ノー ドで あ る対 極 に 向 か っ
て泳 動 す る.被 塗 装 材 料 表 面 で は,水 の 電 気 分 解 に よ りOH-が
生 成 す る.
4H2O+4e− 生 成 したOH−
→2H2O+4OH−
(5.9)
は,泳 動 して きた 正 に帯 電 した 塗 料 分 子 と反 応 し て樹 脂 層 を 形
成 す る.
(5.10)
こ の よ う に 析 出 し た 樹 脂 層 を 十 分 に洗 浄 ・脱 水 後,160∼190℃ 橋 反 応 が 起 こ り,硬
い 塗 膜 が 形 成 す る.
5.3
ア
ノ ー
ア ル ミ ニ ウ ム は 密 度2.70g・cm−3の し か し,標
で 加 熱 す る と架
準 電 極 電 位(Al3++3e−
ド酸 化
軽 金 属 で あ る(鉄
の 密 度7.87g・cm−3).
→Al,E°=−1.662V)が
腐 食 反 応 の 標 準 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化 量ΔG°
卑 な 金 属 で あ り,
が
(5.11) 負 の 大 きな値 で あ る こ とか ら,非 常 に腐 食 しや す い.ク れ る純 度 の高 い アル ミニ ウム は,軟
ッ キ ン グ ホ イ ル に代 表 さ
らか く展 延 性 に優 れ て い る.一 方,ア
ル ミサ
ッ シや 飛 行 機 の ボ デ ィ に使 用 さ れ て い る アル ミニ ウ ム は機 械 的 強 度 が あ り,耐 食 性 も優 れ て い る.こ れ は,ア ル ミニ ウム に微 量 の マ ンガ ン,シ
リコ ン,銅,マ
グ
ネ シ ウ ム な どの 金 属 を合 金 化 す る こ とに よ り,機 械 的 強 度 を高 め て い る た めで あ る.こ れ らの アル ミニ ウム お よび ア ル ミニ ウ ム 合 金 は,硫 酸 や シ ュ ウ酸 水 溶 液 中 で ア ノー ド酸 化 す る こ とに よ り,表 面 に酸 化 ア ル ミニ ウ ム の緻 密 な耐 食 性 お よ び 耐 摩 耗 性 に優 れ た皮 膜 が 形 成 す る. ア ノー ド酸 化 は,ア ル ミニ ウム,タ
ン タ ル,チ
タ ン,タ
ング ス テ ンな ど の ア ノ
ー ド電 解 に よ り素 材 表 面 に緻 密 な酸 化 皮 膜 が 成 長 す る,い わ ゆ るバ ル ブ 金 属 に対 して行 わ れ る.ア ル ミニ ウ ム を,硫 酸 や シ ュ ウ酸 な どの水 溶 液 中 で ア ノ ー ド と し て電 解 す る こ とに よ り,ア ル ミニ ウ ム 表 面 に酸 化 アル ミニ ウム 層 を形 成 す る ア ル マ イ ト法 は,1920年 発 され た.こ
代 に わ が 国 の 理 化 学 研 究 所 とイ ギ リス に お い て 同 時 期 に 開
の 方 法 に よ り形 成 さ れ た 皮膜 は,緻 密 で素 地 との密 着 性 に優 れ,優
れ た 耐 食 性 と装 飾 性 を有 す る こ とか ら,ア ル ミニ ウ ム製 の 食 器 類,サ
ッシ や建 材
な ど の処 理 法 と して 広 く普 及 した.一
方,周 期 表 の5族,6族
お よ び13族
に属
す る金 属 に お い て,こ れ らの 金 属 表 面 に形 成 され た 酸 化 物 層 が 一 方 向 に の み電 流 を通 す 特 性 が知 られ て い る.こ の よ うな誘 電 特 性 を利 用 した 電 解 コ ン デ ン サ の誘 電 体 の 製 造 法 と して もア ノー ド酸 化 が 用 い られ て い る.
5.3.1 バ リア 型 ア ノー ド酸 化 皮 膜 ア ル ミニ ウ ム は酸 素 との結 合 力 が 強 く,空 気 中 に お い て 表 面 は10nm程
度の
薄 い 非 晶 質 の 自然 酸 化 膜 で覆 わ れ て い る.ア ル ミニ ウ ム を ア ノー ド とし て ホ ウ酸 ア ン モ ニ ウム や 酒 石 酸 ア ンモ ニ ウ ム な どの 中性 塩 の 水 溶 液 中 に お い て 電 解 す る と,次 式 の 反 応 に よ りア ル ミニ ウム 表 面 にバ リア 型 と呼 ば れ る無 孔性 の 非 晶 質 酸 化 ア ル ミニ ウ ム薄 膜 が 形 成 す る. 2Al+3H2O→Al2O3+6H++6e−
(5.12)
こ の 薄 膜 は,電 解 液/酸 化 物 界 面 お よ び 酸 化 物/金 属 素 地 界 面 に お い て 成 長 す る.こ
の と きの 電 場 強 度(電
圧/膜 厚)は109V・m−1程
度 で あ り,定 電 流 密 度 下
で の 電 解 で は電 圧 が 直 線 的 に増 大 す る.膜 厚 は電 圧 に ほ ぼ 比 例 し1.5nm・V−1の 割 合 で 成 長 す る が,電 圧 が 数 百Vに 通 常,形 で,大
成 され る膜 厚 は100nm以
な る と膜 は絶 縁 破 壊 し膜 成 長 は 停 止 す る. 下 で あ る.Al2O3の
容 量 の コ ン デ ン サ(condenser,capacitor)と
こ との で き る電 気 最(静
電 容 量:C(μF))は,次
誘 電 率 が 約10と
大 き いの
な る.コ ン デ ンサ に貯 め る 式 で 与 え られ る. (5.13)
こ こで,ε は酸 化 膜 の誘 電 率,Sは lは 酸 化 膜 の 厚 さ(cm)で
表 面 積(cm2),
あ る.表 面 積 が 大 き
く,酸 化 膜 の 厚 さが 薄 い ほ ど,コ ンデ ンサ の静 電 容 量 は大 き くな る.図5.12に
ア ル ミニ ウ ム 電 解
コ ン デ ンサ の 概 略 を示 す.ア ル ミニ ウム と同 様 に タ ン タ ル もア ノ ー ド酸 化 に お い て 表 面 に緻 密 な酸 化 膜Ta2O5が
形 成 す る.Ta2O5は
誘 電 率 が23程
度 と き わ め て 大 きい こ とか ら,ア ル ミニ ウム 電 解 コ ンデ ン サ よ り も静 電 容 量 の大 きい コ ンデ ンサ を 作 製 す る こ とが で き る.
図5.12 ア ル ミニ ウム 電解 コ ンデ ンサ の 概 略
5.3.2 ポ ー ラ ス型 ア ノー ド酸 化 皮膜 ア ル ミニ ウム を硫 酸 や シ ュ ウ酸 な ど の 酸 性 の電 解 液 中 に お い て ア ノ ー ド酸 化 し た場 合,生
成 した酸 化 皮膜 の一 部
が 次 式 の 反 応 に よ り 溶 解 し,Keller モ デ ル(図5.13)と
して 知 られ る,酸
化 物 セ ル の 中 央 に微 細 な孔 を有 す る規 則 的 な 六 角 柱 状 の ハ ニ カム 構 造 の 多 孔
図5.13 ア ル ミニ ウム の ポ ー ラ ス型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜(Kellerモ
デ ル)
質 膜 が 成 長 す る. Al2O3+6H+→2Al3++3H2O
(5.14)
多 孔 質 皮 膜 の成 長 は,ま ず生 成 した バ リア 層 が 局 部 的 に溶 解 し,微 小 孔 とセ ル が 形 成 す る.電 解 時,微 小 孔 の 底 部 で の溶 解 が 常 に 進行 す る こ とに よ り,バ リア 層 か ら多 孔 層 へ の 変 化 が起 こ り,連 続 的 に 厚 い多 孔 層 が 成 長 す る.多 孔 層 の微 小 孔 径 や セ ル 径 は,電 圧 とほ ぼ比 例 関 係 に あ る こ とか ら,こ れ ら の大 き さ を数nm ∼ 数 百nmの
範 囲 で制 御 す る こ とが で き る.多 孔 層 の厚 さ は酸 化 皮 膜 の溶 解 を制
御 す る こ と に よ りmm単
位 ま で成 長 させ る こ とが で きる.
多 孔 質 皮 膜 の 孔 は,沸 騰 水 中 に浸 す か,加 圧 水 蒸 気 で処 理 す る こ と に よ り,微 小 孔 の壁 面 お よ び表 面 が 水 和 物Al2O3・H2Oと
な り,体 積 膨 張 に伴 い封 孔 され る.
ア ル ミニ ウム の ア ノ ー ド酸 化 が 飛 躍 的 に普 及 した理 由 は,酸 化 皮膜 の 優 れ た 耐 食 性,耐
摩 耗 性 に あ る.ま た,こ
の酸 化 皮 膜 が 無 色 透 明 で あ る こ とか ら,微 小 孔 へ
の 色 素 の 吸 着 お よび 金 属 ・酸 化 物 を封 入 す る こ とに よ り,美 的 要 因 で あ る各 種 の 色 彩 を付 与 す る こ とが 可 能 に な っ た こ とに起 因 し て い る. この よ う な,バ
リア 層 の 生 成 と局 部 的 な溶解 に伴 う微 小 孔 の 形 成 に よ り,厚 い
多 孔 層 が 成 長 す るの は アル ミニ ウ ム に固 有 の 性 質 と考 え られ て いた が,最 近 で は マ グ ネ シ ウ ム の ア ノ ー ド酸 化 皮 膜 に お い て も,Kellerモ
デ ル型 の多孔 質構 造 を
有 して い る こ とが 報 告 され て い る.
5.3.3 ポ ー ラ ス 型 ア ノー ド酸 化 皮 膜 の 電 解 着 色 ア ル ミニ ウ ム の ア ノ ー ド酸 化(一
次 電 解)に
よ り形 成 した酸 化 皮膜 を,金 属 塩
水 溶 液 中 で直 流 電 流 に よ るカ ソー ド電 解 また は 交 流 電 流 に よ り電 解(二
次 電 解)
す る と,無 色 透 明 な ア ル ミニ ウム ア ノー ド酸 化 皮膜 の 微 細 孔 中 に金 属 また は金 属
図5.14 ア ル ミニ ウム の ポ ー ラ ス型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜 の電 解 着 色 の機 構
酸 化 物 が 析 出 し て,ア ル ミニ ウ ム 酸 化 皮 膜 が 着 色 され る(図5.14).こ
の二次電
解 着 色 法 は発 明 者 の 名 前 か ら浅 田法 と も呼 ばれ,着 色 法 の 主 流 に な っ て い る.ア ル ミニ ウム ア ノ ー ド酸 化 皮 膜 の 微 細 孔 中 に析 出 した 金 属 また は金 属 酸 化 物 は,酸 化 皮 膜 と金 属 また は金 属 酸 化物 との界 面 か らの 反 射 を低 下 させ る と と もに,析 出 した 金 属 また は金 属 酸 化 物 特 有 の 複 素 屈 折 率 に 基 づ く光 の 吸 収 に よ り,析 出 した 金 属 また は金 属 酸 化 物 に固 有 の 発 色 が 生 じ る.こ の 電 解 着 色 皮 膜 は,優 れ た 耐候 性 ・耐 光 性 を有 す るの で,建 材 な どの 屋 外 の厳 しい 環 境 下 に曝 され る用 途 に 用 い られ て い る. 微 細 孔 中 に析 出 さ せ る金 属 種 と して は,ニ
ッケ ル,コ バ ル ト,ス ズ,銅,金,
銀 が 用 い られ る.工 業 的 に は,硫 酸 ニ ッケ ル お よ び ホ ウ酸 を主 成 分 とす る浴 か ら の ニ ッ ケル お よび ニ ッケ ル 酸 化 物 の析 出 に よ る ブ ロ ン ズ 系,ア 主 に使 用 され て い る.
ンバ ー 系 の 着 色 が
6 生物電気化学 と化学セ ンサ
1791年
にGalvaniは
「カ エ ル の 足 の 筋 肉 に 金 属 を 触 れ た と き,そ
の筋 肉が痙
攣 し た 」 とい う現 象 を発 見 して い る.こ の 現 象 の発 見 が 電 気 化 学 の 始 ま りで あ り,か つ,生 物 電 気化 学 の始 ま りで もあ る.さ
ら に,生 体 系 中 の 脳 な どで は イ オ
ンが 伝 え る電 気 信 号 に応 答 して お り,ま さ に,生 体 系 は イ オ ニ ク ス系 で あ る と も い え るの で,生 体 系 が 電 気 化 学 と深 い 関 わ りが あ る の も事 実 で あ る.ま た,近 年,医
用 材 料 の発 達 に伴 う生 体 系 の サ イ ボー グ化 に関 連 す る研 究 も目覚 ま し く進
ん で お り,こ の 基 礎 的 な 知 見 を 得 る 上 で も生 物 電 気 化 学 は 重 要 とな っ て き て い る.と
くに,人 間 の 五 感(視
覚,聴 覚,嗅 覚,味
覚 お よび 触 覚 の5つ の感 覚)を
つ か さ ど る感 覚 器 の サ イ ボ ー グ 化 で あ る セ ンサ(外 界 か らの さ まざ まな 情 報 を捕 え,電 気 信 号 に 変 換 す る デ バ イ ス)は 電 子,イ
そ の代 表 例 で あ る.こ
こで は,生 体 系 で の
オ ンな ど の移 動 に伴 う現 象 を も とに,生 体 系 で の 電 気,電
子,情 報 な ど
に関 す る化 学 で あ る生 物 電 気 化 学 に つ い て,生 体 系 に お け る電 気 的 現 象,生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換,そ
れ らの 応 用 な ど(表6.1),さ
術 に つ い て述 べ る. 表6.1 生物 電 気 化 学 の領 域
らに,化 学 セ ンサ とそ の技
図6.1 細 胞(動
物 の真 核 細 胞)と
細胞 膜
6.1 生 体 系 に お け る 電 気 的 現 象
6.1.1 細 胞 と 膜 電 位 細 胞 に は図6.1に 示 す 動 物 の 真 核 細 胞 の よ うに核 を は じめ とす る多 くの オ ル ガ ネ ラ(細 胞 内 小 器 官)が
存 在 し,細 胞 膜 に よ っ て細 胞 の内 側 と外 側 に 二 分 化 さ れ
て 外 界 と異 な る環 境 を呈 し て い る.こ の 細 胞 の 内部 と外 界 を 区切 る細 胞 膜 は,脂 質,タ
ンパ ク質,糖
タ ンパ ク質 な どか らな る脂 質 二 分 子 膜 で あ り,物 理 化 学 的 に
は 半 透 膜 で あ る.一 般 に,半 透 膜 で仕 切 られ た2槽 の 同 一 電 解 質 溶 液 に 濃 度 差 が あ る場 合,半
透 膜 を は さん だ 両 液 間
で 電 位 差 が生 じ,こ れ を ドナ ン電 位 と呼 ぶ.こ
れ と関 連 して,図6.2に
示 す よ う に,一 般 的 に細 胞 膜 の 内 側 と外 側 に も電 位 差,す 膜 電 位(以
下,膜
な わ ち,細 胞
電 位,Δ φ)が 生
じる.一 般 に,動 的 定 常 状 態 に お い て膜 電 位 Δφ は,
図6.2 細 胞 膜 電 位(膜
電 位,Δ φ=φ1− φ2)
(6.1) の よ う に表 せ る.こ
こで,φ1お
Cは 移 動 度 お よび 濃 度,下
よ び φ2は膜 の 内 側 お よ び 外 側 の 電 位,uお
付 添 字 の+,−,1お
膜 の 内 側 お よび膜 の 外 側 を示 す.た 止 状 態)で
よび2は+イ
オ ン,−
イ オ ン,
と え ば,神 経 細 胞 の興 奮 して い な い状 態(静
の膜 電 位 は −50∼−70mV程
度 で,細 胞 膜 の 内 側 は外 側 に比 べ て 負
に な っ て い る.こ れ は,静 止 状 態 で の 神 経 細 胞 で は,細 胞 内 か ら外 へ3個 リ ウ ム イ オ ン(Na+)と
そ の逆 に細 胞 外 か ら内 へ2個
を能 動 的 に輸 送 す る ア デ ノ シ ン三 リ ン酸(ATP)動 プ:ポ
よび
ンプ の作 動 に は細 胞 内 のATPと
のナ ト
の カ リ ウ ム イ オ ン(K+) 作 ポ ン プ(ナ
トリウムポ ン
ナ ト リ ウ ム ‐カ リ ウ ムATPア
要 とす る)の 作 用 と,こ れ ら の イ オ ンの 受 動 的 な 逆 戻 り拡 散(リ づ く動 的 定 常 状 態 に お け る細 胞 膜 を は さ ん で のNa+とK+の
ー ゼを必
ー ク作 用)に 基
濃 度勾 配 な どに基
づ くた め で あ る.こ の よ う に,細 胞 の電 気 化 学 的 パ ラメ ー タ として膜 電 位 が あ る.
6.1.2 神 経 細 胞 と活 動 電 位 細 胞 膜 の膜 電 位 に っ い て 前 項 で述 べ た が,細 胞 が 外 界 か らの刺 激(す 情 報)を
な わ ち,
最 初 に受 け るの も細 胞 膜 で あ り,ま た,刺 激 に対 す る応 答 も細 胞 膜 か ら
始 ま る.す な わ ち,刺 激 に よ り細 胞 膜 の電 気 化 学 的 パ ラ メ ー タで あ る膜 電 位 に も 変 化 が生 じ る可 能 性 が あ る. 高 等 動 物 な ど の生 体 系 で は,刺 激 の変 換 系(刺 達 系(興
奮 を伝 達 す る系)な
ど と し て感 覚 器 官,神 経 系 な どが あ る.た
神 経 系 は 図6.3に 示 され る よ う な 神 経 細 胞(ニ る.神 経 細 胞 は核,樹
激 か ら興 奮 に 変 換 す る系),伝 とえ ば,
ュ ー ロ ン)が 連 携 して で き て い
状 突 起 な ど を有 す る細 胞 体 と ミエ リ ン鞘,ラ
ン ビエ 紋 輪 な
どを有 す る軸 索 か らな り,軸 索 終 末 が シナ プ ス を介 して 隣 接 神 経 細 胞 の 樹 状 突 起 に,ま た は,筋 線 維(横 激,隣
紋 筋 線 維 な ど)に 接 して い る.神 経 細 胞 は,直 接 の 刺
接 す る神 経 細 胞 か らの 衝 撃(興
生 じた 電 気 信 号(神
奮 伝 達)な
どに よ り興 奮 し,興 奮 に よ って
経 イ ンパ ル ス)が 軸 策 を1∼100m・s−1程
け て軸 策 終 末 よ り他 の神 経 細 胞 に興 奮 を伝 達 す る.図6.4に
度 の 高 速 で 走 り抜 キ ャ ピ ラ リー 電 極 を
用 い た 神 経 細 胞 の膜 電 位 測 定 の 結 果 を 示 す.静 止 状 態 で の膜 電 位(静 −50mV程
止 電 位)は
度 で あ っ た が ,刺 激 を与 え る こ と に よ っ て膜 電 位 は 急 激 に正 に増 大
図6.3 神 経 細 胞(軸
索 終 末 が 筋 線 維 に 接 し て い る も の)1)
し て+50mV程
度 と な り,数m・s-1後
に
も との静 止 電 位 に戻 る(こ の電 気 信 号 が 神 経 イ ンパ ル ス で あ る).こ
の よ うに,刺 激
受 容 前 後 で膜 電 位 に 変 化 が 生 じる こ とが わ か り,こ の膜 電 位 の差 を 活 動 電 位 と呼 ぶ. 一 般 に,神 経 細 胞 で の 興 奮 の 発 生 と伝 達 は,こ の 活 動 電 位(電
気 信号 的 に は神 経 イ
ンパ ル ス)の 発 生 と伝 達 に よ る. 図6.4 神経細胞で の興奮 に伴 う膜電位 変化
神 経細 胞(と
くに,軸 索)で の 興 奮,す
な わ ち,活 動 電 位 の 発 生 と伝 達 の 機 構 につ い て 考 え て み る(図6.5).前
述 した よ うに静 止 状 態 で は膜 電 位 は負 に な り,神 経
細 胞 の 細 胞 膜 の 内 側 は 負 に,外 側 は正 に帯 電 して い る.こ 部 的 に 興 奮 さ せ る と,そ こで の 膜 成 分 で あ る脂 質,タ 向 変 化 が 引 き金 と な り,Na+イ K+の
こで,刺 激 を与 え て 局
ンパ ク質 な どの一 時 的 な 配
オ ンチ ャ ンネ ル の 急 速 開 口,閉
イ オ ン チ ャ ンネ ル の 遅 延 開 口 そ して 非 閉 口,ナ
な ど が 起 こ り,膜 を介 したNa+お
よ びK+の
口 そ して不 活 性,
ト リウ ム ポ ン プ の 活 発 作 動
濃 度 勾 配 変 化,分
布 変 化 な ど が連
図6.5 神 経 細 胞(と
くに軸 索)で
続 的 に 生 じ,こ の 結 果 と して,活 た,活
の 興 奮 の 発 生 と伝 達 の機 構
動 電 位 の 発 生,極
大 そ して 消 失 が 生 じ る.ま
動 電 位 の 発 生 付 近 で は細 胞 膜 は脱 分 極 して 次 の活 動 電 位 の立 ち上 が りを準
備 し,活 動 電 位 の 消 失 付 近 で は細 胞 膜 は再 分 極 してNa+イ
オ ンチ ャ ンネ ル が 不
活 性 状 態 とな って い る.こ れ よ り,一 方 向 へ の活 動 電 位 の 伝 達 が促 され るの で あ る.
6.1.3 生 体 表 面 で の電 気 的 現 象 生 体 系 は イ オ ニ ク ス 系 で あ る こ とは 前 に 述 べ た が,生 体 表 面 で も電 気 的 現 象 で あ る 脳 波,心
電,筋 電 な どが 計 測 で き,医 療 分
野 に応 用 され て い る.代 表 的 な生 体 表 面 で の 電 気 的 現 象 の 一 例 を表6.2に た と え ば,脳 波 は0.5∼60Hz程 数,1∼300μV程
ま とめ る. 度 の周波
度 の 電 位 差 を有 し,周 波
表6.2 生 体 系 で の 電 気 的 現 象 の 一 例
神経 細胞 にお け る電気 化学 測定 の道具:マ イ ク ロ電極! 6.1.2項 で 示 す よ う な 典 型 的 な 神 経 細 胞(ニ 2∼100μm程 る.こ
度,お
の た め,活
お い て,細 胞 体 は 直 径
動 電 位 な ど の 電 気 化 学 測 定 を行 うた め に は,そ
必 要 とな る.す
な わ ち,測
ば な らな い.現
在,こ
ロ 電 極 が 設 計,作
ュ ー ロ ン)に
よ び 細 胞 体 の 樹 状 突 起 や 軸 索 は0.1∼ 数 μm程 度 の 大 き さ で あ れ な りの 道 具 立 が
定 す る た め の 電 極 も神 経 細 胞 な ど と 同 じ大 き さ で な け れ
の よ う な 測 定 で は 図6.6に
製 され て い る.こ
示 す よ う な 数 ∼ 数 百 μmの マ イ ク
こ で い うマ イ ク ロ電 極 とは 通 常 の電 気 化 学 測 定
に 用 い られ る大 き さ の 電 極 に対 して 「非 常 に小 さ な 電 極 」 とい う 意 味 で あ る.
図6.6 マ イ ク ロ電 極 の 一 例:カ 1:カ
ー ボ ン フ ァイ バ ー,2:樹
数 に よ り α,β,γ,δ,θ る の で,て 発 生),頭
脂,3:樹
ー ボ ン フ ァ イバ ー 電 極 と そ の構 造2) 脂 お よ び カ ー ボ ン粉 末,4:電
ラ ス.
波 な ど に分 け られ,そ れ ぞ れ,各 種 条 件 に よ っ て 生 じ
ん か ん(脳 波 に 異 常 ス パ イ ク が 発 生),痙 部 外 傷(各
線,5:ガ
攣(脳
波 に 異 常 ス パ イ クが
波 に 異 常 が 発 生),脳 腫 瘍(δ 波 に異 常 が 発 生)な
に効 果 的 で あ る.心 電 は0.1∼200Hz程
度 の 周 波 数,1000μV程
ど の診 断
度 の電位 差 を
有 し,心 臓 の 活 動 に 対 応 し て 時 系 列 的 な 波 形 で あ るP,Q,R,S,T波 (心 電 図)を
など
生 ず る.こ れ よ り,心 臓 疾 病 を診 断 で き る.こ の よ う に,生 体 表 面
で の 電 気 的パ ラ メー タ と し て電 位 差 で あ る脳 波,心 電,筋
電 な どが あ る.
6.2 生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換
6.2.1 生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー変 換 とは? 図6.7の よ うに,自 動 車 は ガ ソ リン を供 給 して そ れ を酸 素(O2)と 的 に燃 焼,す
と もに爆 発
な わ ち,酸 化 す る こ とに よ りカル ノ ーサ イ ク ル 的 な 機 構 で の エ ネル
ギ ー 変 換 に よ っ て走 行 す る こ とが で き る.し か しなが ら,人 間 は食 物 を摂 取 して
そ れ と酸 化 剤 で あ る酸 素 に よ る穏 や か な呼 吸 す な わ ち酸 化(こ 述 す る生 化 学 的 な意 味 で の 呼 吸 で あ る)に
こで い う呼 吸 は後
変 換(後 述 す る生 体 系 にお け る燃 料 電 池)な
よ る呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系 で の エ ネ ル ギー どに よ っ て運 動 す る こ とが で き る.
こ の人 間 で の エ ネ ル ギ ー を変 換 す る プ ロ セ ス は,連 続 的 か つ 多 段 的 な 電 子 伝 達 が 生 じる一 連 の酵 素 系 に基 づ く酸 化 還 元 反 応 で あ り,こ の た め,穏 や か な 反 応 に よ りエ ネ ル ギ ー変 換 が 生 じ るの で あ る.ま た,植 物 の 光 合 成 電 子 伝 達 系 で の エ ネ ル ギ ー変 換 プ ロ セ ス も非 常 に類 似 して い る. 生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 は生 体 触 媒 で あ る酵 素 に基 づ く酸 化 還 元 反 応 で あ る.た
と え ば,生 体 内 に存 在 す る化 学 物 質 を化 合 物1お
系 の 酸 化 還 元 反 応 は こ れ ら化 合 物1お び式(6.3))の2つ 述 で き る.こ
した 場 合,生 体
よ び2の 酸 化 お よ び 還 元(式(6.2)お
の 反 応 が組 み 合 わ さ れ て 進 行 して お り,式(6.4)の
こ で,生 体 系(pH7)で
ネ ル ン ス トの 式 よ り式(6.5)と 式(6.6)と
よ び2と
な る.さ
で 最 終 的 に式(6.7)と
ら に,フ
の 式(6.4)の
よ
よ うに記
標 準 酸 化 還 元 電 位(E°)は
な り,ギ ブ ズ の 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化(ΔG°)は ァ ラデ ー 定 数F/kcal・mol-1・V-1=23.05で
あるの
な る.こ の よ う に,生 体 系 で の 酸 化 還 元 電 位 を求 め る こ
と に よ り,生 体 系 で の 反 応 の 自 由 エ ネ ル ギ ー に換 算 で き るの で あ る.表6.3に
図6.7 自動 車 と人 間 の エ ネ ル ギ ー 変 換 の 違 い
代
表6.3 生 体 系(pH7)で
*1
NADP+お
*2
NAD+お
*3
FADお
*4
FMNお
よ びNADPH:ニ
コ チ ン ア ミ ドア デ ニ ンジ ヌ ク レオ チ ド リ ン酸 お よ び そ の 還 元 形.
よ びNADH:ニ
コ チ ン ア ミ ドア デ ニ ン ジヌ ク レオ チ ドお よ び その 還 元 形.
よびFADH2:フ
ラ ビ ン ア デ ニ ン ジ ヌ ク レオ チ ドお よ び その 還 元 形.
よ びFMNH2:フ
表 的 な生 体 系(pH7)で
の 標 準 酸 化 還 元 電 位(E°)
ラ ビ ンモ ノヌ ク レオ チ ドお よ び そ の還 元 形.
のE° を示 す.
(6.2) (6.3) (6.4) [(Red)mお
よ び(Ox)m:化
合 物mの
酸 化 体 お よ び 還 元 体,K:平
衡 定
数]
(6.5) (6.6) (6.7) [E2° お よ びE1°:pH7に R:気
体 定 数,T:絶
お け る 化 合 物1お 対 温 度,F:フ
よ び2の
ァ ラ デ ー 定 数,n:電
酸 化 還 元 電 位, 子 数]
6.2.2 呼 吸 と呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系 哺 乳 類 な どの 生 体 系 で は,食 物 よ り得 られ た 有 機 物(呼
吸 基 質)の
酸 化 ・分 解
な どを行 い,生 命 維 持 や 生 命 活 動 に必 要 な エ ネ ル ギー を得 て お り,こ れ を一 般 に 呼 吸 とい う(図6.8).一
般 に,脂 肪,多
糖 類,タ
ンパ ク質 な どの 呼 吸 基 質 は各 種
酵 素 に よ り段 階 的 に酸 化 ・分 解 され,遊 離 の エ ネ ル ギ ー は高 エ ネ ル ギ ー物 質 で あ
図6.8 哺 乳 類 な どに お け る生 体 系 で の 呼 吸3)
図6.9 細 胞 と ミ トコ ン ド リア
こ こで は 省 略 した.
ヘ ム鉄 の 酸化 状 態 を 示 す.な
お,フ
トク ロ ムc1,チ
トク ロ ムcお
よ びCoQ(Red):補 よ びFADH2)よ
りCoQに
よ び そ の 還 元 形, は チ トク ロ ム 中 の 至 る経 路 は種 々 の議 論 が あ る の で
ビ キ ノ ン)お 化 酵 素 を示 す .Cytの()内
酵 素Q(ユ
コチ ン ア ミ ドア デニ ン ジ ヌ ク レオ チ ドお よ び そ の 還 元
素還 元 な ど)
よ び チ トク ロ ムc酸
ラ ビ ンア デ ニ ン ジ ヌ ク レオ チ ドお よ び そ の 還 元 形(FADお
トク ロムb,チ
成,酸 よびNADH:ニ
子 伝 達,ATP生
機 リン酸,NAD+お
図6.10 呼 吸 鎖 電 子伝 達 系 の機 構(電
デ ノ シ ン二 リン酸,P1:無
ラ ビ ンモ ノ ヌ ク レオ チ ドお よ び そ の還 元 形,CoQ(Ox)お
よ びCyt.oxi:チ
よ びFMNH2:フ
デ ノ シ ン三 リン酸,ADP:ア
Cyt.b,Cyt.c1,Cyt.cお
形,FMNお
ATP:ア
る ア デ ノ シ ン 三 リ ン 酸(ATP)に
貯 蔵 さ れ る.た
類 よ り の 単 糖 の 酸 化 ・分 解 の プ ロ セ ス は,主 Parnas回
路,EMP回
ま た はKrebs回
路),(2)ク
路)お
の 細 胞 質 の 基 質 に,お リ ア(図6.9)に
よ び,(2)と(3)は
示 す よ う に,食
リ カ ル ボ ン 酸 回 路,TCA回
路
真核 細胞
真 核 細 胞 の 細 胞 小 器 官 で あ る ミ トコ ン ド
物 の1つ
で あ る 多 糖 類 を加 水 分 解 し て で き る ピ ル ビ ン 酸(CH3COCOOH,2mol),
水 素(H,4mol),ATP(2mol)な
ど を 生 成 す る.次
ミ ト コ ン ド リ ア 内 に 取 り込 ま れ,ア
を 経 て,(2)で
に,生
成 した ピル ビ ン酸
セ チ ル 補 酵 素(ア
セ チ ルCoA)
加 水 分 解 な ど を 生 じ て 二 酸 化 炭 素(CO2,6mol),H(20
mol),ATP(2mol)な
ど を 生 成 す る.最
後 に,(1)お
ナ ー ゼ な ど に よ っ て 呼 吸 基 質 よ り得 ら れ たH(24mol)が ド ア デ ニ ン ジ ヌ ク レ オ チ ド(NAD+)な ス テ に あ る(3)に
運 ば れ る.運
あ るNADHな
電 子(e-)と
糖 系(Embden-Meyerhof-
吸 鎖 電 子 伝 達 系 に 分 類さ れ,(1)は
グ ル コ ー ス(C6H12O6,1mol)は(1)で
元 体)で
吸 基 質 で あ る多 糖
存 在 す る.
た と え ば 図6.8に
(2mol)は
に,(1)解
エ ン 酸 回 路(ト
よ び(3)呼
と え ば,呼
デ ヒ ドロ ゲ
補 酵 素 ニ コチ ン ア ミ
ど を 介 し て ミ トコ ン ド リ ア 内 膜 の ク リ
ば れ たH(NAD+な
ど の 水 素 受 容 体(ま
ど の 形 で 運 ば れ て い る)は,こ
な り,図6.10に
よ び(2)で
た は還
こ で プ ロ ト ン(H+)と
示 す よ う な一 連 の チ トク ロ ム 酵 素 群 を介 して の 電
子 伝 達 そ し て 最 終 的 な 酸素 還 元(電
子 の 最 終 処 理)に
よ る 水(H2O,12mol)の
生 成 お よ び そ の 際 の 電 気 化 学 的 プ ロ ト ン 勾 配 に よ る 大 量 のATP(34mol)の
生
成 を 行 っ て い る.
6.2.3 光 合 成 と 光 合 成 電 子 伝 達 系 高 等 植 物,藻
類 な ど の 生 物 系 に は 図6.11で
図6.11 葉 緑 体
示 す よ う な 葉 緑 体 が 存 在 し,生
命
維 持 や 生 命 活 動 に必 要 な 有 機 物 を 得 るた め の 光 合 成 が 行 わ れ て い る.一 般 に,光 合 成 に お い て は,二 酸 化 炭 素(CO2)と
水(H2O)を
取 り入 れ,太 陽 光 の エ ネ ル ギ ー(光 エ ネ ル ギ ー)を 利 用 す る こ とに よ り,複 雑 な 反 応 プ ロ セ ス を経 て 有 機 物 を合 成 して い る. こ の 光 合 成 に は,図6.12に
示 す よ う に,
① 光 を必 要 とす る明 反 応 と ② 光 を必 要 と し な い 暗 反 応 の2つ の 反 応 プ ロ セ ス が あ る.① は 葉 緑 体 の チ ラ コイ ド膜 で 生 じ,光 す る ク ロ ロ フ ィル,カ
を必 要 と
ロ チ ノ イ ド とい った 光
合 成 色 素 や 明 反 応 に関 係 す る酵 素 群 が 存 在 し,②
は 葉 緑 体 の ス トロ マ で 生 じ,暗 反 応
に 関 係 す る 酵 素 群 が 存 在 す る.ま ず,①
に
お い て 光 エ ネ ル ギ ー に よ っ て水 が 酸 素 に な る プ ロ セ ス でATPとNADPHが 次 に,②
合 成 さ れ,
の 炭 素 固 定 回 路 に お い て これ ら と
図6.12 光 合 成 プ ロ セ ス ATPお
よ びADP:ア
デ ノ シ ン三 リン酸
お よ び ア デ ノ シ ン二 リン 酸,NADP+お びNADPH:ニ
よ
コ チ ン ア ミ ドア デ ニ ン ジ
ヌ ク レ オ チ ド リン酸 お よ び そ の還 元 形.
二 酸 化 炭 素 と水 に よ り有 機 物 の基 と な る グ リ セ ル ア ル デ ヒ ド3‐リ ン酸(G3P)と
な り,こ れ が ス トロ マ で デ ン プ ン お よ び 細
胞 質 で ス ク ロ ー ス とな る. こ こで,興 味 深 い の は,呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系 と同 様 にATPを る.①
生 成 す る ① であ
は図6.13に 示 す よ うな 光 化 学 系 を2つ 有 す る連 続 した 酸 化 還 元 系 の 光 合
成 電 子 伝 達 系 で あ り,図 の 形 よ りZス キ ー ム と呼 ば れ て い る.電 子 が 光 化 学 系 Ⅱか ら光 化 学 系 Ⅰに移 動 す る際 に光 化 学 系 Ⅱ で生 成 した プ ロ トン に基 づ くプ ロ ト ン勾 配 の作 用 に よ り呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系 と同 様 にATPを このATP生 で,(a)非
生 成 し て い るの で あ る.
成 の 一 連 の 反 応 を,電 子 が 一 方 向 に伝 達 され てATPを 循 環 的 光 リン酸 化 反 応 と い う.ま た,(a)で
的 な の で 少 量 で あ る が,さ る反 応 を有 し,こ れ を(b)循
ら に,ATPを
生成 す るの
生 成 す るATPは
非循環
過 剰 に生 成 す る た め に ② を循 環 さ せ
環 的 光 リン酸 化 反 応 と い う.こ の よ うに 光 合 成 に
お い て も効 果 的 に 電 子 伝 達 系 を用 い る こ と に よ っ て,効 率 よ くエ ネ ル ギ ー 生 成 を 行 っ て い るの で あ る.
6.1節 お よ び6.2節 にお い て,呼 吸 お よ び光 合 成 につ い て 述 べ,そ れ らのATP 生 成 の た め の 電 子 伝 達 系 につ い て説 明 した.こ
こで 重 要 な の は,呼 吸 で の エ ネ ル
ギ ー 源 は呼 吸 基 質 で あ る有 機 物 で あ り,光 合 成 で の そ れ は太 陽 光 で あ り異 な っ て い るが,ど
ち ら も一 連 の 酵 素 群 を有 して連 続 的 な酸 化 還 元 反 応 を介 して プ ロ トン
勾 配 に よ り穏 や か な条 件 でATPを
図6.13 Z:チ
ロ シ ン な ど,Ph:フ
ノ ン,Pc:プ 心,Fd:フ
生 成 して い る とい う点 で あ る.
光 合 成 明 反 応 で の 電 子 伝 達 系 とZス ェ オ フ ィ チ ン,QA:キ
ラ ス ト シ ア ニ ン,A0:ク ェ レ ド キ シ ン お よ びNADP+:ニ
ノ ンA,QB:キ
ロ ロ フ ィ ル な ど,A1:キ
キ ー ム4) ノ ンB,QH2:プ ノ ン な ど,Fe-S:硫
ラ ス トキ 化 鉄 中
コ チ ン ア ミ ド ア デ ニ ン ジ ヌ ク レ オ チ ド リ ン 酸.
太陽 エ ネル ギーの利 用 を 目指 した人工 光合成 システ ム! 最 近,光
合 成(6.2.3項,図6.12お
テ ム が 構 築 さ れ て い る.す
よ び 図6.13参
な わ ち,図6.13に
照)を
模 倣 した人 工光 合成 シス
示 す 光 合 成 明 反 応 の 光 化 学 系Ⅰ,光 化
学 系 Ⅱ お よ び そ の 間 の 電 子 伝 達 系 を,そ れ ぞ れ,水 素 発 生 用 光 触 媒(Pt-SrTiO3,波 長600nm以
下 の 光 を 吸 収 し て 反 応),酸
以 下 の 光 を 吸 収 し て 反 応)お
素 発 生 用 光 触 媒(Pt-WO3,波
よ び 電 子 移 動 媒 体(ヨ
示 す よ う な 人 工 光 合 成 モ デ ル と して い る.可 成 で き る の で,こ
ウ 素 類)で
長460nm
模 倣 し て 図6.14に
視 光 照 射 に よ り水 を 分 解 し て水 素 を 生
の よ うな 研 究 の進 捗 に よ り,ク
リー ンな太陽 エ ネルギ ーを利用 し
た 次 世 代 燃 料 で あ る水 素 燃 料 の 生 産 が 可 能 に な る 日 も遠 くな い将 来 で あ ろ う.
図6.14 人 工 光 合 成 シス テ ム の 一 例 (文献5)よ り改変)
6.3 生 物 電 気 化 学 の 応 用
生 物 電 気 化 学 の 応 用 と して,生 物 電 気 化 学 的 な立 場 か ら眺 め た計 測 技 術,精 技 術,サ
製
イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジー,電 池 化 学,細 胞 工 学 な どが あ り,こ こで は これ
らの 一 例 に つ い て述 べ る.
6.3.1 生 物 電 気 化 学 計 測 a. 電
気
泳
動
生 体 物 質 の 多 くは電 荷 を有 して い るの で,電 場 中 で 移 動 す る.こ の電 場 に よ っ
て 溶 媒 の 中 を粒 子 が 動 くこ とを電 気 泳 動 とい い,分 析,精
製 な どに用 い られ て い る.た
え ば,図6.15に
と
示 す よ うに異 な る割 合 の 負
電 荷 を有 す る生 体 物 質A,Bお 合 試 料(A+B+C)が
よ びCの
混
あ り,こ れ を支 持 物
質 に のせ て 溶 媒 中 で電 場 をか け る と電 気 泳 動 が 生 じ,A,Bお
よ びCを
た は精 製 で き る.表6.4に を示 す.移 動 界 面 法,ゾ
分 離 し,分 析 ま 電気泳 動法 の種類
ー ン法,連
続法 な ど
が あ り,目 的 に応 じて使 い 分 け る が,現 在 で
図6.15 電 気 泳 動 の 原 理
は移 動 界 面 法 は ほ とん ど用 い ら れ て い な い. ゾー ン 法 は 支 持 物 質 の違 い に よ り,ろ 紙,酢
酸 セ ル ロ ー ス お よび ゲル の 電 気 泳
動 法 に分 類 され る.ろ 紙 電 気 泳 動 法 に は低 電 圧 法(20V・cm-1程 (200V・cm-1程 ノ酸(モ
度)が
あ り,前 者 は タ ンパ ク質(ポ
ノ マ ー)や ペ プ チ ド(オ チ ゴ マー)の
度)と
高電圧法
リマ ー)の 分 析,後 者 はア ミ
分 析 に適 して い る.さ
らに,高 電
圧 法 とク ロ マ トグ ラ フ ィー の 両 方 を用 いた 二 次 元 分 析 法 は よ り効 果 的 で あ り,図 6.16に 示 す よ う に ア ミノ酸 を完 全 に分 離 分 析 で き る.酢 酸 セ ル ロー ス電 気 泳 動 法 は,他 の 方 法 に比 べ て手 法 の 簡 便 さ,高 分 解 能 な ど の点 で優 れ て い る.ゲ ル 電 気 泳 動 法 の ゲ ル と して は デ ン プ ン,ポ
リア ク リル ア ミ ド,ア ガ ロ ー ス,ア ガ ロ ー ス-
ア ク リル ア ミ ドな どが あ り,タ ン パ ク 質,核
酸 な どに効 果 的 で あ る.と
くに,
ゾー ン法 を 改 良 した ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ル を用 い る デ ィス ク電 気 泳 動 法 は最 大 表6.4 電 気 泳 動 法 の種 類
図6.16 ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー
ア ミ ノ 酸 の ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー/電 気 泳 動 二 次 元 分 析6) 〔 展 開 溶 媒:ル
1:ト
リ プ トフ ァ ン,2:チ
6:ト
レ オ ニ ン,7:ヒ
グ ル タ ミ ン,12:グ 酸,16:ア
チ ジ ン/水=2/1〕
ロ シ ン,3:ロ
ドロ キ シ プ ロ リ ン,8:プ リ シ ン,13:グ
ル ギ ニ ン,17:リ
電 気 泳 動
イ シ ン,4:フ
〔pH2.25〕
ェ ニ ル ア ラ ニ ン,5:メ
ロ リ ン,9:ア
ル タ ミ ン 酸,14:ア
ラ ニ ン,10:セ
ス パ ラ ギ ン,15:ア
チ オ ニ ン, リ ン,11: スパ ラ ギ ン
シ ン.
の 分 解 能 を有 す る の で,広 汎 に用 い られ て い る. また,ゾ
ー ン法 に は支 持 物 質 の種 類 で分 類 され る以 外 に,タ ンパ ク質 の よ う な
両 性 電 解 質 の 等 電 点(電 が あ る.タ
荷 の な くな るpH)を
ンパ ク質 混 合 物 をpH勾
対 応 す るpHで
用 い て分 離 す る等 電 点 電 気 泳 動 法
配 中 に お い た場 合,各
タ ンパ ク質 は等 電 点 に
止 ま る の で分 離 す る こ とが で きる.こ の 方 法 は分 析 の み で な く精
製 に も用 い られ て い る.た
とえ ば,ヘ モ グ ロ ビ ン は αお よ び β そ れ ぞ れ2個 の
サ ブ ユ ニ ッ トか ら な る 四 次 構 造 で あ り,α お よ び β サ ブ ユ ニ ッ トの 分 子 量,構 造 な ど は類 似 し て お り,ク ロ マ トグ ラ フ ィー な どに よる分 離 は厄 介 で あ る.し か し な が ら,α お よ び βサ ブ ユ ニ ッ トの 等 電 点 は,そ れ ぞ れ7.3お で あ るの で,図6.17に
よ び6.6程
示 す よ うに 等電 点 電 気 泳 動 法 を 用 い て 分 離,精
度
製 で き る.
さ ら に,本 法 と従 来 の 電 気 泳 動 法 の 両長 所 を持 ち合 わ せ た 等 速 電 気 泳 動 法 が 開 発 され て お り,と 効 で,タ
くに,キ
ャ ピ ラ リー管 を 用 い た キ ャ ピ ラ リー 等 速 電 気 泳 動 法 は有
ンパ ク質 の よ う な両 性 電 解 質 以 外 に有 機 酸,ヌ
ク レオ チ ドな どの 分 析 も
可 能 で あ る. 連 続 法 と して は連 続 流(カ
ーテ ン型)電
気 泳 動 法 が あ り,上 部 よ り混 合 試 料 を
連 続 的 に加 え な が ら上 下 の 溶 媒 の流 れ お よび 左 右 の 電 場 を利 用 して,下 部 に並 べ られ た 集 液 管 に そ れ ぞ れ分 離 した 試 料 を得 る方 法 で ある.主
に,分 析 法 よ り も試
図6.17 ヘ モ グ ロ ビン サ ブ ユ ニ ッ トの 等 電 点電 気 泳 動 に よ る分 離 精 製 丸 印 の αお よ び β は,そ
れ ぞ れ,α
サ ブ ユ ニ ッ トお
よ び βサ ブ ユ ニ ッ トを示 す.
料 調 製 法 と して 用 い られ る. b. そ の 他 の 生 物 電 気 化 学 計 測 そ の 他 の 生 物 電 気 化 学 計 測 と して,細 胞 電 気 泳 動 測 定(細 定),細
胞 数 計 測(コ
胞 の 表 面 電 荷 を測
ー ル タ ー カ ウ ン ター な ど),微 小 電 極 測 定(細
胞 内でのボル
タ ン メ ト リー,生 体 内 マ イ ク ロセ ンサ 測 定 な ど),バ イ オ セ ン サ(酵 素,微 免 疫,オ
ル ガ ネ ラ セ ンサ,組 織,FET型
生 物,
な ど の セ ンサ,詳 細 は次 項 を参 照)な
ど が あ り,細 胞 工 学,環 境 工 学,臨 床 医 学 な どの広 汎 な分 野 で 検 討 さ れ て い る.
6.3.2 生 物 電 気 化 学 的 な サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジ ー 生 体 機 能 を人 工 的 に再 現 し,医 学,歯
学,薬 学,工
イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジ ー(図6.18)は,今
世 紀 の最 も重 要 な 技 術 とい っ て も過 言 で
は な い.こ
こで は,と
学 な どの 分 野 に波 及 す るサ
くに,生 物 電 気 化 学 的 立 場 か ら捉 えた サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ
ジー に つ い て 述 べ る. a. 人 工 神 経 回 路 高 等 動 物 の 神 経 系 が 再 現 で きれ ば,極 微 小,超 高 速,高 機 能,低 エ ネ ル ギ ー な 情 報 変 換 ・伝 達 シス テ ム の構 築 の 可 能 性 が 出 て くる.そ の再 現 の た め の基 礎 的 な 検 討 と し て,半 導 体 の 微 細 加 工 技術 で あ る リ ソ グ ラ フ ィー 技術 を応 用 した人 工 神 経 回 路 の 検 討 が あ る.図6.19に
示 す よ う に,パ
タ ー ン 化 した 石 英 基 板,金
属酸
化 物 基 板 な どに 脊 髄 後 根 細 胞 の軸 索 を成 長 さ せ た と こ ろ,軸 索 は基 板 表 面 の1 μm以 下 の大 き さの 微 細 構 造,表
面 電 荷 な ど を認 識 して 成 長 して い る.こ れ に よ って 軸 索 の成 長 方 向 の 制 御 が 可 能 と な り,人 工 神 経 回 路 の 設 計 が 可 能 と な る.さ
ら に,図6.20に
示 す よう
な人 工 神 経 回路 と同様 な パ タ ー ン化 を施 して 多 点 で の計 測 が 可 能 な微 小 電 極 ア レイ を作 製 す る こ とに よ り, 人 工 神 経 回 路 の機 能 を評 価 す る こ と も可 能 で あ る.こ れ に よ り,培 養 細 胞 で の 電 気 的 情 報 の検 出,細 胞 へ の 刺 激 付 与 な ど も可 能 とな り,細 胞 電 図6.18
サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジ ー
図6.19 人工 神 経 回 路:神
気 化 学 的 な検 討 も可 能 とな る.
経 突 起 成 長 方 向 制 御7)
b. 筋 肉 モ デ ル:導 電 性 高 分 子 ア クチ ュ エ ー タ 導 電 性 高 分 子,高 分 子 ゲ ル,イ オ ン交 換 樹 脂 な どの柔 軟 な 材 料 を 用 い て 筋 肉運 動 で あ る伸 縮,屈 伸 な どの生 体 系 類 似 運 動 を行 う駆 動 体 が あ り,筋 肉 モ デ ル(導 電 性 高 分 子 ア ク チ ュ エ ー タ)と
し て検 討 さ れ て い る.図6.21に
性 高 分 子 で あ る ポ リア ニ リ ン は電 解 質 環 境 に お い て2V程 き く屈 曲 す る.こ れ は,図6.22に
示 す ように導電
度 の 電 圧 で 左 右 に大
示 す ポ リア ニ リン の 電 気 化 学 的 な酸 化 還 元 の
サ イ ク リ ッ ク ボ ル タ モ グ ラ ム,分 子 構 造 変 化 お よ び 伸 縮 挙 動 よ り,LS-ES状
図6.20 人 工 神 経 回路:微
図6.21 筋 肉 モ デル(導
小 電 極 ア レイ7)
電 性 高 分 子 ア ク チ ュエ ー タ)8)
態
図6.22 筋 肉 モ デ ル(導 電 性 高 分 子 ア ク チ ュ エ ー タ)の 作 動 機 構8)
間 の 大 き な伸 張・ 収 縮 は 負 イ オ ン の 注 入 ・放 出,ES-PS状 縮 ・伸 張 は プ ロ トン(H+)の
放 出・ 注 入 が 主 で あ り,さ らに,分 子 の形 態 変 化,
静 電 反 発 な ど も影 響 し て い る.こ 1∼2MPa程
態 間の わ ず か な収
の 運 動 の 応 答 は 数s程
度 で 生 体 系 筋 肉 の お よ そ10倍
度 と速 く,収 縮 力 は
に 相 当 す る.人 工 筋 肉 の 実 現 が 期待
さ れ る.
6.3.3 生
物
電
池
前 述 し た 呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系,光 合 成 電 子 伝 達 系 な どは 生体 で の 有 効 なエ ネ ル ギ ー変 換 系 で あ り,か つ,究 極 の 燃 料 電 池 や太 陽 電 池 で もあ る.こ の よ うな生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 系 を応 用 した 生 物 電 池 が 各 種 検 討 され て い る.表6.5に
示す
よ う に生 物 電 池 と し て は酵 素 電 池,微 生 物 電 池,生 物 太 陽 電 池 な どが あ り,ア ノ ー ドで の 酵 素 反 応 生 成 物,還
元 型 電 子 伝 達 物 質,代
謝 物 質,水
素 な どの 酸 化 反 応 と
カ ソー ドで の酸 素 の還 元 反 応 を組 み 合 わ せ た燃 料 電 池 型,ア
ノー ドで の 光 化 学 的
酸 化 反 応 と カ ソー ドで の 光 化 学 的 還 元 反 応 を組 み 合 わ せ た 太 陽 電 池 型 な どが あ
表6.5 生 物 電 池 の種 類9)
図6.23 呼 吸 鎖電 子 伝 達 系 と酵 素 電 池(グ
る.た
と え ば,生 物 電 池 の 酵 素 電 池 の1つ
ル コー ス 系 生 物 燃 料 電 池)10)
と し て,図6.23に
示 す よ うな グル コ
ー ス を燃 料 とす る酵 素 電 池 が あ る.こ れ は,前 述 した 呼 吸 の エ ネ ル ギ ー変 換 系 と 同 じ原 理(図
中 の上 部 分)で
素(CO2)に
な る際 に 共 役 して 電 子 伝 達 物 質 のNAD+やNADP+が
NADHやNADPHに
還 元 されて
な り,こ れ ら還 元 型 電 子 伝 達 物 質 が ア ノ ー ドで 酸 化 反 応
す る と同 時 に,酸 素(O2)が 作 動 す る もの で あ る.
作 動 す る も の で,グ ル コー スが 酵 素 に よ り二 酸 化 炭
カ ソ ー ドで 還 元 反 応 す る こ とに よ り,電 池 と して
電 気 化 学,そ
して 生 物 電 気 化 学,そ
化 学(chemistry)の chemistry)」,そ
中 で 電 気 的 な 現 象 を 取 り扱 う 学 問 が 「電 気 化 学(electro
の 中 で 生 物(ま
た は 生 体)で
「 生 物 電 気 化 学(bio-electro-chemistry)」 展 す る に つ れ て,学 年,ア
学 のBreslow教
お り,ま
授 は,生
よ り再 現 す る 学 問 を提 唱 し,生 倣 し た)chemistry)
で も生 物 電 気 化 学 の 応 用 を い く つ か 述 べ て い る が,そ
た は 生 体)で さ に,生
ら に,1972
体 中 の 酵素 反 応 な どの化 学 反
ら生 体 模 倣 化 学(bio-mimetic(模
を提 唱 し て い る.6.3節
生 し て い る.た
し い 領 域 が 誕 生 し て い る.さ
素 等 の 機 能 の み を まね た 合 成 物)に
化 学(bio-chemistry)か
で 生 物(ま
の 電 気 化 学 現 象 を 取 り扱 う 学 問 が
と い う よ う に,化 学 に お い て も研 究 が 進
問 分 野 も広 が り,新
メ リ カColombia大
応 を モ デ ル(酵
して … 進 展 す る電 気 化 学!
の中
の 電 気 化 学 現 象 を モ デ ル に よ り再 現 す る 学 問 が 検 討 さ れ て
体 模 倣 電 気 化 学(bio-mimetic と え ば,人
electro-chemistry)な
る分 野 も誕
工 神 経 回 路 や 筋 肉 モ デ ル の サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジー,酵
素 電 池 や 微 生 物 電 池 の 生 物 電 池 な どで あ る.さ
らな る,電 気 化 学 研 究 の 進 展 が 期 待
さ れ る.
6.4 化
学
セ
ン サ
6.4.1 セ ン サ と は? 人 間 に は 図6.24に つ の 感 覚)が
示 す よ う な五 感(視
覚,味
覚 お よ び 触 覚 の5
あ り,そ れ らを つ か さ ど る感 覚 器 を備 えて い る.こ れ らを応 用 した
も の に セ ン サ が あ る.セ 度,湿
覚,聴 覚,嗅
ン サ は,外 界 か らの 色,光,音,匂
い,味,圧
力,温
度 な どの さ ま ざ ま な情 報 を捕 え,電 気 信 号 に変 換 す る デバ イ ス で あ り,物
図6.24 人 間 の 五 感
表6.6 化 学 セ ン サ の種 類
味 覚(味)と
匂 い(臭)
人 間 の 五 感 の 中 で 刺 激 と して 化 学 物 質 が 関 与 す る 感 覚(い 化 学 セ ン サ)は,味
覚 と嗅 覚 で あ る.人 間 の 味 覚(味)に
び 苦 味 とい っ た4種 塩,塩
られ る(舌
乳 頭 中 の 味 蕾 の 味 細 胞 で 識 別 さ れ る)が,舌
そ し て,根
酸 お よび キ ニ ー ネ が あ る.こ
と え ば,舌
れ ら味 覚(味)は
臭,ハ
で は な い.こ
味およ
の先 端 で は甘 味 と塩 味 に,側
分 類(1964))が ッ カ 奥,刺
あ る と い わ れ て お り,樟
激 臭 お よび 腐 敗 臭 で あ る が,現
縁 で は 塩 味 と酸 味 に, も基 本 と な る7種 の 原 香 脳 臭,麝
香 臭,エ
ーテ
在 の と こ ろ必 ず し も定 説
れ ら の 匂 い は鼻 の 鼻 腔 天 井部 分 に あ る 嗅 覚 器(嗅
の 中 に あ る 嗅 細 胞 で 識 別 さ れ る.
人 間 で は舌 で 感 じ
の 部 分 に よ っ て 感 じ る基 本
部 で は 苦 味 に 敏 感 で あ る.人 間 の 匂 い(臭)に
(臭)(Amooreの ル 臭,花
味,酸
の基 本 的 感 覚 が あ り,そ れ ぞ れ を示 す 代 表 的 な 化 学 物 質 と して
シ ョ糖,食
的 感 覚 も異 な る.た
わ ゆ る,人 間 の 中 で の は 甘 味,塩
上 皮)に
あ た り,そ
理 セ ンサ(物
理 的 情 報 に応 答 す るセ ン サ)お
るセ ンサ)が
あ る.物 理 セ ンサ に は光,音
よび 化 学 セ ンサ(化 学 物 質 に応 答 す
波,圧 力,温 度,湿 度,重
力,磁 気 な
どの セ ン サ が あ り,化 学 セ ンサ に は表6.6に 示 す よ う な ガ ス,イ オ ン,バ イ オ な どの セ ン サ が あ る.
6.4.2 イ オ ン セ ン サ イ オ ン セ ン サ と は,溶 液 中 の特 定 種 の イ オ ンに 選 択 的 に応 答 して定 量 で き る セ ン サ で あ り,従 来 よ りの イ オ ン電 極 で あ る.イ オ ンセ ンサ に は,固 体 膜 型,液 膜 型,電
界 効 果 トラ ン ジ ス タ(FET)型
な どが あ る.
図6.25 各種 イ オ ン電 極(上 上 図 に お い てA:内 E:液
部 電 極,B:内
膜 型 の イ オ ン選 択 性 膜(感
酵 素 含 有 膜(ま
図)と
部 溶 液,C:イ 応 膜),F:多
た は 酵 素修 飾 膜),I:ガ
測 定 概 略(下
図)11)
オ ン選 択 性 膜(感
孔 性 膜,G:内
ス透 過 膜,J:参
応 膜),D:導
線,
部 イ オ ン選 択 性 電 極,H:
照 電 極.
FET型
イ オ ン セ ン サ を 除 く イ オ ン セ ン サ と し て は,図6.25の
な 種 類 の も の が あ り,図
中 の(b),(e),(f)な
展 系 や 応 用 系 で あ る.さ
ら に,図6.25の
(図6.25の
上 図 の(a),(c)お
上 図 に示す よう
どの イ オ ンセ ンサ は基 本 系 の発 下 図 の よ う な 構 成 で 測 定 し,測
よ び(d))を
表 式 化 す る と,基
定 系
本 的に は
(+)内 部 電 極│内 部 溶 液│イ オ ン選 択 性 膜│試 料 溶 液│参 照 電 極(−)/ (6.8)
イ オ ンセ ン サ と な り,さ
ら に,こ
れ の 発 展 系(図6.25の
上 図 の(b))と
して
(+)金 属 また は グ ラ フ ァ イ ト電 極│イ オ ン選 択 性 膜│試 料 溶 液│参 照 電 極(−)/ イオ ン セ ンサ (6.9)
も あ る.表
式 の イ オ ン 選 択 性 膜 よ り も左 側 が イ オ ン セ ン サ で あ り,最
電 極 と一 体 化 し た も の も あ る.基
本 的 に は,ど
近 で は参 照
れ もイ オ ン選 択 性 膜 を は さん で 発
生 す る 膜 電 位 を検 出 す る 原 理 と な っ て い る. H+の
イ オ ン セ ン サ はpHセ
よ う なpHメ
ー タ で あ る.こ
ン サ で あ り,そ
れ を 構 成 す る 装 置 が 図6.26に
の と き の 膜 電 位(EM)は
EM=(RT/F)ln{a(H+)x/a(H+)0} [a(H+)xお と な り,内
(6.10)
よ びa(H+)0:試
部 溶 液 のa(H+)0は
pH(x)=−log
料 溶 液 お よ び 内 部 溶 液 のH+活
既 知 で あ り,ま
量]
た,
a(H+)x
(6.11)
なので
(25℃)
[C:定
数]
(6.12)
これ よ り,膜 電 位(EM)値
とpH(x)値
す る の で,2種
知 の標 準 溶 液 を 用
類 のpH既
は相 関
い て膜 電 位 を設 定 す る こ と に よ っ てpHメ タ を 補 正 して お け ば,2種 pHを
ー
類 の標 準 溶 液 間 の
測 定 す る こ とが で き る.ま た,生 体 内
測 定 の た め のH+セ てFET型
示 す
ン サ(pHセ
ンサ)と
し
の もの も検 討 され て い る. 図6.26 pH測
定の概 略
6.4.3 ガ ス セ ン サ ガ ス セ ン サ とは,各 種 環 境 中 で特 定 種 の気 体 成 分 に選 択 的 に応 答 して定 量 で き るセ ンサ で あ り,ガ ス検 知 セ ンサ と も呼 ば れ る.ガ ス セ ンサ に は,半 導 体 型,接 触 燃 焼 式,定 式,固
電 位 電 解 式,ガ
体 電 解 質 型,FET型
ルバ ニ 電 池 な どの セ ン
サ が あ る. 半 導 体 型 ガ ス セ ンサ は,半 導体 表 面 に ガ ス分 子 が 吸 着 す る際 に そ の 電 気 抵 抗 が 変 化 す る こ と を利 用 す る もの で,主 図6.27
ク ラ ー ク 型 酸 素 セ ンサ
都 市 ガ ス やLPガ
と し て 用 い られ て い る.接 触 燃 焼 式 ガ ス セ ン サ は,ガ
に,
スのガス漏れ警報 装置
ス を 高活 性 触 媒 を用 い て完
全 燃 焼 させ て そ の 燃 焼 熱 に 基 づ く温 度 変 化 を利 用 す る もの で あ る. 定 電 位 電 解 式 や ガ ル バ ニ電 池 式 の ガ ス セ ンサ は 電 気 化 学 的 に酸 化 還 元 で き る ガ ス の み が 測 定 で き,と
くに,図6.27に
示 す酸 素 の 電 気 化 学 的 な還 元(式(6.13))
に基 づ くク ラ ー ク型 酸 素 セ ンサ は その 代 表 例 で あ る.酸 素 透 過 性 高分 子膜,カ ソー ド(主 にPt),ア
ノ ー ド(定 電 位 電 解 式 でAg/AgClお
Pb),電
電 位 電 解 式 でKClお
解 液(定
よび ガルバ ニ電池 式 で
よ び ガ ル バ ニ 電 池 式 でKOH)な
どよ り構
成 さ れ て お り,酸 素 の還 元 反 応 に基 づ く還 元 電 流 を計 測 す る.主 に,常 温 ・常 圧 条 件 で 用 い られ,生 体 内 測 定 用 ニ ー ドル型 の もの もあ る. O2+2H2O+4e-→4OH-
(6.13)
固体 電 解 質 型 ガ ス セ ンサ は,固 体 電 解 質 の イオ ン伝 導 性 に基 づ くもの で あ り, 図6.28に
示 す よ う な 自動 車 用 の安 定 化 ジ ル コニ ア を用 い た 固 体 電 解 質 型 酸 素 セ
ン サ は有 名 で あ る.安 定 化 ジル コ ニ ア は500℃ 以 上 で 酸 素 イ オ ン(O2-)を
選択
的 に 透 過 す る.安 定 化 ジル コ ニ ア の両 側 を酸 素 分 圧 の 異 な る環 境 と し,酸 素 を透 過 させ る と,そ の 両 側 の 白金 電 極 間 に 電位 の 差(ΔE)が
生 じ るの で,
ΔE=(RT/4F)ln{p(O2)h/p(O2)l} [p(O2)hお と な る.p(O2)hが
よびp(O2)l:高
お よび 低 酸 素 環 境 で の酸 素 分 圧]
大 気 下 で 既 知 な らば,ΔEとp(O2)lは
を求 め る こ とが で き る.
(6.14)
相 関 す るの で 酸 素 濃 度
図6.28 固体電解質型 酸素セ ンサ
図6.29
FET型
ー トFET型
ガ ス セ ン サ と し て は,図6.29に
代 表 的 で あ る.弱 と な るn型
Pdゲ
いp型Si基
領 域 を つ く り,そ
板 上 に10μm程 の 上 にSiO2絶
水 素 セ ン サ11)
示 すPdゲ
ー トFET型
度 の 間 隔 で ソー ス お よ び ドレ イ ン 縁 層,Pd金
属 層 を順 次 作 製 し て ゲ
ー ト と す る と絶 縁 ゲ ー ト形 電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ(MISFET)と ド レ イ ン 間 に 電 圧(Uds)を 性 で の し き い 値 電 圧(UT)は る こ と が で き る.類
水 素 セ ンサ が
か け る と ド レ イ ン 電 流(Id)が 水 素 濃 度 に 依 存 す る の で,水
似 の 原 理 で の 一 酸 化 炭 素 セ ンサ もあ る.
な る 得 ら れ,電
.ソ
ー ス-
流 ‐電 圧 特
素 セ ンサ と し て 用 い
6.4.4 バ イ オ セ ン サ バ イ オ セ ンサ とは,酵 素,微 生 物 な どの生 体 物 質 が 有 す る特 異 的 な生 体 機 能 を 利 用 し て化 学 物 質 に選 択 的 に応 答 して定 量 す る セ ンサ で あ り,酵 素,微 生 物,免 疫,オ
ル ガ ネ ラ,組 織,FET型
な どの セ ン サ が あ る.た と え ば,酵 素 セ ン サ で
あ る グル コー ス セ ン サ を 図6.30に 示 す.セ セ ンサ の酸 素 透 過 性 高 分 子 膜(こ (グル コ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ(GOD)を さ ら に,非 対 称UF膜 るGODに
ン サ構 成 は前 述 した ク ラ ー ク型 酸 素
こ で は酸 素 透 過 性 テ フ ロ ン 膜)の
包 埋 した ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ル 膜)を,
で 覆 っ た もの で あ る.グ ル コー ス(C6H12O6
よ っ て δ-グル コ ノラ ク トン(C6H10O6)と
図6.30
上 に酵 素 膜
.)が 酵 素 で あ
な る(式(6.15)).
グ ル コ ー ス セ ン サ と そ の 作 動 機 構11,12)
(6.15) そ の 際 に,上 記 反 応 で 消 費 され た 酸 素(O2)量
を 前 述 し た ク ラ ー ク型 酸 素 セ
ン サ で 計 れ ば,酸 素 の減 少 量 とグル コー ス の 反 応 量 は等 し い か ら(式(6.15)), グ ル コー ス量 が 求 め られ るの で あ る.こ の よ う に,酵 素 の 選 択 的 な基 質 反 応 性 を 生 か した セ ンサ で あ り,他 の バ イオ セ ンサ も類 似 の 原 理 で あ る.FET型 素 子 の 上 に酵 素 な どを被 覆 した 形 式 の もの で,各 種 検 討 さ れ て い る.
もFET
付
録
【 付録A 標準電 極電位】 表A 各種 の電極系の標準電極電位E°(25℃) ①Mn+/M系
②M/MX/X-系
③Mn+/Mm+(単
イ オ ン)系
④Mn+/Mm+(錯
イオ ン)系
⑥ 無機物 その他
⑦ 有機物
⑤X2/X-系
【 付 録B
参 照電極】
電 極 電 位 は 標 準 水 素 電 極(SHE)を す るが,実
際 の測 定 にSHEが
とん どな い.1atmの
基準 に表 記
用 い られ る こ とは ほ
水 素 ガ ス とpH0の
準 備 す る必 要 が あ り,取
水溶 液 を
り扱 い が面 倒 な こ とが そ の
理 由 で あ る.第 二 基 準 電 極 の 代 表 的 な も の に は,銀 ‐ 図B 銀‐塩化銀電極の構成
塩 化 銀 電 極(Ag│AgCl,KCl水 極(Hg│Hg2Cl2,KCl水 い る)な
溶 液)や 溶 液:水
甘 コ ウ電
銀 の 環 境 汚 染 を考 慮 し て,最 近 は敬 遠 さ れ て
どが あ る.
詳 細 に つ い て は便 覧 な ど を参 照 さ れ た い が,25℃
に お け る可 逆 電 極 電 位 の 相
互関係 は
(飽 和KCl)
(B.1)
(飽 和KCl)
(B.2)
で あ る.
【付 録C
化 学拡散 】
x方 向 に 静 電 位 φ の勾 配 が,さ
ら にMz+イ
オ ン濃 度CMz+,電
配 も あ り,担 体 は 定 常 的 に移 動 して は い るが,合 まずMz+の
子 濃 度Ce-の
勾
計 電 流 ゼ ロの 場 合 を考 え る.
流 束 〓Mz+は,拡 散 流 束 と泳 動 流 束 の和 と し て
(C.1) で 表 せ る.下 数DMz+で
の 式 で は ア イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 式 を 用 い,移
書 き 換 え た.同
様 にe-の
動 度uMz+を
拡散係
流 束 〓e-は
(C.2) で表 せ る.以 上 よ り,両 者 の電 流 密度 がAで
バ ラ ンス す る条 件 は
(C.3) と書 け る. こ こで,解
離平衡
Mz++ze-=M*
(C.4)
の 成 立 を 少 な く と も局 所 的 に 仮 定 す れ ば, CMz+Ce-z=KCM* dln
(K:解
CMz+zdln
と な る.式(C.3),(C.6)を
Ce-=dln
離 平 衡 定 数)
(C.5)
CM*
(C.6)
組 み 合 わ せ て(dφ/dx)を
消 去 す る と,
(C.7) を 得 る.こ
こ で,再
度DMz+をuMz+で
書 き換 え る と,
(C.8) (C.9) と な り,σMz+,σe-は
成 分 伝 導 率 で あ る.式(C.8),(C.9)を
式(C.7)に
代 入 す
れ ば,
(C.10) が 導 か れ る. 各 流束 の間 には (C.11) の 関 係 が 成 立 す る は ず だ か ら,〓M*は
式(C.10)よ
り
(C.12) で 表 され る.こ の式 は フ ィ ッ クの 第 一 法 則 の形 を も つ が,M*の
拡散係数 は
(C.13) で,こ
れ を化 学 拡 散 係 数 と 呼 ぶ.さ
ら に,式(C.8),(C.9),(1.109)か
ら
(C.14) と 書 き 直 せ る(te-は
電 子 の 輸 率)か
ら,こ
れ を 式(C.13)に
代 入 す る と,
(C.15) が 得 ら れ,右
辺 を 熱 力 学 的 加 速 因 子 と 呼 ぶ.
式(C.5),(C.6)を
化 学 ポ テ ン シ ャ ル μM*で 表 し た 一 般 的 取 り 扱 い1)で は,
(C.16) と な る.
【付 録D
電 荷 移 動 過 電 圧:バ
電 子 伝 導 体│イ
ト ラ ー‐フ ォ ル マ ー の 式 】
オ ン 伝 導 体 の 界 面 に お け る 不 均 一 系 のn電
子移 動過程
Rz++ne-=O(z-n)+ の 速 度 は,電
(D.1)
極 面 の 単 位 面 積 あ た り,ま
量 と し て 表 記 さ れ,た
た 単 位 時 間 あ た り に移 動 す る電 子 の 電 荷
と え ばA・cm-2(=C・s-1・cm-2)の
の よ う な 速 度 を 電 流 密 度 と 呼 ぶ.1.4.1項 度i+(>0),還
単 位 で 示 さ れ る.こ
で 指 摘 し た よ う に,酸
元 方 向 の 電 流 密 度i−(<0)は
化 方向 の電 流密
それぞれ
(D.2) (D.3) で 表 現 で き,Nocpは
電 子 伝 導 体 表 面Sに
お け る電 子 の 二 次 元 密 度,Nempは
Sに お け る電 子 孔 の 二 次 元 密 度,CR,H′ は電 極 面(=電 種 が 整 列 した 電 子 伝 導 体 相 表 面 に 平 行 な 面.こ とす る)上 で の 還 元 体Rの
二 次 元 濃 度,同
Oの 二 次 元 濃 度 で あ る.こ の 場 合,各
表面
子 移 動 に 関 与 可 能 な化 学
こで はヘ ル ム ホ ル ツ面Hと
様 にCO,H′ は電 極 面H上
同一
で の酸化 体
方 向 の 電 子 移 動 の 速 度 定 数k+′,k− ′は
[L2・T-1]の 次 元 を もつ. つ ね に妥 当 な仮 定 で は な い が,一 般 に は,金 属 伝 導 性 を もつ 電 極 相 を暗 黙 の 前 提 と し てNocpやNempを の濃 度 を,電 極 面Hの 合,i+とi−
は
速 度 定 数 に組 み入 れ る.ま た 電 子 移 動 に関 与 す る化 学 種 位 置 に お け る三 次 元 濃 度CR,H,CO,Hで
表 記 す る.こ
の場
(D.4) (D.5) と表 さ れ る.k+,k−
は[L・T-1]の
次 元 と な り,cm・s-1単
位 で 示 され る場 合 が 多
い. さ て遷 移 状 態 理 論 に よれ ば,反 応 速 度 定 数kは
(D.6) で 与 え ら れ る.こ ーで あ り
こ で,fは
頻 度 因 子 と呼 ば れ る 定 数,ΔG*は
活性化 エ ネル ギ
, ΔG*=Gact°
で 与 え ら れ る.右
−Ginlt°
(D.7)
辺 のGinlt° は 反 応 開 始 前 の 状 態 の 標 準 ギ ブ ズ 自 由 エ ネ ル ギ ー,
Gact° は 活 性 化 状 態 の 標 準 ギ ブ ズ 自 由 エ ネ ル ギ ー で あ る. k+,k− 表 面Sと
に 対 し て,上 電 極 面Hに
エ ネ ル ギ ー は,そ
の 関 係 を 適 用 し て み よ う.界 は 静 電 位 差 が あ る の で,荷
の 化 学 項 μl°に 加 え て,静
静 電 位 が φHの 電 極 面 にRとOが,ま 存 在 す る と き,そ
面 は 一 般 に 帯 電 し て お り,
電zlを
電 項zlFφ
もつ 化 学 種iの
標 準 自由
も考 慮 す る 必 要 が あ る .
た 静 電 位 が φsの 電 子 伝 導 相 表 面 に 電 子 が
れ らの標 準 自由 エ ネ ル ギ ー は
GR°=μR°+zRFφH
(D.8)
Go°=μo°+zoFφH
(D.9)
Ge-°=μe-°+(−1)Fφs と書 け る.こ
(D.10)
こ で,
zo−zR=n
(D.11)
の 関 係 が 成 り 立 つ の で,電 ΔG+°=−
子 移 動 に よ る標 準 自由 エ ネ ル ギ ー 変 化 は
ΔG−°=(μo°+uμe-° − μR°)−uFg′
(D.12)
g′≡ φs−φH で 与 え ら れ る.つ
(D.13)
ま り,反
応 の 標 準 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化 に 対 す る静 電 項 の 寄 与 は
nFg′ で あ る. そ こ で,酸
化 ・還 元 電 子 移 動 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ーΔG*+,ΔG*−
静 電 項 の 寄 与 はnFg′ ΔG*+=(μ*+°
の α+,α −倍(0<
α+,α − <1)と
−μR°)− α+nFg′
に対 す る
仮 定 す る と, (D.14)
ΔG*−={μ*−
°−(μR°+nμe-°)}+α
と書 く こ とが で き る.μ*+°,μ*− ポ テ ン シ ャ ル で あ る.こ
−nFg′
°は 酸 化 ・還 元 電 子 移 動 の 活 性 錯 体 の 標 準 化 学
れ ら の 関 係 式 は,表
面Sと
置 に 活 性 錯 体 が 存 在 す る こ と を 前 提 と し て い る.な で あ り,μ*+°
(D.15)
電 極 面Hの お,両
中 間 の あ る位
方向の活性錯体 が同一
と μ*−°と が 等 し い 場 合 に は,
ΔG+°=ΔG−
°=ΔG*+−ΔG*+
(D.16)
で あ る か ら, α++α −=1
(D.17)
が 成 り 立 つ. 式(D.14)を
式(D.4),(D.6)と
組 み 合 わ せ る と,
(D.18) が,ま
た同様 に
(D.19) が 導 か れ る.こ
こ で,h+,h−
はg′ に 依 存 し な い 項 を ま と め た 速 度 定 数 で あ る.
界 面 を 通 過 す る 正 味 の フ ァ ラ デ ー 電 流 の 密 度iは,酸 i=i++i− で あ る が,界
化 電 流 を 正 に と れ ば,
(D.20)
面 で 電 子 移 動 の 平 衡 が 成 り立 つi=0の
場 合 に は,
i+=−i−=i0 と 書 け る.こ
のi0は
(D.21) 交 換 電 流 密 度 と呼 ば れ,平
の 頻 度 を 示 す 重 要 な パ ラ メ ー タ で あ る.こ 書 け ば,式(D.18),(D.19)はi0を
衡 状態 にお ける電子 のや りとり
こ で,平
衡 状 態 に お け るg'をg′revと
用 いて
(D.22) (D.23) と 書 き 換 え ら れ る.さ
ら に,
ηct≡g′−g′rev で 電 荷 移 動 過 電 圧 を 導 入 す る と,式(D.17),(D.19),(D.20)か
(D.24) らバ トラ ー‐ フ
ォル マ ー の 式
(1.120) を導 く こ とが で き る. イ オ ン伝 導 体 側 の空 間 電 荷 層(拡
散 二 重 層)が 存 在 せ ず,電 極 面Hの
φHが バ ル クの 静 電 位 φIと同 一 とみ な せ る場 合 に 限 り,R,Oの 含 め て,電 極 面Hで
静電位
うちのイオ ンも
の 濃 度 が バ ル ク濃 度 に 等 しい こ と
CR,H=CR,I,Co,H=Co,I
(D.25)
が 平 衡 状 態 で保 証 され る.ま た,電 極 面 にお け るR,Oの て そ れ らの輸 送 速 度 が 十 分 高 い 場 合 に は,CR,H,Co,Hは 変 とみ なす こ とが で き る.さ
生 成 ・消 費 速 度 に比 べ 時 間 に対 して 近 似 的 に不
ら に,電 子伝 導 体 側 の空 間電 荷 層 も存 在 せ ず,表 面
Sの 静 電 位 φsがバ ル ク の 静 電 位 φEと 同 一 とみ なせ る場 合 に つ い て は, (D.26) の よ う に,g′ は電 極 系 の 静 電 位 差(絶
対 電 極 電 位)gに
等 し い.
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索
ア
行
引
円 筒 形 二 酸 化 マ ンガ ン リチ ウム 電 池 51
局 部 ア ノー ド反 応 114
ア イ ン シュ タ イ ンの 関 係 式 22,32,158 ア デ ノ シ ン 三 リ ン酸 動 作 ポ ン プ 129 ア ノ ー ド効 果 80
応 力腐 食 割 れ 102 オ ゾ ン 63
局 部 カ ソー ド反 応 114
オ ー ム 降 下 32,34
均 一 腐 食 99
オ ー ム の 法 則 22
筋 電 131 筋 肉 モ デル 145,146
ア ノ ー ド酸 化 123
カ
ア ノ ー ド支 配 94 ア ル カ リ型 燃料 電 池 60 ア ル カ リ ・マ ン ガ ン電 池 46 ア ル ミニ ウ ム 123
犠 牲 ア ノー ド 104 ギブ ズ 自由 エ ネ ル ギ ー 変化 42
行
局 部 腐 食 100
解 糖 系 137 ガ ウ ス の 定 理 14
空 間 電 荷 層 11,20
化 学 拡 散 32,158
空 気 亜 鉛 電 池 48
アル ミニ ウ ム 電解 79
化 学 拡 散係 数 159
空 電 子 状 態 17 クエ ン酸 回 路 137
安 定 化 ジ ル コ ニ ア 152
化 学 セ ンサ 127,148,149,150
ク ラー ク型 酸 素 セ ン サ 152
暗 反 応 138
化 学 電 池 37
グル コー ス系 生 物 燃 料 電 池
化 学 当量 113
147
可 逆 電圧 10 拡 散 29
グル コー スセ ン サ 154
イオ ン セ ン サ 149,150 イオ ン 電極 150
拡 散距 離 28
Kellerモ
拡 散 係 数 22,158
ゲ ル 電 気 泳 動 法 141
イオ ン伝 導相 1
拡 散層 の 厚 さ 30
限 界 電 流 密 度 30,71
イオ ン 伝 導 率 31 一 次 電 池 37 ,44
拡 散 定 数 98
EM
116
イオ ン 交換 膜 法 76
デ ル 125
拡 散 二 重 層 14,35,163 隔膜 法 76
交 換 電 流 密 度 16,34,69,162
移 動 界 面法 141 移 動 係 数 35
ガ ス検 知 セ ンサ 152
光 合 成 電 子 伝 達 系 133,137
移 動 度 21,158 イ ン ヒ ビタ ー 105
ガ ス セ ンサ 149,152 カ ソー ド支 配 94
光 合 成 プ ロ セ ス 138
光 合 成 137
カ ソ ー ド防 食 105
光 合 成 明 反 応 139 孔 食 100
泳 動 29 エ ヴ ァ ンス 図 94
カ チ オ ン 電 着 塗 装 の 原 理 122
孔 食 電 位 101
活 性 化 支 配 93
酵 索 電 池 146,147
SPE
74
活 性 化状 態 161
SPE電
解 76
活 性 態 95
興 奮 130,131. 呼 吸 133,135
活 動 電位 130
呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系 133,135,
エ ネ ル ギ ー 密度 41
活 物 質 37 過 電 圧 33,93
固 体 高 分 子 電 解 質 74
FET型
過 不 働 態溶 解 96
ATP動 作 ポ ンプ 129 エ ネ ル ギ ー 変換 132,133 ガ ス セ ンサ 153
MISFET 153 エ レ ク トロ マ イ グ レ ー シ ョ ン 116
過 硫 酸 63 ガ ルバ ニ電 池 式 152 乾 食 87
136,137 固体高分子電解質型燃料 電池 59 固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 62 固 体 電 解 質 31 固 体 電 解 質 型 ガ ス セ ンサ 152
固 体 電 解 質 型 酸 素 セ ン サ 152, 153 混 合 支 配 94 混 合 伝 導 体 2,31 混 成 電 位 114 コ ン デ ン サ 124
ス トー ク ス 式 21
電 解 槽 73
寸法 安 定 電 極 77 寸法 加 工 工 業 85
電 荷 移 動 過 電 圧 160 電 荷 移 動 律 速 69
正 極 活 物 質 41
電 解 フ ッ素 化 81 電 解 プ ロ セ ス 72
静 止 電 位 129
電荷担体 2
静 電 位 10
電 気 泳 動 140
生 物 太 陽 電 池 146,147
電 気 化 学 系 1 電気化学 セル 3
細 胞 数 計 測 143
生 物 電 気 化 学 127 生 物 電 気 化 学 計 測 140
細 胞 電 気 泳 動 測 定 143
生 物 電 池 146,147
細 胞 膜 128
成 分 伝 導 率 32,159 ゼ ー ダ ベ ル グ(自 焼 成)式
電気仕事 量 8 電 気 浸 透 86
サ
行
細 胞 128
細 胞 膜 電 位 128 サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジ ー 143 酢酸 セルロース電気泳動法
電 気化 学 当量 113
79
絶 縁 ゲ ー ト形電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ 153
電 気 接 点 特性
107
電 気 伝 導性 107
絶 縁 破 壊 25
電 気 透 析 86 電 気 銅 め っ き 112
酸化還元反応 3
接 触 腐 食 102
電 気銅 めっ きプ ロセ ス に よ る
参 照 電 極 34,158 酸 性 硫 酸 銅 浴 116
絶 対 電 極 電位 163 Zス キ ー ム 138
電 気 二 重 層 11
酸 素 透 過 性 高 分 子膜 154
遷 移 状 態 理 論 161 セ ンサ 127,148
141
三 電 極 法 33
選 択 腐 食 103 CMOS
116
LSI微
細 配 線 の形 成 116
電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ 2,25 電 気 め っ き 111 ― の 原 理 112
占有 電 子状 態 17
電 極 系 1 ― の静 電 位 差 14
支 持 電 解 質 31
速 度 定 数 160
電 極 触 媒 作 用 63
湿 式 め っ き 法 106 湿 食 87
速 度 論 63 ゾ ー ン法 141
電 極 反 応 92
自己 触 媒 め っ き 115
実 用 電 池 38,43 重 量 容 量密 度 43 シ ュ テル ン の電 気 二 重 層 モ デル 13
タ
電 極 反 応 速 度 63,68 行
電 極 面 16
体 積 エ ネ ル ギ ー 密 度 42
電 子 移 動 過 電 圧 34 電 子 再 結 合 28
体 積 容 量 密 度 43
電 子 占有 確 率 20
ジ ュー ル 熱 23
対 流 30
電 子 伝 達 系 139
循 環 的 光 リン酸 化 反 応 138 省 エ ネル ギ ー型 食 塩 電 解 法 78
対 流 抑 制 31 タ ー フ ェ ル 勾 配 93
電 子 伝 導相 1
食 塩 水 の 電 気 分 解 63
タ ー フェ ル線 93
食 塩 電 解 76 シ リコ ン半 導 体 デ バ イ ス 115
タ ー フェ ル 式 35,70
電 池 37 ― の起 電 力 41
神 経 イ ンパ ル ス 129,130
中性 無 電 解 銅 め っ き 119
神 経 細 胞 129,130,131 人 工 神 経 回 路 144,145
電 着 塗 装 121 ― の 特 徴 122
DSAR
伝 導 イ オ ン 27
電 池 表 記 42
77
心 電 131
定 常 電 流 26 定 電 位 電 解 式 152
水 銀 法 76 水 銀 法 食 塩 電 解 72
デバ イ 長 さ 14
水 素 基 準 電 位 88
電 子 な だ れ 25
電 位-pH図
伝 導電 子 27 伝 導率 23 電 流効 率 113
91 等 速 電 気 泳 動 法 142
水 素 脆 性 102
電 解 研 磨 85 電 解 採 取 73,81
水 電 解 75
電 解 精 製 73
導 電 性 高 分 子 145
隙 間 腐 食 101
電 解 製 造 73
導 電性 高 分 子 ア ク チ ュエ ー タ
隙 間 腐 食 電 位 101
電 解 精 錬 82
銅 デ ュ ア ル ダ マ シ ン 116
145,146
等 電 点 電 気 泳 動 法 142
Pdゲ
ー トFET型
水 素 セ ンサ
153
独 立 泳 動 23 ドナ ン 電 位 128 ナ
行
ホ ー ル エ ー ル 法 79 ボ ル タ の電 堆 39
非 定 常 電 流 26 非 フ ァラ デ ー 電 流 26
ボ ル タ の電 池 39 ボ ンデ ィ ング性 107
非 分極 性 電 流 26
ナ ト リ ウム 製 造 81 ナ ト リウ ム ポ ン プ 129
標 準 酸化 還 元 電 位 88,133
NafionR
標 準 水 素 電極 系 17
77
鉛 二 次 電 池 51 鉛 フ リー は ん だ 109
ポ リア ニ リ ン 145
マ
標 準 水 素 電極 158 標 準 電極 電 位 88,110,156 表 面技 術 106 表 面 処 理 85,106
行
膜 電 位 128,151 マ ンガ ン乾 電 池 44
二 次 電 池 37,51 ニ ッ ケ ル ・カ ド ミウ ム二 次 電 池
表 面 電 子状 態 11
水 の電 気 分 解 66 ミ トコ ン ドリア 137
53 ニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 53 ニ ュ ー ロ ン 129
フ ァ ラ デ ー電 流 26
無 関係 電 解 質 31
フ ァ ラ デ ー の 法 則 27,65,92, 113 ― とめ っ きの 電 流 効 率
無 電 解 銅 め っ き 114,119
(人 間 の)五
感 127,148
113
無電解銅 めっきプロセスによる LSI微
細 配 線 の 形 成 118
熱 力 学 的加 速 因 子 160 ネ ル ン ス トの 式 18,19,36
フ ィ ッ ク の第一 法 則 29,159
無 電 解 め っ き 112 ― の原 理 114
フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ー 9
無 電 荷 電 位 24
燃 料 電 池 37,58
フ ェ ル ミ-デ ィ ラ ック統 計 19 負極 活 物 質 41 腐 食 速 度 92
明 反 応 138
濃 淡 電 池 33 濃 度 過 電 圧 35
腐 食 電 位 90,94
脳 波 131
腐 食 電 流 密 度 94
107 め っ き の 目的 と標 準 電 極 電 位
ハ
行
め っ き の 目的 と金属 の特 性
110
物 質 移 動 律 速 70
バ イオ セ ン サ 149,154
物 質 収 支 29 物 質 輸 送 27
バ グ ダ ッ ド電 池 37
物 理 セ ンサ 148
有 機 溶 媒 50
バ トラ ー-フ ォル マ ー の式 35,
物 理 電 池 37
誘電性界面 2
160 バ リ ア型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜
不 働 態 95
誘電分極 2
不 働 態 化 95
輸 送 層 27
124 バ ル ブ金 属 123
不 働 態 皮 膜 95
輸 率 32
ヤ
行
半 導 体 型 ガ ス セ ンサ 152
部 分 電 流 密 度 35 プ リベ ー ク(既 焼 成)式 プ リ ン ト配 線 板 112
反 応 関 与 イ オ ン 27
プー ル ベ 図 91
溶 融 塩 電 解 78,80
反 応 性 界 面 3,26 反 応 電 子 27
分 極 性 電 流 24,26
溶 融 炭 酸 塩 型 燃 料 電 池 61 容 量 密 度 41
反 応 物 質 37
平 衡 論 63
葉 緑 体 137
は ん だ 付 け性 108
79
溶 存 酸 素 87 溶 媒 和 イオ ン 12
pH 151 ビア フ ィ リン グ 117 非 イ オ ン種 27 非 循 環 的 光 リン酸 化 反 応 138
pHセ ンサ 151 pHメ ー タ 151 ヘ ル ム ホル ツ面 14,160
微 小 電 極 ア レ イ 144,145 微 小 電 極 測 定 143 非 水 溶 媒 50 微 生 物 電 池 146,147
ラ
行
リチ ウム イ オ ン二 次 電 池 54 リチ ウム 電 池 50 粒 界 腐 食 100
ポ ア ソ ン方 程 式 12 ポ ー ラス 型 ア ノー ド酸 化 皮 膜 125 ―
の 電 解 着 色 125
流 束 28 流 動 腐 食 102 理 論 質 量 エ ネ ル ギー 密 度 42 理 論 電 気 量 原 単 位 64
理論分解 電圧 66 リン酸 型燃料 電池 60
連 続 流(カ 法 142
レ ドックス反応 3
ろ紙電気泳動法 141
連 続 法 141 ー テ ン型)電
気泳動
著者 略歴 美
浦
隆
佐 藤 祐 一
1948年 東京 都 に生 まれ る 1977年 慶應 義塾 大学大 学院工 学研 究科博 士課程修 了 現 在 慶應義 塾 大学理 工学部 応用 化学科 教授 工学 博士
1939年 新 潟県 に生 まれ る 1964年 東 北大学 大学院 理学研 究科修 士課程修 了 現 在 神 奈川大 学工学部 応用 化学科 教授 理 学博士
神 谷 信
奥 山
行
優
1941年 愛知 県 に生 まれ る 1969年 東京 工業大 学大学 院工 学研 究科博士 課程修 了 現 在 横 浜 国立大 学大学 院工 学研 究院教授 工学 博士
1941年 神奈 川県 に生 まれる 1970年 東京 工業 大学大学 院理工 学研究 科博士 課程修 了 現 在 小 山工業 高等専門 学校物 質工学 科教授 ・副校 長 工学 博士
縄
湯 浅
舟 秀
美
1948年 兵庫 県に生 まれ る 1971年 近 畿大 学理 工学部 応用 化学科卒 業 現 在 甲南大 学理 工学部 機能 分子化学 科教授 工 学博 士
真
1958年 千葉 県 に生 まれ る 1988年 早稲 田大学 大学院 理工学研 究科 博士後期 課程 修了 現 在 東京理 科大 学理工 学部工 業化学 科教授 工学博 士
応用化学 シリーズ7 電 気化 学 の 基 礎 と応 用 2004年2月20日 2008年2月25日
定価 は カバ ー に表 示
初版 第1刷 第3刷
著 者 美
浦
佐 神 奥 縄 湯
藤 谷 山 舟 浅
祐 信
発行者 朝
倉
邦
発行所
株式 会社
隆
朝
秀
一 行 優 美 真 造
倉 書 店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町 6-29 郵 便 番 号
162-8707
電 話 03(3260)0141 FAX 03(3260)0180
〈 検 印 省 略〉 C2004〈 ISBN
http://www.asakura.co.jp
無 断 複 写 ・転載 を 禁 ず 〉 978-4-254-25587-4
C
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